JP2011167732A - 管状ワーク用引抜加工装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】管状ワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができる管状ワーク用引抜加工装置を提供する。
【解決手段】引抜加工装置10は引抜ダイス20と引抜プラグ30とを具備する。引抜ダイス20は、管状ワーク40が縮径加工されながら離れる第1曲面部1Cと、第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kよりも内側且つ下流側に配置されたダイスベアリング部2Bと、ダイスベアリング部2Bの上流端Fに滑らかに連なる第2曲面部2Cを有する案内部2Dと、を備える。安価イブ2Dは、第1曲面部1Cから離れたワーク40と再接触して該ワーク40を縮径加工しながらダイスベアリング部2Bへ案内するものである。引抜ダイス20及び引抜プラグ30の少なくとも一方における少なくともワーク40との接触部に、少なくとも一方の基材とは異なる組成の表面処理層50が形成されている。
【選択図】図3

Description

本発明は、高平滑な外表面を有する引抜管を得ることができる管状ワーク用引抜加工装置、及び管状ワークの引抜加工方法に関する。
なお本明細書及び特許請求の範囲において、「アルミニウム」の語は、特に示さない限り純アルミニウム及びアルミニウム合金の両方を含む意味で用いる。また、「上流側」及び「下流側」とは、それぞれワークの引抜方向の上流側及び下流側を意味している。
従来、外表面の表面粗さRyが1.0〜3.0μm程度のアルミニウム管は、例えば、アルミニウム素材(例:アルミニウムビレット)を順次、押出加工及び引抜加工することにより製造されていた。このような引抜管は「ED(Extrusion and Drawing)管」と呼ばれている。この引抜管は、例えば電子写真装置(複写機、レーザビームプリンタ等)の感光ドラム基体に用いられている。
而して、特開2005−118799号公報には、管状ワークとしての金属管の外径を縮径加工する引抜ダイスを具備した引抜加工装置(縮径加工装置)が開示されている(特許文献1参照)。この引抜加工装置は、管の内表面を加工するための引抜プラグを具備しておらず、すなわち空引き方式を採用したものであり、そのため引抜加工によって管の肉厚が増大するという特徴を有している。この引抜加工装置の目的は、引抜プラグを用いないで管の肉厚の増大を抑制するとともに、引抜加工時に管の外表面に発生するチャタリングマークを防止することにある。
特開平8−66715号公報には、管を製造する方法でなく中実な線材又は棒材を引抜加工により製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法で用いられるワークは、管状のものではなく中実なものである。したがって、この方法に用いられる引抜加工装置は、引抜プラグを具備する必要のないものである。
特開2005−118799号公報 特開平8−66715号公報
而して、引抜管は様々な用途に用いられるものであるが、例えば上述した感光ドラム基体に用いられる引抜管は、その外表面が鏡面状態であることが望ましい。そこで従来では、管の外表面を切削加工することにより、管の外表面を鏡面状態にしていた。このように外表面が切削加工された引抜管は「切削管」と呼ばれている。一方、外表面が切削加工されていない引抜管は「無切削管」と呼ばれている。
切削管は、管の外表面を切削加工する必要があるため、製造コストが高くつくという問題があった。したがって、製造コストを低くするためには、切削管ではなく無切削管を用いることが望ましい。
しかしながら、無切削管は、その外表面に引抜加工時に生じた凹状欠陥としてのオイルピットが多数存在している。そのため、表面粗さRyが例えば1.0μm以下といった高平滑な外表面を有する無切削管を得ることは非常に困難であった。
そこで本発明者らは、引抜加工においてオイルピットが生じる原因について鋭意研究したところ、次のような知見を得た。この知見について図5及び6を参照して以下に説明する。
図5において、110は、従来の管状ワーク用引抜加工装置である。この引抜加工装置110は、ワーク40の外表面40aを加工する引抜ダイス120と、ワーク40の内表面40bを加工する引抜プラグ130とを具備している。引抜プラグ130の形状は略玉形又は略球状である。そして、引抜プラグ130は、支持棒131の先端部に設けられるとともに、ワーク40の中空部40c内に配置されている。また、図6に示すように、引抜ダイス120のダイス孔121の周面において、ダイスアプローチ部101Aの下流端に縦断面円弧状の曲面部101Cが滑らかに連なって形成されており、さらに、ダイスベアリング部101Bの上流端Fにこの曲面部101Cが滑らかに連なって形成されている。ダイスアプローチ部101Aと曲面部101Cは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。また、引抜ダイス120のダイス軸Xを含む断面において、引抜ダイス120のダイス軸Xに対する曲面部101Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。ダイスベアリング部101Bは、引抜ダイス120のダイス軸Xと略平行に形成されている。102Eは、引抜ダイス120のリリーフ部である。なお図5及び6では、ワーク40は他の部材と区別し易くするためドットハッチングで示している。
この引抜加工装置110を用いて管状ワーク40を引抜加工する場合、ワーク40は、引抜ダイス120のダイスアプローチ部101A又は曲面部101Cに接触して曲面部101Cにより縮径加工されながら曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ案内される。そして、該ワーク40がダイスベアリング部101Bと引抜プラグ130のプラグベアリング部103Bとの間を通過することにより、ワーク40の外表面40a及び内表面40bがダイスベアリング部101B及びプラグベアリング部103Bによって同時に仕上げ加工される。この仕上げ加工のとき、ワーク40はダイスベアリング部101Bとプラグベアリング部103Bとにより加圧されて、ワーク40の肉厚が減少する。このようなワーク40の材料流動を経て引抜管41が得られる。
このようなワーク40の材料流動において、従来では、一般に、引抜加工の教科書に記載されているように、引抜ダイス120の曲面部101Cに接触したワーク40は、曲面部101Cに接触した状態のままで曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ案内されるものと考えられていた。しかしながら、実際の引抜加工ではそのようなワーク40の材料流動は生じず、すなわち、図6に示すように、曲面部101Cに接触したワーク40は、曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ案内される際に曲面部101Cから一旦離れ、そしてダイスベアリング部101Bに再接触していた。そのため、ワーク40が曲面部101Cからダイスベアリング部101Bへ移動する途中で、ワーク40が過度に縮径加工される。これにより、ワーク40の外表面40aが縦断面円弧状に凹んで該外表面40aに激しい微細な凹凸(図示せず)が多数発生する。この激しい凹凸の凹部に引抜加工用潤滑油が溜まる。そしてこの状態のままでワーク40がダイスベアリング部101Bとプラグベアリング部103Bとの間を通過することにより、ワーク40の外表面40a及び内表面40bがダイスベアリング部101B及びプラグベアリング部103Bにより加圧され、その結果、引抜管41の外表面41aに多数の微細なオイルピット(図示せず)が発生する。このような多数のオイルピットが原因で引抜管41の外表面41aが粗くなる。以上のような知見を発明者らは得ることができた。
さらに、引抜加工の途中でワーク40が引抜ダイス120や引抜プラグ130に焼きついてしまうと、引抜管41の外表面41aが粗くなる。
本発明は、上記技術背景と発明者らが得た上記知見とに基づいてなされたもので、その目的は、管状ワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができる管状ワーク用引抜加工装置、及び管状ワークの引抜加工方法を提供することにある。
本発明は以下の手段を提供する。
[1] 管状ワークの外表面側を加工する引抜ダイスと、ワークの中空部内に配置されるとともにワークの内表面側を加工する引抜プラグとを具備し、
前記引抜ダイスは、
ワークが縮径加工されながら離れる第1曲面部と、
前記第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側且つ下流側に配置されたダイスベアリング部と、
前記ダイスベアリング部の上流端に滑らかに連なる第2曲面部を有するとともに前記第1曲面部から離れたワークと再接触して該ワークを縮径加工しながら前記ダイスベアリング部へ案内する案内部と、
を備え、
前記引抜ダイスの第1曲面部と案内部とダイスベアリング部とは一体形成されており、
前記引抜プラグは、前記ダイスベアリング部に対応する位置に配置され且つ前記ダイスベアリング部の長さよりも短いプラグベアリング部を備えており、
前記引抜ダイス及び前記引抜プラグの少なくとも一方における少なくともワークとの接触部に、前記少なくとも一方の基材とは異なる組成の表面処理層が形成されていることを特徴とする管状ワーク用引抜加工装置。
[2] 前記表面処理層の厚さが0.2〜10μmの範囲であり、且つ、ISO 14577−1に準拠して測定された前記表面処理層の硬さが20GPa以上に設定されている前項1記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[3] 前記表面処理層の周方向の表面粗さRyが0.5μm以下に設定されている前項1又は2記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[4] 前記表面処理層は、CrN層、TiCN層、TiAlN層、TiN層及びDLC層からなる群より選択される1種又は2種以上を含んでいる前項1〜3のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[5] 前記表面処理層はDLC層を含み、
前記DLC層の水素含有量が1at%以下である前項1〜3のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[6] 前記プラグベアリング部の上流端の位置が、前記ダイスベアリング部の上流端の位置に対して同じ位置か又は下流側に配置している前項1〜5のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[7] 前記引抜ダイスのダイス軸を含む断面において、前記引抜ダイスのダイス軸に対する前記第1曲面部の接線の傾きと前記第2曲面部の接線の傾きとは、それぞれ、ワークの引抜方向に進むにつれて漸次小さくなっている前項1〜6のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[8] 前記第2曲面部の曲率半径は、前記第1曲面部の曲率半径に対して等しいか又は小さく設定されている前項1〜7のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[9] 前記案内部は、前記第2曲面部の上流端に滑らかに連なり且つ第2曲面部の曲がり方向とは反対方向に曲がった補助曲面部を有している前項1〜8のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[10] 前記プラグベアリング部の長さが、前記ダイスベアリング部の長さに対して5〜70%の範囲に設定されている前項1〜9のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[11] 前記ダイスベアリング部の長さが5mm以上である前項1〜10のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[12] 前記引抜ダイスの半径方向において、前記第1曲面部におけるワーク離れ位置と前記ダイスベアリング部との間の段差は、0.3mm以上3mm未満に設定されている前項1〜11のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[13] 前記引抜プラグは、前記プラグベアリング部の上流端に滑らかに連なる第3曲面部を備えている前項1〜12のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[14] 引抜速度が10〜100m/minの範囲になるようにワークを引抜方向に牽引する牽引装置を具備している前項1〜13のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
[15] 前項1〜14のいずれかに記載の引抜加工装置を用いて管状ワークを引抜加工する管状ワークの引抜加工方法。
本発明は以下の効果を奏する。
[1]の引抜加工装置によれば、管状ワークは引抜ダイスの第1曲面部により縮径加工されながら、案内部に向かって誘導されるように第1曲面部から離れる。そして、該ワークは案内部に再接触して案内部により縮径加工されながら案内部からダイスベアリング部へ案内されて、ワークがダイスベアリング部と引抜プラグのプラグベアリング部との間を通過する。これにより、ワークの内表面及び外表面がそれぞれ加工される。
上記のようなワークの材料流動において、引抜ダイスのダイスベアリング部は第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側に配置されているので、ワークが第1曲面部からダイスベアリング部へと移動する間にワークが過度に縮径加工されるのを防止することができる。
さらに、ダイスベアリング部の上流端に案内部の第2曲面部が滑らかに連なっているので、案内部に再接触したワークはこの第2曲面部を通ってダイスベアリング部に向かって円滑に移動することができる。
さらに、引抜プラグのプラグベアリング部の長さが引抜ダイスのダイスベアリング部の長さよりも短く設定されることにより、プラグベアリング部とダイスベアリング部との両部位からワークにその外表面を高平滑面に加工するのに必要な圧力を確実に与えることができる。
以上の効果が相乗的に作用することにより、ワークの外表面を高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜ダイス及び引抜プラグの少なくとも一方における少なくともワークとの接触部に、少なくとも一方の基材とは異なる組成の表面処理層が形成されることにより、引抜加工時にワークの焼きつきを防止することができる。これにより、ワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができる。しかも、引抜ダイスや引抜プラグの全体をセラミックで製造する場合よりも、製造コストを低減することができる。
さらに、引抜ダイスの第1曲面部と案内部とダイスベアリング部とが一体形成されることにより、第1曲面部の軸と案内部の軸とダイスベアリング部の軸との間の軸ずれを防止することができる。これにより、引抜ダイスの同軸度を高めることができる。その結果、この引抜ダイスを用いてワークを引抜加工することにより、引抜管の外径及び内径の寸法精度を確実に向上させることができる。
[2]の引抜加工装置によれば、IS0 14577−1に準拠して測定された表面処理層の硬さが20GPa以上であることにより、表面処理層の耐摩耗性を確実に高めることができ、更に、表面処理層の厚さが0.2μm以上であることにより、表面処理層の耐用時間を確実に長くすることができる。また、表面処理層の厚さが10μm以下であることにより、表面処理層の剥離を確実に防止することができる。
[3]の引抜加工装置によれば、表面処理層の周方向の表面粗さRyが0.5μm以下に設定されることにより、ワークの表面をより一層高平滑な面に加工することができる。
[4]の引抜加工装置によれば、表面処理層は、CrN層、TiCN層、TiAlN層、TiN層及びDLC層からなる群より選択される1種又は2種以上を含むことにより、ワークの焼きつきをより確実に防止することができる。
[5]の引抜加工装置によれば、表面処理層はDLC層を含み、DLC層の水素含有量が1at%以下であることにより、ワークの焼きつきをより確実に防止することができるし、引抜加工時の加工力(引抜荷重)を低減し得て安定した引抜加工を行うことができる。
[6]の引抜加工装置によれば、引抜ダイスの案内部に再接触したワークが案内部からダイスベアリング部へと移動する間にワークが過度に縮径加工されるのを確実に防止できるとともに、プラグベアリング部とダイスベアリング部との両部位からワークにその外表面を高平滑面に加工するのに必要な圧力を更に確実に与えることができる。これにより、ワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができる。
[7]の引抜加工装置によれば、ワークを第1曲面部によって確実に縮径加工することができるし、案内部に再接触したワークを第2曲面部によってダイスベアリング部へ確実に案内することができる。
[8]の引抜加工装置によれば、ワークの外表面と引抜ダイスとの間に引き込まれる潤滑油の引込み量を確保することができるし、更に、第2曲面部からワークの外表面に与える面圧を高めることができ、これによりオイルピットの発生を更に抑制することができる。その結果、ワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。
[9]の引抜加工装置によれば、案内部は、第2曲面部の上流端に滑らかに連なり且つ第2曲面部の曲がり方向とは反対方向に曲がった補助曲面部を有しているので、第1曲面部から離れたワークを案内部で確実に受けることができ、もってワークを案内部からダイスベアリング部へ確実に案内することができる。
[10]の引抜加工装置によれば、プラグベアリング部の長さがダイスベアリング部の長さに対して5%以上に設定されることにより、プラグベアリング部とダイスベアリング部との両部位からワークにその外表面を高平滑面に加工するのに必要な圧力を更に確実に与えることができる。これにより、ワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。また、プラグベアリング部の長さがダイスベアリング部の長さに対して70%以下に設定されることにより、ワークとプラグベアリング部との間の接触摩擦力に起因して生じるワークの断管を確実に防止することができる。
[11]の引抜加工装置によれば、ワークの外表面を確実に高平滑面に加工することができる。
[12]の引抜加工装置によれば、第1曲面部におけるワーク離れ位置とダイスベアリング部との間の段差が0.3mm以上に設定されることにより、ワークが第1曲面部からダイスベアリング部へと移動する間にワークが過度に縮径加工されるのを確実に防止することができる。また、この段差が3mm未満に設定されることにより、案内部に再接触したワークがダイスベアリング部に案内される際にワークがダイスベアリング部から離れるのを確実に防止することができる。これにより、ワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。
[13]の引抜加工装置によれば、引抜プラグの第3曲面部に接触したワークはプラグベアリング部に向かって円滑に移動することができる。これにより、ワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。
[14]の引抜加工装置によれば、引抜速度が10m/min以上になるようにワークを牽引装置によって牽引することにより、引抜加工能率を向上させることができる。また、引抜速度が100m/min以下になるようにワークを牽引装置によって牽引することにより、ワークの外表面と引抜ダイスとの間に引き込まれる潤滑油の引込み量が過剰に増えるのを防止することができる。これにより、オイルピットの発生を更に確実に防止することができ、もってワークの外表面を更に確実に高平滑面に加工することができる。
[15]の引抜加工方法によれは、管状ワークの外表面を高平滑面に加工することができ、もって高平滑な外表面を有する引抜管を製造することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る管状ワーク用引抜加工装置の概略全体図である。 図2は、同引抜加工装置を用いてワークを引抜加工している途中の状態における引抜ダイス及び引抜プラグの断面図である。 図3は、図2の拡大図である。 図4Aは、図3中のZ1部分の拡大図である。 図4Bは、図3中のZ2部分の拡大図である。 図5は、従来の管状ワーク用引抜加工装置を用いてワークを引抜加工している途中の状態における引抜ダイス及び引抜プラグの断面図である。 図6は、図5の拡大図である。
次に、本発明の一実施形態について図面を参照して以下に説明する。
図1〜4Bは、本発明の一実施形態に係る管状ワーク用引抜加工装置を説明する図である。これらの図において、10は本実施形態の引抜加工装置である。
この引抜加工装置10は、図1及び2に示すように、管状ワーク40を引抜加工するものである。この引抜加工装置10によって管状ワーク40が引抜加工されることにより、引抜管41が製造される。この引抜管41は、外表面41aが高平滑面であることを要求される管に用いられるものであり、例えば電子写真装置(複写機、レーザビームプリンタ等)の感光ドラム基体に好適に用いられるものである。なお、感光ドラム基体の外表面にはOPC(有機光導電体)膜等の所定の膜が塗工される。したがって、このワーク40は、感光ドラム基体製造用素管として捉えることができる。
ワーク40は、例えば、素材としての金属ビレット(例:アルミニウムビレット)を押出加工することにより得られた金属押出管(例:アルミニウム押出管)からなるものである。ワーク40の断面形状は円環状である。ワーク40の外径は例えば15〜50mm、その肉厚は例えば0.5〜2mmに設定されている。
ワーク40の材質は、鉄、鋼、銅、マグネシウム(その合金を含む)、アルミニウム(その合金を含む)等の金属であり、特にアルミニウムであることが望ましい。
本実施形態では、ワーク40の縮径率を例えば10〜20%に設定してワーク40を引抜加工装置10により引抜加工し、これにより断面円環状の引抜管41が製造される。このとき、引抜管41の肉厚は、ワーク40の肉厚に対して例えば60〜90%に減少する。
なお、ワーク40の縮径率(詳述するとワーク40の外径の縮径率)Qは、引抜加工前のワーク40の外径をD0、引抜加工後のワーク40(即ち引抜管41)の外径をD1としたとき、次式(1)により算出される。
Q={1−(D1/D0)}×100% …(1)。
本実施形態の引抜加工装置10は、図1及び2に示すように、空引き方式ではなくプラグ引き方式を採用したものである。したがって、この引抜加工装置10は、引抜ダイス20と引抜プラグ30とを含む引抜加工工具11を具備しており、更に、牽引装置12、潤滑油供給装置13などを具備している。
引抜ダイス20は、ワーク40の外表面40aを加工するものであり、ダイスホルダ(図示せず)により固定状態に保持されている。この引抜ダイス20の詳細な構成は後述する。
引抜プラグ30は、ワーク40の中空部40c内に配置されるとともにワーク40の内表面40bを加工するものであり、引抜プラグ30を支持する支持棒31の先端部に固定状態に設けられている。引抜プラグ30の形状は略玉形又は略球状である。この引抜プラグ30の詳細な構成は後述する。
図1に示すように、牽引装置12は、ワーク40を引抜方向Nに牽引するためのものであり、チャック部12aと、チャック部12aに引抜方向Nの牽引力を付与する駆動源12bとを備えている。チャック部12aは、ワーク40の先端部に形成された口付け部40dをチャックするものである。駆動源12bとしては油圧シリンダ等が用いられている。なお、ワーク40の引抜方向Nは、引抜ダイス20のダイス軸Xに沿う方向である。
潤滑油供給装置13は、ワーク40の外表面40aに引抜加工用潤滑油14を供給付着するものであり、潤滑油14をワーク40の外表面40aに向けて噴出するノズル13aを備えている。ノズル13aは引抜ダイス20の上流側に配置されている。
潤滑油14としては、特に限定されるものではなく、具体的に例示すると、出光興産(株)製の商品名「ダフニーマスタードロー」、スギムラ化学工業(株)製の商品名「サンドロー」、共栄油化(株)製の商品名「ストロール」等が用いられる。また、潤滑油14の動粘度は、特に限定されるものではなく、引抜速度や縮径率などの引抜加工条件に応じて適宜変更されるが、例えば40℃での動粘度が500mm2/s以下であることが望ましい。
引抜ダイス20の構成は次のとおりである。
引抜ダイス20は、図2及び3に示すように、そのダイス孔21の内側に配置される引抜プラグ30と組み合わされて用いられるものであり、ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cと繋ぎ部1Bと案内部2Dとダイスベアリング部2Bとリリーフ部2Eとを備えている。これらの部位(1A、1C、1B、2D、2B、2E)は、引抜ダイス20のダイス孔21の周面に、ワーク40の引抜方向Nに順に設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。さらに、これらの部位には表面処理層50が形成されている(図4A参照)。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。なお、表面処理層50の構成については後述する。
ダイスアプローチ部1Aは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されており、詳述すると円錐テーパ状に形成されている。
引抜ダイス20のダイス軸Xに対するダイスアプローチ部1Aの傾斜角、すなわちダイスアプローチ半角θ1は、例えば20〜40°に設定されている(図2参照)。
第1曲面部1Cは、ダイスアプローチ部1Aの下流端にダイスアプローチ部1Aに対して滑らかに連なって形成されており、すなわち第1曲面部1Cはダイスアプローチ部1Aの下流端に段差及び角が生じないように連なって形成されている。さらに、第1曲面部1Cは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。また、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、引抜ダイス20のダイス軸Xに対する第1曲面部1Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。第1曲面部1Cの縦断面形状は円弧状である。なお本明細書では、縦断面とは引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面であり、即ち図2及び3に示した断面である。
第1曲面部1Cの曲率半径R1は、例えば1〜10mmに設定されている。
ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cは、最初にワーク40を縮径加工(詳述するとワーク40の外表面40aを縮径加工)する部位である。さらに、第1曲面部1Cは、ワーク40が縮径加工されながら離れる部位である。
ダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cとを合計したダイス軸Xと平行な方向の長さL1は、例えば10〜50mmに設定されている。
ここで、ワーク40(詳述するとワーク40の外表面40a)がダイスアプローチ部1A又は第1曲面部1Cに最初に接触する位置を「J」とする。また、ワーク40が縮径加工されながら第1曲面部1Cから離れる位置を「K」とする。本実施形態では、ワーク40は、ダイスアプローチ部1Aではなく第1曲面部1Cに最初に接触している。なお本発明では、ワーク40はダイスアプローチ部1Aに最初に接触しても良い。
ダイスベアリング部2Bは、第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kよりも内側(即ちダイス軸X側)且つ下流側に第1曲面部1Cに対して離間して配置されている。このダイスベアリング部2Bは、ワーク40の外表面40a及び外径寸法を仕上げ加工する部位であり、ダイス軸Xと略平行に形成されている。
ダイス軸Xに対するダイスベアリング部2Bの平行度は、±3°以内に設定されている。
ダイスベアリング部2Bの長さL4、詳述するとダイスベアリング部2Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL4は、例えば3〜15mmに設定されており、好ましくは5mm以上に設定されるのが良い。
引抜ダイス20の半径方向rにおいて、第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kとダイスベアリング部2Bとの間の段差H1は、様々に設定されるものであるが、好ましくは0.3mm以上3mm未満に設定されるのが良い。
案内部2Dは、第1曲面部1Cから離れたワーク40(詳述するとワーク40の外表面40a)と再接触して該ワーク40を縮径加工しながらダイスベアリング部2Bへ案内する部位である。この案内部2Dは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次減少するように形成されている。ここで、ワーク40が案内部2Dに再接触する位置を「M」とする。
この案内部2Dは、ダイスベアリング部2Bの上流端Fにダイスベアリング部2Bに対して滑らかに連なる縦断面円弧状の第2曲面部2Cを有しており、更に、第2曲面部2Cの上流端に第2曲面部2Cに対して滑らかに連なる縦断面円弧状の補助曲面部2Aを有している。
引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、引抜ダイス20のダイス軸Xに対する第2曲面部2Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。一方、補助曲面部2Aは、第2曲面部2Cの曲がり方向とは反対方向に曲がっている。したがって、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、引抜ダイス20のダイス軸Xに対する補助曲面部2Aの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次大きくなっている。
案内部2Dのダイス軸Xと平行な方向の長さL3は、例えば2〜5mmに設定されている。第2曲面部2Cの曲率半径R21は、例えば1〜10mmに設定されている。補助曲面部2Aの曲率半径R22は、例えば1〜10mmに設定されている。さらに、第2曲面部2Cの曲率半径R21は、第1曲面部1Cの曲率半径R1に対して等しいか又は小さく設定されている(即ち、R21≦R1)。
繋ぎ部1Bは、第1曲面部1Cと案内部2Dとの間に配置され、第1曲面部1Cと案内部2Dとを繋ぐ部位である。本実施形態では、繋ぎ部1Bは、第1曲面部1Cと案内部2Dとを一体に繋いでいる。したがって、第1曲面部1Cと案内部2Dとは繋ぎ部1Bを介して一体形成されている。さらに、繋ぎ部1Bは、引抜加工時にワーク40と接触しないようにするため、ダイス軸Xと略平行に形成されている。さらに、繋ぎ部1Bの上流端が第1曲面部1Cの下流端に滑らかに連なっている。また、繋ぎ部1Bの下流端が案内部2D(詳述すると案内部2Dの補助曲面部2A)の上流端に滑らかに連なっている。
繋ぎ部1Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL2は、例えば3〜10mmに設定されている。
引抜ダイス20の半径方向rにおいて、繋ぎ部1Bとダイスベアリング部2Bとの間の段差H2は、上記の段差H1と等しいか又は僅かに小さく設定されている(即ちH2≦H1)。しかるに、H2とH1との差は一般的に非常に小さい。したがって、H2とH1は、厳密には異なっているが、通常、等しいと捉えても良い。
リリーフ部2Eは、引抜ダイス20のワーク出口部を形成する部位であり、ワーク40(詳述すると引抜管41)と接触しないようにするため、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されている。ダイス軸Xに対するリリーフ部2Eの傾斜角、すなわちリリーフ部2Eの逃げ半角θ2は、例えば20〜40°に設定されている(図2参照)。
リリーフ部2Eのダイス軸Xと平行な方向の長さL5は、例えば2〜10mmに設定されている。
引抜プラグ30の構成は次のとおりである。
引抜プラグ30は、その軸が引抜ダイス20のダイス軸Xと一致して配置されており、プラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cとプラグベアリング部3Bとを備えている。これらの部位(3A、3C、3B)は、引抜プラグ30の周面に、ワーク40の引抜方向Nに順に設けられている。さらに、これらの部位は、個別に分割されているのではなく、一体形成されている。さらに、これらの部材には表面処理層50が形成されている(図4B参照)。また、これらの部位の表面は全て鏡面状に研磨加工されている。なお、表面処理層50の構成については後述する。
プラグベアリング部3Bは、ワーク40の内表面40b及び内径寸法を仕上げ加工する部位であり、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bに対応した位置に配置されており、詳述するとダイスベアリング部2Bに対向して且つダイス軸Xと略平行に配置されている。さらに、プラグベアリング部3Bの上流端Gの位置は、ワーク40の引抜方向Nにおいて、ダイスベアリング部2Bの上流端Fの位置に対して同じ位置か又は下流側に配置されている。図3において、Sは、ダイスベアリング部2Bの上流端Fの位置に対するプラグベアリング部3Bの上流端Gの位置の下流側へのずれ量を示している。したがって、図3に示すように、ダイスベアリング部2Bの上流端Fの位置に対してプラグベアリング部3Bの上流端Gの位置が下流側にずれている場合、ずれ量Sの符号は「+(正)」である。これとは逆に、プラグベアリング部3Bの上流端Gの位置が上流側にずれている場合、ずれ量Sの符号は「−(負)」である。このずれ量Sは、例えば−5〜5mmの範囲に設定されており、好ましくは−1〜3mmの範囲に設定されるのが良く、特に0〜2mmの範囲に設定されるのが非常に良い。
ダイス軸Xに対するプラグベアリング部3Bの平行度は、±3°以内に設定されている。
プラグベアリング部3Bの長さL6、詳述するとプラグベアリング部3Bのダイス軸Xと平行な方向の長さL6は、ダイスベアリング部2Bの長さL4よりも短く設定されている(即ち、L6<L4)。さらに、この長さL6は、ダイスベアリング部2Bの長さL4に対して5〜70%の範囲に設定されるのが望ましく、特に6〜30%の範囲に設定されるのが良い。なお、Dpは引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの直径である。
プラグアプローチ部3Aは、ワーク40の引抜方向Nの下流側に向かってその直径が漸次増大するように形成されており、詳述すると円錐テーパ状に形成されている。
ダイス軸Xに対するプラグアプローチ部3Aの傾斜角、すなわちプラグアプローチ半角θ3は、例えば5〜30°に設定されている(図2参照)。
第3曲面部3Cは、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとの間に配置されており、プラグアプローチ部3Aとプラグベアリング部3Bとを滑らかに繋いでいる。すなわち、この第3曲面部3Cは、プラグベアリング部3Bの上流端Gにプラグベアリング部3Bに対して滑らかに連なって形成されている。さらに、この第3曲面部3Cの上流端にプラグアプローチ部3Aが滑らかに連なって形成されている。引抜プラグ30のダイス軸Xを含む断面において、ダイス軸Xに対する第3曲面部3Cの接線の傾きは、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。詳述すると、第3曲面部3Cの縦断面形状は円弧状である。
第3曲面部3Cの曲率半径R3は、例えば10〜60mmに設定されている。
プラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cは、ワーク40(詳述するとワーク40の内表面40b)と接触して該ワーク40を減肉加工しながら第3曲面部3Cからプラグベアリング部3Bへ案内する部位である。本実施形態では、ワーク40の内表面40bは、プラグアプローチ部3Aではなく第3曲面部3Cに最初に接触している。なお本発明では、ワーク40の内表面40bはプラグアプローチ部3Aに最初に接触しても良い。
さらに、本実施形態では、引抜ダイス20及び引抜プラグ30はそれぞれ次のように構成されている。
図4Aに示すように、引抜ダイス20の少なくともワーク40(詳述するとワーク外表面40a)との接触部には、引抜ダイス20の基材20aとは異なる組成の表面処理層50が形成されている。本実施形態では、表面処理層50は、引抜ダイス20のダイス孔21の周面全体、すなわちダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cと繋ぎ部1Bと案内部2D(つまり第2曲面部2C及び補助曲面部2A)とダイスベアリング部2Bとリリーフ部2Eとに形成されている。
また図4Bに示すように、引抜プラグ30の少なくともワーク40(詳述するとワーク内表面40b)との接触部にも、引抜プラグ30の基材30aとは異なる組成の表面処理層50が形成されている。本実施形態では、表面処理層50は、引抜プラグ30の外表面全体、すなわちプラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cとプラグベアリング部3Bとプラグベアリング部3Bよりも下流側の部分3Eとに形成されている。
なお本発明では、表面処理層50は、必ずしも引抜ダイス20のダイス孔21の周面全体に形成されることを要せず、引抜ダイス20の少なくともワーク40との接触部に形成されていれば良く、その他に、例えば、第1曲面部1Cと案内部2Dの第2曲面部2Cとダイスベアリング部2Bとに形成されていてもよい。さらに、表面処理層50は、必ずしも引抜プラグ30の外表面全体に形成されることを要せず、引抜プラグ30の少なくともワーク40との接触部に形成されていれば良く、その他に、例えば、第3曲面部3Cとプラグベアリング部3Bとに形成されていても良い。
表面処理層50は、引抜加工時にワーク40が引抜ダイス20及び引抜プラグ30に焼きつく不具合を防止するためのものであり、上述したように引抜ダイス20及び引抜プラグ30の基材20a、30bとは異なる組成(材料)からなるものである。
引抜ダイス20及び引抜プラグ30の基材20a、30aの材料としては、特に限定されるものではない。しかるに、基材20a、30aの材料が一般の鋼材などである場合には、引抜ダイス20及び引抜プラグ30が変形したり、表面処理層50にクラックが入ったり、表面処理層50の基材20a、30aとの密着性が弱いなどの理由で表面処理層50が剥離したりするという不具合が生じることがある。そこで、引抜ダイス20及び引抜プラグ30の基材20a、30aの材料は、超硬、ダイス鋼又は高速度工具鋼であることが望ましく、特に超硬であることが望ましい。こうすることにより、表面処理層50の変形を防止することができるし、また表面処理層50の基材20a、30aとの密着性を向上させ得て表面処理層50の剥離を防止することができる。
表面処理層50は、CrN(クロムナイトライド)層、TiCN(炭窒化チタン)層、TiAlN(チタンアルミナイトライド)層、TiN(チタンナイトライド)層及びDLC(ダイヤモンドライクカーボン)層からなる群より選択される1種又は2種以上を含んでいるのが望ましい。本実施形態では、表面処理層50は、当該群より選択された1種である。また、引抜ダイス20側に形成される表面処理層50の組成(材料)と、引抜プラグ30側に形成される表面処理層50の組成(材料)とは、同じであっても良いし相異していても良い。
表面処理層50がDLC層である場合において、DLC層が末端水素基を多く含んでいると、DLC層に対する潤滑油14の接触角が大きくなって、潤滑油14をはじき易くなり、その結果、焼きつき防止効果が低減する。そのため、DLC層は、水素基の含有量としての水素含有量が1at%以下であることが望ましい。こうすることにより、DLC層に対する潤滑油14の濡れ性が良くなって、ワーク40とDLC層との間の摩擦力が減少するし、更に、DLC層の硬さが向上する。その結果、ワーク40の焼きつきを確実に防止することができるし、引抜加工時の加工力(引抜荷重)を低減し得て安定した引抜加工を行うことができる。DLC層の水素含有量の測定は、公知の方法で行うことができ、例えばERDA(弾性反跳検出)法で行うことができる。
IS0 14577−1に準拠して測定された表面処理層50の硬さは20GPa以上であることが望ましい。こうすることにより、表面処理層50の耐摩耗性を基材20a、30aよりも確実に高めることができる。表面処理層50の特に望ましい硬さは25GPa以上であり、更に望ましくは30GPa以上であるのが良い。表面処理層50の硬さの上限は特には限定されるものではなく、通常40GPa以下である。
表面処理層50の厚さtは0.2〜10μmの範囲であることが望ましい。tが0.2μm以上であることにより、表面処理層50が摩耗消滅する時間を長くすることができ、すなわち表面処理層50の耐用時間を長くすることができる。tが10μm以下であることにより、表面処理層50の残留応力を小さくすることができ、これにより表面処理層50の基材からの剥離を確実に防止することができる。また、引抜ダイス20側に形成される表面処理層50の厚さtと、引抜プラグ30側に形成される表面処理層50の厚さtとは、等しくても良いし相異していても良い。
引抜ダイス20の表面処理層50を引抜ダイス20のダイス孔21の周方向に測定した表面粗さRyと、引抜プラグ30の表面処理層50を引抜プラグ30の周方向に測定した表面粗さRyは、共に、0.5μm以下であることが望ましい。こうすることにより、ワーク40の外表面40a及び内表面40bをより一層高平滑な面に加工することができ、もって極めて高平滑な外表面41a及び内表面41bを有する引抜管41を得ることができる。
なお本発明では、引抜ダイス20及び引抜プラグ30の基材20a、20bと表面処理層50との間に、中間層が介在されていても良い。
表面処理層50の形成は、公知の方法で行うことができ、例えばアークイオンプレーティング方式の物理蒸着法(即ち、AIP−PVD法)で行われる。特に、表面処理層がDLC層である場合、DLC層の形成は、AIP−PVD法で行うことが望ましい。その理由は、次のとおりである。
一般に、AIP−PVD法などのように、水素を実質的に含まない原料を用いてDLC層を形成する方法によれば、DLC層の水素含有量を1at%以下に調整できることが各種文献で知られている。そこで、DLC層をAIP−PVD法で形成することにより、DLC層の水素含有量を1at%以下に確実に調整することができる。
本実施形態の引抜加工装置10を用いて管状ワーク40を引抜加工する方法は、従来の方法と略同じであり、これを簡単に説明すると次のとおりである。
まず、管状ワーク40の先端部にスエージング加工等によってワーク40よりも小径の口付け部40dを形成する。そして、ワーク40の中空部40c内に引抜プラグ30を挿入配置するとともに、ワーク40の先端部(即ち口付け部40d)を引抜ダイス20のダイス孔21内に挿入する。このとき、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bは、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bに対応する位置に配置されている。
次いで、ワーク40の先端部の口付け部40dを牽引装置12のチャック部12aによりチャックする。そして、図1に示すように、潤滑油供給装置13のノズル13aから潤滑油14をワーク40の外表面40aに供給付着しながら、引抜速度が10〜100m/minの範囲になるようにワーク40を牽引装置12により引抜方向Nに牽引する。これにより、ワーク40を引抜加工する。
この引抜加工では、図2及び3に示すように、ワーク40は引抜ダイス20の第1曲面部1Cに接触して第1曲面部1Cにより縮径加工されながら、案内部2Dに向かって誘導されるように第1曲面部1Cから離れる。次いで、該ワーク40が引抜ダイス20の案内部2Dに再接触して案内部2Dにより縮径加工されながら案内部2Dからその第2曲面部2Cを通ってダイスベアリング部2Bへ案内される。このとき、ワーク40の内表面40bは、引抜プラグ30の第3曲面部3Cに接触して第3曲面部3Cからプラグベアリング部3Bへ案内される。
そして、該ワーク40がダイスベアリング部2Bとプラグベアリング部3Bとの間を通過することにより、ワーク40の肉厚が減少するようにワーク40の外表面40a及び内表面40bがそれぞれダイスベアリング部2B及びプラグベアリング部3Bにより加圧される。その結果、ワーク40の外径寸法がダイスベアリング部2Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の外表面40aがダイスベアリング部2Bにより高平滑面に仕上げ加工され、さらに、ワーク40の内径寸法がプラグベアリング部3Bにより目標寸法に仕上げ加工されると同時に、ワーク40の内表面40bがプラグベアリング部3Bにより目標面粗さに仕上げ加工される。
以上の工程により、研磨加工並の高平滑な外表面41aを有する引抜管41を得ることができる。
而して、本実施形態の引抜加工装置10には次の利点がある。
引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bは第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kよりも内側に配置されているので、ワーク40が第1曲面部1Cからダイスベアリング部2Bへと移動する間にワーク40が過度に縮径加工されるのを防止することができる。これにより、ワーク40の外表面40aに、潤滑油14が溜まる激しい凹凸が生じ難くなる[効果1]。
さらに、ダイスベアリング部2Bの上流端Fに案内部2Dの第2曲面部2Cが滑らかに連なっているので、案内部2Dに再接触したワーク40はこの第2曲面部2Cを通ってダイスベアリング部2Bに向かって円滑に移動することができる[効果2]。
さらに、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6が引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bの長さL4よりも短く設定されることにより、プラグベアリング部3Bとダイスベアリング部2Bとの両部位からワーク40にその外表面40aを高平滑面に加工するのに必要な圧力を確実に与えることができる[効果3]。
以上の効果1〜3が相乗的に作用することにより、ワーク40の外表面40aを高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜ダイス20及び引抜プラグ30の少なくともワーク40との接触部に、表面処理層50が形成されているので、引抜加工時にワーク40の焼きつきを防止することができる。これにより、ワーク40の外表面40aを確実に高平滑面に加工することができる。しかも、引抜ダイス20及び引抜プラグ30の全体をセラミックで製造する場合よりも、製造コストを低減することができる。
さらに、引抜ダイス20の第1曲面部1Cと案内部2Dとダイスベアリング部2Bとが一体形成されているので、第1曲面部1Cの軸と案内部2Dの軸とダイスベアリング部2Bの軸との間の軸ずれを防止することができる。これにより、引抜ダイス20の同軸度が高められている。したがって、この引抜ダイス20を用いてワーク40を引抜加工することにより、引抜管41の外径及び内径の寸法精度を確実に向上させることができる。
さらに、表面処理層50の硬さが20GPa以上であることにより、耐摩耗性を確実に高めることができ、更に、表面処理層50の厚さtが0.2〜10μmの範囲であることにより、表面処理層50の耐用時間を長くすることができるし、表面処理層50の剥離を確実に防止することができる。
さらに、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの上流端Gの位置は、ダイスベアリング部2Bの上流端Fの位置に対して同じ位置か又は下流側に配置している。これにより、引抜ダイス20の案内部2Dに再接触したワーク40が案内部2Dからダイスベアリング部2Bへと移動する間にワーク40が過度に縮径加工されるのを確実に防止できるとともに、プラグベアリング部3Bとダイスベアリング部2Bとの両部位からワーク40にその外表面40aを高平滑面に加工するのに必要な圧力を更に確実に与えることができる。これにより、ワーク40の外表面40aを確実に高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜ダイス20のダイス軸Xを含む断面において、引抜ダイス20のダイス軸Xに対する第1曲面部1Cの接線の傾きと第2曲面部2Cの接線の傾きとは、それぞれ、ワーク40の引抜方向Nに進むにつれて漸次小さくなっている。これにより、ワーク40を第1曲面部1Cによって確実に縮径加工することができるし、案内部2Dに再接触したワーク40を第2曲面部2Cによってダイスベアリング部2Bへ確実に案内することができる。
さらに、引抜ダイス20の第2曲面部2Cの曲率半径R21は、第1曲面部1Cの曲率半径R1に対して等しいか又は小さく設定されている。これにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。その理由は、次のとおりである。すなわち、第1曲面部1Cの曲率半径R1を大きくすることにより、ワーク40の外表面40aと引抜ダイス20との間に引き込まれる潤滑油14の引込み量を十分に確保することができる。さらに、第2曲面部2Cの曲率半径R21を小さくすることにより、第2曲面部2Cからワーク40の外表面40aに与える面圧を高めることができる。これによりオイルピットの発生を更に抑制することができる。その結果、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
さらに、案内部2Dは、第2曲面部2Cの上流端に滑らかに連なり且つ第2曲面部2Cの曲がり方向とは反対方向に曲がった補助曲面部2Aを有しているので、第1曲面部1Cから離れたワーク40を案内部2Dで確実に受けることができ、もってワーク40を案内部2Dからダイスベアリング部2Bへ確実に案内することができる。
さらに、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6が、ダイスベアリング部2Bの長さL4に対して5%以上に設定されることにより、プラグベアリング部3Bとダイスベアリング部2Bとの両部位からワーク40にその外表面40aを高平滑面に加工するのに必要な圧力を更に確実に与えることができる。これにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。また、プラグベアリング部3Bの長さL6がダイスベアリング部2Bの長さL4に対して70%以下に設定されることにより、ワーク40とプラグベアリング部3Bとの間の接触摩擦力に起因して生じるワーク40の断管を確実に防止することができる。
さらに、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するダイスベアリング部2Bの平行度が±3°以内に設定されることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するプラグベアリング部3Bの平行度が±3°以内に設定されることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bの長さL4が5mm以上であることにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜ダイス20の半径方向rにおいて、引抜ダイス20の第1曲面部1Cにおけるワーク離れ位置Kとダイスベアリング部2Bとの間の段差H1が、0.3mm以上に設定されることにより、ワーク40が第1曲面部1Cからダイスベアリング部2Bへと移動する間にワーク40が過度に縮径加工されるのを確実に防止することができる。また、この段差が3mm未満に設定されることにより、案内部2Dに再接触したワーク40がダイスベアリング部2Bに案内される際にワーク40がダイスベアリング部2Bから離れるのを確実に防止することができる。これにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜プラグ30は、プラグベアリング部3Bの上流端Gに滑らかに連なる第3曲面部3Cを備えているので、第3曲面部3Cに接触したワーク40はプラグベアリング部3Bに向かって円滑に移動することができる。これにより、ワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
さらに、引抜管41の引抜速度が10m/min以上になるようにワーク40を牽引装置12によって牽引することにより、引抜加工能率を向上させることができる。また、引抜速度が100m/min以下になるようにワーク40を牽引装置12によって牽引することにより、ワーク40の外表面40aと引抜ダイス20との間に引き込まれる潤滑油14の引込み量が過剰に増えるのを防止することができる。これにより、オイルピットの発生を更に確実に防止することができ、もってワーク40の外表面40aを更に確実に高平滑面に加工することができる。
以上で、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に示したものに限定されるものではなく、様々に変更可能である。
また本発明では、引抜ダイス20の第1曲面部1Cと案内部2Dとの間に、ワーク40の材料流動をサポートする1個又は複数個の補助的なベアリング部や縮径加工部が配置されていても良い。また本発明では、引抜ダイス20の第1曲面部1Cよりも上流側に、ワーク40の材料流動をサポートする1個又は複数個の補助的なベアリング部や縮径加工部が配置されていても良い。
また本発明では、本発明に係る引抜加工装置によって引抜加工されて得られる引抜管は、感光ドラム基体に用いられるものに限定されるものではなく、様々な用途に用いることができる。
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を以下に示す。ただし本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。また、以下の説明文では、実施例及び比較例を理解し易くするため、上記実施形態と同じ符号を用いて説明している。
以下に示す実施例及び比較例で用いる引抜加工用ワークとして、アルミニウム製管状ワーク40を準備した。このワーク40の断面形状は円環状である。ワーク40の材質は、引抜加工用ワークの材料としてよく用いられる材料の一つであるJIS(日本工業規格) A3003相当のアルミニウム合金である。このワーク40は、アルミニウムビレットを押出加工することにより得られたアルミニウム押出管からなるものである。ワーク40の外径は20mm、その内径は17mm、その肉厚は1.5mmである。
<実施例1〜17、比較例1〜3>
図1〜4Bに示した上記実施形態に係る引抜加工装置10を用いて、表面処理層50の材料、表面処理層50の厚さ、表面粗さRy、及び、引抜速度を様々に変えて、上記ワーク40を一回だけ引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。引抜管41の外径は16mm、その内径は14.4mm、その肉厚は0.8mmである。したがって、ワーク40の縮径率Qは20%である。この引抜加工の際に使用した潤滑油14は、出光興産(株)製の商品名「ダフニーマスタードロー2594」である。この潤滑油14の40℃での動粘度は300〜500mm2/sである。
上記の引抜加工条件でワーク40を10本連続して引抜加工を行った。そして、これにより得られた引抜管41の外表面41aの周方向の表面粗さRyと、ワーク40(引抜管41)と引抜ダイス20との焼きつきの有無を調べた。その結果を表1に示す。
実施例1〜17で用いた引抜加工装置10の引抜ダイス20及び引抜プラグ30の基本構成は次のとおりである。
引抜ダイス20の基材20aの材料:超硬
引抜プラグ30の基材30aの材料:超硬
引抜ダイス20において、θ1=30°、θ2=20°、L1=10mm、L2=6mm、L3=3mm、L4=9mm、L5=2mm、R1=4mm、R21=4mm、R22=2mm、H2=0.5mm、H1=0.6mm、S=0mmである。また、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するダイスベアリング部2Bの平行度は±3°以内に設定されている。
引抜プラグ30において、L6=2mm、Dp=14.4mm、R3=50mm、θ3=20°である。なお、プラグベアリング部3Bの長さL6が2mmのとき、ダイスベアリング部2Bの長さL4に対するプラグベアリング部3Bの長さL6の割合は、22%である。また、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するプラグベアリング部3Bの平行度は±3°以内に設定されている。
表1において、引抜ダイス20及び引抜プラグ30の「表面処理層」欄には、表面処理層50の材料が記載されており、「なし」は表面処理層50を形成しなかったことを意味している。実施例1〜15の引抜ダイス20では、表面処理層50は、引抜ダイス20のダイス孔21の周面全体、すなわちダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cと繋ぎ部1Bと案内部2D(つまり第2曲面部2Cと補助曲面部2A)とダイスベアリング部2Bとリリーフ部2Eに形成した。実施例1〜6、16、17の引抜プラグ30では、表面処理層50は、引抜プラグ30の外表面全体、すなわちプラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cとプラグベアリング部3Bとプラグベアリング部3Bよりも下流側の部分3Eとに形成した。「層厚」欄には、表面処理層50の厚さが記載されている。
引抜ダイス20の「表面粗さRy」欄には、ダイスベアリング部2Bの周方向の表面粗さRyが記載されている。なお、Ryは表面粗さの最大高さを意味している。引抜プラグ30の「表面粗さRy」欄には、プラグベアリング部3Bの周方向の表面粗さRyが記載されている。なお、これらの表面粗さRyの測定は、いずれもJIS B 0601:1994に準拠して行った。
引抜管41の「表面粗さ」欄の記号の意味は次のとおりである。
◎:Ryが1.0μm以下(即ちRy≦1.0μm)
○:Ryが1.0μmを超え2.0μm未満(即ち1.0μm<Ry<2.0μm)
△:Ryが2.0μm以上(即ちRy≧2.0μm)
×:ワーク40が断管したか又は引抜加工ができなかった。
焼きつきの有無は、引抜ダイス20のダイスベアリング部2Bをマイクロスコープにて50倍で観察することで判定した。
「焼きつき」欄の記号の意味は次のとおりである。
○:焼きつきは確認されなかった。
△:極僅かな焼きつきがあった。
×:目視で確認可能な大きな焼きつきがあった。
また、表面処理層50の硬さをナノインデンターにてIS0 14577−1に準拠して測定した。その結果、表面処理層50の硬さは次のとおりであった。
CrN層 :20.6GPa
TiN層 :21.5GPa
DLC層 :30.4GPa
TiCN層 :29.4GPa
TiAlN層:24.5GPa
表面処理層50の形成方法は、次のとおりである。基材20a、30aからなる引抜ダイス20及び引抜プラグ30を所定の形状及び寸法に加工し、次いで引抜ダイス20のダイス孔21の周面及び引抜プラグ30の外表面を、水酸化ナトリウム溶液、純水及びIPA(IPA:イソプロピルアルコール)の順に浸漬して洗浄した。その後、AIP−PVD装置(アークイオンプレーティング方式の物理蒸着装置)を用いて表面処理層50を公知のAIP−PVD法に従って形成した。次いで、表面処理層50の表面を研磨することで表面処理層50の表面を「表面粗さRy」欄に記載の所定の表面粗さに調整した。なお表面処理層50がDLC層である場合、当該DLC層は、水素を含まない原料を用いたAIP−PVD法により形成されたものである。したがって、DLC層の水素含有量は1at%以下であると考えられる。
Figure 2011167732
表1に示すように、実施例1〜17では、高平滑な外表面41aを有する引抜管41を得ることができたし、ワーク40の焼きつきを防止することができた。一方、比較例1〜3では、引抜速度が100m/minといった非常に速い場合(即ち比較例3の場合)に大きな焼きつきが発生した。
<実施例18〜38>
図1〜3に示した本実施形態に係る引抜加工装置10を用いて、引抜速度、プラグベアリング部3Bのずれ量S、及び、プラグベアリング部3Bの長さL6を様々に変えて、上記ワーク40を一回だけ引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。引抜管41の外径は16.0mm、その内径は14.4mm、その肉厚は0.8mmである。したがって、ワーク40の縮径率Qは20%である。この引抜加工の際に使用した潤滑油14は、出光興産(株)製の商品名「ダフニーマスタードロー2594」である。この潤滑油14の40℃での動粘度は300〜500mm2/sである。
上記の引抜加工条件でワーク40を10本連続して引抜加工を行った。そして、これにより得られた引抜管41の外表面41aの周方向の表面粗さRyと、ワーク40(引抜管41)と引抜ダイス20との焼きつきの有無を調べた。その結果を表2に示す。
実施例18〜38で用いた引抜加工装置10の引抜ダイス20及び引抜プラグ30の基本構成は次のとおりである。
引抜ダイス20の基材20aの材料:超硬
引抜プラグ30の基材30aの材料:超硬
引抜ダイス20において、θ1=30°、θ2=20°、L1=10mm、L2=6mm、L3=3mm、L4=9mm、L5=2mm、R1=4mm、R21=4mm、R22=2mm、H2=0.5mm、H1=0.6mmである。また、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するダイスベアリング部2Bの平行度は±3°以内に設定されている。
引抜プラグ30において、Dp=14.4mm、R3=50mm、θ3=20°である。なお、プラグベアリング部3Bの長さL6が0、1、2及び5mmのとき、ダイスベアリング部2Bの長さL4に対するプラグベアリング部3Bの長さL6の割合は、それぞれ、0、11、22及び56%である。また、引抜ダイス20のダイス軸Xに対するプラグベアリング部3Bの平行度は±3°以内に設定されている。
実施例18〜38の引抜ダイス20では、表面処理層50は、引抜ダイス20のダイス孔21の周面全体、すなわちダイスアプローチ部1Aと第1曲面部1Cと繋ぎ部1Bと案内部2D(つまり第2曲面部2Cと補助曲面部2A)とダイスベアリング部2Bとリリーフ部2Eに形成した。実施例18〜38の引抜プラグ30では、表面処理層50は、引抜プラグ30の外表面全体、すなわちプラグアプローチ部3Aと第3曲面部3Cとプラグベアリング部3Bとプラグベアリング部3Bよりも下流側の部分3Eとに形成した。表面処理層50はDLC層であり、その厚さは0.5μmである。なお、DLC層の形成方法は、上記実施例4〜6と同じである。したがって、DLC層の水素含有量はlat%以下であると考えられる。
また、表面処理層50としてのDLC層の硬さをナノインデンターにてIS0 14577−1に準拠して測定した。その結果、DLC層の硬さは30.4GPaであった。
また表2において、「プラグベアリング部のずれ量S」とは、ダイスベアリング部2Bの上流端Fの位置に対するプラグベアリング部3Bの上流端Gの位置の下流側へのずれ量Sを示している。ずれ量Sの符号の正負は上述したとおりである。
表面粗さRyの測定及び焼きつきの判定は、上記実施例1〜17及び比較例1〜3と同じ方法で行った。
表1中の「表面粗さ」欄の記号の意味は次のとおりである。
◎:Ryが1.0μm以下(即ちRy≦1.0μm)
○:Ryが1.0μmを超え2.0μm未満(即ち1.0μm<Ry<2.0μm)
△:Ryが2.0μm以上(即ちRy≧2.0μm)
×:ワーク40が断管したか又は引抜加工ができなかった。
「焼きつき」欄の記号の意味は次のとおりである。
○:焼きつきは確認されなかった。
△:極僅かな焼きつきがあった。
×:目視で確認可能な大きな焼きつきがあった。
<比較例4>
実施例18〜38で用いた引抜加工装置10の引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6を、ダイスベアリング部2Bの長さL4よりも長い15mmに設定したこと以外は、実施例18〜38と同じ加工条件で、上記ワーク40を引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。そして、引抜管41の外表面41aの周方向の表面粗さRyと、ワーク40(引抜管41)と引抜ダイス20との焼きつきの有無を調べた。その結果を表2に示す。
Figure 2011167732
表2の実施例18〜38に示すように、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6がダイスベアリング部2Bの長さL4よりも短く設定された本実施形態の引抜加工装置10を用いて、ワーク40を引抜加工した場合には、ワーク40の焼きつきを防止することができたし、ワーク40の外表面40aを高平滑面に加工することができた。
一方、比較例4に示すように、引抜プラグ30のプラグベアリング部3Bの長さL6がダイスベアリング部2Bの長さL4よりも長く設定された引抜加工装置10を用いて、ワーク40を引抜加工した場合には、ワーク40と引抜プラグ30との間の接触摩擦力が大きすぎるために、ワーク40が焼き付き、ワーク40が断管した。
<比較例5、6>
図5及び6に示した従来の引抜加工装置110を用いたこと以外は、実施例18〜38と同じ加工条件で、上記ワーク40を引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。そして、引抜管41の外表面41aの周方向の表面粗さRyと、ワーク40(引抜管41)と引抜ダイス20との焼きつきの有無を調べた。その結果を表3に示す。
比較例5、6で用いた引抜加工装置110の引抜ダイス120及び引抜プラグ130のその他の各部位の寸法は次のとおりである。
引抜ダイス120において、θ1=30°、θ2=20°、L1=10mm、L4=20mm、L5=2mm、R1=4mmである。
引抜プラグ130において、Dp=14.4mm、L6=2mm、R3=50mm、θ3=18°、プラグベアリング部103Bのずれ量S=2mmある。なお、プラグベアリング部103Bのずれ量Sとは、ダイスベアリング部101Bの上流端Fの位置に対するプラグベアリング部103Bの上流端Gの位置の下流側へのずれ量である。
Figure 2011167732
表3の比較例5、6に示すように、従来の引抜加工装置110を用いてワーク40を引抜加工した場合には、本実施形態の引抜加工装置10を用いてワーク40を引抜加工した場合に比べて、引抜管41の外表面41aの表面粗さが悪かった。
<実施例39〜43>
図1〜3に示した本実施形態に係る引抜加工装置10を用いて、引抜速度、プラグベアリング部3Bのずれ量Sを様々に変えて、上記ワーク40を引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。そして、引抜管41の外表面41aの周方向の表面粗さRyと、ワーク40(引抜管41)と引抜ダイス20との焼きつきの有無を調べた。その結果を表4に示す。
実施例39〜43で用いた引抜加工装置10では、R1とR21が、上記実施例18〜38とは異なっており、すなわち、R1=4mm、R21=3mmである。引抜加工装置10のその他の構成、寸法及び引抜加工条件は、上記実施例18〜38と同じである。
Figure 2011167732
表4の実施例39〜43に示すように、R21がR1よりも小さく設定された本実施形態の引抜加工装置10を用いて、ワーク40を引抜加工した場合でも、ワーク40の焼きつきを防止することができたし、ワーク40の外表面40aを高平滑面に加工することができた。
<実施例44〜48>
図1〜3に示した本実施形態に係る引抜加工装置10を用いて、引抜速度、プラグベアリング部3Bのずれ量Sを様々に変えて、上記ワーク40を引抜加工し、これにより引抜管41を製造した。そして、引抜管41の外表面41aの周方向の表面粗さRyと、ワーク40(引抜管41)と引抜ダイス20との焼きつきの有無を調べた。その結果を表5に示す。
実施例44〜48で用いた引抜加工装置10では、H1とH2が、上記実施例18〜38とは異なっており、すなわち、H1=1.1mm、H2=1.0mmである。引抜加工装置10のその他の構成、寸法及び引抜加工条件は、上記実施例18〜38と同じである。
Figure 2011167732
表5の実施例44〜48に示すように、H1とH2が、実施例18〜38とは異なるように設定された本実施形態の引抜加工装置10を用いて、ワーク40を引抜加工した場合でも、ワーク40の焼きつきを防止することができたし、ワーク40の外表面40aを高平滑面に加工することができた。
本発明は、高平滑な外表面を有する引抜管を得ることができる管状ワーク用引抜加工装置、及び管状ワークの引抜加工方法に利用可能である。
10:引抜加工装置
12:牽引装置
20:引抜ダイス
1A:ダイスアプローチ部
1B:繋ぎ部
1C:第1曲面部
2A:補助曲面部
2B:ダイスベアリング部
2C:第2曲面部
2D:案内部
30:引抜プラグ
3A:プラグアプローチ部
3B:プラグベアリング部
3C:第3曲面部
40:ワーク
40a:外表面
41:引抜管
41a:外表面
50:表面処理層
X:引抜ダイスのダイス軸
N:ワークの引抜方向

Claims (15)

  1. 管状ワークの外表面側を加工する引抜ダイスと、ワークの中空部内に配置されるとともにワークの内表面側を加工する引抜プラグとを具備し、
    前記引抜ダイスは、
    ワークが縮径加工されながら離れる第1曲面部と、
    前記第1曲面部におけるワーク離れ位置よりも内側且つ下流側に配置されたダイスベアリング部と、
    前記ダイスベアリング部の上流端に滑らかに連なる第2曲面部を有するとともに前記第1曲面部から離れたワークと再接触して該ワークを縮径加工しながら前記ダイスベアリング部へ案内する案内部と、
    を備え、
    前記引抜ダイスの第1曲面部と案内部とダイスベアリング部とは一体形成されており、
    前記引抜プラグは、前記ダイスベアリング部に対応する位置に配置され且つ前記ダイスベアリング部の長さよりも短いプラグベアリング部を備えており、
    前記引抜ダイス及び前記引抜プラグの少なくとも一方における少なくともワークとの接触部に、前記少なくとも一方の基材とは異なる組成の表面処理層が形成されていることを特徴とする管状ワーク用引抜加工装置。
  2. 前記表面処理層の厚さが0.2〜10μmの範囲であり、且つ、ISO 14577−1に準拠して測定された前記表面処理層の硬さが20GPa以上に設定されている請求項1記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  3. 前記表面処理層の周方向の表面粗さRyが0.5μm以下に設定されている請求項1又は2記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  4. 前記表面処理層は、CrN層、TiCN層、TiAlN層、TiN層及びDLC層からなる群より選択される1種又は2種以上を含んでいる請求項1〜3のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  5. 前記表面処理層はDLC層を含み、
    前記DLC層の水素含有量が1at%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  6. 前記プラグベアリング部の上流端の位置が、前記ダイスベアリング部の上流端の位置に対して同じ位置か又は下流側に配置している請求項1〜5のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  7. 前記引抜ダイスのダイス軸を含む断面において、前記引抜ダイスのダイス軸に対する前記第1曲面部の接線の傾きと前記第2曲面部の接線の傾きとは、それぞれ、ワークの引抜方向に進むにつれて漸次小さくなっている請求項1〜6のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  8. 前記第2曲面部の曲率半径は、前記第1曲面部の曲率半径に対して等しいか又は小さく設定されている請求項1〜7のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  9. 前記案内部は、前記第2曲面部の上流端に滑らかに連なり且つ第2曲面部の曲がり方向とは反対方向に曲がった補助曲面部を有している請求項1〜8のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  10. 前記プラグベアリング部の長さが、前記ダイスベアリング部の長さに対して5〜70%の範囲に設定されている請求項1〜9のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  11. 前記ダイスベアリング部の長さが5mm以上である請求項1〜10のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  12. 前記引抜ダイスの半径方向において、前記第1曲面部におけるワーク離れ位置と前記ダイスベアリング部との間の段差は、0.3mm以上3mm未満に設定されている請求項1〜11のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  13. 前記引抜プラグは、前記プラグベアリング部の上流端に滑らかに連なる第3曲面部を備えている請求項1〜12のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  14. 引抜速度が10〜100m/minの範囲になるようにワークを引抜方向に牽引する牽引装置を具備している請求項1〜13のいずれかに記載の管状ワーク用引抜加工装置。
  15. 請求項1〜14のいずれかに記載の引抜加工装置を用いて管状ワークを引抜加工する管状ワークの引抜加工方法。
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