JP2010172133A - Ipmモータ制御装置及び制御方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】制御則の切り替えに伴うトルクリプルの発生が抑制され、目標電流追従特性が高いIPMモータ制御装置及び制御方法を提供すること。
【解決手段】PWMホールドモデルに基づき、IPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出する。6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定める。電圧指令ベクトルが飽和すると、電圧指令ベクトルが位置する領域の優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定する。第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し第1及び第2のスイッチング時間から算出される出力ベクトルが飽和しないように重み付けを行う。
【選択図】図11
【解決手段】PWMホールドモデルに基づき、IPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出する。6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定める。電圧指令ベクトルが飽和すると、電圧指令ベクトルが位置する領域の優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定する。第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し第1及び第2のスイッチング時間から算出される出力ベクトルが飽和しないように重み付けを行う。
【選択図】図11
Description
本発明はIPMモータ制御方法及び制御方法に関し、より詳細には、PWMホールドモデルに基づく過変調領域でのIPMモータ制御方法及び制御方法に関する。
永久磁石同期モータ(PMモータ)は誘導モータのように2次銅損が発生しないため高効率である。また、ブラシ・整流子を用いないため保守性が高い。このため、産業界で広く用いられている。PMモータには表面磁石同期モータ(SPMモータ)と埋込磁石同期モータ(IPMモータ)があり、IPMモータはマグネットトルクに加えてリラクタンストルクを利用できるため、高トルクが求められる電動車両用の主機モータとして用いられている。
PMモータの制御方式の一つに正弦波PWMに基づいた電流ベクトル制御がある。この方式では出力電圧の高調波成分を小さくすることができる。しかしながら、相電圧基本波成分の最大値がVdc/2(Vdc:インバータ直流電源電圧)のために直流電源電圧利用率が悪く、駆動領域を制限してしまう。駆動領域を拡大するには電源電圧を上げれば良いが、インバータ素子の耐圧の面から好ましくない。
同じ電源電圧で駆動領域を拡大する方式として、過変調PWMと矩形波駆動(1パルスモード)があり、中回転域では過変調PWM、高回転域では矩形波駆動を用いることで駆動領域を拡大している(非特許文献1、2参照)。これらを用いる場合、正弦波、過変調PWMの電流ベクトル制御と矩形波駆動の電圧位相制御の間に制御則の切り換えがあるため、切り換え時に応答の乱れが発生する恐れがある。このため、正弦波PWMから矩形波駆動までの領域を一つの制御則で制御できることが求められている。
このような課題に対して、インバータの過変調領域の利用によって発生する高調波電圧をモデル化し、そのモデルに基づいて発生した高調波電流分を推定し、フィードバック電流から高調波成分を除去することで電流を安定に制御すること(非特許文献3参照)や、過変調領域においてモデル予測制御に基づいた電流制御系とインバータのスイッチング制御を一体化して制御すること(非特許文献4参照)が提案されている。
H.Nakai,H.Ohtani,E.Satoh,Y.Inaguma,"Development and Testing of the Torque Control for the Permanent−Magnet Synchronous Motors",IEEE Trans.Ind.Electron.,2005,Vol.52,No.3,pp800−806
H.Nakai,H.Ohtani,E.Satoh,Y.Inaguma, "Novel Torque Control Technique for High Efficiency/High Power Interior Permanent Magnet Synchronous Motors",R&D Review of Toyota CRDL,2005,Vol.40,No.2,pp44−49
S.Lerdudomsak,S.Doki,S.Okuma,"A Novel Current Control System for PMSM Considering Effects from Inverterin Overmodulation Range",PEDS’07,2007,pp.794−800
H.Kobayashi, H.Kitagawa, S.Doki, S.Okuma:"Realizationof a Fast Current Control System of PMSM based on Model Predictive Control", The 34th Annual Conference of the IEE Industrial Electronics Society,2008,pp.1343−1348(Florida,USA)
K.P.Gokhale,A.Kawamura,R.G.Hoft,"Deat Beat Microprocessor Control of PWM Inverter for Sinusoidal Output Waveform Synthesis",IEEE Trans.Ind.Appl.,1987,Vol.23,No.3,pp901−910
H.Fujimoto,Y.Hori,A.Kawamura,"Perfect Tracking Control Method Based on Multirate Feedforward Control",T.SICE,2000,Vol.36,No.9,pp766−772(Japan)
K.Sakata,H.Fujimoto,"Perfect Tracking Control of Servo Motor Based on Precise Model Considering Current Loop and PWM Hold",T.IEEJapan,2007,Vol.127−D,No.6,pp587−593(Japan)
J.Holtz,W.Lotzkatand,A.M.Khambadkone,"On ContinuousControl of PWM Inverters in Overmodulation Range Including the Six−Step",IEEE Trans. Power Electron,1993,Vol.8,No.4,pp546−553
武田洋次、森本茂雄、松井信行、本田幸夫、「埋込磁石同期モータの設計と制御」、オーム社、2001年
しかしながら、従来法では、過変調PWMから矩形波駆動に切り替わる際に、トルクリプルが増大するという課題があった。また、指令値に対する追従精度が低いという課題があった。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、同じ制御則で過変調PWMと矩形波駆動を可能にすることで制御則の切り替えに伴うトルクリプルの発生が抑制され、PTCを用いることにより目標電流追従特性が高いIPMモータの制御装置及び制御方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、PWMホールドモデルに基づく制御を行うIPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出するIPMモータ制御装置であって、6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの前記基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定め、入力された電圧指令ベクトルが飽和した場合、前記電圧指令ベクトルが位置する領域に基づき優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定し、前記第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、前記第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し前記第1及び第2のスイッチング時間から算出される前記出力ベクトルが飽和しないように操作を行うことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のIPMモータ制御装置において、前記優先する領域が、優先される前記基本電圧ベクトルを中心に−π/6以上π/6未満の範囲であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のIPMモータ制御装置において、前記電圧指令ベクトルの飽和の大きさに応じて前記第1のスイッチング時間に対する重み付けを大きくしていくことにより、過変調PWMから矩形波駆動へ制御方式を移行させることができることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のIPMモータ制御装置において、フィードフォワード制御器をさらに備え、1サンプル先の目標電流軌道を与える完全追従制御を行うことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、PWMホールドモデルに基づく制御を行うIPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出するIPMモータ制御方法であって、6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの前記基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定めるステップと、入力された電圧指令ベクトルが飽和した場合、前記電圧指令ベクトルが位置する領域に基づき優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定するステップと、前記第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、前記第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し前記第1及び第2のスイッチング時間から算出される前記出力ベクトルが飽和しないように重み付けを行うステップとを有することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のIPMモータ制御方法であって、前記優先する領域が、優先される前記基本電圧ベクトルを中心に−π/6以上π/6未満の範囲であることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載のIPMモータ制御方法であって、前記電圧指令ベクトルの飽和の大きさに応じて前記第1のスイッチング時間に対する重み付けを大きくしていくことにより、過変調PWMから矩形波駆動へ制御方式を移行させることができることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項5乃至7のいずれかに記載のIPMモータ制御方法であって、フィードフォワード制御を行うステップをさらに有し、1サンプル先の目標電流軌道を与える完全追従制御を行うことを特徴とする。
本発明は、同じ制御則で過変調PWMと矩形波駆動を可能にすることで制御則の切り替えに伴うトルクリプルの発生を抑制し、PTCを用いることにより目標電流追従特性を高める効果を奏する。
以下、発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明ではPWMホールドモデルに基づいた制御法によりIPMモータを正弦波PWMの領域から過変調領域までを制御する。さらに制御則に完全追従制御法(PTC)(非特許文献6参照)を用いることで目標電流への追従特性を向上させる。
本発明ではPWMホールドモデルに基づいた制御法によりIPMモータを正弦波PWMの領域から過変調領域までを制御する。さらに制御則に完全追従制御法(PTC)(非特許文献6参照)を用いることで目標電流への追従特性を向上させる。
1.モータモデルと離散化
〈1・1〉IPMモータのdqモデル
IPMモータのdq座標における電圧方程式は式(1)のようになる。
〈1・1〉IPMモータのdqモデル
IPMモータのdq座標における電圧方程式は式(1)のようになる。
ただし、vd(q):d(q)軸電圧、R:電機子巻線抵抗、Ld(q):d(q)軸インダクタンス(Ld≠Lq)、ωe:電気角速度、id(q):d(q)軸電流、Ke:誘起電圧定数である。また、トルクTと機械角速度ωmは式(2)、(3)のようになる。
ただし、J:イナーシャ、D:摩擦係数、Kt=PKe、Krt=P(Ld−Lq)、P:極対数である。図1に、式(1)〜(3)、ωe=Pωmとした場合のIPMモータのdqモデルを示す。
一般に、dqモデルで制御を行う場合、式(1)に式(4)、(5)で表される非干渉制御を施す。これにより電圧v′d(q)から出力電流id(q)までの特性が一次遅れ系となる。
ここで、状態変数xを電流id(q)、入力uを電圧v′d(q)とするとIPMモータの連続時間状態・出力方程式は式(6)、(7)となる。
〈1・2〉PWMホールドに基づく離散化
制御対象を離散化する際、単相インバータシステムでは図2のように任意の出力電圧V[k]は出力できず、0、±E[V](E:単相インバータ直流電源電圧)の2値しかとれない。このため、瞬時値を緻密に制御したい場合には零次ホールドによる離散化は不適切であるといえる。そこで、これをPWMホールド(非特許文献5参照)と捉え、その幅を制御することを考える。制御対象の伝達関数を式(8)とおくと、式(9)、(10)のようにスイッチング時間ΔT[k]を制御入力とした緻密な離散時間状態方程式を得ることができる。ただし、ΔT[k]が負の時は−E[V]を出力することにする。
制御対象を離散化する際、単相インバータシステムでは図2のように任意の出力電圧V[k]は出力できず、0、±E[V](E:単相インバータ直流電源電圧)の2値しかとれない。このため、瞬時値を緻密に制御したい場合には零次ホールドによる離散化は不適切であるといえる。そこで、これをPWMホールド(非特許文献5参照)と捉え、その幅を制御することを考える。制御対象の伝達関数を式(8)とおくと、式(9)、(10)のようにスイッチング時間ΔT[k]を制御入力とした緻密な離散時間状態方程式を得ることができる。ただし、ΔT[k]が負の時は−E[V]を出力することにする。
2.制御系設計
〈2・1〉従来法
〈2・1・1〉電流ベクトル制御
式(4)、(5)の非干渉制御を行った式(6)、(7)のプラントに対して、FB制御器を式(11)で表される極零相殺型のPI制御器Cd(q)(s)とする。
〈2・1〉従来法
〈2・1・1〉電流ベクトル制御
式(4)、(5)の非干渉制御を行った式(6)、(7)のプラントに対して、FB制御器を式(11)で表される極零相殺型のPI制御器Cd(q)(s)とする。
なお、τ=10Tuとした。式(11)を制御周期TuでTustin変換を用いて離散化を行うと、Cd(q)[z]を得る。3相インバータの制御入力はvref d、vref qをdq/3相絶対変換により、vref u、vref v、vref wに変換し、三角波比較変調により決定する。また、二相変調等により決定することもできる。図3に、このときの電流ベクトル制御器のブロック図を示す。
〈2・1・2〉電圧位相制御
矩形波駆動では電圧が一定であるため、その位相を制御することでトルクを制御する。本明細書では電圧位相δを図4のようにおき、反時計回りを正とする。電圧位相制御のブロック図を図5に示す。これは式(3)を用いてトルク推定値Testiを求め、トルク指令値Trefとの差が小さくなるようにPI制御器で電圧位相δを求める。式(12)、(13)からδを用いてvref d、vref qを求め、dq/3相絶対変換で3相の指令値に変換する。この指令値が0以上のときVdc/2、それ以外は−Vdc/2にすることで矩形波パターンを生成・出力する。
矩形波駆動では電圧が一定であるため、その位相を制御することでトルクを制御する。本明細書では電圧位相δを図4のようにおき、反時計回りを正とする。電圧位相制御のブロック図を図5に示す。これは式(3)を用いてトルク推定値Testiを求め、トルク指令値Trefとの差が小さくなるようにPI制御器で電圧位相δを求める。式(12)、(13)からδを用いてvref d、vref qを求め、dq/3相絶対変換で3相の指令値に変換する。この指令値が0以上のときVdc/2、それ以外は−Vdc/2にすることで矩形波パターンを生成・出力する。
PI制御器は比例ゲインKP=0.1745、積分ゲインKI=34.91とし、Tustin変換により離散化したものとする。また、電圧位相δには±π/2[rad]の制限を設けている。
〈2・1・3〉電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替え
電流ベクトル制御の制御性能が保たれるのは変調率が1.28までである。そこで、dq軸上の電圧ベクトルの大きさが電源電圧の
電流ベクトル制御の制御性能が保たれるのは変調率が1.28までである。そこで、dq軸上の電圧ベクトルの大きさが電源電圧の
(絶対変換の場合)になったとき電流ベクトル制御から電圧位相制御に切り替える。このとき、現在の電圧位相δを用いて電圧位相制御器の初期値補償を行う。また、電圧位相制御を行っている間は電流ベクトル制御器の積分は停止させる。
電圧位相制御から電流ベクトル制御への切り替えは、チャタリング防止のためdq軸上の電圧ベクトルの大きさが電源電圧の
になったとき行う。なお、このときのdq軸上の電圧ベクトルの大きさは、式(1)に電流ベクトル制御時の指令値を代入して推定した、電流ベクトル制御を行っているときの推定電圧値を用いる(特許文献1参照)。
〈2・2〉完全追従制御法
完全追従制御法(PTC)は図6に示すようにフィードフォワード(FF)制御器C1[z]とフィードバック(FB)制御器C2[z]を有する2自由度制御系の構造をしている。FF制御器は、プラントの安定な逆システムとなっており、ノミナルプラントに対してサンプル点上で完全に追従誤差が零になるように補償を行う。FB制御器は、外乱やプラント変動がある場合に追従誤差を抑圧する。n次のプラントに対しては1サンプル点間に制御入力をn回切り換えるマルチレート制御によって補償することにより完全追従を実現する。本明細書では式(6)、(7)に示すように制御対象が1次であるため、シングルレート制御でPTCが実現できる。
完全追従制御法(PTC)は図6に示すようにフィードフォワード(FF)制御器C1[z]とフィードバック(FB)制御器C2[z]を有する2自由度制御系の構造をしている。FF制御器は、プラントの安定な逆システムとなっており、ノミナルプラントに対してサンプル点上で完全に追従誤差が零になるように補償を行う。FB制御器は、外乱やプラント変動がある場合に追従誤差を抑圧する。n次のプラントに対しては1サンプル点間に制御入力をn回切り換えるマルチレート制御によって補償することにより完全追従を実現する。本明細書では式(6)、(7)に示すように制御対象が1次であるため、シングルレート制御でPTCが実現できる。
式(14)の離散時間状態方程式を用いて、安定な逆システム、ノミナルな出力y0[k]は式(15)、(16)で求まる。
〈2・3〉本発明
本発明は、PWMホールドモデルに基づく制御を行い、IPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出する。先ず、6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定めておく。過変調PWM領域に入り、入力された電圧指令ベクトルが飽和すると、電圧指令ベクトルが位置する領域に基づき優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定する。そして、第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し第1及び第2のスイッチング時間から算出される出力ベクトルが飽和しないように操作を行う。本発明は、このように所定の領域毎に一方の基本電圧ベクトルに重み付けを行うことにより、トルクリプルを抑制しながら過変調PWMから矩形波駆動に移行させることを可能にする。
本発明は、PWMホールドモデルに基づく制御を行い、IPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出する。先ず、6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定めておく。過変調PWM領域に入り、入力された電圧指令ベクトルが飽和すると、電圧指令ベクトルが位置する領域に基づき優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定する。そして、第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し第1及び第2のスイッチング時間から算出される出力ベクトルが飽和しないように操作を行う。本発明は、このように所定の領域毎に一方の基本電圧ベクトルに重み付けを行うことにより、トルクリプルを抑制しながら過変調PWMから矩形波駆動に移行させることを可能にする。
〈2・3・1〉制御器の設計
式(6)、(7)のプラントに対して、E=VdcとしてPWMホールドに基づき離散化を行うと、式(17)で表される入力u[k]を時間入力ΔTd(q)[k]とする離散時間系のプラントの状態方程式を得る。これにより式(15)、(16)からFF制御器を得る。PTCは1サンプル先の状態変数の目標軌道を与えることを特徴としており、状態変数が電流であるため目標電流軌道を与える。
式(6)、(7)のプラントに対して、E=VdcとしてPWMホールドに基づき離散化を行うと、式(17)で表される入力u[k]を時間入力ΔTd(q)[k]とする離散時間系のプラントの状態方程式を得る。これにより式(15)、(16)からFF制御器を得る。PTCは1サンプル先の状態変数の目標軌道を与えることを特徴としており、状態変数が電流であるため目標電流軌道を与える。
また、FB制御器は従来法と同じPI制御器Cd(q)[z]である。図7に、本発明のq軸電流に関するPTC部分のブロック図を示す。
〈2・3・2〉制御入力導出法
本発明で用いている3相インバータの制御入力導出法は既知の厳密法に基づくものである。但し、本発明では、座標変換行列を絶対変換として考える。この方式では、制御器出力ΔTd、ΔTqを式(18)のdq/2相変換によりΔTα、ΔTβに変換し、図8のようにπ/3[rad]毎に仕切られた領域を決定する。各領域に出力ベクトルとスイッチング時間と出力順序が決定され、領域VIでは図9のようなパルスを出力することになる(非特許文献7参照)。ただし、各相のスイッチング時間は絶対変換のため
本発明で用いている3相インバータの制御入力導出法は既知の厳密法に基づくものである。但し、本発明では、座標変換行列を絶対変換として考える。この方式では、制御器出力ΔTd、ΔTqを式(18)のdq/2相変換によりΔTα、ΔTβに変換し、図8のようにπ/3[rad]毎に仕切られた領域を決定する。各領域に出力ベクトルとスイッチング時間と出力順序が決定され、領域VIでは図9のようなパルスを出力することになる(非特許文献7参照)。ただし、各相のスイッチング時間は絶対変換のため
となる。なお、この方式では3n次調波注入変調と同様に線形領域の直流電源電圧利用率が15%改善される。
〈2・3・3〉制御入力飽和時の出力ベクトル選択法
本発明での制御入力飽和の条件は
本発明での制御入力飽和の条件は
である。制御入力が飽和した場合、制御入力には
の制限がかかるため、制御入力が飽和している場合はd軸又はq軸のスイッチング時間、若しくはd軸及びq軸のスイッチング時間を短縮する必要があり、d、q軸のスイッチング時間を制御入力通り同時に満たすことはできなくなる。
そこで本発明では、制御入力が飽和した場合、出力ベクトルを以下のように選択する。従来は、空間ベクトル変調において、制御入力の電圧ベクトルが飽和する場合には、その電圧ベクトルの大きさと位相を操作することにより制御則の切り替え無しで過変調、矩形波駆動を実現していた(非特許文献8参照)。これに対し、本発明では、dq軸上のスイッチング時間ΔTd、ΔTqを操作することにより制御則の切り替え無しで過変調、矩形波駆動を実現する。
矩形波駆動では零ベクトルV0は出力せず、電気角に同期してπ/3[rad]ごとにV1〜V6を順々に出力していくものである。ここで、空間ベクトル変調の延長で矩形波駆動になると考えると、矩形波駆動となる指令値が与えられた場合にはその位置に応じて6つのベクトルのどれに近似して出力すればよいかが決められる。そこで、6つのベクトルに優先度をもたせる領域を設ける。これは各ベクトルを中心にした±π/6[rad]の範囲とする。ベクトルV1では−π/6<=θ<π/6となる。
制御入力が飽和した場合、先ず指令値がどの領域にいるか判断する。そして、ΔTi、ΔTjの内、指令値がある領域で優先度をもつ方のスイッチング時間を優先に出力する。ここで、矩形波駆動におけるdq軸上のスイッチング時間の基本波成分は
であるため、dq軸上のスイッチング時間の大きさ|Tdq|が
の場合には矩形波駆動になればよい。そこで、領域I〜VIの中央に指令値がある場合を考える。この位置は各ベクトルが優先権を持つ領域の境界であり、矩形波駆動になるように操作したときには指令値の位置と実出力の位置(V1〜V6のどれか)の差が一番大きい。一例としてθ=π/6[rad]について考える。この位置ではベクトルV2が優先権を持つ。
のとき矩形波駆動になればよいが、各ベクトルのスイッチング時間は
であり、ΔT2を優先的に出力したとしても2つのベクトルを出力するため矩形波駆動にはならない。このとき矩形波駆動するためにはΔT2に
をかけることで、
にする必要がある。このため、優先権を持つベクトルに重み付けをする。制御入力が飽和する場合の|Tdq|の条件は
である。この条件を満たす場合には、ΔTiorjに重み付け係数kをかける。最終的には式(19)を満たす場合に矩形波駆動となれば良いので、重み付け係数kは
の範囲となる。なお、重み付け係数kは飽和が小さいときには重み付けは小さく、その逆の場合には大きくする必要があるため、重み付け係数kは図10のようになり、実装する際にはマップ又は関数化すればよい。本発明では関数で与えてはいるが、指令値と出力の基本波成分が一致するkを与えているわけではない。そして、Tu間の残った時間でもう一方のベクトルを出力する。このように指令値を操作することでベクトルV1〜V6に近似していき、矩形波駆動に移行させる。すなわち、本発明は、電圧指令ベクトルの飽和の大きさに応じて第1のスイッチング時間に対する重み付けを連続的に大きくしていくことにより、過変調PWMの領域から矩形波駆動の領域へ制御方式を連続的に移行させることができる。
以上の制御入力飽和時のベクトル選択の手順を図11に示す例に基づいて説明する。図11において指令値のスイッチング時間TはV2が優先となる領域にあり、式(21)を満たしているとする。このときはV2に優先度があるのでそのスイッチング時間は重み付け係数kをかけΔT2′=kΔT2となる。このとき、
ならば、
は制限を加えず、Tu間の余った時間でもう一方のベクトルV1を出力すると、
から
に縮められ、実際のスイッチング時間は図11のT′となる。
3.シミュレーション
IPMモータパラメータを表1に示す。また、制御周期Tuは0.1[msec]、インバータ直流電源電圧Vdcは36.0[V]とする。
IPMモータパラメータを表1に示す。また、制御周期Tuは0.1[msec]、インバータ直流電源電圧Vdcは36.0[V]とする。
以下、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えが無く、三角波比較変調で出力するものを従来法1、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えが有り、三角波比較変調で出力するものを従来法2、電流ベクトル制御と電圧位相制御の切り替えが無く、空間ベクトル変調で出力するものを本発明の実施形態1とする。実施形態2は、実施形態1にFF制御器を付加し、PTCが実現されているものである。また、電流ベクトル制御及び実施形態1、2のd、q軸電流指令値は最大トルク/電流制御(非特許文献9参照)となるように選ぶ。
〈3・1〉矩形波駆動への移行
図12に、負荷モータによりωe=510[rad/s]で速度制御されているとして、方形波(3.0[Hz])をLPF(時定数10[msec])に通したものをトルク指令値とし、その振幅を増やしていった過変調PWMから矩形波駆動への移行シミュレーションの結果を示す。従来法2の「フラグ」は制御則切り替え信号であり、“H”のとき電圧位相制御、“L”のとき電流ベクトル制御を行う。また、ΔTuはU相における1サンプル点間のVdc/2を出力する期間と−Vdc/2を出力する期間の差である。矩形波駆動の場合にはΔTu/Tuは1(Vdc/2のみ出力)または−1(−Vdc/2のみ出力)の矩形波となる。
図12に、負荷モータによりωe=510[rad/s]で速度制御されているとして、方形波(3.0[Hz])をLPF(時定数10[msec])に通したものをトルク指令値とし、その振幅を増やしていった過変調PWMから矩形波駆動への移行シミュレーションの結果を示す。従来法2の「フラグ」は制御則切り替え信号であり、“H”のとき電圧位相制御、“L”のとき電流ベクトル制御を行う。また、ΔTuはU相における1サンプル点間のVdc/2を出力する期間と−Vdc/2を出力する期間の差である。矩形波駆動の場合にはΔTu/Tuは1(Vdc/2のみ出力)または−1(−Vdc/2のみ出力)の矩形波となる。
従来法1では出力電圧不足のため追従特性が悪化している。また、ワインドアップにより指令値が減少している時刻0.25、0.59[sec]においても追従できていない。従来法2は電流ベクトル制御と電圧位相制御を切り替えており、切り替え時に応答が乱れている。また、矩形波駆動となっているためトルクリプルが大きい。
実施形態1、2では従来法1よりも線形領域での直流電源電圧利用率が15%改善されている上に、制御入力飽和時の出力ベクトル選択法によりのトルクリプルが小さいまま高いトルク指令値に追従している。また、制御則の切り替えが無いため、従来法2のように応答の乱れが無い。
〈3・2〉目標トルク追従特性
図13に、負荷モータの速度制御によりωe=440[rad/s]とし、トルク指令値Trefを周波数60[Hz]の正弦波で変動させた目標トルク追従特性に関するシミュレーション結果を示す。
図13に、負荷モータの速度制御によりωe=440[rad/s]とし、トルク指令値Trefを周波数60[Hz]の正弦波で変動させた目標トルク追従特性に関するシミュレーション結果を示す。
従来法1では飽和による出力電圧不足と正弦波の内部モデルを持たないため指令値に追従できていない。従来法2では矩形波駆動に切り替えることで従来法1よりは特性が改善されているが、追従はできていない。また、実施形態1ではトルクの振幅は改善しているが、追従はできていない。
一方、実施形態2ではPTCを用いていることで従来法とは異なり、正弦波の指令値に対しても追従できている。飽和量が少ないため応答の乱れが少なく、従来法1、2、実施形態1よりも高い追従特性が得られている。
4.実験
〈4・1〉矩形波駆動への移行
図14に、負荷モータによりωe=360[rad/s]に速度制御して過変調PWMから矩形波駆動への移行実験を行った結果を示す。シミュレーション結果と同様に、本発明の実施形態1、2は、従来法1、2に比べてトルクリプルが小さい。
〈4・1〉矩形波駆動への移行
図14に、負荷モータによりωe=360[rad/s]に速度制御して過変調PWMから矩形波駆動への移行実験を行った結果を示す。シミュレーション結果と同様に、本発明の実施形態1、2は、従来法1、2に比べてトルクリプルが小さい。
〈4・2〉目標トルク追従特性
図15に、負荷モータによりωe=360[rad/s]に速度制御して目標トルク追従特性に関する実験を行った結果を示す。シミュレーション結果と同様に、PTCを用いた実施形態2の目標値追従特性は、従来法1、2及び実施形態1よりも高い。
図15に、負荷モータによりωe=360[rad/s]に速度制御して目標トルク追従特性に関する実験を行った結果を示す。シミュレーション結果と同様に、PTCを用いた実施形態2の目標値追従特性は、従来法1、2及び実施形態1よりも高い。
5.まとめ
本発明では、独自のPWMホールドに基づいた制御入力飽和時の出力ベクトル選択法を採用している。シミュレーション及び実験にて過変調領域において、従来法では矩形波駆動に切り替わるためトルクリプルが増大する領域でも本発明ではトルクリプルを小さく、抑制することができることを示した。また、本発明はPTCを用いることにより目標電流追従特性も高めることができる。
本発明では、独自のPWMホールドに基づいた制御入力飽和時の出力ベクトル選択法を採用している。シミュレーション及び実験にて過変調領域において、従来法では矩形波駆動に切り替わるためトルクリプルが増大する領域でも本発明ではトルクリプルを小さく、抑制することができることを示した。また、本発明はPTCを用いることにより目標電流追従特性も高めることができる。
Claims (8)
- PWMホールドモデルに基づく制御を行うIPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出するIPMモータ制御装置であって、
6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの前記基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定め、入力された電圧指令ベクトルが飽和した場合、前記電圧指令ベクトルが位置する領域に基づき優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定し、前記第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、前記第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し前記第1及び第2のスイッチング時間から算出される前記出力ベクトルが飽和しないように操作を行うことを特徴とするIPMモータ制御装置。 - 前記優先する領域は、優先される前記基本電圧ベクトルを中心に−π/6以上π/6未満の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のIPMモータ制御装置。
- 前記電圧指令ベクトルの飽和の大きさに応じて前記第1のスイッチング時間に対する重み付けを大きくしていくことにより、過変調PWMから矩形波駆動へ制御方式を移行させることができることを特徴とする請求項1又は2に記載のIPMモータ制御装置。
- フィードフォワード制御器をさらに備え、1サンプル先の目標電流軌道を与える完全追従制御を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のIPMモータ制御装置。
- PWMホールドモデルに基づく制御を行うIPMモータを駆動する3相インバータを制御する出力ベクトルを算出するIPMモータ制御方法であって、
6つの基本電圧ベクトルに関して2π/3の位相差を有する2つの前記基本電圧ベクトル間の領域それぞれを前記2つの基本電圧ベクトルの一方を優先する領域と他方を優先する領域とを予め定めるステップと、
入力された電圧指令ベクトルが飽和した場合、前記電圧指令ベクトルが位置する領域に基づき優先すべき第1の基本電圧ベクトルと第2の基本電圧ベクトルとを決定するステップと、
前記第1の基本電圧ベクトルに対応する第1のスイッチング時間に対し1以上の重み付けを行い、前記第2の基本電圧ベクトルに対応する第2のスイッチング時間に対し前記第1及び第2のスイッチング時間から算出される前記出力ベクトルが飽和しないように重み付けを行うステップと
を有することを特徴とするIPMモータ制御方法。 - 前記優先する領域は、優先される前記基本電圧ベクトルを中心に−π/6以上π/6未満の範囲であることを特徴とする請求項5に記載のIPMモータ制御方法。
- 前記電圧指令ベクトルの飽和の大きさに応じて前記第1のスイッチング時間に対する重み付けを大きくしていくことにより、過変調PWMから矩形波駆動へ制御方式を移行させることができることを特徴とする請求項5又は6に記載のIPMモータ制御方法。
- フィードフォワード制御を行うステップをさらに有し、1サンプル先の目標電流軌道を与える完全追従制御を行うことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載のIPMモータ制御方法。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2009013397A JP2010172133A (ja) | 2009-01-23 | 2009-01-23 | Ipmモータ制御装置及び制御方法 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
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2009
- 2009-01-23 JP JP2009013397A patent/JP2010172133A/ja not_active Withdrawn
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