JP5493513B2 - 被覆回転ツール - Google Patents

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Description

本発明は、摩擦撹拌接合用ツールに関する。
1991年の英国において、アルミニウム合金などの金属材料同士を接合する摩擦撹拌接合技術が確立された。本技術は、接合を目的とする金属材料同士の接合面において、先端に小径突起部が形成された円柱状の摩擦撹拌接合用ツールを押圧しながら回転させることにより、摩擦熱を発生させて、当該摩擦熱により接合部分の金属材料を軟化させて塑性流動させることにより、金属材料同士を接合するという技術である。
ここで、「接合部分」とは、金属材料を突き合わせたり、金属材料を重ねて設置させたりすることにより、それらの金属材料の接合が所望される接合界面部分をいう。この接合界面付近において金属材料が軟化されて塑性流動が起こり、その金属材料が攪拌されることでその接合界面が消滅し、接合が行なわれる。さらに、同時にその金属材料に動的再結晶が起こるので、この動的再結晶により接合界面付近の金属材料が微粒化することとなり、金属材料同士を高強度に接合することができる(特許文献1)。
このような金属材料としてアルミニウム合金を用いる場合、500℃程度の比較的低温で塑性流動が生じるため、安価な工具鋼からなる摩擦撹拌接合用ツールを用いても、その傷みが少なく、頻繁に摩擦撹拌接合用ツールを交換しなくてもよい。このため摩擦撹拌接合技術は、アルミニウム合金を接合するのにかかるコストが低廉であることから、アルミニウム合金を溶融させて接合する抵抗溶接法に代わる接合方法として、鉄道車両や自動車、飛行機の構造部品の接合技術として既に様々な用途で実用化されている。
ところで、近年、自動車の燃費を低減させるニーズは非常に高く、このニーズに対応するために、自動車に用いる材料として、比強度(重量に対する強度)に優れた高張力鋼が採用されている。
現在、自動車に用いられている高張力鋼は抵抗溶接法により接合されているが、これは現在の高張力鋼の比強度が、440〜580MPa程度のものが主流であることによる。すなわち、この程度の比強度の高張力鋼であれば、接合部位を一旦溶融してから再結晶させることにより接合するという抵抗溶接法を用いても、その接合部分の強度が極端に低下するという問題は生じにくい。
しかし、自動車を更に軽量化するためには、780MPa以上の高張力鋼、さらには980MPa以上の超高張力鋼を自動車部品に適用することが予測される。このような比強度の高い高張力鋼に対し、現行の抵抗溶接法を適用すると、接合中に高張力鋼の結晶組織に変化が生じてしまい、高張力鋼の強度を維持できない可能性がある。
そこで、高比強度の高張力鋼を接合する方法として、摩擦撹拌接合技術を実用化することの期待が高まっている。摩擦撹拌接合技術は、高張力鋼が液相状態に達することなく固相状態で攪拌して接合されるため、接合部分での比強度の低下を抑制する傾向があるものと推測される。
ところが、高張力鋼のような高融点の金属材料同士を摩擦攪拌接合する場合、その塑性流動の生じる温度が極めて高温となるため、工具鋼からなる摩擦攪拌接合用ツールでは耐熱性が十分でない。そこで、摩擦攪拌接合用ツールの耐熱性を向上させる試みとして、特許文献2では、工具鋼に代えて、cBNなどの超高圧焼結体を摩擦攪拌接合用ツールに適用することが提案されている。また、特許文献3では、摩擦攪拌接合用ツールの基材として、工具鋼の代わりに超硬合金を適用することが提案されている。
特開2002−096183号公報 特表2003−532542号公報 特開2005−199281号公報
摩擦撹拌接合技術により高張力鋼を接合する場合、摩擦攪拌接合用ツールは摩擦熱により1000℃以上の温度に曝されると言われている。このような温度環境下では、たとえ高硬度のcBN焼結体を摩擦攪拌接合用ツールに用いても、cBN焼結体が鋼と反応して、その表面が摩耗しやすくなることがある。そもそもcBN焼結体は高価な材料であるため、このような摩耗の進行が早ければ、該ツールを早期に交換しなければならず、高張力鋼の接合にかかるコストが大きく嵩むこととなり、コストの観点から実用化には至っていない。
また、特許文献3に示されるように、摩擦攪拌接合用ツールに用いる材料として、cBN焼結体の代わりに超硬合金を用いる試みもなされている。たしかに超硬合金はcBN焼結体と比較して安価であるものの、やはり1000℃以上の高温に曝されると、容易に酸化して摩耗し、塑性変形も起こるため、ツール寿命は非常に短いものとなってしまう。
このように摩擦撹拌接合技術により高張力鋼を接合する場合、摩擦攪拌接合用ツールに用いる材料、およびそのコストに大きな課題を有している。このため、高張力鋼を接合する手段として、摩擦撹拌接合技術の実用化はほとんど進んでいないというのが現状である。
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、基材を厚い被覆層で保護することにより優れた耐熱性を有するとともに、摩擦攪拌接合時において被覆層が酸化して摩耗されたり、欠損したりすることを低減した摩擦攪拌接合用ツールを提供することにある。
本発明の摩擦撹拌接合用ツールは、基材と、該基材上に形成される被覆層とを含むものであって、該被覆層の表面から1μmの厚みを有する表面領域は、その表面領域に含まれるいずれの領域においても、積算残留応力が−2GPa以上1GPa以下の範囲内にあることを特徴とする。
また、上記の表面領域は、積算残留応力が圧縮応力となる第1領域と積算残留応力が引張応力となる第2領域とを有することが好ましい。
ここで、上記被覆層全体の積算残留応力は、−1GPa以上0.5GPa未満であることが好ましく、上記第2領域の積算残留応力は、1GPa以下であることが好ましい。
また、上記被覆層は、10μm以上の厚みを有することが好ましい。
また、上記被覆層は、1以上の層を含み、そのうち少なくとも一層は、構成成分として少なくともTiを含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物によって構成されることが好ましい。
また、上記被覆層は、1以上の層を含み、そのうち少なくとも一層は、構成成分として少なくともAlを含む窒化物、酸化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物によって構成されることが好ましい。また、上記被覆層は、少なくとも一部に超多層構造を含むことが好ましい。
以上のような本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、高張力鋼の接合に好適に用いることができる。
本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、上記のような構成を有することにより、優れた耐熱性および耐酸化性を有するとともに、摩擦攪拌接合時に被覆層が摩耗したり、欠損したりすることを低減したものであり、ツール寿命を向上させたものである。
本発明の摩擦攪拌接合用ツールの概略断面図である。 本発明の被覆層の表面領域の積算残留応力の一例をグラフ化したものである。 本発明の範囲外となる被覆層の表面領域の積算残留応力の一例をグラフ化したものである。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<摩擦攪拌接合用ツール>
図1は、本発明の摩擦攪拌接合用ツールの概略断面図である。本発明の摩擦攪拌接合用ツール1は、図1に示されるように基材2と、該基材2上に形成される被覆層3とを備えるものである。このような構成を有する本発明の摩擦攪拌接合用ツール1は、たとえば線接合(FSW:Friction Stir Welding)用途、点接合(FSJ:Friction Spot Joining)用途等に極めて有用に用いることができる。なお、本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、小径(直径2mm以上8mm以下)のプローブ部4と、大径(直径4mm以上20mm以下)の円柱部5とを備えた形状を有し、これを接合に用いる場合、プローブ部4が被接合材の接合部分に挿入または押圧された状態で回転されることにより、被接合材が接合されることとなる。この場合、線接合用途では、積層もしくは線接触状に突き合わされた2つの被接合材にプローブ部4を押圧もしくは挿入させ、回転するプローブ部4を当該積層もしくは突き合わされた部分に対して直線状に移動させることにより被接合材同士を接合する。一方、点接合用途では、上下に積層、もしくは突き合わされた2つの被接合材の所望の接合箇所に回転するプローブ部4を押圧し、その場所でプローブ部4を引き続き回転させることにより、被接合材同士を接合する。
このように本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、各種用途に用いることができるものであるが、とりわけ従来において抵抗溶接法が主として用いられていた高張力鋼の接合に好適に用いることができる。すなわち、本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、このような高張力鋼の接合用途において、従来の抵抗溶接法に代替する手段を提供するものであり、接合部分に動的再結晶が生じることから、組織が微細化し、以って従来の抵抗溶接法に比し接合部分の強度を向上させたものである。したがって、本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、高比強度の高張力鋼の接合に極めて有効に使用し得るものである。
<基材>
本発明の摩擦攪拌接合用ツールの基材としては、このような接合加工用の基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができる。たとえば、超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、工具鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、サイアロン、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、cBN粒子が分散した硬質材料等をこのような基材の例として挙げることができる。
基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。
なお、本発明で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
<被覆層>
本発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいて基材上に形成される被覆層は、結晶性の高い化合物で構成されている必要があるため、本発明の被覆層はそのような結晶性の高い化合物で構成されるような成膜プロセスにより形成されていることが好ましい。このような成膜プロセスとしては、従来公知のいかなる成膜プロセスをも用いることができ、たとえばPVD(物理蒸着)法、CVD(化学蒸着)法等を用いることができる。
これらの成膜プロセスの中でも、被覆層をコーティングした後に被覆層中に亀裂が入りにくいことにより、耐酸化性を向上させることができるという観点から、PVD法を用いることが好ましい。本発明において好適に用いられるPVD法としては、従来公知のPVD法を特に限定することなく用いることができる。このようなPVD法としては、たとえばスパッタリング法、アークイオンプレーティング法、蒸着法等を挙げることができる。特に、アークイオンプレーティング法またはマグネトロンスパッタリング法を採用することが好ましい。
本発明の被覆層は、10μm以上の厚みを有することが好ましい。このように10μm以上の厚みとしたことにより耐摩耗性が向上し、ツール寿命を大幅に延長することが可能となった。本発明の被覆層においてこのように10μm以上という厚い厚みが得られるのは、後述するように積算残留応力を制御したためである。本発明の被覆層の厚みは、15μm以上とすることがより好ましく、20μm以上とすることがさらに好ましい。これにより、ツール寿命をさらに延長することができるとともに、耐欠損性にも優れたものとすることができる。
なお、本発明において、被覆層の厚みとは、摩擦攪拌接合用ツールの表面のいずれかの部分における被覆層の厚みをいい、たとえば摩擦攪拌接合用ツールの基材上に形成された被覆層の厚みのうち、プローブ部の先端における被覆層の厚みをいう。
また、本発明の被覆層は、基材の全面を覆うようにして形成されていることが好ましいが、基材の一部が被覆層により覆われていなかったり、基材上のいずれかの部分において被覆層の構成が異なっていたとしても、本発明の範囲を逸脱するものではない。
<積算残留応力>
本発明においては、被覆層の表面から1μmの厚みを有する領域(すなわち表面から1μmの深さまでの領域)を表面領域と呼ぶものとする。
本発明は、かかる表面領域の積算残留応力が、その表面領域に含まれるいずれの領域においても−2GPa以上1GPa以下の範囲内にあることを要する。表面領域における積算残留応力が−2GPaより小さくなると圧縮破壊を生じる傾向を示し、1GPaより大きいと引張り破壊を生じることがあり、いずれの場合においてもツール寿命が短くなってしまうからである。ここで、「表面領域の積算残留応力が、その表面領域に含まれるいずれの領域においても−2GPa以上1GPa以下の範囲内にある」とは、たとえば図2を用いて説明すると、表面領域(表面から1μmの厚みを有する領域)において、積算残留応力が−2GPa未満となったり1GPaを超えるポイントが存在しないことをいう。なお、図2の詳細は後述する。
摩擦撹拌接合用ツールは、被接合材との摩擦によって発熱し、軟化した被接合材に圧力を加えて塑性流動を起こさせる。このため、摩擦撹拌接合用ツールにおいては、被覆層の表面から1μmの厚みを有する領域(表面領域)の積算残留応力の大きさを制御することは極めて重要であり、それが−2GPa以上1GPa以下の範囲内にある本発明の摩擦撹拌接合用ツールは極めて優れた性能を示す。
上記表面領域の積算残留応力は、より好ましくは−1GPa以上1GPa以下の範囲内であり、特に好ましくは−0.8GPa以上0.8GPa以下の範囲内である。ただし、摩擦攪拌接合用ツールは、使用時に被覆層が押圧されるため、被覆層の表面領域の積算残留応力は、小さい圧縮応力を有するかまたは引張応力を有することが好ましい。
また、上記の表面領域において、積算残留応力が圧縮応力となる第1領域と積算残留応力が引張応力となる第2領域とを有することが好ましい。このような第1領域および第2領域は、表面領域を二分するようにしてそれぞれ1つずつの領域として含まれていてもよいし、それぞれ物理的に隔離した2以上の領域として含まれていてもよい。たとえば、後述の図2を例にとると、被覆層の表面からZ1までの領域とZ2〜厚み1μmまでの領域の2領域(すなわち積算残留応力が0GPa未満の領域)がここでいう第1領域であり、Z1〜Z2までの領域(すなわち積算残留応力が0GPa以上の領域)がここでいう第2領域となる。なお、図2の詳細は後述する。これに対して、図3は従来の摩擦攪拌接合用ツール(基材上にPVD法により被覆層を形成したもの)の被覆層の表面領域の積算残留応力の一例をグラフ化したものであるが、表面領域の全領域に亘って積算残留応力が圧縮応力となっており、本発明の被覆層の表面領域を示す図2と対照的である。
このように表面領域が第1領域と第2領域とを含むことにより、本発明の被覆層は10μm以上の厚みを有する場合にも、その形成時(本発明でいう被覆層の形成時には被覆工程後の冷却工程をも含むものとする)に破壊されず、接合加工時にも破壊されないという特性を備えた被覆層を得ることが可能となる。これは、厚い被覆層を摩擦攪拌接合に安定して用いるためには、被覆層の表面部において残留応力を制御することが最も有効的であるとの本発明者の知見に基づくものである。すなわち、上記のような特性を達成するためには、引張り破壊と圧縮破壊の両方に耐性を示すことが必要であり、被覆層の表面部において積算残留応力が引張応力となる領域と圧縮応力となる領域とが混在すると、被覆層の形成中や摩擦攪拌接合中に発生する複雑な応力場に対応でき、圧縮破壊にも引張り破壊にも対抗できる耐性を示すものと考えられる。
ここで、上記第1領域の積算残留応力は、−2GPa以上とすることが好ましく、−1GPa以上とすることがより好ましい。第1領域の積算残留応力をこのような範囲の値とすることにより、被覆層の厚みが10μm以上となっても圧縮破壊の発生を極めて有効に防止することができる。また、上記第2領域の積算残留応力は、1GPa以下とすることが好ましく、0.8GPa以下とすることがより好ましい。第2領域の積算残留応力をこのような範囲の値とすることにより、被覆層の厚みが10μm以上となっても引張り破壊の発生を極めて有効に防止することができる。
なお、本発明でいう積算残留応力とは、被覆層の表面から深さ方向のある地点までの平均残留応力をいう。以下、図2を用いてさらに説明する。図2は本発明の被覆層の表面領域の積算残留応力の一例をグラフ化したものである。図2中、たとえばポイントAは、被覆層の表面から0.2μm離れた地点(すなわち厚み0.2μmの地点)を示しており、表面からその地点までの残留応力を平均すると0.9GPaとなることを示している(ポイントA単独の残留応力が0.9GPaとなることを示しているのではない)。したがって、ポイントAの積算残留応力は、0.9GPaとなる。同様にして、ポイントB(厚み1μmの地点)の積算残留応力は−0.5GPaであり、表面領域に含まれないがポイントC(厚み5μmの地点)の積算残留応力も−0.5GPaとなる。
一方、本発明でいう圧縮応力(圧縮残留応力)とは、被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、負の数値(単位:GPa)で表されるものである。一方、本発明でいう引張応力(引張残留応力)とは、これも被覆層に存する内部応力の一種であって、正の数値(単位:GPa)で表されるものである。このような圧縮応力および引張応力は、ともに被覆層内部に残存する内部応力であることからこれらを単にまとめて残留応力(便宜的に0GPaも含む)と表現することもある。
また、本発明の被覆層は、被覆層全体の積算残留応力が−1GPa以上0.5GPa未満であることが好ましい。優れた耐欠損性を有しつつ、被覆層の形成時に破壊されず接合加工時にも破壊されないという特性を効果的に発現することができるからである。ここで、「被覆層全体の積算残留応力が−1GPa以上0.5GPa未満である」とは、被覆層全体の残留応力の平均値が−1GPa以上0.5GPa未満であることをいう。このような被覆層全体の積算残留応力は、より好ましくは−0.8GPa以上0GPa未満であり、さらに好ましくは−0.7GPa以上0GPa未満である。このように被覆層全体の積算残留応力を小さな(その応力値の絶対値が小さくなるような)圧縮残留応力とすることにより、10μm以上という厚膜化によって基材から剥離しやすくなった被覆層の耐剥離性を向上させることができるばかりではなく、圧縮破壊と引張り破壊の両破壊形態に対する耐性を向上させることができるため、ツール寿命を延長させる効果が顕著となる。
このような本発明の積算残留応力は、sin2ψ法という方法で測定することができる。X線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられている。この測定方法は、「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜66頁に詳細に説明されているが、本発明ではまず並傾法と側傾法とを組み合せてX線の侵入深さを固定し、測定する応力方向と測定位置に立てた試料表面法線を含む面内で種々のψ方向に対する回折角度2θを測定して2θ−sin2ψ線図を作成し、その勾配からその深さ(被覆層の表面からの距離)までの残留応力の平均値を求めることができる。
より具体的には、X線源からのX線を試料に所定角度で入射させ、試料で回折したX線をX線検出器で検出し、該検出値に基づいて内部応力を測定するX線応力測定方法において、試料の任意箇所の試料表面に対して任意の設定角度でX線源よりX線を入射させ、試料上のX線照射点を通り試料表面で入射X線と直角なω軸と、試料台と平行でω軸を回転させた時に入射X線と一致するχ軸を中心に試料を回転させるときに、試料表面と入射X線とのなす角が一定となるように試料を回転させながら、回折面の法線と試料面の法線とのなす角度ψを変化させて回折線を測定することによって、試料内部の残留応力を求めることができる。
なお、上記で用いるX線源としては、X線源の質(高輝度、高平行性、波長可変性等)の点で、シンクロトロン放射光(SR)を用いることが好ましい。
なおまた、上記のように残留応力を2θ−sin2ψ線図から求めるためには、被覆層のヤング率とポアソン比が必要となる。しかし、該ヤング率はダイナミック硬度計等を用いて測定することができ、ポアソン比は材料によって大きく変化しないため0.2前後の値を用いればよい。
<被覆層の組成>
本発明の摩擦攪拌接合用ツールの基材上に形成される被覆層は、1以上の層を含むものである。すなわち、当該被覆層は、単一組成の1層のみから構成されていてもよいし、互いに組成の異なる2以上の層によって構成されていてもよい。当該被覆層が2以上の層によって構成される場合は、上記で説明した表面領域とそれ以外の領域との界面において層の組成が異なっていてもよいし、同一であってもよい。また、同様に上記で説明した第1領域と第2領域との界面においても、その層の組成は異なっていてもよいし、同一であってもよい。このように、本発明においては、積算残留応力の強度分布と組成の分布とは、相関してもよいし、相関しなくてもよい。なお、本発明の被覆層は、基材上の全面を被覆するもののみに限られるものではなく、部分的に被覆層が形成されていない態様をも含む。
このような被覆層は、摩擦攪拌接合用ツールの耐摩耗性、耐酸化性、靭性、使用済みプローブの識別のための色付性等の諸特性を向上させる作用を付与するために形成されるものであり、その組成は特に限定されるものではなく従来公知のものを採用することができる。たとえば、元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al(アルミニウム)、B(ホウ素)、およびSi(シリコン)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭窒酸化物またはこれらの固溶体により構成されるものをその組成として例示することができる。窒素を含有すると靭性に優れ、厚膜化しても被覆層が破壊しにくいため好ましい。炭窒化物は耐クレータ性に優れるため好ましく、酸化物は耐酸化性と耐溶着性に優れるため好ましい。なお、上記少なくとも1種の元素のみからなるものをその組成とすることもできる。
そして、上記組成中、特に好ましくは、構成成分として少なくともTiを含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物を挙げることができる。すなわち、本発明の被覆層のうち少なくとも一層は、構成成分として少なくともTiを含む窒化物、酸化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物によって構成されることが好ましい。当該化合物は、鋼に対する耐溶着性および耐摩耗性に特に優れるためである。
当該化合物としては、たとえば、Ti、(Ti1-xAlx)、(Ti1-xCrx)、(Ti1-xMox)、(Ti1-xZrx)、(Ti1-xSix)、(Ti1-xHfx)、(Ti1-xNbx)、(Ti1-xx)、または(Ti1-x-yAlxSiy)の窒化物、酸化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物(式中x、yは1以下の任意の数)等(これらにさらにB、Cr等を含むものも含む)をその好適な組成として例示することができる。なお、上記において、窒素、酸素、炭素の原子比は特に限定されず、従来公知の原子比をいずれも採用できる。
そのような化合物としてより好ましくは、TiCN、TiN、TiSiN、TiSiCN、TiHfN、TiAlN、TiAlCrN、TiAlSiN、TiAlSiCrN、TiBN、TiAlBN、TiSiBN、TiBCN、TiAlBCN、TiSiBCN、Ti23、TiSiCNO等を挙げることができる。なお、これらの組成中、各原子比は上記一般式の例に倣うものとする。なお、本発明において、他の化合物の化学式を示す場合において、特に原子比を示さない場合は従来公知の原子比を任意に選択できるものとする。
また、上記組成中、構成成分として少なくともAlを含む窒化物、酸化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物も好適な化合物として挙げることができる。すなわち、本発明の被覆層のうち少なくとも一層は、構成成分として少なくともAlを含む窒化物、酸化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物によって構成されることが好ましい。当該化合物は、鋼に対する耐溶着性および耐摩耗性に特に優れ、被覆層の耐酸化性にも優れるためである。
当該化合物としては、たとえば、Al、(Al1-xCrx)、(Al1-xSix)、(Al1-xTix)、(Al1-x-yCrxSiy)、(Al1-x-yTixCry)の窒化物、酸化物、炭窒化物、窒酸化物または炭窒酸化物(式中xは、1以下の任意の数)等(これらにさらにB、Cr等を含むものも含む)をその好適な組成として例示することができる。なお、上記において、窒素、酸素、炭素の原子比は特に限定されず、従来公知の原子比をいずれも採用できる。
そのような化合物としてより好ましくは、Al23、AlN、AlON、AlSiCN、AlTiN、AlTiCrN、AlTiSiCN、AlCrSiCNO等を挙げることができる。なお、これらの組成中、各原子比は上記一般式の例に倣うものとする。
一方、上記被覆層は、少なくとも一部に超多層構造を含むものとすることが好ましい。ここで、超多層構造とは相異なる性質・組成の2以上の層を数nm〜数百nmの厚みで100〜10000層程度積層したもの(通常上下交互に積層されるもの)をいう。この場合、相異なる複数のターゲットを同時に使用して被覆を行なうため、成膜速度に優れ、相異なる性質・組成の層を組み合わせることで被覆層の硬度や断熱性、耐酸化性などの膜特性が向上するため好ましい。
<被覆層の形成方法>
本発明の被覆層は、上述したように、PVD法(物理蒸着法)により形成されることが好ましく、PVD法による限りいずれのPVD法によっても形成することができ、その形成方法の種類は特に限定されない。
また、被覆層に付与される上記で説明したような積算残留応力は、本発明者の研究によると、被覆層を形成する時の基材温度、および基板バイアス電圧等の影響、さらにはヒーターからの輻射熱の影響などを受けることが判明しており、これらを制御することにより上記のような積算残留応力を付与することができる。
一般的には、基材に対して大きな基板バイアス電圧をかけると、被覆層を構成する元素がイオン状態で基材に対して高エネルギーで供給され、このためこれら両者が衝突するときの衝撃が大きくなり、その結果として形成される被覆層の圧縮応力が大きくなる(負の応力値の絶対値が大きくなる)ものと考えられる。また、逆に基板バイアス電圧が小さい場合は、そのような基材とイオン状態の元素との衝突による衝撃も小さく、このため付与される圧縮応力も小さくなり(負の応力値の絶対値が小さくなり)、あるいは引張応力が付与される場合もあるものと推測される。
また、形成時の基材温度を低くすると、基材とイオン状態の元素との衝突による衝撃により導入された圧縮応力の熱によるアニールが起こりにくくなり、その結果として形成される被覆層の圧縮応力が大きくなる(負の応力値の絶対値が大きくなる)ものと考えられる。また、逆に形成時の基材温度が高い場合や形成後のヒーター温度が高い場合は、基材とイオン状態の元素との衝突による衝撃により導入された圧縮応力が熱によりアニールされる結果となり、このため圧縮応力も小さくなり(負の応力値の絶対値が小さくなり)、あるいは引張応力が付与される場合もあるものと推測される。
そして、特に被覆層の表面領域を形成するに際しては、たとえば圧縮応力が導入可能な基板(基材)バイアス電圧で被覆層を形成した後、最後の1μm(すなわちこれが表面領域となる)を被覆する工程中において、一旦基材温度を被覆層に引張応力が導入可能な温度まで引き上げた後、続いてその基材温度を被覆層に圧縮応力が導入可能な温度まで冷却したり、バイアス電圧を小さくして成膜する方法などを採用することにより所望の第1領域と所望の第2領域とを形成できる。
また、被覆層の表面領域を形成する際に基板バイアス電圧、基材温度、およびヒーターのON/OFFを制御し、圧縮応力の導入と熱による圧縮応力のアニールとのバランスをとることにより、1GPaより大きな引張応力と−2GPaより大きな(その応力値の絶対値が大きな)圧縮応力とが導入されないようにすることにより、表面領域に含まれるいずれの領域においてもその積算残留応力を−2GPa以上1GPa以下の範囲内のものとすることができる。
また、同様に基板バイアス電圧、基材温度、およびヒーターのON/OFFを制御することにより、被覆層全体の積算残留応力を−1GPa以上0.5GPa未満のものとすることができる。
また、被覆層形成前のボンバード処理は、基材と被覆層との界面領域における、被覆層に含まれる結晶粒と基材に含まれるWCの結晶粒との整合性を高めるのに重要な工程である。具体的には、アルゴンガスの導入後基板バイアス電圧を−1500Vに維持し、Wフィラメントによる熱電子を放出させながら超硬合金基材の表面をボンバード処理した後、被覆層を形成することにより、基材と被覆層との界面領域において、被覆層に含まれる結晶粒と基材に含まれるWCの結晶粒とが整合性を有したものとすることができる。
これは、ボンバード処理により界面領域のWCの結晶粒の表面の汚れや酸化層を除去できるとともに、WCの結晶粒の表面の活性度が高まることにより、被覆層の結晶粒がWCの結晶粒と整合性をもって成長するためではないかと考えられる。このように被覆層に含まれる結晶粒と基材に含まれるWCの結晶粒との整合性が高まることにより、被覆層とWCの結晶粒(すなわち基材)との結合力が強固なものとなって優れた耐剥離性を実現できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の被覆層の化合物組成はXPS(X線光電子分光分析装置)によって確認した。また残留応力および厚み(または被覆層表面からの距離)は、上述のsin2ψ法により測定した。
sin2ψ法による測定において、使用したX線のエネルギーは10keVであり、回折ピークはTi0.5Al0.5Nの(200)面とした。そして、測定した回折ピーク位置をガウス関数のフィッティングにより決定し、2θ−sin2ψ線図の傾きを求め、ヤング率としてはダイナミック硬度計(MTS社製ナノインデンター)を用いて求めた値を採用し、ポアソン比にはTiN(0.19)の値を用いて応力値とした。
なお、以下では被覆層をカソードアークイオンプレーティング法により形成しているが、例えばバランスドまたはアンバランスドスパッタリング法によっても被覆層を形成することは可能である。
<実施例1〜6および比較例1〜4>
以下の実施例1〜6では、図1に示される摩擦攪拌接合用ツールを作製した。本実施例の摩擦攪拌接合用ツールは、直径10mmで高さが20mmの略円柱形状の円柱部5と、その円柱部5の先端中央部に円柱部5と同心に突設されたプローブ部4とを有しており、当該プローブ部4は、直径4mmで高さが1mmの略円柱形状のものである。
また、実施例1〜6では、被覆層として単一組成の層を形成しているが、これらの実施例で用いた組成以外の組成のものや組成が異なる2以上の層を被覆層として形成したもの、あるいは被覆層が少なくとも一部に超多層構造を含むものについても同様の効果を得ることができる。
<摩擦攪拌接合用ツールの作製>
まず、摩擦攪拌接合用ツールの基材として、以下の表1に示す材質とツール形状を有する基材(基材No.1)を用意し、これをそれぞれカソードアークイオンプレーティング装置に装着した。なお、該基材は、超硬合金からなるものであって、WCの結晶粒を含み、この結晶粒の平均粒径(基材表面(被覆層との界面部分)のもの)は、表1記載の通りであった。
Figure 0005493513
続いて、真空ポンプにより該装置のチャンバー内を減圧するとともに、該装置内に設置されたヒーターにより上記基材の温度を450℃に加熱し、チャンバー内の圧力が1.0×10-4Paとなるまで真空引きを行なった。
次に、アルゴンガスを導入してチャンバー内の圧力を3.0Paに保持し、上記基材の基板バイアス電源の電圧を徐々に上げながら−1500Vとし、Wフィラメントを加熱して熱電子を放出させながら基材の表面のクリーニングを15分間行なった。その後、アルゴンガスを排気した。
次いで、上記基材上に直接接するように形成される被覆層としてTi0.5Al0.5Nが15μmの厚みで形成されるように、予めセットしておいた金属蒸発源である合金製ターゲットを用いて、反応ガスとして窒素ガスを導入させながら、反応ガス圧4.0Paとし、基板バイアス電圧および基材温度を以下の表2のように変化させることにより、カソード電極に100Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオンを発生させることにより、以下の表3に示す積算残留応力の強度分布を有する実施例1〜6および比較例1〜4の摩擦攪拌接合用ツールを作製した。
なお、比較例1の摩擦攪拌接合用ツールは、積算残留応力の強度分布はなく被覆層の全領域に亘って−3GPaという一定の圧縮応力を有するように調整した。同じく比較例2の摩擦攪拌接合用ツールも積算残留応力の強度分布はなく被覆層の全領域に亘って1.1GPaという一定の引張応力を有するように調整した。また、比較例3と4の摩擦攪拌接合用ツールについても、被覆層の表面領域において−2GPa以上1GPa以下の範囲を超える積算残留応力を有するように調整した。
Figure 0005493513
なお、上記の表において記載されている時間は、合金製ターゲットにより金属イオンの蒸発を開始してからの経過時間を示している。また、各欄に示されている電圧の数値は、上記の経過時間に対応する基板(基材)のバイアス電圧を示しており、たとえば「−30V〜−50V」というような範囲をもって記載されている場合は、その経過時間において基板バイアス電圧を−30Vから徐々に−50Vまで一定速度で増大(絶対値を増大)させたことを示しており、この場合被覆層の積算残留応力は被覆層の表面方向にかけて徐々に減少することとなる。一方、「−50V〜−30V」というような範囲をもって記載されている場合は、その経過時間において基板バイアス電圧を−50Vから徐々に−30Vまで一定速度で減少(絶対値を減少)させたことを示しており、この場合被覆層の積算残留応力は被覆層の表面方向にかけて徐々に増加することとなる。また、各欄に示されている温度の数値は、上記の経過時間に対応する基材温度を示しており、たとえば「500℃〜600℃」というような範囲をもって記載されている場合は、その経過時間において温度を500℃から徐々に600℃まで一定速度で増大させたことを示しており、この場合被覆層の積算残留応力は被覆層の表面方向にかけて徐々に増加することとなる。一方、「675℃〜650℃」というような範囲をもって記載されている場合は、その経過時間において温度を675℃から徐々に650℃まで一定速度で減少させたことを示しており、この場合被覆層の積算残留応力は被覆層の表面方向にかけて徐々に減少することとなる。そして、電圧の変化および温度の変化が増大から減少に転じる点、ならびに電圧の変化および温度の変化が減少から増大に転じる点において、それぞれ積算残留応力の極大点ならびに極小点が形成されることになる。
このように基板バイアス電圧および温度を経過時間との関係で変化させることにより、被覆層中の積算残留応力を変化させる(強度分布を形成させる)ことができる。また、基材温度を高温化したり、基板バイアス電圧を0Vに近づけたり、−200Vよりも小さくしたりすることにより、被覆層中の残留応力は大きくなる傾向にある。具体的には、基材温度を650℃以上としたり、基板バイアス電圧を−50Vよりも大きくしたり、あるいは−400Vよりも小さくしたり、またあるいはこれらの条件を組み合わせたりすることで引張応力を発生させることが可能となる。
Figure 0005493513
なお、上記表3において表面、ポイントA、ポイントBの積算残留応力の欄に記載されている数値は、それぞれ被覆層の表面(最表面(厚みが0μmの地点)の応力は測定できないため、厚み0.03μmの地点を便宜的に表面とした)、図2に示したポイントAに相当するポイント(すなわち積算残留応力の極大点)、および図2に示したポイントBに相当するポイント(表面領域の最深部)における積算残留応力を示している。また、Z1およびZ2(積算残留応力が0になる地点で、Z1は被覆層の表面側から見て表面側の圧縮応力が引張応力に変化する地点を表し、Z2は同じく表面側から見て表面側の引張応力が圧縮応力に変化する地点を表す)の欄に記載されている数値は、被覆層表面からの距離をそれぞれ示している(すなわち図2におけるZ1およびZ2に相当する地点を示している)。なお、Z1、Z2の欄が空欄となっているものは、該当するポイントが存在しないことを示す。たとえば実施例1、2、6のようにZ1が空欄のものは、被覆層の表面からポイントAまで実質的に積算残留応力が一定であることを示している。
また、「全体の積算残留応力」の欄に記載されている数値は、被覆層全体の積算残留応力を示している。
このようにして、実施例1〜6の本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、基材と、該基材上に形成される被覆層とを含むものであって、該被覆層は、10μm以上の厚みを有し、該被覆層の表面から1μmの厚みを有する表面領域は、積算残留応力が圧縮応力となる第1領域と積算残留応力が引張応力となる第2領域とを有し、該表面領域の積算残留応力は、その表面領域に含まれるいずれの領域においても−2GPa以上1GPa以下の範囲内にあるものである。また、これらの実施例の摩擦攪拌接合用ツールは、基材と被覆層との界面領域において、被覆層に含まれる結晶粒と基材に含まれるWCの結晶粒とが整合性を有していることを確認した。
このようにして作製された実施例1〜6の本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、接合加工時において被覆層が破壊することはなかったのに対し、比較例1および3の摩擦攪拌接合用ツールは、接合加工時において被覆層が一部破壊していることが確認された。
<摩擦攪拌接合用ツールの耐摩耗性の評価>
上記で作製した実施例1〜6および比較例1〜4の摩擦攪拌接合用ツールのそれぞれについて、上記の表1に示す条件による点接合(FSJ)を行なうことにより耐摩耗性の評価を行なった。該評価は、500スポットの点接合を行なうごとにプローブ部の直径を測定し、直径減少量が0.1mmを超えた時点で点接合を中止し、当該中止に至るまでに接合したスポット数を計測することにより行なった。
摩擦攪拌接合用ツールの耐摩耗性の評価結果として上記で接合したスポット数を下記表4に示す。接合したスポット数が多いものほど、耐摩耗性が優れていることを示している。
表4から明らかなように、実施例1〜6の本発明に係る摩擦攪拌接合用ツールは、比較例1〜4の摩擦攪拌接合用ツールに比し、耐摩耗性が向上するとともに膜チッピング(接合加工時の被覆層の破壊)に対する耐性にも優れ、かつ欠損等を生じることもないため、摩擦攪拌接合用ツールの寿命が向上したことを確認した。
Figure 0005493513
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 摩擦攪拌接合用ツール、2 基材、3、被覆層、4 プローブ部、5 円柱部。

Claims (6)

  1. 基材と、該基材上に形成される被覆層とを含む摩擦撹拌接合用ツールであって、
    前記被覆層の表面から1μmの厚みを有する表面領域は、その表面領域に含まれるいずれの領域においても、積算残留応力が−2GPa以上1GPa以下の範囲内にあり、
    前記表面領域は、積算残留応力が圧縮応力となる第1領域と積算残留応力が引張応力となる第2領域とを有し、
    前記被覆層は、10μm以上の厚みを有する摩擦撹拌接合用ツール。
  2. 前記被覆層全体の積算残留応力は、−1GPa以上0.5GPa未満である請求項1に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
  3. 前記第2領域の積算残留応力は、1GPa以下である請求項1または2に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
  4. 前記被覆層は、1以上の層を含み、
    そのうち少なくとも一層は、構成成分として少なくともTiを含む窒化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物によって構成される請求項1〜のいずれかに記載の摩擦撹拌接合用ツール。
  5. 前記被覆層は、1以上の層を含み、
    そのうち少なくとも一層は、構成成分として少なくともAlを含む窒化物、酸化物、炭窒化物、窒酸化物、および炭窒酸化物のいずれかの化合物によって構成される請求項1〜のいずれかに記載の摩擦撹拌接合用ツール。
  6. 前記被覆層は、少なくとも一部に超多層構造を含む請求項1〜のいずれかに記載の摩擦撹拌接合用ツール。
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