MOS型電界効果トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)とバイポーラトランジスタを融合したパワー半導体装置の一つである絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)は、その内部に形成されたpnpトランジスタによる伝導度変調により、オン抵抗を大幅に低減させることができる。そのため、特にインバータドライバやプラズマディスプレイ(PDP:Plasma Display Panel)ドライバなどに用いられている。
一般に、IGBTなどのパワー半導体装置は、大電流や過電圧に対する耐量を持ち、その耐量を超える負荷が半導体装置に加わった場合、電極間において内部短絡が生じ、破壊に至る恐れがある。半導体装置に内部短絡が生じる原因には、半導体装置がオン状態のときにコレクタ・エミッタ間電圧が過剰に高くなる(FUL:Fault Under Load)ことや、コレクタ・エミッタ間電圧が高電位に固定された状態で半導体装置がターンオンされる(HSF:Hard Switching Fault)ことなどが挙げられる。このような原因から生じるパワー半導体装置の破壊を防止するために、パワー半導体装置を過電流や過電圧から保護するための様々な保護機能が必要となる。
半導体装置を過電圧から保護するための方法として、例えば、トランジスタやIGBTなどの個別半導体装置(ディスクリートデバイス)にアバランシェダイオードを接続する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
また、半導体装置を過電流から保護するための方法として、メインIGBTにセンスIGBTを備えて、メインIGBTに流れる電流を監視し、メインIGBTに過電流が流れた場合にゲート電圧を遮断する方法が提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。
また、半導体装置を過電流から保護するための別の方法として、IGBTのコレクタ・エミッタ間電圧を監視し、コレクタ・エミッタ間に過電圧がかかった場合に、IGBTを流れる電流を制御する方法(以下、電圧センシングとする)が提案されている(例えば、非特許文献3〜5参照。)。
非特許文献2の技術では、センスIGBTとメインIGBTとの電気性能の整合性が問われる他、消費電力が大きいという問題がある。また、電流検出時のフィードバックループにより、電流波形に振動が生じやすくなるという問題がある。一方、電圧センシングでは、非特許文献2の技術に比べて電流検出精度が低くなってしまうが、検出電流にノイズが少なく、装置全体を簡素化できるという利点がある。
上述した電圧センシングでは、半導体装置にかかる過電圧を監視するためのセンサー(以下、電圧センサーとする)を設けている。電圧センサーには、ダイオードを用いるものや、LOCOS(Local Oxidation of Silicon)酸化膜の膜厚と同程度の膜厚を有するゲート酸化膜を設けたMOSFET(以下、フィールドMOSFETとする)を用いるものや、半導体装置と一体化して形成され、半導体装置の電源電圧から独立した半導体領域(以下、フローティング領域とする)を用いるものがある。
上述したそれぞれの電圧センサーついて説明する。なお、本明細書および添付図面において、nまたはpを冠記した半導体は、それぞれ電子または正孔がキャリアであることを意味する。また、n+やn-などのように、nやpに付す+または-は、それぞれそれらが付されていない半導体の不純物濃度よりも比較的高不純物濃度または比較的低不純物濃度であることを表す。
図24は、従来の電圧センシングの一例を示す回路図である。図24に示すように、ダイオードを用いた電圧センシングでは、IGBT2001を保護するために、IGBT2001に、ダイオード2002、センシング抵抗2003、コンパレータ2004およびゲート制御回路2005が設けられている。IGBT2001のコレクタ端子は、ダイオード2002のカソード端子と出力端子2007に接続されている。IGBT2001のエミッタ端子は接地されている。IGBT2001のゲート端子には、ゲート制御回路2005が接続されている。ダイオード2002のアノード端子には、センシング抵抗2003を介して制御電圧入力端子(センス入力)2008が接続されている。出力端子2007における電圧VOUTが制御電圧入力端子2008における電圧VSよりも高い場合に、ダイオード2002とセンシング抵抗2003との間のノード2006におけるセンス電圧VSENを、コンパレータ2004によって、予め設定された電圧VREFと比較して、ゲート制御回路2005が駆動される。ゲート制御回路2005は、IGBT2001のゲート電圧を遮断または低下させるように機能する(例えば、非特許文献3参照。)。
図25は、従来の電圧センシングの別の一例を示す回路図である。図25に示すように、フィールドMOSFETを用いた電圧センシングでは、MOSFET2101を保護するために、MOSFET2101に、フィールドMOSFET2102、センシング抵抗2103およびゲート制御回路2105が接続されている。MOSFET2101のドレイン端子は、出力端子2104を介してフィールドMOSFET2102のゲート端子に接続されている。MOSFET2101のソース端子は、接地されている。MOSFET2101のゲート端子は、ゲート制御回路2105に接続されている。フィールドMOSFET2102のドレイン端子は、電源電圧端子2106に接続されている。フィールドMOSFET2102のソース端子はセンシング抵抗2103およびゲート制御回路2105に接続されている。センシング抵抗2103およびゲート制御回路2105は接地されている。センシング抵抗2103の両端の電圧は、フィールドMOSFET2102のゲート・ソース間電圧−ドレイン・ソース間電流(Vgs−Ids)特性に制御され、ゲート制御回路2105に入力される。そして、ゲート制御回路2105によってMOSFET2101のゲート電圧が制御される(例えば、非特許文献6参照。)。
図26は、従来の電圧センシングの別の一例を示す回路図である。図26に示すように、縦型のメインIGBT1000にフローティング領域を設けた電圧センシングでは、メインIGBT1000のゲート電圧を制御するためのスイッチ1017を設けている。メインIGBT1000のおもて面には、n-ドリフト層1003の表面層の一部に、pベース領域1004、p+低抵抗領域1005、n+エミッタ領域1006、エミッタ電極1007、ゲート電極1008およびゲート絶縁膜1009が設けられている。メインIGBT1000の裏面には、n-ドリフト層1003の裏面に、nバッファ層1011、p+コレクタ層1012およびコレクタ電極1010が設けられている。また、ゲート電極1008、エミッタ電極1007およびコレクタ電極1010には、ゲート端子1015、エミッタ端子1016およびコレクタ端子1018が接続されている。
n-ドリフト層1003の表面層の一部には、pベース領域1004と離れてp型フローティング領域1013が設けられている。p型フローティング領域1013の表面の一部には、フローティング電極1014が設けられている。フローティング電極1014は、ゲート絶縁膜1009によりゲート電極1008と電気的に絶縁されている。p型フローティング領域1013は、フローティング電極1014を介してスイッチ1017のゲート端子と接続されている。
スイッチ1017のソース端子は、メインIGBT1000のエミッタ電極1007と接続されている。スイッチ1017のドレイン端子はメインIGBT1000のゲート電極1008と接続されている。スイッチ1017には例えばMOSFETなどが用いられ、スイッチ1017のゲート閾値電圧は、メインIGBT1000のコレクタ・エミッタ間電圧の制限値に応じて設定される。メインIGBT1000のコレクタ・エミッタ間電圧が制限値を超えた場合に、スイッチ1017がターンオンされ、メインIGBT1000のゲート電圧を制御している(例えば、非特許文献7参照。)。
図27は、従来の電圧センシングの別の一例を示す断面図である。図27に示すように、横型のメインIGBT1100にフローティング領域を設けた電圧センシングでは、図26に示す半導体装置と同様に、メインIGBT1100のゲート電圧を制御するためのスイッチ1017を設けている。図27に示すメインIGBT1100は、p+低抵抗率基板1001のおもて面に、n-ドリフト層1003が設けられている。n-ドリフト層1003の表面層には、pベース領域1004およびnバッファ領域1011が互いに離れて設けられている。pベース領域1004の表面層の一部には、n+エミッタ領域1006が設けられている。n+エミッタ領域1006に隣接して、p+低抵抗領域1005が設けられている。p+低抵抗領域1005の一部は、n+エミッタ領域1006の下の領域の一部を占めている。nバッファ領域1011の表面層の一部には、p+コレクタ領域1012が設けられている。
n+エミッタ領域1006の表面の一部からp+低抵抗領域1005の表面にかけて、エミッタ電極1007が設けられている。つまり、エミッタ電極1007により、n+エミッタ領域1006とp+低抵抗領域1005は短絡している。n+エミッタ領域1006の表面の一部からn-ドリフト層1003の表面の一部にかけて、ゲート絶縁膜1009を介してゲート電極1008が設けられている。p+コレクタ領域1012の表面の一部には、コレクタ電極1010が設けられている。ゲート電極1008とコレクタ電極1010の間において、n-ドリフト層1003の表面の一部には、絶縁膜1019を介してフローティング電極1014が設けられている。p+低抵抗率基板1001の裏面には、裏面電極1020が設けられている。ゲート電極1008、エミッタ電極1007およびコレクタ電極1010には、図示省略したゲート端子1015、エミッタ端子1016およびコレクタ端子1018が接続されている。絶縁膜1019およびフローティング電極1014が電圧センサーとして機能している。
n-ドリフト層1003は、フローティング電極1014を介してスイッチ1017のゲート端子と接続されている。スイッチ1017のソース端子は、メインIGBT1100のエミッタ電極1007と接続されている。スイッチ1017のドレイン端子はメインIGBT1100のゲート電極1008と接続されている。メインIGBT1100のゲート電圧の制御方法は、図26に示す例と同様である(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に示す技術では、スイッチ1017のゲート電圧VGM1は、絶縁膜1019下のn-ドリフト層1003の表面層における静電ポテンシャルVB、n-ドリフト層1003と絶縁膜1019を介したフローティング電極1014との間に形成される容量CSEN、スイッチ1017のゲート容量CGM1により、次の(1)式を満たす値となる。
VGM1=(CSEN/(CSEN+CGM1))VB ・・・(1)
ゲート容量CGM1は、主にスイッチ1017のゲート絶縁膜による容量である。メインIGBT1100のゲート電圧を制御するための分圧を合理的に行うためには、センシング容量CSENとゲート容量CGM1とは同程度の大きさとする必要がある。
ところで、半導体装置内に設けられる各領域の面積を減らしつつ、半導体装置の耐圧を向上させる方法として、ドリフト領域に誘電体トレンチを設ける方法が広く知られている(例えば、特許文献2、非特許文献8および非特許文献9参照。)。
このような半導体装置として、例えば横型MOSFETを用いて説明する。図28は、従来の誘電体トレンチを有する半導体装置を示す断面図である。図28に示す半導体装置1300では、p型基板1301のおもて面に、n+埋込層1302およびn-エピタキシャル層1303が積層されている。n-エピタキシャル層1303の表面層の一部には、pボディ領域1305およびnバッファ領域1304が互いに接して設けられている。pボディ領域1305の表面層の一部には、n+ソース領域1307が設けられている。n+ソース領域1307に隣接して、p+低抵抗領域1306が設けられている。nバッファ領域1304の表面層の一部には、n+ドレイン領域1308が設けられている。また、n+ドレイン領域1308に接して、nバッファ領域1304を貫通しない程度のトレンチ1309が設けられている。トレンチ1309は、酸化膜等のトレンチ埋め込み絶縁膜1310により埋められている。
n+ソース領域1307の一部からトレンチ1309の一部にかけて、ゲート酸化膜1313を介してゲート電極1312が設けられている。ソース電極1311は、n+ソース領域1307とp+低抵抗領域1306の両方に接触し、n+ソース領域1307とp+低抵抗領域1306を短絡している。ドレイン電極1314は、n+ドレイン領域1308に接触している。n+ドレイン領域1308のゲート電極1312側の端部は、pボディ領域1305とnバッファ領域1304の境界から第1の長さLDだけ離れている。トレンチ1309のゲート電極1312側の端部は、pボディ領域1305とnバッファ領域1304の境界から第2の長さLPだけ離れている。
このような半導体装置1300では、ドリフト領域にシリコンに比べて破壊電界が大きいトレンチ埋め込み絶縁膜1310を設けることで、半導体基板中のキャリアがトレンチ1309に沿って移動するため、トレンチが形成されていない構造の半導体装置に比べて実効的なドリフト長Leffを伸ばすことができる。そのため、半導体装置1300のドリフト領域の表面面積を減らしたとしても、トレンチ1309の外周を調節することでドリフト長Leffを伸ばすことができ、オン抵抗(RonA:Specific on−Resistance)が低減される。このとき、ドリフト長Leffは、第1の長さLDに比べて長くすることができ、n+ドレイン領域1308の下の領域からトレンチ1309の底面までのトレンチの深さLTおよびトレンチ幅LBとしたときに、次の(2)式を満たす値となる。
Leff=LP+2LT+LB>LD ・・・(2)
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明およびすべての添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置を示す断面図である。図1に示す横型のnチャネルIGBTは、SOI基板を用いて作製されている。SOI基板は、p支持基板1の上に、酸化膜等からなる絶縁層2およびn-ドリフト領域3aを、この順に積層した構成となっている。n-ドリフト領域3aは、第1の半導体領域に相当する。
nウェル領域3bは、n-ドリフト領域3aの表面層の一部に設けられている。nウェル領域3bは、n-ドリフト領域3aよりも高濃度にドープされており、n-ドリフト領域3aよりも低い抵抗率を有する。
pベース領域4は、n-ドリフト領域3aの表面層の一部に、n-ドリフト領域3aとnウェル領域3bに接して設けられている。nウェル領域3bおよびpベース領域4は、それぞれ第2の半導体領域および第3の半導体領域に相当する。
ゲート電極8は、pベース領域4の一部およびnウェル領域3bの表面上にゲート絶縁膜9を介して設けられている。n+エミッタ領域6は、pベース領域4の一部に、ゲート電極8のpベース領域側端部(図1では、n+エミッタ領域6上の端部)に整合するように設けられている。
チャネルは、ゲート電圧が閾値電圧を超えたときに、n+エミッタ領域6とnウェル領域3bとの間のpベース領域4と、ゲート絶縁膜9との界面に形成される。pベース領域4の一部には、n+エミッタ領域6の下側を占めるように形成されたp+低抵抗領域5aと、n+エミッタ領域6に隣接するp+ベースコンタクト領域5bが設けられている。p+低抵抗領域5aは、本実施の形態のようにn+エミッタ領域6の下側を閾値に影響を及ぼさない範囲で占めるように形成されるのが望ましい。
ゲート電極8のpベース領域側端部の外側には、その端部に接して酸化膜や窒化膜からなるゲート側壁スペーサ領域18が設けられている。p+低抵抗領域5aは、閾値に影響を及ぼさないようにするため、ゲート側壁スペーサ領域18を利用して、チャネルが形成される領域に入らないように形成されている。
また、nバッファ領域11が、nウェル領域3bおよびpベース領域4から離れて、n-ドリフト領域3aの表面層の一部に設けられている。nバッファ領域11は、n-ドリフト領域3aよりも高濃度にドープされており、n-ドリフト領域3aよりも低い抵抗率を有する。nバッファ領域11は、第4の半導体領域に相当し、n-ドリフト領域3aおよびnウェル領域3bとともに、デバイスの耐圧を保持するドリフト領域となる。このように、本デバイスは、nバッファ領域11を有するパンチスルー型のIGBTである。
p+コレクタ領域12は、nバッファ領域11の一部に設けられており、nバッファ領域11によりn-ドリフト領域3aから隔離されている。
nウェル領域3bおよびpベース領域4とnバッファ領域11との間には、トレンチ16が、nウェル領域3bおよびnバッファ領域11と離れて、n-ドリフト領域3aを貫通しないように形成されている。トレンチ16は、酸化膜等のトレンチ埋め込み絶縁膜17により埋められている。
p型フローティング領域13は、pベース領域4とトレンチ16との間の、n-ドリフト領域3aの表面層の一部に、n-ドリフト領域3aとnウェル領域3bに接して設けられている。p型フローティング領域13は、第5の半導体領域に相当する。
エミッタ電極7は、n+エミッタ領域6とp+ベースコンタクト領域5bの両方に接触し、p+ベースコンタクト領域5bとn+エミッタ領域6を短絡している。コレクタ電極10は、p+コレクタ領域12に接触している。フローティング電極14は、p型フローティング領域13に接触している。図1において、符号19は、製造時に、ゲート絶縁膜9に対するプラズマエッチングダメージを低減するために設けられる酸化膜等の絶縁膜カバー層であり、符号15は、層間絶縁膜である。
以上の構成においては、トレンチ16を設けることにより、半導体装置の実効的なドリフト長が、pベース領域4からp型フローティング領域13の下の領域を経由したトレンチ16までの長さ(以下、第1のドリフト長とする)A1と、p型フローティング領域13の下の領域からトレンチ16のゲート電極8側の側面に沿った長さ(以下、第2のドリフト長とする)A2と、トレンチ16の底面に沿った長さ(以下、第3のドリフト長とする)A3と、トレンチ16のコレクタ電極10側の側面に沿った長さ(以下、第4のドリフト長とする)A4と、トレンチ16からp+コレクタ領域12までの長さ(以下、第5のドリフト長とする)A5との総和となる。
これにより、実施の形態1にかかる半導体装置のオフ状態の耐圧を、pベース領域4と、n-ドリフト領域3aおよびnバッファ領域11と、p+コレクタ領域12とからなるpnpトランジスタの実効ベース領域で決まる耐圧とすることができる。
一方、トレンチ16を設けていない構成の半導体装置(以下、従来例の半導体装置とする)では、p+コレクタ領域12の電圧が高くなると、pベース領域4とn-ドリフト領域3aとp型フローティング領域13とからなるpnpトランジスタがパンチスルーし、実効ベース領域の幅が狭くなる。従来例の半導体装置における実効的なドリフト長は、pベース領域4からトレンチ16までの長さ(以下、第6のドリフト長とする)B1と、第3のドリフト長A3と、第5のドリフト長A5の総和である。
そのため、実施の形態1にかかる半導体装置では、従来例の半導体装置に比べて、実効的なドリフト長を長くすることができる。これにより、実施の形態1にかかる半導体装置の耐圧を、従来例の半導体装置の耐圧よりも高くすることができる。その理由は、後述する。
また、p型フローティング領域13を設けずにトレンチ16だけを設けた構成の半導体装置(以下、トレンチ16のみを設けた半導体装置とする)では、トレンチを設けたことにより、実効的なドリフト長が、第6のドリフト長B1と、トレンチ16のゲート電極8側の側面に沿った長さ(以下、第7のドリフト長とする)B2と、第3のドリフト長A3と、第4のドリフト長A4と、第5のドリフト長A5の総和となる。
このとき、トレンチ16のみを設けた半導体装置における第6のドリフト長B1と第7のドリフト長B2の和と、実施の形態1にかかる半導体装置における第1のドリフト長A1と第2のドリフト長A2の和とを、ほぼ同じ長さにすることができる。そのため、実施の形態1にかかる半導体装置では、p型フローティング領域13を設けたとしても、トレンチ16のみを設けた半導体装置の実効的なドリフト長とほぼ同じ長さとすることができる。
これにより、実施の形態1にかかる半導体装置では、実効ベース領域の表面面積を狭くしたとしても、トレンチ16の外周を調節することで、実効的なドリフト長を従来例の半導体装置と同等以上の長さにすることができる。つまり、実施の形態1にかかる半導体装置の耐圧を従来例の半導体装置に比べて維持または向上しつつ、半導体装置の小型化を図ることができる。
図2〜図4は、実施の形態1にかかる半導体装置の別の一例を示す断面図である。図2に示すように、横型IGBTを、SOI基板を用いずに、p支持基板1の上にn-ドリフト領域3aを積層した構成としても良い。また、図3および図4に示すように、横型IGBT構造に代えて、横型LDMOSトランジスタ構造としても良い。図3に示す半導体装置は、図2に示す半導体装置と同様に、SOI基板を用いずに作製されている。図4に示す半導体装置は、SOI基板を用いて作製されている。
図3および図4に示す横型LDMOSトランジスタ構造の半導体装置では、図1に示す半導体装置において、p+コレクタ領域12に代えてn+ドレイン領域31が設けられている。n+エミッタ領域6に代えてn+ソース領域33が設けられている。エミッタ電極7に代えてソース電極34が設けられている。ソース電極34は、n+ソース領域33とp+ベースコンタクト領域5bの両方に接触し、p+ベースコンタクト領域5bとn+ソース領域33を短絡している。コレクタ電極10に代えてドレイン電極32が設けられている。ドレイン電極32は、n+ドレイン領域31に接触している。
なお、横型LDMOSトランジスタ構造の半導体装置の耐圧は、pベース領域4と、n-ドリフト領域3aおよびnバッファ領域11と、n+ドレイン領域31とからなるpnpトランジスタの実効ベース領域で決まる。
以上、説明したように、実施の形態1によれば、n-ドリフト領域3aにトレンチ16を設けることで、半導体装置の実効的なドリフト長を、トレンチ16を設けていない構成の半導体装置のドリフト長よりも長くすることができる。これにより、半導体装置の耐圧を、従来例の半導体装置の耐圧よりも高くすることができる。また、半導体装置の実効的なドリフト長を、p型フローティング領域13を設けずトレンチ16だけを設けた構成の半導体装置のドリフト長とほぼ同じ長さとすることができる。これにより、半導体装置の小型化を図り、実効ベース領域の表面面積を狭くしたとしても、トレンチ16の外周を調節することで実効的なドリフト長を従来例の半導体装置と同等以上の長さにすることができる。
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2にかかる半導体装置を示す断面図である。図1に示す半導体装置において、p型フローティング領域13を、pベース領域4とトレンチ16との間の、n-ドリフト領域3aの表面層の一部に、n-ドリフト領域3aとnウェル領域3bとトレンチ16とに接して設けても良い。
図6〜図8は、実施の形態2にかかる半導体装置の別の一例を示す断面図である。図6に示すように、横型IGBTを、SOI基板を用いずに、p支持基板1の上にn-ドリフト領域3aを積層した構成としても良い。また、図7および図8に示すように、横型IGBT構造に代えて、横型LDMOSトランジスタ構造としても良い。図7に示す半導体装置は、図6に示す半導体装置と同様に、SOI基板を用いずに作製されている。図8に示す半導体装置は、SOI基板を用いて作製されている。横型LDMOSトランジスタの構造は、実施の形態1(図3および図4参照)と同様である。
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
次に、本発明にかかる半導体装置の製造プロセスについて図9〜図13を参照しながら説明する。図9〜図13は、本発明の半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。ここでは、実施の形態1にかかる半導体装置を例にして説明する。まず、図9に示すように、p支持基板1の表面に酸化膜等の絶縁層2およびn-ドリフト領域3aをこの順で積層し、通常のプレーナプロセスを用いて、nウェル領域3b、pベース領域4、p+低抵抗領域5a、p+ベースコンタクト領域5b、n+エミッタ領域6、ゲート電極8、ゲート絶縁膜9、nバッファ領域11、p+コレクタ領域12、p型フローティング領域13、ゲート側壁スペーサ領域18、絶縁膜カバー層19および層間絶縁膜15を形成する。
このとき、p+低抵抗領域5aは、例えば、ゲート側壁スペーサ領域18を介してボロンなどをイオン注入することで、n+エミッタ領域6の下に形成される。その際、チャネル領域へのボロンイオンの注入が絶縁膜カバー層19およびゲート電極8により阻止され、チャネル領域が保護される。また、ゲート側壁スペーサ領域18を利用することにより、チャネル領域側にボロンイオンが入らないようにp+低抵抗領域5aが形成される。
次いで、図10に示すように、層間絶縁膜15の表面に、トレンチエッチング用のフォトレジスト41を塗布し、フォトリソグラフィにより、フォトレジスト41にトレンチ16を形成するためのマスクパターンを形成する。次いで、図11に示すように、フォトレジスト41をマスクとして、例えば反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)などにより層間絶縁膜15を開口する。
次いで、図12に示すように、フォトレジスト41を除去し、基板を洗浄した後に、層間絶縁膜15をマスクとして、トレンチエッチングによりn-ドリフト領域3aにトレンチ16を形成する。このトレンチエッチング工程では、基板表面および層間絶縁膜15の開口部の側壁に残留するエッチング残渣なども除去される。エッチング残渣の除去では、図示省略するが、例えば、湿式エッチングを用いて層間絶縁膜15の開口部を例えば100nmほど広げる。次いで、トレンチ16の開口部近傍の、トレンチ16の側壁を、化学乾式エッチング(CDE:ケミカルドライエッチング)により、例えば100nmほど除去すると良い。
次いで、図13に示すように、トレンチ16の側壁および底面に例えば800℃程度の低温酸化処理を行い例えば20nm程度の酸化膜を成長させた後、トレンチ16の内部をトレンチ埋め込み絶縁膜17で埋める。トレンチ埋め込み絶縁膜17は、緻密性の良い酸化膜である例えば高温での化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)により形成される酸化膜と、埋め込み性の良い酸化膜である例えばオゾンCVD法を用いたテトラエトキシシラン(TEOS)膜により形成される。
次いで、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)による平坦化後、フォトリソグラフィおよびRIEによりフローティング電極14のコンタクト部を形成し、このコンタクト部に接触するフローティング電極14を形成する。次いで、エミッタ電極7およびコレクタ電極10などを形成し、図1に示すような半導体装置が完成する。上述した製造プロセスは、横型LDMOSトランジスタの半導体装置にも適用することができる。
次に、本発明にかかる半導体装置のオフ状態における降伏時の電流−電圧(ICE−VCE)特性について説明する。図14は、本発明にかかる半導体装置における降伏時の静電ポテンシャル分布を示す特性図である。また、図15は、図14に示す半導体装置および従来の半導体装置におけるオフ状態の電流−電圧特性を示す特性図である。図14は、実施例の半導体装置における静電ポテンシャル分布を示している。また、次に示すように、実施例の半導体装置と、p型フローティング領域13のみを設けた構成の半導体装置(従来例の半導体装置)と、p型フローティング領域13およびトレンチ16を設けていない構成の半導体装置(以下、比較例の半導体装置とする)とを作製し、それぞれの半導体装置におけるICE−VCE曲線を図15に示した。実施例の半導体装置は、図1に示す構成において、n-ドリフト領域3aの厚さを14μmとし、pベース領域4とp型フローティング領域13との間隔を3.0μmとし、ゲート電極8のp型フローティング領域側端部とトレンチ16との間隔を4.0μmとし、トレンチ16とnバッファ領域11との間隔と4.0μmとし、トレンチ16の深さを10μmとし、トレンチ16の幅を0.8μmとしたときの半導体装置である。
従来例の半導体装置は、図23に示す半導体装置と同じような構成となっている。従来例の半導体装置では、n-ドリフト領域3aの厚さを10μmとし、pベース領域4とp型フローティング領域13との間隔を4.0μmとし、p型フローティング領域13とnバッファ領域11との間隔を4.0μmとした。また、比較例の半導体装置では、pベース領域4とnバッファ領域11との間隔を10.5μmとした。
図15に示す結果より、実施例の半導体装置は、従来例の半導体装置に比べて、半導体装置の耐圧が向上していることがわかる。実施例の半導体装置の耐圧は、248Vである。これは、従来例の半導体装置では、p型フローティング領域13の存在により、pベース領域4と、n-ドリフト領域3aおよびnバッファ領域11と、p+コレクタ領域12とからなるpnpトランジスタの実効ベース領域の幅が狭くなるからである。
従来例の半導体装置では、p+コレクタ領域12の電圧が高くなると、pベース領域4と接しているn-ドリフト領域3aの一部からnバッファ領域11に向かって空乏層が広がり、ある電圧値において、pベース領域4とn-ドリフト領域3aとp型フローティング領域13とからなるpnpトランジスタがパンチスルーする。そのため、p型フローティング領域13とフローティング電極14の電位VPが固定される。その後さらにp+コレクタ領域12の電圧が高くなると、電位VPで固定されたp型フローティング領域13と、n-ドリフト領域3aおよびnバッファ領域11と、p+コレクタ領域12とからなるpnpトランジスタの実効ベース領域で決まる耐圧VP1に達し、従来例の半導体装置は降伏する。このときの従来例の半導体装置の全体の耐圧はVP+VP1となり、実施例の半導体装置よりも耐圧が低下することになる。
また、実施例の半導体装置は、比較例の半導体装置に比べて、半導体装置の耐圧が向上していることがわかる。この理由は、実施例の半導体装置では、トレンチ16を設けることによりp型フローティング領域13による耐圧への影響を抑制し、pベース領域4と、n-ドリフト領域3aおよびnバッファ領域11と、p+コレクタ領域12とからなるpnpトランジスタの実効ベース領域を、比較例の半導体装置よりも長くすることができるからである。さらに、実施例の半導体装置では、n-ドリフト領域3aの厚さとトレンチ16の深さとを調節することで、比較例の半導体装置の耐圧を維持しつつ小型化を図ることができる。
次に、例えばコンデンサーを駆動する回路を例に、本発明にかかる半導体装置を用いた電圧センシングについて説明する。図16は、本発明にかかる半導体装置を用いた保護回路の一例を示す回路図である。図16に示す回路の出力段は、いわゆるトーテムポール構成としている。図16に示す回路は、第1のIGBT51、第2のIGBT52、コンデンサー53、抵抗54、定電流源55、起動スイッチ56、ハイレベル電源端子57、ゲート制御信号入力端子58および出力端子59を備えている。第1のIGBT51のコレクタ端子は、出力端子59を介して第2のIGBT52のエミッタ端子に接続されている。第1のIGBT51のエミッタ端子は、接地されている。第1のIGBT51のゲート端子は、ゲート制御信号入力端子58に接続されている。第2のIGBT52のコレクタ端子は、高電圧出力段のハイレベル電源端子57に接続されている。第2のIGBT52のゲート端子は、抵抗54および高電圧の出力端子59を介してコンデンサー53に接続されている。コンデンサー53の一方の電極は、接地されている。また、第2のIGBT52のコレクタ端子とゲート端子の間には、定電流源55および起動スイッチ56が接続されている。このような回路では、第1のIGBT51、第2のIGBT52および起動スイッチ56のオン・オフ状態を調節することにより、コンデンサー53の充電および放電を行っている。ハイレベル電源端子57は、第2の電源端子に相当する。
また、図16に示す第1のIGBT51および第2のIGBT52に、それぞれ過電圧を検出するための保護回路を設けた。図17および図18は、本発明にかかる半導体装置の異常検出回路の一例を示す回路図である。図17に示す回路は、第1のIGBT51の過電圧を検出する回路であり、第1のスイッチ61、第2のスイッチ62および第1の分圧抵抗63を備えている。第1のスイッチ61および第2のスイッチ62は、第1のIGBT51からの検出信号により、第1のIGBT51のゲート電圧を制御するスイッチである。第1のスイッチ61および第1の分圧抵抗63は、第1のIGBT51からの検出信号を第2のスイッチ62に入力可能な電圧値に変換する機能を有する(以下、第1の分圧回路とする)。第1のスイッチ61は、第1の電界効果トランジスタに相当する。第2のスイッチ62は、第2の電界効果トランジスタに相当する。第1の分圧抵抗63は、抵抗体に相当する。
第1のIGBT51のフローティング電極(図1のフローティング電極14)端子とゲート端子の間には、第1の分圧回路を介して第2のスイッチ62が接続されている。第2のスイッチ62のドレイン端子は、第1のIGBT51のゲート端子に接続されている。第2のスイッチ62のソース端子は、接地されている。第1の分圧回路では、第1のスイッチ61のソース端子と第1の分圧抵抗63の一端が接続されている。第1の分圧抵抗63の他端は、接地されている。第2のスイッチ62のゲート端子は、第1のスイッチ61のソース端子と第1の分圧抵抗63の中間ノードに接続されている。第1のスイッチ61のゲート端子は、第1のIGBT51のフローティング電極端子に接続されている。第1のスイッチ61のドレイン端子は、回路電源電位を有するローレベル電源端子に接続されている。第1のスイッチ61および第2のスイッチ62に用いる半導体基板の電位(ボディ電位)は、接地電位である。ローレベル電源端子は、第1の電源端子に相当する。
第1の分圧回路において、第1のIGBT51のフローティング電極から検出された電圧(以下、フローティング電圧とする)VPを第2のスイッチ62に入力可能な電圧VG2に変換し、第2のスイッチ62を駆動させる。第2のスイッチ62がオン状態になると、第1のIGBT51のゲート端子が接地され、第1のIGBT51のゲート電圧VG1を低減させることができる。
このような第1のスイッチ61および第2のスイッチ62には、例えばMOSFETが用いられる。第1のIGBT51と直接接続される第1のスイッチ61において、第1のIGBT51のゲート・エミッタ間電圧(ゲート駆動電圧)VGEよりも高く、かつ第1のIGBT51のフローティング電圧VPの飽和電圧値以下に、ゲート閾値電圧を設定するのが良い。その理由は、第1のIGBT51が飽和モードに入っていない場合は、第1のスイッチング61をオンさせないためである。第2のスイッチ62のゲート閾値電圧は、第1のスイッチ61よりも低いゲート閾値電圧とするのが良い。
図18に示す回路は、第2のIGBT52の過電圧を検出する回路であり、第3のスイッチ71、第4のスイッチ72、および第2の分圧抵抗73を備えている。第3のスイッチ71および第4のスイッチ72は、第2のIGBT52からの検出信号により、第2のIGBT52のゲート電圧を制御するスイッチである。また、第3のスイッチ71および第2の分圧抵抗73は、第2のIGBT52からの検出信号を第4のスイッチ72に入力可能な電圧値に変換する機能を有する(以下、第2の分圧回路とする)。第3のスイッチ71は、第1の電界効果トランジスタに相当する。第4のスイッチ72は、第2の電界効果トランジスタに相当する。第2の分圧抵抗73は、抵抗体に相当する。
第2のIGBT52のフローティング電極(図1のフローティング電極14)端子とゲート端子の間には、第2の分圧回路を介して第4のスイッチ72が接続されている。第3のスイッチ71のドレイン端子は、第3のスイッチ71のゲート端子に短絡されている。第4のスイッチ72のソース端子および第2の分圧抵抗73の他端は、第2のIGBT52のエミッタ端子に短絡されている。第3のスイッチ71および第4のスイッチ72のボディ電位は、第2のIGBT52のエミッタ端子電位となっている。その他の構成は、図17に示す回路における第1のIGBT51、第1のスイッチ61、第2のスイッチ62および第1の分圧抵抗63を、それぞれ第2のIGBT52、第3のスイッチ71、第4のスイッチ72および第2の分圧抵抗73に代えた構成となっている。
第2の分圧回路において、第2のIGBT52のフローティング電圧VPを第4のスイッチ72に入力可能な電圧VG4に変換し、第4のスイッチ72を駆動させる。第4のスイッチ72がオン状態になると、第2のIGBT52のゲート端子が接地され、第2のIGBT52のゲート電圧VG3を低減させることができる。
また、第3のスイッチ71および第4のスイッチ72は、それぞれ第1のスイッチ61および第2のスイッチ62と同様の方法で設定する。その際、第3のスイッチ71では、第2のIGBT52のゲート・エミッタ間電圧VGEおよび第2のIGBT52のフローティング電圧VPの飽和電圧値を基準とする。
図19は、本発明の半導体装置にかかるコレクタ・エミッタ間電圧とフローティング電圧との関係を示す特性図である。ここでは、図17に示す保護回路を例に説明する。第1のIGBT51のコレクタ・エミッタ間電圧VCEが異常な原因により高くなる(以下、異常動作時とする)場合、第1のIGBT51に過電圧が印加されるとともに過電流が流れることで破壊に至る恐れがある。図19に示す結果より、このとき、第1のIGBT51では、コレクタ・エミッタ間電圧VCEの増大に伴い、フローティング電圧VPも増大して飽和状態となることがわかった。
第1のIGBT51のターンオフ時、つまりゲート・エミッタ間電圧VGEが0Vの場合には、コレクタ・エミッタ間電圧VCEが20V程度(測定結果C1)より大きい電圧値である例えば30V以上で、フローティング電圧VPの飽和電圧は4V程度となる。一方、第1のIGBT51のターンオン時、つまりゲート・エミッタ間電圧VGEが2.0V以上の場合に、コレクタ・エミッタ間電圧VCEが20V程度に達した時点で、フローティング電圧VPの飽和電圧は測定結果C1よりも大きくなる(測定結果C2)。例えば、ゲート・エミッタ間電圧VGEが6.0Vで、7V程度である。
この測定結果C1と測定結果C2とのフローティング電圧VPの差は、ターンオン時における第1のIGBT51のpベース領域(図1のpベース領域4)とp型フローティング領域(図1のp型フローティング領域13)との間に生じる電圧降下に起因している。そのため、フローティング電圧VPを検出することで、第1のIGBT51が破壊される前、すなわちコレクタ・エミッタ間電圧VCEが高くなりすぎる前に、第1のIGBT51のターンオフ時期を判別することができる。つまり、第1のスイッチ61のゲート閾値電圧値に、第1のIGBT51のゲート・エミッタ間電圧(ゲート駆動電圧)VGEよりも高く、かつ第1のIGBT51のフローティング電圧VPの飽和電圧値以下の電圧値を設定する。これにより、第1のIGBT51を駆動させることができ、かつ第1のIGBT51が破壊に至る前に第1のIGBT51をターンオフすることができる。例えば、ゲート・エミッタ間電圧VGEが5Vのときに、コレクタ・エミッタ間電圧VCE>20Vおよびフローティング電圧VP>6Vとなるときを異常状態とした場合は、第1のスイッチ61のゲート閾値電圧を6Vに設定すれば良い。
また、第1のスイッチ61および第3のスイッチ71に、LOCOS酸化膜をゲート酸化膜として設けたフィールドMOSFETを用いても良い。
エッチ・スミダ(H.Sumida)らは、「ブレークダウン キャラクタリスティックス オブ ア ハイ−ボルテージ ラテラル PMOS ウィズ LOCOS ゲート オン SOI(Breakdown Characteristics of a High−Voltage Lateral PMOS with LOCOS Gate on SOI)」(ザ 7th インターナショナル シンポジウム オン セミコンダクタ ウェハ ボンディング サイエンス, テクノロジー, アンド アプリケーションズ, 203rd ミーティング オブ ジ エレクトロケミカル ソサイエティ(The Seventh International Symposium on Semiconductor Wafer Bonding Science, Technology, and Applications, 203rd Meeting of the Electrochemical Society)、2003年4月29日、フランス)の中で、ゲート酸化膜の厚さを400nmとした高耐圧を有するpチャネルMOSFETについて報告している。
本発明において、nチャネルMOSFETのゲート閾値電圧Vthは、フラットバンド電圧Vfb、フェルミ準位とミッドギャプの差ΨB、誘電率εs、単位電荷q、アクセプタ濃度Na、ゲート酸化膜容量Coxとしたときに、次の(3)式を満たす値として算出することができる。
Vth=Vfb+2ΨB+(4εsqNaΨB)0.5/Cox ・・・(3)
(3)式より、ゲート酸化膜Tox=400nm、アクセプタ濃度Na=1×1016cm-3とした場合、ゲート閾値電圧Vthは約6Vとなる。
次に、第1のIGBT51および第2のIGBT52の電流−電圧特性について説明する。図20および図21は、本発明にかかる半導体装置のコレクタ・エミッタ間電流と各電極の電圧との関係についてのシミュレーション結果を示す特性図である。図20では、第2のIGBT52を動作させ、コンデンサー53を充電させたときの電流−電圧特性を示している。また、図21では、第1のIGBT51を動作させ、コンデンサー53を放電させたときの電流−電圧特性を示している。各測定値を実測するにあたり、図16〜図18に示す回路を、次に示すように設定している。図16に示す回路において、第1のIGBT51に流すことのできる電流値の上限(以下、電流能力とする)を0.6Aとした。第2のIGBT52の電流能力を0.2Aとした。コンデンサー53の容量を200pFとした。抵抗54の抵抗値を約5kΩとした。定電流源55の定電流値を0.1Aとした。ハイレベル電源端子57に接続される回路電源の電圧を約150Vとした。
また、図17に示す回路において、第1のスイッチ61および第2のスイッチ62は、nチャネルMOSFETを用いた。第1のスイッチ61および第2のスイッチ62のゲート閾値電圧Vthを、それぞれ6Vおよび1Vとした。第1のスイッチ61のチャネル長Lおよびチャネル幅Wを、それぞれ2μmおよび50μmとした。第2のスイッチ62のチャネル長Lおよびチャネル幅Wを、それぞれ2μmおよび15μmとした。第1の分圧抵抗63の抵抗値を50kΩとした。ローレベル電源端子に接続される回路電源の電圧を5Vとした。
また、図18に示す回路において、第3のスイッチ71および第4のスイッチ72は、nチャネルMOSFETを用いた。第3のスイッチ71および第4のスイッチ72のゲート閾値電圧Vthを、それぞれ6Vおよび1Vとした。第3のスイッチ71のチャネル長Lおよびチャネル幅Wを、それぞれ2μmおよび50μmとした。第4のスイッチ72のチャネル長Lおよびチャネル幅Wを、それぞれ2μmおよび15μmとした。第2の分圧抵抗73の抵抗値を50kΩとした。なお、チャネル長Lとは、MOSFETのソース領域とドレイン領域との間でキャリアの流れる方向の長さをいう。また、チャネル幅Wとは、チャネル長Lと直行する方向のチャネル部分の長さをいう。
コンデンサー53を充電する場合、第1のIGBT51をオフ状態とし、起動スイッチ56をオン状態にすることで、ハイレベル電源端子57に接続される回路電源から電圧が印加され第2のIGBT52がターンオンされる。図20の結果より、第2のIGBT52では、ハイレベル電源端子57からの電圧により、ゲート電圧VGが、エミッタ電圧VEよりも約5Vほど高くなることがわかる。また、フローティング電圧VPは、エミッタ電圧VEよりも約10Vほど高くなることがわかる。このとき、コレクタ・エミッタ間電流ICEは約0.2Aまで増加した後に減少している。また、フローティング電圧VPがエミッタ電圧VEよりも高くなる時間(以下、充電時VPハイ時間とする)は、第3のスイッチ71のゲート閾値電圧Vthを6Vに設定していることから、フローティング電圧VPとエミッタ電圧VEとの差が6V以上となる約12nsから約210nsまでの、約200ns間であることがわかる。つまり、第2のIGBT52に過電圧がかからない正常状態において、第2のIGBT52は200nsでターンオンすることがわかる。
一方、コンデンサー53を放電させる場合、第2のIGBT52をオフ状態とし、ローレベル電源端子に接続される回路電源から電圧を印加することにより、第1のIGBT51をターンオンさせる。図21の結果より、第1のIGBT51では、ローレベル電源端子からの電圧により、ゲート電圧VGおよびコレクタ・エミッタ間電流ICEが増加し始めることがわかる。また、コレクタ電圧VCは、フローティング電圧VPの増加とともに減少し始めることがわかる。このとき、フローティング電圧VPが、ゲート電圧VG=0Vのときのフローティング電圧VPの電圧値(約5V)よりも高くなる時間(以下、放電時VPハイ時間とする)は、ゲート電圧VGが2.5V以上となる約20nsから70nsまでの、約50ns間であることがわかる。つまり、第1のIGBT51に過電圧がかからない正常状態において、第1のIGBT51は50nsでターンオンすることがわかる。
そのため、このような回路において、第1のIGBT51および第2のIGBT52から構成される出力段を正常に動作させるためには、保護回路に用いる第1のスイッチ61および第2のスイッチ62のターンオン時間を、第1のIGBT51のターンオン時間よりも長くすることが好ましい。また、保護回路に用いる第3のスイッチ71および第4のスイッチ72のターンオン時間を、第2のIGBT52のターンオン時間よりも長くすることが好ましい。保護回路のスイッチのターンオン時間を、正常動作時のフローティング電圧VPがハイとなる時間よりも長くするのは、図16に示すような回路の正常動作を妨害しないためである。
次に、本発明の半導体装置のターンオン時間とフローティング電圧の関係について説明する。図22は、本発明にかかる半導体装置の電圧特性を示す特性図である。ここでは、図17を例に説明する。図22では、第1のIGBT51のゲート容量を24pFとし、コンデンサー53を放電させる場合の第1のIGBT51のゲート電圧VG1について示している。第1のIGBT51のゲート電圧VG1に電圧が印加されると、第1のIGBT51のフローティング電圧VPが上昇し始める。フローティング電圧VPが第1のスイッチ61のゲート閾値電圧を超えた場合に、第2のスイッチ62のゲート電圧VG2に電圧が印加され第2のスイッチ62がオン状態となるため、第1のIGBT51のゲート電圧VG1が減少し始める。
図22に示す結果より、第1のIGBT51の異常動作時、例えば第1のスイッチ61のターンオン時間を340nsに設定している場合、つまり放電時VPハイ時間が340nsとなる場合、第1のIGBT51のゲート電圧VG1は5Vから2Vまで降下する。一般に、IGBTの短絡耐量はゲート電圧によって変化し、あるゲート電圧を超えると減少する。そのため、第1のIGBT51のゲート電圧VG1を減少させることで、第1のIGBT51の短絡耐量を増加させることができるため、異常放電時にフローティング電圧VPがハイとなる時間が長い場合でも、第1のIGBT51のゲート電圧VG1を制御することができる。また、異常放電時にフローティング電圧VPがハイとなる時間がもっと長ければ、第1のIGBT51のゲート電圧VG1の値は、第1のIGBT51の閾値よりも低くなり、第1のIGBT51はターンオフされる。
一方、第1のIGBT51の正常動作時、第1のIGBT51は放電時VPハイ時間である50nsでプルダウンされる。このとき、図22に示す結果より、第1のIGBT51のゲート電圧VG1の降下は0.5Vであり、図17に示す回路の正常動作への影響は少ないことがわかる。
図18に示す保護回路では、第2のIGBT52のエミッタ端子が第4のスイッチ72に短絡されていることで、図22に示す電圧波形とほぼ同様の電圧波形となる。そこで、図22に示す電圧波形を例に、コンデンサー53を充電する場合の第2のIGBT52のゲート電圧VG3の電圧波形について説明する。このとき、図22に示す第1のゲート電圧が、第2のIGBT52のゲート電圧VG3に相当する。図22に示す第2のゲート電圧が、第4のスイッチ72のゲート電圧VG4に相当する。第2のIGBT52の異常動作時、第1のIGBT51と同様に、第2のIGBT52のゲート電圧VG3を降下させることができ、第2のIGBT52が破壊されることを防止することができる。一方、第2のIGBT52の正常動作時、第2のIGBT52は放電時VPハイ時間である200nsでプルダウンされることとなるが、図22に示すように、第2のIGBT52のゲート電圧VG1は200ns間で5Vから3Vまで降下する。そのため、異常動作時と同様に、第2のIGBT52のゲート電圧VG3を制御することができる。
以上の結果より、IGBTの保護回路として設ける半導体スイッチにおいて、半導体スイッチのゲート閾値電圧を、IGBTのゲート・エミッタ間電圧よりも高く、かつIGBTのフローティング電圧の飽和電圧値以下に設定することで、フローティング電圧の値によって、保護対象であるIGBTのターンオフ時期を判別することができることがわかった。また、半導体スイッチのターンオン時間をIGBTのターンオン時間以上に設定することで、例えばトーテムポール構成の出力段を正常に動作させることができることがわかった。また、上述したような設定とすることで、IGBTが破壊される前にIGBTのゲート電圧を低減することができ、IGBTの実質的な短絡耐量を高くすることができることがわかった。
以上において、本発明の耐圧担持に関する構造は、高耐圧を必要とする横型LDMOSトランジスタなどにも応用可能である。また、本発明において、半導体装置のn-ドリフト領域の厚さ、トレンチの深さは、上述した数値に限らず種々変更可能である。また、本発明にかかる半導体装置を用いた回路の構成および保護回路の構成は、上述した回路構成に限らず種々変更可能であり、保護回路として用いるスイッチング素子のターンオン時間、ゲート閾値電圧などは、回路構成に合わせて好適な条件に変更することが望ましい。