しかしながら、上述のような従来のブローバイガス還元装置にあっては、吸気通路の絞り弁より下流側に接続するブローバイガス通路をV型エンジンの片方のバンクに設定する場合のようにエンジンブロックの一部に配置する必要がある場合に、運転条件によりエンジンオイルの油面が変動し、そのブローバイガス通路の下端側の開口がオイルによって閉塞されてしまうと、シリンダヘッド側の換気空間内にオイルが吸い上げられてしまう可能性があった。
例えば、エンジンブロックの前端側にブローバイガス通路を配置する場合、エンジンの高回転や高負荷、車両の降坂、急制動または旋回等によってエンジンオイルの重心が前方側またはその一方の側面側に移動し、ブローバイガス通路の下端側開口付近の油面が上昇する。そのため、エンジンブロックの前端側にブローバイガス通路を集中させたり通路断面積の大きいブローバイガス通路を配置したりすると、オイルにより下端側開口が塞がれたブローバイガス通路内の負圧が増大してオイルを吸い上げるとともに、ブローバイガスがクランクケース内に充満してクランクケース内の内圧も上昇し易くなり、シリンダヘッド側の換気空間内にオイルが吸い上げられてしまう可能性があった。そして、そのようなオイルの吸上げが生じると、PCVバルブからオイル濃度の高いブローバイガスが吸気通路側に吸い出されてしまい、エンジンから白煙が出てしまうという事態が生じ得る。
また、複数の縦向きのブローバイガス通路とチェーンカバー内のチェーン室とを連通させる連絡通路を形成する場合にも、その連絡通路が縦向きのブローバイガス通路の各々と同等な通路断面積を有していたため、連絡通路に発生する負圧が比較的大きくなるとともに、縦向きのブローバイガス通路がクランクケース内のオイルによって閉塞されてしまうと、連絡通路に発生する負圧が相当に大きくなってしまい、シリンダヘッド側の換気空間内にオイルが吸い上げられてしまう可能性があった。
一方、ブローバイガス還元装置にオイル分離性能に優れたサイクロン式のオイルセパレータを用いる場合、遠心分離部を複数並列させて性能向上を図ることが考えられるが、そのような構成を採る場合、ブローバイガス通路をオイルセパレータのガス導入口の近傍に位置するようにエンジンブロックの一部に集中させる必要があることから、上述のようなシリンダヘッド側の換気空間内へのオイルの吸上げが懸念される。
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、ブローバイガスからのオイルの分離性能に優れ、しかも、シリンダヘッド側の換気空間内へのオイルの吸上げを確実に防止することのできるブローバイガス還元装置を提供するものである。
本発明に係るブローバイガス還元装置は、上記課題を解決するために、(1)クランクケースの内部を換気するための複数の換気通路が形成された機関本体と、前記機関本体との間に内部空間を形成するよう前記機関本体のクランク軸の軸方向の一端側に装着されたカバー部材と、を備えた内燃機関に装備され、前記複数の換気通路のうち前記内燃機関の絞り弁より下流側の吸気通路に接続する特定の換気通路を通るブローバイガスからオイルセパレータによってオイルを分離させるようにしたブローバイガス還元装置であって、前記特定の換気通路が、前記機関本体の一端側に形成されるとともに、前記機関本体には、前記特定の換気通路より通路断面積が小さく、前記特定の換気通路と前記内部空間とを連通させる連通路が形成されていることを特徴とする。
この構成により、クランクケース内の換気のための複数の換気通路のうち機関本体の一端側に位置する特定の換気通路が、絞り弁より下流側の吸気通路に接続することでブローバイガスを吸い出す通路として機能する一方、複数の換気通路うち特定の換気通路以外の他の換気通路が新気を導入する通路として機能することになる。ここで、特定の換気通路の通路断面積を大きくしても、この特定の換気通路は連通路によって機関本体とカバー部材の間の内部空間に連通していることから、液面変動したオイルにより特定の換気通路の下端側開口が塞がれたとしても、特定の換気通路内の負圧が増大し難くなるから、オイルの吸上げが防止される。しかも、特定の換気通路と連通路の通路断面積の比を適宜設定することで、オイルの吸上げ防止とクランクケース内の換気の機能を確保しつつ前記内部空間の適度の換気を行うことが可能になる。なお、ここにいう通路断面積の比は、特定の換気通路および連通路の配置とこれらの長さが略固定される条件下において、両通路のガス流動抵抗の大小を決めるものとなる。
上記(1)に記載の構成を有するブローバイガス還元装置においては、(2)前記特定の換気通路が、前記機関本体の一端側で前記機関本体の一側面に近接するように配置され、前記複数の換気通路のうち前記特定の換気通路以外の他の換気通路が、前記内燃機関の絞り弁より上流側の吸気通路に接続されているのが好ましい。
この構成により、多気筒内燃機関のシリンダブロックにクランクケース内の換気のための適度の通路断面積を有する複数の換気通路を形成することができるとともに、特定の換気通路と内部空間を連通させる連通路を短くすることができるので、連通路の通路断面積を比較的小さく抑えながらも、オイルの吸上げ防止効果と内部空間の換気効果とを共に確保できる。
上記(2)に記載の構成を有するブローバイガス還元装置においては、(3)前記他の換気通路が連通する換気空間が、前記内燃機関のシリンダヘッドの内部に連通するよう前記機関本体に形成され、前記オイルセパレータが、並列する複数の遠心分離機構部を有するとともに、該複数の遠心分離機構部に前記特定の換気通路からのブローバイガスを導入するガス導入口および前記絞り弁より下流側の吸気通路に接続するガス排出口を有していることが好ましい。
この構成により、複数の遠心分離機構部を有するオイルセパレータに十分にブローバイガスを導入し得るよう特定の換気通路の通路断面積を確保しつつ、新気導入通路を相互に離れた複数箇所に容易に配置でき、クランクケース内の換気性能を高めるとともに、吸気通路側に還流するブローバイガスからのオイルの分離性能を高めることができる。
上記(2)または(3)に記載の構成を有するブローバイガス還元装置は、好ましくは、(4)前記機関本体が、前記動弁機構および前記張力保持機構にオイルを供給するオイルポンプを有し、前記オイルポンプから前記動弁機構に供給されたオイルの一部が、前記他の換気通路を通って前記機関本体のオイル貯留部に流下するものである。
この構成により、他の換気通路が新気の導入だけでなくオイル落し用の通路にも兼用されることになり、動弁機構へのオイルの供給量が多くなってもシリンダヘッドからの十分なオイル落しが可能になるとともに、クランクケースの内圧が高くなるときには他の換気通路がブローバイガスの排出通路ともなり得ることから、クランクケース内にブローバイガスが充満するのを防止できる。
上記(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の構成を有するブローバイガス還元装置においては、(5)前記内部空間には、前記クランク軸から動弁機構に駆動力を伝える無端伝動要素が収納されるとともに、前記無端伝動要素に予め設定された張力を保持させる油圧式の張力保持機構が設けられていることが好ましい。
この構成により、タイミングチェーン等の無端伝動要素を収納するため下部に換気通路が確保し難い内部空間において、連通路を介したブローバイガスの吸出し経路が確保され、その換気効率が向上する。
上記(5)に記載の構成を有するブローバイガス還元装置においては、(6)前記張力保持機構が、前記無端伝動要素の一部の回動区間に摺動可能に接触するよう前記機関本体の一端側に揺動可能に支持されたスリッパと、前記スリッパを前記無端伝動要素の一部の回動区間に向って付勢する油圧式のテンショナと、を含んで構成され、前記連通路が、前記機関本体の一端側であって前記テンショナの近傍で、前記内部空間に開口していてもよい。
この構成により、シリンダブロックの成型等の面から連通路の開口位置とテンショナの配設位置とが近接することになり易く、内部空間がテンショナ周辺で絞られる形状となっても、テンショナのピストン等と連通路が開口する機関本体の端面部との間にガスの通路が確保され、内部空間の下部における換気が十分になされ得る。
上記(6)に記載の構成を有するブローバイガス還元装置においては、(7)前記テンショナが、内部に油圧を導入するハウジングと、該ハウジングに出没可能に支持され前記ハウジングの内部に導入される油圧によって前記スリッパを前記無端伝動要素の一部の回動区間に向って付勢するピストンと、を有し、前記スリッパに対向する前記ピストンの先端面部には、前記ハウジングの内部に油圧が導入されるときにエアを排出するエア抜き孔が開口するとともに、前記スリッパと前記ピストンとのうち少なくとも一方には、前記スリッパと前記ピストンとの間に前記エア抜き孔から流出するオイルを連通路より下方に流下させるオイル流下通路が形成されるように、前記スリッパと前記ピストンとの当接面に対し凹状となる凹部が形成されているのが好ましい。
この構成により、連通路の開口位置とテンショナの配設位置とが近接する場合でも、テンショナのピストンのエア抜き孔から流出するオイルは、スリッパとピストンとの間に形成されるオイル流下通路を通って連通路の開口部から隔てられた状態で流下するので、連通路の開口内にテンショナからの流出オイルが吸い込まれることを確実に防止することができる。
上記(2)ないし(4)のいずれか1つに記載の構成を有するブローバイガス還元装置においては、(8)前記他の換気通路が、前記機関本体の一端側の他側面と前記機関本体の他端側の両側面とに近接するように配置されているのがよい。
この構成により、直列多気筒内燃機関のシリンダブロックの内部に所要の通路断面積を有する複数の換気通路を配置できる。
なお、前記連通路は、前記クランクケース側に開口する前記特定の換気通路の下端部から予め設定されたオイルの吸込み可能高さより鉛直方向の上方側に配置されているのがよい。また、前記特定の換気通路は、前記長さ方向の略中間部に該長さ方向と略直交する横孔部を有し、前記連通路が、前記特定の換気通路の前記横孔部に連通しているのが好ましい。さらに、前記横孔部は、前記機関本体の前記一側面と略直交する方向に延在し、前記特定の換気通路が、前記横孔部の外端側に連通する下端部と、前記横孔部の内端側に連通する上端部とを有しているように構成することで、機関本体を構成するシリンダブロック等の成型を容易にしつつ特定の換気通路の所要の通路断面積を容易に確保できる。
本発明によれば、機関本体のクランクケース内の換気を行う複数の換気通路のうち特定の換気通路が連通路によって機関本体とカバー部材の間の内部空間に連通しているので、液面変動したオイルにより特定の換気通路の下端側開口が塞がれたとしても、特定の換気通路内の負圧が増大するのを防止することができる。その結果、ブローバイガスからのオイルの分離性能に優れ、しかも、シリンダヘッド側の換気空間内へのオイルの吸上げを確実に防止することのできるブローバイガス還元装置を提供することができる。
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜図7は、本発明の一実施形態に係るブローバイガス還元装置を示している。
なお、本実施形態のブローバイガス還元装置は、図1〜図3に示す直列の多気筒内燃機関、例えば直列4気筒の4サイクルガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)10に装備されている。
図1〜図3に示すように、本実施形態のエンジン10は、図2、図3中の上方から順にヘッドカバー11、シリンダヘッド12、シリンダブロック13、クランクケース14を有しており、シリンダヘッド12とシリンダブロック13の複数のシリンダ13a(図2中には1つのみ図示している)によって、複数の気筒15が形成されている。また、各気筒15にはピストン16がそれぞれ収納されており、詳細は図示しないが、各ピストン16には、クランクケース14内のクランク軸17がコネクティングロッド18を介して連結されている。また、クランクケース14の下部にはオイルパン19が設けられており、そこに潤滑・冷却用のエンジンオイル(以下、単にオイルという)が収容されている。そして、これらヘッドカバー11、シリンダヘッド12、シリンダブロック13、クランクケース14、クランク軸17、コネクティングロッド18およびオイルパン19は、エンジン10の機関本体10Mを構成している。
各気筒15内でピストン16の図2中上方に形成される燃焼室10aには、ピストン16のストロークに応じ、吸気通路31および吸気ポート10bを通して空気が吸入され、燃焼室10a内での燃焼後の排気ガスは、排気ポート10cおよび図示しない排気通路を通してエンジン10の外部に排気されるようになっている。
ヘッドカバー11およびシリンダヘッド12の内方には、公知の動弁機構20や点火装置23が収納されており、動弁機構20はクランク軸17からの動力を基に駆動されるようになっている。
図2に示すように、動弁機構20は、気筒数に対応する複数の吸気カム21aおよび排気カム22aが所定の位相角度で設けられた吸気側および排気側のカムシャフト21,22と、これらカムシャフト21,22により駆動される複数の吸・排気弁27,28等を有する公知のものである。
同図に示すように、エンジン10の吸気通路31は、スロットルバルブ32を開閉動作可能に収納するスロットルボデー33と、そのスロットルボデー33の吸気方向両側に設けられた上流側の吸気管34および下流側の吸気管35と、によって形成されている。また、上流側の吸気管34の上流側にはフィルタエレメント36fを有するエアクリーナ36が設けられており、このエアクリーナ36で粉塵等を除去した空気が、上流側の吸気管34内に取り込まれるようになっている。下流側の吸気管35は、サージタンク37と一体に形成され、エンジン10の吸気ポート10bを形成するシリンダヘッド12に締結・固定されている。また、下流側の吸気管35が固定されたシリンダヘッド12の吸気ポート10b付近には、燃料噴射弁24が装着されている。
エンジン10の運転中には、燃焼室10aからシリンダ13aとピストン16の間の微小隙間を通ってクランクケース14の内部に未燃焼ガスや排気ガスを含むブローバイガスが漏れ出る。そこで、エンジン10には、大気汚染防止、エンジン10の内部でのオイル劣化防止および腐食防止等のために、クランクケース14内を強制的に換気する本実施形態のPCV方式のブローバイガス還元装置が装備されている。
具体的には、エンジン10には、動弁機構20を収納するヘッドカバー11およびシリンダヘッド12の内方空間である換気空間25(動弁機構側の換気空間)と、クランクケース14およびオイルパン19の内部のブローバイガス排出空間26とが形成されており、エンジン10の換気空間25と上流側の吸気管34との間には、スロットルバルブ32より上流側の吸気通路31aからの新気、すなわち新しい空気を換気空間25の内部に直接的に導入する空気導入管41が介装されている。また、エンジン10のブローバイガス排出空間26と下流側の吸気管35との間には、シリンダブロック13およびクランクケース14の内部で発生するブローバイガスをスロットルバルブ32より下流側の吸気通路31bに還流させるブローバイガス還流管42と、ブローバイガス還流管42内の還流通路を前後差圧に応じて開閉することができるPCVバルブ43とが介装されている。ここで、ブローバイガス還流管42は、その内部にブローバイガス排出側の換気通路、すなわちスロットルバルブ32より下流側の吸気通路31bとブローバイガス排出空間26との間のブローバイガス還流経路44の一部を形成している。そして、そのブローバイガス還流経路中には、ブローバイガス中からミスト状のオイルを分離させて除去するサイクロン式(遠心分離方式)のオイルセパレータ50が設けられている。
ところで、エンジン10の機関本体10Mには、クランク軸17の軸方向の一端部と動弁機構20のカムシャフト21,22の各一端部とを図示しない複数のスプロケットを介して連結し、クランク軸17から動弁機構20に駆動力を伝えることができるタイミングチェーン71(無端伝動要素;図6参照)が設けられている。また、このタイミングチェーン71を収納する内部空間72を機関本体10Mとの間に形成するとともに機関本体10Mの前端側の端面部10fを覆うように、機関本体10Mのクランク軸17の軸方向一端側には、チェーンケースとして機能するカバー部材73(図1、図3参照;詳細図示せず)が装着されている。
また、エンジン10には、換気空間25およびブローバイガス排出空間26を連通させることでクランクケース14の内部を換気する複数の内部換気通路46,47,48および49(複数の換気通路)が形成されている。
図1に示すように、エンジン10の特定の内部換気通路46(特定の換気通路)は、機関本体10Mのクランク軸17の回転中心軸線方向における中央部より前端側に、機関本体10Mの一側面に近接するように縦方向(シリンダ上下方向に対し平行にまたはわずかに傾斜して延びる方向)に形成されており、複数の内部換気通路46〜49のうち特定の内部換気通路46以外の他の内部換気通路47〜49(他の換気通路)は、機関本体10Mの一端側の他側面と機関本体10Mの他端側の両側面とに近接するように配置されている。なお、ここにいう機関本体10Mの一端側とは、例えばエンジン10が車両に縦置き搭載された場合の前端側であり、機関本体10Mの一端側の一側面とは、例えばエンジン10が車両に縦置き搭載された場合に車両の前方側から見て左側(車両の右側)となる側面である。なお、この場合、エンジン10のクランク軸17は車両の前方側から見て時計回り(右回り)に回転する。
他の内部換気通路47〜49は、それぞれの上位端側でエンジン10のシリンダヘッド12の内部に連通するよう機関本体10Mの上部の換気空間25に連通し、この換気空間25を介してスロットルバルブ32より上流側の吸気通路31aに接続されている。他の内部換気通路47〜49は、またそれらの下端側でクランクケース14側のブローバイガス排出空間26に開口しており、その開口位置はオイルパン19内のオイルの貯留量が最大となるときの静止液面高さより高い位置になっている。
ここで、特定の内部換気通路46は、ブローバイガス還流管42を通してスロットルバルブ32より下流側の吸気通路31bに接続するブローバイガス還流経路44のうち、換気空間25およびブローバイガス排出空間26の間に位置する一部の通路区間を構成している。この特定の内部換気通路46は、長さ方向である縦方向の略中間部にその長さ方向と略直交する横孔部46bを有しており、その横孔部46bは、機関本体10Mの一側面、例えば車両に縦置き搭載された場合に向って左側(車両の右側)となる側面に対して略直交する方向に所定長さだけ延在している。また、特定の内部換気通路46は、横孔部46bの外端側に連通する下端部46aと、横孔部46bの内端側に連通する上端部46cとを有している。なお、図2中では他の内部換気通路47を真直な通路として図示しているが、他の内部換気通路47〜49も、具体的には特定の内部換気通路46と略同様に長さ方向である縦方向の略中間部にその長さ方向と略直交する横孔部を有しており、それぞれの横孔部の外端側に連通する下端部と、横孔部の内端側に連通する上端部とを有している。
さらに、エンジン10の機関本体10Mには、特定の内部換気通路46より通路断面積が小さく、特定の内部換気通路46の横孔部46bから機関本体10Mの前端面側に向ってクランク軸17の回転中心軸線方向に延在し、特定の内部換気通路46の横孔部46bを内部空間72に連通させる連通路45が形成されている。この連通路45は、クランクケース14側のブローバイガス排出空間26に開口する特定の内部換気通路46の下端開口部(詳細図示せず)から予め設定されたオイルの吸込み可能高さより鉛直方向の上方側に配置されている。
また、複数の内部換気通路46〜49の配置を、通路配置スペースを確保し易い隣接気筒間、例えば第1気筒および第2気筒の中間の位置に対応する機関本体10Mの両側面近傍と、第3気筒および第4気筒の中間の位置に対応する機関本体10Mの両側面近傍とに設定し、連通路45の長さを特定の内部換気通路46から機関本体10Mの前端面側までの長さを設定する所定の条件下で、エンジン10の各運転状態における機関本体10Mの内部のCO2の濃度が予め設定された濃度レベル以下に維持されるように、ブローバイガス排出空間26からの特定の内部換気通路46を通したブローバイガスの排気と内部空間72からの連通路45を通した排気との排気流量の比の最適条件が予めの実験等によって決定され、それに応じて特定の内部換気通路46と連通路45の通路断面積の比が設定されている。
一方、ブローバイガス還流経路44の途中でミスト状のオイルを還流ガスから分離・除去するオイルセパレータ50は、エンジン10の換気空間25の内部あるいは換気空間25の近傍に設けられ、その内部にブローバイガス還流経路44の一部を形成している。
図3および図4に示すように、オイルセパレータ50は、エンジン10の内部で発生するブローバイガスをヘッドカバー11およびシリンダヘッド12の長手方向の一端側(図3中の右端側)で気液分離室51内に導入するようになっている。また、オイルセパレータ50は、ブローバイガス還流管42を介したブローバイガス還流経路44の一部に気液分離室51(図4(b)参照)を形成し、その気液分離室51内でブローバイガス中に含まれるミスト状のオイルを回収可能に捕捉することで、ブローバイガスからオイル成分を分離するようになっている。すなわち、オイルセパレータ50は、複数の内部換気通路46〜49のうちエンジン10のスロットルバルブ32より下流側の吸気通路31bに接続するブローバイガス還流経路44上に配置され、このブローバイガス還流経路44を通るブローバイガスからオイルを分離させるようになっている。
オイルセパレータ50の気液分離室51の内部構成は、邪魔板を複数設けた屈曲通路構造(例えば、特開2008−121474号公報参照)であってもよいが、例えば公知の遠心分離方式の通路構造(例えば、特許文献3参照)と同様に、それぞれの内部でブローバイガスに旋回流を生じさせてオイルを吸気通路31b側への還流ガスから分離するようブローバイガス還流経路44上に複数並列に挿入されたサイクロン式オイル分離部52(遠心分離機構部)を有している(図4(a)、図4(b)参照)。また、オイルセパレータ50は、気液分離室51の内部に並列する複数のサイクロン式オイル分離部52に特定の内部換気通路46からのブローバイガスを導入するガス導入口53と、スロットルバルブ32より下流側の吸気通路に接続するガス排出口54とを有している。
オイルセパレータ50は、さらに、気液分離室51で分離されたオイルを回収するよう気液分離室51の内底壁面51aを形成する底壁部61と、その底壁部61から鉛直方向下方側(斜め方向でもよい)に突出して気液分離室51に通じる円形断面のドレーン通路65を形成する略有底円筒状のドレーン通路形成部62と、を有している。また、オイルセパレータ50は、換気空間25と気液分離室51とを区画する状態で、シリンダヘッド12に支持されるかヘッドカバー11に支持されている。そして、底壁部61は、気液分離室51内でのブローバイガスの気液分離によって気液分離室51の内底壁面51a上に流下したオイルを後述するドレーン通路65内に導くように、少なくとも内底壁面51aを形成するその上面側が水平面(前後車軸配置面)に対して傾斜している。
エンジン10は、また、機関本体10Mの前端側の下部付近に後述するオイルポンプ100(図7参照)を有しており、オイルポンプ100は、クランク軸17の動力を基に駆動されるとき、動弁機構20および張力保持機構75にオイルを供給するようになっている。このオイルポンプ100は、オイルパン19内からオイルを汲み上げ、動弁機構20のカムシャフト21,22等、あるいはクランク軸17の軸受部等の各回転・摺動部を潤滑・冷却するようになっており、オイルポンプ100から動弁機構20に供給されたオイルの一部は、他の内部換気通路47〜49を通って機関本体10Mのオイル貯留部であるオイルパン19内に流下するようになっている。
図5および図6に示すように、カバー部材73の内方側の内部空間72には、タイミングチェーン71に予め設定された張力を保持させる油圧式の張力保持機構75が設けられている。
図6に示すように、張力保持機構75は、タイミングチェーン71の緩み側の一部の回動区間に摺動可能に接触するように図示しない上端部で機関本体10Mの一端側に揺動可能に支持されたスリッパ76と、このスリッパ76をタイミングチェーン71の一部の回動区間に向って付勢する油圧式のテンショナ77と、を含んで構成されている。
特定の内部換気通路46と内部空間72とを連通させる連通路45は、機関本体10Mの前端側であってこのテンショナ77の近傍で、カバー部材73内の内部空間72に開口している。
また、テンショナ77は、内部にオイルポンプ100からの油圧を導入するハウジング78と、このハウジング78に出没可能に支持されハウジング78の内部に導入される油圧によってスリッパ76をタイミングチェーン71の一部の回動区間に向って付勢するピストン79とを有し、さらに、ピストン79をスリッパ76側に付勢する圧縮コイルバネ77spやオイルの逆流を阻止するチェック弁77cv等を有している。そして、スリッパ76に対向するピストン79の先端面部には、ハウジング78の内部に油圧が導入されるときに非作動中に侵入したエアを排出するエア抜き孔79aが開口しており、スリッパ76とピストン79とのうち少なくとも一方、例えばスリッパ76には、スリッパ76とピストン79との間にエア抜き孔79aから流出するオイル連通路45より下方側に流下させるオイル流下通路81が形成されるように、スリッパ76のピストン79との当接面76aに対し縦長の凹状となるオイル流下溝部82(凹部)が形成されている。
図7に示すように、オイルポンプ100は、オイルパン19からピックアップスクリーン107を通してオイルを汲み上げ、オイル通路101,102,103および104を通し、動弁機構20のカムシャフト21,22の軸受部やカムシャフト21,22のカム部周辺を潤滑するためのオイルシャワーパイプ110、さらに、クランク軸17の軸受ジャーナル部、ピストン16およびコネクティングロッド18等の摺動部や連結部等に供給されるようになっている。オイル通路101,102および103は、いわゆるメインギャラリー、ロッカーアームギャラリー、カムリフタギャラリーであり、エンジンブロックを構成するシリンダヘッド12やシリンダブロック13の内部、更にはその内部に装置された所定の部品等に孔や溝(他部材との間で通路を形成する)を形成して構成されている。なお、オイル通路101には圧力調整弁113が接続されるとともにオイルフィルタ114が挿入され、オイルフィルタ114をバイパスするバイパス通路101aには逃がし弁115が設けられている。そして、オイルポンプ100の吐出圧は圧力調整弁113によってそのリリーフ設定圧以下に制限され、オイルフィルタ114への供給圧が適正範囲を超えないように供給圧増加時に逃がし弁115が開弁するようになっている。
図1に戻り、エンジン10の機関本体10Mには、図示しないウォータポンプからの冷却水を導入し図外のラジエータ側の冷却水通路に排出するウォータージャケット91や、シリンダブロック13からシリンダヘッド12への冷却水通路92等が形成されている。また、シリンダブロック13の側壁部を上下に貫通する複数の内部換気通路46〜49の横孔部46b等は、ダイカスト成型時に所定の深さに成形され、機械加工後にタイトプラグ46p,47p等によってその外端部を閉塞されている。さらに、図1および図6に示すように、テンショナ77は、機関本体10Mの前端面部10fに油穴74aを開口させるテンショナ取付け部74にボルト締結されており、油穴74aからハウジング78の油圧導入穴78aを通してピストン79をスリッパ76側に付勢する油圧がハウジング78内に導入されるようになっている。
次に、作用について説明する。
上述のように構成された本実施形態のブローバイガス還元装置を備えたエンジン10においては、クランクケース14内の換気のための複数の内部換気通路46〜49のうち特定の内部換気通路46が、スロットルバルブ32より下流側の吸気通路31bに接続することで図1中に太い点線の矢印Cで示すようにブローバイガスを吸い出す排気通路として機能する一方で、複数の内部換気通路46〜49のうち特定の内部換気通路46以外の他の内部換気通路47〜49が、図1中に太い破線の矢印Aで示すように新気を導入する新気導入通路として機能する。したがって、クランクケース14およびオイルパン19の内部のブローバイガス排出空間26から特定の内部換気通路46を通してブローバイガスが排出されるとともに、他の内部換気通路47〜49を通してブローバイガス排出空間26内に新気が導入され、クランクケース14内が換気される。
また、エンジン10の各運転状態における機関本体10Mの内部のCO2濃度が予め設定された濃度レベル以下に維持されるように、ブローバイガス排出空間26からの特定の内部換気通路46を通したブローバイガスの排気と内部空間72からの連通路45を通した排気との排気流量の比が、特定の内部換気通路46と連通路45のガス流動抵抗の大小を左右する通路断面積比によって予め最適化されているので、クランクケース14内の換気の機能を十分に確保しつつ下部の排気が不十分となり易い内部空間72について適度の換気を行うことができることになる。
さらに、クランクケース14内の換気の機能を高めるために特定の内部換気通路46および他の内部換気通路47〜49の通路断面積を大きくしても、特定の内部換気通路46が連通路45によって機関本体10Mとカバー部材73の間の内部空間72に連通していることから、エンジン10の運転状態や車両運転状態に応じて液面変動したオイルにより特定の内部換気通路46の下端側開口が塞がれたとき、連通路45によって内部空間72に連通する特定の内部換気通路46内の負圧が増大し難くなり、特定の内部換気通路46を通したオイルセパレータ50内へのオイルの吸上げが防止される。
また、本実施形態では、特定の内部換気通路46が、機関本体10Mの前端側で機関本体10Mの一側面に近接するように配置されているので、エンジン10のシリンダブロック13にクランクケース14内の換気のための適度の通路断面積を有する複数の内部換気通路46〜49を形成することができるとともに、特定の内部換気通路46と内部空間72を連通させる連通路45を短くすることができる。したがって、連通路45の通路断面積を比較的小さく抑えながらも、オイルセパレータ50内へのオイルの吸上げ防止効果と内部空間72の換気効果とを共に確保することができる。
しかも、他の内部換気通路47〜49に連通する換気空間25がシリンダヘッド12の内部に連通するよう機関本体10Mに形成され、オイルセパレータ50が、並列する複数のサイクロン式オイル分離部52を有するので、オイルセパレータ50に十分にブローバイガスを導入し得るよう特定の内部換気通路46の通路断面積を確保しつつ、新気導入通路である他の内部換気通路47〜49を相互に離れた複数箇所に容易に配置でき、クランクケース14内の換気性能を高めるとともに、吸気通路31側に還流するブローバイガスからのオイルの分離性能を高めることができる。また、他の内部換気通路47〜49が機関本体10Mの一端側の他側面と機関本体10Mの他端側の両側面とに近接するように配置されているので、直列多気筒のエンジン10のシリンダブロック13の内部に所要の通路断面積を有する複数の内部換気通路46〜49を配置できる。
加えて、機関本体10Mが動弁機構20および張力保持機構75にオイルを供給するオイルポンプ100を有し、オイルポンプ100から動弁機構20に供給されたオイルの一部が、図1中に太い二点鎖線の矢印Bで示すように他の内部換気通路47〜49を通って機関本体10Mのオイル貯留部に流下することから、他の内部換気通路47〜49が新気導入通路だけでなくオイル落し用の通路にも兼用されることになり、エンジン10の回転速度が高くなり動弁機構20へのオイルの供給量が多くなってもシリンダヘッドからの十分なオイル落しが可能になるとともに、クランクケース14の内圧が高くなるときには他の内部換気通路47〜49がブローバイガスの排出通路ともなり得ることから、クランクケース14内にブローバイガスが充満することも確実に防止できる。
また、内部空間72内にクランク軸から動弁機構20に駆動力を伝えるタイミングチェーン71が収納されるとともに、タイミングチェーン71に予め設定された張力を保持させる油圧式の張力保持機構75が設けられ、下部に換気通路が確保し難いカバー部材73の内部空間72において、連通路45を介したブローバイガスの吸出し経路が確保され、内部空間72の換気効率が向上することになる。
さらに、連通路45が機関本体10Mの一端側であってテンショナ77の近傍で内部空間72に開口しているので、シリンダブロック13の成型等の面から連通路45の開口位置とテンショナ77の配設位置とが近接することになっても、テンショナ77のピストン79等と連通路45が開口する機関本体10Mの一端面部との間にガスの排気通路を確保することができる。
しかも、スリッパ76に対向するピストン79の先端面部にエア抜き孔79aが開口するとともに、スリッパ76とピストン79とのうち少なくとも一方によりエア抜き孔79aから流出するオイルを連通路45の前端側の開口より下方側に流下させるオイル流下通路81が形成されるので、連通路45の開口位置とテンショナ77の配設位置とが近接する場合でも、テンショナ77のピストン79のエア抜き孔79aから流出するオイルが連通路45の前端開口部分から隔てられた状態でオイル流下通路81を通って流下する。したがって、内部空間72側の連通路45の開口内にテンショナ77からの流出オイルが吸い込まれることが確実に防止されることになる。
このように、本実施形態においては、機関本体10Mのクランクケース14内の換気を行う複数の内部換気通路46〜49のうち特定の内部換気通路46が連通路45によって機関本体10Mとカバー部材の間の内部空間72に連通しているので、液面変動したオイルにより特定の内部換気通路46の下端側開口が塞がれたとしても、特定の内部換気通路46内の負圧が増大するのを防止することができる。その結果、ブローバイガスからのオイルの分離性能に優れ、しかも、シリンダヘッド側の換気空間25内へのオイルの吸上げを確実に防止することのできるブローバイガス還元装置を提供することができる。
また、本実施形態では、クランクケース14側に開口する特定の内部換気通路46の下端部から予め設定されたオイルの吸込み可能高さ(オイル貯留量最大時の液面から液面変動分の一定距離を隔てる高さ)より鉛直方向の上方側に配置されているので、オイルの吸込みがより有効に防止できる。しかも、特定の内部換気通路46が、長さ方向の略中間部にその長さ方向と略直交する横孔部46bを有し、連通路45が特定の内部換気通路46の横孔部46bに連通しているとともに、横孔部46bは、機関本体10Mの一側面と略直交する方向に延在し、特定の内部換気通路46が横孔部46bの外端側に連通する下端部46aと横孔部46bの内端側に連通する上端部46cとを有しているので、機関本体10Mを構成するシリンダブロック13等の成型を容易にしつつ、特定の内部換気通路46の所要の通路断面積を容易に確保できることになる。
なお、上述の一実施形態においては、内燃機関を直列の多気筒内の4サイクルのガソリンエンジンとしたが、本発明が気筒数の異なるエンジンや燃料の異なるエンジンにも適用できることは勿論である。また、オイルセパレータ50は、ヘッドカバー11の内方側に位置する場合を例示したが、ヘッドカバー11の外方側に位置するようヘッドカバー11に支持され、ドレーン通路形成部62がヘッドカバー11の一部を貫通するように構成されたものであってもよい。
また、上述の一実施形態におけるオイル流下溝部82に代えて、図8に示すように、スリッパ76のピストン79との当接面76aに上端部83aと下端部83bとを開口させるオイル流下通路孔83(凹部)を形成してもよい。あるいは、図9に示すように、ピストン79の先端面部にオイル流下溝部84(凹部)を形成し、その内底面にエア抜き孔79aが開口するようにしてもよい。勿論、スリッパ76とピストン79の双方に対向するオイル流下溝部82,84を形成し、スリッパ76およびピストン79の間にオイル流下溝部82,84に対応するオイル流下通路を形成することも考えられる。
以上説明したように、本発明は、機関本体のクランクケース内の換気を行う複数の換気通路のうち特定の換気通路を連通路によって機関本体とカバー部材の間の内部空間に連通させているので、液面変動したオイルによりその特定の換気通路の下端側開口が塞がれたとしても、特定の換気通路内の負圧が増大するのを防止することができ、その結果、ブローバイガスからのオイルの分離性能に優れ、しかも、シリンダヘッド側の換気空間内へのオイルの吸上げを確実に防止することのできるブローバイガス還元装置を提供することができるという効果を奏するものであり、ブローバイガスの吸気通路側への還流通路上にオイル分離用のセパレータを配した内燃機関のブローバイガス還元装置全般に有用である。