第1の発明は、回転子と、3相巻線を有する固定子とからなるブラシレスDCモータを駆動するモータ駆動装置であって、前記3相巻線に電力を供給するインバータと、前記ブラシレスDCモータに流れる電流を取得する電流検出部と、通電角が120度以上の波形である第1の波形信号を出力する第1波形発生部と、周波数のみを変化させて設定する周波数設定部と、前記電流検出部で検出された電流値が前記ブラシレスDCモータの駆動している速度とは異なる周期での変化を検出し結果によって通電角を前記ブラシレスDCモータの相電流の位相と端子電圧の位相差が負荷に対して変化するように120度以上180度未満の間で変更する通電角決定部と、前記電流検出部が取得した前記電流の位相と所定の関係を有する波形で、かつ、前記周波数設定部で設定した周波数で通電角決定部によって決定された通電角の波形である第2の波形信号を出力する第2波形発生部と、前記ブラシレスDCモータの運転状態に応じて前記第1の波形信号と前記第2の波形信号を切り換えて出力する切換判定部と、前記切換判定部から出力された第1または第2の波形信号に基づき、前記インバータが前記3相巻線に供給する電力の供給タイミングを指示するドライブ信号を、前記インバータに出力するドライブ部とを有することにより、電流状態に応じた通電角の変更を行うこととなり、電流と印可電圧の位相差の補正による制御可能な
範囲を拡張し、更に多様なモータやモータ出力に対応することができる。
第2の発明は、特に第1の発明の通電角決定部が、前記電流検出部で取得した電流値の駆動速度とは異なる周期での変化の最小値と最大値の差に閾値を設けて前記閾値を超えた場合に通電角を狭めることにより、電流が乱れた際に位相差を基準とした補正の安定制御可能範囲を拡張することとなり、容易に安定した電流と印可電圧位相の差による補正制御が可能となる。
第3の発明は、特に第1の発明または第2の発明に、前記第2波形発生部が前記電流位相と前記第2の波形信号の位相差を検出し、前記所定の関係を前記位相差の平均とと前記位相差の差分が所定の差に収まっているとしたことにより、平均という単純な計算により安定した駆動が可能となり、単純なアルゴリズムによる保守性や簡潔性の向上によりソフトウェア品質を向上させつつコストダウンが容易となる。
第4の発明は、特に第1〜第3の発明のブラシレスDCモータの運転状態をモータの速度とし、前記切換判定部が、前記回転子の速度が所定速度より低い場合は前記第1の波形信号を出力し、前記回転子の速度が所定の速度より高い場合は前記第2の波形信号を出力するよう切り換えるとしたことにより、必要な負荷に応じて適切な駆動方を選ぶこととなり、運転状態に応じて効率重視の運転と出力重視の運転を切り換えることができる。
第5の発明は、特に第1〜第4の発明のブラシレスDCモータの回転子を、鉄心に永久磁石を埋め込んで構成し、さらに、突極性を有するとしたことにより、ブラシレスDCモータの駆動において、永久磁石によるマグネットトルクとともに、突極性によるリラクタンストルクも有効に利用できるようになるため、低速時の高効率駆動とともに、高効率の高速駆動性能も更に伸張することが可能となる。
第6の発明は、特に第1〜第5の発明のブラシレスDCモータが圧縮機を駆動するとしたことにより、圧縮機はイナーシャが比較的大きい負荷であることにより、サーボモータのような高い制御精度が必要とされず、モータの駆動周期よりも位相差の変動周期が遅い駆動となるため、補正の回数を間引いて運転することが可能となり、より演算速度が遅く安価な制御装置でモータ駆動装置を提供できる。また、従来のモータ駆動装置と同じ圧縮機を用いた場合でも、冷凍能力を高めることが出来るので、高能力の冷凍サイクルの小型化と低価格化を実現できる。さらに、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルに、本発明のモータ駆動装置を置き換えれば、より高効率なモータを用いることができる。
第7の発明は、特に第6の発明の圧縮機をレシプロ圧縮機としたことにより、構造上回転子には、金属性で重量の大きいクランクシャフトやピストンが接続されているため、イナーシャが非常に大きく、高速では短い時間での速度の変動は非常に少ない負荷を駆動することとなるため、電流と印可電圧の位相差の変化が少ないこととなり、低速ではトルク脈動に応じた高効率な運転を行い、高速では安定した駆動により高い冷凍能力を出力できる。
第8の発明は、特に第6の発明または第7の発明の圧縮機で使用する冷媒をR600aとしたことにより、冷凍能力を得るために気筒容積を大きくし、イナーシャが大きくなり、さらに速度や負荷によって変動しにくい安定した駆動が可能となる。
第9の発明は、特に第1〜第8の発明のモータ駆動装置により駆動されるブラシレスDCモータを備えた電気機器としたことにより、電気機器として冷蔵庫に用いた場合は、負荷変動は急ではないため、より安定した駆動が可能となる。さらに、安定時には高効率運転を行い、急冷時には高速駆動により冷凍能力を向上させることができる。また、電気機器として空気調和機に用いた場合は、冷房時の最低負荷から暖房時の最大負荷まで幅広い駆動範囲に対応できるとともに、特に定格以下の低負荷での消費電力を低減することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるモータ駆動装置のブロック図である。図1において、交流電源1は一般的な商用電源で、日本においては実効値100Vの50または60Hzの電源である。モータ駆動装置22は、交流電源1に接続され、ブラシレスDCモータ4を駆動する。以下、モータ駆動装置22について説明する。
整流平滑回路2は、交流電源1を入力として交流電力を直流電力に整流平滑するものであり、ブリッジ接続された4個の整流ダイオード2a〜2dと、平滑コンデンサ2e、2fとから構成される。本実施の形態においては、整流平滑回路2は倍電圧整流回路により構成されているが、整流平滑回路2は全波整流回路により構成されても良い。さらに、本実施の形態においては、交流電源1は単相交流電源であるが、交流電源1が3相交流電源である場合は、整流平滑回路2は3相整流平滑回路によって構成される。
インバータ3は、整流平滑回路2からの直流電力を交流電力に変換する。インバータ3は、6個のスイッチング素子3a〜3fを3相ブリッジ接続して構成される。また、6個の還流電流用ダイオード3g〜3lは、各スイッチング素子3a〜3fに、逆方向に接続される。
ブラシレスDCモータ4は、永久磁石を有する回転子4aと、3相巻線を有する固定子4bとから構成される。ブラシレスDCモータ4は、インバータ3により作られた3相交流電流が固定子4bの3相巻線に流れることにより、回転子4aを回転させる。
端子電圧取得部5は、本実施の形態においてはブラシレスDCモータ4の端子電圧を取得する。つまり、ブラシレスDCモータ4の回転子4aの磁極相対位置を検出する。具体的には、端子電圧取得部5は、固定子4bの3相巻線に発生する誘起電圧に基づいて、回転子4aの相対的な回転位置を検出している。なお、別な位置検出方法としては、モータ電流(相電流または母線電流)の検出結果に対してベクトル演算を行って磁極位置の推定を行う方法が挙げられる。
また、端子電圧取得部5は、例えば、インバータ3の端子電圧を取得することにより、ブラシレスDCモータ4の相電流の電流ゼロクロスを検出する。具体的には、端子電圧取得部5は、インバータ3の還流電流用ダイオード(例えばダイオード3h)に流れる電流の有無、つまり、電流の流れが正から負、または負から正に切り換わる点、すなわちゼロクロスポイントを検出する。端子電圧取得部5は、このゼロクロスポイントをブラシレスDCモータ4の相電流のゼロクロスポイントとして検出する。このように、端子電圧取得部5は、ブラシレスDCモータ4の磁極位置と相電流のゼロクロスポイントを検出する。
第1波形発生部6は、インバータ3のスイッチング素子3a〜3fを駆動するための第1の波形信号を生成する。第1の波形信号は、通電角が120度以上150度以下の矩形波の信号である。3相巻線を有するブラシレスDCモータ4を滑らかに駆動させるためには、通電角は120度以上が必要である。一方、端子電圧取得部5が、誘起電圧に基づいて位置を検出するためには、スイッチング素子のオンからオンの間隔として30度以上の間隔が必要である。このため、通電角は、180度から30度を減じた150度を上限とする。なお、第1の波形信号は、矩形波以外であっても、矩形波に準じる波形が挙げられる。例えば、波形の立ち上り/立ち下りに傾斜を持たせた台形波である。
第1波形発生部6は、端子電圧取得部5により検出された回転子4aの位置情報を基に、第1の波形信号を生成する。第1波形発生部6はさらに、回転数を一定に保つために、パルス幅変調(PWM)デューティ制御を行っている。これにより、回転位置に基づいた最適なデューティで、効率良く、ブラシレスDCモータ4が駆動される。
電流検出部7では、ブラシレスDCモータ4に流れる電流を検出し、その電流値と電流位相を検出する。電流1周期の中で少なくとも1度は基準となる電流位相を検出する。本実施の形態では、U相の電流が負から0になったときを電流位相の0度として検出する。これは、電流値が負かどうかを判定し、電流値が0以上になったかどうかで判定が可能となるので、ハードウェアでの検出であっても、ソフトウェアでの検出であっても非常に簡単な構成で実現できる。
通電角変更部8では、電流検出部7で検出した電流値の1周期のピークを検出し、そのピークの変化を検出し、この変化によって周波数設定部9で設定する周波数の通電角を決定し出力する。具体的には、過去1秒間の間に現れた1周期の電流ピーク値の最大と最小の差をピーク値変動として検出する。さらに、過去1秒間におけるブラシレスDCモータ4の1回転中に現れる電流1周期のピークの最大と最小の差の平均を検出しトルク変動として記録する。ピーク値変動とトルク変動の差分を求めることで、電流ピーク値の変化から回転数成分を除き、電流安定度として記録する。電流安定度に対してあらかじめ定めておいた閾値電流と比較し、電流安定度が閾値電流を超えていた場合に通電角を狭める。
電流の乱れが未発生の場合では、電流ピーク値を検出しながら通電角は基本的に増加させていく。通電角の増加によって、過剰な電圧印加でなければ電流進角が減少し、電流値は減少していくため、通電角増加後に電流ピーク値が増加した場合は、印可電圧過剰の遅れ位相となるため通電角の増加をやめ、1段階通電角を減少させる。通電角増加後に電流値のピーク値の変化が無ければ、最適な電流位相で駆動していることとなるため、通電角を維持する。ただし、一旦、電流乱れが発生した場合は、ブラシレスDCモータ4の駆動速度が変わるまで、通電角を増加させない。また、ドライブ信号のオンより前に誘起電圧0クロスが発生し検出できた場合は、印可電圧過剰として通電角を狭める。
ここで、決定する通電角の幅は、120度以上180度未満の矩形波の信号である。第1波形発生部6と同様に、ブラシレスDCモータ4は3相巻線を有するため、通電角は120度以上が必要である。一方、第2波形発生部10では誘起電圧0クロスを検出する必要が無いため、スイッチング素子のオンからオンの間隔は必要く、上限を180度未満とする。端子電圧取得部5が検出する電流ゼロクロスを利用する場合は、適宜オフ時間が設けられる。例えば、ゼロクロスを検出してから、通電角5度分のオフ時間を設けると良い。
周波数設定部9は、デューティは一定で、周波数のみを変化させて周波数を設定する。
第2波形発生部10は、周波数設定部9からの周波数と、電流検出部7からの電流位相情報を基に、インバータ3のスイッチング素子3a〜3fを駆動するための第2の波形信号を生成する。なお、第2の波形信号は、矩形波に準じる波形であれば良い。例えば、正弦波や歪み波であって良い。また本実施の形態では、デューティは最大もしくは最大に近い状態(90〜100%の一定のデューティ)である。
速度検出部11は、端子電圧取得部5が検出した位置情報に基づき、ブラシレスDCモータ4の速度(すなわち回転速度)を検出する。例えば、一定周期で発生する端子電圧取得部5からの信号を計測することにより、簡単に検出することができる。
切換判定部12は、回転子4aの回転速度が低速か高速かを判定し、ドライブ部13に入力する波形信号を、第1の波形信号か第2の波形信号かに切り換える。具体的には、速度が低い場合は第1の波形信号を選択し、速度が高い場合は第2の波形信号を選択して出力する。ここで、回転速度が低いか高いかの判定は、速度検出部11で検出した実際の速度に基づいて行うことができる。他にも、速度が低いか高いかの判定は、設定回転数やデ
ューティに基づいて行うこともできる。例えば、デューティが最大(一般的には100%)の場合は速度が最高となるため、切換判定部12は、波形信号を第2の波形信号に切り換える。
ドライブ部13は、切換判定部12から出力された波形信号に基づき、インバータ3がブラシレスDCモータ4の3相巻線に供給する電力の供給タイミングを指示するドライブ信号を出力する。具体的にはドライブ信号は、インバータ3のスイッチング素子3a〜3fをオンまたはオフ(以下、オン/オフと記す)する。これにより、固定子4bに最適な交流電力が印加され、回転子4aが回転し、ブラシレスDCモータ4が駆動される。
次に、本実施の形態におけるモータ駆動装置22を用いた電気機器について説明する。電気機器の一例として、冷蔵庫21について説明する。
冷蔵庫21には圧縮機17が搭載されているが、ブラシレスDCモータ4の回転子4aの回転運動は、クランクシャフト(図示せず)により、往復運動に変換される。クランクシャフトに接続されたピストン(図示せず)は、シリンダ(図示せず)内を往復運動することにより、シリンダ内の冷媒を圧縮する。つまり、ブラシレスDCモータ4と、クランクシャフト、ピストン、シリンダにより、圧縮機17が構成される。
圧縮機17の圧縮方式(機構方式)は、ロータリー型やスクロール型など、任意の方式が用いられる。本実施の形態においては、レシプロ型の場合について説明する。レシプロ型の圧縮機17はイナーシャが大きい。このため、圧縮機17のブラシレスDCモータ4を同期駆動する場合は、圧縮機17の駆動が安定する。
圧縮機17に用いる冷媒は、一般にR134a等であるが、本実施の形態においては、冷媒はR600aを用いる。R600aは、R134aと比較して地球温暖化係数は小さいが、冷凍能力が低い。本実施の形態においては、圧縮機17はレシプロ型圧縮機で構成するとともに、冷凍能力を確保するために、気筒容積を大きくしている。気筒容積の大きい圧縮機17は、イナーシャが大きいため、電源電圧が低下した場合であっても、イナーシャによってブラシレスDCモータ4が回転する。これにより、回転速度の変動が少なくなり、より安定した同期駆動が可能となる。しかしながら、気筒容積の大きい圧縮機17は負荷が大きいため、従来のモータ駆動装置では駆動が困難である。本実施の形態におけるモータ駆動装置22は、特に高負荷での駆動範囲が拡張されるため、R600aを用いた圧縮機17を駆動するのに最適である。
圧縮機17で圧縮された冷媒は、凝縮器18、減圧器19、蒸発器20を順に通って、再び圧縮機17に戻るような冷凍サイクルを構成する。この時、凝縮器18では放熱を、蒸発器20では吸熱を行うので、冷却や加熱を行うことができる。この冷凍サイクルを搭載して冷蔵庫21が構成される。ここで、別な電気機器の例としては、凝縮器18や蒸発器20に送風機を備えたものが空気調和機である。
以上のように構成されたモータ駆動装置22について、その動作を説明する。まず、ブラシレスDCモータ4の速度が低い場合(低速時)の動作について説明する。図2は、本実施の形態におけるモータ駆動装置22のタイミング図である。特に図2は、低速時でのインバータ3を駆動させる信号のタイミング図である。インバータ3を駆動させる信号とは、インバータ3のスイッチング素子3a〜3fをオン/オフするために、ドライブ部13から出力されるドライブ信号である。この場合、このドライブ信号は、第1の波形信号に基づいて得られる。第1の波形信号は、端子電圧取得部5の出力に基づき、第1波形発生部6から出力される。
図2において、信号U、V、W、X、Y、Zはそれぞれ、スイッチング素子3a、3c、3e、3b、3d、3fをオン/オフするためのドライブ信号である。波形Iu、Iv、Iwはそれぞれ、固定子4bの巻線のU相、V相、W相の電流の波形である。ここで、低速時の駆動では、端子電圧取得部5の信号に基づいて、120度ごとの区間で順次転流を行う。信号U、V、Wは、PWM制御によるデューティ制御を行っている。また、U相、V相、W相の電流の波形である波形Iu、Iv、Iwは、図2に示す様に、のこぎり波の波形となる。この場合は、端子電圧取得部5の出力に基づいて、最適なタイミングで転流が行なわれている。このため、ブラシレスDCモータ4は最も効率良く駆動される。
次に、最適な通電角について、図3を用いて説明する。図3は、本実施の形態におけるモータ駆動装置22の、最適な通電角を説明する図である。特に図3は、低速時の通電角と効率との関係を示す。図3において、線Aは回路効率、線Bはモータ効率、線Cは総合効率(回路効率Aとモータ効率Bとの積)を示す。図3に示すように、通電角を120度より大きくすると、モータ効率Bは向上する。これは、通電角が広がることにより、モータの相電流の実効値が下がり(すなわち力率が上がり)、モータの銅損減少に伴いモータ効率Bが上がるためである。しかしながら、通電角を120度より大きくすると、スイッチング回数が増加し、スイッチングロスが増加する場合がある。このような場合は、回路効率Aは低下する。この回路効率Aとモータ効率Bとの関係から、総合効率Cが最も良くなる通電角が存在する。本実施の形態では、130度が、総合効率Cが最も良くなる通電角である。
次に、ブラシレスDCモータ4の速度が高い場合(高速時)の動作について説明する。図4は本実施の形態におけるモータ駆動装置22のタイミング図である。特に図4は、高速時でのインバータ3を駆動させるドライブ信号のタイミング図である。この場合、このドライブ信号は、第2の波形信号に基づいて得られる。第2の波形信号は、周波数設定部9の出力に基づき、第2波形発生部10から出力される。
図4における信号U、V、W、X、Y、Z、および波形Iu、Iv、Iwは図2と同様である。各信号U、V、W、X、Y、Zは周波数設定部9の出力、および通電角変更部8の出力に基づいて、所定周波数を出力して転流を行う。この場合の導電角は、120度以上180度未満とする。図4では、導電角が150度の場合を示している。導電角を上げることによって、各相の電流の波形Iu、Iv、Iwは擬似的に正弦波に近づく。
デューティを一定にして周波数を上げることにより、従来に比べて大幅に回転速度が上がる。この回転速度が上がった状態では、同期モータとして駆動されており、駆動周波数の上昇に伴い電流も増加する。この場合、導電角を最大の180度未満まで広げることにより、ピーク電流が抑制される。従って、ブラシレスDCモータ4は、さらに高い電流で駆動しても、過電流保護にかからずに動作される。
ここで、第2波形発生部10によって生成される、第2の波形信号について説明する。図5は、通電角150度でブラシレスDCモータ4を同期駆動した場合の、トルクと位相との関係を示した図である。図5において、横軸はモータのトルク、縦軸は誘起電圧の位相を基準とした位相差を示し、位相が正の場合、誘起電圧の位相に対して進みであることを示す。また、通電角150度での同期駆動での安定状態を示す図5の、線D1はブラシレスDCモータ4の相電流の位相を、線E1はブラシレスDCモータ4の端子電圧の位相を示す。ここで、相電流の位相が端子電圧の位相より進んでいることから、同期駆動でブラシレスDCモータ4を高速で駆動していることが判る。図5に示す相電流の位相と端子電圧の位相との関係から明確なように、負荷トルクに対して相電流の位相の変化は少ない。一方で、端子電圧の位相が直線的に変化していることから、負荷トルクに応じて相電流と端子電圧との位相差はほぼ線形に変化する。
このように、同期駆動においては、ブラシレスDCモータ4の駆動は、駆動速度および負荷に応じた、適切な相電流の位相および端子電圧の位相との関係で安定する。この場合の、端子電圧の位相および相電流の位相との関係を図6に示す。特に図6は、負荷による相電流の位相と端子電圧の位相との関係をd−q平面上に示したベクトル図である。
同期駆動においては、端子電圧ベクトルVtは、負荷が増加した場合、大きさはほぼ一定に保ちながら、位相は進み方向に推移する。図6を用いて説明すると、端子電圧ベクトルVtは矢印Fの方向に回転する。一方、電流ベクトルIは、負荷が増加した場合、ほぼ一定の位相を保ちながら、負荷の増加に伴い大きさが変化する(例えば負荷増加に伴い電流が増える)。図6を用いて説明すると、電流ベクトルIは矢印Gの方向に伸びる。このように電圧ベクトルおよび電流ベクトルが駆動環境(入力電圧、負荷トルク、駆動速度等)に従い適切な状態で各ベクトルの位相関係が定まる。
ここで、ブラシレスDCモータ4をオープンループによって通電角150度で同期駆動した場合の、ある負荷や速度における、位相の時間的変化について、図を用いて説明する。図7は、ブラシレスDCモータ4の位相関係を説明するための図である。特に図7は、ブラシレスDCモータ4の相電流の位相と端子電圧の位相との関係を示す。図7(a)、図7(b)において、横軸は時間、縦軸は誘起電圧の位相を基準とした位相(すなわち誘起電圧との位相差)を示す。両図において、線D2は相電流の位相、線E2は端子電圧の位相、線H2は相電流の位相と端子電圧の位相との位相差を示す。そして、図7(a)は低負荷での駆動状態を示し、図7(b)は高負荷での駆動状態を示す。また、誘起電圧の位相との差から、図7(a)、図7(b)共に、端子電圧の位相より相電流の位相が進んでいることから、ブラシレスDCモータ4が、同期駆動により非常に高速での駆動していることが判る。
図7(a)に示すように、駆動速度に対して負荷が小さい場合の同期駆動では、転流に対して負荷に見合った角度分だけ回転子4aが遅れる。すなわち、回転子4aから見ると転流が進み位相となり、所定の関係が保たれる。つまり、誘起電圧から見ると、端子電圧および相電流の位相が進み位相となり、所定の関係が保たれる。これは弱め磁束制御と同様の状態であるため、高速での駆動が可能となる。
一方、図7(b)に示すように、駆動速度に対して負荷が大きい場合では、転流に対して回転子4aが遅れることで弱め磁束状態になり、回転子4aは転流周期に同期するように加速する。その後、回転子4aの加速により、端子電圧の進み位相の減少によって相電流が減少し、回転子4aが減速する。この状態が繰り返され、回転子4aは、この加速と減速を繰り返す。これにより結局、駆動状態(駆動速度)が安定しない。すなわち図7(b)に示す様に、一定周期で行われる転流に対して、ブラシレスDCモータ4の回転が変動する。このため、誘起電圧の位相を基準とした場合、端子電圧の位相が変動する。このような駆動状態では、ブラシレスDCモータ4の回転が変動し、それに伴ってうねり音が発生する。また、電流が脈動するため、過電流と判断されて、ブラシレスDCモータ4が停止される可能性が生じる。
従って、ブラシレスDCモータ4をオープンループで同期駆動する場合、負荷が小さい状態では、ブラシレスDCモータ4は安定して駆動されるが、負荷が大きい状態では、上記の様な不都合が生じる。つまり、ブラシレスDCモータ4をオープンループで同期駆動する場合は、高速/高負荷での駆動はできず、駆動範囲が拡張されない。
そこで、本実施の形態におけるモータ駆動装置22は、相電流の位相と端子電圧の位相とを、図5に示すような負荷に見合った位相関係に保った状態で、ブラシレスDCモータ
4を駆動する。このような相電流の位相と端子電圧の位相との位相関係を保つ方法について、以下に述べる。
モータ駆動装置22は、端子電圧の基準位相(すなわちドライブ信号の転流基準位置)と相電流の位相の基準点を検出し、これに基づき、オープンループの同期駆動における転流タイミング(一定周期の転流)に対して補正を行い、相電流の位相と端子電圧の位相との位相関係を保った転流タイミングを決定する。具体的には、第2波形発生部10が、上記の位相関係を保った転流タイミングを決定する。電流検出部7によって検出される電流0クロスが回転子4aの位置に対応する。従って、電流0クロスに基づいて生成された波形、すなわち第2の波形信号は、電流検出部7が検出した回転子の位置と所定の関係を有する波形となる。第2波形発生部10は、生成した第2の波形信号をドライブ部13へ出力する。この第2波形発生部10の動作について、図8のフローチャートを用いて説明する。
まずステップ101では、あるスイッチング素子がオンになったかどうか、つまり、そのスイッチング素子のオンタイミングを待つ。本実施の形態では、U相下側のスイッチング素子、すなわちインバータ3のスイッチング素子3bのオンタイミングを待つ。スイッチング素子3bがオンになった場合(ステップ101のYes)は、ステップ102に進む。ステップ102では、時間計測用のタイマをスタートさせ、ステップ103に進む。
ステップ103では、電流検出部7で、電流0クロスが発生したかどうか判定する。つまり、電流の向きが負から0以上に切換るかどうかを判定する。本実施の形態では、特定相はU相であり、U相の電流が負から0以上に切換わったかを判定する。つまり、U相下側のスイッチング素子、つまりインバータ3のスイッチング素子3bがオフした後に、還流電流用ダイオード3gに流れる電流が流れなくなったタイミングが、特定相がスパイクオフしたタイミングである。U相電流が負から0以上になった場合(ステップ103のYes)は、ステップ104に進む。
ステップ104では、ステップ102でスタートしたタイマを停止させ、タイマカウント値を格納し、ステップ105に進む。つまり、スイッチング素子3bがオンしてから、還流電流用ダイオード3gに電流が流れている間に発生するスパイク電圧がオフするまでの時間を計測して、ステップ105に進む。
ステップ105では、ステップ104で計測した時間と、これまでの平均時間との差分を計算し、ステップ106に進む。ステップ106では、ステップ105で計算した差分に基づいて、転流タイミングの補正量を演算し、ステップ107に進む。
ここで、転流タイミングの補正とは、周波数設定部9で設定した周波数、つまり指令速度に基づく基本の転流周期に対して、転流タイミングを補正することである。従って、大きな補正量を付加した場合は、過電流や脱調が起こる。したがって、補正量を演算する場合は、ローパスフィルタ等を付加した上で演算を行い、転流タイミングの急激な変動を抑える。これにより、ノイズ等の影響で電流のゼロクロスを誤検出した場合であっても、補正量への影響が小さくなり、駆動の安定性がより向上する。さらに、補正量の演算において急激な変化を抑えているため、ブラシレスDCモータ4を加減速させる転流タイミングの変化も緩やかになる。このため、指令速度が大きく変更され、周波数設定部9による周波数(転流周期)が大幅に変わった場合であっても、転流タイミングの変化は緩やかになり、加減速が滑らかになる。
この転流タイミングの補正は、具体的には、相電流の位相と端子電圧の位相との位相差を常に平均時間に近づけることである。例えば、負荷が大きくなることにより、回転子4
aの回転速度が低下すると、相電流の位相は、端子電圧の位相を基準にすると遅れ方向に移動する。このため、端子電圧の基準位相から相電流の基準位相までの平均時間より、ステップ104で計測した時間の方が長くなる。この場合には、第2波形発生部10は、転流タイミングを、回転速度(回転数)に基づく転流周期のタイミングよりも遅らせるように転流タイミングを補正する。つまり、相電流の位相が遅れたことにより計測時間が長くなったため、第2波形発生部10は、転流タイミングを遅らせて端子電圧の位相を遅らせ、相電流の位相との位相差を平均時間に近づける。
逆に、負荷が小さくなることにより、回転子4aの回転速度が上がると、相電流の位相は、端子電圧の位相を基準にすると進み方向に移動する。このため、端子電圧の基準位相から相電流の基準位相までの平均時間より、計測時間の方が短くなる。この場合には、第2波形発生部10は、一旦、転流タイミングを、回転数に基づく転流周期のタイミングよりも早くするように転流タイミングを補正する。つまり、相電流の位相が早くなったことにより計測時間が短くなったため、第2波形発生部10は、転流タイミングを早くして端子電圧の位相を進ませ、相電流の位相の位相差を平均時間に近づける。
さらに第2波形発生部10は、転流タイミングの補正を、特定相(例えば、U相上側のスイッチング素子のみ)の任意のタイミング(例えば、回転子4aの1回転に1回)として、その他の相の転流は、目標とする回転数に基づく転流周期で時間的に行う。これにより、負荷に応じて相電流の位相と端子電圧の位相との位相関係が最適に保たれ、ブラシレスDCモータ4の駆動速度が保持される。
次にステップ107では、ステップ104で計測した時間を加味して平均時間を更新し、ステップ108に進む。ステップ108では、周波数設定部9で設定した周波数(駆動速度)に基づいたスイッチング素子の転流周期に対して、補正量を付加することで転流タイミングを決定する。
つまり、転流タイミングは、周波数設定部9で設定した周波数に対して補正量を付加することにより、相電流の位相と端子電圧の位相とが、常に平均位相差となるように、電流位相を基準にして決定される。従って、負荷が大きくなった場合は、相電流の位相と転流タイミングの差である位相差が狭まる。これに対して、補正の基準となる平均時間が小さくなり、負荷が大きくなる前と比較して、位相差が狭まった状態を基準としてブラシレスDCモータ4が駆動される。これにより、より大きな進角でブラシレスDCモータ4が駆動され、弱め磁束効果の向上により、出力トルクが増大し、必要な出力トルクが確保される。
逆に、負荷が小さくなった場合は、相電流の位相と転流タイミングの差である位相差が広がる。これに対して、補正の基準となる平均時間が大きくなり、負荷が小さくなる前と比較して、位相差が広がった状態を基準としてブラシレスDCモータ4が駆動される。これにより、より小さな進角でブラシレスDCモータ4が駆動され、弱め磁束効果の低減により、出力トルクが減少し、必要以上のトルクが出力されない。以上より、必要な出力を確保するとともに、余計な出力をしない駆動が行われる。
一方、ステップ103において、電流0クロスが発生しなかった場合は、再びステップ103に戻り、電流0クロスが発生するのをまつ。
一方、ステップ101において、あるスイッチング素子(本実施の形態ではスイッチング素子3a)がオンしなかった場合(ステップ101のNo)は、ステップ109に進む。ステップ109では、転流タイミングの補正量は0として、ステップ108に進む。この場合は補正量が0であるため、ステップ108では、回転数に基づく転流周期のタイミ
ングが、次回の転流タイミングとして決定される。
以上の動作を電気角1周期定1回繰り返すことで、補正を行いながら安定した駆動が可能となる。
なお、本実施の形態では、U相上側のスイッチング素子3bのオンタイミングのみで転流周期の補正を行っているため、電気角1周期中に1回の補正となる場合について説明している。しかしながら、モータ駆動装置22の用途や、ブラシレスDCモータ4のイナーシャ等を考慮して補正のタイミングを設定すれば良い。例えば、回転子4aの1回転に1回の補正や、電気角1周期中に2回の補正、各スイッチング素子がオンする毎回のタイミングでの補正を行っても良い。
また、本実施の形態では、電流0クロスを電流検出部7の検出結果によって判定を行ったが、端子電圧取得部5によって検出されるブラシレスDCモータ4に流れる電流が還流用ダイオード3g〜3lに流れている間に発生するスパイク電圧がオフするタイミングとしても良い。これによって、第1波形発生部の駆動用位置信号と電流0クロス検出を同一回路で実現できる。
次に、電流が乱れたかどうかを判定し、電流乱れを検知した際に通電角を狭める通電角変更部8の動作について、図9のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップ201において、1秒間電流ピークを監視するので、そのためのタイマをクリアし、スタートさせ、ステップ202に進む。
ステップ202において、これから記録していく過去1秒間に検出した1周期の電流ピークの最大と最小をそれぞれ過去1秒の最大と過去1秒の最小とし、最大を0に、最小を取りえる最大の値に初期化する。これによって、今からの1秒間に発生する電流1周期ごとのピークの最大と最小を検出することができる。ステップ203に進む。
ステップ203では、経過した周期数をクリアし、1回転の中で現れる1周期ごとの電流ピークの最大と最小をそれぞれ1回転の最大と1回転の最小とし、最大を0に、最小を取りえる最大の値に初期化する。例えばブラシレスDCモータの極数が6極であれば、電流1周期のピークは3回検出され、これら3回のうち最大のものが1回転の中で現れる1周期ごと最大となり、3回のうち最小のものが1回転の中で現れる1周期ごと最小として格納される。ステップ204に進む。
ステップ204では、電流1周期の中で現れる最大の値を格納する変数である1周期の最大をクリアし、ステップ205にすすむ。
ステップ205では、電流検出部7で検出された電流値を取得し、ステップ206に進む。
ステップ206では、1周期の最大とステップ205で検出した電流値を比較する。初回は1周期の最大が0なので、1周期の最大より電流値が大きい場合(ステップ206のYes)となり、ステップ207に進む。
ステップ207では、1周期の最大より取得した電流値のほうが大きいので、取得した電流値を1周期の最大として格納し、ステップ208に進む。
ステップ208では、電流が1周期経過したかどうかを判定する。電流検出部7では電
流0クロスを検出しているため、電流0クロスが発生したかどうかによって、電流1周期を検出することができる。電流0クロスが発生していない場合(ステップ208のNo)はステップ205に進む。
ステップ205では、再び電流値を取得し、ステップ206に進む。
ステップ206では、直前の205で検出した電流値が1周期の最大よりも大きいか判定を行い、電流値が1周期の最大以下の場合(ステップ206のNo)では、ステップ208へとすすむ。
ステップ208では、1周期経過したか判定を行い、電流0クロスを検出し、1周期を経過したと判定した場合(ステップ208のYes)は、ステップ209へと進む。
ステップ209では、1周期が経過したので、1回転の最大を更新する必要があるかを判定するため、1回転の最大より1周期の最大が大きいか比較を行う。1回目なので、クリア結果と比較するため、1回転の最大より1周期の最大が大きい場合(ステップ209のYes)となり、ステップ210に進む。
ステップ210では、1回転の最大に今回の1周期の最大を格納し、ステップ211に進む。
ステップ211では、1周期が経過したので、1回転の最小を更新する必要があるかを判定するため、1回転の最小より1周期の最小が小さいか判定を行う。1回目なので、最大の値と比較するため、1回転の最小より1周期の最小が小さい場合(ステップ211のYes)となり、ステップ212に進む。
ステップ212では、1回転の最小に今回の1周期の最大を格納し、ステップ213に進む。ステップ213では、周期数をカウントアップし、1回転経過したかどうかを判定する。1回転は極数の半分の回数判定を行ったかで判定を行う。1回目なので、1回転が経過していない場合(ステップ213のNo)となり、ステップ204へと進む。
ステップ204では次の1周期のピークを検出するため、1周期の最大をクリアし、ステップ205へと進む。ステップ205からステップ212までを再び繰り返し実施し、再度ステップ213へと到達する。1回目と2回目の1周期の最大が一致しない限り、ステップ210かステップ212のどちらか一方のみが実行され、1回転の最大と最小に差が生まれる。
2回目のステップ213では、再び1回転経過したかどうかを判定する。本実施の径庭においては、図13に示すように、4極モータを採用しているため2回目の判定で1回転経過した場合(ステップ213のYes)となり、ステップ214に進む。
ステップ214では、1回転の最大と最小の差分計算し、差分の平均を算出する。平均は過去1秒の平均とする。ステップ215へと進む。
ステップ215では、過去1秒の最大と1回転の最大とを比較する。初回なので、過去1秒の最大は0となっており、過去1秒の最大より1回転の最大が大きい場合(ステップ215のYes)となり、ステップ216に進む。
ステップ216では、過去1秒の最大を今回の1回転の最大で更新し、ステップ217に進む。
ステップ217では、過去1秒の最小と1回転の最小とを比較する。初回なので、過去1秒の最小はとりうる最大の値が格納されており、過去1秒の最小より1回転の最小が小さい場合(ステップ217のYes)となり、ステップ218に進む。
ステップ218では、過去1秒の最小を今回の1回転の最小で更新し、ステップ219に進む。
ステップ219では、1秒以上経過したかどうかタイマの値を確認する。本実施の形態では、ブラシレスDCモータの駆動は1r/sより常に高速で動作しているため、初回は必ず1秒間経過していない場合(ステップ219のNo)となり、ステップ203へと進む。ステップ203では、1回転を再度監視するため、周期数のカウントと1回転の最大と最小を初期化し、ステップ204へと進む。ステップ204からステップ218がふたたび、実行され、ステップ219へと到達する。例えば、60r/sで駆動していれば、ステップ219に60回目に到達した時に1秒経過した場合(ステップ219のYes)となり、ステップ220へと進む。
ステップ220では、過去1秒の最大と最小の差分を計算し、1回転の最大と最小の差分の平均を減じた結果を電流安定度として格納する。そして、ステップ221へと進む。
ステップ221では電流安定度があらかじめ定めておいた閾値電流より大きいか判定を行う。この閾値電流はあらかじめ負荷変動の範囲を確認し、その際に変化する電流値幅より大きく設定しておく。この閾値電流より小さい場合(ステップ221のNo)はそのまま処理を終了する。一方、ステップ221で電流安定度が閾値電流より大きい場合は、ステップ222に進む。ステップ222では電流が乱れていると判断し、通電角を狭め、処理を終了する。
以上の処理を定期的に繰り返すことで、電流の乱れを検出し、通電角を狭め安定動作可能な通電角へと設定していく。
なお、本実施の形態では電流乱れの閾値を負荷変動の最大幅で設定を行ったが、電流乱れによって、振動が許容値を超えてしまうような電流値を設定しても良い。その際、あらかじめ、設定値に余裕をもたせ、閾値電流を超えるような電流安定度となるたびに過去1秒の最大と最小をクリアし、1秒間の間に半分以上発生している場合、電流乱れと判断し、通電角を狭めるなどとしても良い。
次に、通電角を狭めることによって、電流乱れが安定する現象について図10、図11を用いて説明を行う。
図10は通電角175度でブラシレスDCモータ4を同期駆動した場合の、トルクと位相との関係を示した図である。図11は通電角160度でブラシレスDCモータ4を同期駆動した場合の、トルクと位相との関係を示した図である。図10の線D3はブラシレスDCモータ4の相電流の位相を、線E3はブラシレスDCモータ4の端子電圧の位相を示す。また、図11の線D4はブラシレスDCモータ4の相電流の位相を、線E4はブラシレスDCモータ4の端子電圧の位相を示す。ただし、端子電圧の位相差はU相上のドライブ信号がオンするタイミングの0度をとして見たものとする。
図10において、オープンループで同期駆動した場合、負荷L1より大きい負荷の範囲では電流の乱れが発生する。しかしながら、負荷に応じて線D3と線E3の位相差が生まれる負荷L2は負荷L1よりもおおきいため、負荷L1〜L2の範囲で電流が乱れてしま
う。
一方、図11においは、通電角が狭まることで、印可電圧が減少した分、必要進角が大きくなり、通電角175度よりも電流位相が進む。電流位相が進んだ結果、負荷に対して電流位相の増え方が鈍くなる範囲が増え、線D4と線E4の位相差が生まれる範囲がL3へと低トルク側へシフトし、L3よりも大きな負荷範囲で安定駆動が可能となる。その結果、オープンループで同期駆動した場合に、電流乱れが発生し始める負荷L4を含むこととなり、全ての範囲で安定駆動が可能となる。通電角の加減として120度があるが、それ以外に必要負荷範囲を脱調することなく駆動できる通電角をあらかじめ調べておき、下限を設定しておくことで、脱調による停止を防ぐことができる。通電角が下限状態で、通電角を狭めることが必要な場合は第1波形発生部6を基にした駆動へと切り換えることで、フェールソフトとして機能させることができる。
次に、切換判定部12による切り換え動作について説明する。図12は、本実施の形態におけるブラシレスDCモータ4の、回転数とデューティとの関係を示す図である。
図12において、ブラシレスDCモータ4の回転数、つまり回転子4aの回転数が50r/s以下の場合は、第1波形発生部6による第1の波形信号に基づいて、ブラシレスDCモータ4が駆動される。デューティは、フィードバック制御により、回転数に応じて、最も効率が良い値に調整される。
回転数が50r/sでデューティが100%となり、第1波形発生部6に基づく駆動では、それ以上回転させることができない。すなわち限界に到達する。つまり、回転数50r/sより高い速度では、デューティは一定で、周波数(すなわち転流周期)のみを上げて、ブラシレスDCモータ4が駆動される。
一方、第2波形発生部10に基づく駆動では、通電角が120度の状態で、通電角を狭めるよう判定された場合、第1波形発生部6に基づいた駆動に切り換える。例えば、端子電圧0クロスを検出できるような状況で、通電角を狭めるが、通電角120度で誘起電圧0クロスが検出できる負荷状態では、第1波形発生部6の第1の波形信号で十分に駆動できるトルクであることが分かるため、第1波形発生部6に基づいた駆動に切り換える。また、速度の指令が第2波形発生部10に切換った速度の50r/sより5Hz少ない速度の45r/sになった場合、第1波形発生部6に基づく駆動としても良い。
このように、第1波形発生部6と第2波形発生部10を適切に切り換えることで低速低負荷から、高速高負まで駆動を可能にする。
次に、本実施の形態のブラシレスDCモータ4の構造について説明する。図13は、本実施の形態におけるブラシレスDCモータ4の回転子の、回転軸に対して垂直断面を示した断面図である。
回転子4aは、鉄心4gと4枚のマグネット4c〜4fとから構成される。鉄心4gは、0.35〜0.5mm程度の薄い珪素鋼板を打ち抜いたものを積み重ねて構成される。マグネット4c〜4fは、円弧形状のフェライト系永久磁石がよく用いられ、図示したように、円弧形状の凹部が外方を向くように、中心対称に配置される。一方、マグネット4c〜4fとして、ネオジウムなどの希土類の永久磁石を用いる場合は、平板形状の場合もある。
このような構造の回転子4aにおいて、回転子4aの中心から、1つのマグネット(例えば4f)の中央に向かう軸をd軸とし、回転子4aの中心から、1つのマグネット(例
えば4f)とこれに隣接するマグネット(例えば4c)との間に向かう軸をq軸とする。d軸方向のインダクタンスLdとq軸方向のインダクタンスLqは逆突極性を有し、異なるものとなる。つまりこれは、モータとしては、マグネットの磁束によるトルク(マグネットトルク)以外に、逆突極性を利用したトルク(リラクタンストルク)を有効に使える。したがって、モータとして、よりトルクが有効的に利用できる。この結果、本実施の形態としては、高効率なモータが得られる。
また、本実施の形態の制御において、周波数設定部9と第2波形発生部10による駆動を行うと、相電流は進み位相でとなる。そのため、このリラクタンストルクが大きく利用されるので、逆突極性がないモータに比べて、より高回転で駆動することができる。
また、本実施の形態のブラシレスDCモータ4は、鉄心4gに永久磁石4c〜4fを埋め込んでなる回転子4aを有し、かつ突極性を有する。また、永久磁石のマグネットトルクの他に、突極性によるリラクタンストルクを用いている。このことにより、低速時の効率向上はもちろん、高速駆動性能をさらに上げることになる。また、永久磁石にネオジウムなどの希土類磁石を採用してマグネットトルクの割合を多くしたり、インダクタンスLd、Lqの差を大きくしてリラクタンストルクの割合を多くしたりすると、最適な通電角を変えることにより効率を上げることができる。
次に、本実施の形態のモータ駆動装置22を冷蔵庫21や空気調和機に用いて、圧縮機17を駆動した場合について説明する。従来のモータ駆動装置であれば、高速/高負荷での駆動に対応するために、巻線の巻き込み数を少なくすることにより必要トルクを確保したブラシレスDCモータを利用する必要があった。このようなブラシレスDCモータは、モータの騒音等が大きかった。本実施の形態のモータ駆動装置22を用いれば、巻線の巻込み量を増やしてトルクダウンしたブラシレスDCモータ4を利用しても、高速/高負荷で駆動できる。これにより、回転数が低い場合のデューティが、従来のモータ駆動装置を用いた場合より大きくできる。そのため、モータの騒音、特にキャリア音(PWM制御での周波数に相当する。例えば3kHz)が低減できる。
また、圧縮機17をレシプロ圧縮機とすることで、よりイナーシャが大きく、高速でのトルク脈動が小さいため、安定して高速まで動作させることができる。また、圧縮機17を冷蔵庫21に搭載した場合、冷蔵庫21は負荷の変動が急ではないため、相電流の位相と端子電圧の位相の位相差の変化は小さく、より安定した駆動が可能となる。
なお、本実施の形態のモータ駆動装置22を用いて空気調和機の圧縮機17を駆動する場合では、さらに、冷房時の最低負荷から暖房時の最大負荷まで幅広い駆動範囲に対応できるとともに、特に定格以下の低負荷での消費電力を低減することができる。
以上のように、本実施の形態においては回転子4aと、3相巻線を有する固定子4bとからなるブラシレスDCモータ4を駆動するモータ駆動装置であって、3相巻線に電力を供給するインバータ3と、ブラシレスDCモータ4に流れる電流を取得する電流検出部7と、通電角が120度以上の波形である第1の波形信号を出力する第1波形発生部6と、デューティは一定で、周波数のみを変化させて設定する周波数設定部9と、電流検出部7で検出された電流値がブラシレスDCモータ4の駆動している速度とは異なる周期での変化を検出し結果によって通電角を120度以上180度未満の間で変更する通電角変更部8と、電流検出部7が取得した電流の位相と所定の関係を有する波形で、かつ、周波数設定部9で設定した周波数で通電角変更部8によって決定された通電角の波形である第2の波形信号を出力する第2波形発生部10と、ブラシレスDCモータ4の運転状態に応じて第1の波形信号と第2の波形信号を切り換えて出力する切換判定部12と、切換判定部12から出力された第1または第2の波形信号に基づき、インバータ3が3相巻線に供給す
る電力の供給タイミングを指示するドライブ信号を、インバータ3に出力するドライブ部13とを有する。
これにより、電流状態に応じた通電角の変更を行うこととなり、電流と印可電圧の位相差の補正による制御可能な範囲を拡張し、更に多様なモータやモータ出力に対応することができる。
また、本実施の形態では、電流検出部7で取得した電流値の駆動速度とは異なる周期での変化の最小値と最大値の差に閾値電流を設けて閾値電流を超えた場合に通電角を狭めることにより、電流が乱れた際に位相差を基準とした補正の安定制御可能範囲を拡張することとなり、容易に安定した電流と印可電圧位相の差による補正制御が可能となる。
また、本実施の形態では、第2波形発生部10が電流位相と第2の波形信号の位相差を検出し、所定の関係を位相差の平均とと位相差の差分が所定の差に収まっているとしたことにより、平均という単純な計算により安定した駆動が可能となり、単純なアルゴリズムによる保守性や簡潔性の向上によりソフトウェア品質を向上させつつコストダウンが容易となる。
また、本実施の形態ではブラシレスDCモータ4の運転状態をモータの速度とし、前記切換判定部が、回転子4aの速度が所定速度より低い場合は第1の波形信号を出力し、回転子4aの速度が所定の速度より高い場合は第2の波形信号を出力するよう切り換えるとしたことにより、必要な負荷に応じて適切な駆動方を選ぶこととなり、運転状態に応じて効率重視の運転と出力重視の運転を切り換えることができる。
また、本実施の形態ではブラシレスDCモータ4の回転子4aを、鉄心4gに永久磁石4c〜4fを埋め込んで構成し、さらに、突極性を有するとしたことにより、ブラシレスDCモータ4の駆動において、永久磁石4c〜4fによるマグネットトルクとともに、突極性によるリラクタンストルクも有効に利用できるようになるため、低速時の高効率駆動とともに、高効率の高速駆動性能も更に伸張することが可能となる。
また、本実施の形態ではブラシレスDCモータ4が圧縮機17を駆動するとしたことにより、圧縮機17はイナーシャが比較的大きい負荷であることにより、サーボモータのような高い制御精度が必要とされず、モータの駆動周期よりも位相差の変動周期が遅い駆動となるため、補正の回数を間引いて運転することが可能となり、より演算速度が遅く安価な制御装置でモータ駆動装置を提供できる。また、従来のモータ駆動装置と同じ圧縮機を用いた場合でも、冷凍能力を高めることが出来るので、高能力の冷凍サイクルの小型化と低価格化を実現できる。さらに、従来のモータ駆動装置を用いた冷凍サイクルに、本発明のモータ駆動装置を置き換えれば、より高効率なモータを用いることができる。
また、本実施の形態では圧縮機17をレシプロ圧縮機としたことにより、構造上回転子には、金属性で重量の大きいクランクシャフトやピストンが接続されているため、イナーシャが非常に大きく、高速では短い時間での速度の変動は非常に少ない負荷を駆動することとなるため、電流と印可電圧の位相差の変化が少ないこととなり、低速ではトルク脈動に応じた高効率な運転を行い、高速では安定した駆動により高い冷凍能力を出力できる。
また、本実施の形態では圧縮機17で使用する冷媒をR600aとしたことにより、冷凍能力を得るために気筒容積を大きくし、イナーシャが大きくなり、さらに速度や負荷によって変動しにくい安定した駆動が可能となる。
また、本実施の形態ではモータ駆動装置22により駆動されるブラシレスDCモータを
備えた電気機器としたことにより、電気機器として冷蔵庫21に用いた場合は、負荷変動は急ではないため、より安定した駆動が可能となる。さらに、安定時には高効率運転を行い、急冷時には高速駆動により冷凍能力を向上させることができる。また、電気機器として空気調和機に用いた場合は、冷房時の最低負荷から暖房時の最大負荷まで幅広い駆動範囲に対応できるとともに、特に定格以下の低負荷での消費電力を低減することができる。