以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るトノカバー装置35が搭載された車両(自動車)1の後部を示す。この車両1の後部(後席シート4の後側)には、荷室2が設けられている。荷室2の直前に設けられている後席シート4を含めてその前側は、乗員室3とされている。後席シート4は、シートクッション4aと、下端部が後述のフロアパネル21に不図示のブラケットを介して車幅方向に延びる軸回りに回動可能に支持されたシートバック4bと、このシートバック4bの上端に取り付けられたヘッドレスト4cとを有している。シートバック4bは、左右2つに2分割され(図2参照)、これらは互いに独立に回動可能であって、車両1の乗員が着座可能な起立状態と、シートクッション4a上に倒伏した倒伏状態との間を相互に回動する。尚、本明細書でいう前、後、左及び右は、それぞれ車両1の前、後、左及び右のことである。
車両1は、ハッチバックタイプであって、車両1の後面には、上記荷室2に連通するように後部開口部7(図6、図8及び図10参照)が設けられているとともに、該後部開口部7を開閉可能に覆うバックドア8が設けられている。このバックドア8は、その上端部に設けられたヒンジ軸9回りに回動可能に支持されている。このヒンジ軸9は、ルーフパネル10の後端部に設けられたリヤヘッダー11の後端部に車幅方向に延びるように支持されている。このようにバックドア8は、ヒンジ軸9回りの回動により、後部開口部7を開閉する。このバックドア8の開閉は車両1の乗員が手動で行うが、電動モータで駆動するものであってもよい。バックドア8は、上部にウインド開口8bを有する本体部8aと、該ウインド開口8bに設けられたウインドガラス8cと、本体部8aの荷室2側(前側)におけるウインド開口8bを除く部分に設けられたドアトリム8dとを有している。ドアトリム8dは、荷室2の後壁に相当し、荷室2を形成する部材の1つである。そして、バックドア8を開くことによって、荷室2が後部開口部7を通じて後方に開放され、乗員は、後部開口部7を通じて荷室2に対して荷物の出し入れを行うことができる。
荷室2の底壁(荷室フロア)は、フロアボード15で構成されている。このフロアボード15は上下2枚の樹脂製の板材で構成されている。そして、フロアボード15の下側には、スペアタイヤ17を収容する収容室16が配設されている。この収容室16は、乗員室3側から延びるフロアパネル21に下側に凹むように形成された凹部21aと、この凹部21aの開口を塞ぐように設けられた上記フロアボード15とで構成されている。フロアボード15は、前後方向の2箇所で折れ曲がるようになっていて、乗員がフロアボード15の後部を持ち上げて収容室16の上側を開放することが可能になっている。尚、スペアタイヤ17を搭載しない車両も存在し、このような車両では、乗員が収容室16に荷物を自由に積載することが可能である。例えば、後述の如く折り畳んだトノカバー36(図11参照)を収容室16に収容することも可能である。
上記収容室16の左右両側には、図示は省略するが、リヤサイドフレームが前後方向に延びており、フロアパネル21はこれら両リヤサイドフレーム上に支持固定されている。フロアパネル21の下面における収容室16と後席シート4との間の部分には、車幅方向に延びるクロスメンバー22が固定され、このクロスメンバー22の左右両端部は、上記両リヤサイドフレームにそれぞれ固定されている。また、収容室16の後側には、リヤバンパー25が配設されている。このリヤバンパー25のレインフォースメント25aが、上記左右のリヤサイドフレームに、該各リヤサイドフレームの後端に設けたクラッシュカン(図示せず)を介して固定されている。
フロアパネル21の後端部は、収容室16の底面の高さ位置から上昇してフロアボード15と略同じ高さ位置に位置していて、後部開口部7の下縁とされている。このフロアパネル21の後端部には、バックドア8の本体部8aの下端部に設けられた不図示のラッチ機構と係合するストライカー27が配設されている。このフロアパネル21の後端部及びその近傍部は、補強メンバ28により補強されている。尚、フロアパネル21の下側には、マフラー(収容室16の下側位置)や燃料タンク(後席シート4の下側位置)等が配設されるが、それらの記載は省略する。
荷室2の左右両側の側壁は、左右の側壁トリム31でそれぞれ構成されている。各側壁トリム31における上記閉状態のバックドア8のウインド開口8bの下縁と略同じ高さ位置(起立状態にある後席シート4のシートバック4bの上端と略同じ高さ位置でもある)には、段差部31a(図2、図3等参照)が前後方向に延びるように形成されており、側壁トリム31における段差部31aよりも下側部分が上側部分よりも車幅方向内側(荷室2側)に突出している。各側壁トリム31における段差部31aの前部の前後2箇所には、後述のトノカバー36を支持するための前側及び後側支持溝31b,31cがそれぞれ形成されている(図2及び図3参照)。
フロアボード15(荷室フロア)の上方(荷室2の上下方向中間部)には、トノカバー装置35のトノカバー36が、起立状態にある後席シート4のシートバック4bの上端の直後から閉状態のバックドア8のウインド開口8bの下縁の直前に亘って、略水平状態で延びるように設けられている。このトノカバー36は、フロアボード15上に置かれた荷物が、車外からウインド開口8b(ウインドガラス8c)を通して見えないようにするためのものである。このような観点から、トノカバー36は、通常、閉状態のバックドア8のウインド開口8bの下縁と略同じ高さ位置又はそれよりも低い高さ位置に設けられる。本実施形態では、トノカバー36の使用時に、出来る限り背の高い荷物を積載できるように、トノカバー36を閉状態のバックドア8のウインド開口8bの下縁と略同じ高さ位置に設けている。
図2、図4及び図5に示すように、トノカバー36は、前後にそれぞれ位置する前側ボード37と後側ボード38とで構成されている。前側ボード37の後端と後側ボード38の前端とは、車幅方向に延びる軸回りに互いに回動可能に連結されている。すなわち、前側ボード37の後端と後側ボード38の前端とが2つのヒンジ部材41を介して連結されている。各ヒンジ部材41は、車幅方向に延びる回動軸41c回りに互いに回動可能に構成された2枚の回動片41a,41bを有し、一方の回動片41aが前側ボード37(後述の後側分割部37b)の下面の後端部にねじ42により固定され、他方の回動片41bが後側ボード38の下面の前端部にねじ42により固定されて、前側ボード37と後側ボード38とが回動軸41c回りに互いに相対回動可能になっている(2つのヒンジ部材41の回動軸41cは同一直線上に位置している)。尚、後側ボード38の上面における車幅方向中央でかつ後端の近傍には、乗員が指を引っ掛けることが可能な凹部39が形成されているが、通常の使用では、乗員がトノカバー36を操作する必要はない。
上記各ヒンジ部材41における回動軸41cの周囲(つまり、前側ボード37の後端と後側ボード38の前端との連結部)には、捩りコイルスプリング43が配設されており、該捩りコイルスプリング43により、後側ボード38は、前側ボード37に対して、回動軸41c回りに図1及び図5で反時計回りに回動するように付勢されている。前側ボード37が略水平状態にあるとき、後側ボード38の前端面が前側ボード37の後端面に当接して、これ以上、後側ボード38は前側ボード37に対して回動することができず、後側ボード38も略水平状態となる。但し、厳密には、後側ボード38は、後方に向かって下側に僅かに傾斜している。以下、前側ボード37(後述の後側分割部37b)及び後側ボード38が略水平状態にあるときを、それぞれ初期状態という。
また、後側ボード38は、捩りコイルスプリング43の付勢力に抗して、回動軸41c回りに図1及び図5で時計回りに回動することができ、これにより、前側ボード37及び後側ボード38における初期状態にあるときの下面に相当する面同士を接触させることができる。
上記前側ボード37は、前側分割部37aと後側分割部37bとに2分割され、前側分割部37aの後端と後側分割部37bの前端とが、上記ヒンジ部材41と同様の3つのヒンジ部材45を介して、車幅方向に延びる軸回りに互いに回動可能に連結されている。すなわち、各ヒンジ部材45の2枚の回動片45a,45bが、前側分割部37aの上面の後端部及び後側分割部37bの上面の前端部にそれぞれねじ46により固定されて、前側分割部37aと後側分割部37bとが、各ヒンジ部材45の回動軸45c回りに互いに相対回動可能になっている(全てのヒンジ部材45の車幅方向に延びる回動軸45cは同一直線上に位置している)。これにより、後側分割部37bは、前側分割部37aに対して、回動軸45c回りに、図1及び図5で反時計回りに回動可能であり、後側分割部37bの後端が後側分割部37bの前端に対して上方に移動することが可能になっている。前側分割部37aが略水平状態にあるとき、後側分割部37bは、該後側分割部37bの自重により、回動軸45c回りに図1及び図5で時計回りに回動しようとするが、後側分割部37bの前端面が前側分割部37aの後端面に当接して、後側分割部37bは前側分割部37aに対して回動することはできず、後側分割部37bも略水平状態となる。
上記前側ボード37の前側分割部37aにおける左右両側の側面の前端部及び後端部には、前側支持軸48及び後側支持軸49が車幅方向外側に突出するようにそれぞれ形成されている。各前側支持軸48は、各側壁トリム31の段差部31aに形成された前側支持溝31bに嵌め込まれ、各後側支持軸49は、段差部31aに形成された後側支持溝31cに嵌め込まれている。
図3に示すように、前側支持溝31bは、段差部31aの上面から下側に凹みかつ段差部31aの上面及び車幅方向内側の面に開放されている。前側支持溝31bの前後方向の長さは、前側支持軸48の径と略同じである。後側支持溝31cは、段差部31aの上面から下側に凹む上下スライド部31dと、上下スライド部31dの下部から後側に連続して凹む前後スライド部31dとからなる。上下スライド部31dは、前側支持溝31bと同様の形状であって、段差部31aの上面及び車幅方向内側の面に開放されている。前後スライド部31dは、車幅方向内側の面にのみ開放されており、上下方向の長さは、後側支持軸49の径と略同じである。このため、後側支持軸49は、前後スライド部31dに位置しているときには、前後方向にスライド可能であるが、上下方向には移動できない。そして、前側支持軸48が前側支持溝31bに嵌め込まれている状態では、後側支持軸49は前後スライド部31dの後端部に位置する。この状態では、前側ボード37自体が前後方向に移動できないので、後側支持軸49は上下方向にも前後方向にも移動できない。このため、後述の如く乗員が前側分割部37aの前側部分を持ち上げて前側支持軸48を前側支持溝31bから外さない限り、前側分割部37aは、段差部31aに支持固定された状態となる。
上記のように前側分割部37aが段差部31aに支持固定された状態では、前側分割部37aは略水平状態にあり、これにより、上記の如く、後側分割部37bも略水平状態になり、この結果、前側ボード37は略水平の初期状態にある。また、後側ボード38も、上記の如く、略水平の初期状態にある。こうしてトノカバー36全体が、前側及び後側支持軸48を介して段差部31aに略水平に支持されることになる。
上記トノカバー装置35は、バックドア8の開動作時に、前側ボード37を、上記初期状態から、該前側ボード37の後端が該前側ボード37の前端に対して上方に移動するように移動させるとともに、バックドア8の閉動作時に、上記後端が上方移動した前側ボード37を、上記初期状態に復帰移動させる前側ボード移動機構51を備えている。この前側ボード移動機構51は、バックドア8の開動作に連動して、前側ボード37を、上記初期状態から、該前側ボード37の後端が後部開口部7よりも前方に位置しながら該前側ボード37の前端に対して上方に移動するように移動させるとともに、バックドア8の閉動作に連動して、前側ボード37を上記初期状態に復帰移動させるよう構成されている。ここで、本実施形態では、前側ボード37の前側分割部37aの段差部31aに対する上記支持構成により、前側分割部37aは、上記前側ボード移動機構51の作動に関係なく略水平状態を保持し、後側分割部37bが上記前側ボード移動機構51により移動するようになっている。
具体的に、前側ボード移動機構51は、一端が前側ボード37に連結された2つの連動ワイヤ52を有している。これら2つの連動ワイヤ52の一端は、前側ボード37の後側分割部37bにおける後端近傍でかつ左右両側の端の近傍にそれぞれ連結されている。後側分割部37bにおける連動ワイヤ52の連結箇所には、厚み方向に貫通するワイヤ取付孔54が形成されている。ワイヤ取付孔54は、その長手方向中間に形成された中間部54aと、中間部54aの下側に形成され、中間部54aの径よりも大径の大径部54bと、中間部54aの上側に形成された、上側に向かって径が大きくなるテーパ部54cとを有する。連動ワイヤ52の一端には、中間部54aよりも大径でかつ大径部54bよりも小径の固定部材55が固定され、この固定部材55が中間部54aと大径部54bとの境界部に固定されている。尚、大径部54bには、後側分割部37bの下面側から蓋部材56が嵌め込まれて、大径部54bや固定部材55等が見えないようになされている。
上記2つの連動ワイヤ52は、固定部材55から上側に延び、中間部54a及びテーパ部54cを通って後側分割部37bの上面側に抜け、そこから上側かつ後側に延びて、その他端は、バックドア8のドアトリム8dにおけるウインド開口8cの左右両側の側縁部にそれぞれ連結されている。すなわち、バックドア8のドアトリム8dにおけるウインド開口8cの左右両側の側縁部(ウインド開口8cの上下方向中央よりも僅かに上側の位置)には、連動ワイヤ52の、輪状に形成された他端を引っ掛けて連結するための連結ピン59がそれぞれ車幅方向内側に突出形成されている。この各連結ピン59の先端は、他の部分よりも大径に形成されて、各連動ワイヤ59の他端が各連結ピン59から抜け難いようになされている。
バックドア8が全閉状態にあるときには、連動ワイヤ52が弛んでいて、前側ボード37は初期状態にある(図1参照)。そして、バックドア8の開動作に伴い、連結ピン59の位置が上昇して、やがて連動ワイヤ52に張力が生じた状態になる。この状態から、更にバックドア8を開けると、前側ボード37の後端(後側分割部37bの後端)が、連動ワイヤ52によって引き上げられ、前側ボード37の後端(後側分割部37bの後端)が前側ボード37の前端(前側分割部37aの全体及び後側分割部37bの前端)に対して上方に移動する(図6及び図7参照)。すなわち、後側分割部37bがヒンジ部材45の回動軸45c回りに図6及び図7で反時計回りに回動する。この後側分割部37bの回動時に、後側分割部37bの後端(前側ボード37の後端)は、上昇するに連れて前側へ移動するので、後部開口部7よりも前方に位置して、後部開口部7から荷室2外側(車外)には突出しない。バックドア8の全開状態で、後側分割部37bの回動角度(後側分割部37bの後端の上方移動量)が最大となり(後側分割部37bの初期状態からの最大回動角度は、90°よりも小さい)、後側分割部37bは、車両側面視で、後方に向かって上側に傾斜した状態になっている(図8〜図10参照)。尚、後側分割部37bの回動時に、連動ワイヤ52は、ワイヤ取付孔54の上側に出たところで90°近く曲げられることになるが、上記テーパ部54cにより、滑らかに曲がるようになっている。
バックドア8が全開状態から閉じられていくと、後側分割部37bが、連動ワイヤ52による引上げ力と釣り合いながら、後側分割部37bの自重により、回動軸45c回りに図8及び図9で時計回りに回動して、後側分割部37bの後端が下降する。そして、バックドア8が全閉状態になると、後側分割部37bが略水平状態になる、つまり前側ボード37が初期状態に復帰することになる。
また、上記トノカバー装置35は、上記前側ボード移動機構51に加えて、該前側ボード移動機構51による前側ボード37の上記移動(後側分割部37bの後端の上方移動)に伴って、後側ボード38を、上記初期状態から、上記回動軸41c回りに回動させることで、後部開口部7よりも前側の荷室2内に引き込む引込み機構61も備えている。この引込み機構61は、後側ボード38を、該後側ボード38の後端が、前側ボード37の上方移動する上記後端に対して前方に移動するように移動させるよう構成されている。
具体的に、引込み機構61は、一端が後側ボード38に連結された2つの引込みワイヤ62を有している。これら2つの引込みワイヤ62は、後側ボード38における前端近傍でかつ左右両側の端の近傍にそれぞれ連結されている。後側ボード38における引込みワイヤ62の連結箇所にも、後側分割部37bにおける連動ワイヤ52の連結箇所と同様のワイヤ取付孔54が形成されている。但し、後側ボード38のワイヤ取付孔54は、後側分割部37bのワイヤ取付孔54とは、上下関係が逆になっている(大径部54bが中間部54aの上側に位置し、テーパ部54cが中間部54aの下側に位置し、蓋部材56が後側ボード38の側から嵌め込まれている)。それ以外のワイヤ連結構成は、後側分割部37bと同様である。
上記2つの引込みワイヤ62は、固定部材55から下側に延び、中間部54a及びテーパ部54cを通って後側ボード38の下面側に抜け、そこから下側かつ前側に延びて、その他端は、左右の側壁トリム31(荷室を形成する部材)における後側ボード38よりも前側部分(本実施形態では、後側支持軸49の略真下の位置)にそれぞれ連結されている。すなわち、側壁トリム31における後側支持軸49の略真下の位置には、引込みワイヤ62の、輪状に形成された他端を引っ掛けて連結するための連結ピン65がそれぞれ車幅方向内側に突出形成されている。この各連結ピン65の先端は、上記連動ワイヤ52の他端を連結するための連結ピン59と同様に、他の部分よりも大径に形成されて、各引込みワイヤ62の他端が各連結ピン65から抜け難いようになされている。
バックドア8が全閉状態にあって前側ボード37が初期状態にあるときには、引込みワイヤ62が弛んでいて、後側ボード38は、捩りコイルスプリング43により初期状態にある(図1参照)。そして、前側ボード37の後端(後側分割部37bの後端)の上昇に伴い、後側ボード38における前端及び引込みワイヤ62の連結箇所が上昇すると、やがて引込みワイヤ62に張力が生じた状態になる。この状態から、更に前側ボード37の後端が上昇すると、後側ボード38が、引込みワイヤ62によって前側に引っ張られて、捩りコイルスプリング43の付勢力に抗して、回動軸41cの回りに図6及び図7で時計回りに回動する。つまり、後側ボード38の後端が前側ボード37(後側分割部37b)の後端に対して前方に移動する。ここで、後部開口部7は、上側に向かって前側に傾斜しているため、後側ボード38が上記のように回動しなければ、図6に二点鎖線で示すように、前側ボード37の後端の上昇に伴って、後側ボード38も上昇して、後側ボード38の後端部が後部開口部7から荷室2外側(車外)に突出することになる。しかし、本実施形態では、引込みワイヤ62の作用により、後側ボード38が後部開口部7よりも前側の荷室2内に引き込まれることで、前側ボード37に加えて、後側ボード38も荷室2外側に突出することはない。
後側分割部37bの後端が更に上昇すると、後側ボード38の後端(初期状態の後端)が前側ボード37の後端(後側分割部37bの後端)よりも前側に移動し、バックドア8が全開状態となって後側分割部37bの後端の上方移動量が最大になったときには、前側ボード37及び後側ボード38における初期状態にあるときの下面に相当する面同士が接触する(本実施形態では、前側ボード37と後側ボード38との間に引込みワイヤ62が介在するので、上記面同士が引込みワイヤ62を介して接触する)。つまり、後側ボード38が後側分割部37bと厚み方向に重なった状態(後側ボード38が後側分割部37bに沿った状態)になる(図8及び図9参照)。これにより、荷室2におけるトノカバー36よりも下側部分の後側開口の上下方向の長さ(つまり荷室2におけるトノカバー36よりも下側部分の後側開口面積)を最大限に確保することができる。すなわち、仮に図6の状態がバックドア8の全開状態であるとすると、後側ボード38の後端が前側ボード37の後端よりも後側に位置しているために、上記後側開口の上下方向の長さはL′であり、かなり短い(後側開口面積が小さい)。これに対し、図8に示すように、後側ボード38が後側分割部37bと厚み方向に重なった状態になれば、上記後側開口の上下方向の長さは、L′よりも大きいLとなり、後側開口面積を大きくすることができる。
尚、バックドア8の全開状態において、前側ボード37及び後側ボード38における初期状態にあるときの下面に相当する面同士が接触する必要は必ずしもなく、後側ボード38の後端(初期状態の後端)が前側ボード37の後端よりも前側に位置していればよい。この場合でも、上記後側開口の上下方向の長さ(後側開口面積)がLに近い値になり、後側開口面積を十分に確保することができる。
バックドア8が全開状態から閉じられると、上記の如く前側ボード37は初期状態へ復帰移動する(後側分割部37bの後端が下降する)が、この復帰移動に伴って、後側ボード38が、引込みワイヤ62による引張力と釣り合いながら、捩りコイルスプリング43の付勢力により、回動軸41c回りに図8及び図9で反時計回りに回動して、後側ボード38の後端が後方に移動する。そして、バックドア8が全閉状態になると、前側ボード37が初期状態に復帰することに伴って、後側ボード38が初期状態に復帰することになる。このことで、捩りコイルスプリング43は、前側ボード37の初期状態への復帰移動に伴って、後側ボード38を初期状態に復帰移動させる復帰手段を構成することになる。
本実施形態では、前後方向において前側ボード37の前側分割部37a及び後側分割部37b並びに後側ボード38に略均等に3分割されている。これは、トノカバー36を外したときに、コンパクトに収納できるようにするためである。すなわち、トノカバー36は、左右の側壁トリム31(荷室を形成する部材)の段差部31aに対して着脱可能に取り付けられており、乗員が必要に応じて、トノカバー36を外したり取り付けたりすることができる。例えば、フロアボード15に置いた荷物の上端の高さ位置が、初期状態にある前側ボード37及び後側ボード38の高さ位置よりも高い場合には、トノカバー36を段差部31aから外しておく。
トノカバー36を段差部31aから外すには、先ず、前側ボード37の前側分割部37aの前側部分を持ち上げて前側支持軸48を前側支持溝31bから外し、その後、前側分割部37a(トノカバー36全体)を前側に移動させることで、後側支持軸49を後側支持溝31cの前後スライド部31eの後端部からその前側の上下スライド部31dの下部まで移動させる。そして、前側分割部37bの後側部分を持ち上げることで、後側支持軸49を上下スライド部31dの上側へ移動させて後側支持溝31cから外す。また、連動ワイヤ52及び引込みワイヤ62をそれぞれ連結ピン59,65から外す。こうしてトノカバー36を外すことができる。
こうして外したトノカバー36を、図11に示すように、前側ボード37の前側分割部37a及び後側分割部37b並びに後側ボード38がその厚み方向に互いに重なるように折り畳む。このとき、捩りコイルスプリング43により後側ボード38が回動して展開しないように、折り畳んだトノカバー36に連動ワイヤ52及び引込みワイヤ62を巻き付けて固定する(図11では、連動ワイヤ52及び引込みワイヤ62を省略している)。或いは、折り畳んだトノカバー36を、後側ボード38が下側になるようにして、フロアボード15等の上に置けば、前側ボード37の自重により後側ボード38が展開しなくなる。
一方、トノカバー36を段差部31aに取り付けるには、前側ボード37の前側分割部37aの後側支持軸49を、後側支持溝31cの上下スライド部31dに嵌めてそこから前後スライド部31eの後端部まで移動させ、その後、前側支持軸48を前側支持溝31bに嵌める。また、連動ワイヤ52及び引込みワイヤ62をそれぞれ連結ピン59,65に取り付ける。こうしてトノカバー36の取付けが完了する。
上記前側ボード37の前側分割部37a及び後側分割部37bは、上から順にビニール層、ハード層(例えばポリカーボネート等の樹脂からなる)及び不織布層が厚み方向に積層されてなるものであり(図面では、便宜上、1層で記載している)、ボード厚みは約10mmである。上記ハード層の厚みが比較的厚いので、前側ボード37(前側分割部37a及び後側分割部37b)は、可撓性を有していない。
これに対し、後側ボード38は、可撓性を有している。本実施形態では、後側ボード38も前側ボード37と同じ材料からなる3層で構成されているが、後側ボード38のハード層の厚みを前側ボード37のハード層の厚みよりも薄くして、後側ボード38が可撓性を有するようにしている。そして、後側ボード38のハード層の厚みを薄くした分だけ、ビニール層及び不織布層の少なくとも一方の厚みを厚くして、後側ボード38の厚みを前側ボード37の厚みと同じ(約10mm)にしている。尚、後側ボード38のハード層の厚みを前側ボード37のハード層の厚みよりも薄くしかつ他の層の厚みを前側ボード37と同じにして、後側ボード38の厚みを前側ボード37の厚みよりも薄くしてもよい。或いは、後側ボード38の各層の厚みを前側ボード37と同じにして、後側ボード38のハード層の材料を前側ボード37のハード層とは異なる材料(曲がり易い材料)にしてもよい。また、前側ボード37及び後側ボード38は、上記3層構成には限られない。
このように後側ボード38が可撓性を有することで、図12に示すように、後側ボード38の後部が、荷室2に積載されている荷物70(例えば、フロアボード15に置いたときに上端の高さ位置が、初期状態にある後側ボード38の高さ位置よりも僅かに低いような荷物)に当接したとしても、後側ボード38が湾曲しながら移動することができ、後側ボード38と荷物70との干渉により生じる不具合を回避することができる。
したがって、本実施形態では、バックドア8の開閉動作時及び全開時に、後側分割部37bの後端(前側ボード37の後端)が後部開口部7から荷室2外側(車外)に突出することはなく、また、後側ボード38が、荷室2内に引き込まれて、荷室2外側に突出することはない。そして、バックドア8の全開状態において、後側ボード38が後側分割部37bと厚み方向に重なった状態になるので、荷室2におけるトノカバー36よりも下側部分の後側開口面積を最大限に確保することができ、後側ボード38が荷室2に対する荷物の出し入れの邪魔になるのを極力抑えることができる。さらに、前側ボード及び後側ボードの移動は、バックドア8の開閉動作に連動して行われるので、乗員はバックドア8を開閉するだけで済み、トノカバー36を操作する必要はない。よって、車両1の乗員が荷室2に対して後部開口部7を通して荷物の出し入れを容易に行うことができる。
また、トノカバー36がボードで構成されているとともに、連動ワイヤ52及び引込みワイヤ62並びに捩りコイルスプリング43により、前側ボード37の後側分割部37b及び後側ボード38を移動させるので、簡単にかつ低コストでトノカバー装置35を構成することができる。特に、バックドア8の開動作に連動して布製のトノカバーを巻き取る方式に比べて、高価な巻取装置をなくすことができる点で有利である。
尚、上記実施形態では、前側ボード移動機構51及び引込み機構61をそれぞれワイヤで構成したが、ワイヤに代えて、例えばリンク機構やギヤ等で構成してもよい。また、リンク機構やギヤを用いて、前側ボード37及び後側ボード38を1つの電動モータで駆動するようにしてもよい。この場合、その電動モータが、捩りコイルスプリング43(復帰手段)の役目も果たすので、捩りコイルスプリング43は不要になる。上記電動モータは、バックドア8が電動式である場合に該バックドア8を駆動する電動モータと同じものであってもよく、別のものであってもよい。