従来、この種のインバータ制御装置は、ブラシレスDCモータのロータ磁極位置に応じて、ステータの三相巻線の通電相の切換え、すなわち、転流動作を行なうことで回転磁界を発生させ、ロータが出力トルクを得るように制御される。したがって、ブラシレスDCモータの運転においては、ステータ巻線電流により発生する磁束に対してロータ磁束の相対関係を得ることが必要である。
ホール素子等のセンサを用いたモータでは、センサによりロータ磁極位置を正確に認識することができるため、間接的な誘起電圧によるロータ磁極位置を検知などの必要がなく、センサから直接ロータ磁極位置が判断できるので、容易にモータ制御を行なうことができる。
しかしながら、密閉型圧縮機においては、ホール素子等のセンサを埋め込むこと自体が、使用環境によるセンサ故障、冷媒漏れなどの信頼性、センサ一体型による故障時のモータのメンテナンスの観点から採用が容易ではなく、一般的にはホール素子等のセンサを用いずにステータ巻線に生じる誘起電圧によりロータ磁極位置を検知するセンサレス方式のインバータ制御装置が用いられている。
一般に、センサレス方式のインバータ制御装置の波形制御としては、120度通電波形が採用されているものが多く、ブラシレスDCモータを駆動するシステムにおいては、電気角120度の期間インバータの各相スイッチを導通させ、残りの電気角60度の区間を無制御としている。この場合、無制御期間中の電気角60度を用い、上下アームのスイッチのオフ期間中にモータ端子に現れる誘起電圧を観測することにより、ロータ磁極位置を得ている(例えば、特許文献1参照)。
また近年、モータの高効率化を図るためロータ内部に永久磁石を埋め込み、磁石に起因するトルクのみならずリラクタンスに起因するトルクを発生させることにより、モータ電流を増加させることなく全体として発生トルクを大きくすることができる埋込磁石構造のブラシレスDCモータが多く用いられてきている。
以下、図面を参照しながら、上記従来のインバータ制御装置について説明する。
図7は、上記特許文献1に記載された従来のインバータ制御装置の構成を示す図である。図8は、インバータ制御装置の各部の信号波形および処理内容を示すタイムチャートである。
図7において、直流電源001の端子間に、3対のスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzをそれぞれ直列接続してインバータ回路部140を構成している。ブラシレスDCモータ105は、4極の分布巻き構造のステータ105bと、ロータ105aで構成されている。ロータ105aは、内部に永久磁石105α、105βを埋め込んだ磁石埋込型構造である。
各対のスイッチングトランジスタ同士の接続点は、ブラシレスDCモータ105のY接続された各相のステータ巻線105u、105v、105wの端子にそれぞれ接続されている。
尚、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzのコレクタ−エミッタ端子間には、それぞれ保護用の還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzが接続されている。
抵抗101、102は、母線103、104間に直列に接続されており、その共通接続点である検出端子ONは、ブラシレスDCモータ105のステータ巻線105u、105v、105wの中性点の電圧に相当する直流電源001の電圧の1/2である仮想中性点の電圧VNを出力するようになっている。
コンパレータ106a、106b、106cは、これらの各非反転入力端子(+)が、抵抗107、108、109を介して出力端子OU、OV、OWにそれぞれ接続され、各反転入力端子(−)が、検出端子ONに接続されている。
そして、これらのコンパレータ106a、106b、106cの出力端子は、論理手段であるマイクロプロセッサ110の入力端子I1、I2、I3にそれぞれ接続されている。また、その出力端子O1からO6は、ドライブ回路120を介してトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzを駆動する。
ブラシレスDCモータ105は、4極分布巻き構造で、ロータ105aがロータ表面に永久磁石105α、105βを配置した表面磁石構造となっている。
次に、図8を用いて制御動作について説明する。
図8において、(A)、(B)、(C)は定常動作時におけるステータ巻線105u、105v、105wの端子電圧Vu、Vv、Vwを示すものである。
これらの端子電圧は、インバータ回路部140による供給電圧Vua、Vva、Vwaと、ステータ巻線105u、105v、105wに発生する誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと、転流切り換え時にインバータ回路部140の還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzの内のいずれかが導通することにより生じるパルス状のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcとの合成波形となる。これらの端子電圧Vu、Vv、Vwと直流電源001の1/2の電圧である仮想中性点電圧VNとコンパレータ106a、106b、106cにより比較した出力信号PSu、PSv、PSwを(D)、(E)、(F)に示す。
この場合、コンパレータの出力信号PSu、PSv、PSwは、前述の誘起電圧Vub、Vvb、Vwbの正および負ならびに位相を表わす信号PSua、PSva、PSwaと、前述のパルス状電圧のVuc、Vvc、Vwcに対応する信号PSub、PSvb、PSwbとで生成される。
また、パルス状電圧のVuc、Vvc、Vwcは、ウェイトタイマによって無視しているので、コンパレータの出力信号PSu、PSv、PSwは、結果として誘起電圧Vub、Vvb、Vwbの正および負ならびに位相を示すものとなる。
マイクロプロセッサ110は、各コンパレータの出力信号PSu、PSv、PSwの状
態に基づいて(G)に示す6つのモードA〜Fを認識し、出力信号PSu、PSv、PSwのレベルが変化した時点から電気角で30度だけ遅らせて、ドライブ信号DSu(J)からDSz(O)を出力する。
モードA〜Fの各時間T(H)は、電気角60度を示すものであり、A〜Fの1/2の時間(I)すなわちT/2は、電気角で30度に相当する遅延時間を示すものである。
このように、ブラシレスDCモータ105のロータ105aの回転に応じて、ステータ巻線105u、105v、105wに生ずる誘起電圧からロータ105aの位置状態を検出するとともに、その誘起電圧の変化時間(T)を検出してステータ巻線105u、105v、105wへの通電モードおよびタイミングにより各相ステータ巻線105u、105v、105wの通電のための駆動信号を決定して実行させるようにしている。
請求項1に記載の発明は、永久磁石を設けたロータと三相巻線を設けたステータとで構成されたブラシレスDCモータと、前記ブラシレスDCモータを駆動するインバータ回路部と、前記インバータ回路部の三相出力電圧を制御する出力電圧制御手段と、前記ブラシレスDCモータの誘起電圧と前記インバータ回路部の出力電圧により生成した基準電圧を比較検出する位置検出回路部と、前記位置検出回路部の信号に基づき誘起電圧ゼロクロス点からロータ位置検出信号を出力する位置検出判定手段と、前記位置検出判定手段からの出力信号に基づき前記インバータ回路部の転流波形を出力する位置検出転流制御手段と、前記ブラシレスDCモータの目標回転数に応じて所定の周波数で通電角180度未満の波
形を出力する強制同期転流制御手段とを備え、位置検出転流による動作において、前記出力電圧制御手段による出力電圧が上限で、なおかつ目標回転数に到達しない場合、前記強制同期転流制御手段は同期転流により動作すると共に、同期転流による加速時において、回転数が低い状態の時に可能な限りオーバーラップ角を拡げてから同期転流周期を変更し、同期転流による減速時において、先に同期転流周期を変更し、回転数が低い状態の時にオーバーラップ角を狭くするようにしたものである。
したがって、インバータ回路部出力電流の周波数を、強制的に同期周波数で出力することとなり、負荷トルクの増加に伴って電流位相に対するロータ位相、すなわち誘起電圧位相が遅れた場合、相対的に誘起電圧位相に対する電流位相は進み位相となる。進み位相電流は、ステータ磁束を低減させるため誘起電圧が減少し、その結果モータ電流が増加して出力トルクを増加させるため、運転範囲を拡大することができる。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記位置検出回路部の信号に基づき、前記インバータ回路部の出力電圧位相に対する誘起電圧位相の位相差を検出するとともに、位相状態に応じて前記出力電圧制御手段による三相出力電圧を変化させ、前記インバータ回路部の出力電圧に対するロータ誘起電圧位相を所定の位相に保つ位相差判定手段を備え、同期転流による動作においてもロータ位相の変化状態に応じて出力電圧を変化させてモータの運転状態を追従させるようにしたものである。
したがって、インバータ出力電圧、または電流位相に対する誘起電圧位相の状態に応じて、インバータ出力電圧を変化させることで、強制転流による同期運転時のより安定したモータ動作を実現することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記同期転流によるモータの運転状態が、目標転流周期に満たない所定の転流周期の時点でロータ誘起電圧位相が所定の位相より遅れている場合、前記強制同期点流制御手段によって目標回転数を減少させるようにしたものである。
したがって、同期転流による運転限界による脱調停止を防止することができ、運転限界領域の範囲で運転を持続して行なうことができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、前記ブラシレスDCモータのロータを、内部に永久磁石が埋め込まれ突極性を有する構成としたものである。
したがって、センサレス駆動による運転限界領域において、同期転流により電流位相を進み位相とすることでリラクタンストルクを増加することが可能であり、出力電圧上限においてもさらに運転範囲を拡大することができる。
請求項5に記載の発明は、前記ブラシレスDCモータを具備し、請求項1から4のいずれか一項に記載のインバータ制御装置によって駆動される電動圧縮機とするものである。
したがって、前記ブラシレスDCモータの低回転数領域は、高効率運転、高回転数領域は、高トルクでの運転がそれぞれ可能となり、また冷凍サイクルの負荷変動に追従する信頼性の高い電動圧縮機を提供することができる。
請求項6に記載の発明は、前記ブラシレスDCモータを具備し、請求項1から5のいずれか一項に記載のインバータ制御装置によって前記ブラシレスDCモータを駆動する電気機器とするものである。
したがって、高効率で運転範囲が広く、信頼性の高い駆動制御を行う家庭用冷蔵庫等の電気機器を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるインバータ制御装置のブロック図である。図2は、同実施の形態1におけるインバータ制御装置の各部の通電角120度の信号波形と処理内容を示すタイムチャートである。図3は、同実施の形態1におけるインバータ制御装置の各部の通電角120゜eを超えたオーバーラップ通電時の信号波形と処理内容を示すタイムチャートである。図4は、同実施の形態1における位相判別を行なう制御動作を示すフローチャートである。図5は、同実施の形態1における加速時の制御動作を示すフローチャートである。図6は、同実施の形態1における減速時の制御動作を示すフローチャートである。
図1において、インバータ制御装置200は、商用交流電源201と、周知の構成の圧縮機構(図示せず)とブラシレスDCモータ203を具備した電動圧縮機220に接続されており、商用交流電源201を直流電源に変換する整流部202と、電動圧縮機220のブラシレスDCモータ203を駆動するインバータ回路部204を備えている。
さらにインバータ回路部204を駆動するドライブ回路205と、ブラシレスDCモータ203の端子電圧を検出する位置検出回路部206と、インバータ回路部204を制御するマイクロプロセッサ207とを備えている。
マイクロプロセッサ207は、位置検出回路部206からの出力信号に対してブラシレスDCモータ203の磁極位置を検出する位置検出判定手段208と、位置検出信号に基づいて転流信号を生成する位置検出転流制御手段209とを備えている。
また、マイクロプロセッサ207は、位置検出回路部206からの出力信号により、インバータ回路部204の出力電圧位相に対するブラシレスDCモータ203の誘起電圧位相の位相差を検出する位相差判定手段210と、位相差検出信号に基づいて転流信号を生成する強制同期転流制御手段211を備えている。
さらに、位置検出判定手段208からの出力に基づいて回転速度を算出する回転速度検出手段212と、回転速度と回転速度指令、または位相差に応じて出力電圧にPWM変調を行うための出力電圧制御手段213と、位置検出転流制御手段209、または強制同期転流制御手段211の出力により、ドライブ回路205を駆動するためのドライブ制御手段216を備えている。
ブラシレスDCモータ203は、3相巻線のステータ203aとロータ203bとで構成されている。
ステータ203aは、ステータ巻線203u、203v、203wにより構成され、ロータ203bは、内部に永久磁石203α、203β、203γ、203δ、203ε、203ζを配置し、リラクタンストルクを発生する磁石埋込型構造である。
インバータ回路部204は、6つの三相ブリッジ接続されたスイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzと、それぞれに並列に接続された還流
ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzより構成されている。
位置検出回路部206は、コンパレータ(図示せず)等から構成されており、ブラシレスDCモータ203の誘起電圧に基づく端子電圧信号と基準電圧とをコンパレータにより比較して位置検出信号を得ている。
位置検出判定手段208は、位置検出回路部206の出力信号から、ロータ203bの位置信号を得て位置検出信号を生成し、位置検出転流制御手段209は、位置検出判定手段208の位置検出信号によって転流のタイミングを計算し、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの転流信号を生成する。
位相差判定手段210は、位置検出回路部206の出力信号から、インバータ回路部204の出力電圧位相とステータ巻線203u、203v、203wに発生する誘起電圧位相の位相差信号を生成し、強制同期転流制御手段211は、回転速度指令によって転流のタイミングを計算し、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの転流信号を生成する。
回転速度検出手段212は、位置検出判定手段208からの位置信号によってブラシレスDCモータ203の回転速度を算出し、回転速度検出手段212から得られた回転速度と指令回転速度との偏差を出力する。
出力電圧制御手段213は、回転速度検出手段212の偏差信号、または位相差判定手段210の位相差信号の状態に応じて、インバータ出力電圧のPWM変調信号を出力する。
ドライブ制御手段216は、出力電圧制御手段213のPWM変調デューティ値、回転速度検出手段212の回転数偏差信号に応じて、位置検出転流制御手段209と強制同期転流制御手段211のいずれかの転流信号によってドライブ回路205を駆動する。
出力電圧制御手段213のPWM変調デューティ値が上限で、回転数偏差が所定の値以上が継続した場合、位置検知転流から強制同期転流へ切り換える。
そして、ドライブ制御手段216は、位置検出転流制御手段209、または強制同期転流制御手段211の転流信号と出力電圧制御手段213のPWM変調信号を合成し、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、TrzをON/OFFするドライブ信号を生成し、ドライブ回路205へ出力する。
ドライブ回路205では、ドライブ信号に基づき、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、TrzのON/OFFスイッチングを行い、ブラシレスDCモータ203を駆動する。
以上のように構成されたインバータ制御装置について、以下その動作、作用を説明する。
まず、図2に示すインバータ制御装置の通電角120度の各種波形について説明する。
図2の(A)、(B)、(C)は、ブラシレスDCモータ203のU相、V相、W相の端子電圧Vu、Vv、Vwであり、それぞれの位相が120度ずつずれた状態で変化する。
これらの端子電圧は、インバータ回路部204による供給電圧Vua、Vva、Vwaと、ステータ巻線203u、203v、203wに発生する誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと、転流切り換え時にインバータ回路部204の還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzの内のいずれかが導通することにより生じるパルス状のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcとの合成波形となる。
また、各相端子電圧(値)Vu、Vv、Vwと直流電源電圧1の1/2の電圧である仮想中性点電圧(値)VNとを比較し、その結果を各コンパレータ(図示せず)より出力する出力信号がPSu、PSv、PSwである。
この出力信号は、供給電圧Vua、Vva、Vwaに対応する出力信号PSua、PSva、PSwaと、スパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcに対応する出力信号PSuc、PSvc、PSwcと、誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと仮想中性点電圧VNの比較中の期間に相当する出力信号PSub、PSvb、PSwbとの合成信号となる。
ここで、誘起電圧位相が中間位相の場合のPSu、PSv、PSwは、(D)、(E)、(F)であり、その時の位相差判定手段の出力信号の状態が(G)となる。
また、誘起電圧位相が遅れ位相の場合のPSu、PSv、PSwは、(H)、(I)、(J)であり、その時の位相差判定手段の出力信号の状態が(K)となる。
同様に、誘起電圧位相が進み位相の場合のPSu、PSv、PSwは(L)、(M)、(N)であり、その時の位相差判定手段の出力信号の状態は(O)である。
マイクロプロセッサ207は、目標回転数に応じて基準タイマカウント値(P)のカウント動作を行ない、強制同期基準信号(Q)を発生する。
さらに、強制同期基準信号を基準として、電気角60度間隔で転流信号(R)、および(A)、(B)、(C)の立上り、立下りの誘起電圧Vub、Vvb、Vwbに対してのコンパレータ出力信号PSu、PSv、PSwの組合せによって判断を行なうサンプリング開始信号(S)を発生し、転流信号の状態に応じて、ドライブ信号DSu(T)からDSz(Y)を出力する。
通電角120度の場合、転流信号(R)の前後100usにてサンプリング開始信号(S)が動作し、立下り転流前後100usにてサンプリング開始信号(S)を発生して位相差判別を行なっている。
次に、図3に示すインバータ制御装置の通電角120度を超えたオーバーラップ通電時の各種波形について説明する。
図3の(A)、(B)、(C)は、ブラシレスDCモータ203のU相、V相、W相の端子電圧Vu、Vv、Vwであり、それぞれの位相が120度+オーバーラップした通電角ずつずれた状態で変化しており、オーバーラップした通電角分は電圧波形が重なる状態となる。
これらの端子電圧は、インバータ回路部204による供給電圧Vua、Vva、Vwaと、ステータ巻線203u、203v、203wに発生する誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと、転流切り換え時にインバータ回路部204の還流ダイオードDu、Dx、Dv、Dy、Dw、Dzの内のいずれかが導通することによって生じるパルス状のスパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcとの合成波形となる。
また、各相端子電圧(値)Vu、Vv、Vwと直流電源電圧1の1/2の電圧である仮想中性点電圧(値)VNとを比較し、その結果を各コンパレータ(図示せず)より出力する出力信号がPSu、PSv、PSwである。
この出力信号は、供給電圧Vua、Vva、Vwaに対応する出力信号PSua、PSva、PSwaと、スパイク電圧Vuc、Vvc、Vwcに対応する出力信号PSuc、PSvc、PSwcと、誘起電圧Vub、Vvb、Vwbと仮想中性点電圧VNの比較中の期間に相当する出力信号PSub、PSvb、PSwbとの合成信号となる。
ここで、誘起電圧位相が中間位相の場合のPSu、PSv、PSwは、(D)、(E)、(F)であり、その時の位相差判定手段の出力信号の状態が(G)となる。
また、誘起電圧位相が遅れ位相の場合のPSu、PSv、PSwは、(H)、(I)、(J)であり、その時の位相差判定手段の出力信号の状態が(K)となる。
同様に、誘起電圧位相が進み位相の場合のPSu、PSv、PSwは、(L)、(M)、(N)であり、その時の位相差判定手段の出力信号の状態は(O)である。
マイクロプロセッサ207は、目標回転数に応じて基準タイマカウント値(P)のカウント動作を行ない、強制同期基準信号(Q)を発生する。
さらに、強制同期基準信号を基準として、電気角60度を基準として、オーバーラップする1/2の通電角だけ早いタイミングと、オーバーラップする1/2の通電角だけ遅いタイミングで一定の間隔で転流を行なう転流信号(R)、および(A)、(B)、(C)の立上り、立下りの誘起電圧Vub、Vvb、Vwbに対してのコンパレータ出力信号PSu、PSv、PSwの組合せにより判断を行なうサンプリング開始信号(S)を発生し、転流信号の状態に応じて、ドライブ信号DSu(T)からDSz(Y)を出力する。
ドライブ信号DSu(T)からDSz(Y)は、オーバーラップする1/2の通電角だけ早く次の転流相のプラス側を通電し、オーバーラップする1/2の通電角だけ遅く現在の転流相のマイナス側を遮断するように制御を行なう。
通電角120度より大きい場合、通電角120度の場合とは異なり、転流相のプラス側、転流相のマイナス側が、オーバーラップ通電角分だけずれて転流するため、サンプリング開始信号(S)は、転流相のプラス側の転流信号(R)の前100us、転流相のマイナス側の転流信号(R)の後100usで動作し、位相差判別を行なっている。
続いて、図4のフローチャートにより、インバータ制御装置200の位相判別について説明する。
図4において、各ステップは位相差判定手段210、強制同期転流制御手段211、出力電圧制御手段213の動作を示す。
まず、ステップ101において、基準タイマによって目標周波数に対する電気角120度に相当する基準時間のタイマカウントを開始する。
ここで、ステップ101は強制同期基準信号(Q)の発生時点であり、後述する位相進み判定期間に相当する。
その後、ステップ102において、位置検出回路部206からの出力信号PSu、PSv、PSwの状態の検出を行ない、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの出力状態、すなわち図2における動作モードの状態に応じた出力信号PSu、PSv、PSwの状態によって位相検出判定を行う。
ここで、誘起電圧の立上り期間においては、該当通電相は電気角60度に相当する期間、無通電状態となる。U相、V相、W相の無通電期間の開始前後において、それぞれ下側ドライブ信号DSx、DSy、DSzが、上側ドライブ信号DSu、DSv、DSwへと切り換えが行なわれる。
インバータ回路部204の出力電圧が立上り波形の場合において、誘起電圧が進み位相の場合、位相進み検出期間の期間中、端子電圧が仮想中性点電圧値VNを下回ることがなく位置検出回路部出力が‘L’信号となることはない。すなわち位置検出回路部出力の‘L’信号を検出した場合、ステップ103で誘起電圧位相が進み位相状態ではないと判断し、進み位相状態をセットする。
そして、ステップ104において基準タイマカウント値(P)が転流時間、例えば、電気角30度に相当する時間を経過するまでステップ102に戻り、進み位相検知判定を継続する。転流時間を経過した場合、ステップ105に進む。
ステップ105は、転流信号(R)を発生させて、U相、V相、またはW相の状態に応じて、それぞれ上側ドライブ信号DSu、DSv、またはDSwをONとして転流動作を行なう。
その後、ステップ106において、基準タイマカウント値(P)が遅れ位相検知開始時間が経過するまで待機する。
ステップ106では、基準タイマカウント値(P)が遅れ位相検知開始時間、例えば電気角90度に相当する時間の直前100μs手前の時間を経過した場合、位置検出回路部206からの出力信号PSu、PSv、PSwの状態の検出を行ない、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの出力状態、すなわち図2における動作モードの状態に応じた出力信号PSu、PSv、PSwの状態によって位相検出判定を行う。
インバータ回路部204の出力電圧が立下り波形の場合において、誘起電圧が遅れ位相の場合、位相遅れ検出期間の期間中、端子電圧が仮想中性点電圧値VNを上回るため、位置検出回路部出力が‘H’信号となる。すなわち位置検出回路部出力の‘H’信号を検出した場合、ステップ103で誘起電圧位相が遅れ位相状態であると判断し、ステップ108で遅れ位相状態をセットする。
そして、ステップ109において基準タイマカウント値(P)が転流時間を経過するまでステップ107に戻って遅れ位相検知を継続し、転流時間を経過した場合、ステップ110に進む。
ステップ110では、転流信号(R)を発生させて、U相、V相、またはW相の状態に応じて、それぞれ下側ドライブ信号DSx、DSy、またはDSzをONとして転流動作を行なう。
その後、ステップ111において、基準タイマカウント値(P)が進み位相検知開始時間が経過するまで待機する。
続いて、ステップ112では、基準タイマカウント値(P)が進み位相検知開始時間、例えば、電気角90度に相当する時間の直後100μsの時間を経過した場合、位置検出回路部206からの出力信号PSu、PSv、PSwの状態の検出を行ない、スイッチングトランジスタTru、Trx、Trv、Try、Trw、Trzの出力状態、すなわち図2における動作モードの状態に応じた出力信号PSu、PSv、PSwの状態によって位相検出判定を行う。
以後ステップ112およびステップ113は、進み位相判定期間であり前述のステップ102およびステップ103と同様に誘起電圧の進み位相検知を行なう。
ステップ113では、進み位相判定を立てた後、ステップ114に進む。
そして、ステップ114において、基準タイマカウント値(P)が基準時間、例えば、電気角120度に相当する時間を経過するまで、ステップ112に戻り進み位相検知を継続し、基準時間を経過した場合、ステップ115に進む。
ステップ115において、ステップ108での遅れ位相、及びステップ113での進み位相が発生したかどうかの判定を行ない、いずれにも当てはまっていない場合、中間位相として認識を行なう。
その後、ステップ101に戻り、以下動作を繰り返す。
続いて、図5のフローチャートにより、インバータ制御装置200の回転速度加速時の動作について説明する。
ステップ201において、同期転流にて、ブラシレスDCモータ203の現在の回転数より高い回転数を目標設定された時、目標回転数同期転流加速制御の開始を行なうためにステップ202へ移行する。
続いて、ステップ202において、転流周期を早めて回転数を加速させる前に、目標回転数に応じて目標通電角を設定し、目標通電角に達しているかどうかの判断を行なう。目標通電角未満であれば、ステップ203に移行して通電角を所定値だけ拡大を行ない、ステップ202へ戻り、目標通電角に達するまでステップ202、ステップ203を繰り返す。目標通電角に達した場合、ステップ204へ移行する。
ステップ204では、目標転流周期に達しているかどうか、つまり、ブラシレスDCモータ203の回転数が目標回転数に達しているかどうかの判断を行なう。目標転流周期に達していれば、そのままステップ206へ移行し、目標転流周期未満であれば、ステップ205に移行して転流周期を所定値だけ早め、ブラシレスDCモータ203の加速を行なうことで回転数を上げ、ステップ206へ移行する。
ステップ206では、図4のフローチャートで述べた位相判定により、遅れ位相かどうかを判断し、遅れ位相であればステップ207へ移行し、遅れ位相でなかった場合、ステップ211へ移行する。
ステップ207にて現在のU相、V相、W相に通電しているドライブ信号DSu(T)、DSv(U)、DSw(V)に印加しているデューティが最大かどうかを判断している。デューティがさらに印加できる状態、つまり、最大デューティではない場合、ステップ208へ移行して電圧デューティを増加させる。また、デューティがこれ以上印加できな
い状態、つまり、最大デューティの場合はステップ209へ移行する。
ステップ209では、遅れ位相状態であって、最大デューティとなったときの転流周期が、目標転流周期に対してどれだけかけ離れているかを判断している。目標転流周期に対して十分に近い所定転流周期に到達していた場合は、そのまま運転を継続し、ステップ204へ戻り、所定転流周期に到達していない場合、つまり、目標転流周期に対してほど遠い状態である場合は、ステップ210へ移行し、現状の遅れ位相のまま、さらに転流周期を進めることによる脱調停止を防ぐために、目標回転数を減少、つまり目標転流周期を変更し、ステップ204へ戻る。
ステップ211では、進み位相か中間位相かどうかを判断しており、中間位相であればそのまま運転を継続するためにステップ204へ戻る。また、進み位相であれば、加速時は加速トルクが加わるため、定常時、減速時に比べて脱調停止する可能性が低いものの、遅れ位相よりで制御を行なう方が脱調しにくいことを考慮して、ステップ212へ移行し、電圧デューティを減少させる。その後、ステップ204へ戻る。
ステップ208、ステップ209、ステップ210、ステップ211、ステップ212よりステップ204に戻ってからは、同じ動作を繰り返す。目標転流周期に到達した定常状態は、ステップ206乃至ステップ212の動作を繰り返すこととなる。
次に、図6のフローチャートにより、インバータ制御装置200の回転速度減速時の動作について説明する。
ステップ301において、同期転流にて、ブラシレスDCモータ203の現在の回転数より低い回転数を目標設定された時、目標回転数同期転流減速制御の開始を行なうためにステップ302へ移行する。
ステップ302では、所定時間だけ転流周期を遅くしてステップ303へ移行し、所定の転流周期以上となるまでステップ302、ステップ303の制御を繰り返し、所定の転流周期以上となった時にステップ304へ移行する。
ステップ304では、ステップ303にて通電角の縮小時と負荷変動が同時に発生し、ロータ203bが変動しても、脱調停止の起こりにくい低回転時となるまで転流周期を進めた状態で通電角の縮小を行なう。
ステップ305にて、目標通電角に到達したかどうかの判断を行ない、目標通電角に達成するまで、ステップ304にて通電角の縮小を繰り返し、目標通電角に達成して時点でステップ306へ移行する。
ステップ306では、目標転流周期に達しているかどうか、つまり、ブラシレスDCモータ203の回転数が目標回転数に達しているかどうかの判断を行なう。目標転流周期未満であれば、ステップ307に移行して転流周期を所定値だけ遅くしてブラシレスDCモータ203の減速を行なう。これに伴い、回転数を下げてステップ308へ移行し、目標転流周期に達していれば、そのままステップ308へ移行する。
ステップ308では、図4のフローチャートで述べた位相判定により、遅れ位相かどうかを判断する。同期転流の減速中にあるため、遅れ位相にはなりにくいものの、万が一遅れ位相に移行した場合は、中間位相に戻すためにステップ309へ移行し、電圧デューティを増加させる。その後、ステップ306へ移行する。遅れ位相でなかった場合は、ステップ310へ移行する。
ステップ310では、進み位相か中間位相かどうかを判断する。中間位相であれば、そのまま運転を継続するためにステップ306へ戻り、進み位相であれば、減速時のオーバートルクは脱調停止する可能性が非常に高いことからステップ212へ移行して、即座に電圧デューティを減少させる。その後、ステップ306へ戻る。
ステップ309、ステップ310、ステップ311よりステップ306に戻ってからは、上述の動作を繰り返す。
目標転流周期に到達した定常状態は、ステップ206乃至ステップ212の動作を繰り返すこととなり、中間位相を所定時間維持できる状態では、誘起電圧により位置検出を行なう従来の位置検知による制御に戻して制御を行なう。
すなわち、本制御は、ブラシレスDCモータ203の各相端子電圧(値)Vu、Vv、Vwと直流電源電圧1の1/2の電圧である仮想中性点電圧(値)VNとの比較によって、インバータ回路部の転流動作による各相出力電圧位相と、ロータ磁束変化によりステータ巻線に発生する誘起電圧の位相差を判定し、インバータ出力電圧位相に対して誘起電圧位相が遅れている場合に、インバータ回路出力電圧を増加し、逆にインバータ出力電圧位相に対して誘起電圧位相が進んでいる場合に、インバータ回路出力電圧を減少するものである。
したがって、負荷トルク変動、または目標回転数の変化等の原因によってブラシレスDCモータ203の運転状態が変化した場合においても、インバータ出力電圧に対する誘起電圧位相の状態に応じてインバータ出力電圧が変化することで、ブラシレスDCモータ203の強制転流による同期運転時において、モータ出力トルクが過剰トルクまたは不足トルクとなることで脱調停止することを防止し、安定したモータ動作を実現することができる。
さらに、ロータ203bの内部に、永久磁石203α、203β、203γ、203δ、203ε、203ζを配置した構成とすることで、リラクタンストルクを有効に活用することができ、センサレス駆動による運転限界領域において、同期転流により電流位相を進み位相とすることでリラクタンストルクを増加することが可能であり、出力電圧上限においてもさらに運転範囲を拡大することができる。
さらに、転流タイミングのずれによる脱調停止の耐量は、転流周期が長い方が、短い方に比べて同じずれ分であれば影響度が小さい事から高くなるため、120度を超えた通電角で同期転流をさせる際には、転流周期が長い方、つまり低回転時にあらかじめ通電角を拡大しておき、ロータ203bを所定の位相で落ち着かせた状態で加速することにより、より安定した制御ができると共に、高回転時から通電角を拡大する時に比べて、低回転時にあらかじめ通電角を拡大しておいた方が、加速時に必要な加速トルクを多くまかなうことができる。
また、同期転流による運転限界領域においても、脱調限界以上の運転に対しては、目標回転数を下げて脱調限界以内で運転することにより、脱調限界以上の負荷による脱調停止を防止する安定した運転動作の継続を可能とすることができる。
このように、ブラシレスDCモータ203の回転制御に信頼性が得られるため、ブラシレスDCモータ203を具備した電動圧縮機220に、本実施の形態1におけるインバータ制御装置200を用いても、良好な運転が可能となる。
また、電動圧縮機220、凝縮器、減圧装置、蒸発器を配管によって環状に連結した冷凍サイクル(いずれも図示せず)を具備した冷蔵庫等の物品貯蔵装置において、電動圧縮機220を、本実施の形態1のインバータ制御装置200を用いて駆動制御することにより、良好なシステム運転を得ることができ、物品貯蔵装置の物品保存温度を安定させ、物品貯蔵の信頼性を高めることができる。