以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。後に本発明の第1〜第4実施形態を説明するが、まず、各実施形態に共通する事項又は各実施形態にて参照される事項について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るモータ駆動システムのブロック構成図である。図1のモータ駆動システムは、三相永久磁石同期モータ1(以下、単に「モータ1」と記す)と、PWM(Pulse Width Modulation)インバータ2(以下、単に「インバータ2」という)と、制御装置3と、直流電源4と、電流センサ5と、を備える。直流電源4は、負出力端子4bを低電圧側として、正出力端子4aと負出力端子4bとの間に直流電圧を出力する。直流電源4が出力する直流電圧及びその電圧値をVdcによって表す。
制御装置3は、インバータ2を制御することによってモータ1を制御する。従って、制御装置3は、インバータ制御装置と呼ぶことができるし、モータ制御装置と呼ぶこともできる。
モータ1は、永久磁石が設けられた回転子6と、U相、V相及びW相の電機子巻線7u、7v及び7wが設けられた固定子7と、を備えている。電機子巻線7u、7v及び7wは、中性点14を中心にY結線されている。電機子巻線7u、7v及び7wにおいて、中性点14の反対側の非結線端は、夫々、端子12u、12v及び12wに接続されている。
インバータ2は、U相用のハーフブリッジ回路、V相用のハーフブリッジ回路及びW相用のハーフブリッジ回路を備える。各ハーフブリッジ回路は、一対のスイッチング素子を有する。各ハーフブリッジ回路において、一対のスイッチング素子は、直流電源4の正出力端子4aと負出力端子4bとの間に直列接続され、各ハーフブリッジ回路に直流電源4からの直流電圧Vdcが印加される。
U相用のハーフブリッジ回路は、高電圧側のスイッチング素子8u(以下、上アーム8uとも呼ぶ)及び低電圧側のスイッチング素子9u(以下、下アーム9uとも呼ぶ)から成る。V相用のハーフブリッジ回路は、高電圧側のスイッチング素子8v(以下、上アーム8vとも呼ぶ)及び低電圧側のスイッチング素子9v(以下、下アーム9vとも呼ぶ)から成る。W相用のハーフブリッジ回路は、高電圧側のスイッチング素子8w(以下、上アーム8wとも呼ぶ)及び低電圧側のスイッチング素子9w(以下、下アーム9wとも呼ぶ)から成る。また、スイッチング素子8u、8v、8w、9u、9v及び9wには、夫々、並列に、直流電源4の低電圧側から高電圧側に向かう方向を順方向としてダイオード10u、10v、10w、11u、11v及び11wが接続されている。各ダイオードは、フリーホイールダイオードとして機能する。
直列接続された上アーム8uと下アーム9uの接続点、直列接続された上アーム8vと下アーム9vの接続点、直列接続された上アーム8wと下アーム9wの接続点は、夫々、端子12u、12v及び12wに接続される。尚、図1では、各スイッチング素子として電界効果トランジスタが示されているが、それらをIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などに置き換えることもできる。
インバータ2は、制御装置3にて生成された三相電圧指令値に基づくPWM信号(パルス幅変調信号)をインバータ2内の各スイッチング素子の制御端子(ベース又はゲート)に与えることで、各スイッチング素子をスイッチング動作させる。三相電圧指令値は、U相電圧指令値vu *、V相電圧指令値vv *及びW相電圧指令値vw *から構成される。
同一の相の上アームと下アームが同時にオンとなるのを防ぐためのデッドタイムを無視すると、各ハーフブリッジ回路において、上アームがオンである時は下アームはオフであり、上アームがオフである時は下アームはオンである。特に記述なき限り、以下の説明は、上記デッドタイムを無視して行うものとする。
インバータ2に印加されている直流電源4からの直流電圧は、インバータ2内の各スイッチング素子のスイッチング動作によってPWM変調(パルス幅変調)され、三相交流電圧に変換される。その三相交流電圧がモータ1に印加されることによって、各電機子巻線(7u、7v及び7w)に、三相交流電圧に応じた電流が流れてモータ1が駆動される。
電流センサ5は、インバータ2の母線13に流れる電流(以下、「母線電流」という)を検出する。母線電流は直流成分を有するため、それを直流電流と解釈することもできる。インバータ2において、下アーム9u、9v及び9wの低電圧側は共通結線されて直流電源4の負出力端子4bに接続される。下アーム9u、9v及び9wの低電圧側が共通結線される配線が母線13であり、電流センサ5は、母線13に直列に介在している。電流センサ5は、検出した母線電流の電流値を表す信号を制御装置3に伝達する。制御装置3は、電流センサ5の出力信号に基づいて上記三相電圧指令値の生成を行う。電流センサ5は、例えば、シャント抵抗又はカレントトランス等である。また、下アーム9u、9v及び9wの低電圧側と負出力端子4bとを接続する配線(母線13)にではなく、上アーム8u、8v及び8wの高電圧側と正出力端子4aとを接続する配線に電流センサ5を設けるようにしてもよい。
図1のモータ駆動システムは、母線電流から三相電流を検出する、いわゆる1シャント電流検出方式を採用している。
図2(a)及び(b)に、モータ1の解析モデル図を示す。図2(a)には、U相、V相、W相の電機子巻線固定軸(以下、U相軸、V相軸及びW相軸とも呼ぶ)が示されている。6aは、モータ1の回転子6に設けられた永久磁石である。V相軸の位相は、U相軸を基準として電気角で120度だけ進んでおり、W相軸の位相は、V相軸を基準として更に電気角で120度だけ進んでいる。永久磁石6aが作る磁束の回転速度と同じ速度で回転する回転座標系において、永久磁石6aが作る磁束の方向をd軸にとり、d軸から電気角で90度進んだ位相にq軸をとる。図2(a)及び(b)並びに後述の空間ベクトル図(図5、図8、図9(a)(b)など)において、反時計回り方向が位相の進み方向に対応する。d軸及びq軸を総称してdq軸と呼び、d軸及びq軸を座標軸に選んだ回転座標系をdq座標系と呼ぶ。
dq軸は回転しており、その回転速度をωで表す。また、dq座標系において、U相軸から見たd軸の角度(位相)をθにより表す。θにて表される角度は、電気角における角度であり、それらは一般的に回転子位置又は磁極位置とも呼ばれる。ωにて表される回転速度は、電気角における角速度である。
以下、θによって表現される状態量を磁極位置(又は位相)と呼ぶこととし、ωによって表される状態量を回転速度と呼ぶこととする。尚、状態量を物理量と読み替えることもできる。また、以下の説明において、ラジアン又は度を単位として表現される角度及び位相は、特に記述なき限り、電気角における角度及び位相を表すものとする。
また、図2(b)には、U相軸、V相軸及びW相軸と、互いに直交するα軸及びβ軸と、の関係が示されている。α軸はU相軸と一致しており、β軸は、α軸を基準として電気角で90度だけ進んでいる。U相軸、V相軸及びW相軸並びにα軸及びβ軸は、回転子6の回転に関係なく固定された固定軸である。α軸及びβ軸を総称してαβ軸と呼び、α軸及びβ軸を座標軸に選んだ固定座標系をαβ座標系と呼ぶ。
インバータ2によってモータ1に印加される三相交流電圧は、U相の電機子巻線7uへの印加電圧を表すU相電圧、V相の電機子巻線7vへの印加電圧を表すV相電圧、及び、W相の電機子巻線7wへの印加電圧を表すW相電圧から成る。U相電圧、V相電圧及びW相電圧は、夫々、中性点14から見た端子12u、12v及び12wの電圧である。U相電圧、V相電圧及びW相電圧を、夫々、記号vu、vv及びvwにて表す。U相、V相及びW相電圧の合成電圧である、モータ1への、全体の印加電圧をモータ電圧(モータ端子電圧)と呼び、それを記号Vaによって表す。U相、V相、W相電圧vu、vv及びvwは、夫々、U相、V相及びW相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に従った電圧値をとる。
モータ電圧Vaの印加によってインバータ2からモータ1へ供給される電流のU相成分、V相成分及びW相成分、即ちU相、V相及びW相の電機子巻線7u、7v及び7wに流れる電流を、夫々、U相電流、V相電流及びW相電流と呼ぶ。U相電流、V相電流及びW相電流を、夫々、記号iu、iv及びiwにて表す。U相、V相及びW相電流の合成電流である、モータ1への、全体の供給電流をモータ電流(電機子電流)と呼び、それを記号Iaによって表す。
U相電圧、V相電圧及びW相電圧を総称して、或いは、それらの夫々を、相電圧と呼ぶ。U相電流、V相電流及びW相電流を総称して、或いは、それらの夫々を、相電流と呼ぶ。U相、V相及びW相の内、電圧レベルが最大の相を「最大相」、電圧レベルが最小の相を「最小相」、電圧レベルが最大でも最小でもない相を「中間相」と呼ぶ。例えば、vu>vv>vwである時、U相が最大相、V相が中間相、W相が最小相である。
周期的に値が三角波状に変化するキャリア信号CSと、三相電圧指令値によって規定される最大相、中間相及び最小相の電圧レベルと、を比較することによって、最大相、中間相及び最小相に対するPWM信号が生成される。図3に、3相変調を利用した場合におけるPWM信号の例を示す。着目した相のPWM信号がハイレベル及びローレベルであるとき、夫々、その着目相の上アームがオン及びオフとされる。図3の例では、U相、V相及びW相が、夫々、最大相、中間相及び最小相に対応するため、vu *>vv *>vw *である。各キャリア周期において、キャリア信号CSの値CSVALがvu *、vv *及びvw *と比較される。キャリア周期は、キャリア信号CSの周期である。1つのキャリア周期において、CSVALはゼロを起点として増加して所定のピーク値をとった後、ゼロに向かって減少する。
vu *>vv *>vw *>CSVALの状態においては上アーム8u、8v及び8wがオンとされ、vu *>vv *>CSVAL>vw *の状態においては上アーム8u及び8v並びに下アーム9wがオンとされ、vu *>CSVAL>vv *>vw *の状態においては上アーム8u並びに下アーム9v及び9wがオンとされ、CSVAL>vu *>vv *>vw *の状態においては下アーム9u、9v及び9wがオンとされる。
vu *>vv *>CSVAL>vw *の状態において母線電流を検出することにより最小相の相電流を検出することができ、vu *>CSVAL>vv *>vw *の状態において母線電流を検出することにより最大相の相電流を検出することができる。1つのキャリア周期において、最小相、中間相及び最大相の上アームがオンとなっている期間を、夫々、最小相、中間相及び最大相に対するPWM信号のパルス幅と呼ぶ。
モータ電圧Vaのd軸成分、q軸成分、α軸成分、β軸成分を、夫々、d軸電圧、q軸電圧、α軸電圧及びβ軸電圧と呼ぶと共に記号vd、vq、vα及びvβにて表す。
モータ電流Iaのd軸成分、q軸成分、α軸成分、β軸成分を、夫々、d軸電流、q軸電流、α軸電流及びβ軸電流と呼ぶと共に記号id、iq、iα及びiβにて表す。
尚、vdは、d軸電圧の値を表す記号としても用いられる。vd以外の状態量(電圧、電流に関する状態量を含む)を表す記号についても同様である。また、本明細書では、記述の簡略化上、記号(idなど)のみの表記によって、その記号に対応する状態量又は指令値などを表現している場合もある。即ち、本明細書では、例えば、「id」と「d軸電流id」又は「d軸電流値id」は同じものを指す。
vα及びvβとvu、vv及びvwとの間には、以下の関係式(A−1)及び(A−2)が成り立つ。
[変調方式について]
次に、インバータ2にて採用されうる変調方式を説明する。
インバータ2にて3相変調と呼ばれる変調方式を採用することができる。3相変調が行われる際、図4に示す如く、d軸の位相θの変化に対して、U相、V相及びW相電圧の夫々は、正弦波状の電圧波形を描く。図4において、実線800u、破線800v及び一点鎖線800wは、夫々、3相変調が行われる時のU相、V相及びW相電圧の波形を表しており、図4のグラフの横軸は位相θである。電圧波形800u、800v及び800wの夫々は、正出力端子4a及び負出力端子4b間の中間電位を中心として正弦波を描き、その正弦波の振幅は(1/2)・Vdc以下である。つまり、正弦波状の電圧の振幅の最大値は(1/2)・Vdcである。
二次元の固定座標系又は回転座標系上において、電圧をベクトル表現したものを電圧ベクトルと呼ぶ。図5の円810は、3相変調実行時における、αβ座標系上のモータ電圧Vaの電圧ベクトル軌跡を表している。但し、電圧ベクトル軌跡810は、U相、V相及びW相電圧の振幅を最大化した時の電圧ベクトル軌跡である。電圧ベクトル軌跡810は、αβ座標系上で原点を中心とする円を描き、その円の半径は、(√6)/4×Vdcである。例えば、α軸電圧vαは、(vu,vv,vw)=(1/2・Vdc,−1/4・Vdc,−1/4・Vdc)の時に最大化され、その時におけるα軸電圧vαは、上記式(A−1)より、(√6)/4×Vdcである。尚、本明細書において、√iは、iの正の平方根を表している(iは正の整数又は分数)。
インバータ2にて2相変調と呼ばれる変調方式を採用することもできる。2相変調では、3相変調時におけるU相、V相及びW相の相電圧が3相変調時における最小相の電圧分だけ低電圧側にシフトされる。このため、2相変調を行うと、最小相に対する下アームが常にオンとなる。3相変調を行う場合におけるvu、vv及びvwの指令値を夫々vu1 *、vv1 *及びvw1 *にて表し、2相変調を行う場合におけるvu、vv及びvwの指令値を夫々vu2 *、vv2 *及びvw2 *にて表した場合、それらの間には、関係式(A−3)〜(A−5)が成り立つ。ここで、min(vu1 *, vv1 *, vw1 *)は、最小相の電圧値、即ち、vu1, * vv1 *,及びvw1 *の内の最小値を表す。
図6に、2相変調実行時における各相電圧の電圧波形を示す。図6において、実線801u、破線801v及び一点鎖線801wは、夫々、2相変調が行われる時のU相、V相及びW相電圧の波形を表しており、図6のグラフの横軸は位相θである。2相変調実行時には、線間電圧(例えば、図1の端子12u−12w間電圧)を直流電圧Vdcまで拡大することができるため、3相変調実行時に比べて、より大きな電圧をモータ1に印加することが可能となる。
図5の円811は、2相変調実行時における、αβ座標系上のモータ電圧Vaの電圧ベクトル軌跡を表している。但し、電圧ベクトル軌跡811は、モータ電圧Vaの大きさが最大化されるときの電圧ベクトル軌跡である。つまり、電圧ベクトル軌跡811は、vu1 *、vv1 *及びvw1 *の振幅を(1/2)・Vdcに設定した時に得られる電圧ベクトル軌跡である。電圧ベクトル軌跡811も、電圧ベクトル軌跡810と同様、αβ座標系上で原点を中心として円を描くが、電圧ベクトル軌跡811の円の半径は、1/(√2)×Vdcである。例えば、α軸電圧vαは、(vu,vv,vw)=((√3)/2・Vdc,0,0)の時に最大化され、その時におけるα軸電圧vαは、上記式(A−1)より、1/(√2)×Vdcである。
インバータ2にてヒップ型変調と呼ばれる変調方式を採用することもできる。ヒップ型変調では、3相変調時におけるU相、V相及びW相の相電圧が3相変調時における最大相及び最小相の相電圧の平均電圧分だけ低電圧側にシフトされる。3相変調を行う場合におけるvu、vv及びvwの指令値を夫々vu1 *、vv1 *及びvw1 *にて表し、ヒップ型変調を行う場合におけるvu、vv及びvwの指令値を夫々vu3 *、vv3 *及びvw3 *にて表した場合、それらの間には、関係式(A−6)〜(A−8)が成り立つ。ここで、max(vu1 *, vv1 *, vw1 *)は、最大相の電圧値、即ち、vu1, * vv1 *,及びvw1 *の内の最大値を表す。
ヒップ型変調実行時にも、2相変調実行時と同様、線間電圧(例えば、図1の端子12u−12w間電圧)を直流電圧Vdcまで拡大することができるため、3相変調実行時に比べて、より大きな電圧をモータ1に印加することが可能となる。尚、3相変調時におけるU相、V相及びW相の相電圧に対して3相変調時における中間相の電圧の1/2を加算することによっても、式(A−6)〜(A−8)に従う変調と同様の効果を得ることができる。
電圧ベクトル軌跡810又は811の如く、αβ座標系のような固定座標系上において、電圧ベクトル軌跡が円を描くような電圧を回転電圧と呼ぶ。回転電圧をモータ1に印加する場合、モータ電圧Vaの電圧ベクトルの大きさの最大値Vmax1は、式(A−9)の如く、1/(√2)×Vdcである(図5も参照)。
但し、Vmax1を超える大きさを有するモータ電圧Vaをモータ1に印加することも可能である。Vmax1を超える大きさを有するモータ電圧Vaをモータ1に印加するための変調は、過変調と呼ばれる。
図7に、過変調を3相変調に適用した場合の相電圧の電圧波形を示す。この場合、実際にモータ1に印加される各相電圧の電圧波形は、正弦波に上下限を設けたような矩形波に近い波形となる。図7において、実線802u、破線802v及び一点鎖線802wは、夫々、過変調を3相変調に適用した場合におけるU相、V相及びW相電圧の波形を表しており、図7のグラフの横軸は位相θである。周知の如く、過変調は、3相変調だけでなく、2相変調及びヒップ型変調などにも適用可能である。
図5の六角形812は、過変調実行時における、αβ座標系上のモータ電圧Vaの電圧ベクトル軌跡を表している。六角形812は、αβ座標系上の原点を中心とした正六角形であり、その六角形を形成する6頂点の内、対向する2頂点はα軸上にのる。残りの4頂点は、αβ座標系上の第1、第2、第3及び第4象限に1つずつ存在する。六角形812は、α軸を対称軸として対称性を有すると共にβ軸を対称軸として対称性を有する。3相変調に過変調を適用した場合、α軸電圧vαは、(vu,vv,vw)=(1/2・Vdc,−1/2・Vdc,−1/2・Vdc)の時に最大化され、その時におけるα軸電圧vαは、上記式(A−1)より、(√(2/3))×Vdcである。2相変調に過変調を適用した場合、α軸電圧vαは、(vu,vv,vw)=(Vdc,0,0)の時に最大化され、その時におけるα軸電圧vαは、上記式(A−1)より、(√(2/3))×Vdcである。ヒップ型変調に過変調を適用した場合も、α軸電圧vαの最大値は(√(2/3))×Vdcである。
このように、過変調を利用した上で、モータ電圧Vaとして出力できる電圧ベクトルの大きさの最大値Vmax2は、式(A−10)の如く、(√(2/3))×Vdcである。
[電圧指令ベクトルとab軸]
図8に、固定軸であるU相軸、V相軸及びW相軸と、回転軸であるd軸及びq軸と、電圧指令ベクトルと、の関係を表す空間ベクトル図を示す。符号820が付されたベクトルが、電圧指令ベクトルである。q軸から見た電圧指令ベクトル820の位相をεにて表す。そうすると、U相軸を基準とした電圧指令ベクトル820の位相は、(θ+ε+π/2)にて表される。制御装置3内において、モータ1に印加されるべき電圧を指定する値が作成される。電圧指令ベクトル820は、その値をベクトル表現したものである。詳細は後述するが、制御装置3内においてd軸電圧指令値vd *及びq軸電圧指令値vq *が算出され、vd *及びvq *によって電圧指令ベクトル820が表される(電圧指令ベクトル820のd軸成分及びq軸成分がvd *及びvq *である)。
図1に示す如く、モータ電流の検出方式として1シャント電流検出方式を採用した場合、電流センサ5の出力信号(即ち、母線電流値)を適切なタイミングでサンプリングすることによってU、V及びW相の相電流の内、最大相及び最小相の相電流を検出することができる。中間相の相電流は、U、V及びW相の相電流の総和がゼロであることから、演算によって算出することができる。しかしながら、1シャント電流検出方式の原理上、最大相及び中間相の電圧レベルが接近すると、最大相及び中間相に対するPWM信号のパルス幅の差が小さくなって必要なA/D変換時間やリンギング(スイッチングに由来して生じる電流脈動)の収束時間を確保できなくなり、結果、母線電流から最大相の相電流を検出できなくなる。同様に、最小相と中間相の電圧レベルが接近すると、母線電流から最小相の相電流を検出できなくなる。2相分の相電流を実測できなければ、モータ電流Vaの瞬時値を把握することができない。
図8及び後述の図9(a)において、U相軸近傍、V相軸近傍及びW相軸近傍のハッチングが施されたアスタリスク状の領域821は、2相分の相電流が検出できない領域を表している。例えば、V相電圧とW相電圧が近くて2相分の相電流が検出できない状態においては、電圧指令ベクトル820はU相軸近傍に位置することになり、U相電圧とW相電圧が近くて2相分の相電流が検出できない状態においては、電圧指令ベクトル820はV相軸近傍に位置することになる。このように、2相分の相電流の検出が不可能となる領域821は、U相軸を基準として電気角60度ごとに存在する。
本発明の実施形態では、領域821に対応して、図9(a)及び(b)に示すようなan軸を定義する(nは整数)。an軸は、α軸からn・π/3だけ回転した軸である。図9(a)には、an軸としてのa0、a1、a2、a3、a4及びa5軸が示されている。a0軸とa6軸は同じ軸である。bn軸は、β軸からn・π/3だけ回転した軸である。従って、図9(b)に示す如く、bn軸はan軸から90度だけ位相が進んだ軸である。つまり、b0、b1、b2、b3、b4及びb5軸は、夫々、a0、a1、a2、a3、a4及びa5軸から90度だけ位相が進んだ軸である。b0軸とb6軸は同じ軸である。
制御装置3は、a0〜a5軸の内の1つを選択して、選択した軸をa軸に設定すると共に、b0〜b5軸の内の1つを選択して、選択した軸をb軸に設定する。但し、b軸はa軸に対して90度だけ位相が進んでいる。従って、a0軸がa軸として設定されたならば、それに伴ってb0軸がb軸として設定され、b0軸がb軸として設定されたならば、それに伴ってa0軸がa軸として設定される(nが0以外の場合も同様)。
nが0、1、2、3、4及び5の何れかである時のan軸及びbn軸を総称してanbn軸と呼び、nが0、1、2、3、4及び5の何れかである時のan軸及びbn軸を座標軸に選んだ座標系をanbn座標系と呼ぶ。また、a軸及びb軸を総称してab軸と呼び、a軸及びb軸を座標軸に選んだ座標系をab座標系と呼ぶ。
ab軸は、U相軸から見た電圧指令ベクトル820の位相に応じた角度(θ+ε)に依存して設定される。後述する第1実施形態では、a0〜a5軸の内、電圧指令ベクトル820に最も近い軸がa軸として選択され、a軸の選択結果に応じてb0〜b5軸の中からb軸が選択される。一方、後述する第2実施形態では、b0〜b5軸の内、電圧指令ベクトル820に最も近い軸がb軸として選択され、b軸の選択結果に応じてa0〜a5軸の中からa軸が選択される。何れにせよ、ab軸は、電圧指令ベクトル820の回転に伴って(電圧指令ベクトル820の位相変化に伴って)電気角60度ごとにステップ的に回転する。
或る1組のanbn軸に着目した時において、an軸に直交するbn軸方向の領域821の厚みの半分は、Δである(図8参照)。Δは、1シャント電流検出方式によって2相分の相電流を検出することができるか否かを峻別する境界の閾値であり、必要なA/D変換時間やリンギングの収束時間などを考慮して、予め設定される。
上述してきた事項の全部又は一部が適用される実施形態として、以下に、第1〜第4実施形態を説明する。
<<第1実施形態>>
まず、本発明の第1実施形態を説明する。図10は、第1実施形態に係るモータ駆動システムの構成を表すブロック図である。図10において、図1と同一の部分には同一の符号を付す。
図10のモータ駆動システムは、モータ1、インバータ2、直流電源4及び電流センサ5を備えていると共に、図1の制御装置3を形成する「電流検出部21、座標変換器22、電圧演算部(電圧指令ベクトル生成部)23、電圧指令ベクトル補正部24、座標変換器25、PWM信号生成部26、位置センサ27、位置検出部28及び微分器29」を備えている。制御装置3内に電流センサ5も含まれていると考えてもよい。
図10のモータ駆動システムを形成する各部位は、所定の更新周期にて自身が算出(又は検出)して出力する指令値(vd *、vq *など)、状態量(id、iq、θ、ωなど)を更新し、最新の値を用いて必要な演算を行う。
位置センサ27は、ロータリエンコーダ等であり、モータ1の回転子6の磁極位置θに応じた信号を位置検出部28に送る。位置検出部28は、位置センサ27の出力信号に基づいて磁極位置θを検出する。微分器29は、その磁極位置θを微分することにより、回転速度ωを算出して出力する。
上述の如く、電流センサ5は、母線電流を検出し該母線電流の電流値を表す信号を出力する。母線電流をidcにて表す。電流センサ5の出力信号は、電流検出部21に送られる。電流検出部21は、座標変換器25が出力する三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に基づいてU、V及びW相の何れの相が最大相、中間相及び最小相であるかを特定すると共に、その三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に基づいて、最小相及び最大相の相電流を母線電流から検出するためのサンプリングタイミングST1及びST2を決定し、そのタイミングST1及びST2にて電流センサ5の出力信号(即ち、母線電流の電流値)をサンプリングする。タイミングST1及びST2にて検出された母線電流の電流値は最小相及び最大相の相電流の電流値を表しているため、それらの検出電流値と、U、V及びW相の何れの相が最大相、中間相及び最小相であるかを特定した結果と、に基づいて、U相電流値iu及びV相電流値ivを算出及び出力する。この際、必要に応じて、iu+iv+iw=0、の関係式を用いる。
座標変換器22は、磁極位置θに基づいて、U相電流値iu及びV相電流値ivをdq軸上の電流値に変換することによりd軸電流値id及びq軸電流値iqを算出する。
電圧演算部23には、外部から、モータ1(回転子6)を所望の速度で回転させるための指令値としてモータ速度指令値ω*が与えられる。また、電圧演算部23には、微分器29から回転速度ωが与えられると共に、座標変換器22からd軸電流値id及びq軸電流値iqが与えられる。電圧演算部23は、速度誤差(ω*−ω)に基づいて、q軸電流値iqが追従すべきq軸電流指令値iq *を算出する。例えば、比例積分制御によって(ω*−ω)がゼロに収束するようにiq *を算出する。更に、電圧演算部23は、iq *を参照して、d軸電流値idが追従すべきd軸電流指令値id *を算出する。例えば、最大トルク制御を実現するためのid *を算出する。そして、電圧演算部23は、電流誤差(id *−id)及び(iq *−iq)がゼロに収束するように比例積分制御を行って、d軸電圧値vdが追従すべきd軸電圧指令値vd *及びq軸電圧値vqが追従すべきq軸電圧指令値vq *を算出及び出力する。
電圧指令ベクトル補正部24は、vd *及びvq *並びにθに基づき、vd *及びvq *を座標変換を介して補正しつつα軸電圧値vαが追従すべきα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧値vβが追従すべきβ軸電圧指令値vβ*を算出して出力する。座標変換器25は、αβ軸上の指令値vα*及びvβ*をU、V及びW相軸上の指令値に変換することにより三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *を算出する。
PWM信号生成部26は、座標変換器25からの三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に基づいて、U相、V相及びW相電圧値vu、vv及びvwが夫々vu *、vv *及びvw *に従った電圧値となるようにインバータ2内の各スイッチング素子(アーム)に対するPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータ2に与える。インバータ2は、与えられたPWM信号に従ってインバータ2内の各スイッチング素子のスイッチングを制御することにより、三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に応じたU相、V相及びW相電圧をモータ1に印加する。これにより、三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に応じたモータ電流Iaがモータ1に供給されてモータ1にトルクが発生する。
図11に、電流検出部21の内部ブロック図を示す。電流検出部21は、タイミング生成部41と、AD変換器42と、相判断部43と、を有する。タイミング生成部41は、座標変換器25が出力する三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *の大小関係に基づいてU、V及びW相の何れの相が最大相、中間相及び最小相であるかを特定する。最大相、中間相及び最小相の組み合わせは6通りあり、この6通りを第1〜第6モードと呼ぶ。タイミング生成部41は、上記の大小関係に基づいて現時点が属するモードを特定すると共に、特定されたモードを考慮しつつサンプリングタイミングST1及びST2を決定する。以下、現時点が属するモードを表す情報を「モード情報」と呼ぶ。
AD変換器42は、タイミングST1とST2の夫々において電流センサ5の出力信号(アナログ出力信号)をサンプリングすることにより、タイミングST1とST2の夫々における母線電流idcの電流値をデジタル値として検出及び出力する。相判断部43は、タイミング生成部41にて特定されたモード情報を参照して、AD変換器42の出力信号からU相及びV相電流値iu及びivを算出する。この際、必要に応じて、iu+iv+iw=0、の関係式を用いる。
vd *及びvq *は、速度誤差(ω*−ω)並びに電流誤差(id *−id)及び(iq *−iq)をゼロに収束させるための、vd及びvqの目標値である。電圧演算部23にて生成されたvd *及びvq *は、第1実施形態における電圧指令ベクトルを形成する。即ち、第1実施形態において、電圧演算部23にて生成されたvd *及びvq *は、図8の電圧指令ベクトル820のd軸成分及びq軸成分である。この電圧指令ベクトルに従う電圧がそのままモータ1に印加されたならば、実際の電圧値vd及びvqは、夫々、指令値vd *及びvq *に合致する。但し、電圧演算部23にて生成された電圧指令ベクトルは、電圧指令ベクトル補正部24によって補正されうる。
便宜上、電圧演算部23にて生成された、補正前の電圧指令ベクトルを第1電圧指令ベクトルと呼び、電圧指令ベクトル補正部24にて第1電圧指令ベクトルが補正されることによって生成された、補正後の電圧指令ベクトルを第2電圧指令ベクトルと呼ぶ。第1実施形態において、第1電圧指令ベクトルのd軸成分及びq軸成分は電圧演算部23にて生成されたvd *及びvq *であり、第2電圧指令ベクトルのα軸成分及びβ軸成分は電圧指令ベクトル補正部24から出力されるvα*及びvβ*である。
[電圧指令ベクトルの補正]
電圧指令ベクトル補正部24による電圧指令ベクトルの補正原理について説明する。αβ座標系上において第1電圧指令ベクトルの軌跡が円を成すように、vd *及びvq *が作成される。即ち、vd *及びvq *によって指定される電圧は回転電圧である。一方、モータ1に高い電圧を印加する必要があるときには、過変調が利用される。図12に、過変調実行時における、anbn座標系上の第1電圧指令ベクトルの軌跡830を示す。anbn座標系上における軌跡830は、anbn座標系上の原点を中心とする半径√(vd *2+vq *2)の円の弧である。その弧の中心角はπ/3であって、その弧はan軸を対称軸として対称性を有している。
図12において、符号812が付された折れ線は、図5の六角形812の一部を示している。anbn座標系上において、過変調実行時における第1電圧指令ベクトルの軌跡830の全部又は一部は、六角形812の外部に位置する。上述したように、モータ電圧Vaとして出力できる電圧ベクトルの大きさの最大値Vmax2は、式(A−10)の如く、(√(2/3))×Vdcである(図5も参照)。インバータ2は、この最大値Vmax2を超える大きさを有する電圧ベクトルを出力することができないため、何れかの段階で、第1電圧指令ベクトルを補正する必要がある。
第1電圧指令ベクトルをそのまま図10の座標変換器25に与え、得られた三相電圧指令値に制限を課すことにより(PWM信号の生成段階でPWM信号のパルス幅に制限を課すことにより)モータへの印加電圧ベクトルの大きさを最大値Vmax2以下にとどめる、という方法(以下、単純制限方法と呼ぶ)も考えられる。但し、この単純制限方法では、母線電流から2相分の相電流を検出可能な、最大相及び中間相間のパルス幅の差及び中間相及び最小相間のパルス幅の差を確保できないこともある。
これを考慮し、電圧指令ベクトル補正部24は、第1電圧指令ベクトルのan軸成分(an軸がa軸である場合は、第1電圧指令ベクトルのa軸成分)に上限を設けることによって第1電圧指令ベクトルを補正し、補正後の第1電圧指令ベクトルを第2電圧指令ベクトルとして生成する。具体的には、第1電圧指令ベクトルのan軸成分vanが次式にて規定される上限値vanLIMを超えている場合、vanがvanLIMと同じになるようにvanを減少補正する。
2相分の相電流の検出実現のみに注目した場合、第1電圧指令ベクトルのbn軸成分vbnに対する補正は不要であるが、過変調領域を積極的に利用するためには(高い電圧をモータ1に出力するためには)、bn軸成分vbnへの補正が必要となる。即ち、図12に示す如く、六角形812の外部に位置する、軌跡830上の点831及び832が、夫々、六角形812上の点841及び842へと移動するように、bn軸成分vbnを補正する機能が必要である。図12において、ベクトル831VEC及び832VECは、夫々、点831及び832を終点として有する時の第1電圧指令ベクトルである。点841及び842は、補正後の電圧指令ベクトルの終点が位置すべき点を表している。
図12の直線845は、anbn座標系上において、(van,vbn)=(vanLIM,0)を満たす点を通り且つbn軸に平行な直線である。点841は直線845上の点であるが、点842は直線845上の点ではない。補正後の電圧指令ベクトルの終点が点842に合致するように、直接、点842に対応する電圧指令ベクトルを求めても良いが、それでは計算量が増大してしまう。そこで、電圧指令ベクトル補正部24は、補正後の電圧指令ベクトル(即ち、第2電圧指令ベクトル)の終点が点843に合致するように、第1電圧指令ベクトル832VECのan軸成分van及びbn軸成分vbnを補正する。点843は直線845上の点である。電圧指令ベクトルに対する点843から点842への補正は、第2電圧指令ベクトルからPWM信号の生成する過程において実行される。
実際には、van>vanLIMであって且つ第1電圧指令ベクトルのbn軸成分vbnが正の時、式(B−1)を満たす値vbnoを定義し、下記の条件付式(B−2)に従って、van及びvbnを補正すればよい。bn軸成分vbnが負の時にも、同様のアルゴリズムによってvan及びvbnを補正可能である。
ここで、係数Kは、1/√3以上の所定値である。K=1/√3である時、点831と点841を結ぶ直線及び点832と点843と点842を結ぶ直線は、点841及び842が位置する、六角形812上の一辺に直交する。図13〜図15を参照しつつ、Kを1/√3以上に設定することの意義を説明する。
第1電圧指令ベクトルの大きさを|v*|にて表し、印加電圧ベクトルの基本波の大きさを|v|にて表す。印加電圧ベクトルは、実際にモータ1に印加した電圧のベクトルを指す。印加電圧ベクトルは、インバータ2の出力電圧をベクトル表現した、インバータ2の出力電圧ベクトルと同じである。印加電圧ベクトルがαβ座標系上で円を描かない時(即ち、実際にモータ1に印加した電圧が回転電圧でない時)、印加電圧ベクトルは、αβ座標系上で円を描く基本波電圧ベクトルに高調波電圧ベクトルを加算したものとなる。図13の円850は、過変調によってαβ座標系上で六角形812を描く電圧ベクトルがモータ1に印加された時における、基本波電圧ベクトルの軌跡である。この基本波電圧ベクトルの大きさが|v|である。
回転電圧として印加できる電圧ベクトルの大きさの最大値Vmax1(上記式(A−9)参照)に対する第1電圧指令ベクトルの大きさ|v*|の比は変調率と呼ばれる。変調率をKv*にて表すと、Kv*は下記式(B−3)によって表される。また、最大値Vmax1に対する大きさ|v|の比は、電圧利用率と呼ばれる。電圧利用率をKvにて表すと、Kvは下記式(B−4)によって表される。1を超える変調率にて行われるPWM(パルス幅変調)は過変調PWMと呼ばれる。電圧利用率の最大値は約1.104である。
図14に、変調率Kv*と電圧利用率Kvの関係を示す。Kv*≦1の領域では、Kv*とKvとの間で線形性が保たれているが、Kv*>1を満たす領域である過変調領域では、この線形性が崩れてくる。過変調領域における曲線851は、上記係数Kを1/√3に設定した時のKv*とKvの関係を示している。上記係数Kを1/√3に設定した場合、Kv*→∞の時に電圧利用率Kvがそれの最大値(約1.104)をとる。電圧指令ベクトル補正部24による電圧指令ベクトルの補正処理ではなく上記の単純制限方法を用いた場合も、過変調領域におけるKv*とKvの関係は曲線851と符合する。
第1電圧指令ベクトルの大きさ|v*|と印加電圧ベクトルの基本波の大きさ|v|との差が大きいことは、制御装置3が指令した電圧と実際の印加電圧との間に大きな差があることを意味する。このような大きな差が存在すると、モータ1に対する制御性が低下する。そこで、係数Kを1/√3より大きな値に設定することが望ましい。
K>1/√3の時、K=1/√3の時と比べて、第1電圧指令ベクトルのbn軸成分がより大きく補正される。図12の例においてK=1/√3の時を基準にして考えた場合、Kを1/√3よりも大きく設定すると、点832が向かうべき点843は直線845に沿ってan軸側に向かうため、これに伴って点832が向かうべき点842(印加電圧ベクトルの終点)は六角形812の辺に沿ってan軸側に向かう。従って、過変調領域において、K>1/√3の時、K=1/√3の時と比べて、印加電圧ベクトルの大きさが増大する。このことは、図15に示される、K=1/√3に対応する印加電圧ベクトル842VECと、K>1/√3に対応する印加電圧ベクトル842VEC'との対比からも理解される。印加電圧ベクトル842VEC'の終点位置は印加電圧ベクトル842VECの終点位置よりもan軸に近いため、印加電圧ベクトル842VEC'の大きさは印加電圧ベクトル842VECの大きさよりも大きい。
過変調領域において、K>1/√3の時、K=1/√3の時と比べて、印加電圧ベクトルの大きさが増大するため、係数Kを1/√3よりも大きな値に設定すれば、過変調領域における、Kv*とKvとの間の線形性は改善される。図14において、過変調領域における曲線852は、上記係数Kを1/√3よりも大きな値に設定した時のKv*とKvの関係を示している。このように、K>1/√3とすることにより、過変調領域において、制御装置3が指令した電圧と実際の印加電圧との間の差が小さくなり、過変調領域における制御性の低下が抑制される。
[具体的な補正手法と構成]
上記の補正原理に基づく電圧指令ベクトル補正部24の構成及び動作を具体的に説明する。図16は、電圧指令ベクトル補正部24の内部ブロック図である。図17は、電圧指令ベクトル補正部24の動作の流れを表すフローチャートである。電圧指令ベクトル補正部24は、符号51〜53によって参照される各部位を備える。ステップS1の処理はdq/ab変換部51によって実行され、ステップS2〜S6の処理は補正ベクトル計算部52によって実行され、ステップS7の処理はab/αβ変換部53によって実行される。
まず、ステップS1において、dq/ab変換部51は、図10の電圧演算部23から与えられるdq軸上の電圧指令値vd *及びvd *を、位置検出部28からの磁極位置θに基づき、ab軸として設定されるべきanbn軸上の電圧指令値van *及びvbn *に変換する。
上述したように、第1実施形態では、a0〜a5軸の内、第1電圧指令ベクトルに最も近い軸がa軸として選択され、その選択結果に従ってb軸が設定される。従って、第1実施形態では、(θ+ε+2π/3)をπ/3で割った時に得られる商が変数nの値となり、その商をnの値として有するan軸がa軸として選択される(図8参照)。選択されたa軸は、a0〜a5軸の内、U相軸から見た第1電圧指令ベクトルの位相(θ+ε+π/2)に対して最も近い位相(U相軸から見た位相)を有する軸である。
モータ1の回転子6の回転に伴って第1電圧指令ベクトルはαβ座標系上で回転し、例えば、図18のベクトル820aが第1電圧指令ベクトルである時には、a3軸及びb3軸がa軸及びb軸として選択されてanbn軸上の電圧指令値van *及びvbn *としてva3 *及びvb3 *が算出され、図18のベクトル820bが第1電圧指令ベクトルである時には、a4軸及びb4軸がa軸及びb軸として選択されてanbn軸上の電圧指令値van *及びvbn *としてva4 *及びvb4 *が算出される。
第1実施形態におけるnを、後述の第2実施形態におけるnと区別すべく、nAとも表記する。dq/ab変換部51は、(θ+ε+2π/3)をπ/3で割ることでn(=nA)の値を求め、その求めたnの値を用いて下記式(B−5)に従い角度θnを求める。その後、式(B−6)に従って、vd *及びvd *をvan *及びvbn *に変換する。尚、dq/ab変換部51にて求められたn(=nA)の値は、ab/αβ変換部53にて実行される座標変換演算にも利用される。また、位相εは、ε=tan-1(−vd */vq *)にて求まる。
補正ベクトル計算部52は、ステップS2〜S6の処理を実行することにより、dq/ab変換部51から与えられるvan *及びvbn *を補正して、anbn軸上の補正後の電圧指令値vacn *及びvbcn *を出力する。vacn *及びvbcn *は、補正後のvan *及びvbn *を表す。尚、van *及びvbn *の値によっては、van *=vacn *且つvbn *=vbcn *となることもある。
具体的には、まず、ステップS2において、a軸電圧に対する補正前の指令値van *と上限値vanLIMを比較する。そして、van *>vanLIMである場合は、ステップS3に移行して、更にb軸電圧に対する補正前の指令値vbn *とゼロを比較し、vbn *>0である場合はステップS4の補正処理を実行する一方、vbn *≦0である場合はステップS5の補正処理を実行する。また、ステップS2において、van *≦vanLIMである場合は、ステップS6に移行してステップS6の補正処理を実行する。ステップS4及びS5の補正処理は、過変調に対応する補正処理である。
ステップS4の補正処理では、「vbno *=vbn *−K(van *−vanLIM)」に従って値vbno *を定義した上で、そのvbno *と所定の閾値Δとを比較し、vbno *≦Δが成立する場合は「vacn *=vanLIM且つvbcn *=Δ」となるように、vbno *>Δが成立する場合は「vacn *=vanLIM且つvbcn *=vbno *」となるように、vacn *及びvbcn *を求める。
ステップS5の補正処理では、「vbno *=vbn *+K(van *−vanLIM)」に従って値vbno *を定義した上で、そのvbno *と所定の閾値(−Δ)とを比較し、vbno *≧−Δが成立する場合は「vacn *=vanLIM且つvbcn *=−Δ」となるように、vbno *<−Δが成立する場合は「vacn *=vanLIM且つvbcn *=vbno *」となるように、vacn *及びvbcn *を求める。
ステップS6の補正処理は、1シャント電流検出方式によって2相分の相電流を検出可能とするための補正処理であって、その内容は、特許文献1に開示されたものと同じである。即ち、ステップS6の補正処理では、vbn *の絶対値|vbn *|と閾値Δとを比較し、|vbn *|が閾値Δより小さい場合であって且つvbn *が正(又はゼロ)である場合はvbcn *=Δとなるように、|vbn *|が閾値Δより小さい場合であって且つvbn *が負である場合はvbcn *=−Δとなるように、vbcn *を求める。絶対値|vbn *|が閾値Δ以上の場合、vbcn *=vbn *とされる。また、ステップS6の補正処理では、更にvan *と(√3)×Δが比較され、「van *<(√3)×Δ」が成立する場合は、vacn *=(√3)×Δとなるようにvacn *が求められる。「van *<(√3)×Δ」が成立しない場合、vacn *=van *とされる。
ステップS4、S5又はS6の補正処理によって求められたanbn軸上の電圧指令値vacn *及びvbcn *は、図16のab/αβ変換部53に送られる。ステップS4、S5又はS6に続くステップS7において、ab/αβ変換部53は、anbn軸上の電圧指令値vacn *及びvbcn *をαβ軸上に座標変換することにより、αβ軸上の電圧指令値vα*及びvβ*を算出する。この算出は、下記式(B−7)に従って行われる。式(B−7)におけるnは、dq/ab変換部51にて求められたn(=nA)である。
vd *及びvq *は所定の更新周期にて順次更新されるが、この更新の度に、最新のvd *及びvq *を用いたステップS1〜S7の処理によって最新のvα*及びvβ*が求められる。即ち、更新周期にて離散化された第k番目の更新タイミングにおけるvd *、vq *、van *、vbn *、vacn *及びvbcn *を、夫々、vd *(k)、vq *(k)、van *(k)、vbn *(k)、vacn *(k)及びvbcn *(k)にて表した場合、vd *(k)及びvq *(k)がvan *(k)及びvbn *(k)に変換された後、van *(k)及びvbn *(k)がステップS4、S5又はS6の補正処理によって補正されてvacn *(k)及びvbcn *(k)が求められる。
図10の座標変換器25は、上記式(A−1)及び式(A−2)に対応する下記式(B−8a)及び(B−8b)と式(B−8c)とに基づいて、三相変調時における三相電圧指令値vu1 *、vv1 *及びvw1 *を求め、この三相電圧指令値vu1 *、vv1 *及びvw1 *に直流電圧Vdcの大きさに応じた上下限を課すことによって最終的な三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *を求める。例えば、vu1 *が直流電圧Vdcの大きさから定まる所定の上限値vULを超えるのであればvu *にvULを代入し、vu1 *が直流電圧Vdcの大きさから定まる所定の下限値vLLを下回るのであればvu *にvLLを代入する。vUL≧vu1 *≧vLLであれば、vu *=vu1 *とされる。vv1 *及びvw1 *についても同様に処理される。尚、上限値vUL及び下限値vLLは、夫々、図3のキャリア信号CSの最大値及び最小値と一致する。
勿論、2相変調及びヒップ型変調を利用することもできる。2相変調を利用する場合は、三相電圧指令値vu1 *、vv1 *及びvw1 *を上記式(A−3)〜(A−5)に従ってvu2 *、vv2 *及びvw2 *に変換し、vu2 *、vv2 *及びvw2 *に直流電圧Vdcの大きさに応じた上下限を課すことによって最終的な三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *を求める。ヒップ型変調を利用する場合は、三相電圧指令値vu1 *、vv1 *及びvw1 *を上記式(A−6)〜(A−8)に従ってvu3 *、vv3 *及びvw3 *に変換し、vu3 *、vv3 *及びvw3 *に直流電圧Vdcの大きさに応じた上下限を課すことによって最終的な三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *を求める。
[シミュレーション結果]
図19(a)〜(f)に、電圧指令ベクトル及び印加電圧ベクトルに関するシミュレーション結果を示す。図19(a)のグラフのプロット群は、過変調が利用された場合における、αβ座標系上の第1電圧指令ベクトルの軌跡を表している。図19(b)〜(e)のグラフのプロット群は、図19(a)の第1電圧指令ベクトルから生成されたベクトルの、αβ座標系上の軌跡を示している。図19(a)〜(f)の各グラフにおいて、横軸はα軸に一致し、縦軸はβ軸に一致している。
図19(b)のプロット群は、従来方法とも言うべき単純制限方法によって得られた印加電圧ベクトルの軌跡を表している。図19(b)は、図19(c)〜(f)と対比するための参考図に相当する。
図19(c)のプロット群は、K=1/√3の時における第2電圧指令ベクトルの軌跡を表し、図19(d)のプロット群は、図19(c)の第2電圧指令ベクトルに基づいて生成された印加電圧ベクトルの軌跡を表している。図19(c)からも分かるように、2相分の相電流が検出不能となる領域821(図8参照)内に第2電圧指令ベクトルの軌跡は存在しない。
図19(e)のプロット群は、係数Kが1/√3よりも随分大きい時における第2電圧指令ベクトルの軌跡を表し、図19(f)のプロット群は、図19(e)の第2電圧指令ベクトルに基づいて生成された印加電圧ベクトルの軌跡を表している。係数Kを1/√3よりも大きくすることによって、2相分の相電流の検出を確保しつつも、印加電圧ベクトルの大きさがなるだけVmax2=(√(2/3)×Vdc)に近づけられていることが分かる(より大きな電圧がモータ1に印加されている)。
電流検出部21は、1シャント電流検出方式によって三相電流(iu、iv及びiw)を検出しているが、1シャント電流検出方式以外の電流検出方式によって三相電流(iu、iv及びiw)を検出することも可能であり、その場合も、第1実施形態に係る電圧指令ベクトル補正方法は有効に機能する。但し、1シャント電流検出方式以外の電流検出方式を利用する場合、上記の閾値Δはゼロに設定される(1シャント電流検出方式を利用する場合は、Δ>0である)。
例えば、電流検出部21は、以下の第1〜第3電流検出方式の何れかによって三相電流(iu、iv及びiw)を検出するようにしてもよい。第1電流検出方式では、図1の端子12u及び12vに流れる電流を直接検出する電流センサ(計2つの電流センサ)を用いて、U相、V相電流値iu及びivが直接検出される。第2電流検出方式では、下アーム9uと母線13とを結ぶ第1配線に直列に介在する第1電流センサと、下アーム9vと母線13とを結ぶ第2配線に直列に介在する第2電流センサとを用いて、第1及び第2配線に流れる電流を検出することにより、U相、V相電流値iu及びivを検出する。第3電流検出方式では、上記の第1及び第2電流センサと、下アーム9wと母線13とを結ぶ第3配線に直列に介在する第3電流センサとを用いて、第1〜第3配線に流れる電流を検出することにより三相電流値を検出する。第1〜第3の電流検出方式で利用される各電流センサは、シャント抵抗又はカレントトランス等である。
図10のモータ駆動システムでは、位置センサ27を用いて磁極位置θ及び回転速度ωを求めているが、位置センサ27を用いることなく、磁極位置θ及び回転速度ωを推定によって求めるようにしてもよい。磁極位置θ及び回転速度ωの推定方法として、公知の方法を含む任意の方法を利用可能である。例えば、vd *、vq *、id及びiqの全部又は一部を用いて磁極位置θ及び回転速度ωを推定するようにしてもよい。
<<第2実施形態>>
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、電圧指令ベクトル補正部として、図20の電圧指令ベクトル補正部124が用いられる。図20は、電圧指令ベクトル補正部124の内部ブロック図である。電圧指令ベクトル補正部124は、符号151〜153によって参照される各部位を備える。
dq/ab変換部151には、dq軸上の電圧指令値vd *及びvq *と磁極位置θとが与えられる。dq/ab変換部151に与えられるvd *及びvq *は、第2実施形態における電圧指令ベクトルを形成する。即ち、第2実施形態において、dq/ab変換部151に与えられるvd *及びvq *は、図8の電圧指令ベクトル820のd軸成分及びq軸成分である。この電圧指令ベクトルに従う電圧がそのままモータ1に印加されたならば、実際の電圧値vd及びvqは、夫々、指令値vd *及びvq *に合致する。但し、vd *及びvq *によって表される電圧指令ベクトルは、電圧指令ベクトル補正部124によって補正されうる。
便宜上、vd *及びvq *によって表される、補正前の電圧指令ベクトルを第1電圧指令ベクトルと呼び、電圧指令ベクトル補正部124にて第1電圧指令ベクトルが補正されることによって生成された、補正後の電圧指令ベクトルを第2電圧指令ベクトルと呼ぶ。第2実施形態において、第1電圧指令ベクトルのd軸成分及びq軸成分は夫々dq/ab変換部151に与えられるvd *及びvq *であり、第2電圧指令ベクトルのα軸成分及びβ軸成分は電圧指令ベクトル補正部124から出力されるvα*及びvβ*である。αβ座標系上において第1電圧指令ベクトルの軌跡が円を成すように、vd *及びvq *は作成される。即ち、vd *及びvq *によって指定される電圧は回転電圧である。
dq/ab変換部151は、与えられたdq軸上の電圧指令値vd *及びvd *を磁極位置θに基づき、ab軸として設定されるべきanbn軸上の電圧指令値van *及びvbn *に変換する。
上述したように、第2実施形態では、b0〜b5軸の内、第1電圧指令ベクトルに最も近い軸がb軸として選択され、その選択結果に従ってa軸が設定される。従って、第2実施形態では、第1実施形態と異なり、(θ+ε+π/6)をπ/3で割った時に得られる商が変数nの値となり、その商をnの値として有するbn軸がb軸として選択される。選択されたb軸は、b0〜b5軸の内、U相軸から見た第1電圧指令ベクトルの位相(θ+ε+π/2)に対して最も近い位相(U相軸から見た位相)を有する軸である。
第2実施形態におけるn、即ち(θ+ε+π/6)をπ/3で割った時に得られる商を、第1実施形態におけるn(=nA)と区別すべく、nBとも表記する。第2実施形態の説明文で述べられるnはnBと合致する。
モータ1の回転子6の回転に伴って第1電圧指令ベクトルはαβ座標系上で回転し、例えば、図21のベクトル820aが第1電圧指令ベクトルである時には、a1軸及びb1軸がa軸及びb軸として選択されてanbn軸上の電圧指令値van *及びvbn *としてva1 *及びvb1 *が算出され、図21のベクトル820bが第1電圧指令ベクトルである時には、a2軸及びb2軸がa軸及びb軸として選択されてanbn軸上の電圧指令値van *及びvbn *としてva2 *及びvb2 *が算出される。
dq/ab変換部151は、(θ+ε+π/6)をπ/3で割ることでn(=nB)の値を求め、その求めたnの値を用いて下記式(C−1)に従い角度θnを求める。その後、式(C−2)に従って、vd *及びvd *をvan *及びvbn *に変換する。尚、dq/ab変換部151にて求められたn(=nB)の値は、ab/αβ変換部153にて実行される座標変換演算にも利用される。また、位相εは、ε=tan-1(−vd */vq *)にて求まる。
補正ベクトル計算部152は、dq/ab変換部151から与えられるvan *及びvbn *を補正して、anbn軸上の補正後の電圧指令値vacn *及びvbcn *を出力する。vacn *及びvbcn *は、補正後のvan *及びvbn *を表す。尚、van *及びvbn *の値によっては、van *=vacn *且つvbn *=vbcn *となることもある。
補正ベクトル計算部152から出力される電圧指令値vacn *及びvbcn *は、ab/αβ変換部153に送られる。ab/αβ変換部153は、anbn軸上の電圧指令値vacn *及びvbcn *をαβ軸上に座標変換することにより、αβ軸上の電圧指令値vα*及びvβ*を算出する。この算出は、下記式(C−3)に従って行われる。式(C−3)におけるnは、dq/ab変換部151にて求められたn(=nB)である。
vd *及びvq *は所定の更新周期にて順次更新されるが、この更新の度に、最新のvd *及びvq *を用いて最新のvα*及びvβ*が求められる。更新周期にて離散化された第k番目の更新タイミングにおけるvd *、vq *、van *、vbn *、vacn *及びvbcn *を、夫々、vd *(k)、vq *(k)、van *(k)、vbn *(k)、vacn *(k)及びvbcn *(k)にて表す。そうすると、vd *(k)及びvq *(k)をvan *(k)及びvbn *(k)に変換した後、van *(k)及びvbn *(k)が補正されてvacn *(k)及びvbcn *(k)が求められる。
今、図22(a)に示すような軌跡を有する第1電圧指令ベクトルがdq/ab変換部151に与えられた場合、即ち、常にvd *=0且つvq *=CONSTがdq/ab変換部151に与えられた場合を想定する。値CONSTは、過変調PWMが必要となるような、比較的大きな一定値である。この想定の下、補正ベクトル計算部152にて採用可能な電圧指令補正処理として、第1〜第4の電圧指令補正処理を個別に説明する。
[第1の電圧指令補正処理]
まず、第1の電圧指令補正処理を説明する。図22(a)に示すような第1電圧指令ベクトルが生成された時、anbn座標系上の第1電圧指令ベクトルの軌跡は、図22(b)に示されるプロット群を繋ぎ合わせた軌跡となる(第2〜第4の電圧指令補正処理についても同様)。図22(b)のグラフの横軸及び縦軸は、夫々、第1電圧指令ベクトルのan軸及びbn軸成分であるvan *及びvbn *を表している。図22(b)からも分かるように、nAではなくnBを用いてdq軸及びab軸間の座標変換を行うことにより、第1電圧指令ベクトルの軌跡を、bn軸を中心とする±π/6の位相領域内に集中させることができる。
van *及びvbn *を座標軸成分として有するanbn座標系上の第1電圧指令ベクトルを得た後、第1電圧指令ベクトルのbn軸成分を所定値に制限することによりvbn *を補正する。図23(a)のプロット群は、anbn座標系上の第2電圧指令ベクトル(即ち、補正後の第1電圧指令ベクトル)の軌跡を表している。この第2電圧指令ベクトルをαβ座標系上に変換すると、図23(b)に示す軌跡を有する、αβ座標系上の第2電圧指令ベクトルが得られる。
上記の所定値を直流電圧値Vdcに応じて適切に設定しておくことにより、電圧指令ベクトルを、インバータ2が出力可能な六角形812(図5参照)のベクトル空間内に収まるように簡単に補正できる。
このような補正によって得られた第2電圧指令ベクトルの指令値vα*及びvβ*を三相電圧指令値に変換し、ヒップ型変調を用いると、過変調領域を利用した図24(a)に示すような三相電圧指令値vu3 *、vv3 *及びvw3 *が得られる。図24(a)のグラフは、図24(b)に示すU相電圧指令値vu3 *のプロット群と、図24(c)に示すV相電圧指令値vv3 *のプロット群と、図24(d)に示すW相電圧指令値vw3 *のプロット群を重ね合わせて示したものである。
尚、図23(a)(並びに後述する図25(a)及び図29(a))のグラフにおいて、横軸及び縦軸は、夫々、第2電圧指令ベクトルのan軸及びbn軸成分であるvacn *及びvbcn *を表している。図23(b)(並びに後述する図25(b)及び図29(b))のグラフにおいて、横軸及び縦軸は、夫々、第2電圧指令ベクトルのα軸及びβ軸成分であるvα*及びvβ*を表している。図24(a)(並びに後述する図26(a)及び図30(a))のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸はvu3 *、vv3 *及びvw3 *を表している。図24(b)(並びに後述する図26(b)及び図30(b))のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸はvu3 *を表している。図24(c)(並びに後述する図26(c)及び図30(c))のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸はvv3 *を表している。図24(d)(並びに後述する図26(d)及び図30(d))のグラフにおいて、横軸は時間を表し、縦軸はvw3 *を表している。
具体的には、第1の電圧指令補正処理において、補正ベクトル計算部152は、式(C−4)に従って電圧指令ベクトルを補正する。即ち、vbn *(k)とbn軸成分に対する上限値Vbnmaxとを比較し、vbn *(k)>Vbnmaxが成立する場合は式「vbcn *(k)=Vbnmax」に従ってvbcn *(k)を求め、vbn *(k)>Vbnmaxが成立しない場合は式「vbcn *(k)=vbn *(k)」に従ってvbcn *(k)を求める。第1の電圧指令補正処理においては、電圧指令ベクトルのan軸成分は補正されない。つまり、常に、vacn *(k)=van *(k)とされる。
上限値Vbnmaxは、インバータ2が出力可能な電圧のbn軸成分の最大値であり、下記式(C−5)によって定義される。上限値Vbnmaxは、上記式(A−9)にて定義される値Vmax1と同じである(図5も参照)。
[第2の電圧指令補正処理]
次に、第2の電圧指令補正処理を説明する。第1の電圧指令補正処理では、電圧指令ベクトルのan軸成分に対する補正が行われないが、an軸成分に対する補正を適切に行うことによって、過変調領域における変調率Kv*及び電圧利用率Kv間の線形性を改善することができる。第1実施形態で述べたように、変調率Kv*及び電圧利用率Kvは、上記式(B−3)及び(B−4)で定義される。但し、当然ではあるが、第2実施形態においては、dq/ab変換部151への入力値vd *及びvq *によって表される第1電圧指令ベクトルの大きさが|v*|である。
第2の電圧指令補正処理においては、電圧指令ベクトルのbn軸成分に対する補正を実行しつつ、そのbn軸成分が所定値(Vbnmax)を超えた量に応じて、電圧指令ベクトルのan軸成分に対しても補正を加える。これによって、図25(a)に示す如く電圧指令ベクトルをbn軸から離れたベクトルに補正する(補正後の電圧指令ベクトルがbn軸近傍に位置しないようにする)。このような補正を行うことによって、電圧指令ベクトルのbn軸成分の減少補正分に応じて電圧指令ベクトルのan軸成分が増大補正されるため、過変調領域において、補正前の電圧指令ベクトル(第1電圧指令ベクトル)の大きさと印加電圧ベクトル(第2電圧指令ベクトル)の大きさの差を小さくすることができる。
従来方法とも言うべき単純制限方法を採用すると、過変調領域において、電圧指令ベクトルの大きさと印加電圧ベクトルの基本波の大きさとの間に大きな差が生じ、変調率が大きいほど、その差が大きくなっていた。このような大きな差が存在するとモータに対する制御性が低下する。一方、本電圧指令補正処理の如く電圧指令ベクトルのan軸成分を補正すれば、補正前の電圧指令ベクトル(第1電圧指令ベクトル)と補正後の電圧指令ベクトル(第2電圧指令ベクトル)との間における大きさの差が減少し、結果、過変調領域において、補正前の電圧指令ベクトルの大きさと印加電圧ベクトルの基本波の大きさとの線形性が向上して制御性が改善される。
図25(a)及び(b)並びに図26(a)〜(d)を参照して、第2の電圧指令補正処理に対応するシミュレーション結果を説明する。第2の電圧指令補正処理では、van *及びvbn *を座標軸成分として有するanbn座標系上の第1電圧指令ベクトルを得た後、上述の如く、第1電圧指令ベクトルのan軸及びbn軸成分を補正する。図25(a)のプロット群は、第2の電圧指令補正処理に対応する、anbn座標系上の第2電圧指令ベクトル(補正後の第1電圧指令ベクトル)の軌跡を表している。この第2電圧指令ベクトルをαβ座標系上に変換すると、図25(b)に示す軌跡を有する、αβ座標系上の第2電圧指令ベクトルが得られる。
この後、第2電圧指令ベクトルの指令値vα*及びvβ*を三相電圧指令値に変換し、ヒップ型変調を用いると、過変調領域を利用した図26(a)に示すような三相電圧指令値vu3 *、vv3 *及びvw3 *が得られる。図26(a)のグラフは、図26(b)に示すU相電圧指令値vu3 *のプロット群と、図26(c)に示すV相電圧指令値vv3 *のプロット群と、図26(d)に示すW相電圧指令値vw3 *のプロット群を重ね合わせて示したものである。
具体的には、第2の電圧指令補正処理において、補正ベクトル計算部152は、式(C−6)〜(C−10)に従って電圧指令ベクトルを補正する。尚、sign(van *(k))は、van *(k)≧0の時には1であり、van *(k)<0の時には(−1)である。同様に、sign(van’(k))は、van’(k)≧0の時には1であり、van’(k)<0の時には(−1)である。
式(C−6)と第1の電圧指令補正処理で利用される式(C−4)は同じものである。従って、第2の電圧指令補正処理においてvbn *(k)からvbcn *(k)を生成する処理内容は、第1の電圧指令補正処理におけるそれと同じである。
第2の電圧指令補正処理では、式(C−7)に従って値vanmax(k)が求められる。式(C−7)に基づくvanmax(k)は、モータ1の印加電圧ベクトルのbn軸成分がvbcn *(k)である時において、インバータ2が出力可能な電圧のan軸成分の最大値を表す。更に、式(C−8)に従って値vbno *(k)が求められる。値vbno *(k)は、bn軸成分vbn *(k)を補正することによってbn軸成分vbcn *(k)を求める時の、bn軸成分の減少補正量を表している。
その後、式(C−9)に従って値van’(k)を求める。値van’(k)を求めた後、式(C−10)に従ってvacn *(k)を求める。即ち、不等式「|van’(k)|>vanmax(k)」が成立する場合は、式「vacn *(k)=sign(van’(k))・vanmax(k)」に従ってvacn *(k)が求められ、不等式「|van’(k)|>vanmax(k)」が成立しない場合は、式「vacn *(k)=van’(k)」に従ってvacn *(k)が求められる。
このように、第2の電圧指令補正処理では、bn軸成分の減少補正量vbno *(k)がゼロよりも大きい時、その減少補正量に応じた量だけvan *(k)と異なる値van’(k)が求められ、その値van’(k)に応じて、上限値vanmax(k)を超えない範囲で、補正後の電圧指令ベクトルのan軸成分vacn *(k)が求められる。上限値vanmax(k)の存在を無視したならば、bn軸成分の減少補正量vbno *(k)が増大すればするほど、an軸成分に対する補正量(vacn *(k)−van *(k))の大きさも増大する。 式(C−9)における係数KOは、an軸成分に対する補正量を調整するための係数であり、係数KOの値は、KO>0を満たす所定値とされる。
図27に、変調率Kv*と電圧利用率Kvとの関係を示す。過変調領域における曲線880は、単純制限方法を用いた場合におけるKv*とKvの関係を示している。過変調領域における曲線881及び882は、第2の電圧指令補正処理を用いた場合におけるKv*とKvの関係を示している。但し、曲線881はKO=1の時のそれを、曲線882はKO=2の時のそれを示している。係数KOを増大させることによって、過変調領域におけるKv*とKvの線形性がより改善される。
[第3の電圧指令補正処理]
次に、第3の電圧指令補正処理を説明する。第3の電圧指令補正処理では、1シャント電流検出方式を採用するモータ駆動システムに電圧指令ベクトル補正部124が組み込まれることを想定する。第3の電圧指令補正処理においても、第2の電圧指令補正処理と同様、第1電圧指令ベクトルのbn軸成分vbn *(k)が所定の上限値Vbnmaxを超えている量に応じてan軸成分van *(k)が補正されるが、この補正内容に1シャント電流検出方式を考慮した制限が加えられる。また、この際、母線電流から2相分の相電流を検出できなくなる状態の発生を回避するための補正も実施される。an軸成分van *(k)に基づけば、注目時点が2相分の相電流を検出できなくなる期間に属するか否かを判断することができるため、このような補正が実施可能である。
具体的には、第3の電圧指令補正処理において、補正ベクトル計算部152は、上記式(C−6)及び(C−8)〜(C−10)と下記式(C−11)に従って電圧指令ベクトルを補正する。
第2の電圧指令補正処理では、式(C−7)に従って値vanmax(k)が求められていたが、第3の電圧指令補正処理では、式(C−7)の代わりに式(C−11)に従って値vanmax(k)が求められる。vanmax(k)の算出式が異なる点を除いて、第2及び第3の電圧指令補正処理は同じである。
図8及び図9を参照して説明したように、an軸に直交するbn軸方向の領域821の厚みの半分は、Δである。従って、図28からも理解されるように、vacn *(k)の上限値vanmax(k)を式(C−11)に従って定めるようにすれば、2相分の相電流を検出できなくなる状態の発生を回避することができる。
図29(a)及び(b)並びに図30(a)〜(d)を参照して、第3の電圧指令補正処理に対応するシミュレーション結果を説明する。図29(a)のプロット群は、第3の電圧指令補正処理に対応する、anbn座標系上の第2電圧指令ベクトル(補正後の第1電圧指令ベクトル)の軌跡を表している。この第2電圧指令ベクトルをαβ座標系上に変換すると、図29(b)に示す軌跡を有する、αβ座標系上の第2電圧指令ベクトルが得られる。図29(b)より、2相分の相電流が検出不能となる領域に第2電圧指令ベクトルが存在していないことが分かる。
この後、第2電圧指令ベクトルの指令値vα*及びvβ*を三相電圧指令値に変換し、ヒップ型変調を用いると、過変調領域を利用した図30(a)に示すような三相電圧指令値vu3 *、vv3 *及びvw3 *が得られる。図30(a)のグラフは、図30(b)に示すU相電圧指令値vu3 *のプロット群と、図30(c)に示すV相電圧指令値vv3 *のプロット群と、図30(d)に示すW相電圧指令値vw3 *のプロット群を重ね合わせて示したものである。
[第4の電圧指令補正処理]
次に、第4の電圧指令補正処理を説明する。第4の電圧指令補正処理でも、1シャント電流検出方式を採用するモータ駆動システムに電圧指令ベクトル補正部124が組み込まれることを想定する。上述の第3の電圧指令補正処理では、第1電圧指令ベクトルのbn軸成分vbn *(k)が所定の上限値Vbnmaxを超えている量に応じてan軸成分van *(k)を補正する補正処理と、母線電流から2相分の相電流を検出できなくなる状態の発生を回避するための補正処理と、を実行しているが、第4の電圧指令補正処理では、これらの補正処理の内、後者の補正処理のみを実行する。
具体的には、第4の電圧指令補正処理において、補正ベクトル計算部152は、上記式(C−6)に従って電圧指令ベクトルのbn軸成分を補正する。従って、第4の電圧指令補正処理においてvbn *(k)からvbcn *(k)を生成する処理内容は、第1〜第3の電圧指令補正処理におけるそれと同じである。
一方、第4の電圧指令補正処理において、補正ベクトル計算部152は、下記式(C−12)及び(C−13)に従って、電圧指令ベクトルのan軸成分を補正する。即ち、上記式(C−11)と同じ式(C−12)によって値vanmax(k)を求めた後、不等式「|van *(k)|>vanmax(k)」が成立する場合は、式「vacn *(k)=sign(van *(k))・vanmax(k)」に従ってvacn *(k)を求め、不等式「|van *(k)|>vanmax(k)」が成立しない場合は、式「vacn *(k)=van *(k)」に従ってvacn *(k)を求める。
これにより、第1電圧指令ベクトルのbn軸成分vbn *(k)が所定の上限値Vbnmaxを超えている量に応じてan軸成分van *(k)を補正することによる効果(過変調領域におけるKv*及びKv間の線形性向上)は得られないものの、母線電流から2相分の相電流を検出できなくなる状態の発生を回避することが可能となる。
[モータ駆動システムの構成例]
上述の電圧指令ベクトル補正部124を利用したモータ駆動システムの構成及び動作を説明する。図31は、第2実施形態に係るモータ駆動システムの構成を表すブロック図である。図31において、図1及び図10と同一の部分には同一の符号を付す。
図31のモータ駆動システムは、モータ1、インバータ2、直流電源4及び電流センサ5を備えていると共に、図1の制御装置3を形成する「電流検出部21、座標変換器22、電圧演算部(電圧指令ベクトル生成部)23、電圧指令ベクトル補正部124、座標変換器125、PWM信号生成部26、位置センサ27、位置検出部28及び微分器29」を備えている。制御装置3内に電流センサ5も含まれていると考えてもよい。
図31のモータ駆動システムを形成する各部位は、所定の更新周期にて自身が算出(又は検出)して出力する指令値(vd *、vq *など)、状態量(id、iq、θ、ωなど)を更新し、最新の値を用いて必要な演算を行う。
図31のモータ駆動システムにおける電流検出部21、座標変換器22、電圧演算部23、PWM信号生成部26、位置センサ27、位置検出部28及び微分器29は、図10のそれらと同じものである。但し、図31のモータ駆動システムにおいて、電流検出部21及びPWM信号生成部26に入力されるべき三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *は、座標変換器125から出力される。
電圧演算部23にて算出されたvd *及びvq *は、dq座標系上の第1電圧指令ベクトルを形成し、電圧指令ベクトル補正部124に与えられる。電圧指令ベクトル補正部124内にて、第1電圧指令ベクトルのd軸成分vd *及びq軸成分vq *が第1電圧指令ベクトルのan軸成分van *及びbn軸成分vbn *へと変換された後、van *及びvbn *が補正されて第2電圧指令ベクトルのan軸成分vacn *及びbn軸成分vbcn *が求められる。
図31の電圧指令ベクトル補正部124にて実行される、van *及びvbn *からvacn *及びvbcn *を生成する処理として、上述の第1〜第4の電圧指令補正処理の何れかが用いられる。但し、図31のモータ駆動システムでは、図10のモータ駆動システムと同様、1シャント電流検出方式を採用しているため、図31の電圧指令ベクトル補正部124は、上述の第3又は第4の電圧指令補正処理によって、van *及びvbn *からvacn *及びvbcn *を求めることが望ましい。
求められたvacn *及びvbcn *は、電圧指令ベクトル補正部124内のab/αβ変換器153によって、α軸電圧値vαが追従すべきα軸電圧指令値vα*及びβ軸電圧値vβが追従すべきβ軸電圧指令値vβ*に変換される。座標変換器125は、電圧指令ベクトル補正部124から出力されるαβ軸上の指令値vα*及びvβ*を、U、V及びW相軸上の指令値に変換することにより三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *を算出する。座標変換器125にて算出された三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *は、電流検出部21及びPWM信号生成部26に出力される。
PWM信号生成部26は、座標変換器125からの三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に基づいて、U相、V相及びW相電圧値vu、vv及びvwが夫々vu *、vv *及びvw *に従った電圧値となるようにインバータ2内の各スイッチング素子(アーム)に対するPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータ2に与える。インバータ2は、与えられたPWM信号に従ってインバータ2内の各スイッチング素子のスイッチングを制御することにより、三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に応じたU相、V相及びW相電圧をモータ1に印加する。これにより、三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に応じたモータ電流Iaがモータ1に供給されてモータ1にトルクが発生する。
座標変換器125では、2相変調又はヒップ型変調が利用される。2相変調を利用する場合、座標変換器125は、vα*及びvβ*より、上記式(B−8a)、(B−8b)及び(B−8c)を満たす、三相変調時における三相電圧指令値vu1 *、vv1 *及びvw1 *を求め、そのvu1 *、vv1 *及びvw1 *を上記式(A−3)〜(A−5)に従ってvu2 *、vv2 *及びvw2 *に変換する。そして、vu2 *、vv2 *及びvw2 *をvu *、vv *及びvw *として出力する。ヒップ型変調を利用する場合は、上記の三相電圧指令値vu1 *、vv1 *及びvw1 *を上記式(A−6)〜(A−8)に従ってvu3 *、vv3 *及びvw3 *に変換し、vu3 *、vv3 *及びvw3 *をvu *、vv *及びvw *として出力する。第1実施形態と異なり、第2実施形態では、三相電圧指令値の段階で過変調用の補正を行う必要はない。
また、上述の構成では、第1電圧指令ベクトルのan軸成分van *及びbn軸成分vbn *を求めた後、anbn座標系上でそれらを補正し、その後、第2電圧指令ベクトルのα軸成分vα*及びβ軸成分vβ*を求めるようにしている。即ち、anbn座標系上で第1電圧指令ベクトルを補正しているが、anbn座標系以外の座標系上で第1電圧指令ベクトルを補正するようにしてもよい。
例えば、電圧指令ベクトル補正部124の代わりに、図32の電圧指令ベクトル補正部124aを図31のモータ駆動システム内に設けることも可能である。図32は、電圧指令ベクトル補正部124aの内部ブロック図であり、電圧指令ベクトル補正部124aは、符号161〜163によって参照される各部位を備える。
dq/αβ変換器161は、電圧演算部23から出力されるdq軸上の電圧指令値vd *及びvq *を磁極位置θに基づいてαβ軸上の電圧指令値に変換することによりvα1 *及びvβ1 *を求める。vα1 *及びvβ1 *は、夫々、第1電圧指令ベクトルのα軸及びβ軸成分である。補正ベクトル計算部162は、vd *及びvq *並びにθに基づいて、αβ軸上の電圧指令値vα1 *及びvβ1 *に対する補正値vα2 *及びvβ2 *を求める。加算器163は、dq/αβ変換器161及び補正ベクトル計算部162からのvα1 *、vβ1 *、vα2 *及びvβ2 *を用いて、式「vα*=vα1 *+vα2 *」及び「vβ*=vβ1 *+vβ2 *」に従ってvα1 *及びvβ1 *を補正することによりvα*及びvβ*を算出する。算出値vα*及びvβ*は図31の座標変換器125に送られる。
補正ベクトル計算部162は、加算器163にて算出されるvα*及びvβ*が、電圧指令ベクトル補正部124から出力されるべきvα*及びvβ*と同じになるように、vα2 *及びvβ2 *を求める。電圧指令ベクトル補正部124aでは、αβ座標系上で第1電圧指令ベクトルが補正されることになる。
また、三相電圧指令値の段階で補正を行うことも可能である。この場合は、dq軸上の電圧指令値vd *及びvq *を磁極位置θに基づいてU、V及びW相軸上の指令値に変換することにより補正前の三相電圧指令値vuA *及びvvA *及びvwA *を算出する一方で、vd *及びvq *並びにθに基づいて三相電圧指令値vuA *及びvvA *及びvwA *に対する補正値vuB *及びvvB *及びvwB *を求め、vuA *及びvvA *及びvwA *をvuB *及びvvB *及びvwB *を用いて補正することにより最終的な三相電圧指令値vu *及びvv *及びvw *を求めればよい。この最終的な三相電圧指令値vu *及びvv *及びvw *が図31の座標変換器125から出力されるべきvu *及びvv *及びvw *と同じとなるように、補正値vuB *及びvvB *及びvwB *は求められる。
電流検出部21は、1シャント電流検出方式によって三相電流(iu、iv及びiw)を検出しているが、1シャント電流検出方式以外の電流検出方式によって三相電流(iu、iv及びiw)を検出することも可能であり、その場合も、第2実施形態に係る電圧指令ベクトル補正方法は有効に機能する。例えば、電流検出部21は、第1実施形態で述べた第1〜第3電流検出方式の何れかによって三相電流(iu、iv及びiw)を検出することも可能である。第1〜第3電流検出方式の何れかによって三相電流を検出する場合は、上記の第1又は第2の電圧指令補正処理を用いて電圧指令ベクトルの補正を行えばよい。
図31のモータ駆動システムでは、位置センサ27を用いて磁極位置θ及び回転速度ωを求めているが、位置センサ27を用いることなく、磁極位置θ及び回転速度ωを推定によって求めるようにしてもよい。磁極位置θ及び回転速度ωの推定方法として、公知の方法を含む任意の方法を利用可能である。例えば、vd *、vq *、id及びiqの全部又は一部を用いて磁極位置θ及び回転速度ωを推定するようにしてもよい。
<<第3実施形態>>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態では、上述の第1又は第2実施形態で述べた、電圧指令ベクトルの補正方法を、系統連系システムに適用する。特許文献1には、モータ駆動システムにおける電圧指令ベクトルの補正方法を系統連系システムに適用する方法が開示されている。本願の第1又は第2実施形態で述べた電圧指令ベクトルの補正方法を系統連系システムに適用する方法は、それに対応する特許文献1の方法と同様である。
モータ駆動システムに対して上述した事項(第1及び第2実施形態の記載内容を含む)は、第3又は後述の第4実施形態に適用されるが、第1及び第2実施形態と異なる点は、第3又は後述の第4実施形態における説明文中で記述される。
図33は、第3実施形態に係る系統連系システムの全体構成図である。図33の系統連系システムでは、太陽電池で発電した電力を三相式のインバータを用いて三相の系統に連系する。本実施形態では、電流制御系電圧連系三相インバータを組み込んだ系統連系システムを例にとる。この種の系統連系インバータでは、電流指令値に追従するように連系点に電圧を印加することによって系統との連系がなされる(例えば、“山田、他2名,「電流制御形正弦波電圧連系三相インバータ(Current Controlled Type Sinusoidal Voltage Interconnecting Three-Phase Inverter)」,平成19年電気学会全国大会講演論文集,電気学会,平成19年3月,第4分冊,4−076,p.115”を参照)。
第3及び後述の第4実施形態の共通事項を適宜指摘しながら、図33の各部位の接続関係等を説明する。図33において、符号304は、直流電源としての太陽電池である。図33には、太陽電池304の等価回路が示されている。太陽電池304は、太陽エネルギーに基づく発電を行い、直流電圧を発生させる。その直流電圧は、負出力端子304bを低電圧側として、正出力端子304aと負出力端子304bとの間に生じる。平滑化コンデンサCdの両端子間には正出力端子304aと負出力端子304bとの間の直流電圧が印加され、平滑化コンデンサCdは該直流電圧に応じた電荷を蓄える。電圧検出器306は、平滑化コンデンサCdの両端子間電圧の電圧値を検出し、検出値を制御装置303に送る。
図33におけるPWMインバータ302(以下、単に「インバータ302」という)は、図1のインバータ2と同じ三相式のインバータであり、それの内部構成はインバータ2と同じである。
インバータ302は、U相用のハーフブリッジ回路、V相用のハーフブリッジ回路及びW相用のハーフブリッジ回路を備える。各ハーフブリッジ回路は、一対のスイッチング素子を有する。各ハーフブリッジ回路において、一対のスイッチング素子は、正出力端子304aと負出力端子304bとの間に直列接続され、各ハーフブリッジ回路に平滑化コンデンサCdの両端子間電圧が印加される。尚、u、v及びwは、一般的に、三相式のモータにおける各相を表す記号として用いられ、第3及び後述の第4実施形態で想定されるようなシステムでは、各相を表す記号としてu、v及びw以外の記号(例えば、a、b及びc)が用いられることも多い。しかしながら、第3及び後述の第4実施形態では、説明の便宜上、インバータ302の各相を表す記号としてu、v及びwを用いる。
系統連系システムにおいて、直列接続された上アーム8uと下アーム9uの接続点、直列接続された上アーム8vと下アーム9vの接続点、直列接続された上アーム8wと下アーム9wの接続点は、夫々、インバータ302のU相の出力端子である端子312u、インバータ302のV相の出力端子である端子312v、インバータ302のW相の出力端子である端子312wに接続される。尚、図33では、各スイッチング素子として電界効果トランジスタが示されているが、それらをIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)などに置き換えることもできる。
端子312u、312v及び312wは、夫々、連系用リアクトル(インダクタ)及び屋内配線を介して連系点330u、330v及び330wに接続される。端子312uと連系点330uとの間に介在する連系用リアクトル及び屋内配線のリアクタンス成分をLCにて表す。同様に、端子312vと連系点330vとの間におけるそれ、及び、端子312wと連系点330wとの間におけるそれもLCにて表す。尚、端子312u、312v及び312wと連系点330u、330v及び330wとの間に三相変圧器(トランス;不図示)を介在させ、該三相変圧器を用いて系統連系を行うようにしてもよい。この三相変圧器は、インバータ302側と系統側(後述の電力系統340側)との絶縁や変圧を目的として設けられる。
符号340は、三相交流電力を供給する電力系統(系統側電源)である。電力系統340を、3つの交流電圧源340u、340v及び340wに分解して考えることができ、交流電圧源340u、340v及び340wの夫々は、基準点341を基準として角周波数(角速度)ωSの交流電圧を出力する。但し、交流電圧源340u、340v及び340wが出力する交流電圧の位相は、互いに、電気角で120度ずつ異なっている。
電力系統340は、基準点341を基準とした交流電圧源340u、340v及び340wの出力電圧を、夫々、端子342u、342v及び342wから出力する。端子342u、342v及び342wは、夫々、屋外配線を介して連系点330u、330v及び330wに接続される。ここで、各屋外配線における線路インピーダンスのリアクタンス成分及び抵抗成分を夫々LS及びRSにて表す。
異なる連系点間には家電製品等の負荷が接続される。図33に示す例では、連系点330uと330vとの間に線形負荷である負荷335が接続され、連系点330vと330wとの間に非線形負荷である負荷336が接続されている。このため、負荷335は、連系点330u−330v間電圧を駆動電圧として駆動され、負荷336は、連系点330v−330w間電圧を駆動電圧として駆動される。線形負荷とは、オームの法則に従う負荷であり、非線形負荷とは、オームの法則に従わない負荷である。例えば、AC/DCコンバータのような整流回路を含む負荷が負荷336として想定される。
インバータ302は、制御装置303にて生成された三相電圧指令値に基づくPWM信号(パルス幅変調信号)をインバータ302内の各スイッチング素子の制御端子(ベース又はゲート)に与えることで、各スイッチング素子をスイッチング動作させる。制御装置303にて生成される三相電圧指令値は、U相電圧指令値vu *、V相電圧指令値vv *及びW相電圧指令値vw *から構成され、vu *、vv *及びvw *によって、夫々、U相電圧vu、V相電圧vv及びW相電圧vwの電圧レベル(電圧値)が指定される。
太陽電池304からの直流電圧は、インバータ302内の各スイッチング素子のスイッチング動作によってPWM変調(パルス幅変調)され、三相交流電圧に変換される。図33の系統連系システムでは、直流電源としての太陽電池304と電力系統340との系統連系が行われ、電力系統340に連系しつつインバータ302からの三相交流電圧に応じた交流電力が負荷335及び336に供給される。
電流センサ305は、インバータ302の母線313に流れる電流を検出する。第3及び及び後述の第4実施形態における母線電流は、母線313に流れる電流を指す。母線電流は直流成分を有するため、それを直流電流と解釈することもできる。インバータ302において、下アーム9u、9v及び9wの低電圧側は共通結線されて太陽電池304の負出力端子304bに接続される。下アーム9u、9v及び9wの低電圧側が共通結線される配線が母線313であり、電流センサ305は、母線313に直列に介在している。電流センサ305は、検出した母線電流の電流値を表す信号を制御装置303に伝達する。制御装置303は、電流センサ305の出力信号に基づいて上記三相電圧指令値の生成を行う。電流センサ305は、例えば、シャント抵抗又はカレントトランス等である。また、下アーム9u、9v及び9wの低電圧側と負出力端子304bとを接続する配線(母線313)にではなく、上アーム8u、8v及び8wの高電圧側と正出力端子304aとを接続する配線に電流センサ305を設けるようにしてもよい。
モータ駆動システムにおけるU相電圧vu、V相電圧vv及びW相電圧vwは、図1の中性点14から見た端子12u、12v及び12wの電圧を意味していたが、第3及び後述の第4実施形態におけるU相電圧vu、V相電圧vv及びW相電圧vwは、夫々、或る固定電位を有する基準電位点から見た端子312u、312v及び312wの電圧を指す。例えば、第3実施形態では、基準点341を上記基準電位点として捉えることができる。U相電圧、V相電圧及びW相電圧の夫々を(或いはそれらを総称して)相電圧と呼ぶ。更に、第3及び後述の第4実施形態において、端子312u、312v及び312wを介して流れる電流を、夫々、U相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwと呼び、それらの夫々を(或いはそれらを総称して)相電流と呼ぶ。また、相電流において、端子312u、312v又は312wから流れ出す方向の電流の極性を正とする。第3及び後述の第4実施形態において、モータ駆動システムと同じように、最大相、中間相及び最小相を定義する。
vu *、vv *及びvw *に基づくインバータ302内の各アームのスイッチング動作は、モータ駆動システムにおけるそれと同様である。即ち、インバータ302は、モータ駆動システムのインバータ2と同様、キャリア信号CSとvu *、vv *及びvw *の比較結果に応じて各アームのオン/オフを制御する。
第3実施形態では、端子312u、312v及び312wを介してインバータ302から出力される電流を、総称して「連系電流」と呼ぶ。U相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwは、夫々、連系電流のU相軸成分、V相軸成分及びW相軸成分に相当する。
図34に、制御装置303の内部ブロック図を含む、第3実施形態に係る系統連系システムの全体構成図を示す。制御装置303は、符号351〜358で参照される各部位を含む。制御装置303では、母線電流から各相電流を検出し、検出した3相の相電流を有効電流及び無効電流に変換する(即ち、連系電流をP−Q変換する)。そして、平滑化コンデンサCdの両端子間電圧の電圧値が所望値に保たれるように且つ無効電流がゼロとなるように電圧指令ベクトルを作成する。一旦作成された電圧指令ベクトルは、第1又は第2実施形態と同様にして補正され、補正後の電圧指令ベクトルから三相電圧指令値(vu *、vv *及びvw *)が生成される。
図34に示される各部位の動作を詳説する前に、制御装置303内で参照される複数の軸の関係について説明する。図35は、固定軸であるU相軸、V相軸及びW相軸と、回転軸であるP軸及びQ軸と、の関係を表す空間ベクトル図である。
P軸の回転における角周波数(角速度)は、各交流電圧源340u、340v及び340wが出力する交流電圧の角周波数ωSと同じとする。図33の連系点330u、330v及び330wにおける各電圧の合成電圧を二次元座標面上のベクトル量として捉え、その電圧のベクトルをeCによって表す。仮に、インバータ302がeCと同位相の電流(eCと向きが一致する電流ベクトルによって表される電流)を出力すれば、インバータ302は、有効電力のみを出力することになる(この場合、無効電力は電力系統340から供給されることになる)。
P軸の向きは、電圧ベクトルeCの向きと同じとされる(故に、電圧ベクトルeCはP軸上にのることになる)。そして、P軸から電気角で90度進んだ位相にQ軸をとる。P軸及びQ軸を総称してPQ軸と呼び、P軸及びQ軸を座標軸に選んだ座標系をPQ座標系と呼ぶ。また、U相軸とP軸が一致する時点からの経過時間をtで表し、U相軸から見たP軸の位相をωStにて表す(t=0の時、U相軸とP軸は一致する)。インバータ302の出力電圧の位相は、LCで表される連系用リアクトルの分だけ電圧ベクトルeCから進められる。図35において、符号910が付されたベクトルは、電圧指令ベクトルである。Q軸から見た電圧指令ベクトル910の位相をεAにて表す。図35において、半時計回り方向を位相の進み方向と考え、εA<0とする。そうすると、U相軸を基準とした電圧指令ベクトル910の位相は、(ωSt+εA+π/2)にて表される。電圧指令ベクトル910のP軸成分及びQ軸成分は、それぞれvP*及びvQ*にて表される。
図35において、U相軸近傍、V相軸近傍及びW相軸近傍のハッチングが施されたアスタリスク状の領域911は、図8の領域821と同様の、母線電流から2相分の電流が検出できない領域を表している。また、図35には示されていないが、第3及び第4実施形態においても、モータ駆動システムにおけるそれらと同様の、α及びβ軸並びにan軸及びbn軸を定義する。制御装置303(及び後述する制御装置503)は、a0〜a5軸の内の1つを選択して、選択した軸をa軸に設定すると共に、b0〜b5軸の内の1つを選択して、選択した軸をb軸に設定する。但し、b軸はa軸に対して90度だけ位相が進んでいる。
図34に示される各部位の動作の説明を行う。電流センサ305によって検出された母線電流の電流値を表す信号は、電流検出部351に伝達される。電流検出部351は、図10の電流検出部21と同様の動作を行う。即ち、電流検出部351は、座標変換器357が出力する三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *と電流センサ305の出力信号に基づいて、U相電流値iu及びV相電流値ivを算出する。三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *と電流センサ305の出力信号に基づくiu及びivの算出方法は、電流検出部21による三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *と電流センサ5の出力信号に基づくiu及びivの算出方法と同じである。
座標変換器352は、位相ωStに基づいて、U相電流値iu及びV相電流値ivをPQ軸上の電流値に変換することによりP軸電流値iP及びQ軸電流値iQを算出する。iPは、連系電流におけるP軸成分であると共に連系電流における有効電流を表している。iQは、連系電流におけるQ軸成分であると共に連系電流における無効電流を表している。或るタイミングにて算出されたiP及びiQは、そのタイミングにおける有効電流の瞬時値及び無効電流の瞬時値を表す。具体的には、iP及びiQは、下記式(D−1)に従って算出される。
位相ωStは、インバータ302の出力電圧の位相に対応している。図35を参照して説明したように、U相軸とP軸が一致する時点からの経過時間をtで表し、U相軸から見たP軸の位相をωStにて表すこととしているため、U相電圧vuの位相から位相ωStを定めればよい。実際には、インバータ302による電圧出力を行うに先立ち、端子312uに現れる交流電圧源340uからの交流電圧の角周波数及び位相を検出し、検出した角周波数及び位相に合わせてωSの値及びt=0となる時点を定めればよい。
直流電圧制御部353には、電圧検出器306によって検出された平滑化コンデンサCdの両端子間電圧Edと、その両端子間電圧Edの目標値を表す直流電圧指令値Ed*とが与えられる。直流電圧指令値Ed*は、太陽電池304から最大電力を得るためのEd(換言すれば、インバータ302の出力電力を最大とするためのEd)と合致する。直流電圧制御部353は、比例積分制御によって(Ed−Ed*)がゼロに収束するように有効電流に対する指令値iP*を算出及び出力する。また、無効電流に対する指令値iQ*はゼロとされる。iP*はiPが追従すべき目標値を表し、iQ*はiQが追従すべき目標値を表す。
有効電流制御部354は、直流電圧制御部353からのiP*と座標変換器352からのiPとに基づき、電流誤差(iP*−iP)がゼロに収束するように比例積分制御を行うことにより、P軸電圧vPが追従すべきP軸電圧指令値vP*を算出する。無効電流制御部355は、与えられたiQ*と座標変換器352からのiQに基づき、電流誤差(iQ*−iQ)がゼロに収束するように比例積分制御を行うことにより、Q軸電圧vQが追従すべきQ軸電圧指令値vQ*を算出する。vP及びvQは、インバータ302の出力電圧ベクトル(インバータ302から出力される電圧をベクトル表現したもの)のP軸及びQ軸成分を表す。
図36に、電圧指令ベクトル補正部356の内部ブロック図を示す。電圧指令ベクトル補正部356は、符号361〜363によって参照される各部位を備える。
PQ/ab変換部361には、PQ軸上の電圧指令値vP*及びvQ*と位相ωStとが与えられる。vP*及びvQ*は、第3実施形態における電圧指令ベクトルを形成する。即ち、第3実施形態において、vP*及びvQ*は、図35の電圧指令ベクトル910のP軸成分及びQ軸成分である。この電圧指令ベクトルに従う電圧がそのままインバータ302から出力されたならば、実際のP軸電圧値vP及びQ軸電圧値vQは、夫々、指令値vP*及びvQ*に合致する。但し、vP*及びvQ*にて形成される電圧指令ベクトルは、電圧指令ベクトル補正部356によって補正されうる。
便宜上、vP*及びvQ*によって表される、補正前の電圧指令ベクトルを第1電圧指令ベクトルと呼び、電圧指令ベクトル補正部356にて第1電圧指令ベクトルが補正されることによって生成された、補正後の電圧指令ベクトルを第2電圧指令ベクトルと呼ぶ。第3実施形態において、第1電圧指令ベクトルのP軸成分及びQ軸成分は夫々vP*及びvQ*であり、第2電圧指令ベクトルのα軸成分及びβ軸成分は電圧指令ベクトル補正部356から出力されるvα*及びvβ*である。αβ座標系上において第1電圧指令ベクトルの軌跡が円を成すように、vP*及びvQ*は作成される。即ち、vP*及びvQ*によって指定される電圧は回転電圧である。必要に応じ、変調率が1を超えるようにvP*及びvQ*は作成される。
PQ/ab変換部361は、PQ軸上の電圧指令値vP*及びvQ*を位相ωStに基づき、ab軸として設定されるべきanbn軸上の電圧指令値van *及びvbn *に変換する。補正ベクトル計算部362は、PQ/ab変換部361から与えられるvan *及びvbn *を補正して、anbn軸上の補正後の電圧指令値vacn *及びvbcn *を出力する。vacn *及びvbcn *は、補正後のvan *及びvbn *を表す。補正ベクトル計算部362から出力される電圧指令値vacn *及びvbcn *は、ab/αβ変換部363に送られる。ab/αβ変換部363は、anbn軸上の電圧指令値vacn *及びvbcn *をαβ軸上に座標変換することにより、αβ軸上の電圧指令値vα*及びvβ*を算出する。
電圧指令ベクトル補正部356にて行われる、vP*及びvQ*からvan *及びvbn *を生成する処理と、van *及びvbn *を補正することによってvacn *及びvbcn *を生成する処理と、vacn *及びvbcn *からvα*及びvβ*を生成する処理は、第1又は第2実施形態におけるそれらと同様である。但し、第1又は第2実施形態に記載の事項を本実施形態に当てはめる際、第1又は第2実施形態に記載の「vd *、vq *、θ、d軸、q軸」は、それぞれ「vP*、vQ*、ωSt、P軸、Q軸」に読み替えられる。また、本実施形態では、電圧検出器306によって検出された平滑化コンデンサCdの両端子間電圧Edが、第1又は第2実施形態の直流電圧Vdcに相当する。
図34の座標変換器357は、電圧指令ベクトル補正部356からのαβ軸上の指令値vα*及びvβ*をU、V及びW相軸上の指令値に変換することにより三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *を算出する。vα*及びvβ*からvu *、vv *及びvw *を算出する手法は、第1又は第2実施形態で述べたものと同様である。
PWM信号生成部358は、座標変換器357からの三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に基づいて、U相、V相及びW相電圧値vu、vv及びvwが夫々vu *、vv *及びvw *に従った電圧値となるようにインバータ302内の各スイッチング素子(アーム)に対するPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータ302に与える。インバータ302は、与えられたPWM信号に従ってインバータ302内の各スイッチング素子のスイッチングを制御することにより、三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に応じたU相、V相及びW相電圧を出力する。
このように、第1又は第2実施形態で述べた補正手法を系統連系システムに適用することが可能であり、これによって第1又は第2実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
尚、系統連系システムの制御装置303によって実行される制御は、有効電流及び無効電流に対する制御と言えるが、有効電力及び無効電力に対する制御とも言える。電力系統340からの交流電圧は振幅が略一定の交流電圧であるがゆえ、その交流電圧と連系して有効電流及び無効電流が所望値となるように制御するということは、有効電力及び無効電力を所望値となるように制御していることに他ならないからである(電圧に有効電流を掛けたものが有効電力であり、無効電流を掛けたものが無効電力である)。従って、インバータ制御装置の一種である制御装置303を、電流制御装置と呼ぶことができると共に電力制御装置と呼ぶこともできる。
また、インバータ302に対する直流電源の例として太陽電池304を挙げたが、太陽電池304の代わりに燃料電池や風力発電機等を用いるようにしてもよい。また、図34に示した系統連系システムの具体的構成を、第1又は第2実施形態で述べた各種技術的事項に従って変形することも可能である。
<<第4実施形態>>
第1〜第3実施形態に係るシステムでは、検出した電流を電流制御(又は電力制御)に利用した。しかしながら、保護等を目的として電流検出を行うシステムにも第1〜第3実施形態で述べた技術は適用可能である。この種のシステムを本発明の第4実施形態として説明する。
図37は、第4実施形態に係る三相負荷駆動システムの全体構成図である。図37において、インバータ302、太陽電池304、電流センサ305及び平滑化コンデンサCdは、図33に示すそれらと同じものであり、それらの間の接続関係も図33と同じであるとする。説明の便宜上、三相負荷駆動システムのインバータ302に対する直流電源を第3実施形態と同じく太陽電池304としているが、インバータ302に対する直流電源として任意の直流電源を用いることができる。
第3実施形態と異なり、三相負荷駆動システムでは、インバータ302の出力端子である端子312u、312v及び312wが、系統側に接続されること無く、三相負荷に接続されている。より具体的には、端子312uは負荷540uを介して基準点541に接続され、端子312vは負荷540vを介して基準点541に接続され、端子312wは負荷540wを介して基準点541に接続されている。
図37の三相負荷駆動システムにおけるU相電圧vu、V相電圧vv及びW相電圧vwは、夫々、基準点541の電位を基準とする端子312u、312v及び312wの電圧であり、負荷540u、540v及び540wは、夫々、U相電圧vu、V相電圧vv及びW相電圧vwを駆動電圧として受ける。負荷540u、540v及び540wは、夫々、例えば、インダクタや抵抗素子等の負荷である。尚、説明の便宜上、第3実施形態でも導入した記号「ωS」を本実施形態でも用いているが、本実施形態におけるωSは、図33の電力系統340の交流電圧の角周波数とは無関係であるとする。
与えられたPWM信号に基づくインバータ302の動作は、第3実施形態におけるそれと同じである。但し、図37の三相負荷駆動システムにおいては、PWM信号が、インバータ制御装置としての制御装置503から与えられる。
制御装置503は、符号551〜556にて参照される各部位を含む。制御装置503内では、第3実施形態のP軸及びQ軸に対応するX軸及びY軸が定義される。
図38は、固定軸であるU相軸、V相軸及びW相軸と、回転軸であるX軸及びY軸と、の関係を表す空間ベクトル図である。X軸の回転における角周波数(角速度)はωSである。符号920は、本実施形態におけるインバータ302の出力電圧の電圧ベクトルを表す。
X軸の向きは、電圧指令ベクトル920の向きと同じとされる(故に、電圧指令ベクトル920はX軸上にのることになる)。そして、X軸から電気角で90度進んだ位相にY軸をとる。X軸及びY軸を総称してXY軸と呼び、X軸及びY軸を座標軸に選んだ座標系をXY座標系と呼ぶ。また、本実施形態では、U相軸とX軸が一致する時点からの経過時間をtで表し、U相軸から見たX軸の位相をωStにて表し(t=0の時、U相軸とX軸は一致する)、Y軸から見た電圧指令ベクトル920の位相をεAにて表す。図38において、半時計回り方向を位相の進み方向と考え、εA<0とする。そうすると、U相軸を基準とした電圧指令ベクトル920の位相は、(ωSt+εA+π/2)=ωSt、にて表される。電圧指令ベクトル920のX軸成分及びY軸成分は、それぞれvX*及びvY*にて表される。
図37に示される各部位の動作の説明を行う。電流センサ305によって検出された母線電流の電流値を表す信号は、電流検出部551に伝達される。電流検出部511は、図10の電流検出部21と同様の動作を行う。即ち、電流検出部351は、座標変換器555が出力する三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *と電流センサ305の出力信号に基づいて、三相電流値iu、iv及びiwを算出する。三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *と電流センサ305の出力信号に基づくiu及びivの算出方法は、電流検出部21による三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *と電流センサ5の出力信号に基づくiu及びivの算出方法と同様である。iwは、関係式「iu+iv+iw=0」を利用して、演算によって求められる。
検出電流処理部552は、電流検出部551から出力されたiu、iv及びiwに基づいた所定の処理を行う。例えば、iu、iv及びiwが異常に大きくなっていないか(即ち、インバータ302の出力電流が過電流となっていないか)を検出し、その検出結果に応じた保護動作を行う。
電圧決定部553は、X軸電圧vXが追従すべきX軸電圧指令値vX*及びY軸電圧vYが追従すべきY軸電圧指令値vY*を生成して出力する。vX及びvYは、インバータ302の出力電圧ベクトルのX軸及びY軸成分を表す。図38に示したように、電圧指令ベクトル920はX軸上にあるためvY*はゼロとされ、三相負荷に供給したい所望電力値に応じた値がvX*に代入される。モータ駆動システムではd軸とU相軸に一致する時点がモータ1の磁極位置に依存し、系統連系システムではP軸とU相軸に一致する時点が系統側の交流電圧の位相に依存するが、第4実施形態ではそのような依存は存在しないため、t=0の時点を自由に定めることができる。ωSについても同様である。
第4実施形態において、vX*及びvY*は、図38の電圧指令ベクトル920のX軸成分及びY軸成分である。この電圧指令ベクトルに従う電圧がそのままインバータ302から出力されたならば、実際のX軸電圧値vX及びY軸電圧値vYは、夫々、指令値vX*及びvY*に合致する。但し、vX*及びvY*にて形成される電圧指令ベクトルは、電圧指令ベクトル補正部554によって補正されうる。
便宜上、vX*及びvY*によって表される、補正前の電圧指令ベクトルを第1電圧指令ベクトルと呼び、電圧指令ベクトル補正部554にて第1電圧指令ベクトルが補正されることによって生成された、補正後の電圧指令ベクトルを第2電圧指令ベクトルと呼ぶ。第4実施形態において、第1電圧指令ベクトルのX軸成分及びY軸成分は夫々vX*及びvY*であり、第2電圧指令ベクトルのα軸成分及びβ軸成分は電圧指令ベクトル補正部554から出力されるvα*及びvβ*である。αβ座標系上において第1電圧指令ベクトルの軌跡が円を成すように、vX*及びvY*は作成される。即ち、vX*及びvY*によって指定される電圧は回転電圧である。必要に応じ、変調率が1を超えるようにvX*及びvY*は作成される。
電圧指令ベクトル補正部554は、XY軸上の電圧指令値vX*及びvY*を位相ωStに基づきvan *及びvbn *に変換した後、それらを補正することによってvacn *及びvbcn *を求める。その後、補正後のanbn軸上の電圧指令値vacn *及びvbcn *をαβ軸上に座標変換することにより、αβ軸上の電圧指令値vα*及びvβ*を算出する。電圧指令ベクトル補正部554にて行われる、vX*及びvY*からvan *及びvbn *を生成する処理と、van *及びvbn *を補正することによってvacn *及びvbcn *を生成する処理と、vacn *及びvbcn *からvα*及びvβ*を生成する処理は、第1又は第2実施形態におけるそれらと同様である。但し、第1又は第2実施形態に記載の事項を本実施形態に当てはめる際、第1又は第2実施形態に記載の「vd *、vq *、θ、d軸、q軸」は、それぞれ「vX*、vY*、ωSt、X軸、Y軸」に読み替えられる。また、本実施形態では、平滑化コンデンサCdの両端子間電圧が、第1又は第2実施形態の直流電圧Vdcに相当する。図37には示されていないが、平滑化コンデンサCdの両端子間電圧は電圧検出器によって検出され、検出電圧値が制御装置503に送られる。
座標変換器555は、電圧指令ベクトル補正部554からのαβ軸上の指令値vα*及びvβ*をU、V及びW相軸上の指令値に変換することにより三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *を算出する。vα*及びvβ*からvu *、vv *及びvw *を算出する手法は、第1又は第2実施形態で述べたものと同様である。
PWM信号生成部556は、座標変換器555からの三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に基づいて、U相、V相及びW相電圧値vu、vv及びvwが夫々vu *、vv *及びvw *に従った電圧値となるようにインバータ302内の各スイッチング素子(アーム)に対するPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータ302に与える。インバータ302は、与えられたPWM信号に従ってインバータ302内の各スイッチング素子のスイッチングを制御することにより、三相電圧指令値vu *、vv *及びvw *に応じたU相、V相及びW相電圧を出力する。
このように、第1又は第2実施形態で述べた補正手法を三相負荷駆動システムに適用することが可能であり、これによって第1又は第2実施形態と同様の効果を得ることが可能である。尚、図37に示した三相負荷駆動システムの具体的構成を、第1又は第2実施形態で述べた各種技術的事項に従って変形することも可能である。
<<変形等>>
上述した説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。上述の実施形態の変形例または注釈事項として、以下に、注釈1〜注釈3を記す。各注釈に記載した内容は、矛盾なき限り、任意に組み合わせることが可能である。
[注釈1]
上述の各種の指令値(vd *及びvq *など)や状態量(id、iqなど)を含む、導出されるべき全ての値の導出手法は任意である。即ち、例えば、それらを、制御装置(3、303又は503)内での演算によって導出するようにしてもよいし、予め設定しておいたテーブルデータから導出するようにしてもよい。
[注釈2]
制御装置(3、303又は503)の機能の一部または全部は、例えば汎用マイクロコンピュータ等に組み込まれたソフトウェア(プログラム)を用いて実現される。ソフトウェアを用いて制御装置(3、303又は503)を実現する場合、その制御装置の各部の構成を示すブロック図は機能ブロック図を表すこととなる。勿論、ソフトウェア(プログラム)ではなく、ハードウェアのみによって、或いは、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって、制御装置(3、303又は503)を形成することも可能である。
[注釈3]
本明細書及び図面において下記の点に留意すべきである。上記の数と表記した墨付きかっこ内の式(式(B−7)等)の記述又は図面において、所謂下付き文字として表現されているギリシャ文字(α、βを含む)は、それらの墨付きかっこ外において、下付き文字でない標準文字として表記されうる。このギリシャ文字における下付き文字と標準文字との相違は適宜無視されるべきである。