実施形態の一例として、定額残置のための計算機能をPOSレジスタに組み入れる形態を挙げる。定額残置のための計算機能とは、金種別の残置枚数を算定する機能である。POSレジスタは、販売時点情報管理(POS:Point of sale)に必要なデータ処理の実行が可能なキャッシュレジスタである。
図1に示されるシステム1はPOSレジスタ2と釣銭機3とを備える。通常、POSレジスタ2および釣銭機3は一組として近接配置された状態で使用され、商品取引に際して連携動作をする。例示のPOSレジスタ2には貨幣を収納する機構および空間はなく、貨幣は釣銭機3によって収納される。釣銭機3は一般に流通する紙幣および硬貨の入出金が可能に構成されている。釣銭機3は、投入口に投入された貨幣を識別して収納し、POSレジスタ2からの要求に応えて釣銭を出金する。以下では本例のシステム1を店員による操作を想定した構成のシステムとして説明するが、釣銭機3のような自動釣銭機を有するシステムは客が操作するセルフシステムとして構成することもできる。
POSレジスタ2は、データ処理装置としての演算部21、メモリ部22、表示部23、操作入力部24および通信部25を有する。これらの要素のうち、演算部21およびメモリ部22によって残置枚数を算定する残置設定装置20が実現される。演算部21は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read-Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を含み、POSレジスタ2の動作を制御する。プログラムを実行するコンピュータとしてのCPUは、ROMに記憶されているプログラムをワークエリアであるRAMにロードして実行する。プログラムには制御プログラムおよび残置に関わる処理プログラムが含まれる。メモリ部22は、演算部21のCPUによるプログラム実行に際して補助記憶装置として使用される。メモリ部22において、後述のように残置枚数に反映される実績データD2が蓄積される。表示部23は、オペレータ(キャッシャ)が操作内容を確認するためのディスプレイと、客が取引金額を確認するためのディスプレイとを含む。操作入力部24は、取引情報を入力するためのキーボードおよびバーコードリーダを含む。レシート発行装置および磁気カードやICカードの読み取りのためのカードリーダも操作入力部24に含まれる。通信部25は、釣銭機3との通信および図示しないホスト装置とのネットワークを介した通信を行うのための信号処理を担う。
一方、釣銭機3は、制御部31、メモリ部32、通信部33、入出金機構34および貨幣収納庫35を有する。制御部31は入出金に伴う機械動作およびデータ処理の制御を担う。メモリ部32は不揮発性メモリを備え、貨幣収納庫35内に収納されている残置分と回収分とを合わせた貨幣の全てについての金種ごとの枚数(現存枚数)を示す在高データD3を記憶する。通信部33はPOSレジスタ2との通信のためのインタフェースである。入出金機構34によって釣銭機3の内部において貨幣が搬送される。貨幣収納庫35は金種別に貨幣を収納する。
以下、残置設定装置20の構成および動作をさらに詳しく説明する。
残置設定装置20の機能は三つに大別することができる。第1は、釣銭準備金として一定額の貨幣を残置する場合の“残置パターン”を最適化するための参考情報として、当該システム1における入出金の実績を記録する機能である。「残置パターン」という用語は、複数の金種の貨幣を残置する場合における、当該複数の金種についての残置枚数の組み合わせを意味する。第2は、記録されている実績を反映させた“推奨残置パターン”と呼称する残置パターンを設定する機能である。第3は、釣銭機3に収納されている貨幣の金種別の枚数(以下、これを現存枚数Nという)に応じて、推奨残置パターンを修正する機能である。この第3の機能によって、釣銭機3からの貨幣の回収に際して実際に適用される“実用残置パターン”と呼称する残置パターンが設定される。
これら三つの機能に対応する要素として、図2のように残置設定装置20は実績データ蓄積部201と推奨残置パターン設定部202と実用残置パターン設定部203とを有する。これら三つの部はプログラムの実行によって実現される機能要素である。実績データ蓄積部201は、釣銭機3からの入手金情報を受けて実績データD2を更新する。推奨残置パターン設定部202は適時に起動され、現存枚数Nを考慮せずに実績データD2に基づいて推奨残置パターンを設定する。そして、実用残置パターン設定部203は釣銭機3からの貨幣の回収作業において起動され、在高データD3のうちの金種別の現存枚数Nを参照して実用残置パターンを設定する。以下、推奨残置パターンが示す各金種の残置枚数を“推奨枚数M”と呼称し、実用残置パターンが示す各金種の残置枚数を“残置枚数Z”と呼称する。
残置設定装置20が入出金の実績に基づく実用残置パターンを設定することによって、回収作業の担当者の負担が軽減される。担当者が釣銭の金種別必要数を予想する必要はなく、予め決められた残置金額(指定金額)と実際に残置する貨幣の合計金額とが一致するように担当者が試行錯誤して残置パターンを決める必要もない。また、担当者が自己の経験則に基づいて残置パターンを決めるのとは違って、記録されている実績に基づいて実用残置パターンを設定することにより、より良い残置を実現することができる。より良いとは、営業中に釣銭が不足する事態が起こりにくいことである。残置が適切であれば、ある商品取引時の釣銭の出金が他の商品取引時の入金によって補われることによって、釣銭として適切な金種の貨幣が釣銭機3内に常に在る状態が保たれる。
好ましい実用残置パターンは、営業の実績に応じた標準的なパターンとして自動的に設定される推奨残置パターンそのものである。したがって、全ての金種について現存枚数Nが推奨枚数M以上であれば、推奨残置パターンがそのまま実用残置パターンに設定される。すなわち、全ての金種について、残置枚数Zが推奨枚数Mとされる。
しかし、実際には、一つまたは複数の金種の現存枚数Nが推奨枚数Mよりも少ない場合が発生する。この場合に実用残置パターン設定部203は、枚数が不足している金種の不足分を他の金種で補う“充当”を行う。そのための手段である充当処理部210を実用残置パターン設定部203は含んでいる。
“充当”に関して留意すべきは、充当に関係する金種が“釣銭金種”に限られることである。釣銭金種とは、釣銭機3から釣銭として出金される可能性のある貨幣の金種である。金種を具体的に記述するために日本国内でのシステム1の使用を想定すると、一般に流通する金種の中の最高額金種である一万円を除いた金種は釣銭として使用することができる。しかし、必ずしも一万円以外の金種の全てを釣銭として使用する必要はない。本実施形態では、流通量の少ない二千円が非釣銭金種に選定され、一万円と二千円とを除いた残りの金種である五千円、千円、五百円、百円、五十円、十円、五円および一円が釣銭金種に選定されている。
なお、推奨残置パターンは釣銭金種のみの残置を前提としたものである。その理由は、決まっている残置金額の全体に釣銭金種を割り当てて非釣銭金種の貨幣を残置しないのが釣銭準備の基本とされているからである。したがって、非釣銭金種の推奨枚数Mは零である。非釣銭金種については、推奨枚数Mが現存枚数Nよりも少ないという釣銭金種の充当必要条件に当てはまる状況は発生しない。
充当を実施したとしても残置金額に適合する実用残置パターンが得られない場合がある。その一つに挙げられるのが、釣銭機3に収容されている貨幣のうちの釣銭金種の貨幣の合計金額が残置金額に満たない場合である。この場合に実用残置パターン設定部203は、非釣銭金種を残置対象に加えることによって釣銭金種の貨幣の不足を補う“代用”を行う。具体的には例えば1枚以上の一万円札を残置する。代用を実施すれば、残置しなければならない釣銭金種の貨幣の合計金額が減額されるので、決まっている残置金額に適合する実用残置パターンが得られる可能性が生まれる。代用のための手段である代用処理部220を実用残置パターン設定部203は含んでいる。
代用の実施によって残置金額に適合する実用残置パターンを得ることは、回収作業の担当者にとって有用である。非釣銭金種の貨幣を残置しても釣銭にはならないが、少なくとも定額残置が不可能な状況は解消される。定額残置が不可能な事態を想定して予め補充用の貨幣が用意されている環境では、担当者は補充用の貨幣を釣銭機3に入金するという対応(補充)をとることができる。しかし、補充には相応の手間がかかる。代用は補充作業の手間を省く効果を奏する。
代用の実施によって非釣銭金種の貨幣が残置されても、それによって釣銭の出金に支障が生じるとは限らない。残置した貨幣のみが現存する状態で営業が開始された後、釣銭金種の貨幣の入金を伴う幾回かの商品取引が行なわれ、それによって適切な額の釣銭準備が整うことは十分にあり得る。代用を実施するという着想は、「推奨残置パターンをそのまま適用することができないのであれば、金種にこだわらずに残置金額の条件を満たすことを目指す」という考え方に基づいている。
残置設定装置20の動作が複数のフローチャートによって示される。
図3のフローチャートが示すように、実績データ蓄積部201は、データを保存する期間を指定する操作の内容を操作入力部24から受け取り、オペレータによって指定された保存期間を設定する(#1、#2)。そして、システム時計が示す日付が変わるごとに、実績データ蓄積部201は保存期間を超過しているデータを削除する(#3)。例えば、保存期間指定の単位は日数であり、デフォルトの保存期間は30日である。オペレータは任意の期間を指定することができる。
商品取引が行なわれるごとに、実績データ蓄積部201は釣銭機3における貨幣の入出枚数を金種別にカウントする(#4)。そして、実績データ蓄積部201は、一回の商品取引における金銭登録を確定させるための精算指示操作に呼応して、金種別のカウントの結果を反映させるようにメモリ部22の実績データD2を更新する(#5、#6)。
図4は推奨残置パターン設定部202の動作にかかわる操作入力画面G1の一例を示している。操作入力部24のディスプレイによって表示される操作入力画面G1において、オペレータはパターン設定の条件を指定することができる。例示の指定項目は、実績を参照する曜日、残置の有無、手動設定と自動設定との選択、参照する実績の期間、残置金額および金種別の最低枚数である。手動設定の場合は最適枚数が項目として加わる。最低枚数は後述の“下限枚数B”に相当する。店側が必要と判断する最低限の枚数が最低枚数(下限枚数B)として指定される。最適枚数は上述の“推奨枚数M”に相当する。操作入力画面G1は、残置金額をはじめとする数値入力の状態を示す領域94,95,96,97,98を有する。
曜日の指定については、月曜から金曜までを指定する平日パターン1と、土曜および日曜を指定する休日パターン2が予め登録されている。パターン選択によって複数の曜日を一括に指定することもできるし、単一または複数の曜日を個別に指定することもできる。
なお、デフォルト状態では、全ての曜日が指定され、参照する実績の期間として保存期間の最古日から最新日までが指定される。参照する実績の期間として保存期間外の期間を指定することはできない。
手動設定の場合において、オペレータは残置金額の条件を満たす範囲内で任意に決めた金種別の枚数を最適枚数(推奨枚数M)として指定する。このとき、前もって所定の状態表示操作によって調べた現存枚数Nを勘案し、そのまま残置に適用可能な枚数を指定することができる。自動設定の場合においては、推奨残置パターン設定部202によって自動的に設定されるので、オペレータが最適枚数(推奨枚数M)を指定する必要はない。
図5のフローチャートは推奨残置パターン設定部202の動作を示す。推奨残置パターン設定部202は自動設定か否かをチェックする(#11)。自動設定が選択されていない場合には、推奨残置パターン設定部202はオペレータによる操作入力画面G1での操作入力に従って推奨枚数Mを設定する(#20)。一方、自動設定が選択されている場合には、推奨残置パターン設定部202は、実績に応じた追加枚数Gを計算し、下限枚数Bに追加枚数Gを加算するという手順で推奨枚数Mを設定する(#11〜#19)。詳しくは次のとおりである。
推奨枚数Mの自動設定は、操作入力画面G1によって指定された条件を計算のために取り込む処理から始まる。残置金額Aと金種別の下限枚数Bとが取り込まれ(#12)、続いて曜日と参照する実績の期間とが取り込まれる(#13)。そして、指定された曜日および期間の両方に該当する日付の金種別の入枚数および出枚数が、実績データD2から抽出される(#14)。
計算に必要なデータを取得した推奨残置パターン設定部202は、“追加金額C”を計算する(#15)。追加金額Cは、下限枚数Bによって決まる最低限の残置すべき貨幣の合計金額と残置金額Aとの差額である。推奨残置パターン設定部202は、各金種の下限枚数Bに当該金種の額面を乗じて金種別の最低残置額を求め、残置金額Aから全金種の最低残置額の合計を差し引く。追加金額Cを表す数式はC=A−Σ(B×額面)である。
次に、推奨残置パターン設定部202は、実績データD2から抽出した入枚数と出枚数とを基に1日当りの平均入枚数と平均出枚数とを金種ごとに計算し、その結果を基に入出の傾向を示す“枚数差D”および“差額E”を金種ごとに計算する(#16、#17)。枚数差Dは平均入枚数から平均出枚数を差し引いた数値であり、正または負の値をとる。入が出より多い場合の枚数差Dは正であり、入が出より少ない場合の枚数差Dは負である。差額Eは枚数差Dに該当金種の額面を乗じた積であり、枚数差Dに応じて正または負の値をとる。ある金種の枚数差Dおよび差額Eが負であり且つ絶対値が大きいとき、当該金種は不足しやすい金種である。
枚数差Dおよび差額Eを求めた推奨残置パターン設定部202は、後述する追加枚数Gの算出処理を実行し(#18)、得られた追加枚数Gを用いて金種ごとに推奨枚数Mを計算する(#19)。このときに適用される推奨枚数Mの計算式はM=B+Gである。推奨枚数Mは釣銭機3が扱う釣銭金種の全てについて設定される。
図6のフローチャートは図5のステップ#18における推奨残置パターン設定部202の動作の詳細を示す。追加枚数Gの算出処理では、非釣銭金種である最高額金種(本例では一万円)を含む釣銭機3の扱う全ての金種について、額面の降順に1金種ずつ追加枚数Gが設定される。すなわち、未選択の金種のうちで最も高額の金種が注目され(#181)、追加枚数Gが決まると次の金種が注目される(#186)。本例において最初に注目される金種は一万円であり、最後に注目されるのは一円である。額面の降順に追加枚数Gを設定することにより、昇順に設定する場合と比べて追加枚数Gの総数が少なくなる。
注目金種について、入出の枚数差Dと下限枚数Bとが比較される(#182)。枚数差Dが下限枚数Bを超える場合は、商品取引によって当該金種の貨幣が貯まると推定される場合である。この場合には追加枚数Gは零(0枚)とされる(#187)。一方、枚数差Dが下限枚数B以下である場合は、当該金種の貨幣が営業中に不足するおそれが比較的に大きい場合である。この場合には追加枚数Gを計算によって決める以下の処理が行なわれる。
まず、比率Fが計算される(#183)。比率Fは、未処理金種の入出の差額Eの合計に対する注目金種の差額Eの割合である。ここでいう未処理金種とは、注目金種と額面が注目金種の額面よりも小さい金種との総称である。便宜的に未処理金種の入出の差額EをE’とすると、比率FはF=E/ΣE’の式で表すことができる。比率Fを計算することによって、注目金種の貨幣が営業中に不足するおそれの相対的な度合いが数値化される。
次に、比率Fを適用して注目金種の追加枚数Gが計算される(#184)。その計算式は、G=C×F÷額面(ただし、少数点以下切捨て)である。すなわち、上述の追加金額Cと比率Fとの積を注目金種の額面で除し、得られた商からその整数部を抽出する演算またはこれに相当する処理によって追加枚数Gが求められる。
そして、追加金額Cが再計算される(#185)。注目金種の追加枚数Gが決まったのに伴って追加金額Cを更新する必要があるからである。追加金額Cから注目金種の追加枚数Gと額面との積を差し引いた結果が、新たな追加金額Cとなる。
以上の図5および図6の示す動作によって設定された推奨残置パターンは、以下に説明する実用残置パターン設定部203の動作において参照される。
図7は実用残置パターン設定部203による演算の概要を示す。また、図8、図9および図10のフローチャートは実用残置パターン設定部203の動作を示す。
図7のように、実用残置パターンの設定の過程は七つの段階1〜7を有する。段階1では、金種別に現存枚数Nおよび推奨枚数Mの双方を超えない枚数が初期枚数Pとして設定される。段階2では、複数の釣銭金種について、初期枚数Pと額面との積の合計が初期設定金額Qとして算出される。段階3では、残置金額Aと初期設定金額Qとの差額である充当必要金額Rが算出される。段階4では、釣銭機3内に現存する貨幣のうちの釣銭金種の貨幣の合計金額と初期設定金額Qとの差額である充当可能金額Sが算出される。段階5では、充当必要金額Rよりも充当可能金額Sが小さい場合に、非釣銭金種の現存枚数Nを超えない範囲内で代用枚数Vが設定される。そして、充当必要金額Rから代用枚数Vと当該非釣銭金種の額面との積を差し引いた金額が枚数未定金額Xとして算出される。段階6では、複数の釣銭金種について1金種ずつ順に、当該1金種の現存枚数Nと初期枚数Pとの差以下の枚数が補正枚数Wに設定される。そして、枚数未定金額Xを零に近づけるように、補正枚数Wと額面との積の分だけ枚数未定金額Xが減額される。段階7では、釣銭金種については金種別に初期枚数Pと補正枚数Wとの和が残置枚数Zに設定され、非釣銭金種については初期枚数Pと代用枚数Vとの和が残置枚数Zに設定される。
図8のフローチャートにおけるステップ#21〜#26の処理は段階1に対応する。推奨残置パターンおよび金種別の現存枚数Nを取得した実用残置パターン設定部203は、最高額金種と上記のとおり選定された釣銭金種とについて1金種ずつ順に初期枚数Pを設定する。注目金種の現存枚数Nが推奨枚数M以上であれば(#24でN≧M)、推奨枚数Mが初期枚数Pに設定される。これに対して、注目金種の現存枚数Nが推奨枚数Mよりも少ない場合には(#24でN<M)、注目金種が最低額金種(一円)でなければ、現存枚数Nが初期枚数Pに設定される。注目金種が最低額金種であれば、釣銭金種の額面のうちの2番目に小さい金額(本例では5円)の数値の整数倍であって且つ当該数値の1倍以上2倍未満の値(5〜9)だけ現存枚数Nより少ない値が初期枚数Pに設定される。
最低額金種の初期枚数Pを現存枚数Nより少なくすることにより、残置する貨幣の合計金額の調整がし易くなり、残置金額に適合する残置パターンが得られ易くなる。最低額金種はその過不足を他の金種で調整することができない金種であるので、最低額金種の初期枚数Pを現存枚数Nとしてしまうと、合計金額が目標とする残置金額より例えば2円少ないとか3円多すぎるとかいう事態が起こり易い。初期枚数Pを現存枚数Nより少なくしておけば、このような事態において五円を1枚増やして一円を3枚数減らしたり、五円を1枚減らして一円を3枚増やしたりする枚数調整が可能となる。
図8のステップ#27の処理は段階2に対応する。実用残置パターン設定部203は、五千から一円までの二千円を除いた釣銭金種のそれぞれについて、初期枚数Pと額面との積を計算する。そして、実用残置パターン設定部203は、全釣銭金種についての初期枚数Pと額面との積の合計を初期設定金額Qとして算出する。
図9のステップ#29および#30の処理が段階3および4に対応する。実用残置パターン設定部203は、残置金額Aから初期設定金額Qを差し引き、その結果を充当必要金額Rとする。また、実用残置パターン設定部203は、充当に使用可能な貨幣の合計金額である充当可能金額Sを算出する。詳しくは、釣銭金種の現存枚数Nに額面を乗じて各釣銭金種の現存金額を求め、全釣銭金種についての現存金額の合計から初期設定金額Qを差し引く。
図9のステップ#31〜#37の処理は段階5に対応し、実用残置パターン設定部203における上述の代用処理部220の機能に相当する。
代用処理部220は、充当必要金額Rと充当可能金額Sとを比較する。充当必要金額Rが充当可能金額S以下の場合(#31でR≦S)は、代用が不要であるので、代用処理部220は代用枚数Vを設定しない。この場合はステップ#31からステップ#37に実行ステップが進む。これに対して、充当必要金額Rが充当可能金額Sを超える場合(#31でR>S)は、次の処理が行なわれる。
代用処理部220は、代用必要枚数Tおよび代用可能枚数Uを算出する。代用必要枚数Tは、最高額金種である一万円のみで代用を行なうのに必要な一万円札の枚数である。代用必要枚数Tは、充当必要金額Rと充当可能金額Sとの差額を最高額金種の額面(10000)で除し、商の少数点以下を切り上げる演算またはそれに相当する処理によって得られる。代用可能枚数Uは、最高額金種である一万円の現存枚数Nと初期枚数Pとの差である。
続いて、代用処理部220は代用必要枚数Tと代用可能枚数Uとを比較する。代用必要枚数Tが代用可能枚数U以下の場合(#34でT≦U)、代用処理部220は代用必要枚数Tを最高額金種の補正枚数Wに設定する。補正枚数Wは初期枚数Pに対して上乗せする枚数である。非釣銭金種である最高額金種の初期枚数Pは零(0枚)であるので、最高額金種の補正枚数Wは実質的に代用枚数Vである。一方、代用必要枚数Tが代用可能枚数Uを超える場合(#34でT>U)には、代用処理部220は代用可能枚数Uを最高額金種の補正枚数W(実質的に代用枚数V)に設定する。
そして、代用処理部220は枚数未定金額Xを算出する(#37)。枚数未定金額Xは、一万円を含む全金種について、各金種の初期枚数Pと補正枚数Wとの和に額面を乗じて合計し、その合計金額を残置金額Aから差し引く演算またはそれに相当する処理によって得られる。ステップ#37の処理を最初に実行する時点では、釣銭金種については補正枚数Wが設定されていないので、枚数未定金額Xは充当必要金額Rから最高額金種の補正枚数(代用枚数V)と額面との積を差し引いた金額に相当する。
図10のフローチャートにおけるステップ#38〜#47の処理は段階6に対応し、実用残置パターン設定部203における上述の充当処理部210の機能に相当する。充当処理部210は、全釣銭金種のそれぞれを額面の降順に注目し、推奨枚数Mが零(0枚)でない釣銭金種について補正枚数Wを設定する。額面の降順に補正枚数Wを設定することによって、すなわち高額金種から充当に割り当てることによって、低額金種が足らないために残置パターンが設定できないという事態の発生を少なくすることができる。また、昇順に設定する場合と比べて、補正枚数Wの総数が少なくなり、それに伴って残置枚数Zが少なくなる。
充当処理部210は、1金種の補正枚数Wが決まるごとに減額される枚数未定金額Xと注目した釣銭金種の額面とを比較する(#40)。額面が現時点の枚数未定金額Xを超える場合は、注目金種の貨幣を充当に利用することができないので、充当処理部210は次の釣銭金種に注目する(#40、#47、#38)。一方、現時点の枚数未定金額Xが注目金種の額面以上であれば(#40でX≧額面)、充当処理部210は次のような処理を行なう。
充当処理部210は、注目金種について必要枚数Yおよび残り枚数Nnを算出する。必要枚数Yは、注目金種の貨幣によって最大限の充当をすると仮定した場合に必要な枚数であり、枚数未定金額Xを額面で除した商の少数点以下を切捨てた値をとる。残り枚数Nnは、注目金種の貨幣のうちの充当に使用可能な金額分の枚数であり、現存枚数Nと初期枚数Pとの差である。
続いて、充当処理部210は必要枚数Yと残り枚数Nnとを比較する。残り枚数Nnが必要枚数Y以上であれば、充当処理部210は必要枚数Yを注目金種の補正枚数Wに設定する(#45)。残り枚数Nnが必要枚数Yよりも少なければ、充当処理部210は残り枚数Nnを注目金種の補正枚数Wに設定する(#44)。
その後、充当処理部210は枚数未定金額Xを再計算する。現時点の枚数未定金額Xから注目金種の額面に補正枚数Wを乗じた積を差し引いた金額が、新たな枚数未定金額Xとされる。そして、再計算の結果が零であれば、充当処理部210は補正枚数Wの設定を終える。再計算の結果が零でなく注目金種より低額の釣銭金種があれば、充当処理部210は注目する金種を切り替えて補正枚数Wの設定を続ける。
図10のステップ#48は段階7に対応する。実用残置パターン設定部203は、釣銭機3の扱う全金種について、初期枚数Pと補正枚数Wとの和を残置枚数Zとして設定する。このとき、非釣銭金種のうち最高額金種については、代用が必要な場合には、補正枚数Wとして代用枚数Vが設定されているので、残置枚数Zは初期枚数Pと代用枚数Vとの和である。通常、非釣銭金種の推奨枚数Mは零であって、推奨枚数Mを踏襲する初期枚数Pも必然的に零であるので、最高額金種の残置枚数Zは代用枚数Vである。
以下、残置設定装置20によって設定される残置パターンの具体例を説明する。
図11に例示される推奨残置パターン10の作成における残置金額Aは100,000円である。推奨残置パターン10は、10,000円、5,000円、2,000円、1,000円、500円、100円、50円、10円、5円および1円の10種の貨幣の合計金額が100,000円となるように設定される。設定には、実績データD2から抽出された入出金の実績と金種別に指定された下限枚数Bとが反映される。
入出金の実績をみると、額面が1,000円以上の金種の枚数差Dが正であり、額面が500円以下の金種の枚数差Dが負である。枚数差Dが正である1000円以上の金種については追加枚数Gが零とされ、下限枚数Bがそのまま推奨枚数Mとなる。追加枚数Gの計算は、枚数差Dが負である500円以下の金種について実施される。
追加枚数Gの計算に係る追加金額Cは33,340円である。これは、残置金額Aである100,000円から下限枚数Bと額面との積の全金種についての合計である66,660円を差し引いた金額である。追加金額Cの33,340円が500円以下の金種に対して額面の降順に振り分けられる。
追加金額Cの振り分けは上述の比率Fに依存する。例えば、500円の比率Fは、500円以下の金種の差額Eの合計(-28、900円)に対する500円の差額E(-20,000円)の割合であり、約0.692である。追加金額C(33,340円)と比率F(0.692)との積を額面(500円)で除した商は46.145であり、それの少数点以下を切り捨てた値は46である。この値(46)が500円の追加枚数Gとされる。46枚の500円の合計金額は23,000円であり、再計算後の追加金額Cは元の33,340円から23,000円を減じた10,340円となる。100円以下の金種についても差額Eに基づいて比率Fが計算され、再計算後の追加金額Cと比率Fとに基づいて追加枚数Gが設定される。例示において、100円、50円、10円、5円および1円の追加枚数Gは順に81、23、96、13、65である。
各金種の推奨枚数Mは下限枚数Bと追加枚数Gとの和である。例示の推奨残置パターン10において、額面が1000円以上の金種の推奨枚数Mは上述のとおり下限枚数Bと等しく、額面が500円以下の金種の推奨枚数Mは下限枚数Bよりも多い。10,000円、5,000円、2,000円および1,000円の推奨枚数Mは、順に0、10、0、10である。500円、100円、50円、10円、5円および1円の推奨枚数Mは順に56、91、33、106、23、75である。
図12および図13に示される実用残置パターンの作成の第1例は代用が不要な場合の例である。本例の実用残置パターン15(図示は図13)は、残置金額Aが100,000円であるときの推奨残置パターン10を基に、釣銭機3内の現金(在高)を参照して設定される。例示における釣銭機3内の現金の合計金額は407,402円であって、金額でみる限り100,000円の残置は可能である。
最低額金種を除く各金種の初期枚数Pは、基本的には推奨枚数Mと現存枚数Nとのうちの少ない方に設定される。例示では10,000円、2,000円、1,000円、100円、10円および5円の初期枚数Pの値は推奨枚数Mの値であり、順に0、0、10、91、106である。残りの5,000円、500円および50円の初期枚数Pの値は現存枚数Nの値であり、順に5、10、25である。
最低額金種の1円については、現存枚数Nよりも推奨枚数Mが少なければ、推奨枚数Mが初期枚数Pに設定される。しかし、例示のように現存枚数Nの方が推奨枚数Mよりも少ない場合には、現存枚数Nそのものではなく現存枚数Nよりも少なく且つ1円の次に低額である金種の額面の値の倍数である枚数が、初期枚数Pに設定される。例示において1円の現存枚数Nの値は27であるが、初期枚数Pの値は5の倍数の20である。27と20との差の7は、5円の額面の値(5)の1倍以上2倍未満の範囲内の値に選定されている。このように1円について他の金種と異なる設定をすることによって、上述したとおり、残置する貨幣の合計金額の調整がし易くなり、残置金額に適合する残置パターンが得られ易くなる。
各金種の初期枚数Pが決まると、初期設定金額Q、充当必要金額Rおよび充当可能金額Sを計算することができる。例示では、初期枚数Pと額面との積の総和である初期設定金額Qは51,545円であり、残置金額Aから初期設定金額Qを減じた差である充当必要金額Rは48,455円である。充当可能金額Sは、10,000円と2,000円とを除いた金種である釣銭金種について、現存枚数Nと初期枚数Pとの差に当該金種の額面を乗じ、得られた積を合計する演算によって得られる。充当可能金額Sは釣銭金種の余剰額ともいえる。例示の充当可能金額Sは51,857円である。
一万円札を残置する“代用”の要否は、充当必要金額Rと充当可能金額Sとの大小関係によって決まる。例示では充当可能金額Sが充当必要金額Rを上回っているので、代用は不要である。したがって、充当必要金額Rの48,455円に対して図13のように釣銭金種のみが割り振られる。
図13において、最高額金種の10,000円から順に各金種の補正枚数Wが設定される。基本的には、補正枚数Wは必要枚数Yと残り枚数Nnとのうちの少ない方である。10,000円については、代用が不要であって代用枚数Vが0であるので、必要枚数Yが0とされ、必然的に補正枚数Wが0となる。10,000円の次の5,000円に注目する時点では、枚数未定金額Xは充当必要金額Rと変わらず48,455円である。したがって、48,455円を五千円札で充当するとしたときの最大限の枚数である必要枚数Yは9である。しかし、5,000円の残り枚数Nnは現存枚数Nの5から初期枚数Pの5を差し引いた値の0であるので、5,000円の補正枚数Wは0とされる。2000円の必要枚数Yは24であるが、2000円は釣銭金種に選定されていないので、必要枚数Yと残り枚数Nnとの如何にかかわらず、2000円の補正枚数Wは0とされる。1,000円の残り枚数Nnは40であって必要枚数Yの48よりも少ないので、1,000円の補正枚数Wは40とされる。これを受けて枚数未定金額Xが再計算され、48,455円から8,455に減る。以降、500円以下の金種について図示のように補正枚数Wが設定される。
実用残置パターン15における各金種の残置枚数Zは、初期枚数Pと補正枚数Wとの和である。例示では、10,000円、5,000円、2,000円、1,000円、500円、100円、50円、10円、5円および1円の残置枚数Zは、順に0、5、0、50、10、175、25、111、24、20である。残置枚数Zと額面との積である配分金額の全金種についての合計は、ちょうど残置金額Aの100,000円となっている。
図14および図15に示される実用残置パターンの作成の第2例は代用が必要な場合の例である。上述した第1例との差異の理解を容易にするため、図14および図15では図12および図13と異なる数値に下線を付してある。
第2例の実用残置パターン16(図示は図15)は、第1例と同様に残置金額Aが100,000円であるときの推奨残置パターン10を基に、釣銭機3内の現金(在高)を参照して設定される。図14の例示における釣銭機3内の現金の合計金額は397,402円であって、金額でみる限り100,000円の残置は可能である。
図14のように全金種について初期枚数Pが設定される。1円を除く各金種の初期枚数Pは推奨枚数Mと現存枚数Nとのうちの少ない方である。1円の初期枚数Pは、現存枚数Nよりも少ない5の倍数とされる。例示では、10,000円、5,000円、2,000円、1,000円、500円、100円、50円、10円、5円および1円の初期枚数Pは、順に0、5、0、10、10、91、25、106、23、20である。
“代用”の要否を決める充当必要金額Rと充当可能金額Sとの大小関係とみると、充当可能金額Sの41,857円が充当必要金額Rの48,455円よりも少ない。代用が必要である。したがって、図15のように代用枚数Vが計算される。
図15において、代用枚数Vは、代用必要枚数Tと代用可能枚数Uとのうちの少ない方である。充当必要金額Rと充当可能金額Sとの差額である6,598円に対する代用必要枚数Tは1であり、実質的に現存枚数Nである代用可能枚数Uの30よりも少ない。したがって、代用枚数Vは1となる。
代用枚数Vが決まった後に、10,000円から額面の降順に各金種の補正枚数Wが設定される。10,000円については、必要枚数Yが代用枚数Vと同じ1とされ、必然的に補正枚数Wが1となる。これを受けて枚数未定金額Xが再計算され、10,000円の次の5,000円に注目する時点枚数未定金額Xは48,455円から10,000円を減じた38,455円である。38,455円を五千円札で充当するとしたときの必要枚数Yは7である。しかし、5,000円の残り枚数Nnは0であるので、5,000円の補正枚数Wは0とされる。釣銭金種に選定されていない2000円については、必要枚数Yと残り枚数Nnとの如何にかかわらず、補正枚数Wは0とされる。1,000円の必要枚数Yの38であって残り枚数Nnの40よりも少ないので、1,000円の補正枚数Wは38とされる。再計算された枚数未定金額Xの455円に対する500円の必要枚数Yは0であり、100円の必要枚数Yは4である。500円と100円とに順に0と4とが補正枚数Wとして設定される。以降、50円以下の金種について図示のように補正枚数Wが設定される。
実用残置パターン16における各金種の残置枚数Zは、初期枚数Pと補正枚数Wとの和である。例示では、10,000円、5,000円、2,000円、1,000円、500円、100円、50円、10円、5円および1円の残置枚数Zは、順に1、5、0、48、10、95、25、111、24、20である。第2例においても、残置枚数Zと額面との積である配分金額の全金種についての合計は、ちょうど残置金額Aの100,000円となっている。
以上の実施形態によれば、例えば毎日の営業終了時に釣銭機3から貨幣を回収する精算業務が行なわれる店舗において、翌日の釣銭準備金の金種別の残置枚数の調整が残置設定装置20によって自動化されるので、精算業務の効率化を図ることができる。
上述の実施形態ではPOSレジスタ2が残置設定装置20を有するが、これに限らない。釣銭機3、ネットワークを介してPOSレジスタ2と通信するホスト、または他の機器に残置設定装置20の機能を組み入れてもよい。
釣銭機3における入出金機構34および貨幣収納庫5は、紙幣に関わる部分と硬貨に関わる部分とが一体である構成でもよいし、別体である構成でもよい。
実用残置パターン15,16の設定における初期枚数Pを決める段階では、最低額金種の1円については、推奨枚数Mが現存枚数Nより少ない場合に、推奨枚数Mそのものではなく、推奨枚数Mを超えない5の倍数を初期枚数Pとしてもよい。そうすることで5円の現存枚数Nが少ない場合の枚数調整がし易くなる。
システム1が扱う金種の貨幣単位は「円」に限らず、使用環境の通貨に適用するように任意に選定される。同じ額面の紙幣と硬貨とが流通する場合のように同じ額面の複数の金種が流通する環境において、システム1を使用することができる。金種別の計算や設定に際して、予め同額の金種について注目の順番を決めておけばよい。また、システム1が扱う金種の数は任意である。