以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
図1に可変圧縮比内燃機関の側面断面図を示す。
図1を参照すると、1は内燃機関を示している。内燃機関1は、クランクケース2、シリンダブロック3、シリンダヘッド4、ピストン5、燃焼室6、燃焼室6の頂面中央部に配置された点火プラグ7、吸気弁8、吸気カムシャフト9、吸気ポート10、排気弁11、排気カムシャフト12、排気ポート13を具備する。
シリンダヘッド4はシリンダブロック3の上部に固定される。以下の説明では、これらシリンダブロック3及びシリンダヘッド4を総称してシリンダブロック組立体と称する。シリンダブロック3内にはピストン5が往復動する複数のシリンダが設けられ、これらシリンダの壁面とピストン5の上面とシリンダヘッド4の下面によって燃焼室6が画成される。
吸気カムシャフト9は吸気弁8を開閉するカムを備え、その軸線回りで回転可能にシリンダヘッド4に配置される。吸気カムシャフト9が回転せしめられるとそこに設けられているカムによって吸気弁8が開閉駆動される。一方、排気カムシャフト12は排気弁11を開閉するカムを備え、その軸線回りで回転可能にシリンダヘッド4に配置される。排気カムシャフト12が回転せしめられるとそこに設けられているカムによって排気弁11が開閉駆動される。
加えて、図1に示した実施形態では、内燃機関1は、クランクケース2とシリンダブロック3との連結部に可変圧縮比機構Aが設けられる。この可変圧縮比機構Aは、クランクケース2とシリンダブロック組立体とのシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン5が圧縮上死点に位置するときの燃焼室6の容積を変更することができる。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック3の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部20が形成されており、各突出部20内にはそれぞれ断面円形のカム挿入孔21が形成されている。一方、クランクケース2の上壁面上には互いに間隔を隔ててそれぞれ対応する突出部20の間に嵌合せしめられる複数個の突出部22が形成されており、これらの各突出部22内にもそれぞれ断面円形のカム挿入孔23が形成されている。
図2に示したように一対のカムシャフト24、25が設けられており、各カムシャフト24、25上には一つおきに各カム挿入孔23内に回転可能に挿入される円形カム28が固定されている。これら円形カム28は各カムシャフト24、25の回転軸線と共軸をなす。一方、各円形カム28の両側には図3に示すように各カムシャフト24、25の回転軸線に対して偏心配置された偏心軸27が延びており、この偏心軸27上に別の円形カム26が偏心して回転可能に取付けられている。図2に示したようにこれら円形カム26は各円形カム28の両側に配置されており、これら円形カム26は対応する各カム挿入孔21内に回転可能に挿入されている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト24、25上に固定された円形カム28を図3(A)において矢印で示したように互いに反対方向に回転させると偏心軸27が互いに離れる方向に移動するために円形カム26がカム挿入孔21内において円形カム28とは反対方向に回転し、図3(B)に示したように偏心軸27の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に円形カム28を矢印で示した方向に回転させると図3(C)に示したように偏心軸27は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)にはそれぞれの状態における円形カム28の中心aと偏心軸27の中心bと円形カム26の中心cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)を比較するとわかるようにクランクケース2とシリンダブロック3の相対位置は円形カム28の中心aと円形カム26の中心cとの距離によって定まり、円形カム28の中心aと円形カム26の中心cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック3はクランクケース2から離れる。すなわち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース2とシリンダブロック3間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック3がクランクケース2から離れるとピストン5が圧縮上死点に位置するときの燃焼室6の容積は増大し、したがって各カムシャフト24、25を回転させることによってピストン5が圧縮上死点に位置するときの燃焼室6の容積を変更することができる。
特に、図3に示した例では、図3(A)に示した状態と図3(B)に示した状態との間でシリンダブロック3はクランクケース2に対してΔD1だけ相対移動せしめられ、図3(B)に示した状態と図3(C)に示した状態との間でシリンダブロック3はクランクケースに対してΔD2だけ相対移動せしめられる。
図2に示したように各カムシャフト24、25をそれぞれ反対方向に回転させるために駆動モータ29の回転軸にはそれぞれ螺旋方向が逆向きの一対のウォーム31、32が取付けられており、これらウォーム31、32と噛合するウォームホイール33、34がそれぞれ各カムシャフト24、25の端部に固定されている。この実施形態では駆動モータ29を駆動することによってピストン5が圧縮上死点に位置するときの燃焼室6の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
図4は、クランクシャフトの出力に基づいて吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを駆動する駆動系統を概略的に示す図である。図からわかるように、吸気カムシャフト9の一端には周面上に歯を備えた平歯車(以下、「吸気弁側歯車」という)41がその中心軸線が吸気カムシャフト9の軸線に一致するように取り付けられる。また、排気カムシャフト12の一端には周面上に歯を備えた平歯車(以下、「排気弁側歯車」という)42がその中心軸線が排気カムシャフト12の軸線に一致するように取り付けられる。
一方、クランクケース2にはクランクシャフトが設けられる。クランクシャフトは、ピストン5の往復動によってその軸線回りで回転せしめられるようにクランクケース2に配置される。クランクシャフトの一端には歯車(以下、「クランクシャフト歯車」という)43がその軸線がクランクシャフトの軸線に一致するように取り付けられる。したがって、クランクシャフトが回転するとクランクシャフト歯車43はその中心軸線回りで回転する。
本実施形態の内燃機関では、中継歯車44およびアイドラ歯車45が設けられる。中継歯車44はタイミング歯車44a及びタイミングスプロケット44bを具備する。タイミングスプロケット44bはタイミング歯車44aの一方の側面上に固定される。タイミングスプロケット44bはタイミング歯車44aと同軸に配置されると共に、タイミング歯車44aと一緒に回転せしめられる。
中継歯車44はクランクシャフトと平行な軸線回りで回転せしめられる。また、本実施形態では、中継歯車44は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して相対的に移動する方向と同一方向に並進移動可能である。また、クランクシャフト歯車43は並進移動ができないため、中継歯車44は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して相対的に移動する方向と同一方向に、クランクシャフト歯車43に対して並進移動可能(すなわち、直線に沿うように移動可能)であるということができる。
特に、本実施形態では、中継歯車44は、クランクケース2に対するシリンダブロック3の相対移動に伴って、クランクシャフト歯車43に対して相対移動せしめられる。加えて、中継歯車44は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して相対移動した量と同一の量だけ、クランクシャフト歯車43に対して相対移動せしめられる。したがって、シリンダブロック3がクランクケース2に対して或る量だけ上方に移動すると、それに伴って中継歯車44もクランクシャフト歯車43に対して同一の量だけ上方に移動せしめられる。シリンダブロック3がクランクケース2に対して或る量だけ下方に移動すると、それに伴って中継歯車44もクランクシャフト歯車43に対して同一の量だけ下方に移動せしめられる。
なお、上記実施形態では、中継歯車44は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して相対的に移動する方向と同一方向に並進移動可能であるが、必ずしもこの方向に並進移動可能でなくてもよく、クランクシャフト歯車43に対する相対位置関係が変更できれば他の方向に並進移動可能(直線に沿うように移動可能)であってもよいし、或いは円弧状等、曲線に沿うように移動可能であってもよい。また、上記実施形態では、中継歯車44は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して相対移動した量と同一の量だけ、クランクシャフト歯車43に対して相対移動せしめられているが、クランクシャフト歯車43に対する中継歯車44の相対移動量がクランクケース2に対するシリンダブロック3の相対移動量が比例していれば、必ずしも同一の量だけ相対移動せしめられなくてもよい。
アイドラ歯車45はクランクシャフトと平行な軸線回りで回転せしめられる。また、本実施形態では、アイドラ歯車45は、クランクシャフト歯車43の中心O1とアイドラ歯車45の中心O3との間の距離が一定に維持されるように、且つタイミング歯車44aの中心O2とアイドラ歯車45の中心O3との間の距離が一定に維持されるように、支持される。したがって、アイドラ歯車45は、クランクシャフト歯車43及びタイミング歯車44aの両方に噛合するように支持されることになる。
特に、上述したように、中継歯車44、すなわちタイミング歯車44aはクランクシャフト歯車43に対して相対移動せしめられる。しかしながら、上述したようにアイドラ歯車45はO1、O3間及びO2、O3間の距離が一定に維持されるように支持されるため、このようにタイミング歯車44aが相対移動しても、アイドラ歯車45はクランクシャフト歯車43及びタイミング歯車44aの両方に噛合した状態で維持される。
アイドラ歯車45は常にクランクシャフト歯車43及びタイミング歯車44aの両方に噛合しているため、クランクシャフト歯車43が回転せしめられるとこれに伴ってアイドラ歯車45が回転せしめられ、アイドラ歯車45が回転せしめられるとこれに伴ってタイミング歯車44aが回転せしめられる。
なお、上記実施形態では、アイドラ歯車45はクランクシャフト歯車43及びタイミング歯車44aの両方に噛合しているが、これらは必ずしも噛合している必要はなく、例えばベルトやチェーン等を介して連結されていてもよい。ただし、いずれにせよ、アイドラ歯車45は、中継歯車44、すなわちタイミング歯車44aがクランクシャフト歯車43に対して相対移動せしめられても、クランクシャフト歯車43からタイミング歯車44aに回転を伝達することができることが必要である。
吸気弁側歯車41、排気弁側歯車42及び中継歯車44のタイミングスプロケット44bにはタイミングチェーン46が巻回される。したがって、中継歯車44、すなわちタイミングスプロケット44bが回転せしめられると、タイミングチェーン46を介して吸気弁側歯車41と排気弁側歯車42とが回転せしめられる。すなわち、タイミングスプロケット44bの回転は、タイミングチェーン46及び吸気弁側歯車41を介して吸気カムシャフト9に伝達されると共に、タイミングチェーン46及び排気弁側歯車42を介して排気カムシャフト12に伝達される。
図5は、クランクケース2に対するシリンダブロック3の相対移動に伴って、クランクシャフト歯車43に対してタイミング歯車44aが相対移動する様子を示している。図中のXは、内燃機関のシリンダの軸線と平行であってクランクシャフト歯車43の中心O1を通る直線を示しており、シリンダブロック3はこの軸線Xに沿ってクランクケース2に対して相対移動する。一方、図中のYは、軸線Xと平行に延びる直線であり、タイミング歯車44aはクランクシャフト歯車43に対してこの直線Yに沿って相対移動する。回転の様子を分かり易くするために、図5の各歯車にはタイミングマークが設けられている。タイミングマークは、各歯車の同一位置に設けられ、各歯車の回転に伴って周方向に移動する。
なお、以下の説明では、説明を簡単にするため、軸線Xが鉛直に延びている場合、すなわち内燃機関のシリンダの軸線が鉛直方向に延びている場合を例にとって説明する。しかしながら、内燃機関のシリンダの軸線は必ずしも鉛直方向に延びている必要はなく、鉛直方向から傾いた方向や水平方向等、様々な方向に延びていてもよい。
図5(A)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して最も離れて位置している場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(A)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図5(A)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な直線Y上の範囲のうち最も上方に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線(図5中の破線Z)よりも上方に位置する。また、アイドラ歯車45は、クランクシャフト歯車43及びタイミング歯車44aの両方に噛合せしめられる。
図5(B)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して移動可能な範囲内の中間位置にある場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(B)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図5(B)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な直線Y上の範囲のうち中間に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線Z上に位置する。換言すると、このとき、タイミング歯車44aの移動方向がクランクシャフト歯車43の中心O1とタイミング歯車44aの中心O2とを結んだ直線と垂直になっているといえる。また、アイドラ歯車45は、クランクシャフト歯車43及びタイミング歯車44aの両方に噛合せしめられる。
本実施形態では、図5(A)に示した状態から図5(B)に示した状態へ変化する際のタイミング歯車44aの移動量Δd1は、図3(A)に示した状態と図3(B)に示した状態との間におけるクランクケース2に対するシリンダブロック3の相対移動量ΔD1に等しい。このため、図3(A)及び図5(A)に示した状態から図3(B)及び図5(B)に示した状態に変化しても、吸気弁側歯車41、排気弁側歯車42及びタイミング歯車44a間の相対位置関係は変化しない。
また、クランクシャフト歯車43を固定して(回転しないものとして)考えると、図5(A)に示した状態から図5(B)に示した状態へ変化する際にアイドラ歯車45は図5(A)に矢印で示した方向(右回り)に回転せしめられる。このことは、アイドラ歯車45に設けられたタイミングマークが、図5(A)に示した状態では左斜め上向きであるのに対して図5(B)では上向きであることからも明らかである。
一方、図5(A)に示した状態から図5(B)に示した状態へ変化する際にタイミング歯車44aはほとんど回転せしめられない。すなわち、タイミング歯車44aはアイドラ歯車45の回転に伴って図5(A)の矢印と同一方向(右回り)に回転する。加えて、タイミング歯車44aはアイドラ歯車45回りで周方向に回転し、これに伴ってタイミング歯車44aは図5(A)の矢印とは反対方向(左回り)に回転する。これらの回転を合わせると、タイミング歯車44aは結果的にほとんど回転せしめられない。
このように、本実施形態では、図3(A)及び図5(A)に示した状態から図3(B)及び図5(B)に示した状態に変化しても、吸気弁側歯車41、排気弁側歯車42及びタイミング歯車44a間の相対位置関係は変化せず、またタイミング歯車44aも結果的にほとんど回転せしめられない。
図5(C)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して最も近づいて位置している場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(C)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図5(C)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な直線Y上の範囲のうち最も下方に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線(図5中の破線Z)よりも下方に位置する。また、アイドラ歯車45は、クランクシャフト歯車43及びタイミング歯車44aの両方に噛合せしめられる。
本実施形態では、図5(B)に示した状態から図5(C)に示した状態へ変化する際のタイミング歯車44aの移動量Δd2は、図3(B)に示した状態と図3(C)に示した状態との間におけるクランクケース2に対するシリンダブロック3の相対移動量ΔD2に等しい。このため、図3(B)及び図5(B)に示した状態から図3(C)及び図5(C)に示した状態に変化しても、吸気弁側歯車41、排気弁側歯車42及びタイミング歯車44a間の相対位置関係は変化しない。
また、クランクシャフト歯車43を固定して考えると、図5(B)に示した状態から図5(C)に示した状態へ変化する際にアイドラ歯車45は図5(B)に矢印で示した方向(右回り)に回転せしめられる。このことは、アイドラ歯車45に設けられたタイミングマークが、図5(A)に示した状態では上向きであるのに対して図5(B)では右斜め上向きであることからも明らかである。
一方、図5(B)に示した状態から図5(C)に示した状態へ変化する際にタイミング歯車44aはほとんど回転せしめられない。すなわち、タイミング歯車44aはアイドラ歯車45の回転に伴って図5(B)の矢印と同一方向(右回り)に回転する。加えて、タイミング歯車44aはアイドラ歯車45回りで周方向に回転し、これに伴ってタイミング歯車44aは図5(B)の矢印とは反対方向(左回り)に回転する。これらの回転を合わせると、タイミング歯車44aは結果的にほとんど回転せしめられない。
このように、本実施形態では、図3(B)及び図5(B)に示した状態から図3(C)及び図5(C)に示した状態に変化しても、吸気弁側歯車41、排気弁側歯車42及びタイミング歯車44a間の相対位置関係は変化せず、またタイミング歯車44aも結果的にほとんど回転せしめられない。
次に、図5(A)から図5(C)に示したようにタイミング歯車44aが鉛直方向に並進移動したときのタイミング歯車44aの位相変化について説明する。
ここで、アイドラ歯車45がクランクシャフト歯車43の周方向に移動した角度(公転角度)をΔθ31、アイドラ歯車45がクランクシャフト歯車43の周方向に移動するのに伴って自ら回転した角度(自転角度)をΔθ33とする。また、タイミング歯車44aがアイドラ歯車45の周方向に移動した公転角度をΔθ23、タイミング歯車44aがアイドラ歯車45の周方向に移動するのに伴って自ら回転した自転角度をΔθ22とする。
図6を参照して自転角度及び公転角度についてより詳細に説明する。図6は、クランクシャフト歯車43とアイドラ歯車45とを概略的に示している。図中の破線は移動前のアイドラ歯車45の位置であり、このときタイミングマークはクランクシャフト歯車43の方を向いた状態となっている。一方、実線は移動後のアイドラ歯車45の位置であり、このときタイミングマークはクランクシャフト歯車43の方よりも下向きの状態となっている。
図6からわかるように、アイドラ歯車45はクランクシャフト歯車43の周方向にΔθ31だけ回転し、この回転角度が公転角度である。また、この回転に伴ってタイミングマークはΔθ31+Δθ33だけ回転しており、このうちのΔθ33が自転角度に相当する。
上述したようにアイドラ歯車45及びタイミング歯車44aの各角度を表すと、タイミング歯車44aが鉛直方向に並進移動したときのタイミング歯車44aの最終的な回転角度(位相変化)Δθ2は下記式(1)のように表すことができる。
Δθ2=Δθ31+Δθ33+Δθ23+Δθ22 …(1)
ここで、クランクシャフト歯車43、アイドラ歯車45、タイミング歯車44aの歯数又はピッチ円半径をそれぞれr1、r2、r3とし、タイミング歯車44aが下限位置にあるときの鉛直方向に対する線分O1−O3の角度をθ1、タイミング歯車44aが下限位置にあるときの鉛直方向に対する線分O3−O2の角度をθ3とすると、式(1)は下記式(2)のように変形することができ、また、式(3)が成立する。
Δθ2=Δθ31(1+r2/r1)+Δθ23(1+r3/r2) …(2)
Δθ22=Sin-1(Sin(θ3+(r1+r2)/(r2+r3)・(Sinθ1-Sin(θ1+Δθ31))))-(θ3-2・Δθ31)
…(3)
これら式(2)、(3)より、Δθ2は、3つの歯車43、44a、45のピッチ円半径(又は歯数)と、タイミング歯車44aが下限位置にあるときの鉛直方向に対する線分O1−O3の角度θ1と、タイミング歯車44aが下限位置にあるときの鉛直方向に対する線分O3−O2の角度θ3とが分かれば、タイミング歯車44aの並進方向における移動量とタイミング歯車44aの回転角度との関係がわかる。これを図7に示す。
図7は、図5(B)に示したタイミング歯車44aの位置を移動量0としたときの、タイミング歯車44aの移動量とタイミング歯車44aの回転角度との関係を示す図である。図7の表は、上記式(2)、(3)に基づいて算出したものであり、r1=r2=r3=25mm、θ1=33°、θ3=34°とし、必要な圧縮比変化幅(例えば、10〜20と仮定)を得るためのシリンダブロックのリフト量(すなわちタイミング歯車44aの移動量)を8mmとしている。図7からわかるように、本実施形態では、タイミング歯車44aが上下にそれぞれ4mm程度移動してもタイミング歯車44aの回転角度Δθ2は僅か±0.12°となる。したがって、本実施形態によれば、タイミング歯車44aを並進移動させてもタイミング歯車44aの位相はほとんど変化しない。
なお、上記構成とは異なる構成を採用した場合におけるタイミング歯車44aの移動量と、タイミング歯車44aの回転角度との関係を示す。図8は、内燃機関のシリンダの軸線と平行であってクランクシャフト歯車43の中心O1を通る軸線X上で、タイミング歯車44aの中心が移動するようにクランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45が構成された例を示している。図8(A)では、タイミング歯車44aは移動可能な範囲のうち最も下方に位置しており、図8(B)では、タイミング歯車44aは移動可能な範囲のうち最も上方に位置している。
図9は、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45がこのように構成された場合の、タイミング歯車44aの並進方向における移動量とタイミング歯車44aの回転角度との関係を示している。図9からわかるように、本実施形態では、タイミング歯車44aが上下にそれぞれ3mm程度移動するとタイミング歯車44aの回転角度Δθ2は±11°以上となる。このように、大きな角度変化を生じる理由は、図5に示した例では式(1)においてアイドラ歯車45の公転角度Δθ31と自転角度Δθ33から事実上タイミング歯車44aの公転角度Δθ23と自転角度Δθ22が減算されるのに対して、図9に示した例では式(1)においてアイドラ歯車45の公転角度Δθ31及び自転角度Δθ33、タイミング歯車44aの公転角度Δθ23及び自転角度Δθ22全てが加算されるためである。
したがって、タイミング歯車44aが相対移動してもタイミング歯車44aの位相がほとんど変化しないようにするという観点からは、タイミング歯車44aの直線Y上の移動可能な範囲内に、タイミング歯車44aの移動方向(Y)がクランクシャフト歯車43とタイミング歯車44aの中心O1、O2間を結んだ直線(Z)と垂直になる位置が含まれるように、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a、アイドラ歯車45を構成することが必要となる。
また、図5に示した例では、タイミング歯車44aが上下にそれぞれ4mm程度移動してもタイミング歯車44aの回転角度θ2はわずか0.12°であるのに対して、図9に示した例では、タイミング歯車44aが上下にそれぞれ3mm程度移動するとタイミング歯車44aの回転角度Δθ2は±11°以上となる。したがって、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a、アイドラ歯車45の配置を適宜選択することにより、タイミング歯車44aに対するタイミング歯車44aの回転角度を所望の値にすることができる。
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の可変圧縮比内燃機関の構成は基本的に第一実施形態の可変圧縮比内燃機関の構成と同様である。しかしながら、第一実施形態の可変圧縮比内燃機関では、タイミング歯車44aの移動方向Yがクランクシャフト歯車43とタイミング歯車44aとの中心間を結んだ直線(O1−O2)と垂直になる位置が、タイミング歯車44aの移動可能な線状の範囲の中央となっていた。これに対して、第二実施形態の可変圧縮比内燃機関では、タイミング歯車44aの移動方向Yがクランクシャフト歯車43とタイミング歯車44aとの中心間を結んだ直線(O1−O2)と垂直になる位置が、タイミング歯車44aの移動可能な直線Y上の範囲の最も上方(上限)とされる。
図10は、本実施形態において、クランクシャフト歯車に対してタイミング歯車が相対移動する様子を概略的に示す図である。図10(A)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して最も離れて位置している場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(A)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図10(A)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な直線Y上の範囲のうち最も上方に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線(図10中の破線Z)上に位置する。
図10(B)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して移動可能な範囲内の中間位置にある場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(B)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図10(B)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な範囲のうち中間に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線Zよりも下方に位置する。
図10(C)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して最も近づいて位置している場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(C)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図10(C)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な範囲のうち最も下方に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線Zよりもかなり下方に位置する。
タイミング歯車44aがこのように並進移動した場合の、タイミング歯車44aの移動量とそれに伴うタイミング歯車44aの回転角度との関係は図11に示したようになる。すなわち、タイミング歯車44aが相対的に上方に移動するほどタイミング歯車44aは進角側に回転せしめられる。換言すると、本実施形態では、シリンダブロック3が上昇して機械圧縮比が低くなるにつれて、吸気弁8のバルブタイミング(開弁時期及び閉弁時期)が進角せしめられることになる。
図11の表は、上記式(2)、(3)に基づいて算出したものであり、タイミング歯車44aが中間位置(図12(B)に示した位置)にあるときのθ1=23°、θ3=44°とし、必要な圧縮比変化幅(例えば、10〜20と仮定)を得るためのシリンダブロックのリフト量(すなわちタイミング歯車44aの移動量)が8mmとしている。図11からわかるように、タイミング歯車44aが8mm上昇すると、タイミング歯車44aが約3°進角せしめられる。
ここで、機関回転数が低いときに高いトルクを発生させることができるように内燃機関の設計を行う場合には、機関負荷が高いほど機械圧縮比を低下させることが必要になると共に、機関負荷が高いほど吸気弁8のバルブタイミングを進角することで吸入空気量を増大させることができる。このため、斯かる内燃機関の設計を行う場合には、本実施形態のように歯車を配置することが有効である。これにより、機械圧縮比の変化に伴って油圧式バルブタイミング機構等によってバルブタイミングを変化させる場合には、油圧式バルブタイミング機構によってバルブタイミングを変化させるべき量を減少させることができ、その結果、吸気弁8のバルブタイミングの応答性を高めることができる。
なお、タイミング歯車44aの移動可能な範囲のうち最も上方の位置が直線Zよりも下方であれば、タイミング歯車44aが相対的に上方に移動するほどタイミング歯車44aは進角側に回転せしめられることになる。したがって、上記第二実施形態では、タイミング歯車44aの移動可能な範囲のうち最も上方の位置が直線Z上とされているが、タイミング歯車44aの移動可能な範囲のうち最も上方の位置が直線Zよりも下方であれば他の位置になるように構成されてもよい。
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態の可変圧縮比内燃機関の構成は基本的に第一実施形態の可変圧縮比内燃機関の構成と同様である。ただし、第三実施形態の可変圧縮比内燃機関では、タイミング歯車44aの移動方向Yがクランクシャフト歯車43とタイミング歯車44aとの中心間を結んだ直線(O1−O2)と垂直になる位置が、タイミング歯車44aの移動可能な直線Y上の範囲の最も下方(下限)とされる。
図12は、本実施形態において、クランクシャフト歯車に対してタイミング歯車が相対移動する様子を概略的に示す図である。図12(A)、は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して最も近づいて位置している場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(C)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図12(A)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な範囲のうち最も上方に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線Z上に位置する。
図12(B)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して移動可能な範囲内の中間位置にある場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(B)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図12(B)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な範囲のうち中間に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線Zよりも上方に位置する。
図12(C)は、シリンダブロック3がクランクケース2に対して最も離れて位置している場合、すなわち可変圧縮比機構Aが図3(A)に示した状態となっている場合における、クランクシャフト歯車43、タイミング歯車44a及びアイドラ歯車45の相対位置関係を示している。図12(C)に示した状態では、タイミング歯車44aは、タイミング歯車44aが移動可能な範囲のうち最も下方に位置している。このとき、タイミング歯車44aの中心O2は、クランクシャフト歯車43の中心O1から軸線Xに対して垂直に延びる直線Zよりもかなり上方に位置する。
タイミング歯車44aがこのように並進移動した場合の、タイミング歯車44aの移動量とそれに伴うタイミング歯車44aの回転角度との関係は図13に示したようになる。すなわち、タイミング歯車44aが相対的に上方に移動するほどタイミング歯車44aは遅角側に回転せしめられる。換言すると、本実施形態では、シリンダブロック3が上昇して機械圧縮比が低くなるにつれて、吸気弁8のバルブタイミング(開弁時期及び閉弁時期)が遅角せしめられることになる。
図13の表は、上記式(2)、(3)に基づいて算出したものであり、タイミング歯車44aが中間位置(図12(B)に示した位置)にあるときのθ1=43°、θ3=24°とし、必要な圧縮比変化幅(例えば、10〜20と仮定)を得るためのシリンダブロックのリフト量(すなわちタイミング歯車44aの移動量)を8mmとしている。図13からわかるように、タイミング歯車44aが8mm上昇すると、タイミング歯車44aが約3°遅角せしめられる。
ここで、機関回転数が高いときに高い出力を発生させることができるように内燃機関の設計を行う場合には、機関負荷が高いほど機械圧縮比を低下させることが必要になると共に、機関負荷が高いほど吸気弁8のバルブタイミングを遅角することで慣性過給効果により吸入空気量を増大させることができる。このため、斯かる内燃機関の設計を行う場合には、本実施形態のように歯車を配置することが有効である。これにより、機械圧縮比の変化に伴って油圧式バルブタイミング機構等によってバルブタイミングを変化させる場合には、油圧式バルブタイミング機構によってバルブタイミングを変化させるべき量を減少させることができ、その結果、吸気弁8のバルブタイミングの応答性を高めることができる。
なお、タイミング歯車44aの移動可能な範囲のうち最も下方の位置が直線Zよりも上方であれば、タイミング歯車44aが相対的に上方に移動するほどタイミング歯車44aは遅角側に回転せしめられることになる。したがって、上記第三実施形態では、タイミング歯車44aの移動可能な範囲のうち最も下方の位置が直線Z上とされているが、タイミング歯車44aの移動可能な範囲のうち最も下方の位置が直線Zよりも上方であれば他の位置になるように構成されてもよい。
また、上記第二実施形態と第三実施形態とを考えると、タイミング歯車44aが直線的に移動可能な範囲内には、タイミング歯車44aの移動方向がクランクシャフト歯車43とタイミング歯車44aの中心間を結んだ直線と垂直になる位置が含まれないようにすることで、タイミング歯車44aが相対的に上方に移動するほどタイミング歯車44aを進角側又は遅角側に回転(位相変化)させることができるといえる。