JP5510041B2 - 回転機の制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、互いに相違する値を有する電圧を印加する複数の電圧印加手段と回転機の端子とを選択的に開閉するスイッチング素子を備える電力変換回路を操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置に関する。
この種の制御装置としては、例えば下記特許文献1に見られるように、インバータの操作状態を様々に設定した場合についての3相電動機を流れる電流をそれぞれ予測し、予測される電流と指令電流との偏差を最小化することのできる操作状態にてインバータを操作するいわゆるモデル予測制御を行うものが提案されている。これによれば、インバータの操作状態に基づき予測される電流の挙動を最適化するようにインバータを操作するため、過渡時における指令電流への追従性を良好なものとすることができる。このため、モデル予測制御は、車載主機としてのモータジェネレータの制御装置等、過渡追従特性として特に高い性能が要求される用途にとっては、有用性が高いと考えられる。
ところで、インバータの出力線間電圧の基本波振幅が入力電圧よりも大きくなるいわゆる過変調領域において上記モデル予測制御を行なうに際し、モデル予測制御の予測区間が6次の高調波の周期と比較して短く設定される場合には、実際の電流の平均値と指令電流との間に乖離が生じることが知られている。これは、過変調領域においては6次の高調波が支配的である一方、その周期よりも短いタイムスケールで予測される電流と指令電流との差を最小化するインバータの操作状態が選択されることで、変調率を大きくするうえで要求される操作状態の利用が回避されることに起因している。
そこで従来は、例えば下記非特許文献1に見られるように、変調率を入力として6次の高調波電流を予測し、これを指令電流に重畳することで、指令電流自体を6次の高調波を含んだものとすることも提案されている。これにより、変調率を大きくするうえで要求される操作状態に基づき予測される電流と指令電流との偏差が小さくなりやすくなり、ひいては実際の電流の平均値を指令電流に制御することができる。
特開2008−228419号公報
穂積、石田、道木、大熊、「インバータの過変調領域を考慮したモデル予測制御に基づくPMSMの高応答トルク制御系」、平成21年電気学会産業応用部門大会
ただし、上記非特許文献1に記載された技術では、変調率毎に6次成分の値を定めたマップが必要となるため、マップの作成工数が膨大となり、また制御装置に記憶させるべきデータ量も膨大となる。また、変調率毎に6次成分の値を定める際には、電動機として特定の特性を前提とするため、電動機の個体差や経時変化によって、算出される6次成分の誤差が大きくなりやすく、ひいては制御量の制御性が低下しやすい。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、過変調領域においてモデル予測制御を行なうに際し、制御量の制御性を好適に向上させることのできる回転機の制御装置を提供することにある。
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
第1の発明は、互いに相違する値を有する電圧を印加する複数の電圧印加手段と回転機の端子とを選択的に開閉するスイッチング素子を備える電力変換回路を操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、前記電力変換回路の操作状態を複数通りに設定した場合のそれぞれについての前記回転機の制御量を予測する予測手段と、前記予測された制御量と該制御量の指令値とを入力パラメータとする評価関数の評価結果に基づき、前記電力変換回路の実際の操作状態を決定し、該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段と、前記評価関数の入力パラメータとしての前記予測された制御量を取り込み、該予測された制御量に含まれる高調波成分を減衰させて前記評価関数に入力する減衰手段とを備えることを特徴とする。
回転機を過変調領域において駆動する場合、制御量には、6次の高調波が重畳する。そして、モデル予測制御によれば、この高調波による制御量の制御性の低下を微視的なタイムスケールで最も低減できるように操作状態が選択されることで、制御量の平均値が指令値から乖離する問題が生じる。上記発明では、この点に鑑み、評価関数の入力パラメータとしての予測手段によって予想された制御量の高調波成分を減衰させる。これにより、上記予測された制御量に高調波成分が顕著に含まれることに起因して制御量の平均値の制御性が低下することを好適に抑制することができる。
第2の発明は、第1の発明において、前記減衰手段は、前記予測された制御量の基本波成分を選択的に透過させつつ前記高調波成分を減衰させる機能と、該減衰させる機能に起因した前記基本波成分の位相の遅れを補償する機能とを有することを特徴とする。
制御量の基本波成分を選択的に透過させつつ前記高調波成分を減衰させる機能を搭載する場合、基本波成分の位相が遅れることで制御が不安定化するおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、基本波成分の位相の遅れを補償する機能を有することで、こうした問題を好適に抑制することができる。
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記減衰手段は、位相遅れ補償器を備えて構成されることを特徴とする。
制御量の基本波成分を選択的に透過させつつ前記高調波成分を減衰させる機能を搭載する場合、基本波成分の位相が遅れることで制御が不安定化するおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、基本波成分の位相の遅れを補償する機能を有することで、こうした問題を好適に抑制することができる。
第4の発明は、第1または第2の発明において、前記減衰手段は、前記評価関数の入力パラメータとしての前記予測された制御量を入力とするローパスフィルタと、該予測された制御量についての前記ローパスフィルタによる処理のなされたものとなされないものとの加重平均処理を行なう手段とを備えて構成されることを特徴とする。
ローパスフィルタを搭載する場合、基本波成分の位相が遅れることで制御が不安定化するおそれがある。上記発明では、この点に鑑み、ローパスフィルタによる処理のなされないものを所定の割合で含めることで基本波成分の位相の遅れを補償する。
第5の発明は、第1〜4のいずれか1つの発明において、前記回転機の状態量が急変する過渡状態を判断する過渡状態判断手段と、前記過渡状態判断手段によって前記過渡状態であると判断される場合、前記減衰手段による前記高調波成分を減衰させる処理を制限する制限手段とを更に備えることを特徴とする。
過渡状態においては、制御量を急変させる必要が生じるにもかかわらず、減衰手段によって制御量の高調波成分を減衰させる処理によって、問題となる6次の高調波成分とは関係なく上記過渡故の制御量の変化が減衰されるおそれがある。そしてこの場合には、制御性が低下する等の問題を生じる。上記発明では、この点に鑑み、制限手段を備えた。
第6の発明は、第1〜5のいずれか1つの発明において、前記電力変換回路は、回転機の端子に直流電源の正極および負極のそれぞれを電気的に接続するスイッチング素子を備え、前記減衰手段は、前記電力変換回路の出力線間電圧の基本波振幅が前記電力変換回路の入力電圧を規定値以上上回ることを条件に前記高調波成分を減衰させる処理を行うことを特徴とする。
上記発明では、過変調領域に特有の6次の高調波の影響が生じる場合に高調波成分を減衰させる処理を行なうことができる。
第7の発明は、第1〜6のいずれか1つの発明において、前記減衰手段によって高調波成分が減衰される制御量は、前記回転機を流れる電流、前記回転機の磁束および前記回転機のトルクの少なくとも1つであることを特徴とする。
第8の発明は、第1〜7のいずれか1つの発明において、前記電力変換回路は、回転機の端子に直流電源の正極および負極のそれぞれを電気的に接続するスイッチング素子を備えることを特徴とする。
第1の実施形態にかかるシステム構成図。 インバータの操作状態を表現する電圧ベクトルを示す図。 上記実施形態にかかるモデル予測制御の手順を示す流れ図。 過変調領域において生じる問題を説明するための図。 ローパスフィルタの挿入による問題を示す図。 位相遅れ補償器の特性を示すボード線図。 位相遅れ補償器を用いる場合とローパスフィルタを用いる場合との比較結果を示すボード線図。 上記実施形態における過変調領域の処理を示す流れ図。 同実施形態の効果を示すタイムチャート。 同実施形態の効果を示すタイムチャート。 同実施形態の効果を示すタイムチャート。 第2の実施形態にかかるシステム構成図。 同実施形態にかかる位相遅れ補償効果を示すボード線図。 同実施形態の効果を示すタイムチャート。 同実施形態の効果を示すタイムチャート。 同実施形態の効果を示すタイムチャート。 第3の実施形態にかかるシステム構成図。
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる回転機の制御装置をハイブリッド車の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す。車載主機としてのモータジェネレータ10は、3相の永久磁石同期モータである。また、モータジェネレータ10は、突極性を有する回転機(突極機)である。詳しくは、モータジェネレータ10は、埋め込み磁石同期モータ(IPMSM)である。
モータジェネレータ10は、インバータIVを介して高電圧バッテリ12に接続されている。インバータIVは、スイッチング素子Sup,Sunの直列接続体と、スイッチング素子Svp,Svnの直列接続体と、スイッチング素子Swp,Swnの直列接続体とを備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらスイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnとして、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが逆並列に接続されている。
本実施形態では、モータジェネレータ10やインバータIVの状態を検出する検出手段として、以下のものを備えている。まずモータジェネレータ10の回転角度(電気角θ)を検出する回転角度センサ14を備えている。また、モータジェネレータ10の各相を流れる電流iu,iv,iwを検出する電流センサ16を備えている。更に、インバータIVの入力電圧(電源電圧VDC)を検出する電圧センサ18を備えている。
上記各種センサの検出値は、図示しないインターフェースを介して低電圧システムを構成する制御装置20に取り込まれる。制御装置20では、これら各種センサの検出値に基づき、インバータIVを操作する操作信号を生成して出力する。ここで、インバータIVのスイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを操作する信号が、操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnである。
上記制御装置20は、モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御すべく、インバータIVを操作する。詳しくは、要求トルクTrを実現するための指令電流とモータジェネレータ10を流れる電流とが一致するようにインバータIVを操作する。すなわち、本実施形態では、モータジェネレータ10のトルクが最終的な制御量となるものであるが、トルクを制御すべく、モータジェネレータ10を流れる電流を直接の制御量としてこれを指令電流に制御する。特に、本実施形態では、モータジェネレータ10を流れる電流を指令電流に制御すべく、インバータIVの操作状態を複数通りのそれぞれに設定した場合についてのモータジェネレータ10を流れる電流を予測し、上記操作状態のうち予測電流が指令電流に近くなるものをインバータIVの実際の操作状態として採用するモデル予測制御を行う。
以下では、まず「1.低変調率での制御」について説明した後、「過変調領域での制御」について説明する。
「1.低変調率での制御」
電流センサ16によって検出された相電流iu,iv,iwは、dq変換部22において、回転座標系の実電流id,iqに変換される。また、角度センサ14によって検出される電気角θは、速度算出部23の入力となり、これにより、回転速度(電気角速度ω)が算出される。一方、指令電流設定部24は、要求トルクTrを入力とし、dq座標系での指令電流idr,iqrを出力する。これら指令電流idr,iqr、実電流id,iq、及び電気角θは、モデル予測制御部30の入力となる。モデル予測制御部30では、これら入力パラメータに基づき、インバータIVの操作状態を規定する電圧ベクトルViを決定し、操作部26に入力する。操作部26では、入力された電圧ベクトルViに基づき、上記操作信号を生成してインバータIVに出力する。
ここで、インバータIVの操作状態を表現する電圧ベクトルは、図2に示す8つの電圧ベクトルとなる。例えば、低電位側のスイッチング素子Sun,Svn,Swnがオン状態となる操作状態(図中、「下」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV0であり、高電位側のスイッチング素子Sup,Svp,Swpがオン状態となる操作状態(図中、「上」と表記)を表現する電圧ベクトルが電圧ベクトルV7である。これら電圧ベクトルV0,V7は、モータジェネレータ10の全相を短絡させるものであり、インバータIVからモータジェネレータ10に印加される電圧がゼロとなるものであるため、ゼロ電圧ベクトルと呼ばれている。これに対し、残りの6つの電圧ベクトルV1〜V6は、上側アーム及び下側アームの双方にオン状態となるスイッチング素子が存在する操作パターンによって規定されるものであり、有効電圧ベクトルと呼ばれている。なお、図2(b)に示すように、電圧ベクトルV1、V3,V5のそれぞれがU相、V相、W相の正側にそれぞれ対応している。
次に、モデル予測制御部30の処理の詳細について説明する。先の図1に示す操作状態設定部31では、インバータIVの操作状態を設定する。ここでは、先の図2に示した電圧ベクトルV0〜V7をインバータIVの操作状態として設定する。dq変換部32では、操作状態設定部31によって設定された電圧ベクトルをdq変換することで、dq座標系の電圧ベクトルVdq=(vd,vq)を算出する。こうした変換を行うべく、操作状態設定部31における電圧ベクトルV0〜V7を、例えば、先の図2において、「上」を「VDC/2」として且つ「下」を「−VDC/2」とすることで表現すればよい。この場合、例えば、電圧ベクトルV0は、(−VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となり、電圧ベクトルV1は、(VDC/2、−VDC/2、−VDC/2)となる。
予測部33では、電圧ベクトル(vd、vq)と、実電流id,iqと、電気角速度ωとに基づき、インバータIVの操作状態を操作状態設定部31によって設定される状態とした場合の電流id,iqを予測する。ここでは、下記(c1)、(c2)にて表現される電圧方程式を、電流の微分項について解いた下記の状態方程式(式(c3)、(c4))を離散化し、1ステップ先の電流を予測する。
vd=(R+pLd)id −ωLqiq …(c1)
vq=ωLdid +(R+pLq)iq +ωφ …(c2)
pid
=−(R/Ld)id +ω(Lq/Ld)iq +vd/Ld …(c3)
piq
=−ω(Ld/Lq)id−(Rd/Lq)iq+vq/Lq−ωφ/Lq…(c4)
ちなみに、上記の式(c1)、(c2)において、抵抗R、微分演算子p、d軸インダクタンスLd,q軸インダクタンスLq及び電機子鎖交磁束定数φを用いた。
上記電流の予測は、操作状態設定部31によって設定される複数通りの操作状態のそれぞれについて行われる。
一方、操作状態決定部34では、予測部33によって予測された電流ide,iqeと、指令電流idr,iqrとを入力として、インバータIVの操作状態を決定する。ここでは、操作状態設定部31によって設定された操作状態のそれぞれを評価関数Jによって評価し、評価のもっとも高かった操作状態を選択する。この評価関数Jとして、本実施形態では、評価が低いほど値が大きくなるものを採用する。具体的には、評価関数Jを、指令電流ベクトルIdqr=(idr,iqr)と、予測電流ベクトルIdqe=(ide,iqe)との差の内積値に基づき算出する。これは、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の偏差が正、負の双方の値となりうることに鑑み、値が大きいほど評価が低いことを表現するための一手法である。これにより、指令電流ベクトルIdqrと予測電流ベクトルIdqeとの各成分の差が大きいほど、評価が低くなる評価関数Jを構築することができる。
図3に、本実施形態にかかるモデル予測制御の処理手順を示す。この処理は、所定周期(制御周期Tc)で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、電気角θ(n)と、実電流id(n),iq(n)とを検出するとともに、前回の制御周期で決定された電圧ベクトルV(n)を出力する。続くステップS12においては、1制御周期先における電流(ide(n+1),iqe(n+1))を予測する。これは、上記ステップS10によって出力された電圧ベクトルV(n)によって、1制御周期先の電流がどうなるかを予測する処理である。ここでは、上記の式(c3)、(c4)にて表現されたモデルを前進差分法にて制御周期Tcで離散化したものを用いて、電流ide(n+1)、iqe(n+1)を算出する。この際、電流の初期値として、上記ステップS10において検出された実電流id(n),iq(n)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n)を、上記ステップS10において検出された電気角θ(n)に「ωTc/2」を加算した角度よってdq変換したものを用いる。
続くステップS14〜S22では、次回の制御周期における電圧ベクトルを複数通りに設定した場合のそれぞれについて、2制御周期先の電流を予測する処理を行う。すなわち、まずステップS14において、電圧ベクトルを定める数jを「0」に設定する。続くステップS16においては、電圧ベクトルVjを、次回の制御周期における電圧ベクトルV(n+1)として設定する。続くステップS18においては、上記ステップS12と同様にして予測電流ide(n+2)、iqe(n+2)を算出する。ただし、ここでは、電流の初期値として、上記ステップS12において算出された予測電流ide(n+1),iqe(n+1)を用いるとともに、dq軸上の電圧ベクトルとして、電圧ベクトルV(n+1)を、上記ステップS10において検出された電気角θ(n)に「3ωTc/2」を加算した角度によってdq変換したものを用いる。
続くステップS20においては、数jが「7」であるか否かを判断する。この処理は、インバータIVの操作状態を決定する電圧ベクトルV0〜V7の全てについて、電流の予測処理が完了したか否かを判断するためのものである。そして、ステップS20において否定判断される場合には、ステップS22において、数jをインクリメントし、ステップS16に戻る。これに対し、ステップS20において肯定判断される場合には、ステップS24に移行する。
ステップS24においては、次回の制御周期における電圧ベクトルV(n+1)を決定する処理を行う。ここでは、上記評価関数Jを最小化する電圧ベクトルを最終的な電圧ベクトルV(n+1)とする。すなわち、ステップS20において肯定判断される時点で、電圧ベクトルV0〜V7のそれぞれについての予測電流ide(n+2),iqe(n+2)が算出されている。このため、これら8通りの予測電流ide(n+2),iqe(n+2)を用いて、評価関数Jの値を8つ算出することができる。続くステップS26においては、電圧ベクトルV(n),V(n+1)を、それぞれ電圧ベクトルV(n−1),V(n)とし、電気角θ(n)を電気角θ(n−1)とし、実電流id(n),iq(n)を、それぞれ実電流id(n−1)、iq(n−1)とする。
なお、ステップS26の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
「2.過変調領域での制御」
ところで、上記の式(c1)、(c2)に、指令電流idr,iqr(固定値)を入力することで、指令電圧ベクトル(vdr、vqr)のノルムが一義的に定まる。このノルムは、モータジェネレータ10の電気角θが「360°」回転することで、図4(a)に示す2次元固定座標系において「360°」回転する。ここで、インバータIVによって実現可能な出力電圧は、図4(a)に示すように、1辺の長さが「√(2/3)×VDC」の6角形内の領域に制限される。このため、指令電圧ベクトル(vdr、vqr)の終点が描く曲線(円)としての上限は、図4(a)に示した半径「VDC/√2」の円(6角形の内接円)となる。この状態は、インバータIVの出力線間電圧の基本波成分が入力電圧と一致していることを意味し、このときの変調率を「2/√3」と定義する。
本実施形態では、変調率が「2/√3」よりも大きい領域を過変調領域とする。過変調領域においても変調率をさらに上昇させることができることが周知である。ただし、過変調領域である場合、すなわち、指令電流idr,iqrに応じた上記指令電圧ベクトルのノルムが上記円の半径よりも大きくなる場合、モータジェネレータ10の電気角によっては指令電流idr,iqrを実現することはできず、これに起因してモータジェネレータ10の制御量に電気角周波数の6倍の高調波成分が重畳される。すなわち、図4(b)に示す円にて表現される指令電圧ベクトルの場合、指令電圧ベクトルの終点が上記6角形の領域内に入る破線部分では指令どおりに電圧が出力され、6角形の領域からはみ出る1点鎖線部分は6角形に制約された電圧が出力され、これが電気角周波数の6倍の周期で繰り返される。このため、モータジェネレータ10の制御量に電気角周波数の6倍の高調波が重畳される。
この6次の高調波の重畳によって電流が変動したとしてもその平均値が指令電流idr,iqrとなるなら、モータジェネレータ10のトルクを要求トルクTrに制御することができる。ただし、上記評価関数Jを用いてインバータIVの操作状態を決定する場合、モータジェネレータ10の実際のトルクと要求トルクTrとの間に定常的な乖離が生じる。これは、予測電流ide(n+2),iqe(n+2)となると予測されるタイミングと現在時との間の時間間隔(予測間隔)が上記高調波の周期と比較して小さいことに起因している。すなわち、この場合、局所的なタイムスケースにおいて予測電流ide,iqeと指令電流idr,iqrとの差を最小にするための操作状態が選択される。例えば、インバータIVの出力電圧からの制約により実際の電流を指令電流とすることができない領域とこれを上回る制御が可能な領域とが存在する。そして、上回る制御が可能な領域においては、指令電流と予測電流との差を最小とする操作状態が選択されるため、指令電流を上回る操作状態の使用が回避され、電流の平均値が指令電流に対して不足する。
ちなみに、上記定常偏差は、高調波の周期以上の長期間にわたって都度の予測電流ide,iqeと指令電流idr,iqrとの差を評価することで次回の操作状態を決定するなら、解消しうる。ただし、この場合には演算負荷が過大となる。
そこで本実施形態では、先の図1に示した処理によって過変調領域における定常偏差の抑制を図る。
先の図1に示すように、予測部33によって予測される予測電流ideは、位相遅れ補償器50に取り込まれる。位相遅れ補償器50は、予測電流ideの基本波成分を選択的に透過させて且つ、高調波成分を減衰させるものであり、カットオフ周波数を電気角速度ωに応じて可変設定する。本実施形態では、位相遅れ補償器50として、電気角速度ωに応じて可変設定される時定数τと、定数α(0<α<1)とによって「(1+ατs)/(1+τs)」にて表現されるものを用いる。一方、セレクタ52は、位相遅れ補償器50によってフィルタ処理された予測電流ideと、予測部33から出力された予測電流ideとのいずれかを選択的に操作状態決定部34に出力する。
また、予測部33によって予測される予測電流iqeは、位相遅れ補償器60に取り込まれる。位相遅れ補償器60は、予測電流iqeの基本波成分を選択的に透過させて且つ、高調波成分を減衰させるものであり、カットオフ周波数を電気角速度ωに応じて可変設定する。本実施形態では、位相遅れ補償器60として、電気角速度ωに応じて可変設定される時定数τと、定数α(0<α<1)とによって「(1+ατs)/(1+τs)」にて表現されるものを用いる。一方、セレクタ62は、位相遅れ補償器60によってフィルタ処理された予測電流iqeと、予測部33から出力された予測電流iqeとのいずれかを選択的に操作状態決定部34に出力する。
上記位相遅れ補償器50,60の出力は、指令電圧ベクトルの終点が、先の図4(b)に示した上記6角形の領域内に入る破線部分と6角形の領域からはみ出る1点鎖線部分との周期的な繰り返しに起因した電流の変動成分を好適に抑制したものとなっている。換言すれば、上記位相遅れ補償器50,60の出力は、上記6次の高調波の影響を平均化したものとなっている。このため、この電流を評価関数Jの入力とすることで、電流の平均値と指令電流との偏差を最も小さくする操作状態の評価が最も高いものとなる。
ここで、評価関数Jの入力パラメータとして位相遅れ補償器を選択し、単純なローパスフィルタとしなかったのは、制御の安定性を確保するためのである。図5(a)に、ローパスフィルタの出力を評価関数Jの入力パラメータとした場合の制御性を示す。図示されるように、評価関数Jの入力パラメータをローパスフィルタの出力に切り替えることで(制御ON)、実電流id,iqの変動が非常に大きくなっている。図5(b)に、モデル予測制御器の伝達関数Gc(s)と、むだ時間要素の伝達関数exp(−sT)と、プラントの伝達関数P(s)とを「(ωc/s)exp(−sT)」として且つ、ローパスフィルタの伝達関数を1次遅れの伝達関数「1/(1+τs)」とした場合の1巡伝達関数G0(s)のボード線図を示す。図示されるように、位相余裕が小さく、安定度が低い。なお、上記モデル予測制御器とプラントとの伝達関数を「ωc/s」としたのは、これが実験結果をよく近似するとの知見による。
これに対し、図6に、位相遅れ補償器50,60のボード線図を示す。図示されるように、この場合、上記定数αを「1」に近づけるほど位相遅れの補償度合いを増大させることができる。
図7に、位相遅れ補償器50,60を用いた場合と、単純なローパスフィルタ(1次遅れフィルタ)を用いた場合とのボード線図を対比して示す。図示されるように、位相遅れ補償器50,60を用いることで位相余裕を増大させることができる。
図8に、本実施形態にかかる予測電流ide,iqeの補正処理(位相遅れ補償器50,60の出力の採用)の有無の切替処理の手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS30において、指令電流設定部24によって設定される指令電流idr,iqrから要求されるインバータIVの出力電圧ベクトル(平均電圧ベクトルVa)を算出する。これは、上記の式(c1)、(c2)に、上記指令電流idr,iqrを入力することで算出することができる。続くステップS32においては、変調率Mを算出する。これは、電源電圧VDCと、平均電圧ベクトルVaとを用いて、「(|Va|/VDC)√(8/3)」となる。続くステップS34では、過変調領域であるか否かを判断する。そして過変調領域であると判断される場合、ステップS36において、指令電流ベクトル(idr、iqr)と実電流ベクトル(id,iq)との差ベクトルのノルムが閾値ΔIth以下であるか否かを判断する。この処理は、モータジェネレータ10の状態量が急変する過渡状態であるか否かを判断するためのものである。そして、閾値ΔIth以下であると判断される場合、過渡状態ではないことから、ステップS38において、予測部33によって予測された予測電流ide,iqeを位相遅れ補償器50,60によって補正する処理を行なう。ちなみに、この際、予測部33の入力についても、実電流id,iqからローパスフィルタ40,44の出力に切り替える。
このように、本実施形態では、過変調領域であることと過渡状態ではないこととの論理積が真である場合に、予測部33によって予測された予測電流ide,iqeを補正した。ここで、過渡状態ではないことを条件としたのは、位相遅れ補償器50,60が、上記6次の高調波以外に過渡状態に起因した成分をも減衰させる可能性があることに鑑みたものである。
なお、上記ステップS38の処理が完了する場合や、ステップS34、S36において否定判断される場合には、この一連の処理を一旦終了する。
図9(a)に本実施形態の効果を示す。図示されるように、評価関数Jの入力パラメータを予測部33によって予測される予測電流ide,iqeから、これを位相遅れ補償器50,60によってフィルタ処理したものに切り替える(制御ON)ことで、実電流id,iqの平均値の指令電流idr,iqrに対する追従性が向上する。一方、図9(b)に、位相遅れ補償器50,60に代えて1次遅れフィルタを用いた場合を示す。ちなみに、図10は、図9(a)の拡大図である。
図11(a)に、本実施形態にかかる要求トルクTrへのトルクTの制御結果を示す。これに対し、図11(b)は、位相遅れ補償器50,60を用いない場合を示す。図示されるように、図11(b)に示す例ではトルクTの平均値が要求トルクTrに対して定常的に小さい側にずれているのに対し、本実施形態では、トルクTの平均値は要求トルクTrに良好に制御される。
なお、上記図9〜図11においては、実際には、位相遅れ補償器50,60として、上記アナログフィルタの伝達関数をオイラー近似「s=(z−1)/zT」によってデジタルフィルタに変換したものを用いた。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)予測部33によって予測された予測電流ide,iqeを取り込み、その高調波成分を減衰させて評価関数Jに入力した。これにより、予測電流ide,iqeに高調波成分が顕著に含まれることに起因して制御量の平均値の制御性が低下することを好適に抑制することができる。
(2)位相遅れ補償器50,60を用いることで、高調波成分を減衰させつつも、基本波成分の位相遅れを補償することができる。
(3)過渡状態であると判断される場合、高調波成分を減衰させる処理を禁止した。これにより、問題となる6次の高調波成分とは関係なく上記過渡故の予測電流ide,iqeの変化が減衰される事態を好適に回避することができる。
(4)過変調領域となることを条件に高調波成分を減衰させる処理を行った。これにより、過変調領域に特有の6次の高調波の影響が生じる場合に高調波成分を減衰させる処理を行なうことができる。
(5)過変調領域において、実電流id,iqをローパスフィルタ40,44によってフィルタ処理したものを予測部33に入力した。これにより、制御量の平均値の制御性をより向上させることができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図12に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図12において、先の図1に示した処理と対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、dq変換部22の出力する実電流idは、例えば1次遅れフィルタ等のローパスフィルタ40に取り込まれる。ローパスフィルタ40は、実電流idの高調波成分を減衰させつつ基本波成分を選択的に透過させるものであり、カットオフ周波数を電気角速度ωに応じて可変設定する。切替部42は、ローパスフィルタ40の出力信号を予測部33に出力するか否かを切り替える。一方、dq変換部22の出力する実電流iqは、例えば1次遅れフィルタ等のローパスフィルタ44に取り込まれる。ローパスフィルタ44は、実電流iqの高調波成分を減衰させつつ基本波成分を選択的に透過させるものであり、カットオフ周波数を電気角速度ωに応じて可変設定する。切替部46は、ローパスフィルタ44の出力信号を予測部33に出力するか否かを切り替える。
これにより、切替部42,46によってローパスフィルタ40,44の出力信号が予測部33に入力される場合には、予測部33では、実電流id,iqに基づく予測電流ide,iqeの算出に加えて、ローパスフィルタ40,44の出力信号に基づく予測電流ideL,iqeLの算出を行なう。
そして、ローパスフィルタ40,44の出力信号に基づき予測部33によって予測された予測電流ideLは、1次遅れフィルタであるローパスフィルタ54に取り込まれる。ローパスフィルタ54は、予測電流ideLの高調波成分を減衰させつつ基本波成分を選択的に透過させるものであり、カットオフ周波数を電気角速度ωに応じて可変設定する。一方、加算部56では、1次遅れフィルタであるローパスフィルタ54の出力信号に重み係数α(>0)を乗算した値と、実電流id,iqに基づき予測部33によって予測された予測電流ideに重み係数「1−α(>0)」を乗算した値とを加算することで、ローパスフィルタ54の出力信号と予測電流ideとの加重平均処理を行なう。そして、セレクタ52では、加算部56の値と、予測電流ideとのいずれかを操作状態決定部34に選択的に出力する。
また、ローパスフィルタ40,44の出力信号に基づき予測部33によって予測された予測電流iqeLは、ローパスフィルタ64に取り込まれる。ローパスフィルタ64は、予測電流iqeLの高調波成分を減衰させつつ基本波成分を選択的に透過させるものであり、カットオフ周波数を電気角速度ωに応じて可変設定する。一方、加算部66では、ローパスフィルタ64の出力信号に重み係数α(>0)を乗算した値と、実電流id,iqに基づき予測部33によって予測された予測電流iqeに重み係数「1−α(>0)」を乗算した値とを加算することで、ローパスフィルタ64の出力信号と予測電流iqeとの加重平均処理を行なう。そして、セレクタ62では、加算部66の値と、予測電流iqeとのいずれかを操作状態決定部34に選択的に出力する。
ここで、加算部56,66の出力は、図13に示すように、予測部33によって予測された予測電流ide,iqeの高調波成分を除去しつつも、基本波成分の位相遅れが低減されたものとなっている。これは、ローパスフィルタ54,64によるフィルタ処理のなされない成分を含むためである。ここで、位相遅れ補償の効果は、上記重み係数αをゼロに近づけるほど大きくなる。
図14(a)に、本実施形態の効果を示す。図示されるように、評価関数Jの入力パラメータを予測部33によって予測される予測電流ide,iqeから、加算部56,66の出力に切り替えることで(制御ON)、実電流id,iqの平均値と指令電流idr,iqrとの誤差が低減される。図14(b)に、評価関数Jの入力パラメータを予測部33によって予測される予測電流ide,iqeから、ローパスフィルタ54,64の出力に切り替える場合を対比して示す。ちなみに、図15は、図14(a)の拡大図である。
図16(a)に、本実施形態にかかる要求トルクTrへのトルクTの制御結果を示す。これに対し、図16(b)は、予測部33によって予測された予測電流ide,iqeをフィルタ処理なし(補正なし)で用いる場合を示す。図示されるように、図16(b)に示す例ではトルクTの平均値が要求トルクTrに対して定常的に小さい側にずれているのに対し、本実施形態では、トルクTの平均値は要求トルクTrに良好に制御される。
以上説明した本実施形態によっても先の第1の実施形態の上記各効果に準じた効果を得ることができる。
なお、上記図14〜図16においては、実際には、位相遅れ補償器50,60として、上記アナログフィルタの伝達関数をオイラー近似「s=(z−1)/zT」によってデジタルフィルタに変換したものを用いた。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、トルクと磁束とを直接の制御量とし、これらの指令値と予測値とを入力としてインバータIVの操作状態を決定する。
図17に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図17において、先の図1に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、トルク/磁束予測部36では、予測電流ide,iqeに基づき、モータジェネレータ10の磁束ベクトルΦとトルクTとを予測する。ここで、磁束ベクトルΦ=(Φd、Φq)は、下記の式(c5)、(c6)にて予測され、トルクTは、下記の式(c7)にて予測される。
Φd=Ld・id+φ …(c5)
Φq=Lq・iq …(c6)
T=P(Φd・iq−Φq・id) …(c7)
ちなみに、上記の式(c7)においては、極対数Pを用いている。
一方、磁束マップ24aでは、要求トルクTrに基づき、指令磁束ベクトルΦrを設定する。ここで、指令磁束ベクトルΦrは、要求トルクTrを満たすもののうち、例えば最小の電流で最大のトルクが得られる最大トルク制御を実現する等の要求によって設定されるものである。
操作状態決定部34aでは、評価関数Jに基づき最終的な操作状態を決定する。ここで、評価関数Jは、予測トルクTeと要求トルクTrとの差と、予測磁束ベクトルΦeと指令磁束ベクトルΦrとの各成分の差とに基づき定量化される。詳しくは、これらの差の2乗のそれぞれに重み係数α、βを乗算した値同士の和に基づき決定される。ここで、重み係数α、βは、トルクと磁束との大きさが相違することに鑑みたものである。すなわち例えば、トルクの数値の方が大きくなる単位設定をする場合、トルク偏差の方が大きくなりやすいため、重み係数α、βを用いない場合には、磁束の制御性が低い電圧ベクトルであっても評価がさほど低くならない等のデメリットが生じるおそれがある。このため、重み係数α、βを、評価関数Jの複数の入力パラメータの絶対値の大きさの相違を補償する手段として用いる。なお、トルクと磁束との関係式が「T=P×Ia×Φ×sin(θv−θi);Ia:電流振幅、θv:電圧位相角、θi:電流位相角」であることに鑑みれば、「α=1、β=|P×Ia×sin(θv−θi)|」とすることが望ましい。
ここで、評価関数Jの入力となる予測トルクTeと予測磁束ベクトルΦeとは、上記第1の実施形態の要領で予測された電流を初期値として用いて算出されるものである。すなわち、本実施形態では、トルクや磁束を直接検出するハードウェア手段を備えないため、トルクや磁束を算出可能な物理量である電流に基づきこれら制御量であるトルクや磁束を算出している。そして、次回の更新タイミングn+1におけるインバータIVの操作状態の設定に応じたトルクや磁束の予測処理に際して、次回の更新タイミングn+1における電流の予測値を初期値として用いる。
ここで、本実施形態では、過変調領域において、評価関数Jの入力パラメータを、磁束予測部36によって予測された予測トルクTeと予測磁束Φde,Φqeのそれぞれを位相遅れ補償器80,82,84によってフィルタ処理したものへと切り替える。なお、変調率が小さい領域等では、セレクタ86,88,90の操作によって、評価関数Jの入力パラメータを、磁束予測部36によって予測された予測トルクTeと予測磁束Φde,Φqeとに切り替える。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
<高調波成分を減衰させる機能について>
ローパスフィルタとしては、1次遅れフィルタに限らず、例えばバタワース低域フィルタ等であってもよい。また、高調波成分を減衰させる機能としては、ローパスフィルタに限らない。例えば基本波成分を選択的に透過させるバンドパスフィルタであってもよい。
<基本波成分の位相の遅れを補償する機能について>
例えば第2の実施形態において、重み(1−α)の乗算対象を予測部33の出力する予測電流ide,iqeとする代わりに、ローパスフィルタ54,64の出力する電流idlpf,lqlpfを位相進み補償器に入力した際の出力としてもよい。
上記第2の実施形態において、ローパスフィルタ40,44の出力を用いることなく、実電流id,iqを用いて予測部33によって予測された予測電流ide,iqeをローパスフィルタ54,64の入力としてもよい。
もっとも、減衰手段としては、この補償する機能を備えなくてもよい。この場合であっても、例えばモータジェネレータ10の厳密なモデルにおいて僅かでも位相余裕を有するようにするなら、制御の不安定性を抑制できる可能があると考えられる。ただし、この場合、高調波成分を減衰させる手段の特性を、モータジェネレータ10の温度等に応じて可変設定することが望ましい。
<平均電圧ベクトルVaの算出について>
平均電圧ベクトルVaの算出手法としては、上記各実施形態で例示したものに限らない。例えば、モデル予測制御によって操作状態として都度決定された電圧ベクトルのdq軸成分をローパスフィルタ処理する手段としてもよい。また例えば、モデル予測制御によって操作状態として都度決定された電圧ベクトルのdq軸成分の電気角60度分の平均値を算出する手段であってもよい。
<過渡状態判断手段について>
過渡状態判断手段としては、予測対象とされる制御量の検出値と指令値との差が大きくなることで過渡状態と判断するものに限らない。例えば制御量の指令値の変化量が規定値以上となることで過渡状態と判断するものであってもよい。
また、制御量の変化に限らず、モータジェネレータ10の状態量であって且つ制御量ではないものが急変した場合に過渡状態と判断してもよい。こうした状態量としては、例えば上記各実施形態における回転速度がある。
<制限手段について>
過渡状態であると判断される場合に高調波成分を減衰させる処理を制限する手段としては、評価関数Jの全ての入力パラメータについてこの処理を禁止する手段に限らない。例えば、指令値が急変する制御量に限って高調波成分を減衰させる処理を禁止するものであってもよい。また、禁止するものにも限らず、例えば上記第1の実施形態において、過渡時においては、重み係数αを0に近づけるようにしてもよい。
<評価関数について>
上記第3の実施形態において、磁束ベクトルΦのd軸成分とq軸成分とのそれぞれに互いに相違する重み係数を乗算する等、これらの絶対値の大きさの相違を補償する手段を備えてもよい。また、第1、2の実施形態においても、d軸電流とq軸電流との絶対値の大きさの相違を補償する手段を備えてもよい。
また、評価関数としては、入力パラメータとしての制御量とその指令値との差の各成分の2乗の加重平均値にも限らない。例えば制御量とその指令値との差の絶対値であってもよい。要は、入力パラメータとしての制御量とその指令値との差が大きいほど評価が低いことを定量化するものであればよい。
<予測手段について>
・上記各実施形態では、インバータIVの操作状態についての次の更新タイミング(1制御周期先のタイミング)におけるインバータIVの操作による制御量を予測したがこれに限らない。例えば数制御周期先の更新タイミングにおけるインバータIVの操作による制御量まで順次予測することで、1制御周期先の更新タイミングにおける操作状態を決定してもよい。この場合であっても、予測区間が6次高調波の周期よりも短いなら、評価関数Jの入力パラメータとしての予測された制御量の高調波成分を減衰させることは有効である。
・上記各実施形態では、電流の検出タイミングをインバータIVの操作状態の更新タイミングに同期させたがこれに限らない。例えば、時系列的に隣接する各一対の更新タイミング間の中央のタイミングにおいて電流を検出するようにしてもよい。この場合であっても、次回の更新タイミングにおける操作状態の設定に伴う電流の予測の初期値として、次回の更新タイミングにおける電流を上記検出された電流に基づき予測することは有効である。
・上記各実施形態では、インバータIVの操作状態の更新タイミングから1制御周期先の制御量を予測したがこれに限らない。例えば、操作状態の更新タイミングから1制御周期経過するまでの期間内の中間の時点における制御量を予測してもよい。
・電流を予測するために用いるモデルとしては、鉄損を無視したモデルに限らず、これを考慮したモデルであってもよい。
・電流の予測としては、モデルを用いるものに限らず、入力パラメータについての離散的な値に対応した出力パラメータの値が記憶された記憶手段(マップ)を用いるものであってもよい。
・上記各実施形態では、可能な操作状態(電圧ベクトルV0〜V7)の全てを仮設定の対象として、これら全てについて制御量を予測したがこれに限らない。例えばゼロベクトルについては、V0,V7のいずれか一方に限って予測対象としてもよい。また例えば、同時にスイッチング状態が切り替えられるモータジェネレータ10の端子数を低減すべく、現在の操作状態からのスイッチング状態の切替端子数が規定値(≦2)以下の操作状態のみを仮設定の対象としてもよい。
<制御量について>
・指令値と予測値とに基づきインバータIVの操作を決定するために用いる制御量としては、トルクおよび磁束と、電流とのいずれかに限らない。例えば、トルクのみまたは磁束のみであってもよい。また例えば、トルクおよび電流であってもよい。ここで、制御量を電流以外とする場合等において、センサによる直接の検出対象を電流以外としてもよい。
・上記各実施形態では、回転機の究極の制御量(予測対象であるか否かにかかわらず、最終的に所望の量とされることが要求される制御量)を、トルクとしたが、これに限らず、例えば回転速度等としてもよい。
<電力変換回路について>
互いに相違する値を有する電圧を印加する複数の電圧印加手段と回転機の各端子との間を選択的に開閉するスイッチング素子を備える電力変換回路としては、インバータIVに限らない。例えば、3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加する電圧印加手段と回転機の各端子とを選択的に開閉するスイッチング素子を備えるものであってもよい。この場合であっても、各端子に印加される電圧の最大値が共通であるなら、上記と同様に過変調領域を定義することができる。ただし、高調波成分を減衰させる処理は、上記端子電圧の最大値に基づき定義される過変調領域において行なうものに限らない。例えば、端子に印加される電圧の中間値を上回る電圧の印加を利用しない制御を行って且つ、この際の過変調領域をこの中間値に基づき定義し、この領域において高調波成分を減衰させる処理を行ってもよい。
なお、回転機の各端子に3つ以上の互いに相違する値の電圧を印加するための電力変換回路としては、例えば特開2006−174697号公報に例示されているものがある。
<その他>
・回転機としては、埋め込み磁石同期機に限らず、表面磁石同期機や、界磁巻線型同期機等、任意の同期機であってよい。更に、同期機にも限らず、誘導モータ等、誘導回転機であってもよい。
・回転機としては、ハイブリッド車に搭載されるものに限らず、電気自動車に搭載されるものであってもよい。また、回転機としては車両の主機として用いられるものに限らない。
・直流電源としては、高電圧バッテリ12に限らず、例えば高電圧バッテリ12の電圧を昇圧するコンバータの出力端子であってもよい。
10…モータジェネレータ、12…高電圧バッテリ(直流電源の一実施形態)、14…制御装置(回転機の制御装置の一実施形態)。

Claims (9)

  1. 互いに相違する値を有する電圧を印加する複数の電圧印加手段と回転機の端子とを選択的に開閉するスイッチング素子を備える電力変換回路を操作することで前記回転機の制御量を制御する回転機の制御装置において、
    前記電力変換回路の操作状態を複数通りに設定した場合のそれぞれについての前記回転機の制御量を予測する予測手段と、
    前記予測された制御量と該制御量の指令値とを入力パラメータとする評価関数の評価結果に基づき、前記電力変換回路の実際の操作状態を決定し、該決定された操作状態となるように前記電力変換回路を操作する操作手段と、
    前記評価関数の入力パラメータとしての前記予測された制御量を取り込み、該予測された制御量に含まれる高調波成分を減衰させて前記評価関数に入力する減衰手段とを備えることを特徴とする回転機の制御装置。
  2. 前記予測手段は、前記電力変換回路の操作状態を複数通りに設定した場合のそれぞれについての前記回転機の制御量を都度予測し、
    前記操作手段は、前記制御量に含まれる高調波成分であって、前記回転機の電気角周波数の6倍の周波数を有する高調波成分の周期よりも短い周期である予測間隔に渡って前記予測手段によって都度予測された制御量と、該制御量の指令値とを入力パラメータとする前記評価関数の評価結果に基づき、前記電力変換回路の実際の操作状態を決定することを特徴とする請求項1記載の回転機の制御装置。
  3. 前記減衰手段は、前記予測された制御量の基本波成分を選択的に透過させつつ前記高調波成分を減衰させる機能と、該減衰させる機能に起因した前記基本波成分の位相の遅れを補償する機能とを有することを特徴とする請求項1又は2記載の回転機の制御装置。
  4. 前記減衰手段は、位相遅れ補償器を備えて構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
  5. 前記減衰手段は、前記評価関数の入力パラメータとしての前記予測された制御量を入力とするローパスフィルタと、該予測された制御量についての前記ローパスフィルタによる処理のなされたものとなされないものとの加重平均処理を行なう手段とを備えて構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
  6. 前記回転機の状態量が急変する過渡状態を判断する過渡状態判断手段と、
    前記過渡状態判断手段によって前記過渡状態であると判断される場合、前記減衰手段による前記高調波成分を減衰させる処理を制限する制限手段とを更に備えることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
  7. 前記電力変換回路は、回転機の端子に直流電源の正極および負極のそれぞれを電気的に接続するスイッチング素子を備え、
    前記減衰手段は、前記電力変換回路の出力線間電圧の基本波振幅が前記電力変換回路の入力電圧を規定値以上上回ることを条件に前記高調波成分を減衰させる処理を行うことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
  8. 前記減衰手段によって高調波成分が減衰される制御量は、前記回転機を流れる電流、前記回転機の磁束および前記回転機のトルクの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
  9. 前記電力変換回路は、回転機の端子に直流電源の正極および負極のそれぞれを電気的に接続するスイッチング素子を備えることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の回転機の制御装置。
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