以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。本実施形態による制御装置1は、図1に示す内燃機関(以下「エンジン」という)3および回転機21の動作を制御するためのものであり、図3に示すECU2を備えている。このECU2の詳細については後述する。また、エンジン3はガソリンエンジン、回転機21は、1ロータタイプのブラシレスDCモータであり、両者3,21は、図1に示す車両Vに原動機として搭載されている。さらに、車両Vは、左右の前輪WF,WFおよび後輪WR,WRを有する四輪車両である。
エンジン3のクランクシャフト3aには、回転機21のロータ(図示せず)が連結されており、このロータは、自動変速装置TM、差動ギヤ機構DGおよび左右の駆動軸DS,DSを介して、前輪WF,WFに連結されている。以上により、エンジン3の出力トルクは、回転機21、自動変速装置TM、差動ギヤ機構DGおよび左右の駆動軸DS,DSを介して、前輪WF,WFに伝達され、回転機21の出力トルクは、自動変速装置TMなどを介して前輪WF,WFに伝達される。
また、図2に示すように、エンジン3の気筒3bには、ピストン3cが設けられており、気筒3b内における、ピストン3cとシリンダヘッド3dの間に、燃焼室3eが形成されている。さらに、エンジン3は、燃焼室3eに吸気を吸入するための吸気弁4と、燃焼室3eから既燃ガスを排出するための排気弁5と、吸気弁4を駆動するとともに、そのバルブタイミングを変更可能な吸気VT切換機構6と、排気弁5を駆動するとともに、そのバルブタイミングを変更可能な排気VT切換機構7を備えている。
吸気VT切換機構6は、本出願人が特開2000−227013号公報などで既に提案したものと同様に構成されているので、以下、その構成および動作について、簡単に説明する。この吸気VT切換機構6は、吸気弁4のバルブタイミング(以下「吸気バルブタイミング」という)を、低速バルブタイミングと高速バルブタイミングに選択的に切換可能に構成されており、エンジン3のクランクシャフト3aに連結された吸気カムシャフトと一体の低速カムおよび高速カムと、吸気ロッカアームシャフトに回動自在に取り付けられた低速ロッカアームおよび高速ロッカアーム(いずれも図示せず)を有している。
また、吸気VT切換機構6は、油圧式のものであり、油路(図示せず)および吸気VT制御弁6a(図3参照)を介して、油圧ポンプ(図示せず)に接続されている。この油圧ポンプは、クランクシャフト3aに連結されており、エンジン3の運転中、その動力によって駆動され、油圧を吸気VT制御弁6aおよび後述する排気VT制御弁7a(図3参照)に供給する。
吸気VT切換機構6は、油圧が供給されないときには、吸気バルブタイミングを低速バルブタイミングに保持するとともに、油圧が供給されたときには、吸気バルブタイミングを低速バルブタイミングから高速バルブタイミングに切り換える。吸気VT制御弁6aは、ECU2に電気的に接続された常閉式の電磁弁で構成されており、OFFのときに閉弁状態にあって油圧ポンプからの吸気VT切換機構6側への油圧供給を停止するとともに、ECU2からの制御入力信号によってONされたときに開弁し、油圧ポンプからの油圧を吸気VT切換機構6側に供給する。以上の構成により、吸気VT制御弁6aのON/OFF状態に従って、吸気VT切換機構6の動作モードが、低速バルブタイミングモード/高速バルブタイミングモードに切り換えられる。
この低速バルブタイミングモードでは、吸気カムシャフトの回転中、吸気弁4は、低速カムで駆動されることにより、図4に実線で示すバルブリフト曲線に従って開弁し、吸気バルブタイミングが低速バルブタイミングになる。一方、高速バルブタイミングモードでは、吸気カムシャフトの回転中、吸気弁4は、高速カムで駆動されることにより、図4に破線で示すバルブリフト曲線に従って開弁し、吸気バルブタイミングが高速バルブタイミングになる。同図に示すように、この高速バルブタイミングでは、低速バルブタイミングと比較して、吸気弁4の最大揚程がより大きくなるとともに、吸気弁4の開弁タイミングがより早くなり且つ閉弁タイミングがより遅くなることで、開弁期間がより長くなる。その結果、空気がより高い充填効率で気筒3b内に吸入される。なお、上記とは逆に、油圧が吸気VT切換機構6に供給されていないときに、吸気バルブタイミングを高速バルブタイミングに保持するとともに、油圧が供給されたときに、吸気バルブタイミングを低速バルブタイミングに切り換えるように、吸気VT切換機構6を構成してもよい。
また、排気VT切換機構7は、排気弁5のバルブタイミング(以下「排気バルブタイミング」という)を、高速バルブタイミングと低速バルブタイミングに選択的に切換可能に構成されており、具体的には、吸気VT切換機構6と同様に構成されている。すなわち、排気VT切換機構7も、油圧式のものであり、油路(図示せず)および排気VT制御弁7aを介して、前述した油圧ポンプに接続されているとともに、油圧が供給されないときには、排気バルブタイミングを低速バルブタイミングに保持し、油圧が供給されたときには、排気バルブタイミングを低速バルブタイミングから高速バルブタイミングに切り換える。
排気VT制御弁7aも、吸気VT制御弁6aと同様に、ECU2に電気的に接続された常開式の電磁弁で構成されており、OFFのときに閉弁状態にあって油圧ポンプからの排気VT切換機構7側への油圧供給を停止するとともに、ECU2からの制御入力信号によってONされたときに開弁し、油圧ポンプからの油圧を排気VT切換機構7側に供給する。以上の構成により、排気VT切換機構7では、排気VT制御弁7aのON/OFF状態に従って、動作モードが、低速バルブタイミングモード/高速バルブタイミングモードに切り換えられる。
この低速バルブタイミングモードでは、排気カムシャフトの回転中、排気弁5は、低速カムで駆動されることにより、図4に実線で示すバルブリフト曲線に従って開弁し、排気バルブタイミングが低速バルブタイミングになる。一方、高速バルブタイミングモードでは、排気カムシャフトの回転中、排気弁5は、高速カムで駆動されることにより、図4に破線で示すバルブリフト曲線に従って開弁し、排気バルブタイミングが高速バルブタイミングになる。同図に示すように、この高速バルブタイミングでは、低速バルブタイミングと比較して、排気弁5の最大揚程がより大きくなるとともに、排気弁5の開弁タイミングがより早くなり且つ閉弁タイミングがより遅くなることで、開弁期間がより長くなる。なお、上記とは逆に、油圧が排気VT切換機構7に供給されていないときに、排気バルブタイミングを高速バルブタイミングに保持するとともに、油圧が供給されたときに、排気バルブタイミングを低速バルブタイミングに切り換えるように、排気VT切換機構7を構成してもよい。
また、図4に実線で示すように、吸気および排気バルブタイミングの双方が低速バルブタイミングのときには、吸気弁4および排気弁5の双方が同時に閉弁する、いわゆるネガティブオーバーラップ(以下「NOL」という)が発生する。また、NOLは、ピストン3cが吸気行程のTDC位置よりも前の所定の第1クランク角度位置C1に位置したときに開始するとともに、吸気行程のTDC位置よりも後の所定の第2クランク角度位置C2に位置したときに終了する。以下、この第1クランク角度位置C1から第2クランク角度位置C2までの期間を、「NOL期間」という。また、この場合には、排気弁5の閉弁タイミングがより進角側になることによって、既燃ガスが燃焼室3eから排出されにくくなり、燃焼室3e内に残留する既燃ガスの量、すなわち内部EGRガスの量が増大する。
一方、図4に破線で示すように、吸気および排気バルブタイミングの双方が高速バルブタイミングのときには、NOLは発生せず、吸気弁4および排気弁5の双方が同時に開弁するバルブオーバーラップが発生する。
また、エンジン3の本体には、クランク角センサ31および水温センサ32が設けられている。このクランク角センサ31は、マグネットロータおよびMREピックアップで構成されており、クランクシャフト3aの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
このCRK信号は、所定クランク角(例えば1゜)毎に1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、ピストン3cが吸気行程のTDC位置(以下「吸気TDC位置」という)よりも若干手前の所定の第3クランク角度位置C3にあることを表す信号である。図4に示すように、この第3クランク角度位置C3は、前述したNOL期間の始期である第1クランク角度位置C1よりも吸気TDC位置側に位置している。
また、水温センサ32は、サーミスタで構成されており、エンジン3のシリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、エンジン3のシリンダヘッド3dには、気筒3b内に吸気を導入するための吸気通路8が接続されており、吸気通路8には、上流側から順に、これを開閉するためのスロットル弁機構9と、吸気圧センサ33が設けられている。
スロットル弁機構9は、スロットル弁9aと、これを駆動するTHアクチュエータ9bを有している。スロットル弁9aは、吸気通路8内に回動自在に設けられており、その回動に伴う開度の変化により、吸気通路8を開閉することによって、燃焼室3eに吸入される新気の量である吸入空気量を変化させる。THアクチュエータ9bは、電動機にギヤ機構(いずれも図示せず)を組み合わせた電動式のものであり、ECU2からの制御入力信号で駆動され、それにより、スロットル弁9aの開度(以下「スロットル弁開度」という)が変更されることによって、吸入空気量が制御される。
また、吸気圧センサ33は、吸気通路8内の圧力(以下「吸気圧」という)PBAを絶対圧として検出し、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、エンジン3は、点火プラグ10、第1燃料噴射弁11および第2燃料噴射弁12を備えている。第1燃料噴射弁11は、吸気ポート8a内に燃料を噴射するように、吸気通路8におけるインテークマニホールドの分岐部に取り付けられており、第2燃料噴射弁12は、燃料を燃焼室3e内に直接噴射するように、シリンダヘッド3dに取り付けられている。
これらの点火プラグ10、第1および第2燃料噴射弁11,12はいずれも、ECU2に電気的に接続されており、点火プラグ10による混合気の点火時期と、第1燃料噴射弁11による燃料の噴射量および噴射時期と、第2燃料噴射弁12による燃料の噴射量および噴射時期は、ECU2によって後述するように制御される。これにより、エンジン3は、その燃焼モードが、混合気を予混合圧縮着火により燃焼させるHCCI燃焼モードと、混合気を火花点火により燃焼させるSI燃焼モードとに切り換えて運転される。
また、点火プラグ10には、圧電素子で構成された筒内圧センサ34が一体に取り付けられている。筒内圧センサ34は、気筒3b内の圧力(以下「筒内圧」という)PCYLを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、エンジン3のシリンダヘッド3dには、燃焼室3eからの排ガスを排出するための排気通路13が接続されており、排気通路13には、上流側から順に、LAFセンサ35および触媒装置14が設けられている。LAFセンサ35は、排気通路13を流れる排ガス中の酸素濃度をリニアに検出し、その酸素濃度に比例する検出信号をECU2に出力する。ECU2は、このLAFセンサ35で検出された酸素濃度に基づいて、エンジン3で燃焼した混合気の実際の空燃比(以下「実空燃比」という)を算出する。また、触媒装置14は、三元触媒で構成されており、この三元触媒の酸化・還元作用により、排ガス中の有害成分である一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および窒素酸化物(NOx)を浄化する。
また、前述した回転機21は、供給された電力を動力に変換し、そのロータから出力する力行動作と、ロータに入力された動力を電力に変換(発電)する回生動作を実行可能に構成されている。さらに、回転機21は、充電・放電可能なバッテリ22に、パワードライブユニット(以下「PDU」という)23を介して接続されており、回転機21で発電された電力は、バッテリ22に充電される。PDU23は、インバータなどからなる電気回路で構成されており、ECU2に接続されている。また、ECU2によるPDU23の制御によって、バッテリ22から回転機21に供給される電力と、回転機21で発電され、バッテリ22に充電される電力が制御される。
さらに、回転機21には、回転角センサ36が設けられており(図3参照)、回転角センサ36は、回転機21のロータの回転角度位置を検出するとともに、その検出信号をECU2に出力する。また、バッテリ22には、電流電圧センサ37が接続されており、電流電圧センサ37は、バッテリ22に入出力される電流・電圧値を検出するとともに、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この検出信号に基づいて、バッテリ22の充電状態を算出する。
また、図3に示すように、ECU2には、アクセル開度センサ38から、車両Vのアクセルペダル(図示せず)の操作量であるアクセル開度APを表す検出信号が出力される。
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ31〜38の検出信号などに基づいて、図5や図6などに示す各種の処理を実行する。
図5は、ECU2によって実行される処理のメインルーチンであり、本処理は、前述したTDC信号の発生に同期して実行される。まず、図5のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、燃焼モード判定処理を実行する。この燃焼モード判定処理では、燃焼モードとして、HCCI燃焼モードを実行すべきか、またはSI燃焼モードを実行すべきかが、後述するように判定される。次いで、エンジン制御処理を実行する(ステップ2)。このエンジン制御処理では、燃焼モード判定処理の判定結果に従って、エンジン3が後述するように制御される。次に、回転機制御処理を後述するように実行し(ステップ3)、本処理を終了する。
以下、燃焼モード判定処理、エンジン制御処理および回転機制御処理について、順に説明する。図6は、図5のステップ1で実行される燃焼モード判定処理を示している。まず、図6のステップ11では、算出されたエンジン回転数NEと、検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、要求トルクTREQを算出する。この要求トルクTREQは、エンジン3に要求されるトルクである。
次いで、そのときに得られているHCCI燃焼モードフラグF_HCCIを、その前回値F_HCCIZとしてシフトする(ステップ12)。次に、エンジン回転数NEと、ステップ11で算出された要求トルクTREQに応じ、図7に示すマップを検索することによって、エンジン3の運転領域がHCCI燃焼モードを実行すべきHCCI領域(図7にハッチングで示す領域)にあるか否かを判別する(ステップ13)。この答がYESで、エンジン3の運転領域がHCCI領域にあるときには、HCCI燃焼モードを実行すべきと判定し、そのことを表すために、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIを「1」に設定する(ステップ14)。
ここで、上記ステップ13の答がYESであり、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIが「1」であるという状況には、HCCI燃焼モードの実行中であるという状況と、燃焼モードをSI燃焼モードからHCCI燃焼モードに切り換えるべきと判定されている状況が含まれる。また、後述するエンジン制御処理によって、吸気および排気バルブタイミングの双方が、HCCI燃焼モードでは低速バルブタイミングに、SI燃焼モードでは高速バルブタイミングに、それぞれ制御される。したがって、燃焼モードをHCCI燃焼モードに切り換えるべきと判定され、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIが「1」に設定されると、吸気および排気バルブタイミングの双方は、高速バルブタイミングから低速バルブタイミングに切り換えられる。以下、低速および高速バルブタイミングをそれぞれ、適宜、「HCCI用タイミング」および「SI用タイミング」という。
上記ステップ14に続くステップ15以降では、吸気および排気バルブタイミングがHCCI用タイミングに完全に切り換わっているか否かを判定するとともに、その判定結果に基づいて、HCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換を、許可または禁止するために、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGの設定を行う。まず、ステップ15では、そのときに検出された筒内圧PCYLが、所定圧力PCYLREFよりも高いか否かを判別する。
この答がNOのときには、吸気および排気バルブタイミングがHCCI用タイミングに完全に切り換わっていないと判定する。また、この判定結果を受けて、HCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換を禁止するために、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGを「1」に設定し(ステップ16)、本処理を終了する。
一方、上記ステップ15の答がYESで、筒内圧PCYLが所定圧力よりも高いときには、吸気および排気バルブタイミングがHCCI用タイミングに完全に切り換わっていると判定する。また、この判定結果を受けて、HCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換を許可するために、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGを「0」にリセットし(ステップ17)、本処理を終了する。
HCCI用タイミングへの吸気および排気バルブタイミングの切換の完了を上述したように判定するのは、次の理由による。図8は、SI燃焼モード中における吸気および排気バルブタイミングと筒内圧PCYLの関係を示しており、図9は、HCCI燃焼モード中における吸気および排気バルブタイミングと筒内圧PCYLの関係を示している。前述したように、吸気および排気バルブタイミングの双方は、SI燃焼モードではSI用タイミング、すなわち高速バルブタイミングに制御される一方、HCCI燃焼モードではHCCI用タイミングすなわち低速バルブタイミングに制御される。これにより、HCCI燃焼モードでは、前述したように、NOL(ネガティブオーバーラップ)が発生し、SI燃焼モードの場合と比較して、既燃ガスが排出されにくくなる。その結果、図8と図9の比較から明らかなように、HCCI燃焼モードでは、第1および第2クランク角度位置C1,C2で規定されるNOL期間中における筒内圧PCYLは、SI燃焼モードの場合よりも大きくなる。
また、前述したように本処理がTDC信号の発生に同期して実行されることから明らかなように、ステップ15で用いられる筒内圧PCYLは、TDC信号が発生したときに、すなわち、ピストン3cがNOL期間の始期である第1クランク角度位置C1よりも吸気TDC位置側の第3クランク角度位置C3にあるときに、検出されたものである。また、図8および図9に示すように、ステップ15で用いられる所定圧力PCYLREFは、吸気および排気バルブタイミングの双方が低速バルブタイミングのときに得られる筒内圧PCYLと、高速バルブタイミングのときに得られる筒内圧PCYLとの間に、設定されている。
以上から、図6のステップ15の説明で述べた筒内圧PCYLと所定圧力PCYLREFの比較結果に基づいて、低速バルブタイミング、すなわちHCCI用タイミングへの吸気および排気バルブタイミングの切換の完了を適切に判定できるためである。
一方、図6のステップ13の答がNOのとき、すなわち、エンジン3の運転領域が図7に示すSI領域にあるときには、SI燃焼モードを実行すべきと判定し、そのことを表すために、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIを「0」に設定する(ステップ18)。
ここで、ステップ13の答がNOであり、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIが「0」であるという状況には、SI燃焼モードの実行中であるという状況と、燃焼モードをSI燃焼モードに切り換えるべきと判定されている状況が含まれる。また、燃焼モードをSI燃焼モードに切り換えるべきと判定され、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIが「0」に設定されると、前述したように、吸気および排気バルブタイミングが、HCCI用タイミングからSI用タイミングに切り換えられる。
上記ステップ18に続くステップ19以降では、吸気および排気バルブタイミングがSI用タイミングに完全に切り換わっているか否かを判定するとともに、その判定結果に基づいて、SI燃焼モードへの燃焼モードの切換を、許可または禁止するために、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGの設定を行う。まず、ステップ19では、そのときに検出された筒内圧PCYLが、前述した所定圧力PCYLREF以下であるか否かを判別する。
この答がNOで、PCYL>PCYLREFのときには、図8および図9を用いて説明した理由から、吸気および排気バルブタイミングが、SI用タイミングすなわち高速バルブタイミングに完全に切り換わっていないと判定する。また、この判定結果を受けて、SI燃焼モードへの燃焼モードの切換を禁止するために、前記ステップ16を実行し、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGを「1」に設定する。
一方、上記ステップ19の答がYESで、筒内圧PCYLが所定圧力PCYLREF以下のときには、吸気および排気バルブタイミングがSI用タイミングに完全に切り換わっていると判定する。また、この判定結果を受けて、SI燃焼モードへの燃焼モードの切換を許可するために、前記ステップ17を実行し、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGを「0」にリセットする。
なお、図6には示されていないものの、検出されたエンジン水温TWが所定の下限温度よりも低いときには、HCCI燃焼モードを実行すると、エンジン3の失火が発生するおそれがあるため、前記ステップ13〜19の処理にかかわらずに、SI燃焼モードが実行される。
次に、図10を参照しながら、図5のステップ2で実行されるエンジン制御処理について説明する。まず、図10のステップ31では、図6のステップ14または18で設定されたHCCI燃焼モードフラグF_HCCIが「1」であるか否かを判別する。この答がYESで、HCCI燃焼モードを実行すべきと判定されているときには、ステップ32および33において、HCCI燃焼モード用の吸気VT制御および排気VT制御をそれぞれ実行する。これらのステップ32および33では、制御入力信号を吸気および排気VT制御弁6a,7aに出力することによって、吸気および排気バルブタイミングが、前述したようにHCCI用タイミングに、すなわち低速バルブタイミングに制御される。なお、この低速バルブタイミングは、HCCI燃焼モードにおいてエンジン3の失火およびノッキングを発生させることなく良好な燃焼状態を確保できるようなタイミングに、設定されている。
次いで、HCCI燃焼モード用のスロットル弁制御を実行する(ステップ34)。その詳細については後述する。次に、図6のステップ16または17で設定された燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGが「1」であるか否かを判別する(ステップ35)。
この答がNOで、F_SWNG=0のとき、すなわち、HCCI燃焼モードの実行中であるときには、混合気を予混合圧縮着火で燃焼させるHCCI燃焼モードを実行するために、ステップ36、37および38において、HCCI燃焼モード用の燃料噴射量制御、燃料噴射時期制御および点火時期制御をそれぞれ実行し、本処理を終了する。これらの制御の詳細については後述する。
なお、本実施形態では、HCCI燃焼モード中、混合気が圧縮着火燃焼するような状態で生成されるので、火花点火は本質的に不要であるが、エンジン3の失火防止と、圧縮着火燃焼タイミングを適切に制御することを目的として、HCCI燃焼モード中も、点火プラグ10による火花点火が補助的に実行される。
一方、前記ステップ31の答がNOで、SI燃焼モードを実行すべきと判定されているときには、ステップ39および40においてそれぞれ、SI燃焼モード用の吸気VT制御および排気VT制御を実行する。これらのステップ39および40では、制御入力信号を吸気および排気VT制御弁6a,7aに出力することによって、吸気および排気バルブタイミングが、前述したようにSI用タイミングに、すなわち高速バルブタイミングに制御される。なお、この高速バルブタイミングは、SI燃焼モードにおいてエンジン3の失火およびノッキングを発生させることなく良好な燃焼状態を確保できるようなタイミングに、設定されている。
次いで、SI燃焼モード用のスロットル弁制御を実行する(ステップ41)。その詳細については後述する。次に、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGが「1」であるか否かを判別する(ステップ42)。
この答がNOで、F_SWNG=0のとき、すなわち、SI燃焼モードの実行中であるときには、混合気を火花点火で燃焼させるSI燃焼モードを実行するために、ステップ43、44および45において、SI燃焼モード用の燃料噴射量制御、燃料噴射時期制御および点火時期制御をそれぞれ実行し、本処理を終了する。これらの制御の詳細については後述する。
一方、前記ステップ35の答がYESで、F_SWNG=1のとき、すなわち、燃焼モードをSI燃焼モードからHCCI燃焼モードに切り換えるべきと判定されるとともに、その切換が禁止されているときには、前記ステップ43以降を実行し、SI燃焼モードを継続する。
以上のように、燃焼モードをHCCI燃焼モードに切り換えるべきと判定される(ステップ31:YES)とすぐに、吸気および排気バルブタイミングが、HCCI用タイミングに切り換わるように制御されるとともに、スロットル弁開度が、HCCI燃焼モード用の値に切り換わるように制御される(ステップ32〜34)。また、燃焼モードをHCCI燃焼モードに切り換えるべきと判定されていても、吸気および排気バルブタイミングがHCCI用タイミングに完全に切り換わっておらず、それによりHCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換が禁止されているとき(ステップ35:YES)には、HCCI燃焼モードを実行せずに、SI燃焼モードが継続される(ステップ43〜45)。そして、吸気および排気バルブタイミングがHCCI用タイミングに完全に切り換わったことによって、HCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換が許可されると(ステップ35:NO)、燃焼モードがHCCI燃焼モードに切り換えられる(ステップ36〜38)。
一方、前記ステップ42の答がYESで、F_SWNG=1のとき、すなわち、燃焼モードをSI燃焼モードに切り換えるべきと判定されるとともに、その切換が禁止されているときには、前記ステップ36以降を実行し、HCCI燃焼モードを実行する。
以上のように、燃焼モードをSI燃焼モードに切り換えるべきと判定される(ステップ31:NO)とすぐに、吸気および排気バルブタイミングが、SI用タイミングに切り換わるように制御されるとともに、スロットル弁開度が、SI燃焼モード用の値に切り換わるように制御される(ステップ39〜41)。また、燃焼モードをSI燃焼モードに切り換えるべきと判定されていても、吸気および排気バルブタイミングがSI用タイミングに完全に切り換わっておらず、それによりSI燃焼モードへの燃焼モードの切換が禁止されているとき(ステップ42:YES)には、SI燃焼モードを実行せずに、HCCI燃焼モードが継続される(ステップ36〜38)。そして、吸気および排気バルブタイミングがSI用タイミングに完全に切り換わったことによって、SI燃焼モードへの燃焼モードの切換が許可されると(ステップ42:NO)、燃焼モードがSI燃焼モードに切り換えられる(ステップ43〜45)。
次に、前記ステップ34、36〜38、41、43〜45における各種のパラメータの制御について説明する。
・HCCI燃焼モード用のスロットル弁制御(ステップ34)
エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、HCCI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することによって、HCCI燃焼モード用の目標開度を算出する。このマップでは、目標開度は、後述するSI燃焼モード用の目標開度と比較して、同じエンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに対し、より大きな値に設定されている。次いで、算出された目標開度に基づく制御入力信号を、THアクチュエータ9bに出力する。これにより、スロットル弁開度が目標開度になるように制御されることによって、吸入空気量が制御される。
・HCCI燃焼モード用の燃料噴射量・噴射時期制御(ステップ36,37)
まず、エンジン回転数NE、要求トルクTREQおよびエンジン水温TWなどのエンジン3の運転状態に応じ、HCCI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第2燃料噴射量を算出する。この第2燃料噴射量は、燃焼室3e内に燃料を噴射する第2燃料噴射弁12によって噴射すべき燃料量である。次いで、算出された第2燃料噴射量を、第2燃料噴射弁12に供給される燃料圧に応じて補正することによって、第2噴射時間を算出する。この第2噴射時間は、第2燃料噴射弁12の開弁時間に相当する。なお、第2燃料噴射弁12に供給される燃料圧は、センサ(図示せず)によって検出される。
次に、吸入空気量を算出するとともに、算出された吸入空気量に応じ、HCCI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本燃料噴射量を算出する。この場合、吸入空気量は、吸気VT切換機構6の動作状態と、検出された吸気管内圧PBAに応じて算出され、吸気VT切換機構6の動作状態は、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIおよび燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGに基づいて判定される。次いで、前述したLAFセンサ35の検出結果に基づいて算出された実空燃比が、理論空燃比(14.7)よりもリーン側の値になるように、所定のフィードバック制御アルゴリズムによって、空燃比補正係数を算出する。
次に、算出された基本燃料噴射量に、算出された空燃比補正係数を乗算した値から、算出された第2燃料噴射量を減算する(基本燃料噴射量・空燃比補正係数−第2燃料噴射量)ことによって、第1燃料噴射量を算出する。この第1燃料噴射量は、吸気ポート8a内に燃料を噴射する第1燃料噴射弁11によって噴射すべき燃料量である。次に、算出された第1燃料噴射量を、第1燃料噴射弁11に供給される燃料圧に応じて補正することによって、第1噴射時間を算出する。この第1噴射時間は、第1燃料噴射弁11の開弁時間に相当する。なお、第1燃料噴射弁11に供給される燃料圧は、センサ(図示せず)によって検出される。
次いで、第1噴射時期および第2噴射時期を、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、それぞれのHCCI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出する。第1および第2噴射時期はそれぞれ、第1および第2燃料噴射弁11,12の開弁タイミングであり、吸気行程中および圧縮行程中のタイミングとして算出される。
以上のようにして各種のパラメータが算出されると、第1噴射時間および第1噴射時期に基づく制御入力信号が第1燃料噴射弁11に出力され、それにより、第1燃料噴射弁11による燃料噴射量が、第1燃料噴射量に制御されるとともに、第1燃料噴射弁11による燃料噴射開始時期が、第1噴射時期に制御される。また、第2噴射時間および第2噴射時期に基づく制御入力信号が第2燃料噴射弁12に出力され、それにより、第2燃料噴射弁12による燃料噴射量が、第2燃料噴射量に制御されるとともに、第2燃料噴射弁12による燃料噴射開始時期が、第2噴射時期に制御される。
・HCCI燃焼モード用の点火時期制御(ステップ38)
エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、HCCI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することによって、目標点火時期を算出するとともに、算出された目標点火時期に基づく制御入力信号を、点火プラグ10に出力する。これにより、目標点火時期のタイミングで、点火プラグ10による放電が実行される。
以上の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期の制御によって、第2燃料噴射弁12による燃料噴射により生成された混合気を火種として、第1燃料噴射弁11による燃料噴射により生成された混合気が予混合圧縮着火によって燃焼し、HCCI燃焼モードが実行される。また、HCCI燃焼モードでは、基本的には、エンジン3の出力トルク(以下「エンジントルク」という)が、要求トルクTREQになるように制御される。
さらに、周知のように、HCCI燃焼モードでは、SI燃焼モードの場合と異なり、空燃比をリーン側に制御しても、混合気の燃焼温度が高くなりすぎることがなく、NOxが増大することがない。これに対し、エンジン3に供給される混合気の空燃比が、上述したスロットル弁制御および燃料噴射量制御によって理論空燃比よりもリーン側の値に制御されるので、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性を得ることができる。また、吸気および排気バルブタイミングを低速バルブタイミングに制御することによって、NOLが発生し、内部EGRガスの量がHCCI燃焼モードに適した大きさに制御されるので、燃焼室3e内の温度を適正な温度に制御することができ、エンジン3の失火およびノッキングを防止し、良好な燃焼状態を確保することができる。
・SI燃焼モード用のスロットル弁制御(ステップ41)
基本的には、HCCI燃焼モード用のスロットル弁制御と同様に実行され、スロットル弁開度の目標開度として、SI燃焼モード用の目標開度を算出する点のみが異なっている。前述したように、この目標開度は、同じエンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに対し、HCCI燃焼モード用の目標開度よりも小さな値に算出される。
・SI燃焼モード用の燃料噴射量・噴射時期制御(ステップ43,44)
基本的には、HCCI燃焼モード用の燃料噴射量・噴射時期制御と同様に実行される。以下、HCCI燃焼モードの場合と異なる点を中心に説明する。まず、エンジン回転数NE、要求トルクTREQおよびエンジン水温TWなどのエンジン3の運転状態に応じ、SI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第2燃料噴射量を算出する。次いで、算出された第2燃料噴射量を用い、HCCI燃焼モードの場合と同じ算出手法によって、第2噴射時間を算出する。
次いで、算出された吸入空気量に応じ、SI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本燃料噴射量を算出するとともに、空燃比補正係数を、実空燃比が理論空燃比になるように、所定のフィードバック制御アルゴリズムによって算出する。次に、HCCI燃焼モードの場合と同様、基本燃料噴射量に空燃比補正係数を乗算した値から第2燃料噴射量を減算することによって、第1燃料噴射量を算出する。次いで、算出された第1燃料噴射量を用い、HCCI燃焼モードの場合と同じ算出手法によって、第1噴射時間を算出する。
次に、第1噴射時期および第2噴射時期を、エンジン回転数NEおよび要求トルクTREQに応じ、それぞれのSI燃焼モード用の所定のマップ(図示せず)を検索することにより、吸気行程中および圧縮行程中のタイミングとしてそれぞれ算出する。なお、SI燃焼モードでは、第1および第2燃料噴射弁11,12の双方を用いた燃料噴射は、SI燃焼モードへの切換時にのみ行われ、SI燃焼モードの継続中には、第2燃料噴射量は値0に設定され、第1燃料噴射弁11のみによって燃料噴射が行われる。
・SI燃焼モード用の点火時期制御(ステップ45)
基本的には、HCCI燃焼モード用の点火時期制御と同様に実行され、SI燃焼モード用の目標点火時期を算出する点のみが異なっている。
以上の各種のパラメータの制御によって、第1および第2燃料噴射弁11,12による燃料噴射により生成された混合気が、点火プラグ10による火花点火によって燃焼し、SI燃焼モードが実行される。また、SI燃焼モードでは、HCCI燃焼モードの場合と同様、基本的には、エンジントルクが、要求トルクTREQになるように制御される。さらに、以上のスロットル弁制御および燃料噴射量制御によって、エンジン3に供給される混合気の空燃比が理論空燃比に制御され、それにより、三元触媒で構成された触媒装置14によって排ガスを適切に浄化することができるので、良好な排ガス特性を得ることができる。また、吸気および排気バルブタイミングを高速バルブタイミングに制御することによって、内部EGRガスの量がSI燃焼モードに適した大きさに制御されるので、燃焼室3e内の温度を適正な温度に制御することができ、エンジン3の失火およびノッキングを防止し、良好な燃焼状態を確保することができる。
次に、図11を参照しながら、図5のステップ3で実行される回転機制御処理について説明する。まず、図11のステップ51では、切換中制御フラグF_SWCが「1」であるか否かを判別する。この切換中制御フラグF_SWCは、回転機21の後述する燃焼モード切換中制御を実行しているときに、「1」に設定されるものである。この答がNOのとき、すなわち、回転機21の燃焼モード切換中制御の実行中でないときには、HCCI燃焼モードフラグの今回値F_HCCIが前回値F_HCCIZと等しいか否かを判別する(ステップ52)。この答がYESのとき、すなわち、燃焼モードを切り換えるように判定されておらず、燃焼モードの切換時でないときには、通常時用の回転機制御を実行し(ステップ53)、本処理を終了する。
この通常時用の回転機制御では、アクセル開度APや、算出されたバッテリ22の充電状態に応じて、回転機21の力行動作および回生動作が制御される。これにより、車両Vの走行中に、適宜、回転機21によるエンジン3のアシストが行われ、車両Vの減速走行中に、適宜、車両Vの慣性エネルギが電力に変換され、バッテリ22に充電される。
一方、上記ステップ52の答がNOで、燃焼モードの切換時であるときには、回転機21の燃焼モード切換中制御を実行するために、切換中制御フラグF_SWCを「1」に設定し(ステップ54)、続くステップ55以降において、燃焼モード切換中制御を実行する。また、このステップ54を実行した後には、上記ステップ51の答がYESになり、その場合には、ステップ55以降を実行する。
まず、ステップ55では、エンジントルクTENGを算出する。この算出は、前述したように吸気VT切換機構6の動作状態と吸気管内圧PBAに応じて算出された吸入空気量に基づいて、行われる。次いで、算出されたエンジントルクTENGが要求トルクTREQとほぼ等しいか否かを判別する(ステップ56)。この答がNOで、エンジントルクTENGが要求トルクTREQとほぼ等しくないときには、要求トルクTREQからエンジントルクTENGを減算することによって、トルク偏差DTRQを算出する(ステップ57)。
次いで、算出されたトルク偏差DTRQに基づいて、回転機21の力行動作または回生動作を制御し(ステップ58)、本処理を終了する。このステップ58では、トルク偏差DTRQが正値のとき、すなわち、エンジントルクTENGが要求トルクTREQよりも小さいときには、バッテリ22から回転機21に電力を供給するとともに、供給れる電力を制御することによって、トルク偏差DTRQが値0になるように、回転機21の出力トルクを制御する。これにより、要求トルクTREQに対するエンジントルクTENGの不足分が相殺されるように、回転機21の力行動作が制御される結果、その不足分のトルクが回転機21から出力される。
一方、トルク偏差DTRQが負値のとき、すなわち、エンジントルクTENGが要求トルクTREQよりも大きいときには、回転機21において、エンジン3から伝達される動力を用いて発電を行い、発電した電力をバッテリ22に充電するとともに、発電される電力を制御することによって、トルク偏差DTRQが値0になるように、発電に伴って発生する回転機21の出力トルク(負荷トルク)を制御する。これにより、要求トルクTREQに対するエンジントルクの余剰分が相殺されるように、回転機21の回生動作が制御される結果、その余剰分のトルクが、電気エネルギとしてバッテリ22に充電される。
一方、前記ステップ56の答がYESで、エンジントルクTENGが要求トルクTREQとほぼ等しくなったときには、燃焼モード切換中制御を終了するために、切換中制御フラグF_SWCを「0」にリセットする(ステップ59)とともに、前記ステップ53を実行し、通常時用の回転機制御を実行する。
なお、上述した燃焼モード切換中制御において、算出されたバッテリ22の充電状態が所定の下限値とほぼ等しいときには、バッテリ22の過放電を防止するために、回転機21の力行動作の実行が禁止される一方、バッテリ22の充電状態が所定の上限値とほぼ等しいときには、バッテリ22の過充電を防止するために、回転機21の回生動作の実行が禁止される。
次に、図12および図13を参照しながら、制御装置1によりエンジン3および回転機21を制御したときの動作例について説明する。図12は、燃焼モードがSI燃焼モードからHCCI燃焼モードに切り換えられたときの動作例を示しており、これとは逆に、図13は、HCCI燃焼モードからSI燃焼モードに切り換えられたときの動作例を示している。なお、図12および図13において、THおよびGAIRはそれぞれ、スロットル弁開度および吸入空気量であり、GFUELは、第1および第2燃料噴射弁11,12から噴射される燃料量の和(以下「総燃料噴射量」という)である。また、A/FACTおよびA/FSはそれぞれ、実空燃比および理論空燃比であり、TMOTは、回転機21の出力トルク(以下「回転機トルク」という)、TPMは、エンジントルクTENGと回転機トルクTMOTの和(以下「原動機トルク」という)である。
図12に示すように、SI燃焼モードの実行中(時点t0〜)、HCCI燃焼モードに燃焼モードを切り換えるべきと判定され(図6のステップ13:NO→YES)、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIが「1」に設定されると(時点t1、ステップ14)、その時点ですぐに、吸気および排気バルブタイミングが、切換先のHCCI燃焼モードに応じたHCCI用タイミングに切り換わるように制御されるとともに、スロットル弁開度THが、HCCI燃焼モード用の値に切り換わるように制御される(図10のステップ31〜34)。前述したように、スロットル弁9aを駆動するTHアクチュエータ9bが、制御の応答性の高い電動式であるので、スロットル弁開度THは、上記の制御に応じてすぐに増大し、それにより、吸入空気量GAIRが増大する。これに対し、吸気および排気VT切換機構6,7がいずれも、制御の応答性の低い油圧式であるので、吸気および排気バルブタイミングは、スロットル弁開度THと異なり、すぐにはHCCI用タイミング、すなわち低速バルブタイミングに切り換わらず、その結果、NOLが発生しない。
また、上記のように吸気および排気バルブタイミングが低速バルブタイミングに完全に切り換わっていないとき(時点t1〜時点t2)には、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGが「1」に設定される(ステップ15,16)。これにより、HCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換が禁止されることによって、燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期の制御として、HCCI燃焼モード用の制御が実行されずに、SI燃焼モード用の制御が継続して実行される(ステップ35、43〜45)結果、SI燃焼モードが継続される。
さらに、上記のHCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換の禁止中(時点t1〜時点t2)、空燃比A/FACTが、切換元のSI燃焼モードに応じた理論空燃比A/FSになるように、第1および第2燃料噴射弁11,12による総燃料噴射量GFUELが制御される。これにより、空燃比A/FSが理論空燃比A/FSに保持されるとともに、総燃料噴射量GFUELが、上述したように増大する吸入空気量GAIRに応じて増大する。以上の結果、エンジントルクTENGが増大し、要求トルクTREQよりも大きくなる。また、燃焼モードを切り換えるべきと判定されるのと同時に、切換中制御フラグF_SWCが「1」に設定され(図11のステップ52、54)、前述した回転機21の燃焼モード切換中制御が開始される(ステップ55〜58)。これにより、要求トルクTREQに対するエンジントルクTENGの余剰分が相殺されるように、回転機21の回生動作が制御され、その結果、エンジントルクTENGと回転機トルクTMOT(負荷トルク)の和である原動機トルクTPMは、要求トルクTREQと等しくなる。
そして、吸気および排気バルブタイミングが低速バルブタイミングに完全に切り換わり、NOLが発生すると(時点t2)、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGが「0」にリセットされる(ステップ15,17)。これにより、HCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換が許可されることによって、HCCI燃焼モード用の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期の制御が開始され、燃焼モードがHCCI燃焼モードに切り換えられる(ステップ35〜38)。
また、このHCCI燃焼モードの切換時(時点t2)、吸気バルブタイミングが、吸気弁4の最大揚程が小さな低速バルブタイミングに切り換えられることによって、吸入空気量GAIRが減少する。このことと、HCCI燃焼モードでは、前述したように空燃比A/FACTが理論空燃比A/FSよりもリーン側の値になるように、総燃料噴射量GFUELが制御されることから、総燃料噴射量GFUELは、吸入空気量GAIRに応じて減少する。以上の結果、エンジントルクTENGが減少し、要求トルクTREQよりも小さくなる。これに対し、回転機21の燃焼モード切換中制御によって、要求トルクTREQに対するエンジントルクTENGの不足分が相殺されるように、回転機21の力行動作が制御される結果、原動機トルクTPMは、要求トルクTREQと等しくなる。
そして、HCCI燃焼モードへの燃焼モードの切換後(時点t2以降)、スロットル弁開度THが、要求トルクTREQに応じてさらに増大側に制御され、それにより、吸入空気量GAIRが増大する。このことと、それに応じて総燃料噴射量GFUELが増大することによって、エンジントルクTENGが増大し、それに応じて回転機21の力行動作が制御される結果、回転機トルクTMOTが減少し、この場合にも、原動機トルクTPMは、要求トルクTREQと等しくなる。その後、エンジントルクTENGが要求トルクTREQと等しくなると(時点t3、ステップ56:YES)、切換中制御フラグF_SWCが「0」にリセットされ(ステップ59)、回転機21の燃焼モード切換中制御が終了される。
また、図13に示すように、HCCI燃焼モードの実行中(時点t0’〜)、SI燃焼モードに燃焼モードを切り換えるべきと判定され(ステップ13:YES→NO)、HCCI燃焼モードフラグF_HCCIが「0」に設定されると(時点t1、ステップ18)、その時点ですぐに、吸気および排気バルブタイミングが、切換先のSI燃焼モードに応じたSI用タイミングに切り換わるように制御されるとともに、スロットル弁開度THが、SI燃焼モード用の値に切り換わるように制御される(ステップ39〜41)。これにより、スロットル弁開度THが減少することによって、吸入空気量GAIRが減少する。一方、吸気および排気バルブタイミングは、すぐにはSI用タイミング、すなわち高速バルブタイミングに切り換わらず、その結果、NOLが発生した状態に保持される。
また、上記のように吸気および排気バルブタイミングが高速バルブタイミングに完全に切り換わっていないとき(時点t1’〜時点t2’)には、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGが「1」に設定される(ステップ19,16)。これにより、SI燃焼モードへの燃焼モードの切換が禁止されることによって、燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期の制御として、SI燃焼モード用の制御が実行されずに、HCCI燃焼モード用の制御が継続して実行される(ステップ42、36〜38)結果、HCCI燃焼モードが継続される。
さらに、上記のSI燃焼モードへの燃焼モードの切換の禁止中(時点t1’〜時点t2’)、実空燃比A/FACTが、切換元のHCCI燃焼モードに応じた、理論空燃比A/FSよりもリーン側の値になるように、第1および第2燃料噴射弁11,12による総燃料噴射量GFUELが制御される。これにより、空燃比A/FSがリーン側の値に保持されるとともに、総燃料噴射量GFUELが、上述したように減少する吸入空気量GAIRに応じて減少する。以上の結果、エンジントルクTENGが減少し、要求トルクTREQよりも小さくなる。また、この場合にも、燃焼モードを切り換えるべきと判定されるのと同時に、回転機21の燃焼モード切換中制御が開始される。これにより、要求トルクTREQに対するエンジントルクTENGの不足分が相殺されるように、回転機21の力行動作が制御される結果、原動機トルクTPMは、要求トルクTREQと等しくなる。
そして、吸気および排気バルブタイミングが高速バルブタイミングに完全に切り換わると(時点t2’)、燃焼モード切換禁止フラグF_SWNGが「0」にリセットされる(ステップ19,17)。これにより、SI燃焼モードへの燃焼モードの切換が許可されることによって、SI燃焼モード用の燃料噴射量、燃料噴射時期および点火時期の制御が開始され、燃焼モードがSI燃焼モードに切り換えられる(ステップ42〜45)。
また、このSI燃焼モードの切換時(時点t2’)、吸気バルブタイミングが、吸気弁4の最大揚程が大きな高速バルブタイミングに切り換えられることによって、吸入空気量GAIRが増大する。このことと、SI燃焼モードでは、前述したように空燃比A/FACTが理論空燃比A/FSになるように、総燃料噴射量GFUELが制御されることから、総燃料噴射量GFUELは、吸入空気量GAIRに応じて増大する。以上の結果、エンジントルクTENGが増大し、要求トルクTREQよりも大きくなる。これに対し、回転機21の燃焼モード切換中制御によって、要求トルクTREQに対するエンジントルクTENGの余剰分が相殺されるように、回転機21の回生動作が制御される結果、原動機トルクTPMは、要求トルクTREQと等しくなる。
そして、SI燃焼モードへの燃焼モードの切換後(時点t2’以降)、スロットル弁開度THが、要求トルクTREQに応じて減少側に制御され、それにより、吸入空気量GAIRが減少する。この場合、吸気バルブタイミングが、吸気弁4の最大揚程が大きな高速バルブタイミングであることによって、吸入空気量GAIRは、応答遅れをもって、漸減する。このことと、それに応じて総燃料噴射量GFUELが漸減することによって、エンジントルクTENGが漸減し、それに応じて回転機21の回生動作が制御される結果、負値である回転機トルクTMOTの絶対値が漸減し、この場合にも、原動機トルクTPMは、要求トルクTREQと等しくなる。その後、エンジントルクTENGが要求トルクTREQと等しくなると(時点t3’)、図12の場合と同様、切換中制御フラグF_SWCが「0」にリセットされ、回転機21の燃焼モード切換中制御が終了される。
また、本実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、本実施形態における排気VT切換機構7が、本発明における可変動弁機構に相当し、本実施形態における吸気圧センサ33、筒内圧センサ34およびアクセル開度センサ38が、出力算出手段、筒内圧パラメータ検出手段および要求出力算出手段にそれぞれ相当する。また、本実施形態におけるECU2が、本発明における切換判定手段、機構制御手段、切換許可・禁止手段、空燃比制御手段、出力算出手段、要求出力算出手段、および回転機制御手段に相当するとともに、本実施形態におけるPDU23が、回転機制御手段に相当する。さらに、本実施形態における筒内圧PCYL、エンジントルクTENGおよび要求トルクTREQが、本発明における筒内圧パラメータ、算出された内燃機関の出力、および要求出力にそれぞれ相当する。
以上のように、本実施形態によれば、吸気および排気バルブタイミングが、HCCI燃焼モードでは低速バルブタイミングに、SI燃焼モードでは高速バルブタイミングに、それぞれ制御される。これにより、各燃焼モードにおいて、適正な内部EGRガスの量が得られ、それにより、燃焼室3e内の温度を適切に制御することができるので、エンジン3の良好な燃焼状態を確保することができる。また、エンジン3に供給される混合気の空燃比が、HCCI燃焼モードでは理論空燃比A/FSよりもリーン側に、SI燃焼モードでは理論空燃比A/FSに、それぞれ制御されるので、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性を得ることができる。
さらに、燃焼モードを切り換えるべきと判定されるとすぐに、切換先の燃焼モードに応じて、吸気および排気バルブタイミングが制御される。また、燃焼モードを切り換えるべきと判定されているときに、検出された筒内圧PCYLに基づいて、吸気および排気バルブタイミングが完全に切り換わるまでの間、燃焼モードの切換が禁止されるとともに、吸気および排気バルブタイミングが完全に切り換わった時点で、燃焼モードの切換が許可される。これにより、吸気および排気VT切換機構6,7の動作遅れなどにかかわらず、燃焼室3e内の温度を切換先の燃焼モードに適した温度に制御した状態で、燃焼モードを切り換えることができ、したがって、燃焼モードの切換時に、エンジン3の良好な燃焼状態を確保することができる。
また、燃焼モードの切換の禁止中に、実空燃比A/FACTが、切換元の燃焼モードに応じて制御される。これにより、前述した従来の場合と異なり、燃焼モードの切換中に、適正な空燃比を得ることができ、それにより、エンジン3の排ガス特性および燃費を向上させることができる。
さらに、燃焼モードを切り換えるべきと判定されているときに、要求トルクTREQに対するエンジントルクTENGの不足分および余剰分が相殺されるように、回転機21の力行動作および回生動作がそれぞれ制御される。したがって、燃焼モードの切換中に、要求トルクTREQに見合った大きさのトルクをエンジン3および回転機21から出力することができるので、良好なドライバビリティを得ることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、排気VT切換機構7は、排気弁5の動作特性として、排気バルブタイミングおよび排気弁5の最大揚程の双方を同時に変更可能であるが、排気バルブタイミングのみ、または排気弁5の最大揚程のみを変更可能なものでもよい。また、排気VT切換機構7は、油圧式であるが、電磁式でもよい。さらに、排気VT切換機構7は、排気バルブタイミングを、低速バルブタイミングと高速バルブタイミングの間で段階的に切換可能であるが、3つ以上の複数のバルブタイミングの間で段階的に切換可能なものでもよい。
また、実施形態では、本発明における筒内圧パラメータは、筒内圧PCYLであるが、筒内圧を表すパラメータであれば、他の適当なパラメータ、例えば、筒内圧の変化量や、エンジン3のクランク軸3aの角加速度でもよい。さらに、実施形態では、エンジントルクTENGを算出するためのパラメータとして、吸気VT切換機構6の動作状態および吸気圧PBAを用いているが、第1燃料噴射弁11による燃料噴射量および/または第2燃料噴射弁12による燃料噴射量を用いてもよい。また、実施形態では、本発明における内燃機関の出力として、エンジントルクTENG(N・m)を算出しているが、エンジン3の動力(N・m/s)を算出してもよく、また、本発明における要求出力として、要求トルクTREQを算出しているが、エンジン3に要求される動力を算出してもよい。
さらに、実施形態では、燃焼モードの切換の許可・禁止の判定に、TDC信号が発生したタイミングで検出された筒内圧PCYLを用いているが、図8および図9を用いて説明した、吸気および排気バルブタイミングの切換の完了の判定手法から明らかなように、ピストン3cが吸気TDC位置に位置したタイミングで検出された筒内圧PCYLを用いてもよい。あるいは、第1および第2クランク角度位置C1,C2で規定されるNOL期間中における筒内圧PCYLの最大値を算出するとともに、算出された最大値を用いてもよい。また、排気弁の最大揚程のみを変更する可変動弁機構を用いることによりNOLがほとんど発生しないような場合、ピストン3cが吸気TDC位置に位置したときに、燃焼室3e内の既燃ガスが最も圧縮されることから、吸気TDC位置または吸気TDC位置付近に位置したタイミングで検出された筒内圧PCYLを、燃焼モードの切換の許可・禁止の判定に用いてもよい。あるいは、吸気TDC位置を含む、排気行程の終期から吸気行程の初期までの所定の期間における筒内圧PCYLの最大値を算出するとともに、算出された最大値を用いてもよい。
さらに、実施形態では、回転機21は、ブラシレスDCモータであるが、本発明における回転機の機能を有するものであればよく、例えばACモータでもよい。また、実施形態では、回転機21への電力供給と、回転機21による発電電力の充電とを行うための蓄電装置として、バッテリ22を用いているが、充電・放電可能なものであれば、キャパシタでもよい。さらに、実施形態では、回転機21のロータを、エンジン3のクランク軸3aに直接、連結しているが、クラッチや変速装置を介してクランク軸3aに連結してもよく、あるいは、クランク軸3aに連結せずに、車両Vの後輪WR,WRに連結してもよい。また、これとは逆に、回転機21のロータを前輪WF,WFに、クランク軸3aを後輪WR,WRに、それぞれ連結してもよい。
さらに、実施形態では、本発明における内燃機関として、第1および第2燃料噴射弁11,12を備えるエンジン3を用いているが、HCCI燃焼モードとSI燃焼モードに切り換えて運転される内燃機関であれば、第1および第2燃料噴射弁11,12の一方のみを備えるものを用いてもよい。また、実施形態では、HCCI燃焼モード中に、点火プラグ10による火花点火を補助的に実行しているが、省略してもよい。さらに、実施形態は、本発明を、車両V用のエンジン3に適用した例であるが、本発明は、これに限らず、船舶推進機用のエンジンや、航空機用のエンジンに適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。