ところで近年、電子写真装置の出力画像に要求される画像品質は、図、写真の多用化に伴って高度化しており、そのため、感光ドラム基体用管の寸法精度はもとより、管の外周面の表面品質についても非常に高い品質が要求されてきており、例えば、より均質で鏡面に近い品質が要求されてきている。
しかるに、上述した従来の製造方法では、素管は押出加工により製作されたものであるため、ビレットの成分、素管の外径、肉厚、硬度、表面粗さ、表面汚れ等に多くのばらつき要素を含んでおり、そのため、上述した従来の製造方法でも管の外周面の表面品質についてこのような高い要求を満足することは困難であった。
さらに、近年、電子写真装置の低価格化に伴い、感光ドラム基体も低価格化が進んでいる。そこで、能率良く感光ドラム基体用管を製造することで感光ドラム基体の低価格化に対応させるため、素管の引抜き速度を高速化することが余儀なくされている。しかるに、素管の引抜き速度を高速化すると、加工熱によって潤滑油の動粘度が低下するため、素管の外周面に油切れが生じ易く、焼き付きが発生することがあった。焼き付きを発生させないようにするためには、一般に、高動粘度の潤滑油を使用すれば良いことが知られている。
しかしながら、図16に示すように、高動粘度の潤滑油108を使用すると、素管120を引抜き加工して得られた管121の外周面に大きなオイルピット122が多数発生し、そのため管121の外周面がナシ地状に荒れるという問題が発生する。このように管121の外周面が荒れると、高品質の画像を得ることができなくなる。なお図16において、102は引抜き加工用ダイス、103はダイス102を保持したダイスホルダ、107aは潤滑油噴出ノズルである。
一方、図17に示すように、低動粘度の潤滑油108を使用すると、オイルピットを微細にすることができ、もって高い表面平滑性を有する管121を得ることができる。しかしながら、この場合、油膜強度が低下するため素管120の外周面に油切れが生じ易く、その結果、焼き付きが発生するという難点があった。なお図17において、124は素管120の外周面に生じた油切れ部、123は管121の外周面に焼き付きにより生じた線状のキズである。
本発明は、上述した技術背景に鑑みてなされたもので、オイルピットを小さくすることができ、且つ素管の引抜き加工時に潤滑不良による焼き付きの発生を防止することができる感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法、及び該方法に好適に用いられる感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置を提供することにある。
本発明は以下の手段を提供する。
[1] アルミニウム素管を引抜き加工することによる感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法であって、
引抜き加工用ダイスの上流側に配置されたスクレーパにより、素管の外周面に付着した引抜き加工用潤滑油を掻き取るとともに該潤滑油を素管の外周面にその周方向に塗り広げながら、素管を引抜き加工することを特徴とする感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[2] 引抜き速度は10m/min以上に設定されている前項1記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[3] 潤滑油の動粘度は400mm2/s以下に設定されている前項1又は2記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[4] スクレーパの少なくとも刃先部は、スプリング式硬度計A形で測定された硬さHsが90以下の軟質材料製である前項1〜3のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[5] スクレーパには、素管が挿通される挿通孔が設けられるとともに、スクレーパの刃先部が挿通孔の外周縁部から形成されている前項1〜4のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[6] スクレーパの挿通孔の直径は、素管の外径に対して−5%〜0%の範囲に設定されている前項5記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[7] スクレーパの刃先部の上流側の側面に、素管の外周面から掻き取られた潤滑油を捕捉する捕捉溝が刃先部の周方向に延びて設けられている前項5又は6記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[8] スクレーパの刃先部に、挿通孔の内周面から挿通孔の半径方向外向きに延びた切込みが設けられている前項5〜7のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[9] スクレーパは、挿通孔を中心に周方向に複数個のエレメントに分割されている前項5〜8のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[10] スクレーパは、ダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置に常設されている前項1〜9のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[11] スクレーパは、ダイスの上流側の端面あるいはダイスを保持したダイスホルダの上流側の端面に取外し可能に固定されている前項10記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[12] スクレーパは、ダイスの上流側の端面あるいはダイスを保持したダイスホルダの上流側の端面に取外し可能に且つ当該端面に沿って移動可能に貼り付いている前項1〜10のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[13] スクレーパは、ダイスの上流側に、素管の引抜き方向とその反対方向と引抜き方向に垂直な方向とに移動可能に配置されている前項1〜10のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[14] スクレーパは、弾性的に伸縮可能な条体で吊持されることにより、素管の引抜き方向とその反対方向と引抜き方向に垂直な方向とに移動可能なものとなされている前項13記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[15] スクレーパは、素管の引抜き加工が行われないときには、ダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置とは異なる位置に配置されており、
素管の引抜き加工を開始する際に、スクレーパをダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置に配置させる前項1〜9のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[16] 素管の材質は、Al−Mn系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系又は純アルミニウム系である前項1〜15のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法。
[17] アルミニウム素管を引抜き加工することにより感光ドラム基体用アルミニウム管を製造する感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置であって、
引抜き加工用ダイスと、
アルミニウム素管を引抜き方向に移動させる素管駆動手段と、
素管の外周面に引抜き加工用潤滑油を付着させる潤滑油付着手段と、
ダイスの上流側に配置されたスクレーパと、を備え、
スクレーパは、素管駆動手段により引抜き方向に移動されている素管の外周面に付着した潤滑油を掻き取るとともに該潤滑油を素管の外周面にその周方向に塗り広げるものであることを特徴とする感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[18] 素管駆動手段は、引抜速度が10m/min以上になるように素管を引抜き方向に移動させるものである前項17記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[19] 潤滑油付着手段により素管の外周面に付着される潤滑油の動粘度は400mm2/s以下に設定されている前項17又は18記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[20] スクレーパの少なくとも刃先部は、スプリング式硬度計A形で測定された硬さHsが90以下の軟質材料製である前項17〜19のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[21] スクレーパには、素管が挿通される挿通孔が設けられるとともに、スクレーパの刃先部が挿通孔の外周縁部から形成されている前項17〜20のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[22] スクレーパの挿通孔の直径は、素管の外径に対して−5%〜0%の範囲に設定されている前項21記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[23] スクレーパの刃先部の上流側の側面に、素管の外周面から掻き取られた潤滑油を捕捉する捕捉溝が刃先部の周方向に延びて設けられている前項21又は22記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[24] スクレーパの刃先部に、挿通孔の内周面から挿通孔の半径方向外向きに延びた切込みが設けられている前項21〜23のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[25] スクレーパは、挿通孔を中心に周方向に複数個のエレメントに分割されている前項21〜24のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[26] スクレーパは、ダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置に常設されている前項17〜25のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[27] スクレーパは、ダイスの上流側の端面あるいはダイスを保持したダイスホルダの上流側の端面に取外し可能に固定されている前項26記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[28] スクレーパは、ダイスの上流側の端面あるいはダイスを保持したダイスホルダの上流側の端面に取外し可能に且つ当該端面に沿って移動可能に貼り付いている前項17〜26のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[29] スクレーパは、ダイスの上流側に、素管の引抜き方向とその反対方向と引抜き方向に垂直な方向とに移動可能に配置されている前項17〜26のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[30] スクレーパは、弾性的に伸縮可能な条体で吊持されることにより、素管の引抜き方向とその反対方向と引抜き方向に垂直な方向とに移動可能なものとなされている前項29記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
[31] スクレーパを、ダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置と、潤滑油掻き取り位置とは異なる位置とに移動させるスクレーパ移動手段を備えてており、
スクレーパ移動手段は、素管の引抜き加工が行われないときには、スクレーパをダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置とは異なる位置に移動させ、素管の引抜き加工を開始する際に、スクレーパをダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置に移動させるものである前項17〜25のいずれかに記載の感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置。
本発明は以下の効果を奏する。
[1]の発明に係る感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法では、素管の引抜き加工の際に、引抜き加工用ダイスの上流側に配置されたスクレーパによって素管の外周面に付着した引抜き加工用潤滑油を掻き取るとともに該潤滑油を素管の外周面にその周方向に塗り広げることにより、低動粘度の潤滑油を使用しても潤滑不良による焼き付きの発生を防止することができる。これにより、オイルピットを小さくすることができ、もって管の外周面の表面平滑性を高くすることができる。
[2]の発明では、引抜き速度を所定の速さ以上に設定することにより、管を能率良く製造することができ、もって管の製造コストを引き下げることができる。しかも、このように引抜き速度を高速に設定した場合であっても、オイルピットの発生を抑制することができる。
[3]の発明では、動粘度が所定の値以下の潤滑油を使用することにより、オイルピットを確実に小さくすることができ、もって管の外周面の表面平滑性を確実に高くすることができる。
[4]の発明では、スクレーパを潤滑油の掻き取り及び塗り広げ用に好適なものとすることができ、もって潤滑油を確実に掻き取ることができるし確実に塗り広げることができる。さらに、潤滑油の掻き取りの際にスクレーパが素管の外周面に当接することによる素管の外周面の傷付きを確実に防止することができる。
[5]の発明では、スクレーパにより潤滑油を素管の外周面から確実に掻き取ることができるし、更に該潤滑油を素管の外周面にその周方向に確実に塗り広げることができる。
[6]の発明では、スクレーパの挿通孔の直径を素管の外径に対して所定の範囲に設定することにより、スクレーパによる潤滑油の掻き取り量を適量に設定することができるし、潤滑油を素管の外周面に確実に薄く塗り広げることができる。
[7]の発明では、スクレーパの刃先部の捕捉溝に素管の外周面から掻き取られた潤滑油を捕捉することができる。そのため、素管の外周面に塗り広げるのに必要な潤滑油を、捕捉溝から素管の外周面に安定供給することができる。
[8]の発明では、スクレーパの刃先部に切込みが設けられているから、スクレーパの刃先部が摩耗して挿通孔の直径が拡大しても、スクレーパの刃先部の素管外周面への当接圧力があまり変化しない。そのため、スクレーパを長期に亘って使用することができる。
[9]の発明では、スクレーパの複数個のエレメントを素管の外周面に多方向から当接させることができるし、素管の挿通孔への挿通作業を容易に行うことができる。
[10]の発明では、スクレーパが潤滑油掻き取り位置と、該掻き取り位置とは異なる位置とに移動可能に構成されているものと比べて、スクレーパの構成を簡素化することができる。
[11]の発明では、スクレーパがダイスの上流側の端面あるいはダイスホルダの上流側の端面に固定されているから、スクレーパを潤滑油掻き取り位置に確実に配置することができる。さらに、スクレーパが取外し可能に固定されているから、ダイスのベアリング部を目視等で点検する際にスクレーパを取り外すことができ、これによりベアリング部の点検を確実に行うことができる。
[12]の発明では、スクレーパがダイスの上流側の端面あるいはダイスホルダの上流側の端面に貼り付いているから、スクレーパを潤滑油掻き取り位置に確実に配置することができる。さらに、スクレーパが取外し可能に貼り付いているから、ダイスのベアリング部を目視等で点検する際にスクレーパを取り外すことができ、これによりベアリング部の点検を確実に行うことができる。
しかも、スクレーパがダイスの上流側の端面あるいはダイスホルダの上流側の端面に沿って移動可能に貼り付いているから、スクレーパを潤滑油掻き取り位置に配置する際に、スクレーパの掻き取り位置への位置決めを厳格に行う必要がないという利点がある。
[13]の発明では、スクレーパが素管の引抜き方向とその反対方向と引抜き方向に垂直な方向とに移動可能に配置されているから、ダイスのベアリング部を目視等で点検する際に、スクレーパを素管の引抜き方向とは反対方向に移動させたり引抜き方向に垂直な方向に移動させたりすることにより、スクレーパをベアリング部の点検に支障を来さない位置に配置させることができる。これにより、ベアリング部の点検を容易に行うことができる。
[14]の発明では、スクレーパを簡素な構成で所定方向(即ち、引抜き方向、その反対方向、及び引抜き方向に垂直な方向)に移動可能なものとなし得る。
さらに、ダイスのベアリング部を点検する際には、スクレーパを例えば手で掴んでスクレーパを素管の引抜き方向とは反対方向に移動させたりスクレーパを引抜き方向に垂直な方向に移動させたりすることにより、スクレーパをベアリング部の点検に支障を来さない位置に容易に配置させることができる。そして、ベアリング部の点検が終了したら、スクレーパから手を離すと、スクレーパが条体の弾性復元力によって元の位置に移動されるので、スクレーパを元の位置に確実に且つ容易に戻すことができる。
しかも、スクレーパが弾性的に伸縮可能な条体で吊持されているから、スクレーパを潤滑油掻き取り位置に配置する際に、スクレーパの掻き取り位置への位置決めを厳格に行う必要がないという利点がある。
[15]の発明では、スクレーパは、素管の引抜き加工が行われないときには、ダイスの上流側における潤滑油掻き取り位置とは異なる位置に配置されることから、ダイスのベアリング部の点検の際にベアリング部がスクレーパで覆い隠されるのが防止される。これにより、ベアリング部の点検を容易に行うことができる。
[16]の発明では、高い表面平滑性を有するアルミニウム管を確実に得ることができる。
[17]〜[31]の発明に係る感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置は、それぞれ上記[1]〜[15]の発明の効果と同様の効果を奏する。
次に、本発明の幾つかの実施形態について図面を参照して以下に説明する。
図1〜6は、本発明の一実施形態に係る感光ドラム基体用アルミニウム管の製造方法及び装置を説明する図である。1は、本実施形態に係る感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置である。
この装置1は、図1に示すように、アルミニウム素管20を引抜き加工することにより感光ドラム基体用アルミニウム管21を製造するものである。この装置1は、引抜き加工用ダイス2、潤滑油付着手段7、素管駆動手段9、スクレーパ5などを主要な構成要素として備えている。
アルミニウム素管20は、アルミニウムビレットを押出加工することにより得られたアルミニウム押出素管であり、その断面形状は円形状である。
この素管20の外径D(図3参照)は例えば20〜50mmであり、素管20の肉厚は例えば1〜3mmである。ただし本発明は、素管20の外径D及び肉厚がそれぞれ上記の範囲であることに限定されるものではない。
この素管20の材質は、特に限定されるものではないが、Al−Mn系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系又は純アルミニウム系であることが望ましい。一方、素管20の材質が例えばAl−Cu系、Al−Si系又はAl−Zn−Mg系である場合には、素管20の外周面が硬く、そのため素管20の外周面を平滑化するのが困難である。したがって、素管20の材質はAl−Mn系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系又は純アルミニウム系であることが望ましく、このような材質の素管20を用いることにより、高い表面平滑性を有するアルミニウム管21を確実に得ることができる。
この素管20を引抜き加工することにより得られる感光ドラム基体用アルミニウム管21(即ちアルミニウムED管)の外径は、例えば20〜30mmであり、また管21の肉厚は例えば0.5〜2mmである。ただし本発明は、管21の外径及び肉厚がそれぞれ上記の範囲であることに限定されるものではない。
ダイス2は、図2及び3に示すように、素管20を引抜き加工するためのものである。図4に示すように、このダイス2は、ダイスホルダ3の中心部に設けられたダイス保持凹部3b内に収容されており、これにより、ダイス2がダイスホルダ3に固定状態に保持されている。なお、2bはダイス2のダイス孔、2cはダイス2のベアリング部である。
ダイス2の上流側の端面2aとダイスホルダ3の上流側の端面3aは、ともに、素管20の引抜き方向Xに対して直交し且つ平坦状に形成されている。また、ダイスホルダ3の上流側の端面3aは、ダイス2の上流側の端面2aよりも上流側に配置されている。
ダイス2のベアリング長さL1は例えば5〜30mmに設定され、ダイス2のアプローチ角θ1は例えば20〜70°に設定されている。ただし本発明は、ベアリング長さL1及びアプローチ角θ1がそれぞれ上記の範囲であることに限定されるものではない。
図2に示すように、素管20の中空部内には引抜き加工用プラグ4が配置されている。図5に示したプラグ4において、4aはプラグ4のベアリング部である。このプラグ4のベアリング長さL2は例えば0.5〜3mmに設定され、プラグ4のアプローチ角θ2は例えば5〜30°に設定されている。ただし本発明は、ベアリング長さL2及びアプローチ角θ2がそれぞれ上記の範囲であることに限定されるものではない。なお、4bはプラグ4を支持した支持棒である。
図1に示すように、素管駆動手段9は、素管20を引抜き方向Xに移動させるものであり、チャック手段9aと、駆動源としての油圧シリンダ9bとを有している。
チャック手段9aは、素管20の先端部に形成された小径の口付け部20aをチャックするものである。
油圧シリンダ9bは、素管20の口付け部20aをチャックしたチャック手段9aを引抜き方向Xに移動させ、これにより素管20を引抜き方向Xに移動させるものである。なお、図2及び3では素管駆動手段9(チャック手段9a、油圧シリンダ9b)は図示省略されている。
潤滑油付着手段7は、素管20の外周面に引抜き加工用潤滑油8を素管20の上側から付着させるものであり、潤滑油噴出ノズル7aを有している。このノズル7aは、ダイス2及びダイスホルダ3の上流側(詳述すると、更に後記スクレーパ5の上流側)における素管20の上側に、その噴出口を素管20の外周面に向けて(即ち下に向けて)配置されている。このノズル7aから噴出される潤滑油8は、素管20の外周面とダイス2のベアリング部2cとの間の摩擦抵抗を低減して素管20の焼付きを防止するためのものである。
潤滑油8としては、特に限定されるものではなく、引抜き加工用の油として市販されているものが用いられ、出光興産株式会社製の商品名「ダフニーマスタードロー」、スギムラ化学工業株式会社製の商品名「サンドロー」、共栄油化社製の商品名「ストロール」などが用いられる。
さらに、潤滑油8として低動粘度の油を用いることが望ましく、特に動粘度が400mm2/s(即ち400cSt)以下の油を用いることが、オイルピットを確実に小さくすることができる点で望ましい。更に望ましい潤滑油8の動粘度は200mm2/s(即ち200cSt)以下である。なお本発明では、潤滑油8の動粘度の下限値については限定されるものではないが、例えば50mm2/s(即ち50cSt)であることが良い。なお、上記の潤滑油8の動粘度の値は40℃での値である。
スクレーパ5は、素管駆動手段9により引抜き方向Xに移動されている素管20の外周面に潤滑油付着手段7により付着した潤滑油8を掻き取るとともに、該潤滑油8を素管20の外周面にその周方向に薄く塗り広げるものである。
このスクレーパ5は、図2及び3に示すように、ダイス2及びダイスホルダ3の上流側におけるダイス2及びダイスホルダ3の上流側の端面2a、3aから離間した位置に配置されている。スクレーパ5の配置位置は、素管20の外周面から潤滑油8を適切に掻き取ることができる位置、即ち潤滑油掻き取り位置である。さらに、このスクレーパ5が支持部材(図示せず)により支持されることでスクレーパ5の配置位置が固定されている。このようにしてスクレーパ5は、ダイス2及びダイスホルダ3の上流側における潤滑油掻き取り位置に常設されている。ただし本発明は、スクレーパ5が潤滑油掻き取り位置に常設されることに限定されるものではなく、後述する図14に示す例のように、スクレーパ5が潤滑油掻き取り位置と該掻き取り位置とは異なる位置とに移動可能に構成されていても良い。
スクレーパ5の配置位置とダイス2のダイス孔2bの入口位置との間隔は、例えば0〜50mmに設定されている。ただし本発明は、この間隔が上記の範囲であることに限定されるものではない。
また、スクレーパ5の上流側に上記潤滑油噴出ノズル7aが配置されている。このノズル7aの配置位置とスクレーパ5の配置位置との間隔は、例えば5〜100mmに設定されている。ただし本発明は、この間隔が上記の範囲であることに限定されるものではない。
このスクレーパ5は、図6に示すように、板状(詳述すると円板状)のものであり、さらに、スクレーパ5の中心部に、素管20が挿通される挿通孔5bがスクレーパ5の厚さ方向に貫通して設けられている。挿通孔5bの断面形状は、素管20の断面形状に対応した形状であり、即ち円形状である。そして、このスクレーパ5の刃先部5aは、挿通孔5bの外周縁部から形成されており、この刃先部5aで、挿通孔5b内に挿通された素管20の外周面から潤滑油8を掻き取るとともに、該潤滑油8を素管20の外周面にその周方向に塗り広げるものとなされている。このように、スクレーパ5によって素管20の外周面に潤滑油8が塗り広げられることにより、素管20の外周面にその周方向の全周に亘って均一な薄い油膜が形成される。
さらに、このスクレーパ5の少なくとも刃先部5aは、ゴムや軟質樹脂等の軟質材料製であり、特に、JIS(日本工業規格) K6301で規定されたスプリング式硬度計A形で測定されたHsが90以下の軟質材料製であることが望ましい。なお本発明では、硬さHsの下限値については特に限定されるものではないが、例えば40であることが良い。また本発明では、スクレーパ5は、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、スポンジ等の多孔質の軟質材料製であっても良い。また本実施形態では、スクレーパ5全体が上記の望ましい軟質材料製である。なお本発明では、スクレーパ5の刃先部5aだけが上記の望ましい軟質材料製であっても良い。
スクレーパ5の厚さT(詳述すると、スクレーパ5の刃先部5aの厚さT)は、例えば1〜5mmに設定されている。また、スクレーパ5の挿通孔5bの直径Eは、素管20の外径Dに対して−5%〜0%(特に望ましくは−4%〜−1%)の範囲に設定されている。
次に、上記装置1を用いた感光ドラム基体用アルミニウム管21の製造方法について、以下に説明する。
素管20として、アルミニウムビレットを押出加工することにより得られたアルミニウム押出素管を準備する。この素管20の先端部にスエージング加工により口付け部20aを形成する。
そして、図1〜3に示すように、この素管20の口付け部20aをスクレーパ5の挿通孔5b内とダイス2のダイス孔2b内とに順次挿通したのち、口付け部20aを素管駆動手段9のチャック手段9aによりチャックする。また、素管20の中空部内にプラグ4を配置する。
素管20がスクレーパ5の挿通孔5b内に挿通された状態では、スクレーパ5の刃先部5aは、素管20の外周面にその周方向の全周に亘って密着して当接している。ここで、スクレーパ5の挿通孔5bの直径Eが素管20の外径Dよりも小さく設定されている場合(即ち、E<Dの場合)、スクレーパ5の刃先部5aは、素管20の外周面にその周方向の全周に亘って圧接している。
次いで、潤滑油噴出ノズル7aから潤滑油8を素管20の外周面に向けて噴出し、これにより素管20の外周面になるべくその周方向の全周に亘って潤滑油8を供給付着させる。このノズル7aから噴出される潤滑油8の噴出量は、例えば1〜5L/minに設定される。ただし本発明は、潤滑油8の噴出量が上記の範囲であることに限定されるものではない。すなわち、潤滑油8の噴出量は、素管20の外径Dの大きさ、素管20の引抜き速度などに応じて設定されるものである。
このようにノズル7aから潤滑油8を素管20の外周面に向けて噴出して素管20の外周面に潤滑油8を付着させながら、素管駆動手段9の油圧シリンダ9bを作動させる。これにより、スクレーパ5(詳述するとスクレーパ5の刃先部5a)によって、素管20の外周面に付着した潤滑油8(詳述すると余剰の潤滑油8)を掻き取るとともに該潤滑油8を素管20の外周面にその周方向の全周に亘って薄く塗り広げながら、引抜き速度が10m/min以上になるように素管20を引抜き方向Xに移動させる。このように素管20が移動されることにより、素管20がダイス2のダイス孔2bで縮径されて引抜き加工される。
この引抜き加工において、上述したように、管21の引抜き速度は10m/min以上に設定される。こうすることにより、管21を能率良く製造することができ、もって管21の製造コストを引き下げることができる。なお本発明は、引抜き速度の上限値については限定されるものではないが、例えば100m/minであることが良い。
この引抜き加工により得られた長尺な管21は、所定長さに切断され、切断端部が面取り加工されたのち、洗浄、寸法検査及び外観検査が順次行われる。次いで、感光ドラムを製造するのに必要な他の工程に送られる。
上記実施形態に係る感光ドラム基体用アルミニウム管21の製造方法は、次の利点がある。
素管20の引抜き加工の際に、スクレーパ5によって素管20の外周面に付着した潤滑油8を掻き取るとともに該潤滑油8を素管20の外周面にその周方向に塗り広げることにより、低動粘度の潤滑油8を使用しても潤滑不良による焼き付きの発生を防止することができる。これにより、オイルピット(図15参照、122)を小さくすることができ、もって管21の外周面の表面平滑性を高くすることができる。
さらに、引抜き速度が10m/min以上になるように素管20を引抜き方向Xに移動させることにより、管21を能率良く製造することができ、もって管21の製造コストを引き下げることができる。しかも、このように引抜き速度を10m/min以上といった高速に設定した場合であっても、オイルピットの発生を抑制することができる。
さらに、動粘度が400mm2/s以下の潤滑油8を使用することにより、オイルピットを確実に小さくすることができ、もって管21の外周面の表面平滑性を確実に高くすることができる。
さらに、スクレーパ5の少なくとも刃先部5aは、スプリング式硬度計A形で測定された硬さHsが90以下の軟質材料製であることにより、スクレーパ5を潤滑油8の掻き取り及び塗り広げ用に好適なものとすることができ、もって潤滑油8を確実に掻き取ることができるし確実に塗り広げることができる。さらに、潤滑油8の掻き取りの際にスクレーパ5の刃先部5aが素管20の外周面に当接することによる素管20の外周面の傷付きを確実に防止することができる。
さらに、スクレーパ5の挿通孔5bの直径Eを素管20の外径Dに対して−5%〜0%の範囲に設定することにより、スクレーパ5による潤滑油8の掻き取り量を適量に設定することができるし、潤滑油8を素管20の外周面に確実に薄く且つ均一に塗り広げることができる。
さらに、スクレーパ5がダイス2の上流側に常設されているので、スクレーパ5が潤滑油掻き取り位置と、該掻き取り位置とは異なる位置とに移動可能に構成されているものと比べて、スクレーパ5の構成を簡素化することができる。
また、上記実施形態に係る感光ドラム基体用アルミニウム管の製造装置1は、感光ドラム基体用アルミニウム管21を製造する際に(即ち素管20を引抜き加工する際に)上記と同様の効果を奏する。
而して、本発明では、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の構成は様々に変更可能である。その幾つかの変形例について以下に説明する。
図7A及び7Bは、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の第1変形例を説明する図である。
このスクレーパ5では、スクレーパ5の刃先部5aの上流側の側面に、素管20の外周面から掻き取られた潤滑油8を捕捉する環状の捕捉溝5cが、刃先部5aの周方向の全周に亘って延びて設けられている。この捕捉溝5cは挿通孔5bと同心状に配置されている。
捕捉溝5cの断面形状は円弧状である。だたし本発明は、捕捉溝5cの断面形状が円弧状であることに限定されるものではなく、その他にV字状、U字状、コ字状等であっても良い。
捕捉溝5cの幅は例えば1〜5mmに設定されており、また捕捉溝5cの深さは例えば0.5〜3mmに設定されている。ただし本発明は、捕捉溝5cの幅及び深さがそれぞれ上記の範囲であることに限定されるものではない。また本発明では、捕捉溝5cの個数は1個であっても良いし、複数個であっても良い。捕捉溝5cの個数が複数個である場合、これらの捕捉溝5cは、例えば挿通孔5bと同心状に且つ挿通孔5bの半径方向に間隔をおいて配置される。
このスクレーパ5によれば、スクレーパ5の刃先部5aの捕捉溝5cに素管20の外周面から掻き取られた潤滑油8を捕捉することができる。そのため、素管20の外周面に塗り広げるのに必要な潤滑油8を、捕捉溝5cから素管20の外周面に安定供給することができる。これにより、素管20の外周面に均一な油膜を確実に形成することができる。
図8は、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の第2変形例を説明する図である。
このスクレーパ5では、スクレーパ5の刃先部5aに、挿通孔5bの内周面から挿通孔5bの半径方向外向きに延びた複数個の切込み5dが、刃先部5aの周方向に間隔をおいて配設されている。この例では、8個の切込み5dが刃先部5aの周方向に等間隔に配設されている。切込み5dの長さは例えば1〜5mmに設定されるのが望ましい。ただし本発明は、切込み5dの長さが上記の範囲であることに限定されるものではない。
このスクレーパ5によれば、スクレーパ5の刃先部5aに切込み5dが設けられているから、スクレーパ5の刃先部5aが摩耗して挿通孔5bの直径Eが拡大しても、スクレーパ5の刃先部5aの素管外周面への当接圧力があまり変化しない。そのため、スクレーパ5を長期に亘って使用することができる。
図9は、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の第3変形例を説明する図である。
このスクレーパ5は、挿通孔5bを中心に周方向に3個のエレメント5fに均等に分割されている。
このスクレーパ5によれば、スクレーパ5の3個のエレメント5fの刃先部5aを素管20の外周面に3方向から当接させることができるし、素管20の挿通孔5bへの挿通作業を容易に行うことができる。
図10は、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の第4変形例を説明する図である。
このスクレーパ5は、挿通孔5bを中心に周方向に4個のエレメント5fに均等に分割されている。
このスクレーパ5によれば、スクレーパ5の4個のエレメント5fの刃先部5aを素管20の外周面に4方向から当接させることができるし、素管20の挿通孔5bへの挿通作業を容易に行うことができる。
ここで上記の第3変形例及び第4変形例では、スクレーパ5の分割数はそれぞれ3個及び4個であるが、本発明では、その他に、スクレーパ5の分割数は例えば2個であっても良いし、4個以上であっても良い。
また本発明では、スクレーパ5の刃先部5aの断面形状は図7Bに示した形状であることに限定されるものではなく、様々に変更可能であり、その幾つかの変形例を図11に示す。さらに本発明では、図11に示した断面形状の各刃先部5aの上流側の側面に捕捉溝(5c、図7B参照)が設けられていても良い。
而して、本発明では、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の配置構成は様々に変更可能である。その幾つかの変形例について以下に説明する。
図12は、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の配置構成の第1変形例を説明する図である。
この第1変形例では、スクレーパ5は、ダイズホルダ3の上流側の端面3aに複数個の固定ねじ5gにより取外し可能に固定されている。これにより、スクレーパ5は、ダイス2及びダイスホルダ3の上流側における潤滑油掻き取り位置に常設されている。また、固定ねじ5gを取り外すことにより、スクレーパ5はダイズホルダ3の端面3aから取り外される。
このスクレーパ5の配置構成によれば、スクレーパ5がダイズホルダ3の端面3aに固定されているので、スクレーパ5を潤滑油掻き取り位置に確実に配置することができる。さらに、スクレーパ5が取外し可能に固定されているから、ダイス2のベアリング部2cを目視等で点検する際にスクレーパ5を取り外すことができ、これによりベアリング部2cの点検を確実に行うことができる。
ここで、上記の第1変形例では、スクレーパ5はダイスホルダ3の上流側に端面3aに固定されているが、本発明では、その他に、スクレーパ5はダイス2の上流側の端面2aに固定されていても良い。
図13及び14は、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の配置構成の第2変形例を説明する図である。
この第2変形例では、スクレーパ5は、ダイス2及びダイスホルダ3の上流側におけるダイス2及びダイスホルダ3の上流側の端面2a、3aから離間した位置に配置されている。さらに、素管20の引抜き方向Xと、その反対方向と、引抜き方向Xに垂直な方向とに移動可能にスクレーパ5を保持するスクレーパ保持手段10により、スクレーパ5が保持されている。
このスクレーパ保持手段10の構成は次のとおりである。すなわち、スクレーパ5は弾性的に長さ方向に伸縮可能な条体5eで吊持されるとともに、弾性的に長さ方向に伸縮可能な2個の条体5e、5eでスクレーパ5が下方向に引っ張られることにより、スクレーパ5の吊持位置が保持されている。各条体5eとしては、ゴム紐、引張りコイルばねなどが用いられている。このようにスクレーパ5が配置されることにより、スクレーパ5は、素管20の引抜き方向Xと、その反対方向と、引抜き方向Xに垂直な方向とに移動可能なものとなされている。
引抜き加工の際には、図14に示すように、素管20が引抜き方向Xに移動されることにより、スクレーパ5は素管20と一緒に引抜き方向Xに移動される。このスクレーパ5の移動に伴い、各条体5eが弾性的に伸長される。そして、スクレーパ5がダイス2又はダイスホルダ3の上流側の端面2a、3aに当接して当該端面2a、3aに貼り付けられる。同図では、スクレーパ5は、ダイス2の端面2aではなくダイスホルダ3の端面3aに貼り付けられている。この貼付き状態では、スクレーパ5はダイスホルダ3の端面3aに沿って(即ち、引抜き方向Xに直交する方向に)移動可能に配置されている。
素管20がその全長さ領域に亘って引抜き加工されて素管20がスクレーパ5の挿通孔5b内から抜出されると、スクレーパ5は、各条体5eの弾性復元力によって、ダイスホルダ3の端面3aから引き剥がされて(即ち当該端面3aから取り外されて)、元の位置に戻る。
このスクレーパ5の配置構成によれば、スクレーパ5が素管20の引抜き方向Xとその反対方向と引抜き方向Xに垂直な方向とに移動可能に配置されているから、ダイス2のベアリング部2cを目視で点検する際に、スクレーパ5を手などで掴んでスクレーパ5を素管20の引抜き方向Xとは反対方向に移動させたりスクレーパ5を引抜き方向Xに垂直な方向に移動させたりすることにより、スクレーパ5をベアリング部2cの点検に支障を来さない位置に配置させることができる。これにより、ベアリング部2cの点検を容易に行うことができる。
さらに、スクレーパ5は、弾性的に伸縮可能な条体5eで吊持されることにより、素管20の引抜き方向Xとその反対方向と引抜き方向Xに垂直な方向とに移動可能なものとなされているので、スクレーパ5を簡素な構成で所定方向(即ち、引抜き方向X、その反対方向、及び、引抜き方向Xに垂直な方向)に移動可能なものとなし得る。
さらに、ダイス2のベアリング部2cの点検が終了したら、スクレーパ5から手を離すと、スクレーパ5が条体5eの弾性復元力によって元の位置に移動されるので、スクレーパ5を元の位置に確実に且つ容易に戻すことができる。
しかも、スクレーパ5が弾性的に伸縮可能な条体5eで吊持されているから、スクレーパ5を潤滑油掻き取り位置に配置する際に、スクレーパ5の掻き取り位置への位置決めを厳格に行う必要がないという利点がある。
図15は、上記実施形態の装置1におけるスクレーパ5の配置構成の第3変形例を説明する図である。
この第3変形例では、スクレーパ5は常設されたものではなく移動式のものである。すなわち、この第3変形例における装置1は、スクレーパ5を、ダイス2及びダイスホルダ3の上流側における潤滑油掻き取り位置と、潤滑油掻き取り位置とは異なる位置とに移動させるスクレーパ移動手段6を備えている。
このスクレーパ移動手段6は、スクレーパ5を支持する支持部材としての支持板6aを有している。この支持板6aの中心部には、素管20の直径Dよりも大きな貫通孔(図示せず)が設けられている。そして、この支持板6aの外周部にスクレーパ5が複数個の固定ねじ5gによって固定されることにより、スクレーパ5が支持板6aに支持されている。さらに、支持板6aが流体圧シリンダ(例:油圧シリンダ、ガスシリンダ)の伸縮ロッド6bに連結されている。そして、流体圧シリンダのロッド6bを伸長動作させることにより、支持板6aに固定されたスクレーパ5が潤滑油掻き取り位置に移動されるとともに、流体圧シリンダのロッド6bを短縮動作させることにより、支持板6aに固定されたスクレーパ5が引抜き方向Xに垂直な方向に移動されて潤滑油掻き取り位置とは異なる位置に配置されるものとなされている。
素管20の引抜き加工が行われていないときには、スクレーパ5は潤滑油掻き取り位置とは異なる位置に配置される。これにより、ダイス2のベアリング部2cの点検の際にベアリング部2cがスクレーパ5で覆い隠されるのが防止される。そのため、ベアリング部2cの点検を容易に行うことができる。
素管20の引抜き加工を開始する際には、まず流体圧シリンダのロッド6bを伸長動作させることにより、スクレーパ5を潤滑油掻き取り位置に配置させる。次いで、上述した引抜き加工手順に従って素管20の引抜き加工を行う。
以上で本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態及び複数の変形例に示したものに限定されるものではなく、様々に変更可能である。
また、本発明に係る製造方法や装置は、上記実施形態及び複数の変形例に適用された技術思想のうち2つ以上を組み合わせて構成しても良い。
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を以下に示す。
[実施例1〜16]
アルミニウム素管20として、アルミニウムビレットを押出加工して得られた断面円形状のアルミニウム押出素管を準備した。アルミニウムビレットは、Mn:1.12質量%、Si:0.11質量%、Fe:0.39質量%、Cu:0.16質量%、Zn:0.01質量%、Mg:0.02質量%を含み、残部アルミニウム及び不可避不純物からなるものである。押出温度は520℃、押出速度は5m/minである。また、この素管20の外径は32mm、その肉厚は1.5mmである。
この素管20について図1〜図6に示した上記実施形態の装置1を用いて引抜き速度及び潤滑油8の動粘度を様々に変えて引抜き加工を行い、これにより、断面円形状のアルミニウム管21を製造した。このアルミニウム管21の外径Dは24mm、その肉厚は1mmである。
この引抜き加工に用いた装置1において、ダイス2のアプローチ角θ1は60°、ベアリング長さL1は18mmである。また、プラグ4のアプローチ角θ2は19°、ベアリング長さL2は1.2mmである。また、スクレーパ5は、軟質ウレタンゴム製であり、その硬さHsは70である。なお、Hsは、JIS K6301で規定されたスプリング式硬度計A形で測定した値である。また、スクレーパ5の挿通孔5bの直径Eは、素管20の外径Dに対して−3%に設定されており、スクレーパ5の刃先部5aの厚さTは3mmである。また、この引抜き加工に用いた潤滑油8はポリブテン系のものである。また、ノズル7aから噴出される潤滑油8の噴出量は、3L/minに設定されている。
そして、この引抜き加工により得られたアルミニウム管21の外周面について、オイルピットの発生状態を目視にて調べるとともに、表面粗さRyをJIS B0601に準拠して測定した。その結果を表1に示す。
[比較例1〜16]
引抜き加工の際にスクレーパ5を使用しなかったことを除いて、上記実施例1〜16と同様の引抜き加工条件で素管20について引抜き加工を行った。
そして、この引抜き加工により得られたアルミニウム管21の外周面について、上記実施例1〜16と同様にオイルピットの発生状態を調べるとともに表面粗さRyを測定した。その結果を表1に示す。
表1中における「オイルピット」欄では、オイルピットが小さい順に◎、○、△、×の符号が記されている。「評価」欄では、管21の外周面の表面平滑性が良好な順に◎、○、×の符号が記されている。
「備考」欄に記された符号の意味は次のとおりである。
※1:引抜き速度が遅いため管の製造能率が悪く、そのため製造コストが高いもの。
※2:管の外周面に焼き付きが発生した。
表1に示すように、スクレーパ5を用いて素管20を引抜き加工することにより、管21の外周面の表面平滑性を向上させ得ることを確認し得た。
さらに、引抜き速度を10m/min以上に設定することにより、管21を能率良く製造することができることはもとより、このように引抜き速度を高速に設定した場合であっても、オイルピットの発生を抑制し得ることが分かった。
さらに、動粘度が400mm2/s以下(特に望ましくは200mm2/s以下)の潤滑油8を使用することにより、オイルピットを確実に小さくすることができて、管21の外周面の表面平滑性を確実に向上させ得ることが分かった。