JP5428213B2 - 焼結体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、焼結体の製造方法に関するものである。
粉末冶金法では、金属粉末と有機バインダとを混合し、所定の形状に成形して成形体とした後、この成形体を脱脂・焼成することによって焼結体を得る。このようにして得られた焼結体は、比較的複雑な形状であっても目的とする形状に近いものとなり、後加工の加工量が少なくて済む。また、金型を用いて成形するため、均一な品質の焼結体を効率よく大量に生産することができる。これにより、生産コストの低減を容易に図ることができる。
粉末冶金に用いられる金属粉末は、例えば、特許文献1に記載の方法により製造される。この方法は、溶融金属に向けて冷却水を高圧のジェットとして噴出し、溶融金属を飛散させつつ冷却・固化することによって微細な金属粉末を製造する方法(以下、「水アトマイズ法」と言う。)である。このようにして製造された金属粉末は、溶融金属が冷却水の高圧ジェットによって激しく分断されることによって製造されるため、異形状の粒子を多く含んでいる。
このような異形状の粒子は、相互の潤滑性が低いことから、金属粉末の流動性が低い。このため、水アトマイズ法により製造された金属粉末は、成形時の流動性が低く、成形型の隅々まで流れ難いことが問題となっている。そして、成形体の寸法精度や形状転写性が低下する問題を招いている。
そこで、特許文献2には、混合物中に脂肪酸金属塩の粒子を添加し、これにより混合物の流動性を高める方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2に開示の方法では、金属粉末と有機バインダとの混合物中で、金属粉末と脂肪酸金属塩の粒子とが均一に分散するのは困難であるため、金属粉末同士の潤滑性が一様に向上することは期待できない。したがって、混合物の流動性を十分に高めることは難しく、成形時の充填性が低下するため、高密度の焼結体を得ることは困難である。
また、焼結体中に脂肪酸金属塩の分解物等が多量に残存する。特に、脂肪酸金属塩は金属原子を含んでいるため、焼結体の各種特性に悪影響を及ぼすことが懸念される。
特公平3−55522号公報 特開2000−273502号公報
本発明の目的は、高密度で寸法精度に優れた焼結体を製造可能な焼結体の製造方法を提供することにある。
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の焼結体の製造方法は、冷却水の水流に金属材料を溶融してなる溶融金属を衝突させ、前記溶融金属を飛散させて粉末化するとともに、冷却・固化させ、前記冷却水に平均粒径1〜30μmの金属粉末を懸濁してなる懸濁水を得る粉末化工程と、
前記冷却水を5〜20質量%の割合で含む前記懸濁水をバッチ式の強制式ミキサーで撹拌しつつ、前記懸濁水に対して前記金属粉末の0.005〜10質量%の割合で水溶性の有機アミン類を含む添加剤を添加するとともに、前記懸濁水を乾燥させて前記冷却水を除去する処理を行うことにより、前記金属粉末の表面が前記添加剤の被膜で被覆された水アトマイズ粉末を得る脱水工程と、
前記水アトマイズ粉末と有機バインダとを混合し、得られた混合物を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程と、
前記成形体を脱脂し、脱脂体を得る脱脂工程と、
前記脱脂体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、
を有し、
前記水溶性の有機アミン類は、沸点が100℃超であるとともに分解温度が前記有機バインダの分解温度より低いものであって、アルキルアミン、シクロアルキルアミン、アルカノールアミンおよびこれらの誘導体のうちの少なくとも1種であり、かつ、前記誘導体は、亜硝酸塩、カルボン酸塩およびクロム酸塩のうちのいずれかであることを特徴とする。
これにより、高密度で寸法精度に優れた焼結体を効率よく製造することができる。
また、これらのアミン類は、十分な水溶性を有するとともに、十分な耐酸化性を有する被膜を形成することができる。
また、このような有機アミン類は、脱水工程において気化してしまうことが防止される。その結果、脱水工程において有機アミン類が確実に残存し、被膜が確実に形成されることとなる。
また、有機アミン類の添加量を前記範囲内に設定することにより、必要かつ十分な厚さの被膜を形成することができる。その結果、被膜に十分な潤滑性が付与されるとともに、被膜によって金属粉末の耐酸化性および耐候性の向上を図ることができる。
また、金属粉末と添加剤のように、混合割合に大きな差がある原材料を均一に混合することができ、被膜のさらなる均一化を図ることができる。
また、このような粒径の金属粉末は、比表面積が極めて大きいため、各粒子が凝集し易く、本来流動性は低いが、水アトマイズ粉末では、被膜の作用によってその流動性を十分に高めることができる。したがって、例えば粉末冶金の分野においては、粒径の小さい水アトマイズ粉末を高密度に充填することができるため、高密度の焼結体を容易に製造することができる。また、このような粒径の金属粉末を用いることによって、焼結体中の結晶粒径が小さくなり、その機械的強度を飛躍的に高めることができる。したがって、このような水アトマイズ粉末を用いて製造された焼結体は、特に高強度なものとなる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記被膜の平均厚さは、1〜20nmであることが好ましい。
これにより、被膜は、潤滑性や耐酸化性の観点から必要かつ十分な厚さを有するものとなる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記被膜は、その表面が疎水性を有するものであることが好ましい。
これにより、水アトマイズ粉末は、水分の付着や浸透を抑制し、水分による金属粉末の酸化を抑制することができる。その結果、水アトマイズ粉末は、特に優れた耐酸化性を有するものとなる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記金属粉末は、Fe基合金粉末であることが好ましい。
Fe基合金は、機械的特性に優れているため、水アトマイズ粉末およびこれを用いて製造された焼結体は、広範な用途に用いることができる。
本発明の焼結体の製造方法では、前記水アトマイズ粉末のタップ密度は、4.5g/cm以上であることが好ましい。
本発明の焼結体の製造方法では、前記水アトマイズ粉末は、そのタップ密度が前記金属粉末の1.05倍以上であることが好ましい。
本発明の焼結体の製造方法では、前記ミキサーの容器に設けられた流路にスチームを流すことにより、前記懸濁水を乾燥させることが好ましい。
発明の焼結体の製造方法では、前記水アトマイズ粉末中の前記被膜は、前記脱脂工程において除去されることが好ましい。
これにより、特に高密度の焼結体が得られる
以下、本発明の水アトマイズ粉末の製造方法、水アトマイズ粉末および焼結体の製造方法について、添付図面に示す好適な実施形態に基づいて説明する。
<水アトマイズ粉末の製造方法>
まず、本発明の水アトマイズ粉末およびその製造方法について説明する。
本発明の水アトマイズ粉末の製造方法によれば、各粒子の表面に被膜を形成することによって、流動性の高い水アトマイズ粉末を効率よく製造し得ることができる。
また、本発明の焼結体の製造方法によれば、上記のようにして製造された水アトマイズ粉末を、所定の形状に成形して成形体とした後、この成形体を脱脂・焼成することによって、寸法精度に優れ、かつ高比重の焼結体を効率よく製造することができる。
図1は、本発明の水アトマイズ粉末の製造方法の実施形態を説明するための工程図である。
本発明の水アトマイズ粉末の製造方法は、図1に示すように、[A]原材料を溶解し、溶融金属10を得る溶融工程と、[B]溶融金属10を粉末化し、金属粉末20を含む懸濁水30を得る粉末化工程と、[C]得られた懸濁水30に添加剤40を添加した後、懸濁水30を乾燥させ、添加剤40の成分で金属粉末20の各粒子を被覆してなる水アトマイズ粉末50を得る脱水工程とを有する。
また、本発明の焼結体の製造方法は、図1に示すように、[D]水アトマイズ粉末50を有機バインダ60と混合し、この混合物を成形して成形体70を得る成形工程と、[E]成形体70を脱脂し、脱脂体80を得る脱脂工程と、[F]脱脂体80を焼成し、焼結体90を得る焼成工程とを有する。
以下、本発明の水アトマイズ粉末の製造方法および焼結体の製造方法について説明する前に、この製造方法に用いることのできる金属粉末製造装置(アトマイズ装置)について説明する。この金属粉末製造装置は、前記粉末化工程において溶融金属10を粉末化する際に用いる装置である。
図2は、金属粉末製造装置の構成を示す模式図(縦断面図)、図3は、図2中の一点鎖線で囲まれた領域[A]の拡大詳細図(模式図)である。なお、以下の説明では、図2および図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図2に示す金属粉末製造装置100は、溶融金属10を水アトマイズ法により粉末化して、金属粉末20を得るために用いられるものである。このような金属粉末製造装置100は、溶融金属10を貯留し、供給する供給部(タンディシュ)102と、供給部102の下方に設けられたノズル103とを有している。
以下、各部の構成について説明する。
供給部102は、図2に示すように、有底筒状をなす部分を有している。この部分の内部空間122には、製造すべき金属粉末20の原材料(金属材料)を溶融した溶融金属10が一時的に収納される。
また、前記有底筒状の部分の底部121の中央部には、吐出口123が設けられている。この吐出口123からは、内部空間122内の溶融金属10が下方に向かって自然落下により吐出される。
供給部102の下方には、ノズル103が設けられている。
このノズル103には、供給部102から供給された(吐出された)溶融金属10が通過する第1の流路(溶湯流路)131と、冷却水25を供給する給水源(図示せず)からの冷却水25が通過する第2の流路132とが形成されている。
このうち、第1の流路131は、横断面形状が円形をなしており、ノズル103の中央部に、鉛直方向に沿って形成されている。
この第1の流路131は、図2に示すように、内径が上端面141から下方に向かって漸減する、すなわち、収斂形状をなす内径漸減部133を有している。この内径漸減部133では、ノズル103の上方の空気(気体)Gが、後述するオリフィス134から噴射した冷却水25の流れに引き込まれる。内径漸減部133に引き込まれた空気Gは、内径漸減部133の内径が最小となる部分1331(本実施形態では、オリフィス134が開口する部分)付近で、その流速が最大となる。このような空気Gの流れが生じることにより、第1の流路131の圧力(気圧)は、上方からこの部分1331に向かって徐々に低下する。
したがって、吐出口123から吐出された溶融金属10が、第1の流路131の上端の投入口から投入され、第1の流路131を通過する際に、上記のような減圧された領域を通過する。この通過の際、溶融金属10が密集しようとする力よりも周囲の減圧の程度が大きくなると、溶融金属10が飛散(一次分裂)する。そして、溶融金属10は、多数の液滴11となる。
また、本実施形態では、内径漸減部133の内径が最小となる部分1331付近で、溶融金属10が一次分裂するとしたが、この位置(一次分裂位置)は、内径漸減部133やオリフィス134の形状等に応じて変化するため、前述の位置に限定されない。
第2の流路132は、図3に示すように、第1の流路131の下端部に開口するオリフィス134と、冷却水25を一時的に貯留する貯留部135と、貯留部135からオリフィス134に冷却水25を導入する導入路136とにより構成されている。
貯留部135は、前記給水源に接続され、当該給水源から冷却水25が供給される部位である。この貯留部135は、導入路136を介して、オリフィス134と連通している。
導入路136は、その縦断面形状がくさび状をなす部位である。導入路136がこのような形状をなしていることにより、貯留部135から流入した冷却水25の流速を徐々に高めることができる。これにより、この流速が高まった状態の冷却水25を、オリフィス134から安定して噴射することができる。
オリフィス134は、貯留部135、導入路136を順に通過した冷却水25を、第1の流路131に噴射(噴出)する部位である。
このオリフィス134は、第1の流路131の内周面の全周にわたってスリット状に開口している。また、オリフィス134は、第1の流路131の中心軸Oに対して傾斜する方向に開口している。
このように形成されたオリフィス134により、冷却水25は、頂部26が下方に位置し、ほぼ円錐形状をなす水ジェット251として噴射される(図3参照)。この水ジェット251に液滴11が接触して飛散(二次分裂)され、さらに微細化される。
また、この際、液滴11は、冷却・固化される。これにより、金属粉末20が製造される。
このようにして製造された金属粉末20は、金属粉末製造装置100の下部に設けられた容器(図示せず)に回収される。
このような第1の流路131および第2の流路132を有するノズル103は、図2に示すように、円盤状(リング状)の第1の部材104と、第1の部材104と同心的に設けられた円盤状(リング状)の第2の部材105とで構成されている。第2の部材105は、第1の部材104の下方に間隙137を介して設けられている。
すなわち、このように配置された第1の部材104と第2の部材105とにより、第2の流路132、すなわち、オリフィス134、導入路136および貯留部135が画成される。
第1の部材104および第2の部材105の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、各種金属材料を用いることができ、特に、ステンレス鋼を用いるのが好ましい。
次に、前述した図1に示す各工程について順次説明する。
図4は、脱水工程において用いるミキサーを示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
[A]溶融工程
まず、金属粉末20を得るための原材料を溶融し、溶融金属10を得る。
原材料の溶融は、供給部102内で行うようにしてもよいが、別途設けられた溶融炉等で行うようにしてもよい。
[B]粉末化工程
次に、溶融金属10を金属粉末製造装置100の供給部102内に投入し、第1の流路131の内径漸減部133に向けて吐出口123から溶融金属10を吐出する。
このとき、オリフィス134から水ジェット251をあらかじめ噴射した状態にしておく。吐出口123から吐出された溶融金属10は、内径漸減部133を通過しつつ、内径漸減部133の内径が最小となる部分1331付近で一次分裂する。これにより、液滴11が生成される。
この液滴11は、水ジェット251と衝突して、さらに微細化(二次分裂)されるとともに、急激に冷却されて固化に至る(アトマイズ法)。このようにして、液滴11は金属粉末20となる。得られた金属粉末20は、冷却水25(水ジェット251)とともに流下する。このようにして、金属粉末20が冷却水25に懸濁してなる懸濁水30が得られる。
[C]脱水工程
次に、懸濁水30に添加剤40を添加した後、懸濁水30を乾燥させる。これにより、添加剤40の成分で金属粉末20の各粒子を被覆してなる水アトマイズ粉末50が得られる。
本発明では、添加剤40として、水溶性の有機アミン類を含む添加剤を用いる。添加剤40は、懸濁水30中に溶解し、懸濁水30の全体に拡散する。
その後、懸濁水30を乾燥させる。この懸濁水30の乾燥は、懸濁水30中から冷却水25を除去し得る方法であれば、いかなる方法で行われてもよい。
例えば、懸濁水30を撹拌しつつ乾燥する場合、懸濁水30の撹拌は、バッチ式、連続式等の各種ミキサーにより行うことができ、さらにバッチ式ミキサーにも強制式、重力式等の方式があるが、好ましくは図4に示すようなバッチ式の強制式ミキサー200により行う。以下、ミキサー200を用いて懸濁水30を撹拌しつつ乾燥する方法について詳述する。
図4に示すミキサー200は、台座201と、台座201上に鉛直方向に沿って設けられた支柱202と、支柱202の上端から支柱202の左右に伸びる支持部203とを有している。
また、ミキサー200は、容器204と、容器204の蓋部205と、容器204の内部で回転し、容器204内の内容物を撹拌する2つの撹拌翼206、206とを有している。そして、蓋部205は、支持部203の左端に固定されている。一方、蓋部205と容器204とは分離可能になっており、容器204は、支柱202に沿って上下に移動可能になっている。これにより、容器204を上下に移動することにより、容器204に対して蓋部205を開閉することができる。
また、支持部203の右側にはモータ207が設けられている。さらに、蓋部205を貫通するように回転軸(図示せず)が挿通されている。この回転軸の下部は、各撹拌翼206、206に固定されており、一方、回転軸の上部は、図示しない動力伝達機構を介してモータ207の動力を受けるようになっている。このような機構により、モータ207によって各撹拌翼206、206を回転させることができる。このようにして各撹拌翼206、206が回転することにより、容器204内の内容物を撹拌することができる。
また、容器204の外側面には、スチーム(水蒸気)が通過する流路208が隣接している。この流路208にスチームを流すことにより、容器204とスチームとの間の熱交換を利用して、懸濁水30を乾燥させることができる。
このようなミキサー200の容器204内に懸濁水30を投入する。続いて、添加剤40も容器204内に添加する。
懸濁水30にこのような添加剤40が添加されると、水溶性の有機アミン類の分子が金属粉末20の各粒子の表面に吸着し、これにより各粒子の表面に被膜41が形成される。
その後、懸濁水30を脱水・乾燥させることによって、水アトマイズ粉末50が得られる。
また、ミキサー200によって懸濁水30を攪拌することにより、金属粉末20と添加剤40のように、混合割合に大きな差がある原材料を均一に混合するのに適しているため、被膜41のさらなる均一化を図ることができる。
ここで、水溶性の有機アミン類について詳述する。
この有機アミン類は、水溶性を有しているため、前述したように懸濁水30の全体に速やかに分散することができる。これにより、有機アミン類を懸濁水30の全体に行き渡らせることができ、金属粉末20の全体にわたって有機アミン類が均一に接触するため、均一な被膜41を形成することができる。
また、水溶性の有機アミン類は、懸濁水30中に溶解し、分子がバラバラに分散する。各分子にはアミノ基が含まれているが、このアミノ基は極性基であるため、金属粉末20の各粒子の表面に速やかに吸着することができる。これは、極性基が有する孤立電子対と、金属粉末20の各粒子表面の吸着サイトとの相互作用によって、有機アミノ類と金属粉末20とが効率的に吸着しているものと推察される。その結果、有機アミン類は、各粒子の表面に緻密で強固な被膜41を形成することができる。
このようにして形成された被膜41は、金属粉末20の各粒子の表面にある凹凸を緩和することによって、表面の平滑性を高めることができる。これにより、各粒子同士の潤滑性が高くなり、水アトマイズ粉末50は、流動性に優れたものとなる。それに加え、被膜41は、金属粉末20が酸素や水分等に直接触れるのを防止するため、水アトマイズ粉末50は、耐酸化性および耐候性に優れたものとなる。
懸濁水30に対する添加剤40の添加量は、有機アミン類の量に基づいて設定される。具体的には、添加剤40の添加量は、金属粉末20の重量に対して0.005〜10質量%となるような量であるのが好ましく、0.01〜5質量%程度となるような量であるのがより好ましい。これにより、必要かつ十分な厚さの被膜41を形成することができる。その結果、被膜41に十分な平滑性が付与されるとともに、被膜41によって金属粉末20の耐酸化性および耐候性の向上を図ることができる。
本発明で用いる有機アミン類としては、例えば、アルキルアミン類、シクロアルキルアミン類、アルカノールアミン類、アリルアミン類、アリールアミン類、アルコキシアミン類、またはこれらの誘導体等の中から水溶性のものが挙げられるが、この中でも特にアルキルアミン類、シクロアルキルアミン類、アルカノールアミン類およびこれらの誘導体のうちの少なくとも1種が好ましく用いられる。これらのアミン類は、十分な水溶性を有するとともに、十分な耐酸化性を有する被膜41を形成することができる。
アルキルアミン類としては、例えば、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン(ノルマルオクチルアミン)、2−エチルヘキシルアミンのようなモノアルキルアミン類、ジイソブチルアミンのようなジアルキルアミン類、ジイソプロピルエチルアミンのようなトリアルキルアミン類等が挙げられる。
また、シクロアルキルアミン類としては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
また、アルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−アミノエチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等が挙げられる。
さらに、これらの有機アミン類の誘導体としては、特に限定されないが、好ましくは有機アミン類の亜硝酸塩、有機アミン類のカルボン酸塩、有機アミン類のクロム酸塩等を用いることができる。このようなアミン類も、十分な水溶性を有するとともに、十分な耐酸化性を有する被膜41を形成することができる。
また、水溶性の有機アミン類は、沸点が100℃超のものが好ましく用いられる。このような有機アミン類は、脱水工程において気化してしまうことが防止される。その結果、脱水工程において有機アミン類が確実に残存し、被膜41が確実に形成されることとなる。
また、添加剤40には、前述したような有機アミン類以外の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、例えば、界面活性剤、有機溶剤等が挙げられる。
界面活性剤には、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を用いることができる。
また、添加剤40を添加した後、ミキサー200によって懸濁水30を攪拌することにより、添加剤40が金属粉末20と均一に混じり合うことができる。その結果、金属粉末20の各粒子のそれぞれに、より均一な被膜41を形成することができる。特にミキサー200は、金属粉末20と添加剤40のように、混合割合に大きな差がある原材料を均一に混合するのに適しているため、被膜41のさらなる均一化を図ることができる。
また、図4に示すミキサー200では、懸濁水30を攪拌しつつ、容器204の外側面に隣接して設けられた流路にスチームを流すことによって懸濁水30を乾燥させる。
なお、懸濁水30の攪拌後、一旦、懸濁水30を濾過して水アトマイズ粉末50と冷却水25とを濾別した後に、スチームによる乾燥を行うようにしてもよい。
このようにして形成された被膜41は、その平均厚さが1〜20nm程度であるのが好ましく、1〜5nm程度であるのがより好ましい。このような被膜41は、潤滑性や耐酸化性の観点から必要かつ十分な厚さを有するものとなる。なお、平均厚さが前記上限値を上回ってもよいが、例えば、本実施形態のように水アトマイズ粉末50を用いて金属粉末焼結体を製造するような場合に、多量の被膜41が焼結体中に残存してしまったり、焼結体の密度が低下してしまうのを防止することができる。
また、有機アミン類の極性基が金属粉末20の表面に吸着したとき、有機アミン類の疎水性基がその反対側に露出する。特に前述したようなアルキルアミン類、シクロアルキルアミン類では、この傾向が顕著である。この場合、水アトマイズ粉末50(被膜41)の表面は、疎水性を示す。このため、水アトマイズ粉末50は、水分の付着や浸透を抑制し、水分による金属粉末20の酸化を抑制することができる。このような理由から、水アトマイズ粉末50は、特に優れた耐酸化性を有するものとなる。
なお、本工程では、図4に示すミキサー200の懸濁水30における冷却水25の含有率は、3〜30質量%程度であるのが好ましく、5〜20質量%程度であるのがより好ましい。冷却水25を前記範囲内にすることにより、有機アミン類が溶解した冷却水25を、金属粉末20の全体に確実に回すことができる。これにより、攪拌に伴う発熱量を十分に抑制することができ、熱による金属粉末20や添加剤40の変質・劣化を防止することができる。
なお、含有率が前記下限値を下回った場合、冷却水25が金属粉末20の全体に行き渡らないばかりか、懸濁水30を攪拌した際の摩擦による発熱量が著しく増大するおそれがある。一方、含有率が前記上限値を上回った場合、除去すべき冷却水25の量が膨大になり、脱水工程に長時間を要するおそれがある。
また、本発明のように、脱水工程において、懸濁水30中に添加剤40を添加することによって、被膜41を形成するために必要最小限の量の添加剤40を添加しさえすれば、効率的に被膜41が形成される。すなわち、添加剤40の消費量を抑制することができる。その結果、添加剤40による環境負荷を低減することができる。
以上のようにして、図5に示すような、金属粉末20と、その各粒子の表面を覆う被膜41とを有する水アトマイズ粉末50(本発明の水アトマイズ粉末)が得られる。
ここで、金属粉末20は、いかなる金属材料の粉末であってもよい。
具体的には、金属粉末20に用いられる金属材料として、例えば、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、In、Sn、Sn、Ta、W、またはこれらの合金が挙げられる。
このうち、金属粉末20には、ステンレス鋼、ダイス鋼、高速度工具鋼、低炭素鋼、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金等の各種Fe基合金の粉末が好ましく用いられる。このようなFe基合金は、機械的特性に優れているため、水アトマイズ粉末50およびこれを用いて製造された焼結体は、広範な用途に用いることができる。
なお、ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS317、SUS329、SUS410、SUS430、SUS440、SUS630等が挙げられる。
ここで、これらのFe基合金は、水アトマイズ法によって粉末化した場合、粒子の形状が異形状になり易いという問題があった。このため、金属粉末の流動性が低く、特に粉末冶金用の金属粉末として用いた場合、成形性の悪化を招き易かった。また、Fe基合金は、比較的酸化し易いため、その粉末の取り扱いには、従来、密閉したり、非酸化性雰囲気で保存する等の手間がかかるという問題もあった。
これに対し、水アトマイズ粉末50では、被膜41の表面の平滑性によって、異形状の粒子を含んでいても十分な流動性が得られる。このため、粉末冶金用の金属粉末として特に有用なものとなる。また、被膜41は耐酸化性および疎水性をも有していることから、内側の金属粉末20の酸化を確実に防止することができる。その結果、通常の大気雰囲気での保存も容易になり、水アトマイズ粉末50の低コスト化を図ることができる。
なお、金属粉末20の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは1〜30μm程度、より好ましくは3〜20μm程度とされる。このような比較的粒径の小さい金属粉末20は、比表面積が極めて大きいため、各粒子が凝集し易く、本来流動性は低いが、水アトマイズ粉末50では、被膜41の作用によってその流動性を十分に高めることができる。したがって、粉末冶金の分野においては、粒径の小さい水アトマイズ粉末50を高密度に充填することができるため、高密度の焼結体を容易に製造することができる。また、金属材料の機械的強度は、結晶粒径の1/2乗に反比例して高まることが経験的に知られている。すなわち、粒径が小さい水アトマイズ粉末50を用いることによって、焼結体中の結晶粒径が小さくなり、その機械的強度を飛躍的に高めることができる。したがって、水アトマイズ粉末50を用いて製造された焼結体は、特に高強度なものとなる。
また、比表面積が大きいことによって、酸化され易いという問題もあるが、被膜41が有する耐酸化性によって、金属粉末20の酸化を抑制し、酸素含有率の低い焼結体が得られる。
なお、水アトマイズ粉末50の流動性は、例えばタップ密度によって定量的に評価される。
具体的には、水アトマイズ粉末50のタップ密度は、金属粉末20のタップ密度よりも高くなる。このことから、被膜41の存在によって水アトマイズ粉末50の流動性が向上していることが定量的に示される。
より具体的には、水アトマイズ粉末50として、タップ密度が、金属粉末20のタップ密度の1.05倍以上のものが得られる。このようにタップ密度の十分な向上が図られた水アトマイズ粉末50は、例えば所定の形状に成形された際に、低比重の添加剤40の添加を補って余りある十分な充填性を示す。すなわち、被膜金属粉末50を形成してなる成形体は、低比重の被膜41を含んでいるので、金属粉末20のみで成形体を形成する場合に比べて密度が低くなるおそれがあるが、被膜金属粉末50の流動性の向上がこの密度の低下を補って余りあるので、より高密度のものとなる。
なお、水アトマイズ粉末50のタップ密度の上限は、流動性が高ければよいので特に限定されないが、理論的には、金属粉末20の構成材料の真密度未満である。
金属粉末20がFe基合金粉末である場合、水アトマイズ粉末50としてタップ密度が4.5g/cm以上のものを得ることができる。このような高タップ密度の水アトマイズ粉末50は、十分な流動性を有していると言えるので、特に、高密度の焼結体を製造可能な粉末冶金用の金属粉末として好適に用いられる。
なお、本実施形態では、乾燥に先立って添加剤40を添加するようにしたが、乾燥の途中で添加剤40を添加するようにしてもよい。
また、溶融金属10を粉末化する金属粉末製造装置100の形態は、前述したものに限定されず、例えば、筒体の内壁面に沿って旋回する冷却水に溶融金属を接触させるような高速回転水流アトマイズ装置等であってもよい。
さらに、懸濁水30の攪拌・乾燥は個別に行うようにしてもよく、その場合、図4に示すミキサー以外の各種混合機と各種乾燥機を用いることができる。
<焼結体の製造方法>
次に、本発明の焼結体の製造方法について説明する。
[D]成形工程
まず、水アトマイズ粉末50と有機バインダ60とを混合する。
次いで、得られた混合物を、所定の形状に成形し、成形体70を得る。
成形体の製造方法(成形方法)は、特に限定されず、例えば、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、圧縮成形(圧粉成形)法、押出成形法等が挙げられる。
このうちMIM法は、比較的小型のものや、複雑で微細な形状の成形体をニアネット(最終形状に近い形状)で製造することができる。
以下、成形方法の一例として、MIM法による成形体70の製造について説明する。
まず、水アトマイズ粉末50と有機バインダ60とを混練し、混練物(またはこの混練物のペレット)を得る。次いで、この混練物を射出成形機により成形型内に射出し、所望の形状の成形体70を製造する。
このようにして得られた成形体70は、有機バインダ60中に水アトマイズ粉末50がほぼ均一に分散した状態となっている。
ここで、水アトマイズ粉末50は、流動性に優れているため、混練物も優れた流動性を有するものとなる。このため、水アトマイズ粉末50を含む混練物は、成形型のキャビティの隅々まで確実に流れることができ、成形体70はキャビティの形状が忠実に転写されたものとなる。また、流動性が高いことによって、混練物は、キャビティ内に疎密なく均一に流れることができる。その結果、均質で個体差の少ない成形体70を効率よく作製することができる。
なお、製造される成形体70の形状寸法は、以後の脱脂および焼成による成形体70の収縮分を見込んで決定される。
射出成形の条件としては、用いる水アトマイズ粉末50の金属組成や粒径、有機バインダ60の組成およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、材料温度は、好ましくは80〜200℃程度、射出圧力は、好ましくは2〜30MPa(20〜300kgf/cm)程度とされる。
また、前述したように、有機アミン類の極性基が金属粉末20の表面に吸着したとき、有機アミン類の疎水性基はその反対側に露出するため、被膜41の表面には疎水性が発現する。したがって、水アトマイズ粉末50の表面は親油性を示し、有機バインダ60に対して高い親和性(濡れ性)を有するものとなる。その結果、水アトマイズ粉末50と有機バインダ60との混合物(混練物)は、前述した親和性に基づいて高い流動性を有するものとなるため、形状転写性および充填性の高い成形体70を得ることができる。
[E]脱脂工程
前記成形工程で得られた成形体70に対し、脱脂処理(脱バインダ処理)を施す。これにより、脱脂体80を得る。
脱脂処理は、成形体70を加熱することにより、熱分解によって成形体70中の有機バインダ60を除去する。
脱脂処理における加熱温度は、有機バインダ60の組成等に応じて若干異なるが、100〜750℃程度であるのが好ましく、150〜600℃程度であるのがより好ましい。成形体70中の有機バインダ60を効率よく除去することができる。
また、成形体70中の水アトマイズ粉末50の被膜41は、この脱脂工程において分解(または揮発)・除去されるものが好ましい。被膜41がこのような分解性(または揮発性)を有するように、その組成等を適宜設定することにより、最終的に得られる焼結体90中に被膜41の成分が残存するのを確実に防止することができる。
また、脱脂処理における加熱時間は、成形体70の体積や加熱温度に応じて異なるものの、加熱温度が前記範囲内であった場合、0.1〜20時間程度とするのが好ましく、0.5〜15時間程度とするのがより好ましい。これにより、成形体70の脱脂を必要かつ十分に行うことができる。
また、脱脂処理における雰囲気としては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、水素ガス等の還元性ガス雰囲気、またはこれらを減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられる。
なお、本脱脂工程において、成形体70中の有機バインダ60の全部を除去するのではなく、一部を残すようにしてもよい。
また、被膜41の主成分である水溶性の有機アミン類には、有機バインダ60よりも分解温度(または揮発温度)が低いものを用いるのが好ましい。これにより、脱脂工程において、被膜41が有機バインダ60よりも先に除去されることになる。その結果、被膜41が存在していた部分に空孔が形成される。この空孔は、必然的に成形体70の外部と連通しているため、昇温に伴って、今度は有機バインダ60の分解物がこの空孔を介して成形体70の外部に排出される。このようにして、有機バインダ60の突発的な揮発に伴い、成形体70に割れ等が生じるのを確実に防止しつつ、成形体70の脱脂をより効率よく行うことができる。
なお、被膜41は金属粉末20の表面を覆うようにして、成形体70の全体に均一に分散しているので、前述した空孔も成形体70の全体にわたって均一に形成されることとなる。したがって、成形体70は、均一に脱脂されることになり、最終的に均質な焼結体90を得ることができる。
また、被膜41が先に除去される場合、本脱脂工程を、脱脂条件の異なる複数の過程(ステップ)に分けて行うようにしてもよい。すなわち、被膜41が除去され、有機バインダ60は除去されないような加熱温度で一定時間保持した後、今度は、有機バインダ60が除去されるような加熱温度で一定時間保持するようにすれば、前述したような空孔を介した有機バインダ60の除去が促進されることとなる。その結果、効率よく確実な脱脂処理が可能になる。
また、有機バインダ60は、前述した被膜41の主成分である水溶性の有機アミン類を含んでいるのが好ましい。これにより、被膜41の分解とともに、有機バインダ60の一部にも分解が生じる。その結果、本脱脂工程において、有機バインダ60の脱脂をさらに促進することができる。
[F]焼成工程
前記脱脂工程で得られた脱脂体80を、焼成炉で焼成する。この焼結により、脱脂体80中の金属粉末20は、各粒子同士の界面で拡散が生じ、結晶組織となる。その結果、焼結体90が得られる。
焼成温度は、金属粉末20の組成や粒径等に応じて異なるものの、例えば、金属粉末20がFe基合金粉末である場合、1000〜1400℃程度であるのが好ましく、1100〜1350℃程度であるのがより好ましい。このような温度で脱脂体80を焼成することにより、結晶組織が必要以上に肥大化するのを防止することができる。その結果、微小な結晶組織を含み、機械的特性および化学的特性に優れた焼結体90を得ることができる。
また、焼成時間は、焼成温度を前記範囲内とする場合、0.2〜7時間程度であるのが好ましく、1〜4時間程度であるのがより好ましい。焼成時間を前記範囲内とすることにより、脱脂体80の焼結をより最適化して、結晶組織の肥大化を確実に防止しつつ焼結させることができる。
焼成の際の雰囲気は、特に限定されないが、水素、のような還元性雰囲気、窒素、ヘリウム、アルゴンのような不活性雰囲気、これら各雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
以上のようにして、焼結体90を得ることができる。
このようにして得られた焼結体90は、水アトマイズ粉末50の流動性が高いことから、成形体70の形状転写性および充填性が高くなり、その結果、寸法精度に優れた高密度のものとなる。
また、本発明では、金属粉末20を水アトマイズ法により形成しているため、得られた金属粉末20は、特に微細な(小粒径の)ものが得られる一方、異形状の粒子が多く含まれ、流動性が低くなるが、被膜41の作用によりこのような金属粉末20であっても高密度でかつ高強度の焼結体90が得られる。
さらに、水アトマイズ粉末50の各粒子が備える被膜41は、金属粉末20を保護し、金属粉末20の酸化を防止することができる。このため、水アトマイズ粉末50は、耐酸化性および耐候性に優れたものとなる。そして、この水アトマイズ粉末50を用いて製造された焼結体90は、酸素含有率が低く、耐酸化性および耐候性等の化学的特性に加え、電磁気的特性や機械的特性にも優れた高品位のものが得られる。
以上、本発明の水アトマイズ粉末の製造方法、水アトマイズ粉末および焼結体の製造方法について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、水アトマイズ粉末の製造方法および焼結体の製造方法では、必要に応じて、任意の工程を追加することもできる。
また、本発明の水アトマイズ粉末は、例えば、ショットブラストに用いる研削材や、溶射材料等としても好適である。例えば、本発明の水アトマイズ粉末を研削材として用いた場合、極めて小さな粒径であっても高い流動性を示す研削材となるため、研削面の平滑性を維持しつつ、均一に研削することが可能になる。また、本発明の水アトマイズ粉末を溶射材料として用いた場合には、溶射材料の流動性が高いため、溶射面に材料の塊が出来難くなり、均一な溶射膜を形成することが可能になる。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.水アトマイズ粉末および焼結体の製造
(実施例1)
[1]まず、原材料としてFe基合金(AISI 4340)を高周波誘導炉で溶融するとともに、図2に示す金属粉末製造装置を用いて水アトマイズ法により溶融金属を粉末化した。これにより金属粉末を得た。
なお、AISI 4340の組成(鋼種)は、C:0.38〜0.43質量%、Si:0.15〜0.30質量%、Mn:0.60〜0.80質量%、P:0.035質量%以下、S:0.040質量%以下、Ni:1.65〜2.00質量%、Cr:0.70〜0.90質量%、Mo:0.20〜0.30質量%、Fe:残部である。
得られた金属粉末は、水アトマイズ法の際に溶融金属に向けて噴射した冷却水とともに、懸濁水の状態で回収される。
また、得られた金属粉末の平均粒径をレーザー回折方式の粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装株式会社製、HRA9320−X100)により行ったところ、平均粒径は10μmであった。
[2]次に、懸濁水を図4に示すミキサーに投入した。なお、ミキサーに投入した懸濁水中の水分含有率は、15質量%とした。
次いで、ミキサー中に、さらに添加剤としてアルキルアミン誘導体を添加した。なお、アルキルアミン誘導体の添加量は、金属粉末の質量に対して0.045質量%になる量とした。
そして、懸濁水を攪拌しつつ乾燥させた。これにより、金属粉末の各粒子をアルキルアミン誘導体の被膜で被覆してなる被膜金属粉末を得た。
また、得られた水アトマイズ粉末について定性分析を行ったところ、アルキルアミン誘導体の存在が確認できた。このことから、前述したアルキルアミン誘導体は、乾燥によって揮発することなく、被膜として金属粉末の各粒子を被覆していると推察される。
なお、金属粉末の比表面積および添加剤の添加量から、水アトマイズ粉末の被膜の平均厚さを算出したところ、被膜の平均厚さは3nmであった。
[3]次に、水アトマイズ粉末と、ポリプロピレンとワックスの混合物(有機バインダ)とを、質量比で9:1となるように秤量して混合原料を得た。
次に、混合原料を混練機で混練し、コンパウンドを得た。
[4]次に、このコンパウンドを、以下に示す成形条件で成形し、成形体を作製した。
<成形条件>
・成形方法:射出成形法
・成形形状:20mm角の立方体形状
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm
[5]次に、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・脱脂温度 :520℃
・脱脂時間 :5時間
・脱脂雰囲気:窒素ガス雰囲気
[6]次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。このようにして焼結体を10個作製した。
<焼成条件>
・焼成温度 :1200℃
・焼成時間 :2.5時間
・焼成雰囲気:減圧Ar雰囲気
・雰囲気圧力:1.3kPa(10Torr)
(実施例2)
添加剤をシクロアルキルアミン誘導体に変更した以外は、前記実施例1と同様にして水アトマイズ粉末および焼結体(10個)を得た。
(実施例3)
添加剤をアルカノールアミン誘導体に変更した以外は、前記実施例1と同様にして水アトマイズ粉末および焼結体(10個)を得た。
(実施例4)
原材料を、Fe基合金(2%Ni−Fe)に変更した以外は、前記実施例1と同様にして、水アトマイズ粉末および焼結体(10個)を得た。
なお、2%Ni−Feの組成は、C:0.4〜0.6質量%、Si:0.35質量%以下、Mn:0.8質量%以下、P:0.03質量%以下、S:0.045質量%以下、Ni:1.5〜2.5質量%、Cr:0.2質量%以下、Fe:残部である。
また、得られた金属粉末の平均粒径は6μmであった。
(実施例5)
原材料を、Fe基合金(SUS−316L)に変更し、水アトマイズ法の条件を変更した以外は、前記実施例1と同様にして、水アトマイズ粉末および焼結体(10個)を得た。
なお、得られた金属粉末の平均粒径は4μmであった。
(実施例6)
原材料を、Fe基合金(SUS−316L)に変更し、水アトマイズ法の条件を変更した以外は、前記実施例1と同様にして、水アトマイズ粉末および焼結体(10個)を得た。
なお、得られた金属粉末の平均粒径は8μmであった。
(実施例7)
原材料を、9.5Cr−3Siに変更し、水アトマイズ法の条件を変更した以外は、前記実施例1と同様にして、水アトマイズ粉末および焼結体(10個)を得た。
なお、9.5Cr−3Siの組成は、C:0.015質量%以下、Si:2.90〜3.30質量%、Mn:0.20質量%以下、P:0.040質量%以下、S:0.020質量%以下、Ni:2.00質量%以下、Cr:9.10〜9.70質量%、Mo:0.20質量%以下、Fe:残部である。
また、得られた金属粉末の平均粒径23μmであった。
(実施例8)
原材料を、Ni−20Cr−LCに変更し、水アトマイズ法の条件を変更した以外は、前記実施例1と同様にして、水アトマイズ粉末および焼結体(10個)を得た。
なお、Ni−20Cr−LCの組成は、C:0.03質量%以下、Si:0.50〜1.20質量%、Mn:0.50質量%以下、P:0.035質量%以下、S:0.030質量%以下、Fe:0.50質量%以下、Cr:19.00〜21.00質量%、Ni:残部である。
また、得られた金属粉末の平均粒径33μmであった。
(比較例1)
添加剤の添加を省略した以外は、前記実施例1と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例2)
添加剤の添加を省略した以外は、前記実施例4と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例3)
添加剤の添加を省略した以外は、前記実施例5と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例4)
添加剤の添加を省略した以外は、前記実施例6と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例5)
添加剤の添加を省略した以外は、前記実施例7と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例6)
添加剤の添加を省略した以外は、前記実施例8と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例7)
懸濁水への添加剤の添加を省略するとともに、コンパウンド中に非水溶性のステアリン酸亜鉛(脂肪酸金属塩)を0.01質量%の割合で添加した以外は、前記実施例1と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例8)
懸濁水への添加剤の添加を省略するとともに、コンパウンド中に非水溶性のステアリン酸亜鉛(脂肪酸金属塩)を0.01質量%の割合で添加した以外は、前記実施例4と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例9)
懸濁水への添加剤の添加を省略するとともに、コンパウンド中に非水溶性のステアリン酸アミドを0.01質量%の割合で添加した以外は、前記実施例1と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
(比較例10)
懸濁水への添加剤の添加を省略するとともに、コンパウンド中に非水溶性のステアリン酸アミドを0.01質量%の割合で添加した以外は、前記実施例4と同様にして金属粉末および焼結体(10個)を得た。
2.評価
2.1 粉末流動性の評価
各実施例および各比較例で得られた水アトマイズ粉末の流動性を評価するため、JIS Z 2512に規定の方法に基づき、水アトマイズ粉末のタップ密度を測定した。
2.2 焼結体の寸法精度の評価
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、寸法精度を評価した。なお、寸法精度の評価にあたっては、金属粉末射出成形法を用いた粉末冶金分野における一般公差(±0.5%)と以下の評価基準に基づいて評価した。
<寸法精度の評価基準>
◎:全ての焼結体が一般公差内である
○:一般公差から外れた焼結体が1個である
△:一般公差から外れた焼結体が2〜4個である
×:一般公差から外れた焼結体が5個以上である
2.3 焼結体の相対密度の評価
各実施例および各比較例で得られた焼結体について、アルキメデス法により密度を測定した。そして、各原材料の真密度から相対密度を算出した。
2.4 焼結体中の酸素含有率の測定
各実施例および各比較例で得られた焼結体の酸素含有率を、酸素窒素同時分析装置(LECO社製、TC−300型)により測定した。
以上、2.1〜2.4の測定結果を表1に示す。
Figure 0005428213
表1から明らかなように、各実施例で得られた金属粉末(水アトマイズ粉末)は、各比較例で得られた金属粉末に比べてタップ密度が高かった。このため、各実施例で得られた粉末冶金用金属粉末は、流動性が高いことが明らかとなった。
また、各実施例では、いずれも各比較例に比べて寸法精度および相対密度が高く、酸素含有率が低い高品位な焼結体が得られた。
また、各比較例7〜10で得られた焼結体では、非水溶性の添加剤を用いたことによって、相対密度の若干の向上が認められたが、実施例1〜4には及ばなかった。また、各比較例7〜10で得られた焼結体は、酸素含有率が高かった。これは、金属粉末の製造後、コンパウンドの製造までの間に、金属粉末が酸化してしまったためと考えられる。
本発明の水アトマイズ粉末の製造方法の実施形態を説明するための工程図である。 金属粉末製造装置の構成を示す模式図(縦断面図)である。 図2中の一点鎖線で囲まれた領域[A]の拡大詳細図(模式図)である。 脱水工程において用いるミキサーを示す縦断面図である。 本発明の水アトマイズ粉末の実施形態を示す断面図である。
符号の説明
10……溶融金属 11……液滴 20……金属粉末 25……冷却水 251……水ジェット 26……頂部 30……懸濁水 40……添加剤 41……被膜 50……水アトマイズ粉末 60……有機バインダ 70……成形体 80……脱脂体 90……焼結体 100……金属粉末製造装置(アトマイザ) 102……供給部 121……底部 122……内部空間(内腔部) 123……吐出口 103……ノズル 131……第1の流路 132……第2の流路 133……内径漸減部 1331……部分 134……オリフィス 135……貯留部 136……導入路 137……間隙 104……第1の部材 141……上端面 105……第2の部材 151……下端面 200……ミキサー 201……台座 202……支柱 203……支持部 204……容器 205……蓋部 206……撹拌翼 207……モータ 208……流路 G……空気(気体) O……中心軸

Claims (8)

  1. 冷却水の水流に金属材料を溶融してなる溶融金属を衝突させ、前記溶融金属を飛散させて粉末化するとともに、冷却・固化させ、前記冷却水に平均粒径1〜30μmの金属粉末を懸濁してなる懸濁水を得る粉末化工程と、
    前記冷却水を5〜20質量%の割合で含む前記懸濁水をバッチ式の強制式ミキサーで撹拌しつつ、前記懸濁水に対して前記金属粉末の0.005〜10質量%の割合で水溶性の有機アミン類を含む添加剤を添加するとともに、前記懸濁水を乾燥させて前記冷却水を除去する処理を行うことにより、前記金属粉末の表面が前記添加剤の被膜で被覆された水アトマイズ粉末を得る脱水工程と、
    前記水アトマイズ粉末と有機バインダとを混合し、得られた混合物を所定の形状に成形して成形体を得る成形工程と、
    前記成形体を脱脂し、脱脂体を得る脱脂工程と、
    前記脱脂体を焼成し、焼結体を得る焼成工程と、
    を有し、
    前記水溶性の有機アミン類は、沸点が100℃超であるとともに分解温度が前記有機バインダの分解温度より低いものであって、アルキルアミン、シクロアルキルアミン、アルカノールアミンおよびこれらの誘導体のうちの少なくとも1種であり、かつ、前記誘導体は、亜硝酸塩、カルボン酸塩およびクロム酸塩のうちのいずれかであることを特徴とする焼結体の製造方法。
  2. 前記被膜の平均厚さは、1〜20nmである請求項1に記載の焼結体の製造方法。
  3. 前記被膜は、その表面が疎水性を有するものである請求項1または2に記載の焼結体の製造方法。
  4. 前記金属粉末は、Fe基合金粉末である請求項1ないし3のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  5. 前記水アトマイズ粉末のタップ密度は、4.5g/cm以上である請求項4に記載の焼結体の製造方法。
  6. 前記水アトマイズ粉末は、そのタップ密度が前記金属粉末の1.05倍以上である請求項1ないし5のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  7. 前記ミキサーの容器に設けられた流路にスチームを流すことにより、前記懸濁水を乾燥させる請求項1ないし6のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
  8. 前記水アトマイズ粉末中の前記被膜は、前記脱脂工程において除去される請求項1ないし7のいずれかに記載の焼結体の製造方法。
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