JP5445890B2 - 軟磁性薄帯、磁心、磁性部品、および軟磁性薄帯の製造方法 - Google Patents
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ケイ素鋼板は、材料が安価で磁束密度が高いが、高周波の用途に対しては磁心損失が大きいという問題がある。作製方法上、アモルファス薄帯並に薄く加工することは極めて難しく、渦電流損失が大きいため、これに伴う損失が大きく不利である。また、フェライト材料は飽和磁束密度が低く、温度特性が悪い問題があり、動作磁束密度が大きいハイパワーの用途には磁気的に飽和しやすいフェライトは不向きである。
また、高透磁率かつ高飽和磁束密度の軟磁性成形体として、特許文献3に記載されるような超微細結晶を持つアモルファス合金を得た後に熱処理してナノ結晶化する技術も開示された。
結晶粒の体積分率V V は、線分法、すなわち顕微鏡組織中に任意の直線を想定し、そのテストラインの長さをLt、結晶相により占められる線の長さLcを測定し、結晶粒により占められる線の長さの割合LL=Lc/Lt×100により求められる。ここで、結晶粒の体積分率VV=LL である。
Nb、Mo、Ta、Zr等、従来のナノ結晶系で用いられてきた元素には、A元素の偏析や熱拡散を抑える効果があり、多く含みすぎる場合、表面近傍のアモルファス層は得にくくなる。
粗大結晶粒層の平均結晶粒径が母相の平均結晶粒径の2倍よりも大きくなると、磁気異方性が大きくなり、母相とは異なる磁化過程を示す。そのため、磁場印加過程と磁場除去過程の間でヒステリシスが生じやすくなる。組織が異なる複合相状態であるため、異なる磁化回転機構の領域が混在し、損失の増大につながる。粗大結晶粒層の平均結晶粒径を母相の平均結晶粒径の2倍以下とすることで、1.6T、50Hzにおける鉄損が方向性ケイ素鋼板よりも低い0.65W/Kg以下にすることが可能である。この場合、アモルファス層を最表面から120nm以内の深さに有することで、母相の平均粒径よりも2倍以上となる粗大結晶粒の発生確率を抑えることができる。
粗大結晶粒層の平均結晶粒径は母相の平均結晶粒径の1.9倍以下、更には1.8倍以下とすることが好ましい。
前述の合金中に形成する微結晶粒は主にFeを主体とする体心立方構造(bcc)の結晶相であり、Si,B,Al,GeやZr等が固溶しても良い。また、規則格子を含んでも良い。前記結晶相以外の残部は主にアモルファス相であるが、実質的に結晶相だけからなる合金も本発明に含まれる。一部にCuやAuを含む面心立方構造の相(fcc相)も存在する場合がある。
また、アモルファス相が結晶粒の周囲に存在する場合、抵抗率が高くなり、結晶粒成長の抑制により結晶粒が微細化され、より好ましい軟磁気特性が得られる。
本発明の軟磁性薄帯は化合物相が存在しない場合により低い磁心損失を示すが化合物相を一部に含んでも良い。
A元素の量は5原子%を超えるとA元素同士が凝集し、熱拡散が起こりにくくなる。好ましくは3原子%以下とする。また、A元素は、上記の効果を得るために0.1原子%以上、さらには0.5原子%以上、さらには0.8原子%以上を添加することが好ましい。A元素は原料コストを考慮するとCuを選択することが好ましい。
特にBはアモルファスの形成を促進するために重要な元素であり添加することが好ましい。Bの濃度が10≦y≦20原子%であると、Feの含有量を高く維持しつつアモルファス層が安定に得られる。
また、Si、C、P、Al、Ge、Gaを添加すると、結晶磁気異方性の大きいFe−Bが析出開始する温度が高くなるため、熱処理温度を高温にできる。高温の熱処理を施すことで微結晶相の割合が増え、Bsが増加し、B−H曲線の角形性が改善される。また、試料表面の変質、変色を抑える効果がある。Si、C、P、Al、Ge、Gaの添加量は、0原子%超〜7原子%とすることが好ましい。特にSiはこの効果が顕著であり、好ましい。
但し、特に高い飽和磁束密度を得るためには、これらの元素の総量が1.8原子%以下とすることが好ましい。また、総量が1.0原子%以下とすることがさらに好ましい。
また、保磁力Hcは200A/m以下、さらには100A/m以下の軟磁性合金を実現できる。また、交流比初透磁率μkが3000以上、さらには5000以上の軟磁性合金を実現できる。
単ロール法などの超急冷法は、活性な金属を含まない場合は大気中あるいは局所Arあるいは窒素ガスなどの雰囲気中で行うことが可能であるが、活性な金属を含む場合はAr,Heなどの不活性ガス中、窒素ガス中あるいは減圧中、あるいはノズル先端部のロール表面付近のガス雰囲気を制御する。また、CO2ガスをロールに吹き付ける方法や、COガスをノズル近傍のロール表面付近で燃焼させながら合金薄帯製造を行う。
単ロール法の場合の冷却ロール周速は、15m/sから50m/s程度の範囲が望ましく、冷却ロール材質は、熱伝導が良好な純銅やCu−Be、Cu−Cr、Cu−Zr、Cu−Zr−CrやCu−Ni−Siなどの銅合金が適している。大量に製造する場合、板厚が厚い薄帯や広幅薄帯を製造する場合は、冷却ロールは水冷構造とした方が好ましい。
また、2つ以上の異なる組織の層を同一薄帯内に存在する本発明の軟磁性薄帯を得るためには、熱処理温度が300℃以上の平均昇温速度が100℃/min以上とする。高温域での熱処理速度が特性に大きな影響を与える。また、300℃の熱処理温度を超える際の昇温速度が130℃/min以上、さらには150℃/min以上となるようにすることが好ましい。
以上の熱処理を施すことによりアモルファス層の出現する場所を薄帯の表面から120nm以内に制御でき、目的とする組織が得られやすくなる。
使用時に磁化する方向とほぼ垂直な方向に磁界を印加しながら熱処理した本発明の軟磁性薄帯は、従来の高飽和磁束密度の材料よりも低い磁心損失が得られる。
単ロールを用いた液体急冷法で幅5mm、厚さが約20μmの表1に示す組成の薄帯を作製した。1300℃に加熱した合金溶湯を周速32m/sで回転する外径300mmのCu−Be合金ロールに噴出し合金薄帯を作製した。X線回折および透過電子顕微鏡(TEM)観察の結果、非晶質相中に体積分率で30%未満で分散した組織であることが確認された。この薄帯に300℃以上の平均昇温速度が約200℃/minとなるように熱処理を施した。保持温度を450℃で10分間とし、その後、放冷して本発明の軟磁性薄帯を得た。
各試料において、薄帯の最表面に厚さ約20nmの結晶層、その内側に厚さ約30nmのアモルファス層、さらにその内側に厚さ約50〜60nmの粗大結晶粒層が存在し、それよりも内部側には平均粒径が約20nmの微細結晶粒が80%以上で存在する母相組織が存在していた。図1に本発明の軟磁性薄帯(実施例1−1〜1−4)の鉄損(P)の磁束密度(B)依存性を示す。また、表1に本発明の軟磁性薄帯の合金組成(原子%で表す。以下の表も同様)、1.6T、1.7Tで50Hzの条件で測定した飽和磁束密度Bs、および鉄損P16/50、P17/50のデータを示す。比較のため、方向性ケイ素鋼板のデータも共に示す。異相はいずれの組成においても1%以下であった。特に実施例1−4では、1.75Tにおける鉄損P17.5/50は0.51W/Kgで、この領域でも方向性ケイ素鋼板の鉄損の約半分である。
本発明の軟磁性薄帯の飽和磁束密度はFe系アモルファス材の飽和磁束密度の上限の1.65Tよりも約15%高く、本発明の軟磁性薄帯の鉄損は約1.55Tから1.76Tまでの広い磁束密度の領域でFe系アモルファス材および方向性ケイ素鋼板よりも優れた鉄損特性を示す。
実施例1で作製した軟磁性薄帯を使用し、皮相電力を測定した。図2に本発明の軟磁性薄帯の皮相電力(S)と磁束密度(B)との関係を示す。また、表2に本発明の軟磁性薄帯(実施例1−1〜1−4)の合金組成で、1.55T、1.60T、1.65Tで50Hzの条件で測定した皮相電力S15.5/50、S16/50、S16.5/50のデータを示す。比較のため、方向性ケイ素鋼板のデータも共に示す。
本発明の軟磁性薄帯は、約1.55Tから1.7Tの広い磁束密度の領域で、Fe系アモルファス材および方向性ケイ素鋼板よりも優れた皮相電力特性を示す。実施例1の結果とあわせると、磁束密度範囲が1.55Tから1.75Tの領域で本発明の軟磁性薄帯が特に優れた軟磁気特性を示している。
実施例1で作製した軟磁性薄帯を使用し、400Hzと1kHzでの周波数で鉄損を測定した。表3には、本発明の軟磁性薄帯と方向性ケイ素鋼板の1.0T、400 Hzおよび0.5T、1kHzでの鉄損、P10/400、P5/1kを示す。周波数が高くなるほど、発明材料と方向性ケイ素鋼板の鉄損の差が大きくなり、高周波の用途に適していることがわかる。また、図3に実施例1-4の軟磁性薄帯を用いて鉄損の磁束密度依存性を各周波数ごとに測定した結果を示す。
単ロールを用いた液体急冷法で厚さが約20μmのFebal.Cu1.4Si4B14 (原子%)の合金組成からなる薄帯を作製した。X線回折および透過電子顕微鏡(TEM)観察の結果、非晶質相中に体積分率で30%未満で分散した組織であることが確認された。
この薄帯に300℃以上の平均昇温速度が約200℃/minとなるように熱処理を施した。保持温度を450℃で10分間とし、その後、放冷して本発明の軟磁性薄帯を得た。
図4にこの軟磁性薄帯の熱処理後の組織写真を示す。図8はこの組織写真の模式図である。また、図5は本発明軟磁性薄帯の結晶層A、アモルファス層B、粗大結晶粒層Cの状態を示す簡略図である。最表面2から順に、薄帯の最表面に厚さ約20nmの結晶層A、その内側に厚さ約30nmのアモルファス層B、さらにその内側に平均粒径30nmの粗大化した結晶粒からなる層(粗大結晶粒層C)が厚さ約50〜60nmで存在し、それよりも内部側には平均粒径が約25nmの微細結晶粒が80%以上で存在する母相組織Dが存在していた。
図6のように単板状の軟磁性薄帯の試料を折り曲げた際、薄帯が割れずに曲げることができる最小の限界の直径Dcを測定した。限界の直径Dcが小さいほど靭性に優れていると判断できる。表4には液体急冷法で実施例1と同様にして約20μmの各組成の薄帯を作製し、熱処理の際の300℃以上の平均昇温速度が約200℃/minとなるように、450℃で10分間の熱処理を施した軟磁性薄帯を作製した。この軟磁性薄帯の表面近傍のアモルファス層の幅と限界の直径Dcの関連を示す。また、表4には熱処理条件を変えて、アモルファス層の幅を広くした試料と、エッチングによりアモルファス層を除去した試料の限界の直径Dcも示す。アモルファス層が存在することで、試料の靭性が向上することが解る。一方、アモルファス層がない場合、薄帯は脆化し、取り扱いが困難になる。本発明材料は、損失が少なく、かつ薄帯の靭性が高いという特徴を持つ。
単ロール法で、厚さ約20μmのFebal.Cu1.35Si2B14 (原子%)の合金組成からなる薄帯を作製した。この合金を用いてJIS規格C12コアを作製し、磁場中で熱処理を施し、高周波特性を観測した。図7は本発明の軟磁性薄帯の0.2Tにおける鉄損の周波数特性を示したものである。比較のためにFe系アモルファスと電磁鋼板のデータも示す。いずれの周波数領域においても本発明の軟磁性薄帯の鉄損Pは低く、高周波特性が良好である。そして、交流初透磁率μ/μ0の周波数依存性を確認したところ、100kHzにおいてもμ/μ0は約7000を示した。また熱処理時の印加磁場を100kA/m以上の強磁場とすることで、100kHzにおけるμ/μ0は約3500となる。
表5−1、表5−2に示す組成の本発明の軟磁性薄帯を製造した。軟磁性薄帯の幅は約5mm、厚さは約21μmである。いずれも薄帯の表面から120nm以内の深さに厚さが40nm以下のアモルファス層、および、その内部側に微細結晶粒が80%以上で存在する母相組織が存在していた。
熱処理温度と飽和磁束密度、および、1.6T、50Hzにおける鉄損の値を示す。300℃以上の平均昇温速度は100℃/minと200℃/minの二通りで行った。得られた軟磁性薄帯の鉄損P16/50は、全て0.65W/Kg以下である。また、この表5−1、表5−2で示す組成の軟磁性薄帯は、いずれも図6に示した折り曲げ限界直径Dcが5mm以下である。
合金組成がFebal.Cu1.25Si2B14(原子%)の1250℃に加熱された合金溶湯をスリット状のノズルから回転する外径約300mmのCu−Be合金ロールに噴出し、幅5mmで非晶質相中の結晶粒体積分率の異なる合金薄帯を作製し、結晶粒体積分率を透過電子顕微鏡像より求めた。次にこの合金薄帯を外径19mm、内径15mmに巻き回し巻磁心を作製し410℃で1時間の熱処理を行い、熱処理後の飽和磁束密度Bs、保磁力Hcを測定した。なお、熱処理後の合金の結晶粒体積分率は30%以上であり、Bsは1.8T〜1.87Tを示した。
表6に熱処理後の保磁力Hcを示す。熱処理前の合金中に結晶粒が存在しない合金を熱処理し、熱処理後非晶質相中の結晶粒が60%になるように熱処理した場合、保磁力Hcは750A/mと著しく大きくなった。熱処理前における非晶質相中の結晶粒の体積分率が30%未満の合金を熱処理した場合、熱処理後のHcは小さく、本発明の製造方法により高Bsで軟磁性に優れた合金が実現できることが確認された。これに対して、熱処理前における非晶質相中の結晶粒の体積分率が30%以上の合金を熱処理し、残りの非晶質相を結晶化させた合金では、粗大化した結晶粒が存在するようになり保磁力Hcが増加する傾向を示すことが分った。
以上のように、Fe量の多い高Bs材で熱処理前の急冷したままの状態で微細な結晶粒が0%超30%未満分散した組織の合金を熱処理し、更に結晶化を進めた合金の軟磁性は、完全な非晶質状態の合金や結晶粒が30%以上存在する合金よりも優れていることが分った。
Claims (9)
- 組成式:Fe100-x-yAxXy(但し、AはCuあるいはCu及びAuであり、XはB、Si、C、P、Al、Ge、Gaから選ばれた少なくとも一種の元素でBとSiは必須で含み、原子%で、1<x≦3、10≦y≦24)により表され、薄帯の表面から深さ120nmの位置で平均結晶粒径が60nm以下(0を含まず)の結晶粒が非晶質相中に体積分率で30%以上分散した母相組織を有し、かつ薄帯の表面から120nm以内の深さにアモルファス層を有することを特徴とする軟磁性薄帯。
- 前記軟磁性薄帯は、最表面に結晶組織から成る結晶層が形成され、前記結晶層の内部側に前記アモルファス層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性薄帯。
- 前記アモルファス層と母相組織の間に母相組織の平均粒径に対して1.5倍以上の結晶粒を有する粗大結晶粒層を有し、当該粗大結晶粒層の平均結晶粒径は、前記母相組織の平均結晶粒径の2倍以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軟磁性薄帯。
- 請求項1〜3の何れか1項に記載の軟磁性薄帯を用いた磁心であって、磁束密度1.6T、周波数50Hzで測定した鉄損が0.65W/kg以下であることを特徴とする磁心。
- 請求項1〜3の何れか1項に記載の軟磁性薄帯、または請求項4に記載の磁心を用いた磁性部品。
- 組成式:Fe100-x-yAxXy(但し、AはCuあるいはCu及びAuであり、XはB、Si、C、P、Al、Ge、Gaから選ばれた少なくとも一種の元素でBとSiは必須で含み、原子%で、1<x≦3、10≦y≦24)により表される合金溶湯を急冷することにより、平均粒径30nm以下(0を含まず)の結晶粒が非晶質相中に体積分率で0%超30%未満で分散した母相組織からなるFe基合金の薄帯を作製する工程と、前記薄帯に熱処理を行い薄帯の表面より深さ120nmの位置で平均粒径60nm以下の体心立方構造の結晶粒が非晶質相中に体積分率で30%以上分散した母相組織を有し、薄帯の表面から120nm以内の深さにアモルファス層を有する組織となす熱処理工程を有し、前記熱処理は300℃以上からの平均昇温速度が100℃/min以上で480℃以下の保持温度まで昇温する工程を有することを特徴とする軟磁性薄帯の製造方法。
- 前記Bは10原子%〜20原子%、Siは0原子%超〜7原子%の範囲で含むことを特徴とする請求項6に記載の軟磁性薄帯の製造方法。
- 前記保持温度が450〜480℃であることを特徴とする請求項6又は7に記載の軟磁性薄帯の製造方法。
- 前記Fe基合金の薄帯の結晶粒が体積分率で3%以上30%未満であることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の軟磁性薄帯の製造方法。
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