請求項1に記載の発明は、永久磁石を有する回転子と3相巻線を有する固定子とからなるブラシレスDCモータと、直流電圧を交流電圧に変換し前記ブラシレスDCモータに電力を供給するインバータと、前記ブラシレスDCモータに流れる電流の位相を検出し、ブラシレスDCモータの所定の巻線に流れる電流の位相と、電圧位相とが所定の位相関係を保持するように、前記ブラシレスDCモータに通電する巻線を切換えることで、前記ブラシレスDCモータを駆動し、前記ブラシレスDCモータに流れる電流値を検出し、前記ブラシレスDCモータに流れる電流値のピークの変化量が、所定変化量を超える時に保護動作を行い、前記保護動作を行う条件が、前記電流値のピークの変動周波数が第一の閾値周波数以下であり、なおかつ前記ブラシレスDCモータに流れる電流値の変化量が所定変化量を超える時とし、運転周波数よりも遅く設定される前記第一の閾値周波数を、前記モータの電流周波数を前記モータの極対数で割って得られた商よりも小さく設定するとしたものである。
これによりブラシレスDCモータの回転子位置を検出しない駆動でも、常にモータ電流位相と電圧位相との関係が安定し、負荷が過大なっても脱調や過電流に至らない進角と速度で駆動しつづけることなるため、ブラシレスDCモータの駆動領域を拡張することが出来る。
更に、位相を検出する部分が故障し、電流が乱れたとしても、確実に検出を行える為、信頼性を高めることができる。
また、前記保護動作を行う条件が、前記電流値のピークの変動周波数が第一の閾値周波数以下であり、なおかつ前記ブラシレスDCモータに流れる電流値の変化量が所定変化量を超える時としたことにより、ノイズなどによる誤検出に強くなる為、適切な保護動作を行うことで駆動範囲を広く確保する事ができる。
また、運転周波数よりも遅く設定される第一の閾値周波数を、前記モータの運転周波数を前記モータの極対数で割って得られた商よりも小さく設定するとしたことにより、前記ブラシレスDCモータが駆動する機械の速度よりも遅い周波数の変化を捉え、前記機械に1回転ごとに周期的なトルク変動が発生する場合であっても、誤検出することなく不安定な運転状態を検出できる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の、前記第一の閾値周波数よりも遅く設定された第二の閾値周波数を設定し、前記第二の閾値周波数より速い前記ブラシレスDCモータの電流ピークの変化を検出するとしたことにより、不安定現象に大きく関与しない、非常に遅い変動周波数を検出することがなくなるため、前期ブラシレスDCモータが駆動する対象に影響を与えないような変動を無視することができ、安定した駆動を実現できる。
請求項3に記載の発明は請求項1または請求項2に記載の発明に前記ブラシレスDCモータは、回転子の鉄心に永久磁石を埋め込んでなる回転子であり、かつ突極性を有する回転子を有したものである。これによりブラシレスDCモータの駆動において、永久磁石によるマグネットトルクとともに、突極性によるリラクタンストルクも有効に利用できるようになるため、低速時の高効率駆動とともに、高効率の高速駆動性能も更に伸張することが可能となる。
請求項4に記載の発明は請求項3に記載の発明に、ブラシレスDCモータの駆動負荷として圧縮機を用いたものである。圧縮機の駆動制御では工業用サーボモータ制御等の様に、高精度な回転数制御や加速制御などは必要無い。さらに圧縮機はイナーシャが比較的大きい負荷であり、特に往復運動を行うレシプロタイプは、構造上回転子には、金属性で重量の大きいクランクシャフトやピストンが接続されているため、イナーシャが非常に大きく、短い時間での速度の変動は非常に少ない負荷といえる。
従って、電流位相の検出を1相のみとしても速度変動等の制御精度が悪化することは無いため、本発明のモータ駆動装置の非常に有効な用途のひとつと言える。また従来のモータ駆動装置よりブラシレスDCモータの駆動領域の拡張により、従来のモータ駆動装置と同じ圧縮機を用いた場合でも、冷凍能力を高めることが出来るので、高能力の冷凍サイクルの小型化と低価格化を実現できる。
さらに、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルに、本発明のモータ駆動装置を置き換えれば、より高効率なモータを用いた圧縮機を使用することが出来る様になり、冷凍サイクルのさらなる高効率化が実現できる。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のモータ駆動装置で駆動されるモータを備えた圧縮機である。これにより圧縮機の駆動可能な負荷範囲と速度範囲を拡張でき、負荷が低い場合は低速駆動では高効率運転、負荷が大きい場合は高速駆動による高冷凍能力運転が可能な圧縮機が提供できる。
請求項6に記載の発明は請求項5に記載の圧縮機を備えた冷蔵庫である。圧縮機の駆動可能な負荷範囲と速度範囲の拡張にともない、例えば低負荷領域での効率アップをターゲットとして固定子巻線の巻数を増やした高効率低トルク設計のモータを用いた圧縮機でも、波形発生部を第2波形発生部に切換えることで高速高負荷での駆動も可能となる。
従って冷蔵庫の様に、1日の大半を占める安定した冷却状態では高効率な運転が求められる一方で、朝夕の家事時間帯や夏場等で扉開閉が多い場合、さらには霜取り後など庫内温度が上昇した時など速やかに冷却する為に一時的な高速高負荷駆動が求められる機器に対して、相反する要求を両立出する事ができる非常に合理的且つ有効な手段であり最適な用途である。
以下本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1におけるモータ駆動装置のブロック図である。図1において従来の技術と同一構成要素については同一の符号を用い、説明を省略する。
図1において位置検出手段5は、ブラシレスDCモータ4の回転子の相対位置を検出するもので、インバータ3の出力端子電圧を検出する電圧検出部5aと、電圧検出部5aの出力波形から、ブラシレスDCモータの誘起電圧のゼロクロスポイントを検出する位置検出部5bとにより構成されている。位置検出手段5は、インバータ3の任意の相の上下両スイッチング素子(たとえばU相スイッチング素子3aおよび3b)がオフしている期間に、インバータ出力端子に現れる誘起電圧から、そのゼロクロスポイントを検出するようにしている。具体的には、コンパレータ回路等で構成した比較回路等によって、インバータ3の出力端子電圧とブラシレスDCモータ4の固定子3相巻線の中点電位あるいはインバータ3の入力直流電圧の2分の1とを比較して、その大小関係が反転するタイミングを検出している。
第1転流手段6はブラシレスDCモータ4をフィードバック制御によって転流タイミングを計るものであり、速度指令手段7はブラシレスDCモータの駆動速度を指示するものである。第1転流手段6では、前記位置検出手段5によって得た位置信号の発生周期からブラシレスDCモータの現在の駆動速度を検出し、検出した駆動速度と速度指令手段7によって指示される指令速度との偏差から、インバータ3に印加する電圧と印加するタイミングを計る。具体的には120度矩形波駆動の場合は、誘起電圧のゼロクロスポイント検出時点(即ち位置検出時点)から電気角30度経過したタイミングから電圧を印加すると、誘起電圧と端子電圧とが同相となり、モータの種類や特性あるいは負荷状態などから位置検出タイミングから任意に電圧の印加タイミングを調整することで最適なタイミングを得ることができる。また電圧値の調整は、PWM制御により容易に行える。指令速度に対して駆動速度が遅い場合は印加電圧を増加するようにPWMデューティを増加し、指令速度より早い場合はデューティを減少することで、ブラシレスDCモータに印加する電圧を調整する。これは結果的にブラシレスDCモータの速度制御となり、誘起電圧検出によるフィードバック制御を行っている。
電流検出手段8はブラシレスDCモータの相電流を検出するものであり、本実施の形態ではインバータ3の出力と固定子巻線の間に設置している。モータ相電流の検出方法としては、インバータ3の下側スイッチング素子(3b、3d、3f)とインバータ入力N側(即ち整流平滑回路2のダイオード2c、2dのアノード側)との間に電流検出用シャント抵抗を取り付け、その抵抗に発生する電圧から検出する方法等でも構わないが、抵抗による損失が増加してしまうため、本発明の実施の形態では電流センサを用い、損失増加は殆ど無く、高効率なモータ駆動装置を実現できている。
電流位相検出手段9は電流位相検出切替部9aと電流位相検出部9bにより構成されている。電流位相検出手段9には、インバータ3の出力端子電圧を検出する端子電圧検出手
段9cと電流検出手段8の出力が入力されるが、本実施の形態では位置検出手段5の電圧検出部5aを端子電圧検出手段と兼用化することで、別途回路を付加する必要がなく、装置の小型化と低コスト化を図っている。
電流位相検出切替部9aでは、電圧検出部5aおよび電流検出手段8からの入力波形状態に応じて、電流位相の検出を電流検出手段の出力に基づき検出するか、電圧検出部の出力に基づき検出するかを選択し切り替える。また電流位相検出部9bでは、前記電流位相検出切替部により選択した方法から、ブラシレスDCモータに流れる相電流の任意の位相を検出する。なお、本実施の形態では電流波形のゼロクロスポイントを検出するようにしている。
第2転流手段10は前記電流位相検出手段9により検出したブラシレスDCモータ相電流の任意の位相としてゼロクロスポイントを基準に、速度指令手段7により指示されたモータ駆動速度に基づく転流周期で所定のデューティで、インバータ3のスイッチング素子の転流タイミングを計るものである。
ここで電流位相検出手段9の動作について図1および図2、図3、図4を用いて説明する。
図2は実施の形態1における第1転流手段での駆動におけるU相の各部の波形を示している。なお第1転流手段における駆動ではPWMフィードバック制御を行っているので、各部の波形にはPWMキャリアの成分が重畳される。しかし図2ではPWMデューティは100%として説明を簡単にしている。
図2において(ハ)は電圧検出部5aの出力波形を示しており、(ロ)に示したインバータの出力端子電圧(図2ではU相の出力端子電圧としている)と、ブラシレスDCモータ固定子3相巻線の中点電位またはインバータ入力電圧Vinの2分の1との大小関係を出力する。(本実施の形態では、端子電圧とVin/2を比較して、電圧検出部5aは端子電圧がVin/2より大きいときはHi出力、小さいときはLo出力するようにしている。)
区間Aおよび区間Bは図1におけるスイッチング素子3aおよび3bがオフするタイミングであり、このとき端子電圧にはブラシレスDCモータ4の回転に伴う誘起電圧が現れる。この誘起電圧がVin/2と等しくなるタイミングが誘起電圧のゼロクロスポイントであり、電圧検出部5aの出力レベルが反転する。位置検出手段5内の位置検出部5bは、この出力反転タイミングを位置検出タイミングとして取得して第1転流手段に出力する。
なお、区間AおよびBにおいて、スイッチング素子がオフした際にダイオード3g(区間A)、3h(区間B)を介して巻線に蓄えたエネルギーを放出する際に発生するスパイク電圧が現れ、電圧検出部5aの信号は変化する。
しかし位置検出部5bは誘起電圧のゼロクロスポイントを確実に取得するため、スイッチ素子のオフ後の一定期間は電圧検出部5aの信号変化を無視することで、スパイク電圧検出による誘起電圧ゼロクロスの検出ミスを防止している。
図3は実施の形態1における第2転流手段での駆動におけるU相各部の波形で、図3(a)は比較的高負荷での駆動であり(b)は比較的低負荷での駆動状態である。
図3(a)および(b)において、(ハ)は電圧検出部5aの出力波形を示しており、先述したように(ロ)に示す端子電圧とVinとの比較結果が出力される。
図3(a)において区間AはU相上側スイッチング素子3aがオン状態にあり、モータ電流はスイッチング素子3aを介してモータに流れ込む。区間Bはスイッチング素子3aのオフにともない、クランプダイオード3hが導通状態となる区間で、区間Cはクランプダイオード3gが導通状態になる区間である。ここで区間Bから区間Cに変わる境界ポイントはダイオード3gがオフし、ダイオード3hがオンするタイミングで、モータ電流(本実施の形態ではU相)の向きが変化する、即ち電流のゼロクロスのポイントである。したがって、スイッチング素子(3a)のオフ後、電圧検出部5aの出力状態が変化するポイントがあるとき(即ち、スパイク電圧が発生しているとき)、電流位相検出切替部は電圧検出部5aの出力から電流位相を検出することを選択し、図3(a)の(ホ)に示すように、スイッチ素子のオフ後に電圧検出部5aの出力が反転するタイミングをモータ電流のゼロクロスポイントとして取得する。
一方で図3(b)に示す駆動状態では、(ロ)に示す端子電圧波形は180度ワンパルスの矩形波形となっている。当然この場合電圧検出部5aの出力波形もワンパルス状となっており、電圧検出部5aの出力から、電流の位相を検出することは困難である。したがって、このとき電流位相検出切替部は電流検出手段8による出力から電流位相を検出するように選択する。
電流検出手段8による電流位相の検出は、電流検出手段8の出力をマイコン等で定期的(例えば20μ秒ごと)にA/D変換を行い、電流値が最大あるいは最小となるポイント、或いはゼロとなる位相(ゼロクロス)をソフトウェアで簡単に検出できる。本実施の形態では制御を簡単にするために、電流ゼロクロスを検出するようにして、電圧検出部での位相検出ポイントと同じにしている。
またハードウェアによる特定位相の検出として、電流検出手段の出力をフォトカプラに入力してフォトカプラ出力信号の立ち上がりおよび立下りエッジをゼロクロスとして検出する方法や、フォトカプラ出力信号の立下りと立ち上がりの中間ポイントを電流が最大または最小ポイントとなる位相として検出することも容易に実現できる。
交流電流センサの選定においては、商用電源(50または60Hz)用の一般的なタイプを使用することで、低コスト化が図れる。ただし、周波数特性については、電流周波数に対する出力精度が変化することは問題ないが、相電流の最低周波数から最大周波数まで安定して特定位相が取得可能なタイプを選定する必要があることは当然である。
次に図4に示す電流波形の場合について説明する。
図4は、実施の形態1における第2転流手段での駆動で低負荷で通電角が比較的狭い状態におけるU相各部の波形である。
図4(イ)に示す電流波形はU相上下両方のスイッチング素子(3aおよび3b)がオフ状態のとき、電流がゼロとなる期間がある。本実施の形態では電流のゼロクロス位相を検出しているため、電流検出手段でのゼロクロス検出では検出位相ポイントがばらつき検出タイミングが不安定になってしまう可能性がある。さらに電流検出手段として交流電流センサを用いた場合、電流ゼロとなる期間は検出が非常に困難となる。したがってこの様な電流波形の場合は、スイッチング素子(3aおよび3b)のオフ後、電圧検出部の出力が変化するポイント(即ちスパイク電圧が消えるタイミング)を検出すれば、特定位相として電流がゼロとなるポイントを確実且つ安定して取得することが出来る。
以上の様に、電流位相検出切替部は、スイッチング素子のオフ後に電圧検出部の出力が
変化するポイント(即ちスパイク電圧)を検出したときは端子電圧(電圧検出部)から電流位相検出を選択し、180度のワンパルス状の矩形波形などインバータ出力端子電圧から電流位相を検出できない波形の場合は、電流検出手段による電流位相検出を選択することで、様々な駆動状態においても電流のゼロクロスポイントを安定且つ確実に検出することを可能としている。
また、ハードウェアの定数バラツキや、ゼロクロス検出におけるノイズ除去フィルタ設置などで検出タイミングに一定のズレが発生する場合でも、本発明のモータ駆動装置はモータ電流の任意の基準位相が定まればよいため、回路バラツキ等に対する影響が非常に少ないモータ駆動装置を実現できている。
負荷判定手段11はブラシレスDCモータの負荷状態を判定するものであり、PWMデューティの状態を判定するデューティ判定部12と位置検出タイミングと第2転流手段によって生成した転流信号との位相関係を判定する位相差判定部13より構成している。
ピーク検出手段14は電流検出手段8が検出した電流値から、電流一周期の最大値を検出し、出力する。本実施の形態では電流周期の10分の1以下の周期で電流値を取り込み、取り込んだ電流値と電流の最大値とを比較し電流一周期ごとに最大値をクリアすることで検出をおこなっている。
ピーク変化量検出手段15ではピーク検出手段14で検出されたピーク値の最大値と最小値の差を検出し出力する。最大値は最小値が更新されなくなったときにクリアし、最小値は最大値が更新されなくなったときにクリアする。
ピーク変化量判定手段16はピーク変化量検出手段15の出力であるピークの変化量が予め定めておいた所定変化量を超えているかどうかを判定し、出力を行う。
ピーク変動周波数検出手段17はピーク検出手段14の検出した電流ピークが変化する周波数を検出する。例えば、ピーク電流値のピークが現れる間隔から周波数を求める事ができる。本実施の形態では、検出された電流ピーク値が前回の電流ピーク値より大きいと検出した回数にローパスフィルタを掛けて周波数を検出する。
ピーク変動周波数判定手段18はピーク変動周波数出手段17によって検出された変動周波数が第一の所定周期未満かつ第二の所定周期以上か判定を行う。第一の所定周期はモータに流れる電流周期をモータの極対数で割ってえられる商としている。例えば、電流周波数が40Hzでモータの極数が8極であるとき、極対数は8割る2で4となり、設定される周波数は80割る4で20Hzとなる。第二の閾値周波数は予め設定しておき、本実施の形態ではモータを運転する最低の周波数である1Hzを設定する。
保護手段19はピーク変化量判定手段16の判定結果とピーク変動周波数判定手段18の判定結果によって保護動作を行う子かどうかを決定する。ピーク変化量判定手段16の結果が所定変化量を超えており、かつピーク変動周波数判定手段18の判定結果がピーク変動周波数が第一の閾値周波数と第二の閾値周波数の間であれば保護動作を行う。
保護手段19第2転流手段10で決定した転流タイミングを転流タイミングと相電流位相の差が大きくなるよう変更し、電流値を抑制する。例えば、転流タイミングの遅延を毎回設定し徐々に大きくしていくなどで実現可能である。保護手段19での転流タイミングの変更の解除は予め設定しておいた第2電流所定値以下になるまで継続する。そして、この決定した転流タイミングを切換手段20へと出力する。
また、ブラシレスDCモータ4が一回転する間に速度変動が小さい場合はピーク変化量
判定手段16の判定結果のみで十分な保護を行う事ができる。
切換手段20は前記負荷判定手段11による負荷状態の判定結果から、インバータ3の出力を、第1転流手段6により行うか第2転流手段10により行うかを切り替える。
ドライブ部21はインバータ3のスイッチング素子をオン・オフするものであり、スイッチング素子のオン・オフ状態の切換タイミングは、前記切換手段において選択した、第1転流手段6または第2転流手段10により生成した転流タイミングに基づく。
以上の様に構成されたモータ駆動装置について、その動作を説明する。
図5は本実施の形態における動作を示すフローチャートである。
図5においてまずstep1では位置検出手段5により検出したブラシレスDCモータの回転子相対位置に基づいて速度指令手段7で指示された速度を目標としてPWMフィードバック制御で速度制御を行う。本制御は一般的な駆動方法であるため、詳細な説明は省略するが、位置検出フィードバック制御を行うためもっとも効率の良い駆動状態となるように転流タイミングを制御している。次にstep2で駆動速度が目標速度に到達したか否かを確認し、目標速度に到達している場合はstep1に戻る。目標速度に到達していない場合はstep3に進み、負荷判定手段11内のデューティ判定部12はPWMデューティが最大デューティ(一般的には100%)に到達したか否かを確認する。PWMデューティが100%未満もしくは速度が目標より超過している場合は、PWMデューティ制御による速度制御が可能であるためstep1に戻る。ここでPWMデューティ幅が最大に達しており、速度が不足している場合、これ以上ブラシレスDCモータへの供給電圧を上げることができない。即ち、第1転流手段6による駆動での限界負荷状態にある。
従ってこのとき切換手段20は第1転流手段を第2転流手段10に切換え、step4で第2転流手段によりブラシレスDCモータを駆動する。
ここで第2転流手段による駆動について説明する。
図6は従来のモータ駆動装置でブラシレスDCモータを同期駆動回路でオープンループ駆動した場合の、相電流と端子電圧の位相関係を示したものである。
図6において、横軸は時間、縦軸は誘起電圧位相を基準とした位相(即ち誘起電圧との位相差)を示し、(イ)は相電流を、(ロ)は端子電圧、(ハ)は相電流と端子電圧との位相差である。また図6(a)は比較的低負荷で安定した運転状態を示し、(b)は従来のモータ駆動装置における駆動限界での状態を示している。また、(a)(b)共に端子電圧位相より電流位相が進んでいることから、ブラシレスDCモータが非常に高速で駆動しており誘起電圧が高い状態にあることが分かる。
図6(a)に示すように、同期駆動で安定した駆動状態にあるときは、転流に対して負荷の状態に見合った角度分回転子が遅れ、即ち回転子(誘起電圧)から見ると転流(即ち電圧および電流位相)が進み位相となり所定の関係が保たれる。これは弱め磁束制御と同様の状態であるため高速での駆動が可能となる。
一方、(b)に示すように駆動速度に対して負荷が大きい状態では、(a)と同様に「転流に対して回転子が遅れることで弱め磁束状態になり、転流周期に同期するようになり回転子は加速するが、回転子の加速により電流位相の進み角が減少し回転子が減速する、回転子の減速により転流に対して回転子が遅れることで弱め磁束状態になり、回転子が加
速する・・・」を繰り返し、結局駆動状態(駆動速度)が安定しない。即ち(b)に示す様に、一定周期で行われる転流に対して、ブラシレスDCモータの回転が変動するため、誘起電圧位相を基準としたとき、端子電圧位相が変動することになり、駆動状態が不安定となる。これはオープンループ駆動ゆえに、モータ回転子が同期を外れたとき、その位置を把握できず、誘起電圧に対して端子電圧の位相(即ち転流タイミング)を固定出来ない為である。従って、同期駆動状態において、常に誘起電圧と端子電圧の位相関係を固定することで安定した駆動性能が得ることが出来る。
図7はブラシレスDCモータを同期駆動した時の負荷に対する位相状態を示したグラフである。図7において横軸はモータトルク、縦軸は誘起電圧位相を基準とした位相差を示し、位相が正の場合、誘起電圧位相に対して進みであることを示す。また図7の(イ)はモータ電流、(ロ)はモータ端子電圧の位相であり同期運転での安定状態を示している。電流位相が端子電圧位相より進んでいることから、誘起電圧が高い高速での駆動であることが判る。図7に示す相電流位相と相電圧位相との関係から明確なように、負荷トルクに対して電流位相の変化は非常に少ない。
一方で端子電圧位相は直線的に変化することから、負荷トルクに応じて電流と電圧との位相差はほぼ線形に変化する。ここで先述したように、同期駆動で安定駆動している状態では図6(a)のように誘起電圧、モータ電流、端子電圧の位相が一定の関係を保ち安定している。即ちモータ電流位相と端子電圧位相とが負荷に応じて適切な位相関係でバランスしている。従って、モータ電流位相と電圧位相を負荷に応じて適切な位相関係を常に保持し固定することで従来のモータ駆動装置で発生する、高速高負荷駆動での不安定現象を回避でき、さらなる駆動領域の拡張が出来るといえる。
ここで負荷状態に応じたモータ電流位相と端子電圧位相の位相差安定方法について説明する。図8は本実施の形態における第2転流手段による転流タイミングを示したタイミングチャートである。図8において(イ)はU相電流の基準位相(本実施の形態ではU相電流が負から正極性に変化するゼロクロスポイントとしている)タイミングを示し、(ロ)(ハ)(ニ)はそれぞれU相、V相、W相の上側スイッチング素子状態を示している。なお本タイミングチャートでは120度の矩形波通電としている。図8中のTfrqは転流周期であり、第2転流手段による同期駆動では速度指令手段7による指令速度に基づく一定の周期で転流を繰り返している。
T0からTn+1はモータ相電流の基準位相(本実施の形態ではU相ゼロクロスポイント)から任意の相が転流(本実施の形態ではU相上側スイッチング素子がオン)するまでの経過時間であり、第2転流手段10は常にこの時間を計測している。
TW0からTWn+1はモータ相電流基準位相検出後から任意の相を転流(本実施の形態ではW相下側スイッチング素子3fをオンする)するタイミングである。
ここでこの転流タイミングの決定方法を図9を用いて説明する。図9は本実施の形態におけるモータ駆動装置の第2転流手段10の転流タイミングの決定方法を示したフローチャートである。
まずstep11で電流基準位相から任意の相の転流(本実施の形態では、U相上がオン)までの時間Tnを取得する。step12では取得した時間Tnと過去n個のデータ(T0からTn−1まで)の平均時間Tavとを比較して差分を算出する。step13では演算した差分に基づいて転流タイミングの補正量を算出する。補正量の算出は例えば差分の2分の1とするなど、モータ特性や負荷特性等により最適な補正式等を用いて決定する。step14ではstep13で算出した補正量を基に、同期駆動における転流周
期に補正量を付加して任意の相の転流周期(本実施の形態ではW相上側スイッチング素子3fの通電時間TWn+1)を決定し、step15では今回取得したデータTnを加味して相電流基準位相から任意相の転流周期までの平均時間Tavを更新する。
以上の様に転流タイミングの補正量を決めるため、負荷等が安定しブラシレスDCモータの駆動も安定状態にあるときは、取得データTnと過去n回の平均時間Tavとの差分が非常に小さく、転流タイミングの補正量も非常に小さい値となり殆ど補正されず位相関係は安定することになる。
一方で安定駆動の状態で負荷が増加した場合、前述のように転流周期に対し回転子の回転が遅れ、相電流位相と端子電圧位相との位相差が縮まり、図8における時間Tnが短くなる。従ってTavに対しTnが小さくなりTavとTnとの差分が増える。このとき転流周期を回転子の回転を近づける(即ち、相電流位相と端子電圧位相を常に一定に保つように)、本実施の形態ではW相の転流周期を遅らせる方向にTavとTnとの差分に基づく補正量を付加する。尚、このとき他の相の転流は補正を行わず、指令速度に基づく転流を繰り返す。これは相電流基準位相から特定相の転流までの時間(以降代表の時間としてTmとして説明する)を平均時間Tavに近づけるように動作することになる。
従って負荷が増大して、回転子が転流に対し遅れ始めることで相電流位相と端子電圧との位相差が少なくなり、Tmが短くなる。これにより転流タイミングの補正量の基準となるTavも徐々に短くなることで、TmとTavがバランスし負荷状態に応じた相電流位相と端子電圧位相の関係を保ち、適切な電流および電圧進角を得ることで駆動状態が安定する。
なお負荷が軽減された場合は、TavとTnとの差分が負荷増加時と逆符号で増えることになり、転流タイミングの補正も逆符号の方向で行うことになるが、負荷増加時の動作と同様である。
このように負荷状態に応じて、モータ相電流と端子電圧の位相関係を保持するように転流タイミングを補正することで、モータ誘起電圧(即ちモータ回転)位相と相電流位相、端子電圧位相を適切な関係で保つことができ、結果としてブラシレスDCモータの高速高負荷駆動の安定性を向上でき、高負荷高速駆動性能を拡張することが可能となった。
以上の様にPWMデューティが100%以下となるような比較的低速低負荷状態でブラシレスDCモータを駆動する際は、第1転流手段6で、回転子相対位置に基づく速度制御をPWMフィードバック制御で行うことで高効率駆動を実現し、比較的高速・高負荷によりPWMデューティが100%となり第1転流手段では目標速度で駆動出来ない負荷状態では、第2転流手段による相電流・端子電圧位相を負荷状態に合わせた位相関係を保持する駆動制御で高トルク駆動を実現し、従来のモータ駆動装置よりさらに駆動領域の拡張し、外乱等に影響を受けにくい安定した高速高負荷駆動性能を実現している。
また、モータ相電流の位相検出は1相のみで行っているが、2相あるいは3相全ての位相情報を取得して転流タイミング補正を行えば、より感度の良い補正制御も可能である。
しかし、本実施の形態では1相のみで行うことで、モータ駆動装置のコストパフォーマンスを向上している。
次に負荷判定手段11の位相差判定部の動作について説明する。
第2転流手段での駆動は、ブラシレスDCモータの負荷状態によらず、PWMデューティ一定の同期駆動を行う。従って高負荷状態下で第2波形発生部により駆動している状態か
ら負荷状態が低下し、第1転流手段6での駆動が可能な負荷状態となったとき、過剰な電圧の印加によってブラシレスDCモータの回転子が目標回転数より高速で駆動しようとする。
この状態でも同期駆動は、常に目標速度に基づく一定速度で転流を行うため、速度を押さえ込みながらの、いわばブレーキをかけながらの駆動となる。この時、ブラシレスDCモータの電流は大きくなる一方で、モータトルクは極端に低下してしまう。
この様な状態を回避するために、本発明の実施の形態では第2転流手段10による駆動時において、負荷状態を確認することで第1転流手段での駆動が可能な負荷状態となったとき、速やかに第1転流手段6での駆動に移行するようにしている。
図10はブラシレスDCモータ駆動時の位置検出手段5の電圧検出部5aの出力信号タイミング図である。図10の(イ)はU相端子電圧波形、(ロ)は位置検出手段5の電圧検出部5aの出力信号、(ハ)はU相上ドライブ信号である。なお図10はU相の各信号を示しているが、V相、W相であっても±120度の位相ズレはあるものの同様の波形であることは言うまでもない。
先述したように、第2転流手段による同期駆動では駆動状態に応じた電流および電圧進角で安定する。従って図10(イ)に示す端子電圧に現れる誘起電圧のゼロクロスポイントの位置が進角状態(即ち駆動状態)により、ドライブ信号の位相に対し変化する。またこれにより位置検出部の出力信号(ロ)の位相も変化することになる。
具体的には図10(ロ)に示すように電圧進角が大きくなれば、電圧検出部5aの出力信号は右方向にシフトしドライブ信号との位相差が大きくなり、120度通電の場合進角30度以上となったとき最大位相差30度一定となる。また進角が小さくなれば、電圧検出部は左方向にシフトしドライブ信号との位相差が小さくなり、位相差がゼロとなった後もさらに負荷が低下したとき、誘起電圧に対して遅れ位相となり、最終的に30度の遅れ位相となる。
つまり誘起電圧に対してドライブ信号の位相差が−30℃から+30℃までの範囲では誘起電圧のゼロクロスを検出が可能(ただしスパイク電圧が発生している場合は、スパイク電圧を差し引いた区間内となる)であり、また位相差が+30度以下であれば第1転流手段での駆動が可能な負荷状態である。従って、位置検出手段の電圧検出部の信号とドライブ信号との位相差負荷状態を判断することで、第1転流手段による駆動が可能か動かを判断でき、的確に第1転流手段による駆動に移行することが可能となる。
本実施の形態では、上記電圧検出部の信号とドライブ信号との位相差の検出は、電圧検出部の信号およびドライブ信号が変化するタイミング(図10においては電圧検出部の出力がLからHに変化するタイミングとU相上側ドライブ信号がH(オン)となるタイミング)差を用いている。
図10のφはドライブ信号のオンタイミングと電圧検出部5aの出力信号の立ち上がりエッジとの時間差を示しており、これは両信号の位相差情報が含まれている。例えば120度通電の場合、電圧検出部5a出力の立ち上がりエッジから転流までが20度であれば位相差は10度となる。
負荷が大きく、第1波形発生部での駆動が出来ない場合は、ドライブ信号(即ち転流タイミング)に対して、ブラシレスDCモータの回転が遅れ(誘起電圧位相を基準とすると、端子電圧が誘起電圧に対し進み位相となり、弱め磁束状態となる)、電圧検出部5a立ち上がりと、ドライブ信号の立ち上がりエッジが近づく(即ちφが0に近づき、で電圧検
出部の出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差が大きくなる)。
さらに負荷が増大し、120度通電の場合では、誘起電圧に対し30度以上の進角を有すると、誘起電圧のゼロクロスが端子電圧に埋もれてしまい、ドライブ信号の立上がりエッジと電圧検出部5aの立ち上がりエッジは同時(即ちφ=0となり、電圧検出部の出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差は30度で一定)となる。この様な負荷状態では誘起電圧のゼロクロスを検出しながらの第1転流手段による駆動は当然出来ないため、第1転流手段での駆動限界を超えた負荷状態であり、第2転流手段による駆動を行う。
次に負荷が大きく第2転流手段による駆動を行っているとき、負荷が低下してきた場合について説明する。
先述のように第1波形発生部で駆動できない高負荷状態での第2転流手段10による駆動では、120度通電では30度以上の進角状態となっている。ここで負荷が軽減したとき、進角も減少し、進角状態が30度未満になったときブラシレスDCモータの誘起電圧ゼロクロスポイントが端子電圧に現れ、第1転流手段6での駆動が可能な負荷状態となる。図10で説明すると、位置検出手段5の電圧検出部5a出力は誘起電圧ゼロクロスを境に出力が反転する。その反転タイミングは、U相上ドライブ信号のオンタイミングとタイミング差が発生(φ≠0)し、軽負荷ほど進角が小さくなるのでφは大きくなる(即ち電圧検出部出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差が0に近づく)。
つまり電圧検出部5a出力の変化タイミングと転流タイミングとのタイミング差から、電圧検出部出力と第2転流手段によるドライブ信号との位相差を監視でき、第1転流手段で駆動可能な負荷状態か否かを検出することが容易に出来る。本実施の形態では、電圧検出部5aの出力変化タイミングと転流タイミングとの差φが所定の差φmaxより大きくなったとき、第2波形発生部による駆動から第1波形発生部での駆動に移行するようにしている。尚、φmaxの値は第1波形発生部での駆動において設定している進角値等、任意に設定した値で構わない。
次にピーク変化量検出手段15について、図11を用いて説明する図11は第2転流手段による転流時のU相のモータ電流波形の模式図であり、(a)は第2転流手段による運転が適正に行われているときの波形で、(b)は電流移送検出手段9が故障したときなどで過負荷条件でモータが駆動しているときの波形である。
T2において、電流ピークの最大値はT1で設定された値となっている。T2の電流ピークの値はT1よりも小さい為、今まで保持していた電流ピークの最小値がクリアされ、T2の値が最小値として設定され、変化量はT1との差であるD1となる。
時刻T3まで、電流は減少し続け、最小値も更新し続ける。T3で検出した値が最小値であるため、変化量はT1との差であるD2となる。T4では電流ピークが増加している為、電流ピークの最大値が一旦クリアされ、電流ピークの最大値はT4の値となり、変化量はT3のピーク値との差であるD3となる。
T5まで、電流ピークが増加する為、電流ピークの最大値も更新され続け、T5とT3の電流ピークの差が変化量となる。そして、T6ではT2と同様に最小値がクリアされる。
次に、ピーク変動周波数検出手段17について、図11を用いて説明する。T2からT3までは電流ピークが減少しているため、周波数の測定は行われない。T4では電流ピークが増加している為、周波数の測定が始まり、増加した回数がカウントされる。T5まで
電流ピークの増加の回数がカウントされ、9回となる。次のT6では電流ピークが減少しているため、カウントされず、周波数の計算が行われる。このとき、速度指令手段7の指令によって、電流周期が分かっている。電流周期が45Hzであれば、変動周期は電流周期の45Hz割る電流ピーク連続増加回数9回で5Hzとなる。
次に、保護手段19の動作について図12を用いて説明する。図12は保護手段19の動作を示したフローチャートである。
まず、step21において第2転流手段10が補正を含めた転流タイミングの決定が完了してるかどうかを判定する。完了していればstep22へ移行し、完了していなければ保護処理を抜ける。ここでは、第2転流手段10の転流タイミングの決定が完了したとして、step22に移行する。
次に、step22で、ピーク変化量判定手段16の出力が所定変化量を超えているとなっていればstep23へ移行し、そうでなければ保護処理を抜ける。ここでは、ピーク変動周波数判定手段18の出力が所定変化量を超えているとして、step23に移行する。
次に、step23では、ピーク変動周波数判定手段18の判定結果がピーク変動周波数が第一の閾値周波数から第二の閾値周波数の間であるとき、step24に移行し、相でなければ保護処理を抜ける。ここでは、ピーク変動周波数判定手段18の判定結果がピーク変動周波数が第一の閾値周波数から第二の閾値周波数の間であるとして、step24に移行する。
step24では転流周期を第2転流手段の電圧出力を遅延するよう変更を行い速度を遅くすることで、出力を低下させ安全な運転状態へと移行する。そして、保護処理を抜ける。
step21〜step24の処理を転流タイミングが決定されてから転流が実際に行われるまでの間に実施することで、電流位相検出手段9の故障があっても、電流の乱れが発生しない安定な状態まで出力を低下させることができる。
次に、ブラシレスDCモータ4の構造について説明を行う。
図13は、本発明の実施の形態1によるブラシレスDCモータの回転子の構造図である。
回転子コア4aは、0.35mmから0.5mm程度の薄い珪素鋼板を打ち抜いたものを、積み重ねたものである。4枚のマグネット4b〜4eは、逆円弧状に回転子コア4aに埋め込まれている。このマグネットは通常フェライト系がよく用いられるが、ネオジムなどの希土類の磁石が使われる場合は平板構造のものが使われることもある。
このような構造の回転子において、回転子中央からマグネットの中央に向かう軸をd軸、回転子中央からマグネットの間に向かう軸をq軸とすると、それぞれの軸方向のインダクタンスLd、Lqは逆突極性を有し、異なるものとなる。つまりこれは、モータとしては、マグネットの磁束によるトルク(マグネットトルク)以外に、逆突極性を利用したトルク(リラクタンストルク)を有効に使えることとなる。したがってモータとして、よりトルクが有効的に利用できるになる。この結果、モータとしては高効率なモータとなる。
また、本実施の形態の制御を使用すると、第2転流手段10による駆動を行っていると
き、電流は進み位相で運転するので、このリラクタンストルクが大きく利用されるようになるので、逆突極性がないモータに比べてより高回転数まで運転することができる。
ブラシレスDCモータ4が、回転子4aの鉄心に永久磁石4b〜4eを埋め込んでなる回転子であり、かつ逆突極性を有するものであり、永久磁石のマグネットトルクの他にリラクタンストルクを使うことにより、低速時の効率アップは当然のこと、高速駆動性能をさらに上げることになる。
また永久磁石にネオジムなどの希土類磁石を採用してマグネットトルクの割合を多くしたり、インダクタンスLd、Lqの差を大きくしてリラクタンストルクの割合を多くしたりすると、最適な通電角を変えることにより効率を上げることができる。
またブラシレスDCモータを低速での低負荷から高速での高負荷まで非常に広い範囲で使用することを要求される用途においては、例えば駆動における大半を占める負荷が低負荷から中負荷であれば、最も使用頻度の高い速度および負荷近辺でデューティ100%で第1転流手段による駆動が出来るトルク設計のブラシレスDCモータを用いれば、さらなる高効率化が可能となる。
以上のように、本実施においては、永久磁石を有する回転子と3相巻線を有する固定子とからなるブラシレスDCモータ4と、直流電圧を交流電圧に変換しブラシレスDCモータ4に電力を供給するインバータ3と、ブラシレスDCモータ4に流れる電流の位相を検出し、ブラシレスDCモータ4の巻線に流れる電流の位相と電圧の位相とが所定の位相関係を保持するように、ブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切換える様に駆動し、ブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切り換えることで、ブラシレスDCモータ4の電流位相と電圧位相の間で保持する所定の位相関係を変更するとしたものである。これによりブラシレスDCモータ4の回転子位置を検出しない駆動でも、常にモータ電流位相と電圧位相との関係が安定し、負荷が過大なっても脱調や過電流に至らない進角と速度で駆動しつづけることなるため、ブラシレスDCモータ4の駆動領域を拡張することが出来る。
以上のように、本実施においては、永久磁石を有する回転子と3相巻線を有する固定子とからなるブラシレスDCモータ4と、直流電圧を交流電圧に変換しブラシレスDCモータ4に電力を供給するインバータ3と、ブラシレスDCモータ4に流れる電流の位相を検出し、ブラシレスDCモータ4の巻線に流れる電流の位相と電圧の位相とが所定の位相関係を保持するように、ブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切換える様に駆動し、電流検出手段8がブラシレスDCモータ4に流れる電流値からピーク検出手段14がブラシレスDCモータ4に流れる電流一周期のピークを検出し、その検出結果からピーク変化量検出手段15によって検出される変化量が、所定変化量を超えるとピーク変化量判定手段により判定された時に保護動作を行うとしたものである。これによりブラシレスDCモータの回転子位置を検出しない駆動でも、常にモータ電流位相と電圧位相との関係が安定し、負荷が過大なっても脱調や過電流に至らない進角と速度で駆動しつづけることなるため、ブラシレスDCモータの駆動領域を拡張することが出来る。
更に、位相を検出する部分が故障し、電流が乱れたとしても、確実に検出を行える為、信頼性を高めることができる。
また、電流位相の検出は任意の1相であるU相のみとしたことにより、通常、モータ電流から回転子位置の推定をおこなうフィードバック制御では3相の各電流を分離するため最低2相の電流を検出する必要があるが、任意の1相の基準位相を検出し、電圧位相との位相関係に基づいて制御を行うことで高負荷高速での安定駆動が可能となるため、モータ駆動装置の小型化と低コスト化が図れる。
また、電流位相の検出は、ゼロクロスポイントを検出するようにしたことにより、電流位相を非常に簡単な方法で確実に検出できるため、モータ駆動装置の簡素化と、簡素化にともなう低コスト化と信頼性の向上を図ることが出来る。
また、ブラシレスDCモータ4のゼロクロスポイントの検出を電流値でおこなうとしたことにより、回路を共通化することとなり、部品数削減によるさらなる低コスト化と信頼性の向上が可能となる。
また、保護手段19が記保護動作を行う条件が、ピーク変動周波数検出手段17が検出した電流値のピークの変動周波数が第一の閾値周波数以下であり、なおかつブラシレスDCモータ4に流れる電流値の変化量をピーク変化量判定手段が所定変化量を超えると判定した時としたことにより、ノイズなどによる誤検出に強くなる為、適切な保護動作を行うことで駆動範囲を広く確保する事ができる。
また、ピーク変動周波数検出手段17が運転周波数よりも遅く設定する第一の閾値周波数を、ブラシレスDCモータ4の電流周波数をブラシレスDCモータの極対数で割って得られた商よりも小さく設定するとしたことにより、ブラシレスDCモータ4が駆動する機械の速度よりも遅い周波数の変化を捉え、前記機械に1回転ごとに周期的なトルク変動が発生する場合であっても、誤検出することなく不安定な運転状態を検出できる。
また、ピーク変動周波数検出手段17が第一の閾値周波数よりも遅い第二の閾値周波数を設定し、第二の閾値周波数より速いブラシレスDCモータ4の電流ピークの変化を検出するとしたことにより、不安定現象に大きく関与しない、非常に遅い変動周波数を検出することがなくなるため、ブラシレスDCモータ4が駆動する対象に影響を与えないような変動を無視することができ、安定した駆動を実現できる。
また、永久磁石を有する回転子と3相巻線を有する固定子とからなるブラシレスDCモータ4と、直流電圧を交流電圧に変換し前記ブラシレスDCモータに電力を供給するインバータ3と、ブラシレスDCモータ4の回転子相対位置を検出する位置検出手段5と、位置検出手段5の信号をもとにブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切換える信号を生成する第1転流手段6と、ブラシレスDCモータ4に流れる電流の位相を検出する電流位相検出手段9と、電流位相検出手段9で検出した電流位相を基に、ブラシレスDCモータ4に通電する巻線を切換える信号を生成する第2転流手段10と、ブラシレスDCモータ4の負荷の状態を判定する負荷判定手段11と、負荷判定手段11によりインバータ3から出力する波形のドライブ信号源を第1転流手段6もしくは第2転流手段10のいずれかに切り換える切換手段20と、ブラシレスDCモータ4の少なくとも1相に流れる電流の値を検出する電流検出手段8と、電流検出手段8により検出された電流値によって保護動作を行う保護手段19を有したことによりブラシレスDCモータ4の負荷状態応じて転流手段を切換えることが出来るので、負荷が大きく高負荷・高速回転での駆動が必要な場合は高トルク運転、負荷が小さい場合は高効率運転による省エネ駆動が可能となる。
さらにブラシレスDCモータ4の固定子巻線に流れる電流の位相を基準としてブラシレスDCモータ4に印加する電圧の位相を決めるので、ブラシレスDCモータ4の電流位相と電圧位相との関係が安定し、第2転流手段10による駆動安定性が向上することで、ブラシレスDCモータ4の駆動可能な負荷領域および速度領域を大幅に拡張することができる。
さらに、モータの電流値に応じてブラシレスDCモータ4に印加する電圧のタイミングを更に補正を行い、ブラシレスDCモータ4の脱調限界や過電流となる負荷に到達する前
に、負荷を軽減し、継続してシステムを駆動することができるため、ブラシレスDCモータ4で駆動する必要最低限の動作が可能な安定したシステムを提供することができる。
また、保護手段19は電流検出手段8によって検出された電流値が第1電流所定値以上になったときに電流値が第2電流所定値以下になるまで、電流位相が大きくなるように第2転流手段10による巻線切換えを補正するとしたことにより、単純な構成でブラシレスDCモータ4に流れる電流を抑制することとなり、安価な構成で信頼性の高いシステムを提供することが可能となる。
また、電流位相検出手段9は電流検出手段8で検出したブラシレスDCモータ4に流れる電流からブラシレスDCモータ4の相電流の位相を検出するものとしたことにより、ブラシレスDCモータ4の電流位相を容易かつ確実に取得できることになり、モータ駆動装置の簡略化が図れる。
第1転流手段6が生成する信号のデューティが最大になったことを判定するデューティ判定部12を有し、第1転流手段6が生成する信号のデューティが最大になった時、インバータ3のドライブ信号源を、第1転流手段6から前記第2転流手段10に切換えるとしたことにより、低負荷時は第1転流手段6による駆動においてPWMデューティが最大となる負荷が大きい状態に至ったとき第2転流手段10による駆動に切換えることが可能なるので、ブラシレスDCモータ4の駆動可能な負荷領域を拡張できる。
また、位置検出手段5の信号と第2転流手段10の信号との位相差を検出する位相差判定部13を有し、位相差が所定値より小さくなくなったときに、第2転流手段10から第1転流手段6にインバータの3のドライブ信号源を切り換えることにより、第2転流手段10での駆動状態にあるとき、負荷が減少して第1転流手段6で駆動が可能な負荷状態であること的確に認識することができるので、ブラシレスDCモータ4を第1転流手段6で高効率運転をおこなう頻度を上げることになり、モータ駆動装置の戦力消費を低減することができる。
また、ブラシレスDCモータ4は回転子の鉄心に永久磁石を埋め込んでなる回転子であり、かつ突極性を有する回転子としたことによりブラシレスDCモータ4の駆動において、永久磁石によるマグネットトルクとともに、突極性によるリラクタンストルクも有効に利用できるようになるため、低速時の高効率駆動とともに、高効率の高速駆動性能も更に伸張することが可能となる。
また、ブラシレスDCモータの駆動負荷として圧縮機を用いることで、工業用サーボモータ制御等の様に、高精度な回転数制御や加速制御などは圧縮機の駆動制御では必要無く、さらに圧縮機はイナーシャが比較的大きい負荷であり、特に往復運動を行うレシプロタイプは、構造上回転子には、金属性で重量の大きいクランクシャフトやピストンが接続されているため、イナーシャが非常に大きく、短い時間での速度の変動は非常に少ない負荷といえるため、電流位相の検出を1相のみとしても速度変動等の制御精度が悪化することは無いため、本発明のモータ駆動装置の非常に有効な用途のひとつと言える。
また従来のモータ駆動装置よりブラシレスDCモータの駆動領域の拡張により、従来のモータ駆動装置と同じ圧縮機を用いた場合でも、冷凍能力を高めることが出来るので、高能力の冷凍サイクルの小型化と低価格化を実現できる。さらに、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルに、本発明のモータ駆動装置を置き換えれば、より高効率なモータを用いた圧縮機を使用することが出来る様になり、冷凍サイクルのさらなる高効率化が実現できる。
また、本実施の形態のモータ駆動装置で駆動されるモータを備えた圧縮機とすることにより圧縮機の駆動可能な負荷範囲と速度範囲を拡張でき、負荷が低い場合は低速駆動では高効率運転、負荷が大きい場合は高速駆動による高冷凍能力運転が可能な圧縮機が提供できる。
(実施の形態2)
図14は本発明の実施の形態2のモータ駆動装置を用いた冷蔵庫を示すブロック図である。図14において図1と同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
ブラシレスDCモータ4は圧縮要素22に接続され圧縮機23を形成している。本実施の形態では圧縮機は冷凍サイクルに用い、圧縮機から吐出する高温高圧の冷媒を凝縮器24に送り液化し、毛細管25で低圧化し、蒸発器26で蒸発させ、再度圧縮機に戻すようにしている。さらに本実施の形態では、モータ駆動装置27を用いた冷凍サイクルを冷蔵庫28に用いており、蒸発器26は冷蔵庫28の庫内29を冷却するようにしている。
このように本実施の形態2ではブラシレスDCモータは冷凍空調サイクルの圧縮機の圧縮機構部を駆動するものとしている。たとえば特に往復運動式(レシプロタイプ)の圧縮機はその構成上、ブラシレスDCモータに質量の大きな金属製のクランクシャフトおよびピストンが接続されており、非常にイナーシャの大きい負荷である。このため短時間における速度の変動は、高速駆動ほど圧縮機の工程(吸入工程、圧縮工程など)によらず非常に少ない。従って、任意の1相のみの電流位相を元にして転流タイミングを決定しても速度変動が大きくなることもなく安定した駆動性能を得ることが出来る。さらに圧縮機の制御では高精度な回転数制御や加減速制御などは要求されないことから、本発明のモータ駆動装置は、圧縮機の駆動に対し非常に有効な用途のひとつと言える。
また、従来のモータ駆動装置で圧縮機を駆動する時よりも、駆動領域を拡張することが出来るため、より高速駆動することで冷凍サイクルの冷凍能力を上げることが出来る。これにより従来と同一の冷却システムであっても、より高い冷凍能力が必要なシステムに適用することが可能となる。即ち、高い冷凍能力が必要な冷凍サイクルを小型化でき、低コストで提供することができる。
また、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルから、冷凍能力が1ランク小さい(たとえば圧縮機気筒容積が小さい)圧縮機を用いても、本発明の実施の形態のモータ駆動装置を用いて圧縮機を高速回転することで、必要な冷凍能力を確保することが可能となり、さらに冷却サイクルの小型化・低コスト化が実現出来る。
本実施の形態では圧縮機は冷蔵庫の庫内を冷却するために用いているために、冷蔵庫はその製品の特徴上、朝夕の限られた時間帯のみ扉開閉頻度が高く、その他の時間帯は庫内が冷却安定状態で、非常に低負荷状態でブラシレスDCモータは駆動している。従って冷蔵庫の消費電力の削減はブラシレスDCモータの低速低出力時の駆動での効率向上が有効である。本発明ではブラシレスDCモータの高速高負荷効率を大きく拡張できるため、固定子の巻線数を増やして高効率化のためモータトルク(高速回転性能)を犠牲にしたブラシレスDCモータを使用した圧縮機の高負荷・高速駆動性能を向上して冷蔵庫に必要な最大冷凍能力を確保している。これにより1日の大半を占める低負荷領域での高効率化による消費電力を更に削減できる。
なお、具体的なモータ巻線の設計として、冷蔵庫として一番使用頻度の高い回転数および負荷状態(たとえば40Hzの回転数で圧縮機入力電力が80W程度)での駆動を行う時、第1転流手段6によって、120度から150度の通電角でデューティ100%となるような仕様とすれば、ブラシレスDCモータの鉄損の低減とインバータ3のスイッチン
グ損失の低減できるので、回路効率も最高効率を引き出すことができる。従って、冷蔵庫としての消費電力を最小限にすることが可能である。
また本発明のモータ駆動装置で圧縮機の高速高負荷駆動領域を拡張できるので、冷凍サイクルの冷凍能力を上げることとなり、冷蔵庫の扉開閉が頻繁に行われた場合や霜取り後、或いは設置直後といった庫内温度が高い高負荷の状態、さらには熱い食品を庫内に投入し、その食品を急速に冷却(凍結)させたい場合などに行う『急速冷凍』などにおいて、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルの冷蔵庫より、庫内や食品を短時間で冷却することも出来る。
さらに冷凍サイクルの冷凍能力向上は、コンパクトな冷凍サイクルでも冷蔵庫の大容量化に対応できることとなり、冷蔵庫の低コスト化の実現と、コンパクトな冷凍サイクル採用に伴い庫内容積効率(冷蔵庫体積に対する食品収納部容積の占める割合)も向上することができる。