JP5461194B2 - 高純度塩化ホスファイトの製造方法 - Google Patents

高純度塩化ホスファイトの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高純度塩化ホスファイトの製造方法に関する。塩化ホスファイトは、例えば有機リン系農薬の原料として有用な物質である。
本出願人は先に、高純度塩化ホスファイトの製造方法として、三塩化リンと、亜リン酸トリエステルとを、触媒の存在下で反応させて塩化ホスファイトを生成させ、生成した塩化ホスファイトを含む反応液を短時間で触媒と分離する方法を提案した(特許文献1参照)。この方法は、高純度の塩化ホスファイトを高収率で得ることができるという利点を有する。また、塩化ホスファイトと二塩化ホスファイトとを選択的に製造することができるという利点も有する。
前記の製造方法においては、塩化ホスファイトを含む反応液を、蒸発缶における加熱された内面に供給し、該反応液を該内面に沿って膜状に流下させることで急激な気化を起こさせ、目的物である塩化ホスファイトを蒸発させて、触媒と分離する。この場合、触媒の種類によっては、蒸発缶の内面に固化した触媒が粉状に付着し、これが原因で連続製造に支障を来すことがある。この現象は、目的とする塩化ホスファイトの収率の低下の原因ともなる。
また、本出願人は先に、前記の製造方法に用い得る触媒として、4級ホスホニウム塩を用いることを提案した(特許文献2参照)。しかし、この化合物を触媒として用いた場合にも、上述した不都合が生じることがある。
特開昭61−112088号公報 特開平2−145594号公報
したがって本発明の目的は、前述した従来技術の方法よりも生産性が更に向上した塩化ホスファイトの製造方法を提供することにある。
前記の課題を解決すべく、本発明者らは種々の検討を行った結果、塩化ホスファイトの製造に用いられる触媒として低粘性のものを用いることで、触媒の意図しない付着を防止でき、高い収率で高純度の塩化ホスファイトを製造し得ることを知見した。
本発明は前記の知見に基づきなされたもので、三塩化リンと、(RO)3P(式中Rは、アルキル基、置換アルキル基、フェニル基、置換フェニル基を示す。)で表される亜リン酸トリエステルとを、80℃における粘度が100mPa・s以下である触媒の存在下で反応させて、RO(R’)PCl(式中Rは前記定義と同じであり、R’はRO又は塩素原子を示す。)で表される塩化ホスファイトを製造する第一工程、及び第一工程で得られた塩化ホスファイトを含む反応液を短時間で気化させて前記触媒を分離する第二工程を有し、前記触媒が前記触媒がトリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリエチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルドデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルオクチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリブチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドから選ばれるものであることを特徴とする高純度塩化ホスファイトの製造方法を提供するものである。
本発明の製造方法の第一工程においては、三塩化リンと、(RO)3Pで表される亜リン酸トリエステルとを触媒の存在下で反応させる。この反応に用いられる亜リン酸トリエステルは、Rがアルキル基、置換アルキル基、フェニル基、置換フェニル基であるものである。(RO)3Pで表される亜リン酸トリエステルにおいては、3つのRは同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。合成方法の容易さの点から、一般に3つのRは同一である。
(RO)3Pで表される亜リン酸トリエステルにおいて、Rがアルキル基である場合、該アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等の炭素数1〜14の基が好ましく、特に炭素数1〜6の基が好ましい。
Rが置換アルキル基である場合、該置換アルキル基としては、前記のアルキル基が、ハロゲン、シアノ基、アルコキシ基等で置換されたものが挙げられる。
Rが置換フェニル基である場合、該置換フェニル基としては、アルキル基、ニトロ基、ハロゲン等で置換されたものが挙げられる。
(RO)3Pで表される亜リン酸トリエステルの好適な例としては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリオクチル、亜リン酸トリフェニル等が挙げられる。
本発明においては、三塩化リンと、(RO)3Pで表される亜リン酸トリエステルとの仕込み量を適切に調整することで、塩化ホスファイト又は二塩化ホスファイトを選択的に製造することができる。具体的には、三塩化リン1モル当たり、亜リン酸トリエステルを好ましくは1.8〜2.2モル、更に好ましくは1.85〜2.1モル用いることで、塩化ホスファイトが選択的に得られる。一方、三塩化リン1モル当たり、亜リン酸トリエステルを好ましくは0.45〜0.55モル、更に好ましくは0.48〜0.52モル用いることで、二塩化ホスファイトが選択的に得られる。
三塩化リンと、(RO)3Pで表される亜リン酸トリエステルとを反応させるに際しては、触媒を用いる。本発明の製造方法は、使用する触媒に特徴の一つを有する。本発明で用いられる触媒は、80℃における粘度が100mPa・s以下、好ましくは80mPa・s以下、更に好ましくは60mPa・s以下のものである(以下、粘度というときには、80℃で測定された値を指す。)。このような粘度の触媒を用いることで、第一工程で得られる塩化ホスファイトを含む反応液を、第二工程で蒸発分離するときに、触媒の意図しない付着を防止できる。その結果、塩化ホスファイトの製造を、中断することなく長時間にわたり連続して行うことができ、歩留まりが向上する。また、高い収率で高純度の塩化ホスファイトを製造することができる。なお、触媒の粘度の下限値に特に制限はなく、触媒として十分な能力を有する範囲において、粘度は低ければ低いほど好ましい。粘度が100mPa・s程度に低ければ、本発明の製造方法を支障なく実施することができる。
本発明において粘度は、粘度標準液(ブルックフィールド社製)によって較正された振動式粘度計(CBC株式会社、VM−10A)を用いて80℃窒素雰囲気下にて測定した。
本発明で用いられる触媒としては、以下の式(1)で表される4級アンモニウム塩又は4級ホスホニウム塩であって、粘度が上述の値以下であるものを用いることが好ましい。特に、80℃で液体である4級アンモニウム塩又は4級ホスホニウム塩であって、粘度が上述の値以下であるものを用いることが、触媒の付着防止の点、及び塩化ホスファイトを高収率で、かつ高品質で得られる点から好ましい。式(1)で表される化合物は、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
Figure 0005461194
式(1)で表される化合物においては、R1〜R4の4つのアルキル基のうち、3つのアルキル基が同じ基であり、残りの1つのアルキル基がそれらとは異なる基であることが、粘度の低下及び触媒能の向上の観点から好ましい。この場合、3つのアルキル基の炭素数と、残り一つのアルキル基の炭素数との差が、2〜10、特に2〜8であると、粘度が一層低下し、また一層触媒能が高まるので好ましい。3つのアルキル基の炭素数と、残り一つのアルキル基の炭素数との大小に特に制限はなく、3つのアルキル基の炭素数の方が、残り一つのアルキル基の炭素数よりも大きい場合と、3つのアルキル基の炭素数の方が、残り一つのアルキル基の炭素数よりも小さい場合とがある。
式(1)で表される化合物においてYで表されるアニオンとしては、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ジシアナミド、ハロゲン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、トリフルオロメタンスルホネート、メタンスルホネート、トリフルオロアセテート、チオシアネート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスホロジチオエート、アミノ酸などが挙げられる。
式(1)で表される化合物においては、同じカチオンを用いた場合であっても、アニオンの種類によって粘度が相違する。したがって、アニオンの選定も、式(1)で表される化合物の粘度を低下させる観点から重要である。この観点から、Yで表されるアニオンとしては、特にビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリフルオロアセテート、ジメチルホスフェートを用いることが好ましい。
式(1)で表される化合物におけるカチオンは、アンモニウムイオン又はホスホニウムイオンである。これらのうち、触媒能の高さ及び粘度の低さの点からホスホニウムイオンを用いることが好ましい。
式(1)で表される化合物がホスホニウム塩である場合、該化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
トリメチルヘキシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリメチルヘキシルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリメチルヘキシルホスホニウム・ジシアナミド、トリメチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリメチルオクチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリメチルオクチルホスホニウム・ジシアナミド
トリエチルブチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルブチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチルブチルホスホニウム・ジシアナミド
トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチルペンチルホスホニウム・ジシアナミド
トリエチルオクチルホスホニウム・クロリド、トリエチルオクチルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリエチルオクチルホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート、トリエチルオクチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリエチルオクチルホスホニウム・メタンスルホネート、トリエチルオクチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリエチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルオクチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチルオクチルホスホニウム・ジシアナミド、トリエチルオクチルホスホニウム・チオシアネート、トリエチルオクチルホスホニウム・ジメチルホスフェート
トリエチルドデシルホスホニウム・クロリド、トリエチルドデシルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリエチルドデシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリエチルドデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルドデシルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリエチルドデシルホスホニウム・ジシアナミド
トリブチルメチルホスホニウム・クロリド、トリブチルメチルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリブチルメチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリブチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ジシアナミド、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート
テトラブチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、テトラブチルホスホニウム・ジエチルホスホロジチオエート、テトラブチルホスホニウム・アミノ酸塩
トリブチルオクチルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリブチルオクチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリブチルオクチルホスホニウム・メタンスルホネート、トリブチルオクチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリブチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルオクチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチルオクチルホスホニウム・ジシアナミド、トリブチルオクチルホスホニウム・チオシアネート、トリブチルオクチルホスホニウム・ジメチルホスフェート
トリブチルドデシルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリブチルドデシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリブチルドデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルドデシルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチルドデシルホスホニウム・ジシアナミド
トリブチルヘキサデシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリブチルヘキサデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリブチルヘキサデシルホスホニウム・ジシアナミド
トリヘキシルメチルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリヘキシルメチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリヘキシルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシルメチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリヘキシルメチルホスホニウム・チオシアネート、トリヘキシルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリヘキシルメチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリヘキシルメチルホスホニウム・ジシアナミド
トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・チオシアネート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム・ジシアナミド
トリオクチルメチルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリオクチルメチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリオクチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルメチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリオクチルメチルホスホニウム・チオシアネート、トリオクチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリオクチルメチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリオクチルメチルホスホニウム・ジシアナミド
トリオクチルエチルホスホニウム・テトラフルオロボレート、トリオクチルエチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリオクチルエチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルエチルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリオクチルエチルホスホニウム・チオシアネート、トリオクチルエチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリオクチルエチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリオクチルエチルホスホニウム・ジシアナミド
これらのホスホニウム塩のうち、特に80℃の粘度が低い点から、トリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリエチルペンチルホスホニウム・ジシアナミド、トリエチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルドデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、テトラブチルホスホニウム・ジエチルホスホロジチオエート、トリブチルオクチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート、トリブチルオクチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリブチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルオクチルホスホニウム・ジシアナミド、トリブチルオクチルホスホニウム・チオシアネート、トリブチルドデシルホスホニウム・ビス(フルオロスルホニル)イミド、トリヘキシルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いることが好ましい。
式(1)で表される化合物は、例えば4級ホスホニウム塩の場合、3級ホスフィン類と、アルキルハライド又はジアルキル硫酸等とを混合し、必要に応じて加熱を行うことで調製することができる。アニオンを種々異ならせた4級ホスホニウム塩を調製する場合には、4級ホスホニウムハライド(塩化物、臭化物、ヨウ化物)を、水性媒体中に溶解し、必要とするアニオン種を発生させる試薬と反応させて、アニオン交換を行えばよい。
4級アンモニウム塩の場合には、4級ホスホニウム塩の場合と同様に、3級アミン類と、アルキルハライド又はジアルキル硫酸等とを混合し、必要に応じて加熱を行うことで4級アンモニウムハライド塩とする。次いで、得られた4級アンモニウムハライド塩を、水等の水性媒体中に溶解し、ホウフッ化水素酸や、テトラフルオロリン酸等のアニオン種を発生させる試薬と反応させてアニオン交換を行えばよい。
第一工程における触媒の使用量は、亜リン酸トリエステル1モル当たり0.05〜20g、特に0.5〜10gとすることが好ましい。第一工程におけるその他の反応条件として、温度は−10〜90℃であることが好ましい。圧力は通常大気圧でよいが、加圧下又は減圧下で行っても差し支えない。反応時間は、原料の種類や反応温度に応じて適宜調整する。一般に反応温度が低い場合には長時間を要し、高温の場合には短時間で終了する。通常は0.5〜80時間、特に2〜24時間であることが好ましい。
第一工程においては、原料又は触媒の種類に応じ、溶剤を用いてもよく、あるいは用いなくてもよい。溶剤を使用する場合には、原料、触媒及び生成物と反応しない不活性溶剤を用いることが好ましい。そのような溶剤の例としては、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン等のパラフィン系炭化水素、ケロシン、リグロイン等の石油系炭化水素などが挙げられる。これらの溶剤は単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
第一工程においては、亜リン酸トリエステルに、触媒を溶解するか、又は触媒を分散させ、次に三塩化リンを添加した後、所定温度で所定時間反応を行う。この場合、亜リン酸トリエステルと三塩化リンは、それらの添加の順序を変えてもよい。第一工程における反応は、水の不存在下に行うことが好ましい。反応系に水を存在させないことで、触媒の使用効果が減殺されにくくなる。また、水の存在に起因して亜リン酸トリエステルが分解して生じる亜リン酸ジエステルの生成がほとんどなくなる。このことは、純度の高い塩化ホスファイトを得る観点から有利である。
第二工程においては、第一工程で得られた塩化ホスファイトを含む反応液から塩化ホスファイトと触媒とを分離する。両者の分離は、反応液を短時間で気化させることで行われる。このような分離方法を採用することで、目的物である塩化ホスファイトが触媒と接触した状態で長時間加熱されることが防止され、それによって塩化ホスファイトが触媒による二次分解を受けづらくなる。その結果、高純度の塩化ホスファイトを高収率で得ることができる。
第二工程において、前記塩化ホスファイトを含む反応液から塩化ホスファイトと触媒とを分離する手段は、薄膜蒸留装置を用いて行うことが連続的に該第二工程を行うことができる点で工業的に有利である。また、前記薄膜蒸留装置は、塩化ホスファイトを含む反応液を加熱して塩化ホスファイトを気化させる手段、及び気化した塩化ホスファイトを冷却して液化する手段を備えているものが、効率的に触媒と塩化ホスファイトを分離できる点で好ましく、更に、前記薄膜蒸留装置として自然流下式のものを用いると、極めて高純度の塩化ホスファイトを得ることができる点で特に好ましい。
図1(a)には、第二工程で用いられる分離装置10が模式的に示されている。分離装置10は、図1(a)に示すように薄膜蒸留装置20を備えている。図1(b)は、図1(a)における薄膜蒸留装置20のb−b線断面の模式図である。同図に示すように、薄膜蒸留装置20は、同方向にそれぞれ延びる内管21とジャケット22とを備えている。内管21はジャケット22内に配置されている。内管21とジャケット22との間には空間S1が形成されている。内管21及びジャケット22は、例えばガラスや金属で構成されている。
薄膜蒸留装置20における内管21内の空間S2には冷媒が流通している。これによって、内管21の外側面21aは所定温度に冷却されている。一方、ジャケット22内の空間S3には熱媒が流通している。これによって、ジャケット22の内壁面22aは所定温度に加熱されている。
このような構造を有する分離装置10を用いた第二工程について説明すると、薄膜蒸留装置20における上部から、第一工程で得られた反応液を供給する。反応液は、ジャケット22の内壁面22aを膜状に流下するように供給される。内壁面22aを膜状に流下するので反応液は急激に加熱される。それによって、低沸点成分である塩化ホスファイトは短時間で気化する。一方、触媒は、塩化ホスファイトよりも沸点が高いので、気化せずにジャケット22の内壁面22aを流下し続ける。この操作を確実なものとする観点から、熱媒の循環によるジャケット22の内壁面22aの加熱温度は、塩化ホスファイトが気化する温度以上で、かつ触媒が気化しない温度とすることが重要である。塩化ホスファイトが低温でも気化するようにするために、薄膜蒸留装置20内を減圧状態にしてもよい。また、塩化ホスファイトの気化を促進し、均一な膜できるよう内壁面22aをそのまま軸のまわりに回転させてもよい。
気化した塩化ホスファイトは、ジャケット22の内部に位置している内管21の外側面21aに接触する。この外側面21aは上述のとおり冷却されているので、該外側面21aに接触した塩化ホスファイトは冷えて外側面21a上で液化する。そして液化した塩化ホスファイトは外側面21aを流下する。この観点から、冷媒の循環による内管21の外側面21aの冷却温度は、塩化ホスファイトが液化する温度以下とすることが重要である。特に該冷却温度は、短時間で気化した塩化ホスファイトが液化し、また、該液化した塩化ホスファイトが流動性を示す温度とすることが目的物を高収率で得ることができる点で好ましく、多くの場合は、0℃以下、好ましくは−100〜0℃、特に好ましくは−30〜−5℃である。また、塩化ホスファイトの液化を促進させるために、内管21aをその軸のまわりに回転させてもよい。
このように、本分離装置10を用いると、塩化ホスファイトは内管21の外側面21aを伝って流下し、一方、触媒はジャケット22の内壁面22aを伝って流下する。その結果、塩化ホスファイトと触媒とを首尾良く分離することができる。しかも本発明で用いられる触媒は、先に述べたとおり低粘度のものであるから、固化によってジャケット22の内壁面22aに粉状又はペースト状に付着することが起こりづらい。その結果、操作を中断することなく長時間にわたり連続して操作を行うことができ、歩留まりを高くすることが可能となる。また、塩化ホスファイトと触媒との分離の効率も良くなるので、高純度の塩化ホスファイトを高収率で得ることが可能となる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
〔実施例1〕
トリエチルホスファイト37.90gに、触媒であるトリエチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(80℃における粘度:25mPa・s)を2.00g溶解した。この液を攪拌しながら20〜25℃で三塩化リン16.80gを滴下した。滴下終了後、25〜30℃で6時間反応を行い、ジエチルクロロホスファイトを生成させた。
生成したジエチルクロロホスファイトを含む反応液を、図1に示す分離装置10の薄膜蒸留装置20に供給した。薄膜蒸留装置20内は5kPaの減圧状態にした。薄膜蒸留装置20における内管21に−10℃のケロシンを循環させて、外側面21aを冷却した。また、ジャケット22に90℃のシリコンオイルを循環させて、内壁面22aを80℃に加熱した。反応液を薄膜蒸留装置20内に連続的に供給し、30分後に液の供給を停止した。その結果、内管21の外側面21aを流下してきた液51.00g(収率95.2%)及びジャケット22の内壁面22aを流下してきた液5.7gを得た。内管21の外側面21aを流下してきた液中のジエチルクロロホスファイトの純度をガスクロマトグラフィで測定したところ、82.6%であった。また、薄膜蒸留装置20内には、触媒の固化による付着は観察されなかった。
〔実施例2〕
トリエチルホスファイト37.90gに、触媒であるトリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(80℃における粘度:34mPa・s)を2.00g溶解した。この液を攪拌しながら20〜25℃で三塩化リン16.80gを滴下した。滴下終了後、25〜30℃で3時間反応を行い、ジエチルクロロホスファイトを生成させた。ジエチルクロロホスファイトの収率は96.5%であり、純度は88.2%であった。薄膜蒸留装置20内には、触媒の固化による付着は観察されなかった。
〔実施例3〕
トリエチルホスファイト37.90gに、触媒であるトリブチルオクチルホスホニウム・トリフルオロメタンスルホネート(80℃における粘度:52mPa・s)を2.00g溶解した。この液を攪拌しながら20〜25℃で三塩化リン16.80gを滴下した。滴下終了後、25〜30℃で8時間反応を行い、ジエチルクロロホスファイトを生成させた。ジエチルクロロホスファイトの収率は96.1%であり、純度は84.7%であった。薄膜蒸留装置20内には、触媒の固化による付着は観察されなかった。
〔比較例1〕
実施例1で用いた触媒に代えて、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド(80℃では固体)を2.0g用いた。これ以外は実施例1と同様にしてジエチルクロロホスファイトを得た。ジエチルクロロホスファイトの収率は73.5%であり、純度は71.3%であった。薄膜蒸留装置20内には、触媒の固化による付着が観察された。
本発明によれば、反応液から目的物である塩化ホスファイトを蒸発によって分離する工程において、蒸発装置に触媒が付着することを効果的に防止することができる。その結果、本発明によれば、塩化ホスファイトの連続的な製造が可能であり、また高純度の塩化ホスファイトを高収率で製造することができる。
本発明の製造方法における第二工程で好適に用いられる分離装置を示す模式図である。
符号の説明
10 分離装置
20 薄膜蒸留装置
21 内管
21a 外側面
22 ジャケット
22a 内壁面

Claims (5)

  1. 三塩化リンと、(RO)3P(式中Rは、アルキル基、置換アルキル基、フェニル基、置換フェニル基を示す。)で表される亜リン酸トリエステルとを、80℃における粘度が100mPa・s以下である触媒の存在下で反応させて、RO(R’)PCl(式中Rは前記定義と同じであり、R’はRO又は塩素原子を示す。)で表される塩化ホスファイトを製造する第一工程、及び
    第一工程で得られた塩化ホスファイトを含む反応液を短時間で気化させて前記触媒を分離する第二工程を有し、
    前記触媒がトリエチルペンチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート、トリエチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリエチルドデシルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリブチルオクチルホスホニウム・トリフルオロアセテート、トリブチルオクチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリヘキシルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルメチルホスホニウム・ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドから選ばれるものであることを特徴とする高純度塩化ホスファイトの製造方法。
  2. 前記第二工程において、塩化ホスファイトを含む反応液を短時間で気化させて触媒を分離する手段が薄膜蒸留装置を用いて行う請求項1記載の高純度塩化ホスファイトの製造方法。
  3. 前記薄膜蒸留装置は、塩化ホスファイトを含む反応液を加熱して塩化ホスファイトを気化させる手段、及び気化した塩化ホスファイトを冷却して液化する手段を備える請求項2記載の高純度塩化ホスファイトの製造方法。
  4. 前記薄膜蒸留装置は、自然流下式である請求項2又は3記載の高純度塩化ホスファイトの製造方法。
  5. 触媒と液化した塩化ホスファイトとを自然流下させて回収する請求項4記載の高純度塩化ホスファイトの製造方法。
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