JP5589851B2 - 固形製剤用のフィルムコーティング剤及びこれを用いた固形製剤 - Google Patents

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Description

本発明は、固形製剤用のフィルムコーティング剤及びこれを用いた固形製剤に関する。
医薬品の中には水蒸気に不安定なものが多く、無包装の状態で医薬品を放置すると、吸湿によって品質が低下し、期待された薬効が発揮されなくなるだけでなく、服用した患者に副作用を引き起こすことが知られている。そのため、市販医薬品、特に固形製剤のほとんどは、PTP(press through pack)シート等の包装材で包装され、水蒸気との直接的な接触を防ぐ工夫が施されている。近年では、水蒸気バリア性(防湿性)に優れたポリ塩化ビニリデンを積層したPTPシートが開発され、実用化されている。
水蒸気に対する固形製剤自身の安定性を高める手法としては、固形製剤を糖衣する手法や高分子物質でフィルムコーティングする手法がある。後者では、水蒸気バリア性を発揮する高分子物質としてポリビニルアルコールやアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(EudragitEPO(登録商標);デグサ社)が知られており、最近では、吸湿性の薬物を水溶性セルロース誘導体中に分散させ、水蒸気をコーティング層でトラップする性能を有するフィルムコーティング剤(特許文献1)や、ポリビニルアルコールに疎水性の大豆レシチンを添加して防湿性能を向上させたフィルムコーティング剤(特許文献2)や、アミノアルキルメタクリレートコポリマーEにステアリン酸を配合して防湿性能を向上させたフィルムコーティング剤(特許文献5)が開発されている。
なお、医薬品分野とは異なる包装用フィルムの分野では、高湿度下での水蒸気バリア性能を向上させる手法として、ポリビニルアルコールに無機層状化合物を分散させる包装用フィルムが知られているが(特許文献3及び4)、防湿性のみが達成されればよいものであって、医薬品としての服用後の安全性や崩壊性については考慮される必要のないものである。
その一方で、医療現場や調剤薬局においては、処方された薬の飲み忘れや服用する用量の間違いを防止するため、1回に服用する複数の医薬品をそれぞれPTPシート等の包装材から出し、1つの袋にまとめて提供する一包化調剤が普及しており、上記のフィルムコーティングによる固形製剤自身の水蒸気に対する安定性を高めるアプローチとは別次元で、患者フレンドリーの観点から先行的に実施されている。さらに、欧米では患者がPTPシート等の包装から出した医薬品をピルケース等に小分けして保管する場合も多いことから、固形製剤自体の水蒸気バリア性を高めるための手法が求められてきた。
特開2008−201712号公報 米国特許第5885617号明細書 特開平11―315222号公報 特開平9―150484号公報 特表2004−518750号公報
しかしながら、一包化調剤される医薬品は、流通段階ではPTPシート等の包装材によって水蒸気に対する安定性が確保されているが、医療現場等では無包装の状態で長期間保管されるため、医薬品の品質低下を引き起こすおそれがある。
固形製剤に糖衣又は従来のフィルムコーティング手法を施した場合には、水蒸気による品質低下をある程度軽減できるかもしれないが、糖衣の作業工程には長時間を要し、糖衣後の固形製剤は服用困難なほど過大となる場合があるためにすべての固形製剤に対して適用することができず、従来のフィルムコーティング手法であっても、高湿度下では十分な水蒸気バリア性能を発揮できないのが現状である。さらに、包装用フィルムの分野のフィルムコーティング剤は、ポリ塩化ビニルなどの基材フィルムとの積層フィルムであるため、医薬品添加物としての使用実績がなく、安全性の観点から固形製剤には直接適用できないのが現状である。
そこで本発明の目的は、水蒸気バリア性に優れ、固形製剤が無包装の状態で長期保管された場合であっても薬効成分の品質を安定的に保持可能な、固形製剤用のフィルムコーティング剤を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、水溶性セルロース誘導体中で膨潤性粘土が特定の積層構造をとるフィルムコーティング剤が、PTPシートと同等又はそれ以上の水蒸気バリア性能(40℃、75%相対湿度環境下、水蒸気透過度:1×10−4g・mm/cm・24hr・atm未満)を示すことを見出した。
すなわち本発明は、水溶性セルロース誘導体、膨潤性粘土、カチオン性界面活性剤及び脂肪酸を含有し、上記膨潤性粘土と前記水溶性セルロース誘導体の質量比は、2:8〜8:2であり、上記カチオン性界面活性剤の含有量は、上記膨潤性粘土のカチオン交換当量に対して0.5当量以上3.0当量以下である固形製剤用のフィルムコーティング剤を提供する。
上記フィルムコーティング剤で固形製剤をフィルムコーティングすれば、固形製剤にPTPシートと同等又はそれ以上の水蒸気バリア性能を付与することができ、薄い皮膜で被覆することを可能にするため、被覆後の固形製剤の服用に支障を来すことがない。
上記水溶性セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)、ヒドロキシプロピルセルロース又はメチルセルロースであることが好ましく、上記膨潤性粘土は、ベントナイト又はケイ酸アルミニウムマグネシウムであることが好ましく、上記カチオン性界面活性剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム又は塩化ジステアリルジメチルアンモニウムであることが好ましく、上記脂肪酸は、ステアリン酸、カプリン酸又はオレイン酸であることが好ましい。
また本発明は、上記フィルムコーティング剤で被覆された固形製剤を提供する。
本発明のフィルムコーティング剤によれば、固形製剤を薄い皮膜で被覆可能であり、被覆された固形製剤にPTPシートと同等又はそれ以上の水蒸気バリア性能を付与することができる。このため、本発明のフィルムコーティング剤で固形製剤を被覆すれば、固形製剤を無包装の状態で長期間保管した場合であっても薬効成分の品質を安定的に保持することができ、一包化調剤に好適な固形製剤となる。
また、本発明のフィルムコーティング剤は、崩壊性にも優れることから、徐放性製剤のみならず、速放性製剤の被覆にも適用できる。さらに、本発明のフィルムコーティング剤は、医薬品製造分野で一般的に使用されるコーティング装置(例えば、連続通気式コーティング装置、流動層コーティング装置、パンコーター等)を用いての固形製剤の被覆が可能であるため、汎用性及び被覆作業の簡便性は極めて高いものである。
以下、本発明を実施するための好ましい実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、特に明記することがない限り、「%」は「質量対質量百分率(w/w%)」を表す。
本発明の固形製剤用のフィルムコーティング剤は、水溶性セルロース誘導体、膨潤性粘土、カチオン性界面活性剤及び脂肪酸を含有し、上記膨潤性粘土と前記水溶性セルロース誘導体の質量比は、2:8〜8:2であり、上記カチオン性界面活性剤の含有量は、前記膨潤性粘土のカチオン交換当量に対して0.5当量以上3.0当量以下であることを特徴としている。
「フィルムコーティング剤」とは、固形製剤の表面に薄い皮膜を形成して固形製剤を被覆し、酸素、水蒸気又は光等による薬効成分の分解等を防ぐ組成物をいう。フィルムコーティング剤は、各構成要素を適当な溶媒に分散又は溶解して調製されてもよい。
フィルムコーティング剤を固形製剤に塗布又は噴霧等し、溶媒を乾燥除去することで、固形製剤の表面に薄い皮膜を形成することができる。また、フィルムコーティング剤に直接薬効成分を加えた後に溶媒を乾燥除去すれば、フィルム製剤を得ることも可能である。
フィルムコーティング剤を調製する溶媒としては、例えば、水、炭素数1〜5の鎖式アルコール(低級アルコール)又はこれらの混合溶媒が挙げられるが、水が好ましい。
「水溶性セルロース誘導体」とは、水、低級アルコール又はこれらの混合溶媒に均一に分散又は溶解するセルロースあるいはその誘導体をいい、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」と略す。)、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はこれらの混合物が挙げられるが、HPMC、ヒドロキシプロピルセルロース又はメチルセルロースが好ましく、HPMCがより好ましい。
ここで、HPMCとは、セルロースの一部の水酸基に、ヒドロキシプロポキシル基及びメチル基を導入して水溶性誘導体化したものをいい、例えば、各種のメトローズ(登録商標;信越化学)、メトセル(登録商標;ダウケミカル)が挙げられる。
HPMCの2%水溶液の20℃における平均粘度は、3〜100000cpsが好ましく、3〜15cpsがより好ましい。
HPMCのヒドロキシプロポキシル基及びメチル基の置換度は、セルロースの有する水酸基に対して、それぞれ、4〜12%及び19〜30%が好ましく、7〜12%及び28〜30%がより好ましい。
なお、HPMCは、2%水溶液の20℃における平均粘度又は置換度の異なる2種類以上のHPMCを混合して使用してもよい。
「膨潤性粘土」とは、膨潤性を有する粘土のことをいい、より詳細には、適量の水を含んでいるときに粘性と可塑性を示す微粉の物質のうち、膨潤性を有している物質のことをいう。
膨潤性粘土は、金属塩種の組成バランスにより、負の電荷に帯電しているものが好ましく、スメクタイトのような3層構造を有する含水ケイ酸アルミニウムが好ましい。
「負の電荷に帯電」とは、膨潤性粘土がカチオン交換性を有する状態をいい、その帯電量はカチオン交換容量(CEC:Cation Exchange Capacity)として表記される。なお、カチオン交換容量の単位はミリ当量/100グラム(以下、「meq/100g」と略す。)であり、一般的には1価のイオンのモル濃度に相当する当量数として表記される。
スメクタイトとしては、例えば、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、ベントナイト(以下、「BT」と略す。)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム又はこれらの混合物が挙げられるが、ケイ酸マグネシウムアルミニウム又はBTが好ましく、BTがより好ましい。
「カチオン性界面活性剤」とは、分子内に親油基部分と親水基部分を有し、水に溶かしたとき、親水基部分がイオンに解離し、正電荷に帯電する化合物をいう。
「カチオン性界面活性剤」としては、医薬品、食品、化粧品に使用できるものが好ましく、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム又はこれらの混合物が挙げられるが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムがより好ましい。
「脂肪酸」とは、油脂、蝋又は脂質等の構成成分である有機酸をいい、より詳細には、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸化合物で、炭化水素部分が直鎖、分岐又は環状であるものをいう。
脂肪酸としては、医薬品、食品、化粧品に使用できるものが好ましく、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、カプリン酸、カプリル酸、ミリスチン酸、アラキドン酸、リノール酸、リノレイン酸、パルミトール酸、ミリストール酸又はこれらの混合物が挙げられるが、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸又はカプリン酸がより好ましく、ステアリン酸がさらに好ましい。
「固形製剤」とは、固形の製剤をいい、例えば、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤又はフィルム剤が挙げられる。
膨潤性粘土は、上記の医薬固形製剤用のコーティング剤から形成したフィルムにおいて、均一に分散していることが好ましい。「均一に分散」とは、膨潤性粘土が1層の帯状構造体として分散している状態が最も好ましいが、通常医薬品製造に用いられる製造機器において、1層にまで剥離することは難しい。実際には、膨潤性粘土は帯状構造体が10〜100層積み重なった帯状積層構造体として分散している状態が好ましく、帯状積層構造体の積層数は、より少ない方が好ましい。すなわち、ある一定のBTとポリマー含量の本発明のコーティング剤から形成したフィルムにおいては、少ない積層数の帯状積層構造体として均一分散させたほうが、より長い迷路効果が得られ、水蒸気バリア性能が向上するためである。
本発明の医薬固形製剤用のコーティング剤から形成したフィルムの厚み方向の断面において、上記の帯状積層構造体は網目状に分散しており、かつ面配向していることが好ましい。フィルムの厚み方向の断面における帯状積層構造体の状態は、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて観察することができる。
「網目状」とは、フィルムの厚み方向の断面における帯状積層構造体の分散状態を二次元的に表した場合において、膨潤性粘土の帯状構造体がその言葉のとおり網の目を形成している様子をいう。
「面配向」とは、膨潤性粘土の帯状構造体が、フィルムの厚み方向に積み重なっている様子をいう。
膨潤性粘土を、本発明の医薬固形製剤用のコーティング剤から形成したフィルムにおいて帯状積層構造体として分散させるには、コーティング剤に含まれる膨潤性粘土が膨潤状態であることが好ましい。
膨潤性粘土の「膨潤状態」とは、膨潤性粘土が分散媒を含み、膨潤した状態のことをいう。膨潤状態の膨潤性粘土としては、例えば、膨潤性粘土を分散媒に懸濁させてホモジナイザー等で撹拌した分散液が挙げられるが、その分散液を濾過した場合において、すべての膨潤性粘土が濾紙を通過できる程度に分散した状態であることが好ましい。なお、上記の濾過操作に使用する濾紙としては、例えば、ガラス繊維濾紙GF/D:粒子保持能2.7μm(ワットマン社)が挙げられる。
上記膨潤性粘土と前記水溶性セルロース誘導体の質量比は、2:8〜8:2であれば固形製剤にPTPシートと同等又はそれ以上の水蒸気バリア性能を付与することができるが、この質量比は、3:7〜8:2がより好ましく、4:6〜8:2がさらに好ましい。
上記質量比における膨潤性粘土の比が2未満の場合には、膨潤性粘土の積層体同士の絡み合いの程度が低くなり、さらに膨潤性粘土による迷路効果も小さくなるため、高い水蒸気バリア性能が得られなくなり、上記質量比における膨潤性粘土の比が8より大きい場合には、膨潤性粘土の積層体同士が整然と配列し難く、未配列部分が構造欠陥となるため、高い水蒸気バリア性能が得られなくなるからである。
なお、膨潤性粘土による迷路効果を十分に得るためには、上記の医薬固形製剤用のコーティング剤から形成したフィルムにおける膨潤性粘土の割合が、20%以上であることが好ましい。
本発明の医薬固形製剤用のコーティング剤から形成したフィルムの水蒸気透過度は、PTPシートと同等の1.0×10−5〜1.0×10−4g・mm/cm・24hr・atmであることが好ましく、1.0×10−5〜6.5×10−5g・mm/cm・24hr・atmであることがより好ましく、1.0×10−5〜3.0×10−5g・mm/cm・24hr・atmであることがさらに好ましい。
上記カチオン性界面活性剤の含有量は、上記膨潤性粘土のカチオン交換当量に対して0.5当量以上3.0当量以下であれば固形製剤にPTPシートと同等又はそれ以上の水蒸気バリア性能を付与することができるが、この含有量は上記膨潤性粘土のカチオン交換当量に対して0.5当量以上2.0当量以下であることがより好ましく、0.5当量以上1.5当量以下であることがさらに好ましい。
上記カチオン性界面活性剤の含有量が膨潤性粘土のカチオン交換当量に対して0.5当量未満の場合には、膨潤性粘土とカチオン性界面活性剤の静電的相互作用が小さくなるため、十分な水蒸気バリア性能が得られなくなるからである。
なお、上記脂肪酸の含有量については、カチオン性界面活性剤との共存による均一な分散の観点から、カチオン性界面活性剤1当量に対して0.2〜2当量であることがより好ましい。
上記フィルムコーティング剤で固形製剤を被覆する方法としては、固形製剤が錠剤状であれば、例えば、コーティングパン又は錠剤用コーティング機の使用が挙げられる。また、固形製剤が顆粒状又は粉末状であれば、例えば、流動層コーティング機又は転動流動層コーティング機の使用が挙げられる。
上記フィルムコーティング剤には、薬学的に許容される添加剤を加えてもよく、皮膜の崩壊性を向上させるのであれば、例えば、マルトース、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、フルクトース、ブドウ糖、ラクチトール、イソマルトース、乳糖、エリスリトール、マンニトール、トレハロース又はショ糖などの糖類及び糖アルコール類、クロスカルメロースナトリウム又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを膨潤性崩壊剤として添加することができ、皮膜の強度を向上させるのであれば、例えば、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール又はグリセリンを可塑剤として添加することができる。
上記フィルムコーティング剤には、医薬品分野で一般的にフィルムコーティングに使用される添加剤をさらに加えてもよいが、当該添加剤としては、例えば、遮蔽剤である植物抽出色素等の着色剤、酸化チタン、炭酸カルシウム又は二酸化ケイ素が挙げられる。
上記フィルムコーティング剤で被覆される固形製剤は、胃溶性や腸溶性の高分子物質等で予め被覆された固形製剤であってもよい。また、本発明のフィルムコーティング剤で被覆された固形製剤が、さらに胃溶性や腸溶性の高分子物質等の皮膜で被覆されてもよい。
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
(皮膜の水蒸気透過度測定方法)
本発明のフィルムコーティング剤により形成した皮膜の水蒸気バリア性能を示す指標である水蒸気透過度は、JIS K8123(1994年)を一部改変して測定した。
具体的には、フィルムコーティング剤により形成した皮膜を光に透かし、ピンホールのない均一な厚さの部分を選択して直径が3.5cmとなるように円形に切り取り、任意の5箇所で皮膜の厚みを測定した。次に、3gの塩化カルシウム(850〜2000μmの粒度)をアルミニウムカップ(直径30mm)に入れ、アルミニウムカップの上に円形に切り取った皮膜と皮膜固定用のリングを順に乗せ、リングの上におもりを乗せてリングを固定し、その状態で溶融したパラフィンワックスをアルミニウムカップの縁に流し込んだ。パラフィンワックスが固化した後、おもりを取り除き、アルミニウムカップ全体の質量を量り、開始時質量とした。その後、アルミニウムカップを40℃、75%RHの恒温槽に入れ、24時間毎に取り出して質量を測定し、以下の式を用いて水蒸気透過係数を算出した。ただし、以下に記載した水蒸気透過度の測定試験においては、いずれもr=1.5cm、t=24時間、C=1atmであった。

水蒸気透過度P(g・mm/cm・24hr・atm)=(W×A)/(B×t×C)
W:24時間で増加した質量(g)
A:5箇所の皮膜の厚みの平均値(mm)
B:透過面積πr(cm
t:経過時間(時間)
C:気圧(atm)
(実施例1)
蒸留水に塩化ベンザルコニウムを加えて溶解後、約70℃に加温し、そこにステアリン酸を加えて撹拌し、均一に分散させた。その後、得られた分散液を室温まで放冷し、HPMC(メトローズ(登録商標)TC−5R;信越化学)を加えて溶解し、分散液Iを得た。
撹拌した蒸留水にBT(クニピア(登録商標)−F;クニミネ工業、カチオン交換能:115meq/100g)を添加し、ホモジナイザー(ポリトロン(登録商標) Model KR)で均一に分散させた後に濾紙で吸引濾過し、得られた濾液(BT水分散液)を分散液IIとした。
分散液Iと分散液IIを混合して静電的相互作用によりゲル化させ、ホモジナイザーで解砕撹拌してから濾紙で吸引濾過することにより、シングル・スプレー製膜用分散液を得た。
上記のシングル・スプレー製膜用分散液を、ポリプロピレンバランストレイの裏面にスプレー噴霧し、直ちにドライヤーの温風で乾燥した。スプレー噴霧とドライヤー乾燥を数回繰り返した後、50℃のオーブンにバランストレイごと静置して一晩乾燥した。その後、バランストレイから皮膜を剥離して、シングル・スプレー製膜法による皮膜(以下、「実施例1の皮膜」と略す。)を製膜した。
なお、上記シングル・スプレー製膜用分散液調製におけるBTとHPMCの質量比はBT:HPMC=7:3とし、塩化ベンザルコニウムはBTのカチオン交換当量に対して0.5当量とし、脂肪酸はカチオン性界面活性剤である塩化ベンザルコニウムと同じく0.5当量になるように配合した。また、分散液I及びIIの固形分濃度は、いずれも3.2%となるよう調製した。
(実施例2)
実施例1記載の分散液Iと分散液IIを調製し、分散液Iをポリプロピレンバランストレイの裏面に1回スプレー噴霧し、続いて、分散液IIを同じポリプロピレンバランストレイの裏面に1回スプレー噴霧し、直ちにドライヤーの温風で乾燥した。この操作を数回繰り返した後、50℃のオーブンにバランストレイごと静置して一晩乾燥した。その後、バランストレイから皮膜を剥離して、2種類の分散液を交互にスプレーコーティングするデュアル・スプレー製膜法による皮膜(以下、「実施例2の皮膜」と略す。)を製膜した。
(実施例3)
実施例1の塩化ベンザルコニウムを塩化ベンゼトニウムに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「実施例3の皮膜」と略す。)を製膜した。
(実施例4)
実施例1の塩化ベンザルコニウムを塩化ジステアリルジメチルアンモニウムに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「実施例4の皮膜」と略す。)を製膜した。
(実施例5)
実施例1のステアリン酸をオレイン酸に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「実施例5の皮膜」と略す。)を製膜した。
(実施例6)
実施例1のステアリン酸をカプリン酸に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「実施例6の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例1)
実施例1のシングル・スプレー製膜用分散液に代えて、分散液IIを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例1の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例2)
実施例1のシングル・スプレー製膜用分散液を10%HPMC水溶液に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例2の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例3)
実施例1の分散液Iを3.2%HPMC水溶液に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例3の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例4)
実施例1の分散液Iにステアリン酸を加えないこと以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例4の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例5)
実施例1の分散液Iに塩化ベンザルコニウムを加えないこと以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例5の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例6)
実施例1の分散液IにHPMCを加えないこと以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例6の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例7)
実施例1のBTを軽質無水ケイ酸(AEROSIL(登録商標);日本アエロジル)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例7の皮膜」と略す。)を製膜した。なお、軽質無水ケイ酸がイオン交換能を有しないため、塩化ベンザルコニウムとステアリン酸はいずれも実施例1と同質量を添加した。
(比較例8)
実施例1のステアリン酸を硬化油(三栄源エフ・エフ・アイ)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例8の皮膜」と略す。)を製膜した。
(比較例9)
実施例1の塩化ベンザルコニウムをポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・グリコール(プルロニック(登録商標);旭電化工業。以下、「POE・POP・グリコール」と略す。)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、皮膜(以下、「比較例9の皮膜」と略す。)を製膜した。なお、POE・POP・グリコールは非イオン性であるため、塩化ベンザルコニウムとステアリン酸はいずれも実施例1と同質量を添加した。
(各皮膜の水蒸気透過性評価)
実施例1〜6、比較例1〜9で得られた各皮膜の水蒸気透過度をそれぞれ測定した結果を表1に示す。なお、表1の製膜法におけるSはシングル・スプレー製膜法、Dはデュアル・スプレー製膜法を適用したことを表す。
Figure 0005589851
膨潤性粘土に代えて軽質無水ケイ酸(比較例7)、脂肪酸に代えて硬化油(比較例8)、あるいはカチオン性界面活性剤に代えてPOE・POP・グリコール(比較例9)を用いた場合、それぞれの皮膜の水蒸気透過度は1×10−4g・mm/cm・24hr・atm以上となってしまい、所望の水蒸気バリア性能を得ることができなかった。一方で、本発明のフィルムコーティング剤により形成された皮膜の水蒸気透過度は、いずれも1×10−4g・mm/cm・24hr・atm未満であった。以上のような表1の結果から、水溶性セルロース誘導体、膨潤性粘土、カチオン性界面活性剤及び脂肪酸を必須の構成要素とする本発明のフィルムコーティング剤が、PTP包装材と同等レベルの顕著な水蒸気バリア性能を固形製剤に付与可能であることが明らかとなった。なお、製膜法の違い(シングル・スプレー製膜法(実施例1)又はデュアル・スプレー製膜法(実施例2))によっては、水蒸気透過度に大きな差異は認められなかった。
(実施例7〜13及び比較例10、比較例11)
実施例1のBTとHPMCの質量比を表2の数値に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例7〜13並びに比較例10及び11の皮膜(以下、それぞれ「実施例7の皮膜」、「実施例8の皮膜」、「実施例9の皮膜」、「実施例10の皮膜」、「実施例11の皮膜」、「実施例12の皮膜」、「実施例13の皮膜」、「比較例10の皮膜」、「比較例11の皮膜」と略す。)を製膜した。
(BT:HPMCの質量比の検討)
実施例7〜13並びに比較例10及び11で得られた各皮膜の水蒸気透過度をそれぞれ測定し、その結果を表2に示す。
Figure 0005589851
表2の結果から、BTとHPMCの質量比が、BT:HPMC=2:8〜8:2の範囲にあれば、皮膜の水蒸気透過度は1×10−4g・mm/cm・24hr・atm未満となり、PTP包装材と同等レベルの顕著な水蒸気バリア性能を固形製剤に付与可能であることが明らかとなった。
(実施例14〜18及び比較例12、比較例13)
実施例1の塩化ベンザルコニウム及びステアリン酸の当量を表3の数値に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例14〜18及び比較例12の皮膜(以下、それぞれ「実施例14の皮膜」、「実施例15の皮膜」、「実施例16の皮膜」、「実施例17の皮膜」、「実施例18の皮膜」、「比較例12の皮膜」と略す。)製膜した。なお、比較例13の操作では、皮膜を形成することができなかった。
(BTのカチオン交換当量に対するカチオン性界面活性剤及び脂肪酸当量数の検討)
実施例14〜18及び比較例12で得られた各皮膜の水蒸気透過度をそれぞれ測定した結果を、表3に示す。
Figure 0005589851
表3の結果から、塩化ベンザルコニウムの添加量がBTのカチオン交換当量に対して0.5当量以上であれば、皮膜の水蒸気透過度は1×10−4g・mm/cm・24hr・atm未満となり、PTP包装材と同等レベルの顕著な水蒸気バリア性能を固形製剤に付与可能であることが明らかとなった。
また、同じく表3の結果から、ステアリン酸の添加量がBTのカチオン交換当量に対して0.1当量以上であれば、皮膜の水蒸気透過度は1×10−4g・mm/cm・24hr・atm未満となり、PTP包装材と同等レベルの顕著な水蒸気バリア性能を固形製剤に付与可能であることが明らかとなった。ただし、ステアリン酸の添加量がカチオン性界面活性剤である塩化ベンザルコニウム1当量に対して2当量より多い場合(比較例13)には、分散液Iのステアリン酸の析出が観察され、均一に分散できず、皮膜が形成できなかった。
(実施例19)
実施例1と同様の操作を行い、シングル・スプレー製膜用分散液を調製してこれを錠剤コーティング用分散液とした。
200gのバルプロ酸ナトリウム錠剤(デパケン(登録商標)200mg;協和発酵・キリン)をコーティングパン(DRC−200;パウレック社)に仕込み、上記の錠剤コーティング用分散液を、厚みが20μmになるように錠剤に被覆し、被覆固形製剤(以下、「実施例19の錠剤」と略す。)を得た。
(比較例14)
バルプロ酸ナトリウム錠剤(デパケン(登録商標)200mg;協和発酵・キリン)をそのまま、比較対象用の固形製剤(以下、「比較例14の錠剤」と略す。)とした。
(比較例15)
蒸留水(875g)にラウリル硫酸ナトリウム(15g)を添加し、撹拌して完全に溶解した。次に、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(EudragitEPO(登録商標);デグサ社)(100g)を添加して撹拌し、これを均一に分散させた段階で、ステアリン酸(10g)を添加し、さらに撹拌してコーティング溶液を得た。
200gのバルプロ酸ナトリウム錠剤(デパケン(登録商標)200mg;協和発酵)をコーティングパン(DRC−200;パウレック社)に仕込み、上記のコーティング溶液を、厚みが20μmになるように錠剤に被覆し、比較対象用の固形製剤(以下、「比較例15の錠剤」と略す。)を得た。
(薬物含有モデル錠剤での水蒸気バリア性能評価)
実施例19、比較例14及び比較例15において得られた各錠剤を、40℃・75%RHの条件下で放置し、潮解性の有無(外観変化)を経時的に観察した。その結果を表4に示す。
Figure 0005589851
表4の結果より、既存錠剤(比較例14の錠剤)及び公知の防湿フィルムを被覆した錠剤(比較例15の錠剤)は、1日間の保存により錠剤の潮解が確認されたのに対して、本発明の水蒸気バリア性フィルムコーティングで被覆された錠剤(実施例19の錠剤)はバルプロ酸ナトリウムの潮解性抑制が達成されていることから、PTP包装材と同等レベルの顕著な水蒸気バリア性能を固形製剤(モデル錠剤)に付与できたことが明らかとなった。
本発明のフィルムコーティング剤は、医薬品分野、特に水蒸気に不安定な薬物を含む固形製剤の皮膜として好適に使用することができる。

Claims (6)

  1. 水溶性セルロース誘導体、膨潤性粘土、カチオン性界面活性剤及び脂肪酸を含有し、
    前記膨潤性粘土と前記水溶性セルロース誘導体の質量比は、2:8〜8:2であり、
    前記カチオン性界面活性剤の含有量は、前記膨潤性粘土のカチオン交換当量に対して0.5当量以上3.0当量以下である、固形製剤用のフィルムコーティング剤。
  2. 前記水溶性セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース又はメチルセルロースである、請求項1記載のフィルムコーティング剤。
  3. 前記膨潤性粘土は、ベントナイト又はケイ酸アルミニウムマグネシウムである、請求項1又は2記載のフィルムコーティング剤。
  4. 前記脂肪酸は、ステアリン酸、カプリン酸又はオレイン酸である、請求項1〜3のいずれか一項記載のフィルムコーティング剤。
  5. 前記カチオン性界面活性剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム又は塩化ジステアリルジメチルアンモニウムである、請求項1〜4のいずれか一項記載のフィルムコーティング剤。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項記載のフィルムコーティング剤で被覆された固形製剤。
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