以下、本発明のスフィンゴ脂質および樹皮抽出物について説明する。なお、以下に説明する構成は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができることは当業者に明らかである。
(スフィンゴ脂質)
本発明のスフィンゴ脂質とは、スフィンゴシンなどの長鎖塩基を共通構造成分として含む複合脂質であり、グリセロールを共通構造成分として含むグリセロ脂質とは異なる分類の脂質である。このスフィンゴ脂質には、スフィンゴシンに脂肪酸が酸アミド結合したN−アシルスンゴイドの1位の水酸基にさらに置換基として糖がグリコシド結合したスフィンゴ糖脂質(例えばセレブロシドなど)やリン酸とコリンなどの塩基が結合したスフィンゴリン脂質(スフィンゴミエリンなど)に分類される。このようスフィンゴ脂質は、主に動物に見出される成分であるが、小麦、大豆、キノコ、コンニャクイモなどに見出されている。本発明では、このような中でも主に植物由来に多く存在するスフィンゴ糖脂質が好ましく、スフィンゴ糖脂質を植物より抽出した抽出物が好ましく、抽出物中にスフィンゴ糖脂質を0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%〜90質量%含有することが好ましい。
このようなスフィンゴ糖脂質を含有する抽出物は、公知の方法で調製することができる。例えば、溶媒(例えば、エタノール、メタノール、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、酢酸エチル、2−プロパノールなどを単独あるいは前記の溶媒と水とを含む2種以上の混合溶媒)を用いて、動植物体より抽出することができる。特に、エタノールを溶媒として用いることが好ましい。抽出の温度は、4℃〜13℃で行うことができるが、加熱を行って抽出する場合は溶媒が揮発するため、加熱還流を行うことが好ましい。また、抽出の時間は、加熱還流の場合は12〜48時間であが、溶媒に浸漬して室温で放置する場合は、3日〜15日程度である。さらに、上記で得られた抽出物からスフィンゴ糖脂質を濃縮するために、必要に応じてアセトン沈殿分画を行う。使用する溶媒は、アセトン単独、またはヘキサン、エタノール、水のいずれか1種以上を5容量%以下の割合で含むアセトンの混合溶媒が挙げられる。アセトン沈殿分画の温度は、30℃以下であることが好ましく、さらに、0℃以下であることが望ましい。前記のアセトン沈殿物は、デカンテーションあるいは遠心分離により分離してもよい。さらにこの画分は、弱アルカリ分解処理を行うことによりグリセロ糖脂質を除去することでさらにスフィンゴ糖脂質の含量を高めることもできる。弱アルカリ分解は、例えば、水酸化カリウムあるいは水酸化ナトリウムの溶液をとエタノールを混合容量比で、0.01:99.99〜50:50で含有する含水エタノールを用いることが好ましい。また、アルカリ溶液濃度は、0.05〜0.5Nであることが好ましい。弱アルカリ分解反応の温度と時間は、30℃〜50℃で、1〜6時間程度である。これらの処理の後に減圧濃縮などでスフィンゴ糖脂質を高含有する抽出物を得ることができる。
さらに、弱アルカリ分解後にスフィンゴ糖脂質を抽出することもでき、この場合の溶媒としては、メタノール、エタノール、あるいは含水メタノール、含水エタノールが挙げられる。溶媒の添加量は、抽出物1質量部に対して、1〜20質量部添加して抽出することが可能である。
(樹皮抽出物)
本発明の樹皮抽出物は、オリゴメリックプロアントシアニジンおよび高分子プロアントシアニジンを含有する。本明細書においては、プロアントシアニジンを重合度によって分類する。すなわちフラバン−3−オール誘導体の2量体〜4量体の化合物をオリゴメリックプロアントシアニジン(OPC)と、5量体以上の化合物を高分子プロアントシアニジンとする。フラバン−3−オール誘導体は、フラバン−3−オールを基本骨格とする化合物であり、例えば、フラバン−3−オール、フラバン−3,4−ジオール、フラバン−3,4−ジオール誘導体、カテキン類(ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称)などが挙げられる。
本発明の樹皮抽出物は、上記オリゴメリックプロアントシアニジン(OPC)を樹皮抽出物中の固形分に対して25質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、最も好ましくは40質量%〜60質量%含有する。OPCの含有量が高い方が、樹皮抽出物の水に対する溶解性は大きくなるという傾向がある。
上記樹皮抽出物は、水に対する溶解性が高い。そのため、水溶液の白濁および沈殿の発生が抑制される。具体的には、樹皮抽出物の溶解率が90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上、最も好ましくは99.7%以上である。なお、「溶解率」とは、樹皮抽出物が1質量/体積%となるように蒸留水に懸濁させ、ボルテックスで攪拌した後、室温(約25℃)で60分間放置した場合に濾滓として検出されない固形分の割合をいい、以下の式1で示される。
上記樹皮抽出物は、特に、高分子プロアントシアニジン1質量部に対して、OPCを0.9質量部以上の割合で含有することが好ましい。上記所定の比率以上でOPCを含有する場合は、樹皮抽出物の水に対する溶解性が高まるため、水溶液中の白濁および沈殿の発生を顕著に抑制することができる。
本発明の樹皮抽出物は、さらに、カテキン類を含有することが好ましい。カテキン類とは、上述の通り、ポリヒドロキシフラバン−3−オールの総称である。カテキン類としては、(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、エピカテキンガレートなどが挙げられる。さらに、天然物由来のアフゼレキン、ならびに(+)−カテキンまたはガロカテキンの3−ガロイル誘導体も含む。カテキン類は、発癌抑制作用、動脈硬化予防作用、脂肪代謝異常の抑制作用、血圧上昇抑制作用、血小板凝集抑制作用、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用、抗菌作用、虫歯予防作用、口臭防止作用、腸内細菌叢正常化作用、活性酸素やフリーラジカルの消去作用、抗酸化作用、血糖の上昇を抑制する抗糖尿病作用などを有することが知られている。カテキン類とOPCとを共存させると、カテキン類の水溶性が増加される。そのため、体内へのカテキン類の吸収を容易にし得、カテキン類の上記作用が活性化されると考えられる。したがって、OPCとカテキン類とを含有する樹皮抽出物は、水に対する溶解性の高さを保持しつつ、さらに活性化されたカテキン類の生体に対する効果が得られるため、特に有用である。
カテキン類の含量は、特に制限されないが、好ましくは、樹皮抽出物中の固形分に対して5質量%以上含有する。
(樹皮抽出物の製造方法)
次に、樹皮抽出物の製造方法について説明する。樹皮抽出物の製造方法は、(a)粗抽出工程、(b)高分子プロアントシアニジン(高分子PC)減少工程、および(c)プロアントシアニジン濃縮工程を包含する。(a)の粗抽出工程は、樹皮から粗抽出物を得る工程であり、(b)の高分子PC減少工程は、前工程で得られた処理物(例えば、粗抽出物)から高分子PCを減少させる工程であり、(c)のプロアントシアニジン濃縮工程は、前工程で得られた処理物(例えば、高分子PC減少処理物)から、糖類、有機酸、脂溶性成分などの夾雑物を除去し、かつ溶媒を減少させる工程である。(b)高分子PC減少工程および(c)プロアントシアニジン濃縮工程の順序は逆であってもよい。
(a)粗抽出工程
粗抽出工程は、溶媒中に木本植物の樹皮を浸漬し、必要に応じて、所定温度で保持することによって行われる。
本発明の樹皮抽出物の原料である木本植物の樹皮としては、例えば、針葉樹の樹皮、広葉樹の樹皮が挙げられ、さらに具体的にいえば、松樹皮、樫樹皮、山桃樹皮、モリシマアカシア樹皮、アカシアマンギウム樹皮、ヤナギ属樹木の樹皮、ヒバ樹皮、ラジアータパイン樹皮などが挙げられる。樹皮抽出物は、一般に、プロアントシアニジンを多く含む。そのうち、OPCを豊富に含有する樹皮抽出物は、優れた生理活性を有する。よって、OPC含有量を考慮すれば、本発明の樹皮抽出物の原料としては、松樹皮を選択することが好ましい。
松樹皮としては、フランス海岸松(Pinus Martima)、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどのマツ目に属する植物の樹皮が好ましく用いられる。中でも、フランス海岸松の樹皮が好ましい。フランス海岸松は、南仏の大西洋沿岸の一部に生育している海洋性松をいう。このフランス海岸松の樹皮は、プロアントシアニジン、有機酸、ならびにその他の生理活性成分などを含有する。フランス海岸松の樹皮抽出物は、特にOPCを豊富に含む。
粗抽出は、抽出効率を考慮して、体積当たりの表面積を大きくするため、樹皮を適当な大きさに破砕して樹皮破砕物を得ることが好ましい。例えば、カッター、スライサーなどで処理された樹皮破砕物、ミキサー、ジューサー、ブレンダー、マスコロイダーなどで処理された樹皮破砕物などが挙げられる。樹皮破砕物の大きさは、特に限定されないが、好ましくは0.1〜10cm、より好ましくは0.1〜5cmの細片である。なお、破砕時においては、破砕効率を上げるために、水、あるいはエタノール、メタノール、酢酸エチルなどの有機溶媒、もしくは水と有機溶媒との混合溶媒を加えてもよい。
粗抽出に用いる溶媒としては、例えば、水または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、および1,1,2−トリクロロエテンが挙げられる。これらの溶媒は、水単独で用いても、有機溶媒単独で用いても、水と有機溶媒とを混合した溶媒を用いても、複数の有機溶媒を混合した溶媒を用いてもよい。
溶媒の選択は、例えば、次のような事項を踏まえて決定すればよい。まず、製造時の廃液処理の観点、または、金属塩などを添加(後述する)するという観点からは、水を用いることが好ましい。また、比較的低い温度で短時間に濃縮を行う場合、水よりも沸点の低い有機溶媒(例えば、エタノール)、または水よりも沸点の低い有機溶媒と水との混合溶媒を用いればよい。このような有機溶媒は、濃縮時に容易に除去することができ、効率よく樹皮抽出物を得ることができる。本発明の樹皮抽出物を食品または医薬品として使用する場合、その使用の安全性を考慮すれば、エタノール、またはエタノールと水との混合溶媒を用いることが好ましい。
溶媒の量は、樹皮粗抽出物中のプロアントシアニジン濃度または抽出効率を考慮して設定すればよい。例えば、水を抽出溶媒として使用する場合は、樹皮と水との比が質量比で1:5〜1:100、好ましくは1:10〜1:50である。水および/または有機溶媒を添加して破砕した場合は、破砕に使用した量を考慮し、添加する抽出溶媒の量を調整すればよい。
抽出温度は、樹皮粗抽出物の抽出効率を考慮すれば、高めの温度に設定することが好ましい。例えば、水を用いる場合、50〜120℃、好ましくは70〜100℃で熱水抽出する。この場合、樹皮(または樹皮破砕物)に熱水を加えてもよく、樹皮(または樹皮破砕物)に水を加えた後に加熱してもよい。しかし、プロアントシアニジンの熱変性を防止するためには、比較的低温の水で抽出することが好ましい。
抽出時間は、用いる樹皮(または樹皮破砕物)の大きさ、抽出温度などの抽出条件と抽出効率とを考慮して決定すればよいが、一般的には、10分間〜24時間である。
次に、具体的な抽出方法について説明する。抽出方法としては、加温抽出法または超臨界流体抽出法を用いることができる。
加温抽出法としては、加温した溶媒を樹皮に加える方法、または、溶媒中に樹皮を添加して、その溶媒を加温する方法が用いられる。例えば、水とエタノールとの質量比が1:1〜1:9の水−エタノール混合溶媒と、粉砕した樹皮とを用いて、70〜75℃で還流させながら、0.5時間〜6時間攪拌する方法が挙げられる。なお、この方法を用いる場合、溶媒の量は、樹皮の1倍〜20倍量とすればよい。
ところで、溶媒を還流させる温度まで昇温せずに一度加温抽出した後、濾過などにより上清を回収し、さらに残った残渣に再度溶媒を加えて同様に加温抽出する工程を採用することによっても、高い抽出効率が得られる。なお、有機溶媒を使用する場合の抽出温度は、その有機溶媒の沸点以下に設定する必要がある。
超臨界流体抽出法は、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて目的成分を抽出する方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)などが用いられ、二酸化炭素が好ましく用いられる。
超臨界流体抽出法は、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程および目的成分と超臨界流体とを分離する分離工程からなる。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、または吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
また、エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、超臨界流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、またはケトン類を2〜20W/V%程度添加し、得られた抽出流体で超臨界流体抽出を行うことによって、OPC、カテキン類(後述)などの目的とする被抽出物の抽出流体に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、あるいは分離の選択性を増強させる方法であり、プロアントシアニジンを効率的に抽出する方法である。
抽出には、例えば、回分式、半連続式、または連続式などのいずれの抽出装置を用いてもよい。
得られた粗抽出物は、その後、(b)高分子PC減少工程または(c)プロアントシアニジン濃縮工程に供されるが、これらの工程の前に、予め粗抽出物から溶媒を減少させる濃縮処理を行うことが好ましい。粗抽出物から溶媒を減少させることによって、その後の工程、特に(b)高分子PC減少工程で有利な効果が得られる。例えば、(b)高分子PC減少工程として塩処理を行う場合、塩の使用量を減少させることができる。その結果、重合度の高いプロアントシアニジン(高分子PC)を効率よく除去することが可能となる。また、粗抽出物に有機溶媒が含まれる場合は、濃縮によって有機溶媒を除去して、水に置換することが可能である。水に置換することにより溶液中の塩の電離が高くなり、塩と高分子PCとが結合して沈澱などが生じ易くなる。したがって、効率よく高分子PCを除去することができる。置換する水の量は、置換後の濃縮物の体積が、濃縮前の粗抽出物の体積の多くとも2倍以下となるように調整され得る。なお、濃縮処理を行う場合は、予め濾過などにより不溶物を除去することが好ましい。このような粗抽出液を利用すれば、不溶物が除去されているので、濃縮を均一に行うことができ、さらに、濃縮率の調整が容易になる。
濃縮方法としては、当業者が通常用いる濃縮方法であれば、特に制限はない。例えば、加熱濃縮、減圧濃縮、凍結濃縮、限外濾過膜による濃縮、透析膜による濃縮、吸着剤を用いた濃縮などが挙げられる。凍結濃縮は、粗抽出物を凍結させ、その凍結物の水蒸気圧以下に減圧して水を昇華させて除去する方法である。好ましくは、プロアントシアニジンの熱変性が少ない減圧濃縮および凍結濃縮であり、より好ましくは、減圧濃縮である。減圧濃縮を行えば、プロアントシアニジンの変性を最小限に抑えることができる。
上記濃縮方法は、1つの方法によってのみ行ってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。また、加熱濃縮を行う場合は、加熱によるプロアントシアニジンの熱変性を防ぐために、40℃〜100℃の温度で行うことが好ましい。
得られた濃縮物の濃縮率は、特に制限されない。一般的には、濃縮物の体積が、濃縮前の粗抽出物の体積と比べて、1/2〜1/100容量、好ましくは1/5〜1/70容量、さらに好ましくは1/10〜1/50容量となるように濃縮が行われる。
上記濃縮処理は、その後の(b)高分子PC減少工程として塩処理を行う場合に塩の使用量を減少させるため、コストの低減および環境保全の面からも有用である。具体的には、粗抽出物を直接塩処理する場合に比べて、塩の使用量を約1/2〜約1/100、好ましくは約1/5〜約1/50に減少できる。
(b)高分子PC減少工程
次に、高分子PC減少工程について説明する。この工程は、上記(a)粗抽出工程で得られた粗抽出物(または濃縮物)中の高分子プロアントシアニジン(高分子PC)を減少させる目的で行われる。あるいは(a)粗抽出工程および後述する(c)プロアントシアニジン濃縮工程の後に、高分子PCを減少させる目的で行われる。上記高分子PC減少工程としては、例えば、(b−1)塩処理および(b−2)吸着剤処理が挙げられる。この高分子PC減少工程により、高分子PCを減少させ、その結果、得られた高分子PC減少処理物中のOPC含有量を相対的に増加させることができる。本発明の樹皮抽出物は、樹皮抽出物に含有される高分子プロアントシアニジン1質量部に対して、OPCを0.9質量部以上の割合で含有することが好ましい。上記の割合をOPC比といい、この場合、OPC比は0.9である。仮に粗抽出物(または濃縮物)あるいはプロアントシアニジン濃縮物のOPC比が0.9未満である場合は、高分子PCを減少させることによって、所望のOPC比に調節することも可能である。
(b−1)塩処理
塩処理は、粗抽出物(または濃縮物)あるいは後述する(c)プロアントシアニジン濃縮工程で得られるプロアントシアニジン濃縮物に、塩を添加することによって、高分子PCを、例えば、沈殿物などの不溶物として生じさせてこの不溶物を除去する処理である。
塩処理に用いられる塩は、溶液中で電離するものであればよい。塩としては、例えば、一価の金属塩、二価の金属塩、および非金属性の塩が挙げられる。
一価の金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムなどのアルカリ金属の塩、例えば、ハロゲン化物塩(塩化物塩、臭化物塩など)、リン酸塩、炭酸塩、有機酸塩(酢酸塩などのカルボン酸塩、スルホン酸塩など)などが挙げられる。具体的には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。特に塩析に好ましく用いられる硫酸ナトリウム、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム、および塩化ナトリウムが好ましい。
二価の金属塩としては、ベリリウム、マグネシウム、アルカリ土類金属(カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)などの金属塩が挙げられる。なお、二価の金属塩は、酸化剤として用いられる金属(例えば、銅など)を含む塩を用いると、プロアントシアニジンが酸化される恐れがあるため注意を要する。二価の金属塩は、特にプロアントシアニジンに対して吸着力が強いため、少ない塩の量で高分子PCを、不溶物とすることができる。
非金属性の塩としては、例えば、硫酸アンモニウム(硫安)などが好適に用いられる。
上記の塩の中で、OPCと塩との結合をできるだけ小さくしてOPCの精製効率を高めるという観点では、一価の金属塩または硫安が好ましい。
上記塩の添加量は、特に制限されないが、粗抽出物(または濃縮物)あるいはプロアントシアニジン濃縮物の全体質量に対し、0.1質量%〜50質量%、好ましくは3質量%〜50質量%、より好ましくは5質量%〜45質量%となるように添加し得る。特に、水に対する塩の飽和量の10〜75質量%、好ましくは20〜60質量%相当量を、粗抽出物(または濃縮物)あるいはプロアントシアニジン濃縮物に添加することが好ましい。また、塩としてカルシウム塩、マグネシウム塩などの二価の金属塩を用いる場合は、濃縮物中に0.1質量%〜30質量%となるように添加することが好ましい。
塩処理、特に金属塩による処理に際しては、酸性側で処理を行うことが好ましい。弱〜強アルカリ性ではプロアントシアニジンの安定性が悪くなり分解する恐れがある。そのため、溶液中のpHを好ましくは7.5未満、より好ましくは6未満、さらに好ましくは5.5以下となるように調整することが好ましい。特に、二価の金属塩を添加する場合、溶液中のpHが上がりやすいため注意を要する。pHの調整は、例えば、プロアントシアニジンを安定化するための助剤(アスコルビン酸などのpH調整剤)などを用いることによって行われる。具体的には、予め金属塩濃度が塩処理時の最終濃度の2〜10倍濃度となるような金属塩溶液を調製し、この溶液をさらにpHが4〜6、好ましくは4〜5.5、より好ましくは4〜5となるように調節することが好ましい。この溶液を粗抽出物(または濃縮物)あるいはプロアントシアニジン濃縮物に加えることによって、プロアントシアニジンの分解を回避することができる。
塩処理工程において、処理温度に特に制限はない。好ましくは1〜40℃である。処理時間についても特に制限はなく、処理温度に応じて適宜設定され得る。例えば、塩を添加後、1℃〜40℃で30分〜48時間静置し、十分に沈殿物などの不溶物を生じさせる。なお、静置時間は、48時間以上でもよいが、OPCが自動酸化し、赤褐色が濃い褐色に変色する前に次工程に移ることが好ましい。
次いで、生じた沈殿物などの不溶物を除去する。不溶物を除去する方法としては、当業者が通常用いる方法、例えば、濾過や遠心分離などを用いればよい。処理時間の点から、濾過が好適に用いられる。濾過は、好ましくは1〜40℃で行われ得る。低温であるほど、より多くの高分子PCを除去することができ、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下で行われる。この濾過処理は、塩を添加する前に行ってもよいが、塩添加後にも沈殿物などの不溶物を除去するために行う必要がある。濾過は、OPCの損失を最小限に抑えるために、濾過後に残った残渣を、飽和濃度が同等の塩の水溶液で繰り返し洗浄することが好ましい。
塩処理工程後の液(高分子PC減少処理物)に含有される高分子プロアントシアニジンの量は、塩処理前の粗抽出物(または濃縮物)あるいはプロアントシアニジン濃縮物と比べて、1/2以下、好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5以下、さらに好ましくは1/6以下である。
塩処理工程(高分子PC減少工程)の後に、後述する(c)プロアントシアニジン濃縮工程が採用される場合、塩による処理で使用された塩が吸着剤処理工程で除去されるため、特に塩を除去する工程を設ける必要がなく、効率的である。
(b−2)吸着剤処理
(b)高分子PC減少工程に用いる吸着剤としては、OPCを効果的に吸着することが可能で、高分子PCを吸着しにくい吸着剤(以下、第1の吸着剤という)を用いることが好ましい。この第1の吸着剤と、(a)粗抽出工程で得られた粗抽出物(または濃縮物)あるいは後述する(c)プロアントシアニジン濃縮工程で得られたプロアントシアニジン濃縮物とを接触させ、所定の溶媒で吸着物を回収することによって、吸着されない高分子PCを除去することができる。吸着剤処理の詳細は後述の(ii)吸着剤による処理の項で説明する。
(c)プロアントシアニジン濃縮工程
次に、プロアントシアニジン濃縮工程について説明する。この工程は、上記で得られた樹皮の粗抽出物(またはその濃縮物)あるいは高分子PC減少処理物を、所定の吸着剤で処理することによって、該処理物から糖類、有機酸、脂溶性成分などの夾雑物を除去する工程である。具体的には、樹皮の粗抽出物(またはその濃縮物)あるいは高分子PC減少処理物を合成樹脂系吸着剤と接触させて、OPCおよび高分子PCを含むプロアントシアニジンを吸着剤に吸着させた後、吸着剤を洗浄し、所定の溶媒で溶出することにより、プロアントシアニジン濃縮物(または樹皮抽出物)を得ることができる。この処理に用いる吸着剤を第2の吸着剤という。このようにして得られたプロアントシアニジン濃縮物(または樹皮抽出物)は、夾雑物が除去された結果、プロアントシアニジン(OPCなど)をより多く含有する。吸着剤処理の詳細は後述の(ii)吸着剤による処理の項で説明する。
(c)のプロアントシアニジン濃縮工程の後に(b)の高分子PC減少工程を行う場合には、上記工程(c)と工程(b)との間において、減圧濃縮などの溶媒を減少させる濃縮処理を行ってもよい。この濃縮処理によって、例えば、上述のように、その後の(b)高分子PC減少工程としての塩処理において、塩の使用量を減少させるなどの効果が得られる。なお、この場合、(c)プロアントシアニジン濃縮工程において、粗抽出に使用した溶媒を、揮発性の高い有機溶媒に置換することができる。このように揮発性の高い有機溶媒に置換すれば、水を抽出溶媒とした粗抽出物に比べて濃縮が容易となる。具体的には、水を抽出溶媒とした粗抽出物と吸着剤とを接触させた後、吸着剤に吸着されている成分を脱離させる時に、有機溶媒(例えば無水エタノール)を用いて、カラムから吸着物の全てを溶出させる。このエタノール溶出液は、減圧濃縮などによって、容易に濃縮される。
以下、(i)吸着剤、および(ii)吸着剤による処理について説明し、ついで、(iii)樹皮抽出物について説明する。
(i)吸着剤
(b)高分子PC減少工程および(c)プロアントシアニジン濃縮工程に用いる、第1の吸着剤および第2の吸着剤は、プロアントシアニジンに対して異なる挙動を示すが、この相違は、吸着剤の材質、細孔半径、比表面積、分子量分画範囲などによるものであると考えられる。そこでまず、一般的にプロアントシアニジンの吸着に用いられる吸着剤について説明し、次に、第1の吸着剤および第2の吸着剤それぞれの好ましい性質について説明する。
上記第1の吸着剤および第2の吸着剤の個々の吸着剤としては、一般にカラムクロマトグラフィーに用いられる吸着剤であれば特に制限はない。本発明に用いられる吸着剤としては、例えば、合成吸着剤、陽イオン交換樹脂系吸着剤、陰イオン交換樹脂系吸着剤、架橋デキストラン誘導体系吸着剤、ポリビニル系樹脂からなる吸着剤、アガロース誘導体系吸着剤、およびセルロース誘導体系吸着剤が挙げられる。ここで、合成吸着剤とは、イオン交換基などの官能基を有さず、多孔性で、かつ微細な連続孔(細孔)を有するものをいい、例えば、ファンデルワールス力で吸着し得る。
合成吸着剤は、さらにその材質によって分類され、芳香族系合成吸着剤、置換芳香族系合成吸着剤、アクリル系合成吸着剤などの合成吸着剤に分類される。これらの合成吸着剤は、材質により親水性および疎水性の程度が異なる。合成吸着剤の安定性、プロアントシアニジン(OPC)の吸着効率、および分離・分画能の点から、好ましくは芳香族系合成吸着剤である。
芳香族系合成吸着剤としては、架橋スチレン系樹脂などの多孔質樹脂からなる吸着剤が好ましい。市販の吸着剤としては、例えば、ダイアイオン(登録商標)HP−10、HP−20
、HP−21 、HP−30 、HP−40 、およびHP−50、(以上、三菱化学株式会社製);アンバーライト(登録商標)XAD−4、XAD−16、XAD−1180、およびXAD−2000(以上、株式会社オルガノ製);ならびにセパビーズ(登録商標)SP−825
、SP−800 、SP−850 、およびSP−875(以上、三菱化学株式会社製)が挙げられる。
置換芳香族系合成吸着剤としては、例えば、芳香族重合体の芳香核に臭素原子などを結合させた、疎水性の強い樹脂からなる吸着剤が挙げられる。市販の吸着剤としては、例えば、セパビーズ(登録商標)SP−205
、SP−206 、およびSP−207(以上、三菱化学株式会社製)が挙げられる。
アクリル系合成吸着剤としては、例えば、メタクリル酸エステル重合体などを骨格とする親水性の強い樹脂からなる吸着剤が挙げられる。市販の吸着剤としては、例えば、ダイアイオン(登録商標)HP1MGおよびHP2MG(以上、三菱化学株式会社製);ならびにアンバーライト(登録商標)XAD−7(株式会社オルガノ製)が挙げられる。
上記合成吸着剤は、上記のように、微細な連続孔(細孔)を有する多孔性であるため、溶液中に存在する目的の溶質を分子ふるいの効果により分離することができる。すなわち、合成吸着剤と溶液とを接触させると、小さな溶質分子は、その細孔を通って合成吸着剤の内部まで浸透拡散して吸着する。他方、この細孔のサイズよりも大きな分子は、合成吸着剤内に拡散できず、吸着されない。
陽イオン交換樹脂系吸着剤としては、例えば、官能基としてスルホン酸塩基を有する樹脂である、アンバーライト(登録商標)CG−4000、CG−5000、CG−6000、CG−8000、IR−116、IR−118、IR−120B、IR−122、IR−124、XT−1007、XT−1009、XT−1002(以上、株式会社オルガノ製)などが挙げられる。
陰イオン交換樹脂系吸着剤としては、例えば、官能基として4級アミンを有する弱塩基性陰イオン交換樹脂である、OPTIPORE−XUS40285.00、OPTIPORE−XUS
40390.00(以上、ダウケミカル株式会社製)などが挙げられる。
架橋デキストラン誘導体系吸着剤としては、例えば、セファデックス(登録商標)LH20
、LH60(以上、アマシャムバイオサイエンス株式会社製)などが挙げられる。
ポリビニル系樹脂(ゲル)からなる吸着剤としては、例えば、トヨパールHW−40、50(東洋曹達工業株式会社)などが挙げられる。
アガロース誘導体系吸着剤としては、例えば、セファロースCL、4B、6B(以上アマシャムバイオサイエンス株式会社)、Bio−GelA(バイオラッド株式会社)などが挙げられる。
セルロース誘導体系吸着剤としては、セルロファインCL−90、GCL−300、GCL−1000(以上、生化学工業株式会社)などが挙げられる。
上記の吸着剤の中でも、多孔性で網目状分子構造を有する吸着剤であることが特に好ましい。例えば、ダイアイオンHP−20、アンバーライトXAD−4などの合成吸着剤、セファデックスLH20、LH60などの架橋デキストラン誘導体系吸着剤が特に好ましい。
以下、第1の吸着剤および第2の吸着剤について、それぞれ好ましい性状について説明する。
第1の吸着剤および第2の吸着剤を材質を基準に選択する場合、第1の吸着剤としては、好ましくは合成吸着剤、より好ましくは芳香族系合成吸着剤が選択される。第2の吸着剤としては、好ましくは合成吸着剤または架橋デキストラン誘導体が、特に好ましくは芳香族系合成吸着剤または架橋デキストラン誘導体が選択される。
細孔半径を基準に選択する場合、細孔半径によって、吸着される分子の大きさまたはその分子に対する吸着力が異なることを利用する。
第1の吸着剤は、好ましくは90Å以下、より好ましくは20〜90Å、さらに好ましくは30Å〜80Åの細孔半径を有することが好ましい(Å=1×10−10m)。細孔半径が小さい程、高分子よりも低分子(分子量数千以下)に対する吸着能力が高い。そのため、低分子量の化合物を吸着する一方、比較的分子量の高い5量体の以上のプロアントシアニジンを吸着することなく除去することが可能である。このような吸着剤としては、例えば、芳香族系合成吸着剤であるセパビーズSP−825、セパビーズSP−850、アンバーライトXAD−4、およびXAD−2000が好適である。
第2の吸着剤は、好ましくは100Å以上、より好ましくは100Å〜500Å、さらに好ましくは100Å〜300Åの細孔半径を有することが好ましい。細孔半径が大きい程、分子量が数千から数万までの広い分子量のプロアントシアニジンを効率的に吸着するが、夾雑物を吸着させる力が弱いため、該夾雑物を吸着させることなく、これを容易に除去し得る。このような吸着剤としては、例えば、芳香族系合成吸着剤であるダイアイオンHP−20、ダイアイオンHP−21、およびアンバーライトXAD−16、あるいは架橋デキストラン誘導体系吸着剤であるセファデックスLH20が好適である。
第1の吸着剤および第2の吸着剤を比表面積を基準に選択する場合、吸着力の観点から、第1の吸着剤および第2の吸着剤はいずれも、比表面積が500m2/g以上であることが好ましい。さらに、OPCを効率的に吸着する点から、第1の吸着剤としては、比表面積が700m2/g以上であることがより好ましい。吸着剤の比表面積は、個々の吸着剤のサイズによって、あるいは多孔性の吸着剤の場合は細孔の大きさおよび数によって異なるので、必要とされる比表面積の吸着剤を適宜選択することが可能である。
架橋デキストラン誘導体、ポリビニル系樹脂(ゲル状を使用する)などの吸着剤を用いて、分子量によって分画することも可能である。分子量分画範囲に特に制限はないが、第1の吸着剤は、分子量分画範囲が、100〜20,000、好ましくは100〜5,000であることが好ましい。第2の吸着剤は、分子量分画範囲が、100〜20,000、好ましくは100〜10,000であることが好ましい。このような分子量分画範囲を有する吸着剤は、プロアントシアニジンを吸着し、夾雑物を除去し得る。さらに、吸着したプロアントシアニジン中のOPCを溶出させて分取することが可能である。中でもセファデックスLH−20およびセファデックスLH−60が好適である。
上記種々の吸着剤のうちで、第1の吸着剤としては、多孔性であり、90Å以下の細孔半径を有し、比表面積が700m2/g以上の芳香族系合成吸着剤でなる吸着剤であるアンバーライトXAD−4ならびにセパビーズSP825およびSP850が特に好適である。
(ii)吸着剤による処理
吸着剤の量は、被処理物(粗抽出物またはその濃縮物、高分子PC減少処理物、あるいはプロアントシアニジン濃縮物)に含まれる固形分量、溶媒の種類(後述)、吸着剤の種類などによって適宜設定すればよい。例えば、被処理物に含まれる固形分の乾燥質量1質量部に対して、0.1〜100質量部、好ましくは0.1〜50質量部の吸着剤を使用することが好ましい。0.01質量部より少ないと、プロアントシアニジンの回収率が低下し、100質量部を超えると、十分吸着することはできるが、吸着剤からの回収率が悪くなる。
第1の吸着剤において、特にOPCの吸着効率が高い吸着剤を用いる場合、より簡便に操作をするために、被処理物中の乾燥質量を測定せずに、処理する前の樹皮の質量を基準として吸着剤の量を設定してもよい。例えば、ダイアイオンHP−20、セパビーズSP−825、アンバーライトXAD−16などの芳香族系合成吸着剤を用いる場合は、処理する前の樹皮の乾燥質量1質量部に対して、吸着剤を乾燥質量で0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜5質量部用いることで、被処理物と吸着剤との接触が十分に行われ、効率よく吸着し得る。
被処理物と、吸着剤との接触は、いかなる方法で行ってもよい。例えば、簡易な方法としては、吸着剤をカラムに充填し、そのカラムに被処理物を通過させるカラム法、吸着剤を被処理物に加え、一定時間後、吸着剤を除去するバッチ法などが挙げられる。
カラム法を用いて処理するには、必要に応じて、被処理物の溶媒を、吸着剤との接触に適した溶媒に置換する。この置換は、加熱乾燥、凍結乾燥、減圧濃縮乾固、透析などの当業者が通常用いる工程を含む方法により行われ得る。例えば、ダイアイオンHP−20などの芳香族系合成吸着剤を用いる場合は、溶媒を水に置換する。また、セファデックスLH20などの架橋デキストラン誘導体系吸着剤を用いる場合は、溶媒をエタノールに置換する。次いで、例えば、第2の吸着剤(例えば、合成樹脂系吸着剤)をカラムに充填し、そのカラムに被処理物を通液し、吸着剤の体積に対し、例えば5倍〜10倍の体積の水を通液させる。これにより、夾雑物である糖類および有機酸が除去される。その後、適切な溶媒を用いることによりプロアントシアニジン、特にOPC高含有プロアントシアニジンを溶出できる。なお、カラム法における種々の条件は、用いる吸着剤により適宜決定すればよく、例えば、イオン交換樹脂でなる吸着剤を用いる場合、カラム温度を10℃〜120℃に設定し、カラム内を常圧または加圧された状態にすることが好ましい。
バッチ法を用いて処理するには、上記カラム法と同様の質量比の吸着剤(例えば、合成樹脂系吸着剤)を被処理物に加え、攪拌しながら1〜3時間接触させた後に、濾過または遠心分離により吸着剤を回収する。例えば、吸着剤として第2の吸着剤を用いた場合には、この操作により夾雑物を除去し得る。次いで、プロアントシアニジンが吸着された第2の吸着剤を、さらに適切な溶媒(後述)で1時間〜3時間攪拌し、プロアントシアニジンを溶出させ、次いで濾過または遠心分離して上清を回収することにより、プロアントシアニジンまたはOPCをより多く含むプロアントシアニジン含有樹皮抽出物を得ることができる。
溶出溶媒は、吸着剤の種類、ならびに吸着または溶出すべき物質の種類により適宜選択すればよい。例えば、第1の吸着剤を用いる場合の溶出溶媒としては、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、クロロホルム、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。安全性の面から、好ましくは水とエタノールとの混合溶媒が用いられる。例えば、アンバーライトXAD−4、アンバーライトXAD−2000、セパビーズSP825、セパビーズSP850などの高分子PCを除去する芳香族系合成吸着剤を用いた場合、水とエタノールとの混合比は、高分子PCが除去されていることから10容量%以上、好ましくは30容量%以上、より好ましくは50容量%以上の比較的高い濃度のエタノール水溶液を用いることが吸着したOPCを溶出させるときの回収率を高める観点から好ましい。
第2の吸着剤を用いる場合のプロアントシアニジンを多く含む成分を溶出させるのに使用可能な溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、クロロホルム、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。そのうち、樹皮抽出物の安全性という観点からは、好ましくは水とエタノールとの混合溶媒が用いられる。また、吸着剤処理工程において、吸着剤に吸着されている成分から、選択的にOPCを溶出させて分離・分画が可能な溶媒を選択することが好ましい。したがって、水とエタノールとの混合溶媒(エタノール水溶液)を用いるのが好ましい。例えば、ダイアイオンHP−20、HP−21、XAD−16などの芳香族系合成吸着剤を用いた場合は、10容量%〜50容量%、好ましくは10容量%〜30容量%のエタノール水溶液が好ましい。また、セファデックスLH−20、セファデックスLH−60などの架橋デキストラン誘導体系吸着剤の場合は、70容量%以上、好ましくは80容量%以上のエタノール水溶液が好ましい。なお、イオン交換樹脂系の吸着剤を用いる場合は、溶出溶媒として水を用いることが好ましい。
上記のような(a)粗抽出工程、(b)高分子PC減少工程、および(c)プロアントシアニジン濃縮工程、あるいは(a)粗抽出工程、(c)プロアントシアニジン濃縮工程、および(b)高分子PC減少工程によって、OPC含量が極めて高い樹皮抽出物が得られる。上記の樹皮抽出物は、高分子プロアントシアニジン量が減少され、さらに、樹皮抽出物に含まれる脂溶性成分も減少されているため、樹皮抽出物の水への溶解性がさらに向上するとともに、樹皮抽出物を水に混合した場合における白濁の発生を、大幅に減少させることができる。
(iii)樹皮抽出物
上記の方法で得られた樹皮抽出物は、上述のように、2〜4量体であるOPCを豊富に含み、樹皮抽出物中の固形分に対して25質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、最も好ましくは40質量%〜95質量%含有する。さらに、樹皮抽出物に含有される全プロアントシアニジン中に占めるOPCの割合は、上述の処理によって、49質量%以上、好ましくは49質量%〜100質量%、より好ましくは49質量%〜99質量%である。この全プロアントシアニジン中に占めるOPCの割合は、粗抽出物または濃縮物のOPCの割合に比べて、2倍以上、好ましくは2倍〜5倍、より好ましくは2倍〜4倍である。
得られた樹皮抽出物は、さらに、カテキン類を樹皮抽出物中に乾燥質量換算で、5〜15質量%含有することが好ましい。
上記方法によって製造される樹皮抽出物は、当業者が通常用いる方法によって、濃縮あるいは希釈され、適宜調整され得る。例えば、濃縮には、膜濃縮、加熱濃縮、真空(減圧)濃縮、凍結濃縮などの種々の方法を用いればよい。また、必要に応じて、樹皮抽出物を、殺菌処理して保存してもよい。殺菌は、気流殺菌、高圧殺菌、加熱殺菌などの、当業者が通常用いる方法で行えばよい。
この用にして得られた樹皮抽出物は、水に対して優れた溶解性を有する。具体的には、樹皮抽出物の溶解率が90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上、さらに好ましくは99.5%以上、最も好ましくは99.7%以上である。このような樹皮抽出物を含有する水溶液は、沈殿および白濁が少なく、スフィンゴ脂質によって、特にOPC、高分子PCなどのプロアントシアニジンの体内への吸収が促進されるため、摂取後速やかに優れた生理的効果、例えば、抗酸化作用や血流改善効果を発揮し得る。特に、樹皮抽出物が有する抗酸化作用、特にSOD活性は、アスコルビン酸の作用に比べて、持続性が高いため、美容効果やアンチエイジング効果などにおいて、優れた効果を発揮する。
本発明の樹皮抽出物は、液状であっても、乾燥物(粉末)であってもよい。本発明の樹皮抽出物乾燥物(粉末)は、上記樹皮抽出物に含まれている溶媒(例えば水、エタノールなど)を取り除いて、得ることができる。乾燥は、当業者が通常用いる方法によって行えばよいが、中でも、凍結乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥といった方法で行われることが好ましい。得られた乾燥物(粉末)は、上記の松樹皮抽出物と同様、糖質の添加を必要とせずに、水に対して優れた溶解性を発揮する。したがって、水と混合したときの沈殿および白濁の発生も少なく、さらに、樹皮抽出物およびその乾燥物の利用を容易にするという効果を奏する。
(吸収促進剤または吸収促進方法)
本発明のスフィンゴ脂質は、経口または皮膚や粘膜などの経皮投与によって樹皮抽出物成分(例えば、OPC、高分子PCなどのプロアントシアニジン、カテキン類など)の生体内への吸収を促進し得、これは、樹皮抽出物成分の有する抗酸化作用や血流改善作用といった生理活性の増強作用を示す。特に、上述のようにして得られた水への溶解性の高い樹皮抽出物を用いることでより高い生理活性の増強作用が得られ、高い吸収促進効果を得ることができる。さらに、本発明のスフィンゴ脂質は、樹皮抽出物(特に樹皮抽出物乾燥物)と共に医薬品、医薬部外品、化粧品、食品といった組成物に配合し得るだけでなく、樹皮抽出物を含有する組成物とは別の組成物に含有させて共に投与することで、樹皮抽物出成分の生理活性増強することから、樹皮抽出物成分の吸収を促進する。このことから、本発明のスフィンゴ脂質は、樹皮抽出物成分の生理活性増強剤または生理活性増強方法としても利用することができる。なお、スフィンゴ糖脂質の組成物中への配合割合は、樹皮抽出物を含有する組成物の総乾燥質量を100質量部とした場合、乾燥質量で0.001〜20質量部、好ましくは0.003〜15質量部、より好ましくは0.01〜10質量部となるように配合または添加することで、松樹皮抽出物成分の経口または皮膚や粘膜といった経皮へ投与における吸収を促進し得る。また、組成物中における樹皮抽出物の配合割合は特に制限はないが、好ましくは組成物中に0.0001質量%〜50質量%、より好ましくは0.001質量%〜30質量%である。
また、これらの組成物は、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、香料、食品添加物、調味料などと混合して、用途に応じて、顆粒、錠剤などの形態に成形されてもよい。例えば、ローヤルゼリー、ビタミン類、プロテイン、カルシウム、キトサン、レシチン、カフェインなどと混合して、さらに調味料により味が整えられてもよい。さらに、ハードカプセルおよびソフトカプセルなどのカプセル剤、丸剤、またはティーバッグ状などにされてもよい。これらは、これらの形状または好みに応じて、そのまま食してもよく、あるいは水、湯、牛乳などに溶いて飲んでもよい。またティーバッグ状などの場合、成分を浸出させてから飲んでもよい。このように、本発明の樹皮抽出物および樹皮抽出物乾燥物は、食品(飲料)、化粧品、医薬部外品、および医薬品の原料として、広く使用することができる。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の範囲内で種々の応用が可能である。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、下記実施例は、本発明を制限するものではない。下記実施例において、実施例に示す単位(V/V)は(容量/容量)を、(W/W)は(質量/質量)を示す。
(実施例1:樹皮抽出物の製造)
松樹皮(フランス海岸松の樹皮)1kgに、精製水5.4Lを加え、ワーリングブレンダー(Waring Blender)で破砕した後、100℃で24時間還流しながら加熱抽出した。次いで、直ちに濾過し、濾過後の不溶物を精製水1.6Lで洗浄し、濾液と洗浄液とを合わせて7Lの粗抽出液を得た。この粗抽出液10mLを凍結乾燥したところ、乾燥質量は70mgであった。この抽出液を25℃まで放冷した。
上記抽出液1L(抽出物粉末乾燥質量7g)を、比表面積700m2/g、細孔半径80Å以下の芳香族系合成吸着剤(アンバーライト(登録商標)XAD−4(株式会社オルガノ製))300mL(約200g相当)が充填された直径5cmのカラムに通液した。次いで、このカラムを600mLの精製水で洗浄後、80%(V/V)−エタノール水溶液800mLをカラムに通液して吸着物を溶出させた。吸着剤に吸着されている成分は、このエタノールの通液によって溶出させた。この溶出液を減圧濃縮してエタノールを除去した後、水を加えて、体積を500mLとした。
次に、上記溶出液500mLを、さらに比表面積600m2/g、細孔半径100〜120Åの芳香族系合成吸着剤であるダイアイオン(登録商標)HP−20
(三菱化学株式会社製)200mL(約140g相当)が充填された直径5cmのカラムに通液した。このカラムを600mLの精製水で洗浄した後、20%(V/V)−エタノール水溶液(700mL)を通液して溶出させ、松樹皮抽出液Aを得た。
次に、得られた松樹皮抽出液A中の各成分の含有量を調べるために、松樹皮抽出液Aを、次のような画分に分離した。松樹皮抽出液Aの分離工程を図1に示す。
まず、松樹皮抽出液Aを減圧濃縮により乾燥させて粉末化し、その質量(固形物質量)を測定した。これとは別に、水で膨潤させたセファデックスLH−20(アマシャムバイオテック株式会社製)25mLを15×300mmのカラムに充填し、50mLのエタノールで洗浄した。次に、100mgの上記松樹皮抽出液Aの乾燥粉末を2mLのエタノールに溶解させ、この溶液をカラムに通液して吸着させた。その後、100〜80%(V/V)エタノール−水混合溶媒でグラジエント溶出し、10mLずつ分取した。
分取の際に、2〜4量体のOPCの標品を指標として、各画分中のOPCの有無を、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)により検出した。そして、OPCよりも先に流出し、OPCを含まないOPC非含有画分(画分1)およびOPC含有画分(画分2)に分画した。
なお、上記TLCにおいて、2量体のOPCの標品にはプロアントシアニジンB−2(Rf値:0.6)を、3量体のOPCの標品にはプロアントシアニジンC−1(Rf値:0.4)を、4量体のOPCの標品にはシンナムタンニンA2(Rf値:0.2)を用いた。そして、TLCは、下記の条件で行った。
(TLCの条件)
・TLC:シリカゲルプレート(Merck & CO., Inc.製)
・展開溶媒:ベンゼン/蟻酸エチル/蟻酸(2/7/1)
・検出試薬:硫酸およびアニスアルデヒド硫酸
・サンプル量:各10μL
次に、OPCが検出されなくなった時点で、300mLの50%(V/V)水−アセトン混合溶媒を通液し、カラム(樹脂)に吸着されている残りの吸着物を溶出させた。これをOPC非含有画分(樹脂吸着画分:画分3)とした。
この画分3については、さらにTLCを行い、高分子PC画分(画分3a)とその他の画分(画分3b)とに分けた。TLCの展開条件および検出方法を上記と同様に行い、4量体の標品(Rf値:0.2)より小さいRf値で発色する画分を高分子PC画分(画分3a)とし、発色しない画分をその他の画分(画分3b)とした。
次に、OPCよりも先に流出し、OPCを含まないOPC非含有画分(画分1)については、以下のようにして、カテキン類画分(画分1a)とその他の画分(画分1b)とに分離した。まず、画分1を凍結乾燥して粉末を得た。この粉末を3mLの水に溶解させ、水で膨潤させた20mLのMCIゲル(三菱化学株式会社製)が充填されたカラム(15×300mm)に通液して、成分を吸着させた。次に、このカラムを水で洗浄した後、10〜100%(V/V)エタノール−水混合溶媒でグラジエント溶出し、7mLずつ分取した。溶出終了後、カテキンを指標として、各画分中のカテキン類をTLCにより検出してカテキン類画分(画分1a)とその他の画分(画分1b)とに分けた。
上記のようにして得た画分1〜3については、それぞれ凍結乾燥により粉末化し、乾燥質量を測定した。なお、樹皮抽出物の乾燥粉末100mgに対して、画分1〜3の総和は、99.9mgであった。よって、ほぼ全量が回収されていたことが分かった。そして、樹皮抽出物の各成分の質量から各成分の含有率を算出したところ、OPC画分(画分2)は45.2%、高分子PC画分(画分3a)は21.2%、カテキン類の画分(画分1a)は14.9%、その他の画分(画分1b+画分3b)は18.7%であった。なお、OPC比(画分2/画分3a)は、2.13であった。
(実施例2:樹皮抽出物の製造)
松樹皮900gに、80(V/V)%エタノール水溶液7.2Lを加え、ワーリングブレンダー(Waring Blender)で破砕した後、70℃で1時間還流させながら加熱抽出した。次いで、直ちに濾過し、濾過後の不溶物を80(V/V)%エタノール水溶液1.8Lで洗浄し、濾液と洗浄液とを合わせて9Lの松樹皮の含水エタノール粗抽出液Bを得た。
このエタノール抽出液1L(抽出物粉末乾燥質量10g)を25℃まで放冷し、濃縮してエタノールを完全に除去した。その後、精製水を添加して容量が50mLとなるように調整して、抽出液の1/20容量に相当する濃縮液B1を得た。
次に、50mLの濃縮液B1に、塩化ナトリウム(約3g)を添加してよく攪拌した。この溶液を4℃で24時間静置後、析出した不溶物を濾過により除去し、51mLの濾液B1を得た。
次に、濾液B1を、水で膨潤させた芳香族系合成樹脂(ダイアイオンHP−20:三菱化学株式会社製)100mLが充填された30×300mmのカラムに通液し、濾液B中のプロアントシアニジンをカラムに吸着させた。このカラムを1Lの精製水で洗浄して、カラムに残存する糖類、有機酸などを除去した。次いで20%(V/V)のエタノール−水混合溶媒でカラムからプロアントシアニジンを溶出させ、200mLの松樹皮抽出液B1を得た。次に、松樹皮抽出液B1を凍結乾燥することによって、乾燥粉末を得た。これを松樹皮抽出液B1の乾燥粉末とした。実施例1と同様にして、松樹皮抽出液B1中の各成分の含有量を測定したところ、OPCが43.2%、高分子PCが36.4%、およびその他の成分が20.4%であった。なお、OPC比(画分2/画分3a)は、1.19であった。
(実施例3:樹皮抽出物の製造)
実施例2と同様にして、松樹皮の含水エタノール粗抽出液Bを得、さらに濃縮してエタノールを完全に除去した。その後、精製水を添加して容量が100mLとなるように調整して、抽出液の1/10容量に相当する濃縮液B2を得た。
次に、100mLの濃縮液B2に、塩化ナトリウム(約15g)を添加してよく攪拌した。この溶液を4℃で24時間静置後、析出した不溶物を濾過により除去し、96mLの濾液B2を得た。
その後の操作は、実施例2と同様にして、松樹皮抽出液B2を得、これを乾燥することによって松樹皮抽出液B2の乾燥粉末を得た。実施例1と同様にして、松樹皮抽出液B2中の各成分の含有量を測定したところ、OPCが39.3%、高分子PCが39.9%、およびその他の成分が20.8%であった。なお、OPC比(画分2/画分3a)は、0.98であった。
(比較例1:市販の松樹皮抽出物の成分分析)
市販の松樹皮抽出物の粉末Cについて、実施例1と同様にして、抽出物中の各成分の含有量を測定したところ、OPCが19.3%、高分子PCが37.1%、カテキン類の画分が10.8%、およびその他の成分が32.8%であった。なお、OPC比(画分2/画分3a)は、0.52であった。
(比較例2:市販の松樹皮抽出物の成分分析)
市販の松樹皮抽出物の粉末Dについて、実施例1と同様にして、抽出物中の各成分の含有量を測定したところ、OPCが15.9%、高分子PCが39.6%、カテキン類の画分が12.9%、およびその他の成分が31.6%であった。なお、OPC比(画分2/画分3a)は、0.40であった。
(実施例4:溶解性)
実施例1〜3で得られた松樹皮抽出液の乾燥粉末(樹皮抽出物A、B1、およびB2)、ならびに比較例1および2で得られた松樹皮抽出物の粉末(樹皮抽出物CおよびD)を用いて、水への溶解性試験を行った。
各松樹皮抽出物が1質量/体積%となるように、蒸留水に懸濁させ、ボルテックスでよく攪拌した。その後、室温(約25℃)にて静置した。静置60分後、溶液中の沈殿および濁度を目視により確認し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
(沈殿)
+ :沈殿が多量に認められる。
± :沈殿が若干認められる。
− :沈殿は認められない。
(濁度)
+ :白濁が顕著である。
± :白濁が若干認められる。
− :白濁は認められない。
さらに、上記目視による確認後、上記各水溶液全量を、ガラス繊維濾紙を用いて濾過した。得られた濾滓の乾燥質量を測定して、前記式1から溶解率を求めた。結果を表1に併せて示す。
表1の結果から、実施例1〜3の松樹皮抽出物(A、B1、およびB2)については、目視により沈殿が認められず、白濁も認めらないことがわかる。一方、比較例1および2の市販の松樹皮抽出物(CおよびD)については、若干量の沈殿が認められ、白濁していた。さらに、実施例1〜3の松樹皮抽出物(A、B1、およびB2)の溶解率はいずれも、99.7%であるのに対して、比較例1および2の市販の松樹皮抽出物(CおよびD)の溶解率は、85.7%および89.7%であった。これらのことは、実施例1〜3の松樹皮抽出物(A、B1、およびB2)が、比較例1および2の市販の松樹皮抽出物(CおよびD)に比べて、水に対する溶解性が高いことを示す。
実施例1〜3の松樹皮抽出液については、上述の通り、沈殿および白濁が認められず、溶解率も高い値であった。このことは、OPCが樹皮抽出物中に25質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上含有する場合に、その樹皮抽出物の水に対する溶解性が飛躍的に高くなることを示す。また、OPC比については、0.9以上であれば、水に対する溶解性が高くなることを示す。
一方、比較例1および2の市販の松樹皮抽出物CおよびDは、若干量の沈殿が認められ、白濁し、さらに溶解率も低かった。このことは、樹皮抽出物中にOPCの含有割合が小さい場合には、樹皮抽出物の水に対する溶解性は小さいことを示す。また、樹皮抽出物中の高分子プロアントシアニジン含量が、OPC含量よりもかなり大きい場合は、樹皮抽出物の水への溶解性は小さくなる傾向にある。
(実施例5:抗酸化作用(SOD活性))
(1)試験用ラットの調製
5週齢の雄性SDラットを購入後、それを6週齢となるまで予備飼育した。予備飼育期間中、ラットを観察し、体重の増加異常などの異常が見られるラットを除去した。なお、予備飼育期間中、ラット用固形飼料MF(オリエンタル酵母工業株式会社製)および水道水を自由摂取させた。
上記6週齢のラットを12時間絶食させ、その後直ちに、ラットの眼窩静脈から血液を採取した。この血液を3000rpm(1700×G)にて20分間遠心分離し、血清を得た。次いで、血清のSOD活性を測定キット(SODテストワコー(Code 435-70601):和光純薬株式会社)を用いてNBT還元法により測定した。測定後、SOD活性の平均値が均一になるように1群5匹ずつにわけた。
(2)試験液の調製
実施例3で得られた松樹皮抽出液B2の乾燥粉末(松樹皮抽出物B2)の最終濃度が10mg/mLとなるように蒸留水に溶解させた(試験液1とする)。松樹皮抽出物B2の代わりに、比較例1の松樹皮抽出物の粉末(樹皮抽出物C)、市販の(−)カテキン、市販のビタミンC(アスコルビン酸)、および市販のブドウ種子ポリフェノールのいずれかを用いたこと以外は、上記と同様にして試験液を調製した(それぞれ試験液2〜5とする)。なお、対照として蒸留水を試験液6とした。
(3)SOD活性の測定
各試験液(各成分を10mg/mL含有)を10mL/kg体重の割合となるように、上記1群5匹のラットにゾンデを用いて経口投与した(成分として100mg/kg体重)。経口投与後、水道水の自由摂取が可能な環境下でラットを飼育し、経口投与45分後および90分後に、再度眼窩静脈から採血し、上記と同様にしてSOD活性を測定した。そして、投与前のSOD活性の測定値を1とした場合の投与後のSOD活性の相対値を求めた。結果を図2に示す:
図2の結果から、OPCを20質量%以上含有する松樹皮抽出物B2を含む試験液1は、OPCを19.3%含有する松樹皮抽出物Cを含む試験液2あるいは他の抗酸化物質を含有する試験液3〜6に比べて、SOD活性が高い傾向にあることがわかる。
特に、試験液1および4の投与45分後のSOD活性は、試験液2、3、および5の投与45分後のSOD活性に比べて高いことがわかる。このことは、OPCを20質量%以上含有する松樹皮抽出物B2(試験液1)およびアスコルビン酸(試験液4)が、OPCを19.3%含有する松樹皮抽出物C(試験液2)、カテキン(試験液3)、ブドウ種子ポリフェノール(試験液5)に比べて、速やかに生体内に吸収され、高いSOD活性を有することを示す。
さらに、図2において、松樹皮抽出物B2(試験液1)の投与45分後〜90分後のSOD活性の増加(傾き)は、アスコルビン酸(試験液4)の投与45分後〜90分後のSOD活性の増加に比べて高いことがわかる。このことは、OPCを20質量%以上含有する松樹皮抽出物B2が、アスコルビン酸に比べて、SOD活性の持続性に優れることを示す。アスコルビン酸は、速やかにSOD活性が増加するにもかかわらず、活性の持続性が低かった。アスコルビン酸は、OPCを19.3%含有する松樹皮抽出物C(試験液2)に比べてもSOD活性の持続性に乏しかった。
最終的に、試験液1の投与90分後のSOD活性が最も高かった。これは、試験液1に含まれるOPCを20質量%以上含有する松樹皮抽出物B2が、水に対する溶解性が高く、生体内にすばやく吸収されるためと考えられる。このように、本発明の樹皮抽出物が、他の抗酸化物質に比べて、比較的迅速に、かつ生体内で優れた抗酸化作用、特にSOD活性を示す傾向にあることがわかる。
(実施例6:抗酸化作用に基づく生理活性増強作用または吸収促進作用の評価)
実施例3にて得られた松樹皮抽出液B2の乾燥粉末、比較例1の松樹皮抽出物と小麦由来のスフィンゴ脂質抽出物(スフィンゴ糖脂質を3質量%含有、日本油脂社製)、大豆レシチン(グリセロ脂質、ツルーレシチン工業社製)を用いて、表2に記載の所定の濃度となるように蒸留水に溶解して、試験液を調整した。これらを実施例5と同様にしてラットに投与し、血清のSOD活性を測定した。結果を図3に示す:
図3の結果から、樹皮抽出物B2とスフィンゴ脂質を含有する試験液7と、松樹皮抽出物B2を単独で含有する試験液9とをそれぞれ投与した群との比較から、本発明のスフィンゴ脂質と松樹皮抽出物とを含有する試験液は、優れた血中の抗酸化作用を示すことが分かる。また、試験液7と松樹皮抽出物Cとスフィンゴ脂質を含有する試験液8とをそれぞれ投与した群の比較から、OPCを高含有する樹皮抽出物のほうが、より高い効果を示すことも分かる。すなわち、本発明のスフィンゴ脂質は、樹皮抽出物成分の有する生理活性を増強していることから、吸収促進効果を有することが分かった。
(実施例7:血流改善効果に基づく生理活性増強作用または吸収促進作用の評価)
実施例6にて調整した試験液7〜12を用いて、血流改善効果の評価を以下のようにして行った。予め各10人の被験者(20〜50歳の健常人)の前腕部に1.0cm四方のマーキングを計6箇所行い、その部分の皮下の血流量を試験液塗布前の血流量として血流計(レーザー血流画像化装置PIM II;Sweden Permied社)を用いて測定した。得られた化粧水塗布前の血流量の平均値をaとした。
次に、試験液7〜12を上記マーキング部位にそれぞれ0.03mL塗布した。塗布後、0、0.5、1、1.5、および2時間後の皮下の血流量を測定した。得られた試験液塗布後の所定時間経過後の血流量の平均値をbとした。得られた平均値aおよびbから以下の式2によって、血流改善率を算出し、血流改善効果を評価した。結果を図4に示す。なお、図4に示すグラフの横軸(時間)の単位は、時間(hour)である。
血流量改善率(%)=100×(b−a)/a 式2
図4の結果から、樹皮抽出物B2とスフィンゴ脂質を含有する試験液7と、松樹皮抽出物B2を単独で含有する試験液9との比較から、本発明のスフィンゴ脂質と樹皮抽出物とを含有する試験液は優れた血流改善効果を有するこが分かる。また、この効果は試験液7と松樹皮抽出物Cとスフィンゴ脂質を含有する試験液8との比較から、OPCを高含有する樹皮抽出物を用いることで、より高い効果が得られることが分かる。すなわち、経皮投与した場合においても、スフィンゴ脂質によって樹皮抽出物成分の有する生理活性が増強されていることから、スフィンゴ脂質は、樹皮抽出物成分の経皮からの吸収を促進し得ることが分かる。