以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、回転電機として、車両に搭載されるモータ・ジェネレータを説明するが、車両搭載用以外の用途に用いられる回転電機であってもよい。また、以下では、回転電機に接続されるインバータ回路として、各相アームを備え、コンデンサの端子電圧であるVdcが供給されるものとして説明するが、これは、基本的要素を示したものであって、インバータ回路に直流電力を供給する要素としてコンデンサの他に、蓄電装置、電圧変換器等が接続されるものとしてよい。
以下で述べる同期数Kの具体的数値は例示であって、勿論、これら以外の同期数であっても構わない。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、回転電機制御システム10の構成を説明する図である。この回転電機制御システム10は、回転電機12の作動を制御するシステムで、回転電機12に接続されるインバータ回路20と、制御ブロック50を含んで構成される。制御ブロック50は、図1において、インバータ回路20と、回転電機12と、回転電機12に設けられるレゾルバ14と電流検出部16,18を除いた部分である。
回転電機12は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(M/G)であって、インバータ回路20の側から電力が供給されるときはモータとして機能し、図示されていないエンジンによる駆動時、あるいは車両の制動時には発電機として機能する3相同期型回転電機である。
すなわち、回転電機12は、車両走行のためとして、図示されていないエンジンの起動のためのスタータとして用いるとき、また力行のときには、インバータ回路20の側から供給される交流電力によってモータとして機能する。そして制動時には、発電機として機能して回生エネルギを回収しインバータ回路20を介して直流電力に変換され、蓄電装置に供給する。回転電機12の動作の制御は、制御装置によるインバータ回路20の動作制御によって行われる。
回転電機12に設けられるレゾルバ14は、回転電機12のロータの角度位置を検出する装置で、検出されたデータは、ロータの電気角θeとして、制御装置に伝送される。
回転電機12に設けられる電流検出部16,18は、回転電機12の各相電流を検出する電流センサである。具体的には、インバータ回路20の各相アームと回転電機12の各相コイルとを接続する電力線を流れる電流を検出する機能を有する。回転電機12の各相コイルの各一方側端子が中立点で相互に接続される方式のときは、符号を含めた各相電流の和は0となるので、2つの相電流を検出することで十分である。図1では、U相電流値IUとV相電流値IVの2つを検出するために2つの電流検出部16,18が示されている。残るW相電流値IWは、IW=−(IU+IV)で求められる。検出された各相電流は、制御装置に伝送される。
インバータ回路20は、回転電機12に接続される回路で、制御ブロック50の制御の下で作動する複数のスイッチング素子を含んで構成され、交流電力と直流電力との間の電力変換を行う機能を有する。すなわち、インバータ回路20は、回転電機12を発電機として機能させるときは、回転電機12からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。また、回転電機12をモータとして機能させるときは、蓄電装置側からの直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機12に交流駆動電力として供給する直交変換機能を有する。
回転電機12が3相方式の場合、各相に2つのスイッチング素子が直列接続され、各スイッチング素子に並列にダイオードがそれぞれ逆接続された直列接続素子が用いられる。この各相ごとの直列接続素子をそれぞれU相アーム22、V相アーム24、W相アーム26と呼ぶことにすると、インバータ回路20は、U相アーム22、V相アーム24、W相アーム26を相互に並列接続された構成を有する。U相アーム22、V相アーム24、W相アーム26における2つのスイッチング素子の接続点からは、それぞれ各相電力線が引き出され、回転電機12の各相コイルの他方側端子に接続される。
インバータ回路20に設けられる蓄電装置は、インバータ回路20のU相アーム22、V相アーム24、W相アーム26を並列接続した正極側母線と負極側母線との間に直流電力を供給する機能を有する直流電源である。図1では、この直流電力の電圧がVdcとして示されている。
回転電機12をインバータ回路20によって駆動する場合に、その制御方法として、正弦波制御モードと呼ばれる制御モードと、過変調制御モードと呼ばれる制御モードと、矩形波制御モードと呼ばれる制御モードとを使い分けることが行われている。すなわち、回転電機12の高出力化と小型化とを両立させるためには、1パルススイッチングを用いる矩形波制御モードが必要であり、低速領域で優れた特性を有する正弦波制御モードと、中速領域で用いられる過変調制御モードとの間のモード切替を行いながら、最適に回転電機12の動作が制御される。
ここで、正弦波制御モードと過変調制御モードとは、電流フィードバック制御であり、従来技術では、電圧指令値と搬送波(キャリア)とを比較することでPWM信号を回転電機12に出力する制御である。一方、矩形波制御モードは、電気角に応じて1パルススイッチング波形を回転電機12に出力する制御であり、電圧振幅は最大値に固定され、位相を制御することでトルクをフィードバック制御している。
なお、正弦波制御モードはPWM制御モードと呼ばれることがあるが、これは典型的なPMW信号が擬似的に正弦波信号となるためである。PWM信号を文字通りパルス幅変調信号とするときは、過変調制御モードも正弦波制御モードもパルス幅変調信号を用いるので、以下では、PWM信号とPWM制御モードとを区別するために、PWM制御モードの語を用いず、正弦波制御モードと呼ぶことにする。
制御ブロック50は、複数の演算装置で構成されるが、特に、記憶部48とPWM制御装置52とを含み、PWM制御装置52で生成されたPWM信号によってインバータ回路20の制御を介して回転電機12の動作を制御する機能を有する。制御ブロック50は、回転電機12の動作制御モードとしての正弦波制御モード、過変調制御モード、矩形波制御モードについて、回路の変更を行なわずに、これらの3つの制御モードに対し一貫して用いることができる。
制御ブロック50は、インバータ回路20を介して回転電機12の動作を具体的に制御する回路で、図1では、その内容が制御ブロック図で示されている。回転電機制御装置は、ハードウェアで構成することも可能であるが、ソフトウェアで構成することができる。勿論一部をハードウェアで構成するものとしてもよい。
図1の制御ブロック図のトルク指令値T*と回転角速度指令値ω*は、回転電機12の動作目標指令値30である。これらの指令値は、図示されていない車両のアクセル、ブレーキ等からユーザの要求トルクと要求車速を推定して算出される。
電流指令生成部32は、回転電機12の実際の回転角速度ωと回転角速度指令値ω*とを比較し、予め作成したテーブル等を用いて、トルク指令値T*をd軸電流指令値Id *とq軸電流指令値Iq *の組として算出する機能を有する。
ここで、角度・速度変換部80は、レゾルバ14によって検出されたロータの電気角θeを回転角速度ωに変換する機能を有する。変換された回転角速度ωは、上記の電流指令生成部32に伝送される。
減算部36は、d軸電流指令値Id *からd軸電流値Idを減算してd軸電流偏差ΔIdを算出する機能を有する減算器と、q軸電流指令値Iq *からq軸電流値Iqを減算してq軸電流偏差ΔIqを算出する減算器である。
ここで、dq座標変換部82は、回転電機12の各相電流値IU,IV,IWに基づいてd軸電流値Idとq軸電流値Iqを算出する機能を有する。すなわち、電流について、UVW座標系からdq座標系へ変換する機能を有する演算装置である。上記のように、電流検出部16,18によってU相電流値IUとV相電流値IVが検出されるので、この2つの相電流値から残りのW相電流値IWが算出され、これら3つの相電流値とレゾルバ14によって検出されたロータの電気角θeから、座標変換計算によって、d軸電流値Idとq軸電流値Iqが算出される。算出されたd軸電流値Idとq軸電流値Iqは、上記の減算部36に伝送される。
電流制御部38は、d軸電流偏差ΔIdとq軸電流偏差ΔIqについて、所定のゲインの下で比例積分制御を行ってこれらに対応する制御偏差を求め、その制御偏差に応じたd軸電圧指令値Vd *とq軸電圧指令値Vq *を算出する機能を有する。
リニア補正部42は、生成されたPWM信号に対応する基本波振幅と電圧指令ベクトルに対応する電圧指令振幅とが一致するようにd軸電圧指令値Vd *とq軸電圧指令値Vq *を補正する機能を有する演算装置である。補正値は、同期数Kごとにリニア補正値として、記憶部48に記憶されている。リニア補正部42は、記憶部48から同期数Kに対応するリニア補正値を読み出して、d軸電圧指令値Vd *とq軸電圧指令値Vq *を補正する。
αβ座標変換部44は、リニア補正後のd軸電圧指令値Vd *とq軸電圧指令値Vq *をαβ座標系の電圧指令値Vα,Vβに変換する機能を有する演算装置である。ここで、αβ座標系は、空間ベクトル方式で用いられる直交固定座標系である。なお、dq座標系は、直交回転座標系であり、UVW座標系は互いに120度の位相を有する3つの基準軸を有する固定座標系である。
PWM制御装置52は、その内部構成として、同期制御装置54とPWM信号生成装置56を含む。これらは、空間ベクトル方式を用いてPWM信号を生成するものであるので、ここで、空間ベクトル方式について簡単に説明する。
上記のように、インバータ回路20のU相アーム22、V相アーム24、W相アーム26を構成するスイッチング素子のオン・オフについて上素子オン・下素子オフを1、上素子オフ・下素子オンを0とすると、3つの各相アームの1,0の組合せは8通りとなる。すなわち、8種類のスイッチングパターンでインバータ回路20の状態を示すことができるが、この8種類のスイッチングパターンを2種類のゼロベクトルと6種類の基本電圧ベクトルに対応付ける。そして、この6種類の基本電圧ベクトルを相互に60度の位相差で位相平面上に順次配置することで、6つの位相領域が区画される。この6つの位相領域Iから位相領域VIと、インバータ回路20の電圧指令ベクトルVとの関係から各相アームについてのPWM信号を生成する方法が、空間ベクトル方式によるPWM信号生成方法である。
同期制御装置54は、同期数Kを設定する同期数設定部60と、同期数で定まる制御角度周期Δθの始発点の位相を割込位相として、割込位相を位相平面上における6つの基本電圧ベクトルのいずれか1つの位相に同期させる割込位相同期部62と、回転電機12の制御モードに応じて同期数Kを切り換える同期数切換部64を含んで構成される。
ここで、制御角度周期Δθは、PWM信号を生成する位相平面上の周期である。全周期制御の場合には、3相インバータ回路における電圧指令ベクトルの位相一周期の2πを整数である同期数Kで除した角度である2π/Kが制御角度周期Δθで、半周期制御の場合にはその1/2であるπ/Kが制御角度周期Δθである。
PWM信号生成装置56は、αβ座標系の電圧指令値Vα,Vβから電圧指令ベクトルVを生成する電圧指令ベクトル生成部66と、電圧指令ベクトルを用いてPWM信号を生成するタイミングとして予測する予測位相が空間ベクトル方式における位相領域IからVIのどの領域に属するかを判定する領域判定部68と、予測位相が属する位相領域を予測位相領域として、予測位相領域を規定するスイッチングベクトルに対する電圧指令ベクトルの寄与比率を制御角度周期Δθに対する角度比率として算出する角度比率算出部70と、予測位相領域におけるスイッチング切換順序を読み出し、その切換順序に従い、角度比率算出手段によって算出された角度比率で予測位相領域における各スイッチングベクトルの間の切換位相を順次算出し、その位相領域におけるPMW信号を生成する切換位相算出部72とを含んで構成される。
制御ブロック50のこれらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現できる。具体的には、回転電機制御プログラムを実行することで実現することができる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
記憶部48は、回転電機制御プログラムを格納する機能を有する。また、リニア補正部42で説明した同期数に関連付けられたリニア補正値のデータを記憶する機能を有する。また、切換位相算出部72で用いられるスイッチング切換順序を位相領域に関連付けて記憶する機能を有する。ここで、スイッチング切換順序とは、1つの位相領域を規定する2つの基本電圧ベクトルと2つのゼロベクトルをスイッチングベクトルとして、PWM信号を生成するためのスイッチングベクトルの切換順序のことである。
このように、図1の構成では、回転電機12における実際の電流値としての各相電流値がd軸電流値Id、q軸電流値Iqに変換されて、減算部36にフィードバックされて、d軸電流指令値Id *からd軸電流値Idと比較される。そして、指令電流値と実際の電流値との偏差をゼロにするように、電圧指令値が算出され、その電圧指令値から電圧指令ベクトルが生成され、その電圧指令ベクトルに対応する制御角度周期Δθに対する角度比率が求められる。その角度比率に基づいてインバータ回路20のU相アーム22、V相アーム24、W相アーム26のオン・オフが定められ、これによって回転電機12への各相電流値が決まる。その各相電流値は上記のように再び減算部36にフィードバックされる。これを繰り返すことで、回転電機12は、トルク指令値T*、回転角速度指令値ω*に追従する動作を行うことができる。
上記構成の作用について、特に、PWM制御部装置52の各機能について、以下に図面を用いて詳細に説明する。最初に図2、図3を用いて空間ベクトル方式についての簡単な説明を行い、次に、図4から図26を用いて半周期制御の場合についてのPWM信号生成の内容を述べる。なお、リニア補正については図27から図30を用いて説明する。その後に図31から図40を用いて全周期制御の場合についてのPWM信号生成の内容を述べる。精度向上のための位相領域の分割、同期数の変更等については、その後に説明する。
図2は、空間ベクトル方式における6つの基本電圧ベクトルと6つの位相領域と、d軸q軸との関係を示す図である。空間ベクトル方式における6つの基本電圧ベクトルは、インバータ回路20のU相アーム22、V相アーム24、W相アーム26の1,0の組合せの8通りのうち、(0,0,0)と(1,1,1)の2つを除く6つに対応するベクトルである。
(1,0,0)は、U相アーム22が上素子オン・下素子オフの状態で、(0,1,0)はV相アーム24が上素子オン・下素子オフの状態で、(0,0,1)はW相アームが上素子オン・下素子オフの状態である。(1,1,0)、(0,1,1)、(0,0,1)は、その中間の状態である。これらの状態を表す基本電圧ベクトルを、3ビットの状態を10進法の値に読み替えて、(1,0,0)をV1、(0,1,0)をV2、(1,1,0)をV3、(0,0,1)をV4、(1,0,1)をV5、(0,1,1)をV6として示すことができる。
この6つの基本電圧ベクトルで位相は一周期となるので、各基本電圧ベクトルの間の位相は互いに60度となる。すなわち、V1を基準にとると、反時計回りに、V3,V2,V6,V4,V5と、相互に60度の位相差で位相平面上に順次配置される。この6つの基本電圧ベクトルの配置によって、位相平面状に6つの位相領域I,II,III,IV,V,VIが区画される。
すなわち、2つの基本電圧ベクトルV1,V3によって区画される位相領域I、2つの基本電圧ベクトルV3,V2によって区画される位相領域II、2つの基本電圧ベクトルV2,V6によって区画される位相領域III、2つの基本電圧ベクトルV6,V4によって区画される位相領域IV、2つの基本電圧ベクトルV4,V5によって区画される位相領域V、2つの基本電圧ベクトルV5,V1によって区画される位相領域VIである。
このようにして、空間ベクトル方式における6角形90が形成される。なお、(0,0,0)を表すV0と、(1,1,1)を表すV7の2つは、ゼロベクトルと呼ばれ、空間ベクトル方式の6角形の原点に配置される。
UVW座標系は、V1に相当するU軸と、V2に相当するV軸と、V4に相当するW軸の相互に120度の位相差を有する3つの基本軸で構成される固定座標系である。αβ座標系は、V1に相当するα軸と、これに直交するβ軸とで構成される固定座標系である。dq座標系は、互いに直交するd軸とq軸の2つの基本軸で構成される回転座標系である。
図2において電気角θeは、UVW座標系のU軸に対するd軸の回転角度であり、φVは、d軸基準の電圧指令ベクトルの位相である。したがって、αβ座標系で、電圧指令ベクトルVの位相は、(φV+θe)で示されることになる。ここで、レゾルバ14で検出されるのは、ロータのステータに対する回転角度であるので、UVW座標系のU軸に対するd軸の回転角度に対応し、図2の電気角θeに相当する値である。φVは、電圧指令ベクトルVのd軸に対する位相であるので、d軸電圧指令値Vd *とq軸電圧指令値Vq *によって算出される。
図3は、空間ベクトル方式の6つの位相領域で規定される円と、3相インバータ回路に印加される直流電圧Vdcの関係を示す図である。図3に示されるように、位相領域Iから位相領域VIで規定される位相平面上の6角形90の各辺94に対する内接円92の半径はVdc/(2)1/2となり、6角形90の各頂点を結ぶ包絡円96の半径は(2/3)1/2Vdcとなる。
ここで、位相平面上の6角形90の原点を電圧指令ベクトルVの原点として、電圧指令ベクトルVの大きさが6角形90の内部にあるときは正弦波制御モードに対応し、電圧指令ベクトルVの大きさが6角形90を超え、電圧指令ベクトルの基本電圧ベクトル成分が包絡円の内部にあるときは過変調制御モードに対応し、電圧指令ベクトルの基本電圧ベクトル成分が包絡円を超えて外側に延びるときは矩形波制御モードに対応することになる。
次に、半周期制御について、同期数K=6,9の場合の具体的なPWM信号生成の内容を説明する。ここでは、同期数K=6について詳細に説明し、同期数K=9については相違点を中心に述べることとする。
図4は、同期数K=6で半周期制御のときの割込位相を説明する図である。割込位相は、PWM信号生成のために回転電機の相電流とロータの電気角を取得するタイミングを、空間ベクトル方式の位相平面上の位相で示したものである。割込位相は、PWM信号生成の周期である制御角度周期Δθのそれぞれの始発点に対応する。
従来の三角波を用いるPWM信号生成において、相電流等のデータ取得のタイミングから電圧指令値を示す基本波信号の算出までを、三角波の谷から山の期間で行う制御方法を半周期制御、三角波の谷から谷の期間で行う制御方法を全周期制御と呼んでいる。この区別に従い、空間ベクトル方式における制御角度周期Δθは、全周期制御の場合には、3相インバータ回路における電圧指令ベクトルの位相一周期の2πを整数である同期数Kで除した角度である2π/Kとし、半周期制御の場合にはその1/2であるπ/Kとする。このように、同期数Kと制御角度周期Δθの設定は、同期制御装置54の同期数設定部60の機能によって実行される。
したがって、同期数K=6で半周期制御のときは、π/6=180度/6=30度間隔で、割込位相が設定されることになる。図4では、破線と三角印で30度間隔の割込位相が示されている。このように、制御角度周期Δθをπまたは2πを同期数で除した値とすることで、ロータの回転周期に対応する各相の電気周期と制御周期の同期性を確保でき、例えば、矩形波制御のように、一周期に1パルス駆動となっても、回転電機12に実際に印加される電圧が変動することが抑制され、モータ電流が振動する現象であるビートが生じることを抑制できる。
図5は、同期数K=6で半周期制御のときの割込位相を空間ベクトル方式の6角形90との関係で説明する図である。ここで、制御角度周期Δθの始発点の位相が割込位相であるが、割込位相を位相平面上における6つの基本電圧ベクトルのいずれか1つの位相に同期させるようにする。これは、上記の各相の電気周期と制御周期の同期性確保と同じ内容である。具体的には、図2で説明したように、αβ座標系における電圧指令ベクトルVの位相である(φV+θe)に制御角度周期Δθを加算した値の位相を、6つの基本電圧ベクトルのいずれか1つの位相に一致するようにする。
図5では、割込位相がV1の位相に一致させている例が示されている。包絡円96上に12取られた四角印は、図4で説明した30度おきの12個の割込位相にそれぞれ対応する。このように、割込位相を基本電圧ベクトルのいずれか1つの位相に一致させる機能は、同期制御装置54の割込位相同期部62によって実行される。
図6は、同期数K=6で半周期制御のときの予測位相を説明する図である。ここでは、上記のように、割込位相をV1の位相に一致させたものとしている。予測位相とは、生成された電圧指令ベクトルVを用いてPWM信号を生成するタイミングの位相のことである。
上記のように、従来技術の三角波を用いるPWM信号生成においては、相電流等のデータ取得のタイミングから電圧指令値を示す基本波信号の算出までを、半周期制御の場合は三角波の谷から山の期間または山から谷の期間で行い、全周期制御の場合は、三角波の谷から谷の期間で行ない、その後に三角波信号と基本波信号の比較を行なってスイッチングタイミングを求める。この従来手順を、空間ベクトル方式の場合に対応させると、予測位相は、制御角度周期Δθを過ぎてからになる。そこで、予測位相を割込位相からnΔθ進んだところとし、その予測位相に電圧ベクトル指令が存在すると予測する。具体的には、半周期制御の場合には、n=1.5とし、割込位相から1.5Δθ進んだところを予測位相とする。図6では、1.5周期後予測角として、予測位相が示されている。
図7は、同期数K=6で半周期制御のときのPWM信号生成の手順を説明するフローチャートである。ここでは、割込み発生によって、割込位相において、現在の制御角度周期におけるスイッチング切換え角、スイッチングベクトルの書き込みが行なわれる(S10)。と共に、ここで、次の制御角度周期におけるスイッチング切換え角、スイッチングベクトルの書き込みのための回転電機12の各相電流の取得とロータの電気角θeの取得が行なわれる。
各相電流の取得は電流検出部16,18、ロータの電気角θeの取得はレゾルバ14によって行なわれる。次に、制御ブロック50の角度・速度変換部80、dq座標変換部82、電流指令生成部32、減算部36、電流制御部38、リニア補正部42の機能によって、リニア補正後の電圧指令値Vd,Vqが算出される。そして、αβ座標変換部44の機能によって、αβ座標系の電圧指令値Vα,Vβが作成され、PWM信号生成装置56の電圧指令ベクトル生成部66の機能によって、電圧指令ベクトルVが生成されることになるが、このときに、電圧指令ベクトルVが存在する位相領域として、割込位相から1.5周期後予測角である予測位相が用いられる。すなわち、割込位相から1.5周期後予測角である予測位相におけるαβ座標系の電圧指令値Vα,Vβが算出され、これに基づいて電圧指令ベクトルが作成される(S12)。
αβ座標変換部44は、次の式(1),(2)を用いて、リニア補正後のd軸電圧指令値V
dとq軸電圧指令値V
qを、予測位相におけるα軸電圧指令値Vαとβ軸電圧指令値Vβに変換する。これは、次回割込時電圧平均値を算出するために行なわれる。予測位相は、αβ座標系の割込位相から1.5Δθのところであるので、dq座標系では電気角θ
eを用いて(θ
e+1.5Δθ)となる。式(1)は回転電機12の正回転の場合、式(2)は回転電機12の逆回転の場合である。ここで、電圧指令ベクトルVが位相平面上で反時計方向に回るときが正回転、時計方向に回るときが逆回転である。
電圧指令ベクトルVは、大きさが(Vα2+Vβ2)1/2で計算され、d軸基準の位相φVがtan-1(Vβ/Vα)で計算される。
そして、PWM信号生成装置56の領域判定部68の機能により、予測位相が位相領域IからVIのどの領域に属するかを判定する(S14)。具体的には、制御角度周期Δθ=π/同期数=180度/6=30度として、割込位相の位相からnΔθ=1.5Δθ=45度進んだ位相がどの位相領域にあるかを判定する。上記の場合、割込周期はV1の位相であるので、そこから45度進んだ位相は、位相領域Iにあることが判定できる。実際のdq座標系では、電気角θeとd軸基準の電圧指令ベクトルの位相φVを用いて(θe+φV+1.5Δθ)の位相がどの位相領域にあるかを判定することになる。
次に、1.5周期後予測角である予測位相が属する位相領域を予測位相領域として、予測位相領域を規定するスイッチングベクトルに対する電圧指令ベクトルの寄与比率を制御角度周期Δθに対する角度比率として算出する(S16)。この処理は、PWM信号生成装置56の角度比率算出部70の機能によって実行される。ここで、図7では、スイッチングベクトルに対する電圧指令ベクトルの寄与比率を制御角度周期Δθに対する角度比率として、SW角度として、Δθmax,Δθmin,Δθzeroとして示されている。
Δθmaxは、予測位相領域を規定する2つの基本電圧ベクトルのうち、位相の進んでいる最大角ベクトルに対する電圧指令ベクトルの角度比率であり、Δθminは、位相の遅れている最小角ベクトルに対する電圧指令ベクトルの角度比率であり、Δθzeroは、2つのゼロベクトルに対する電圧指令ベクトルの角度比率である。
d軸基準の ここで、角度比率は、制御角度周期Δθの間に、各相アームのスイッチング状態をどのように切り換えるかについての切換期間の長さを定めるのに用いられる。切換期間の長さは時間ではなく、制御角度周期Δθにおける角度比率で定められる。
例えば、位相領域Iでは、2つの基本電圧ベクトルはV1とV3であり、V1は(1,0,0)であるので、U相アームが0の状態、V相アームが0の状態、W相アームが1の状態である。同様に、V3は(1,1,0)は、U相アームが1の状態、V相アームが1の状態、W相アームが0の状態である。位相が進んでいる最大角ベクトルはV3であるので、この(1,1,0)の状態がどの程度の期間の長さで継続するかの割合を示すのがΔθmaxである。同様に、V1の(1,0,0)の状態がどの程度の期間の長さで継続するかの割合を示すのがΔθminであり、V0の(0,0,0)およびV7の(1,1,1)の状態がどの程度の期間の長さで継続するかの割合を示すのがΔθzeroである。
そのためには、電圧指令ベクトルVと、2つの基本電圧ベクトル、2つのゼロベクトルとの間の関係式を求めることが必要である。その様子を図8から図10を用いて説明する。
図8は、位相領域Iについて、2つの基本電圧ベクトルV1とV3と、αβ座標系との関係を示す図である。ここでは、V1をVθmin、V3をVθmaxとして示してある。min,maxの区別は、位相の進んでいる方をmax、遅れている方をminとしてある。したがって、位相領域Iでは上記のようになるが、位相領域IIでは、V3がVθmin、V2がVθmaxとなる。他の位相領域でも同様に、位相の進んでいる最大角ベクトルがVθmaxで、位相の遅れている最小角ベクトルがVθminである。位相領域Iについて以下に述べる内容は、各位相領域の2つの基本電圧ベクトルをVθmin、Vθmaxと区別することで、他の位相領域についても同様に適用できる。
図8では、V1であるVθminがα軸に対し位相γだけ進んでいる状態の例が示されている。ここで、Vθminのα軸成分をVαθminとし、β軸成分をVβθminとすると、Vαθmin=Vθmin・cosγ、Vβθmin=Vθmin・sinγで示される。同様に、Vθmaxのα軸成分をVαθmaxとし、β軸成分をVβθmaxとすると、Vαθmax=Vθmax・cos(60°+γ)、Vβθmax=Vθmax・sin(60°+γ)で示される。
このようにVθ
minのα軸成分をVαθ
minで、β軸成分をVβθ
minで表し、Vθ
maxのα軸成分をVαθ
maxで、β軸成分をVβθ
maxで表し、同様にゼロベクトルのα軸成分をV
0αで、β軸成分をV
0βで表す。そして、Vθ
maxの寄与率である角度比率をΔθ
maxとし、Vθ
minの角度比率をΔθ
minとし、ゼロベクトルの角度比率をΔθ
zeroとすると、式(1),(2)で求められたVα,Vβは一般式として次の式(3),(4)のように書くことができる。
そして、Δθ
maxとΔθ
minとθ
zeroは、それぞれΔθの寄与比率を角度で示したものであるので、式(5)の関係が成立する。
ここで、V
0αとV
0βはゼロとなるので、式(4)から次の式(6)が得られる。
これを書き直して、Δθ
minが式(8)のように求められる。
同様にして、式(9),(10),(11)のようにしてΔθ
maxが得られる。
このようにして、ΔθminとΔθmaxの一般式が得られる。この2つが求められれば、Δθzeroは式(5)から求められる。
ここで、位相領域Iを考えると、図8でγ=0°の状態である。そのときのVαθmin,Vβθmin,Vαθmax,Vβθmaxの様子を図9に示す。ここで示されるように、Vαθmin=Vθmin・cos0°=Vθmin、Vβθmin=0、Vαθmax=Vθmax・cos60°=(1/2)Vθmax、Vβθmax=Vθmax・sin60°=(31/2/2)Vθmaxとなる。なお、位相領域IIの場合は図8でγ=60°として同様にVαθmin,Vβθmin,Vαθmax,Vβθmaxを求めることができる。他の位相領域についてもγを対応する角度とすることで同様にVαθmin,Vβθmin,Vαθmax,Vβθmaxを求めることができる。
図9でVθ
minとVθ
maxの大きさを仮に1として、式(8),(11)の分母を計算すると、式(12)となる。
図3で説明したように、VθminとVθmaxの大きさは、(2/3)1/2Vdcである。ここで、(Vdc/2)を規格化された電圧の単位にとって、(Vdc/2)=1とすると、VθminとVθmaxの大きさは、2×(2/3)1/2となる。これを式(12)に適用すると、式(8),(11)の分母は、(31/2)/2に2×(2/3)1/2を乗じた値となり、(21/2)となる。
式(8),(11)におけるVθ
minとVθ
maxは、Δθを単位としての寄与分を示しているので、制御角度周期Δθに対する角度比率でVθ
minとVθ
maxを示すと、式(13)となる。この式は、(V
dc/2)を規格化された電圧の単位にとったもので、Vα,Vβ,Vαθ
min,Vβθ
min,Vαθ
max,Vβθ
maxもそれぞれ、(V
dc/2)=1Vとして規格化された電圧で示された値である。
具体的に位相領域Iにおいて、電圧指令ベクトルVについて、ΔθminとΔθmaxを求める様子を図10に示す。図10に示されるように、電圧指令ベクトルVのVθminに対する寄与比率は、{Vα−(1/31/2)Vβ}であり、電圧指令ベクトルVのVθmaxに対する寄与比率は、(2/31/2)Vβ}である。この値を先ほどの規格化された電圧に合わせるには、VθminとVθmaxの大きさである2×(2/3)1/2で除算すればよい。
そして、その結果を制御角度周期Δθに対する角度比率で示すと、電圧指令ベクトルVのVθminに対する角度比率は、(Δθ/21/2)[{(31/2/2)Vα−(1/2)Vβ]となり、Vβθmax=Vθmax・sin60°=sin60°= (31/2/2)とし、Vαθmax=Vθmax・cos60°=cos60°=(1/2)と置きなおして、式(13)のΔθminと一致する。同様に、電圧指令ベクトルVのVθmaxに対する寄与比率を制御角度周期Δθに対する角度比率で示すとVβとなるが、これは、Vαθmin=Vθmin・cos0°=cos0°=1、Vθmin、Vβθmin=0と置きなおすことで、式(13)のΔθmaxと一致する。
図10に示すように、電圧を規格化し、Δθの大きさをVθminおよびVθmaxの大きさに規格化することで、電圧指令ベクトルVのVθmin成分がそのままΔθminとなり、電圧指令ベクトルVのVθmax成分がそのままΔθmaxとなることが分かる。
上記では、位相領域Iについて説明したが、他の位相領域も含めたΔθ
minとΔθ
maxの一般式は、α軸とVθ
minとの間の位相をθ
min、α軸とVθ
maxとの間の位相をθ
maxとして、式(14)で与えられる。
図11は、半周期制御で、同期数K=6として、割込位相をVminの基本電圧ベクトルに一致させたときの電圧指令ベクトルVのΔθminとΔθmaxの様子を示す図である。なお、Vθmin,Vθmaxは、各位相領域を区画する2つの基本電圧ベクトルの中で位相の遅れている方である最小角ベクトルと、位相の進んでいる最大角ベクトルのことであるので、以下では、簡単にVmin,Vmaxとして示すことにする。
この場合には、予測位相がVminの位相から45度のところとなるので、その位相のところに電圧指令ベクトルVがあると予測される。ここで、Δθの大きさをVminおよびVmaxの大きさとすると、電圧指令ベクトルVのVmin成分が角度比率Δθminとなり、Vmax成分が角度比率Δθmaxとなる。VminまたはVmaxの大きさから(Δθmin+Δθmax)を減算した残りがΔθzeroとなる。
このようにして、電圧指令ベクトルVについての各スイッチングベクトルに対する角度比率がそれぞれ算出されると、再び図7に戻り、予め定められたスイッチング切換順序に従いスイッチングベクトルを選択し、選択されたスイッチングベクトルの期間を角度比率で定めて、各スイッチングベクトル間の切換位相を算出し、PWM信号を生成する(S18)。この処理は、PWM信号生成装置56の切換位相算出部72の機能によって実行される。図7では、次の周期のスイッチング切換え角計算とスイッチングベクトル選択として示されている。スイッチング切換え角とは、切換位相のことである。
スイッチングベクトルの切換順序は、各位相領域において予め定められているので、この切換順序に従って、順次スイッチングベクトルが選択されることになる。図12は、半周期制御におけるスイッチングベクトルの切換順序を各位相領域に対応付けて示した図である。このスイッチング切換順序は、半周期制御と全周期制御に分け、各位相領域に関連付けて、記憶部48に予め格納されている。
図12で領域とあるのは、位相領域である。また、同期数タイミングとあるのは、半周期制御において各位相領域が2つに分けて制御されるのでこれを区別するものである。同期数タイミング1がVmin側の領域で、同期数タイミング2がVmax側の領域である。最小角と最大角は、α軸基準のVminの位相とVmaxの位相である。選択ベクトルは、各位相領域における4つのスイッチングベクトルの中で2つの基本電圧ベクトルを指し、最小角の方がVminで、最大角の方がVmaxである。出力ベクトル順序がスイッチングベクトルの切換順序であり、位相を進ます方向にこの順序でスイッチングベクトルが順次選択されて切り換えられることを示す。
例えば、位相領域Iにおいては、スイッチングベクトルは、2つの基本電圧ベクトルであるV1とV3と、2つのゼロベクトルであるV0とV7である。そして、これらのスイッチングベクトルは、V1の位相からV3の位相に向かって、V7−V3−V1−V0−V0−V1−V3−V7の順序で選択され、順次切り換えられる。同期数K=6の場合は、V1の位相からV3の位相の間の角度がちょうど制御角度周期Δθであるので、この1つの制御角度周期において、インバータ回路20のU相アーム22、V相アーム24、W相アーム26は、この順序でスイッチングが切り換えられることになる。そして、その切換の間隔が、S16で算出された角度比率で設定される。
上記のように、スイッチング切換順序は、記憶部48に予め格納されるが、その記憶形式は、図12のようなルックアップテーブル形式以外でも構わない。図13は、フローチャート形式でスイッチング切換順序を示したものであるが、このような形式で記憶部48に記憶するものとしてもよい。また、図14は、マップ形式でスイッチング切換順序を示したものであるが、このような形式で記憶部48に記憶するものとしてもよい。
図13のフローチャートでは、まず、位相領域を特定する(S22)。位相領域の特定の手順はS14で既に述べた。S22の結果は2通りに分かれ、例えば、位相領域Iの同期数タイミング1の場合はS24に進み、位相領域Iの同期数タイミング2の場合はS26に進む。そして、S24の場合は、最初にV7が選択され、その角度比率は(Δθzero/2)とされる。S26の場合は、最初にV0が選択され、その角度比率は(Δθzero/2)とされる。
次に再び位相領域が特定され(S28)、その結果に応じてS30かS32に進む。例えば、位相領域Iの同期数タイミング1の場合はS30に進み、位相領域Iの同期数タイミング2の場合はS32に進む。そして、S30の場合は、最大角ベクトルであるVmaxが2番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmaxとされる。次に、最小角ベクトルであるVminが3番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθminとされる。S32の場合は、Vminが2番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθminとされる。次にVmaxが3番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmaxとされる。
そして再び位相領域が特定され(S34)、その結果に応じてS36かS38に進む。例えば、位相領域Iの同期数タイミング1の場合はS36に進み、位相領域Iの同期数タイミング2の場合はS38に進む。そして、S36の場合は、V0が選択され、その角度比率は(Δθzero/2)とされる。S38の場合は、V7が選択され、その角度比率は(Δθzero/2)とされる。
図14は、位相領域Iについてのスイッチングベクトルの選択と切換順序を示したもので、各スイッチングベクトルの間の切換位相がθcomp1,θcomp2,θcomp3で示されている。この切換位相は、角度比率によって以下のように定めることができる。
すなわち、同期数タイミング1においては、最初のゼロベクトルはV7であり、最後のゼロベクトルはV0であるが、同期数タイミング2においては、最初のゼロベクトルはV0であり、最後のゼロベクトルはV7である。そして、各半周期制御の最初の切換位相であるθ
comp1は、電圧指令ベクトルVの位相である(φ
V+θ
e)と制御角度周期Δθを用いて、式(15)で設定される。
また、同期数タイミング1の場合のθ
comp2,θ
comp3は、角度比率Δθ
minと角度比率Δθ
maxを用いて、式(16)で設定される。
同様に、同期数タイミング2の場合のθ
comp2,θ
comp3も、角度比率Δθ
minと角度比率Δθ
maxを用いて、式(17)で設定される。
上記では、位相領域Iの同期数タイミング1,2について述べたが、他の位相領域についても同様に切換位相を設定することができる。すなわち、位相領域Iの同期数タイミング1に用いられる式(16)は、位相領域IIの同期数タイミング2、位相領域IIIの同期数タイミング1、位相領域IVの同期数タイミング2、位相領域Vの同期数タイミング1、位相領域VIの同期数タイミング2にそのまま用いることができる。また、位相領域Iの同期数タイミング2に用いられる式(17)は、位相領域IIの同期数タイミング1、位相領域IIIの同期数タイミング2、位相領域IVの同期数タイミング1、位相領域Vの同期数タイミング2、位相領域VIの同期数タイミング1にそのまま用いることができる。
このように、切換位相は、角度比率Δθminと角度比率Δθmaxによって変わるので、電圧指令ベクトルVの大きさによって、切換位相が変わることになる。図15は、同期数K=6で半周期制御のときの位相領域Iを2分した各領域について、2つの基本電圧ベクトルの角度比率Δθminと角度比率Δθmaxと、この角度比率を電圧指令ベクトルの切換順序に対応させて示す図である。
図15では、電圧指令ベクトルが位相領域Iを規定する6角形の辺94の内部に留まっている。図16は、電圧指令ベクトルが6角形の辺94にちょうど到達したときである。この6角形の辺94は、これを超えると過変調制御モードとなる境界線であるので、図15,16の電圧指令ベクトルは正弦波制御モードで駆動されることになる。図16は、正弦波制御モードの限界であり、ゼロベクトルが消失している。すなわち、Δθ=(Δθmax+Δθmin)の状態である。
図15,16に示されるように、予め定められた切換順序で、各スイッチングベクトルにそれぞれ角度比率が設定されると、これに基づいてPWM信号が生成される。例えば、図15の位相領域Iの同期数タイミング1では、V7−V3−V1−V0の順序でスイッチングベクトルが切り換わる。これを8通りのスイッチングパターンで並べると、(1,1,1)−(1,1,0)−(1,0,0)−(0,0,0)の順序である。
ここで、U相アーム22についてのスイッチング状態の変化を角度比率と合わせて並べると、角度比率(Δθzero/2)の1状態−角度比率Δθmax(1)の1状態−角度比率Δθmin(1)の1状態−角度比率(Δθzero/2)の0状態となる。同様に、V相アーム24についてのスイッチング状態の変化を角度比率と合わせて並べると、角度比率(Δθzero/2)の1状態−角度比率Δθmax(1)の1状態−角度比率Δθmin(1)の0状態−角度比率(Δθzero/2)の0状態となる。W相アーム26についてのスイッチング状態の変化を角度比率と合わせて並べると、角度比率(Δθzero/2)の1状態−角度比率Δθmax(1)の0状態−角度比率Δθmin(1)の0状態−角度比率(Δθzero/2)の0状態となる。
これを各位相領域について並べれば、インバータ回路20の各相アームのスイッチングパターンが各位相について求められる。これが位相について求めたPWM信号である。時間に関係なく、位相でスイッチングパターンを定められるので、インバータ回路20の基本波信号の周波数が低周波となっても、大きなタイマを準備する必要がなくなる。
図17は、正弦波制御モード、つまり、電圧指令ベクトルが図15,16の状態におけるPWM信号を生成した結果を示す図である。ここで、横軸は位相、縦軸は電圧である。例えば、位相が0度から30度の区間は、位相領域Iの同期数タイミング1の領域に相当するが、上記の説明のように、U相アームのスイッチング状態は、1状態−1状態−1状態−0状態であり、V相アームのスイッチング状態は、1状態−1状態−0状態−0状態
であり、W相アームのスイッチング状態は、1状態−0状態−0状態−0状態となる。他の位相区間においても同様にして、各相アームのスイッチング状態を示すPWM信号が生成される。
このようにして、PWM信号が生成されると、再び図7に戻り、次回の割込位相である割込み角度が計算されて、制御角度周期Δθにおける一連の処理が終了する(S20)。
以上が正弦波制御モードにおける説明であるが、図18は、電圧指令ベクトルの大きさが図16の状態よりもさらに大きくなり、6角形の辺94を超えて過変調制御モードとなった状態を示す図である。なお、電圧指令ベクトルの基本電圧ベクトル成分が包絡円96の内部に留まっているうちは過変調制御モードであるが、電圧指令ベクトルの基本電圧ベクトル成分が包絡円96に達すると矩形波制御モードとなる。
図18の状態では、角度比率計算上のΔθ
minとΔθ
maxを用いた(Δθ
min+Δθ
max)の値がΔθを超えるので、図16で説明したようにゼロベクトルが消失する。そして、(Δθ
min+Δθ
max)=Δθとなるように、算出された角度比率であるΔθ
minと算出された角度比率であるΔθ
maxのうち、いずれか一方の算出角度比率をそのままその一方の基本電圧ベクトルの角度比率とし、他方の基本電圧ベクトルの角度比率は、1から一方の基本電圧ベクトルの角度比率を減算した値とする。例えば、算出されたΔθ
minの方を優先するときは、Δθ
minはそのままとし、Δθ
max=(Δθ−Δθ
min)とする。このことを数式化すると、式(18)のようになる。
勿論、算出されたΔθ
maxの方を優先するときは、Δθ
maxはそのままとし、Δθ
min=(Δθ−Δθ
max)とする。このことを数式化すると、式(19)のようになる。Δθ
minとΔθ
maxのいずれを優先するかは、予め定めておくことができる。
過変調制御モードにおける切換順序は、正弦波制御モードにおいてゼロベクトルを省略したものとなる。図18の半周期制御で同期数K=6で位相領域Iの場合は、V3−V1−V1−V3の切換順序となる。そして、V1とV3の角度比率は、上記で述べた一方側優先の方法で(Δθmin+Δθmax)=Δθを守りながら設定される。このようにして、予め定められた切換順序で、各基本電圧ベクトルにそれぞれ角度比率が設定されると、これに基づいて、過変調制御モードにおけるPWM信号が生成される。図19は、過変調制御モードにおけるPWM信号を生成した結果を示す図である。
図20は、電圧指令ベクトルの大きさが図18の状態よりもさらに大きくなり、電圧指令ベクトルの基本電圧ベクトル成分が包絡円96に達した状態となった様子を示す図である。この状態は矩形波制御モードである。
図20の状態では、角度比率計算上のΔθ
minまたはΔθ
maxの一方がΔθと同じとなる。そこで、(Δθ
min+Δθ
max)=Δθとなるように、算出された角度比率であるΔθ
minと算出された角度比率であるΔθ
maxのうち、いずれか大きい方の算出角度比率はそのままその基本電圧ベクトルの角度比率とし、他方の基本電圧ベクトルの角度比率はゼロとする。このことを数式化すると、式(20)のようになる。
矩形波制御モードにおける切換順序は、位相平面上における基本電圧ベクトルの配置順序となる。図20の半周期制御で同期数K=6で位相領域Iの場合は、V1−V3の切換順序となる。そして、V1とV3の角度比率は、上記で述べたように、各基本電圧ベクトルについて算出されたΔθminと算出されたΔθmaxのうち、いずれか大きい方の角度比率に設定される。実際には、いずれか大きい方の角度比率は1であるので、制御角度周期Δθの全体の期間にわたってV1またはV3が適用される。このようにして、予め定められた切換順序で、各基本電圧ベクトルにそれぞれ角度比率として1が設定されると、これに基づいて、過変調制御モードにおけるPWM信号が生成される。図21は、矩形波制御モードにおけるPWM信号を生成した結果を示す図である。
図17,19,21で説明したように、角度比率を用いることで、正弦波制御モード、過変調制御モード、矩形波制御モードについて、一貫して同じ方法でPWM信号を生成することができる。
上記では、半周期制御で同期数K=6について説明したが、同期数Kは6以外であっても同様に角度比率を用いてPWM信号を生成することができる。図22から図26は、半周期制御で同期数K=9の例である。この場合は、制御角度周期Δθは、180度/9=20度となる。図22,23は、同期数K=6の図4,5に対応する図で、割込位相が20度間隔で設定される様子が示される。予測位相は、20度の1.5倍で、割込位相から30度位相が進んだところとされる。
図24は、同期数K=6の図17に対応する図で、正弦波制御モードの状態におけるPWM信号生成の様子を示す図である。図25は、同期数K=6の図19に対応する図で、過変調制御モードの状態におけるPWM信号生成の様子を示す図である。図26は、同期数K=6の図21に対応する図で、矩形波制御モードの状態におけるPWM信号生成の様子を示す図である。このように、角度比率を用いることで、同期数Kを変えても、正弦波制御モード、過変調制御モード、矩形波制御モードについて、一貫して同じ方法でPWM信号を生成することができる。
次に、リニア補正について説明する。上記のようにして生成されたPWM信号に対応する基本波振幅は、その元となった電圧指令ベクトルに対応する電圧指令振幅と必ずしも線形的に変化しない。例えば、過変調制御モードでは、電圧指令振幅の増加に対し基本波振幅の増加は少なくなる。リニア補正は、基本波振幅と電圧指令振幅との間の線形性のずれを補正するものである。補正は、d軸電圧指令値Vd *とq軸電圧指令値Vq *を補正して電圧指令振幅を補正することで行なわれる。
具体的には、電圧指令振幅と基本波振幅との関係を示す電圧振幅特性マップをリニア補正値として記憶部48に予め記憶しておく。そして、制御ブロック50のリニア補正部42は、電圧振幅特性マップを読み出して、基本波振幅を電圧指令振幅に一致させるために必要な電圧指令振幅を算出し、算出した電圧指令振幅に基づいて、リニア補正後のd軸電圧指令値Vdとq軸電圧指令値Vqを算出する。このようにすることで、電圧指令振幅通りの基本波振幅とすることができる。
図27から図30は、リニア補正値として用いられる電圧振幅特性マップで、縦軸に基本波振幅がとられ、横軸に基本波振幅を電圧指令振幅に一致させるために必要な電圧指令振幅がとられている。これらのリニア補正値は、同期数Kに対応付けて、記憶部48に記憶される。
上記では、半周期制御について詳細に説明した。半周期制御は、従来の三角波におけるPWM信号生成において、相電流等のデータ取得のタイミングから電圧指令値を示す基本波信号の算出までを、三角波の谷から山の期間で行うものである。半周期制御と並ぶものとして、従来の三角波におけるPWM信号生成でも、相電流等のデータ取得のタイミングから電圧指令値を示す基本波信号の算出までを三角波の谷から谷の期間で行なう全周期制御が行なわれている。角度比率を用いてPWM信号生成を行なうことは、この全周期制御についても勿論適用可能である。以下では、全周期制御における角度比率を用いたPWM信号生成について、半周期制御と相違する点を中心に説明する。ここでは、半周期制御で同期数K=6について主に説明したことにならい、全周期制御で同期数K=6について図31から図38を用いて主に説明し、同期数K=9の場合についても図39と図40を用いて簡単に述べる。
半周期制御と全周期制御とでは、制御角度周期Δθが2倍相違する。図31、図32は、半周期制御の図4、図5に対応する図で、全周期制御における割込位相の様子を示す図である。この場合、制御角度周期Δθは、360度/6=60度であるので、60度おきに割込位相が設定される。
図33は、半周期制御の図6に対応する図で、全周期制御における予測位相の様子を示す図である。全周期制御では、予測位相として第1予測位相と第2予測位相の2つを用いる。第1予測位相は、割込位相から1.25×Δθだけ進んだ位相に設定され、第2予測位相は、割込位相から1.75×Δθだけ進んだ位相に設定される。
図34は、半周期制御の図7に対応する図で、全周期制御のときのPWM信号生成の手順を説明するフローチャートである。S40は、図7に関連して説明したS10と同様の内容であるので、詳細な説明を省略する。
S42は、図7に関連して説明したS12に対応する処理手順である。すなわち、割込位相から1.25周期後予測角である第1予測位相におけるαβ座標系の電圧指令値Vα,Vβが算出され、また、割込位相から1.75周期後予測角である第2予測位相におけるαβ座標系の電圧指令値Vα,Vβが算出される。
具体的には、αβ座標変換部44は、次の式(21),(22)を用いて、リニア補正後のd軸電圧指令値V
dとq軸電圧指令値V
qを、それぞれ第1予測位相および第2予測位相におけるα軸電圧指令値Vαとβ軸電圧指令値Vβに変換する。これは、次回割込時電圧平均値を算出するために行なわれる。式(21),(22)はいずれも回転電機12の正回転の場合であるが、逆回転の場合には、Δθに関する符号を+から−に変更すればよい。
S44は、図7に関連して説明したS14に対応する処理手順で、その内容はS14と同様であるので、詳細な説明を省略するが、この場合には、第1予測位相がV1の位相から75度、第2予測位相がV1の位相から105度となるので、予測位相領域は、位相領域IIとなる。
S46とS48は、図7に関連して説明したS16に対応する処理手順で、ΔθminとΔθmaxとΔθzeroを算出する処理であるが、ここでは、第1予測位相についてのS46と第2予測位相についてのS48とに分かれて処理が行なわれる。なお、添え字のfhとshは、第1を意味するfirstと第2を意味するsecondを示す略字として用いている。
すなわち、S46において、第1予測位相におけるΔθ
min-fhとΔθ
max-fhとΔθ
zero-fhは、S16で用いられる式(14)に対応する式(23)で算出される。
式(23)は一般式であり、正弦波制御モードに用いられるが、過変調制御モードの場合は、Δθ
minとΔθ
maxのいずれを優先するかによって使い分けられる式(18),(19)に対応する式(24),(25)が用いられる。
また、矩形波制御モードの場合は、式(20)に対応する式(26)が用いられる。
同様に、S48において、第2予測位相におけるΔθ
min-shとΔθ
max-shとΔθ
zero-shは、第1予測位相における式(23)に対応する式(27)で算出される。
式(27)は一般式であり、正弦波制御モードに用いられるが、過変調制御モードの場合は、Δθ
min-shとΔθ
max-shのいずれを優先するかについて、第1予測位相における式(24),(25)に対応する式(28),(29)が用いられる。
また、矩形波制御モードの場合は、第1予測位相における式(26)に対応する式(30)が用いられる。
図35は、図11に対応する図で、全周期制御で、同期数K=6として、割込位相をV1の基本電圧ベクトルに一致させたときの1.25Δθと1.75Δθにおける電圧指令ベクトルのそれぞれについて、Δθmin-fh,Δθmax-fh,Δθmin-sh,Δθmax-shの様子を示す図である。上記のように、第1予測位相がV1の位相から75度、第2予測位相がV1の位相から105度となるので、その位相のところに電圧指令ベクトルVがあると予測される。
ここで、Δθの大きさをVminおよびVmaxの大きさとすると、第1予測位相における電圧指令ベクトルのVmin成分が角度比率Δθmin-fhとなり、Vmax成分が角度比率Δθmax-fhとなる。VminまたはVmaxの大きさから(Δθmin-fh+Δθmax-fh)を減算した残りがΔθzero-fhとなる。同様に、第2予測位相における電圧指令ベクトルのVmin成分が角度比率Δθmin-shとなり、Vmax成分が角度比率Δθmax-shとなる。VminまたはVmaxの大きさから(Δθmin-sh+Δθmax-sh)を減算した残りがΔθzero-shとなる。
図34に再び戻って、S50は、図7に関連して説明したS18に対応する処理手順で、予め定められたスイッチング切換順序に従いスイッチングベクトルを選択し、選択されたスイッチングベクトルの期間を角度比率で定めて、各スイッチングベクトル間の切換位相を算出し、PWM信号を生成する。
図36は、図12に対応する図で、全周期制御におけるスイッチングベクトルの切換順序を各位相領域に対応付けて示した図である。それぞれの項目の内容は、図12で述べたものと同様であるので、詳細な説明を省略する。
図37は、図13に対応するフローチャートである。ここでは、まず、最初にV7が選択され、その角度比率は(Δθzero-fh/2)とされる(S54)。次に位相領域が特定され(S56)、その結果に応じてS58かS60に進む。例えば、位相領域Iの場合はS58に進み、位相領域IIの場合はS60に進む。そして、S58の場合は、第1予測位相における最大角ベクトルVmax-fhが2番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmax-fhとされる。次に、第1予測位相における最小角ベクトルVmin-fhが3番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmin-fhとされる。S60の場合は、Vmin-fhが2番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmin-fhとされる。次に、Vmax-fhが3番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmax-fhとされる。
次に、4番目のスイッチングベクトルとしてV0が選択され、その角度比率は、(Δθzero-fh/2)+(Δθzero-sh/2)とされる(S62)。そして、再び位相領域が特定され(S64)、その結果に応じてS66かS68に進む。例えば、位相領域Iの場合はS68に進み、位相領域IIの場合はS66に進む。そして、S66の場合は、第2予測位相における最大角ベクトルVmax-shが5番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmax-shとされる。次に、第2予測位相における最小角ベクトルVmin-shが6番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmin-shとされる。S68の場合は、Vmin-shが5番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmin-shとされる。次に、Vmax-shが6番目のスイッチングベクトルとして選択され、その角度比率はΔθmax-shとされる。最後に、7番目のスイッチングベクトルとしてV7が選択され、その角度比率は(Δθzero-fh/2)とされる(S70)。
図38は、図14に対応する図で、位相領域Iについてのスイッチングベクトルの選択と切換順序を示したもので、各スイッチングベクトルの間の切換位相がθcomp1,θcomp2,θcomp3,θcomp4,θcomp5,θcomp6で示されている。この切換位相は、角度比率によって以下のように定めることができる。
すなわち、最初のゼロベクトルとしてV7が用いられ、そこからの最初の切換位相であるθ
comp1は、電圧指令ベクトルVの位相である(φ
V+θ
e)と制御角度周期Δθと角度比率Δθ
zero-fhを用いて、式(31)で設定される。
また、θ
comp2,θ
comp3は、第1予測位相における最小角ベクトルがV1であり、最大角ベクトルがV3であるので、V1の角度比率Δθ
min-fhと、V3の角度比率Δθ
max-fhを用いて、式(32)で設定される。
その後にゼロベクトルのV0が用いられ、その次のθ
comp4は、角度比率Δθ
zero-fhとΔθ
zero-shを用いて、式(33)で設定される。
また、θ
comp5,θ
comp6は、第2予測位相における最小角ベクトルがV1であり、最大角ベクトルがV3であるので、V1の角度比率Δθ
min-shと、V3の角度比率Δθ
max-shを用いて、式(34)で設定される。θ
comp6の後にはゼロベクトルのV7が用いられる。
上記の切換位相は、図37で説明したように、位相領域III,Vにも同様に適用される。
位相領域II,IV,VIについては、θ
comp1は式(31)と同じであるが、θ
comp2,θ
comp3は、式(35)で設定される。
また、位相領域II,IV,VIについてのθ
comp4は式(33)と同じであるが、θ
comp5,θ
comp6は、式(36)で設定される。
このようにして、PWM信号が生成されると、再び図34に戻り、次回の割込位相である割込み角度が計算されて、制御角度周期Δθにおける一連の処理が終了する(S52)。
上記では、全周期制御で同期数K=6について説明したが、同期数Kは6以外であっても同様に角度比率を用いてPWM信号を生成することができる。図39,40は、全周期制御で同期数K=9の例である。この場合は、制御角度周期Δθは、360度/9=40度となる。図39,40は、同期数K=6の図31,32に対応する図で、割込位相が40度間隔で設定される様子が示される。なお、予測位相は、40度の1.5倍で、割込位相から60度位相が進んだところとされる。
上記では、各位相領域はそれぞれが1つの領域として、最小角ベクトルと最大角ベクトルの間の位相は60度である。したがって、角度比率はこの60度を基本として、その1/2,1/4等の値を用いることが多い。例えば、予測位相が最小角ベクトルから30度の位相のところとなることがある。この場合、各位相領域の最小角ベクトルからも最大角ベクトルからも等位相のところが正確に区別できる必要がある。位相の設定はレゾルバ14によって検出される電気角θeに基づいて行なわれるが、レゾルバ14の分解能は、必ずしも6の倍数とは限らない。したがって、各位相領域における最小角ベクトルからも最大角ベクトルからも等位相のところが正確に区別できないことが生じ得る。
これは電気角センサの精度の問題であるが、この問題を角度比率の算出に影響しないように、半周期制御においては、図41に示すように、位相領域を2つに分けることができる。図41では、位相領域Iを、最小角ベクトルからの位相で30度±(1/4)Δθの領域I−Aと、それ以外の領域I−Bに分けてある。(1/4)Δθは、(1/8)Δθ等のように、(1/2n)Δθとすることがよい。2のべき乗としたのは、ビットシフトで計算量を少なくするためであり、予測位相である1.5周期後予測角が領域I−Aか領域I−Bであるかが判断できる数値に設定すればよい。
領域I−Bにおける角度比率の算出は、既に述べた式(14),(18),(19),(20)を用いることができる。領域I−Aにおける角度比率の算出は、次の式(37)を用いることができる。
ここで、例えば、予測位相が最小角ベクトルから30度のところにあることを考えると、角度比率であるΔθ
minもΔθ
maxも本来は同じ値となる。上記のようにレゾルバ14の精度によっては、レゾルバ14の検出値に基づいて算出するΔθ
minとΔθ
maxが同じ値にならないことが生じ得る。そのような場合のために、領域I−Aでは、2つの基本電圧ベクトルのうち、いずれか一方の基本電圧ベクトルの算出角度比率をそのままその一方の基本電圧ベクトルの角度比率とし、他方の基本電圧ベクトルの角度比率は、その一方の基本電圧ベクトルの角度比率と等しいとすることがよい。式(37)にΔθ
maxが示されていないのは、そのような理由からである。なお、上記のことを数式化すると式(38)のようになる。
式(37),(38)は半周期制御についてのものであるが、全周期制御の場合は、第1予測位相と第2予測位相を区別する必要がある。第1予測位相のときは、次の式(39),(40)を用い、第2予測位相のときは式(41),(42)を用いることができる。
位相の設定については、上記の各位相領域の最小角ベクトルからも最大角ベクトルからも等位相のところが正確に区別できるほかに、最小角ベクトルの位相、最大角ベクトルの位相を正確に区別できることも必要である。そこで、図42に示すように、位相領域を3種類に分けることができる。図42では、位相領域Iを、最小角ベクトルおよび最大角ベクトルからの位相で±(1/4)Δθの領域I−Aと、最小角ベクトルからの位相で30度±(1/4)Δθの領域I−Bと、それ以外の領域I−Cに分けてある。(1/4)Δθは、(1/8)Δθ等のように、(1/2n)Δθとすることがよい。2のべき乗としたのは、ビットシフトで計算量を少なくするためであり、予測位相である1.5周期後予測角が領域I−Aか領域I−Bか領域I−Cであるかが判断できる数値に設定すればよい。
領域I−B、領域I−Cにおける角度比率の算出は、既に述べた式(14),(18),(19),(20),(37),(38)を用いることができる。領域I−Aにおける角度比率の算出は、次の式(43)を用いることができる。
ここで、例えば、予測位相が最小角ベクトルまたはの最大角ベクトルのところにあることを考えると、角度比率であるΔθ
minまたはΔθ
maxは本来はゼロとなる。上記のようにレゾルバ14の精度によっては、レゾルバ14の検出値に基づいて算出するΔθ
minとΔθ
maxがゼロにならないことが生じ得る。そのような場合のために、領域I−Aでは、2つの基本電圧ベクトルのうち、一方の基本電圧ベクトルの算出角度比率そのままその一方の基本電圧ベクトルの角度比率とし、他方の基本電圧ベクトルの角度比率をゼロとすることがよい。式(43)にΔθ
maxが示されていないのは、そのような理由からである。なお、上記のことを数式化すると式(44)のようになる。
上記では、同期数Kが一定であるとして説明したが、例えば、正弦波制御モードと過変調制御モードと矩形波制御モードとの間で制御モードを変更するときに、同期数Kを変更することが行なわれる。同期数Kが変わると、制御角度周期Δθが変わるので、そのままでは割込位相が変わることになる。割込位相は基本電圧ベクトルと同期をとるので、割込位相は同期数Kが変わってもあまり変更しない方が好ましい。そこで、図43から図46に示すように、同期数Kに応じて予め定めた基本電圧ベクトルの位相に割込位相が一致したときに同期数を変更することが行なわれる。この機能は、同期制御装置54の同期数切換部64によって実行される。
図43は、半周期制御の同期数K=6の場合の例で、破線の丸印の割込位相のときに同期数Kの切換が行なわれる。図44は、半周期制御の同期数K=9の場合の例で、破線の丸印の割込位相のときに同期数Kの切換が行なわれる。ここで示されるように、半周期制御においては、6つの基本電圧ベクトルのいずれか1つの位相に一致した割込位相において、同期数Kの切換が行なわれる。
図45は、全周期制御の同期数K=6の場合の例で、破線の丸印の割込位相のときに同期数Kの切換が行なわれる。図46は、全周期制御の同期数K=9の場合の例で、破線の丸印の割込位相のときに同期数Kの切換が行なわれる。ここで示されるように、全周期制御においては、6つの基本電圧ベクトルのうち、U相アームのみが上素子オン・下素子オフとされるV1、V相アームのみが上素子オン・下素子オフとされるV2、W相アームのみが上素子オン・下素子オフとされるV4のいずれか1つの位相に一致した割込位相において、同期数Kの切換が行なわれる。
上記では、最初の割込位相を6つの基本電圧ベクトルのいずれか1つに一致させるものとして説明したが、同期数Kによっては、制御角度周期Δθごとの以後の割込位相が必ずしも6つの基本電圧ベクトルのいずれか1つに一致しないことが生じる。この場合でも、例えば、半周期制御において、1.5Δθ後の予測位相が(θe+φV)=90度となるようにする必要がある。これは、インバータ回路20の基本波信号の山となるところを、予測位相としたいためである。そのために、同期数Kによって、割込位相の設定に条件が付けられる。
図47は、半周期制御で同期数K=9の場合である。図48は、半周期制御で同期数=15の場合である。これらにおいて、同期数タイミングを1と2と交互に区別するものとして、それぞれが四角印と三角印で示されている。1.5Δθ後の予測位相が(θe+φV)=90度となるための割込位相は、予測位相から1.5Δθ位相が遅れているところのものであるので、図47でも図48でも、同期数タイミングが2のときである。このように、割込位相に条件が付されるので、同期数Kによって最初の割込位相に一致させる基本電圧ベクトルが変わってくることになる。