本出願は、2004年10月22日出願の米国仮出願第60/621,295号、および2005年7月22出願の米国仮出願第60/701,762号の優先権の利益を主張するものである。前記出願はそれぞれ、参照によりその全体を具体的に本明細書に取り入れるものとする。
発明の分野
本発明は全体として、好ましい形態のタンパク質の濃縮および/または回収の向上をもたらす方法に関する。より詳細には、本発明は組換え抗体タンパク質をリフォールディングする方法に関する。
関連技術の背景
遺伝子工学の出現は、それに伴って、遺伝子改変生物において機能的形態で発現される大量の生体関連ポリペプチドを簡便に作製する可能性をもたらした。多くの場合、組換えタンパク質の発現を達成するための使用には、原核生物が想定された。しかしながら、こうした期待は、いくつかの理由で、完全には実現していない。たとえば、ポリペプチドが宿主生物の細胞質で作られ、保持されるような多くの場合において、結果として封入体が生じ、タンパク質の変性および再生が必要となるが、これはほんの一部もしくはごくわずかしか成功しないことが多い。多くの重要な標的タンパク質は原核細胞において、可溶性型としてせいぜい非効率的な発現しかされないが、これは少なくともある程度は、in vivoでのタンパク質フォールディング(折り畳み)プロセスの複雑さに起因する(Houryら、Nature, 402: 147-154, 1999)。生物学的に活性のある真核生物タンパク質を封入体から回収するためには、カオトロピック剤および還元性チオールの使用を含めた厳しい条件を使用することによる、タンパク質のアンフォールディング(折り畳みがほどけること)およびリフォールディング(再折り畳み)が必要である。他の場合には、発現されたタンパク質またはペプチドは実質的に分解され、低収率となるのみならず、分離精製の困難な複雑な混合物を生じる。
in vivoでのタンパク質におけるジスルフィド結合形成は複雑なプロセスであって、周囲の酸化還元電位、および専門のチオール-ジスルフィド交換酵素によって決定される(Creighton, Methods Enzymol. 107, 305-329, 1984; Houee-Levin, Methods Enzymol. 353, 35-44, 2002; Ritz and Beckwith, Roles of thiol-redox pathways in bacteria, Annu. Rev. Microbiol. 55, 21-48, 2001.)。ジスルフィドは、新生鎖が小胞体内に分泌されるとき、もしくはその分泌の直後に、細胞内で形成される(Creighton, Methods Enzymol. 107, 305-329, 1984)。同一タンパク質ではあるが異なるジスルフィド構造を有する、いくつかの立体構造アイソフォームが、哺乳類細胞での組換えタンパク質生成の際に生じる可能性があるが、これはジスルフィド形成プロセスの失敗、タンパク質構造において3つ以上のシステイン残基が近接していること、または対をなさないシステイン残基の表面露出に起因する。
一般に、タンパク質(抗体、IgG抗体、IgG1抗体、およびIgG1抗体結合ヒトIL-15を含める)のシステイン残基は、それらが折り畳まれたタンパク質領域の一部である場合、システイン-システインジスルフィド結合に関わるか、ジスルフィド結合の形成から立体的に保護されているかのいずれかである。システイン残基がタンパク質構造内で対をなさず、しかもフォールディングによって立体的に保護されない場合、そのシステイン残基は溶液由来の遊離システイン残基とジスルフィド結合を形成する可能性がある(システイン化)。遊離システイン残基は、典型的には、タンパク質の構成単位である他のアミノ酸とともに、培養液において利用可能である。システイン化は、医薬用タンパク質においては望ましくない翻訳後修飾であり、低い結合性、低い生物活性、および低い安定性といった望ましくない特性を有する立体構造アイソフォームをもたらす可能性がある。本発明は、システイン化を排除し、システイン化のない望ましい立体構造アイソフォームの相対存在量を増加させる方法を提供する。
タンパク質において対をなさないシステイン残基はシステイン化を受ける可能性があり、それはタンパク質の特性および機能の著しい変化につながることが考えられる。タンパク質のシステイン化は、in vivoのタンパク質について報告された(Craescuら、J. Biol. Chem. 261, 14710-14716, 1986; Dormannら、J. Biol. Chem. 1993, 268, 16286-16292; Davisら、Biochemistry 1996, 35, 2482-2488; Limら、Anal. Biochem. 2001, 295, 45-56., Bondarenkoら、Int. J. Mass Spectrom. Ion Processes 2002, 219, 671-680)。システイン残基の修飾はタンパク質の活性を調節した。たとえば、ヘモグロビンに対するグルタチオンの共有結合は、このタンパク質の酸素結合特性を高める(Craescuら、J. Biol. Chem. 261, 14710-14716, 1986)。別の例では、肝臓型脂肪酸結合タンパク質(LABP)は、システイン化およびグルタチオン化後に結合親和性を失った(Dormannら、J. Biol. Chem. 1993, 268, 16286-16292)。HIV-1プロテアーゼ活性は、システイン化およびグルタチオン化によって制御された(Davisら、Biochemistry 1996, 35, 2482-2488)。対をなさないシステインを有するヒト抗体がわずかに血液循環中に存在するという報告がある。たとえば、ある報告では、ラムダ型の免疫グロブリン軽鎖が33位に遊離型システインを有し、軽鎖が全部で6個のシステイン残基を有することが明らかである(Buchwaldら、Can. J. Biochem. 1971, 49, 900-902)。この遊離型システインがラムダ軽鎖のサブグループIIIの特徴であることが示された。
対をなさないシステインはIgG分子において報告されているが、対をなさないシステインのシステイン化に関する報告されたケースはない。システイン化の検出は、分析的に困難であり、以前の報告でシステイン化を認めることができなかったのは、分析において、その段階の一つで還元を用いたことに起因すると思われる(還元はシステイン化を排除する)。システイン化がCDR領域に存在すると、ヒトIL-15に対する完全ヒト化抗体146B7の場合に観察されるように、生物学的活性に影響を及ぼす可能性がある。リフォールディングによってシステイン化を除去することは、不均一性を最小限にすることによって生成物の均一性を向上させるのに役立つ。リフォールディングによるシステイン化の除去は、生成物の有効性も高めた。システイン化が、対をなさない1つもしくは複数のシステインを含有する他のIgG分子上に存在し、システイン化の除去が、そうした生成物の医薬品としての実現性の鍵となる可能性は十分にある。
PCT公報WO 02/68455は、腫瘍壊死因子受容体-Fc融合タンパク質をリフォールディングする方法を示す。このタンパク質は、IgG1抗体のFc領域、および2つの腫瘍壊死因子受容体(TNFr)を融合することによって生物工学的に作製されたが、天然には存在しない。この文献は、少なくとも1つの、遊離の、つまり対をなさないシステイン、すなわちジスルフィド結合に関与しないシステインの存在に起因する、不均一構造を有するタンパク質を扱っていない。遊離システインを有する複合タンパク質が存在することは知られており、少なくともある種の免疫グロブリンは、こうしたタンパク質の市販の該当例である。特に、WO 02/68455が、免疫グロブリンのような天然に存在する分子の処理の例を与えず、遊離の、つまり対をなさないシステインを含有する大きな複合タンパク質に関するタンパク質フォールディングの問題を検討も取り扱ってもいないことは、注目に値する。
微生物細胞(大腸菌(E. coli))によって生成された封入体タンパク質のin vitroフォールディングは、文献に詳しく記載されており、2つのステップを含む。第1に、封入体タンパク質は、高濃度のカオトロピック試薬および還元試薬の存在下で可溶化して、すべてのジスルフィド結合を切断する(Middelberg, A. P. Preparative protein refolding. Trends Biotechnol. 2002, 20, 437-443)。たとえば、Rudolph, R.; Lilie, H. In vitro folding of inclusion body proteins. FASEB J. 1996, 10, 49-56による総説では、封入体可溶化溶液には、6 M塩酸グアニジンおよび100 mM DTTが含まれる。第2段階は中程度の濃度の塩酸グアニジン(0.5-1.0 M)、および穏やかな酸化還元環境の存在下での、タンパク質フォールディングである(Middelberg, A. P. Preparative protein refolding. Trends Biotechnol. 2002, 20, 437-443)。本発明は、高濃度のカオトロピック剤および還元剤の存在下でタンパク質を完全に変性させること、ならびに、すべてのジスルフィド結合を還元することによる、可溶化のステップを含まない。本発明の方法は、タンパク質を変性させない、または、タンパク質を変性させるがいくつかのジスルフィドのみを酸化還元(再編)する。本発明は、哺乳類細胞で産生されたタンパク質を扱う。哺乳類細胞による産生には、in vivoタンパク質フォールディングおよびジスルフィド形成が含まれるが、微生物細胞はタンパク質を、入り混じったジスルフィドを有する、高密度で、折り畳みされていない、不溶性のタンパク質の凝集塊(封入体)として生成する。哺乳類細胞は、ジスルフィド結合の大半を正しく連結するので、タンパク質を完全に変性させてすべてのジスルフィド結合を還元する必要はない。
米国特許第4,766,205号では、タンパク質の組換え生産が、不適切な分子内ジスルフィド結合の形成によって阻害され、こうした不適切な分子内ジスルフィド結合形成は、組換えタンパク質の「非天然の」コンフォメーションをもたらすが、こうしたコンフォメーションは、天然のコンフォメーションに容易には変換され得ないという点で「凍結」されていることが認識されている。こうした非天然生成物は、生物学的に、少なくともある程度は不活性である。このような問題に対処するために、米国特許第4,766,205号は、タンパク質の還元剤への曝露、付加物形成ジスルフィド化合物の添加、その後の酸化剤の添加と、それに伴う時間的によく調整された還元剤の除去を含むプロセスを明らかにしている。この発明の詳細な説明は、タンパク質が、完全な変性、およびジスルフィド結合の還元によって可溶化されることを示す。多くのステップが含まれ、多くの化合物が必要とされることは、こうしたアプローチを面倒なものにしている。米国特許第4,766,205号が、哺乳類産生タンパク質、ならびに免疫グロブリンのように分子間結合によって形成される大きな複合タンパク質のリフォールディングのための開示された方法の使用について、検討していないことは注目に値する。
上記の議論から、望ましいポリペプチドがたとえば組換え法によって作製される場合に、産生されたポリペプチドが活性のあるコンフォメーションで与えられるような、または都合よくプロセシングされて機能する状態に再生されるような、活性のある大きなポリペプチドの効率的で経済的な製造、精製および分析のためのシステムを開発する上での大きな必要性および関心が依然として存在することは明らかである。それに加えて、インスリンのような低分子量タンパク質、もしくはより大きなタンパク質の低分子量消化物の分析に広く使用されてきた技術が存在するという事実にもかかわらず、より大きなタンパク質、とりわけ、分子間相互作用によって形成される2つ以上のサブユニットを有するタンパク質に関する配列情報および詳細な構造情報をもたらす、さらに別の方法および技術の必要性が依然として存在する。本発明はこうした必要性に対処することを目的とする。
発明の概要
本発明は、スクランブル形成されたジスルフィド結合、ならびに遊離の、すなわち対をなさないシステイン残基が存在するために、組換え生産の既存の方法では手に負えないことが判明している活性ポリペプチドの、効率的で経済的な製造、精製、および分析をもたらすことを目的とする。より詳細には、本発明は、改善された医薬品特性および結晶化特性をもたらすようにタンパク質をリフォールディングする方法を記載する。下記に、より詳細に記載するように、酸化還元(レドックス)カップリング試薬の添加は、組換えタンパク質において天然様ジスルフィド結合の形成を促し、したがって構造的に均一で、より活性のある形態の分子を生成することができる。
本発明のある態様は、組換えIgG抗体(たとえば、IgG1、およびIgG2、IgG3もしくはIgG4抗体)を作製する方法を与えるが、その方法は、約5から約11までのpHにて、哺乳類細胞により組換え生産されたポリペプチドを、酸化還元カップリング試薬と接触させることを含んでなる。この方法は、場合により、前記調製物を、前記酸化還元カップリング試薬との接触の前、後、もしくはそれと同時に、カオトロピック剤と接触させることを含むことができる。ある実施形態において、ポリペプチドは組換えIgG1である。より好ましくは、IgG1は、少なくとも1つの遊離システイン残基を有するIgG1である。典型的なこうした抗体は、米国公開公報第2003/0138421; 2003/023586; および2004/0071702号(これらはすべて、参照によりその全体を本明細書に取り入れるものとする)において146B7として表される抗体である。他の好ましい実施形態において、IgGはIgG2分子である。好ましくは、その方法はIgG2分子の不均一性を低下させる。他の実施形態は、IgG4分子をリフォールディングしてIgG4半分子("half-mer"と称される)の存在を減らす方法を含む。
したがって、本発明の方法は特に、組換え型のIgG抗体をリフォールディングすることに関する。こうしたIgG抗体の作製の例としては、CHO細胞におけるIgG抗体の組換え発現による、組換え抗体の作製がある。IgG1抗体の例は、前記米国公開公報に記載されており、146B7はヒトIL-15に対する完全ヒト抗体、すなわちIgG1である。
上記のように、本発明のある実施形態は、遊離の、すなわち対をなさないシステイン残基を有する、組換えIgG1抗体を与える。対をなさないシステインを有する抗体は、1つ、もしくは複数の遊離システイン残基を有するものと理解され、この遊離システイン残基は、典型的にはジスルフィド結合形成に関与しないがシステインのジスルフィドペアの近位にあり、このペアのジスルフィド結合が切断された場合には、遊離システインが以前ペアをなしていたシステインの一方とともに別のジスルフィド結合を形成することができる、抗体ペプチド重鎖もしくは軽鎖中のアミノ酸として定義される。当然のことながら、遊離システインを有する抗体は、どのシステインが対をなすかによって、2つ以上のコンフォメーションを想定することができる。やはり当然のことであるが、遊離システインを有する抗体は、そのシステイン残基がシステイン化されているか、グルタチオン化されているかによって、2つ以上のコンフォメーションを想定することができる。
前記にしたがって、本発明のある態様は、組換えIgG抗体を作製する方法に関するものであって、その方法は、約5から約11までのpHにて、哺乳類細胞により組換え生産されたポリペプチドを、酸化還元カップリング試薬と接触させること;ならびに、場合によりさらに、そのIgG分子を、酸化還元カップリング試薬との接触の前、後、もしくはそれと同時に、カオトロピック剤と接触させることを含んでなる。
したがって、その方法は、上記のような組換えIgG分子の調製物を作製することを含んでなるが、それは、約5から約11までのpHにて、哺乳類細胞により組換え生産されたポリペプチド(すなわち組換えIgG)を、酸化還元カップリング試薬と接触させること;場合によりさらに、前記調製物を、前記酸化還元カップリング試薬との前記接触の前、後、もしくはそれと同時に、カオトロピック剤と接触させること;ならびに、必要に応じて、IgGが望ましいコンフォメーションにリフォールディングされている組換えIgG分子の処理された調製物の画分を、単離することを含んでなる。より具体的には、酸化還元カップリング試薬のpHは約7から約10までである;さらにより具体的敵には、酸化還元カップリング試薬のpHは約7.6から約9.6までである。特定の、非限定的な例としての実施形態において、酸化還元カップリング試薬のpHは約8.0である;他の実施形態においてpHは約8.6である。この方法は、−20℃から37℃までの温度で実施されるが、より具体的には、−10℃から+8℃までである。特定の実施形態において、この方法は4℃で行われる。
酸化還元カップリング試薬は、任意の1つもしくは複数の酸化還元カップリング試薬とすることができる。ある実施形態において、酸化還元カップリング試薬は、還元型グルタチオンおよび酸化型グルタチオンを含んでなる。より具体的には、酸化還元カップリング試薬中の、還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンの比は、約1:1から約100:1までである。他の特定の実施形態において、酸化還元カップリング試薬は、システイン/シスチンを含んでなる。具体的には、酸化還元カップリング試薬は、約0.1 mMから約10 mMまでのシステイン、および約0.1 mMから約10 mMまでのシスチンを含んでなる。さらに他の実施形態において、システインおよびシスチンは、約1:1から約10:1までのシステイン:シスチン比で存在する。特定の、非限定的な例としての実施形態において、酸化還元カップリング試薬は、約6 mMシステイン、および約1 mMもしくは約6 mMシスチンを含んでなる。組換えIgG分子(たとえば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)を作製する方法の、ある実施形態において、システイン/シスチンは、約6 mMシステインおよび約6 mMシスタミンを含んでなる。
酸化還元試薬との接触は、アンフォールディングおよびリフォールディングを生じさせるに足る、任意の適当な期間にわたって行うことができる。ある実施形態において、酸化還元カップリング試薬との接触ステップは、さらにカオトロピック剤あり、もしくはなしで、約30分以上行われる。ある実施形態において、カオトロピック剤あり、もしくはなしでの、酸化還元カップリング試薬との接触ステップは、約4時間〜約48時間にわたり行われる。
本発明の他の態様において、酸化還元カップリング試薬との接触は、酸化還元カップリング試薬を、組換えIgGが産生される細胞培養の増殖培地(すなわち、細胞培養液)に与えることを含んでなる。
組換えIgG抗体を作製する方法のある実施形態において、接触ステップは、少なくとも部分精製された(もしくは部分的に単離された)組換えIgG調製物を、酸化還元カップリング試薬と接触させることを含んでなる。部分精製されているか否かにかかわらず、組換えIgGの濃度は、1 mg/mlから約50 mg/mlまでの範囲に及ぶと想定される。
本発明の方法はさらに、上記の方法にしたがってリフォールディングされている、単離された組換えタンパク質を、酸化還元カップリング試薬を含んでなるまた別の組成物と接触させるという、追加ステップを含んでなることもある。ある実施形態において、還元剤および酸化剤が使用されるが、還元剤だけを使用することができるとも考えられる。
本発明の別の態様において、組換えポリペプチドを作製する方法は、ポリペプチドを酸化還元カップリング試薬と接触させる前、後、またはその接触と同時に、そのポリペプチドを、カオトロピック剤と接触させることを含んでなる。カオトロピック剤は、任意のカオトロピック化合物、または当技術分野で知られている物理的条件である。具体例としてのカオトロピック剤は、尿素、アルギニン、SDSおよび塩酸グアニジンからなる群から選択される。特定の実施形態において、カオトロピック剤は塩酸グアニジンである。カオトロピック剤はまた低温条件を含み、この条件において、温度は、たとえばIgGの構造上の摂動(perturbation)を引き起こすのに十分低く、具体的には0℃から−30℃までの範囲の温度が考えられる。塩酸グアニジンのようなカオトロピック剤化合物のいずれの濃度も、個別の条件にしたがって変動しうるが、ある実施形態において、カオトロピック剤、たとえば塩酸グアニジンの、反応混合物中の濃度は約0.1 Mから約1 Mまでであり、他の実施形態では、反応混合物では約0.1 Mから約1.5 Mまでである。特定の実施形態において、反応混合物中の濃度は約0.5 Mである。さらに他の典型的な実施形態において、塩酸グアニジンのようなカオトロピック剤の反応混合物中の濃度は、約0.9Mである。高圧(1000-3000 bar)、高温(55℃より高)、アルコール(30%以下)、低pH(3.5未満)が、IgG抗体を部分的にアンフォールディングすることが知られており、カオトロピック剤の役割を果たすことができる。2つ以上のこうしたアンフォールディング要素を組み合わせて使用することができる。
本発明の別の態様は、接触させたポリペプチドを単離すること、または望ましい、リフォールディングされたコンフォメーションを有する、接触させたポリペプチドの画分を単離することをさらに含んでなる、上記のような組換えポリペプチドを作製する方法を与える。本明細書で用いる単離ステップは、タンパク質を単離するために都合よく使用される、任意の単離ステップとすることができる。単離ステップは、逆相クロマトグラフィー(たとえば、HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、および電気泳動、たとえば、キャピラリ電気泳動、からなる群から選択される、1つもしくは複数の技法を含んでなることができる。HPLCを使用する実施形態において、単離は、組換えタンパク質の組換えIgG調製物のサンプルを、逆相クロマトグラフィーカラムに導入すること;組換えIgG分子を逆相HPLCから溶出することによって、組換えIgGを、調製物の他の化合物から分離することを含んでなるが、ここでこのHPLCカラムは約50℃から約90℃までの温度に加熱される;さらにこの逆相HPLCの移動相は、少なくとも6.0のC18溶離力係数を有する水混和性有機溶媒を含んでなり、この方法は酸化還元カップリング試薬もしくはHPLC分離パラメーター非存在下で実施される同様の方法よりも、均一なIgG成分の集団を与える。組換えIgGは、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて、同様に分離することができる。抗体の「均一な」集団は、主として単一形態の抗体を含んでなる抗体集団を意味し、たとえば、溶液もしくは組成物中少なくとも90%の抗体が適正にフォールディングされた状態にある。同様に、遊離の、すなわち対をなさないシステインを有するポリペプチドの「均一な」集団は、主として適正にフォールディングされた単一の形態を含んでなる前記ポリペプチド集団を意味する。本発明の方法における組換えIgGの濃度は、リフォールディングを受け入れることができるIgGのいかなる濃度とすることもできる。このように、IgGの濃度は、工業的な量(グラム量で)のIgG(たとえば、工業的な量の特定のIgG)であってもよいが、あるいはまた、ミリグラム量であってもよい。特定の実施形態において、反応混合物中の組換えIgG分子の濃度は、約1 mg/mlから約50 mg/mlであり、より具体的には10 mg/mlまたは15 mg/mlである。このような濃度の組換えIgG1分子が特に想定される。ある実施形態において、組換えIgG分子を、約pH8.0で酸化還元カップリング試薬と接触させる。
本発明の他の態様において、本発明の方法は、酸化還元カップリング試薬との接触が、組換えIgG抗体(たとえば、IgG1, IgG2, IgG3 またはIgG4抗体)の生物活性を、リフォールディングされていない同じIgG分子と比較して、少なくとも2倍増加させるという点で特徴付けられるが、これは、酸化還元カップリング試薬による処理の結果として、この方法によって調製された調製物において、活性型IgGの濃度の増加が生じることに起因する。他の実施形態において、カオトロピック剤との接触は、リフォールディングされていない同じ抗体と比較して、IgG調製物の生物活性の、少なくとも2倍の増加をもたらすが、これは、カオトロピック剤による処理の結果として、この方法によって調製された調製物において、活性型IgGの濃度の増加が生じることに起因する。さらに他の実施形態において、組換えポリペプチドを酸化還元カップリング試薬と接触させること、およびカオトロピック剤とさらに接触させることは、接触なしの同ポリペプチドと比べて、ポリペプチドの生物活性の、少なくとも3倍の増加を示すポリペプチドを生じる。
さらに他の実施形態において、カオトロピック剤および酸化還元カップリング試薬との接触を組み合わせた効果は、リフォールディングされなかった同じ抗体と比較したとき、IgG調製物の生物活性の、すくなくとも3倍の増加を生じるが、これは、酸化還元カップリング試薬およびカオトロピック剤の組み合わせによる処理の結果として、その方法によって調製された調製物中の活性型IgGの濃度の増加が生じることに起因する。本明細書に記載の方法を用いてリフォールディングすることによって、望ましいコンフォメーション型のタンパク質の濃度が増加する(濃縮される、もしくは存在量の増加)。リフォールディング後の単離ステップで、より多くのグラム数の望ましいコンフォメーション型が単離される。リフォールディングなしのIgGの単離ステップでは、より少ないグラム数の望ましいコンフォメーション型が単離される。ここで示される方法は、活性型の濃度が40%から少なくとも80%まで、または30%から少なくとも90%まで増加することによって、少なくとも2倍または3倍の活性増加をもたらす。リフォールディング手順は、不活性(または低活性)IgG分子を(より)活性なIgGに変換する。
本発明の特定の実施形態において、カオトロピック剤は、約0.1 Mから約1.5 Mの終濃度で反応混合物中に存在する塩酸グアニジンである。
本発明の方法は、よりコンパクトなIgG構造を与えるという特徴をさらに有するが、この方法において酸化還元試薬およびカオトロピック剤の存在下でリフォールディングされた組換えIgGは、IgGタンパク質の構造のコンパクトさに変化を生じている。組換えIgGを酸化還元剤およびカオトロピック剤で処理したとき、IgGは、無処理のものと比べてコンパクトさが減少し(SECおよびLC/MS分析によって観察される)、酸化還元剤単独で処理されたIgGは、よりコンパクトとなる。
本発明の方法はIgG集団をもたらすが、これは本発明によって作製されたIgG部分からなる集団を製剤化することによってさらに処理され、無菌バルク形態とすることができる。他の実施形態において、無菌単位剤形が、この方法によって作成されたIgG部分の集団を製剤化することから得られる。
組換えIgG分子を必要とする被験体を治療する方法も、本発明によって与えられるが、その方法は、被験体に、本発明の方法によって調製されたIgG分子の均一な集団を投与することを含んでなる。ある実施形態において、その方法は、IgG分子の静脈内もしくは皮下投与を含む。
本発明のために、遊離の、すなわち対をなさないシステインを有するIgGタンパク質のシステイン化を取り除き、望ましいコンフォメーションのアイソフォームの相対的な存在量を増加させる方法であって、そのようなタンパク質を酸化還元カップリング試薬と接触させることを含んでなる方法も、意図される。こうしたタンパク質にはたとえばIgG1が含まれる。
本発明のために、遊離の、すなわち対をなさないシステインを有するタンパク質の保存安定性、熱安定性、均一性、もしくは結晶特性を改善する方法も意図されるが、これは、こうしたタンパク質を酸化還元カップリング試薬と接触させることを含んでなる。ある実施形態において、組換えタンパク質/抗体は、約90 kDaの分子量を有する、高分子量のタンパク質である。
本発明の関連態様において、組換えポリペプチドを作製する方法は接触ステップを含んでなるが、このステップにおいて接触は、接触なしの同じポリペプチドよりも保存中に安定なポリペプチドをもたらす。典型的な実施形態には、接触が、接触なしの同じポリペプチドよりも熱に安定なポリペプチドをもたらす方法が含まれる。他の実施形態において、組換えポリペプチドを作製する方法は接触ステップを含んでなるが、このステップにおいて接触は、接触なしの同じポリペプチドと比べて、改善された結晶特性を有するポリペプチドをもたらす。
本明細書に記載の方法にしたがって調製された、組換えIgG抗体部分の集団も本発明に含まれる。たとえば、本発明は、本明細書に記載の、組換えポリペプチドを作製する方法によって調製された、少なくとも1つの遊離システイン残基を有するポリペプチドの調製物を包含するが、この調製物は、IgG1, IgG2, IgG3, IgG4ポリペプチドといった、ポリペプチドの均一な集団を有する。
関連態様において、調製物は組換えIgG抗体を含んでなり、製薬上許容されるキャリア、賦形剤もしくは希釈剤をさらに含んでなる(すなわち、この調製物は医薬組成物を包含する)。本発明のこうした態様の典型的な実施形態は、少なくとも1つの遊離システイン残基を含んでなる組換えポリペプチドの調製物である。ある実施形態において、医薬組成物は、IgG分子の集団、たとえば、その均一な集団、および製薬上許容されるキャリア、賦形剤もしくは希釈剤を含んでなる。本発明は、ポリペプチド、および製薬上許容されるキャリア、賦形剤もしくは希釈剤を含んでなる調製物のために、任意の既知の投与経路、たとえば、筋肉内、非経口、静脈内、または皮下注射もしくは埋め込み、尿道、直腸、または眼窩後デリバリーなどを想定している。
本発明の他の特定の態様には、IgG抗体調製物を作製する方法が含まれるが、その方法は、哺乳類細胞によって組換えにより産生されたIgG抗体の精製調製物を、酸化還元カップリング試薬と、約5から約11までのpHで接触させること;ならびに、場合によりさらに、この調製物を、酸化還元カップリング試薬との接触の前、後、またはそれと同時に、カオトロピック剤と接触させることを含んでなる。
こうした方法において、IgG抗体は、不均一性を示す、IgG1, IgG2, IgG3およびIgG4抗体、またはそれらの断片からなる群から選択することができる。IgG単量体、IgG多量体、IgG半分子、またはIgG分子の他のフラグメントの存在によって、このような不均一性を導入することができる。
ある実施形態において、IgG抗体は、RP-HPLCで、いくつかの異なる型として溶出するIgG2抗体であり、この方法は、RP-HPLCで溶出する型の数を減少させ、またはRP-HPLCでのいくつかの異なる型の相対的な分布を変化させる。具体的なこのような実施形態において、その方法は、RP-HPLCにより測定されるように、調製物における複数の異なる型のうち、少なくとも1つを優先的に濃縮する。より詳細には、優先して濃縮された型は、この方法で処理されなかった調製物と比較して、製薬上望ましい特性を有する。
「優先的に濃縮される」という用語は、望ましい型の相対的な存在量の増加、もしくは望ましい型の相対的な割合の増加を意味する。製薬上望ましい特性としては、本明細書で使用される場合、高い安定性、低下した粘性、血液循環における長い半減期が挙げられるが、それに限定されない。たとえば、本発明の方法を用いて、約2-8℃の温度で少なくとも1年間安定な調製物、約25℃で少なくとも1ヶ月間安定な調製物、凍結融解後に安定である調製物が作られる。それに加えて、より安定な調製物は、接触なしの同じIgG抗体より少ない二量体、凝集物、クリップ(clip)、粒子を形成するものである。本発明の方法によって作製される望ましい調製物は、本明細書に記載の酸化還元剤および任意のカオトロピック剤と接触させなかった同じIgG抗体(もしくはIgG抗体フラグメント)より低い粘性を有する、IgG抗体(もしくはIgG抗体フラグメント)調製物である。本発明の方法にしたがって調製される、もう一つの望ましいIgG抗体(もしくはIgG抗体フラグメント)調製物は、本明細書に記載の酸化還元剤および任意のカオトロピック剤と接触させなかった同クラスのIgG抗体(もしくはIgG抗体フラグメント)より長い、血液循環における半減期を有する調製物である。ある実施形態において、こうした望ましい調製物は、血液循環中で、本明細書に記載の酸化還元剤および任意のカオトロピック剤と接触させなかった同クラスのIgG抗体(もしくはIgG抗体フラグメント)より20%長い半減期を有する。「半減期」という用語は、本明細書で使用される場合、薬物(この例においては、IgG抗体もしくはそのフラグメント)の血漿中濃度がゼロ時間時点でのもとの濃度の半分となるのに要する時間である。
他の実施形態において、IgG抗体は、少なくとも1つの遊離システイン残基を有する組換えIgG1抗体、または少なくとも1つの遊離システイン残基を有する組換えIgG1抗体のフラグメントである。
他の実施形態において、IgG抗体はIgG4抗体であり、本発明の方法はIgG4の半分子の生成を減少させる。
特定の実施形態において、本発明の方法は、調製物とカオトロピック剤との接触を含まないと考えられる。
酸化還元カップリング試薬のpHは、約5から約10までであるが、たとえば、7.6から約9.6までの間であり、より詳細には、約8.0-8.6である。
酸化還元カップリング試薬は、還元型グルタチオンおよび酸化型グルタチオンを含んでなる。たとえば、還元型グルタチオンの酸化型グルタチオンに対する比は、約1:1から約100:1である。他の態様において、酸化還元カップリング試薬は、システイン/シスチンを含んでなる。たとえば、システイン/シスチンは、約0.1 mMから約10 mMまでのシステインを含んでなる。他の例において、酸化還元カップリング試薬は、約0.1 mMから約10 mMまでのシスチンを含んでなり、外来のシステインは何も加えられない。さらに他の例において、システイン/シスチンは、約1:1から約10:1のシステイン:シスチン比で存在する。他の例において、システイン/シスチンは、約6 mMシステインおよび約1 mMシスチンを含んでなる。さらに他の例において、システイン/シスチンは、約6 mMシステインおよび約6 mMシスタミンを含んでなる。
本発明の方法は、少なくとも30分間実施される接触ステップを伴うことができる。他の例において、接触ステップは約4時間〜約48時間にわたり実施される。
特定の例において、組換えIgG抗体は、接触に先立って、それが分泌された培地から精製される。他の実施形態において、組換えIgG抗体が、分泌されている培地中にあるときに、接触が起こる。さらに他の実施形態において、組換えIgG抗体は、たとえば、接触に先立って細胞および他の粒子状物質を培地から除去するという点で、それが分泌された培地から部分精製される。
特定の実施形態において、本発明の方法は、組換えIgG抗体と酸化還元カップリング試薬との、多段階の接触を含む。
特定の実施形態において、本発明の方法は、IgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントを発現して培地中に分泌する哺乳類細胞を培養すること、pH約5から約11で酸化還元カップリング試薬を添加すること、ならびに場合により、細胞からの抗体分泌時にカオトロピック剤を含有することを含んでなる方法において、IgG抗体を哺乳類細胞培養液から単離することを含む。こうした単離は、1つもしくは複数のクロマトグラフィーステップを含むことができる。
本発明の方法は、約1 mg/mlから約50 mg/mlの濃度の組換えIgG抗体を含んでなる、培地もしくは他の調製物について実施することができる。
本発明の方法は、接触によって、該接触なしの同じIgG抗体よりも保存中に安定なIgG抗体が生じるというものである。本発明の方法は、該接触が、接触なしの同じIgG抗体より熱に安定なIgG抗体をもたらすというものである。他の実施形態において、接触は、接触なしの同じIgG抗体と比較して、改善された結晶化特性を有するIgG抗体をもたらす。本明細書で使用される場合、結晶化特性という用語は、結晶の成長、形態、サイズ、均一性、結晶収率、結晶の懸濁性、または、医薬製剤への調製を容易にする、IgG結晶に関する他の任意の特性を表す。好ましくは、結晶は、単独で、または製薬上許容されるアジュバント、希釈剤もしくは賦形剤と組み合わせて、溶液中で使用される。
酸化還元試薬(および、場合により、カオトロピック試薬)との接触は、接触なしの同じIgG抗体集団より均一なIgG抗体集団をもたらす。他の態様において、接触は、接触なしの同じIgG抗体と比較して、その生物活性が少なくとも2倍増加したIgG抗体をもたらす。特定の実施形態において、本方法は、IgG抗体の、酸化還元カップリング試薬との接触の前、後、もしくはそれと同時に、カオトロピック剤との接触を想定している。カオトロピック剤は、尿素、SDSおよび塩酸グアニジンからなる群から選択することができる。好ましい実施形態において、カオトロピック剤は、塩酸グアニジンを含んでなる。
ある実施形態において、塩酸グアニジンの濃度は、約0.1 Mから約1.5 Mまでである。他の実施形態において、塩酸グアニジンの濃度は、約0.1 Mから約1Mまでである。ある特定の実施形態において、塩酸グアニジンの濃度は、約0.5 Mである。別の特定の実施形態において、塩酸グアニジンの濃度は約0.9 Mである。
特定の実施形態において、酸化還元カップリング試薬との接触、およびさらにカオトロピック剤との接触は、接触なしの同じIgG抗体と比較して、その生物活性が少なくとも3倍増加したIgG抗体をもたらす。
本発明の方法はまた、その方法によって生成したIgG抗体を製剤化して無菌バルク形態とすることを含んでなることができる。他の実施形態において、方法はさらに、その方法によって無菌単位剤形となるようにIgG抗体を製剤化することを含んでなる。さらに他の実施形態において、方法はさらに、望ましくリフォールディングされたコンフォメーションを有する、接触処理されたIgG抗体の画分を単離することを含んでなる。このような単離のための手法は、逆相クロマトグラフィーHPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、および電気泳動からなる群から選択される。特定の実施形態において、単離のための手段は、イオン交換クロマトグラフィーである。
同様に本明細書で検討されるのは、本明細書にしたがって調製されるIgG抗体の調製物であって、その調製物はIgG抗体の均一な集団を有する。この調製物はさらに、製薬上許容されるキャリア、賦形剤もしくは希釈剤を含んでなることができる。
組換えIgG抗体の均一な集団、および製薬上許容されるキャリア、賦形剤もしくは希釈剤を含んでなる組成物も検討される。この組成物は、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG4抗体、または、IgG1、IgG2もしくはIgG4のIgG単量体、IgG1、IgG2もしくはIgG4のIgG多量体、IgG1、IgG2もしくはIgG4のIgG半分子、あるいはこうしたIgG分子の他のフラグメントを含有することができる。このような均一集団を用いて被験体を治療する方法も意図される。こうした方法において、投与は、たとえば皮下もしくは静脈内投与とすることができる。
組換えIgG抗体を製造、製剤化、および/または保存する際に、その抗体の品質を検出もしくはモニターする方法も検討されるが、その方法は下記を含んでなる:
a)哺乳類細胞により組換えによって生成されたIgG調製物を、約pH5から11で、酸化還元カップリング試薬と接触させること、および、場合により、その調製物を、酸化還元カップリング試薬と接触する前に、後に、またはそれと同時に、さらにカオトロピック剤と接触させること;
b)ステップa)にしたがって処理されたIgG分子をフラグメントに切断すること;ならびに
c)インタクトなIgG、および/またはステップb)から得られたフラグメントをクロマトグラフィー分析にかけて、IgG分子の品質を検出もしくはモニターすること。
こうした方法において、IgG抗体はIgG1抗体であり、品質をモニターすることは、IgG1抗体の遊離の、すなわち対をなさないシステインの状態をモニターすることを含んでなる。
他のこうした方法において、IgG抗体はIgG2抗体であり、品質をモニターすることは、調製物の不均一性を決定するためにIgG2の形態の数をモニターすることを含んでなる。
他のこうした方法において、IgG抗体はIgG4分子であって、品質をモニターすることは、IgG4の半分子の存在をモニターすることを含んでなる。
ある態様において、クロマトグラフィーはLC/MS分析を含んでなる。
特定の態様において、検出もしくはモニタリングは、IgG分子の精製ステップ時に行われるが、この精製は、カラムクロマトグラフィーを含んでなる。
組換えIgG抗体もしくは組換えIgG抗体フラグメントを作製する方法も与えられるが、その方法は下記を含んでなる:
哺乳類細胞により組換えによって生成されたIgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントを、約5から約11のpHで、酸化還元カップリング試薬と接触させること;および、場合により、
さらに、IgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントを、酸化還元カップリング試薬と接触する前に、後に、またはそれと同時に、カオトロピック剤と接触させること。
ある実施形態において、上記方法に先立って、IgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントは、IgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントを発現し、培地中に分泌する哺乳類細胞を培養すること;約5-約11のpHで酸化還元カップリング試薬を添加することを含んでなり、場合により、細胞からの抗体分泌の際にカオトロピック剤を含有する方法において、哺乳類細胞培養液から単離される。
当然のことながら、組換えIgG抗体は、IgG1、IgG2またはIgG4である。
本発明の方法は、本明細書に記載のリフォールディング法を実施すること、および結晶化型の組換えIgG抗体を調製することによって、結晶化型のインタクトな組換えIgG抗体の調製を与える。ある実施形態において、このような結晶の調製に先立って、本明細書の方法により調製された組換えIgG抗体の単離を、その方法に含めることができる。
特定の実施形態において、組換えIgG抗体を、クロマトグラフィーカラムの固定相に結合させ、還元剤およびカオトロピック剤は移動相の一部とする。他の実施形態において、酸化還元カップリング試薬は酵素である。さらに他の実施形態において、酸化還元カップリング試薬は、二価金属イオンおよび酸素を含有する。
哺乳類細胞によって組換えにより生成されたIgG抗体の単離された調製物を、約5から約11までのpHで、酸化還元カップリング試薬と接触させること;ならびに、場合により、その調製物を、酸化還元カップリング試薬との接触の前、後、もしくはそれと同時に、高圧によってさらに変性させることを含んでなる、IgG抗体調製物を作製する方法も、本明細書に記載される。
本発明は、IgG抗体もしくはそのフラグメントを作製する方法に関するが、その方法は、IgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントを発現し、培地中に分泌する哺乳類細胞を培養すること;および、約5から約11までのpHで酸化還元カップリング試薬を添加し、さらに、場合により、細胞からの抗体分泌時にカオトロピック剤を含有すること;ならびに、それによって、酸化還元カップリング試薬、および、場合により、カオトロピック剤に曝露されていないIgG抗体もしくはそのフラグメントと比較して、改善された医薬品特性および結晶化特性を有するIgG抗体もしくはそのフラグメントを作製すること、を含んでなる。
組換えIgG抗体もしくは組換えIgG抗体フラグメントを作製するための、哺乳類細胞に基づく方法の改善が本明細書に記載されるが、その改善は、IgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントの作製に使用される培地に、約5から約11のpHで、酸化還元カップリング試薬を添加すること;ならびに、場合により、培地中にIgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントが分泌される際に、カオトロピック剤を添加することを含んでなる。
本発明の他の特徴および利便性は、以下の詳細な説明から明白となる。しかしながら、当然のことながら、詳細な説明および具体例は、本発明のある実施形態を示してはいるが、説明のためにのみ与えられるものであり、それは、この詳細な説明から、本発明の精神および範囲において様々な変更および修正が当業者に明白となるからである。
図面の簡単な説明
下記の図面は、本明細書の一部をなし、本発明の態様を図によってさらに明らかにするために含められる。本発明は、本明細書で与えられる具体的な実施形態の詳細な説明と併せて、図を参照することによってより良く理解することができる。
(各図面の説明については後述を参照)
発明の詳細な説明
タンパク質を封入体の状態から酸化的にリフォールディングすることは、組換えタンパク質の原核生物での生産においては一般的な手法であるが、組換えタンパク質生成のための真核細胞での生産プロセスでは通常行われない。これは、真核細胞が、組換え技術によって生成されたタンパク質を正しくリフォールディングするのに十分な細胞機構を有すると考えられるためである。しかしながら、米国特許出願第60/548,302号、Dillonら、2004年2月27日出願、および第60/538,982号、Bondarenkoら、2004年1月23日出願(それぞれその全体を、参照により本明細書に取り入れるものとする)に記載のように、最近の、RP-HPLC分離および検出技術の向上は、以前は均一であると考えられていた、組換え技術によって作製された高分子量タンパク質に、相当な構造上の不均一性が存在することを明らかにする。前述の出願で論じられているように、不均一性の本質は、少なくともある程度は、ジスルフィド結合のスクランブル化に起因する。
IgG分子の構造と機能への関心が、近年、タンパク質製薬工学においてふたたび高まってきた。IgG1およびIgG2サブクラスは特別な関心を呼んでいるが、これは、血液循環中にもっとも豊富に存在し、長期間持続する、安定な免疫グロブリンであるためである。本発明は、構造的により均一な組換えタンパク質、より詳細には、哺乳類細胞の生成する組換えIgG抗体、特に、活性の向上したIgG1、IgG2およびIgG4治療用抗体を作製する方法の必要性に対処することを目的とする。
いくつかの先行する報告において、IgG2分子が遊離チオール基を有し、γグロブリンの他のサブクラスと比較して構造的に不均一であることが示唆されている。ある報告において、4つのヒトIgG抗体のすべてについて、5,5’-ジチオ(2,2’-ジニトロ)安息香酸(DTNB)との反応によって、遊離チオール基の含量が測定された(Schauensteinら、1986 Int.Arch.Allergy Immunol., v. 80, p. 174-179)。露出した遊離チオール(ヒトIgGモル当たり約0.24)は、IgG2サブクラスに帰属された。他に、4つのヒトIgG抗体のすべてが、チオレドキシンレダクターゼおよびNADPHをともなうチオレドキシンによって鎖間ジスルフィド結合の還元を受けることも報告されている。IgG2は、2つの点で他のサブクラスと異なることが明らかになった:1)還元に抵抗する、ならびに2)NADPH試薬を消費する。後者の所見は、この試薬が不安定な鎖間の、もしくは表面に露出した、混合ジスルフィドの還元によって消費されたことを示唆した。さらに別の研究において、プールされたヒトγグロブリンおよびいくつかの正常血清中に、IgG2共有結合二量体が検出された(Yoo ら、2003, J.Immunol., v. 170, p. 3134-3138)。この二量体の臭化シアン切断分析から、ヒンジ部の1つもしくは複数のシステイン残基が二量体形成に関与することが示され、あらためてIgG2のヒンジ部に遊離の、もしくは不安定なシステインの存在が示唆された。Phillipsら(Mol.Immun., v. 31, p. 1201-1210, 1994)による研究は、沈降分析および電子顕微鏡分析を用いて、複数の形態のIgG2分子、および二価ハプテンを有するそれらの複合体、ならびにヒトγグロブリンの他の3つのサブクラスについては単一の形態のみを同定した。
最近の報告によれば、抗体フラグメント、主としてFabおよびFab'の200を優に超える構造が決定されている(Saphireら、2002, J.Mol.Biol., v. 319, p. 9-18)。インタクト抗体の結晶は、わずかに10回報告されているが、これらの結晶のうち7つだけが、部分的、もしくは完全な構造を与えた。こうした構造はいずれも、マウスIgGもしくはヒトIgG1抗体のいずれかであって、ヒトIgG2ではなかった(Saphireら、2002, J.Mol.Biol., v. 319, p. 9-18)。全長ヒンジを有するIgGの、全体の構造は、3回だけ報告されている:mAb 231、マウスIgG2a (Harrisら、1992, Nature, v. 360, p. 369-372; Larsonら、1991, J.Mol.Biol., v. 222, p. 17-19)、mAb 61.1.3、マウスIgG1 (Harrisら、1998, J.Mol.Biol., v. 275, p. 861-872); および、HIV-1 gp120に対するヒトIgG1 b12 (Saphireら、2001, Science, v. 293, p. 1155-1159; Saphireら、2002, J.Mol.Biol., v. 319, p. 9-18)。PDB番号1HZHから、ヒンジ部に近いヒトIgG1抗体の断片的な結晶画像が入手できる(Saphireら、2001, Science, v. 293, p. 1155-1159)。ヒトIgG2の結晶構造が利用できないという事実は、正確なジスルフィド結合性についての問題を不明のままにし、このIgGサブクラスが不均一である可能性のあることも示唆するが、このことは結晶化のための困難な問題となる。このことは、構造解析の新たな方法の必要性をも浮き彫りにする。本発明者らは、新たに開発した、質量分析をオンラインで併用する逆相クロマトグラフィーを使用することによる、インタクト抗体の分析方法を用いて、ヒトIgG2抗体の不均一性の発見および評価を容易にした(Dillonら、2004, J.Chromatogr.A, v. 1053, p. 299-305)。
哺乳類細胞で発現される組換えIgG2抗体には、相当な構造上の不均一性が存在することが見出されたので、本発明者らは、本明細書の実施例1〜3に記載のように、2つの形態のタンパク質を濃縮することができるリフォールディング法を開発した。一本鎖免疫グロブリン折り畳みタンパク質に対する、添加物、たとえば、GndHCl、グルタチオン、L-アルギニンの影響は、(Umetsuら、2003, J.Biol.Chem., v. 278, p. 8979-8987)で論じた。1 M GndHClバッファー中で自然に起こるフォールディングの結果、正しいジスルフィド結合が為された構造となったが、L-アルギニンの添加は、結果としてジスルフィド結合のない、部分的に折り畳まれた中間体の形成をもたらした(Umetsuら、2003, J.Biol.Chem., v. 278, p. 8979-8987)。
別の具体的な例において、本発明は、たとえば、米国特許公報第2003/0138421号に記載のIL-15に対する抗体のうち1つ、すなわち146B7が、対をなさないシステイン残基を含有することを明らかにした。具体的には、146B7は、CDR3重鎖の104位に遊離システインを有する。この遊離システインが共有結合性二量体化の原因であると考えられ、製剤化時もしくは保存時に安定性の問題をもたらす可能性がある。この残基の存在は、組換えIgG1の均一で活性のあるサンプルを作製する試みを混乱させる。酸化還元剤の添加は、構造的に均一で、より活性のある形態のこのIgG1分子の生成を容易にする。酸化還元剤の添加は、リフォールディングされた(リフォールド)IgG1分子の生成を容易にするために、カオトロピック剤の添加と組み合わせて行われるが、該分子は酸化還元カップリング試薬およびカオトロピック剤で処理されなかった同分子より均一である。
実施例9で検討されるように、本発明の方法は、均一なインタクトIgG4分子の調製にも有用である。IgG4は補体を活性化しないので、抗原-抗体-補体複合体に起因する免疫原性反応および炎症の可能性は、IgG4分子については非常に小さい。このためIgG4は、安全な治療法であることが期待されるとき、治療のための非常に魅力的な候補となる。というのもIgG4は単に抗原に結合するのみで、人体においてなんら追加的な反応を引き起こさないはずである。
IgG4による反応は、たとえば、チリダニ、花粉、もしくはハチ刺され、といった抗原に対する反応において発生する。これらの抗原は通常、重大な免疫反応および炎症なしに除去される。一方、このIgG4は、そのヒンジ部のユニークな構造のため、インタクト分子および半分子の混合物として存在する。特定の理論もしくは作用メカニズムに結び付けられることなく、IgG4の半分子の存在は、治療用組成物としてのIgG4部分の開発において有害となる可能性があることが知られている。半分子は、2つの異なるIgG4分子の間で交換可能であるため、潜在的に問題を引き起こす可能性がある。こうした状況において、IgG4分子が作られ、これは2つの半分(アーム)で2つの抗原に結合する。このようなIgG4は二機能性で一価である。IgG4に関するこうした二機能性および一価の特徴は、ハイブリッドIgG4分子を潜在的に治療薬として安全でないものとすることが考えられる。たとえば、治療用IgG4を、関節炎関連受容体と結合する目的で開発することがありうる。注射部位もしくは全身に他のIgG4半分子が存在したならば、それは、前記受容体および花粉抗原の両者に結合する二機能性IgG4をもたらす可能性がある。これは免疫反応および炎症を引き起こすことがある。本発明において、IgG4部分をリフォールディングするための方法が与えられる。こうしたリフォールディングを用いて、インタクトなIgG4分子とともにしばしば存在する、IgG4の半分子を排除することができる。
本発明のある態様において、酸化還元成分および/またはカオトロピック剤を直接、真核細胞を培養する培地中に導入して、培地中に分泌されるIgG(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4)産物のリフォールディングに適した酸化還元電位を達成するように最適化することも、意図される。したがって、培地には、適当な酸化還元電位が達成されるように、システイン、シスチン、シスタミン、グルタチオン、銅、および/または他の酸化還元剤といった成分が加えられ、またはそうした成分について最適化される。酸化還元成分の最適化は、培地中の成分をさまざまに変えることによって達成される。分泌されたIgG産物の不均一性は、HPLC/MS法、または分離された組成物の不均一性について情報をもたらす他の任意のタンパク質分離法を用いて評価することができる。より均一な組換え産物を生じる酸化還元剤および/またはカオトロピック剤は、このように、容易に確認することができる。
組換えタンパク質を産生する宿主細胞の培地中に酸化還元試薬を含めることに代えて、またはそれに加えて、タンパク質の酸化的リフォールディングを達成する、別の区別される処理ステップを導入することができる。こうした追加の処理ステップにおいて、リフォールディング溶液は、塩酸グアニジンもしくは尿素といった変性剤、ポリオール、ポリマー、もしくは界面活性剤といったフォールディング剤、および/または還元剤を含有することができる。
哺乳類細胞において組換え抗体を作製する方法は周知である。こうした方法において、抗体産生はタンパク質発現の誘導を含む。IgG抗体もしくはIgG抗体フラグメントをコードする核酸は、プロモーター、好ましくは、哺乳類細胞において機能する制御可能なプロモーターと、機能するように連結させることによって好都合に発現可能となる。こうした組換え構築物は、適当な宿主(たとえば、細菌、マウスもしくはヒト)においてIgG抗体タンパク質を発現するようにデザインされる。本明細書のタンパク質およびポリペプチドの発現に適したプロモーターは、広範に入手可能であり、当技術分野においてよく知られている。調節領域(たとえば、エンハンサー、オペレーター、および転写因子もしくは翻訳因子の結合領域)に連結された誘導性プロモーターもしくは構成的プロモーターが好ましい。「誘導性」プロモーターは、本明細書において制御可能なプロモーターとして定義され、誘導性プロモーター(すなわち、活性化因子または誘導因子の存在によって、活性化または誘導されない限り不活性であるという点で、正の調節を受ける)、または抑制解除プロモーター(すなわち、リプレッサーが存在しない限り活性であるという点で負の調節を受け、リプレッサーの除去、もしくは抑制解除が結果的にプロモーター活性の増加をもたらす)と通常呼ばれるプロモーターが含まれる。本明細書で想定されるプロモーターには、たとえば、大腸菌(E. coli)由来のtrp、lpp、tac、およびlacプロモーター、たとえばlacUV5;バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のP10もしくはポリヘドリン遺伝子プロモーター (たとえば、米国特許第5,243,041号、第5,242,687号、第5,266,317号、第4,745,051号、および第5,169,784号を参照されたい)、ならびに当技術分野で知られている他の真核生物発現系由来の誘導性プロモーターが含まれるが、それらに限定されない。タンパク質の発現を目的として、これらのプロモーターは、trpオペロンのオペレーター領域のような制御領域に機能しうるように結合して、プラスミドに挿入される。
好ましいプロモーター領域は、たとえば、哺乳類細胞において誘導可能であり機能的な領域である。細菌発現のための好適な誘導性プロモーターおよびプロモーター領域の例には、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG; Nakamuraら、1979 Cell 18:1109-1117参照)に反応する大腸菌lacオペレーター;重金属(たとえば、亜鉛)の誘導(たとえば、米国特許第4,870,009号を参照されたい)に反応するメタロチオネインプロモーター金属調節エレメント;IPTGに反応するファージT7lac プロモーター (たとえば、米国特許第4,952,496号; およびStudierら、1990 Meth. Enzymol. 185:60-89を参照されたい)、ならびにTACプロモーターがあるが、それに限定されない。使用する発現宿主系に応じて、ベクター(たとえば、プラスミド、ファージミド、コスミド、人工染色体、ウイルス)は、適宜、宿主において機能的な1つもしくは複数の選択可能マーカー遺伝子を場合により含んでもよい。したがって、たとえば、選択可能マーカー遺伝子は、抗生物質への曝露といった特定の条件下で、形質転換された宿主細胞が生存することを可能にするような表現型を、宿主細胞に付与する任意の遺伝子を包含する。スクリーニング可能なマーカーも、ベクターに含めるために意図されるが、スクリーニング可能なマーカーとは、形質転換された宿主細胞に、識別可能な表現型を付与する。宿主に適した選択可能マーカー遺伝子には、たとえば、アンピシリン耐性遺伝子(Ampr)、テトラサイクリン耐性遺伝子(Tcr)、およびカナマイシン耐性遺伝子(Kanr)がある。
さまざまな発現系において、ベクター(たとえば、プラスミド)は、機能しうるように連結されたタンパク質を分泌するためのシグナルをコードするDNAを含みうる。使用に適した分泌シグナルは、広く利用可能であって、当技術分野でよく知られている。哺乳類細胞において機能する真核生物分泌シグナルが好ましい。さまざまな真核生物分泌シグナルが当業者に知られており、それらはいずれも意図される(たとえば、von Heijne, J. Mol. Biol. 184:99-105, 1985を参照されたい)。特定の実施形態において、組換えIgG抗体もしくはそのフラグメントの発現が細胞内で誘導された時点で、組換え抗体を発現および分泌する細胞の細胞培養液に、酸化還元剤を導入することが意図される。酸化還元剤を、単回用量として加えることができるが、複数回用量として添加してもよい。たとえば、酸化還元カップリング試薬としてシステイン/シスチンの場合、システイン/シスチンを複数回1日量を添加して、リフォールディング培地におけるシステイン/シスチンの適量を維持することが望ましいと考えられる。
さらに別の態様において、酸化還元剤はタンパク質結晶化溶液中に直接導入され、ミスフォールドされたタンパク質が溶液中でリフォールディングされて、成長するタンパク質結晶に付着することが可能となり、その結果タンパク質の結晶化収率が向上する。結晶化ステップは、培養液で酸化還元条件を使用して、および/または追加の処理ステップによって、リフォールディングすることによりすでに処理された、タンパク質材料を使用することによって達成される、どのような改善法と組み合わせることもできる。培養中に、別の処理ステップにおいて、もしくは結晶化溶液中において、タンパク質をリフォールディングすることによって、本発明は、改善された均一性、活性/有効性、安定性、結晶成長、および結晶化収率を含めて、改善された医薬品特性および結晶化特性を有する産物を与える。後者の手法は、バルク組換えタンパク質混合物から活性成分のみを収集することを必要とするが、それは費用がかかり、材料の大きな損失につながるため、組換えタンパク質の医薬品特性および結晶化特性を改善するためのこうしたアプローチは、好ましくはCEXクロマトグラフィーを使用する。
本発明の他の態様において、たとえば、IL-15に対する完全ヒトIgG1、またはIL-1Rに対するIgG2といった、ヒトIgG、もしくはヒト化IgG抗体を作製する方法が与えられるが、その方法は、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞により生成されたIgGをリフォールディングして構造的に均一な活性型のIgG分子を得るステップを含む。IgGがIgG2である場合には、構造的に均一な形態は、たとえば3型のみが生成され、または1型のみ生成される、などというように、本明細書に記載のHPLCプロフィールから同定された1、2、3、もしくは4型のうちの1つである。IgGがIgG1抗体である場合では、対をなさない遊離システインはいずれも、有害な二量体化につながらないように処理されると考えられる。IgG4抗体の場合には、本発明の方法は、半分子として存在するのでなくインタクトであるIgG4調製物を与える。特定の実施形態においてこのような有利な結果を達成するために、システイン-シスチン、システイン-シスタミン、グルタチオン、銅、酸素分子、およびシャペロン、ならびに異なるバッファー、温度および時間構成を用いて、リフォールディングを行うことができる。典型的なリフォールディング条件は、たとえば、下記の2つのバッファー中3〜15 mg/mLでの組換えIgG分子のインキュベーションである:1) 200mM Tris バッファー、pH 8.0(未変性(native)リフォールディング);2) 0.9M GuHCl を含む200mM Tris バッファー、pH 8.0 (GuHClリフォールディング)。システイン:シスチンの組み合わせは、それぞれおよそ6 mM: 1 mMのモル比で加えられる。サンプルは2〜8℃にて48時間放置した。24および48時間の時点で分析のため一部を取り置いた。還元剤およびカオトロピック剤の存在下で、この典型的なリフォールディング条件による組換えIgG分子のリフォールディングは、タンパク質グラム当たり3倍活性の上昇した単一構造形態を生じる。ある特定の実施形態において、リフォールディングステップはこのように、IgG分子の生成を3倍にし、同一活性を達成する製剤溶液中で必要なタンパク質濃度を3分の1に減らすことができる。
当然のことながら、本発明の方法は、本発明の方法を用いて、患者に使用するためのタンパク質製剤、たとえば、IL-15に対するIgG1、もしくはIL-1Rに対するIgG2といったIgGを調製することができるが、この調製には、哺乳類細胞によるタンパク質生産、哺乳類細胞培養物からのタンパク質の精製、本明細書に記載のリフォールディング法による、精製されたタンパク質のリフォールディング、このようにして作製された組成物のバッファーの、製剤バッファーへの交換、ならびに患者に用いることができる単回投与製剤の作製が含まれる。あるいはまた、製剤の調製は次のようなステップを含むが、すなわち、哺乳類細胞によるタンパク質生産、タンパク質の精製に続いて、本明細書に記載のタンパク質のリフォールディング、引き続いてタンパク質の望ましい形態の単離、その後こうして作製された組成物のバッファーを製剤バッファーに交換し、患者に使用することができる単回投与製剤を作製することである。
本発明は、活性組換えタンパク質の回収を増加させる方法を提供する。それに加えて、本発明は、カオトロピック薬剤処理(たとえば、SDS、塩酸グアニジンもしくは尿素といった変性剤など)を使用して、さらにタンパク質を処理する。適切にリフォールディングされたタンパク質を作製する方法は、下記に詳細に説明するように、タンパク質を単離する、有効なLC法と組み合わせて行われる。このようにリフォールディング生成とタンパク質の精製を併せて行う本発明の方法は、組換えタンパク質が薬物もしくは生物製剤としてin vivoでの使用を目的とする場合には、特に有効である。
LC法の使用によって、当業者は、任意の組換えタンパク質にとって望ましいタンパク質コンフォメーションをもたらす個別のリフォールディング条件を、評価することができる。他の精製法および単離法も用いることができる。
組換えタンパク質の望ましいコンフォメーションは、本来のジスルフィド結合を含有することが好ましいが、異なる配置のジスルフィド結合有していてもいなくても、どちらでもよい。
本明細書に記載の方法は、複数のコンフォメーションをとることができる組換えIgG抗体もしくはそのフラグメントの製造法を改善するための穏やかで効果的な方法を構成することが明らかになった。ある態様において、本発明の方法は、組換えIgG抗体もしくはそのフラグメントの調製に当たって使用することができるが、このIgG抗体もしくはそのフラグメントの調製物は不均一な混合物であって、これはIgG抗体もしくはそのフラグメントの安定なコンフォメーションおよび不安定なコンフォメーションを含有する。「安定な」および「不安定な」という用語は、相対的な用語として使用される。安定なコンフォメーションは、たとえば、同じ溶液で測定したとき、不安定なコンフォメーションより高い融点(Tm)を有するものである。あるコンフォメーションは、同じ溶液で測定される場合、Tmの相違が少なくとも約2℃であるとき、より好ましくは約4℃であるとき、さらにより好ましくは約7℃であるとき、またさらに好ましくは約10℃であるとき、さらにいっそう好ましくは約15℃であるとき、なおいっそう好ましくは約20℃であるとき、またさらにより好ましくは約25℃であるとき、そしてもっとも好ましくは約30℃であるとき、もう一つのコンフォメーションと比べて安定である。
したがって、ある態様において、本発明は、組換えタンパク質の少なくとも2つの立体配置異性体の不均一混合物からなる組換えタンパク質を、望ましい立体配置異性体の相対的割合が増加するのに十分な時間、酸化還元カップリング試薬と接触させること、ならびに混合物中の望ましい立体配置異性体の相対的な割合を測定することを意図する。別の態様において、本発明は、哺乳類細胞によって生成された組換えタンパク質の調製物を、酸化還元カップリング試薬と、約7から約11までのpHで接触させること、ならびに、望ましいコンフォメーションを有する組換えタンパク質調製物の画分を単離することを意図する。組換えタンパク質には、たとえば、真核細胞により生成されたタンパク質のように、グリコシル化された組換えタンパク質も含まれる。ある態様において、本発明の方法を用いて、ジスルフィド結合のスクランブル化によって引き起こされるコンフォメーションの不均一性を低減する。より具体的な態様において、このコンフォメーションの不均一性は、抗体において、より詳細には、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4抗体において存在する。「立体配置」という用語が、本明細書を通じて「コンフォメーション」という用語と互換的に使用されること、ならびに、同じ一次構造(同じアミノ酸配列)を有する他のタンパク質とは、異なる二次、三次、もしくは四次構造を有するタンパク質を指すことを意図していることに留意すべきである。酸化還元試薬を単独で、または塩酸グアニジンのようなカオトロピック剤を用いる更なる処理と組み合わせて使用することによって、酸化還元試薬および/またはカオトロピック剤の存在以外は同様に作製された同一タンパク質のサンプルと比較して、より均一で、より治療上活性のあるIgGタンパク質を作製することができる。
概して、本発明の方法は、組換えIgG(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)分子もしくはタンパク質の製造法を改善するために有用である。組換え分子もしくは組換えタンパク質は、遺伝子工学の方法によって作製されるタンパク質である。「遺伝子工学」という用語は、ある遺伝子を、上昇したレベル、または低下したレベルで発現する、および/またはその遺伝子の変異型を発現する、宿主細胞を作製するために用いられる、任意の組換えDNAもしくはRNA法を指す。言い換えると、細胞は、組換えポリヌクレオチド分子によってトランスフェクトされ、形質転換され、または形質導入されており、それによって、望ましいタンパク質の発現の変化を細胞に引き起こすように、改変されている。目的のタンパク質を発現するように細胞および/または細胞系を遺伝子操作する方法およびベクターは、当業者によく知られている;たとえば、さまざまな技法がCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubelら、編(Wiley & Sons, New York, 1988, 年4回更新) ならびにSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Laboratory Press, 1989)に説明されている。遺伝子操作技術には、発現ベクター、標的化相同組換え、ならびに、操作された転写因子による遺伝子活性化(たとえば、Chappelの米国特許第5,272,071号を参照されたい)およびトランス活性化(たとえば、Segalら、1999, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96(6):2758-63を参照されたい)を含めるが、それらに限定されない。
疾患、障害もしくは疾病状態を予防する1つもしくは複数の予防法に加えて、こうした疾患、障害もしくは疾病状態を治療する方法において、組換えポリペプチドの「有効な量」は、当技術分野で知られているように、望ましい生物学的もしくは生理的効果をもたらすことができるポリペプチドの量である。特に治療法に関しては、疾患、障害もしくは疾病状態に伴う症状を改善する方法についても同じく、「有効な量」は、「治療上有効な量」と同じ意味で使用される。こうした方法において、「必要としている被験体」は、疾患、障害もしくは疾病状態の症状を示しているか、罹患する危険があるか、またはそのように診断された任意の動物、たとえばヒトである。
本発明は、たとえば、哺乳類細胞で生成され、適切なリフォールディングを必要とする組換えタンパク質の生産を改善することに、特定の用途を見出す。ある実施形態において、本発明は、具体的に、抗IL-15 IgG1分子である146B7の、改善された生産およびリフォールディングに関する。104位の対をなさないシステイン残基(Cys104)の存在に起因する、このタンパク質の不均一性は、本明細書に記載の酸化還元試薬を使用した結果、有意に低下する。当業者に知られているLCおよびLC/MS法を用いて、このような不均一性をモニターすることによって、上記の有利な結果を評価することができる。具体的には、真菌細胞系(たとえば酵母、糸状菌)および哺乳類細胞系によって分泌されたタンパク質をグリコシル化することができる。好ましくは、タンパク質は、細胞培養で増殖するように適合させた哺乳類生産細胞によって分泌される。工業的に広く使用されるこうした細胞の例は、CHO、VERO、BHK、HeLa、CV1 (Cosを含める)、MDCK、293、3T3、メラノーマ細胞系(特にマウス)、PC12およびWI38細胞である。特に好ましい宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、これは、いくつかの複雑な組換えタンパク質、たとえばサイトカイン、凝固因子、および抗体の生産に広く使用されている(Braselら、1996, Blood 88:2004-2012; Kaufmanら、1988, J.Biol Chem 263: 6352-6362; McKinnonら、1991, J Mol Endocrinol 6:231-239; Woodら、1990, J. Immunol 145:3011-3016)。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損変異細胞株(Urlaubら、1980, Proc Natl Acad Sci USA 77:4216-4220)、DXB11およびDG-44は最適なCHO宿主細胞株であるが、それは、効率的なDHFR選択可能および増幅可能な遺伝子発現系が、この細胞において高レベルの組換えタンパク質発現を可能にするためである(Kaufman R. J., 1990, Meth Enzymol 185:527-566)。さらに、この細胞は、付着培養もしくは浮遊培養として操作しやすく、比較的優れた遺伝的安定性を示す。CHO細胞、およびその細胞で発現される組換えタンパク質は、十分に特性が明らかになっており、監督官庁から医薬品製造における使用が認可されている。
本発明が、複数のコンフォメーションをとることができ、および/または2つ以上のドメインを有する組換えIgG(たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)分子の製造方法を改善するための、穏和で効果的な方法であることが明らかになっている。「ドメイン」は、特定の三次構造をとるポリペプチド鎖の連続した領域であり、かつ/またはポリペプチド鎖のその領域に局在すると考えられる特定の活性を有する。たとえば、タンパク質のあるドメインは、あるリガンドに対して結合親和性があり、タンパク質のあるドメインが、別のリガンドに対して結合親和性を有することがある。温度安定性の点で、ドメインは、タンパク質の協同的なアンフォールディングユニットを指すと考えられる。2つ以上のドメインを含有するこうしたタンパク質は、1つのタンパク質として天然に存在することが明らかになっており、または融合タンパク質として遺伝子操作によって作製することができる。それに加えて、ポリペプチドのドメインは、サブドメインを有することができる。
本発明の組成物および方法は、他のタイプの組換えIgGタンパク質の調製にも有用であり、こうしたタンパク質には、免疫グロブリン分子もしくはその一部、およびキメラ抗体(たとえば、マウス抗原結合領域に結合したヒト定常領域を有する抗体)もしくはそのフラグメントが含まれる。免疫グロブリン分子をコードするDNAを操作して、一本鎖抗体、親和性の高められた抗体、または他の抗体に基づくポリペプチドといった、組換えタンパク質をコードできるDNAをもたらすことができる、数多くの技術が知られている(たとえば、Larrickら、1989, Biotechnology 7:934-938; Reichmannら、1988, Nature 332:323-327; Robertsら、1987, Nature 328:731-734; Verhoeyenら、1988, Science 239:1534-1536; Chaudharyら、1989, Nature 339:394-397を参照されたい)。完全ヒト抗体(トランスジェニック動物を用いて調製され、場合によりさらにin vitroで改変される)、ならびにヒト化抗体の調製も、本発明において使用することができる。ヒト化抗体という用語はまた、一本鎖抗体を包含する。たとえば、Cabillyら、米国特許第4,816,567号;Cabillyら、欧州特許0,125,023 B1;Bossら、米国特許第4,816,397号;Bossら、欧州特許第0,120,694 B1;Neuberger, M. S.ら、国際公開WO 86/01533;Neuberger, M. S.ら、欧州特許第0,194,276 B1;Winter,米国特許第5,225,539号;Winter、欧州特許第0,239,400 B1;Queenら、欧州特許第0 451 216 B1; およびPadlan, E. A.ら、欧州特許第0 519 596 A1を参照されたい。本発明の方法はまた、抗体、および細胞傷害性物質もしくは発光性物質を含んでなるコンジュゲートを調製する際に、使用することができる。こうした物質には、マイタンシン(maytansine)誘導体(たとえばDM1);エンテロトキシン(たとえば、ブドウ球菌エンテロトキシン);ヨウ素同位体(たとえばヨウ素-125);テクネチウム同位体(たとえばTc-99m);シアニン蛍光色素(たとえば、Cy5.5.18);およびリボソーム不活化タンパク質(たとえば、bouganin、gelonin、またはsaporin-S6)がある。
本発明の方法を用いて、さまざまな融合タンパク質の調製物を調製することもできる。そうした融合タンパク質の例には、組換えIgG(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)分子の一部との融合物として発現されるタンパク質、ジッパー部分との融合タンパク質として発現されるタンパク質、および新規多機能タンパク質、たとえばサイトカインと増殖因子の融合タンパク質(すなわち、GM-CSFとIL-3、MGFとIL-3)が含まれる。
国際公開WO 93/08207およびWO 96/40918は、CD40Lと称されるさまざまな可溶性オリゴマー型の分子の調製を記載するが、これは、免疫グロブリン融合タンパク質およびジッパー融合タンパク質をそれぞれ含む;そこで記載した技術は、他のタンパク質に適用可能である。上記分子はいずれも、融合タンパク質として発現可能であり、それは、細胞受容体分子の細胞外ドメイン、酵素、ホルモン、サイトカイン、免疫グロブリン分子の一部、ジッパードメインおよびエピトープを含むがそれらに限定されない。
組換えタンパク質の調製は、好ましくは、細胞培養の培地中で本明細書に記載の酸化還元試薬を使用することによって達成される。組換えタンパク質は、そうした培養において細胞によって生産され、その後精製される。組換えタンパク質の調製物は、細胞培養上清、細胞抽出物であってよいが、好ましくはそれから部分精製された画分である。「部分精製された」とは、ある程度の分画手法(1回または複数)が実施されたが、望ましいタンパク質もしくはタンパク質コンフォメーション以外の多くのポリペプチド分子種(少なくとも10%)が存在することを意味する。本発明の方法の利点の1つは、組換えタンパク質の調製物を非常に高濃度にすることが可能であることである。ある濃度範囲は、0.1から20 mg/mlであるが、より好ましくは0.5から15 mg/mlであり、さらにより好ましくは1から10 mg/mlである。
組換えタンパク質の調製物は、最初に、組換え宿主細胞を、上記のように酸化還元試薬の存在下で、ポリペプチドの発現に適した培養条件下で培養することによって、調製することができる。ポリペプチドはまた、トランスジェニック動物の産物として、たとえば、そのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含有する体細胞もしくは生殖細胞によって特徴付けられるトランスジェニックウシ、ヤギ、ブタ、もしくはヒツジの乳の成分として、発現されることもある。その結果発現されたポリペプチドを次に、こうした培養物もしくは成分から(たとえば、培養液もしくは細胞抽出物もしくは体液から)、既知の処理法を用いて、精製もしくは部分精製することができる。濾過、遠心、沈澱、相分離、アフィニティ精製、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC;フェニルエーテル、ブチルエーテルもしくはプロピルエーテルのような樹脂を使用する)、HPLC、または上記の組み合わせ、のうち1つもしくは複数のステップを含むがそれに限定されない分画をここで使用できるが、本発明の有利な方法では、米国特許出願第60/548,302号、Dillonら、2004年2月27日出願、および第 60/538,982号、Bondarenkoら、2004年1月23日出願(それぞれ、参照によりその全体を本明細書に取り入れるものとする)に記載のように、高分子量の治療用タンパク質のLC分画および精製を用いることができる。
本明細書で後述するLCおよびLC/MS法はまた、他の精製法、たとえば、ポリペプチドと結合する物質を含有するアフィニティカラムを用いたポリペプチドの精製;コンカナバリンA-アガロース、ヘパリン-トヨパール(登録商標)もしくはCibacrom blue 3GA Sepharose(登録商標)のようなアフィニティ樹脂による、1つもしくは複数のカラムステップ;溶出を伴う1つもしくは複数のステップ;および/またはイムノアフィニティクロマトグラフィーと組み合わせることができる。精製を容易にする形態で、ポリペプチドを発現させてもよい。たとえば、ポリペプチドは、マルトース結合ポリペプチド(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)もしくはチオレドキシン(TRX)との融合ポリペプチドのような、融合ポリペプチドとして発現することができる。このような融合ポリペプチドの発現および精製用のキットは、New England BioLab (Beverly, Mass.)、Pharmacia (Piscataway, N.J.)およびInVitrogenからそれぞれ市販されている。ポリペプチドには、エピトープでタグを付けることができ、その後そうしたエピトープに対する特異的な抗体を用いることによって精製することができる。そのようなエピトープの1つ(FLAG(登録商標))は、Kodak (New Haven, Conn.)から市販されている。ポリペプチド結合性ポリペプチド、たとえば、組換えタンパク質に対するモノクローナル抗体を含んでなるアフィニティカラムを利用して、発現されたポリペプチドをアフィニティ精製することも可能である。他のタイプのアフィニティ精製ステップは、プロテインA もしくはプロテインGカラムとすることができるが、これらのアフィニティ作用物質は、Fcドメインを含有するタンパク質と結合する。従来法によって、たとえば、高塩濃度溶出バッファー中で、ポリペプチドをアフィニティカラムから取り出し、次いで使用する低塩バッファーに対して透析することができ、またはポリペプチドを使用したアフィニティマトリクスに応じたPHもしくは他の成分を変更することによってアフィニティカラムから取り出すことができるが、あるいはポリペプチドをアフィニティ部分の天然に存在する基質を用いて競合的に取り出すことができる。本発明のある実施形態において、組換えタンパク質の調製物は、プロテインAアフィニティカラム上で部分精製することができる。
また前記精製ステップの一部もしくはすべてをさまざまな組み合わせで使用して、本発明の方法で用いる適当な組換えIgG(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)調製物を調製すること、および/または組換えタンパク質調製物を酸化還元カップリング試薬と接触させた後その組換えポリペプチドをさらに精製することができる。他の哺乳類ポリペプチドを実質的に含まないポリペプチドを「単離されたポリペプチド」と定義する。本明細書に記載の還元剤に基づく方法と組み合わせることができる具体的なLC法は、米国特許出願第60/548,302号、Dillonら、2004年2月27日出願、および第60/538,982号、Bondarenkoら、2004年1月23日出願、においてさらに詳細に記載されている(2つともその全体を参照により本明細書に取り入れるものとする)。
ポリペプチドはまた、既知の従来からの化学合成によって作製することができる。合成手段によってポリペプチドを作製する方法は、当業者に知られている。合成によって作製されたポリペプチド配列は、in vitroでグリコシル化することができる。
望ましい最終純度の程度は、ポリペプチドの目的とする用途によって決まる。たとえば、ポリペプチドがin vivoで投与されることになっている場合は、比較的高い程度の純度が望ましい。そうした場合、ポリペプチドは、他のポリペプチドに相当するポリペプチドバンドがSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分析で検出不能となるように精製される。当業者に当然認識されるように、グリコシル化の差異、翻訳後プロセシングの差異などに起因して、ある当該ポリペプチドに対応して複数のバンドがSDS-PAGEにより可視化されることがありうる。もっとも好ましくは、本発明のポリペプチドは、SDS-PAGEによる分析で単一ポリペプチドバンドにより示されるように、実質的に均一になるまで精製される。ポリペプチドバンドは、銀染色、クマシーブルー染色、および/または(そのポリペプチドが放射標識されている場合には)オートラジオグラフィーによって可視化することができる。
「接触」は、溶液中で、対象にさらすこと、および/または露出させることを意味する。タンパク質もしくはポリペプチドを、固相担体(たとえば、アフィニティカラムもしくはクロマトグラフィーマトリクス)に結合させるのと同時に、酸化還元試薬と接触させることができる。好ましくは溶液は緩衝化されている。望ましいコンフォメーションを有するタンパク質の収率を最大とするために、溶液のpHは、そのタンパク質の安定性を保護するように、さらに、ジスルフィド交換に最適であるように選択される。本発明の実施に際して、溶液のpHは、あまり強酸性でないことが好ましい。したがって、あるpH範囲は、pH5より大きく、好ましくは約pH6から約pH11であり、より好ましくは約pH7から約pH10であって、さらにより好ましくは約pH7.6から約pH9.6である。本発明の限定的ではない実施形態において、至適pHはおよそpH8.6であることが明らかになった。しかしながら、本発明の個別の実施形態に関する至適pHは、当業者により容易に実験的に決定することができる。
酸化還元カップリング試薬は、還元剤の供給源である。還元剤には遊離チオールがある。酸化還元カップリング試薬は、好ましくは、還元型および酸化型グルタチオン、ジチオスレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール、ジチオニトロ安息香酸、システインおよびシスチン/シスタミンからなる群からの化合物で構成される。使用の容易さと経済性のため、還元型グルタチオンおよび/または還元型システインが使用されうる。中性pHでは、システインは互いにジスルフィドを形成してシスチンを生成することに留意すべきである。この酸化反応の速度は、酸素の存在下で増加するが、酸素はしばしば、リフォールディング用に使用される酸化還元溶液などの溶液中に存在する。実際、最初にシステイン(還元剤)のみを含有する中性pHの溶液は、速やかにシスチン(酸化剤)を生成する。したがって、システインだけを添加することによって、酸化還元カップリング試薬を溶液中に導入することができる。
酸化還元試薬は、組換えタンパク質を生産する細胞を増殖させる培養液に加えてもよい。別の実施形態において、この試薬を、組換えタンパク質を分離するためのLC分離ステップの間にLC移動相に加えることもできる。ある実施形態において、タンパク質は、LCカラムの固定相に固定化され、酸化還元剤およびカオトロピック剤は移動相の一部とする。特定の実施形態において、未処理IgG抗体は、ピークの数から明らかなように、不均一な混合物として溶出される可能性がある。酸化還元カップリング試薬および/またはカオトロピック剤の使用は、より単純で、より均一なピークパターンをもたらす。このより均一な目的のピークは、より均一なIgGの調製物として単離されていると考えられる。
酸化還元カップリング試薬は、望ましいコンフォメーションの相対比を高めるのに十分な濃度で存在する。酸化還元カップリング試薬の至適絶対濃度および比は、全IgG、および状況によっては、特定のIgGサブクラスの濃度によって決まる。IgG1分子を調製するために用いられるときは、それはタンパク質中の対をなさないシステインの数および到達しやすさ(accessibility)によって左右されると思われる。
概して、酸化還元カップリング試薬由来の遊離チオールの濃度は、約0.05 mMから約50 mMまで、より好ましくは約0.1 mMから約25 mMまで、さらにより好ましくは約0.2 mMから20 mMまでとすることができる。
さらに、酸化還元カップリング試薬は、酸化型チオールを、還元型チオール成分よりほぼ高濃度、等しい濃度、または低濃度で含有することができる。たとえば、酸化還元カップリング試薬は、還元型グルタチオンおよび酸化型グルタチオンの組み合わせとすることができる。約1:1〜約100:1(還元型チオール:酸化型チオール)の還元型グルタチオンの酸化型グルタチオンに対する比は、同等に良好に機能しうることが明らかになった。あるいはまた、別の実施形態において、酸化還元カップリング試薬は、システイン、またはシステインおよびシスチン/シスタミンの組み合わせとすることができる。したがって、酸化型チオールが最初の酸化還元カップリング試薬に含まれる場合、還元型チオールと酸化型チオールの比は、ある実施形態では、約1:10から約1000:1まで、より好ましくは約1:1から約500:1まで、さらにより好ましくは約5:1から約100:1までであり、さらにいっそう好ましくは約10:1とすることができる。
組換えタンパク質調製物と酸化還元カップリング試薬との接触は、望ましいコンフォメーションの相対比を増加させるのに十分な時間行われる。割合のどのような相対的増加も望ましいが、たとえば、望ましくないコンフォメーションを有するタンパク質の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%および80%までもが、望ましいコンフォメーションを有するタンパク質に変換されることが挙げられる。本発明の方法で達成された典型的な収率は、40〜80%の範囲である。タンパク質が生成されるべき培養液に酸化還元試薬を供与することによって、接触を実施することができる。あるいはまた、該接触は、タンパク質が生成される細胞培養物からタンパク質を部分精製する際に起こる。さらに他の実施形態において、該接触は、タンパク質がHPLCカラムから溶出されたが、さらなる処理をする前に行われる。基本的に、該接触は、抗体の調製、精製、保存もしくは製剤化時のどの段階でも行うことができる。
該接触はまた、IgG抗体がクロマトグラフィーカラムの固定相に結合させた状態で行うことができるが、同時に酸化還元試薬およびカオトロピック試薬を移動相の一部とする。この場合、該接触は、クロマトグラフィー精製法の一部として行うことができる。代表的な、クロマトグラフィーによるリフォールディング法の例には、サイズ排除(SEC);プロテインAカラムでの可逆吸着時の溶媒交換;疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC);固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC);逆相クロマトグラフィー(RPC);固定化されたフォールディング触媒、たとえば、GroEl、GroESもしくはフォールディング特性のある他のタンパク質の使用、を含めることができる。オンカラム・リフォールディングは、市販の調製用クロマトグラフィーシステムを用いて自動化しやすいため、魅力的である。微生物細胞で生成された組換えタンパク質の、カラムでのリフォールディングが、最近(Liら、2004)に概説された。
接触ステップが、組換えタンパク質の部分精製調製物もしくは高純度調製物について行われる場合、その接触ステップは、約1時間〜約4時間という短時間で行うことができるが、約6時間〜約4日という長時間にわたり行うこともできる。約4時間から約16時間または約18時間までの接触ステップが、良好に作用する。固相上、または濾過、もしくは精製における他のいずれかのステップ中、といった別のステップ中に接触ステップを行うこともできる。
本発明の方法は、広い温度範囲にわたって実施することができる。たとえば、本発明の方法は、約4℃から約37℃までの温度で、良好に実施されているが、しかしながら、最良の結果は、より低い温度で達成された。組換えタンパク質の部分精製もしくは完全精製調製物を接触させるための典型的な温度は約4℃から約25℃(周囲温度)であるが、これより低温および高温でも実施することができる。
さらに、高圧で本方法を実施することができると意図される。すでに、高い静水圧(1000〜2000 bar)が、1M未満の低い非変性濃度の塩酸グアニジンと組み合わせて使用され、ヒト成長ホルモンおよびリゾチーム、ならびにβラクタマーゼなどの、大腸菌により封入体として生産されたいくつかの変性タンパク質を脱凝集(可溶化)し、リフォールディングしている(St Johnら、Proc Natl Acad Sci USA, 96:13029-13033 (1999))。βラクタマーゼは、GdmHCl添加なしでも、高収率の活性タンパク質としてリフォールディングされた。別の研究において(Seefeldtら、Protein Sci, 13:2639-2650 (2004))、2000 barで高圧モジュレートされたリフォールディングによって得られた、哺乳類細胞生成タンパク質ビクニンのリフォールディング収率は、RP HPLCにより70%であったが、これは、従来の塩酸グアニジン「希釈リフォールディング」により得られた55%(RP-HPLCによる)の数値より有意に高かった。これらの知見は、高静水圧が分子間および分子内相互作用の破壊を促し、タンパク質のアンフォールディングおよび脱凝集をもたらすことを示す。タンパク質に対する高圧の相互作用は、タンパク質とカオトロピック剤との相互作用に類似する。したがって、本発明の方法において、カオトロピック剤の使用に代えて、タンパク質のアンフォールディングのために高圧が使用されると考えられる。もちろん、高圧とカオトロピック剤の併用も、場合によっては可能である。
組換えタンパク質の調製物を、必要に応じてさまざまな量で、酸化還元カップリング試薬と接触させることができる。たとえば、本発明の方法は、分析的実験室スケール(1-50 mL)、調製スケール(50 mL-10 L)および製造スケール(10 L以上)で良好に実施された。したがって、本発明の方法は、小規模でも大規模でも再現性よく実行可能である。
ある実施形態において、酸化還元試薬を含有する培地を用いて生産されたタンパク質は、たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、尿素、もしくは塩酸グアニジン(GuHCl)といったカオトロピック変性剤を用いた別の処理ステップでさらに処理される。検知できるほどのアンフォールディングが観察されるためには相当量のカオトロピック剤が必要とされる。ある実施形態において、処理ステップは、0.1Mから2 Mまでの塩酸グアニジンの使用と同等の効果をもたらす、0.1Mから2 Mまでのカオトロピック剤を使用する。特定の実施形態において、酸化的リフォールディングは、約1.0 M塩酸グアニジン、または1.0 M塩酸グアニジンと同一もしくは同様のリフォールディング量をもたらす他のカオトロピック剤の存在下で達成される。ある実施形態において、本方法は、約1.5 Mから0.5 Mまでのカオトロピック剤を使用する。
使用されるカオトロピック剤の量は、前記カオトロピック剤の存在下でのタンパク質の構造的な安定性に基づく。タンパク質のドメイン相互作用の局所的な三次構造および/または四次構造を摂動させるのに十分なカオトロピック剤を存在させておく必要があるが、その分子および/または個々のドメインの二次構造を完全にアンフォールドするのに必要とされるよりは少ない。タンパク質が平衡変性によってアンフォールドし始めるポイントを決定するために、当業者は、タンパク質を含有する溶液中のカオトロピック剤を力価測定して、円偏光二色性もしくは蛍光といった技術によって構造をモニターすることができる(図36)。
カオトロピック剤の代わりに使用できる、タンパク質の構造をアンフォールドもしくはわずかに摂動させるために利用可能な他のパラメーターが存在する。温度および圧力は、タンパク質の構造を変更するためにすでに利用されている、2つの基本パラメーターであって、酸化還元剤と接触する間に、カオトロピック剤の代わりに使用することができる。本発明者らは、タンパク質の構造を変性もしくは摂動させることが明らかになっているいかなるパラメーターも、カオトロピック剤の代わりに当業者が利用できると考えている。
ジスルフィド交換は、当業者に知られているいかなる方法によっても抑制することができる。たとえば、酸化還元カップリング試薬を除去してもよいし、またはその濃度を精製ステップを通じて低下させてもよいし、および/または、たとえば、溶液を酸性にすることによって、化学的に不活化させてもよい。典型的には、この反応が酸性化によって抑制されるとき、酸化還元カップリング試薬を含有する溶液のpHは、pH7未満に下げられる。ある実施形態において、pHはpH6未満に引き下げられる。一般に、pHは、約pH2から約pH6の間にまで下げられる。
タンパク質のコンフォメーションの決定、および混合物におけるタンパク質コンフォメーションの相対比の決定は、さまざまな分析技術および/または定性的技術のいずれかを用いて実行することができる。タンパク質のコンフォメーション間に活性の相違があるならば、混合物中のコンフォメーションの相対比の決定は、活性測定(たとえば、リガンドとの結合、酵素活性、生物活性など)によって行うことができる。タンパク質の生物活性も使用することができる。あるいはまた、活性ユニット/mgタンパク質として表される結合アッセイも使用することができる。
2つのタンパク質が、クロマトグラフィー、電気泳動、濾過、もしくは他の精製法といった分離技術においてそれぞれに分離するならば、その後混合物中のあるコンフォメーションの相対比は、そうした精製技術を用いて決定することができる。たとえば、組換えIgGの少なくとも2つの異なるコンフォメーションが、疎水性相互作用クロマトグラフィーを手段として分離可能である。さらに、遠紫外域円偏光二色性を用いて、タンパク質の二次構造の構成が推定されているが(Perczelら、1991, Protein Engrg. 4:669-679)、こうした技術は、タンパク質の他にとりうるコンフォメーションが存在するかどうかを決定することができる。コンフォメーションを決定するために使用されるさらに別の技術は、蛍光分光法であるが、これは、トリプトファンおよびチロシン蛍光に割り当て可能な三次構造における相補的相違を確認するために用いることができる。コンフォメーションの相違、したがってコンフォメーションの相対比を決定するために使用することのできる他の技術は、凝集状態を測定することができるオンラインSEC、融解転移(Tm)および成分エンタルピーを測定することができる示差走査熱量測定法、ならびにカオトロピック剤アンフォールディングである。下記に詳細に記載されるある実施形態において、本発明はLC/MS検出を使用して、タンパク質の不均一性を測定する。
「単離する」という用語は、混合物中の少なくとも一成分の、混合物中の他の成分からの物理的分離を意味する。成分を、もしくはタンパク質の特定のコンフォメーションを単離することは、こうした成分を分離することにつながるいかなる精製法を用いても達成することができる。したがって、下記のRP-HPLCに加えて、複数のクロマトグラフィーステップを実施することができ、これはHIC、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティ、およびSECを含めるがそれに限定されない。他の精製法は、2〜3例を挙げると、濾過(たとえば、接線流濾過)、電気泳動技術(たとえば、電気泳動法、電気的溶出法、等電点電気泳動法)、および相分離(たとえば、PEG-デキストラン相分離)である。さらに、望ましくないコンフォメーションのタンパク質を含有する組換えタンパク質調製物の画分を、さらに本発明の方法で処理して、望ましいコンフォメーションを有するタンパク質の収率をさらに最大限に高めることができる。
本発明はまた、さらにタンパク質の製剤化を含んでもよい。「製剤化」という用語は、タンパク質を、バッファー交換、滅菌、バルク包装、および/または最終ユーザー向けに包装することを意味する。本発明の目的上、「無菌バルク形態」という用語は、製剤が微生物汚染のないこと、または基本的に微生物汚染のないこと(食品および/または医薬品の目的に向けて容認できる程度に)、および規定の組成および濃度を有することを意味する。「無菌単位剤形」という用語は、顧客および/または患者の、投与もしくは消費に適した形態を意味する。こうした組成物は、有効な量のタンパク質を、他の成分、たとえば、生理的に許容される希釈剤、キャリア、および/または賦形剤と組み合わせて含んでなることができる。「製薬上許容される」という用語は、活性成分の生物活性の有効性を妨害しない、毒性のない物質を意味する。投与に適した製剤には、抗酸化剤、バッファー、静菌薬、および製剤をレシピエントの血液と等張にする溶質を含有する、水性および非水性無菌注射溶液;ならびに懸濁化剤もしくは増粘剤を含有することができる、水性および非水性無菌懸濁液がある。さらに、無菌バルク形態および無菌単位剤形は、低濃度(約1μMから約10 mM)の酸化還元カップリング試薬(たとえば、グルタチオン、システインなど)を含有してもよい。医薬品として有用な組成物を調製するために使用される既知の方法にしたがって、ポリペプチドを製剤化することができる。ポリペプチドは、単独の活性物質として、または所定の適応症に適した他の既知の活性物質と共に、製薬上許容される希釈剤(たとえば、生理食塩水、Tris-HCl、酢酸、およびリン酸緩衝液)、防腐剤(たとえば、チメロサル、ベンジルアルコール、パラベン)、乳化剤、可溶化剤、補助剤および/または担体とともに、混合製剤に組み込むことができる。医薬組成物に適した製剤には、Remington's Pharmaceutical Sciences, 第16版、1980, Mack Publishing Company, Easton, Paに記載のものがある。さらに、こうした組成物は、ポリエチレングリコール(PEG)、金属イオンと複合体を形成すること、および/または、ポリ酢酸、ポリグリコール酸、ヒドロゲル、デキストランなどといったポリマー化合物に組み込まれることもあるが、リポソーム、マイクロエマルション、ミセル、ユニラメラもしくはマルチラメラベシクル、赤血球ゴーストもしくはスフェロプラストに組み込まれてもよい。リポソーム製剤に適した脂質には、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸などが含まれるがそれらに限定されない。こうしたリポソーム製剤の調製は、たとえば、米国特許第4,235,871号、第4,501,728号、第4,837,028号、および第4,737,323号に記載されるように、当分野の技術水準の範囲内である。こうした組成物は、物理的状態、溶解性、安定性、in vivo放出率、およびin vivoクリアランス率に影響を及ぼすので、使用目的に応じて選択されるが、担体の特性は選択される投与経路によって決まってくる。使用に適した持続放出剤形は、ゆっくり溶解する生体適合性ポリマー(たとえば、米国特許第6,036,978号に記載のアルギン酸微粒子)のカプセルに封入されたポリペプチド、そのようなポリマー(一般に適用されるヒドロゲルを含める)と混合されたポリペプチド、および/または生体適合性半透性インプラント中に入れられたポリペプチドを包含するがそれに限定されない。
本発明の方法は、組換えIgG(たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)タンパク質の分析に有用であり、そうした高分子量タンパク質の分析に特に有用である。本方法はまた、高分子量のタンパク質単量体およびタンパク質ヘテロ多量体、たとえば抗体の分析に有用である。これらのタンパク質は、オリゴ糖部分などのような翻訳後修飾を含むと考えられる。特定の実施形態において、本発明の方法は、抗体および抗体ドメインの分析に使用される。ある例において、本方法は、インタクト抗体を含めて90kDaより大きい分子量を有するタンパク質の分析、90kDaより大きい分子量を有する任意のタンパク質の三次構造の分析に使用される。当然のことながら、分子量は、アミノ酸配列に基づいて算出され、たとえば糖鎖修飾のような、タンパク質の既知の翻訳後修飾を含める。本方法は、タンパク質のオリゴ糖組成、切断、二量体もしくは多量体形成、および酸化、異なるジスルフィド構造を有する構造変異体、ならびに/またはタンパク質内部の特定のアミノ酸を特徴解析するために適用される。
ある実施形態において、本発明の方法は、抗体および抗体フラグメントを分析するために使用される。分析されるサンプルは、Fcドメインおよび2つのFabドメインを含んでなるインタクト抗体を含有することができる。あるいはまた、本発明の方法は、たとえば、Fcドメイン、または2つのFabドメインの一方もしくは両方、といった抗体の一部分の構造を分析するために使用される。本発明の方法は、インタクト抗体の部分切断産物の分析に有用であると特に予想される。こうした切断は、RP-HPLC分離に先立って行うことができる。典型的なタンパク質分解は、たとえば、パパイン、lys-Cプロテアーゼもしくはペプシンといった酵素を用いて行われ、ヒンジ領域での抗体切断を生じる。あるいはまた、切断は還元剤を使用し、抗体構造の2つの鎖をつなぐジスルフィド結合を還元する。このような還元は、たとえば、ジチオスレイトール、メルカプトエタノール、トリブチルホスフィン、およびトリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩を用いて行うことができる。抗体およびそのフラグメントの調製に使用される分析法および調製法を概観するために、当業者は、JosicおよびLim: Methods for Purification of Antibodies, Food Technol. Biotechnol. 39 (3) 215-226 (2001)を参考とする。
典型的な実施形態において、限定的なタンパク質分解は、10〜60分までpH範囲7.0〜8.0でエンドプロテイナーゼLys-Cを用いて達成される。こうした消化は、酵素:タンパク質のモル比1:150で37℃にて変性を伴わずに行われる。これにより、2〜3の大きな抗体フラグメントが、タンパク質の過度の切断なしに生成する。限定的タンパク質分解産物を、その後本明細書に記載のRP-HPLC/MS法に供する。こうしたタンパク質の限定分解によって、IgG1のヒンジ領域でFabおよびFcフラグメントが生成した。こうした方法は、メチオニン残基の酸化に起因するフラグメント質量の+16Daの増加を検出すること、ならびに不完全なジスルフィド結合形成に起因する+2 Daの増加を検出することを可能にした。
本発明の方法を用いて、未変性(native)のタンパク質、融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、一本鎖抗体などを分析することができる。ある例において、本方法を用いて、40 kDa、50kDa、55kDa、60kDa、65kDa、70 kDa、75kDa、80kDa、85kDaほどの、またはそれより大きいと思われる、あらゆる抗体もしくはそのフラグメントを分析することもできる。ある実施形態において、RP-HPLCカラムにかける抗体は、インタクトFab領域である。他の実施形態において、分析される抗体は、抗体のFc領域の切断によって生じる(Fab)2領域である。同様に、本発明の方法を用いて、上記の切断から生成する、抗体のFc領域を分析することもできる。特定の実施形態において、分析される抗体は、インタクトFc領域および1つだけのインタクトFab領域を含む。その上、本発明の方法は、抗体Fc領域およびそれに結合した追加ペプチドを含んでなるタンパク質、または抗体のFab領域をそれに結合した追加のペプチドとともに含んでなるタンパク質を分析するために使用される。
本発明の方法を使用して、組換え抗体を分析することができる。組換え抗体は、Fcドメインを含有してもよく、Fcドメインを含有しなくてもよい。特に多価抗体を、本発明によって分析することができる。本明細書で使用されるとき「多価抗体」は、2以上のエピトープに対する結合ドメインを含有する組換え抗体様分子である。たとえば、こうした抗体由来タンパク質には、抗体Fab鎖が結合ドメインに融合されている分子が含まれる(たとえば、Fab-scFv bibodyもしくはtribody)。こうした分子は、Fcタンパク質を含有しない、有用な中程度の分子量の組換え二重特異性抗体である。Fcドメインを欠いた抗体の作製が有利であるのは、抗体関連治療用分子にFcドメインが存在すると、肝臓での代謝から保護されることによって、その分子の血清持続時間が長くなる傾向があり、Fc受容体との相互作用を介して他の細胞と交差結合することもあり、それによって、免疫エフェクター細胞の全身性トリガリングに起因する有害な副作用を生じるためである。したがって、ある種の抗体関連治療用分子はFcドメインを持たない。当業者は、こうした抗体関連分子を操作する方法を承知している。たとえば、多重特異性抗体を効率よく作製するために、抗体由来のビルディングブロック(たとえば、Fc、(Fab')2、Fab、scFv、ダイアボディ)をヘテロ二量体化モチーフと組み合わせることにより、組換え抗体を作製することができる。
本発明の方法は、抗体、および詳細には治療用抗体の完全性を決定するときに特に有用である。抗体は、本明細書に記載のRP-HPLC/MS法を用いて、抗体分解産物の存在を測定するために、分離および分析される。本明細書に記載の方法は、当業者に、二量体、抗体切断産物、脱アミドの存在、酸化の存在、またはN末端ピログルタミン酸の形成もしくは抗体ジスルフィド結合のスクランブリングを評価することを可能にする。これらの特徴はいずれも、抗体において生じ、抗体の構造的完全性を損なう分解である。
下記の実施例において説明される方法は、医薬用抗体およびその分解産物の改善されたクロマトグラフィー分離、および正確な分子量測定を示す。その方法は、1つのアミノ酸残基(たとえば、グリシン57 Da)もしくは1つの糖成分(たとえば、ガラクトース162 Da)だけ異なっている単一抗体の2つのバリアントの間で質量の相違を測定することができる、高分解能高精度質量分析計を利用する。分析計の質量分解能は、分子量150 kDaの典型的なIgG抗体については、少なくとも3000であるべきである。質量分解能は次のように計算される:
ある実施形態において、本発明の方法は、100 kDaより大きい抗体もしくはタンパク質の質量の、酸化の前後での変化、すなわち16 Daの質量の相違を検出することができる。これは、典型的な抗体について10,000の質量分解能をもたらす。本発明の方法はさらに下記の実施例において説明される。
下記の実施例は、本発明の実施形態の一部を説明するために組み込まれる。当業者には当然のことながら、以下の実施例に記載の技術は、本発明の実施に際して十分に機能する、本発明者らによって発見された技術の典型を示し、したがって実施のための好ましい態様に相当すると考えられる。しかしながら、当業者らは、本発明の開示に照らして、開示された具体的な実施形態において多くの修正を行うことができることを認識し、それでもなお、本発明の精神および範囲から逸脱することなく類似した、もしくは同様の結果を得るはずである。
米国仮出願第60/621,295号(参考として本明細書に組み込まれる)は、酸化還元剤、および場合によりカオトロピック剤の存在下でのIgG2分子のリフォールディングを開示する。このリフォールディングされたIgG2の生物活性は、カオトロピック剤なしでリフォールディングされたIgG2より6倍高く、タンパク質のリフォールディングをもたらすために酸化還元剤を使用せずに調製されたIgG2バルク抗体より3〜4倍高かった。前述の出願によれば、リフォールディングされたIgG2を用いて、より少ないタンパク質量を使用しても、より効果の大きいIgG2用量を送達することが可能となっている。生物学的に有効な反応をもたらすために必要とされるタンパク質の全体量の、こうした減少が有利であるのは、動物に送達されるべきこのようなタンパク質量が減少すると、たとえば、静脈内もしくは皮下注射によって送達されたときに生じる有害反応が少なくなる可能性が高いためである。
下記の実施例は、組換えIgG分子の有利なリフォールディングを達成するための典型的な実施形態を提供する。
実施例1.
タンパク質のリフォールディングの検討
大腸菌で生産されたタンパク質のリフォールディング。大腸菌で生産されたタンパク質のリフォールディングにおける進歩は、最近、Rudolphおよび共同研究者ら (Lilieら、1998; RudolphおよびLilie, 1996)によって概説された。この著者らは、タンパク質のフォールディング(折り畳み)が、タンパク質製造の機構においてもっとも複雑なメカニズムの1つであること、ならびに「バッファー組成、タンパク質濃度、温度などに関する具体的な条件はタンパク質毎に最適化されなくてはならない」ことを指摘した。謝ったジスルフィド結合は、問題の一つである。大腸菌のペリプラズムにおいて謝ったジスルフィド結合の修正を促す一つの方法は、ジスルフィドイソメラーゼである内在性ペリプラズムDsbCタンパク質を過剰発現させることである。もう一つの方法は、チオール試薬の存在下で培養することであるが、これは正しくないジスルフィド結合の入れ替えをもたらし、複数のジスルフィド結合を含有する未変性タンパク質の収率を高めることが立証されている(Glockshuberら、Verbessereung der ausbeute bei der sekretion von disulfidverbruchten proteinen. [特許第0510658 B1号], 1992; Wunderlichら、 J. Biol. Chem., 268:24547-24550, 1993)。タンパク質リフォールディングに関するいくつかの他の特許が、(Lilieら、Curr. Opin. Biotech., 9:497-501, 1998)に記載されている。プロ配列が、大腸菌封入体由来のヒト神経成長因子(Rattenhollら、Eur. J. Biochem., 268:3296-3303, 2001)を含めていくつかのタンパク質のフォールディングを促進することも明らかになった。
マウスモノクローナルIgG抗体のフォールディング中間体。サブクラスk/IgGlのマウス抗体のフォールディング経路が(Lilieら、J. Mol. Biol., 248:190-201, 1995b)において詳細に調べられたが、これにはドメインフォールディング、ジスルフィド結合を介した会合、およびプロリル シス/トランス異性化が含まれる。この研究は、Fab再生において、Fdおよび軽鎖の会合後のフォールディング反応はプロリル異性化によって決まることを確認した。軽鎖のフォールディング段階および少なくとも1つのプロリル-ペプチド結合の立体配置に応じて、少なくとも4つのフォールディング中間体を想定すべきである。Fdフラグメント内のPro159は、観察される遅いフォールディング段階の原因であると考えられ、異性化を進めるために四次構造を必要とするが三次構造は必要としない(Lilieら、J. Mol. Biol., 248:190-201, 1995b)。同じFab抗体フラグメントについて、ドメイン-ドメイン相互作用がフォールディングの律速段階であることが判明し、したがって、フォールディングの後期段階でフォールディング中間体が蓄積した(Lilieら、Protein Sci., 4:917-924, 1995a)。これに先立って、Lilieら(Lilieら、Protein Sci., 2:1490-1496, 1993)は、プロリルイソメラーゼ(PPI)のうちのいくつかが、抗体Fabフラグメントのin vitroフォールディングプロセスを促進し、正しく折り畳まれた分子の収率を高めることを示した。これらは、Xaa-Proペプチド結合の、時間を限られた異性化を促進することによってタンパク質フォールディングの触媒として作用した(Lilieら、Protein Sci., 2:1490-1496, 1993)。
マウスモノクローナルIgG抗体の別の折り畳み状態。未変性の状態とは異なる、また別の折り畳み状態が、インタクトなジスルフィド結合を有するモノクローナル抗体について記載されている(Buchnerら、Biochemistry, 30:6922-6929, 1991; Welfleら、Biochim. Biophys. Acta, 1431:120-131, 1999)。このコンフォメーション状態は、酸性pH(<3)にて、未変性の、もしくは変性したIgG分子のいずれか一方をインキュベートしたときに生じることが報告されている。このA状態は、高度な二次構造、疎水性の増加、変性剤および熱変性に対する安定性の増加、ならびに三次構造の存在を特徴とする(Buchnerら、Biochemistry, 30:6922-6929, 1991)。マウスモノクローナル抗体の還元型Fabフラグメント、およびその還元された軽鎖が、低いpHで、固有の安定な、しかし未変性型ではない構造を形成することが明らかになった(Buchnerら、J. Biol. Chem., 318:829-836, 2002)。還元型軽鎖の別途折り畳み状態の見かけの安定性が、酸化された軽鎖のそれより高いことは興味深く、このことは、未変性状態の安定性にとって重要なドメイン内ジスルフィドが、この別の折り畳み状態を不安定化することを示唆する(Buchnerら、J. Biol. Chem., 318:829-836, 2002)。Fabフラグメントにおける鎖間ジスルフィドによって安定化される、軽鎖および重鎖間の相互作用が、このもう一つの折り畳み状態の形成に必須であることが明らかになった(Lilieら、FEBS Lett., 362:43-46, 1995)。Welfeらは、pHをpH3.4-2.0の間に低下させることが、コンフォメーションの変化、および新構造の形成を引き起こすことを見出し、アフィニティカラムからの脱離は、pH3.5以上で行うべきであることを示唆した(Welfleら、Biochim. Biophys. Acta., 1431:120-131, 1999)。
GndHClおよびL-アルギニンを用いた免疫グロブリン折り畳みタンパク質のリフォールディング。GnHCl、グルタチオン、L-アルギニンといった添加物の、免疫グロブリン折り畳みタンパク質のリフォールディングへの影響は、(Umetsuら、J. Biol. Chem., 278:8979-8987, 2003)で検討された。1 M GndHClでの自然発生的なフォールディングの結果、正しいジスルフィド結合の達成された構造となったが、しかしながら、L-アルギニンの添加は、結果的に、ジスルフィド結合のない、部分的に折り畳まれた中間体の形成をもたらした(Umetsuら、J. Biol. Chem., 278:8979-8987, 2003)。
実施例2.
ヒトモノクローナルIgG2抗体における構造的不均一性の認識
ヒトIgG1抗体のX線結晶学写真が、いくつかの報告において発表されている(Saphireら、Science, 293:1155-1159, 2001; Saphireら、J. Mol. Biol., 319:9-18, 2002)。たとえば、Saphireら、(2001)は、ヒトIgG1 b12抗体のX線結晶学トレース図を示した。しかしながら、現在まで、IgG2抗体のX線結晶構造の解決はなされていない。本発明は、ヒトIgG2抗体が構造的な不均一性を有すること、ならびに、こうした不均一性がIgG2のX線結晶学データをとる困難さの原因である可能性があることを示す。
逆相(RP)HPLC/MSおよび陽イオン交換(CEX)HPLC法実験から得られたデータは、調べたIgG2抗体のすべてが、RPおよびCEXクロマトグラムで複数ピークを示すのに対して、IgG1抗体は単一ピークとして溶出することを明らかにした。図1は、IgG1およびIgG2形態に組み入れられた同じCDRを有する、組換えヒト抗体のRPクロマトグラムを示す。アミノ酸配列は、これら2つの分子の間で95%の相同性を有するが、RPクロマトグラムもやはり異なっており、IgG2については複数のピーク、およびIgG1については単一のピークが含まれる。IgG2のCEXクロマトグラフィーは、RPクロマトグラフと比較して同様のピークのプロフィールを示す(図2)。集められたCEX画分をRPカラムに再注入したのち、全IgG2サンプルのRPピークとともに溶出した(図2)。
高分解能Micromass/Waters Q-TOF質量分析計を用いて、RP HPLCによって分離されたピークのマススペクトルを得た。図3Aは、215 nmのUV吸収、および質量分析計の全イオン流の両者を使用することによって検出されたIgG2抗体のRPクロマトグラムを示す。この図は、ピーク1が他のピークに比べて小さい質量分析電流を与えることを示す。図3Bは、ピーク1において溶出したIgG2イオンが、イオンに53の正電荷をあたえる最大53個のプロトンをイオン表面に有することを示す。ピーク1のIgG2分子イオンは、ピーク2、3および4として溶出する他のIgG2分子より少ない約6個のプロトンを収容するが、このことはピーク1がIgG2分子を含有し、この分子がこのサンプルの他の溶出分子と比べてよりコンパクトに折り畳まれていることを示す。ピーク1の、表面電荷のより少ないイオンも、より小さいTICシグナルを生じる(図3A)。他方、デコンヴォルーションされたエレクトロスプレーイオン化マススペクトルは、RP HPLCにより分離されたIgG2アイソフォームのすべてが、±2 Daの機器の質量精度の範囲内で、同一の分子量(MW)値を有することを明らかにする。この知見は、IgG抗体の報告された構造的修飾のほとんどの可能性を排除する。還元およびアルキル化の後、IgG1およびIgG2抗体の両方に関するRPクロマトグラフィーは、不均一性のない軽鎖および重鎖に対する細いピークを与える。還元が不均一性を排除するという事実は、不均一性がジスルフィド結合性に関連することを示す。
抗体のIgG1およびIgG2サブクラスは、ヒンジ領域の構造が異なるが、この領域は、IgG1では2つ、およびIgG2では4つの鎖間ジスルフィド結合を包含する(図4および43)。上記の研究から強く示唆されるのは、複数のIgG2アイソフォームには、ヒンジ領域において異なるジスルフィド結合性を有する分子があることである。
上記の結果を分析して、本発明者らは、IgG2分子がいくつかの構造バリアントを有するが、これらはヒンジ領域のジスルフィド結合性が異なると結論付けた。図4は、Kuby Chapter 4 Immunoglobulins: Structure and Function, 2002から借用したが、免疫グロブリンの4つのサブクラスすべてを従来の教科書的構造として示す。実際には、Aalberse およびSchuurman (Aalberseら、Immunology, 105:9-19, 2002)による研究から、好ましいIgG4立体配置において、CH1領域はこの抗体のCH2ドメインと相互作用することが確認された(図5)。図4は、IgG4の構造が、ヒンジ領域に4つのジスルフィド結合を含んで非常に類似していることを示す。ヒンジ部のアミノ酸配列に相違があり、したがってIgG2およびIgG4の立体配置は、同じであると期待されないが、類似性を有する可能性があり、場合によっては、図5のIgG4抗体のように折り畳まれる可能性もある。
Phillipsら(Phillipsら、Mol. Immun., 31:1201-1210, 1994) による別の研究は、電子顕微鏡および沈降分析を用いて、IgG2の形態の分布を、抗体の他の3つのサブクラスと比較して示した。上記研究者らは、他のサブクラスと著しく異なる複合体の分布を観察した。環状二量体、直鎖状二量体および大量の単量体が見られた。これは、IgG2のFabアームの方向性に起因する、閉環へのエネルギー障壁の点から、分析用超遠心機を用いて観察される主要な複合体としておそらく直鎖状二量体をもたらすと解釈された。沈降データ(図6)は、部分的に分解された複数のピークを示し、さらに、IgG2分子が構造的に不均一であることを示す(Phillipsら、Mol. Immun., 31:1201-1210, 1994)。別の論文において、Gregoryら (Gregoryら、Mol. Immun., 24:821-829, 1987) は、ヒトIgGのサブクラスの沈降法、およびX線小角散乱解析の使用を記載した。この著者らによれば、IgG1は長さ0-15Åのヒンジ部および同一平面にないFabアームを有し、IgG2は折り返されたFabアームを伴って事実上ヒンジのないことが示唆される。上記2つの報告(Gregoryら、Mol. Immun., 24:821-829, 1987; Phillipsら、Mol. Immun., 31:1201-1210, 1994)は、IgG2が、折り返されたFabアームを伴う立体配置を含めて、いくつかのコンフォメーション状態を有する可能性があることを示唆する。図7は、最新報告の著者により提案された、IgG2抗体のいくつかの構造を記載する。図7はまた、X線結晶学を用いた研究から唯一報告されたIgG1抗体の構造も記載する。
実施例3.
酸化還元試薬の存在下でのIgG2抗体のリフォールディングはIgG2の構造的不均一性を低下させ、その活性を高める
上記研究は、IgG2抗体の活性を検証するために、その抗体をリフォールディングするという考えに至った。リフォールディングは、システイン-シスチン含有バッファー、pH 8.4中で、抗体を72時間インキュベートすることによって行われた。
本研究で使用される好ましい酸化還元カップリング系は、酸化還元カップリング試薬としてのシステイン/シスチンである。出発材料は、IgG2抗体の精製調製物とした。バッファーはpH 8.5の0.1 Mクエン酸塩もしくは0.2 M Trisとした。反応液中のIgG2のタンパク質濃度は、0.5 mg/mLから10 mg/mLまでさまざまであった。好ましい例において、タンパク質は2.5 mg/mLから3 mg/mLまでの範囲であった。
L-システイン(0-50 mM)の酸化還元カップリング系を利用し、等量のL-システインの存在下もしくは非存在下で、しかも1 mM EDTAの存在下および非存在下で、その方法を評価した。インキュベーション温度は、4℃、15℃および22℃にて、6、18、および48時間で評価した。上記実施例に記載のように、ならびにDillonらの米国仮出願第60/621,295号およびPCT/US05/001840における図1から図15までの図の説明文に記載のように、処理された組換えタンパク質調製物の特徴を、RP-HPLCによって明らかにした。
酸化還元系が約0.1 mMから約10 mMまでのシステイン、および約0.1 mMから約10 mMまでのシスチンを含有するとき、リフォールディングが容易に生じることがわかる。システイン/シスチンは、1:1の濃度比で存在することができるが、そうでなくてもよい。
それに加えて、プロトコルはバッファー中に0.9 M GndHClを包含し、酸化還元中に構造をややアンフォールディングした(緩めた)。図8は、2つのリフォールディング実験の結果を示す。その結果は、IgG2抗体の2つのリフォールディングされたサンプルは構造的に均一で、RPクロマトグラフ溶出プロフィールのピーク1および3で共溶出されることを示す。
さらに別の使用可能な酸化還元カップリング系は、還元型グルタチオンおよびグルタチオン(GSH/GSSG比10:1)を0.1から5 mM GSHまでのさまざまな濃度で加えた系である。この酸化還元カップリング試薬の存在下での、インキュベーションのpHおよび温度の影響を、評価することができる。pHはpH 5からpH 9まで変化させることができる。インキュベーション温度は、4℃、22℃、または31℃とすることができる。他の実施形態において、GSH/GSSG酸化還元カップリング系でIgG2をインキュベートする温度を変化させた。リフォールディングは室温で、4℃より効率的である(図52)。
0.89M塩酸グアニジン存在下でリフォールディングされたIgG2の生物活性は、塩酸グアニジンなしてリフォールディングされたIgG2より6倍高く、タンパク質のリフォールディングをもたらす酸化還元剤の使用なしに調製されたIgG2バルク抗体より4倍高かった(図47)。
リフォールディング法は、グラムおよびキログラム単位のCHO産生IgG2バルク材料に対して実施することができ、グラム材料当たりの活性型IgG2の濃度を相当に高め、製剤溶液のタンパク質濃度を低下させることができる。こうして提供されたタンパク質の塩酸グアニジン処理は、さらに、生物活性タンパク質の収率を高めることができる。本明細書に記載のRP-HPLC/MS研究から、IgG2抗体はいずれも複数の形態を有し、提示されたリフォールディング法によって修正されうることがわかる。
リフォールディングされたIgG2を用いて、使用するタンパク質量が少なくても、より効果の大きいIgG2投与量を送達することができる。生物学的に有効な反応を生じるために必要とされるタンパク質総量のこうした減少は有利であると考えられるが、その理由は、動物に送達されるべき当該タンパク質量の減少が、たとえば静脈内もしくは皮下注射により投与されたときに、発生する副作用を少なくする可能性が高いためである。本発明の方法は、好都合なことに、IgG2の均一な調製物の作製を可能にし、こうした調製物は多くの場合、IgG1と比較して好ましい、抗体医薬品の様相をなすが、その理由は、IgG2と比べて、IgG1の補体結合活性を高めることに伴うより多くのリスクが存在するためである。
上記の酸化還元剤を用いた典型的なプロトコルは、組換えにより生産されたIgG2の精製調製物を処理しているが、こうした酸化還元カップリング系の存在下で、その試薬をタンパク質が産生される細胞培養の培地に添加して、IgG2を生産することができると考えられる。あるいはまた、酸化還元剤は、タンパク質の精製後に加えることもできる。さらに、本明細書で与えられる実施例は、IgG2の不均一性を調べることを目的としているが、その方法は、翻訳後リフォールディングを受ける任意の組換えタンパク質であって、スクランブルを受けやすいジスルフィド結合の存在に起因する不均一性を示す、前記タンパク質に容易に適用および使用することができると考えられる。本明細書に記載の方法は、たとえば、IgG3およびIgG4抗体といった、不均一性を示す可能性のある他のIgGの生産に特に有用であると考えられる。
実施例4.
ヒトモノクローナルIgG2抗体のコンフォメーション上のアイソフォームの発見および性質検討に関する詳細研究
微生物細胞において産生されるヒト治療タンパク質は、往々にしてミスフォールドされ、不溶性の封入体として蓄積される。このタンパク質は生物活性を得るために、その後、酸化還元条件下でカオトロピック剤を用いてリフォールディングされなければならない。最近まで、ヒト治療タンパク質の哺乳類細胞生産は、正しい折り畳みを有し、翻訳後修飾を受けた産物を生成すると考えられてきた。この実施例において、抗IL-1R IgG2抗体および他のいくつかのIgG2抗体について、同定された4つの構造バリアントが存在する。これらの新たに同定された構造バリアントは、IgG2サブクラスに特有である(組換えIgG2および天然に存在するIgG2の両者において)が、IgG1もしくはIgG4には見られなかった。この所見に基づいて、ヒト免疫グロブリンのIgG2サブクラスが、構造バリアントに相当するサブクラスにさらに分けられることが提案される。
材料および方法
下記の材料および方法は、この実施例において使用した典型的な方法である。同様の方法は、他の実施例において具体的に示したように、そうした例においても使用された。当然のことながら、これらの典型的な方法は、本発明に照らして他のIgG部分の分析に使用するために、容易に修正することができる。
本研究で使用される抗IL-1R IgG2抗体および他のヒトモノクローナルIgG抗体は、標準的な製法によって、組換え発現ならびに精製された。血漿由来のIgG2κヒト骨髄腫はSigmaから購入した(# I5404)。
リフォールディング手順:本発明で使用されるリフォールディング手段の、もう一つの具体例において、ヒトモノクローナル抗IL-1R IgG2抗体を、2つのバッファー中3 mg/mL または10 mg/mLでインキュベートした:1) 200 mM Trisバッファー、pH 8.0(未変性リフォールディング);2) 200 mM Trisバッファー、pH 8.0、0.9M GuHCl含有(GuHClリフォールディング)。システインの組み合わせ:シスチンをそれぞれ6 mM:1 mM (3 mg/mL) および10 mM:1 mM (10 mg/mL) のモル比で添加した。シスチンの正確な濃度はシスチンの安定性が乏しいため測定されなかったが、シスチンは重量の減少により上記の比の範囲内で与えられた。サンプルは48時間、2-8℃においた。他の試験済みのリフォールディング条件には、カオトロピック剤としてアルギニンおよび尿素を使用すること、異なるシステイン比:シスチンおよびシスチンの代わりにシスタミンを使用すること、0-2 MのGuHCl濃度範囲、ならびに酸化還元プロセス中の複数の温度がある。
インタクト抗体のCEX分析:25℃にて0.80ml/分の流速で作動するDionex WCX10弱陽イオン交換カラムにタンパク質を注入した。移動相において溶媒Bの濃度を高め、それに対応してAを減少させることにより濃度勾配溶出法を用いた。溶媒Aは20 mM酢酸ナトリウム、pH 5.0であり、溶媒Bは20 mM酢酸ナトリウム、0.5 M NaCl、pH 5.0を含有した。
インタクト抗体および抗体フラグメントの逆相LC/MS分析:タンパク質を、75℃で作動するZorbax 300SB C8カラムに注入した。最適化された方法では、0.1% TFAとともにイソプロピルアルコールおよびアセトニトリルからなる混合物で構成される移動相を使用した。Agilent 1100 キャピラリ HPLCシステムをオンラインで、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源を搭載するWaters Q-Tof Micro質量分析計に接続した。ESI-Q-TOF質量分析計は、キャピラリ電圧3400V、サンプルコーン電圧70-100 V、m/z範囲1000-5000、ならびに質量分解能5000で、陽イオンモードにて実施された。機器は、ウシ トリプシノーゲン、MW23981.0, Sigma T1143の多価イオンを用いて、調整し、キャリブレーションされた。ESIマススペクトルのデコンヴォルーションは、Waters 製MassLynx ソフトウェアのMaxEnt1アルゴリズムを用いて実施された。
ペプシンを用いたタンパク質の限定分解:ヒトIgG2のペプシン消化は(TurnerおよびBennich, 1968, Biochem.J., v. 107, p. 171-178)に記載されるのと同様の方法で実施されたが、pHはより低く、時間はより短くした。抗IL-1R IgG2抗体およびいくつかの他のIgG2抗体は、ペプシンを用いたタンパク質の限定分解を受けたが、これはpH 2.5にて1時間、100 mM酢酸アンモニウムバッファー、pH2.5、中で、室温にて、ペプシンを1回添加して行われた。この消化は、変性させることなく酵素によって、タンパク質比(w:w)1:50で行われた。
還元、酸化、およびトリプシン消化:還元およびアルキル化は、変性条件下でIgGを用いて行われ、さらに分析によって特徴付けるために、遊離の重鎖および軽鎖を生成させた。抗体を7.5 M塩酸グアニジン(Mallinckrodt, # 7716)、0.1 M Tris-HCl (Fluka)、1 mMエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA, Sigma # 6281-92-6)pH 7.5で、2 mg/mLに希釈して、容量0.5 mLとなるようにした。0.5Mジチオスレイトール(DTT、Sigma D5545)原液の5 μLを加えて、5 mM DTT濃度となるようにし、この反応混合物を37℃にて30分間放置した。次に、タンパク質溶液を室温に冷却し、0.5Mヨードアセトアミド(IAM, Sigma # I1149)原液から13 μLをとってこれに加え、13 mM IAMとした。アルキル化は、室温にて40分間、遮光した状態で行った。還元およびアルキル化された材料の0.5 mL量を10 mM酢酸ナトリウム(JT BAKER, Phillipsburg, NJ, # 9526-03)pH 5.0、1 mLと交換して、タンパク質の終濃度1 mg/mLとした。バッファー交換は、Sephadex G-26担体(Pharmacia Biotech)を充填したNAP-5ゲル濾過カラムを用いて行った。シークエンシンググレードのトリプシンによる消化は、前項から得られた還元およびアルキル化IgGを使用して行った。凍結乾燥トリプシン(Worthington # 3744)を水に懸濁して、終濃度0.50 mg/mLとした。還元バッファーは、0.1 M TRIS、1 M 尿素、20 mM ヒドロキシルアミン(Sigma # H9876)、pH 7.5を含有する消化バッファーによって交換された。1 M尿素および20 mMヒドロキシルアミンを加えて、軽鎖および重鎖の溶解性を高め、対応するカルバミル化からタンパク質を保護した(Cohen, 1968, Ann.Review Biochem., v. 37, p. 695-726)。トリプシン消化は、酵素:タンパク質比1:50として37℃にて一晩(15時間)行われた。消化物は少量の20%ギ酸を添加して終濃度0.2%ギ酸となるようにした。消化物は、RP LC/MSのために4℃に維持されるか、またはその後の分析のために凍結された。少量の抗体が、同様の手順を用いて、より少量で、同じ成分モル比で、還元、アルキル化、ならびに消化された。
トリプシンペプチドのHPLC:UV検出器、オートサンプラー、マイクロフローセル、および温度制御カラムコンパートメントを装備したAgilent 1100 HPLCユニットを用いて、逆相HPLCによって、トリプシンペプチドを分離した。粒径3μm、孔径300ÅのC18樹脂(Varian, Torrance, CA, USA)を充填したPolaris Etherカラム、250 x 2 mm、を、ペプチドマップ分離のために使用した。溶媒は下記とした:A = 0.1% TFAトリフルオロ酢酸を水中に含む、ならびにB = ACN: 水: TFAが90:9.015:0.085である。手順は次の通りとした。トリプシンペプチドをRP HPLCカラムに注入し、そのカラムを次に100% Aで平衡化した。0-50% Bの直線的濃度勾配を205分にわたってかけた。カラムを流速200 μL/分で溶出し、その温度は50℃に維持された。総タンパク量20μgの消化物を質量分析のためにカラムに注入した。カラムからの流出をUV検出器によって分析し、次に、オンラインイオントラップ質量分析計にかけた。
イオントラップ質量分析:Thermo Finniganイオントラップ質量分析計LCQ DECAを、オンラインでHPLCシステムとともに使用して、消化産物を同定した。ペプチドおよびその断片の質量は、フルスキャン、それに続くズームおよびMS/MSスキャンを含めて、トリプルプレイ法によって得られた。標準の軸外ESI源を、大気圧-真空インターフェイスとして使用した。機器は、合成ペプチドの二重荷電イオンを用いて調整された(m/z 842)。ペプチドの同定には、Thermo Finnigan BioWorks 3.1 ソフトウェアのSequestアルゴリズム、およびMass Analyzerソフトウェアの2つを使用した。
結合アッセイ:ビオチンコートされた蛍光マイクロスフェア(Beadlyte ビーズ(Upstate Biotechnology Inc.))を、アビジン-IL-1R融合タンパク質でコーティングした。このビーズを洗浄して未結合のタンパク質を除去し、96ウェルフィルターボトムプレート(Millipore Corp)に分注した。テスト抗体の量を少しずつ変化させて(1 nMから61 fMまで希釈)ビーズに加えた。ビーズに捕捉されたアビジン-IL-1R融合タンパク質への抗体結合を、フィコエリトリン結合ヤギ抗ヒト(Fab’)2 (Southern Biotechnology)を用いて測定した。結合反応は、Luminex100装置(Luminex Corp.)を用いて分析した。ビーズ結合タンパク質に結合した抗体の量は、この装置で測定された平均蛍光強度(MFI)に比例した。結合曲線および関連するEC50の値(最大半量の反応を生じる抗体濃度)は、PRISM(登録商標)ソフトウェアを用いて得た。
生物活性(軟骨細胞アッセイ):抗IL-1R IgG2抗体、リフォールド1-フォーム1およびリフォールド2-フォーム3は、40 nMから0.0256 pMまで、アッセイ培地で段階希釈した。100μL容量中に10,000細胞/ウェルの密度でヒト軟骨細胞を播種した96ウェルプレートに、希釈されたテスト抗体50μLを加えた。最終抗体濃度は、10 nMから0.0064 pMまでの範囲であった。30分インキュベーション後、組換えヒトIL-1β 50μLを加えて終濃度10 pMとした。一晩インキュベートした後、抗体活性をIL-6 およびMMP-13 ELISAによって分析した。IL-6 もしくはMMP-13産生の阻害は、最大IL-1β活性の百分率として算出された。各テスト抗体に関する阻害反応曲線がつくられ、対応するIC50値(50%だけシグナルを減少させる抗体濃度)は、GraphPad PRISMaソフトウェアを用いて得た。
生物活性(抗体による溶解):抗体による細胞溶解アッセイのために、抗体を全血に添加し(1 mg/mL)、48時間インキュベートして(37℃、5%CO2)、蛍光活性化セルソーター(FACS)分析のために処理し(T/B細胞を標識し赤血球を溶解する)、その後分析した。B/T細胞の枯渇をフローサイトメトリーによってモニターした。
結果
IL-1Rに対するIgG2抗体の陽イオン交換(CEX)および逆相(RP)クロマトグラフィーはいずれも、まったく異なる条件下で抗体構造を評価したにもかかわらず、IgG2抗体の構造的不均一性を示した(図1および2A)。この抗体はCEX移動相においては未変性のコンフォメーション状態にあり(逆平行βシート)、この移動相はpH、温度および塩濃度において生理的状態に近い。これに対して、抗体は、逆相カラムから、75℃にて高濃度のイソプロパノールを含む0.1% TFA(pH2)水溶液によって溶出されるとき、溶融した球状である(Buchnerら、1991 Biochemistry, v. 30, p. 6922-6929; Ptitsynら、1990 FEBS Lett., v. 262, p. 20-24; Kuwajima, 1989 Proteins, v. 6, p. 87-103)。遠紫外域円偏光二色性データは、未変性のグロブリンβシートが、上記のRPクロマトグラフィー条件下で、へリックスおよびランダムコイル溶融構造に変わったことを示す。CEXおよびRPカラムから溶出される未変性構造および溶融構造がいずれも、類似したプロフィールを有するという事実は、コンフォメーション上のアイソフォームが異なる共有結合構造を有し、その構造は未変性状態および溶融状態のいずれにおいてもやはり相違することを示唆した。2つの異なる技法によって分離されたピークを相互に関連づけるために、4つのCEX画分を集め、RPカラムに注入した(CEX画分1、2、3および4と命名)。再注入されたCEX画分1、2、3および4は、ピークの相対存在量と溶出順の間に相関があることを条件として、RPピーク1、2、3および4と共溶出した(図2B)。この実験は、さらに、RPクロマトグラフィーそれ自体がピーク分割の原因ではなく、むしろ共有結合バリアントを検出するための有用な分析手段であるという証拠も与えた。
ヒトIgG2抗IL-1Rモノクローナル抗体は、IgG1として、クローニングされ、発現された。IgG1サブタイプは96%を超えるIgG2との配列相同性を有した。ヒトIgG1抗IL-1R mABは、前記と同じ方法を用いてCEXおよびRP HPLCによって分析された。IgG1のCEXおよびRP分析は、単一の均質なピークを示すクロマトグラムを与えた。IgG1抗体は、IgG2抗体のフォーム3(RPピーク3)とほとんど同時に溶出する(図1)。
実験の項に記載のESI直交型TOF質量分析計は、RP HPLCシステムとオンラインで接続され、IgG2の4つのアイソフォームが機器の測定誤差である±2 Daの範囲内で同一の分子量値を有することを確認した(図45)。このことは、不均一性の原因として大きな質量変化を伴う、グリコシル化の違い、リジンバリアント、および他の化学的分解修飾を排除した。アイソフォームのデコンヴォルーションされたESIマススペクトルは、同一分子量の値を示したが、これらのアイソフォームはその表面に異なる数の正電荷を保有した。インタクト抗体のRPクロマトグラフィーを、215 nmでのUV検出および全イオン流(TIC)検出により実施した(図3A)。4つの別々のアイソフォームについて、インタクト抗体の多価イオンを含有するESIマススペクトルも得られた。これらのデータは、後期溶出型が多数の正電荷を有することを示した(図3B)。これらのバリアントはより大きい表面積を有し、プロトンが塩基性アミノ酸残基へより到達しやすいかもしれないと示唆される(Chowdhury およびChait, 1991 Anal.Chem., v. 63, p. 1660-1664; DoboおよびKaltashov, 2001, Anal.Chem., v. 73, p. 4763-4773; Fenn, 1993, J.Am.Soc.Mass Spectrom., v. 4, p. 524-535)。これらの型がRPカラムから溶出されるとき、フォーム3はより多くの電荷を持つ、より大きな表面積を保持するが、フォーム1は、より小さな表面積と「折り畳まれた」構造を有する。フォーム3が、フォーム1と比べてより多数の荷電を有するという事実は、フォーム3がやはり、フォーム1と比較して、より高い全イオン流(TIC)をもたらすがUV吸収はより低いことを示す実験からも導き出された。フォーム1の分子種と比較して、フォーム3の分子種に、より多くの電荷があったことを意味する。ピーク溶出時のピークを横切る溶媒B濃度の増加は、0.5%に満たない。したがって、エレクトロスプレーに関して有機溶媒の変化は小さく、m/zピークのエンベロープを移動させるはずはない。(構造的に均一な)IgG1抗体を使用する対照実験を行って、電荷状態の相違が、溶出移動相の有機溶媒のパーセン
テージの小さな相違によって引き起こされないことを確認した。
還元およびアルキル化の後、不均一性は消失し、還元されたジスルフィド結合を有するIgG2抗体のRPクロマトグラムは、軽鎖に対する単一の細いピーク、および重鎖に対する単一の細いピークを特徴とした(図46)。これらの所見は、IgG2抗体の発見されたバリアントが異なるジスルフィド結合性もしくは開裂したジスルフィド結合を有することをあらためて示す。開裂したジスルフィドはあり得べきことであって、その理由は、1つの開裂したジスルフィド結合は質量を2 Daだけ増加させるが、これは分子量150 kDaのインタクト抗体に関する質量測定の許容誤差の範囲に含まれることである。ジスルフィド結合に関わる構造バリアントは、未変性条件下でのCEXクロマトグラフィー、および変性条件下でのRPクロマトグラフィーの両者によって分離可能な、異なる共有結合構造を有する。
本研究で使用されるいくつかのIgG2およびIgG1抗体の逆相クロマトグラムを比較した。IgG1抗体はすべて単一ピークとして溶出されたのに、IgG2抗体はいずれも、ヒト血漿血清由来の骨髄腫IgG2抗体を含めて、同一のクロマトグラフィー条件下で複数のバリアントに分離された(図44)。この結果は、不均一性が、ヒト血清由来IgG2分子を含めて、免疫グロブリンγ分子のIgG2サブクラス全体の特徴であることを示唆する。
IgG2重鎖において、CH1ペプチドPLAPCSRが、軽鎖-重鎖鎖間結合の一部、残基127-133(EU)として同定され、このペプチドの残基C131が軽鎖に接続されていた。同様のペプチドPLAPS131SLは、ヒトIgG1重鎖の残基127-133(EU)の位置を占める。
IgG2抗体の結晶構造は公表されていないが、IgG1およびIgG2の一次配列が酷似していることから、IgG1重鎖のS131の位置が、軽鎖のシステイン残基214ならびに重鎖の226および229(ヒンジ領域)に関してIgG2重鎖のC131の近接した位置に使用できることが示唆された。RCSB Protein Data Bankから受入番号1HZNに基づいてダウンロードされた、ヒンジ部に近い、ヒトIgG1抗体の結晶構造のフラグメントにおいて(Saphireら、2002, J.Mol.Biol., v. 319, p. 9-18)、セリンS131の位置は、ヒトIgG2のシステインC131の類似位置として使用された(図49)。結晶構造は、3つの残基LC C214, HC S131, HC C22が、互いに近接した位置にあることを示す(6Å以内)。こうした近接性によって、上記の残基が、ヒンジ部に異なるジスルフィド結合を有する、いくつかの共有結合性構造バリアントを架橋生成することが可能になると考えられる。
本発明者らは、カオトロピック剤(GuHCl)の存在下、および非存在下で、IgG2溶液を酸化還元試薬(システイン/シスチン)で処理することによって、異なる構造形態を濃縮することができることを示す重要なデータを作成した。この作業仮説は、比較的少量のカオトロピック剤がわずかに構造を動揺させて、複数の形態のうち一つを選んでヒンジ部のシステイン残基を再配置することができるというものである。この仮説を検証するために、IgG2抗体をいくつかに等分して、実験項に記載のプロトコルにしたがってシステインおよびシスチンの混合物で処理した。添加するGuHClの量は0 Mから1.4 Mまで変化させた。リフォールディングの結果は、逆相クロマトグラフィーによってモニターした(図50)が、これは、フォーム1およびフォーム3が48時間以内に優先的に多く存在することを示した。哺乳類(CHO)細胞において産生された、元の(未処理)ヒト化IgG2抗体、GuHClなしでリフォールディングされた抗体、および1.0 M GuHClでリフォールディングされた抗体の逆相クロマトグラフィー比較によって、フォーム1がGuHCl非存在下でより多く存在することが判明した。カオトロピック剤の添加は、フォーム3の存在割合を高めた。フォーム3の濃縮は1.0 M GuHClの存在下でもっとも速かった。同様の結果は他のIgG2抗体のリフォールディングについても認められた。変性剤として塩酸アルギニンを使用することの影響も評価し、図(図51)に示す。塩酸アルギニンはGuHClと比べて弱いカオトロピック剤として確認された。
受容体結合および架橋アッセイは、未処理材料とリフォールディング材料との間に有意な相違を示さなかったが、細胞によるバイオアッセイでは、アイソフォームが異なる生物活性を示すことが示唆された。バイオアッセイは、数日間にわたって繰り返し行われ、IL-6およびMMP-13レベルをともにモニターし、一貫性のある結果を与えた(図47)。フォーム3は、未処理材料と比べて平均3.5倍の活性であったのに対して、フォーム1は未処理材料の生物活性の一部(0.7)しか有していなかった。したがって、フォーム3はフォーム1より7倍活性があった。逆相クロマトグラフィーによれば、GuHClなしでのリフォールディングはフォーム1を有意に濃縮したが、フォーム2および3の小集団がサンプル中になお存在した。
リフォールディングされた材料は、DSC、CD、および蛍光を用いて物理的性質の相違についてもテストした。これらのフォーム間のもっとも劇的な相違は、DSCによって認められたが、この場合、フォーム3は対照およびフォーム1と比較してより高温で、唯一のより大きいTmを有した。
実施例4.
IL-15に対して免疫反応性のIgG1は、部分的にシステイン化された重鎖中に遊離のシステイン残基を含有するという証明
この実施例は、IL-15と免疫反応性であるヒトモノクローナルIgG1抗体、厳密に言えば146B7、の特徴を明らかにすることを目的とする。146B7抗体は、インタクト抗体、およびLys-Cプロテアーゼによるタンパク質限定分解後の両者について、逆相LC/MS分析によって性質検討した。このIgG2は、CDR3重鎖の104位(C104)に遊離システイン残基を有する。いくつかの修飾が認められたが、もっとも顕著なものは、おそらくはC104での、Fabフラグメントのシステイン化(+119 Da)である。Fabフラグメントの約60%がシステイン化された。それに加えて、末端リジン残基の部分的な切断により引き起こされるC末端リジンの差異が観察された。このような差異は、ハイブリドーマ産生IgG分子に典型的である。IgGサンプルのうち約70%が重鎖のどちらにもリジンを持たず、20%は重鎖のうち1つにリジンを有し、10%は2つの重鎖のいずれにもリジンを有していた。有意な酸化(約10%)もFab領域において、おそらくCDR領域のメチオニン残基のうち1つで、検出された。有意な量の共有結合二量体は、ストレスを加えたサンプルにおいても検出されなかった。C104残基はIAAで容易に標識されなかったが、このことは遊離システイン104がたやすくアクセスできないことを示した。
IgG1抗体は、CDR3重鎖の104位に遊離システインを有する。この遊離システインは、共有結合性二量体の原因となりうるが、製剤もしくは保存時に安定性の問題をもたらす可能性がある。本実施例の目的は、酸化還元状態を確立すること、および、IAAのようなアルキル化剤に対する遊離システインの到達可能性を評価すること、温度ストレスを加えたサンプル中で存在しうる共有結合二量体を同定すること、ならびに既知の翻訳後修飾、たとえば、リジンの差異、糖型の相違(G0、G1、G2)、および他の起こりうる修飾を特徴付けることとした。
インタクトIgG1の逆相LC-MS分析
図9に示すIgG1のRPクロマトグラムは他のIgG1分子のクロマトグラムと類似していた。主要なピーク(ピーク3)はIgG分子から構成される。ピーク3の上部でピークの分割が見られるが、これは、この研究で明らかにされる不均一性に起因する可能性がある。他の2つのマイナーピーク(ピーク1およびピーク2)は、このクロマトグラムにおいても認められる。正確な質量測定によって、本発明者らはこれらのピークを、それぞれ、軽鎖フラグメント、E1-G93/S94、および軽鎖のシステイン化された形として同定した。少量の遊離の軽鎖が他のIgG分子において観察された。
IgG2において見出される遊離の軽鎖(図8のピーク2)は、システイン化された形で存在する。システイン化は、軽鎖の遊離C214残基で起こる。この残基は、軽鎖と重鎖の間のジスルフィド結合に関与する。したがって、C214のシステイン化は、軽鎖と重鎖の間の会合を妨げる。しかしながら、少量の非システイン化軽鎖も、他の分子において観察された。この抗体サンプル中の軽鎖混入物のレベルは、記載されたRP LC/MS法によって容易にモニターすることができる。システイン化は生理的タンパク質において見出され、こうしたタンパク質は遊離システインを含有する。組換え抗体において、システイン化は、おそらく、CHO細胞に供給するいくつかの他のアミノ酸とともにシステインを添加することに起因して、製造段階で導入される。さまざまな組換え抗体において遊離した軽鎖のシステイン化の程度がさまざまであることは、特定の製造パラメーターがシステイン化の程度に影響を及ぼすことを示す。こうした所見は、IgG1の重鎖におけるC104のシステイン化理解することにおいて、注目すべきであると思われる。
図10は、デコンヴォルーションされた主要ピークのマススペクトルを示す。IgG1分子において典型的には、いくつかのガラクトースバリアント(G0、G1およびG2)が観察され、これらは二分岐糖から1つもしくは両方のガラクトース残基を失うことによってもたらされる。これらのバリアントは、ガラクトースの分子量に相当する162 Daの、特徴的な質量の相違によって同定することができる。この典型的なパターンが本実施例のIgG1では観察されなかったことが図10から理解できる。それどころか、140もしくは150ダルトンだけ異なるいくつかのピークが観察された。このデータは、IgG1では不均一性について他の原因が存在し、デコンヴォルーションされたスペクトルで認められた質量の相違は、さまざまなグリコシル化型とともに、こうした追加修飾の影響の総和であることを示唆する。付加的な不均一性が、リジンバリアント、システイン化および酸化といった修飾によって引き起こされる可能性がある。
Lys-Cによる限定分解後のIgG1の逆相LC-MS分析
サンプルをさらに特徴検討するために、Lys-Cを用いてタンパク質限定分解を行った。Lys-Cは、低濃度で使用されるとき、IgG1型分子のヒンジ領域において重鎖リジン(残基223)で優先的に切断し、FabおよびFcフラグメントを生じる。限定分解は、さまざまな領域から修飾を分離することによってLC/MS分析を向上させ、インタクトIgGと比べてフラグメントの大きさがより小さいため、分解能を向上させる。本実施例のLys-C処理IgG1の逆相クロマトグラムを図11に示す。典型的なIgG1サンプルにおいて、FabおよびFcフラグメントに相当する2つの主要なピークが観察される。しかしながら、本実施例のIgG1においていくつかのピークが観察され、これは、このサンプルに見られる追加的な修飾のせいである。デコンヴォルーションされたエレクトロスプレーイオン化(ESI)マススペクトルのピーク1、2、および3を図12に示す。これらのピークの質量は、Fcフラグメントの質量と一致する。
クロマトグラフィーのピーク1、2および3として溶出したFc分子間の質量の相違は、約128ダルトンであり、これはリジンの質量(128.2ダルトン)とよく一致する。このリジンの差異は、ハイブリドーマ細胞株で産生されたIgGには付きものであって、カルボキシペプチダーゼB活性に関連する。146B7もまた、ハイブリドーマ細胞で産生されるので、ピーク1、2および3はリジンバリアントに起因する。質量の相違から、ピーク1は、2つの重鎖のC末端にともにリジン残基を有することを確認することができる。ピーク2は重鎖の一方だけにリジンを有し、ピーク3はC末端リジンを持たない。リジンバリアント以外に、162ダルトンだけ異なるピークがやはり観察される。これらのピークは、糖の不均一性に対応しており、この場合、二分岐糖成分の末端の1つもしくは両方のガラクトース分子が失われている。こうした不均一性は、IgG1およびIgG2分子のいずれのFcフラグメントにも非常によくあることである。二分岐糖成分の欠失といった他の典型的でない糖修飾は観察されなかった。
図11のピーク5および7のデコンヴォルーションされたマススペクトルを、図13に示す。ピーク7の分子量47281 DaはFabの理論上の分子量(47282)と一致する。ピーク5は分子量47401を有するが、これはピーク7より約120ダルトン高い。120ダルトンの質量の相違は、追加のシステイン残基に相当する。システイン化は、生理的タンパク質の遊離システインについて報告された。本実施例のIgG1は重鎖のCDR3に遊離システインを有する。この遊離システインが、おそらく製造中にシステイン化されている。ピーク面積測定から、分子の60%がシステイン化型として存在する。ピーク4および6は、それぞれピーク5および7から+16ダルトンの質量の相違を示す。この質量相違は、もっとも可能性の高いメチオニン残基の酸化に相当する。酸化部位は、ペプチドマッピング実験によってさらに同定することができる。
IAA標識化の検討
IAA標識化は、重鎖の残基C104の到達可能性を精査するために行われた。インタクトもしくはLys-C消化サンプルのどちらの逆相クロマトグラムにおいても、IAA標識化の前後で相違を検出することができなかった。Lys-Cによる限定分解後の、標識化および非標識化IgG1の逆相クロマトグラムを図14に示す。
IAA標識化は、58ダルトンの追加をもたらすはずである。本発明者らは、以前の結果において、IgG1の60%がシステイン化され、残る40%だけが標識化されやすいことをすでに示した。標識化および非標識化サンプルから得られた、ピーク5(これは遊離システインを有する形態に相当する)のデコンヴォルーションされたマススペクトルを図15に示す。質量の変動は、標識化後に観察されなかったが、これは、この遊離システインが標識化のために接近可能ではないことを示す。
熱ストレスを与えたIgG1のRP LC/MS
ストレスを加えるIgG1サンプルを、45℃にて1ヶ月間、A5Sバッファー中でインキュベートした。残基104位の遊離システインは、分子間ジスルフィド結合の形成によって、共有結合二量体化に関与する可能性がある。こうした二量体化は、熱により引き起こされるストレスを受ける間に、促進される可能性がある。熱ストレスサンプルは、起こりうる共有結合二量体形成について分析された。図16は、ストレス後の146B7の逆相クロマトグラムを、対照と対比して示す。図17は、ストレスサンプルにおいて同定されたクリッピングの模式図である。
ストレスサンプルのピーク1および2は、軽鎖クリップ(10,125 Da)、および10,107 Daの脱水された軽鎖クリップによるものである。ピーク3は、重鎖N末端フラグメント(E1-G138/G139)を含有する。わずかな前置きを、146B7 IgG1抗体ストレスサンプルの主ピークに認めることができる(ピーク4)。ピーク4は、「片腕だけの抗体」Fab-Fc(図17)および重鎖のマイナークリップ(E1-C221/D222)を含有する。「なくした腕」(Fabフラグメント、図17)は、主ピーク(ピーク5)と共溶出される。ピーク5のESIマススペクトルは、ヒンジ領域の複数の切断部位のため、典型的なシークエンスラダーとともに少量のFabクリップを示す(データは示さない)。図16のピーク6は、この抗体の共有結合二量体を含有する。シグナル強度が非常に低いために、うまくデコンヴォルーションされたスペクトルは得られなかった。しかしながら、ESIマススペクトルから、ストレスサンプルと対照サンプルのいずれにも、少量の二量体エンベロープを認めることができる。分離が不完全で、強度が低いため、絶対的な定量を得ることはできなかった。二量体はごく少量、1%未満、存在し、熱ストレス後に有意に増加しない。146B7 IgG1ストレスサンプルにおいて同定されたクリップを、表X、および図17に示す抗体クリップの模式図に要約する。
このIgG1のFcおよびFabフラグメントに見られる不均一性は、この分子に独特のものである。このIgG1に見られる不均一性が、方法によって誘導されたものでないことを確認するために、同様の検討を他のIgG1分子について実施した。図18は、限定分解後の、4つの異なるIgGのRPクロマトグラムを示す。Fc断片は、これらのIgGの間で高度に相同であり、約14分で溶出される。Fab領域は、可変領域を含有し、さまざまな時間で溶出される。図19から、本実施例のIgG1のFcおよびFab領域に認められる不均一性は、この分子に独特のものであることがわかる。このデータは、また、修飾がこの分子に固有のものであり、分析プロセスの間に引き起こされるのではないことを確認する。
本実施例の結果をまとめるために、C104のシステイン化が本実施例のIgG1において主要な関心事であることを示す。C104はCDR3領域に存在し、その残基の修飾は、リガンド結合に影響を及ぼす。C104でのシステイン化量は、さまざまなバッチによって異なる。軽鎖のシステイン化における有意なバッチ間変動が、調剤において、いくつかのIgG分子に観察された。本明細書に記載の方法は、遊離システインのシステイン化を排除するために、これらの抗体をリフォールディングする方法を準備する。こうした方法は、構造的な不均一性の低下、および/または生物活性の増加、および/または安定性と貯蔵有効期間の向上をもたらすことができる。このことは、より均一な製品をもたらすことができる。抗原結合のシステイン化が観察される場合には、特に検査および制御されるべきである。
実施例5.
IgG1 CHOの酸化還元リフォールディングは、逆相LC/MSおよび他の技術によりモニターされるように、不均一性を改善し、システイン化を除去し、細胞に基づく生物活性を増加させる
本明細書において全体を通して議論されるように、真核生物タンパク質を原核生物で組換え生産することは、こうした組換え生産時に、タンパク質がしばしばミスフォールドされ、不溶性封入体として蓄積するという事実によって妨げられる。これらのタンパク質は、完全な生物活性を得るために、カオトロピック剤および還元チオールの存在下でリフォールディングされる必要がある。最近まで、真核生物宿主において産生された真核生物タンパク質(たとえば、CHO細胞で産生されたヒトもしくはヒト化抗体)は、一様に、かつ正しく、折り畳まれることが想定されてきた。上記の実施例で検討したように、いくつかのIgG2抗体は再び折り畳まれて、これらの分子の構造的な不均一性を解消したが、このようなリフォールディングはIgG2の活性の有意な増加をもたらした。この実施例において、IgG1抗体のリフォールディングをさらに明らかにする。このIgG1は、104位に対をなさないシステインを含有する。インタクト抗体、ならびに、そのLys-Cプロテアーゼによる限定分解後に得られるFabおよびFcフラグメントのために、最近開発された逆相LC/MS法によって、リフォールディングのプロセスをモニターし、リフォールディングされた分子種の特徴を明らかにした。
実施例4は、この実施例においてリフォールディングされるIgG1抗体の詳細な性質を与える。この抗体は、システイン化によって修飾された分子を約60% 有するとして特徴付けられた。この修飾は、この抗体のFab領域にあることが、限定分解によって決定された。インタクト抗体において少なくとも2つのFabアイソフォームが存在することも明らかになった。この相違は、重鎖の104位にあるユニークなシステインによって引き起こされる、追加のシステイン化、および/またはミスフォールドに起因すると考えられた。さらに、同じ材料を用いて生物活性および架橋アッセイを行ったが、典型的でない結果を示した。本発明者らは、Fabにおけるシステイン化が、予想外の特性の原因であることを示唆する。この実施例は、この影響をさらに解明し、こうした処理がIgG1の医薬品特性の向上につながるかどうかを評価するために、酸化的リフォールディングを用いた実験から、さらに性質検討データを提供する。
リフォールディング法
IgG1を2つのバッファー中3 mg/mLでインキュベートした:1) 200mM Tris バッファーpH 8.0 (未変性リフォールディング);2) 200mM Tris バッファーpH 8.0、0.9M GuHCl含有 (GuHClリフォールディング)。システイン:シスチンの組み合わせを、それぞれ6mM:1mMのおおよそのモル比で添加した。サンプルを2-8℃で48時間放置した。24および48時間時点で分析のために一部を分け取った。
分析
リフォールディングの前後で、次のような手法でサンプルを分析した:1)陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィー;2)インタクト分子の逆相LC/MS分析;3)Lys-Cプロテアーゼによる限定分解後、生成したFabおよびFcフラグメントの逆相LC/MS分析;4) 146B7 IgG1抗体バルクおよびリフォールド材料のペプチドマッピング;5)生物活性;6)サイズ排除クロマトグラフィー(SEC);7)蛍光および円二色性分光法。これらの手法は上記のいくつかの実施形態において一般的に論じられているが、個別のパラメーターは下記に与えられる。インタクト抗体のCEX分析。
CEX分析は、リン酸ナトリウムおよび塩化ナトリウムバッファー、pH 7.2を用いて行われた。
インタクト抗体の逆相LC/MS分析を目的として、Zorbax 300SB C8 1 x 50 mm逆相カラムを用いてサンプルを分析したが、このカラムは3μm粒子を充填し、流速50 mL/分で75℃にて運転された。最適化された方法は、イソプロピルアルコールおよびアセトニトリルの混合物からなる移動相を使用した。Agilent 1100 Capillary HPLCシステムをオンラインで、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源を搭載したMicromass Q-TOF Micro質量分析計に接続した。ESI-Q-TOF質量分析計は陽イオンモードで作動するようセットされ、キャピラリ電圧3400 V、サンプルコーン電圧70-100V、m/z範囲1000-6000、および質量分解能5000とした。機器を調整し、ウシトリプシノーゲン、MW23981.0, Sigma T1143の多価イオンを用いて、キャリブレーションした。ESIマススペクトルのデコンヴォルーションは、MassLynxソフトウェアでMaxEnt1アルゴリズムを用いて行った。
上記の条件は、FabおよびFcフラグメントのRP LC/MS分析にも使用した。
IgG1は、pH7.5の100 mM Trisバッファー中で37℃にて30分間、エンドプロテイナーゼLys-C(Roche、カタログ# 1 420 429)で限定分解した。消化は、酵素対タンパク質比(w:w)1:400で変性なしに行われた。これらの条件を用いて、さらにクリッピングすることなしにFabおよびFcを生成させることができた。
リフォールディングの前後でGlu-Cプロテアーゼを用いて、IgG1のペプチドマッピングを行った。Glu-Cプロテアーゼによる消化は、還元およびアルキル化することなしに、酢酸アンモニウムバッファー、pH5で行われた。pH5で、Glu-Cプロテアーゼは、主として、すべてのグルタミン酸(E)のC-末端で切断する。LC/MS/MS分析は、ESI源を搭載したThermo Finnigan LCQ イオントラップ質量分析計にオンラインで接続したAgilent HP1100で行った。
生物活性の測定のために、200 pg/mLおよび50 pg/mL IL-15を用いてIgG1の容量反応をモニターすることによって、ならびに生物学的力価を測定することによって、細胞に基づいた生物活性アッセイを行った。
SECクロマトグラフィーによる分離は、IgG1 CHOバルク、GuHClリフォールド、およびハイブリドーマ材料について実施した。これらの組成物のそれぞれ10μgを、Phenomenex TSK Gel super SW3000 カラム(4.6mm x 30cm 4μm粒径)に注入した(個別のランとして)。ランニングバッファーは100 mMリン酸ナトリウム、150 mM NaCl, pH 6.9とし、流速は0.25 ml/分とした。
CDおよび蛍光分光法のために、IgG1 CHOバルク、GuHClリフォールド、およびハイブリドーマサンプルを、A5Sバッファー中0.5mg/mLの終濃度となるように希釈した。CDスペクトルは、25℃にて、250から200nmまで、AVIV model 202-01円二色性分光光度計で、すべてのサンプルについて光路長0.2cmを用いて採取した。蛍光スペクトルは、25℃にて、AVIV ATF105分光蛍光光度計で、290nmで励起し500から300 nmまで発光をモニターして採取した。
上記の手法を実施したが、以下の結果およびデータは、こうした実験によって得られた結果の典型例である。
インタクト146B7の酸化的リフォールディングを受けた材料のCEX
図19は、IgG1 CHOバルクおよびGuHClリフォールドの陽イオン交換クロマトグラムを示す。このクロマトグラムは、早期溶出(酸性)ピークがリフォールディング後に消失することを示す。
インタクトIgG1の酸化的リフォールディングを受けた材料の逆相LC/MS分析を、図20のクロマトグラムに示すが、これは酸化的リフォールディングの前後のIgG1 CHOを示す。対照サンプルは、より小さなピーク後にあるショルダーを有する、2つの主要ピークを示した。リフォールディングされた材料は、図20において、ほとんど単一分子種として溶出し、これは、対照に見られる小さなピーク後に一致した。GuHClあり、およびなしでリフォールディングされたIgG1 CHOサンプルは、類似したRPクロマトグラフィープロファイルを示した。RPクロマトグラフィープロファイルの類似性は、0Mもしくは0.9M GuHClを用いて、リフォールディングされた分子種は同じ構造を有し、リフォールディング率もほぼ同じであることを示唆する。RPクロマトグラフィーピーク1として10.0から10.5分までに溶出される分子種の正確な質量測定は、この抗体分子が、米国仮出願第60/621,295号に記載のIgG2の計算された分子量と比較して、約240 Da高いMW値を有することを示した(図21も参照されたい)。上記および以下に記載の分析は、この質量の追加を、2つの、対をなさないシステイン残基のシステイン化に起因するものとして確認した。11から13分の間に溶出されるピーク2は、2重-、1重-、および非-システイン化抗体分子の部分的に重なり合ったものである。
図22は、IgG1 CHO対照(A)、GuHClリフォールド(B)、および未変性リフォールド(C)の、デコンヴォルーションされたエレクトロスプレーイオン化(ESI)マススペクトルを示す。リフォールディング後、サンプルのMW値は、Q-TOF質量分析計の±3 Daという精度の範囲内で、計算上のMWと同一で同等であった。(追加の外部キャリブレーションを用いて+14 Daの補正が取り入れられた。この補正は、図22B、Cに示されたリフォールディングされた形態の測定MW値(147743 Da)を147757に補正したが、これは計算上のMW値147759 Daからは±3 Daの許容誤差の範囲内である。抗IL-1R抗体を外部標準物質として使用した。)ESIマススペクトルは、ガラクトース残基(162 Da)により区別されるいくつかのピークを示すが、この残基は抗体のFcフラグメントに結合した2つの糖成分の末端残基である。図22においてG0-G0, G0-G1, G1-G1, G2-G1, およびG2-G2と名付けられたピークは、抗体分子当たり全部で0, 1, 2, 3, および4個のガラクトース残基を有する糖鎖付加構造に相当する。図23は、グリカンの構造を含めたIgG1の構造を示す(G2-G2)。ガラクトース残基の異なる数が、すべての抗体間の不均一性の代表的な原因であり、Q-TOF質量分析計によって容易に分離される。図22Aは、10から13分までの間に溶出される全IgG1 CHO バルク材料のESIマススペクトルを示す。図22Aのマススペクトルは、ガラクトースバリアントと共溶出される、より高分子量値を有するいくつかの他の成分を示す。より高分子量の分子種の同定は、インタクト抗体分子を使用する場合、複雑で困難であった。
サンプルの特徴をさらに明らかにするために、Lys-Cプロテアーゼによる限定分解を行った。Lys-Cは、低濃度で使用すると、IgG1サブクラスのヒンジ領域にある重鎖リジンで優先的に切断し、FabおよびFcフラグメントを生成する。IgG1抗体は、Lys-Cで切断され、1つのFcフラグメント(計算上のMWは53488 Da)、および2つのFabフラグメント(計算上のMWはそれぞれ47282 Da)を生成した(Figure 23)。タンパク質の限定分解は、異なる領域から修飾を個々に分離することによってLC/MS分析を向上させ、さらに、インタクトIgGと比べてより小さいサイズのフラグメントであるため、分解能を向上させる。Lys-C処理IgG1の逆相クロマトグラムを図24に示す。典型的なIgG1サンプルにおいて、FabおよびFcフラグメントに相当する2つの主要なピークが観察される。しかしながら、IgG1バルク材料では2つのFabピークが観察され、その原因はこのサンプルにおけるさらに別の修飾である。リフォールディングされた材料のFabフラグメントはほとんど単一ピークとして溶出されたが、このピークはバルク対照において観察されるピーク後に一致した。図25は、リフォールディングの前後のFabフラグメントのデコンヴォルーションされたESIマススペクトルである。リフォールディングされたサンプルのFabフラグメントの、測定された質量は、計算された質量、およびIgG1対照のFabピーク1の質量とよく一致する(図25)。対照サンプルのFabピーク1は、計算された値より118 Da高いMW値を有するが、これはFabフラグメントにおけるシステイン化を確認するものである。
システイン化は、循環中の(in circulation)遊離システインを有するタンパク質について報告されており、モノクローナルIgGにおいて検出される軽鎖の少量の不純物についても観察された。組換え抗体においてシステイン化は、CHO細胞を培養するために与えられる他のアミノ酸とともに、おそらくシステインが加えられることによって、製造中にもたらされる。図24でピーク1およびピーク2として溶出される2つのFabフラグメントは、すぐれたクロマトグラフィー分離を示したが、この分離は単なるシステイン化より大きい構造上の相違によってもたらされるに違いない。たとえば、システイン化および非システイン化軽鎖不純物が、RPクロマトグラム上で共溶出される。Fabフラグメントの溶出時間の大幅な相違は、ジスルフィドのランダムな形成が関与する可能性を示唆する、一方の手がかりであった。
図26は、IgG1対照(バルク)および未変性リフォールドの非還元型Glu-Cペプチドマップを示す。この2つのペプチドマップは、ほとんど完全に揃っているが、図25において、赤い矢印で示した少なくとも3つのペプチドの強度に差がある。ジスルフィドの同定および帰属をさらにここで実施することができる。
表Yは、200 pg/mLおよび50 pg/mL IL-15を用いてIgG1の用量反応をモニターすることによって実施された、細胞に基づく生物活性アッセイの結果である。表Zは、細胞に基づく生物学的力価測定の結果である。2つのアッセイはいずれも、未変性リフォールディングもしくはGuHClリフォールディングのどちらを使用することによっても、細胞に基づく(cell-based)生物活性がリフォールディング後に2倍になることを示す。
図27は、IgG1 CHOバルク、GuHClリフォールド、およびハイブリドーマ材料のSECクロマトグラムを示す。このクロマトグラムは、リフォールディングされた材料の保持時間の増加を示すが、このことはバルクおよびハイブリドーマタンパク質と比較してコンフォメーションの変化を示唆する。リフォールディングされた材料の凝集ピークの減少も観察された。
CDおよび蛍光分光法分析を図28に示す。パネルAは、リフォールディング後のIgG1の二次構造に変化のないことを示す。パネルBは、CHOバルクおよびハイブリドーマ材料と比較して、リフォールディング後の蛍光強度の増加を示す。これは、リフォールディング後の、蛍光を発するトリプトファン残基の微小環境における構造的な変化によると考えられる。ハイブリドーマ由来タンパク質の蛍光強度は、CHOバルクタンパク質より強い。このことは、CHOバルク材料と比較してハイブリドーマ材料のより大きな生物活性データと相関するかもしれない。ハイブリドーマ由来タンパク質は、希釈前にPBS pH 7.4で保存されたが、pHはCHOバルクタンパク質に使用されたA5S保存条件よりジスルフィド交換反応に貢献する。サンプル間で発光極大波長に明らかな変化はなく、それは、トリプトファン環境の極性が依然として同じであることを示唆する。
上記の研究を要約すると、上記データを集める過程において、IgG1 CHOバルク材料が構造的に不均一であり、Fabフラグメント中にシステイン化されたシステインを有する分子を含むことが確認された。Fabフラグメント全体の約60 %がシステイン化された。システイン化および非システイン化Fabフラグメントの溶出における大きな相違により、および抗IL-15 IgG1においてユニークな、対をなさないシステインが存在するため、本発明者らは、システイン化がジスルフィド結合のランダムな形成と関連することを提起した。IgG1バルク材料は、カオトロピック剤あり(0.9 M GuHCl)および、なし(0 M GuHCl)でリフォールディングした。2つのリフォールドはいずれも、Q-TOF質量分析計による正確な質量測定によれば、均一な、非システイン化146B7分子を生成した。24時間後に、146B7バルクの大半がリフォールディングされて、後期に溶出される均一な分子種となった。48時間後に、リフォールディングはほとんど完了した。細胞に基づく生物活性を測定したところ、リフォールディングされたサンプルの活性は、リフォールディングされなかったIgG1 CHOバルク材料と比較して2倍であることが確認された。
この実施例のデータは、システイン化された分子種が、質量分析測定によって同定されるようにRPカラムから、より早く溶出され、リフォールディング後には除去されることを示す。この研究で用いられるRP LC/MS法は、ミスフォールディングとシステイン化の間に明らかな関連性があるため、特に効果的である。
上記のデータは、リフォールディングされたIgG1分子が、リフォールディング後に、より均一で、より活性があることを示す。そこで、本明細書において教示される研究および技術に基づいて、さらに最適化して特徴を明らかにすることができる。
実施例6.
インターロイキン-15に結合する組換え抗体をリフォールディングする方法
この実施例は、限定分解後のRP LC/MS分析による、異なるロットの146B7の比較を与える。この実施例で与えられるデータにおいて、限定分解後のRP LC/MSを用いて、重鎖のC104でのシステイン化レベルについて、146B7の異なるロットを比較した。異なるロットについて酸化、スクシンイミドおよびガラクトース含量のレベルも計算した。ペプチドマッピングを用いて、システイン化および酸化の部位を同定した。
システイン化、酸化、ガラクトース含量およびスクシンイミドのレベルは、異なるロットによってさまざまであった。CHO由来材料とハイブリドーマ由来材料の間には、有意な変動性があった。CHO由来146B7のリフォールディングは、システイン化をなくすことにつながる。リフォールディングは、他に何も修飾を引き起こさず、この2つの材料は、ペプチドマッピングにより同等と思われる。ハイブリドーマ、CHO PD、およびCHO PDリフォールド材料については、生物活性が、システイン化量の減少に伴って増加する。
これら3つの修飾のレベル(パーセンテージ)を独立して算出したが、上記の表において、加算して100%にはならない。たとえば、ハイブリドーマのシステイン化分子の13%は、酸化も受けており、他方、システイン化分子の残りの87%は酸化されていない。
Hex Iは、IgG分子当たりのヘキソース(ガラクトース)分子の平均数であり、IgG1のシステイン化およびリフォールディングの同定は、上記の他の実施例に記載される。
これらの実験から得られたデータは、実施例4および5において示されたデータと一致する。図29において、限定分解後のIgG1ハイブリドーマおよびCHOのもう一つのRPクロマトグラフを示す。システイン化および非システイン化フラグメントは、容易に分離され、定量することができる。図30において、リフォールディング前後のIgG1のRPクロマトグラムは、リフォールディングされた調製物においてFab-Cysが存在しないことを示すことは明らかである。遊離システインをNEMで標識した後のIgG1の非還元型ペプチドマップにおいて、リフォールディング前後のCHO材料は、ペプチドマッピングにより、同等と思われる。IgG1バルク材料は、117分で溶出される、システイン化されたC104を有する大量のトリプシンペプチドG99-K122を含有する。リフォールディング後、システイン化されたペプチドの存在量は減少し、非システイン化ペプチドの存在量は増加した。非システイン化ペプチドは、NEMで標識して、還元、アルキル化および消化時に他のシステイン残基とランダムに結合しないようにした。図30は、pH5にてNEMによる遊離システインの標識後の、トリプシンを用いたIgG1の非ペプチドマッピングを示す。システイン化の位置は、重鎖のC104位であると同定された。重鎖CDR2領域のメチオニン48の酸化も同定された(図32)。非還元型ペプチドマップにより、重鎖CDR2のM48のほんの一部が酸化された。酸化型ペプチドは98分に溶出され、非酸化型ペプチドは110分に溶出する。図32からわかるように、再構成イオンクロマトグラムおよびフラグメンテーションマススペクトルは、M48の約10%が酸化されていることを示す。
実施例7.
スケールアッププロセスのためのプロテインAカラムによる組換え抗体のリフォールディング
本出願の全体を通じて示されるデータは、一般に、精製IgG2について、本明細書に記載のRP HPLC法で3つのピークが観察されることを示す。さらに、この3つのピークは、GuHClアリ、もしくはナシで、酸化還元試薬を用いることによって、ピーク1もしくはピーク3のいずれか一方に変換することができる。抗体集団の不均一性は、ジスルフィド結合の無秩序な形成による。この不均一性は、本明細書に記載のようにリフォールディングして解決することができる。あるバイオアッセイデータから、クロマトグラムのピーク1から溶出する抗体集団はより安定であり、ピーク3から溶出する集団は酸化還元後に相対的安定性を有し、もっとも活性が高いと思われる。
本実施例において、IgG分子のカラムでのリフォールディングを示すデータが与えられる。より詳細には、プロテインAアフィニティカラムをIgG酸化還元、またはリフォールディング担体に向けてデザインする。カラム樹脂は、1-2 M GuHClならびにシステイン/シスチンと言った還元剤に対応することができる。分離すべきIgGの酸化還元処理によく適したpHであるpH 7.2以上で樹脂に流される。
上記の表は、溶液中でIgGをリフォールディングするために使用することができるリフォールディング反応混合物の典型的な成分を示す。上記の手法をオンカラム処理に適用すると、下記の表のような、プロテインAアフィニティカラム上でのIgG2の酸化還元処理のためのパラメーターが得られる。
精製IgG1サンプルを、さまざまな濃度の酸化還元ペアにより、pH 7および8の両方で、さまざまな時間、処理した。ある典型的な研究において、処理は2-8℃で約24時間持続した。反応は、サンプルのpHを約5に下げることによって止めた。バイオアッセイの活性は、未処理IgG1の活性のパーセンテージとして得られた(下表を参照されたい)。室温、より短い持続時間(たとえば3時間)を含めた酸化還元条件も実施され、146B7のバイオアッセイ活性を向上させることが明らかになった。
図34において、IgG1の融解温度は、DSCにより測定されるように、酸化還元処理後に増加したことがわかるが、それはより高い温度安定性を示した。これらのデータを作成するために、IgG1は2-8℃にて一晩、6 mM システイン、0.6 mM シスチン、pH 8で処理した。
IgG1はまた、上の表の実験#10に示すように、酸化剤の添加なしに還元剤単独でも処理した。その実施例において、精製IgG1は、1.5 mMシステインとともに、2-8℃にて一晩インキュベートした。その活性は、約2倍増加した。上記の特定の実施形態は、還元剤と酸化剤の両方の使用を検討したものであるが、抗体のリフォールディングは還元剤のみを使用して行うことができると考えられる。
一部の実施形態で論じられるように、リフォールディングは、リフォールディング剤を細胞培養物、抗体のみに添加することによって、または酸化還元剤を含有するカラムを用いて抗体を分離することによっても、達成することができる。ある典型的な実施形態において、IgG1は、それが産生される細胞培養の培地中でリフォールディングされた。清澄化した細胞培養液を、酸化還元対で処理した(6 mMシステイン、0.6 mMシスチン、2-8℃一晩)。次に、IgG1をプロテインAアフィニティクロマトグラフィーで精製した。この特殊な場合において、リフォールディングはSEC-HPLCでの保持時間の移動にともなって観察された(図35)。リフォールディングされたIgG2は一貫して、SEC-HPLCで、より長い保持時間を示したが、そういうものとしてSEC-HPLC法は、リフォールディングを指示するアッセイ法として使用することができる。
IgG1抗体の大規模生産時に、ある実施形態において、陽イオン交換クロマトグラフィーステップの前に、酸化還元処理ステップをただちに導入して、遊離システインのシステイン化をなくすために抗体をリフォールディングすることができると考えられる。これは、構造的不均一性が減少し、および/または、生物活性が増加し、および/または安定性および有効期間の向上した抗体集団をもたらす。
実施例8.
リフォールディングされた抗IL-15 IgG1抗体の安定性検討
変性曲線を使用して、タンパク質のコンフォメーションの安定性に関する評価を得ることができるので、変性曲線は、化学構造もしくはコンフォメーション構造の異なるタンパク質の間の、安定性の相違を測定するために非常に適している(Pace, C. N., Methods in enzymology 1986 vol. 131, 267-280)。平衡曲線を特定のアンフォールディング機構に適合させることができる場合には、アンフォールディングの自由エネルギーを得ることができ、もしくは、未変性コンフォメーションが、アンフォールディングされた状態より、どの程度、より安定であるかの指標を得ることができる。一般に、実施されるのは、タンパク質をアンフォールディングして、さまざまな化学変性剤濃度で平衡化し、分光学的シグナルをこうした変性剤濃度のそれぞれで記録することである。曲線の、フォールディング領域(未変性ベースライン)、およびアンフォールディング領域(アンフォールディングされたベースライン)のシグナルを認識した上で、平衡定数(および、それに伴って、自由エネルギーの変化)を、アンフォールディング転移領域内のそれぞれの変性剤濃度で得ることができる。次に、自由エネルギー変化の値を、変性剤のない状態にさかのぼって外挿し、水中でのタンパク質アンフォールディングの自由エネルギー変化を明らかにすることができる。
別の分光学的方法により、異なるアンフォールディング事象について伝えることができるが、たとえば、蛍光は、三次構造アンフォールディングを探るために使用され、円偏光二色性は、二次構造のアンフォールディングをモニターするために使用される。この方法のより完全な説明については、上記のPaceの文献を参照されたい。
酸化還元処理前および後の抗IL-15 IgG1を比較するために、1 mg/mLタンパク質を、グラフに示す塩酸グアニジン濃度で一晩平衡化した。次に、サンプルを295 nmで励起して分析し、360 nmでの蛍光発光をモニターした(図36)。218 nmでCDをモニターすることによってCDデータも記録された(データは示さない)。残念なことに、FLおよびCDデータをアンフォールディング率に標準化した後、2つの分光学的試験から得られたシグナルは重ならず、非二状態アンフォールディング転移を示唆したが、この非二状態転移は、この時点で、酸化還元処理サンプルと非処理サンプルの間で比較することができる自由エネルギーの差をもたらすように、たやすく当てはめることができないものである。しかしながら、FLのグラフは、この転移の中間点(Cm)が酸化還元処理サンプルについて、非処理バルク材料より大きいことを示しており、これは、酸化還元処理された146B7抗体の安定性がバルクの非処理サンプルより大きいことを示唆する。これは事実であるかもしれず、熱変性実験について観察されたTmの変化によって支持されるが、しかしながら、m値の見かけの相違を考慮に入れるデータの十分なフィットはなく、酸化還元処理および非処理146B7 IgG1タンパク質の間に、平衡アンフォールディングの見かけ上の相違があるといえるだけである。
安定性の加速試験を実施して、酸化還元非処理バルクIgG1と酸化還元処理146B7 IgG1抗体を比較した。これら2つのタンパク質をA5Sバッファー(10mM酢酸ナトリウム、pH 5、5%ソルビトール)中100 mg/mLに調製し、次の温度で保存した(−80、4、29、37および45℃)。さまざまな時点で、2つのタンパク質のサンプルを抜き取り、変性について分析した。方法は、高分子量凝集物および低分子量タンパク質クリップをモニターするためにサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、ならびに不溶性凝集物を測定するために粒子計数を使用した。タンパク質濃度、ならびにpHもそれぞれの時点で測定した。図37のグラフは、3か月時点に関する代表的なSECデータであって、酸化還元非処理サンプルは、すべての液体温度で、酸化還元処理抗IL-15 IgG1より速い割合で凝集傾向があることを示す。クリッピング反応は、どちらのサンプルについても同じままであった(データは示さない)。
実施例9.
インタクトIgG4の濃縮集団の作製
本実施例は、IgG4の半分子をリフォールディングして、IgG4の共有結合性インタクト分子とすることによって、共有結合性インタクトモノクローナルIgG4抗体の濃縮集団を作製することを目的とする。哺乳類細胞で産生された組換えモノクローナルIgG4は、IgG4の半分子および共有結合性インタクト分子を含有するIgG4分子の不均一集団である。この不均一集団を変性剤の存在下で酸化還元試薬と接触させて、インタクトIgG4分子を生成させる。酸化還元処理を行った後、抗体を、これ以上半分子を形成させない安定なバッファー(低pH、液体もしくは凍結)中で調剤する。共有結合性インタクトモノクローナルIgG4抗体は、2つの重鎖および2つの軽鎖を有する抗体である。IgG4半分子は、1つの重鎖および1つの軽鎖を有する。半分子は哺乳類細胞での産生中に、インタクト分子とともに生じるが、循環中においても発生する。半分子は、IgG4サブクラスが市販の医薬品となる主たる障害の一つである。
ヒトIgG4抗体は免疫グロブリンγのユニークなサブクラスであるが、それはいくつかの他と異なる特徴を有するためである。第1に、精製抗原を沈澱させることができない(AalberseおよびSchuurman, Immunology 2002, 105, 9-19; Schuurmanら、Immunology 1999, 97, 693-698)。こうした能力のないことは、IgG4抗体が2つの抗原に架橋結合することができず、複合体の作製を始めることができないことに起因する。免疫グロブリンγのすべてのサブクラスの中で、IgG4は、報告によれば、出典(JefferisおよびLund, Immunol. Lett. 2002, 82, 57-65; HulettおよびHogarth, Adv. Immunol. 1994, 57, 1-127)の表1からわかるように、補体を活性化する最低限の能力しか持たない(あるとしても)。こうした特異な特徴は、IgG4を、治療適用のための魅力的な抗体候補とするが、こうした候補は、リガンドとのみ結合するが複合体を生成しないことを必要とし、この複合体形成は望ましくない免疫応答につながる可能性がある。
それに加えて、IgG4分子は、次のような、第2のユニークな特性を有する:IgG4分子はin vivoで、IgG4分子間で半分子(HL)の交換を受ける(AalberseおよびSchuurman, Immunology 2002, 105, 9-19)。IgG4分子は2つの非共有結合性半分子からなるため、こうした交換が可能である。このようなIgG4分子において、2つの重鎖間の、ヒンジ領域での鎖間ジスルフィド橋は、鎖内ジスルフィド橋を形成するように入れ換えられる。IgG4分子の25-75%部分は、重鎖間の非共有結合性相互作用によってのみ結合していることが報告されている。このようなIgG4分子は、in vitroで正常な生理的条件下で非常に安定であるが、これは、CH3ドメイン間の、そしておそらくはCH1およびCH2ドメインの間の、強い非共有結合性相互作用による。ジスルフィド交換は、in vivoでは、内皮細胞のエンドソーム経路におけるIgG4の輸送中に、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)および/またはFcRn(主要組織適合複合体(MHC)関連Fc受容体)によって触媒されることが、(AalberseおよびSchuurman, Immunology 2002, 105, 9-19)によって示唆された。IgG4の重鎖間ジスルフィド結合が鎖内ジスルフィド結合と平衡状態にあることも示唆された(Schuurmanら、Mol. Immunol. 2001, 38, 1-8)。
非共有結合性IgG4抗体がこのように半分子を交換できることは、高いIgG4応答性が、図らずも体内に同じ時間と場所に存在する2つの無関係の抗原に対して認められるという状況に、生物学的関連性がある(AalberseおよびSchuurman, Immunology 2002, 105, 9-19)。こうした状況において、抗体-抗原複合体が形成され免疫応答を引き起こすことができる。これはSchuurmanら(Immunology 1999, 97, 693-698)によって、チリダニおよび花粉の双方に対するIgG4抗体を有する患者由来の血清における、IgG4の、2つの異なる抗原との架橋結合を示した研究において、実験的に確認された。血漿IgG4分子の大部分が、2つの異なる抗原結合部位を有し、結果として二重特異性となっていることが明らかになった。この特徴は、チリダニ、花粉もしくはハチ刺されによって引き起こされるアレルギーを有し、ポリクローナルもしくは第2のモノクローナルIgG4を有する可能性がある患者に、IgG4を注入することの潜在的な危険を意味する。本発明者らは、(AalberseおよびSchuurman, Immunology 2002, 105, 9-19; Schuurmanら、Immunology 1999, 97, 693-698)からの知見により、IgG4半分子は二重特異性抗体を形成し、循環中において寿命が短くなると考えられるため(Angalら、Mol. Immunol. 1993, 30, 105-108)、IgG4半分子が医薬適用には望ましくない分子種であることが示唆されると提言する。実際、臨床開発のための治療薬選択において、IgG4成分は、二重特異性の可能性のため望ましくないと考えられてきたが、この二重特異性は、特異的な治療用IgG4の半分子の、循環中に存在する可能性のある他のIgG4半分子との交換によって引き起こされると考えられる。
Angalおよび共同研究者らは、IgG4のマウス/ヒトキメラ重鎖の、ヒンジモチーフ-CPSC-内のセリンを(IgG1およびIgG2のその位置にある)プロリンに変異させた(Angalら、Mol. Immunol. 1993, 30, 105-108)。この一残基変異は、均一なホモ二量体IgG4抗体の産生をもたらす。この単一の点変異は、血清中半減期の有意な増加をもたらし、もとのキメラIgG4と比較して改善された組織分布をもたらした。
IgG1およびIgG2分子に関する上記の結果および本発明の教示を考慮すると、IgG4半分子、ならびにインタクトIgG4分子を含有する不均一な集団のIgG4分子は、この半分子をリフォールディングして、共有結合性インタクトモノクローナルIgG4抗体とすることによって、共有結合性インタクトモノクローナルIgG4抗体について濃縮することができることが提案される。哺乳類細胞において産生され、半分子および共有結合性分子を含有するモノクローナルIgG4を、変性剤の存在下で酸化還元試薬と接触させて、IgG4ホモ二量体分子を主に生成することができる。酸化還元処理を行った後、抗体は、これ以上半分子が生成しないようにする安定なバッファー(低pH、液体、もしくは凍結)中で調剤することができるはずである。下記の図38および図39は、IgG4抗体の逆相LC/MS分析の詳細であるが、これは、IgG4半分子およびインタクトIgG4分子を分離同定するために用いられた。
これらの知見を考慮すると、上記のIgG1およびIgG2分子に関するリフォールディング実験を適用して、IgG1およびIgG2について見られたリフォールディングと同様にIgG4分子の適切なリフォールディングをもたらすことができることが示唆される。
実施例10.
改善された結晶化特性のための抗体リフォールディング
本発明の方法が役立つもう一つの分野が、抗体結晶の形成に関する分野にある。抗体結晶化の開発は、こうした巨大分子の、コンフォメーション、ジスルフィド結合性、糖鎖バリアント、および電荷バリアントに関する不均一性によって制限されてきた。IgG分子の結晶化は、そもそも、Fabフラグメント、Fcフラグメント、フラグメントの、リガンドもしくはFc受容体との複合体形成、インタクトIgG1、およびインタクトマウスIgG2a(インタクトヒトIgG2ではない)に限定されてきた。インタクト抗体の結晶化に関する先行特許は、球状ナノ結晶複合材料タンパク質粒子、および結晶製剤を記載する(Altus WO0272636(A2,A3)およびWO0300014(A2))が、これらは治療用IgG1抗体、すなわちインフリキシマブ(レミケード)、リツキシマブ(リツキサン)、およびトラスツズマブ(ハーセプチン)の限られた場合においてのみ、成功した。
高分子量タンパク質の逆相HPLC分析における、近年の分析の進歩は、IgG2抗体のジスルフィド不均一性を明らかにした(Dillonら、米国仮出願第60/621,295号、およびPCT/US05/001840)。未変性様ジスルフィド結合の形成を促進するために酸化還元剤を添加することによってタンパク質をリフォールディングする方法であって、改善された医薬特性を目的として、結果として構造的に均一な活性型の分子を生じる前記方法は上記に記載された。本実施例において、結晶化特性の改善のために、抗体のリフォールディングを適用することに関するデータが与えられる。
PCT/US05/001840および米国仮出願第60/621,295号に記載のように、本発明のある態様は、培地中に分泌される産物のリフォールディングのために適切な酸化還元電位が達成されるように、システイン、シスチン、シスタミン、グルタチオン、銅および/または他の酸化剤といった栄養分、ならびにさまざまなバッファー成分を含めた培地成分を導入し、もしくは最適化することに関する。もう一つの態様は、タンパク質の酸化的リフォールディングのために別の処理ステップを導入することであり、これは封入体の典型的な微生物リフォールディングとは異なる。本発明の第3の態様は、酸化還元剤を直接、結晶化溶液に導入するものであって、その結果ミスフォールディングされたタンパク質は溶液中でリフォールディングされて成長する結晶に付着し、結晶化収率の改善に至る。
本実施例で与えられるデータは、リフォールディングされたインタクトIgG2の良好な結晶化を示す。システイン化をなくすためのIgG1のリフォールディングは、活性および均一性の改善(上記実施例を参照されたい)も示したが、IgG1のリフォールディングが結果としてそのサブクラスの結晶化特性の改善に帰着することを実証するために、結晶化の研究が進められている。リフォールディングを培養中に行う、別の処理ステップで行う、または結晶化溶液中で行うことによって、改善された医薬特性および結晶化特性を有する産物を生成することができるが、こうした特性には、改善された均一性、活性/有効性、安定性、結晶成長、および結晶化収率が含まれる。
最初のスクリーンにおいて、リフォールディングされた抗IL-1R IgG2抗体50 mg/mLを用いて下記の条件で結晶が得られた。抗IL-1R IgG2抗体は、上記のように、変性剤の存在下でリフォールディングして、フォーム3の集団を形成するようにした。
1. 50mM 塩化カリウム、20% PEG 3350 pH 2.0
2. 50mM 塩化カリウム、24% PEG 3350 pH 2.0
3. 50mM MES, 20% PEG 3350 pH 6.0
5. 50mM MES, 24% PEG 3350 pH 6.0
6. 1.13M リン酸Na-K、0.1M カコジル酸ナトリウムpH 5.5, 0.69% MEGA-7* (Anatraceから入手した糖を基本とする界面活性剤)
7. 2.12M 酢酸ナトリウム、0.65% MEGA-7* (Anatraceから入手した糖を基本とする界面活性剤)。
図41−43に示されるデータは、上記の条件下で形成されたIgG2結晶が、球状結晶であったことを示すが、このことは、本発明の方法が、インタクト抗体の均一な結晶の形成を可能にする、IgGの均一な調製物を与えることを実証するものである。
本明細書で開示され請求される組成物および/または方法のすべては、本明細書に照らして過度の実験なく、作製および実行することができる。本発明の組成物および方法は、ある実施形態について記載されているが、本発明の考え方、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法のステップにおいて、または一連のステップにおいて、組成物および/または方法に変更を加えることができることは、当業者には明白である。さらに具体的には、化学的にも生理学的にも関連性のある特定の薬剤を本明細書に記載の薬剤に置き換えることができるが、同時に同一もしくは同様の結果が達成されるであろうことは明らかである。当業者に明白な、このような類似の置換および修正はいずれも、添付の請求の範囲によって規定されるように、本発明の精神、範囲、および概念の範囲内にあると判断される。
本明細書を通じて引用された参考文献は、それらが、本明細書に示される内容に対して補足する、例示的な手続き上の詳細、もしくは他の詳細を提供するという限りにおいて、すべてを特に参考として本明細書に含めるものとする。
図1は、IgG1およびIgG2モダリティとして実施された、同一のCDRを有する2つの組換えモノクローナルヒト抗体のRP-クロマトグラムを示す。この2分子間には95%のアミノ酸相同性が存在するが、その抗体がIgG1またはIgG2抗体のいずれであるかによって、抗体調製物の均一性に有意な差は存在しない。
図2は、(A)全IgG2サンプルの陽イオン交換CEX、ならびに(B)同じ全IgG2サンプルおよび集められたCEX画分の逆相クロマトグラムである。
図3Aは、UV 215 nmでの吸光度、および質量分析計の全イオン流(TIC)を用いて検出された、IgG2の逆相クロマトグラムを示す。3Bは、図3Aのピーク1、2、3および4としてRPカラムから溶出されたIgG2構造バリアントのエレクトロスプレーイオン化マススペクトルを示す。
図4は、ヒトIgGの4つのサブクラスを示す。出典:Kuby Chapter 4, Immunoglobulins: Structure and function。
図5は、提案されたIgG1およびIgG4構造を示す。IgG4の構造がIgG1の構造よりコンパクトであることに留意すべきである。
図6は、キメラIgG1、2、3および4抗体の沈降データを示す(出典:Phillipsら、Mol. Immunol., v. 31, p. 1201-1210, 1994.)。Phillipsらによる図の説明は、この図がビスダンシルカダベリンの存在下、および非存在下で、異なるヒトサブクラス領域を含有するキメラ免疫グロブリンの沈降を示すことに特に言及した。(A)二価ハプテンの非存在下での免疫グロブリンのインテグラルスキャン。遠心条件は:IgG1 20℃、52,000 rpm、12分間隔で(280nm)連続インテグラルスキャン;IgG2 21.7℃、52,000 rpm、8分間隔で(280nm)連続integralスキャン;IgG3 21.6℃、52,000 rpm、8分間隔で(280nm)連続インテグラルスキャン;IgG4 20.7℃、52,000 rpm、8分間隔で(280nm)連続integralスキャン、とした。(B)等モルのビスダンシルカダベリンの存在下での免疫グロブリンのインテグラルスキャン。遠心条件は:IgG1 21.7℃、42,000 rpm、12分間隔;IgG2 21.4℃、44,000rpm、8分間隔; IgG3 21.7℃、44,000 rpm、12分間隔; IgG4 21.7℃、44,000 rpm、12分間隔、とした。(C)異なるサブクラスの、等モルのビスダンシルカダベリンの非存在下(−)および存在下(+)での沈降係数分布(拡散に関して未補正)。
図7は、提案されたIgG2抗体構造と比較してIgG1抗体構造を示す。
図8は、2つのリフォールディングされたIgG2抗体のRPクロマトグラムを示す。リフォールディングされた未変性型、および変性作用のある0.89M塩酸グアニジンを存在下でリフォールディングされたものが、現在製造されているバルクIgG2材料のプロファイルと併せて並べられていることに留意されたい。4つの異なるIgG2抗体をリフォールディングしたとき、再び同様のパターンが見られ、室温で48時間システイン/シスチンが存在すると、均一な単一ピークを生じ、室温48時間システイン/シスチン存在下で塩酸グアニジンを使用すると、システイン/シスチン処理のみにより生じたピークより遅く溶出される単一ピークを生じたが、システイン/シスチン処理なしでは、IgG2調製物に関連する複数のピークを含有する不均一な混合物を生じた。
実施例9のインタクトIgG1のRPクロマトグラム。
実施例4のインタクトIgG1の、デコンヴォルーションされたエレクトロスプレーイオン化マススペクトル。
Lys-Cによる限定分解後の実施例1のIgG1のRPクロマトグラム。
図11から得られたピーク1、2および3の、デコンヴォルーションされたESIマススペクトル。
図11のRPクロマトグラムから得られたピーク5および7のデコンヴォルーションされたESIマススペクトル。
限定分解後の実施例4のIgG1サンプルのRPクロマトグラム。
実施例4の標識されたIgG1および標識されないIgG1に関する、図14のFabピークのデコンヴォルーションされたマススペクトル。
実施例4のストレスを加えたIgG1および対照インタクトIgG1のRPクロマトグラム。
45℃にて1ヶ月間、A5Sバッファー中でインキュベートしたIgG1において観察されるクリップの模式図。
Lys-Cによる限定分解後のRPクロマトグラフィーによるさまざまなIgG1分子の比較。
インタクトIgG1対照、および24時間リフォールディング後の未変性リフォールディングのCEXクロマトグラム。
インタクトIgG1 CHO対照、未変性リフォールディングおよびGuHClリフォールディングサンプル、24時間インキュベーション後、のRPクロマトグラム。
IgG1バルクのRPクロマトグラムで分離されたピーク1(A)およびピーク2(B)のESIマススペクトル。ピーク1(C)およびピーク2(D)のデコンヴォルーションされたESIマススペクトル。
IgG1 CHO バルク材料(A)、GuHCl リフォールディング(B)、および未変性リフォールディング(酸化還元カップリング試薬のみによる) (C )のデコンヴォルーションされたESIマススペクトル。
Lys-Cプロテアーゼを用いて1つのFc フラグメントMW=53488 Daおよび2つのFabフラグメント(それぞれMW47282)を生じる、限定分解の模式図。
Lys-Cによる限定分解後のIgG1 CHOのRPクロマトグラム:対照(バルク)材料;GuHClリフォールディング、および未変性リフォールディング。
Lys-Cによる限定分解後のIgG1 CHOサンプルのFabフラグメントのデコンヴォルーションされたESIマススペクトル:A)対照(バルク)材料;B)GuHClリフォールディング、およびC)未変性リフォールディング。
IgG1 CHO のGlu-Cペプチドマップ:(A)バルク、および(B)未変性リフォールディング。
IgG1のサイズ排除クロマトグラム:CHOバルク、ハイブリドーマバルク、およびCHOリフォールディング。
IgG1のCDおよび蛍光測定:CHOバルク、ハイブリドーマバルク、およびCHOリフォールディング。
限定分解後のIgG1ハイブリドーマおよびCHOの逆相クロマトグラム。システイン化(Fab-Cys)および非システイン化(Fab)フラグメントが分離され、定量される。
限定分解後、リフォールディングの前後でのIgG1の逆相クロマトグラム。システイン化(Fab-Cys)および非システイン化(Fab)フラグメントが分離され、定量される。
pH5にてNEMによる遊離システインの標識化後、トリプシンを用いたIgG1の非還元型ペプチドマッピング。システイン化の所在は重鎖のC104位であると同定された。
HC CDR2領域におけるメチオニン48酸化の同定。HC CDR2領域におけるメチオニン48は、わずかの割合で、非還元型ペプチドマップにしたがって酸化された。
IgG1非還元型ペプチドマップからの再構成イオンクロマトグラム(上段)およびフラグメンテーションマススペクトル(下段)であって、MS/MS分析によりHC CDR2領域においてメチオニン48酸化の同定を示す。メチオニン48の約10%が酸化される。酸化されたペプチドは98分に溶出され、非酸化型ペプチドは110分に溶出される。
酸化還元処理すなわちリフォールディングの前後のIgG1no示差走査熱量測定(DSC)
酸化還元処理あり、もしくはなしでの細胞培養液からプロテインAアフィニティカラムで精製されたIgG1のSEC-HPLCクロマトグラフィー。
バルクおよび酸化還元処理されたCHO由来146B7 IgG1抗体の、360nmでの蛍光発光によりモニターされたGdnHCl平衡変性。酸化還元処理146B7 IgG1抗体は、おおよそ0.7M GdnHClのCm値の変化によって示されるように、化学変性に対して、より安定である。線は視線を導くために引かれたもので、データのフィットを表すものではない。
バルクおよび酸化還元処理された146B7 IgG1抗体の比較研究のためのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)データ。パネルAは、−80、4、29、37、および45℃の保存温度について、主要ピークである単量体分子種の減少パーセントに関する3か月データである。パネルBは、−80、4、29、37、および45℃の保存温度について、単量体の前のピークである凝集物分子種の減少パーセントに関する3か月データである。
IgG1、IgG2およびIgG4モダリティとして実施された、同一CDRを有する3つの抗体の逆相(RP)クロマトグラム。IgG2抗体は、すでに報告された構造の不均一性により複数のピークを示す。IgG4も構造的不均一性を示す。変性RP条件下で、半分子(1/2 IgG4)が、共有結合性IgG4分子(IgG4)から分離された。
IgG4の半分子(A)および共有結合性IgG4(B)のエレクトロスプレーイオン化(ESI)マススペクトル。IgG4の半分子(C)および共有結合性IgG4(D)のデコンヴォルーションされたESIマススペクトル。正確な質量測定は、1/2 IgG4の質量 (73,398 Da)が、厳密にIgG4 (146,796 Da)の半分であることを示し、これはジスルフィド結合の転移が半分子の形成につながることを示唆する。鎖間から鎖内へのジスルフィド結合の転移は、正確に半分の質量を有する半分子を理論上生成するはずであるが、それがこのアッセイで実験的に観察された。
次の条件下で形成されたIgG2結晶の写真:50 mg/mL IgG2、50mM塩化カリウムpH 2.0、20% PEG 3350。
次の条件下で形成されたIgG2結晶の写真:50 mg/mL IgG2、50mM塩化カリウムpH 2.0、24% PEG 3350。
次の条件下で形成されたIgG2結晶の写真:50 mg/mL IgG2、50mM MES pH 6.0、20% PEG 3350。
IgG1およびIgG2抗体の模式図。IgG2は軽鎖のユニークな結合を有し、ヒンジ領域に2つの余分な鎖間ジスルフィドを有する。色分け:緑=重鎖(HC);青=軽鎖(LC);黄色の点線=鎖内ジスルフィド;赤=鎖間ジスルフィド;矢印のついた赤のひし形=無秩序な結合を生じやすいシステイン残基。
インタクトIgG抗体のRP-HPLCプロファイル。IgGの2つのサブクラスは、この方法によって、かなり異なるプロファイルを示す。Sigmaから購入したヒト精製IgG2は、すべてのAmgen社製IgG2と同じ不均一なプロファイルを示した。
A)抗IL-1R IgG2抗体の逆相クロマトグラム。B)ピーク1、2、3および4として逆相カラムから溶出される複数のアイソフォームの、デコンヴォルーションされたエレクトロスプレーイオン化マススペクトル。この4つのピークのMW値は、147,256、147,253、147,254、147,261 Daである。
還元およびアルキル化の前(A)および後(B)の、IgG2抗体の逆相クロマトグラム。軽鎖(LC)および重鎖(HC)は、ジスルフィド結合を還元した後、単一ピークとして溶出された。
抗IL-1R IgG2抗体に関するバイオアッセイ曲線:未変性酸化還元(フォーム1)およびGuHCl酸化還元(フォーム3)材料。酸化的リフォールディング材料の生物活性には、劇的な相違が認められた。アッセイは3日間にわたって繰り返し行い、良好な統計的信頼度を与えた。
あるIgG2抗体と同じ酸化的リフォールディング条件で処理された、他のIgG2抗体の逆相クロマトグラム。IgG2抗体のすべてが、RP-HPLCによって有意な相違を示し、この相違は前のIgG2抗体リフォールディング実験と一致した。
エントリ1HZHのPDB座標を用いてプロットされた、ヒトモノクローナルIgG1抗体のヒンジ領域の結晶構造。色分け:青はヒンジ部の重鎖(HC)である;赤は残基S131を含む重鎖ループである;緑は軽鎖(LC)である。点線は、2つの可動部のおおよその位置に付け加えられたが、その座標は可動性のために結晶学によって決定されなかった:残基S131を含むHCのS127とT137の間のループ(赤点線)およびHCヒンジ部のC217とC226の間の部分(青点線)。
さまざまなレベルのGuHClの存在下での、IgG2(抗IL-1R)抗体に対する酸化還元処理の影響を示す逆相クロマトグラム。
さまざまなレベルの塩酸アルギニンの存在下での、IgG2(抗IL-1R)抗体に対する酸化還元処理の影響を示す逆相クロマトグラム。
IgG2(抗IL-1R)抗体の酸化還元処理の間の、インキュベーション温度の影響を示す逆相クロマトグラム。