特許文献1に記載の発明では、ドアガラスの昇降装置やドアガラスのガイド部材等を組み合わせてモジュールサポートを形成し、このモジュールサポートをドアガラスとドアライニングとの間にドアインナパネルとは別体として配置している。そのため、ドアの薄型化が困難であるとともに、部品点数が増大するという問題がある。
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであって、薄型化が可能な車両用ドアを提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、車両用ドア(10)であって、車両の外表面となるドアアウタパネル(12)と、前記ドアアウタパネルの車内側に設けられるとともに、その周縁部において前記ドアアウタパネルに結合され、前記ドアアウタパネルとともに中空状のドア本体(26)を形成するドアインナパネル(13)と、前記ドアインナパネルの車内側に配置されたドアガラス(15)と、前記ドアインナパネルと前記ドアガラスとの間に設けられ、前記ドアガラスを前記ドアインナパネルに対して昇降可能に支持する昇降装置(16)とを備え、前記昇降装置は、前記ドアガラスの昇降方向に延在し、前記ドアインナパネルに一体形成された少なくとも1つのガイドレール(51,52,53)と、前記ドアガラスに連結されるとともに、前記ガイドレールに摺動可能に係合した少なくとも1つのスライダ部材(45,46,47)と、駆動力伝達装置(48,49)を介して前記ドアガラスに連結され、前記ドアガラスを昇降させる駆動力を発生する駆動力発生装置(50)とを有することを特徴とする。
従来の、ドアガラスをインナパネルとアウタパネルとの間に配置する構造では、ドアラガラスを支持する昇降装置をインナパネルとアウタパネルとの間に配置するために、作業開口をインナパネルに形成する必要があった。しかし、本発明によれば、ドアガラスがインナパネルの車内側に配置されるため、昇降装置をインナパネルの車内側に設けることができ、インナパネルに作業開口を形成する必要がなく、ドア本体の剛性を高めることができる。また、ガイドレールをドアインナパネルに形成したことによって、モジュールサポートを省略することができ、部品点数の削減およびドアの薄型化が図れる。また、作業開口を省略することによって剛性が高められたインナパネルにガイドレールを設けたことから、ガイドレールの剛性が高められ、ドアガラスの支持剛性が高められる。
本発明の他の側面は、前記ガイドレールは、前記ドアインナパネルに昇降方向に延在するように形成されたスロット(細長孔)であり、前記スライダ部材は、前記スロットの側縁部(59,60,73,74,83,84)に摺動可能に係合することを特徴とする。
この構成によれば、ガイドレールを簡素な構造とすることができるとともに、インナパネルのプレス成形時に同時に形成することができる。
本発明の他の側面は、前記スロットは、長手方向に沿った互いに対向する側縁部の一方に切起部(76,86)を備え、前記スライダ部材は、前記スロットの長手方向に沿った互いに対向する側縁部の他方を摺動可能に受容する溝部(97,106,116)と、前記切起部に当接する当接部(94,103,113)とを有することを特徴とする。
この構成によれば、スライダの構造を簡素にすることができる。また、スライダはスロットの幅方向(短手方向)への移動が規制され、ドアガラスを確実に昇降方向へとガイドすることができる。
本発明の他の側面は、前記ガイドレールは、少なくとも2つ設けられ、それらは互いに平行となるように配置され、かつそれぞれスライダ部材が摺動可能に係合され、前記スロットの少なくとも2つは、互いに近接する側の前記側縁部に前記スライダの前記当接部が当接する前記切起部を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、少なくとも2つのガイドレールの切起部が互いに相反する側において各スライダに当接するため、ドアガラスに連結された各スライダの位置が、前記ドアガラスの昇降方向に直交する方向であって、前記ドアガラスの主面に沿った方向において規制される。これにより、ドアガラスはガイドレールおよびスライダによってを確実にガイドされる。
本発明の他の側面は、前記ガイドレールは、前記ドアガラスの昇降方向に直交する方向であって、前記ドアガラスの主面に沿った方向における前記ドアガラスの少なくとも両端部に対向する部分のそれぞれに形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、ドアガラスは主面に沿った両端部でガイドレールにガイドされるため、安定した状態で昇降される。
本発明の他の側面は、前記ドアガラスの下端部に沿って一端から他端へと延在して前記ドアガラスを支持するとともに、前記スライダが結合されたガラスホルダ(44)を備え、前記ガラスホルダは、車外側および車内側に突出するとともに、前記一端から前記他端へと延在する2つのフランジ部(122)を有し、前記ドアガラス通過孔(36)の周縁部には、前記ドアガラスに摺接して前記ドアガラス通過孔を封止するベルトラインモール(137)が設けれ、前記フランジ部のそれぞれは、前記ドアガラスが前記ドア本体に対する昇降範囲内において最も上方に位置する状態において、前記ベルトラインモールに当接する。
この構成によれば、ガラスホルダによってドアガラスの下端を確実に支持し、ドアガラスの振動を抑制することができる。また、ドアガラスが上方に位置するときにおいて、ガラスホルダのフランジ部がベルトラインモールに当接し、ガラスホルダの振動を抑制することができる。また、フランジ部とベルトラインモールの下部を覆うことによって、遮音性をより高める(音漏れを防止する)ことができる。
本発明の他の側面は、前記スロットは、前記ドアガラスが前記ドア本体に対する昇降範囲内において最も下方に位置する状態において、前記スライダよりも下方へと延び、前記インナパネルには、前記スロットの下端に連続した前記スロットの短手方向幅よりも幅広の下端貫通孔(58)が形成されていることを特徴とする。ここでのスロットの短手方向とは、スロットの長手方向(延在方向)に直交する方向をいう。
この構成によれば、下端貫通孔を通してスライダをスロットに係合させることができる。
本発明の他の側面は、前記駆動力伝達装置は、前記インナパネルの車内側であって前記スロットの下方に配置されたワイヤ巻取ドラム(49)と、前記インナパネルの車内側であって前記スロットの上方に配置されたプーリ(135)と、前記ワイヤ巻取ドラムと前記プーリとの間に巻き掛けられるとともに、一部において前記スライダと連結されたワイヤ(48)とを備え、前記駆動力発生装置は、前記巻取ドラムを回転駆動する電動モータ(50)であり、前記インナパネルには、前記スロットの下端に連続した前記スロットの短手方向幅よりも幅広の下端貫通孔(58)と、前記スロットの上端に連続した前記スロットの短手方向幅よりも幅広の上端貫通孔(59)とが形成され、前記ワイヤは、前記下端貫通孔および前記上端貫通孔を通過し、前記インナパネルと前記アウタパネルとによって画成される空間(25)内に配置されていることを特徴とする。
この構成によれば、簡素な構成でワイヤをガイドすることができる。また、ワイヤをインナパネルとアウタパネルとの間に形成された空間に収容し、インナパネルの車内側部分の構成を簡素にすることができる。
本発明の他の側面は、前記スロットは、長手方向に沿った互いに対向する側縁部の一方に、前記アウタパネル側へと開口するともに、長手方向に沿って延在する溝部(65)を備え、前記ワイヤは、少なくとも一部分が前記溝部に受容され、当該溝部にガイドされることを特徴とする。
この構成によれば、ワイヤをより確実にガイドすることができる。
以上のように構成することによって、車両用ドアの薄型化および部品点数の削減が図れる。
以下、図面を参照して、本発明を自動車の運転席のフロントサイドドアに適用した実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、車両の進行方向を前方とし、ドアを車両に対して閉じた状態を基準として各方向を定める(図1に示す座標軸を基準とする)。
<実施形態の構成>
図1に示すように、運転席のフロントサイドドア(車両用ドア)10は、上部に窓枠を備えたサッシュドアである。フロントサイドドア10は、その前端部がヒンジを介して自動車の運転席の乗降開口に回動可能に結合される。フロントサイドドア10は、車体外面を構成するアウタパネル(ドアアウタパネル)12と、アウタパネル12の車内側に配置されたインナパネル(ドアインナパネル)13と、インナパネル13の車内側に配置され、車内側面を構成するドアライニング14と、インナパネル13とドアライニング14との間に上下方向に昇降可能に配置されたドアガラス15と、ドアガラス15を昇降させる昇降装置16とを主要構成要素として備えている。
図2に示すように、インナパネル13は、下部の板状部21と、板状部21の上端に連結され、板状部21の上縁部とともに窓開口22を画成する窓枠部23とを備えている。板状部21は、上下方向および前後方向における中間部が車内側に膨出した形状に形成されている。インナパネル13の板状部21および窓枠部23は、1つの連続した鋼板をプレス成形することによって形成されている。アウタパネル12も、鋼板をプレス成形することによって形成されている。アウタパネル12とインナパネル13の板状部21とは、それぞれの周縁部において互いに結合され、内部に空間25を有する中空形状(袋綴じ形状)のドア本体部26を構成している(図4参照)。アウタパネル12およびインナパネル13の板状部21の周縁部は、アウタパネル12の周縁部が、インナパネル13の板状部21の周縁部を巻き込むようにヘミング加工されている。インナパネル13の板状部21の前端部分は、ヒンジ(図示しない)を介して乗降開口の一側縁(前側縁)を構成するフロントピラー(図示しない)に固定されている。
インナパネル13の窓枠部23は、その上辺部27から板状部21の上縁部へと上下方向に延在する分割柱28を有し、窓開口22は分割柱28によって前側窓開口22Aと後側窓開口22Bとに分割されている。前側窓開口22Aには、ガラスパネル29が開閉不能に嵌め入れられている。後側窓開口22Bは、昇降するドアガラス15によって開閉される。窓枠部23のガラスパネル29およびドアガラス15と接触する部分には、ゴム部材からなるモール(図示しない)が配設されている。
図2〜図4に示すように、インナパネル13の板状部21の車内側を向く面には、第1ライニング支持部材31と、第2ライニング支持部材32とが取り付けられている。第1ライニング支持部材31は、板状部21の上端付近に、前後方向に延在するように配置され、その前後端部において板状部21の表面に連結されている。第1ライニング支持部材31は、前後端部を除いて、大部分が車内側へと突出しており、板状部21との間に空隙を形成している。第2ライニング支持部材32は、下端部が板状部21の後下部に連結され、板状部21の前上部へと延び、上端部が第1ライニング支持部材31の前後方向における中間部に連結されている。第2ライニング支持部材32は、下端部を除いて、大部分が車内側へと突出しており、板状部21との間に空隙を形成している。ドアガラス15は、昇降装置16を介してインナパネル13の車内側を向く部分に支持され、インナパネル13と第1および第2ライニング支持部材31,32との間に形成された空隙内に配置されている。
ドアライニング14は、樹脂成形品であり、上下方向および前後方向における中間部が車内側へと膨出した形状に形成されている。図4に示すように、ドアライニング14は、第1ライニング支持部材31および第2ライニング支持部材32に支持され、その上縁部33を除く、前後側縁部および下縁部においてインナパネル13に当接している。ドアライニング14は、ねじやクリップ等の締結部材によって、インナパネル13および第1ライニング支持部材31、第2ライニング支持部材32の適所に固定されている。このようにして、ドアライニング14とインナパネル13(ドア本体部26)との間に空間34が画成されるともに、ドアライニング14の上縁部33とドア本体部26の上縁部35との間には、前後方向に延在するドアガラス通過孔36が画成される。
ドアライニング14の上縁部33およびドア本体部26の上縁部35には、ゴム等の可撓性部材から形成されたベルトラインモール137が配設されている。ベルトラインモール137は、ドアライニング14の上縁部33およびドア本体部26の上縁部35に装着される基部138と、基部138に突設されたひだ状部139とを備えている。ひだ状部139は、昇降するドアガラス15に摺接して、ドアガラス通過孔36を封止する。
ドアライニング14の適所には、車内側ドアハンドル37を取り付けるための貫通孔38や、自動車の乗降開口のセンタピラー(図示しない)に取り付けられたストライカ(図示しない)が挿通可能な貫通孔39、アームレスト部40、収納凹部41が形成されている。なお、図示を省略するが、アームレスト部40の上面には各サイドドアのパワーウインドウを操作するための操作パネル等が設けられている。また、空間34内の貫通孔39の裏側部分には、自動車の乗降開口に取り付けられたストライカと係合して、フロントサイドドア10を乗降開口に対して閉状態に維持するドアロック装置42が設けられている。
図2に示すように、ドアガラス15をインナパネル13に対して昇降可能に支持する昇降装置16は、ドアガラス15の下端を支持するガラスホルダ44と、ガラスホルダ44に連結されたキャリアプレート(スライダ部材)45および第1ガイドプレート(スライダ部材)46、第2ガイドプレート(スライダ部材)47と、キャリアプレート45を摺動可能に支持するべくインナパネル13の板状部21に一体形成された主ガイドレール(ガイドレール)51と、キャリアプレート45に連結されたワイヤ(駆動力伝達装置)48と、ワイヤ48を巻き取るワイヤ巻取装置(駆動力伝達装置)49と、ワイヤ巻取装置49を駆動する電動モータ(駆動力発生装置)50と、第1ガイドプレート46および第2ガイドプレート47をガイドするべくインナパネル13の板状部21に一体形成された第1補助ガイドレール(ガイドレール)52および第2補助ガイドレール(ガイドレール)53とを主要構成要素として備えている。
ガラスホルダ44は、ドアガラス15の下縁部の概ね全域にわたって延在し、ドアガラス15の下縁部を受容可能なように上方に開口したU字形の断面形状を有する支持部121と、支持部121の各上端部から車内側または車外側に突出したフランジ部122a,122bとを備えている。支持部121および各フランジ部122は、それぞれドアガラス15の下縁に沿って延在している。支持部121の下端部の前後方向における中間部および両端部のそれぞれには、下方へと突出する板片状の第1〜第3締結部123,124,125が形成されている。各締結部123〜125には貫通孔(図示しない)が形成されている。ガラスホルダ44は、樹脂材料や金属材料から形成されてよいが、金属材料から形成されることが好ましい。また、ガラスホルダ44は、第1〜第3締結部123,124,125が設けられた部分に近づくほど支持部121の肉厚が増大し、剛性が高められていることが好ましい。これにより、ガラスホルダ44が振動する際に節となる部分の剛性が高められ、振動を低減することができる。
図3に示すように、主ガイドレール51、第1補助ガイドレール52、第2補助ガイドレール53は、それぞれ略直線状の細長孔に形成されたスロットであり、主ガイドレール51の前方に第1補助ガイドレール52が配置され、主ガイドレール51の後方に第2補助ガイドレール53が配置され、互いに平行となっている。ドアガラス15がインナパネル13に対して所定の取付位置に配置された状態で、主ガイドレール51は第1締結部123に相対し、第1補助ガイドレール52は第2締結部124に相対し、第2補助ガイドレール53は第3締結部125に相対する。各ガイドレール51,52,53は、上方に向かうにつれて後方に向かうように傾斜して延在している。各ガイドレール51,52,53は、インナパネル13をプレス成形によって形成する際に、同時に形成されている。
主ガイドレール51は、板状部21の主面21Aから段違いに車外側へと凹設された凹部55内に形成されている。主ガイドレール51は、若干傾斜して上下方向に延在する一定幅のスロット部56と、スロット部56の上端および下端に連続するスロット部56よりも幅広の上端貫通孔57および下端貫通孔58とを有している。図6に併せて示すように、スロット部56の長手方向に沿って延在する縁部は、互いに対向する前側縁部59および後側縁部60を構成している。前側縁部59および後側縁部60は、凹部55の底面から車内側へと延びる傾斜部61,62と、傾斜部61,62の車内側端部から板状部21の主面21Aと概ね平行に延びる頂部63,64とを備えている。また、後側縁部60の頂部64の車外側を向く部分には、主ガイドレール51と平行に延在し、車外側に向けて開口するガイド溝65が凹設されている。
図3に示すように、第1補助ガイドレール52は、主ガイドレール51のスロット部56と平行に延在する一定幅のスロット部71を有している。図6に示すように、スロット部71の長手方向に沿って延在する前側縁部73および後側縁部74は、板状部21の主面21Aから車外側へと切り起こされて延びる傾斜部75,76と、傾斜部75,76の車外側端部から板状部21の主面21Aと概ね平行に延びる頂部77,78とを備えている。後側縁部74の傾斜部76は、前側縁部73の傾斜部75に比べて車外側への突出長さが大きくなっている。これにより、後側縁部74の頂部78は前側縁部73の頂部77に対して車外側に偏倚している。
図3に示すように、第2補助ガイドレール53は、主ガイドレール51のスロット部56と平行に延在する一定幅のスロット部81を有している。図6に示すように、スロット部81の長手方向に沿って延在する前側縁部83および後側縁部84は、板状部21の主面21Aから車外側へと切り起こされて延びる傾斜部85,86と、傾斜部85,86の車外側端部から板状部21の主面21Aと概ね平行に延びる頂部87,88とを備えている。前側縁部83の傾斜部85は、後側縁部84の傾斜部85に比べて車外側への突出長さが大きくなっている。これにより、前側縁部83の頂部87は後側縁部84の頂部88に対して車外側に偏倚している。
主ガイドレール51には、キャリアプレート45が摺動可能に支持されている。図6に示すように、キャリアプレート45は、車内側にボルト孔92(図5参照)が形成された本体部93と、本体部93の車外側側面に突設されたフック部94とを備えている。フック部94は、本体部93に対して概ね垂直に延出する基部95と、基部95の先端から基部95に対して直交する方向(前後方向)に延出する先端部96とを有して、概ねL字状に形成されている。フック部94と本体部93の車外側側面との間には、上下方向に延びる溝部97が形成されている。基部95は、主ガイドレール51のスロット部56に挿通可能な大きさに形成されている。フック部94の先端部96の先端には、ワイヤ48を把持することができるワイヤ固定溝98が形成されている。
下端貫通孔58を通してフック部94をインナパネル13の車外側へと挿入し、その状態からフック部94をスロット部56内へとスライドさせることによって、溝部97内に前側縁部59の頂部63が受容される。これにより、キャリアプレート45は、スロット部56に摺動可能に係合する。ガラスホルダ44の第1締結部123とキャリアプレート45とは、第1締結部123の貫通孔を通過してボルト孔92に螺合するボルト126によって締結される。
第1補助ガイドレール52には、第1ガイドプレート46が摺動可能に支持される。第1ガイドプレート46は、車内側面にボルト孔(図示しない)が形成された本体部102と、本体部102の車外側側面に突設されたフック部103とを備えている。フック部103は、本体部102に対して概ね垂直に延出する基部104と、基部104の先端から基部104に対して直交する方向(前後方向)に延出する先端部105とを有して、概ねL字状に形成されている。フック部103と本体部102の車外側側面との間には、上下方向に延びる溝部106が形成されている。
第1ガイドプレート46の第1補助ガイドレール52への係合は、フック部103の先端部105を第1補助ガイドレール52のスロット部71内に押し込むことによって行われる。これにより、溝部106内に第1補助ガイドレール52の前側縁部73の頂部77が受容されるともに、フック部103の基部104が後側縁部74の傾斜部76に当接して規制され、第1ガイドプレート46の第1補助ガイドレール52からの脱離が防止される。ガラスホルダ44の第2締結部124と第1ガイドプレート46とは、図示しないボルトによって締結される。なお、フック部103の基部104は、後側縁部74の傾斜部76に常に当接している必要はなく、第1ガイドプレート46が第1補助ガイドレール52から抜け落ちない程度に、若干の遊び(隙間)を有してもよい。このようにして、第1ガイドプレート46の溝部106は前側縁部73の頂部77に前後方向において略点接触し、基部104は後側縁部74の傾斜部76に前後方向において面接触する。
第2補助ガイドレール53には、第2ガイドプレート47が摺動可能に支持される。第2ガイドプレート47は、第1ガイドプレート46と同様に、ボルト孔(図示しない)が形成された本体部112と、基部114および先端部115からなるL字形のフック部113と、溝部116とを備えている。第2ガイドプレート47の第2補助ガイドレール53への係合は、フック部113の先端部115を第2補助ガイドレール53のスロット部81内に押し込むことによって行われる。溝部116内に第2補助ガイドレール53の後側縁部84の頂部88が受容されるともに、フック部113の基部114が前側縁部83の傾斜部85に当接して規制され、第2ガイドプレート47の第2補助ガイドレール53からの脱離が防止される。ガラスホルダ44の第3締結部125と第2ガイドプレート47とは、図示しないボルトによって締結される。なお、フック部113の基部114は、前側縁部83の傾斜部85に常に当接している必要はなく、第2ガイドプレート47が第2補助ガイドレール53から抜け落ちない程度に、若干の遊び(隙間)を有してもよい。このようにして、第2ガイドプレート47の溝部116は後側縁部84の頂部88に前後方向において略点接触し、基部114は前側縁部83の傾斜部85に前後方向において面接触する。
凹部55内の主ガイドレール51の下方には、ボルト等の締結部材によってワイヤ巻取装置49が取り付けられている。図5に示すように、ワイヤ巻取装置49は、電動モータ50が取り付けられたハウジング131と、ハウジング131内に回転可能に支持され、電動モータ50の駆動軸に設けられたウォームギヤ(図示しない)に噛み合うウォームホイール132と、ウォームホイール132と同軸に設けられ、ウォームホイール132と一体に回転するワイヤ巻取ドラム133とを備えている。
凹部55内であって、上端貫通孔57の上方には、回転可能にプーリ135が支持されている。ワイヤ巻取ドラム133およびプーリ135には、ワイヤ48が巻き掛けられている。図3および図6に示すように、ワイヤ48は、ワイヤ巻取ドラム133の周縁部から延び、下端貫通孔58を通過して、インナパネル13とアウタパネル12とによって画成された空間25内に突入し、ガイド溝65内を上方へと延びる(頂部63,64の車外側部分は空間25に含まれる)。その後、上端貫通孔57を通過してインナパネル13の車内側へと延び、プーリ135に巻き掛けられる。その後、上端貫通孔57を通過して空間25内に再度突入し、スロット部56の前側縁部59の頂部63の車外側の面に沿って下方へと延びる。そして、下端貫通孔58を通過して、インナパネル13の車内側へと延びワイヤ巻取ドラム133に到る。また、ワイヤ48は、頂部63の車外側に位置する部分において、キャリアプレート45のワイヤ固定溝98に把持され、キャリアプレート45に連結されている。
以上の構成によって、電動モータ50によってワイヤ巻取ドラム133が正転または逆転されると、ワイヤ48はワイヤ巻取ドラム133に正方向または逆方向に巻き取られ、キャリアプレート45が主ガイドレール51に沿って上下動する。これにより、ガラスホルダ44を介してキャリアプレート45に連結されたドアガラス15が昇降される。このとき、ガラスホルダ44に連結された第1および第2ガイドプレート46,47が第1および第2補助ガイドレール52,53にガイドされることによって、ドアガラス15は所定の姿勢を維持しつつ昇降される。
<実施形態の作用効果>
アウタパネル12とインナパネル13とによって形成されたドア本体部26のインナパネル13の車内側にドアガラス15を配置したフロントサイドドア10において、主ガイドレール51、第1および第2補助ガイドレール52,53をインナパネル13と一体に形成したため、ガイドレールを別部材に形成し、別部材をドア内に組み付ける場合に比べてフロントサイドドア10の薄型化が図れる。また、各ガイドレール51〜53をスロットとしたため、各ガイドレール51〜53の体積を最小化することができる。また、各ガイドレール51〜53は、インナパネル13のプレス成形時に同時に形成することができるため、製造が容易である。
また、各ガイドレール51〜53が、フロントサイドドア10の中で比較的剛性が高いインナパネル13に一体形成されているため、各ガイドレール51〜53の変形が抑制され、ドアガラス15の円滑な昇降が実現される。また、従来の発明では、アウタパネルとインナパネルとの間に昇降装置を配置するために、インナパネルに作業開口を形成したものがあったが、本実施形態ではワイヤ巻取装置49やプーリ135等の昇降装置16をインナパネル13の車内側を向く面上に取り付け、作業開口を不要にしている。また、窓枠部23が一体に形成されたインナパネル13に各ガイドレール51〜53を形成したため、各ガイドレール51〜53と窓枠部23との位置ずれが小さくなり、ドアガラス15の取り付け誤差(ドアガラス15と窓枠部23の隙間)を小さくすることができる。
また、本実施形態では、ワイヤ48の大部分をアウタパネル12とインナパネル13との間の空間25に通したことによって、インナパネル13の車内側部分の構成を簡素にするとともに、ワイヤ48が他の構成要素に干渉することを防止している。
ガラスホルダ44は、ドアガラス15の下縁に沿って延在し、広範囲においてドアガラス15を支持しているため、キャリアプレート45や第1および第2ガイドプレート46,47からガラスホルダ44を介してドアガラス15に伝達される荷重が分散されるとともに、ドアガラス15の振動が抑制される。また、第1および第2ガイドプレート46,47がガラスホルダ44の前後両端部に連結されているため、ドアガラス15はインナパネル13に対して安定的に支持され、所定の姿勢を維持したまま昇降することができる。
また、第1ガイドプレート46に係合する第1補助ガイドレール52の前側縁部73の頂部77が突出する方向と、第2ガイドプレート47に係合する第2補助ガイドレール53の後側縁部84の頂部88が突出する方向とが互いに対向するため、第1および第2ガイドプレート46,47はガラスホルダ44に連結された状態で、前後方向の変位が規制され、第1および第2補助ガイドレール52,53から脱離できないようになっている。ドアガラス15の前後方向位置は、第1ガイドプレート46の基部104が第1補助ガイドレール52の後側縁部74の傾斜部76に当接し、第2ガイドプレート47の基部114が第2補助ガイドレール53の前側縁部83の傾斜部85に当接することによって規制されている。
また、図7に示すように、ドアガラス15が昇降範囲内において最も上側に位置する際に、ガラスホルダ44のフランジ部122が可撓性を有するベルトラインモール137に当接するため、ガラスホルダ44の振動は、ベルトラインモール137の弾性変形によって吸収される。また、フランジ部122がベルトラインモール137下部の前端から後端までの全域にわたって当接することによってドアガラス通過孔36が封止され、遮音性が向上する。
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、本実施形態では、本発明を自動車の運転席側のフロントサイドドアに適用した例を示したが、助手席側フロントサイドドアやリアサイドドア、テールゲート等に適用してもよい。また、サッシュドアに代えてサッシュレスドアや、窓枠部がインナパネルと別体に設けられるサッシュ別体型ドア(ロールサッシュドア)等にしてもよい。
また、昇降装置には、ワイヤおよびワイヤ巻取装置を用いた機構を実施形態では使用したが、公知の様々な機構を適用することができる。例えば、キャリアプレートにラック軸を連結し、ラック軸を電動モータに連結されたピニオンによって変位させる機構を用いてもよい。また、主ガイドレール51にキャリアプレート45を取り付けるための下端貫通孔58を形成したが、各ガイドプレート46,47の各補助ガイドレール52,53への取り付けをより容易にすべく、各スロット部71,81の下端に、各スロット部71,81の幅よりも幅広の下端貫通孔を形成してもよい。また、各補助ガイドレール52,53を省略し、インナパネル13の剛性を向上させてもよい。あるいは、主ガイドレール51を省略し、キャリアプレート45がインナパネル13から離間した状態としてもよい。また、キャリアプレート45を省略し、ワイヤ48をドアガラス15に直接連結してもよい。