JP5540671B2 - 絶縁電線 - Google Patents

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Description

本発明は回転電機や変圧器などの電機機器のコイルに用いられる絶縁電線に係り、特に、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜で絶縁被覆層を形成した絶縁電線に関するものである。
一般に、回転電機や変圧器などの電機機器のコイルには、コイルの用途・形状に合致した断面形状(例えば、丸形状や矩形状)を有する金属導体(導体)の周囲に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の樹脂を有機溶剤に溶解させた絶縁塗料を塗布・焼付けして得られる絶縁皮膜を1層又は2層以上形成してなる絶縁被覆層を備えた絶縁電線(エナメル線)が、広く用いられている。
回転電機や変圧器などの電機機器は、インバータ制御にて駆動されるようになってきており、このようなインバータ制御を用いた電機機器では、インバータ制御により発生するインバータサージ電圧が高い場合、発生したインバータサージ電圧が電機機器に侵入してしまう虞がある。このようにインバータサージ電圧が電機機器に侵入した場合、電機機器のコイルを構成する絶縁電線に、このインバータサージ電圧に起因して部分放電が発生し、絶縁皮膜が劣化・損傷することがある。
このようなインバータサージ電圧による絶縁皮膜の劣化(部分放電による絶縁皮膜の劣化)を防ぐための方法として、例えば、オルガノシリカゾルをポリアミドイミド樹脂等からなる樹脂溶液中に分散させて得られる絶縁塗料(耐部分放電性絶縁塗料)を導体上に塗布、焼付けして絶縁皮膜を形成した絶縁電線を用いることで、部分放電に対する絶縁皮膜の寿命を向上させ(耐サージ性を向上させ)て、部分放電が発生しても絶縁皮膜を劣化・損傷させないようにする方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
また、インバータサージ電圧による絶縁皮膜の劣化を防ぐための別の方法として、例えば、導体上に形成された絶縁皮膜と、この絶縁皮膜上に形成されたポリフェニレンサルファイド(PPS)などからなる押出被覆層とを有する絶縁被覆層を備えた絶縁電線とすることで、部分放電開始電圧を高くして絶縁電線に部分放電を発生させないようにする方法が知られている(例えば、特許文献3)。
特開2006−302835号公報 特許第3496636号公報 特許第4177295号公報
近年では、省エネ等を背景にハイブリッド自動車等が普及し始めており、このような用途に使用される電機機器は、ハイブリッド自動車等の燃費改善や動力性能向上のために小型、高電圧駆動が望まれているため、従来よりも高電圧でインバータ制御される。
また、近年では、インバータ制御される電機機器の更なる小型化、高効率化のために、モータに対する絶縁電線の占積率の向上がさらに要求されており、絶縁電線に部分放電が従来よりも発生し易い状態となりつつある。
このため、最近の絶縁電線には、部分放電を発生させないようにするために従来よりも高い部分放電開始電圧(例えば970V以上の部分放電開始電圧)を有することが求められているが、特許文献1、2に記載されているような導体上に設けられた絶縁被覆層が絶縁塗料を塗布し、焼付けして形成された絶縁皮膜のみからなる絶縁電線では、上記のような高い部分放電開始電圧を有していないために、部分放電に対する耐性が不十分となる場合がある。
一方、特許文献3では、絶縁皮膜上にPPSなどからなる押出被覆層を設けることで上記のような従来よりも高い部分放電開始電圧を付与することができるが、導体と押出被覆層との間に密着性を付与するために、絶縁皮膜を設ける必要がある。このため、絶縁皮膜と押出被覆層とを形成する場合には、少なくとも絶縁皮膜を形成する塗装工程と、押出被覆層を形成する押出工程との異なる製造工程が必要となる。このため、製造工程が多くて手間がかかることや、絶縁皮膜の上に性質の異なる押出被覆層を形成しなければならず、製造する上で煩雑な作業や条件等を要すること等の問題があり、また、それに伴いコストの上昇を招いてしまう。
そこで、本発明の目的は、導体上に設けられた絶縁被覆層が絶縁皮膜のみで形成されていても高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明は、導体の周囲に2層以上の絶縁皮膜からなる絶縁被覆層が形成されている絶縁電線において、前記絶縁被覆層は、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類からなるジアミン成分と、酸成分とを共沸溶剤を用いて脱水反応させて得られるイミド基含有ジカルボン酸に、ジイソシアネート成分を反応させて得られる下記化学式1で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして形成された絶縁皮膜と、下記化学式2で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして形成された絶縁皮膜と、を有し、前記化学式2で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が前記導体の周囲に塗布、焼付けされて第1絶縁皮膜が形成されており、前記化学式1で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が前記第1絶縁皮膜の周囲に塗布、焼付けされて第2絶縁皮膜が形成されている絶縁電線である。
前記第2絶縁皮膜の外周に、滑性絶縁皮膜が設けられていると良い。
前記3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンのうちの少なくとも1つからなると良い。
本発明によれば、導体上に設けられた絶縁被覆層が絶縁皮膜のみで形成されていても高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線を提供することができる。
以下に本発明における絶縁電線の好適な実施の形態を説明する。
本発明は、導体と、該導体の周囲に2層以上の絶縁皮膜からなる絶縁被覆層を備えた絶縁電線である。絶縁被覆層として、下記化学式3
で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして形成される絶縁皮膜を有することで、従来の電線より高い部分放電開始電圧を得ることができる。
このとき、上記化学式3で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料で形成される絶縁皮膜以外の絶縁被覆層を構成する絶縁皮膜は、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、H種ポリエステル等の樹脂を有機溶剤に溶解させてなる絶縁塗料を導体直上、あるいは上記化学式3で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料で形成される絶縁皮膜上に塗布、焼付けして、単層あるいは多層で設けられる。特に、導体との密着性が良好であり、耐熱性や耐摩耗性などの特性に優れた、下記化学式4
で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体に塗布、焼付けして第1絶縁皮膜を形成し、その周囲に、上記化学式3で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして第2絶縁皮膜を形成することで、部分放電開始電圧の高い絶縁電線を得られることに加え、導体との密着性や30%伸長後の可とう性等も良好な絶縁電線とすることができる。
第1絶縁皮膜と第2絶縁皮膜の膜厚は、第1絶縁皮膜は10μm以下、第2絶縁皮膜は30μm以上であることが好ましい。第1絶縁皮膜の膜厚が10μmより大きい場合、耐熱性や耐摩耗性といった特性に優れるものの、部分放電開始電圧の高い絶縁皮膜を形成することが困難となる。また、第1絶縁皮膜が形成されない場合は、第1絶縁皮膜のみの場合より絶縁皮膜の誘電率が低くなるが、耐熱性や耐摩耗性といった特性が大幅に低下してしまい、例えばコイル成形する際の巻線時に絶縁被覆層の表面に傷やボイドが発生する虞がある。また、第2絶縁皮膜の膜厚が30μm未満である場合、部分放電開始電圧の高い絶縁皮膜を形成することが困難となる。このような絶縁被覆層の表面に発生した傷やボイドにより、絶縁被覆層の部分放電開始電圧が低下する懸念がある。
本発明の導体は、銅導体からなり、主に無酸素銅や低酸素銅が使用される。なお、銅導体はこれに限定されるものではなく、銅の外周にニッケルなどの金属めっきを施した導体も使用可能である。また、導体として、断面が丸形状、あるいは矩形状などの断面形状を有するものが使用できる。
本発明において、上記化学式4で示されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、例えば、ジイソシアネート成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)、あるいは、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)、あるいは、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネートと、酸成分としてトリメリット酸無水物(TMA)との主に2成分の反応によるイソシアネート法や酸クロライド法など公知の方法にて合成できる。製造生産性の観点から、イソシアネート法を用いることが好ましい。
本発明において、上記化学式3で示されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類からなるジアミン成分と、無水トリメリット酸などからなる酸成分とを共沸溶剤を用いた脱水閉環反応によって得られるイミド基含有ジカルボン酸に、ジイソシアネート成分を脱炭酸反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。
本発明では、ジアミン成分として3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類を用い、さらに、このジアミン成分と酸成分とを共沸溶剤を用いて脱水閉環反応させることにより、ポリアミドイミド樹脂の誘電率上昇に最も影響を与えているアミド基とイミド基のポリマー中の存在比率を低下させることで誘電率を低減したもので、耐熱性等を低下させることなく誘電率を低減した優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料とすることができる。
3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類は、例えば、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、或いはそれら異性体から選択される少なくとも1つからなる。なお、芳香族ジアミン類をもとにホスゲンを使用して上記列挙した芳香族ジアミン類の全てあるいは一部をジイソシアネート類に代えて使用することも出来る。
ジイソシアネート成分としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン(BIPP)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類及び異性体、多量体が例示される。また、必要に応じて、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシシレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、或いは上記例示した芳香族ジイソシアネートを水添した脂環式ジイソシアネート類及び異性体も使用、併用しても良い。
酸成分としては、トリカルボン酸無水物としてTMA(トリメリット酸無水物)がある。その他ベンゾフェノントリカルボン酸無水物など芳香族トリカルボン酸無水物も使用することは可能であるが、TMAが最も好適である。
また、ジアミン成分と酸成分とを反応させる際に用いられる共沸溶剤としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が例示でき、キシレンが特に好適である。また、ジアミン成分と酸成分との反応における反応温度は、160℃〜200℃、好ましくは170℃〜190℃である。なお、イミド基含有ジカルボン酸とジイソシアネート成分との反応における反応温度は、110℃〜130℃である。
上記化学式3、4で表されるポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成時においては、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの反応触媒を使用しても良いが、塗料の安定性を阻害しないものが望ましい。合成反応停止時にはアルコールなどの封止剤を用いても良い。
第1絶縁皮膜および第2絶縁皮膜を構成するポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を製造する際の溶媒としては、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)等の極性溶媒を主溶媒とした溶媒を用いることができる。主溶媒であるNMPの他に、γ−ブチロラクトンやDMAC(N,N−ジメチルアセトアミド)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMI(ジメチルイミダゾリジノン)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶媒を併用して合成しても良いし、希釈しても良い。また、希釈用途として芳香族アルキルベンゼン類などを併用しても良い。但し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の溶解性を低下させる虞がある場合は考慮する必要がある。
なお、本発明においては、脂肪族構造原料を併用すると誘電率低減や樹脂組成物の透明性向上に効果が期待されるため、必要に応じ併用しても良いが、耐熱性低下を招く虞があるため、配合量や化学構造には配慮が必要である。耐熱性低下を招かない好ましい化学構造は直鎖の炭化水素、脂環式の構造が挙げられ、脂肪族由来の炭素原子が6個以下程度であることが好ましい。
一般的なMDIとTMAとを用いたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料においては、MDIとTMAとをほぼ等量で合成するが、ジイソシアネート成分については1〜1.05の範囲で過剰合成されることもある。
本発明のMDIの配合比率についても特に限定はないが、1段目で合成されたイミド基含有ジカルボン酸とジイソシアネート成分とは等量が望ましい。なお、1段目と同様にジイソシアネート成分の微過剰配合を行っても良い。
絶縁被覆層の形成は、例えば上記化学式4で表されるポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体の外周に塗布・焼付けして第1絶縁皮膜を形成した後、上記化学式3で表されるポリアミドイミド樹脂からなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を第1絶縁皮膜の外周に塗布・焼付けして第2絶縁皮膜を形成することにより行われる。なお、上記化学式3で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体の外周に塗布・焼付けして第1絶縁皮膜を形成した後、上記化学式4で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる第2絶縁皮膜を第1絶縁皮膜の外周に形成してもよい。
絶縁被覆層の比誘電率は、低いほど望ましく、部分放電開始電圧を高めるための有効性を発揮するためには、3.0以下が望ましい。
絶縁電線の滑性付与のため、最外層に潤滑油を塗布するか若しくは潤滑性樹脂塗料を塗布、焼付けするか、又は絶縁被覆層の中に潤滑材、例えば固形パラフィン、低分子ポリエチレン、脂肪酸エステル系ワックス、シリコン樹脂等を単独、あるいはブレンドしてなる潤滑材を導体上に塗布、焼付けしてもよい。
また、本発明においては、第1絶縁皮膜と第2絶縁皮膜との間に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、H種ポリエステル等の樹脂を有機溶剤に溶解させてなる絶縁塗料を塗布、焼付けして形成される有機絶縁皮膜を単層又は多層で設けてもよい。
本発明の第1絶縁皮膜及び第2絶縁皮膜は以下のように調製した。
(1)ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料A(絶縁塗料A)の合成方法
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えたフラスコにジイソシアネート成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートと、酸成分としてトリメリット酸無水物及び溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドを投入し、窒素雰囲気中で撹拌しながら約1時間で140℃まで加熱し、E型粘度計で測定した粘度が2300mPa・sのポリアミドイミド樹脂溶液が得られるように、この温度で2時間反応させて作製した。
(2)ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料B(絶縁塗料B)の合成方法
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えた反応装置に、ジアミン成分として3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類である2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン451.1g、酸成分としてトリメリット酸無水物453.9gを配合し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン2542.1g、共沸溶剤としてキシレン254.2gを添加した後、撹拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で4時間反応した。脱水閉環反応中に生成する水およびキシレンは一旦、受け器に溜まり、適宜系外へ留去した。
90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)319.7gを配合し、撹拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度120℃で、1時間反応した。その後、ベンジルアルコール89.3g、N,N−ジメチルホルムアミド635.4gを配合し停止反応を行った。
E型粘度計で測定した粘度が2000mPa・sのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Bが得られた。
(3)ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料C(絶縁塗料C)の合成方法
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えた反応装置に、ジアミン成分として3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類である1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン321.6g、酸成分としてトリメリット酸無水物453.9gを配合し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン2542.1g、共沸溶剤としてキシレン254.2gを添加した後、撹拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で4時間反応した。脱水閉環反応中に生成する水およびキシレンは一旦、受け器に溜まり、適宜系外へ留去した。
90℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)319.7gを配合し、撹拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度120℃で、30分間反応した。その後、ベンジルアルコール89.3g、N,N−ジメチルホルムアミド635.4gを配合し停止反応を行った。
E型粘度計で測定した粘度が2300mPa・sのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Cが得られた。
(4)ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料D(絶縁塗料D)の合成方法
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えた反応装置に、ジアミン成分として2つの芳香環を有する芳香族ジアミン類である3,4’−ジアミノジフェニルエーテル220.0g、酸成分としてトリメリット酸無水物453.9gを配合し、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン2542.1g、共沸溶剤としてキシレン254.2gを添加した後、撹拌回転数180rpm、窒素流量1L/min、系内温度180℃で4時間反応した。脱水閉環反応中に生成する水およびキシレンは一旦、受け器に溜まり、適宜系外へ留去した。
90℃まで冷却した後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)319.7gを配合し、撹拌回転数150rpm、窒素流量0.1L/min、系内温度120℃で、30分間反応した。その後、ベンジルアルコール89.3g、N,N−ジメチルホルムアミド635.4gを配合し停止反応を行った。
E型粘度計で測定した粘度が2600mPa・sのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Dが得られた。
上記調製したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料A〜Dを導体の周囲に塗布・焼付けし、作製した絶縁電線の実施例、参考例、及び比較例について表1とともに説明する。
実施例1〜4、参考例1、2、及び比較例5の絶縁被覆層は、第1絶縁皮膜及び第2絶縁皮膜の2層で構成される。
これに対し、比較例1〜4の絶縁被覆層は、1層の絶縁皮膜で構成される。
以下に実施例1〜4、参考例1、2、及び比較例1〜5について、個々に説明する。
(実施例1)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、厚さが5μmの第1絶縁皮膜を形成した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Bを塗布・焼付けし、更に35μmの第2絶縁皮膜を形成することで合計40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(実施例2)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、厚さが10μmの第1絶縁皮膜を形成した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Bを塗布・焼付けし、更に30μmの第2絶縁皮膜を形成することで合計40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(実施例3)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、厚さが5μmの第1絶縁皮膜を形成した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Cを塗布・焼付けし、更に35μmの第2絶縁皮膜を形成することで合計40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(実施例4)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、厚さが10μmの第1絶縁皮膜を形成した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Cを塗布・焼付けし、更に30μmの第2絶縁皮膜を形成することで合計40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
参考例1
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Bを塗布・焼付けし、厚さが5μmの第1絶縁皮膜を形成した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、更に35μmの第2絶縁皮膜を形成することで合計40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
参考例2
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Bを塗布・焼付けし、厚さが5μmの第1絶縁皮膜を形成した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、更に35μmの第2絶縁皮膜を形成することで合計40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(比較例1)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、厚さが40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(比較例2)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Bを塗布・焼付けし、厚さが40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(比較例3)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Cを塗布・焼付けし、厚さが40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(比較例4)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Dを塗布・焼付けし、厚さが40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
(比較例5)
導体径φ0.8mmの導体の外周にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けし、厚さが5μmの第1絶縁皮膜を形成した後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Dを塗布・焼付けし、更に35μmの第2絶縁皮膜を形成することで合計40μmの絶縁皮膜層からなる絶縁電線を作製した。
実施例1〜4、参考例1、2、及び比較例1〜5について以下の評価を行った。
(1)比誘電率測定
比誘電率は、絶縁電線表面に金属電極を蒸着し、導体と金属電極間の静電容量を測定し、電極長と絶縁皮膜厚の関係から比誘電率を算出した。なお、静電容量の測定はインピーダンスアナライザを用いて、1kHzにて測定し、比誘電率3.0以下を合格とした。
(2)部分放電開始電圧(PDIV)測定
絶縁電線を500mmに切り出し、ツイストペアの絶縁電線の試料を10個作製し、端部から10mmの位置まで絶縁皮膜を削って端末処理部を形成した。その後、乾燥のため、恒温槽にて125℃で30分間熱処理して端末処理部を形成した。デシケータ中で室温になるまで18時間放置した。測定は、端末処理部に電極を接続し、23℃、湿度50%の雰囲気で、50Hzの電圧を10〜30V/sで昇圧させながら、ツイストペアの絶縁電線に50pCの放電が50回発生する電圧(PDIV)まで昇圧して行った。これを3回繰り返しそれぞれの値の平均値を部分放電開始電圧(PDIV)とし、970Vp以上を合格とした。
(3)絶縁破壊電圧(BDV)測定
絶縁電線を500mmに切り出し、ツイストペアの絶縁電線の試料を10個作製し、端部から10mmの位置まで絶縁皮膜を削って端末処理部を形成した。この端末処理部を電極に接続し、空気中で電圧0Vから20.0kVまで昇圧し、絶縁破壊が発生した電圧を絶縁破壊電圧とし、18.0kV以上を合格とした。
(4)可とう性
絶縁電線を、表面が滑らかで、導体径の1〜10倍の丸棒(巻き付け棒)に5巻分を1コイルとして、5コイル分巻き付けた。この巻き付け時に、絶縁皮膜に亀裂発生が見られない最小巻き付け倍径(d)を無伸長時の可とう性とし、1dの場合を合格とした。また、絶縁電線を2m長に切断して一端を固定した後、他端を掴んだ状態で絶縁電線の長さ方向に絶縁電線を初期の長さの30%(2.9m)になるまで伸長させた。この30%伸長させた絶縁電線を無伸長のときと同様に評価し、最小巻き付け径が1d〜2dの場合を合格とした。
(5)往復磨耗試験
JIS C 3003に準拠した方法で往復磨耗回数を測定し、1000回以上を合格とした。
(6)捻回試験
絶縁電線を250mm離れた2つのクランプに直線状に固定し、一方のクランプを回転させて絶縁皮膜が浮いた時点の回転回数を測定し、110回以上を合格とした。
(7)密着性試験
絶縁電線を250mm離れた2つのクランプに直線状に固定し、絶縁電線の長さ方向に平行な2辺の絶縁皮膜を導体に達するまで取り除く。その後、一方のクランプを回転させて絶縁皮膜が浮いた時点の回転回数を測定し、70回以上を合格とした。
(8)軟化温度測定
絶縁電線を120mmに2本切り出し、片側末端をアビソフィックス装置にて絶縁皮膜を削って端末処理部を形成した。十字に交差し、6.9N(0.7kgf)の荷重をかけた状態で、東特塗料(株)製耐軟化試験機K7800に取り付けた後、端末処理部に電極を接続し、電流を流した状態で、0.1℃/minの速度で昇温し、電気が導通した時の温度を軟化温度として測定し、430℃以上を合格とした。
表1より、本発明に係る実施例1〜4、参考例1、2では970Vp以上の高い部分放電開始電圧を有することがわかる。特に、実施例1〜4は、上記の評価基準を全て満たしている。
なお、参考例1、2は、実施例1〜4と同様に第1絶縁皮膜と第2絶縁皮膜とで絶縁被覆層を形成したものであるが、実施例1〜4と比較すると特に耐熱性及び耐摩耗性が劣っている。
よって、部分放電開始電圧以外の特性を考慮した場合には、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aは第1絶縁皮膜として使用し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料BまたはCは第2絶縁皮膜として使用するのがより好ましい。すなわち、実施例1〜4のように、導体の周囲に、第1絶縁皮膜として化学式4で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料Aを塗布・焼付けして形成し、その外周に第2絶縁皮膜として化学式3で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料BまたはCを塗布・焼付けした、多層絶縁被覆層とするのが好ましい。
これに対して、比較例1〜5は部分放電開始電圧の基準値を満たしていない。 以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。

Claims (3)

  1. 導体の周囲に2層以上の絶縁皮膜からなる絶縁被覆層が形成されている絶縁電線において、
    前記絶縁被覆層は、
    3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類からなるジアミン成分と、酸成分とを共沸溶剤を用いて脱水反応させて得られるイミド基含有ジカルボン酸に、ジイソシアネート成分を反応させて得られる下記化学式1
    で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして形成された絶縁皮膜と、
    下記化学式2
    で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けして形成された絶縁皮膜と、
    を有し、
    前記化学式2で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が前記導体の周囲に塗布、焼付けされて第1絶縁皮膜が形成されており、前記化学式1で表されるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が前記第1絶縁皮膜の周囲に塗布、焼付けされて第2絶縁皮膜が形成されていることを特徴とする絶縁電線。
  2. 前記第2絶縁皮膜の外周に、滑性絶縁皮膜が設けられている請求項に記載の絶縁電線。
  3. 前記3つ以上の芳香環を有する2価の芳香族ジアミン類は、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンのうちの少なくとも1つからなる請求項1又は2に記載の絶縁電線。
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