以下、添付図面に従って本発明に係るレンズ装置の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るテレビカメラ用撮影レンズのレンズ鏡胴の概略図である。図1は、レンズ鏡胴を光軸を含む面で切断した概略断面図である。レンズ鏡胴1の後端(図1において右側)が図示しないカメラ本体に取り付けられる。
レンズ鏡胴1内には、フォーカスレンズ群20、ズームレンズ群22、マスターレンズ群28が配設されている。そして、ズームレンズ群22とマスターレンズ群28との間には絞り(図示せず)が配設されている。
フォーカスレンズ群20は、一例で3枚のレンズを含んでいる。フォーカスレンズ群20は、フォーカス鏡胴32に支持される。フォーカス鏡胴32は、環14を介して本体環10に光軸Pの前後方向に移動自在に支持されている。したがって、フォーカスリング(図示せず)が回動されると、それに伴いフォーカス鏡胴32が回動し、フォーカスレンズ群20が光軸Pの前後方向に駆動される。これにより、フォーカス調整がなされる。
一方、本体環10内にはカム筒12が回動自在に配設される。カム筒12の内部には、ズームレンズ群22が配設される。ズームレンズ群22は、変倍レンズ24と補正レンズ26を含んでいる。
変倍レンズ24は変倍レンズ枠34に保持される。変倍レンズ枠34にはカムピン(図示せず)が嵌入されており、このカムピンはカム筒12に形成されたカム溝(図示せず)を貫通して本体環10の内周面に形成された直進溝(図示せず)に嵌合されている。補正レンズ26は内側レンズ枠40に保持される。内側レンズ枠40は外側レンズ枠42に取り付けられる。外側レンズ枠42にはカムピン(図示せず)が嵌入されており、このカムピンはカム筒12に形成されたカム溝(図示せず)を貫通して本体環10の内周面に形成された直進溝(図示せず)に嵌合されている。このため、ズームリング(図示せず)が回動されると、これに伴いカム筒12が回動され、変倍レンズ24と補正レンズ26が光軸Pの前後方向に駆動される。これにより、ズーム調整が行われる。
マスターレンズ群28は、光軸Pに沿って移動自在に配設される。マスターレンズ群28を光軸Pに沿って移動させることにより、焦点の補正が行われる。また、マスターレンズ群28は、レンズ結像位置の微調整(トラッキング調整、あるいは、フランジバック調整ともいう。)や、マクロ撮影時にも移動制御される。
マスターレンズ群28は、撮影倍率を1倍と所定倍(例えば2倍)とで切り替えるための可動のエクステンダ群30を備えている。エクステンダ群30はアーム36の先端に配設される。アーム36が回動されると、エクステンダ群30が光軸Pから挿脱される。
本実施の形態のレンズ鏡胴1は、補正レンズ26の倒れを調整するための構成を有している。図2は、補正レンズ26の倒れを調整する倒れ調整機構の詳細を示す拡大図である。倒れ調整機構は、レンズ鏡胴1の先端(または後端)からみて上下左右の4か所、略90度おきに配設されている。図2では上(図1の上側)に配設された倒れ調整機構のみが図示されているが、下、左、右に配設されている倒れ調整機構も同様の構成となっている。なお、下、左、右に配設された倒れ調整機構については説明を省略する。
内側レンズ枠40は略円筒形の部材であり、内周面には補正レンズ26が保持する爪40Aが形成されている。内側レンズ枠40の外周面にはネジ部40Bが形成される。また、内側レンズ枠40の外周面には、ネジ部40Bに隣接してリブ40Cが形成されている。リブ40Cの径方向外側(先端)には、断面R形状の凸部40Dが形成されている。なお爪40A、ネジ部40B、リブ40Cは全周にわたって形成されていてもよいし、倒れ調整機構の配置位置(本実施の形態では上下左右)にそれぞれ形成されていてもよい。また、凸部40Dは断面がR形状であればよく、その他の形状は限定されない。例えば、半円球形状の凸部を4個形成してもよいし、断面がR形状のリブを形成してもよい。
内側レンズ枠40の外周面のリブ40Cに隣接する位置には、全周にわたって凹部40Eが形成され、凹部40Eには弾性部材46が嵌入される。本実施の形態では、弾性部材46としてOリングを用いるが、これに限定されるものではない。
外側レンズ枠42は、内側レンズ枠40の外径より大きな内径を有する略円筒形の本体部42Aと、本体部42Aから上下方向に突出するように形成された突出部42Bを含んでいる。外側レンズ枠42は、内側レンズ枠40を覆うように配設される。また、突出部42Bの径方向外側にはカムピン(図示せず)が嵌入される。
本体部42Aの先端(図2において左側)近傍には、本体部42Aをその径方向に貫通するようにネジ孔42aが形成され、ネジ孔42aにはネジ48が螺合される。ネジ48の先端には、治具が挿入される穴48Aが形成される。ネジ孔42aは、倒れ調整機構の配置位置(本実施の形態では上下左右)にそれぞれ形成される。なお、ネジ孔42aの位置は、組立状態でネジ部40B(または押え環44)から可能な限り遠い位置、すなわち本体部42Aの先端近傍に形成することが望ましい。
本体部42Aの後端(図2において右側)には、径方向内側に突出したリブ42bが形成される。リブ42bは、全周にわたって形成されていてもよいし、倒れ調整機構の配置位置(本実施の形態では上下左右)にそれぞれ形成されていてもよい。
押え環44は環状の部材であり、内周面にはネジ部40Bと螺合可能なネジ部44Aが全周にわたって形成される。
このように構成された倒れ調整機構は、以下のようにして組み立てられる。最初に、外側レンズ枠42を本体環10内に配設する。次に、外側レンズ枠42の内部に内側レンズ枠40を先端側(図2において左側)から挿入する。その後、押え環44を後端側(図2において右側)から挿入してネジ部40Bと螺合する。押え環44の螺合は、リブ40Cに突き当たるまで行われる。その結果、弾性部材46は凹部40Eの側面の壁とリブ42bの側面とで押さえられて変形して、その反力によりリブ42bが弾性部材46と押え環44とで挟みこまれる。これにより、内側レンズ枠40が外側レンズ枠42に取り付けられる。
ネジ部40Bは、組立状態において、押え環44の先端(図2において左側)の位置が補正レンズ26の主点の位置と略一致するように形成される。また、この組立状態では、外側レンズ枠42は、凸部40Dの先端にのみ当接する。したがって、図1および図2に示すような光軸を含む面において、内側レンズ枠40と外側レンズ枠42とは円周状に接触(円周状の線、または円周状に配列された複数の点で接触)している。
このように構成された倒れ調整機構を用いて補正レンズ26の倒れを調整する方法について説明する。カム筒12を回転させて、本体環10に形成された開口部10Aとカム筒12に形成された開口部12Aとを一致させる(図1参照)。これにより、開口部10Aと開口部12Aとを介してネジ孔42aが露出される。
開口部10Aおよび開口部12Aに調整用治具2を挿入し、調整用治具2の先端をネジ48に形成された穴48Aに挿入してネジ48を回転させる。ネジ48の螺合量を増加させると、ネジ48が径方向内側に移動し、それに伴い内側レンズ枠40の先端近傍が光軸に向かう方向に移動される。
内側レンズ枠40は、外側レンズ枠42と凸部40Dの先端で接触している。したがって、ネジ48によって内側レンズ枠40の先端近傍が光軸方向に移動されると、内側レンズ枠40が凸部40Dの先端を支点に回動し、それに伴い補正レンズ26も回動する。なお、内側レンズ枠40の回動は、弾性部材46が弾性変形することによって可能となる。また、押え環44は外側レンズ枠42に当接しているが、当接部分は固定されていないため、内側レンズ枠40が微小角度だけ傾くだけの自由度は確保されている。
図2においては、ネジ48の螺合量が増加すると、内側レンズ枠40が反時計回りに回動し、それに伴い補正レンズ26が反時計回りに回動する。これにより、補正レンズ26の光軸が光軸Pに対して斜め下方向になるように調整される。
ネジ48の螺合量を減少させると、ネジ48が径方向外側に退避する。弾性部材46の復元力によって内側レンズ枠40が元に戻る方向に移動され、補正レンズ26の光軸Pに対する傾きが小さくなる。
倒れ調整機構はこのように構成されているため、内側レンズ枠40が微小角度回動した場合にも、押え環44の光軸方向の位置は変化しない。すなわち、補正レンズ26は主点を略中心として傾きが調整される。したがって、補正レンズ26は光軸方向に移動されず、倒れの調整を行っても画角は変更されない。
また、ネジ孔42aと押え環44との距離が離れているほど、より弱い力で補正レンズ26の倒れの調整が可能である。また、ネジ孔42aと押え環44との距離が離れているほど、ネジ48の移動量に対して倒れ量(角度)が小さくなる。このため、倒れの調整を精度よく行うことができる。
本実施の形態では、レンズ装置を分解することなく、治具等を用いてネジの螺合量、すなわちレンズ群の倒れ調整を行うことができる。また、レンズ群を光軸方向に移動させることなく、主点を中心にした倒れ調整を行うことができる。また、精密な倒れ調整を容易に行うことができる。
なお、本実施の形態では、本体部42Aの先端(図2において左側)近傍にネジ孔42aを形成し、ネジ48の螺合量が増加されると内側レンズ枠40および補正レンズ26が反時計回りに回動するが、倒れ調整機構の形態はこれに限られない。例えば、ネジの位置と回動の支点とを前後逆にし、ネジの螺合量が増加されると補正レンズ26が時計回りに回動するようにしてもよい。
図3は、倒れ調整機構の異なる形態を示す図である。内側レンズ枠40−1は、先端(図3において左側)にネジ部40B−1が形成され、ネジ部40B−1に隣接してリブ40C−1が形成される。外側レンズ枠42−1の本体部42A−1の先端にはリブ42b−1が形成される。また、本体部42A−1の後端(図3において右側)近傍には、本体部42A−1を径方向に貫通するようにネジ孔42a−1が形成され、ネジ孔42a−1にはネジ48が螺合される。
外側レンズ枠42−1を本体環10内に配設し、外側レンズ枠42−1の内部に内側レンズ枠40−1を後端側から挿入し、押え環44−1を先端側から挿入してネジ部40B−1と螺合することにより、倒れ調整機構が組み立てられる。
ネジ48の螺合量が増加されると、凸部40Dを支点として内側レンズ枠40−1が時計回りに回動し、それに伴い補正レンズ26が時計回りに回動する。これにより、補正レンズ26の光軸が光軸Pに対して斜め上方向になるように調整される。ネジ48の螺合量を減少させると、ネジ48が径方向外側(図3の上側)に退避し、内側レンズ枠40−1が元に戻る方向に移動される。これにより、補正レンズ26の光軸の傾きが小さくなり、補正レンズ26を微小角度だけ回動させることができる。
なお、本実施の形態では、内側レンズ枠40に凸部40Dを形成して内側レンズ枠40と外側レンズ枠42とを接触させたが、外側レンズ枠42に凸部を形成して内側レンズ枠40と外側レンズ枠42とを接触させるようにしてもよい。
また、本実施の形態では、リブ42bを倒れ調整機構の配置位置にそれぞれ形成したが、リブ42bは少なくとも上下(または左右)の2か所に配設されていればよい。
また、本実施の形態では、弾性部材にOリングを用いたが、内側レンズ枠40の回動時の緩衝となり、かつ内側レンズ枠40と外側レンズ枠42との両方から押しつけられるように配設可能であればこれに限定されない。例えば、凹部40Eを無くし、ゴムパッキン等弾性を有する板状の部材を貼付するようにしてもよい。
本実施の形態では、上下左右の位置関係となるように略90度おきに4個の倒れ調整機構を配設したが、倒れ調整機構の数や配置はこれに限られない。倒れ調整機構は、4個以下であれば、2個でもよいし3個でもよい。2個の場合には略90度の位置関係(例えば、上と横)に配設することが望ましい。3個の場合には、略120度間隔で配設することが望ましい。また、4個の場合においても、上下左右に配設する場合には限られない。しかしながら、上下、左右で別々に倒れを調整できように、上下左右の4か所に倒れ調整機構を配設することが最も望ましい。なお、倒れ調整機構を4個より多く配設したとしても、倒れ調整の精密さや容易さが向上しないため、4個より多く配設する意味はない。
また、本実施の形態では、移動レンズである補正レンズ26に倒れ調整機構を適用したが、倒れ調整機構を適用するのは補正レンズ26に限られない。補正レンズ26以外の移動レンズに適用してもよいし、光軸方向に移動しない固定レンズに適用してもよい。固定レンズの場合には、本体環等の筒体に開口部を設ける代わりに、長いネジを用いてネジを筒体から突出させてもよい。