以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本実施例の燃料電池10を構成する単セル15を断面視して概略的に示す説明図である。本実施例の燃料電池10は、図1に示す構成の単セル15を複数積層したスタック構造の固体高分子型燃料電池である。
単セル15は、電解質膜20の両側にアノード21とカソード22の両電極を備える。このアノード21とカソード22は、電解質膜20の両膜面に接合され電解質膜20と共に膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、単セル15は、電極形成済みの電解質膜20を両側から挟持するアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とガスセパレーター25,26を備え、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。本実施例の単セル15は、MEAのアノード21とアノード側ガス拡散層23の間にガス透過性と導電性を有する中間層30を備え、この中間層30をアノード側ガス拡散層23に接合させている。
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。アノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成される。
中間層30は、ガス透過性と導電性を備えるべく、導電性多孔質部材によって形成され、アノード側ガス拡散層23からMEAのアノード21への水素ガスの流路となる。中間層30は、例えば、カーボンペーパやカーボンフェルトのような多孔質カーボン材料や、発泡金属などの種々の多孔質材料で形成することが可能である。この他、中間層30を、いわゆる撥水層としてのMPL(MPL: Micro Porous Layer)として形成することもでき、例えば、カーボン粒子と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE: Poly tetra fluoro ethylene )等の撥水性樹脂からなる樹脂粒子と、セリウム含有酸化物粒子とにより形成することができる。この中間層30は、MEAのアノード21の側に凹凸を備えるが、その詳細については後述する。
ガスセパレーター25は、アノード側ガス拡散層23の側に、水素を含有する燃料ガスを流すセル内燃料ガス流路47を備える。ガスセパレーター26は、カソード側ガス拡散層24の側に、酸素を含有する酸化ガス(本実施例では、空気)を流すセル内酸化ガス流路48を備える。なお、図には記載していないが、隣り合う単セル15間には、例えば、冷媒が流れるセル間冷媒流路を形成することができる。これらガスセパレーター25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。
図1では図示していないが、ガスセパレーター25,26の外周近傍の所定の位置には、複数の孔部が形成されている。これらの複数の孔部は、ガスセパレーター25,26が他の部材と共に積層されて燃料電池10が組み立てられたときに互いに重なって、燃料電池10内を積層方向に貫通する流路を形成する。すなわち、上記したセル内燃料ガス流路47やセル内酸化ガス流路48、あるいはセル間冷媒流路に対して、燃料ガスや酸化ガス、あるいは冷媒を給排するためのマニホールドを形成する。
本実施例の燃料電池10は、ガスセパレーター25のセル内燃料ガス流路47からの水素ガスを、アノード側ガス拡散層23で拡散ししつつ中間層30を経てアノード21に供給する。空気については、ガスセパレーター26のセル内酸化ガス流路48からの空気を、カソード側ガス拡散層24で拡散ししつつカソード22に供給する。
次に、中間層30の詳細な構成について説明する。図2は中間層30を概略的に斜視と正面視にて示す説明図である。
図1〜図2に示すように、中間層30は、アノード側ガス拡散層23の側を平面状としてアノード側ガス拡散層23に接合し、MEAのアノード21の側には筋状に延びる凸条32と、この凸条32に隣接した有底の凹条33とをアノード21の電極範囲において交互に並べて複数備える。このように凸条32と凹条33とを交互に並べるに当たっては、平板状に形成した中間層30の一方の面に、凹条33の溝幅に相当するプレス金型を押し付け、凹条33を所定深さで形成すれば、凸条32と凹条33を交互に並べた中間層30を得ることができる。或いは、中間層30を、まず凸条32を有しない平板状の中間品とし、この中間品を既述したようにカーボン粒子とPTFE等の樹脂粒子とセリウム含有酸化物粒子とから型成型する。次いで、この中間品の一方の面に、凸条32の形状に相当する矩形の透孔を多列に有するマスク板を設置し、このマスク板の矩形の透孔に、上記粒子を加圧充填した後、マスク板を取り除くことで、凸条32と凹条33を交互に並べた中間層30を得ることができる。この場合、マスク板の厚みが、凹条33の深さとなる。
凸条32と凹条33を交互に並べた中間層30をアノード側ガス拡散層23とMEAのアノード21との間に接合すると、図1に示すように、凹条33は、MEAのアノード21に対してその溝幅に相当する範囲(以下、溝幅範囲)を占める。そして、この凹条33は、MEAの側で開口した上で、溝の深さだけ底部をアノード21から隔てることから、凹条33へのMEAの入り込みにより、溝幅範囲において電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容する。その一方、凸条32は、凹条33が占める溝幅範囲に隣接した凸頂上範囲をMEAのアノード21に対して占める。そして、この凸条32は、凸頂上範囲での凸条32とMEAとの接合により、凸頂上範囲においてMEAの動きをアノード側ガス拡散層23に対して規制する。
また、この中間層30では、凸条32と凹条33とについて、次のようにその寸法を規定した。つまり、凹条33がアノード21に対して占める溝幅範囲をSAとし、凸条32がアノード21に対して占める凸頂上範囲の面積をSBとして求まる面積比SA/(SA+SB)が、0.6以上で1.0未満となるように、凸条32の凸幅Bと、凹条33の溝幅Aを定めた。図2(A)に示すように、凸条32と凹条33は、交互に並んでアノード21の電極範囲をおいて同じ長さで延びることから、上記した面積比SA/(SA+SB)は、凸幅Bと溝幅Aを用いた凹凸寸法比A/(A+B)で求まる。この場合、凸条32については、その凸部頂上エッジを面取り円弧としても良いほか、凸条32と凹条33を、矩形の凹凸の他、三角状の凹凸とすることもできる。図3は中間層30の他の形状を概略的に斜視と正面視にて示す説明図である。図示するように、凸条32と凹条33を、三角状の凹凸とした場合であっても、傾斜斜面で形成される凹条33の溝幅Aと、両傾斜面の頂上部である凸条32の凸幅Bについては、A/(A+B)が0.6以上で1.0未満となるように定めればよい。
凹条33の深さdは、MEAの厚みと同程度以上であることが望ましく、こうすれば、後述するように凹条33へのMEAの入り込みが確実となる。また、凹条33の深さdは、凹条33あるいは凸条32の表面粗さRzよりも大きいことが望ましく、こうすれば、凸条32の底表面にMEAが届いても、表面粗さによるいわゆる毛羽にて不用意にMEAを損傷させないようにできる。
ここで、凹条33の溝幅Aと凸条32の凸幅Bの算定について説明する。図4は電解質膜20の膨潤に伴うMEAの挙動を模式的に示す説明図である。なお、図においては、膨潤挙動を強調すべく表したのであって、実際の単セル15においては、MEAはその電解質膜20が膨潤を起こし得るようアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24に挟持されている。
単セル15(図1参照)に加湿過多でガス供給を行ったり、カソード22の側での生成水の生成が進んで、MEAが生成水や水蒸気に晒されると、このMEAは、その有する電解質膜20(図1参照)の膨潤に伴って伸張し、図4に示すようにうねりを生じる。このうねりの幅をWとすると、うねり幅Wは、次の数式1で表される。この数式1におけるhはMEAの厚みであり、νはMEAのポアソン比、εはMEAの膨潤率である。
図5はMEAの電解質膜20の膨潤に伴ううねり幅Wと電解質膜20の膨潤率との関係をMEAの厚み毎に示すグラフである。この図5に示すように、MEAの厚みが増すほど、うねり幅Wは大きくなり、膨潤率が大きくなるとうねり幅Wは小さくなる。図1の構成を備える単セル15において、MEAの厚みを実情にあった30μmとし、40%の膨潤率(詳しくは、40%の電解質膜20の膨潤率)でMEAが膨潤した場合のうねり幅Wは、数式1から73μmとなる。上記厚みと膨潤率とした電解質膜20を含むMEAを有する単セル15において、MEAの実際のうねりを走査顕微鏡で調べたところ、実際のうねり幅Wは80〜90となり、数式1から算出したうねり幅Wは、実用可能な範囲で実際のうねり幅Wに代用できることが判った。
図4に示したようなMEAのうねりは、電解質膜20の膨潤に伴って起き、電解質膜20の膨潤の継続やその繰り返しは、電解質膜20、引いてはMEAの塑性変形を招きかねない。図6はMEAのうねりと損傷の関係を模式的に示す説明図である。仮に、MEA(電解質膜20)に塑性変形が起きると、図6に示すように、MEA(電解質膜20)の乾燥により膜の伸び(うねり)が戻ろうとする際、MEA(電解質膜20)には伸びの戻りに伴う引っ張り応力が作用する。このため、塑性変形が進むほど、引っ張り応力は大きくなり、膜の損傷を招きかねない。こうした事態を抑制するため、本実施例では、上記したように、凹条33にて、その溝幅範囲において電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容し、凹条33に隣接した凸条32にて、その凸頂上範囲においてMEAの動きをアノード側ガス拡散層23に対して規制した上で、凹凸寸法比A/(A+B)が、0.5以上で1.0未満となるように、凸条32の凸幅Bと、凹条33の溝幅Aを定めた。なお、上記の凹凸寸法比の関係から、凹条33の溝幅Aは凸条32の凸幅Bより広いことになる。
ここで、凸条32の凸幅Bと凹条33の溝幅Aを定める上での解析手法を説明する。図7は電解質膜20の膨潤と乾燥を経たMEAに発生する応力を有限要素法による解析した結果を凸条32の凸幅Bと凹条33の溝幅Aと関連付けて概略的に示す説明図である。
図7は、MEAに起きたうねりを、隣接する凸条32で挟まれた凹条33に対応させた場合の応力発生の様子を示しており、既述した溝幅範囲において電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容する凹条33には、MEAが入り込むよう伸張してうねっている。その一方、凸頂上範囲においてMEAの動きをアノード側ガス拡散層23に対して規制する凸条32では、うねりはほぼ起きていない。そして、このようなうねりを起こす電解質膜20の膨潤が継続されたり繰り返されると、電解質膜20は塑性変形を起こしやすくなって、乾燥時には、伸びの戻りにより引っ張り応力が高まることが、図7の解析結果からも判明した。つまり、この解析結果から、電解質膜20の膨潤やその乾燥によるMEAの挙動は、凹条33と凸条32の境界で異なるものとなり、この境界で応力集中が起きると言える。これに加え、図2に示す凹条33の溝幅Aが小さくなると、電解質膜20の伸張やこれに伴うMEAのうねりが小さな溝幅Aの凹条33で起きざるを得ないために、膜の伸張やうねりに伴う膜の曲がりが制約され、境界で応力集中も過度となると予想される。なお、図7では、MEAのうねりによる一つの膜の曲がりを凹条33に対応させているが、凹条33の凸幅Bが大きくなれば、その大きな凸幅Bの凹条33では、MEAのうねりにより複数の膜の曲がりが起きると考えられる。
図8は有限要素解析結果を凸条32の凸幅Bと凹条33の溝幅Aの凹凸寸法比A/(A+B)に応じてプロットしたグラフである。この図8の結果から、凸条32の凸幅Bと凹条33の溝幅Aの凹凸寸法比A/(A+B)が0.5より小さいと(サンプルNo.S1〜S4)、図7に示したうねりによる湾曲部長さと凹条33の溝幅Aの差分を凹条33の溝幅Aで除算した変形部の歪み(図8のグラフの左側縦軸)は大きくなり、これに伴って最大主応力(図8のグラフの右側縦軸)も大きいことが判明した。これに対し、凸条32の凸幅Bと凹条33の溝幅Aの凹凸寸法比A/(A+B)が0.5以上であれば、変形部の歪みも最大主応力も小さくなり、凹凸寸法比A/(A+B)が0.6以上で1.0未満であれば(サンプルNo.S5〜S6)、変形部の歪みと最大主応力とをより確実に小さくできることが判明した。また、この図8の結果から、凹条33の溝幅Aについては、これを上記した数式1で定まるうねり幅Wより大きくしておくことが、上記の凹凸寸法比A/(A+B)の規定と相まって望ましいと言える。
次に、数式1で定まるうねり幅Wは、MEAの膨潤率εを変数とすることから、このMEAの膨潤率εと溝幅Aと凸幅Bおよび凹凸寸法比A/(A+B)の関係について説明する。図9は異なるMEAの膨潤率εに対する凸条32の溝幅Aと凹条33の凸幅Bおよび凹凸寸法比A/(A+B)の対応関係を示す説明図である。
既述したように、本実施例では、凹凸寸法比A/(A+B)を0.5以上としたので、凹条33の溝幅Aは凸条32の凸幅Bより広いことになる。その上で、凹条33の溝幅Aを上記した数式1で定まるうねり幅Wより大きくすると(溝幅A>うねり幅W)、凸条32の凸幅Bは数式1で定まるうねり幅Wより必然的に小さくなる(凸幅B<うねり幅W)。こうした関係を維持しつつMEAの厚みを75μm、或いは150μmとすると、各厚みについて、凹凸寸法比A/(A+B)が大きいほど凹条33の溝幅Aは凸条32の凸幅Bの採択の幅は広がり、この採択幅は、MEAの膨潤率εが小さいほど広くなる。こうした解析結果を踏まえ、本実施例では、MEAの厚みを30μmとした場合に、凹条33の溝幅Aを400μm、凸条32の凸幅Bを50μmとして、凹凸寸法比A/(A+B)を0.89(=400/450)とした。また、凹条33の深さdについては、MEAの厚み(30μm)より大きな50μmとした。こうしたスペックのMEAと中間層30を有する単セル15について、乾燥状態でのガス供給・発電と加湿過多(相対湿度100%)でのガス供給・発電を繰り返す乾湿サイクルリーク試験を行ったところ、リーク回避が確認された。
このようにリーク回避が可能となったのは、隣接する凹条33と凸条32とにおいて、凹条33については、その溝幅範囲において電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容するようにし、凹条33に隣接した凸条32については、その凸頂上範囲においてMEAの動きをアノード側ガス拡散層23に対して規制した上で、凹凸寸法比A/(A+B)が、0.5以上で1.0未満となるように、凸条32の凸幅Bと、凹条33の溝幅Aを定めたことに起因すると考えられる。つまり、このようにすることで、電解質膜20の膨潤に伴うMEAの凹条33の内部への入り込みが確実に起き、MEAの乾燥に伴う伸びの戻りも支障なく起きることから、MEAにおける電解質膜20の応力緩和や、応力の過度の集中を抑制でき、これにより、電解質膜20、引いてはMEAの耐久性を高めて、単セル15および燃料電池10についても、その耐久性を向上できる。
また、図8に示した本実施例のサンプルNo.S5〜S6の単セル15では、面積比SA/(SA+SB)に相当する凹凸寸法比A/(A+B)を0.6以上としたので、凹条33によるMEAの溝幅A(伸張許容範囲の面積SA)は凸条32の凸幅B(伸張規制範囲の面積SB)に対して相対的に広がるので、その分、凹条33にMEAが入り込む際のMEAの伸張やうねりに伴う曲がりを小さくできる。よって、本実施例によれば、MEAの電解質膜20における応力をより緩和できると共に、応力集中の抑制効果が高まり、耐久性向上により一層寄与できる。
本実施例では、MEAの厚みを30μmとした場合に、凹条33の溝幅Aを400μm、その深さdを50μm、凸条32の凸幅Bを50μmとしたので、凹条33と凸条32の表面積を、溝幅範囲の面積と凸条32の凸頂上範囲の面積の和で除算した面積比は、1.22となる。その一方、30μmの厚みのMEAが給水状態にある場合のその面積増加率は1.96であり、MEAの面積増加率の方が上記の面積比より大きい。よって、電解質膜20の膨潤に伴って、MEAは凹条33の溝内に隙が少ない状態で入り込むことになるので、凹条33の溝内の隙に水分がたまりにくくなり、フラッディングの抑制の上から好ましい。また、凹条33における中間層30とMEAとの接触面積も確保できることから、電池性能の維持もしくはその向上を図ることができる。この場合、凹条33と凸条32の表面積は、凹条33の深さdを用いて算出されることから、MEAの面積増加率の方が上記の面積比より大きくなるように、凹条33の深さdについても考慮して定めればよい。
また、上記したような耐久性向上を、凸条32と凹条33とを交互に並べた中間層30を、凹条33の開口側がアノード21に向くよう、アノード21とアノード側ガス拡散層23の間に介在させるだけでよいので、簡便である。しかも、凹条33は有底であることから、中間層30だけを取り扱えばよいことから、単セル15、延いては燃料電池10の製造工程も簡略化できる。
次に、凸条32と凹条33の他の形態について説明する。図10は第2実施例の単セル15における中間層30Aを概略的に示す斜視図、図11は図10における11−11線断面図である。
図示するように、この実施例の中間層30Aは、その一表面側に、有底の円形凹部33Aを縦横に等ピッチで備え、一つの円形凹部33Aを取り囲む矩形範囲を凸部32Aとする。図10では、一つの円形凹部33Aを取り囲む凸部32Aの矩形範囲が太線とその内部の平行線にて表されている。凸部32Aは、中間層30Aの一表面において円形凹部33Aを除く範囲として連続しているが、これは、一つの円形凹部33Aを取り囲む矩形範囲が連続していると捕られることができると共に、円形凹部33Aの凹部形状範囲は凸部32Aの矩形範囲に隣接しているとも言える。そして、円形凹部33Aは、その凹部形状範囲において、先の実施例における凹条33の溝幅範囲と同様に、電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容し、凸部32Aは、円形凹部33Aを取り囲む矩形範囲において、先の実施例の凸条32と同様に、MEAの動きをアノード側ガス拡散層23に対して規制する。つまり、この実施例の中間層30Aによっても、円形凹部33Aと凸部32Aとが凹条33と凸条32と同様の機能を果たす。なお、円形凹部33Aは、平板状の中間層30Aの一表面を円形の凸状プレス金型で押圧することで形成される。
そして、この実施例では、図11に示すように、円形凹部33Aの直径Aを400μm、深さdを50μm、隣り合う円形凹部33Aの間隔Bを50μmとしたので、円形凹部33Aの凹部形状範囲の面積SAと凸部32Aの矩形範囲の面積SBを用いた面積比SA/(SA+SB)は、0.62(=2002π/((450x450−2002π)+2002π)となる。しかも、円形凹部33Aの凹部形状範囲の直径Aは、上記した数式1で定まるうねり幅Wより大きくなる。この結果、この実施例の中間層30Aによっても、電解質膜20の膨潤に伴うMEAの円形凹部33Aの内部への入り込みが確実に起き、MEAの乾燥に伴う伸びの戻りも支障なく起きることから、MEAにおける電解質膜20の応力緩和や、応力の過度の集中を抑制でき、これにより、電解質膜20、引いてはMEAの耐久性を高めて、単セル15および燃料電池10についても、その耐久性を向上できる。
また、この実施例では、MEAの厚みを30μmとした場合に、既述したように円形凹部33Aの直径Aを400μm、深さdを50μm、隣り合う円形凹部33Aの間隔Bを50μmとしたので、円形凹部33Aと凸部32Aの表面積を、円形凹部33Aの凹部形状範囲の面積SAと凸部32Aの矩形範囲の面積SBの和で除算した面積比は、1.39となる。その一方、30μmの厚みのMEAが給水状態にある場合のその面積増加率は1.96であり、MEAの面積増加率の方が上記の面積比より大きい。よって、電解質膜20の膨潤に伴って、MEAは円形凹部33Aの溝内に隙が少ない状態で入り込むことになるので、円形凹部33Aの溝内の隙に水分がたまりにくくなり、フラッディングの抑制の上から好ましい。なお、円形凹部33Aを、矩形形状で凹とされた凹部とすることもできる。
図12は隣り合う円形凹部33Aが隣接するようにした中間層30Aを平面視して示す説明図である。このようにした場合、円形凹部33Aの半径をaとすると、円形凹部33Aの凹部形状範囲の面積SAと凸部32Aの矩形範囲の面積SBを用いた面積比SA/(SA+SB)は、0.785(=πa2/((4a2−πa2)+πa2)となる。また、円形凹部33Aと凸部32Aの表面積を、円形凹部33Aの凹部形状範囲の面積SAと凸部32Aの矩形範囲の面積SBの和で除算した面積比は、円形凹部33Aの深さをdとすると、(πd+2a)/aとなるので、この面積比が30μmの厚みのMEAが給水状態にある場合の面積増加率は1.96より小さくなるように定めることができる。
次に、中間層30を用いない実施例について説明する。図13は凸条32と凹条33に代わる凸条および凹条をアノード21に設けた第3実施例におけるMEAを概略的に示す斜視図である。
図示するように、この実施例では、電解質膜20に接合したアノード21とカソード22のうち、アノード21に凸条32Bと凹条33Bを交互に並べて有する。この場合、アノード21は、電解質膜20に接合して形成された触媒を含む電極であるため、電解質膜20の膨潤に伴ってこの電解質膜20に接合したまま伸張する性状を有する。そして、アノード21は、凸条32Bと凹条33Bを、電解質膜20と反対側の表面、即ち、アノード側ガス拡散層23(図1参照)との接合面側に備える。この実施例にあっても、凹条33Bは、アノード側ガス拡散層23の側で開口した有底の凹部とされ、凹部の底部(即ち、アノード21自体)が膨潤する電解質膜20と共に伸張することで、電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容する。凸条32Bは、アノード側ガス拡散層23に接合することで、MEAの動きをアノード側ガス拡散層23に対して規制する。この場合、凹条33Bの溝幅Aとその深さdや凸条32Bの凸幅Bについては、先の実施例と同様に定めることができる。なお、図におけるhは、MEAの厚み(例えば、既述した30μm)を表している。
こうした構成のアノード21を有するMEAを得るに当たっては、予めアノード21を平板状とした上で、電解質膜20と反対側の面に凹条33Bの溝幅に相当するプレス金型を押し付け、凹条33Bを所定深さで形成すれば、凸条32Bと凹条33Bを交互に並べたアノード21を有するMEAを得ることができる。或いは、アノード21を、まず凸条32Bを有しない平板状の中間品とし、この中間品を白金等の触媒を担持した担体と電解質樹脂のいわゆる電極ペーストから形成し、次いで、この中間品の一方の面に、凸条32Bの形状に相当する矩形の透孔を多列に有するマスク板を設置し、このマスク板の矩形の透孔に、上記電極ペーストを充填した後、マスク板を取り除くことで、凸条32Bと凹条33Bを交互に並べたアノード21を得ることができる。そして、このアノード21を電解質膜20に転写することで、凸条32Bと凹条33Bを交互に並べたアノード21を有するMEAを得ることができる。この場合、マスク板の厚みが、凹条33Bの深さとなる。また、凸条32Bを反転させた形状の凹条と、凹条33Bを反転させた形状の凸条とを交互に有するフッ素系樹脂シート(例えば、テフロン:登録商標)の表面に、上記の電極ペーストにてアノード21を形成し、このアノード21を電解質膜20に転写することで、凸条32Bと凹条33Bを交互に並べたアノード21を有するMEAを得ることができる。
この図13に示したMEAを有する単セル15にあっても、アノード21の凸条32Bと凹条33Bが既述した実施例の凸条32と凹条33と同様の機能を果たすことから、電解質膜20、延いては燃料電池10の耐久性を向上できる。また、この実施例では、図12に示すMEAをアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24で挟持すればよいことから、簡便となる。
次に、凸条32と凹条33とそれぞれの機能(電解質膜20の伸張の許容・規制)では同じであるものの、その機能の果たし方が相違する実施例について説明する。図14は接着と非接着により電解質膜20の伸張の許容と規制の機能を果たす第4実施例の中間層30Cを概略的に斜視にて示す説明図である。
図示するように、この実施例の中間層30Cは、アノード側ガス拡散層23と接合した上で、アノード側ガス拡散層23と反対側、即ち図1に示したアノード21の側に、接着機能を有する帯状の接着部32Cと接着機能を有しない帯状の非接着部33Cを交互に並べて有する。この中間層30Cは、既述した撥水層としてのMPLとして形成され、配合するカーボン粒子の粒径や配合の状況を調整することで塑性特性が付与され、電解質膜20の膨潤に伴ってその電解質膜20に接合したまま伸張する性状を有する。
この中間層30Cを、接着部32Cと非接着部33Cがアノード21の側となるよう、アノード21とアノード側ガス拡散層23の間に配設すると、接着部32Cは、MEA(詳しくは、アノード21)との接着により、このMEAの動きをアノード側ガス拡散層23(図1参照)に対して規制する。非接着部33Cは、当該部位の中間層30Cが膨潤する電解質膜20と共に伸張することで、電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容する。つまり、非接着部33Cは、既述した凹条33等と同様の機能をアノード21と接着しないことで果たし、接着部32Cは、既述した凸条32等と同様の機能をアノード21に接着することで果たす。そして、非接着部33Cの帯幅Aや接着部32Cの帯幅Bについては、凹条33の溝幅Aや凸条32の凸幅Bと同様に定めることができる。
こうした構成の中間層30Cを得るに当たっては、中間層30Cの表面に、接着部32Cの帯幅Bに相当する範囲に亘って帯状に接着剤を等ピッチ(ピッチは非接着部33Cの帯幅A)で塗布或いは転写することで、接着部32Cと非接着部33Cを交互に並べた中間層30Cを得ることができる。或いは、中間層30Cにアノード21を重ねて配置し、接着部32Cの帯幅Bで延びる帯状の熱圧着プレートスプレーにて中間層30Cとアノード21とを熱圧着し、その熱圧着部位を、非接着部33Cの帯幅Aをピッチとしてズラせば、中間層30Cは、熱圧着部位を接着部32Cとしてアノード21に接着し、熱圧着部位の間で熱圧着を受けない部位を非接着部33Cとしてアノード21に接着させないようにする。
この図14に示した中間層30Cを有する単セル15にあっても、中間層30Cの接着部32Cと非接着部33Cが既述した実施例の凸条32と凹条33と同様の機能を果たすことから、電解質膜20、延いては燃料電池10の耐久性を向上できる。この場合、非接着部33Cでは、中間層30Cが電解質膜20の膨潤に伴って伸張する性状であることから、電解質膜20の膨潤に伴うMEAの伸張やうねりを起きにくくしない。よって、電解質膜20に大きな緊張を与えないようにできるので、接着部32Cと非接着部33Cによる耐久性の向上を損なわない。
次に、接着部32Cと非接着部33Cの他の形態について説明する。図15は第5実施例の単セル15における中間層30Dを概略的に示す斜視図である。
図示するように、この実施例の中間層30Dは、アノード側ガス拡散層23と接合した上で、アノード側ガス拡散層23と反対側、即ち図1に示したアノード21の側に、接着機能を有しない円形非接着部33Dを縦横に等ピッチで備え、一つの円形非接着部33Dを取り囲む矩形範囲を接着部32Dとする。図10では、一つの円形非接着部33Dを取り囲む接着部32Dの矩形範囲が太線とその内部の平行線にて表されている。接着部32Dは、中間層30Aの一表面において円形非接着部33Dを除く範囲として連続しているが、これは、一つの円形非接着部33Dを取り囲む矩形範囲が連続していると捕られることができると共に、円形非接着部33Dの範囲は接着部32Dの矩形範囲に隣接しているとも言える。そして、円形非接着部33Dは、その円形形状範囲において、先の実施例における非接着部33Cの溝幅範囲と同様に、電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容し、接着部32Dは、円形非接着部33Dを取り囲む矩形範囲において、先の実施例の接着部32Cと同様に、MEAの動きをアノード側ガス拡散層23に対して規制する。つまり、この実施例の中間層30Dによっても、円形非接着部33Dと接着部32Dとが非接着部33Cと接着部32Cと同様の機能を果たす。
この実施例では、図11において説明した円形凹部33Aの凹部形状範囲の面積SAと凸部32Aの矩形範囲の面積SBを用いた面積比SA/(SA+SB)を、円形非接着部33Dの円形形状範囲の面積SAと接着部32Dの矩形範囲の面積SBを用いた面積比SA/(SA+SB)とし、この面積比が0.5以上、好ましくは0.6以上となるように、円形非接着部33Dの直径や接着部32Dの矩形範囲の縦横寸法(詳しくは、円形非接着部33Dの形成ピッチ)を定めればよい。
こうした構成の中間層30Dを得るに当たっては、中間層30Dの表面に、円形非接着部33Dを除く領域に亘って接着剤を塗布或いは転写することで、円形非接着部33Dを縦横に並べ、一つの円形非接着部33Dを取り囲む接着部32Dを交互に並べた中間層30Dを得ることができる。或いは、中間層30Dにアノード21を重ねて配置し、円形非接着部33Dを除く領域において熱圧着を図る熱圧着プレートスプレーにて中間層30Dとアノード21とを熱圧着すれば、中間層30Cは、熱圧着部位を接着部32Dとしてアノード21に接着し、熱圧着部位の間で熱圧着を受けない部位を円形非接着部33Dとしてアノード21に接着させないようにする。
この図15に示した中間層30Dを有する単セル15にあっても、中間層30Dの接着部32Dと円形非接着部33Dが既述した実施例の凸条32と凹条33、および接着部32Cと非接着部33Cと同様の機能を果たすことから、電解質膜20、延いては燃料電池10の耐久性を向上できる。この場合、円形非接着部33Dでは、中間層30Dが電解質膜20の膨潤に伴って伸張する性状であることから、電解質膜20の膨潤に伴うMEAの伸張やうねりを起きにくくしない。よって、電解質膜20に大きな緊張を与えないようにできるので、接着部32Dと円形非接着部33Dによる耐久性の向上を損なわない。
次に、中間層30の他の実施例について説明する。図16は凸条32Eを多列に有する実施例の中間層30Eを概略的に斜視にて示す説明図である。この実施例では、中間層30Eは、アノード側ガス拡散層23の側を平面状としてアノード側ガス拡散層23に接合し、MEAのアノード21の側には筋状に延びる凸条32Eを多列に平行に備える。つまり、中間層30Eは、既述した実施例の凹条33を備えず、多列の凸条32Eの間の凹条間部位33Eを、凹条33に代用し、この凹条間部位33Eにおいて、電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を許容する。この場合、凸条32Eを多列に平行に備えるに当たっては、アノード側ガス拡散層23の一方の表面に、凸条32Eの形状に相当する矩形の透孔を多列に有するマスク板を設置し、このマスク板の矩形の透孔に、カーボン粒子とPTFE等の樹脂粒子等の既述した粒子を加圧充填した後、マスク板を取り除くことで、凸条32Eを多列に備え、その列間を凹条間部位33Eとする中間層30Eを得ることができる。この場合、マスク板の厚みが、凸条32Eの突出高さ、即ち凹条33におけるその深さd(図2参照)となる。この実施例によっても、多列の凸条32Eと列間の凹条間部位33Eが先の実施例における凸条32と凹条33と同様の機能を果たすので、既述した効果を奏することができる。
次に、単セル15におけるガス流路軌跡との関係について説明する。単セル15におけるガス流路、例えば、カソード22の側で空気供給を図るセル内酸化ガス流路48は、種々の軌跡で単セル15に形成される。図17は空気のセル内酸化ガス流路48が多列に平行配設された形態を示す説明図である。その他の流路形態については後述する。
図17に示す単セル15は、多列のセル内酸化ガス流路48を平行に備え、空気入口側から、空気をそれぞれのセル内酸化ガス流路48を経て空気出口側に流す。このようにしてガス供給を受ける単セル15は、電気化学反応の進行に伴ってカソード22の側で水を生成する。この生成水は、上記した平行で多列のセル内酸化ガス流路48のそれぞれでガス下流側の空気出口に運ばれる。生成水は、MEAの電解質膜20に対して作用するので、電解質膜20は膨潤を起こす。ところが、生成水は、流路を流れる空気によって下流側に運ばれることから、空気入口側から出口側に掛けては、MEAの電解質膜20に対して作用する生成水量が相違することになる。これにより、電解質膜20の膨潤の程度は、セル内酸化ガス流路48の流路軌跡において異なることとなる。
本実施例では、MEAの電解質膜20に対して作用する水分量の相違に対処すべく、以下に説明するような中間層30の凸条32と凹条33の設計手法を用いた。図18は中間層30における凸条32と凹条33の形状を定める設計手法を示す手順図である。
図示するように、まず、セル内酸化ガス流路48に対して、図17に示す単セル15であれば、平行に多列のセル内酸化ガス流路48を有する単セル15に対して、セル面内、もしくは電極面内でのMEAの含水量を算出する(ステップS100)。この含水量算出は、コンピューターを用いたシミュレーション計算にて行うことができるほか、単セル15の流路各部位に歪みゲージや圧力センサーなどを設置し、これらのセンシング結果に基づいて、MEA含水量を算出するようにすることもできる。なお、シミュレーション計算の際の因子は、ガス流量、ガス温度、セル温度並びに上記したセル内酸化ガス流路48の形状などである。
次に、単セル15に想定される各運転条件での膜(MEA)の含水量を求め、その含水量に基づいたセル内各位置での最大膨潤率を算出する(ステップS110)。例えば、図17に示す流路構成の単セル15であれば、セル内酸化ガス流路48をガス流れ方向にほぼ等分に区画した場合のガス入口側の第1領域(Sec1)と、中央の第2領域(Sec2)と、ガス出口側の第3領域(Sec3)とし、各領域での最大膨潤率を求める。図17には、この結果が付してあり、これによれば、下流側の領域ほど、MEA含水量が多くなって最大膨潤率が高いことが判る。この結果は、それぞれのセル内酸化ガス流路48は、上流側から下流側に単純に空気を流すので、流路を流れる空気に運ばれる生成水は、下流側の領域ほど増えることに符合する。
ステップS110に続くステップS120では、求めた各領域毎の最大膨潤率から、中間層30の凸条32と凹条33の形状を設定する。この際、図9で説明したMEAの膨潤率εに対する凸条32の溝幅Aと凹条33の凸幅Bおよび凹凸寸法比A/(A+B)の対応関係や、数式1で得られるMEAのうねり幅Wを考慮することになる。例えば、図17に示す流路軌跡のセル内酸化ガス流路48を有する15では、第1〜第3の領域のいずれも、凹条33の溝幅Aを数式1のうねり幅W(MEAの厚み:30μm)を超える400μmとし、凹条33の深さdをMEAの厚み(30μm)以上の50μmとし、凸条32の凸幅Bについては、第1領域(Sec1)では140μm、第2領域(Sec2)では100μm、第3領域(Sec3)では60μmとした。
この場合、各領域での凹凸寸法比A/(A+B)は、第1領域(Sec1)では0.74(=400/(400+140))、第2領域(Sec2)では0.8(=400/(400+100))、第3領域(Sec3)では0.87(=400/(400+60))となる。つまり、上記の各領域でMEAの電解質膜20に対して作用する生成水の水分量に応じて異なることから、ステップS120では、凸条32と凹条33の凹凸寸法比A/(A+B)を、上記の各領域で異なるものとし、水分量が多い下流側の第3領域(Sec3)の凹凸寸法比A/(A+B)を、当該領域より上流であるために水分量が少ない第1、第2の領域の凹凸寸法比A/(A+B)より大きくする。第1領域(Sec1)と第2領域(Sec2)の関係についても同様である。
こうしてした中間層30の凸条32と凹条33の形状を設定した後は、ステップS130で、その設定した形状の凸条32と凹条33とを有する中間層30を作製し、この中間層30とMEAやアノード側ガス拡散層23等から単セル15を作製する。この単セル15を用いて燃料電池10が製造される。
このようにして、図17に示す流路軌跡のセル内酸化ガス流路48を有する15について、下流側で電解質膜20に対して作用する水分量が多い第3領域(Sec3)の凹凸寸法比A/(A+B)をその上流領域より大きくした。よって、次の利点がある。
電解質膜20に対して作用する水分量が多いと、電解質膜20の膨潤率も大きくなり、膜膨潤によるMEAの伸張、引いては上記したうねりが顕著となる。ところが、本実施例では、水分量が多い第3領域(Sec3)では凹凸寸法比A/(A+B)が大きいことから、凹条33によるMEAの伸張許容範囲(溝幅A)は、凸条32によるMEAの伸張規制範囲(凸幅B)に対して相対的に広くなる。このため、水分量が多い第3領域(Sec3)であっても、当該領域の凹条33の溝幅Aにおいては、MEAの無理な伸張やうねりを抑止して、うねりに伴う曲がりを小さくできるので、MEAの電解質膜20における応力緩和や応力集中の抑制を、電解質膜20に対して作用する水分量の相違に拘わらず、高い実効性で達成できる。この結果、電解質膜20に対して作用する水分量に応じて凸条32と凹条33の凹凸寸法比A/(A+B)を調整する本実施例によれば、電解質膜20を含むMEAの全域における耐久性を向上でき、燃料電池の耐久性についても、これを確実に高めることができる。
セル内酸化ガス流路48の流路軌跡は種々のものがあるので、これらについても説明する。図19はセル内酸化ガス流路48が折り返し経路とされた形態を示す説明図、図20は単セル15における空気の入口側と出口側との間においてセル内酸化ガス流路48が平行配設された形態を示す説明図である。
図19に示す単セル15は、一筋のセル内酸化ガス流路48を、空気入口側から空気出口に到るまで折り返して形成し、空気をセル内で折り返しながら流す。こうした折り返し軌跡のセル内酸化ガス流路48を有する単セル15にあっても、セル内酸化ガス流路48の下流側ほど、空気に運ばれる生成水が多くなる。よって、図示するように、空気入口側から空気の流れに沿って第1領域(Sec1)と、中央の第2領域(Sec2)と、ガス出口側の第3領域(Sec3)とし、各領域について、既述したように含水量算出と最大膨潤率の算出(ステップS100〜110)、中間層30の凸条32と凹条33の形状設定(ステップS120)を行い、中間層30および単セル15を作製する(ステップS130)。こうすれば、図19に示すように折り返し流路軌跡のセル内酸化ガス流路48を有する単セル15にあっても、既述したように電解質膜20を含むMEAの全域における耐久性を向上でき、燃料電池の耐久性も高めることができる。
図20に示す単セル15は、空気の入口側において、その下流に平行で多列とされたセル内酸化ガス流路48に空気を分流し、各流路の末端から流れ出た空気を合流させて出口から排出させる。こうした流路軌跡のセル内酸化ガス流路48を有する単セル15では、入口側での分流と出口側での合流を起こす都合から、セル内酸化ガス流路48を上流下流に2分割して、それぞれの領域についての含水量算出と最大膨潤率の算出等を行った。その結果、上流側領域は、図17で説明した第2領域(Sec2)と第3領域(Sec3)に相当する含水量と最大膨潤率であったので、この第2領域(Sec2)と第3領域(Sec3)で採用した凹凸形状に倣うことにした。そして、図20に示す分流・合流を起こす流路軌跡のセル内酸化ガス流路48を有する単セル15にあっても、既述したように電解質膜20を含むMEAの全域における耐久性を向上でき、燃料電池の耐久性も高めることができる。
次に、燃料電池10における単セル15のスタック構造との関係について説明する。燃料電池10は、対向するエンドプレート12にて単セル15を積層挟持したスタック構造を採る。このスタックに対するガス供排は、二つに大別される。図21はスタックに対するガス給排をそれぞれのエンドプレート12で行う燃料電池10を示す説明図、図22はスタックに対するガス給排を一方のエンドプレート12で行う燃料電池10を示す説明図である。
図21に示す燃料電池10は、一方のエンドプレート12の側からガスを供給し、その供給したガスを、それぞれの単セル15に行き渡らせ、単セル15で未消費のガスを、他方のエンドプレート12の側から排出する。こうしたガス給排を行う燃料電池10では、ガス入口側の単セル15で余剰となった生成水やガス加湿用の水蒸気は、ガスに運ばれて下流側の単セル15に入り込む。このため、スタック構造におけるガス入口側から出口側に掛けては、MEAの電解質膜20に対して作用する水分量が単セル15の積層位置で相違することになる。これにより、電解質膜20の膨潤の程度は、単セル15の積層位置において異なることとなる。
本実施例では、MEAの電解質膜20に対して作用する水分量がセル積層位置により異なることに対処すべく、既述した中間層30の凸条32と凹条33の設計手法に倣って、単セル15の積層位置に応じて中間層30における凸条32と凹条33の形状を定めることにした。つまり、スタック構造におけるガス入口側に積層される単セル15を第1領域セル群(Sec1)とし、スタック中央に積層される単セル15を第2領域セル群(Sec2)とし、スタック構造におけるガス出口側に積層される単セル15を第3領域セル群(Sec3)とし、各セル群毎に既述したように含水量算出と最大膨潤率の算出(ステップS100〜110)、中間層30の凸条32と凹条33の形状設定(ステップS120)を行った。このため、スタック構造における単セル15の積層位置に拘わらず、MEAの電解質膜20における応力緩和や応力集中の抑制を高い実効性で達成できるので、電解質膜20を含むMEAの全域における耐久性の向上ばかりか、単セル15を複数積層したスタック構造全体として、燃料電池の耐久性を向上できる。この場合、それぞれの単セル15においては、図17等で示したようにガス流路における流路位置(第1領域:Sec1〜第3領域:Sec3)で凹条33の凸幅B等を定めた上で、その定めた領域ごとの凸幅B等を、更に、スタック構造における単セル15の積層位置に応じた第1領域セル群〜第3領域セル群に対応させて設定するようにすることもできる。
図22に示す燃料電池10は、一方のエンドプレート12の側からガスを供給し、その供給したガスを、それぞれの単セル15に行き渡らせ、単セル15で未消費のガスを他方のエンドプレート12の側で折り返すようにして、ガス供給側のエンドプレート12から排出する。つまり、図22に示す燃料電池10は、スタック構造において、いわゆるデッドエンドの流路構造を有する。このようにしてガス給排を行う燃料電池10では、ガス折り返しエンドプレート12の側に積層された単セル15に余剰生成水やガス加湿用の水蒸気が運ばれるので、ガス折り返しエンドプレート12の積層位置では、MEAの電解質膜20に対して作用する水分量が多くなる。また、ガス折り返しの都合から、MEAの電解質膜20に対して作用する水分量が多くなる単セル15の数も増える。
本実施例では、MEAの電解質膜20に対して作用する水分量がセル積層位置とデッドエンドでのガス給排の様子により異なることに対処すべく、既述した中間層30の凸条32と凹条33の設計手法に倣って、単セル15の積層位置に応じて中間層30における凸条32と凹条33の形状を定めることにした。つまり、スタック構造におけるガス入口側に積層される単セル15を第1領域セル群(Sec1)とし、スタック中央に積層される単セル15を第2領域セル群(Sec2)とし、スタック構造におけるガス出口側に積層される単セル15を第3領域セル群(Sec3)とした上で、第3領域セル群(Sec3)に含まれる単セル15の数を多くし、各セル群毎に既述したように含水量算出と最大膨潤率の算出(ステップS100〜110)、中間層30の凸条32と凹条33の形状設定(ステップS120)を行った。このため、スタック構造における単セル15の積層位置に拘わらず、MEAの電解質膜20における応力緩和や応力集中の抑制を高い実効性で達成できるので、既述した効果を奏することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、アノード21に接合する第1実施例の凸条32や、アノード側ガス拡散層23に接合する第3実施例の凸条32B、或いは凸条32Eにおいて、その凸部頂上面に接着剤を塗布または転写するようにできる。こうすれば、凸条32等とMEA(詳しくは、アノード21)の接着により、MEAの動きをより確実に規制できる。しかも、中間層30とMEAとを一体物として取り扱うことができるので、その取扱が簡便となり、燃料電池10の製造工程を簡略化できる。
また、上記の凸条32等の凸条を、その形成時におけるカーボン粒子の粒径調整や配向調整により、凸条32以外の箇所、具体的には凹条33よりその硬度を高くするようにできる。こうすれば、凸条32の間の凹条33の形状維持を図ることができるので、電解質膜20の膨潤に伴うMEAのアノード側ガス拡散層23の側への伸張を凹条33においてより確実に許容できるので、耐久性向上により寄与できる。
また、図21〜図22では、燃料電池10のスタック構造における単セル15の積層方向を考慮しないで説明したが、セル積層方向を考慮することもできる。例えば、単セル15が鉛直方向に積層されたスタック構造の燃料電池10では、重力により、鉛直下方側に積層された単セル15ほど、余剰生成水が集まりやすい。よって、単セル15の積層位置が鉛直下方側であれば、MEAの電解質膜20に対して作用する水分量が多くなるとして、凸条32や凹条33の形状設定を行う、具体的には、凸条32の凸幅Bや凹条33の溝幅A、並びに凹凸寸法比A/(A+B)を調整すればよい。
更に、中間層30については、カソード22の側にも配設するようにすることもできる。