JP5564342B2 - 水系速乾性組成物及び速乾性塗料組成物 - Google Patents

水系速乾性組成物及び速乾性塗料組成物 Download PDF

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Description

本発明は、水系速乾性組成物、及びこれを用いた速乾性塗料組成物に関する。
近年、自然や人間環境への負担低減の面から、溶剤系塗料の水系化が強く望まれている。しかし、通常、水系塗料は溶剤系塗料に比べ、常温はもとより、特に低温での乾燥性に劣るという大きな欠点があるため、使用上の制約が多い。そこで、水系塗料に速乾性を付与するため、使用用途にあった様々な改良手段が提案されている。例えば、路面表示用塗料、フロアーポリッシュ、印刷インキ等の用途において、揮発性塩基を用い、pHが変化することによるアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとのイオンコンプレックスを利用したものが数多く提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。これらの速乾システムは揮発性塩基が必須であり、作業時の臭気が強く、さらに、塗布した塗料表面からゲル化が進行するため、厚膜塗布した場合、塗料表層のみが膜形成し、塗料中間層のゲル化が大幅に遅延する問題がある。
上記問題を解決すべく、路面に塗布した塗料上に、水と反応し発熱する無機物を散布する方法が提案されており(例えば、特許文献4を参照)、また、水に不溶でアルカリ水溶液に可溶である金属化合物水溶液を塗布した塗料上に散布する方法が提案されている(例えば、特許文献5を参照)。しかし、これらは塗膜表面を完全に覆う必要があり、さらに、散布する作業工程が増すため、作業性に難がある。
その他にも、硬化反応を利用して水系塗料に速乾性、速硬性を付与する方法が数多く提案されている、例えば、アミノ化合物とポリイソシアネートの架橋反応(例えば、特許文献6参照)、エポキシ樹脂とポリアミンの架橋反応(例えば、特許文献7参照)、カルボニル基含有ポリマーとヒドラジン化合物の架橋反応(例えば、特許文献8参照)、アクリロイル基含有ポリマーと過酸化物のラジカル反応(例えば、特許文献9参照)、アルミナセメントの水和反応(例えば、特許文献10参照)などを利用した方法が提案されている。しかし、これらは常温では十分な速乾性を示すものの、低温では反応速度が急激に低下する。促進剤を使用して反応速度を促進することも可能であるが、水分を内包したまま架橋するため、硬度の発現が遅延する場合がある。また、十分なポットライフ得ることも困難である。
ところで、近年の環境問題に対応して、作業時に臭気を発生せず、耐摩耗性および耐水性に優れる舗装用水系バインダー組成物を提供する目的で、水溶性または水分散性ポリエステルを保護コロイドとする合成樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする舗装用水系バインダー組成物(特許文献11)が提案されている。この組成物は耐摩耗性に優れ、常温での乾燥性にも優れる。しかし、この組成物もまた、低温では大きく乾燥性が低下する。
特開2002−309158号公報 特開2004−168998号公報 特開2001−329182号公報 特開2004−244467号公報 特開2008−7745号公報 特開2003−96154号公報 特表2004−532288号公報 特開平05−59305号公報 特開2001−163935号公報 特開2006−327899号公報 特開2009−215831号公報
従って、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、さらに、水系塗料の欠点である低温での速乾性、耐摩耗性に優れる水系速乾性組成物及びこれを用いた速乾性塗料組成物を提供することを目的とする。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、水性媒体中、1種または2種以上の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルを保護コロイドとして用いて、エチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる合成樹脂エマルジョンであって、水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの一部またはすべてがガラス転移温度75℃〜150℃の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルである合成樹脂エマルジョンを用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、水性媒体中、1種または2種以上の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルを保護コロイドとして用いて、エチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含有する水系速乾性組成物であって、水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの一部またはすべてがガラス転移温度75℃〜150℃の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルであることを特徴とする水系速乾性組成物に関する。
本発明のエチレン性不飽和単量体組成物を重合して得られる合成樹脂は、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体または(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。
本発明の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの使用量は、エチレン性不飽和単量体組成物の総量に対して5質量%〜70質量%の範囲であることが好ましい。
本発明のガラス転移温度75℃〜150℃の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの使用量は、保護コロイドとして用いる水分散性ポリエステル及び水溶性ポリエステルの総量に対して、30質量%〜100質量%の範囲であることが好ましい。
また、本発明は水系速乾性組成物を用いた速乾性塗料組成物に関する。
本発明によれば、作業時に臭気を発生せず、環境に優しく、特に低温での速乾性、耐摩耗性に優れる水系速乾性組成物及びこれを用いた速乾性塗料組成物を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明による水系速乾性組成物は、1種または2種以上の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルを保護コロイドとして用いて、エチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含有する水系速乾性組成物であって、水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの一部またはすべてがガラス転移温度75℃〜150℃であることを特徴とするものである。
保護コロイドとして用いる水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステル(ガラス転移温度が75℃〜150℃の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルだけでなく、ガラス転移温度が75℃〜150℃の範囲外のものも含む)の使用量としては、エチレン性不飽和単量体組成物の総量に対して5質量%〜70質量%の範囲であることが好ましく、10質量%〜50質量%の範囲であることがより好ましい。水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルが5質量%未満の場合は、乾燥時の塗膜の硬度の立ち上がりが遅く速乾性が得られず、また、乾燥後でも十分な耐摩耗性が得られない場合がある。70質量%を超える場合は、耐水性が低下する場合がある。
本発明では、合成樹脂エマルジョンの乳化重合の際に保護コロイドとして用いられる水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルに、ガラス転移温度が75℃〜150℃である水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルが含まれる。この水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルのガラス転移温度は、90℃〜150℃の範囲であることがより好ましい。水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルは、保護コロイドとして合成樹脂エマルジョンの粒子表面に存在するため、成膜時に高ガラス転移温度を有するポリエステル成分が塗膜表面により多く存在することとなり、乾燥時の硬度の立ち上がりが速くなると推測される。また、合成樹脂エマルジョンの粒子が完全融着するまでの間、粒子と粒子の間にポリエステル成分が偏在して水の通り道を形成することで、水分の揮発を促進していると推測される。ガラス転移温度が75℃未満の場合は、乾燥時の塗膜の硬度の立ち上がりが遅く速乾性が得られず、また、乾燥後でも十分な耐摩耗性が得られない場合がある。ガラス転移温度が150℃を超える場合は、安定な合成樹脂エマルジョンを得られない。
ガラス転移温度が75℃〜150℃の範囲の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルは、保護コロイドとして用いる水分散性ポリエステル及び水溶性ポリエステルの総量に対して、30質量%〜100質量%の範囲であることが好ましく、50質量%〜100質量%の範囲であることがより好ましい。30質量%未満の場合は、乾燥時の塗膜の硬度の立ち上がりが遅く速乾性が得られない傾向にある。
合成樹脂エマルジョンの不揮発分は、30質量%〜65質量%の範囲であることが好ましい。不揮発分が30質量%未満の場合は、乾燥性が遅くなるため好ましくない。不揮発分が65質量%を超える場合は、乳化重合の重合安定性が低下する場合がある。
本発明におけるこの合成樹脂エマルジョンは、水性媒体中、水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの存在下で、エチレン性不飽和単量体組成物をラジカル重合することで得られる。本発明において使用するエチレン性不飽和単量体としては、少なくとも1個の重合可能なビニル基を有するものであればよく、例えば、直鎖状、分岐状または環状のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルアミノ(メタ)アクリレート、酢酸ビニルやアルカン酸ビニルに代表されるビニルエステル類、モノオレフィン類(エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等)、共役ジオレフィン類(ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等)、α,β−不飽和モノあるいはジカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等)、アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、アクロレインやダイアセトンアクリルアミド等のカルボニル基含有エチレン性不飽和単量体、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体が挙げられる。これらのエチレン性不飽和単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ラジカル重合の容易さや水系速乾性組成物の耐水性をより向上させるという点で、メチルメタクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびスチレンが好ましい。すなわち、合成樹脂としては、これらのエチレン性不飽和単量体を用いて得られるスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体または(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの使用量としては、エチレン性不飽和単量体組成物の総量に対して、0.1質量%〜10.0質量%であることが好ましい。ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの使用量がエチレン不飽和単量体に対して、0.1質量%より少なくなると、エチレン性不飽和単量体の共重合物と水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの相溶性が低下し、重合安定性が低下する場合がある。10.0質量%より多くなると耐水性が低下する傾向にある。
また、必要に応じて、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、ビニルトリエトキシシランやγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性アルコキシシリル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物、多官能ビニル化合物(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート等)等の架橋性モノマーを共重合体に導入し、それ自身同士を架橋させるか、もしくは活性水素基を持つエチレン性不飽和化合物成分と組み合わせて架橋させる、またはカルボニル基含有α,β−エチレン性不飽和化合物(特にケト基含有のものに限る)等の架橋性モノマーを共重合体に導入し、ポリヒドラジン化合物(特に2つ以上のヒドラジド基を有する化合物;シュウ酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド等)と組み合わせて架橋させてもよい。このように共重合体に架橋性モノマーを導入することで、水系速乾性組成物の耐磨耗性を向上させることができる。これらの中でも、無機質基材への密着性が向上する点でγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。架橋性モノマーの使用量としては、エチレン性不飽和単量体組成物の総量に対して、0.01質量%〜10.0質量%であることが好ましい。架橋性モノマーの使用量がエチレン不飽和単量体に対して、0.01質量%より少なくなると、耐溶剤性が低下する場合があり、10.0質量%より多くなると、合成樹脂エマルジョンの重合安定性が低下する傾向にある。
本発明において使用する水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルは、多塩基酸とポリオールとを重合した重合体を中和して得られる公知のものである。ここで、水分散性ポリエステルとは、ポリエステルの分子内に疎水性の部分(疎水性部分)と親水性の部分(親水性部分)を持つもので、水中において疎水性部分の周りを親水性部分が取り囲む形で粒子となり、安定に分散するものをいう。ここで、水溶性ポリエステルとは、23℃で水に完全に溶けるものをいう。
多塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタリンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノール等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、ポリエステルの水分散性、水溶性を更に向上させるために、カルボキシル基、スルホン酸基等の親水性基を有する重合成分を共重合させてもよい。これらの重合成分の具体例として、カルボキシル基をポリエステル分子内に導入するためには、例えば、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、トリメシン酸等を重合成分の一部に用い、得られた重合体をアミノ化合物、アンモニア、アルカリ金属塩等で中和すればよい。なかでも、水分散性の点で、(無水)トリメリット酸が好ましい。
また、スルホン酸基をポリエステル分子内に導入するには、例えば、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸又はこれらのエステル化合物(メチルエステル等)などのアルカリ金属塩やアンモニウム塩を重合成分の一部に用いればよい。なかでも、水分散性の点で、5−スルホイソフタル酸、5−スルホイソフタル酸1,3−ジメチルが好ましい。
本発明で用いる、水分散性ポリエステルとしては、市販の水分散性ポリエステル、または、その水分散体をそのまま使用してもよく、例えば、プラスコートZ−730、Z−561、Z−880、Z−687およびRZ−142(互応化学工業株式会社製)、ペスレジンA−110、A−210およびA−620(高松油脂株式会社製)、バイロナール(登録商標)MD−1200、MD−1220、MD−1250、MD−1335、MD−1400、MD−1480およびMD−1500(東洋紡績株式会社製)等が挙げられる。中でも、ガラス転移温度が75〜150℃の水分散性ポリエステルとしては、プラスコートZ−687(ガラス転移温度110℃)、バイロナールMD−1500(ガラス転移温度77℃)が挙げられる。
先に述べたように、本発明における合成樹脂エマルジョンは、水性媒体中、水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの存在下で、エチレン性不飽和単量体組成物をラジカル重合することで得られる。重合反応は、常圧反応器または耐圧反応器を用い、バッチ式、半連続式、連続式のいずれかの方法で行われる。反応温度は、通常、10℃〜100℃で行われるが、30℃〜90℃が一般的である。反応時間は、特に制限されることはなく、各成分の配合量および反応温度などに応じて適宜調整すればよい。ラジカル重合する際、保護コロイドである水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルがエマルジョン粒子の安定性に寄与するが、必要に応じてアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、反応性乳化剤等を重合系内に添加してもよい。乳化剤の種類や使用量は、水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの使用量、エチレン性不飽和単量体の組成をはじめとした種々の条件に応じて適宜調節すればよい。
このようなラジカル重合反応に使用する乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル等のアニオン性乳化剤が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、得られる水系速乾性組成物の耐水性を損なわない範囲で、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子を使用してもよい。
水性媒体としては、水または水と水溶性溶媒の混合溶媒が挙げられる。混合溶媒中での水溶性溶媒の比率は0〜30質量%が好ましい。水溶性溶媒の比率が30質量%を超えると、合成樹脂エマルジョンの重合安定性を著しく低下させる傾向にある。水溶性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
ラジカル重合に際して使用される重合開始剤としては、公知慣用のものであればよく、例えば、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。また、必要に応じて、これらの重合開始剤をナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、アスコルビン酸類、亜硫酸塩類、酒石酸またはその塩類等と組み合わせてレドックス重合としてもよい。また、必要に応じて、アルコール類、メルカプタン類等の連鎖移動剤を使用してもよい。
本発明の水系速乾性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ウレタン系樹脂等の樹脂成分、イソシアネート系架橋剤、シランカップリング剤、粘性改良剤、着色剤、ブロッキング防止剤、消泡剤、防腐剤、成膜助剤等の各種添加剤および、炭酸カルシウム、酸化チタン、着色骨材、珪砂、セメント、遮熱顔料、中空バルーン等の無機物を混和して使用することも可能である。なかでも、炭酸カルシウム、酸化チタン、珪砂を使用することが、塗膜硬度、着色性の点から好ましい。水系速乾性組成物中に含まれる無機物は、合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、10質量部〜300質量部であることが好ましい。無機物の量が合成樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、10質量部より少ないと、隠ぺい性、塗膜硬度が不十分となる場合があり、300質量部より多いと、無機物混和時の安定性が低下する場合がある。
本発明の水系速乾性組成物の不揮発分は、60質量%〜90質量%の範囲であることが好ましい。不揮発分が60質量%未満の場合は、乾燥性が遅くなるため好ましくない。不揮発分が90質量%を超える場合は、塗装時の作業性や貯蔵安定性が低下する場合がある。
本発明の水系速乾性組成物は、溶剤やアミン硬化剤を含有しないので、作業時に臭気を発生せず且つ環境に優しく、1液で速乾性、耐摩耗性に優れるものである。したがって、使用用途として、施工時に直接降雨の影響を受けやすい屋上防水保護や、施工時間に制限があり高い耐磨耗性を要求される車道、歩道及び公園内の園路といった屋外施設のカラー塗装等に適している。また、施工方法としては、ローラー刷毛、金鏝、スプレー等、汎用的な施工道具にて施工でき、その使用量としては塗材単体では0.1〜1.0kg/m、乾燥珪砂等の骨材を添加した場合でも0.3〜2.0kg/mといった薄層被覆である。また、本発明の水系速乾性組成物を用いて塗料とする場合は、塗料組成物の顔料体積濃度が、5〜70%程度であることが好ましい。また、合成樹脂に対して固形分比率で、酸化チタンを5〜200質量%添加することが好ましい。顔料体積濃度が5%より少なくなる或いは酸化チタンが5質量%より少なくなると、塗料の隠蔽性が低くなる傾向にある。顔料体積濃度が70%を越えると造膜性及び膜強度が低下する傾向にある。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例の合成樹脂エマルジョンの性状は下記の方法にて評価した。
(不揮発分)
直径5cmのアルミ皿に合成樹脂エマルジョン約1gを秤量し、105℃で1時間乾燥させ、残分を秤量することで算出した。
(粘度)
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、液温23℃、回転数10rpmにて測定した。
(ガラス転移温度(Tg))
合成樹脂エマルジョンを23℃、65%RHの条件下で1週間乾燥させた後、示差走査熱量計(DSC、セイコーインスツルメンツ株式会社製SSC5200)にて測定した。
(最低成膜温度(MFT))
JIS K 6828に準じて測定した。
(合成例1)
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステル樹脂の水分散体としてプラスコートZ−687(ガラス転移温度110℃、不揮発分25質量%)100質量部、イオン交換水30質量部を仕込み、80℃に昇温した。スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1質量部、プラスコートZ−687(ガラス転移温度110℃、不揮発分25質量%)245質量部、25%ノニオン性乳化剤水溶液(HLB18.5のポリオキシエチレンアルキルエーテルの固形分濃度25%の水溶液)10質量部、イオン交換水10質量部をホモミキサーにて予め混合乳化し、エチレン性不飽和単量体乳化物を調製した。反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入し、同時にエチレン性不飽和単量体乳化物も滴下を開始し、3時間で滴下した。あわせて過硫酸カリウム1.0質量部をイオン交換水50質量部で溶解したものを3時間かけて滴下した。なお、反応中の内温は80℃に保った。乳化物および重合開始剤の滴下終了後、80℃で1.5時間反応し、その後室温に冷却した。25%アンモニア水1.5質量部、成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(チッソ株式会社製 CS−12)100質量部を添加し、合成例1の合成樹脂エマルジョンA−1を得た。得られた合成樹脂エマルジョンA−1の性状は、不揮発分56.6質量%、粘度1200mPa・s、pH7.1、MFT0℃だった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの割合は24.4質量%である。
(合成例2)
合成例1におけるスチレンを0質量部、メチルメタクリレートを263質量部、2−エチルヘキシルアクリレートを83質量部、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレートを112部に変更した以外は、合成例1と同様の方法で合成例2の合成樹脂エマルジョンA−2を得た。得られた合成樹脂エマルジョンA−2の性状は、不揮発分56.8質量%、粘度1800mPa・s、pH7.3、MFT0℃だった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの割合は24.4質量%である。
(合成例3)
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステル樹脂の水分散体としてプラスコートZ−687(ガラス転移温度110℃、不揮発分25質量%)300質量部、イオン交換水30質量部を仕込み、80℃に昇温した。スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1質量部、プラスコートZ−687(ガラス転移温度110℃、不揮発分25質量%)760質量部をホモミキサーにて予め混合乳化し、エチレン性不飽和単量体乳化物を調製した。反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入し、同時にエチレン性不飽和単量体乳化物も滴下を開始し、3時間で滴下した。あわせて過硫酸カリウム1.0質量部をイオン交換水50質量部で溶解したものを3時間かけて滴下した。なお、反応中の内温は80℃に保った。乳化物および重合開始剤の滴下終了後、80℃で1.5時間反応し、その後室温に冷却した。25%アンモニア水2.0質量部、成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(チッソ株式会社製 CS−12)150質量部を添加し、合成例3の合成樹脂エマルジョンA−3を得た。得られた合成樹脂エマルジョンA−3の性状は、不揮発分43.5質量%、粘度4000mPa・s、pH7.1、MFT0℃だった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの割合は75.6質量%である。
(合成例4)
合成例1における反応器に仕込むプラスコートZ−687、および、エチレン性不飽和単量体乳化物の乳化に用いるプラスコートZ−687の両方をプラスコートZ−880(ガラス転移温度20℃、不揮発分25質量%)に変更した以外は、合成例1と同様の方法で合成例3の合成樹脂エマルジョンA−4を得た。得られた合成樹脂エマルジョンA−4の性状は、不揮発分56.4質量%、粘度1600mPa・s、pH7.2、MFT0℃だった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの割合は24.4質量%である。
(合成例5)
撹拌装置、温度計および還流冷却器を備えた四つ口フラスコ反応器に、水分散性ポリエステル樹脂の水分散体としてプラスコートZ−561(ガラス転移温度64℃、不揮発分25質量%)207質量部、プラスコートZ−730(ガラス転移温度47℃、不揮発分25質量%)138質量部、イオン交換水33質量部を仕込み、80℃に昇温した。スチレン150質量部、メチルメタクリレート115質量部、2−エチルヘキシルアクリレート81質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート7質量部、グリセリンポリグリシジルエーテル3.5質量部、アニオン性乳化剤(第一工業製薬株式会社製、ハイテノール08E)3質量部、イオン交換水110質量部をホモミキサーにて予め混合乳化し、エチレン性不飽和単量体乳化物を調製した。反応器に過硫酸カリウム0.4質量部を投入し、同時にエチレン性不飽和単量体乳化物も滴下を開始し、3時間で滴下した。あわせて過硫酸カリウム1.0質量部をイオン交換水50質量部で溶解したものを3時間かけて滴下した。なお、反応中の内温は80℃に保った。乳化物および重合開始剤の滴下終了後、80℃で1.5時間反応し、その後室温に冷却した。成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(チッソ株式会社製 CS−12)99質量部を添加し、合成例5の合成樹脂エマルジョンA−5を得た。得られた合成樹脂エマルジョンA−5の性状は、不揮発分51.2質量%、粘度100mPa・s、pH6.7、MFT0℃だった。合成樹脂に対する水分散性ポリエステルの割合は24.1質量%である。
(実施例1)
合成例1で得られた合成樹脂エマルジョンA−1の100質量部に対し、攪拌下で7号珪砂110質量部、増粘剤として1.5%HEC(ヒドロキシエチルセルロース)水溶液4質量部を添加し、5分間攪拌して実施例1の塗料組成物を得た。ここで、1.5%HEC水溶液はHERCULES社製ナトロゾール250HRの1.5質量部、イオン交換水98.0質量部を混合し、攪拌下で25%アンモニア水0.5質量部を添加して作製した。
(実施例2〜3、比較例1〜2)
実施例1の配合を表1に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜3、及び、比較例1〜2の塗料組成物を得た。
(比較例3)
実施例1の合成樹脂エマルジョンA−1の代わりに、スチレン−アクリル酸エステル共重合エマルジョン(昭和高分子株式会社製ポリゾール(登録商標)AP−4750N、不揮発分46質量%、ガラス転移温度30℃、最低成膜温度0℃)を用い、配合を表1に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の塗料組成物を得た。
実施例および比較例の塗料組成物を下記の方法にて評価した。
(乾燥性の評価)
実施例および比較例の塗料組成物を5℃、20%RHの条件下でスレート板に0.6kg/m塗布し、1時間放置後にさらに0.6kg/m塗布した。塗装後、任意の時間でJIS K 5600 テーバー試験(磨耗輪法、荷重500g、500回転、回転数70rpm、磨耗輪CF−17)にて磨耗量を測定し、磨耗量が100mg以下となる時間を乾燥時間とした。この塗装条件で乾燥時間が3時間以内であることを「速乾性」があると判断した。
(耐磨耗性の評価)
実施例および比較例の塗料組成物を23℃、50%RHの条件下でスレート板に0.6kg/m塗布し、1時間放置後にさらに0.6kg/m塗布した。1週間、23℃、50%RHの条件下で乾燥させた後、JIS K 5600 テーバー試験(磨耗輪法、荷重500g、500回転、回転数70rpm、磨耗輪CF−17)にて磨耗量を測定し、磨耗量が5mg以下であれば、実用上十分な耐摩耗性があると判断した。
(耐水性の評価)
実施例および比較例の塗料組成物を6milのアプリケーターでガラス板に塗布し、23℃、65%RHの条件で1週間放置後、これを23℃の水に浸漬した。ほとんど白化しない場合を○、わずかに白化した場合を△、著しく白化した場合を×とした。
Figure 0005564342
(実施例4)
合成例1で得られた合成樹脂エマルジョンA−1の100質量部に対し、攪拌下で酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークCR−50)34.5質量部、炭酸カルシウム(日東粉化株式会社製、NC#100)34.5質量部、7号珪砂11.5質量部、分散剤(花王株式会社製 ポイズ521)2.5質量部、プロピレングリコール2.3質量部を添加し、5分間攪拌して塗料組成物を得た。
(実施例5〜6、比較例4〜5)
実施例4の配合を表2に示す配合に変更した以外は、実施例4と同様にして、実施例5〜6、及び、比較例4〜5の塗料組成物を得た。
(比較例6)
実施例4の合成樹脂エマルジョンA−1の代わりに、スチレン−アクリル酸エステル共重合エマルジョン(昭和高分子株式会社製ポリゾール(登録商標)AP−4750N、不揮発分46質量%、ガラス転移温度30℃、最低成膜温度0℃)を用い、配合を表2に示す配合に変更した以外は、実施例4と同様にして、比較例6の塗料組成物を得た。
Figure 0005564342
表1〜2の結果に示されるように、実施例1〜6の速乾性塗料組成物は、比較例1〜6と比較して、5℃の低温でも乾燥時間が3時間以内と速乾性に優れ、また、23℃で1週間乾燥した後の耐摩耗性も優れていた。実施例3及び実施例6の水系速乾性組成物は、耐水性が若干劣るものの、実用上は問題のないレベルである。

Claims (5)

  1. 水性媒体中、1種または2種以上の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルを保護コロイドとして用いて、エチレン性不飽和単量体組成物を乳化重合して得られる合成樹脂エマルジョンを含有する水系速乾性組成物であって、水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの一部またはすべてがガラス転移温度90℃〜150℃の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルであることを特徴とする水系速乾性組成物。
  2. 前記エチレン性不飽和単量体組成物を重合して得られる合成樹脂が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体または(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の水系速乾性組成物。
  3. 水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの使用量が、エチレン性不飽和単量体組成物の総量に対して、5質量%〜70質量%の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水系速乾性組成物。
  4. ガラス転移温度90℃〜150℃の水分散性ポリエステル又は水溶性ポリエステルの使用量が、保護コロイドとして用いる水分散性ポリエステル及び水溶性ポリエステルの総量に対して、30質量%〜100質量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水系速乾性組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の水系速乾性組成物を用いた速乾性塗料組成物。
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