JP5433912B2 - 潤滑離型コーティング用組成物およびそれを用いた潤滑離型膜の形成方法、並びに金型およびその製造方法 - Google Patents

潤滑離型コーティング用組成物およびそれを用いた潤滑離型膜の形成方法、並びに金型およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、ゴムやプラスチック成型品を成型するための金属製の金型の内面に離型性や潤滑性を付与する潤滑離型膜を形成するための潤滑離型コーティング用組成物、およびそれを用いた潤滑離型膜の形成方法、並びにそれを塗布硬化させる事により得られる金型およびその製造方法に関する。
プラスチック、ゴムなどの成型体は、通常、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン−ペルフルオロビニルエーテル共重合体)等のフッ素系化合物や、シリコーンオイル、シリコーングリース等のシリコーン系化合物などの離型性の良い材料を有機溶剤などにて溶解・分散した液状乃至グリース状の離型剤を金型の内面(被成型物との接触面)にスプレー等で塗布し、次いで成型すべき材料を金型に導入し、それを固体化し、金型から分離することで成型される。
離型剤を金型の内面に塗布する場合、通常成型体の離型状態を見ながら、成型操作数回につき1回の割合で金型の内面に離型剤をスプレー塗布しているが、加硫ゴム成型など粘着性、付着性が強く、高温、高圧の過酷な成型条件を必要とする材料の成型−離型作業では1回の成型操作毎に離型剤をスプレーする必要があり、生産性が低下する問題がある他、完成した成型品に離型剤が移行するため離型剤汚染が新たな問題となり、成型品の後加工工程で塗装、接着などを施す場合、付着した離型剤を除く工程が必要となり成型品の生産コストが上昇するという欠点があった。
このような欠点を解決するために、例えば、オルガノシラザンシロキサンポリマーを使用した離型剤組成物のような、金型表面に固着した皮膜を形成するシリコーン皮膜形成型の離型剤が提案されている(特許文献1参照)。しかし、当該離型剤は極端な薄膜仕様のため皮膜の耐久性が十分でなく、離型性においても満足なものではなかった。また、シリコーン樹脂とフェニル基含有ポリオルガノシロキサンとを組み合わせた離型剤により、形成される皮膜の耐久性と離型性を改善しようとする試みも提案されている(特許文献2参照)。しかし、形成される皮膜の密着性および離型性が不十分であるため実用的でない。
特許文献3および4には、シリコーンマクロモノマー、架橋性モノマー及びビニル系単量体を共重合して得られるグラフトポリマーからなる離型用コーティング剤が開示されている。しかし、当該離型用コーティング剤による塗膜は、離型性は優れるものの、その組成に起因して各種基材に対する親和性が低く、均質な皮膜を形成することが困難な上、基材密着性に問題があった。また、上述した加硫ゴムなど成型条件が厳しい金型に対しては、耐熱性、耐久性が不十分であり、使用に耐え得るものではない。
特許文献5や6には、撥水撥油性が高い硬化性フルオロシリコーンポリマー組成物か開示されている。該フルオロシリコーンポリマーはその硬化剤、溶剤として特殊なフッ素含有化合物を用いないと溶解性乃至相溶性が悪く、硬化が不十分となり満足な性能が得られない。しかし、そのような特殊なフッ素含有化合物を用いた場合、得られる製品が高価になり過ぎてしまい、工業製品としては実用的ではない。
また一般的に、パーフルオロアルキル基、あるいはパーフルオロアルキルエーテル基を有するシランカップリング剤を硬化性シリコーン組成物に添加し、撥水性、撥油性、離型性を向上させる検討がなされているが、相溶性が悪く均一な硬化皮膜が得られなかったり、相溶性が良い場合には撥水性、撥油性、離型性などが不十分であり、また、下地密着性に関しても満足なものは得られていないのが現状である。
特許文献7、8および9には、これら不具合を改良した硬化性フルオロシリコーン組成物が提案されている。しかし、当該組成物に含まれるフルオロアルキル基を含む化合物は、近年の環境に配慮したPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸塩)規制やPFOA(パーフルオロオクタン酸)規制への対応や、過酷な使用状況下ではフッ酸が生成される可能性が否定できない点などから、金型用途へは使用を見合わせている現状がある。
特公平3−11248号公報 特開平5−24047号公報 特公平6−31371号公報 特開2000−53983号公報 特開平5−301963号公報 特開平5−302034号公報 特開2002−121277号公報 特開2000−327772号公報 国際公開第95/33001号パンフレット
本発明は、以上のような従来技術の課題を背景になされたものであり、特定のフッ素化合物を用いることなく、ゴムやプラスチック成型品を成型するための金属製の金型の内面に離型性や潤滑性を付与しつつ、耐熱性、耐圧性、耐久性に優れた潤滑離型膜を形成し得る潤滑離型コーティング用組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、かかる優れた性能を有する潤滑離型コーティング用組成物を用いて、各種有機系樹脂やゴム製品と金型との間の離型効果を長期にわたって維持し得る潤滑離型膜を形成する方法、並びに該潤滑離型膜が形成された金型およびその製造方法を提供することを他の目的とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に想到した。
すなわち、本発明の潤滑離型コーティング用組成物は、変性シリコーン樹脂とその硬化触媒と反応性シリコーンオイルとを含み、前記変性シリコーン樹脂が、アクリルシリコーン樹脂存在下で3官能シラン類を加水分解重縮合して得られる無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂であることを特徴とする。本発明によれば、特定のフッ素化合物を用いることなく、ゴムやプラスチック成型品を成型するための金属製の金型の内面に離型性や潤滑性を付与しつつ、耐熱性、耐圧性、耐久性に優れ、さらには可撓性、耐クラック性にも優れた潤滑離型膜を形成し得る潤滑離型コーティング用組成物を提供することができる。
本発明の潤滑離型コーティング用組成物は、前記反応性シリコーンオイルが、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が100mm2/s未満のシリコーンオイルと、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が2000mm2/s以上のシリコーンオイルとを併用してなるものであることが好ましい。
また、本発明の潤滑離型膜の形成方法は、被塗対象面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーを塗布後、焼付け硬化させること無く前記本発明の潤滑離型コーティング用組成物を塗布し、次いで塗布膜全体を焼付け硬化させることを特徴とする。
本発明の潤滑離型コーティング用組成物は、金型基材が軸受け鋼、炭素鋼、プレハードン鋼等からなるゴム・プラスチック成型用金型である場合、塗膜形成後の金型基材との密着性は、あまりよくない。従って、本発明の潤滑離型膜の形成方法の如く、これら金属に対する濡れ性、密着性に優れたシリコーンアクリル樹脂をプライマーとして用い、その上に本発明の潤滑離型コーティング用組成物を塗布して2コート1ベイクすることにより、プライマーからトップコートまで一体化した構造を有する密着性に優れた潤滑離型膜を形成することができる。このとき、前記塗布膜全体の焼付け硬化の条件としては、温度160〜220℃で10分〜60分間であることが好ましい。
一方、本発明の金型は、ゴム乃至プラスチックを成型するための金型であって、被成型物との接触面に、下地層としてシリコーンアクリル系プライマー層が形成され、さらにその上に積層された前記本発明の潤滑離型コーティング用組成物からなる潤滑離型膜が形成されてなることを特徴とする。
さらに、本発明の金型の製造方法は、金型基材における被成型物との接触面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーを塗布後、焼付け硬化させること無く前記本発明の潤滑離型コーティング用組成物を塗布し、次いで塗布膜全体を焼付け硬化させることを特徴とする。この場合も、前記塗布膜全体の焼付け硬化の条件としては、温度160〜220℃で10分〜60分間であることが好ましい。
本発明によれば、特定のフッ素化合物を用いることなく、ゴムやプラスチック成型品を成型するための金属製の金型の内面に離型性や潤滑性を付与しつつ、耐熱性、耐圧性、耐久性に優れた潤滑離型膜を形成し得る潤滑離型コーティング用組成物を提供することができる。また、本発明の潤滑離型コーティング用組成物を用いた潤滑離型膜は、可撓性、耐クラック性にも優れた特性を持続でき、かつ、離型スプレーのような離型剤汚染のない、生産性、経済性に優れたものである。
さらに、本発明によれば、かかる優れた性能を有する潤滑離型コーティング用組成物を用いて、各種有機系樹脂やゴム製品と金型との間の離型効果を長期にわたって維持し得る潤滑離型膜を形成する方法、並びに該潤滑離型膜が形成された金型およびその製造方法を提供することができる。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[潤滑離型コーティング用組成物]
本発明の潤滑離型コーティング用組成物は、変性シリコーン樹脂とその硬化触媒と反応性シリコーンオイルとを必須成分とする。また、必要に応じて、溶剤やその他の成分を含有する。これらの成分を適宜混合および攪拌することで、本発明の潤滑離型コーティング用組成物を調製することができる。
以下、構成成分ごとに説明する。
<変性シリコーン樹脂>
本発明に用いる変性シリコーン樹脂は、特に制限は無く、従来より公知のものを問題なく使用することができる。他の成分との相溶性、反応性、耐熱性、耐圧性、可撓性、耐クラック性等必要特性の観点から適宜選択すればよい。
本発明の潤滑離型コーティング用組成物においては、前記変性シリコーン樹脂として、アクリルシリコーン樹脂存在下で3官能シラン類を加水分解重縮合して得られる無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を用いることが好ましい。
前記変性シリコーン樹脂として好適な無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂は、下地(金型基材の被成型物との接触面)や後述するプライマーとの反応性、密着性に優れ、配合される反応性シリコーンオイルとの相溶性、反応性に優れ、かつ、加硫ゴムなどの成型条件下での高温、高圧にも耐え得る耐熱性、耐圧性、可撓性と耐クラック性に優れたものであることが好ましい。
一般的にゾルゲル法により無機シリコーン樹脂を合成する場合、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)など4官能のシランモノマーを原料として使用するが、4官能シランモノマーにより形成される皮膜は架橋密度が高すぎてクラックが入り易く、上記所望の特性を得ることが比較的困難である。そこで、本発明においては、3官能シランモノマーを使用し、その樹脂骨格がアクリルシリコーン鎖であるものを使用することにより、下地の細かい凸凹にも追従し、また、例えば500μm程度の高膜厚であってもクラックが入らない可撓性の高いシリコーン系ハイブリッド樹脂を用いることが好ましい(特開2003−012804号公報参照)。
即ち、無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を合成するためには、(1)適当な溶媒中で加水分解性アルコキシシリル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系モノマーとラジカル重合性単量体とをラジカル溶液重合により、共重合せしめアクリルシリコーン樹脂を合成し、(2)そのアクリルシリコーン樹脂の存在下で3官能のシランモノマーを適当な条件にて加水分解重縮合させて重合することにより、骨格にアクリルシリコーン樹脂を有し、その周りをポリシルセスキオキサン樹脂が共重合していく構造を有する共重合ハイブリッド型のアクリル−ポリシルセスキオキサン樹脂となる。これにより、アクリルの可撓性とポリシロキサンの耐熱性、架橋密度、反応性を有する樹脂を得ることができる。
(1)のアクリルシリコーン樹脂の合成に使用する加水分解性アルコキシシリル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、具体的には、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどが例示される。
また、これらと共重合してアクリルシリコーン樹脂を形成するラジカル重合性単量体としては、前述加水分解性アルコキシシリル基含有(メタ)アクリル系モノマーと共重合するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等炭素数1〜18のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類や、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の官能基含有(メタ)アクリレート類、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルピロリドンなどビニル化合物が例示できる。
(2)のゾルゲルシークエンス時に使用される3官能シランモノマーとしては、具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシランなどアルキルトリアルコキシシラン類、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなど芳香族シラン類、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなど官能基含有シランモノマーが例示される。これらは単独で使用されてもよく、また2種以上を併用してもよい。
前記(1)、(2)のシークエンスにより得られる無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂としては、市販品が入手可能であり、例えば、「コンポブリッドHCS」(アトミクス(株)社製)などがこれに相当する。
本発明の潤滑離型コーティング用組成物における変性シリコーン樹脂の配合割合としては、10〜98質量%の範囲が好ましく、30〜80質量%の範囲がより好ましく、50〜70質量%の範囲がさらに好ましい。
<硬化触媒>
本発明の潤滑離型コーティング用組成物に使用するに適した硬化触媒としては、用いる変性シリコーン樹脂を硬化させ得るものであればよく、特に制限はない。例えば、変性シリコーン樹脂として、上で述べた無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を用いた場合には、これを硬化させ得る触媒として、湿気硬化性シリコーンオリゴマーを硬化させ得る触媒であれば特に制限されない。
当該硬化触媒としては、具体的には例えば、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクチレート、ジブチル錫ジラウレート、などの有機錫化合物や、アルミニウムトリス(アセチルアセトン)、アルミニウムトリス(アセトアセテートエチル)、アルミニウムジイソプロポキシ(アセトアセテートエチル)などの有機アルミニウム化合物や、ジルコニウム(アセチルアセトン)、ジルコニウムトリス(アセチルアセトン)、ジルコニウムテトラキス(エチレングリコールモノメチルエーテル)などの有機ジルコニウム化合物や、チタニウムテトラキス(エチレングリコールモノメチルエーテル)、チタニウムテトラキス(エチレングリコールモノエチルエーテル)、チタニウムテトラキス(エチレングリコールモノブチルエーテル)などの有機チタニウム化合物等の有機金属化合物;塩酸、硝酸、硫酸、燐酸などの鉱酸類や、蟻酸、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸類等の酸;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基や、エチレンジアミン、アルカノールアミンなどの有機塩基などのアルカリ;アミノ変性シリコーン、アミノシラン、シラザン、アミン類などのアミノ化合物などが挙げられる。これらのうち、有機錫化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物が好ましい。
本発明に使用可能な硬化触媒は、市販品として入手することができる。例えばD−20(信越化学社製)、DX−9740(信越化学社製)、DX−175(信越化学社製)、コンポブリッドHCS硬化剤(アトミクス(株)社製)、コンポブリッドAMC硬化剤(アトミクス(株)社製)などが挙げられる。
これら硬化触媒の配合割合は、変性シリコーン樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲が好ましく、0.5〜10質量部の範囲がより好ましい。この範囲を超えて配合割合が低い場合は、硬化性が劣ることとなり、またこの範囲を超えて配合割合を多くするといわゆる可使時間(外気に晒してから塗布完了までの時間≒塗布作業可能時間)が短くなり実用上好ましくない。
<反応性シリコーンオイル>
本発明における反応性シリコーンオイルは、特に制限は無く、従来より公知のものを問題なく使用することができる。変性シリコーン樹脂との反応性、潤滑離型機能発現性の観点から適宜選択すればよい。
本発明の潤滑離型コーティング用組成物においては、2種類の反応性シリコーンオイルを併用することが好ましい。詳しくは、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が100mm2/s未満の低分子量のシリコーンオイル(以下、単に「低分子量シリコーンオイル」という場合がある。)と、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が2000mm2/s以上の高分子量のシリコーンオイル(以下、単に「高分子量シリコーンオイル」という場合がある。)との2種類である。
なお、シリコーンオイルは、一般に低分子量のものが低粘度で高分子量のものが高粘度となる。そのため便宜的に「低分子量」「高分子量」と称して両シリコーンオイルを区別しているが、あくまでも動粘度で定義されるものであり、分子量の値で両者を厳密に定義付けることはできない。
低分子量シリコーンオイルは、変性シリコーン樹脂、特に無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサンに対する相溶性や反応性には優れるものの、耐熱性については若干劣る。一方、高分子量シリコーンオイルは上記相溶性や反応性には若干劣るものの、耐熱性、耐圧性、離型性には優れている。そのため、これら2種類の反応性シリコーンオイルを併用することにより、過酷な使用条件下でも耐久性の優れた潤滑離型コーティングとすることができる。
本発明において使用可能な反応性シリコーンオイルは市販品として入手可能であり、例えば両末端シラノール型低分子量シリコーンオイルはYF3800(動粘度=80mm2/s、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)、両末端シラノール型高分子量シリコーンオイルはYF3057(動粘度=3000mm2/s、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)などが挙げられる。
両シリコーンオイルの配合割合としては、「低分子量」:「高分子量」として9:1〜1:9の範囲内であることが好ましく、7:3〜3:7の範囲内であることがより好ましい。
本発明の潤滑離型コーティング用組成物における全反応性シリコーンオイルの配合割合としては、変性シリコーン樹脂有効成分(solid分)に対して、0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.2〜10質量%の範囲がより好ましく、0.3〜5質量%の範囲がさらに好ましい。反応性シリコーンオイルの添加量が0.1質量%未満では良好な潤滑離型効果が得られ難いため好ましくなく、20質量%を超えると未反応成分が多くなり、いわゆる離型剤汚染が発生する場合があり生産上好ましくない。
<溶剤>
本発明の潤滑離型コーティング用組成物には、溶剤を配合してもよい。溶剤を配合することにより、適宜濃度、粘度(動粘度)を調整することができる。使用可能な溶剤としては、必須構成成分である変性シリコーン樹脂、硬化触媒および反応性シリコーンオイルを溶解または分散できるものであれば、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、s−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶剤;ミネラルスピリットなどの石油系溶剤;ヘキサン、ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどの脂肪族炭化水素系溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチルのようなエステル系溶剤;オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの低重合度(低分子量)の環状メチルポリシロキサン(環状シリコーン)や、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサンなどの低重合度の直鎖状メチルポリシロキサン(直鎖状シリコーン)などのシリコーン系溶剤などが挙げられる。これら溶剤は単独で用いられてもよく、2種以上併用してもかまわない。
<その他の成分>
本発明の潤滑離型コーティング用組成物には、従来公知のその他各種添加剤を添加することもできる。添加可能な添加剤としては、形成される潤滑離型膜の性能に影響を与えない、若しくは軽微なものが好ましく、例えば各種消泡剤、レべリング剤、スリッピング剤、酸化防止剤、防錆剤等を挙げることができる。
[金型]
本発明の金型は、ゴム乃至プラスチックを成型するための金型であって、被成型物との接触面(いわゆる金型の内面)に、下地層としてシリコーンアクリル系プライマー層が形成され、さらにその上に積層された上記本発明の潤滑離型コーティング用組成物を含む潤滑離型膜が形成されてなるものである。
上記本発明の潤滑離型コーティング用組成物は、軸受け鋼、炭素鋼、プレハードン鋼等からなるゴム・プラスチック成型用金型基材などに対して、濡れ性、密着性が十分ではないため、これら金属に対する濡れ性、密着性に優れたシリコーンアクリル系プライマー層を下地層として形成した後に、さらにその上に積層して本発明の潤滑離型コーティング用組成物からなる潤滑離型膜を形成する。
シリコーンアクリル系プライマー層を下地層とし上記本発明の離型潤滑コーティング用組成物からなる潤滑離型膜が積層形成された本発明の金型は、離型性、耐熱性、耐圧性など耐久性に優れ、また可撓性、耐クラック性にも優れた特性を持続でき、かつ、離型スプレーのような離型剤汚染のない、生産性、経済性に優れた極めて有用性の高いものとなる。
シリコーンアクリル系プライマー層を形成する塗膜としては、シリコーンアクリル樹脂からなるプライマーとして従来公知のものをいずれも使用して形成することができる。シリコーンアクリル系プライマー層を形成する場合の潤滑離型膜全体の膜厚としては、金型の寸法精度を考慮するとできるだけ薄膜であることが望ましく、あまりに薄過ぎると潤滑離型膜としての機能が発揮できない。そのため、シリコーンアクリル系プライマー層は2μm〜10μmの範囲とすることが好ましく、4μm〜6μmの範囲とすることがより好ましく、一方、上記本発明の潤滑離型コーティング用組成物による塗膜層は2μm〜10μmの範囲とすることが好ましく、4μm〜6μmの範囲とすることがより好ましい。
本発明の金型の製造方法、すなわち潤滑離型膜の形成方法により金型基材に潤滑離型膜を形成する好ましい方法は、次項において詳述する。
[潤滑離型膜の形成方法並びに金型の製造方法]
本発明の潤滑離型膜の形成方法は、被塗対象面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーを塗布後、焼付け硬化させること無く前記本発明の潤滑離型コーティング用組成物を塗布し、次いで塗布膜全体を焼付け硬化させることを特徴とするものである。また、本発明の金型の製造方法は、当該本発明の潤滑離型膜の形成方法において、金型基材における被成型物との接触面を被塗対象面とするものである。
本発明に使用し得る溶剤型シリコーンアクリル系プライマーは、被塗対象面となる金型基材表面との濡れ性、密着性に優れ、かつ、本発明の潤滑離型コーティング用組成物と反応して一体化する性質のものが好ましい。中でも特に、側鎖に第3級アミノ基を有するアクリルポリマー系主剤にグリシジル基含有シラン化合物を硬化剤として使用するシリコーンアクリル系プライマー用樹脂組成物は、各種金属への濡れ性に優れ、かつ本発明の潤滑離型コーティング用組成物との反応も見込めるため極めて好適である。かかるシリコーンアクリル系プライマー用樹脂としては市販品が入手可能であり、例えば「アクリディックA−9540(主剤)」/「アクリディックA−9585(硬化剤)」(DIC(株)製)を好ましいものとして例示することができる。
金型基材表面など被塗対象面に対する塗布方法としては、特に制限されず、例えばコーティング剤をスポンジなどに含浸させてそのスポンジで塗装面を擦るなど、適宜公知の方法が用いられる。なお、塗布方法は、その他、ディッピング法、刷毛塗り法、スプレーコーティング法など適宜選択することができる。
これら塗布方法にて被塗対象面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーを塗布後、焼付け硬化させること無く、当該潤滑離型コーティング用組成物を塗布し、次いで塗布膜全体を焼付け硬化させること、すなわちいわゆる2コート1ベイクさせることが好ましい。このように2コート1ベイクさせることで、プライマー−当該潤滑離型コーティング層が一体化した塗膜層が形成され、表面平滑性に優れ、緻密な潤滑離型層となる。
前記塗布膜全体の焼付け硬化の温度条件としては、160℃〜220℃の範囲であることが好ましく、190℃〜210℃の範囲であることがより好ましい。温度が低過ぎるといわゆる焼きアマとなり物性が発現せず、一方高過ぎると熱劣化や熱分解が起こり、それぞれ好ましくない。
また、前記塗布膜全体の焼付け硬化時間としては、10分〜60分の範囲であることが好ましく、20分〜40分の範囲であることが好ましい。焼付け硬化時間が短過ぎると均一な、一方長過ぎるといわゆる焼け現象が起こり概観を損なうため、それぞれ好ましくない。
以上のようにして、被塗対象面に潤滑離型膜を形成することができ、金型基材における被成型物との接触面に以上のようにして潤滑離型膜を形成することで、本発明の金型を製造することができる。
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものでないことは言うまでもない。なお、文中単に「部」とあるのは、特に断りが無い限り質量基準である。
[実施例1〜3、比較例1〜3]
下記表1に示す組成に従い、プライマー、実施例1〜3および比較例1〜3の潤滑離型コーテイング組成物を調製した。これらを用いて、炭素鋼基材にディッピングによりプライマーを塗布し、さらにその上に各実施例乃至比較例の潤滑離型コーテイング組成物を塗布し、200℃で30分間熱硬化させていわゆる2コート1ベイク(比較例1は1コート1ベイク)の塗布工程を経て試験板を得た。膜厚を含む各条件を下記表1にまとめる。
Figure 0005433912
なお、実施例および比較例に用いた配合成分の詳細を以下に記す。
[シリコーンアクリルプライマー主剤]
側鎖に第3級アミノ基を有するアクリル樹脂アクリディックA−9540(DIC(株)製、有効成分=45%、ガードナー形泡粘度(25℃):(X−Y)−Z2、アミン価:16、溶媒:トルエン/イソブタノール)100部をキシレン60部にて希釈して、シリコーンアクリルプライマー主剤を得た。
[シリコーンアクリルプライマー硬化剤]
エポキシ系シランカップリング剤含有シリコーンアクリル樹脂硬化剤アクリディックA−9585(DIC(株)製、有効成分=80%、ガードナー形泡粘度(25℃):A5以下、エポキシ当量:530〜585、溶媒:キシレン)16部をキシレン144部にて希釈して、シリコーンアクリルプライマー硬化剤を得た。
[ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂主剤]
N2導入管、温度計、サーモメーター、還流冷却器を取り付けた1リットル四つ口フラスコに353部のメタノールを仕込み60℃まで加温した。別にメチルメタクリレート(MMA)122部、ブチルメタクリレート(BMA)116部、エチルアクリレート(EA)163部、側鎖に加水分解性アルコキシシリル基含有メタクリル系モノマーKBM−503(信越化学工業(株)製)94部、アゾ系重合開始剤V−65(和光純薬(株)、2,2’−Azobis(2.4−dimethylvaleronitrile))5.9部の混合物を計り取り、滴下ロートにて3時間かけて上記フラスコに滴下した。滴下後更に2時間60℃にて反応させた後、V−651.5部を45部のメタノールで希釈したものを滴下し、ついで、3時間60℃反応を続けアクリルシリコーン樹脂溶液を得た(淡黄色透明粘性液体、有効成分=55%、ガードナー形泡粘度(25℃):XY+、Mw=121000)。
次に、上で得られたアクリルシリコーン樹脂溶液121部、メチルトリメトキシシラン(MTMS)459部、フェニルトリメトキシシラン(PTMS)74部をN2導入管、温度計、サーモメーター、還流冷却器を取り付けた1リットル四つ口フラスコに仕込み、2mol/リットル希塩酸20部、蒸留水48部、メタノール78.7部を滴下ロートにて30分間かけて滴下した。その間、フラスコ内の温度は40℃に保った。更に30分間、40℃にて熟成させた後、昇温し、還流状態で3時間反応させた。還流温度はは65〜68℃であった。その後、還流冷却器を脱水コンデンサーに交換し、温度が135℃になるまで加熱し、2時間かけて反応系内の溶媒を留去せしめ、次いで冷却して、無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂を得た。淡黄色透明粘性液体、無機/有機=80/20(質量基準)、有効成分=100%、ガードナー形泡粘度(25℃):W、Mw=1600。
[コンポブリッドAMC主剤]
末端メトキシ型ポリ−メチルトリメトキシシラン系ストレートシリコーン樹脂に反応性シリコーンオイルを添加した撥水・撥油性シリコーン樹脂溶液(アトミクス(株)製)。触媒により常温で硬化し、撥水、撥油、汚染除去、落書き防止用途に使用される。無色透明低粘性液体、粘度:4.5秒(岩田カップ粘度計・23℃)、有効成分:45%、溶媒:イソオクタン/トルエン/キシレン/メタノール。
[コンポブリッドAMC硬化剤]
有機錫系シリコーン樹脂硬化剤、有効成分:2.3%、溶媒:イソオクタン。外観:無色透明低粘性液体、粘度:4秒(岩田カップ・23℃)、比重0.72。
[コンポブリッドCSS−H]
ナノシリカ含有、末端SiOH型ポリ−メチルトリメトキシシラン系ストレートシリコーン樹脂のイソプロパノール(IPA)溶液(アトミクス(株)製)。熱硬化性ハードコート樹脂で、プラスチック、フイルム、金属などに塗布し、120℃30分間加熱硬化させることにより、鉛筆硬度9Hのガラス状セラミックス被膜を形成する。乳白色半透明低粘性液体、有効成分=20%、溶媒:IPA/イソブタノール/メタノール、粘度:5〜50m・Pa・S、ナノシリカ/シラン=30/70(質量基準)、ピーク分子量:600〜850。
・YF−3057:
両末端SiOH型高粘度タイプ反応性シリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)、動粘度(25℃)3000mm2/S
・YF−3800:
両末端SiOH型低粘度タイプ反応性シリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)、動粘度(25℃)80mm2/S
[評価試験]
得られた実施例および比較例の各試験板について、以下の各評価試験を行った。結果は下記表2にまとめて示す。
なお、発明者らの研究の結果、下記(2)基材密着性試験、(3)熱衝撃試験および(4)油性マジック拭き取り性試験が良好であれば、ゴム成型加工にて、ある程度のメンテナンスフリーの耐久性が期待できることがわかっている。
(1)塗膜外観:
評価用塗膜を目視にて濁り、艶びけ、ブツ、クラックなどの有無を確認した。
(2)基材密着性試験:
JIS K5600−5−6(2mm碁盤目付着性試験)に従って、実施した。
(3)熱衝撃試験:
180℃に30分保持し、それを室温に出しそのままの状態で30分間保持することで急冷する。これを10サイクル繰り返し、表面状態を観察した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・10サイクル後も表面状態に変化なし。
×・・・試験の途中で割れ、ハガレ、クラックなどの不具合が出た。
(4)油性マジック拭き取り性試験:
油性マジック(黒)にて塗膜を汚し、ウエス拭き取り性を確認した。評価基準は以下のとおりである。
○・・・マジック痕が全く残らず良好な拭き取り性であった。
△・・・薄くマジック痕が残った。
×・・・全く拭き取ることができなかった。
(5)接触角:
試験用の液体試料に精製水を用い、その液滴を1μリットル塗膜表面に滴下した。測定は室温下で行い、10回の試験の平均値を水に対する接触角として求めた。当該接触角の測定は、実施例1および比較例1〜3について行った。
(6)摩擦摩耗試験
Ball−on−Disc型往復摩擦試験機(神鋼造機(株)製)を用い、室温下無潤滑条件で評価を行った。ディスク試験片(25×30mm、厚さ5mm)には各実施例乃至比較例の潤滑離型コーテイング処理(プライマー+潤滑離型コーティング用組成物による塗装+乾燥硬化)したものを用い、相手材であるボールにはポリアセタール樹脂[ポリオキシメチレン(POM)、直径d=3/16inch≒4.76mm]を用いた。これらの試験片は、試験前にアセトン中で超音波洗浄を5分間行い、乾燥させた後に試験に供した。試験条件は平均線速度20mm/s(ストローク:10mm)及び荷重2Nの条件下において1500秒の試験を行い、1500秒経過時の摩擦係数を求めた。当該摩擦摩耗試験は、実施例1、比較例2および3について行った。
(7)引き剥がし試験
フッ素ゴムに対する引き剥がし試験を実施した。表裏両面に各実施例乃至比較例の潤滑離型コーテイング処理(プライマー+潤滑離型コーティング用組成物による塗装+乾燥硬化)した試験片を用い、試験片と引き剥がし試験専用持具をフッ素ゴムにて接着し、この状態で加硫固定した。これをオートグラフ試験機により引っ張り引き剥がし力(N)を測定した。10回の試験の平均値を引き剥がし力(N)として求めた。当該引き剥がし試験は、実施例1、比較例2および3について行った。
Figure 0005433912
[結果の考察]
以上の結果より、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーを塗布した後に本発明の潤滑離型コーテイング組成物を塗布し2コート1ベイクすることで得た潤滑離型膜は、初期における密着性が確保され、その優れた性能が長期にわたって持続できることがわかる。

Claims (7)

  1. 少なくとも変性シリコーン樹脂とその硬化触媒と反応性シリコーンオイルとを含み、
    前記変性シリコーン樹脂が、アクリルシリコーン樹脂存在下で3官能シラン類を加水分解重縮合して得られる無機−有機ハイブリッド型ポリシルセスキオキサン樹脂であることを特徴とする潤滑離型コーティング用組成物。
  2. 前記反応性シリコーンオイルが、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が100mm2/s未満のシリコーンオイルと、両末端シラノール型で動粘度(25℃)が2000mm2/s以上のシリコーンオイルとを併用してなることを特徴とする請求項1に記載の潤滑離型コーティング用組成物。
  3. 被塗対象面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーを塗布後、焼付け硬化させること無く請求項1又は2に記載の潤滑離型コーティング用組成物を塗布し、次いで塗布膜全体を焼付け硬化させることを特徴とする潤滑離型膜の形成方法。
  4. 前記塗布膜全体の焼付け硬化の条件が、温度160〜220℃で10分〜60分間であることを特徴とする請求項3に記載の潤滑離型膜の形成方法。
  5. ゴム乃至プラスチックを成型するための金型であって、被成型物との接触面に、下地層としてシリコーンアクリル系プライマー層が形成され、さらにその上に積層された請求項1又は2に記載の潤滑離型コーティング用組成物からなる潤滑離型膜が形成されてなることを特徴とする金型。
  6. 金型基材における被成型物との接触面に、溶剤型シリコーンアクリル系プライマーを塗布後、焼付け硬化させること無く請求項1又は2に記載の潤滑離型コーティング用組成物を塗布し、次いで塗布膜全体を焼付け硬化させることを特徴とする金型の製造方法。
  7. 前記塗布膜全体の焼付け硬化の条件が、温度160〜220℃で10分〜60分間であることを特徴とする請求項6に記載の金型の製造方法。
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