JP5387787B2 - 内燃エンジンの制御装置 - Google Patents
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Description
この発明は、内燃エンジンの制御装置に関する。
内燃エンジンの制御装置は、吸気スロットルの上流のエアフローメーターで計測された吸気流量と目標空燃比とに基づいて燃料噴射量を設定する。
吸気スロットルからシリンダーまでは距離があるので、加速や減速といった過渡運転では、加速操作があったのち、シリンダー内の吸気量が実際に増加するまでに時間遅れが生じる。そのため、エアフローメーターに基づいて演算された吸入空気量と実際の吸入空気量とで差異が生じて、シリンダー内の混合気が一時的に目標空燃比からズレてしまう。
そこで、日本国特許庁が1989年に発行したJP01−305144Aでは、燃料噴射量の演算タイミングにおける吸気量の変化度合(傾き)が用いられて、吸気バルブを閉じるタイミングでのシリンダー内の空気量が予測される。また、JP4321429Bでは、燃料噴射量の演算タイミングにおけるスロットルバルブの制御量から、遅れて変わる、吸気バルブを閉じるタイミングでのシリンダー内の空気量が予測される。そして、このようにして求められた吸入空気量及び理論空燃比から、シリンダー吸気量相当の燃料噴射量が計算され、計算によって求められた量の燃料が噴射される。
前述した各手法では、空気が実際にシリンダーに吸入される前に、シリンダーに閉じ込められる空気量を予測して、いわゆる先取り補正を行っている。そのため、計算結果に基づく燃料噴射量を、吸気バルブの閉鎖タイミングに先立って噴射できるのである。
吸入空気量の予測精度は、大抵の条件では現在の吸気量の変化度合(傾き)に基づく先取り補正よりも、スロットルバルブの制御量に基づく先取り補正のほうが優れている。ところで最近は、クランキング時にもスロットルバルブを可変する制御が考えられている。具体的には、クランキング時にスロットルバルブを閉じ、その後開くのである。このようにすれば、クランキング時に負圧が発達して、燃料の気化が促進される。また、完爆時期には十分な空気量が得られる。しかしながら、このようにクランキング時にスロットルバルブを可変すると、クランキング初期にはスロットルバルブが閉じられていても、大気圧下にあるコレクター内の空気がエンジンに流れ込む。したがって、スロットルバルブ開度とシリンダー内の空気量との間の関連が損なわれる。そのため、スロットルバルブの制御量に基づく先取り補正は、現在の吸気量の変化度合(傾き)に基づく先取り補正よりも精度が悪くなる、ということが新たにわかった。
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされた。本発明の目的は、クランキング中にも吸気量を精度よく先取り補正することができる内燃エンジンの制御装置を提供することである。
本発明のある態様の内燃エンジンの制御装置は、クランキング始動直後に、シリンダー吸入空気量の変化値に基づいて、吸入空気量の先取り補正を実行する始動直後実行部と、その後、吸入空気量に基づいて、アクセル操作に応じた吸入空気量の先取り補正に切り替える補正手法切替部と、を含む。
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面とともに以下に詳細に説明される。
本発明の理解を容易にするために、最初に、アクセル操作に基づく吸入空気量の先取り補正について説明する。なお詳細は、特許公報JP4321429Bに記載されているので、ここでは簡単な説明にとどめる。
上述のように、エアフローメーターの検出流量に基づいて燃料噴射量を設定しても、内燃エンジンの運転状態によっては、噴射タイミングまでに吸気量を推定できない。この結果、前回推定値が適用されて燃料噴射量が設定されることとなる。このようになっては、吸気量の推定精度が悪く、シリンダー内の混合気が一時的に目標空燃比からズレてしまう可能性がある。
そこで、本件出願人は、アクセルペダルの操作量に基づいて、吸気量の推定し、燃料噴射量を設定する発明を完成している(特許公報JP4321429B)。これについて、図1を参照して説明する。
図1は、内燃エンジンの加速時における、アクセル操作に基づく吸入空気量の先取り補正について説明する図である。
図1(A)に示すように、ドライバーがアクセルペダルを踏み込み、時刻t1でアクセルペダル操作量(APO)が、第1開度APO1から第2開度APO2へと増加しはじめる。前述のように、アクセルペダル操作量(APO)の変化に遅れて、吸気スロットルのスロットル開度(TVO)が変化する。ここでは、スロットル開度TVOは、時刻t4になって増加しはじめる。スロットル開度TVOが増加すれば、吸気通路の吸気流量が増える。その吸気はコレクターに一旦蓄えられた後に、吸気マニフォールドからシリンダーに吸入される。そのため、シリンダーの吸入空気量はさらに遅い時刻t5で増加しはじめる。シリンダーに吸入される空気量がシリンダー吸入空気量Qcと称される。
アクセル操作に基づく吸入空気量の先取り補正では、加速を含む過渡運転において、吸入空気量の変化と、燃料噴射量の変化とのズレを解決して、空燃比の制御精度を高めることを主題としている。そのために、図1(C)では、説明の都合上シリンダー吸入空気量Qcと要求噴射量Tpfとが同じ高さに描かれている。実際には、理論空燃比であるときに、燃料噴射量が1であれば吸入空気量は14.7である。また、シリンダー吸入空気量Qcは、単位がグラム/サイクルである。要求噴射量Tpfは、単位がミリセカンドである。このように単位も異なる。しかしながら、ここでは増加のタイミングだけを問題とするので、表記を簡略化するために単位の違いも無視する。結果として、シリンダー吸入空気量Qcの波形と要求噴射量Tpfの波形とは、同じ形となる。両者は、時間軸方向がズレているだけである。
アクセルペダル操作量APOが変化を開始した時刻t0から、吸気スロットルのスロットル開度TVOが変化を開始する時刻t4までの応答遅れ期間T2は、実務的には、40〜50ミリ秒程度である。この応答遅れ期間T2は、以下の説明では無駄時間T2と称される。
アクセル操作に基づく吸入空気量の先取り補正では、燃料噴射量は、スロットル開度TVOではなくアクセルペダル操作量APOに基づいて、計算される。この結果、スロットル開度TVOの変化に先行して要求噴射量Tpfが計算される。
そのために、エンジンコントローラーは、アクセルペダル操作量APOに基づいて、シリンダー吸入空気量Qcに対して、無駄時間T2だけ進角した、アクセルペダル操作量相当シリンダー吸入空気量Qcaを計算する。無駄時間T2は一定値としてあらかじめ与えられる。エンジンコントローラーは、さらに、アクセルペダル操作量相当シリンダー吸入空気量Qcaに対して、噴射タイミングと同期するように無駄時間T1だけ遅れ処理して、要求噴射量Tpfを得る。なお要求噴射量Tpfは、図1(C)に破線で示される。
なお図1(C)の各曲線は、アクセルペダル操作量APOの変化から計算される。図1(C)の各曲線には、吸気バルブの開閉は考慮されていない。実際には、図1(B)に示されるように吸気バルブが時刻t6で閉じるので、時刻t6におけるシリンダー吸入空気量Qc1がシリンダーの実吸入空気量である。時刻t2における要求噴射量Tpf1が実吸入空気量に対応する要求噴射量である。したがって、エンジンコントローラーが実際に計算するのは、時刻t2における値Tpf1である。
図1(A)〜図1(C)では、内燃エンジンの回転速度Neを一定値N0とし、噴射タイミングは、時刻t0より少し遅れた時刻t2であると仮定している。時刻t3から時刻t6までが吸気バルブの開弁期間である。噴射タイミングは、吸気行程の直前に設定されている。この関係はどのシリンダーについても同じとする。
図1(A)〜図1(C)の横軸は時間軸であるので、エンジン回転速度Neが変化すると、噴射タイミングも変化する。具体的には、エンジン回転速度Neが一定値N0を下回れば、噴射タイミングは、図のタイミングt2よりも遅くなり、図の右方向へ移動する。エンジン回転速度Neが一定値N0を上回れば、噴射タイミングは図のタイミングt2より早くなり、図の左方向へ移動する。これにともなって、無駄時間T1も変化する。つまり無駄時間T1は、エンジン回転速度Neの関数である。
図2は、内燃エンジンの加速時において、アクセル操作に基づく吸入空気量の先取り補正が実行されたときのタイミングチャートである。
なお図2(A)におけるATVOは、吸気スロットルのスロットル開度TVOから定まるスロットル開口面積である。AAPOは、アクセル操作量APOから仮想的に定まるアクセル面積である。アクセル面積AAPOは、スロットル開口面積ATVOと1対1で対応する。つまり、アクセル面積AAPOの最大値は、スロットル開口面積ATVOの最大値に等しい。このため、アクセルペダルを全部踏み込んだときのアクセル面積は、吸気スロットルが全開であるときのスロットル開口面積に等しい。アクセルペダルを半分まで踏み込んだときのアクセル面積は、吸気スロットルが半開であるときのスロットル開口面積に等しい。
ただし、過渡時には、図1(A)に示されるように、アクセルペダル操作量APOの立ち上がりに対して、吸気スロットルの応答遅れ分だけ、スロットル開度TVOの立ち上がりが遅れる。同様に、図2(A)に示されるように、アクセル面積AAPOの立ち上がりに対して、吸気スロットルの応答遅れ分だけ、スロットル開口面積ATVOの立ち上がりが遅れる。アクセル面積AAPOに対するスロットル開口面積ATVOの応答遅れは、応答遅れ期間(無駄時間)T2である。
また図2(C)におけるQaは、エアフローメーターで検出される流量(エアフローメーター流量)である。Qaaは、エアフローメーター流量の先行流量であり、アクセル操作相当流量と称される。
また図2(D)におけるPaは、気圧センサーによって検出される気圧(マニフォールド圧力)である。Pmaは、マニフォールド圧力の先行圧力であり、アクセル操作相当マニフォールド圧力と称される。
アクセル操作に基づく吸入空気量の先取り補正が実行されると、エアフローメーター流量Qaに先行して、アクセル操作相当流量Qaaが演算される。このアクセル操作相当流量Qaaは、エアフローメーター流量Qaのプロフィールを精度よく予測できる。そして、吸気弁閉時期IVCにシリンダー空気量Qcが確定するので、このときに理論空燃比(目標空燃比)を得るためにはこの確定したシリンダー空気量に対応する噴射量を同期噴射タイミングで与える必要がある。アクセル操作に基づく吸入空気量の先取り補正によれば、エアフローメーター流量Qaのプロフィールを精度よく予測できるので、噴射弁閉時期IVCに確定するシリンダー空気量に対する目標空燃比を得るために過不足のない噴射量を演算することができる。そして、この噴射量を同期噴射タイミングで応答遅れなく噴射することが可能である。この結果、過渡時の空燃比制御精度が向上する。
ところで従来は、クランキング時には吸気スロットルの開度が調整されることはなかった。しかしながら、本件発明者らは、クランキング時に吸気スロットルの開度を適宜調整することで、吸気スロットルよりも吸気流れ方向で下流側の負圧を発達させて燃料気化を促進させつつ、完爆時期には十分な空気量が得ることができるような技術を検討している。
このような技術において、上述のような、アクセル操作に基づく吸気量の先読み推定を実行しては、吸気量を精度よく推定することができないことが知見された。すなわち、クランキング初期は、アクセルペダルが操作されていないにもかかわらず、吸気スロットルの開度が適宜閉じられる。このような状態では、主として、大気圧下の吸気コレクター内の空気がエンジンに流れ込む。したがって、アクセル操作と吸気量との相関が損なわれてしまう。ゆえに、吸気量を精度よく推定することができないのである。
そこでこのような場合には、吸気量の変化率を用いて吸気弁閉弁タイミングにおける吸気量を先読み補正するようにするようにしたのである。
具体的な内容は、以下で説明される。
図3は、本発明による内燃エンジンの制御装置の一実施形態を説明するための構成を示す図である。
この実施形態の内燃エンジンの制御装置は、内燃エンジン本体100に吸入される吸気流量を精度よく算出する。内燃エンジン本体100の吸気通路002には、空気の流れ方向の上流側からエアフローメーター001と、吸気スロットル003と、吸気圧センサー004と、インジェクター005と、が設けられる。
エアフローメーター001は、熱線式のエアフローメーターである。電流が流されて加熱されたワイヤー(熱線)に対して、空気が流れると、ワイヤーは熱が奪われる。空気の流速が速いほど(すなわち単位時間当たりの吸気流量が多いほど)、多くの熱が奪われる。この結果、ワイヤーの抵抗が変化する。このような特性を利用して、吸気流量を検出するのが、熱線式のエアフローメーターである。
吸気スロットル003は、目標出力に応じて開度が調整されて、内燃エンジン本体100に吸入される吸気流量を調整する。目標出力は、通常は、アクセルセンサー011で検出されたアクセルペダル操作量の信号に応じて設定されるが、たとえばオートクルーズ制御中は、アクセルセンサー011の検出信号とは別途に設定される。
吸気圧センサー004は、吸気コレクター013に設けられ、吸気コレクター013を流れる吸気の圧力を検出する。吸気コレクター013は、吸気スロットル003の下流に設けられる。そのため、吸気圧センサー004が検出する圧力は、通常は大気圧以下である。
インジェクター005は、燃料を噴射する。なおインジェクター005は、吸気ポートに燃料を噴射するタイプであっても、内燃エンジン本体100のシリンダーに直接燃料を噴射するタイプであってもよい。
内燃エンジン本体100には、吸気動弁装置006と、排気動弁装置007と、クランク角センサー008と、が設けられる。
吸気動弁装置006は、吸気弁によって、内燃エンジン本体100のシリンダーと吸気ポートとを開閉する。吸気動弁装置006は、吸気弁を一定のクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであっても、運転状態に応じて変更したクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであってもよい。開閉タイミングが可変なタイプであれば、実際の開閉タイミングを検出するセンサー及び開閉タイミングを変更するアクチュエーターが設けられる。このセンサーの検出信号がエンジンコントローラー012に送信される。またエンジンコントローラー012から受信した信号に基づいてアクチュエーターが開閉タイミングを変更する。
排気動弁装置007は、排気弁によって、内燃エンジン本体100のシリンダーと排気ポートとを開閉する。排気動弁装置007は、排気弁を一定のクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであっても、運転状態に応じて変更したクランク角(開閉タイミング)で開閉するタイプであってもよい。開閉タイミングが可変なタイプであれば、実際の開閉タイミングを検出するセンサー及び開閉タイミングを変更するアクチュエーターが設けられる。このセンサーの検出信号がエンジンコントローラー012に送信される。またエンジンコントローラー012から受信した信号に基づいてアクチュエーターが開閉タイミングを変更する。
クランク角センサー008は、クランクシャフトの回転角度を検出する。
内燃エンジン本体100の排気通路009には、空気の流れ方向の上流側から上流側排気浄化触媒014と、下流側排気浄化触媒015と、が設けられる。そして、上流側排気浄化触媒014の入口近傍にA/Fセンサー(空燃比センサー)010が設けられる。A/Fセンサー(空燃比センサー)010は、内燃エンジン本体100から排出された排ガスの空燃比を検出する。上流側排気浄化触媒014及び下流側排気浄化触媒015は、内燃エンジン本体100から排出された排ガスを浄化する。
エンジンコントローラー012は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成される。エンジンコントローラー012は、複数のマイクロコンピューターで構成されてもよい。エンジンコントローラー012は、エアフローメーター001と、吸気圧センサー004と、吸気動弁装置006のセンサーと、排気動弁装置007のセンサーと、クランク角センサー008と、A/Fセンサー010と、アクセルセンサー011とから、信号を受信する。そしてエンジンコントローラー012は、これらの信号に基づいて所定の演算を実行し、吸気スロットル003と、インジェクター005と、吸気動弁装置006のアクチュエーターと、排気動弁装置007のアクチュエーターとに対して、制御信号を送信して、内燃エンジンの運転を制御する。
図4は、エンジンコントローラーの具体的な制御内容を示すフローチャートである。
本実施形態では、ステップS1においてエンジンコントローラーは、クランキングを開始する。
ステップS2においてエンジンコントローラーは、カウンターをクリアする。
ステップS3においてエンジンコントローラーは、内燃エンジンの回転速度がクランキング回転速度よりも大きいか否かを判定する。これによって、内燃エンジンが自立回転しているか否かが判定される。エンジンコントローラーは、判定結果が肯になるまで待機し、肯になったらステップS4へ処理を移行する。
ステップS4においてエンジンコントローラーは、シリンダー吸気量の変化値Δに基づく先取り補正を開始する。なお具体的な内容は後述する。
ステップS5においてエンジンコントローラーは、変化値Δが所定値(閾値)よりも小さいか否かを判定する。変化値Δは、たとえば今回の演算タイミングで求めた吸気量と前回の演算タイミングで求めた吸気量との差の絶対値として求められる。なお図7では、今回と前回との吸気量の差を絶対値に変換する前の状態が示されている。そのため値が負値になっているとともに、暫定的に閾値も負値で示されている。エンジンコントローラーは、判定結果が肯になるまで待機し、肯になったらステップS6へ処理を移行する。そしてこの所定値(閾値)は、シリンダー吸気量の変化値Δを基準として制御を切り替える場合に、最適な値を、内燃エンジン仕様に応じて、あらかじめ実験によって求めておく。すなわち、所定値(閾値)は、吸気流量が十分増加し、安定したことを精度良く検出し、これによってスロットルバルブの開度とシリンダー内の吸入空気量との関連が得られるようになって、シリンダー吸気量の変化値Δに基づく先取り補正からアクセルペダル操作量APOに基づく先取り補正に切り替えることができるための基準値である。
ステップS6においてエンジンコントローラーは、カウンターをカウントアップする。
ステップS7においてエンジンコントローラーは、カウンター値が所定値(閾値)よりも大きくなったか否かを判定する。エンジンコントローラーは、判定結果が否であればステップS5へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS8へ処理を移行する。
なおこのカウンター値の所定値(閾値)を微小値にすれば、シリンダー吸気量の変化値Δが所定値(閾値)よりも大きくなったら、ただちに切り替えられる。
またこのカウンター値の所定値(閾値)をある程度大きな値にすれば、シリンダー吸気量の変化値Δが所定値(閾値)よりも大きい状態が所定時間継続したら、切り替えられる。クランキング開始初期は、吸気流量の変動が特に激しい状況なので、シリンダー吸気量の変化値Δが所定値(閾値)を一回だけ下回るのでは、吸気流量が十分上昇していない可能性がある。しかしながら、この所定値(閾値)をある程度大きな値にすれば、シリンダー吸気量の変化値Δが所定値(閾値)よりも大きい状態が所定時間継続したら、切り替えれば、吸気流量が十分増加して安定したことを精度良く検出することができる。
ステップS8においてエンジンコントローラーは、シリンダー吸気量の変化値Δに基づく先取り補正からアクセルペダル操作量APOに基づく先取り補正に切り替える。
図5は、シリンダー吸気量の変化値Δに基づく先取り補正の基本概念について説明する図である。
上述のように、本実施形態では、ステップS4において、シリンダー吸気量の変化値Δに基づく先取り補正を実行する。
この先取り補正の基本概念について図5を参照して説明する。
Qは、シリンダーに吸入される空気量である。添字nは、今回の読み込み値を示す。添字n−1は、前回の読み込み値を示す。上述のように、クランキング時に吸気スロットルの開度を適宜調整することで、吸気スロットルよりも吸気流れ方向で下流側の負圧を発達させる場合であれば、吸気コレクター013から吸い出されてシリンダーに流入する空気量は、吸気コレクター013の容積や圧力に依存し、エンジン回転数に基づいて演算される。また吸気コレクター013の圧力が下がることで、吸気コレクター013に吸入される空気量は、エアフローメーター001で検出される。これらに基づいて、シリンダー吸入空気量Qが演算される。なお吸気コレクター013に設けられた吸気圧センサー004の信号に基づいてシリンダー吸入空気量Qを演算してもよい。吸気圧センサー004の信号は、エアフローメーター001の信号に比較して、急変しない。したがって、始動直後の検出精度が優れる。
データの前回読込時刻t0から今回読込時刻t1までの時間をΔTとする。
データの今回読込時刻t1から吸気行程t2(便宜上、吸気行程中央とする)までの時間をΔtとする。QnACTは、これら△t、△T、Qn−1、Qnから推測されるシリンダー吸入空気量である。
この場合の関係が図5に示されており、比例関係から下記式が導出される。
エンジン回転同期演算方式では、ΔTは、エンジン回転周期に比例する。また時刻t2が、吸気行程の中央と見なされれば、Δtもエンジン回転周期に比例する。従って、上式は以下になる。
なお、エンジン回転非同期演算方式の定周期演算方式では、△T=const、△t∝エンジン回転周期、なる関係にある。そして、エンジン回転周期は、通常、エンジン回転数Neを求めるためカウンタタイマーにて必ず求めているので、そのデータを利用できる。
図6は、シリンダー吸気量の変化値Δに基づく先取り補正の具体的な内容を示すフローチャートである。
ステップS21においてエンジンコントローラーは、エンジン回転数Neを読み込む。
ステップS22においてエンジンコントローラーは、シリンダー吸入空気量Qnを読み込む。
ステップS23においてエンジンコントローラーは、エンジン回転数Neを用いて吸気行程までの時間Δtを求める。なお、ここでは、時間Δtが吸気行程中央の時刻までで求められる。そして回転同期演算方式が採用される。
ステップS24においてエンジンコントローラーは、QnACTを演算する。このステップS24は、各データの読込後の負荷急変に対処するための処理である。この場合の演算式は、上述の通りである。吸気行程まで時間△tが考慮されて推測演算される。
ステップS25においてエンジンコントローラーは、QnACTとエンジン回転数Neとを用いて、修正後のパルス幅を読み出す。
ステップS26においてエンジンコントローラーは、パルス幅を出力する。
ステップS27においてエンジンコントローラーは、現時点のQnを格納する。エンジンコントローラーは、現時点のQnを読み込むたびに順次更新する。
上記した一連の処理は、リセットタイマーによって、一定周期(たとえば3ミリ秒ごと)に繰り返し実行される。
要するに、一定周期ごとに演算されたQnACTを受け、回転数検出センサーからのトリガー信号が入った時点で、パルス幅に応じてインジェクターが駆動される。
つまりここでは、エンジン回転数Ne及びシリンダー吸入空気量Qが変化中である時は、これらの変化率と情報の読込時刻以降吸入行程までの時間を求め、更にその結果を用いて吸入行程中におけるシリンダー吸入空気量を推測し、この推測値を用いてマップから基本噴射パルス幅を読出すようにしている。
なおここでは、推測値QnACTの演算に際してシリンダー吸入空気量の現在値Qnと、前回値Qn−1との差分を用いて演算するものとして説明した。しかしながら、これには限定されない。データに伴うノイズが無視できない場合には、所定回数前のデータと比較し、その差分が一定値以上であるときに、前出の推測演算を行なうようにしてもよい。また、この演算は差分のみではなく、比を用いる等の方法により推測演算を行ってもよい。推測演算は、加速方向、又は減速方向の一方のみに適用されるものであってもよい。
図7は、本実施形態の作用効果を説明する図である。
クランキング初期は、大気圧下の吸気コレクター内の空気がエンジンに流れ込む。したがって吸気スロットルの開度と吸気量との相関が損なわれてしまう。ゆえに、吸気スロットルの開度に基づいて吸気量を推定しても、吸気量を精度よく推定することができなかった。
しかしながら、本実施形態によれば、クランキングを開始したら、まずシリンダー吸入空気量の変化値Δに基づいて、吸気量の先取り補正を開始する。
そして、シリンダー吸入空気量の変化値Δが所定値(閾値)よりも大きくなったら、アクセル操作に基づく吸気量の先取り補正に切り替える。
このようにしたので、図7に示されているように、吸気量を精度よく推定できるのである。すなわち、アクセル操作に基づく吸気量の先取り補正では、クランキング始動初期に先読み精度が悪い。そこでこのときは、シリンダー吸入空気量の変化値Δに基づいて、吸気量の先取り補正を用いる。このようにすることで、クランキング始動時に、吸気量の先読み精度を確保できるようになったのである。
そして、シリンダー吸入空気量の変化値Δが所定値(閾値)よりも大きくなったら、アクセル操作に基づく吸気量の先取り補正に切り替える。このように変化値に基づいて補正手法を切り替えれば、クランキングの都度、状況が変わってしまっても、運転状態や環境条件に依ることなく、いずれの場合も精度よく先取り補正の補正手法を適切に切り替えることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
たとえば、上記説明では、シリンダー吸入空気量の変化値Δに基づいて補正手法を切り替えたが、シリンダー吸入空気量に基づいて補正手法を切り替えてもよい。このように吸気量の大小で切り替えれば、補正精度が高くなる。
なお上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
本願は、2010年12月27日に日本国特許庁に出願された特願2010−290270に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
Claims (5)
- クランキング始動直後に、吸入空気量の変化値に基づいて、吸入空気量の先取り補正を実行する始動直後実行部と、
その後、吸入空気量に基づいて、アクセル操作に応じた吸入空気量の先取り補正に切り替える補正手法切替部と、
を含む内燃エンジンの制御装置。 - 請求項1に記載の内燃エンジンの制御装置において、
前記補正手法切替部は、吸入空気量の変化量が閾値よりも小さくなったら、アクセル操作に応じた吸入空気量の先取り補正に切り替える、
内燃エンジンの制御装置。 - 請求項1に記載の内燃エンジンの制御装置において、
前記補正手法切替部は、吸入空気量が閾値よりも小さくなったら、アクセル操作に応じた吸入空気量の先取り補正に切り替える、
内燃エンジンの制御装置。 - 請求項2又は請求項3に記載の内燃エンジンの制御装置において、
前記補正手法切替部は、変化後の状態が所定時間継続した後、アクセル操作に応じた吸入空気量の先取り補正に切り替える、
内燃エンジンの制御装置。 - 請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の内燃エンジンの制御装置において、
前記吸入空気量は、吸気コレクターに設けられた吸気圧センサーによって検出される、
内燃エンジンの制御装置。
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