図1は本発明による可変圧縮比機構を備える内燃機関の側面断面図を示す。図1を参照すると、1はクランクケース、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は燃焼室5の頂面中央部に配置された点火栓、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。吸気ポート8は吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、各吸気枝管11には夫々対応する吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための燃料噴射弁13が配置される。なお、燃料噴射弁13は各吸気枝管11に取付ける代りに各燃焼室5内に配置してもよい。
サージタンク12は吸気ダクト14を介してエアクリーナ15に連結され、吸気ダクト14内にはアクチュエータ16によって駆動されるスロットル弁17と例えば熱線を用いた吸入空気量検出器18とが配置される。一方、排気ポート10は排気マニホルド19を介して例えば三元触媒を内蔵した触媒装置20に連結され、排気マニホルド19内には空燃比センサ21が配置される。70は吸気弁7を駆動するための吸気弁用カムシャフトであり、90は排気弁9を駆動するための排気弁用カムシャフトである。
一方、図1に示される実施例ではクランクケース1とシリンダブロック2との連結部にクランクケース1とシリンダブロック2のシリンダ軸線方向の相対位置を変化させることによりピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更可能な可変圧縮比機構Aが設けられており、更に実際の圧縮作用の開始時期を変更可能な実圧縮作用開始時期変更機構Bが設けられている。なお、図1に示される実施例ではこの実圧縮作用開始時期変更機構Bは吸気弁7の閉弁時期を制御可能な可変バルブタイミング機構からなる。
図1に示されるようにクランクケース1とシリンダブロック2にはクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置関係を検出するための相対位置センサ22が取付けられており、この相対位置センサ22からはクランクケース1とシリンダブロック2との間隔の変化を示す出力信号が出力される。また、可変バルブタイミング機構Bには吸気弁7の閉弁時期を示す出力信号を発生するバルブタイミングセンサ23が取付けられており、スロットル弁駆動用のアクチュエータ16にはスロットル弁開度を示す出力信号を発生するスロットル開度センサ24が取付けられている。
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。吸入空気量検出器18、空燃比センサ21、相対位置センサ22、バルブタイミングセンサ23およびスロットル開度センサ24の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁13、スロットル弁駆動用アクチュエータ16、可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bに接続される。
図2は図1に示す可変圧縮比機構Aの分解斜視図を示しており、図3は図解的に表した内燃機関の側面断面図を示している。図2を参照すると、シリンダブロック2の両側壁の下方には互いに間隔を隔てた複数個の突出部50が形成されており、各突出部50内には夫々断面円形のカム挿入孔51が形成されている。一方、クランクケース1の上壁面上には互いに間隔を隔てて夫々対応する突出部50の間に嵌合せしめられる複数個の突出部52が形成されており、これらの各突出部52内にも夫々断面円形のカム挿入孔53が形成されている。各突出部52の位置において、クランクケース1には、クランクシャフトを支持するクランクシャフト軸受を固定するためのサポートSが形成されている。
図2に示されるように一対のカムシャフト54,55が設けられており、各カムシャフト54,55上には一つおきに各カム挿入孔53内に回転可能に挿入される同心部分58が位置している。各同心部分58は各カムシャフト54,55の回転軸線と共軸をなす。一方、各同心部分58の両側には図3に示すように各カムシャフト54,55の回転軸線に対して偏心配置された偏心部57が位置しており、この偏心部57上に別の円形カム56が偏心して回転可能に取付けられている。すなわち、偏心部57は円形カム56に形成された偏心孔に嵌合し、円形カム56は偏心孔を中心として偏心部57回りに回動するようになっている。図2に示されるようにこれら円形カム56は各同心部分58の両側に配置されており、これら円形カム56は対応する各カム挿入孔51内に回転可能に挿入されている。また、図2に示されるようにカムシャフト55にはカムシャフト55の回転角度を表す出力信号を発生するカム回転角度センサ25が取付けられている。
図3(A)に示すような状態から各カムシャフト54,55の同心部分58を図3(A)において矢印で示される如く互いに反対方向に回転させると偏心部57が互いに離れる方向に移動するために円形カム56がカム挿入孔51内において同心部分58とは反対方向に回転し、図3(B)に示されるように偏心部57の位置が高い位置から中間高さ位置となる。次いで更に同心部分58を矢印で示される方向に回転させると図3(C)に示されるように偏心部57は最も低い位置となる。
なお、図3(A)、図3(B)、図3(C)には夫々の状態における同心部分58の中心線(すなわち、カムシャフトの中心線)aと偏心部57の中心線bと円形カム56の中心線cとの位置関係が示されている。
図3(A)から図3(C)とを比較するとわかるようにクランクケース1とシリンダブロック2の相対位置は同心部分58の中心線aと円形カム56の中心線cとの距離によって定まり、同心部分58の中心線aと円形カム56の中心線cとの距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース1から離れる。即ち、可変圧縮比機構Aは回転するカムを用いたクランク機構によりクランクケース1とシリンダブロック2間の相対位置を変化させていることになる。シリンダブロック2がクランクケース1から離れるとピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積は増大し、従って各カムシャフト54,55を回転させることによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を変更することができる。
図2に示されるように各カムシャフト54,55を夫々反対方向に回転させるために駆動モータ59の回転軸には夫々螺旋方向が逆向きの一対のウォーム61,62が取付けられており、これらウォーム61,62と噛合するウォームホイール63,64が夫々各カムシャフト54,55の端部に固定されている。この実施例では駆動モータ59を駆動することによってピストン4が圧縮上死点に位置するときの燃焼室5の容積を広い範囲に亘って変更することができる。
一方、図4は図1において吸気弁7を駆動するための吸気弁用カムシャフト70の端部に取付けられた可変バルブタイミング機構Bを示している。図4を参照すると、この可変バルブタイミング機構Bは機関のクランク軸によりタイミングベルトを介して矢印方向に回転せしめられる吸気弁用タイミングプーリ71と、吸気弁用タイミングプーリ71と一緒に回転する円筒状ハウジング72と、吸気弁用カムシャフト70と一緒に回転しかつ円筒状ハウジング72に対して相対回転可能な回転軸73と、円筒状ハウジング72の内周面から回転軸73の外周面まで延びる複数個の仕切壁74と、各仕切壁74の間で回転軸73の外周面から円筒状ハウジング72の内周面まで延びるベーン75とを具備しており、各ベーン75の両側には夫々進角用油圧室76と遅角用油圧室77とが形成されている。
各油圧室76,77への作動油の供給制御は作動油供給制御弁78によって行われる。この作動油供給制御弁78は各油圧室76,77に夫々連結された油圧ポート79,80と、油圧ポンプ81から吐出された作動油の供給ポート82と、一対のドレインポート83,84と、各ポート79,80,82,83,84間の連通遮断制御を行うスプール弁85とを具備している。
吸気弁用カムシャフト70のカムの位相を進角すべきときは図4においてスプール弁85が右方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート79を介して進角用油圧室76に供給されると共に遅角用油圧室77内の作動油がドレインポート84から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印方向に相対回転せしめられる。
これに対し、吸気弁用カムシャフト70のカムの位相を遅角すべきときは図4においてスプール弁85が左方に移動せしめられ、供給ポート82から供給された作動油が油圧ポート80を介して遅角用油圧室77に供給されると共に進角用油圧室76内の作動油がドレインポート83から排出される。このとき回転軸73は円筒状ハウジング72に対して矢印と反対方向に相対回転せしめられる。
回転軸73が円筒状ハウジング72に対して相対回転せしめられているときにスプール弁85が図4に示される中立位置に戻されると回転軸73の相対回転動作は停止せしめられ、回転軸73はそのときの相対回転位置に保持される。従って可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁用カムシャフト70のカムの位相を所望の量だけ進角させることができ、遅角させることができることになる。
図5において実線は可変バルブタイミング機構Bによって吸気弁用カムシャフト70のカムの位相が最も進角されているときを示しており、破線は吸気弁用カムシャフト70のカムの位相が最も遅角されているときを示している。従って吸気弁7の開弁期間は図5において実線で示す範囲と破線で示す範囲との間で任意に設定することができ、従って吸気弁7の閉弁時期も図5において矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角に設定することができる。
図1および図4に示される可変バルブタイミング機構Bは一例を示すものであって、例えば吸気弁の開弁時期を一定に維持したまま吸気弁の閉弁時期のみを変えることのできる可変バルブタイミング機構等、種々の形式の可変バルブタイミング機構を用いることができる。
次に図6を参照しつつ本願において使用されている用語の意味について説明する。なお、図6の(A),(B),(C)には説明のために燃焼室容積が50mlでピストンの行程容積が500mlであるエンジンが示されており、これら図6の(A),(B),(C)において燃焼室容積とはピストンが圧縮上死点に位置するときの燃焼室の容積を表している。
図6(A)は機械圧縮比について説明している。機械圧縮比は圧縮行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積のみから機械的に定まる値であってこの機械圧縮比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(A)に示される例ではこの機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
図6(B)は実圧縮比について説明している。この実圧縮比は実際に圧縮作用が開始されたときからピストンが上死点に達するまでの実際のピストン行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの実圧縮比は(燃焼室容積+実際の行程容積)/燃焼室容積で表される。即ち、図6(B)に示されるように圧縮行程においてピストンが上昇を開始しても吸気弁が開弁している間は圧縮作用は行われず、吸気弁が閉弁したときから実際の圧縮作用が開始される。従って実圧縮比は実際の行程容積を用いて上記の如く表される。図6(B)に示される例では実圧縮比は(50ml+450ml)/50ml=10となる。
図6(C)は膨張比について説明している。膨張比は膨張行程時のピストンの行程容積と燃焼室容積から定まる値であってこの膨張比は(燃焼室容積+行程容積)/燃焼室容積で表される。図6(C)に示される例ではこの膨張比は(50ml+500ml)/50ml=11となる。
次に図7および図8を参照しつつ本発明において用いられている超膨張比サイクルについて説明する。なお、図7は理論熱効率と膨張比との関係を示しており、図8は本発明において負荷に応じ使い分けられている通常のサイクルと超高膨張比サイクルとの比較を示している。
図8(A)は吸気弁が下死点近傍で閉弁し、ほぼ吸気下死点付近からピストンによる圧縮作用が開始される場合の通常のサイクルを示している。この図8(A)に示す例でも図6の(A),(B),(C)に示す例と同様に燃焼室容積が50mlとされ、ピストンの行程容積が500mlとされている。図8(A)からわかるように通常のサイクルでは機械圧縮比は(50ml+500ml)/50ml=11であり、実圧縮比もほぼ11であり、膨張比も(50ml+500ml)/50ml=11となる。即ち、通常の内燃機関では機械圧縮比と実圧縮比と膨張比とがほぼ等しくなる。
図7における実線は実圧縮比と膨張比とがほぼ等しい場合の、即ち通常のサイクルにおける理論熱効率の変化を示している。この場合には膨張比が大きくなるほど、即ち実圧縮比が高くなるほど理論熱効率が高くなることがわかる。従って通常のサイクルにおいて理論熱効率を高めるには実圧縮比を高くすればよいことになる。しかしながら機関高負荷運転時におけるノッキングの発生の制約により実圧縮比は最大でも12程度までしか高くすることができず、斯くして通常のサイクルにおいては理論熱効率を十分に高くすることはできない。
一方、このような状況下で機械圧縮比と実圧縮比とを厳密に区分しつつ理論熱効率を高めることが検討され、その結果理論熱効率は膨張比が支配し、理論熱効率に対して実圧縮比はほとんど影響を与えないことが見い出されたのである。即ち、実圧縮比を高くすると爆発力は高まるが圧縮するために大きなエネルギーが必要となり、斯くして実圧縮比を高めても理論熱効率はほとんど高くならない。
これに対し、膨張比を大きくすると膨張行程時にピストンに対し押下げ力が作用する期間が長くなり、斯くしてピストンがクランクシャフトに回転力を与えている期間が長くなる。従って膨張比は大きくすれば大きくするほど理論熱効率が高くなる。図7の破線ε=10は実圧縮比を10に固定した状態で膨張比を高くしていった場合の理論熱効率を示している。このように実圧縮比εを低い値に維持した状態で膨張比を高くしたときの理論熱効率の上昇量と、図7の実線で示す如く実圧縮比も膨張比と共に増大せしめられる場合の理論熱効率の上昇量とは大きな差がないことがわかる。
このように実圧縮比が低い値に維持されているとノッキングが発生することがなく、従って実圧縮比を低い値に維持した状態で膨張比を高くするとノッキングの発生を阻止しつつ理論熱効率を大巾に高めることができる。図8(B)は可変圧縮比機構Aおよび可変バルブタイミング機構Bを用いて、実圧縮比を低い値に維持しつつ膨張比を高めるようにした場合の一例を示している。
図8(B)を参照すると、この例では可変圧縮比機構Aにより燃焼室容積が50mlから20mlまで減少せしめられる。一方、可変バルブタイミング機構Bによって実際のピストン行程容積が500mlから200mlになるまで吸気弁の閉弁時期が遅らされる。その結果、この例では実圧縮比は(20ml+200ml)/20ml=11となり、膨張比は(20ml+500ml)/20ml=26となる。図8(A)に示される通常のサイクルでは前述したように実圧縮比がほぼ11で膨張比が11であり、この場合に比べると図8(B)に示される場合には膨張比のみが26まで高められていることがわかる。これが超高膨張比サイクルと称される所以である。
一般的に言って内燃機関では機関負荷が低いほど熱効率が悪くなり、従って機関運転時における熱効率を向上させるためには、即ち燃費を向上させるには機関負荷が低いときの熱効率を向上させることが必要となる。一方、図8(B)に示される超高膨張比サイクルでは圧縮行程時の実際のピストン行程容積が小さくされるために燃焼室5内に吸入しうる吸入空気量は少なくなり、従ってこの超高膨張比サイクルは機関負荷が比較的低いときにしか採用できないことになる。従って本発明では機関負荷が比較的低いときには図8(B)に示す超高膨張比サイクルとし、機関高負荷運転時には図8(A)に示す通常のサイクルとするようにしている。
次に図9を参照しつつ運転制御全般について概略的に説明する。図9には或る機関回転数における機関負荷に応じた吸入空気量、吸気弁閉弁時期、機械圧縮比、膨張比、実圧縮比およびスロットル弁17の開度の各変化が示されている。なお、図9は、触媒装置20内の三元触媒によって排気ガス中の未燃HC,COおよびNOXを同時に低減しうるように燃焼室5内における平均空燃比が空燃比センサ21の出力信号に基いて理論空燃比にフィードバック制御されている場合を示している。
さて、前述したように機関高負荷運転時には図8(A)に示される通常のサイクルが実行される。従って図9に示されるようにこのときには機械圧縮比は低くされるために膨張比は低く、図9において実線で示されるように吸気弁7の閉弁時期は図5において実線で示される如く早められている。また、このときには吸入空気量は多く、このときスロットル弁17の開度は全開に保持されているのでポンピング損失は零となっている。
一方、図9において実線で示されるように機関負荷が低くなるとそれに伴って吸入空気量を減少すべく吸気弁7の閉弁時期が遅くされる。またこのときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように図9に示される如く機関負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大され、従って機関負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。なお、このときにもスロットル弁17は全開状態に保持されており、従って燃焼室5内に供給される吸入空気量はスロットル弁17によらずに吸気弁7の閉弁時期を変えることによって制御されている。
このように機関高負荷運転状態から機関負荷が低くなるときには実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大せしめられる。即ち、吸入空気量の減少に比例してピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が減少せしめられる。従ってピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は吸入空気量に比例して変化していることになる。なお、このとき図9に示される例では燃焼室5内の空燃比は理論空燃比となっているのでピストン4が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積は燃料量に比例して変化していることになる。
機関負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大せしめられ、機関負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると機械圧縮比は燃焼室5の構造上限界となる限界機械圧縮比(上限機械圧縮比)に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達すると、機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。従って低負荷側の機関中負荷運転時および機関低負荷運転時には即ち、機関低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると機関低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
一方、図9に示される実施例では機関負荷がL1まで低下すると吸気弁7の閉弁時期が燃焼室5内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達すると吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。
吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に保持されるともはや吸気弁7の閉弁時期の変化によっては吸入空気量を制御することができない。図9に示される実施例ではこのとき、即ち吸気弁7の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの機関負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁17によって燃焼室5内に供給される吸入空気量が制御され、機関負荷が低くなるほどスロットル弁17の開度は小さくされる。
一方、図9において破線で示すように機関負荷が低くなるにつれて吸気弁7の閉弁時期を早めることによってもスロットル弁17によらずに吸入空気量を制御することができる。従って、図9において実線で示される場合と破線で示される場合とをいずれも包含しうるように表現すると、本発明による実施例では吸気弁7の閉弁時期は、機関負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期L1まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動せしめられることになる。このように吸入空気量は吸気弁7の閉弁時期を図9において実線で示すように変化させても制御することができるし、破線に示すように変化させても制御することができる。
前述したように図8(B)に示す超高膨張比サイクルでは膨張比が26とされる。この膨張比は高いほど好ましいが図7からわかるように実用上使用可能な下限実圧縮比ε=5に対しても20以上であればかなり高い理論熱効率を得ることができる。従って本実施例では膨張比が20以上となるように可変圧縮比機構Aが形成されている。
図10は、本実施例の内燃機関の動弁機構を示す概略正面図である。本実施例の内燃機関のように、シリンダブロック2をクランクケース1に対して相対移動させる可変圧縮比機構Aを備える場合には、クランクシャフト100の回転を利用して吸気弁7及び排気弁9を開閉させる動弁機構は、可変圧縮比機構Aの動作によりクランクケース1側に位置するクランクシャフト100とシリンダブロック2側に位置する吸気弁用カムシャフト70及び排気弁用カムシャフト90との間の距離が変化するために、可変圧縮比機構Aの動作に伴って移動する中継軸101を介して、クランクシャフト100の回転を吸気弁用カムシャフト70及び排気弁用カムシャフト90に伝達するようにしている。
中継軸101は、シリンダブロック2に固定された回動軸102回りに回動するサポート103の先端に位置している。中継軸101には、第一タイミングプーリ104と第二タイミングプーリ105とが互いに同心状に連結されて取り付けられ、クランクシャフト100のタイミングプーリ106と中継軸101の第一タイミングプーリ104とが第一ベルト状部材107により連結されると共に、中継軸101の第二タイミングプーリ105と吸気弁用カムシャフト70の吸気弁用タイミングプーリ71及び排気弁用カムシャフト90の排気弁用タイミングプーリ91とが第二ベルト状部材108により連結される。
ここで、各タイミングプーリとベルト状部材と組合せは、歯車と歯付ベルトとの組合せとしても、スプロケットとチェーンとの組合せとしても良く、また、これらに限定されることなく、クランクシャフト100の回転角度が吸気弁用カムシャフト70及び排気弁用カムシャフト90とに正確に伝達される任意に組合せが使用可能である。
109は第二ベルト状部材108の吸気弁用タイミングプーリ71側を支持する第一スリッパであり、110は第二ベルト状部材108の排気弁用タイミングプーリ91側を支持する第二スリッパである。第二スリッパ110にはテンショナ111が接続されており、テンショナ111により第二スリッパ110を介して第二ベルト状部材108の張力が所望値に維持される。
中継軸101は、アーム112によってクランクシャフト100との距離が一定に維持されるようになっている。それにより、可変圧縮比機構Aの動作に伴ってシリンダブロック2がクランクケース1に対して移動しても、中継軸101は、クランクシャフト100との距離が一定に維持されると共に、第二ベルト状部材108の張力が所望値に維持されるように移動する。113は、第一ベルト状部材107の張力を所望値に維持するためのテンショナである。
吸気弁用カムシャフト70及び排気弁用カムシャフト90を短くするためには、第二ベルト状部材108を第一ベルト状部材107より機関本体側に位置させることが好ましい。そのためには、中継軸101において、第二タイミングプーリ105を第一タイミングプーリ104より機関本体側(内側)に位置させることとなる。
クランクシャフト100の二回転に対して吸気弁用カムシャフト70及び排気弁用カムシャフト90が一回転だけ駆動されるようにしなければならず、そのために、中継軸101において、第二タイミングプーリ105の歯数は、第一タイミングプーリ104の歯数の半分とされる。この場合には、第二タイミングプーリ105の外径は第一タイミングプーリ104の外径より小さくされる。
こうして、中継軸101には小径の第二タイミングプーリ105の手前側に大径の第一タイミングプーリ104が位置することとなると、そのままでは、第二ベルト状部材108の第二タイミングプーリ105への取り付けが困難となり、また、第二ベルト状部材108のタイミングマークと第二タイミングプーリ105のタイミングマークとの一致の確認も困難となる。
図11は、本実施例の動弁機構の中継軸101の概略断面図である。同図に示すように、中継軸101は、機関本体側に位置してクランクシャフト100との距離を一定に維持するための前述のアーム112の一端部に圧入(及び溶接)等により固定されている。アーム112の他端部は、アーム112がクランクシャフト100の中心軸線に対して回動するように取り付けられている。中継軸101の外面には、回転部材114がベアリング115を介して取り付けられている。また、回転部材114の外面には、前述した第一タイミングプーリ104及び第二タイミングプーリ105が回転しないように取り付けられる。
具体的には、回転部材114の外面先端側(機関本体側)には外ネジ部114aが形成され、この外ネジ部114aには、第二タイミングプーリ105に形成された内ネジ部が螺合するようになっている。また、図12に示すように、第一タイミングプーリ104は凹部104aを具備し、第二タイミングプーリ105は凸部105aを具備し、凹部104a及び凸部105aが互いに嵌合することにより第一タイミングプーリ104が第二タイミングプーリ105に対して中継軸の外側に位置決めされる。それにより、第一タイミングプーリ104は、回転部材114に対して回転しない第二タイミングプーリ105に連結されるために、回転部材114に対して回転しないようになっている。ここで、互いに嵌合する凹部及び凸部は、第一タイミングプーリ104が凸部を有して、第二タイミングプーリ105が凹部を有するようにしても良い。
また、回転部材114の外面中間部には嵌合部114bが形成され、この嵌合部114bには、第一タイミングプーリ104及び第二タイミングプーリ105が回転部材114に対して同心状に嵌め込まれる。
中継軸101の回転部材114の外側には、シリンダブロック2に固定された回動軸102回りに回動するサポート103の先端部が、ベアリング116を介して回動可能に取り付けられている。中継軸101の外側端面には、サポート103の先端部が中継軸101から外れるのを防止するために押えボルト117が取り付けられている。
112aは、アーム112に形成された油路であり、クランクケース1側に取り付けられるアーム112の基部からクランクケース1内の潤滑油が供給される。101aはアーム112の油路112aに連通する中継軸101の油路である。中継軸101の油路101aは、ベアリング115に形成された穴部に連通し、クランクケース1内の潤滑油は、ベアリング115の外側へ流出する。必要ならば、回転部材114及び第二タイミングプーリ105にも油路114d及び105dを形成することにより、これらの油路114d及び105dを通してベアリング115の外側へ流出した潤滑油を、第一タイミングプーリ104に取り付けられた第一ベルト状部材107及び第二タイミングプーリ105に取り付けられた第二ベルト状部材108へも供給することができる。
本実施例の中継軸101は、このような構成を有しており、第二ベルト状部材108が第二タイミングプーリ105へ取り付けられる間は、サポート103、回転部材114、及び、第一タイミングプーリ104は、中継軸101から外されるようになっている。すなわち、サポート103、回転部材114、及び、第一タイミングプーリ104を、中継軸101に取り付ける前に、第二ベルト状部材108を第二タイミングプーリ105へ取り付けるようになっている。
それにより、第二タイミングプーリ105の外径が第一タイミングプーリ104の外径より小さくされていても、第二ベルト状部材108を第二タイミングプーリ105へ容易に取り付けることができ、また、第二ベルト状部材108のタイミングマークと第二タイミングプーリ105のタイミングマークとの一致も容易に確認することができる。
こうして第二ベルト状部材108が第二タイミングプーリ105へ取り付けられれば、その後に、前述したように凹部104a及び凸部105aを互いに嵌合させて第一タイミングプーリ104を第二タイミングプーリ105に対して位置決めして連結させ、回転部材114の外ネジ部114aを第二タイミングプーリ105の内ネジ部へ螺合させることにより、第一タイミングプーリ104と第二タイミングプーリ105との回転タイミングがずれることなく、回転部材114のフランジ部114cと第二タイミングプーリ105との間に第一タイミングプーリ104を固定することができる。このような回転部材114のネジ込みを可能とするために、回転部材114のフランジ部114cの外形は、正六角形状のような正多角形状とされている。その後に、中継軸101にはサポート103が取り付けられ、中継軸101の外側端面には、押えボルト117が取り付けられる。
本実施例の動弁機構は、クランクシャフト100の回転を吸気弁用カムシャフト70及び排気弁用カムシャフト90へ伝達するものであるが、もちろん、クランクシャフト100の回転を吸気弁用カムシャフト70及び排気弁用カムシャフト90の少なくとも一方のカムシャフトへ伝達するものであっても良い。