真空アークプラズマは、陰極と陽極の間に生起される真空アーク放電により陰極表面から陰極材料が蒸発して、この陰極蒸発物質により形成されるプラズマである。また、雰囲気ガスとして反応性ガス及び/又は不活性ガスを導入した場合には、反応性ガス及び/又は不活性ガスも同時にイオン化される。このようなプラズマを用いて、被処理物表面に対する薄膜形成やイオンの注入等の表面処理加工を行うことができ、その表面特性を改善することが可能である。尚、本願明細書では、前記プラズマが所定の方向に進行している場合、「プラズマ」を「プラズマ流」とも称している。
真空アーク放電では、陰極表面から陰極物質のイオン、電子、陰極材料中性粒子(原子及び分子を含む)といった真空アークプラズマ構成粒子が放出されると同時に、ナノオーダーから数百ミクロン(0.01〜1000μm)の大きさのドロップレットと称される陰極材料微粒子も放出される。このドロップレットが基材表面に付着すると、基材表面に形成される薄膜の均一性が失われ、薄膜の欠陥品となる。この問題を解決するために、本願発明者らの一部は、特許第3865570号公報(特許文献1)に記載されるプラズマ加工装置を開発している。
図20は、特許文献1に記載される従来のプラズマ加工装置の構成概略図である。プラズマ加工部103には、プラズマ発生部104がプラズマガイド部105を介して接続され、このプラズマガイド部105にはドロップレット捕集部106が付設されている。プラズマ発生部104において、陰極110にトリガ電極112を接触させると電気スパークが発生し、陰極110と陽極117との間の電気抵抗が減少し、真空アーク放電が生起されてプラズマ114が発生する。陰極110には、電源118が接続され、トリガ電極112と電源118の間には、電流を制限するための抵抗120が挿入されている。また、磁石122a、122bからなるアーク安定化用磁界発生器122により、プラズマを安定化させることができる。
このプラズマ114は、プラズマガイド部105に設けられたプラズマ屈曲磁界発生器128の誘導磁界により、プラズマ発生部104と対面しない略直交方向に屈曲され、プラズマ加工部103に流入される。プラズマ発生部104と対面する位置にはドロップレット144が捕集されるドロップレット捕集部106が配置されている。従って、このプラズマ加工装置では、プラズマ114を誘導磁界により略直交方向に分岐させ、ドロップレット144を分離することにより、プラズマ加工部103への進入が抑制される。その結果、ドロップレット144が分離されたプラズマ114により被処理物169の表面処理加工が行われる。
しかしながら、前記ドロップレット144には、陰極材料からなる中性粒子11aと共に、帯電した陰極材料微粒子(ドロップレット,マクロパーティクルとも呼ばれる)である荷電性粒子(荷電ドロップレット,荷電マクロパーティクル)144bが含まれており、図20のプラズマ加工装置では、前記プラズマ屈曲磁界発生器128の誘導磁界により、ドロップレット144中の荷電性粒子114bの一部がプラズマ加工部103に誘導されていた。従来のプラズマ発生装置において、前記荷電性粒子114bを除去する手段として、特許第3860954号公報(特許文献2)には、静電フィルタ(「電場フィルタ」とも称されている)が記載されている。
図21は、特許文献2に記載される静電フィルタを具備する従来のプラズマ加工装置の構成概略図である。尚、図20のプラズマ加工装置と同様の機能を有する部材については、同一名称と同一符号を付しており、詳細な説明を省略する。図21に示す従来のプラズマ加工装置では、陰極110が電極110aとターゲット110bから構成され、ターゲット110bにトリガ電極112を接触させることにより真空アーク放電を生起して、プラズマ114を発生させている。前述のように、前記プラズマ114は、正のイオン114aと電子114bから形成されるが、中性粒子114aや荷電性粒子114bからなるドロップレットが混合された状態で、プラズマ加工部の方向へ進行して行く。
図21に示す従来のプラズマ加工装置では、発生した前記プラズマ114は、第1磁場ダクト123の磁界によりビーム状になり、第2磁場ダクト124へと進行する。ここで、前記ドロップレットの一部は、防着フィルタ125に衝突し、前記第2磁場ダクトへの侵入が抑制される。前記ビーム状のプラズマ114は、第2磁場ダクト124の磁界により揺動され、プラズマ加工部103に設置された被処理物169の表面を前記プラズマ114でスキャンして表面処理加工が行われる。図21に示されるように、前記第2磁場ダクト125と被処理物169との間には、従来の静電フィルタ107が設置されている。図21には、円筒状の静電フィルタ107の断面が示されている。高周波電源又は直流電源に接続された前記静電フィルタ107は、正電位に設定されており、この静電フィルタ107を通過するプラズマ114の中に浮遊する負に帯電した荷電性粒子114bが捕獲される。
図20に示した特許文献1に記載される従来のプラズマ加工装置では、プラズマ114を誘導磁界により略直交方向に分岐することにより、ドロップレット144を分離させ、プラズマ発生部104と対面する位置に設けられたドロップレット捕集部106にドロップレット144が捕集されていた。しかしながら、前述のように、前記ドロップレット144には、陰極材料からなる中性粒子11aと共に、帯電した陰極材料微粒子である荷電性粒子144bが含まれており、前記プラズマ屈曲磁界発生器128の誘導磁界により荷電性粒子114bがプラズマ加工部103に誘導されていた。従って、前記プラズマ114にドロップレット144として混入する荷電性粒子144bが被処理物169の表面に付着し、薄膜形成や表面改質の均一性が失われ、前記被処理物の表面特性を低下させていた。
前述のように、図21に示した特許文献2に記載される従来のプラズマ加工装置では、前記プラズマ加工部103におけるプラズマ進行路の周囲に、円筒状の静電フィルタ107が設けられ、前記静電フィルタ107を通過するプラズマ114の中に浮遊する荷電性粒子144bが捕獲されていた。しかしながら、前記ドロップレット144には、荷電性粒子144bと共に中性粒子144aが含まれており、前記防着フィルタ125では、プラズマ114に随伴して進行する中性粒子144aを除去することができなかった。更に、前記防着フィルタは、プラズマ114の流れを所定量以上制限しない大きさであることが求められるため、ドロップレット144の捕集効率の向上には限界があった。
また、図示していないが、特許文献2には、他の実施形態として、屈曲した磁場ダクトの内壁面にバッフルを設け、前記ドロップレット144をバッフルに捕獲する磁気フィルタ法が記載されている。しかしながら、単に湾曲磁場によりプラズマ114を屈曲させてプラズマ加工部103に進行させるものであるから、ドロップレット144に混入する荷電性粒子144bや微小な中性粒子144aが除去されずにプラズマ加工部103に誘導され、被処理物169に衝突又は付着することを防止できなかった。また、前記バッフルは、貫通孔を有する比較的小さな円形の制限板であり、これを磁場ダクトの内壁面に設けても前記ドロップレット144が内壁面に反射してプラズマ進行路に放出される又は多量のドロップレットを捕集しきれない場合があった。
更に、特許文献2に記載される従来のプラズマ加工装置では、前記静電フィルタがプラズマ加工部103における被処理物169の直前に配置されるため、前記荷電性粒子だけではなく、プラズマ114にも作用するため、目的とする表面加工処理を設計通り行うことが困難となる場合があった。前述のように、プラズマ加工装置は、種々の材料を用いた成膜や表面改質に利用されるものであることから、所定量のプラズマ114を安定して供給することが求められていた。
従来のプラズマ加工装置には、トーラス型、ニー型、直線型、ベンド型、ダブルベンド型など、フィルタとして、いくつかのダクト形状が提案されている。しかしながら、プラズマ流114の輸送途中に従来の静電フィルタ107を挿入する場合、被処理物169と陰極110との距離が長くなり、成膜速度が低下するという問題があった。また、プラズマ輸送路途中に配置されるリング状の静電フィルタ107の問題として、メンテナンス性が劣るという問題があった。つまり、ダクトの間にあるリング状の静電フィルタ7の分解は手間がかかり、分解しない場合には手が届きにくいという問題があった。
従って、本発明の第1の目的は、発生したプラズマから前記ドロップレットを構成する中性粒子と荷電性粒子を高効率に捕集して除去できると共に、所定量のプラズマを安定に供給することができるプラズマ発生装置を提供することである。即ち、成膜速度を確保したまま、被処理物に到達するドロップレット量を低減化することを目的としている。更に、高純度のプラズマにより、目的に応じて被処理物に対して所定の表面処理加工を高精度に行うことができ、メンテナンス性の優れたプラズマ加工装置を提供することを第2の目的としている。
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、真空雰囲気下に配置された陰極に真空アーク放電を生起させて前記陰極からプラズマを発生させるプラズマ発生部と、前記プラズマが進行するプラズマ進行路と、前記陰極から副生されるドロップレットをプラズマ流から分離させるために前記陰極の正面方向に開口を有する1つ以上のドロップレット捕集部から構成され、前記プラズマ流を前記プラズマ進行路に沿って前記ドロップレット捕集部以外の方向に屈曲させるプラズマ発生装置において、前記ドロップレット捕集部内に前記ドロップレットを静電付着させる1つ以上の静電電極を有する静電トラップが設けられるプラズマ発生装置である。
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記静電電極の先端が前記開口面の開口開始位置から前記ドロップレット捕集部方向へ後退した距離を後退距離Xとしたとき、前記後退距離Xが−10mm≦X≦40mmの範囲にあるプラズマ発生装置である。
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記接地電極を基準として前記静電電極に印加する静電電位VSと前記プラズマ流のプラズマ電位VPがVS≧VPであるプラズマ発生装置である。
本発明の第4の形態は、第3の形態において、前記静電電位VSとプラズマ電位VPの関係が0≦VS−VP≦100(V)を満足するプラズマ発生装置である。
本発明の第5の形態は、第3又は第4の形態において、前記静電電極が2つ以上あり、各静電電位VSが等しい又は異なるプラズマ発生装置である。
本発明の第6の形態は、第1〜2のいずれかの形態において、前記開口面の開口面積S0と前記静電電極の先端の端面積SEとの比率SE/S0が0<SE/S0≦0.5の範囲にあるプラズマ発生装置である。
本発明の第7の形態は、第3〜6のいずれかの形態において、前記プラズマ進行路を形成するダクト部に前記接地電極を基準としてダクト電位VDが印加され、前記ダクト電位VDと前記静電電位VSがVD<VSであるプラズマ発生装置である。
本発明の第8の形態は、第1〜7のいずれかの形態において、少なくとも1つの前記静電電極に前記ドロップレットを通過させる1つ以上の貫通孔が設けられるプラズマ発生装置である。
本発明の第9の形態は、第1〜7のいずれかの形態において、少なくとも1つの前記静電電極の先端に前記ドロップレットの進行方向に対向する平面状又は曲面状の端面が形成されるプラズマ発生装置である。
本発明の第10の形態は、第1〜7のいずれかの形態において、少なくとも1つの前記静電電極の先端に前記ドロップレットの進行方向に対して突出する1つ以上の立体構造が形成されるプラズマ発生装置である。
本発明の第11の形態は、第1〜10のいずれかの形態において、前記静電電極がアルミニウム、ステンレス、銅、真鍮、チタン又はそれらのいずれかを主成分とする合金から形成されるプラズマ発生装置である。
本発明の第12の形態は、第1〜10のいずれかの形態のプラズマ発生装置と、被処理物が配置されるプラズマ加工部から構成され、前記プラズマ発生装置で生成されたプラズマをプラズマ加工部に流入させ、前記プラズマにより前記被処理物の表面処理加工を行うプラズマ加工装置である。
本発明の第1の形態によれば、前記ドロップレット捕集部内に前記ドロップレットを静電付着させる1つ以上の静電電極を有する静電トラップが設けられるから、前記ドロップレットを構成する中性粒子と共に荷電性粒子を高効率に捕集することができる。本発明者らは、鋭意研究の結果、実験結果に基づき、前記ドロップレットを構成する中性粒子と荷電性粒子を高効率に捕集するプラズマ発生装置の構造と静電トラップの配置との関係を明らかにして、本発明を完成するに到ったものである。従来の静電トラップは、前記プラズマをプラズマ加工部などに供給するプラズマ供給口付近に配置されていが、本発明者らは、前記ドロップレット捕集部が設けられたプラズマ発生装置において、そのドロップレット捕集部内に静電トラップを設けることにより、ドロップレットの捕集効率が向上することを実験的に明らかにしている。本発明に係るドロップレット捕集部は、前記陰極の正面方向に開口を有しており、前記陰極から副生され、プラズマ流に随伴して直進する又はプラズマ進行路の内壁面に反射しながら進行する中性粒子と荷電性粒子は、慣性力だけでもドロップレット捕集部の方向へ進行する。従って、前記ドロップレット捕集部に中性粒子が高効率に捕集され、更に荷電性粒子は、静電トラップの静電場によって引き付けられ、屈曲して進行するプラズマ流に随伴することなく、前記静電トラップに付着してドロップレット捕集部内に捕集される。前記荷電性粒子は、主として負に帯電しており、前記静電電極は正電位に設定される。
更に、前記静電トラップが前記プラズマ進行路に付設されたドロップレット捕集部内に設けられるから、プラズマ流の進行を殆ど妨げることなく、高純度のプラズマを安定に供給することができる。前記静電電極を1つのドロップレット捕集部に2つ以上設置しても良く、またドロップレット捕集部が複数設けられた場合に、1つのドロップレット捕集部のみに静電電極を設けても良く、プラズマ発生部の正面にあって、ドロップレットがより集中して流入するドロップレット捕集部に設けられることが好ましい。
静電トラップを構成する静電電極の材料としては、導電性を有する種々の材料を用いることができ、金属、導電性セラミック、導電性ガラス、導電性樹脂などの導電性材料から静電電極を形成することができる。尚、前記静電電極の耐久性を考慮した場合には、高温の荷電性粒子や中性粒子が衝突するため、静電電極が高融点材料から形成されることが好ましく、タングステン、モリブデン、チタン等の高融点金属や導電性セラミック等が用いられる。また、静電電極は非磁性であることが望ましい。磁性材料を用いると、プラズマを輸送するための磁界を乱す恐れがあるからである。更にまた、ドロップレットの運動エネルギー吸収しつつ吸着させることを考慮した場合には、クッション機能を持つ導電性樹脂や導電性ゴム、導電性エラストマー等を用いることが好ましく、効率的に荷電性粒子を付着させることが可能である。更に、前記静電電極がパンチングメタルや多孔樹脂などのパンチング板やメッシュ状の素材から形成される場合、表面積が増大することから、より多くのドロップレットを付着させることができる。また、静電電極としては、種々の形状の電極を用いることができ、直線状、円筒状又は円柱状などの中心軸対称の電極以外にも、前記ドロップレット捕集部の構造やプラズマ進行路に対する設置位置に応じて、オフ軸対称若しくは軸非対称の電極、曲線状、くびれを有する、末広がり、末すぼまり又はコーン状のなどの電極を適宜に選択することが可能である。
本発明の第2の形態によれば、前記静電電極の先端が前記開口面の開口開始位置から前記ドロップレット捕集部方向へ後退した距離を後退距離Xとしたとき、前記後退距離Xが−10mm≦X≦40mmの範囲にあるから、前記静電電極に荷電性粒子を高効率に付着させ、前記ドロップレット捕集部に捕集することができる。前述のように、前記ドロップレット捕集部は、前記プラズマ進行路に付設されており、前記開口面は前記プラズマ進行路とドロップレット捕集部との境界面と略一致する。前記静電電極をドロップレット捕集部の方向へ移動させた距離、つまりプラズマ進行路からドロップレット捕集部の終端に向かって後退させた距離を「後退距離」と称しており、前記開口面と前記静電電極の先端が一致する点を基準として「開口開始位置」と称している。前記後退距離は、前記静電電極の先端が前記開口開始位置から前記ドロップレット捕集部の方向へ移動した距離を正の距離としており、逆に前記プラズマ進行路の方向に移動した距離(つまり、よりプラズマに近づけた場合の距離)は負の距離となる。
前記後退距離Xが−10mm≦X≦40mmの範囲にあるとき、前記静電電極の先端は、前記開口面の近傍±10mmの範囲か又は10mm〜40mm後退させた位置にあるから、プラズマ流の進行を殆ど妨げることがないか、又は僅かな影響のみであり、本発明に係るプラズマを用いて被処理物の表面処理加工等を行うことができる。換言すれば、後退距離が−10mmより小さな場合、つまり10mmを越えて前記開口開始位置よりもプラズマ進行部側にある場合、実験において、前記静電電極によるプラズマへの影響が無視できない程度(つまり、静電トラップがプラズマ流の一部を遮ってしまう)になっていた。更に、後退距離が40mmを越える場合、プラズマに随伴して進行する荷電性粒子や壁面に反射してプラズマの進行方向へ飛散する荷電性粒子を前記静電電極からの静電場によりドロップレット捕集部方向へ高効率に誘導することが困難となり(つまり,荷電ドロップレットを誘引するだけの高電界が得られず)、ドロップレットの捕集効率が低下する。従って、本発明に係る第2の形態によれば、前記後退距離Xが−10mm≦X≦40mmの範囲にあるから、前記静電電極に荷電性粒子を高効率に付着させると共に、前記ドロップレットが除去された所定量のプラズマを安定に供給することができる。
本発明の第3の形態によれば、前記接地電極を基準として前記静電電極に印加する静電電位VSと前記プラズマ流のプラズマ電位VPがVS≧VPであるから、前記静電電位VSが前記プラズマ電位VPに対して高電位となるから、負に帯電した荷電性粒子(荷電ドロップレット,荷電マクロパーティクル)をドロップレット捕集部方向へ誘導して前記静電電極に静電付着させることができる。前記ドロップレットを構成する荷電性粒子は、負に帯電したものが殆どであり、前記静電電位VSが前記プラズマ電位VPに対して正電位に設定されることにより、前記ドロップレットを高効率に捕集することができる。更に、前記静電電位VSと前記プラズマ電位VPが等電位の場合においても、前記接地電極を基準として前記静電電位VSが正電位にあれば、前記ドロップレット捕集部に進入してきた前記ドロップレットに含まれる負電荷の荷電性粒子を静電付着することができる。
本発明の第4の形態によれば、前記静電電位VSとプラズマ電位VPの関係が0≦VS−VP≦100(V)を満足し、前記静電電位VSは、前記プラズマ電位VPと等電位か又は前記プラズマ電位VPより高電位でその差が100V以下に設定されるから、前記プラズマ流の進行を殆ど妨げることなく、前記ドロップレットを静電吸着することができる。前記静電電位VSは、接地電極に対して正電位にあれば、前記ドロップレットに含まれる負電荷の荷電性粒子を静電付着することができ、前記プラズマ電位VPに対する電位差が100V以内に設定されるから、前記静電電極の静電場によって前記プラズマ流の進行が殆ど妨げられることがない。前記プラズマ電位VPに対する電位差が100Vを越えると、プラズマ流に対する影響が無視できなくなる。
本発明の第5の形態によれば、前記静電電極が2つ以上あるから、前記ドロップレットをより確実に静電付着させることができる。各静電電極の静電電位VSは、等しくても異なっていても良く、前記静電電位VSが接地電極(通常、プロセスチャンバ本体あるいは/および陽極)に対して正電位にあれば、前記ドロップレットに含まれる負電荷の荷電性粒子を静電付着することができる。また、前記静電電極の前記静電電位VSを電極の位置に応じて適宜に設定すれば、より高効率にドロップレットを捕集することができる。
前記ドロップレット捕集部が2つ以上設けられる場合、各ドロップレット捕集部に静電電極を配置することにより、高効率にドロップレットを静電付着させることができる。
本発明の第6の形態によれば、前記開口面の開口面積S0と前記静電電極の先端の端面積SEとの比率SE/S0が0<SE/S0≦0.5の範囲にあるから、前記開口面を通過してきた荷電性粒子と中性粒子を高効率に前記ドロップレット捕集部内に捕集することができる。即ち、前記端面積SEは、前記開口面積S0の半分以下であるから、前記開口面を通過してきた前記荷電性粒子が前記静電電極に静電付着されると共に、前記中性粒子が前記静電電極に衝突し難くなり、前記中性粒子は、前記ドロップレット捕集部の壁面等に衝突・付着して捕集される。
本発明の第7の形態によれば、前記プラズマ進行路を形成するダクト部に前記接地電極を基準としてダクト電位VDが印加され、前記ダクト電位VDと前記静電電位VSがVD<VSであるから、前記プラズマ進行路に沿って電界によりプラズマ流を誘導できると共に、前記ドロップレットの荷電性粒子を静電電極に静電付着させて捕集することができる。プラズマ流は、主として前記ダクト部の周囲に配置された電磁コイル等の磁界により、所定のプラズマ進行路に沿って輸送されるが、前記ダクト部にダクト電位VDを印加すれば、プラズマ流のより効率的な輸送を行うことができる。前記ダクト電位VDが前記静電電位VSより低く設定されているから、プラズマ流に対する静電電位の影響を緩和させることができる。
本発明の第8の形態によれば、少なくとも1つの前記静電電極に前記ドロップレットを通過させる1つ以上の貫通孔が設けられるから、前記ドロップレット捕集部内に前記ドロップレットを構成する中性粒子をより多量に捕集することができる。更に、前記中性粒子が静電電極に衝突することを抑制することができる。前述のように、前記ドロップレットは、荷電性粒子と中性粒子から構成され、この荷電性粒子が静電付着され、中性粒子は前記捕集部内に堆積又はその内壁に付着することが好ましく、前記貫通孔を設けることによって中性粒子を前記捕集部の後方まで進行させることができる。従って、前記ドロップレットをより高効率に捕集することができる。
本発明の第9の形態によれば、少なくとも1つの前記静電電極の先端に前記ドロップレットの進行方向に対向する平面状又は曲面状の端面が形成されるから、前記荷電性粒子を高効率に静電付着することができる。平面状又は曲面状の端面からは、前記ドロップレットの進行方向に平行な又はそれに近い方向に電界が形成されるから、前記開口面を通過して前記捕集部内に進入してきた荷電性粒子を前記端面に高効率に静電付着することができる。
本発明の第10の形態によれば、少なくとも1つの前記静電電極の先端に前記ドロップレットの進行方向に対して突出する1つ以上の立体構造が形成されるから、前記静電電極の表面積が増大し、静電付着により除去できるドロップレットの量を増大させることができる。前記静電電極の立体構造としては、棒状及び/又は板状の突出部等を2つ以上設けて形成した比較的簡単な構造を利用することができ、それらの表面にドロップレットを静電付着することができる。
本発明の第11の形態によれば、前記静電電極がアルミニウム、ステンレス、銅、真鍮、チタン又はそれらのいずれかを主成分とする合金形成されるから、前記静電電極に電圧を印加することにより、ドロップレットを静電付着することができる好適な静電場を高効率に発生させることができる。アルミニウム、ステンレス、銅、真鍮、チタン又はそれらのいずれかを主成分とする合金は、電極材料として用いられる安定な材料であり、加工が容易で、かつ、比較的安価であり、従来の電極やその製法を利用して比較的簡易に本発明に係る静電電極を提供することができる。
本発明の第12の形態によれば、前記プラズマ発生装置で生成されたプラズマをプラズマ加工部に流入させ、前記プラズマにより前記被処理物の表面処理加工を行うから、高純度のプラズマ流によって所望の特性を被処理物表面に付与することができる。
以下、本発明に係るプラズマ生成装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るプラズマ加工装置1の構成概略図である。プラズマ加工装置1は、第1実施形態のプラズマ発生装置2とプラズマ加工部3からなり、プラズマ発生装置2は、プラズマ発生部4、プラズマガイド部5及びドロップレット捕集部6から構成され、このドロップレット捕集部6には、静電電極8からなる静電トラップ7が設けられている。第1実施形態において、静電トラップ7は、1つのドロップレット捕集部6に設けられた1つの静電電極とこれに接続された静電電極用電源52から構成されており、静電トラップ7によるドロップレットの捕集機構に関しては後述する。プラズマ進行路30とドロップレット進行路48はダクト40から形成され、このダクト40は、プラズマ進行路30を形成する進行部ダクト42とドロップレット進行路48を形成する捕集部ダクト50から構成されている。
プラズマ発生部2では、発生部外壁16内に配設された陰極10にトリガ電極12を接触させると電気スパークが発生し、陰極10と陽極17との間の電気抵抗が減少し、真空アーク放電が生起されてプラズマが発生し、プラズマ流14が形成される。前述のように、真空アーク放電では、陰極表面から陰極物質のイオン、電子、陰極材料中性粒子(原子及び分子を含む)といった真空アークプラズマ構成粒子が放出されると同時に、ナノオーダーから数百ミクロン(0.01〜1000μm)の大きさの陰極材料微粒子からなるドロップレット44も放出される。ドロップレット44は、中性粒子44aと共に荷電性粒子44bから構成されている。
陰極10には、直流電源18が接続され、トリガ電極12と電源18の間には、電流を制限するための抵抗20が挿入されている。また、アーク安定化用コイル22、26によりプラズマ流14が安定化される。プラズマ流14が進行するプラズマ進行路30は、第1プラズマ進行路34と第2プラズマ進行路36から構成される。第1プラズマ進行路34を直進してきたプラズマ流は、プラズマガイド部5に設けられたプラズマ屈曲用コイル28の誘導磁界により、プラズマ発生部4と対面しない略直交方向に屈曲され、第2プラズマ進行路36を進行する。ドロップレット44は、中性又は質量に対する電荷量が比較的小さい場合は、誘導磁界によって屈曲されることなく、慣性によって直接又は壁面に衝突してドロップレット捕集部6の方向に進行して捕集される。本発明に係るプラズマ発生装置2には、静電電極8からなる静電トラップ7が設けられており、荷電性粒子44bからなるドロップレット44を静電電極8に静電付着させることができる。静電電極8には、静電電極用電源52が導線53を介して接続され、静電電極8に印加される静電トラップバイアスは、0〜+40Vであることが好ましい。
ここで、静電トラップ7である静電電極8の構造について、実施例を示す。図2は、本発明に係る円筒状の静電電極8及びその変形例の構成概略図である。以下に説明する図面において、図1に示した部材と同一の部材には、同一符号を付し、既に説明を行っている場合には、説明を省略している。また、図面を引用して。既出の部材について説明を行わない場合には、部材や符号の記載を省略又は簡略化している。図2の(2A)に示した静電電極8は、円筒状の導電性部材から形成され、貫通孔9が設けられている。図1のプラズマ発生装置2において、図2(2A)の円筒状の静電トラップ7である静電電極8が配設されている場合、中性粒子44aの一部は、貫通孔入口9aから進入し、貫通孔出口9bから放出され、ドロップレット捕集部6の終端部54に捕集される。端面11からは、より強い電界が発生し、荷電性粒子44bを高効率に静電付着することができる。ドロップレット44を構成する荷電性粒子44bは、静電電極8からの電界によって静電付着される。図2(2B)に示すように、静電電極8の端面11は、ドロップレット44の進行方向に対して傾斜した端面11が形成されても良く、先端の電界が増強される。また、静電電極8の大きさは、配設されるドロップレット捕集部6の構造に応じて適宜に変更することができ、(2C)に示すように、円筒状の静電電極8における筒状部分を殆ど設けない場合においても好適なドロップレット44の静電付着に好適な電界を発生させることができる。
図3は、本発明に係る静電トラップ7によるドロップレット捕集機構の説明図である。図1と同様に、ドロップレット進行路48に静電電極8からなる静電トラップ7が配設されている。図1に示したプラズマ発生装置2において、前記プラズマ発生部4でプラズマ流14には、ドロップレット44が混在している。図3の(3A)に示すように、プラズマ流14を構成する電子14cとイオン14dの間には、プラズマを誘導するクーロン力FCが作用し、プラズマ流14は、誘導磁界によるサイクロトロン運動Mcによって、第1プラズマ進行路34から第2プラズマ進行路36に屈曲して進行する。このプラズマ流によってプラズマ中のイオン電流IiSが第2プラズマ進行路36へ流れる。正電位の静電電極8に負に帯電した荷電性粒子44bが引き寄せられると同時に、電子14も電界により静電トラップ7に吸収されてイオン電流IiEFが流れる。イオン電流IiEFとして吸収される成分を低減化させて、プラズマイオン電流IiSの減少を抑制するためには、図3の(3B)に示すように、荷電性粒子44bを静電付着させると共に、イオン電流IiEFを低減化させる位置に静電電極8を配置する。従って、ドロップレットを高効率に捕集できると共に、十分な成膜速度を確保する高純度のプラズマ流14を供給することができる。静電電極8の好適な位置については後述する。
図4は、本発明に係るプラズマ発生装置の内壁に衝突したドロップレット44が衝突して破砕する様子を観察した写真図(4A)と模式図(4B)である。図1に示したT字型のプラズマ発生装置2は、陰極10から放出されるドロップレット44を幾何学的にすべて補足できる構造である。しかしながら、図4の(4B)に示すように、ドロップレット44の一部は破砕するため、第1プラズマ進行路34から第2プラズマ進行路36に飛散する粒子も存在する。特に、破砕された破砕ドロップレット44cは小さくなるため、プラズマ中の電子が付着して負に帯電しやすい。破砕ドロップレットは、小さくなると同時に、運動エネルギーも失って低速になるため、静電的に誘導されやすくなる。従って、前述のように、本発明に係るプラズマ発生装置2によれば、静電トラップ7によって荷電性粒子からなる破砕ドロップレット44cもより確実に捕集することができる。ドロップレット44に含まれる中性粒子のほとんどは直進して、ドロップレット進行路48を進行し、そのまま捕集される。
更に、図1に示したプラズマ加工装置1では、ドロップレット捕集部6を形成する捕集部ダクト50に斜行壁46が設けられており、第1プラズマ進行路34を進行してきたドロップレット44の一部は、斜行壁46に衝突してドロップレット捕集部6の終端部54の方向へ反射され、捕集される。また、図1のドロップレット捕集部6には、ポケット部56が設けられ、斜行壁46で反射されたドロップレット44を捕集することができる。
静電電極8の位置は、前述のように、プラズマイオン電流IiSの減少を抑制し、且つ荷電性粒子44bが静電付着されるよう設定されることが要求される。本発明者らは、捕集部ダクト50及び/又はドロップレット進行路48の開口面38から、静電電極8をドロップレット捕集部の方向へ後退させた後退距離Xに着目して、静電電極8の好適な位置を実験結果から明らかにしている。図5は、本発明に係る静電電極8の位置と後退距離Xの関係を説明するプラズマ発生装置2の構成概略図である。図5の(5A)に示すように、斜線の領域であるプラズマ進行路30からドロップレット捕集部6における終端部54の方向に静電電極8を後退させた場合、開口面38から静電電極8までの後退距離Xを正の値としている。従って、図5の(5B)に示すように、プラズマ進行路30側に静電電極8が進入した距離は、負の後退距離−Xとする。この場合、後退距離Xは、静電電極8の先端11と開口面38の距離とする。即ち、図5において、捕集部ダクト50は、進行部ダクト42に付設されており、開口面38はプラズマ進行路30とドロップレット進行路48の境界面と略一致する。
図6は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ発生装置2のダクト40の構造を示した斜視概略図である。(6A)に示すように、進行部ダクト42に対して捕集部ダクト50を設ける場合、開口面38は、進行部ダクト42に接した捕集部ダクト50の断面部分となる。図5に示したプラズマ発生装置の構成概略図は、(6A)のA−A’線断面図に相当する。(6B)に示すように、進行部ダクト42に対して捕集部ダクト50が上方や下方に傾斜して接続されている場合においても、開口面38は、進行部ダクト42の構造とそれに基づくプラズマ進行路30を基準として、捕集部ダクト50との境界を開口面38として定義している。より明確化するために、開口面38及び後退距離Xは、以下の点から明確に定義することが可能である。
(1)捕集部ダクト50を取り外したときの進行部ダクト42内の空間をプラズマ進行路30とする。
(2)進行部ダクト42内におけるプラズマ進行路30を除く部分をドロップレット進行路48とし、プラズマ進行路30とドロップレット進行路48の境界を開口面38とする。
(3)静電電極8と開口面38を最短で結ぶ距離を後退距離Xとし、ドロップレット進行路48の方向へ移動した場合を正の距離とする。
尚、以下では、後退距離Xの開口面側の一端を開口開始位置、静電電極側の一端を静電トラップ7の先端と称する。
図7は、本発明に係る静電電極8の後退距離Xに関する説明図である。(7A)において、静電電極8の端面11は、ドロップレット44の直進方向に対して傾斜して形成されており、前述のように、前記後退距離Xは、静電電極8の先端11aと開口面38の距離である。(7B)では、捕集部ダクト50が進行路ダクト42に対して斜め方向に取付けられている。従って、プラズマ進行路30は、斜線の領域にとなり、後退距離Xは、開口面38と静電電極8の最短距離である開口開始位置39と静電電極8の先端1aの距離となる。後退距離Xは、−10mm≦X≦40mmの範囲にあることが好ましく、静電電極8の先端11aは、プラズマ電流が大幅に低減することなく、ドロップレット44をより確実に捕集することができる。
また、図1のプラズマ加工装置1では、ダクト40にダクトバイアス用電源58が接続されている。プラズマ進行路30とドロップレット捕集部6を形成するダクト40に接地電極を基準としてダクト電位VDが印加される。ダクト電位VDは、静電電位VSより低く、VD<VSとなるように設定され、磁界と共に電界によりプラズマ流14がプラズマ進行路30に沿って誘導される。ダクト電位VDは、静電電位VSより低く設定されるから、ドロップレット44の荷電性粒子44bは、静電電極8に静電付着させて捕集することができる。即ち、プラズマ流14は、主としてダクト40の周囲に配置されたプラズマ引出用コイル26、プラズマ屈曲用コイル28、プラズマガイド用コイル29の磁界によって輸送されるが、ダクト40にダクト電位VDを印加すれば、プラズマ流14のより効率的な輸送を行うことができる。
図1のプラズマ発生装置2において、生成されたプラズマ流14は、ドロップレット44が除去された後、プラズマ供給口32からプラズマ加工部3に供給される。図1のプラズマ加工部3は、ガイド部60と処理室66から構成されている。ガイド部60には、第1スキャナコイル62と第2スキャナコイル64が設けられ、プラズマ流14を集束させてスキャンすることができる。処理室66には、被処理物固定台68に被処理物69が設置され、プラズマ流14を被処理物69の表面に誘導するための被処理物用電源70が接続されている。また、図1のプラズマ加工装置1には、イオン電流モニタ72が設けられ、イオン電流モニタ用電源74が接続され、前記イオン電流モニタ72によりプラズマ電流のモニタを行うことが可能である。
被処理物69の前段と後段には、第1プラズマ集束用コイル76と第2プラズマ集束用コイル78が配設され、集束状態にあるプラズマ流14によって被処理物69の表面処理を行うことができる。必要に応じて供給ガス80がガス供給口82から処理室66内に供給される。処理室66を形成する加工部外壁84には、排気口86が設けられ、処理室66中のガスが排気ガス88として排気される。
図9は、本発明に係る第2実施形態のプラズマ発生装置の構成概略図である。本発明の第2実施形態では、(9A)及び(9B)に示すように、ドロップレット捕集部6に第1終端部55aと第2終端部55bが設けられ、それらの前段には、それぞれ、第1静電電極13と第2静電電極15が配設されている。(9A)の場合、後退距離Xには、第1静電電極端面13aから開口面38までの後退距離X1と、第2静電電極端面15aの第2静電電極先端15bから開口面38までの後退距離X2がある。各後退距離Xは、−10mm≦X≦40mmの範囲にあることが好ましく、荷電性粒子が静電付着されると共に所定のプラズマ電流を保持することができる。(9B)に示すプラズマ発生装置2では、第1終端部55aと第2終端部55bが(9A)に比べて離れた位置に設けられている。前述のように、後退距離Xは、ドロップレット捕集部6を除いたダクト40内におけるプラズマ進行路30の開口面38から第1静電電極端面13a又は第2静電電極先端15bまでの距離X1、X2である。
図10は、本発明に係る第1実施形態の変形例の構成概略図である。図10のプラズマ発生装置2では、第1プラズマ進行路34と第2プラズマ進行路36が為す角が鈍角である。(10A)に示すように、ここで、後退距離Xは、開口面38と静電電極端面11との最短距離であり、静電電極8の先端11aと開口開始位置39との間隔に相当する。同様に、(10B)においても、後退距離Xは、開口面38と静電電極端面11との最短距離となる。(10B)のプラズマ発生装置2では、(10A)の斜行壁46が設けられておらず、第1プラズマ進行路34に対して捕集部ダクト50が屈曲して配設され、直進してきたドロップレット44は、捕集部ダクト50の壁面に衝突し、終端部54やポケット部56などに捕集される。
なお、図5、図7、図8、図9、図10の装置例において,斜行壁46は設けられてなくてもよい。
図11は、本発明に係る第1実施形態においてプラズマ進行路30とドロップレット進行路48のダクト径が異なる場合の構成概略図である。(11A)と(11B)では、プラズマ進行路30よりドロップレット進行路48のダクト径が大きく設計されている。この場合、開口面38をより大きくすることができ、ドロップレット44をより確実に捕集することができる。また、(11B)に示すように、ドロップレット進行路48が第1プラズマ進行路34より外側に拡がる拡径管型の捕集部ダクト50から形成される場合、ドロップレット44が壁面に反射してプラズマ進行路30に戻ることを抑制することができる。
図12は、本発明に係る第3実施形態のプラズマ発生装置2の構成概略図である。図12のプラズマ発生装置2には、第1プラズマ発生部4aと第2プラズマ発生部4bが設けられ、各々に第1陰極10aと第2電極10bが配設されている。図12に示したプラズマ発生装置2では、ドロップレット捕集部6の近傍に第2プラズマ発生部4bが設けられており、静電電極8により荷電粒子が静電付着される。また、第2プラズマ発生部4bからのプラズマ流14bの経路が加わるため、プラズマ進行路30は斜線の範囲であり、後退距離Xは、プラズマ流14bの経路に基づいて設定されている。
図13は、本発明に係る静電トラップ電流と静電トラップバイアスの測定結果である。前述の後退距離Xが0mm、20mm、40mmの場合に、静電トラップバイアス(V)に対する静電トラップ電流(mA)の値を測定してプロットしている。図1に示した第1実施形態のプラズマ加工装置を用いた測定結果であり、実験条件は以下の通りである。静電電極は、円筒状のアルミ合金製であり、外形80mm、長さ85mm、板厚0.5mmである。この静電電極の配置位置は、図1に示したように、開口面からドロップレット進行路の方向にX=0mm、20mm、40mmと後退させた後退距離Xで特徴付けられている。図13に示すように、正電位にあり約15Vを越えると、荷電性粒子による静電トラップ電流が急激に増加している。後退距離Xが短くなるに従って、静電トラップ電流が増大している。
表1は、本発明に係るプラズマ加工装置を用いて成膜されたダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の膜厚、ドロップレット数を測定した測定結果である。測定には、触針式表面形状計測計(膜厚計測)と光学顕微鏡を用いている。DLC膜は、図1に示した第1実施形態のプラズマ加工装置1を用いて成膜されている。実施例は、本発明に係るプラズマ加工装置により作製された試料No.2〜No.7であり、静電トラップが設けられていないプラズマ加工装置によって作製された試料No.1を比較例として記載している。実験において、ドロップレット数は、DLC膜の表面を複数枚撮影した光学顕微鏡写真から、0.1mm2の範囲に相当する範囲におけるドロップレット数を数え、成膜時間10分で除した値である。静電トラップ7の静電トラップバイアスは、0〜+45V、捕集部ダクト50の内径は、約110mmであり、陰極10は黒鉛から形成されている。プラズマ加工部3には、ガスを導入しておらず、圧力0.01Pa以下、アーク電流30Aに設定して測定したものである。イオン電流モニタ69は、ステンレス製で背面絶縁が施された直径100mmの円板であり、−100Vのバイアス電圧が印加されている。
更に、ガイド部60のスキャナコイルによりプラズマ流14をスキャンして、成膜範囲が100mmφになるように調整されている。基板(被処理物68)としては、Siウエハ(100)n型が用いられ、サイズは20mm×20mm、厚さ525±25μm、抵抗率は2〜10Ω・cmである。また、基板バイアスは、パルスバイアスであり、電圧−500V、パルス幅20μsec、周波数10kHzに設定されている。捕集部ダクト50のダクトバイアスは、+16Vに設定されている。
図14は、表1の結果から見積もられた成膜速度を静電トラップバイアスに対してプロットしたグラフ図である。図中のポジション1、2、3とは、後退距離Xが0mm、20mm、40mmの場合を示している。静電トラップバイアスの増加に伴って、成膜速度が減少している。これは,成膜に有効なイオンを輸送するための電子を静電トラップが吸収してしまうからである。DLC膜の加工装置として十分な成膜速度が保持されている。更に、後退距離Xを大きくして、ポジションを移動させることにより、より好適な成膜速度が得られている。即ち、プラズマ流からの距離が遠くなり、静電トラップの機能が低下するからである。当然、後退距離Xが大きくなれば、静電トラップがない場合の値に近づいていく。
図15は、本発明に係る静電電極のポジションとプラズマ電流(ここでは、単に「イオン電流」とも称する)の関係を測定した測定結果である。静電トラップバイアスが+35Vのときに、イオン電流モニタで計測したイオン電流である。図14と同様に、図15のポジション1、2、3とは、後退距離Xが0mm、20mm、40mmの場合を示している。後退距離Xを大きくするとプラズマイオン電流IiSが増大している。即ち、静電電極を後退させることによって、プラズマ流に対する静電トラップの影響が低化する。しかしながら、後退距離XがX=0mmであるポジション1の場合においても、「静電トラップなし」の場合と比較してイオン電流の減少は僅かであり、好適なプラズマ流が保持されていることが分かる。静電電極の位置を後退させるほど(プラズマ流から遠ざけるほど)、イオン電流は増加し、静電トラップがない場合の値に近づく。
図16は、表1に記載したドロップレット数と膜厚から見積もられた体積当り
に存在するドロップレット数をプロットしたグラフ図である。ここでの単位体積は、面積0.1mm2×膜厚1nmであり、単位体積当りのドロップレット数がプロットされている。ここでも、ポジション1、2、3は、後退距離Xが0mm、20mm、40mmの場合を示している。ポジション1では、静電トラップバイアスが+35Vのとき、ドロップレット数が最小となり、静電トラップなしの場合のおよそ1/3程度となった。図14に示したように、同条件において、成膜速度は、およそ1/10程度の低下であることから、静電トラップの有効性がより明確となった。
図17は、本発明に係る静電電極の変形例を示す構成概略図である。(17A)〜(17D)には、各種円形状の静電電極8を記載している。各静電電極8には、図1に示した静電電極用電源52に接続される導線53が設けられている。(17A)は、平面状の端面11を有する円板状の静電電極8であり、(17B)は、貫通孔9が設けられたリング状の静電電極8である。また、(17C)に示した電極では、円板状の静電電極8に貫通孔9が複数設けられている。(17D)には、円板状の静電電極8が網目状の導電性素材から形成され、その網目が貫通孔9として機能する。
図18及び図19は、本発明に係る種々の形状を有した静電電極8を示す構造概略図である。図17と同様に、各静電電極8には、図1に示した静電電極用電源52に接続される導線53が設けられている。図18の(18A)は、棒状の静電電極8であり、(18B)と(18C)は、三角錐状の静電電極8を示している。(18B)の静電電極8では、三角錐の底面が静電電極8の端面11となる。(18C)の静電電極8の端面11は、三角錐の先端がドロップレットの進行方向に対向するよう配置され、この端面11とプラズマ流側の開放面との距離である後退距離が前記範囲内に設定される。
図19の(19A)〜(19C)には、先端に突出する1つ以上の立体構造が形成される静電電極8の構造概略図である。(19A)には、図2に示した円筒状の静電電極8の変形例である。この静電電極8では、貫通孔9の貫通孔入口9aが貫通孔出口9bより大きく設定され、ドロップレットの荷電性粒子を効率的に流入させると共に、荷電性粒子を静電付着させることができ、ドロップレットの中性粒子はそのまま進行するから、貫通孔出口9bから放出することができる。(19B)は、静電電極8が二つの平面電極から構成され、(19C)では、棒状電極がリング状電極に沿って配列され、静電電極8が構成されている。(19B)、(19C)の各静電電極8では、立体構造が設けられることにより、静電電極8の表面積が大きくなり、多量の荷電性粒子を静電付着することが可能である。
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。また、静電トラップは、同一の素材で構成される必要はなく、必要に応じて、例えば、固定のため、あるいは、ダクトの絶縁を確保するため、絶縁物と導電物とを組み合わせてもかまわない。言うまでもないが、静電電極8全体が導電性構造である場合、それは静電トラップの全体と等しいことになる。静電トラップの先端、中間、または根元だけが導電性物質であり、これが静電電極であってもよい。