以下、本発明に係る種々の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
光ディスク装置の基本構成.
図1は、本発明に係る実施の形態1〜20の光ディスク装置1の基本構成を概略的に示す図である。図1に示されるように、光ディスク装置1は、スピンドルモータ2、光ヘッド装置3、スレッド機構4、マトリクス回路5、信号再生回路6、レーザ制御回路7、サーボ回路8、収差補正機構制御回路9、スレッド制御回路10、スピンドル制御回路11及びコントローラ12を備えている。コントローラ12は、ホスト機器(図示せず)からのコマンドに応じて、信号再生回路6、レーザ制御回路7、サーボ回路8、収差補正機構制御回路9、スレッド制御回路10及びスピンドル制御回路11の各動作を制御する。
光ディスクODは、スピンドルモータ2の駆動軸(スピンドル)に固定されたターンテーブル(図示せず)に着脱自在に装着されている。スピンドルモータ2は、スピンドル制御回路11の制御を受けて情報記録時または情報再生時に光ディスクODを回転駆動する。スピンドル制御回路11は、コントローラ12からの指令に従い、スピンドルモータ2から供給された実回転数を表すパルス信号に基づいて実回転数を目標回転数に一致させるようにスピンドルサーボを実行する機能を有する。光ディスクODは、単一の情報記録層を有する単層ディスク、あるいは、複数の情報記録層を有する多層ディスクであり、たとえば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)及びBD(Blu−ray Disc)といった現世代の光ディスク、あるいは、次世代の光ディスクである。
光ヘッド装置3は、光ディスクODの情報記録層への情報の記録あるいはこの情報記録層からの情報の読み出しを行う機能を有する。スレッド機構4は、スレッド制御回路10による制御を受けて動作し、光ヘッド装置3を光ディスクODのラジアル方向(光ディスクODの半径方向)に移動させて、光ヘッド装置3が光ディスクODの所望の情報トラックに光スポットを形成することを可能にする。この光ヘッド装置3の構成は、後述する光ヘッド装置3A,3B,3C,3D,3E,3F,3Gのいずれかの構成と同じである。
マトリクス回路5は、光ヘッド装置3から供給された電気信号にマトリクス演算処理を施して、情報の記録または再生に必要な各種信号、たとえば、光ディスクODにおける記録情報の検出結果を示す再生RF信号や、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号などのサーボ制御用の信号を生成する。再生RF信号は信号再生回路6に出力される。信号再生回路6は、再生RF信号に2値化処理を施して変調信号を生成し、この変調信号から再生クロックを抽出するとともに、変調信号に復調処理や誤り訂正やデコード処理を施して情報再生信号を生成する。情報再生信号は、コントローラ12によって、映像音響機器やパーソナルコンピュータなどのホスト機器(図示せず)に転送される。
サーボ回路8は、コントローラ12からの指令に基づいて動作し、マトリクス回路5から供給されたフォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号に基づいてフォーカス補正用及びトラッキング補正用の駆動信号を生成し、これら駆動信号を、光ヘッド装置3内のアクチュエータに供給する。
そして、収差補正機構制御回路9は、コントローラ12に入力された情報再生信号の品質に基づいて、光ヘッド装置3内に設けられた収差補正機構の動作を制御する。
実施の形態1.
図2は、本発明に係る実施の形態1の光ヘッド装置3Aの主な構成を概略的に示す斜視図である。図2に示されるように光ヘッド装置3Aは、レーザ光源である半導体レーザ13、ビームスプリッタ14、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、ホログラム光学素子21及び光検出器22を有する。半導体レーザ13は、図1のレーザ制御回路7による制御を受けて動作し、レーザ制御回路7は、コントローラ12からの指令に基づいて半導体レーザ13から出射されるレーザ光の光強度を制御する。半導体レーザ13から出射されたレーザ光は、ビームスプリッタ14で反射してコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。対物レンズ18は、ビームスプリッタ14から入射した光ビームを光ディスクODの情報記録層に集光してこの情報記録層に光スポットを形成する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15及びビームスプリッタ14を順に通過してホログラム光学素子21に入射する。回折光学素子であるホログラム光学素子21は、入射光を透過回折させて複数の透過回折光ビームに分割し、これら透過回折光ビームをそれぞれ光検出器22の受光部23,24,25に向けて出射する。図2に示されるように、光検出器22の受光部23,24,25は、ラジアル方向(X軸方向)に対応するX1軸方向に沿って配列されている。これら受光部23,24,25の各々は複数の受光面を有しており、各受光面は、ホログラム光学素子21から入射した透過回折光ビームを光電変換して電気信号を生成し、これをマトリクス回路5に出力する。なお、図2では、光ディスクODのラジアル方向であるX軸方向と、このラジアル方向に対応するX1軸方向とが互いにほぼ直交するように示されている。これは、ビームスプリッタ14が非点収差を付与する機能を有するためである。
図1のサーボ回路8は、コントローラ12からの指令に基づいて動作し、マトリクス回路5から供給されたフォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号に基づいてフォーカス補正用及びトラッキング補正用の駆動信号を生成し、これら駆動信号をアクチュエータ17に供給する。アクチュエータ17は、図2に概略的に示されるように、磁気回路20A,20Bと、これら磁気回路20A,20Bの間に配置される可動部19とを有する。可動部19は、対物レンズ18を固定するレンズホルダ(図示せず)と、このレンズホルダの突起部に巻回されたフォーカスコイル及びトラッキングコイル(共に図示せず)とを有する。フォーカスコイルは、対物レンズ18の中心軸周りに巻回されており、トラッキングコイルは、光軸LAと光ディスクODのX軸方向とに直交する軸の周りに巻回されている。フォーカスコイルに駆動電流(駆動信号)を供給することにより対物レンズ18をフォーカス方向に駆動することができ、トラッキングコイルに駆動電流(駆動信号)を供給することにより対物レンズ18をX軸方向に駆動することができる。以上に説明したように、レーザ制御回路7、光ヘッド装置3A、マトリクス回路5及びサーボ回路8によりフォーカスサーボループ及びトラッキングサーボループが形成される。
図1の収差補正機構制御回路9は、コントローラ12に入力された情報再生信号の品質に基づいて、光ヘッド装置3A内に設けられた収差補正機構16Aの動作を制御する。コリメータレンズ15は、球面収差などの光学収差を補正する光学部品であり、収差補正機構制御回路9は、このコリメータレンズ15を保持するレンズホルダ16Bを光軸LAに沿った方向D1に変位させることで光学収差を適正且つ高精度に補正することができる。
図3は、ホログラム光学素子21の光入射面の構成を概略的に示す平面図である。ホログラム光学素子21は、主回折領域210と、一対の副回折領域211A,211Bと、一対の周辺回折領域212A,212Bという3種類の回折領域を有している。これら3種類の回折領域においては、個別に回折パターン(たとえば、回折溝の形状や回折溝間隔)を形成することができる。副回折領域211A,211Bは、内側の主回折領域210よりも、光ディスクODのタンジェンシャル方向(Y軸方向)に対応するY2軸方向の外側に配置されている。周辺回折領域212A,212Bは、これら副回折領域211A,211BよりもY2軸方向の外側に配置されている。副回折領域211A,211Bは、Y2軸方向に直交するX2軸方向(ラジアル方向に対応する方向)の中心線21cに関して互いに対称な形状を有しており、周辺回折領域212A,212Bも中心線21cに関して互いに対称な形状を有する。また、主回折領域210と副回折領域211Aとは、X2軸方向に平行な境界線21eaで互いに分離されており、主回折領域210と副回折領域211Bとは、X2軸方向に平行な境界線21ebで互いに分離されている。また、周辺回折領域212Aと副回折領域211Aとは、X2軸方向に平行な境界線21daで互いに分離されており、周辺回折領域212Bと副回折領域211Bとは、X2軸方向に平行な境界線21dbで互いに分離されている。
光ディスクODからの戻り光ビームは、光ディスクODの情報記録層のラジアル方向すなわちX軸方向の構造(主に情報トラックの構造)に起因する回折光ビーム(以下「反射回折光ビーム」と呼ぶ。)を含む。ホログラム光学素子21の光入射面には戻り光ビームの光スポットが照射される。図3に示されるように、この光スポットは、実線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される+1次光成分RP1とが重なり合う光成分ORpと、実線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される−1次光成分RN1とが重なり合う光成分ORnと、0次光成分R0のうち±1次光成分RP1,RN1との重なりが無い光成分ORaとからなる。主回折領域210は、0次光成分R0の一部(0次光成分R0の光スポットの中央部分)と光成分ORp,ORnとが入射する位置に形成されている。副回折領域211A,211Bは、0次光成分R0の残部が入射するが、光成分ORp,ORnが入射しない位置に形成されている。そして、周辺回折領域212A,212Bは、0次光成分R0及び±1次光成分RP1,RN1のいずれも入射しない位置に形成されている。
主回折領域210のY2軸方向の幅は、図3に示されるように、0次光成分R0のY2軸方向における光スポット径よりも狭く、且つ、光成分ORp,ORnのY2軸方向における幅以上となるように設計されている。本実施の形態では、戻り光ビームを効率的に利用するために、境界線21da,21dbは、0次光成分R0のY2軸方向外縁部とほぼ接する位置に設けられている。また、0次回折光R0のうち+1次回折光RP1及び−1次回折光RN1のいずれとも重なり合わない光成分ORaが副回折領域211A,211Bに占める面積が最大となるように、境界線21ea,21ebは、光成分ORp,ORnのY2軸方向外縁部と接する位置に設けられている。したがって、主回折領域210は、光成分ORp,ORnのY2軸方向の幅とほぼ同じ幅を持つ矩形状を有しており、副回折領域211A,211Bの各々は、0次光成分R0の外縁と光成分ORp,ORnの外縁とのY2軸方向における間隔と同じ幅を持つ矩形状を有する。なお、戻り光ビームの効率的な利用の観点からは、境界線21ea,21ebが光成分ORp,ORnの外縁部と接する位置に設けられることが好ましいが、これに限定されるものではない。
図4(a)及び(b)は、光軸LAに沿って配列されたホログラム光学素子21及び光検出器22の斜視図である。図4(a),(b)では、ラジアル方向に対応するX2軸方向とX1軸方向とが互いにほぼ直交するように示されている。これは、ホログラム光学素子21と光検出器22との間に介在するビームスプリッタ14が戻り光ビームに非点収差を付与する機能を有するためである。
図4(b)に示されるように光検出器22は、光軸LAに直交する受光面23A〜23Dを有する主受光部23と、この主受光部23の両側に配置された第1副受光部24及び第2副受光部25とを含む。主受光部23は、X1軸方向とY1軸方向とに沿ってマトリクス状に配列された複数の受光面23A,23B,23C,23Dを含む。受光面23A,23Bの組と受光面23C,23Dの組とは、X1軸方向に沿って配列されており、さらに、受光面23A,23BはY1軸方向に沿って配列され、受光面23C,23DはY1軸方向に沿って配列されている。第1副受光部24は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面24E,24Fを有し、第2副受光部25は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面25G,25Hを有する。
主回折領域210は、戻り光ビームに対して主に0次及び±1次の回折効率を有し、副回折領域211A,211Bも、戻り光ビームに対して主に0次及び±1次の回折効率を有している。主回折領域210及び副回折領域211A,211Bから出射された光ビーム(以下「透過回折光ビーム」と呼ぶ。)のうち0次光成分DR0は、主受光部23の受光面23A〜23Dに照射されて光スポットを形成する。この光スポットは、光ディスクODのラジアル方向の構造に起因する反射回折光ビームの0次光成分及び±1次光成分を含むものである。主回折領域210から出射された透過回折光ビームの+1次光成分DRpと−1次光成分DRnとは、図4(b)に示されるように、主受光部23よりもY1軸方向の外側の領域に照射される。光検出器22はこれら±1次光成分DRp,DRnを受光しない。また、副回折領域211A,211Bから出射された透過回折光ビームのうち+1次光成分DRpa,DRpbは、第1副受光部24の受光面24E,24Fに照射され、−1次光成分DRna,DRnbは、第2副受光部25の受光面25G,25Hに照射される。
8つの受光面23A〜23D,24E,24F,25G,25Hのパターンは、トラッキングエラー信号を生成するための一般的な差動プッシュプル方式に使用される受光面パターンと同じである。主受光部23の受光面23A,23B,23C,23Dは、0次光成分DR0を光電変換してそれぞれ検出信号SA,SB,SC,SDを出力するものとし、第1副受光部24の受光面24E,24Fは、+1次光成分DRpa,DRpbを光電変換してそれぞれ検出信号SE,SFを出力するものとし、第2副受光部25の受光面25G,25Hは、−1次光成分DRna,DRnbを光電変換してそれぞれ検出信号SG,SHを出力するものとする。このとき、マトリクス回路5は、非点収差法に従って、以下の演算式(1)により得られる信号レベルを持つフォーカスエラー信号FESを生成する。
FES=(SA+SC)−(SB+SD) ・・・(1)
また、マトリクス回路5は、次式(2)により得られる信号レベルを持つ再生RF信号を生成する。
RF=SA+SB+SC+SD ・・・(2)
また、マトリクス回路5は、次の演算式(3)により得られる信号レベルを持つトラッキングエラー信号TESを生成する。
TES=MPP−k×SPP ・・・(3)
ここで、kは、ゲイン係数である。MPPは主プッシュプル信号を表し、SPPは副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPは次式(3a),(3b)により与えられる。
MPP=(SA+SB)−(SC+SD) ・・・(3a)
SPP=(SE−SF)+(SG−SH) ・・・(3b)
主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、対物レンズシフトに関して互いに同じ位相を有しており、対物レンズシフトに起因するオフセット成分は信号成分k×SPPとして得られる。このため、ゲイン係数kを適宜調整して副プッシュプル信号SPPを増幅することで、対物レンズシフトに起因するオフセット成分がキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを得ることができる。
図5(a),(b),(c)は、対物レンズシフト(光検出器22に対する対物レンズ18のラジアル方向の変位)と光検出器22における照射光スポットの位置との関係を概略的に示す図である。図5(b)は、対物レンズ18の中心軸が光軸LA上にある場合に光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置(基準位置)を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは主受光部23のX1軸方向及びY1軸方向における中心位置にあり、+1次光成分DRpa,DRpbは第1副受光部24のX1軸方向における中心位置にあり、−1次光成分DRna,DRnbは第2副受光部25のX1軸方向における中心位置にある。図5(a)は、対物レンズ18が光ディスクODの内周側に変位した場合に光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは受光面23C,23Dの側に変位し、+1次光成分DRpa,DRpbは受光面24Fの側に変位し、−1次光成分DRna,DRnbは受光面25Hの側に変位する。図5(c)は、対物レンズ18が光ディスクODの外周側に変位した場合に光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは受光面23A,23Bの側に変位し、+1次光成分DRpa,DRpbは受光面24Eの側に変位し、−1次光成分DRna,DRnbは受光面25Gの側に変位する。
図6(a),(b),(c)は、対物レンズシフトとトラッキングエラー信号TESの信号成分MPP,SPPとの関係を概略的に示す図である。図6(a)〜(c)においては、光ヘッド装置3Aがラジアル方向に一定速度で移動したときに検出される主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPの波形が示されている。なお、これら主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPは、フォーカス制御が行われているが、トラッキング制御が行われていない状態の信号である。図6(a),(b),(c)は、それぞれ、図5(a),(b),(c)に対応する。対物レンズ18が光軸LA上にあってラジアル方向に変位していない場合には、図6(b)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分(直流成分)はGNDレベルに一致し、副プッシュプル信号SPPのDC成分もGNDレベルに一致する。また、副プッシュプル信号SPPの波形は直流的な波形となる。その理由は、副プッシュプル信号SPPに寄与する透過回折光ビームの+1次光成分DRpa,DRpbと−1次光成分DRna,DRnbとが図3の光成分ORp,ORn(光ディスクODからの反射回折光ビームの0次光R0と±1次光RP1,RN1とが重なり合う光成分)を含まないためである。対物レンズ18が内周方向に変位した場合には、図6(a)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分は負側にオフセットした波形となり、副プッシュプル信号SPPの直流的波形も負側にオフセットした波形となる。一方、対物レンズ18が外周方向に変位した場合には、図6(c)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分は正側にオフセットした波形となり、副プッシュプル信号SPPの直流的波形も正側にオフセットした波形となる。したがって、主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、対物レンズシフトに関して互いに同じ位相を有しており、副プッシュプル信号SPPのオフセット量は、対物レンズ18の変位量に対応する値を有することが分かる。このため、副プッシュプル信号SPPの値をk倍して得られる値を、主プッシュプル信号MPPの値から差し引くことによって、対物レンズシフトに起因したオフセット成分がキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを生成することができる。
副プッシュプル信号SPPの信号成分SE−SFは、対物レンズシフトに関して主プッシュプル信号MPPと同じ位相を有し、信号成分SG−SHも、対物レンズシフトに関して主プッシュプル信号MPPと同じ位相を有する。よって、上式(3)に代えて、以下の式(4a)または(4b)で与えられるトラッキングエラー信号TESを使用してもよい。
TES=MPP−k×(SE−SF) ・・・(4a)
TES=MPP−k×(SG−SH) ・・・(4b)
上式(4a)を使用する場合は、光検出器22は、第2副受光部25を有している必要がなく、上式(4b)を使用する場合には、光検出器22は、第1副受光部24を有している必要がない。したがって、これらの場合、光ヘッド装置3Aの構成を単純化することができるという利点がある。ただし、オフセットをキャンセルする精度を向上させる観点からは、上式(4a)または(4b)よりも、上式(3)を使用することが望ましい。
副プッシュプル信号SPPは、ホログラム光学素子21の副回折領域211A,211Bにおいて回折された±1次光によって生成されているので、副回折領域211A,211Bで規定される±1次回折効率が信号強度に影響を与える。たとえば、副プッシュプル信号SPPの強度が小さいと、ノイズ成分の比率が大きくなり、副プッシュプル信号SPPをk倍して増幅する際にノイズ成分が大きく増幅されてしまう。ノイズ成分の増幅を抑制する観点からは、副プッシュプル信号SPPの強度を大きくするために、副回折領域211A,211Bの±1次回折効率を大きい値に設定することが望ましい。
次に、光ディスクODの情報記録層に記録されている情報の信号長と情報再生信号との関係について説明する。一般に、情報が記録されている光ディスクODには、記録マークの領域とスペースの領域とが情報トラックに沿って形成されている。光ディスクODの規格では、記録マークやスペースの長さに相当する信号長nT(nは正整数;Tは再生クロック周期などの単位時間)が定められている。たとえば、ブルーレイディスクの規格で定められている信号長は、2T,3T,4T,5T,6T,7T,8Tの7種類である。光ディスクODの情報記録層に照射された光ビームは、タンジェンシャル方向(Y軸方向)に沿って形成された記録マークやスペースで反射する際に回折されるので、光ディスクODからの戻り光ビームは、情報記録層のタンジェンシャル方向の構造に起因する回折光を含み得ることとなる。
図7(a),(b)は、光ディスクODの信号長に起因する回折光がホログラム光学素子21に照射された状態を概略的に示す平面図である。図7(a)は、ブルーレイディスクの規格による2Tの信号長に対応する回折光の光スポットを示し、図7(b)は、光ディスクODに記録されている比較的長い信号長に対応する回折光の光スポットを示す。図7(a),(b)に示されるように、これら光スポットは、主回折領域210及び副回折領域211A,211Bに照射されており、実線の円で示される0次光成分T0と、この0次光成分T0とY2軸方向において重なる+1次光成分TP1の一部と、0次光成分T0とY2軸方向において重なる−1次光成分TN1の一部とを含む。0次光成分T0と±1次光成分TP1,TN1とが重なり合う光成分OTa,OTbの照射面積は、信号長に依存する。信号長が短い場合、図7(a)に示されるように光成分OTa,OTbの照射面積は小さく、光成分OTa,OTbの大きさは、それぞれ、副回折領域211A,211Bにほぼ収まる大きさとなる。一方、比較的長い信号長の場合は、図7(b)に示されるように、0次光成分T0と±1次光成分TP1,TN1とが重なり合う光成分OTa,OTbの照射面積は大きく、光成分OTaは、主回折領域210及び副回折領域211Aのいずれにも照射され、光成分OTbは、主回折領域210及び副回折領域211Bのいずれにも照射される。なお、光ディスクODに情報が記録されていない場合には、±1次光成分TP1,TN1は発生せず、0次光成分T0は、図3に示した0次光成分R0と一致する。
再生RF信号(=SA+SB+SC+SD)は、主受光部23に照射された回折光の強度に応じた値を持つ。再生RF信号の振幅の大きさは、当該信号長に対応する光成分OTa,OTbの照射面積に依存することとなる。よって、再生RF信号の強度は、主にホログラム光学素子21の主回折領域210の0次回折効率と副回折領域211A,211Bの0次回折効率とに依存する。再生RF信号の強度を大きくするためには、ホログラム光学素子21の主回折領域210の0次回折効率と副回折領域211A,211Bの0次回折効率とをそれぞれ大きな値にするように、主回折領域210と副回折領域211A,211Bとを形成すればよい。ここで、信号長が短い場合には、副回折領域211A,211Bの0次回折効率が支配的に作用し、信号長が長い場合には、主回折領域210の0次回折効率と副回折領域211A,211Bの0次回折効率の影響を受ける。一般に、短い信号長に対応する再生RF信号の強度は小さいために、信号検出において検出誤りを起こしやすい。この検出誤りを回避するためには、副回折領域211A,211Bの0次回折効率を主回折領域210の0次回折効率以上にすること(以下「要件A」と呼ぶ。)により、短い信号長に対応する再生RF信号の強度を大きくすることが好ましい。主回折領域210の0次回折効率をηxとし、副回折領域211A,211Bの0次回折効率をηyとするとき、要件Aを満たすηx,ηyの範囲は、以下の不等式が成立する範囲であるということができる。
ηx≦ηy
図8(a),(b)は、信号長に対する再生RF信号の強度特性の例を概略的に示す図である。図8(a),(b)のグラフは、ブルーレイディスクの規格に基づいた数値シミュレーションにより得られたものである。図8(a)は、主回折領域210の0次回折効率ηxが副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyと等しい場合、あるいは、ホログラム光学素子21を使用しない場合において得られる信号特性である。図8(a)に示されるように、信号長が長くなるにつれて信号強度は大きくなる。一方、図8(b)は、副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyが主回折領域210の0次回折効率ηxより大きい場合(ηx<ηy)の強度特性を概略的に示す図である。図8(b)のグラフは、短い信号長の2Tに対応する信号強度が強調されている点で好ましい。しかしながら、信号長が5T以下では、信号強度が単調に増加するのに対し、信号長が5Tを超えると信号強度が単調に減少しており、6Tでの信号強度が5Tでの信号強度よりも小さい。このように、信号長の増加に伴う信号強度の変化が単調増加から単調減少に転じる現象(信号強度の逆転)が生じる。信号再生回路6は、マトリクス回路5から供給された再生RF信号を2値化して信号長に対応したパルス幅を持つ2値化信号を生成する。信号強度の逆転が発生すると、信号長に対応したパルス幅を得ることができない場合がある。このため、信号強度の逆転が発生しないこと(以下「要件B」と呼ぶ。)が好ましい。
上述したように、トラッキングエラー信号における副プッシュプル信号SPP(=(SE−SF)+(SG−SH))の信号強度を大きくするためには、副回折領域211A,211Bの±1次回折効率を大きく設定すればよいが、これら±1次回折効率が大きすぎると、副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyが小さくなり、主受光部23により検出される光量が低下する。これにより、短い信号長に対応する再生RF信号の信号強度を強調させるための要件Bが成立しないことがある。数値シミュレーションによれば、要件Bを満たすための0次回折効率ηx,ηyの範囲を、以下の不等式が成立する範囲とすることが望ましい。
ηy≦2×ηx
図9(a),(b),(c)は、副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyと主回折領域210の0次回折効率ηxを変数にした場合に、再生RF信号の信号強度特性の観点から0次回折効率ηx,ηyの好ましい範囲を示す分布図である。図9(a),(b),(c)に示されているグラフにおいて、横軸は、主回折領域210の0次回折効率ηxを示し、縦軸は、副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyを示している。横軸及び縦軸における「0」の値は、透過回折光の0次光成分が全く発生しない状態を示し、「1」の値は、透過回折光の0次以外の次数の光が全く発生しない状態を示すものと定義する。図9(a)は、要件Aを満たす0次回折効率ηx,ηyの範囲(ηx≦ηy)をハッチ部分で示す分布図であり、図9(b)は、要件Bを満たす0次回折効率ηx,ηyの範囲(ηy≦2×ηx)をハッチ部分で示す分布図である。情報RF信号の信号強度特性の観点から好ましい範囲は、要件A及び要件Bを満たす0次回折効率ηx,ηyの範囲(ηx≦ηy、且つ、ηy≦2×ηx)である。図9(c)に、要件Aと要件Bとを共に満たす0次回折効率ηx,ηyの範囲をハッチ部分で示す。
以上に説明したように、実施の形態1のホログラム光学素子21は、図4に示したように、反射回折光ビームの0次光成分ORaの一部と光成分ORp,ORnとが入射する主回折領域210と、反射回折光ビームの光成分ORp,ORnが入射せず、0次光成分ORaの残部が入射する副回折領域211A,211Bとを有している。光検出器22は、主回折領域210及び副回折領域211A,211Bを透過した透過回折光ビームの0次光成分DR0を受光する主受光部23と、副回折領域211A,211Bを透過した透過回折光ビームの+1次光成分DRpa,DRpb及び−1次光成分DRna,DRnbを受光する副受光部24,25とを有している。したがって、簡単な構成の受光面パターンを持つ光検出器22を使用して、対物レンズシフトに起因するオフセットがキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを生成することができる。
また、副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyを主回折領域210の0次回折効率ηx以上の値に設定することにより、短い信号長に対応する再生RF信号の信号強度を大きくすることができる。このため、実施の形態1の光ヘッド装置3Aの使用により、信号検出の性能を向上させることができる。さらに、副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyを主回折領域210の0次回折効率ηxの2倍以下の値に設定することにより、信号長と信号強度との関係の逆転を回避して、信号検出の性能をさらに向上させることができる。
実施の形態2.
次に、本発明に係る実施の形態2について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、上記ホログラム光学素子21の副回折領域211A,211Bの0次回折効率ηyと主回折領域210の0次回折効率ηxとの関係を除いて、上記実施の形態1の光ヘッド装置3Aの構成と同じである。図10は、実施の形態2の光ヘッド装置において、0次回折効率ηy,ηxの好適な範囲をハッチ部分で示す分布図である。この範囲は、ηx≧0.5、ηx≦ηy、且つ、ηy≦2×ηxを満たす範囲である。なお、この範囲は、ηx≧0.5、ηx≦ηy、且つ、ηy≦1.0を満たす範囲と実質的に同じである。
実施の形態1においては、図9(c)で示したように、要件Aと要件Bを同時に満たす0次回折効率ηx,ηyの範囲は、ηx≦ηy、且つ、ηy≦2×ηx、という2つの不等式を満たす範囲である。0次回折効率ηxが0の近傍ということは、透過回折光の多くが0次以外の回折光からなることを意味する。たとえば、主回折領域210の0次回折効率ηxが0の近傍であると、光検出器22に入射しない1次光成分DRp,DRn(図4(b))の強度が大きくなり、光検出器22に入射する0次光成分DR0の強度が小さくなることを意味する。そこで、実施の形態2においては、信号検出の安定性を確保するために、0次回折効率ηxの最小値を0.5としている。
以上に説明したように、実施の形態2によれば、ホログラム光学素子21の0次回折効率ηxを0.5以上の値とするので、光検出器22に入射する光ビームの強度を高めることができる。このため、実施の形態2の光ヘッド装置の使用により、信号検出の性能を安定化することができる。
実施の形態3.
次に、本発明に係る実施の形態3について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、ホログラム光学素子を除いて、上記実施の形態1の光ヘッド装置3Aの構成と同じである。図11(a)は、実施の形態1のホログラム光学素子21を含む光ヘッド装置3Aの構成の一部を概略的に示す図であり、図11(b)は、実施の形態3のホログラム光学素子21Mを含む光ヘッド装置3Bの構成の一部を概略的に示す図である。図11(a),(b)に示す光ディスクODは、複数の情報記録層L0,L1,L2,L3が積層された構造を有する多層ディスクである。
図11(a),(b)には、光ディスクODで反射した2種類の戻り光ビームRL,SLの伝搬経路が示されている。戻り光ビームRLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1から対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過してホログラム光学素子21に入射する。多層ディスクでは、情報記録層L0〜L3について個別に球面収差が発生する。光ヘッド装置3Aに設けられた収差補正機構16Aは、光軸LAに沿ってコリメータレンズ15を変位させることで情報記録層毎に球面収差を適正に補正することができる。戻り光ビームRLは、主回折領域210及び副回折領域211A,211Bで透過回折されて3本の透過回折光ビームに分割される。これら3本の透過回折光ビームは、それぞれ、主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25に入射する。
一方、戻り光ビームSLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1以外の情報記録層(たとえば、情報記録層L3)で反射した迷光である。図11(a)に示すように、このような迷光SLは、対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過して、ホログラム光学素子21の周辺回折領域212A,212Bに入射する。周辺回折領域212A,212Bの0次回折効率がゼロでなければ、迷光SLの一部は、図11(a)に示すように周辺回折領域212A,212Bを直進して、光検出器22の主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25のいずれかに入射する可能性がある。これは、本来必要な信号成分以外の不要な信号成分が検出されるので好ましくない。なお、図11(a)では、情報記録層L3で反射した迷光SLを例に挙げたが、他の情報記録層L1,L2からの反射光について同様である。さらに、ホログラム光学素子21の周辺回折領域212A,212Bの0次回折効率がゼロであったとしても、0次以外の次数の回折効率とその回折方向によっては光検出器22の主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25のいずれかに迷光が入射する可能性がある。
本実施の形態のホログラム光学素子21Mは、上記ホログラム光学素子21と同じ構造の主回折領域210と副回折領域211A,211Bを有している。ホログラム光学素子21Mは、さらに、上記ホログラム光学素子21の周辺回折領域212A,212Bに代えて、入射光を光検出器22の方向以外の方向に回折させる回折構造を有する周辺回折領域212Am,212Bmを有している。このような周辺回折領域212Am,212Bmに入射した光は回折されて、光検出器22に入射しないように伝搬する。周辺回折領域212Am,212Bmの回折次数、回折効率及び回折方向の特性を最適化することで、たとえば、迷光SLを大きな角度で回折させて光検出器22に入射させないようにすることができる。なお、周辺回折領域212Am,212Bmの回折次数、回折効率及び回折方向は、たとえば、光ディスクODの層数や光検出器22の大きさに応じて適宜設定される。
以上に説明したように、実施の形態3のホログラム光学素子21Mは、多層ディスクに起因する迷光を光検出器22に入射させないので、光検出器22は、本来必要な信号成分以外の不要な信号成分を検出せずに済む。このため、実施の形態3の光ヘッド装置の使用により、信号検出の性能を安定化することができる。
実施の形態4.
次に、本発明に係る実施の形態4について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、ホログラム光学素子を除いて、上記実施の形態1の光ヘッド装置3Aの構成と同じである。図12は、実施の形態4のホログラム光学素子21Nを含む光ヘッド装置の構成の一部を概略的に示す図である。図12に示す光ディスクODは、複数の情報記録層L0,L1,L2,L3が積層された構造を有する多層ディスクである。
図12には、光ディスクODで反射した2種類の戻り光ビームRL,SLの伝搬経路が示されている。戻り光ビームRLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1から対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過してホログラム光学素子21Nに入射する。戻り光ビームRLは、主回折領域210及び副回折領域211A,211Bで透過回折されて3本の透過回折光ビームに分割される。これら3本の透過回折光ビームは、それぞれ、主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25に入射する。
一方、戻り光ビームSLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1以外の情報記録層(たとえば、情報記録層L3)で反射した迷光である。本実施の形態のホログラム光学素子21Nは、上記ホログラム光学素子21と同じ構造の主回折領域210と副回折領域211A,211Bを有しており、さらに、周辺回折領域212A,212Bに代えて、遮光領域212Ab,212Bbを有している。これにより、たとえば、情報記録層L3で反射した迷光SLは、ホログラム光学素子21Nの遮光領域212Ab,212Bbで遮光されるので、光検出器22の主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25のいずれかに入射することを避けることができる。遮光領域212Ab,212Bbは、たとえば、周辺回折領域212A,212Bに対応する領域(回折パターンが形成されていない領域)に、不透明材料または光吸収材料を塗布したり、不透明な金属膜を蒸着したり、あるいは不透明な金属シートを貼り付けたりすることにより形成することができる。
以上に説明したように、実施の形態4のホログラム光学素子21Nは、多層ディスクに起因する迷光を光検出器22に入射させないので、光検出器22は、本来必要な信号成分以外の不要な信号成分を検出せずに済む。このため、実施の形態4の光ヘッド装置の使用により、信号検出の性能を安定化することができる。また、周辺回折領域212A,212Bを設けた場合にはこれらの領域212A,212Bで回折された光が周辺部品で反射して迷光となって光検出器22で検出される可能性があるが、遮光領域212Ab,212Bbを有するホログラム光学素子21Nは、そのような迷光の発生を完全に防止することができる。
実施の形態5.
次に、本発明に係る実施の形態5について説明する。図13は、実施の形態5の光ヘッド装置3Bの主な構成を概略的に示す斜視図である。図13に示されるように光ヘッド装置3Bは、レーザ光源である半導体レーザ13、ビームスプリッタ14、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、ホログラム光学素子21及び光検出器22を有する。半導体レーザ13は、図1のレーザ制御回路7による制御を受けて動作し、レーザ制御回路7は、コントローラ12からの指令に基づいて半導体レーザ13から出射されるレーザ光の光強度を制御する。半導体レーザ13から出射されたレーザ光は、ビームスプリッタ14で反射してコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。対物レンズ18は、ビームスプリッタ14から入射した光ビームを光ディスクODの情報記録層に集光してこの情報記録層に光スポットを形成する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15及びビームスプリッタ14を順に通過してホログラム光学素子21に入射する。回折光学素子であるホログラム光学素子21は、入射光を透過回折させて複数の透過回折光ビームに分割し、これら透過回折光ビームをそれぞれ光検出器22の受光部23、24及び25に向けて出射する。図13に示されるように、光検出器22の受光部23,24及び25は、ラジアル方向(X軸方向)に対応するX1軸方向に沿って配列されている。これら受光部23、24及び25の各々は複数の受光面を有しており、各受光面は、ホログラム光学素子21から入射した透過回折光ビームを光電変換して電気信号を生成し、これをマトリクス回路5に出力する。なお、図13では、光ディスクODのラジアル方向であるX軸方向と、このラジアル方向に対応するX1軸方向とが互いにほぼ直交するように示されている。これは、ビームスプリッタ14が非点収差を付与する機能を有するためである。
図1において、マトリクス回路5は、光ヘッド装置3Bから供給された電気信号にマトリクス演算処理を施して、情報の記録または再生に必要な各種信号、たとえば、光ディスクODにおける記録情報の検出結果を示す再生RF信号や、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号などのサーボ制御用の信号を生成する。再生RF信号は信号再生回路6に出力される。信号再生回路6は、再生RF信号に2値化処理を施して変調信号を生成し、この変調信号から再生クロックを抽出するとともに、変調信号に復調処理や誤り訂正やデコード処理を施して情報再生信号を生成する。情報再生信号は、コントローラ12によって、映像音響機器やパーソナルコンピュータなどのホスト機器(図示せず)に転送される。
サーボ回路8は、コントローラ12からの指令に基づいて動作し、マトリクス回路5から供給されたフォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号に基づいてフォーカス補正用及びトラッキング補正用の駆動信号を生成し、これら駆動信号を光ヘッド装置3Bの図13に示すアクチュエータ17に供給する。アクチュエータ17は、図13に概略的に示されるように、磁気回路20A、20B、及びこれら磁気回路20Aと20Bとの間に配置される可動部19を有する。可動部19は、対物レンズ18を固定するレンズホルダ(図示せず)と、このレンズホルダに巻回されたフォーカスコイル及びトラッキングコイル(共に図示せず)とを有する。フォーカスコイルは、対物レンズ18の中心軸周りに巻回されており、トラッキングコイルは、光軸LAと光ディスクODのX軸方向とに直交する軸の周りに巻回されている。フォーカスコイルに駆動電流(駆動信号)を供給することにより対物レンズ18をフォーカス方向に駆動することができ、トラッキングコイルに駆動電流(駆動信号)を供給することにより対物レンズ18をX軸方向に駆動することができる。以上に説明したように、レーザ制御回路7、光ヘッド装置3B、マトリクス回路5及びサーボ回路8によりフォーカスサーボループ及びトラッキングサーボループが形成される。
収差補正機構制御回路9は、コントローラ12に入力された情報再生信号の品質に基づいて、図13に示す光ヘッド装置3B内に設けられた収差補正機構16Aの動作を制御する。コリメータレンズ15は、球面収差などの光学収差を補正する光学部品であり、収差補正機構制御回路9は、このコリメータレンズ15を保持するレンズホルダ16Bを光軸LAに沿った方向D1に変位させることで光学収差を適正且つ高精度に補正することができる。なお、球面収差の補正は、上述のようなレンズの変位による方式に限定されるものではない。たとえば液晶素子を用いて、レーザ光の光学収差を打ち消すように、液晶素子の位相制御を行うような方法であってもかまわない。
収差補正機構制御回路9は、コントローラ12に入力された情報再生信号の品質に基づいて、図13に示す光ヘッド装置3B内に設けられた収差補正機構16Aの動作を制御する。コリメータレンズ15は、球面収差などの光学収差を補正する光学部品であり、収差補正機構制御回路9は、このコリメータレンズ15を保持するレンズホルダ16Bを光軸LAに沿った方向D1に変位させることで光学収差を適正且つ高精度に補正することができる。なお、球面収差の補正は、上述のようなレンズの変位による方式に限定されるものではない。たとえば液晶素子を用いて、レーザ光の光学収差を打ち消すように、液晶素子の位相制御を行うような方法であってもかまわない。
収差補正機構制御回路9は、コントローラ12に入力された情報再生信号の品質に基づいて、図13に示す光ヘッド装置3B内に設けられた収差補正機構16Aの動作を制御する。コリメータレンズ15は、球面収差などの光学収差を補正する光学部品であり、収差補正機構制御回路9は、このコリメータレンズ15を保持するレンズホルダ16Bを光軸LAに沿った方向D1に変位させることで光学収差を適正且つ高精度に補正することができる。なお、球面収差の補正は、上述のようなレンズの変位による方式に限定されるものではない。たとえば液晶素子を用いて、レーザ光の光学収差を打ち消すように、液晶素子の位相制御を行うような方法であってもかまわない。
図14は、ホログラム光学素子21の光入射面の構成を概略的に示す平面図である。ホログラム光学素子21は、主回折領域210と、一対の副回折領域211A及び211Bと、一対の周辺回折領域212A及び212Bという3種類の回折領域を有している。これら3種類の回折領域においては、個別に回折パターン(たとえば、回折格子溝の形状や回折格子溝間隔)を形成することができる。副回折領域211A及び211Bは、内側の主回折領域210よりも、光ディスクODのタンジェンシャル方向(Y軸方向)に対応するY2軸方向の外側に配置されている。周辺回折領域212A及び212Bは、これら副回折領域211A及び211BよりもY2軸方向の外側に配置されている。副回折領域211A及び211Bは、Y2軸方向に直交するX2軸方向(ラジアル方向に対応する方向)の中心線21cに関して互いに対称な形状を有しており、周辺回折領域212A及び212Bも中心線21cに関して互いに対称な形状を有する。また、主回折領域210と副回折領域211Aとは、X2軸方向に平行な境界線21eaで互いに分離されており、主回折領域210と副回折領域211Bとは、X2軸方向に平行な境界線21ebで互いに分離されている。また、周辺回折領域212Aと副回折領域211Aとは、X2軸方向に平行な境界線21daで互いに分離されており、周辺回折領域212Bと副回折領域211Bとは、X2軸方向に平行な境界線21dbで互いに分離されている。
光ディスクODからの戻り光ビームは、光ディスクODの情報記録層のラジアル方向すなわちX軸方向の構造(主に情報トラックの構造)に起因する回折光ビーム(以下「反射回折光ビーム」と呼ぶ。)を含む。ホログラム光学素子21の光入射面には戻り光ビームの光スポットが照射される。図14に示されるように、この光スポットは、実線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される+1次光成分RP1とが重なり合う光成分ORpと、実線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される−1次光成分RN1とが重なり合う光成分ORnと、0次光成分R0のうち±1次光成分RP1、RN1との重なりが無い光成分ORaとからなる。主回折領域210は、0次光成分R0の一部(0次光成分R0の光スポットの中央部分)と光成分ORp及びORnとが入射する位置に形成されている。副回折領域211A及び211Bは、0次光成分R0の残部が入射するが、光成分ORp及びORnが入射しない位置に形成されている。そして、周辺回折領域212A及び212Bは、0次光成分R0及び±1次光成分RP1,RN1のいずれも入射しない位置に形成されている。
主回折領域210のY2軸方向の幅は、図14に示されるように、0次光成分R0のY2軸方向における光スポット径よりも狭く、且つ、光成分ORp、ORnのY2軸方向における幅以上となるように設計されている。本実施の形態では、戻り光ビームを効率的に利用するために、境界線21da及び21dbは、0次光成分R0のY2軸方向外縁部とほぼ接する位置に設けられている。また、0次回折光R0のうち+1次回折光RP1及び−1次回折光RN1のいずれとも重なり合わない光成分ORaが副回折領域211A及び211Bに占める面積が最大となるように、境界線21ea及び21ebは、光成分ORp及びORnのY2軸方向外縁部と接する位置に設けられている。したがって、主回折領域210は、光成分ORp及びORnのY2軸方向の幅とほぼ同じ幅を持つ矩形状を有しており、副回折領域211A及び211Bの各々は、0次光成分R0の外縁と光成分ORp及びORnの外縁とのY2軸方向における間隔と同じ幅を持つ矩形状を有する。なお、戻り光ビームの効率的な利用の観点からは、境界線21ea及び21ebが光成分ORp及びORnの外縁部とそれぞれ接する位置に設けられることが好ましいが、これに限定されるものではない。
図15は、ホログラム光学素子21の主回折領域210と、一対の副回折領域211A及び211Bと、一対の周辺回折領域212A及び212Bの3種類の回折領域における具体的な回折パターンを示す断面図である。図15において、回折格子溝213は光軸LAと平行なZ軸に対して、垂直なX2軸あるいはY2軸の方向に繰り返し形成されている。さらに詳しく説明すると、主回折領域210の回折格子溝は、Y2軸方向に繰り返し形成されており、副回折領域211A及び211Bの回折格子溝は、X2軸方向に繰り返し形成されている。周辺回折領域212A及び212Bの回折格子溝は、X2軸方向、あるいはY2軸方向、あるいは斜めの方向に繰り返し形成されている。回折格子溝213は、所謂ブレーズ構造として知られている構造を有し、鋸歯状の断面形状を有している。すなわち、Z軸と平行な一方の格子壁213Aと、Z軸から傾斜した斜面による他方の格子壁213Bとからなる鋸歯状の回折格子溝213が形成されている。
図15に示されるようなホログラム光学素子21において、光学素子の材料の屈折率をn、回折格子溝213の周期をP、回折格子溝213の深さをDとする。また、半導体レーザ13の波長をλとする。一般的にブレーズ構造の場合、ホログラム光学素子21に入射した光ビームIBは、そのままホログラム光学素子21を透過する0次回折光ビームTB0と、0次回折光ビームTB0に対して一方の方向に傾斜した1次回折光ビームTB1が発生する。ここでは、1次回折光ビームTB1を+1次回折成分と定義することができる。入射光ビームIBの入射光強度Iに対して、0次回折光ビームTB0の回折効率η0と、+1次回折光ビームTB1の回折効率η1との配分は、ホログラム光学素子21の屈折率nと深さD、及び波長λの条件によって決定される。さらに、+1次回折光ビームTB1が0次回折光ビームTB0から傾斜する回折角θは、ホログラム光学素子21の周期Pと波長λとの条件によって決定される。通常、光ヘッド装置3Bにおいては、半導体レーザ13の波長λは特定の値に固定されており、さらにホログラム光学素子21に使用されるガラスあるいはプラスチック、またはその他の光学材料によって屈折率nが固定化されるので、回折効率η0とη1との配分、及び回折角θは、回折格子溝213の周期Pと深さDとを変数として、所望の設計値に合わせこむことができる。
図16(a)及び(b)は、光軸LAに沿って配列されたホログラム光学素子21及び光検出器22の斜視図である。図16(a)及び(b)では、ラジアル方向に対応するX2軸方向とX1軸方向とが互いにほぼ直交するように示されている。これは、ホログラム光学素子21と光検出器22との間に介在するビームスプリッタ14が戻り光ビームに非点収差を付与する機能を有するためである。
図16(b)に示されるような光検出器22は、トラッキングエラー検出方式として周知な差動プッシュプル法の検出をするものとして、一般的に用いられているものと同じである。光検出器22は、光軸LAに直交する受光面23A〜23Dを有する主受光部23と、この主受光部23の両側に配置された第1副受光部24及び第2副受光部25とを含む。主受光部23は、X1軸方向とY1軸方向とに沿ってマトリクス状に配列された複数の受光面23A、23B、23C及び23Dを含む。受光面23A及び23Bの組と受光面23C及び23Dの組とは、X1軸方向に沿って配列されており、さらに、受光面23A及び23BはY1軸方向に沿って配列され、受光面23C及び3DはY1軸方向に沿って配列されている。第1副受光部24は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面24E及び24Fを有し、第2副受光部25は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面25G及び25Hを有する。
主回折領域210は、戻り光ビームに対して主に0次及び+1次の回折効率を有し、副回折領域211A及び211Bも、戻り光ビームに対して主に0次及び+1次の回折効率を有している。以後、情報記録層が単一の光ディスクODの場合について説明する。主回折領域210及び副回折領域211A及び211Bから出射された光ビーム(以下「透過回折光ビーム」と呼ぶ。)のうち0次光成分DR0は、主受光部23の受光面23A〜23Dに照射されて光スポットを形成する。この光スポットは、光ディスクODのラジアル方向の構造に起因する反射回折光ビームの0次光成分及び±1次光成分を含むものである。一方、主回折領域210から出射された透過回折光ビームの+1次光成分DRpは、図16(b)に示されるように、主受光部23よりもY1軸方向の外側の領域に照射される。光検出器22はこの+1次光成分DRpを受光しない。また、副回折領域211A及び211Bから出射された透過回折光ビームのうち+1次光成分DRpa及びDRpbは、第1副受光部24の受光面24E及び24Fにそれぞれ照射される。第2副受光部25の受光面25G及び25Hにはいずれの透過回折光ビームも照射されない。
8つの受光面23A〜23D、24E、24F、25G及び25Hのパターンは、トラッキングエラー信号を生成する方式として一般的に周知されている差動プッシュプル方式に使用される受光面パターンと同じものである。主受光部23の受光面23A、23B、23C及び23Dは、0次光成分DR0を光電変換(光電流−電圧変換)してそれぞれ検出信号SA、SB、SC及びSDを出力するものとし、第1副受光部24の受光面24E及び24Fは、+1次光成分DRpa及びDRpbを光電変換してそれぞれ検出信号SE及びSFを出力するものとする。第2副受光部25の受光面25G及び25Hは、透過回折光ビームが照射されないので、光電変換が行われず、検出信号は出力されない。このとき、マトリクス回路5は、非点収差法に従って、次式(5)により得られる信号レベルを持つフォーカスエラー信号FESを生成する。
FES=(SA+SC)−(SB+SD) ・・・(5)
また、マトリクス回路5は、次式(6)により得られる信号レベルを持つ再生RF信号を生成する。
RF=SA+SB+SC+SD ・・・(6)
また、マトリクス回路5は、次の次式(7)により得られる信号レベルを持つトラッキングエラー信号TESを生成する。
TES=MPP−k×SPP ・・・(7)
ここで、kは、ゲイン係数である。MPPは主プッシュプル信号を表し、SPPは副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPは次式(8a)及び(8b)により与えられる。
MPP=(SA+SB)−(SC+SD) ・・・(8a)
SPP=SE−SF ・・・(8b)
主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、対物レンズシフトに関して互いに同じ位相を有しており、対物レンズシフトに起因するオフセット成分は信号成分k×SPPとして得られる。このため、ゲイン係数kを適宜調整して副プッシュプル信号SPPを増幅することで、対物レンズシフトに起因するオフセット成分がキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを得ることができる。なお、上述した演算で検出されるトラッキングエラー信号TESは、周知の差動プッシュプル方式と類似しているが一般的な差動プッシュプル方式とは異なるので留意を要する。
一般的な差動プッシュプル方式を説明すると、たとえば、特許文献1または2に記載されているように、従来の光ヘッド装置は、半導体レーザから出射した光ビームが、対物レンズに入射するまでの光路中において、回折格子を通過するように構成されている。そのため、半導体レーザから出射した光ビームは、対物レンズに入射するまでに3本の光ビームに分割され、光ディスク面上に1つの主光スポットと、この主光スポットを挟んで一対の副光スポットとに分割される。光ディスク面で反射した3つの戻り光ビームが図13で示すような光検出器22に入射するとき、主光スポットからの戻り光ビームは主受光部23に照射され、一対の副光スポットからの戻り光ビームは第1副受光部24及び第2副受光部25でそれぞれ照射される。一般的な差動プッシュプル方式では、副プッシュプル信号SPPは次式(8c)により与えられる。
SPP=(SE−SF)+(SG−SH) ・・・(8c)
上記に述べた一般的な差動プッシュプル方式に対して、本実施の形態の光ヘッド装置においては、半導体レーザと対物レンズとの間の光路中に回折格子が存在しないため、半導体レーザから出射した光ビームは分割されることなくそのまま対物レンズに入射し、光ディスク面上に1つの光スポットが形成される。光ディスク面で反射した戻り光ビームは、ホログラム光学素子21を透過することによって複数の透過回折光ビームに分割され、主受光部23及び第1副受光部24に照射される。
このように、本実施の形態では、光ディスク面に形成される光スポットは1つなので、以後、一般的な差動プッシュプル方式と区別するために、本発明の差動プッシュプル方式と呼ぶ。また、一般的な差動プッシュプル方式を、3ビーム差動プッシュプル方式と呼ぶ。
図17(a)、(b)及び(c)は、対物レンズシフト(光検出器22に対する対物レンズ18のラジアル方向の変位)と光検出器22における照射光スポットの位置との関係を概略的に示す図である。図17(b)は、対物レンズ18の中心軸が光軸LA上にある場合に光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置(基準位置)を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは主受光部23のX1軸方向及びY1軸方向における中心位置にあり、+1次光成分DRpa,DRpbは第1副受光部24のX1軸方向における中心位置にある。図17(a)は、対物レンズ18が光ディスクODの内周側に変位した場合に光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは受光面23Cまたは23Dの側に変位し、+1次光成分DRpa及びDRpbは受光面24Fの側に変位する。図17(c)は、対物レンズ18が光ディスクODの外周側に変位した場合に光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは受光面23Aまたは23Bの側に変位し、+1次光成分DRpa及びDRpbは受光面24Eの側に変位する。
図18(a)、(b)及び(c)は、対物レンズシフトとトラッキングエラー信号TESの信号成分MPP、SPPとの関係を概略的に示す図である。図18(a)〜(c)においては、光ヘッド装置3Bがラジアル方向に一定速度で移動したときに検出される主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPの波形が示されている。なお、これら主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、フォーカス制御が行われているが、トラッキング制御が行われていない状態の信号である。図18(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、図17(a)、(b)及び(c)に対応する。対物レンズ18が光軸LA上にあってラジアル方向に変位していない場合には、図18(b)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分(直流成分)はGNDレベルに一致し、副プッシュプル信号SPPのDC成分もGNDレベルに一致する。また、副プッシュプル信号SPPの波形は直流的な波形となる。その理由は、副プッシュプル信号SPPに寄与する透過回折光ビームの+1次光成分DRpa及びDRpbが、図14の光成分ORp及びORn(光ディスクODからの反射回折光ビームの0次光R0と±1次光RP1、RN1とが重なり合う光成分)を含まないためである。対物レンズ18が内周方向に変位した場合には、図18(a)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分は負側にオフセットした波形となり、副プッシュプル信号SPPの直流的波形も負側にオフセットした波形となる。一方、対物レンズ18が外周方向に変位した場合には、図18(c)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分は正側にオフセットした波形となり、副プッシュプル信号SPPの直流的波形も正側にオフセットした波形となる。したがって、主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、対物レンズシフトに関して互いに同じ位相を有しており、副プッシュプル信号SPPのオフセット量は、対物レンズ18の変位量に対応する値を有することが分かる。このため、副プッシュプル信号SPPの値をk倍して得られる値を、主プッシュプル信号MPPの値から差し引くことによって、対物レンズシフトに起因したオフセット成分がキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを生成することができる。
これまでの説明では、情報記録層が単一の光ディスクODの場合について説明してきたが、次に、複数の情報記録層が積層された構造を有する多層光ディスクの場合について説明する。図19(a)及び(b)は、ホログラム光学素子21を含む光ヘッド装置3Bの構成の一部を概略的に示す平面図である。図19に示す光ディスクODMは、複数の情報記録層L0、L1、L2及びL3が積層された構造を有する多層光ディスクである。
図19(a)には、光ディスクODMで反射した2種類の戻り光ビームRL及びOLの伝搬経路が示されている。戻り光ビームRLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1から対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過してホログラム光学素子21に入射する。戻り光ビームRLは、主回折領域210及び副回折領域211A及び211Bで透過回折されて、図16について説明したように、主受光部23及び第1副受光部24に入射する。多層光ディスクODMでは、情報記録層L0〜L3について個別に球面収差が発生する。光ヘッド装置3Bに設けられた収差補正機構16Aは、光軸LAに沿ってコリメータレンズ15を変位させることで情報記録層毎に球面収差を適正に補正することができる。
一方、戻り光ビームOLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1以外の情報記録層(たとえば、情報記録層L3)で反射した迷光のうち、対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過し、ホログラム光学素子21の2つの境界線21da及び21dbの外側、すなわち一対の周辺回折領域212A及び212Bに入射する迷光成分である。周辺回折領域212A及び212Bは、入射光が光検出器22の方向以外の方向に回折されるように、回折効率及び回折方向の特性が最適化されている。
図19(b)には、光ディスクODMで反射した2種類の戻り光ビームRL及びSLの伝搬経路が示されている。戻り光ビームRLは、図19(a)の説明と同じである。一方、戻り光ビームSLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1以外の情報記録層(たとえば、情報記録層L3)で反射した迷光のうち、対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過し、ホログラム光学素子21の2つの境界線21da及び21dbの内側に入射する迷光成分である。この迷光成分はホログラム光学素子21で0次回折迷光ビームSL0と+1次回折迷光ビーム(図示省略)に分離される。0次回折迷光ビームSL0は、光検出器22にぼやけた状態で照射される。なお、+1次回折迷光ビームも同様に光検出器22に照射されるが、0次回折迷光ビームSL0と比較して光強度が充分弱くなるので、以後の説明では省略する。
図20は、図16(b)の場合と同様の、本実施の形態の光検出器22の斜視図であり、図19(b)について説明した0次回折迷光ビームSL0を図示したものである。0次回折迷光ビームSL0は、光検出器22の3つの受光部23、24及び25にぼやけた状態で照射されるが、ぼやけの程度は、光ヘッド装置3Bの光学的設計仕様や、受光部23、24及び25の面積、多層光ディスクの情報記録層の層間隔に依存する。
これまでの説明では、光検出器22として、一般的な3ビーム差動プッシュプル方式に対応した受光面パターンを有する光検出器を用いていたが、本発明の差動プッシュプル方式では、第2副受光部25の受光面25G及び25Hにはいずれの透過回折光ビームも照射されないので、第2副受光部25を有している必要がない。したがって、主受光部23と第1副受光部24のみを有する光検出器の構成にすることで、光ヘッド装置3Bの構成を単純化することができるという利点がある。
また、一般的な3ビーム差動プッシュプル方式に対応した受光面パターンで検出される副プッシュプル信号SPPは、上記(8c)式により与えられる。第2副受光部25の受光面25G及び25Hにはいずれの透過回折光ビームも照射されないため、(8b)式を用いても(8c)式を用いても原理的には同じ信号となるはずであるが、図20についての説明で明らかなように、多層光ディスクの記録もしくは再生においては、対象となる情報記録層以外の情報記録層からの反射光が、0次回折迷光ビームSL0として光検出器22に照射されるため、受光面25G及び25Hからは0次回折迷光ビームSL0が光電変換されたノイズ信号が生成される。したがって、一般の3ビーム差動プッシュプル方式に対応した受光面パターンを用いる場合には、検出信号の品質の観点から、受光面25G及び25Hからの検出信号は演算に用いない(8b)式による検出が好ましいが、これに限定されるものではない。
さらに、第1副受光部24は2つの受光面を有するものとして示されているが、たとえば主受光部23と同様に4つの受光面を有するものあってもよいし、別のパターンの受光面を有していてもよく、X1軸方向に沿って配列された一対の受光パターンを有するものであればよい。
多層の光ディスクの記録もしくは再生においては、対象となる情報記録層以外の情報記録層からの反射光と、対象となる情報記録層からの反射光とが、光検出器22の面上で互いに干渉しあうことで、トラッキングエラー信号TESが乱されるという悪影響がある。干渉の程度は、干渉しあう2つの光ビームの強度が同程度であるほど影響が大きくなる。本実施の形態においては、対象となる情報記録層以外の情報記録層からの反射光は、ぼやけた状態で光検出器22に照射されるので、各受光部で検出される光強度は小さい。一方、対象となる情報記録層からの反射光のうち、第1副受光部24で検出される光強度は、一般的に主受光部23のそれよりも小さい。したがって第1副受光部24で検出される副プッシュプル信号SPPが受ける干渉の影響を軽減することが必要である。そのためには、副プッシュプル信号SPPの強度を大きくすることが求められ、副回折領域211A及び211Bの±1次回折効率を大きい値に設定することが好ましい。
なお、一般的な3ビーム差動プッシュプル方式では、2つの副受光部24及び25に等しい光強度に分割した光ビームを入射させて副プッシュプル信号SPPを生成していたが、本発明の差動プッシュプル方式では、ブレーズ構造のホログラム光学素子21を用いて、1つの副受光部24に回折した光ビームを入射させて副プッシュプル信号SPPを生成しているので、単純に1つの副受光部24に入射する光ビームの光強度を2倍にすることができる。このため、情報記録層以外の情報記録層からの迷光成分の光強度の比率を大きくすることができ、副プッシュプル信号SPPにおいて0次回折迷光ビームSL0とで引き起こされる干渉の影響を大きく低減することができる。
次に、光ディスクODの情報記録層に記録されている情報の信号長と情報再生信号との関係について説明する。一般に、情報が記録されている光ディスクODには、記録マークの領域とスペースの領域とが情報トラックに沿って形成されている。光ディスクODの規格では、記録マークやスペースの長さに相当する信号長nT(nは正整数;Tは再生クロック周期などの単位時間)が定められている。たとえば、ブルーレイディスクの規格で定められている信号長は、2T、3T、4T、5T、6T、7T及び8Tの7種類である。光ディスクODの情報記録層に照射された光ビームは、タンジェンシャル方向(Y軸方向)に沿って形成された記録マークやスペースで反射する際に回折されるので、光ディスクODからの戻り光ビームは、情報記録層のタンジェンシャル方向の構造に起因する回折光を含み得ることとなる。
図21(a)及び(b)は、光ディスクODの信号長に起因する回折光がホログラム光学素子21に照射された状態を概略的に示す平面図である。図21(a)は、ブルーレイディスクの規格による2Tの信号長に対応する回折光の光スポットを示し、図21(b)は、光ディスクODに記録されている比較的長い信号長(たとえば、信号長6T)に対応する回折光の光スポットを示す。図21(a)及び(b)に示されるように、これら光スポットは、主回折領域210及び副回折領域211A,211Bに照射されており、実線の円で示される0次光成分T0と、この0次光成分T0とY2軸方向において重なる+1次光成分TP1の一部と、0次光成分T0とY2軸方向において重なる−1次光成分TN1の一部とを含む。0次光成分T0と±1次光成分TP1及びTN1とがそれぞれ重なり合う光成分OTa及びOTbの照射面積は、信号長に依存する。信号長が短い場合(信号長2T)、図21(a)に示されるように光成分OTa、OTbの照射面積は小さく、光成分OTa及びOTbの大きさは、それぞれ、副回折領域211A及び211Bにほぼ収まる大きさとなる。一方、比較的長い信号長の場合は(たとえば、信号長6T)、図21(b)に示されるように、0次光成分T0と±1次光成分TP1及びTN1とがそれぞれ重なり合う光成分OTa及びOTbの照射面積は大きく、光成分OTaは、主回折領域210及び副回折領域211Aのいずれにも照射され、光成分OTbは、主回折領域210及び副回折領域211Bのいずれにも照射される。なお、光ディスクODに情報が記録されていない場合には、±1次光成分TP1及びTN1は発生せず、0次光成分T0は、図14に示した0次光成分R0と一致する。
(6)式に示した再生RF信号(=SA+SB+SC+SD)は、主受光部23に照射された回折光の強度に応じた値を有する。再生RF信号の振幅の大きさは、当該信号長に対応する光成分OTa、OTbの照射面積に依存することとなる。よって、再生RF信号の強度は、主にホログラム光学素子21の主回折領域210の0次回折効率と副回折領域211A及び211Bの0次回折効率とに依存する。再生RF信号の強度を大きくするためには、ホログラム光学素子21の主回折領域210の0次回折効率と副回折領域211A及び211Bの0次回折効率とをそれぞれ大きな値にするように、主回折領域210と副回折領域211A及び211Bとを形成すればよい。ここで、信号長が短い場合には、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率が支配的に作用し、信号長が長い場合には、主回折領域210の0次回折効率と副回折領域211A及び211Bの0次回折効率の影響を受ける。一般に、短い信号長に対応する再生RF信号の強度は小さいために、信号検出において検出誤りを起こしやすい。この検出誤りを回避するためには、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率を主回折領域210の0次回折効率以上にすること(以下「要件C」と呼ぶ。)により、短い信号長に対応する再生RF信号の強度を意図的に増大させることが好ましい。主回折領域210の0次回折効率をηxとし、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率をηyとするとき、要件Cを満たすηx及びηyの範囲は、以下の不等式が成立する範囲となる。
ηx≦ηy ・・・(9)
図22(a)及び(b)は、信号長に対する再生RF信号の強度特性の一例を概略的に示す図である。図22において、横軸は信号長、縦軸は再生RF信号の信号強度である。図22(a)及び(b)のグラフは、ブルーレイディスクの規格に基づいた数値シミュレーションにより得られたものである。図22(a)は、主回折領域210の0次回折効率ηxが副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyと等しい場合、あるいは、ホログラム光学素子21を使用しない場合において得られる信号特性である。図22(a)に示されるように、信号長が長くなるにつれて信号強度は大きくなる。一方、図22(b)は、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyが主回折領域210の0次回折効率ηxより大きい場合(ηx<ηy)の強度特性を概略的に示す図である。図22(b)のグラフは、短い信号長の2Tに対応する信号強度が強調されている点で好ましい。しかしながら、信号長が5T以下では、信号強度が単調に増加するのに対し、信号長が5Tを超えると信号強度が単に減少しており、6Tでの信号強度が5Tでの信号強度よりも小さい。このように、信号長の増加に伴う信号強度の変化が単調増加から単調減少に転じる現象(信号強度の逆転)が生じる。信号再生回路6は、マトリクス回路5から供給された再生RF信号を2値化して信号長に対応したパルス幅を持つ2値化信号を生成する。信号強度の逆転が発生すると、信号長に対応したパルス幅を得ることができない場合がある。このため、信号強度の逆転が発生しないこと(以下「要件D」と呼ぶ。)が好ましい。
上述したように、トラッキングエラー信号における副プッシュプル信号SPP(=SE−SF)の信号強度を大きくするためには、副回折領域211A及び211Bの±1次回折効率を大きく設定すればよいが、これら±1次回折効率が大きすぎると、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyが小さくなり、主受光部23により検出される光量が低下する。これにより、短い信号長に対応する再生RF信号の信号強度を強調させるための要件Dが成立しないことがある。数値シミュレーションによれば、要件Dを満たすための0次回折効率ηx及びηyの範囲を、以下の不等式が成立する範囲とすることが望ましい。
ηy≦2×ηx ・・・(10)
図23(a)、(b)及び(c)は、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyと主回折領域210の0次回折効率ηxを変数にした場合に、再生RF信号の信号強度特性の観点から0次回折効率ηx,ηyの好ましい範囲を示す分布図である。図23(a)、(b)及び(c)に示されているグラフにおいて、横軸は、主回折領域210の0次回折効率ηxを示し、縦軸は、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyを示している。横軸及び縦軸における「0」の値は、透過回折光の0次光成分が全く発生しない状態を示し、「1」の値は、透過回折光の0次以外の次数の光が全く発生しない状態を示すものと定義する。図23(a)は、要件Cを満たす0次回折効率ηx及びηyの範囲(ηx≦ηy)をハッチングで示す分布図であり、図23(b)は、要件Dを満たす0次回折効率ηx及びηyの範囲(ηy≦2×ηx)をハッチングで示す分布図である。情報RF信号の信号強度特性の観点から好ましい範囲は、要件C及び要件Dを満たす0次回折効率ηx及びηyの範囲(ηx≦ηy、且つ、ηy≦2×ηx)である。図23(c)に、要件Cと要件Dとを共に満たす0次回折効率ηx及びηyの範囲をハッチングで示す。
以上に説明したように、本実施の形態のホログラム光学素子21は、図16に示したように、反射回折光ビームの0次光成分ORaの一部と光成分ORp及びORnとが入射する主回折領域210と、反射回折光ビームの光成分ORp及びORnが入射せず、0次光成分ORaの残部が入射する副回折領域211A及び211Bとを有している。光検出器22は、主回折領域210及び副回折領域211A及び211Bを透過した透過回折光ビームの0次光成分DR0を受光する主受光部23と、副回折領域211A及び211Bをそれぞれ透過した透過回折光ビームの+1次光成分DRpa及びDRpbを受光する副受光部24とを有している。したがって、簡単な構成の受光面パターンを持つ光検出器22を使用して、対物レンズシフトに起因するオフセットがキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを生成することができる。
また、ホログラム光学素子21の構造を、図15に示したようにブレーズ状として、1次回折光を一方向のみ発生させるようにしている。したがって、多層の光ディスクに対して記録もしくは再生の対象となる情報記録層以外の情報記録層からの迷光に対して、副回折領域211A及び211Bをそれぞれ透過した透過回折光ビームの+1次光成分DRpa及びDRpbの光強度比率を高めることができるので、副プッシュプル信号SPPが被る干渉の影響を大きく低減することができ、トラッキングエラー信号TESの品質を高めることができる。
さらに、ホログラム光学素子21の構造を、図19(a),(b)に示したように、多層の光ディスクの記録もしくは再生の対象となる情報記録層以外の情報記録層からの迷光が周辺回折領域212A及び212Bに入射したとき、これらで透過回折した光ビームが光検出器22に入射しないようにしている。したがって、不要な迷光成分による信号が検出されないのでトラッキングエラー信号TESの品質を高めることができる。
さらにまた、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyを、主回折領域210の0次回効率ηx以上の値に設定することにより、短い信号長に対応する再生RF信号の信号強度を大きくすることができる。このため、本実施の形態の光ヘッド装置3Bの使用により、信号検出の性能を向上させることができる。さらに、副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyを、主回折領域210の0次回折効率ηxの2倍以下の値に設定することにより、信号長と信号強度との関係の逆転を回避して、信号検出の性能をさらに向上させることができる。
以上により、本実施の形態の光ヘッド装置によれば、副受光部で検出された信号に基づいて、対物レンズシフトに起因するオフセットに相当する信号成分を生成することができ、この信号成分を用いて、オフセットが除かれたトラッキングエラー信号を生成することができる。その結果、再生信号の品質劣化や光ディスクに照射される光強度の損失を伴うことなく、所望の情報記録層以外の他の情報記録層からの迷光を軽減し、多層の光ディスクに対して、対物レンズシフト時にオフセットが発生しない差動プッシュプル方式を用いることができる。また、この信号成分の検出は、簡単な構成の受光面パターンを持つ光検出器を用いて行うことができる。
実施の形態6.
次に、本発明に係る実施の形態6について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は基本的に、複数の光源である半導体レーザを複数個用いる点を除いて上記実施の形態5の光ヘッド装置3Bの構成とほぼ同じである。図24は、本発明に係る実施の形態6の光ヘッド装置3Cの主な構成を概略的に示す平面図である。さらに図24においては、たとえば実用化されているBD(Blu−ray Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)及びCD(Compact Disc)の3種類の規格に対応する光ヘッド装置3Cが示されている。DVDにおいては、多層の光ディスクとして2層のものが規格化されている。CDにおいては、単層の光ディスクのみが規定されている。一方、BDにおいては、最大4層までの多層光ディスクの規格化提案がなされている。したがって、これら3種類の規格に対応する光ヘッド装置3Cにおいては、BD規格の多層光ディスクが適用される場合において、他の情報記録層で反射した迷光が光検出器で検出されて、本発明の差動プッシュプル信号の品質が損なわれることが起こらないような工夫が求められる。
図24に示されるように光ヘッド装置3Cは、3つの半導体レーザ130、131及び132を有している。第1の半導体レーザ130、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、ホログラム光学素子21及び光検出器22は、それぞれ、図13に示した半導体レーザ13、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、ホログラム光学素子21及び光検出器22とほぼ同様のものである。第1のビームスプリッタ310は、プリズム型のものとして示されているが、図13に示したビームスプリッタ14のような平板型のものであってもよい。シリンドリカルレンズ32は、光ディスクODで反射した戻り光ビームに非点収差を付与するためのもので、図13においてビームスプリッタ14が有していた非点収差付与機能と同様の機能を有する。第1の半導体レーザ130から出射されたレーザ光は、光軸LA上に配置された第1のビームスプリッタ310で反射して後述する第2のビームスプリッタ311、第3のビームスプリッタ312及びコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第3のビームスプリッタ312、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310及びシリンドリカルレンズ32を順に通過してホログラム光学素子21に入射し、複数の透過回折光ビームに分割されて、光検出器22の受光部23、24及び25に入射する。
第2の半導体レーザ131から出射されたレーザ光は、回折格子33を透過し、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15の間に配置された第2のビームスプリッタ311で反射して、第3のビームスプリッタ312及びコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第3のビームスプリッタ312、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ32及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器22の受光部23,24及び25に入射する。
第3の半導体レーザ132から出射されたレーザ光は、回折格子34を透過し、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15の間に配置された第3のビームスプリッタ312で反射してコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第3のビームスプリッタ312、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ32及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器22の受光部23,24及び25に入射する。
図24で示される光ヘッド装置3Cにおいて、第1の半導体レーザ130はBD規格に対応するものとし、その発振波長は408nm近傍とする。また、第2の半導体レーザ131はDVD規格に対応するものとし、その発振波長は655nm近傍とする。さらに、第3の半導体レーザ132はCD規格に対応するものとし、その発振波長は785nm近傍とする。対物レンズ18は、上記3つの波長の全てにおいて機能し、BD規格の光ディスクが装着された場合には0.85近傍の開口数、DVD規格の光ディスクが装着された場合には0.6から0.65近傍の開口数、CD規格の光ディスクが装着された場合には0.5近傍の開口数を有するものとして動作する。コリメータレンズ15、シリンドリカルレンズ32及び光検出器22は、上記3つの波長においてそれぞれの機能を保有するものとする。光ディスクODとして、BD、DVD及びCDの各規格に対応した光ディスクが随時装着されるものとする。回折格子33は、光ディスクOD面上で3つの光スポットを形成させ、DVDに対して3ビーム差動プッシュプル方式でのトラッキングエラー検出を行うためのものである。また回折格子34は、光ディスクOD面上で3つの光スポットを形成させ、CDに対して3ビーム差動プッシュプル方式でのトラッキングエラー検出を行うためのものである。
さらに、図24で示される光ヘッド装置3Cにおいては、BD規格に対応している半導体レーザ130から出射した光ビームの挙動は、本発明に係る実施の形態5と同様である。また、DVD規格に対応している半導体レーザ132から出射した光ビームの挙動、及びCD規格に対応している半導体レーザ133から出射した光ビームの挙動についても、基本的に実施の形態5と同様であるが、ホログラム光学素子21及び光検出器22での挙動が異なる。
図25は、本実施の形態のホログラム光学素子21の回折格子溝深さDと回折効率との関係を示すグラフ図である。回折効率の算出においては、ホログラム光学素子21の材質としてシリカガラスを用いることとして、その屈折率を用いた。なお、ホログラム光学素子21の材質はシリカガラスに限定されるものではない。回折効率の設定として、たとえば、BD規格において、0次回折効率と+1次回折効率との比率を4:1にする場合を考えると、この条件を満たす回折格子溝深さは、図25のグラフから約0.27ミクロンとなる。このような回折格子溝深さで形成されたホログラム光学素子21に、DVD規格に対応して第2の半導体レーザ131から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約19:1となり、DVD規格における波長においては、+1次回折透過光ビームは無視してよい程度に小さい。同様に、CD規格に対応して第3の半導体レーザ132から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約29:1となり、CD規格における波長においては、+1次回折透過光ビームはやはり無視してよい程度に小さい。したがって、DVD規格あるいはCD規格においては、ホログラム光学素子21は近似的に、回折作用を有しない単なる透明板として扱ってもよいということがわかる。
図26(a)及び(b)は、本実施の形態において、第1の半導体レーザ130を動作させた場合のホログラム光学素子21及び光検出器22の斜視図である。ホログラム光学素子21の各回折領域210,211A及び211Bを回折透過した光ビームが、受光面23A〜23D、24E及び24Fに入射する動作は、図16について説明した動作と同様である。
図27(a)及び(b)は、本実施の形態において、第2の半導体レーザ131もしくは第3の半導体レーザ132を動作させた場合のホログラム光学素子21及び光検出器22の斜視図である。光成分OSは、3ビーム差動プッシュプル方式での検出を行うために、回折格子33または34で3つに分割された光ビームのうち、主光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。光成分OSp及びOSnは、同様に回折格子33または34で3つに分割された光ビームのうち、2つの副光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。第2の半導体レーザ131に対応したDVD規格、及び第3の半導体レーザ132に対応したCD規格においては、対物レンズ18がそれぞれの規格に対して機能する開口数が、第1の半導体レーザ130に対応したBD規格の場合の開口数よりも小さいので、ホログラム光学素子21に入射する戻り光ビームの径は開口数に比例して小さくなる。第1副受光部24及び第2副受光部25には、3ビーム差動プッシュプル方式による検出のための副光スポットDSp,DSnがそれぞれ中心位置で照射されるように、回折格子33及び34の回折格子溝のピッチ等の仕様が最適化される。
したがって、DVD規格及びCD規格での各種信号は以下の演算式で検出される。まず、フォーカスエラー信号FESは次式(11)により得られる。
FES=(SA+SC)−(SB+SD) ・・・(11)
再生RF信号は次式(12)により得られる。
RF=SA+SB+SC+SD ・・・(12)
トラッキングエラー信号TESは次式(13)により得られる。
TES=MPP−k×SPP ・・・(13)
ここで、kは、ゲイン係数である。MPPは主プッシュプル信号を表し、SPPは副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPは次式(13a)及び(13b)によりそれぞれ与えられる。
MPP=(SA+SB)−(SC+SD) ・・・(13a)
SPP=(SE−SF)+(SG−SH) ・・・(13b)
実施の形態5で述べたように、第1の半導体レーザ130に対応したBD規格においては、副プッシュプル信号SPPは、規格に対応して、演算式を実施の形態5で示した(8b)式または(13b)式に切り換える必要がある。
ここで、光検出器22においては、主受光部23と第1副受光部24とが離間する距離に関して、次に説明する設計的要件を満たすことが好ましい。図25で示すように、第2及び第3の半導体レーザ131及び132のそれぞれの発振波長においては、図25に示されるように回折格子溝深さに対応して実際にはごくわずかに+1次回折効率が存在するので、図27で示すように一対の副回折領域211A及び211Bから出射された透過回折光ビームのうち+1次光成分DRpa及びDRpbが発生する。これらの成分は、各種信号検出にノイズとして作用する有害な成分となるため、+1次光成分DRpa及びDRpbが発生する位置に第1副受光部24が重ならないように、主受光部23と第1副受光部24とが適切に離間するように光検出器22の受光面パターンが設計されている。なお、副プッシュプル信号SPPの検出に用いられる副光スポットDSpの光強度に比して、+1次光成分DRpa及びDRpbの光強度が無視できる程度に小さい場合には、この限りではなく、+1次光成分DRpa及びDRpbの一部あるいはすべてが第1副受光部24と重なってもよい。
また上記の説明においては、DVD及びCDとも3ビーム差動プッシュプル法によるトラッキング制御を行うようにしたが、これに限定されるものではなく、採用されるトラッキングエラー検出方式に対応し、なおかつ+1次光成分DRpa及びDRpbの影響が勘案されて、光検出器の受光面パターンの最適化が行われることは共通の事項である。
さらにまた、本実施の形態の光ヘッド装置3Cにおいては、第1の半導体レーザ130はBD規格に対応するものとし、第2の半導体レーザ131はDVD規格に対応するものとし、第3の半導体レーザ132はCD規格に対応するものとして説明したが、これに限られるものではなく、たとえば次世代の規格に対応する構成が含まれていても構わない。さらには、3つの規格に対応するように構成された光ヘッド装置3Cを例にとったが、2つの規格、あるいは4つ以上の規格に対応するように構成できることは言うまでもない。
また、図24においては、BD規格に対応している半導体レーザ130、DVD規格に対応している半導体レーザ131及びCD規格に対応している半導体レーザ132がこの順に並ぶように構成したが、別の順で並んでもよい。
さらには、本実施の形態の光ヘッド装置3Cにおいては、対物レンズ18を複数の規格に互換できる仕様のものとした。しかしながら、対物レンズが全ての規格に対応できないような場合も想定される。このような場合には、可動部19に規格毎に対応した複数の対物レンズを備え、対象となる規格の光ディスクに対応した対物レンズを選択して適用するようにしてもよい。対物レンズを選択する手段としては、光軸LA上に所望の対物レンズを移動させるような構成が考えられる。あるいは、コリメータレンズ15の前方または後方の位置にたとえばビームスプリッタ等の光学部品を配置して光軸を分割し、分割されたそれぞれの光軸上に、対応する規格が異なる対物レンズを配置する構成などが考えられる。
以上に説明したように、本実施の形態の光ヘッド装置3Cは、図24に示したように、複数の規格に対応するように、複数の波長の異なる半導体レーザ130、131及び132を備えているにも拘わらず、ホログラム光学素子21及び光検出器22は1系統の構成のみを有している。したがって、簡単な構成の光ヘッド装置3Cで、複数の規格、及び多層の光ディスクが規定される規格に対応することができる。
以上により、本実施の形態の光ヘッド装置によれば、複数の規格にそれぞれ対応した光ディスクを用いた場合でも、所望の情報記録層以外の他の情報記録層からの迷光を軽減し、多層の光ディスクに対して、対物レンズシフト時にオフセットが発生しない差動プッシュプル方式を用いることができる。また、この信号成分の検出は、簡単な構成の受光面パターンを持つ光検出器を用いて行うことができる。
実施の形態7.
次に、本発明に係る実施の形態7について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は基本的に、複数の半導体レーザ素子を1つのパッケージに収めた半導体レーザを用いる点、及び複数の半導体レーザ素子に対応した光検出器を用いる点を除いて上記実施の形態6の光ヘッド装置3Cの構成と同様である。図28は、本発明に係る実施の形態7の光ヘッド装置の主な構成を概略的に示す平面図である。さらに図28においては、たとえば実用化されているBD(Blu−ray Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)及びCD(Compact Disc)の3種類の規格に対応する光ヘッド装置3Dが示されている。
図28に示されるように光ヘッド装置3Dは、3つの半導体レーザ130、133及び134を有している(図28において、半導体レーザ133と134とは紙面の垂直方向に重なっている)。図28に示された第1波長の半導体レーザ130、第1のビームスプリッタ310、第2のビームスプリッタ311、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17及びホログラム光学素子21は、それぞれ、図24に示した半導体レーザ130、第1のビームスプリッタ310、第2のビームスプリッタ311、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17及びホログラム光学素子21と同様のものである。光検出器35は、2組の主受光部36及び39と、2組の第1受光部37及び40と、2組の第2受光部38及び41とを有している(図28において、2組の主受光部36及び39と、2組の第1受光部37及び40と、2組の第2受光部38及び41とはそれぞれ紙面の垂直方向に重なっている)。第1の半導体レーザ130から出射されたレーザ光は、光軸LA上に配置された第1のビームスプリッタ310で反射して第2のビームスプリッタ311及びコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310及びシリンドリカルレンズ32を順に通過してホログラム光学素子21に入射し、複数の透過回折光ビームに分割されて、光検出器35の主受光部36及び第1受光部37に入射する。
図29は、本実施の形態の半導体レーザパッケージを示す正面図である。半導体レーザパッケージ135には、放熱素子136の上に半導体レーザチップ137が配置され、半導体レーザチップ137には、第2波長の半導体レーザ133、及び第3波長の半導体レーザ134の2つのレーザ素子が距離dだけ離間して作り付けられている。なおここでは、1つの半導体レーザチップに2つのレーザ素子が作り付けられている構造が示されているが、2つのレーザ素子が距離dだけ離間して配置されている構造を採用してもよい。
第2波長の半導体レーザ133から出射されたレーザ光は、回折格子42に入射する。回折格子42の一方の面には、3ビーム差動プッシュプル方式に対応するために、第2波長の半導体レーザ133から出射されたレーザ光を、3つのビームに分割するための回折格子面42Aが形成されている。回折格子42で透過回折した3つの光ビームは、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15との間に配置された第2のビームスプリッタ311で反射してコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ32及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器35の主受光部36、第1受光部37及び第2受光部38に入射する。
第3波長の半導体レーザ134から出射されたレーザ光は、回折格子42に入射する。回折格子42の他方の面には、3ビーム差動プッシュプル方式に対応するために、第3波長の半導体レーザ134から出射されたレーザ光を、3つのビームに分割するための回折格子面42Bが形成されている。回折格子42で透過回折した3つの光ビームは、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15との間に配置された第2のビームスプリッタ311で反射してコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射する。光ディスクODで反射した戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ32及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器35の主受光部39、第1受光部40及び第2受光部41に入射する。
なお、回折格子42は、一方の面に回折格子面42Aが、他方の面に回折格子面42Bが一体的に形成されている一体型の構成の回折格子としたが、それぞれ単独の回折格子面をもつ2つの回折格子を組み合わせた構成を採用してもよい。また、回折格子面42Aでは、第2波長に対して回折機能を有し、第3波長に対しては回折機能を有しないものとする。同様に、回折格子面42Bでは、第3波長に対して回折機能を有し、第2波長に対しては回折機能を有しないものとする。
図30(a)及び(b)は、本実施の形態において、第1波長の半導体レーザを動作させた場合のホログラム光学素子及び光検出器の斜視図である。光検出器35は、図26で示す光検出器22と同様に、3ビーム差動プッシュプル方式の検出に対応したものが、2系統分だけ配置された構成を有している。すなわち、1系統目として、光軸LAに直交する受光面36A〜36Dを有する主受光部36と、この主受光部36の両側に配置された第1副受光部37及び第2副受光部38とを含む。主受光部36は、X1軸方向とY1軸方向とに沿ってマトリクス状に配列された複数の受光面36A、36B、36C及び36Dを含む。受光面36A及び36Bの組と受光面36C及び36Dの組とは、X1軸方向に沿って配列されており、さらに、受光面36A及び36BはY1軸方向に沿って配列され、受光面36C及び36DはY1軸方向に沿って配列されている。第1副受光部37は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面37E及び37Fを有し、第2副受光部38は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面38G及び38Hを有する。また、主受光部36、第1副受光部37及び第2副受光部38と相似的に、2系統目の主受光部39、第1副受光部40及び第2副受光部41がY1軸方向に平行的に離間して配置され、主受光部39の中心に光軸LA1がある。主受光部39は、X1軸方向とY1軸方向とに沿ってマトリクス状に配列された複数の受光面39A、39B、39C及び39Dを含む。受光面39A及び39Bの組と受光面39C及び39Dの組とは、X1軸方向に沿って配列されており、さらに、受光面39A及び39BはY1軸方向に沿って配列され、受光面39C及び39DはY1軸方向に沿って配列されている。第1副受光部40は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面40E及び40Fを有し、第2副受光部41は、X1軸方向に沿って配列された一対の受光面41G及び41Hを有する。主受光部36の受光面36A、36B、36C及び36Dは、0次光成分DR0を光電変換してそれぞれ検出信号SA1、SB1、SC1及びSD1を出力するものとし、第1副受光部37の受光面37E及び37Fは、+1次光成分DRpa及びDRpbを光電変換してそれぞれ検出信号SE1及びSF1を出力するものとする。
光軸LAと光軸LA1との離間量は、半導体レーザチップ137における第2波長の半導体レーザ133と第3波長の半導体レーザ134との距離dに光学的倍率を加味した量に対応している。第1波長の半導体レーザ130に対応したBD規格において、ホログラム光学素子21の各回折領域210、211A及び211Bを回折透過した光ビームが、受光面36A〜36D、37E及び37Fに入射する動作は、実施の形態5における図16について説明した動作と同様であり、本発明の差動プッシュプル方式が適用される。
したがって、BD規格での各種信号は以下の演算式で検出される。まず、フォーカスエラー信号FES1は次式(14)により得られる。
FES1=(SA1+SC1)−(SB1+SD1) ・・・(14)
再生RF1信号は次式(15)により得られる。
RF1=SA1+SB1+SC1+SD1 ・・・(15)
トラッキングエラー信号TES1は次式(16)により得られる。
TES1=MPP1−k1×SPP1 ・・・(16)
ここで、k1は、ゲイン係数である。MPP1は主プッシュプル信号を表し、SPP1は副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP1及び副プッシュプル信号SPP1は、次式(17a)及び(17b)により与えられる。
MPP1=(SA1+SB1)−(SC1+SD1) ・・・(17a)
SPP1=SE1−SF1 ・・・(17b)
図31(a)及び(b)は、本実施の形態において、第2波長の半導体レーザ133を動作させた場合のホログラム光学素子及び光検出器の斜視図である。光成分OSは、3ビーム差動プッシュプル方式での検出を行うために、回折格子42の回折格子面42Aで3つに分割された光ビームのうち、主光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。光成分OSp及びOSnは、同様に回折格子42の回折格子面42Aで3つに分割された光ビームのうち、2つの副光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。第2波長の半導体レーザ133に対応したDVD規格においては、これらの戻り光スポットは、光軸LAに沿っている。また、対物レンズ18がDVD規格に対して機能する開口数が、第1の半導体レーザ130に対応したBD規格の開口数よりも小さいので、ホログラム光学素子21に戻る光ビームの径は開口数に比例して小さくなる。第1副受光部37及び第2副受光部38には、3ビーム差動プッシュプル方式による検出のための副光スポットDSp及びDSnがそれぞれ中心位置で照射されるように、回折格子42の回折格子面42Aの回折格子溝のピッチ等の仕様が最適化される。
第2副受光部38の受光面38G及び38Hは、光電変換後にそれぞれ検出信号SG1及びSH1を出力するものとする。したがって、DVD規格での各種信号は以下の演算で検出される。フォーカスエラー信号FES1は上述の式(14)により得られる。再生RF1信号は上述の式(15)により得られる。トラッキングエラー信号TES11は、次式(18)により得られる。
TES11=MPP1−k11×SPP11 ・・・(18)
ここで、k11は、ゲイン係数である。副プッシュプル信号SPP1は次式(19)により与えられる。
SPP11=(SE1−SF1)+(SH1−SG1) ・・・(19)
なお、トラッキングエラー信号の検出は(18)式に基づく3ビーム差動プッシュプル方式に限られるものではない。
図32(a)及び(b)は、本実施の形態において、第3波長の半導体レーザ134を動作させた場合のホログラム光学素子及び光検出器の斜視図である。光成分OS1は、3ビーム差動プッシュプル方式での検出を行うために、回折格子42の回折格子面42Bで3つに分割された光ビームのうち、主光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。光成分OSp1及びOSn1は、同様に回折格子42の回折格子面42Bで3つに分割された光ビームのうち、2つの副光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。第3波長の半導体レーザ134に対応したCD規格においては、これらの戻り光スポットは、光軸LA1に沿っている。また、対物レンズ18がCD規格に対して機能する開口数が、第2の半導体レーザ133に対応したDVD規格の場合の開口数よりも小さいので、ホログラム光学素子21に戻る光ビームの径は開口数に比例して小さくなる。第1副受光部40及び第2副受光部41には、3ビーム差動プッシュプル方式による検出のための副光スポットDSp1及びDSn1がそれぞれ中心位置で照射されるように、回折格子42の回折格子面42Bの回折格子溝のピッチ等の仕様が最適化される。
主受光部39の受光面39A、39B、39C及び39Dは、光電変換後にそれぞれ検出信号SA2、SB2、SC2及びSD2を出力するものとする。また、第1副受光部40の受光面40G及び40Hは、光電変換後にそれぞれ検出信号SE2及びSF2を出力するものとする。さらに、第2副受光部41の受光面41G及び41Hは、光電変換後にそれぞれ検出信号SG2及びSH2を出力するものとする。したがって、CD規格での各種信号は以下の演算で検出される。フォーカスエラー信号FES2は次式(20)により得られる。
FES2=(SA2+SC2)−(SB2+SD2) ・・・(20)
再生RF2信号は次式(21)により得られる。
RF2=SA2+SB2+SC2+SD2 ・・・(21)
トラッキングエラー信号TES2は、次式(22)により得られる。
TES2=MPP2−k2×SPP2 ・・・(22)
ここで、k2は、ゲイン係数である。MPP2は主プッシュプル信号を表し、SPP2は副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP2及び副プッシュプル信号SPP2は次式(24a)及び(24b)により与えられる。
MPP2=(SA2+SB2)−(SC2+SD2) ・・・(24a)
SPP2=SE2−SF2 ・・・(24b)
なお、トラッキングエラー信号の検出は、(22)式に基づく3ビーム差動プッシュプル方式に限られるものではない。上記の説明においては、3つの規格として、BD、DVD及びCDの規格を例にしたが、これらの規格に限定されるものではない。また、2つ、あるいは4つ以上の規格に対応するものであってもよく、規格に対応した波長の半導体レーザ、及び光検知器が用いられることは言うまでもない。
また上記の説明においては、第2波長の半導体レーザに係わる光ビームが主受光部36と副受光部37及び38とで検出され、第3波長の半導体レーザに係わる光ビームが主受光部39と副受光部40及び41とで検出される例を示したが、これに限られるものではない。
さらに上記の説明においては、1系統目の主受光部36、第1副受光部37及び第2副受光部38と相似的に、2系統目の主受光部39、第1副受光部40及び第2副受光部41がY1軸方向に平行的に離間して配置される構成を示したが、1系統目と2系統目の受光部が互いに相似的な形状を有していなくてもよい。さらにまた、主受光部36と副受光部37及び38との離間量が、主受光部39と副受光部40及び41との離間量と一致していなくてもよい。
さらにまた上記の説明においては、第2波長と第3の波長との半導体レーザが1つの半導体レーザパッケージに収められた構成としたが、これに限られるものではない。あるいは全ての半導体レーザが1つの半導体レーザパッケージに収められた構成を採用してもよい。
さらに上記の説明においては、1つの対物レンズで全ての規格に対応するようにしたが、規格に対応して複数の対物レンズを設けてもよい。複数の対物レンズを用いる場合には、光軸LA上に、選択された対物レンズを移動させる構成が採用されてもよいし、コリメータレンズ15以降の光路をたとえばビームスプリッタで分岐して複数の光軸を新たに構成し、新たな光軸上のそれぞれに対物レンズを配置するようにしてもよい。
以上に説明したように、本実施の形態の光ヘッド装置3Dは、図28に示したように、複数の規格に対応するように、複数の波長の異なる半導体レーザ130,133及び134を備えるとともに、半導体レーザ133及び134が1つの半導体レーザパッケージ135に収められた構造としている。したがって、ビームスプリッタや回折格子の数量を減らした簡単な構成の光ヘッド装置で、複数の規格、及び多層の光ディスクが規定される規格に対応することができる。
実施の形態8.
次に、本発明に係る実施の形態8について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、ホログラム光学素子を除いて、上記実施の形態5の光ヘッド装置3B、実施の形態6の光ヘッド装置3C、及び実施の形態7の光ヘッド装置3Dの構成と同様である。図33は、本実施の形態のホログラム光学素子21Nの回折格子溝を示す断面図である。さらに詳しく説明すると、実施の形態5について説明した図15で示すホログラム光学素子21の回折格子溝213がブレーズ構造を有するのに対して、本実施の形態のホログラム光学素子21Nの回折格子溝213Nが階段状の断面形状を有していることである。すなわち、Z軸と平行な一方の格子壁213NAと、Z軸方向に階段状の格子壁213NBとが形成されている。ここでは、格子壁213NBの段数として4段のものを一例として示しているが、これに限定されるものではない。3段以上の段数を持つ格子壁を採用してもよく、その段数を増やすにしたがい図15で示すホログラム光学素子21のブレーズ構造に近づく構造が得られる。
図33に示されるようなホログラム光学素子21Nにおいて、屈折率をn、回折格子溝213Nの周期をPN、及び回折格子溝213Nの深さをDNとする。また、半導体レーザの波長をλとする。一般的に回折格子溝が階段構造の場合、ホログラム光学素子21Nに入射した光ビームIBは、そのままホログラム光学素子21Nを透過する0次回折光ビームTBN0と、0次回折光ビームTBN0に対して一方の方向に傾斜した1次回折光ビームTBN1とが発生する。ここで1次回折光ビームTBN1を+1次回折成分と定義する。入射光ビームIBの入射光強度Iに対して、0次回折光ビームTBN0の回折効率ηN0と、+1次回折光ビームTBN1の回折効率ηN1との配分は、ホログラム光学素子21Nの屈折率nと深さDN、及び波長λの条件によって決定される。さらに、+1次回折光ビームTBN1の回折角θNは、ホログラム光学素子21Nの周期PNと波長λとの条件によって決定される。通常、半導体レーザの波長λは特定の値に固定されており、さらにホログラム光学素子21Nに使用されるガラスあるいはプラスチック、またはその他の光学材料によって屈折率nが固定化されるので、回折効率ηN0とηN1との配分、及び回折角θNは、回折格子溝213Nの周期PNと深さDNとを変数として、所望の設計値に合わせこむことができる。
図34は、本実施の形態のホログラム光学素子21Nの回折格子溝深さDNと回折効率との関係を示すグラフ図であり、階段構造の階段数として、たとえば4段を選び、ホログラム光学素子21Nの材質としてシリカガラスを用いることとして、その屈折率を用いて計算したものである。なお、ホログラム光学素子21Nの材質はシリカガラスに限定されるものではない。たとえば、BD規格において、0次回折効率と+1次回折効率との比率を4:1に設定する場合を考えると、この条件を満たす回折格子溝深さは図34のグラフから約0.21ミクロンとなる。このような回折格子溝深さで形成されたホログラム光学素子21Nに、DVD規格に対応して第2の半導体レーザ131から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約19:1となり、DVD規格における波長においては、+1次回折透過光ビームは無視してよい程度に小さい。同様に、CD規格に対応して第3の半導体レーザ132から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約29:1となり、CD規格における波長においては、+1次回折透過光ビームはやはり無視してよい程度に小さい。したがって、DVD規格あるいはCD規格においては、ホログラム光学素子21Nは近似的に、回折作用を有しない単なる透明板として扱ってもよいということである。
図33においては、ホログラム光学素子21Nの格子壁213NBの段数として4段のものを一例として示しているが、これに限定されるものではない。5段以上の段数を有する格子壁を採用してもよく、その段数を増やすにしたがい図15で示すホログラム光学素子21のブレーズ構造に近づく構造が得られるとともに、図34に示した0次回折効率と+1次回折効率の回折格子溝深さに対する特性が、図25に示したブレーズ構造のホログラム光学素子21における0次回折効率と+1次回折効率の回折格子溝深さに対する特性に近づくものとなる。
また、実施の形態5について説明した図14で示すホログラム光学素子21は、主回折領域210と、一対の副回折領域211A及び211Bと、一対の周辺回折領域212A及び212Bとの3種類の回折領域を有している。本実施の形態において、階段状の構造とする回折領域は、上記3種類の回折領域の領域であってもよいし、いずれかの特定の領域であってもよい。
以上に説明したように、本実施の形態によれば、ホログラム光学素子21Nを階段状の構造としたので、回折格子溝213Nの成形がブレーズ構造のそれと比較して容易になり、かつホログラム光学素子として安価なものにすることができる。
実施の形態9.
次に、本発明に係る実施の形態9について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、上記実施の形態5で示すホログラム光学素子21の副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyと主回折領域210の0次回折効率ηxとの関係を除いて、上記実施の形態5の光ヘッド装置3Bの構成と同様である。また、本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、上記実施の形態6で示すホログラム光学素子21の副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyと主回折領域210の0次回折効率ηxとの関係を除いて、上記実施の形態6の光ヘッド装置3Cの構成と同様である。さらに、本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、上記実施の形態7で示すホログラム光学素子21の副回折領域211A及び211Bの0次回折効率ηyと主回折領域210の0次回折効率ηxとの関係を除いて、上記実施の形態7の光ヘッド装置3Dの構成と同様である。さらにまた、上記実施の形態8で示すホログラム光学素子21Nは、副回折領域の0次回折効率ηyと主回折領域の0次回折効率ηxとの関係を除いて、上記実施の形態8のホログラム光学素子21Nの構成と同様である。
図35は、本実施の形態の光ヘッド装置において、0次回折効率ηy及びηxの好適な範囲をハッチ部分で示す分布図である。この範囲は、ηx≧0.5、ηx≦ηy、且つ、ηy≦2×ηxを満たす範囲である。
実施の形態5乃至8においては、図23(c)で示したように、要件Cと要件Dを同時に満たす0次回折効率ηx及びηyの範囲は、ηx≦ηy、且つ、ηy≦2×ηx、という2つの不等式を満たす範囲である。0次回折効率ηxが0の近傍ということは、透過回折光の多くが0次以外の回折光からなることを意味する。たとえば、主回折領域210の0次回折効率ηxが0の近傍であると、光検出器22に入射しない1次光成分DRp及びDRnの強度が大きくなり、光検出器22に入射する0次光成分DR0の強度が小さくなることを意味する。そこで、本実施の形態においては、信号検出の安定性を確保するために、0次回折効率ηxの最小値を0.5としている。
以上に説明したように、本実施の形態によれば、ホログラム光学素子21及び21Nの0次回折効率ηxを0.5以上の値とするので、光検出器22に入射する光ビームの強度を高めることができる。このため、本実施の形態の光ヘッド装置の使用により、信号検出の性能を安定化することができる。
実施の形態10.
次に、本発明に係る実施の形態10について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、ホログラム光学素子を除いて、上記実施の形態5の光ヘッド装置3Bの構成と同様である。また、本実施の形態のホログラム光学素子は、上記実施の形態6の光ヘッド装置3C、及び上記実施の形態7の光ヘッド装置3Dのホログラム光学素子に代替して適用されうるものである。さらにまた、本実施の形態のホログラム光学素子は、一対の周辺回折領域を除いて、上記実施の形態8のホログラム光学素子21Nにも適用されうるものである。図36は、本実施の形態のホログラム光学素子21Mを含む光ヘッド装置の構成の一部を概略的に示す平面図である。図36に示す光ディスクODMは、複数の情報記録層L0、L1、L2及びL3が積層された構造を有する多層光ディスクである。
図36には、光ディスクODMで反射した2種類の戻り光ビームRL及びOLの伝搬経路が示されている。戻り光ビームRLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1から対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過してホログラム光学素子21Mに入射する。
一方、戻り光ビームOLは、情報の記録または再生の対象となる情報記録層L1以外の情報記録層(たとえば、情報記録層L3)で反射した迷光である。本実施の形態のホログラム光学素子21Mは、実施の形態5、実施の形態6及び実施の形態7で示すホログラム光学素子21と同じ構造の主回折領域210と副回折領域211A及び211Bとを有しており、さらに、周辺回折領域212A及び212Bに代えて、遮光領域212Aa及び212Baを有している。これにより、たとえば、情報記録層L3で反射した迷光OLは、ホログラム光学素子21Mの遮光領域212Aa及び212Baで遮光されるので、光検出器22の主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25のいずれかに入射することを避けることができる。遮光領域212Aa及び212Baは、たとえば、周辺回折領域212A及び212Bに対応する領域に、不透明材料または光吸収材料を塗布したり、不透明な金属膜を蒸着したり、あるいは不透明な金属シートを貼り付けたりすることにより形成することができる。
以上に説明したように、本実施の形態のホログラム光学素子21Mは、多層光ディスクに起因する迷光を光検出器22に入射させないので、光検出器22は、本来必要な信号成分以外の不要な信号成分を検出せずに済む。このため、本実施の形態の光ヘッド装置の使用により、信号検出の性能を安定化することができる。また、周辺回折領域212A及び212Bを設けた場合にはこれらの領域212A及び212Bで回折された光が周辺部品で反射して迷光となって光検出器22で検出される可能性があるが、遮光領域212Aa及び212Baを有するホログラム光学素子21Mは、そのような迷光の発生を完全に防止することができる。
実施の形態11.
次に、本発明に係る実施の形態11について説明する。図37は、本実施の形態における光ヘッド装置3Eの主な構成を概略的に示す斜視図である。図37に示されるように光ヘッド装置3Eは、レーザ光源である半導体レーザ13、ビームスプリッタ14、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、シリンドリカルレンズ26、ホログラム光学素子21及び光検出器22を備えている。半導体レーザ13は、図1に示すレーザ制御回路7による制御を受けて動作し、レーザ制御回路7は、コントローラ12からの指令に基づいて半導体レーザ13から出射されるレーザ光の光強度を制御する。半導体レーザ13から出射されたレーザ光は、ビームスプリッタ14で反射されてコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射される。ビームスプリッタ14としては、たとえばキューブタイプのハーフミラーを用いることができる。対物レンズ18は光ディスクODの半径線上を走査するように配置され、ビームスプリッタ14から入射した光ビームを光ディスクODの情報記録層に集光してこの情報記録層に光スポットを形成する。光ディスクODで反射された戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、ビームスプリッタ14及びシリンドリカルレンズ26を順に通過してホログラム光学素子21に入射される。シリンドリカルレンズ26は、フォーカスエラー検出を周知の非点収差法で行うための機能を発生させるものであり、シリンドリカル面の母線方向D2が、ラジアル方向(X軸方向)に対応するX1軸方向に対して略斜め45度となるように配置されている。本実施の形態においては、シリンドリカルレンズ26はたとえば凹レンズ型のものを用いることができる。ここで、図37においては、光ディスクODのラジアル方向であるX軸方向と、このラジアル方向に対応するX1軸方向とが互いにほぼ直交するように示されている。これは、シリンドリカルレンズ26によって戻り光ビームに非点収差が付与されたためである。
なお、シリンドリカルレンズ26は凸レンズ型のものであっても構わない。また、ビームスプリッタ14として、キューブタイプのハーフミラーのかわりに、平行平板形状のビームスプリッタを用いても構わない。これは、コリメータレンズ15を出射した戻り光ビームが、平行平板を透過することによって非点収差を与えられるためである。
回折光学素子であるホログラム光学素子21は、入射光を透過回折させて複数の透過回折光ビームに分割し、これら透過回折光ビームをそれぞれ光検出器22の3つの受光部23、24及び25に向けて出射する。図37に示されるように、光検出器22の3つの受光部23、24及び25は、ホログラム光学素子21と略並行に配置される光検出器22の面内において、ラジアル方向(X軸方向)に対応するX1軸方向に対してずらされており、2つの受光部24及び25が1つの受光部23を挟んで対角方向に等しい距離だけ離間するように配列されている。
これら3つの受光部23、24及び25の各々は、複数の受光面を有しており、それらの受光面は、ホログラム光学素子21から入射した透過回折光ビームを光電変換して電気信号を生成し、これを図1に示すマトリクス回路5に出力する。
図1において、マトリクス回路5は、光ヘッド装置3Eから供給された電気信号にマトリクス演算処理を施して、情報の記録または再生に必要な各種信号、たとえば、光ディスクODにおける記録情報の検出結果を示す再生RF信号や、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号などのサーボ制御用の信号を生成する。再生RF信号は、信号再生回路6に出力される。信号再生回路6は、再生RF信号に2値化処理を施して変調信号を生成し、この変調信号から再生クロックを抽出するとともに、変調信号に復調処理や誤り訂正やデコード処理を施して情報再生信号を生成する。情報再生信号は、コントローラ12によって、映像音響機器やパーソナルコンピュータなどのホスト機器(図示せず)に転送される。
サーボ回路8は、コントローラ12からの指令に基づいて動作し、マトリクス回路5から供給されたフォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号に基づいてフォーカス補正用及びトラッキング補正用の駆動信号を生成し、これら駆動信号を光ヘッド装置3Eのアクチュエータ17(図37)に供給する。アクチュエータ17は、図37に概略的に示されるように、磁気回路20A、20B、及びこれら磁気回路20Aと20Bとの間に配置される可動部19を有する。可動部19は、対物レンズ18を固定するレンズホルダ(図示せず)と、このレンズホルダに巻回されたフォーカスコイル及びトラッキングコイル(共に図示せず)とを有する。フォーカスコイルは、対物レンズ18の中心軸周りに巻回されており、トラッキングコイルは、光軸LAと光ディスクODのX軸方向とに直交する軸の周りに巻回されている。フォーカスコイルに駆動電流(駆動信号)を供給することにより対物レンズ18をフォーカス方向(光軸LAに沿った方向)に駆動することができ、トラッキングコイルに駆動電流(駆動信号)を供給することにより対物レンズ18をX軸方向に駆動することができる。以上に説明したように、レーザ制御回路7、光ヘッド装置3E、マトリクス回路5及びサーボ回路8によりフォーカスサーボループ及びトラッキングサーボループが形成され、半導体レーザ13から出射されるレーザ光を光ディスクODのトラックに追従させることができる。
収差補正機構制御回路9は、コントローラ12に入力された情報再生信号の品質に基づいて、図37に示す光ヘッド装置3E内に設けられた収差補正機構16Aの動作を制御する。コリメータレンズ15は、光ディスクODの情報記録層に集光される光スポットに発生する球面収差などの光学収差を補正する光学部品であり、収差補正機構制御回路9は、このコリメータレンズ15を保持するレンズホルダ16Bを光軸LAに沿った方向D1に変位させることで光学収差を適正且つ高精度に補正することができる。なお、光スポットの球面収差の補正は、上述のようなレンズの変位による方式に限定されるものではない。たとえば液晶素子を用いて、光スポットの光学収差を打ち消すように、液晶素子の位相制御を行うような方法であってもかまわない。
図38は、ホログラム光学素子21の光入射面の構成を概略的に示す平面図である。ホログラム光学素子21は、主回折領域210と、一対の副回折領域211A及び211Bと、一対の周辺回折領域212A及び212Bという3種類の回折領域を有している。これら3種類の回折領域においては、個別に回折パターン(たとえば、回折格子溝の形状や方向、あるいは回折格子溝間隔)を形成することができる。副回折領域211A及び211Bは、光ディスクODのタンジェンシャル方向(Y軸方向)に対応するY2軸方向に沿って主回折領域210の外側に配置されている。周辺回折領域212A及び212Bは、これら副回折領域211A及び211BよりもY2軸方向に沿って外側に配置されている。副回折領域211A及び211Bは、Y2軸方向に直交するX2軸方向(ラジアル方向に対応する方向)の中心線21cに関して互いに線対称な形状を有しており、周辺回折領域212A及び212Bも中心線21cに関して互いに線対称な形状を有する。また、主回折領域210と副回折領域211Aとは、X2軸方向に平行な境界線21eaで互いに分離されており、主回折領域210と副回折領域211Bとは、X2軸方向に平行な境界線21ebで互いに分離されている。また、周辺回折領域212Aと副回折領域211Aとは、X2軸方向に平行な境界線21daで互いに分離されており、周辺回折領域212Bと副回折領域211Bとは、X2軸方向に平行な境界線21dbで互いに分離されている。
光ディスクODからの戻り光ビームは、光ディスクODの情報記録層のラジアル方向すなわちX軸方向の構造(主に情報トラックの構造)に起因する回折光ビーム(以下「反射回折光ビーム」と呼ぶ。)を含む。ホログラム光学素子21の光入射面には戻り光ビームの光スポットが照射される。図38に示されるように、この光スポットは、破線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される+1次光成分RP1とが重なり合う光成分ORpと、破線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される−1次光成分RN1とが重なり合う光成分ORnと、0次光成分R0のうち±1次光成分RP1、RN1との重なりが無い光成分ORaとからなる。対物レンズ18は、光ディスクODの半径線上を走査するように配置されているので、0次光成分R0と+1次光成分RP1及び−1次光成分RN1とが並ぶ列は、ラジアル方向に対応するX2軸方向と一致する。主回折領域210は、0次光成分R0の一部(0次光成分R0の光スポットの中央部分)と、光成分ORp及びORnの全てもしくは一部とが入射する位置に形成されている。副回折領域211A及び211Bは、少なくとも0次光成分R0の残部が入射し、光成分ORp及びORnについては全て入射しないか、もしくは一部が入射する位置に形成されている。さらに、周辺回折領域212A及び212Bは、0次光成分R0、±1次光成分RP1及びRN1のいずれも入射しない位置に形成されている。
主回折領域210のY2軸方向の幅は、図38に示されるように、0次光成分R0のY2軸方向における光スポット径よりも狭く、且つ光成分ORp、ORnのY2軸方向における幅以下となるように設計されている。本実施の形態においては、境界線21da及び21dbは、0次光成分R0のY2軸方向外縁部とほぼ接する位置に設けられている。また、境界線21ea及び21ebは、光成分ORp及びORnのY2軸方向外縁部と接する位置に設けられている。したがって、主回折領域210は、光成分ORp及びORnのY2軸方向の幅とほぼ同じ幅をもつ矩形状を有しており、副回折領域211A及び211Bの各々は、0次光成分R0の外縁と光成分ORp及びORnの外縁とのY2軸方向における間隔と同じ幅をもつ矩形状を有する。なお、副回折領域211A及び211Bで回折される光成分を高める観点からは、光成分ORp及びORnの一部が副回折領域211A及び211Bに入射するように、境界線21ea及び21ebを、Y2軸方向の主回折領域210側に移動させて、副回折領域211A及び211Bの面積を拡大してもよい。
図39は、光軸LAに沿って配列されたホログラム光学素子21及び光検出器22の斜視図である。図39(a)はホログラム光学素子21、図39(b)は光検出器22の模式図である。図39(a)及び(b)では、ラジアル方向に対応するX2軸方向とX1軸方向とが互いにほぼ直交するように示されている。これは、シリンドリカルレンズ26が戻り光ビームに非点収差を付与する機能を有するためである。
図39(b)に示されるように光検出器22は、光軸LAに直交する平面内で、受光面23A〜23Dを有する主受光部23と、この主受光部23を挟んでX1軸に対して斜めの方向の両側に配置された第1副受光部24及び第2副受光部25とを含む。主受光部23は、X1軸方向とY1軸方向とにほぼ沿ってマトリクス状に配列された複数の受光面23A、23B、23C及び23Dを含む。受光面23A及び23Bの組と受光面23C及び23Dの組とは、X1軸方向にほぼ沿って配列されており、さらに、受光面23A及び23BはY1軸方向にほぼ沿って配列され、受光面23C及び23DはY1軸方向にほぼ沿って配列されている。第1副受光部24は、X1軸方向にほぼ沿って配列された一対の受光面24E及び24Fを有し、第2副受光部25は、X1軸方向にほぼ沿って配列された一対の受光面25G及び25Hを有する。すなわち、主受光部23は、縦横にそれぞれ2分割された4つの矩形形状をした受光面を有するが、分割される方向は厳密にX1軸方向及びY1軸方向に沿ったものでなくてよい。
主回折領域210は、戻り光ビームに対して主に0次及び±1次の回折効率を有し、副回折領域211A及び211Bも、戻り光ビームに対して主に0次及び±1次の回折効率を有している。主回折領域210と、副回折領域211A及び211Bとから出射された光ビーム(以下「透過回折光ビーム」と呼ぶ。)のうち0次光成分DR0は、主受光部23の受光面23A〜23Dに照射されて光スポットを形成する。この光スポットは、光ディスクODのラジアル方向の構造に起因する反射回折光ビームの0次光成分及び±1次光成分を含むものである。一方、主回折領域210から出射された透過回折光ビームの+1次光成分DRpと−1次光成分DRnとは、図39(b)に示されるように、主受光部23よりもY1軸方向の外側の領域に照射される。したがって、これら±1次光成分DRp、DRnは、光検出器22では受光されない。また、副回折領域211A及び211Bから出射された透過回折光ビームのうち+1次光成分DRpa及びDRpbは、第1副受光部24の受光面24E、24Fに照射され、−1次光成分DRna及びDRnbは、第2副受光部25の受光面25G、25Hに照射される。
8つの受光面23A〜23D、24E、24F、25G及び25Hのパターンは、トラッキングエラー信号を生成する方式として一般的に周知されている差動プッシュプル方式に使用される受光面パターンに類似している。ここで、主受光部23の受光面23A、23B、23C及び23Dは、0次光成分DR0を光電変換(光電流−電圧変換)してそれぞれ検出信号SA、SB、SC及びSDを出力するものとする。また、第1副受光部24の受光面24E及び24Fは、+1次光成分DRpa及びDRpbを光電変換してそれぞれ検出信号SE及びSFを出力するものとする。さらに、第2副受光部25の受光面25G及び25Hは、−1次光成分DRna及びDRnbを光電変換してそれぞれ検出信号SG及びSHを出力するものとする。このとき、マトリクス回路5は、非点収差法にしたがって、以下に示す次式(25)により得られる信号レベルをもつフォーカスエラー信号FESを生成する。
FES=(SA+SC)−(SB+SD) ・・・(25)
また、マトリクス回路5は、次式(26)により得られる信号レベルをもつ再生RF信号を生成する。
RF=SA+SB+SC+SD ・・・(26)
また、マトリクス回路5は、次の次式(27)により得られる信号レベルをもつトラッキングエラー信号TESを生成する。
TES=MPP−k×SPP ・・・(27)
ここで、kは、ゲイン係数である。MPPは主プッシュプル信号を表し、SPPは副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPは、それぞれ次式(27a)及び(27b)により与えられる。
MPP=(SA+SB)−(SC+SD) ・・・(27a)
SPP=(SE−SF)+(SG−SH) ・・・(27b)
主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、対物レンズシフトに関して互いに同じ位相を有しており、対物レンズシフトに起因するオフセット成分は副プッシュプル信号SPPとして得られる。このため、ゲイン係数kを適宜調整して副プッシュプル信号SPPを増幅することで、対物レンズシフトに起因するオフセット成分がキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを得ることができる。なお、上述した演算で検出されるトラッキングエラー信号TESは、一般的な差動プッシュプル方式によるトラッキングエラー信号とは異なるので留意を要する。
一般的な差動プッシュプル方式を説明する。従来の光ヘッド装置においては、半導体レーザから出射した光ビームは、対物レンズに入射するまでの光路中において、回折格子を通過するように構成されている。そのため、半導体レーザから出射した光ビームは、対物レンズに入射するまでに回折格子によって3つの光ビームに分割され、光ディスクの情報記録面上に1つの主光スポットと、この主光スポットを挟んで両サイドにそれぞれずれた一対の副光スポットとに分割される。光ディスクの情報記録面で反射した3つの戻り光ビームにおいて、主光スポットからの戻り光ビームは主受光部23に照射され、一対の副光スポットからの戻り光ビームは第1副受光部24及び第2副受光部25にそれぞれ照射される。
これに対して、本実施の形態の光ヘッド装置3Eにおいては、半導体レーザ13と対物レンズ18との間の光路中に回折格子が存在しないため、半導体レーザから出射した光ビームは分割されることなく1つの光ビームとして対物レンズに入射し、光ディスクの情報記録面上では1つの光スポットが形成される。光ディスクの情報記録面で反射した戻り光ビームは、ホログラム光学素子21を透過することによって複数の透過回折光ビームに分割され、主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25に照射される。
このように、本実施の形態においては、光ディスクの情報記録面に形成される光スポットは1つなので、以後、一般的な差動プッシュプル方式と区別するために、本実施の形態で用いる作動プッシュプル方式を、本発明の差動プッシュプル方式と呼ぶ。また、一般的な差動プッシュプル方式を3ビーム差動プッシュプル方式と呼ぶ。
図40は、多層の光ディスクの例としての4層のBD光ディスクで規定されている情報記録層の構成表である。層間隔は不等間隔となっている。他の情報記録層からの迷光の影響は、層間隔が小さいほど大きくなるので、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層に隣接する情報記録層からの迷光の影響が最も大きくなる。また層間隔が不等間隔なため、BD規格の光ディスクにおいては、層L2に対しては層L3からの迷光、層L3に対しては層L2からの迷光の影響が最も大きい。
図41は、光検出器22及び迷光の概略的な分布を表す平面図である。光検出器22の主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25は、ラジアル方向(X軸方向)に対応するX1軸方向に対してずらされて配置されており、第1副受光部24及び第2副受光部25が主受光部23を挟んで対角方向に等しい距離だけ離間するように配列されている。迷光の条件として、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層を層L1として、図41(a)は層L0で生じた迷光SL0、図41(b)は層L1からの戻り光ビームの0次光成分DR0、図41(c)は層L2で生じた迷光SL2、図41(d)は層L3で生じた迷光SL3、のそれぞれの分布を示す。図41(a)、(c)及び(d)で示すように、迷光SL0、SL2及びSL3は、焦点がずれた状態で主受光部23の受光面に対して充分大きく、さらに斜め方向に楕円状に分布する。これは、シリンドリカルレンズ26を通過することによる影響で、楕円状に傾斜する方向はシリンドリカルレンズ26の母線の方向D2に依存する。また、焦点がずれた状態の程度は、光ヘッド装置3Eの光学的設計仕様や多層光ディスクの情報記録層の層間隔などに依存する。ここでは情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層を層L1としているので、隣接する層L0及びL2で生じたそれぞれの迷光SL0及びSL2は、層L3で生じた迷光SL3と比較して収束度が大きい。したがって、情報記録層L1に隣接する層L0及びL2から生じたそれぞれの迷光SL0及びSL2が、副受光部24及び第2副受光部25に入射しないように、中央の主受光部23から第1副受光部24及び第2副受光部25の離間する距離が定められている。一方、情報記録層L1に隣接しない層L3で生じた迷光SL3の一部が第1副受光部24及び第2副受光部25に入射しているが、層L1と層L3の層間隔は広くなっているために迷光SL3は充分大きく焦点がずれた状態となっている。したがって、第1副受光部24及び第2副受光部25に入射する迷光SL3の光強度は微弱となり、トラックエラー信号品質に影響を与えない。
図42は、対物レンズシフト(光検出器22に対する対物レンズ18のラジアル方向の変位)と光検出器22における照射光スポットの位置との関係を示した概略図である。図42(b)は、対物レンズ18の中心軸が光軸LA上にある場合の、光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置(基準位置)を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは主受光部23のX1軸方向及びY1軸方向における中心位置にあり、+1次光成分DRpa及びDRpbは第1副受光部24のX1軸方向における中心位置にあり、同様に−1次光成分DRna及びDRnbは第2副受光部25のX1軸方向における中心位置にある。図42(a)は、対物レンズ18が光ディスクODの内周側に変位した場合の、光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは受光面23Cまたは23Dの側に変位し、+1次光成分DRpa及びDRpbは受光面24Fの側に変位し、同様に−1次光成分DRna及びDRnbは受光面2Hの側に変位する。図42(c)は、対物レンズ18が光ディスクODの外周側に変位した場合の、光検出器22の受光面に照射される光ビームの照射位置を示している。この場合、0次光成分DR0の光スポットは受光面23Aまたは23Bの側に変位し、+1次光成分DRpa及びDRpbは受光面24Eの側に変位し、同様に−1次光成分DRna及びDRnbは受光面2Gの側に変位する。
図43は、対物レンズシフトとトラッキングエラー信号TESの信号成分MPP、SPPとの関係を概略的に示す特性図である。図43において、横軸は時間、縦軸は信号強度である。図43(a)〜(c)においては、光ヘッド装置3Eがラジアル方向に一定速度で移動したときに検出される主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPの波形が示されている。なお、これら主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、光ディスク装置のフォーカス制御が行われているが、トラッキング制御が行われていない状態の信号である。
図43(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、図42(a)、(b)及び(c)に対応する。対物レンズ18が光軸LA上にあってラジアル方向に変位していない場合には、図43(b)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分(直流成分)はGNDレベルに一致し、副プッシュプル信号SPPのDC成分もGNDレベルに一致する。また、副プッシュプル信号SPPの波形はほぼ直流的な波形となる。その理由は、副プッシュプル信号SPPに寄与する透過回折光ビームの+1次光成分DRpa及びDRpbと、−1次光成分DRna及びDRpnとが、図38の光成分ORp及びORn(光ディスクODからの反射回折光ビームの0次光R0と±1次光RP1、RN1とが重なり合う光成分)を含まないか、あるいは一部のみ含むためである。対物レンズ18が内周方向に変位した場合には、図43(a)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分は負側にオフセットした波形となり、副プッシュプル信号SPPの略直流的波形も負側にオフセットした波形となる。一方、対物レンズ18が外周方向に変位した場合には、図43(c)に示されるように、主プッシュプル信号MPPのDC成分は正側にオフセットした波形となり、副プッシュプル信号SPPの略直流的波形も正側にオフセットした波形となる。したがって、主プッシュプル信号MPPと副プッシュプル信号SPPとは、対物レンズシフトに関して互いに同じ位相を有しており、副プッシュプル信号SPPのオフセット量は、対物レンズ18の変位量に対応する値を有することが分かる。このため、副プッシュプル信号SPPの値をk倍して得られる値を、主プッシュプル信号MPPの値から差し引くことによって、対物レンズシフトに起因したオフセット成分がキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを生成することができる。
多層光ディスクでは、情報記録層L0〜L3について個別に光スポットの球面収差が発生する。そこで、光ヘッド装置3Eに設けられた収差補正機構16Aは、光軸LAに沿ってコリメータレンズ15を変位させることで情報記録層毎に光スポットの球面収差を適正に補正することができ、各情報記録層について安定した記録もしくは再生を行うことができる。
図44は、ホログラム光学素子を含む光ヘッド装置の構成の一部を概略的に示す模式図である。たとえば、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層を層L1とした場合、他の情報記録層(たとえば層L3)で反射した迷光SLのうち、対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過し、ホログラム光学素子21の2つの境界線21da及び21dbの外側、すなわち一対の周辺回折領域212A及び212Bに入射する迷光成分SLoutが存在する。周辺回折領域212A及び212Bを通過した迷光成分SLoutが光検出器22の方向以外の方向に回折されるように、周辺回折領域212A及び212Bの回折効率及び回折方向の特性が最適化されている。
なおこれまでの説明では、多層光ディスクにおいて、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層と隣接する層で生じる迷光を第1副受光部24及び第2副受光部25で入射しないように、第1副受光部24及び第2副受光部25を主受光部23から離間させて光検出器22を構成していた。上述したように、迷光の光強度は、光ヘッド装置3Eの光学的設計仕様や多層光ディスクの情報記録層の層間隔などに依存する。図40に示すような実際のBD規格の光ディスクにおいては、層間隔が等間隔ではない。したがって、層L2に対しては層L1と層L3とが隣接する層となるが、層L3との層間隔の方が狭いために、層L3で生じる迷光に対してとくに配慮する必要がある。
図45は、本実施の形態における光検出器22及び迷光の概略的な分布の別の形態を表す平面図である。迷光の条件として、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層を層L2として、図45(a)は層L0で生じた迷光SL0、図45(b)は層L1で生じた迷光SL1、図45(c)は層L2からの戻り光ビームの0次光成分DR0、図45(d)は層L3で生じた迷光SL3、のそれぞれの分布を示す。図45(a)、(b)及び(d)で示すように、迷光SL0、SL1及びSL3は焦点がずれた状態で主受光部23の受光面に対して充分大きく、さらに斜め方向に楕円状に分布する。これは、シリンドリカルレンズ26を通過することによる影響で、楕円状に傾斜する方向はシリンドリカルレンズ26の母線の方向D2に依存する。ここでは情報記録層を層L2としているので、隣接する層L1及びL3で生じたそれぞれの迷光SL1及びSL3が、層L0で生じた迷光SL0と比較して収束度が大きい。さらに、図40で示すように、BD規格の光ディスクにおいては、層L2と層L3との間隔が最も狭いため、層L3で生じた迷光SL3の収束度が層L1で生じた迷光SL1の収束度よりも大きい。したがって、情報記録層L2に隣接する層L3から生じた迷光SL3の全てが第1副受光部24及び第2副受光部25に入射しないように、中央の主受光部23から第1副受光部24及び第2副受光部25の離間する距離が定められている。このように構成された場合、情報記録層L2に隣接する層L1で生じた迷光SL1の一部が第1副受光部24及び第2副受光部25に入射しているが、層L1と層L2との層間隔が広いために迷光SL1の収束度が大きくないので、第1副受光部24及び第2副受光部25に入射する迷光SL1の光強度は微弱となり、トラックエラー信号品質に影響を与えない。さらに、層L0で生じた迷光SL0についても同様で、さらに収束度が低下して迷光SL0の光強度は極めて微弱となるため、やはりトラックエラー信号品質に影響を与えない。
図46は、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層を層L3として光検出器22及び迷光の概略的な分布を表す平面図である。図46(a)は層L0で生じた迷光SL0、図46(b)は層L1で生じた迷光SL1、図46(c)は層L2で生じた迷光SL2、図46(d)は層L3からの戻り光ビームの0次光成分DR0、のそれぞれの分布を示す。図40で示す層間隔に基づいて、迷光はSL2、SL1、SL0の順で収束度が小さくなる。層L2と層L3との間隔が最も狭いため、図41と同様に、層L2から生じた迷光SL2の全てが第1副受光部24及び第2副受光部25に入射しない。層L1で生じた迷光SL1の一部は第1副受光部24及び第2副受光部25に入射しているが、層L1とL3との層間隔が広くなり迷光SL1の収束度が大きくないので、受光部24及び25に入射する迷光SL1の光強度は微弱となり、トラックエラー信号品質に影響を与えない。さらに、層L0で生じた迷光SL0についても同様で、さらに収束度が低下して迷光SL0の光強度は極めて微弱となるため、やはりトラックエラー信号品質に影響を与えない。
多層の光ディスクにおいて、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層に対して他の情報記録層からの迷光でトラッキングエラー信号TESが乱される原因は、選択された情報記録層以外の情報記録層からの反射光と、選択された情報記録層からの反射光とが、光検出器22の面上で互いに干渉し合うことであることを既に述べた。第1副受光部24に形成される+1次光成分DRpa、DRpb、及び第2副受光部25に形成される−1次光成分DRna、DRnbは、ホログラム光学素子21の一対の副回折領域211A及び211Bで回折透過した光ビームである。副回折領域211A及び211Bは、光成分ORp及びORnが全て入射しないか、もしくは一部が入射する位置に形成されている。これらの1次光成分の光強度を積極的に大きくさせたい場合には、光成分ORp及びORnがさらに入射するように、境界線21ea及び21ebを、Y2軸方向の主回折領域210側に移動させて、副回折領域211A及び211Bの面積を拡大してもよい。一方、これらの±1次光成分の光強度を積極的に大きくさせる必要がない場合には、光成分ORp及びORnが副回折領域211A及び211Bに全て入射しないように、境界線21ea及び21ebを、Y2軸方向の主回折領域210から遠ざかる方向に移動させて、副回折領域211A及び211Bの面積を縮小してもよい。この場合には、図43で示す副プッシュプル信号SPPは完全なDC成分のみとなる。このような副回折領域211A及び211Bの位置の設定は、光ヘッド装置3Eの光学的設計仕様や、受光部23、24及び25の面積、多層光ディスクの情報記録層の層間隔に依存するため、適宜最適となるように行えばよい。
なお、本実施の形態において、第1副受光部24及び第2副受光部25は、主受光部23を挟んでX1軸に対して斜めにずれた方向の両側に配置されるようにしたが、この配置に限定されるものではない。図47は、光検出器22の別のレイアウトを示す平面図である。図47に示すように、別の配置として、主受光部23とともに、第1副受光部24及び第2副受光部25は、タンジェンシャル方向(Y軸方向)に対応するY1軸方向に沿って、直線上に配置されてもよい。また、図48は、光検出器22の別のレイアウトを示す平面図である。図48に示すように、主受光部23とともに、第1副受光部24及び第2副受光部25は、ラジアル方向(X軸方向)に対応するX1軸方向に沿って、直線上に配置されてもよい。
図47及び図48のように、第1副受光部24及び第2副受光部25の配置が変更されても、その配置の変更に応じてホログラム光学素子21の一対の副回折領域211A及び211Bの回折格子溝の方向を変えることで回折光の主射方向を変えて、+1次光成分DRpa、DRpb及び−1次光成分DRna、DRnbをそれぞれ第1副受光部24及び第2副受光部25に入射させることができる。
また、本実施の形態においては、第1副受光部24及び第2副受光部25は、2つの受光面を有するものとして示されているが、たとえば主受光部23と同様に4つの受光面を有するものであってもよいし、別のパターンの受光面であってもよい。また、主受光部23と第1副受光部24及び第2副受光部25のそれぞれの受光面の大きさが異なってもよい。
以上に説明したように、本実施の形態のホログラム光学素子21は、図39に示したように、反射回折光ビームの0次光成分ORaの一部と光成分ORp及びORnとが入射する主回折領域210と、反射回折光ビームの光成分ORp及びORnが入射しないかもしくはその一部が入射するとともに、0次光成分ORaの残部が入射する副回折域211A及び211Bとを有している。光検出器22は、主回折領域210と副回折領域211A及び211Bとを透過した透過回折光ビームの0次光成分DR0を受光する主受光部23と、副回折領域211A及び211Bをそれぞれ透過した透過回折光ビームの+1次光成分DRpa及びDRpbを受光する副受光部24と、−1次光成分DRna及びDRnbを受光する副受光部25とを有している。したがって、信号の強度が充分に確保され、対物レンズシフトに起因するオフセットがキャンセルされたトラッキングエラー信号TESを生成することができる。
さらに、本実施の形態においては、光検出器22の配置が図41に示したように、多層の光ディスクにおいて、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層と隣接する層、あるいは最も層間隔が狭い層からの迷光が、第1受光部24及び第2受光部25に入射しないよう構成されている。したがって、不要な迷光成分による信号が検出されないのでトラッキングエラー信号TESの品質を高めることができる。
以上により、本実施の形態の光ヘッド装置によれば、副受光部で検出された信号に基づいて、対物レンズシフトに起因するオフセットに相当する信号成分を生成することができ、この信号成分を用いて、オフセットが除かれたトラッキングエラー信号を生成することができる。その結果、光ディスクに照射される光強度の損失を伴うことなく、多層の光ディスクにおいて、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層に対して他の情報記録層からの迷光の影響を排除し、対物レンズシフトに起因するオフセット成分を除いたトラッキングエラー信号の検出を行うことができる。また、この信号の検出には、簡単な構成の受光面パターンをもつ光検出器を用いて行うことができる。
実施の形態12.
次に、本発明に係る実施の形態12について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、複数の光源を備える点を除いて、上記実施の形態11の光ヘッド装置の構成と同様である。図49は、本実施の形態の光ヘッド装置3Fの主な構成を概略的に示す平面図である。図49において、本実施の形態の光ヘッド装置3Fは、たとえば実用化されているBD(Blu−ray Disc:登録商標)、DVD(Digital Versatile Disc)及びCD(Compact Disc)の3種類の規格に対応するものである。BDにおいては先述のように、最大4層までの多層光ディスクが規定化されている。DVDにおいては、多層の光ディスクとして2層の光ディスクが規格化されている。CDにおいては、単層の光ディスクのみが規定されている。したがって、これら3種類の規格に対応する光ヘッド装置3Fにおいては、たとえばBD規格の多層光ディスクが適用される場合において、他の情報記録層で反射した迷光が光検出器で検出されて、本発明の差動プッシュプル信号の品質が損なわれることが起こらないような工夫が必要となる。
図49に示されるように、本実施の形態の光ヘッド装置3Fは、3つの半導体レーザ130、131及び132を有している。図49に示されている第1の半導体レーザ130、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、シリンドリカルレンズ26及びホログラム光学素子21は、それぞれ、図37に示した半導体レーザ13、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、シリンドリカルレンズ26及びホログラム光学素子21と同様のものである。光検出器34は、後述するように5つの受光部から構成されている。
図50は、本実施の形態12のホログラム光学素子21及び光検出器34の斜視図である。図50(a)に示したホログラム光学素子21は、図39に示したホログラム光学素子と同様なものである。図50(b)に示した光検出器34は、ホログラム光学素子21と略並行に配置される光検出器34の面内において、光軸LAに直交する受光面35A〜35Dを有する主受光部35と、この主受光部35を挟んでX1軸に対して斜めの方向の両側に配置された第1副受光部36及び第2副受光部37と、主受光部35を挟んで略X1軸に沿って両側に配置された第3副受光部38及び第4副受光部39とを含む。第1副受光部36及び第2副受光部37は、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層と最も層間隔が狭い層、もしくは隣接する層で生じた迷光が入射しないように、主受光部35から離間した距離に配置されている。
主受光部35は、X1軸方向とY1軸方向とにほぼ沿ってマトリクス状に配列された複数の受光面35A、35B、35C及び35Dを含む。受光面35A及び35Bの組と受光面35C及び35Dの組とは、X1軸方向にほぼ沿って配列されており、さらに、受光面35A及び35BはY1軸方向にほぼ沿って配列され、受光面35C及び35DはY1軸方向にほぼ沿って配列されている。すなわち、主受光部35は、縦横にそれぞれ2分割された4つの矩形形状をした受光面を有するが、分割される方向は厳密にX1軸方向及びY1軸方向に沿ったものでなくてよい。第1副受光部36は、X1軸方向にほぼ沿って配列された一対の受光面36E及び36Fを有し、第2副受光部37は、X1軸方向にほぼ沿って配列された一対の受光面37G及び37Hを有し、第3副受光部38は、X1軸方向にほぼ沿って配列された一対の受光面38I及び38Jを有し、第4副受光部39は、X1軸方向にほぼ沿って配列された一対の受光面39K及び39Lを有する。
第1の半導体レーザ130から出射されたレーザ光は、光軸LA上に配置された第1のビームスプリッタ310で反射され、後述する第2のビームスプリッタ311、第3のビームスプリッタ312及びコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射される。光ディスクODで反射された戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第3のビームスプリッタ312、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310及びシリンドリカルレンズ26を順に通過してホログラム光学素子21に入射され、複数の透過回折光ビームに分割されて、光検出器34の主受光部35、第1副受光部36及び第2副受光部37に入射される。第2の半導体レーザ131から出射されたレーザ光は、回折格子32を透過し、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15の間に配置された第2のビームスプリッタ311で反射されて、第3のビームスプリッタ312及びコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射される。光ディスクODで反射された戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第3のビームスプリッタ312、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ26及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器34の主受光部35、第3副受光部38及び第4副受光部39に入射される。第3の半導体レーザ132から出射されたレーザ光は、回折格子33を透過し、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15の間に配置された第3のビームスプリッタ312で反射されてコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射される。光ディスクODで反射された戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第3のビームスプリッタ312、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ26及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器34の主受光部35、第3副受光部38及び第4副受光部39に向けて出射される。
図49に示される光ヘッド装置3Fにおいては、第1の半導体レーザ130はBD規格に対応するものとし、その発振波長は408nm近傍である。また、第2の半導体レーザ131はDVD規格に対応するものとし、その発振波長は655nm近傍である。さらに、第3の半導体レーザ132はCD規格に対応するものとし、その発振波長は785nm近傍である。対物レンズ18は、上記3つの波長の全てにおいて機能し、たとえば、波長408nmのレーザ光に対しては、BD規格の光ディスクに対応するため0.85近傍の開口数、波長655nmのレーザ光に対しては、DVD規格の光ディスクに対応するため0.6から0.65近傍の開口数、波長785nmのレーザ光に対しては、CD規格の光ディスクに対応するため0.5近傍の開口数として動作する。コリメータレンズ15、シリンドリカルレンズ26及び光検出器34は、上記3つの波長においてそれぞれの機能を保有するものとする。光ディスクODとして、BD、DVD及びCDの各規格に対応した光ディスクが随時装着されるものとする。回折格子32は、光ディスクOD面上で3つの光スポットを形成させ、DVDに対して3ビーム差動プッシュプル方式でのトラッキングエラー検出を行うためのものである。また回折格子33は、光ディスクOD面上で3つの光スポットを形成させ、CDに対して3ビーム差動プッシュプル方式でのトラッキングエラー検出を行うためのものである。
さらに、図49に示される光ヘッド装置3Fにおいては、BD規格に対応した半導体レーザ131から出射した光ビームの挙動は、実施の形態11と同様である。なお、DVD規格に対応した半導体レーザ132から出射した光ビームの挙動、及びCD規格に対応した半導体レーザ133から出射した光ビームの挙動は、半導体レーザとホログラム光学素子との光路中に回折格子が配置されているため、BD規格に対応した半導体レーザ131から出射した光ビームの挙動とは異なる。
図51は、本実施の形態のホログラム光学素子21の回折格子溝深さDと回折効率との関係を示す特性図である。回折効率の算出においては、ホログラム光学素子21の材質をシリカガラスとして、それぞれの半導体レーザの発振波長に対応した屈折率を用いた。なお、ホログラム光学素子21の材質はシリカガラスに限定されるものではない。また、ホログラム光学素子21の形状は、最も基本的な形状であるバイナリー構造とした。この構造は格子の凹部と凸部とがともに等しい幅を有して周期的に形成されている。回折効率の設定として、たとえばBD規格において、0次回折効率と+1次回折効率との比率を8:1とし、0次回折効率と−1次回折効率との比率を8:1としたとき、この条件を満たす回折格子溝深さは、図51においてA線で示すように、約0.14ミクロンとなる。図51において、A線を横切る特性曲線から次のことがわかる。回折格子溝深さが0.14ミクロンで形成されたホログラム光学素子21において、DVD規格に対応して第2の半導体レーザ131から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約25:1、その0次回折効率と−1次回折効率との比率も約25:1となり、DVD規格における波長においては、±1次回折透過光ビームは無視してよい程度に小さい。同様に、CD規格に対応して第3の半導体レーザ132から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約37:1、その0次回折効率と−1次回折効率との比率も約37:1となり、CD規格における波長においては、±1次回折透過光ビームはやはり無視してよい程度に小さい。したがって、DVD規格あるいはCD規格に対応した半導体レーザの発振波長おいては、ホログラム光学素子21は近似的に、回折作用を何ら有しない単なる透明板として扱ってもよいということがわかる。
図50(b)には、第1の半導体レーザを動作させた場合のホログラム光学素子に入射する反射回折光ビーム、及び光検出器に入射する透過回折光ビームが示されている。ホログラム光学素子21の各回折領域210、211A及び211Bを回折透過した透過回折光ビームが、光検出器34の主受光部35の受光面35A〜35D、第1副受光部36の受光面36Eと36F、及び第2副受光部37の受光面37Gと37Hに入射したときの動作は、実施の形態11における図39の説明と同様である。
図52は、本実施の形態における、第2もしくは第3の半導体レーザを動作させた場合のホログラム光学素子及び光検出器の斜視図である。ホログラム光学素子に入射する反射回折光ビームに含まれる光成分OSは、3ビーム差動プッシュプル方式での検出を行うために、回折格子32または33で3つに分割された光ビームのうち、主光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。光成分OSp及びOSnは、同様に回折格子32または33で3つに分割された光ビームのうち、2つの副光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。DVD規格に対応した第2の半導体レーザ131の発振波長、及びCD規格に対応した第3の半導体レーザ132の発振波長について、それぞれの発振波長に対して機能する対物レンズ18の開口数が、BD規格に対応した第1の半導体レーザ130の発振波長に対する対物レンズ18の開口数よりも小さいので、ホログラム光学素子21に戻る光ビームの径は開口数に比例して小さくなる。本実施の形態においては、3ビーム差動プッシュプル方式による検出のための副光スポットDSp、DSnが、第3副受光部38及び第4副受光部39のそれぞれ中心位置に照射されるように、回折格子32及び33の回折格子溝のピッチ等の仕様が最適化されている。
したがって、DVD規格またはCD規格に対応した光ディスクでの各種信号は以下の演算で検出される。フォーカスエラー信号FESは次式(28)により得られる。
FES=(SA+SC)−(SB+SD) ・・・(28)
再生RF信号は次式(29)により得られる。
RF=SA+SB+SC+SD ・・・(29)
トラッキングエラー信号TESは次式(30)により得られる。
TES=MPP−k×SPP ・・・(30)
ここで、kは、ゲイン係数である。MPPは主プッシュプル信号を表し、SPPは副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP及び副プッシュプル信号SPPは、次式(31a)及び(31b)によりそれぞれ与えられる。ここで、第3副受光部38の受光面38I及び38Jは、+1次光成分DSpを光電変換(光電流−電圧変換)してそれぞれ検出信号SI及びSJを出力するものとする。また、第4副受光部39の受光面39K及び39Lは、−1次光成分DSnを光電変換してそれぞれ検出信号SK及びSLを出力するものとする。
MPP=(SA+SB)−(SC+SD) ・・・(31a)
SPP=(SI−SJ)+(SK−SL) ・・・(31b)
実施の形態11について説明したように、BD規格に対応した第1の半導体レーザ130からの光ビームにおいては、副プッシュプル信号SPPは、(27b)式で得られる。したがって、本実施の形態の光ヘッド装置においては、BD規格に対応した第1の半導体レーザ130を用いるときは、(27b)式で得られる副プッシュプル信号SPPを、DVD規格に対応した第2の半導体レーザ131またはCD規格に対応した第3の半導体レーザ132を用いるときは、(31b)式で得られる副プッシュプル信号SPPをそれぞれ用いる必要がある。さらに、光ディスクODの仕様はそれぞれの規格において異なるので、それぞれに規格に使用される半導体レーザの光学的な特性も異なるため、ゲイン係数kも規格に対応してそれぞれ最適値に設定される。
なお、上記の説明においては、DVD及びCDとも3ビーム差動プッシュプル法によるトラッキング制御を行うようにしたが、これに限定されるものではなく、採用されるトラッキングエラー検出方式に対応して、光検出器34の受光面パターンの最適化を行えばよい。
また、上記の説明においては、第1副受光部〜第4副受光部は2つの受光面を有するものとして示されているが、たとえば主受光部35と同様に4つの受光面を有するものであってもよいし、別のパターンの受光面であってもよい。また、主受光部35と第1副受光部〜第4副受光部のそれぞれの受光面の大きさが異なってもよい。
さらに、上記の説明においては、第1副受光部36及び第2副受光部37を、主受光部35を挟んでX1軸に対して斜めの方向の両側に配置するようにしたが、選択された情報記録層と最も層間隔が狭い層、もしくは隣接する層で生じた迷光が入射しないように、主受光部35から離間しているならば斜めの方向に限定されるものではなく、実施の形態11について説明したように、図47で示すようにタンジェンシャル方向に対応する方向(Y1軸方向)、あるいは図48で示すようにラジアル方向に対応する方向(X1軸方向)に配置してもよい。
さらに、本実施の形態の光ヘッド装置3Fにおいては、第1の半導体レーザ130はBD規格に対応するものとし、第2の半導体レーザ131はDVD規格に対応するものとし、第3の半導体レーザ132はCD規格に対応するものとして説明したが、これに限られるものではなく、たとえば次世代の規格が含まれていても構わない。さらには、本実施の形態においては、3つの規格に対応するように構成された光ヘッド装置を例にとったが、2つの規格、あるいは4つ以上の規格に対応するように光ヘッド装置を構成することもできる。
さらに、本実施の形態においては、図49に示したように、BD規格に対応している半導体レーザ130、DVD規格に対応している半導体レーザ131及びCD規格に対応している半導体レーザ132がこの順番に並ぶように光学系の配置を構成したが、別の順番で並ぶような光学系の配置の構成を採用してもよい。
さらに、本実施の形態の光ヘッド装置3Fにおいては、対物レンズ18を複数の規格に対応した発振波長の異なる半導体レーザに共通で使用できる仕様のものとした。しかしながら、対物レンズが全ての各規格の発振波長に対応できないような場合も想定される。このような場合には、可動部19に各規格の発振波長毎に対応した複数の対物レンズを備え、対象となる各規格の光ディスクに対応した対物レンズを選択して適用するようにしてもよい。対物レンズの選択方法としては、光軸LA上に所望の対物レンズを移動させるような構成が考えられる。あるいは、コリメータレンズ15の前後でたとえばビームスプリッタ等を配置して光軸を分割し、分割されたそれぞれの光軸上に対応する規格が異なる対物レンズを配置する構成、などが考えられる。また、対物レンズの配置としては、複数の対物レンズを光ディスクODの半径線上に離間させる構成が考えられる。あるいは、一方の対物レンズは光ディスクODの半径線上に配置し、他方の対物レンズは光ディスクODの半径線からタンジェンシャル方向に離間させる構成が考えられる。
以上により、本実施の形態の光ヘッド装置3Fによれば、副受光部で検出された信号に基づいて、対物レンズシフトに起因するオフセットに相当する信号成分を生成することができ、この信号成分を用いて、オフセットが除かれたトラッキングエラー信号を生成することができる。その結果、光ディスクに照射される光強度の損失を伴うことなく、多層の光ディスクにおいて、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層に対して他の情報記録層からの迷光の影響を排除し、対物レンズシフトに起因するオフセット成分を除いたトラッキングエラー信号の検出を行うことができる。また、この信号の検出には、簡単な構成の受光面パターンをもつ光検出器を用いて行うことができる。
また、本実施の形態の光ヘッド装置3Fは、図49に示したように、複数の規格の光ディスクに対応できるように、発振波長の異なる複数の半導体レーザ130、131及び132を備えているにも拘わらず、ホログラム光学素子21及び光検出器34は1系統のみの構成を有している。したがって、簡単な構成の光ヘッド装置で、複数の規格の光ディスク、及び多層構造が規定される光ディスクに対応することができる。
実施の形態13.
次に、本発明に係る実施の形態13について説明する。本実施の形態の光ヘッド装置の構成は、複数の半導体レーザ素子を1つのパッケージに収めた半導体レーザを用いる点、及び複数の半導体レーザ素子に対応した光検出器を用いる点を除いて、上記実施の形態12の光ヘッド装置3Fの構成と同様である。図53は、本実施の形態の光ヘッド装置3Gの主な構成を概略的に示す平面図である。図53において、本実施の形態の光ヘッド装置3Gは、たとえば実用化されているBD(Blu−ray Disc:登録商標)、DVD(Digital Versatile Disc)及びCD(Compact Disc)の3種類の規格に対応するものである。
図53に示されるように、本実施の形態の光ヘッド装置3Gは、3つの半導体レーザ130、133及び134を有している(図53において、半導体レーザ133と134とは紙面の垂直方向に重なっている)。第1の半導体レーザ130、第1のビームスプリッタ310、第2のビームスプリッタ311、コリメータレンズ15、対物レンズ18、アクチュエータ17、シリンドリカルレンズ26及びホログラム光学素子21は、図49に示した実施の形態12と同様のものである。光検出器40は、2つの主受光部35及び41と、5つの副受光部36、37、38、39及び42とを有している(図53において、2つの主受光部36及び41と、2つの副受光部36及び38と、3つの副受光部37、39及び42とはそれぞれ紙面の垂直方向に重なっている)。第1の半導体レーザ130から出射されたレーザ光は、光軸LA上に配置された第1のビームスプリッタ310で反射されて第2のビームスプリッタ311及びコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射される。光ディスクODで反射された戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310及びシリンドリカルレンズ26を順に通過してホログラム光学素子21に入射され、複数の透過回折光ビームに分割されて、光検出器40の主受光部35と2つの副受光部36及び37とに向けて出射される。
図54は、本実施の形態の半導体レーザパッケージを示す正面図である。半導体レーザパッケージ135には、放熱素子136の上に半導体レーザチップ137が配置され、半導体レーザチップ137には、第2の半導体レーザ133及び第3の半導体レーザ134の2つのレーザ素子が距離dだけ離間して取り付けられている。なおここでは、1つの半導体レーザチップに2つのレーザ素子が取り付けられている構造が示されているが、それぞれの半導体レーザチップに1つのレーザ素子が取り付けられた、2つの半導体レーザチップが距離dだけ離間して配置された構造を採用してもよい。
図53に示されるように第2の半導体レーザ133から出射されたレーザ光は、回折格子50に入射される。回折格子50の一方の面には、3ビーム差動プッシュプル方式に対応するために、第2の半導体レーザ133から出射されたレーザ光を、3つのビームに分割するための回折格子面50Aが形成されている。回折格子50で透過回折した3つの光ビームは、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15との間に配置された第2のビームスプリッタ311で反射されてコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射される。光ディスクODで反射された戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ26及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器40の主受光部35と2つの副受光部38及び39とに向けて出射される。
また、第3の半導体レーザ134から出射されたレーザ光は、回折格子50に入射される。回折格子50の他方の面には、3ビーム差動プッシュプル方式に対応するために、第3の半導体レーザ134から出射されたレーザ光を、3つのビームに分割するための回折格子面50Bが形成されている。回折格子50で透過回折した3つの光ビームは、第1のビームスプリッタ310とコリメータレンズ15との間に配置された第2のビームスプリッタ311で反射されてコリメータレンズ15を介して対物レンズ18に入射される。光ディスクODで反射された戻り光ビームは、対物レンズ18、コリメータレンズ15、第2のビームスプリッタ311、第1のビームスプリッタ310、シリンドリカルレンズ26及びホログラム光学素子21を順に通過して、光検出器40の主受光部41と2つの副受光部36及び42とに向けて出射される。
なお、回折格子50は、一方の面に回折格子面50Aが、他方の面に回折格子面50Bが一体的に形成されている一体型の構成の回折格子としたが、それぞれ単独の回折格子面をもつ2つの回折格子を組み合わせてもよい。また、回折格子面50Aでは、第2の半導体レーザから出射されたレーザ光の波長の光に対して回折機能を有し、第3の半導体レーザから出射されたレーザ光の波長の光に対しては回折機能を有しないものとする。同様に、回折格子面50Bでは、第3の半導体レーザから出射されたレーザ光の波長の光に対して回折機能を有し、第2の半導体レーザから出射されたレーザ光の波長の光に対しては回折機能を有しないものとする。
図55(a)及び(b)は、本実施の形態における、第1の半導体レーザを動作させた場合のホログラム光学素子及び光検出器の斜視図である。図55(b)に示されるように、光検出器40は、図50(b)で示した実施の形態12の光検出器34において、主受光部35を第1主受光部として、新たに第2主受光部41と第5副受光部42を追加したものである。したがって、第1副受光部36〜第4副受光部39の構成と、これらの副受光部と第1主受光部35との位置関係は図50(b)で示した、副受光部と主受光部との位置関係と同様である。また、第1の半導体レーザを動作させた場合において、0次光成分DR0が第1主受光部35に、+1次光成分DRpa及びDRpbが第1副受光部36に、そして−1次光成分DRna及びDRnbが第2副受光部37に、それぞれ入射する動作も図50(b)について説明した動作と同様である。さらに、検出信号の演算方法も実施の形態12について説明したものと同様である。新たに設けられた第2主受光部41と第5副受光部42との構成は後述する。
図56(a)及び(b)は、本実施の形態において、第2の半導体レーザ133を動作させた場合のホログラム光学素子及び光検出器の斜視図である。ホログラム光学素子に入射する反射回折光ビームに含まれる光成分OSは、3ビーム差動プッシュプル方式での検出を行うために、回折格子50の回折格子面50Aで3つに分割された光ビームのうち、主光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。光成分OSp及びOSnは、同様に回折格子50の回折格子面50Aで3つに分割された光ビームのうち、2つの副光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。DVD規格に対応した第2の半導体レーザ133からの光ビームの戻り光スポットの光軸は、BD規格に対応した第1の半導体レーザ130からの光ビームの戻り光スポットの光軸LAに一致する。また、DVD規格に対応した第2の半導体レーザ133の発振波長に対する対物レンズ18の開口数が、BD規格に対応した第1の半導体レーザ130の発振波長に対する対物レンズ18の開口数よりも小さいので、ホログラム光学素子21に戻る光ビームの径は開口数に比例して小さくなる。本実施の形態においては、3ビーム差動プッシュプル方式による検出のため副光スポットDSp及びDSnが、第1副受光部36及び第2副受光部37のそれぞれの中心位置に照射されるように、回折格子50の回折格子面50Aの回折格子溝のピッチ等の仕様が最適化されている。DVD規格に対応した光ディスクでの各種信号の演算は、実施の形態12について説明した信号の演算と同じである。
図57(a)及び(b)は、本実施の形態における、第3の半導体レーザ134を動作させた場合のホログラム光学素子及び光検出器の斜視図である。ホログラム光学素子に入射する反射回折光ビームに含まれる光成分OS1は、3ビーム差動プッシュプル方式での検出を行うために、回折格子50の回折格子面50Bで3つに分割された光ビームのうち、主光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。光成分OSp1及びOSn1は、同様に回折格子50の回折格子面50Bで3つに分割された光ビームのうち、2つの副光ビームの光ディスクODからの戻り光スポットである。CD規格に対応した第3の半導体レーザ134からの光ビームの戻り光スポットの光軸は、LAと離間したLA1となる。光軸LAと光軸LA1との離間量は、半導体レーザチップ137における第2の半導体レーザ133と第3の半導体レーザ134とが離間した距離dに光学的倍率を積算した値となる。
光検出器40は、第1主受光部35と第1〜第4副受光部36〜39に加えて、第2主受光部41と第5副受光部42を備える。第2主受光部41は、光軸LA1を中心にして、X1軸方向とY1軸方向とに沿ってマトリクス状に配列された複数の受光面41A、41B、41C及び41Dを含む。受光面41A及び41Bの組と受光面41C及び41Dの組とは、X1軸方向に沿って配列されており、さらに、受光面41A及び41BはY1軸方向に沿って配列され、受光面41C及び41DはY1軸方向に沿って配列されている。すなわち、第2主受光部41は、縦横にそれぞれ2分割された4つの矩形形状をした受光面を有するが、分割される方向は厳密にX1軸方向及びY1軸方向に沿ったものでなくてよい。第5副受光部42は、第2主受光部41を挟み、X1軸にほぼ沿って第1副受光部36と線対称な位置に配置されている。第5副受光部42は、X1軸方向にほぼ沿って配列された一対の受光面42M及び42Nを有する。CD規格に対応した第3の半導体レーザ132の発信波長に対する対物レンズ18の開口数は、DVD規格に対応した第2の半導体レーザ131の発信波長に対する対物レンズ18の開口数よりも小さいので、ホログラム光学素子21に戻る光ビームの径は開口数に比例して小さくなる。本実施の形態においては、3ビーム差動プッシュプル方式による検出のため副光スポットDSp及びDSnが、第1副受光部36及び第5副受光部42のそれぞれの中心位置に照射されるように、回折格子50の回折格子面50Bの回折格子溝のピッチ等の仕様が最適化されている。
第2主受光部41の受光面41A、41B、41C及び41Dは、0次光成分DR01を光電変換してそれぞれ検出信号SA1、SB1、SC1及びSD1を出力するものとし、第1副受光部36の受光面36E及び36Fは、+1次光成分DSp1を光電変換してそれぞれ検出信号SE及びSFを出力するものとし、第5副受光部42の受光面42M及び42Nは、−1次光成分DSn1を光電変換してそれぞれ検出信号SM及びSNを出力するものとする。したがって、CD規格に対応した光ディスクでの各種信号は以下の演算で検出される。フォーカスエラー信号FES1は次式(32)により得られる。
FES1=(SA1+SC1)−(SB1+SD1) ・・・(32)
再生RF1信号は次式(33)により得られる。
RF1=SA1+SB1+SC1+SD1 ・・・(33)
トラッキングエラー信号TES1は次式(34)により得られる。
TES1=MPP1−k1×SPP1 ・・・(34)
ここで、k1は、ゲイン係数である。MPP1は主プッシュプル信号を表し、SPP1は副プッシュプル信号を表している。主プッシュプル信号MPP1及び副プッシュプル信号SPP1は、それぞれ次式(35a)及び(35b)により与えられる。
MPP1=(SA1+SB1)−(SC1+SD1) ・・・(35a)
SPP1=(SE−SF)+(SM−SN) ・・・(35b)
なお、トラッキングエラー信号の検出は(34)式に基づく3ビーム差動プッシュプル方式に限られるものではない。
また、本実施の形態においては、第2の半導体レーザ133に係わる光ビームが第1主受光部35と第3副受光部38及び第4副受光部39とで検出され、第3の半導体レーザ134に係わる光ビームが第2主受光部36と第1副受光部36及び第5副受光部42とで検出される例を示したが、これに限られるものではなく、たとえば第2の半導体レーザ133に係わる光ビームと第3の半導体レーザ134に係わる光ビームが検出される受光部とが入れ替わってもよい。
さらに、図57(b)に示すように、本実施の形態においては、+1次光成分DSp1を第1副受光部36で受光する構成としたが、第1副受光部36とは別に第6副受光部を備え、第6副受光部は、第2主受光部41を挟み、X1軸にほぼ沿って第5副受光部42と線対称な位置に配置し、この第6副受光部に+1次光成分DSp1を入射するように構成してもよい。
また、本実施の形態においては、第1副受光部36及び第2副受光部37を、主受光部35を挟んでX1軸に対して斜めの方向の両側に配置するようにしたが、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層と最も層間隔が狭い層、もしくは隣接する層で生じた迷光が入射しないように主受光部35から離間しているならば、斜めの方向に限定されるものではなく、図47で示すようにタンジェンシャル方向に対応する方向(Y1軸方向)、あるいは図48で示すようにラジアル方向に対応する方向(X1軸方向)に配置しても構わない。
さらに、本実施の形態においては、第1副受光部〜第5副受光部は2つの受光面を有するものとして示されているが、たとえば主受光部35もしくは41と同様に4つの受光面を有するものあってもよいし、別のパターンの受光面であってもよい。また、主受光部35もしくは41と第1副受光部〜第5副受光部のそれぞれの受光面の大きさが異なってもよい。
さらに、本実施の形態においては、第2の半導体レーザと第3の半導体レーザが1つの半導体レーザパッケージに収められた構成としたが、これに限られるものではない。あるいは全ての半導体レーザが1つの半導体レーザパッケージに収められた構成を採用してもよい。
さらに、本実施の形態の光ヘッド装置3Gにおいては、1つの対物レンズを複数の規格に対応した発振波長の異なる半導体レーザに共通で使用できる仕様のものとしたが、それぞれの規格に対応した複数の対物レンズを用いてもよい。このような場合には、可動部19に各規格の発振波長毎に対応した複数の対物レンズを備え、対象となる各規格の光ディスクに対応した対物レンズを選択して適用するようにしてもよい。対物レンズの選択方法としては、光軸LA上に所望の対物レンズを移動させるような構成が考えられる。あるいは、コリメータレンズ15の前後でたとえばビームスプリッタ等を配置して光軸を分割し、分割されたそれぞれの光軸上に対応する規格が異なる対物レンズを配置する構成としてもよい。
以上により、本実施の形態の光ヘッド装置3Gによれば、副受光部で検出された信号に基づいて、対物レンズシフトに起因するオフセットに相当する信号成分を生成することができ、この信号成分を用いて、オフセットが除かれたトラッキングエラー信号を生成することができる。その結果、光ディスクに照射される光強度の損失を伴うことなく、多層の光ディスクにおいて、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層に対して他の情報記録層からの迷光の影響を排除し、対物レンズシフトに起因するオフセット成分を除いたトラッキングエラー信号の検出を行うことができる。また、この信号の検出には、簡単な構成の受光面パターンをもつ光検出器を用いて行うことができる。
また、本実施の形態の光ヘッド装置3Gは、図53に示したように、複数の規格の光ディスクに対応できるように、発振波長の異なる複数の半導体レーザ130、133及び134を備えているにも拘わらず、ホログラム光学素子21及び光検出器34は1系統のみの構成としている。したがって、簡単な構成の光ヘッド装置で、複数の規格の光ディスク、及び多層構造が規定される光ディスクに対応することができる。
図58(a)及び(b)は、本実施の形態の変形例における、第3の半導体レーザ134を動作させた場合のホログラム光学素子及び別の光検出器の斜視図である。ここでは、たとえばCD規格の光ディスクの光ヘッド装置の構成としている。再生のみの場合には、3ビーム差動プッシュプル方式を用いずとも、より簡素な1ビームで、たとえば公知の位相差法によるトラッキングエラー信号検出を行うことができる。したがって、回折格子50の回折格子面50Bが不要となる。そのため、光ディスクODからの戻り光スポットは、光成分OS1のみとなる。また、光検出器43は、図57(b)に示された光検出器40から第5副受光部42が削除された構成を有する。光成分OS1は第2主受光部41で受光され、各種の信号が検出される。
なお、本実施の形態においては、3つの規格として、BD、DVD及びCD規格を例として説明したが、これらの規格に限定されるものではない。また、2つ、あるいは4つ以上の規格に対応する光ヘッド装置であってもよく、それぞれの規格に対応した発振波長の半導体レーザ及び光検出器を用いることで、本実施の形態と同様な光ヘッド装置を構成することができる。
実施の形態14.
次に、本発明に係る実施の形態14の光ヘッド装置について説明する。実施の形態11〜13で示した光ヘッド装置3E,3F,3Gに用いられるホログラム光学素子の回折格子構造が鋸歯状の断面形状を有するブレーズ構造であるのに対して、本実施の形態の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の回折格子構造は、矩形状または正弦波状の断面形状を有するバイナリー構造である。
図59(a)は、本実施の形態のホログラム光学素子21Bの回折格子溝を示す断面図であり、図59(b)は、回折格子溝深さと回折効率との関係を示す特性図を示したものである。本実施の形態をさらに詳しく説明する。実施の形態11〜13について説明したホログラム光学素子は、バイナリー構造の回折格子溝を有するのに対して、本実施の形態のホログラム光学素子21Bは、ブレーズ構造の回折格子溝を有する。また、このホログラム光学素子21Bは、実施の形態11について説明したとおり、主回折領域と一対の副回折領域と一対の周辺回折領域との3種類の回折領域で構成されている。図59(a)において、回折格子溝213は、光軸LAと平行なZ軸に対して垂直なX2軸及びY2軸からなる面内の方向に周期的に形成されており、この回折格子溝214は、Z軸と平行な一方の格子壁213Aと、Z軸から傾斜した斜面による他方の格子壁213Bとからなる鋸歯状に形成されている。
図59(a)に示したように、ホログラム光学素子21Bにおいて、光学素子の材料の屈折率をn、回折格子溝213の周期をP、回折格子溝213の深さをDとする。また、半導体レーザの波長をλとする。一般的なブレーズ構造の場合、ホログラム光学素子21Bに入射した光ビームIBは、そのままホログラム光学素子21Bを透過する0次回折光ビームTB0と、0次回折光ビームTB0に対して一方の方向に傾斜した1次回折光ビームTB1とに回折される。ここで、TB1を+1次回折光ビームと定義する。入射光ビームIBの入射光強度Iに対して、0次回折光ビームTB0の回折効率η0と、+1次回折光ビームTB1の回折効率η1との配分は、ホログラム光学素子21Bの屈折率n、回折格子溝213の深さD、及び半導体レーザの波長λによって決定される。さらに、+1次回折光ビームTB1が0次回折光ビームTB0から傾斜する回折角θは、ホログラム光学素子21Bの周期Pと波長λとによって決定される。通常、光ヘッド装置においては、半導体レーザの波長λは特定の値に固定されており、さらにホログラム光学素子21Bに使用されるガラスあるいはプラスチック、またはその他の光学材料によってホログラム光学素子の屈折率nが固定されるので、回折効率η0とη1との配分、及び回折角θは、回折格子溝213の周期Pと深さDとを変数として、所望の設計値に合わせこむことができる。
バイナリー構造のホログラム光学素子においては、+1次回折光ビームと−1次回折光ビームとが等しい光強度で発生する。そのため、実施の形態11〜13について説明したように、光検出器には必ず1対の副受光部を設けてこれらの1次回折光ビームを受光している。しかしながら、本実施の形態のブレーズ構造のホログラム光学素子21Bにおいては、+1次回折光ビームに限定されるため(−1次回折光ビームが存在しない)、この+1次回折光ビームを受光するための、1対の副受光部のうちの少なくとも一方の副受光部が設けられていればよく、光検出器の構成を簡素にできるという利点がある。
図59(b)は、本実施の形態のホログラム光学素子21Bの回折格子溝深さDと回折効率との関係を示す特性図である。回折効率の算出においては、ホログラム光学素子21Bの材質をシリカガラスとし、光源の波長に対応した屈折率を用いた。なお、ホログラム光学素子21Bの材質はシリカガラスに限定されるものではない。回折効率の設定として、実施の形態11について説明したバイナリー構造の場合、たとえばBD規格に対応する波長において、0次回折効率と+1次回折効率との比率を8:1に設定し、0次回折効率と−1次回折効率との比率を8:1に設定した。ブレーズ構造の場合には−1次回折光が存在しないので、0次回折効率と+1次回折効率との比率を4:1にすると、丁度バイナリー構造の場合と同じ条件となる。この条件を満たす回折格子溝深さは、図59(b)のグラフから約0.29ミクロンとなる。このような回折格子溝深さで形成されたホログラム光学素子21Bに、DVD規格に対応した第2の半導体レーザから出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約16:1となり、DVD規格に対応する波長においては、±1次回折透過光ビームは無視してよい程度に小さい。同様に、CD規格に対応した第3の半導体レーザから出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約25:1となり、CD規格に対応する波長においては、±1次回折透過光ビームはやはり無視してよい程度に小さい。したがって、DVD規格あるいはCD規格に対応する波長においては、ホログラム光学素子21Bは近似的に、回折作用を何ら有しない単なる透明板として扱ってもよいということがわかる。
本実施の形態においては、ブレーズ構造のホログラム光学素子21Bを用いることで、1つの副受光部に入射した+1次回折光ビームを入射させて副プッシュプル信号SPPを生成することになるので、単純に1つの副受光部に入射する光ビームの光強度を2倍にすることができる。このため、情報記録層以外の情報記録層からの迷光成分の光強度に対する副プッシュプル信号SPPの光強度の比率を大きくすることができ、副プッシュプル信号SPPが0次回折迷光ビームSL0とで引き起こされる干渉の影響を大きく低減することができ、多層光ディスクにおけるトラッキングエラー信号の品質を向上させることができる。
なお本実施の形態において、ブレーズ状の構造とする回折領域は、ホログラム光学素子21Bの、主回折領域と、一対の副回折領域と、一対の周辺回折領域の全ての領域であってもよいし、いずれかの特定の領域であってもよい。
実施の形態15.
次に、本発明に係る実施の形態15の光ヘッド装置について説明する。実施の形態14の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の回折格子溝がブレーズ構造の断面形状を有すのに対して、本実施の形態の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の回折格子溝は階段状の断面形状を有している。
図60(a)は、本実施の形態のホログラム光学素子21Mの回折格子溝を示す断面図であり、図60(b)は、回折格子溝深さと回折効率との関係を示す特性図を示したものである。図60(a)で示すように、回折格子溝213Mは、Z軸と平行な一方の格子壁213MAと、Z軸方向に階段状の格子壁213MBとで構成されている。ここでは、格子壁213MBの段数として4段のものを一例として示しているが、これに限定されるものではない。3段以上の段数を有する格子壁を採用してもよく、その段数を増やすにしたがい図59で示すホログラム光学素子21Bのブレーズ構造に類似した構造が得られる。
図60(a)に示されるようなホログラム光学素子21Mにおいて、屈折率をn、回折格子溝213Mの周期をPM、及び回折格子溝213Mの深さをDMとする。また、半導体レーザの波長をλとする。一般的に回折格子溝が階段構造の場合、ホログラム光学素子21Mに入射した光ビームIBは、そのままホログラム光学素子21Mを透過する0次回折光ビームTBM0と、0次回折光ビームTBM0に対して一方の方向に傾斜した1次回折光ビームTBM1とに回折される。ここで1次回折光ビームTBM1を+1次回折光ビームと定義する。入射光ビームIBの入射光強度Iに対して、0次回折光ビームTBM0の回折効率ηM0と、+1次回折光ビームTBM1の回折効率ηM1との配分は、ホログラム光学素子21Mの屈折率nと深さDM、及び波長λによって決定される。さらに、+1次回折光ビームTBM1の回折角θMは、ホログラム光学素子21Mの周期PMと波長λとによって決定される。通常、半導体レーザの波長λは特定の値に固定されており、さらにホログラム光学素子21Mに使用されるガラスあるいはプラスチック、またはその他の光学材料によって屈折率nが固定化されるので、回折効率ηM0とηM1との配分、及び回折角θMは、回折格子溝213Mの周期PMと深さDMとを変数として、所望の設計値に合わせこむことができる。
図60(b)は、本実施の形態のホログラム光学素子21Mの回折格子溝深さDMと回折効率との関係を示す特性図である。回折効率の算出においては、ホログラム光学素子21Mの材質をシリカガラスとし、格子壁213MBの段数を4段として、光源の波長に対応した屈折率を用いた。なお、ホログラム光学素子21Mの材質はシリカガラスに限定されるものではない。たとえば、BD規格に対応する波長において、0次回折効率と+1次回折効率との比率を4:1に設定する場合を考えると、この条件を満たす回折格子溝深さは図60(b)のC線で示すように約0.23ミクロンとなる。このような回折格子溝深さで形成されたホログラム光学素子21Mに、DVD規格に対応した第2の半導体レーザ131から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約16:1となり、DVD規格における波長においては、+1次回折透過光ビームは無視してよい程度に小さい。同様に、CD規格に対応した第3の半導体レーザ132から出射した光ビームが通過すると、その0次回折効率と+1次回折効率との比率は約24:1となり、CD規格における波長においては、+1次回折透過光ビームはやはり無視してよい程度に小さい。したがって、DVD規格あるいはCD規格においては、ホログラム光学素子21Mは近似的に、回折作用を有しない単なる透明板として扱ってもよいということである。
図60(a)においては、ホログラム光学素子21Mの格子壁213MBの段数として4段のものを一例として示しているが、これに限定されるものではない。5段以上の段数を持つ格子壁を採用してもよく、その段数を増やすにしたがい図59(a)で示す実施の形態14のホログラム光学素子21Bのブレーズ構造に近づく構造が得られるとともに、図60(b)に示した0次回折効率及び+1次回折効率の回折格子溝深さに対する特性が、図59(b)に示したブレーズ構造のホログラム光学素子21Bにおける0次回折効率と及び1次回折効率の回折格子溝深さに対する特性に近づくものとなる。
なお本実施の形態において、階段状の構造とする回折領域は、ホログラム光学素子21Mの、主回折領域と、一対の副回折領域と、一対の周辺回折領域との全ての領域であってもよいし、いずれかの特定の領域であってもよい。
以上に説明したように、本実施の形態によれば、ホログラム光学素子を階段状の構造としたので、回折格子溝の成形がブレーズ構造のそれと比較して容易になり、かつホログラム光学素子として安価なものにすることができる。
実施の形態16.
次に、本発明に係る実施の形態16の光ヘッド装置について説明する。実施の形態11〜13の光ヘッド装置3E,3F,3Gに用いられるホログラム光学素子が周辺回折領域を備えているのに対して、本実施の形態の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子は、周辺回折領域に相当する領域を遮光領域としたものである。
図61は、本実施の形態のホログラム光学素子21Nを含む光ヘッド装置の構成を概略的に示す平面図である。図61に示す光ディスクODMは、複数の情報記録層L0、L1、L2及びL3が積層された多層光ディスクである。また光検出器22は、実施の形態11と同様である。また、ビームスプリッタやシリンドリカルレンズは図示を省略している。図61には、光ディスクODMで反射された2種類の戻り光ビームRL及びOLの伝搬経路が示されている。戻り光ビームRLは、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層L1から反射されて対物レンズ18及びコリメータレンズ15を順に通過してホログラム光学素子21Nに入射する光ビームである。一方、戻り光ビームOLは、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層L1以外の情報記録層(たとえば、層L3)で反射された迷光である。
本実施の形態におけるホログラム光学素子21Nは、実施の形態11の図44に示したホログラム光学素子21と同じ構造の主回折領域210と副回折領域211A及び211Bとを有しているが、周辺回折領域212A及び212Bの領域をそれぞれ遮光領域212Aa及び212Baとしたものである。このような遮光領域を備えたホログラム素子を用いることにより、図61に示したように、層L3で反射した迷光OLは、ホログラム光学素子21Nの遮光領域212Aa及び212Baで遮光されるので、迷光OLが光検出器22の主受光部23、第1副受光部24及び第2副受光部25のいずれかに到達することを避けることができる。遮光領域212Aa及び212Baは、たとえば、ホログラム素子の表面に、不透明材料または光吸収材料を塗布したり、不透明な金属膜を蒸着したり、あるいは不透明な金属シートを貼り付けたりすることにより形成することができる。
このように構成された光ヘッド装置においては、多層光ディスクに対して、情報を再生あるいは記録する層として選択された情報記録層以外の情報記録層での反射光に起因する迷光を光検出器へ到達させないので、光検出器は、本来必要な信号成分以外の不要な信号成分を検出することはない。このため、信号検出の性能を安定化することができる。
また、ホログラム光学素子が周辺回折領域を備えている場合には、これらの領域で回折された光が周辺部品で反射し、2次的な迷光となって光検出器で検出される可能性があるが、本実施の形態のように、周辺回折領域を遮光領域とすることで、そのような2次的な迷光の発生を防止することができる。
なお、本実施の形態においては、ブレーズ構造のホログラム光学素子に遮光領域を設ける例を示したが、実施の形態14または15で示したような、別の構造のホログラム光学素子に遮光領域を設けることもできる。
実施の形態17.
次に、本発明に係る実施の形態17の光ヘッド装置について説明する。実施の形態11〜13の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の副回折領域が矩形状を有していたのに対して、本実施の形態の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の副回折領域は矩形とは異なる形状を有している。
図62は、本実施の形態のホログラム光学素子21Aの光入射面の構成を概略的に示す平面図である。ホログラム光学素子21Aは、主回折領域210Aと、一対の副回折領域211A1及び211B1と、一対の周辺回折領域212A及び212Bという3種類の回折領域を有している。これら3種類の回折領域においては、回折格子を個別の回折パターン(たとえば、回折格子溝の形状や方向、及び回折格子溝間隔)で形成することができる。
副回折領域211A1及び211B1は、内側の主回折領域210Aよりも、光ディスクODのタンジェンシャル方向(Y軸方向)に対応するY2軸方向の外側に配置されている。周辺回折領域212A及び212Bは、これら副回折領域211A1及び211B1よりもY2軸方向の外側に配置されている。副回折領域211A1及び211B1は、Y2軸方向に直交するX2軸方向(ラジアル方向に対応する方向)の中心線21cに関して互いに線対称な形状を有しており、周辺回折領域212A及び212Bも中心線21cに関して互いに線対称な形状を有する。また、主回折領域210Aと副回折領域211A1とは、境界線21ea1で互いに分離されており、この境界線21ea1は2つの直線からなる「V」字状であり、中心線21cに向かう方向に「V」字の底部がある。さらに、主回折領域210Aと副回折領域211B1とは、境界線21eb1で互いに分離されており、この境界線21eb1は2つの直線からなる「V」字状であり、中心線21cに向かう方向に「V」字の底部がある。また、周辺回折領域212Aと副回折領域211A1とは、X2軸方向に平行な境界線21daで互いに分離されており、周辺回折領域212Bと副回折領域211B1とは、X2軸方向に平行な境界線21dbで互いに分離されている。したがって、副回折領域211A1と副回折領域211B1とは、中央部のY2軸方向の幅が端部のY2軸方向の幅より広くなっている。
光ディスクODからの戻り光ビームは、光ディスクODの情報記録層のラジアル方向すなわちX軸方向の構造(主に情報トラックの構造)に起因する反射回折光ビームを含む。ホログラム光学素子21Aの光入射面には戻り光ビームの光スポットが照射される。図62に示されるように、この光スポットは、破線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される+1次光成分RP1とが重なり合う光成分ORpと、破線の円で示される0次光成分R0と破線の円で示される−1次光成分RN1とが重なり合う光成分ORnと、0次光成分R0のうち±1次光成分RP1、RN1との重なりがない光成分ORaとからなる。主回折領域210Aは、0次光成分R0の一部(0次光成分R0の光スポットの中央部分)と、光成分ORp及びORnの全てもしくは一部とが入射する位置に形成されている。副回折領域211A1及び211B1は、少なくとも0次光成分R0の残部が入射し、光成分ORp及びORnについては全て入射しないか、もしくは一部が入射する位置に形成されている。そして、周辺回折領域212A及び212Bは、0次光成分R0及び±1次光成分RP1、RN1のいずれも入射しない位置に形成されている。
主回折領域210AのY2軸方向の幅は、図62に示されるように、0次光成分R0のY2軸方向における光スポット径よりも狭く、且つ、光成分ORp、ORnのY2軸方向における幅以下であり、さらに、0次光成分R0のX2軸方向の中心部に向かうにしたがって狭くなるように設計されている。したがって、実施の形態11の図38について説明したホログラム素子21との構成及び作用についての差異は次のような点にある。図38で示す境界線21ea及び21ebがそれぞれX2軸方向に平行な直線であるのに対して、本実施の形態の境界線21ea1及び21eb1は、「V」字状であり、0次光成分R0のX2軸方向の中心位置にそれぞれの「V」字の底部が向かい合っている。このため、主回折領域210Aへ入射する0次光成分R0が減少し、反対に副回折領域211A1及び211B1へ入射する0次光成分R0の残部が増大する。これによって情報記録層以外の情報記録層からの迷光成分の光強度に対する副プッシュプル信号SPPの光強度の比率を大きくすることができ、その結果、トラッキングエラー信号の品質を向上させることができる。
なお、本実施の形態においては、境界線21ea1及び21eb1を「V」字状としたが、これに限定されるものではなく、副回折領域211A1及び211B1に入射する0次光成分R0が増大するような直線群、あるいは曲線、もしくは直線と曲線からなる境界線であればよい。
以上に説明したように、本実施の形態のホログラム光学素子21Aにおいては、副回折領域に入射する0次光成分を増大させることができるので、これによって情報記録層以外の情報記録層からの迷光成分の光強度に対する副プッシュプル信号SPPの光強度の比率を大きくすることができ、その結果、トラッキングエラー信号の品質を向上させることができる。
実施の形態18.
次に、本発明に係る実施の形態18の光ヘッド装置について説明する。本実施の形態においては、複数の規格に対応したそれぞれの波長に応じて複数の対物レンズを用いる光ヘッド装置において、対物レンズの位置が光ディスクの半径線からタンジェンシャル方向に離間した位置にあり、この位置から対物レンズがラジアル方向に移動する場合に、トラッキングエラー信号の品質低下を最小にするものである。なお、ここで半径線とは、図63において、光ディスクODの中心を通るRで示した直線であり、対物レンズが移動するラジアル方向は、図63において、半径線Rからタンジェンシャル方向に離間した位置に平行に走るR1で示した直線である。
図63は、本実施の形態における光ヘッド装置において、光ディスクの表面の一部と対物レンズとの配置関係を示す平面図である。対物レンズ18は、光ディスクODの半径線Rからタンジェンシャル方向(Y軸方向)に距離Dsだけ離間した走査線R1上を、ラジアル方向(X軸方向)に平行に、且つ、光ディスクODの情報記録領域の最内周C1から最外周C3までを移動し、所望の光ディスクの中心からの位置で記録もしくは再生が行われる。ここで、最内周トラックC1における対物レンズ18の位置での接線をT1とし、最外周トラックC3における対物レンズ18の位置での接線をT3とする。通常、対物レンズは光ディスクの半径線R上を最内周から最外周まで走査するように構成されている。実施の形態12について説明したように、複数の規格に対応したそれぞれの波長に応じて複数の対物レンズを用いる光ヘッド装置がある。このような光ヘッド装置においては、一つの対物レンズを光ディスクODの半径線R上を走査するように配置し、他の対物レンズを半径線Rからタンジェンシャル方向に離間させて配置させる構成が考えられる。対物レンズが光ディスクODの半径線R上を走査する場合には、任意の半径において接線方向はタンジェンシャル方向(Y軸方向)に限定されるが、図63に示すように、半径線Rから平行に距離Dsだけ離間した走査線R1では、光ディスクの中心からの位置及び離間距離Dsに依存して接線の方向が変化する。たとえば離間距離Dsを5mmとして、BDの規格に基づいて接線の角度をY軸方向となす鋭角で示すと次のようになる。BD規格における情報記録領域の最内周半径は21mmなので、離間距離Dsが5mmの位置の接線角度は14.2度となる。また情報記録領域の最外周半径は58.5mmなので、離間距離Dsが5mmの位置の接線角度は4.9度となる。ここで、光ディスクの中心からの位置とその接線角度は非線形的な関係にある。最内周と最外周の接線角度の中点である9.6度の接線T2となるトラックC2の半径は30.4mmと計算される。
図64は、本実施の形態において、対物レンズ18が光ディスクODの半径線Rから離間した走査線R1上にあるときの、ホログラム光学素子21の光入射面の構成と光スポットとの位置関係を概略的に示す平面図である。ホログラム光学素子21は、実施の形態11で示したものと同じ構成で、3つの回折領域及び境界線の構成も実施の形態11と同じである。対物レンズ18が光ディスクODの半径線Rから離間した走査線R1上にあるため、ホログラム光学素子21に入射する0次光成分R0、+1次光成分RP1及び−1次光成分RN1の3つの光スポットは、ラジアル方向(X2軸方向)から傾斜した線上に形成される。このとき、ホログラム光学素子21は、ラジアル方向(X2軸方向)から角度θDだけ傾斜させて配置されている。言い換えれば、主回折領域210と副回折領域211A及び211Bとが並行して配置される方向が、タンジェンシャル方向(Y2軸方向)から角度θDだけ傾斜させている。光スポットに対する、ホログラム光学素子21の3つの回折領域及び境界線の構成も実施の形態11と同じである。ホログラム光学素子21が傾斜して配置される角度θDは、対物レンズ18がラジアル方向に移動しても一定であるが、ホログラム光学素子21に入射する光スポットR0、RP1及びRN1が配置される線の角度は、対物レンズ18の光ディスクの中心からの位置に依存して変化する。
図65は、本実施の形態において、対物レンズがラジアル方向に移動した場合の、ホログラム光学素子の光入射面と光スポットとの位置関係を概略的に示す平面図である。図65(b)は、ホログラム光学素子21が固定の角度θDで配置されており、3つの光スポットR0、RP1及びRN1も丁度同じ角度だけ傾斜して形成される場合を示している。このような状態は、光ディスクの情報記録領域の最内周C1から最外周C3までのいずれかの位置に対物レンズ18がある場合(たとえば、図63のC2の位置)に生じる。図65(a)及び(c)は、対物レンズ18が図65(b)に対応する位置から光ディスクODのラジアル方向(X2軸方向)にシフトした場合のホログラム光学素子の光入射面と光スポットとの位置関係を示したものである。対物レンズ18は、情報トラックの追従のためのトラッキング動作として、ラジアル方向に移動する必要があり、たとえば、図65(a)は、光ディスクODの内周側に移動した場合であり、図65(c)は、光ディスクODの外周側に移動した場合である。対物レンズ18の移動の方向がラジアル方向であるため、3つの光スポットR0、RP1及びRN1もホログラム光学素子21の面上をラジアル方向(X2軸方向)に沿って変位する。したがって、ホログラム光学素子21の傾斜角度θDと3つの光スポットR0、RP1及びRN1の移動方向とが異なることになる。このため、たとえば図65(a)で示すように、対物レンズ18が光ディスクの内周側への移動した場合は、0次光成分R0の一部が周辺回折領域212Bに入射するようになる。反対に、図65(c)で示すように、対物レンズ18が光ディスクの外周側への移動した場合は、0次光成分R0の一部が周辺回折領域212Aに入射するようになる。このような現象は、重なり領域の光成分ORp及びORnについても同様に発生する。したがって、対物レンズ18がラジアル方向に移動することにより、その移動量に対応して、トラッキングエラー信号が変化し、信号の品質が低下することになる。この現象は、対物レンズ18が、光ディスクODの半径線Rから離間した走査線R1上にある場合には、避けられない問題となる。
上述したトラッキングエラー信号の品質を最小限にするために、図64で示すホログラム光学素子21の傾斜の角度θDを、次のように設定することが好ましい。まず、対物レンズ18のシフトによる3つの光スポットR0、RP1及びRN1の移動方向はラジアル方向(X2軸方向)に限定されるため、この観点からはθDはX2軸方向に対して傾斜させない(0度)ことが好ましい。一方、3つの光スポットR0、RP1及びRN1の配置が傾斜する最大の角度は、対物レンズ18が情報記録領域の最内周C1に位置する場合に起こり、上述のようにBD規格の場合には、走査線R1の離間距離Dsを5mmとすると14.2度である。したがって、ホログラム光学素子21の傾斜の角度θDを、0度と14.2度の間に設定し、さらに好ましくは中点である7.1度に設定すれば、情報記録領域にわたって平均的に、0次光成分R0の一部や重なり領域の光成分ORp及びORnの一部が、所定以外の回折領域に入射する現象が最小となり、トラッキングエラー信号の品質低下を最小にすることができる。言い換えれば、主回折領域210と副回折領域211A及び211Bが並行して配置される方向と光ディスクの半径線R上における接線とがなす角度を、対物レンズ18が移動する走査線R1上で光ディスクODの最内周位置における接線T1と前記光ディスクの半径線R上における接線とがなす角度より小さい角度に設定することが好ましく、さらにはその角度の1/2に設定することが好ましい。
本実施の形態においては、ホログラム光学素子21の傾斜の角度θDを、対物レンズ18が情報記録領域の最内周C1に位置する場合の情報トラックの接線角度以下、そして好ましくはその半分に設定しているので、最内周から最外周に亘る範囲でトラッキングエラー信号の品質低下を平均的に最小にすることができる。
なお、ホログラム光学素子21は、全体を傾斜するように配置したが、外形をX2軸方向及びY2軸方向に平行となるような構成などにしてもよく、また外形の形状は任意であってよい。
また、実施の形態16で示したように、周辺領域を遮光領域としたホログラム光学素子を用いてもよい。
実施の形態19.
次に、本発明に係る実施の形態19の光ヘッド装置について説明する。実施の形態18で示した、複数の対物レンズを備えた光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の副回折領域が矩形の形状を有していたのに対して、本実施の形態の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の副回折領域は矩形とは異なる形状を有している。なお、本実施の形態における対物レンズは、光ディスクODの半径線Rから距離Dsだけ離間した走査線R1上にあるものとする。
図66は、本実施の形態におけるホログラム光学素子21Dの光入射面の構成と光スポットとの位置関係を概略的に示す平面図である。ホログラム光学素子21Dは、主回折領域215と、一対の副回折領域216A及び216Bと、一対の周辺回折領域212A及び212Bという3種類の回折領域を有している。これら3種類の回折領域においては、回折格子を個別の回折パターン(たとえば、回折格子溝の形状や方向、及び回折格子溝間隔)で形成することができる。
副回折領域216A及び216Bは、内側の主回折領域215よりも、光ディスクODのタンジェンシャル方向(Y2軸方向)の外側に配置されている。周辺回折領域212A及び212Bは、これら副回折領域216A及び216BよりもY2軸方向の外側に配置されている。副回折領域216A及び216Bは、Y2軸方向に直交するX2軸方向(ラジアル方向)の中心線21c及びY2軸方向の中心線21c1の交点に関して、互いに180度の回転対称な形状を有しており、周辺回折領域212A及び212Bは中心線21cに関して互いに線対称な形状を有する。また、主回折領域215と副回折領域216Aとは、X2軸方向に平行な2本の直線と中心線21c1に沿った直線とで構成される3つの直線からなる階段状の境界線21ea1で互いに分離されており、主回折領域215と副回折領域216Bとは、X2軸方向に平行な2本の直線と中心線21c1に沿った直線とで構成される3つの直線からなる階段状の境界線21eb1で互いに分離されている。2つの境界線21ea1及び21eb1は、それぞれ中心線21cとY2軸方向の中心線21c1との交点に関して、互いに180度の回転対称な形状を有しており、中心線21c1に沿った段差Sを有している。また、周辺回折領域212Aと副回折領域216Aとは、X2軸方向に平行な境界線21daで互いに分離されており、周辺回折領域212Bと副回折領域216Bとは、X2軸方向に平行な境界線21dbで互いに分離されている。以上の説明において、周辺領域212A及び212Bと、境界線21da及び21dbの構成は、実施の形態11の図38に示したホログラム素子21と同じ構成である。
2つの境界線21ea1及び21eb1がそれぞれ有する段差Sは、次のように設定される。実施の形態18の図63に示したように、対物レンズ18は光ディスクODの半径線Rから離間した走査線R1上にあり、且つ対物レンズ18が位置する情報トラックは、その接線の角度が、最内周と最外周での接線角度の中点となる位置にあるものとする。たとえばBD規格において、対物レンズ18の半径線Rから離間する距離Dsを5mmとすると、その接線角度は9.6度、半径は30.4mmであることはすでに述べた。この場合、+1次光成分RP1と−1次光成分RN1とのそれぞれ中心点を結ぶ直線が、ラジアル方向(X2軸方向)となす角度も9.6度となる。ここで、図66に示したように、0次光成分と+1次光成分との重なり領域の光成分ORpのそれぞれの円弧の交点の一方をPpとする。さらに0次光成分と−1次光成分との重なり領域の光成分ORnのそれぞれの円弧の交点のうち、タンジェンシャル方向(Y2軸方向)に沿って交点Ppと同じ側にある交点をPnとする。したがって、2つの交点PpとPnとを結ぶ直線のラジアル方向(X2軸方向)となす角度もやはり9.6度となる。2つの境界線21ea1及び21eb1がそれぞれ有する段差Sは、2つの交点Pp及びPnのタンジェンシャル方向(Y2軸方向)に沿った間隔に設定されている。
なお、段差Sの値を、0次光成分と±1次光成分との重なり領域の光成分の円弧の2つの交点のタンジェンシャル方向(Y2軸方向)に沿った間隔で設定したが、この間隔は、2つの重なり領域の光成分ORp及びORnのそれぞれの中心のタンジェンシャル方向(Y2軸方向)に沿った間隔と一致する。2つの境界線21ea1及び21eb1のタンジェンシャル方向(Y2軸方向)に沿った幅は一定であり、重なり領域の光成分ORp及びORnのタンジェンシャル方向(Y2軸方向)の幅とほぼ等しいように設定されている。したがって、2つの交点Pp及びPnは、一方の境界線21ea1に位置する。
本実施の形態における光ヘッド装置においては、対物レンズ18の移動によって、0次光成分R0と±1次光成分との重なり領域の光成分ORp及びORnは、ラジアル方向(X2軸方向)に変位するが、2つの交点Pp及びPnもラジアル方向(X2軸方向)に沿って移動するため、0次光成分R0と重なり領域の光成分ORp及びORnは、所定の回折領域からはみ出すことはない。
2つの境界線21ea1及び21eb1の段差Sは固定なため、対物レンズ18が、内周方向もしくは外周方向に移動した場合には、0次光成分R0の一部と重なり領域の光成分ORp及びORnの一部とは、所定以外の回折領域に入射して、トラッキングエラー信号の品質低下を引き起こすが、接線角度の中点を基準に段差Sが設定されているため、トラッキングエラー信号品質低下の影響は最小限となる。
以上説明したように、図66に示す2つの境界線21ea1及び21eb1の段差Sは、対物レンズ18が情報トラックの接線が最内周と最画集の接線の中点となる半径位置で設定されているので、最内周から最外周に亘る範囲でトラッキングエラー信号の品質低下を平均的に最小にすることができる。
なお、実施の形態11について説明したように、光成分ORp及びORnの一部を積極的に副回折領域216A及び216Bに入射するようにすることで、多層の光ディスクにおける他層からの迷光の影響を抑圧することができるので、境界線21ea1と21eb1との間隔を所望となるように調整すればよい。
また、実施の形態16で示したように、周辺領域を遮光領域としたホログラム光学素子を用いてもよい。
実施の形態20.
次に、本発明に係る実施の形態20の光ヘッド装置について説明する。実施の形態19で示した、複数の対物レンズを備えた光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の主回折領域と副回折領域とは、X2軸方向に平行な2本の直線と中心線に沿った直線の3つの直線からなる階段状の境界線で互いに分離されていた。これに対して、本実施の形態の光ヘッド装置に用いられるホログラム光学素子の主回折領域と副回折領域とは、X2軸方向に平行な2本の直線と中心線を斜めに横切る傾斜状の直線とで構成された3つの直線からなる境界線で互いに分離されたものである。なお、本実施の形態における対物レンズは、光ディスクODの半径線Rから距離Dsだけ離間した走査線R1上にあるものとする。また、本実施の形態においては、ホログラム光学素子21Dの中心と0次光R0の中心とが一致していない場合であり、ホログラム光学素子21Dの中心と0次光R0の中心との配置公差をT/2とする。
図67は、本実施の形態におけるホログラム光学素子21Dの光入射面の構成と光スポットとの位置関係を概略的に示す平面図である。ホログラム光学素子21Dは、主回折領域215と、一対の副回折領域216A及び216Bと、一対の周辺回折領域212A及び212Bという3種類の回折領域を有している。これら3種類の回折領域においては、回折格子を個別の回折パターン(たとえば、回折格子溝の形状や方向、及び回折格子溝間隔)で形成することができる。
副回折領域216A及び216Bは、内側の主回折領域215よりも、光ディスクODのタンジェンシャル方向(Y2軸方向)の外側に配置されている。周辺回折領域212A及び212Bは、これら副回折領域216A及び216BよりもY2軸方向の外側に配置されている。副回折領域216A及び216Bは、Y2軸方向に直交するX2軸方向(ラジアル方向)の中心線21c及びY2軸方向の中心線21c1の交点に関して、互いに180度の回転対称な形状を有しており、周辺回折領域212A及び212Bは中心線21cに関して互いに線対称な形状を有する。また、主回折領域215と副回折領域216Aとは、X2軸方向に平行な2本の直線と中心線21c1を斜めに横切る傾斜状の直線21ea2とで構成された3つの直線からなる境界線21ea1で互いに分離されており、主回折領域215と副回折領域216Bとは、X2軸方向に平行な2本の直線と中心線21c1を斜めに横切る傾斜状の直線21eb2とで構成された3つの直線からなる境界線21eb1で互いに分離されている。これらの、中心線21c1を斜めに横切る傾斜状の直線21ea2及び21eb2は、それぞれ実施の形態19について説明した段差Sと、上述のホログラム光学素子21Dの中心と0次光R0の中心との配置公差がT/2の場合、Tに相当する幅とをもつものである。
実施の形態11〜18について説明した主回折領域と副回折領域との境界線が一本の直線で構成されたホログラム光学素子においては、Y2軸方向に位置決め調整が必要であるが、X2軸方向に関しては位置決め調整は必要なかった。しかしながら、実施の形態19について説明したように、主回折領域と副回折領域との境界線が段差を有するホログラム光学素子においては、0次光R0の中心と段差の中心との位置が一致している場合はX2軸方向に関しての位置決め調整は必要ないが、0次光R0の中心と段差の中心との位置が一致していない場合は、X2軸方向にも細かな位置決め調整が必要となる。
本実施の形態のように、ホログラム光学素子21Dの中心と0次光R0の中心との配置公差±T/2に相当する幅と段差Sとをもつ中心線21c1を斜めに横切る傾斜状の直線を含む直線で主回折領域と副回折領域との境界線を構成することにより、ホログラム光学素子21Dの中心と0次光R0の中心とが一致していない場合でも、X2軸方向の位置決め調整を不要とすることができる。
以上、図面を参照して本発明に係る種々の実施の形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な形態を採用することもできる。本発明による光ヘッド装置及び光ディスク装置は、業務用途、家庭用途、及び車載用途などに適用できるものである。