JP5385754B2 - 熱交換部材 - Google Patents
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Description
特許文献3に記載の技術においては、この皮膜形成方法は、基板である熱交換パネルが複雑な形状で大型化しているため、これに皮膜の原材料粉末の塗布や予熱、放電を行うことは困難であり、実用性に問題がある。また、予熱により犠牲陽極層が変質する虞もある。
犠牲陽極層の極表層におけるO/Alの平均原子比が1.2以上であると、犠牲陽極層表面に対する酸化皮膜(不働態皮膜)の形成が安定化するので、犠牲陽極層におけるAlの溶解反応(アノード反応)が抑制され、犠牲陽極層による防食効果の長期維持が可能になる。
かかる構成によれば、熱サイクルにより犠牲陽極層に生じる応力が緩和され、犠牲陽極層の耐久性が高くなる。犠牲陽極層の気孔率が5面積%以上であると、応力の緩和効果が顕著になる。一方、犠牲陽極層の気孔率が20面積%以下であると、気孔中に海水が浸入しにくくなり、海水氷結による体積膨張により犠牲陽極層に割れが生じるのを防止することができる。
かかる構成によれば、犠牲陽極層にピンホール等の部分的な欠損が生じても、犠牲陽極層が腐食環境(海水中)で積極的にアノード反応を起こし、基材の腐食を防止することができる。
≪熱交換部材≫
本実施形態に係る熱交換部材は、熱源である海水との熱交換によって液化天然ガスを気化させるオープンラック式気化器の熱交換パネルを構成するものである。すなわち、図1に示すORV1の熱交換パネル5を構成する伝熱管2または上下のヘッダー管3,4として用いるものである。なお、ORV1の概略構成は図1に示したものと同一であるので、ここでは説明を省略する。
伝熱管(熱交換部材)2は、基材2aの外表面の一部または全部(外表面)に、犠牲陽極層2bを有している。本実施形態では、この犠牲陽極層2bはアルミニウム合金の溶射皮膜層になっている。ここで、表面の一部に形成するとは、基材2aの表面全てに犠牲陽極層2bを形成させなくとも、耐衝撃性、耐エロージョン性、繰り返し極低温耐久性、欠陥成長抑制性等の耐久性を発揮できるものであれば、基材2aに、犠牲陽極層2bで覆われていない箇所があってもよく、ところどころ基材2aの素地が露出した箇所があってもよい状態をいう。
なお、他の熱交換部材である上下のヘッダー管3,4も同様に構成してある。
以下、各部の構成について説明する。
基材2aはORV用伝熱管に用いられるものであれば、特にその材質は問わないが、
通常3000系、5000系あるいは6000系アルミニウム合金が用いられる。
[成分]
犠牲陽極層2bは、溶射材料として好適であり、かつ基材2aを形成するアルミニウム合金より海水中での電位が卑となる(イオン化傾向が大きい)アルミニウム合金からなる。このようなアルミニウム合金としては、Al−Zn合金、Al−Mg合金、Al−Si合金、または、Al−Mn合金が挙げられる。また、これらの構成元素であるZn,Mg,Si,Mnのうちの一種以上を所定量含有するアルミニウム合金であってもよい。具体的には、Zn:0.1〜30質量%、Mg:0.1〜15質量%、Si:0.1〜10質量%、及びMn:0.1〜5質量%のうちの一種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が好ましい。
なお、犠牲陽極層2bの成分組成は、例えば、溶射皮膜の形成後、この溶射皮膜から削り取った粉末を希塩酸に溶解させ、その溶解液のICP発光分光法により分析して求めることができる。
FACは海水の流動により犠牲陽極層2bの電位が高められて溶解反応が促進される現象と電気化学的には理解される。そこで、本実施形態では、FACに対して、犠牲陽極層2bの最表面から深さ30nmまでの領域(極表層)におけるO/Alの平均原子比を1.0以上2.0以下にすることで、犠牲陽極層2bの表面に極薄い安定な(緻密かつ強固な)酸化皮膜(不働態皮膜)を形成している。すなわち、海水との接触による犠牲陽極層2bの電位上昇を抑制することにより、犠牲陽極層2bによる犠牲防食効果を維持しつつ、海水との衝突によるエロージョン作用と腐食作用の相乗効果によって生じるFACに対する耐性を高めている。
また、O/Alの平均原子比の制御については、アーク溶射(約5000℃)やプラズマ溶射(約5000〜10000℃)で犠牲陽極層2bを形成すれば、溶射時の温度が高くなるので、O/Alの平均原子比の範囲を1.0〜2.0に制御することができる。
犠牲陽極層2bの最表面から深さ30nmまでの領域(極表層)における平均C原子%を20以下とすることで、AlとCの接触腐食電流を低減して異種金属接触腐食を抑制し、耐FAC性の向上を図っている。この効果を十分なものとするためには、平均C原子%は20以下とし、好ましくは18以下、より好ましくは15以下とする。なお、平均C原子%は低いほど好ましいが、溶融した溶射金属粒子が飛散する空気中に存在する汚染物質(Cを主体とした有機物)や、溶融前の溶射金属に付着している不純物元素等の影響を考慮すると、平均C原子%の下限は3であってもよく、4あるいは5となってもやむを得ない。
また、平均C原子%の制御については、電気を熱源とするアーク溶射やプラズマ溶射を用いることにより、平均C原子%を20以下に制御することができる。
犠牲陽極層2bである溶射皮膜は、その形成方法(溶射)から内部にはある程度の気孔を含む構造になる。犠牲陽極層2bの極表層におけるO/Alの平均原子比及び平均C原子%を制御していない従来の犠牲陽極層の場合は、気孔率が高いと、外環境から気孔中に腐食因子である海水の侵入が起こり易くなり、犠牲陽極層の過度な溶出が生じてしまう。また、気孔の多い犠牲陽極層は、本来、極低温−常温の熱サイクルによって生じる応力(歪み)を緩和する方向に働くが、従来の犠牲陽極層の場合、気孔中に外環境から侵入する海水によって腐食が起こり、腐食によって生成した腐食生成物より犠牲陽極層の膨れや剥離、割れが生じやすいため、犠牲陽極層の気孔率は出来るだけ低くする必要があった。
その他、犠牲陽極層2bの厚さは、特に限定されるものではないが、10〜1000μm程度とすればよい。
熱交換パネル5の基材2a上に犠牲陽極層2bを被覆する方法としては、クラッドや溶射等が挙げられるが、高効率化しているORV1に用いられている伝熱管2の形状が多形状となり複雑化していること、及び溶接部での施工性の観点から、犠牲陽極層2bの形成は溶射法にて形成している。溶射法の中でも、前記成分のアルミニウム合金を、例えば線状または粉末状の溶射材料として、熱源を電気としているアーク溶射法やプラズマ溶射法で形成する必要がある。
<試験材の作製>
伝熱管及びヘッダー管に換えて次の試験材を作成した。
伝熱管及びヘッダー管の基材としてアルミニウム合金(A5083)の板材(:縦100mm×横50mm×厚さ5mm)を用いた。この板材表面をショットブラスト(アルミナ#16〜#20)にて、平均粗さRa=20〜40μmに粗面化し、その上にフレーム溶射法(プロパン−酸素、溶射距離:100mm、250mm、300mm、400mm)、アーク溶射法(溶射距離:100mm、250mm、300mm、400mm)、大気プラズマ溶射法(溶射距離:100mm、250mm、300mm、400mm)にて、Al−2%Zn合金、及びAl−5%Mg合金の溶射皮膜を膜厚200μm程度になるように形成した。つまり、表1に示すような試験材を、後記する溶射皮膜溶出試験用と腐食サイクル試験用のそれぞれ24個作成した。なお、従来は、溶射皮膜の形成にフレーム溶射を使用していたことから、フレーム溶射により溶射皮膜を形成したものは、従来技術に相当するものである。
犠牲陽極層の成分組成は、溶射皮膜の形成後、この溶射皮膜から削り取った粉末1gを希塩酸に溶解させ、その溶解液のICP発光分光法により分析して求めた。
また、得られた試験材について、X線光電子分光(XPS)を用いて、極表層(最表面から深さ30nmまでの領域)におけるO/Alの平均原子比、及び平均C原子%を求めた。測定装置はPhysical Electronics社製 Quantera SXM全自動走査型X線光電子分光装置を用い、X線源として単色化Al Kα、X線ビーム径を200μm、Ar+スパッタエネルギー:2.0keV、スパッタレート:5.74nm/min(SiO2換算)として求めた。
犠牲陽極層の気孔率については、前記手法により得られた試験材を切り出し、その切断面を研磨して光学顕微鏡にて100倍視野を任意に5視野撮影し、5視野の平均値として求めた。なお、気孔率の解析手法は撮影した写真に対して、画像解析ソフト(例えばImageJ等)を用いて二値化し、観察視野の総面積に対する溶射皮膜気孔面積の比率として求めた。これらの結果を表1に示す。
表1のNo.2,3,5,6,8,9,11,12の試験材及びNo.14,15,17,18,20,21,23,24の試験材は、いずれもアーク溶射またはプラズマ溶射にて犠牲陽極層を成形しているため、O/Alの平均原子比(O/Al比)、平均C原子%(C(at.%))及び犠牲陽極層の気孔率が前記所望の範囲に入っている。その中でも適切な溶射距離により犠牲陽極層を成形したNo.5,6,8,9の試験材及びNo.17,18,20,21の試験材は、各数値がより好ましい値であることが分かる。それに対して、No.1,4,7,10の試験材及びNo.13,16,19,22の試験材は、犠牲陽極層をフレーム溶射で成形したため、O/Al比、C(at.%)及び犠牲陽極層の気孔率が前記所望の範囲から外れていることが分かる。なお、表1おいて、O/Al比、C(at.%)及び気孔率が前記所望の範囲から外れているものには下線を付してある。
ORVの使用環境を再現するため、以下の試験により溶射皮膜溶出挙動の調査(溶射皮膜溶出試験)を行った。図4に示す腐食試験装置100を用い、10mm角に切り出した試験材10をpH8.2、液温0℃、空気飽和に調整した人工海水(株式会社ヤシマ製金属腐食試験用アクアマリン)11に浸漬した。そして、海水の流れを模擬するため、スターラ12により、攪拌子13を1000rpmで回転させた状態で、ポテンショスタット・ガルバノスタット(北斗電工製:HA−151)14、対極15としてPt電極、参照電極16として飽和カロメル電極を用い、各試験材10の自然電位+50mVを240時間印加した。なお、腐食試験装置100には、冷却管19,19内の不凍液17,17に浸漬されたクーラ18,18を備えてあり、また、人工海水11中に空気供給管20から空気を吹き込むようにしてある。
また、試験前後の腐食抵抗比を以下の方法により算出した。電気化学インピーダンス法によって、十分に低周波数(例えば10mHz)と高周波数(10kHz)での電気化学インピーダンスを測定し、その差から得られた腐食抵抗値(Rc)について、試験前の腐食抵抗(Rc0)と、240時間試験後の腐食抵抗(Rc)をそれぞれ測定し、その比(Rc/Rc0)によって求めた。そして、試験前後の腐食抵抗比が1.5以上のものを、腐食抵抗が優良「◎」、1.0以上1.5未満のものを良好「○」、1.0未満のものを不良「×」として評価した。これらの結果を表2に示す。
ORVとして海水中で運転した場合の熱サイクルを含めた環境を再現するため、作製した試験材に対して以下の試験を行った。試験材をpH8.2、液温0℃、空気飽和に調整した人工海水(株式会社ヤシマ製金属腐食試験用アクアマリン)に浸漬し、海水の流れを模擬するためにスターラにより、攪拌子を1000rpmで回転させた状態とした。そして、LNG温度の模擬として、液体窒素に30分間浸漬する工程を10回/週とする工程を1サイクルとする試験を、合計20サイクル実施した。そして、試験終了後の溶射皮膜の膨れ、及び試験前の気孔率に対する気孔増加率、及びAl基材と溶射皮膜の密着力(密着性)の調査を行った。
表2のNo.2,3,5,6,8,9,11,12の試験材及びNo.14,15,17,18,20,21,23,24の試験材は、いずれもO/Al比及びC(at.%)が前記所望の範囲に入っているため、溶射皮膜耐溶出性と腐食抵抗に優れる結果となった。その中でも適切な溶射距離により犠牲陽極層を成形したNo.5,6,8,9の試験材及びNo.17,18,20,21の試験材は、溶射皮膜耐溶出性と腐食抵抗に、より優れる結果となった。それに対して、No.1,4,7,10の試験材及びNo.13,16,19,22の試験材は、いずれもO/Al比及びC(at.%)が前記所望の範囲から外れているため、溶射皮膜溶出性と腐食抵抗に劣る結果となった。なお、表2おいて、質量減率が合格基準を満たさないものには下線を付してある。
表2のNo.2,3,5,6,8,9,11,12の試験材及びNo.14,15,17,18,20,21,23,24の試験材は、いずれも20サイクル終了時点での犠牲防食層の膨れ、気孔増加率、及び密着性に優れる結果となった。その中でも適切な溶射距離により犠牲陽極層を成形したNo.5,6,8,9の試験材及びNo.17,18,20,21の試験材は、犠牲防食層の膨れ、気孔増加率、及び密着性に、より優れる結果となった。それに対して、No.1,4,7,10の試験材及びNo.13,16,19,22の試験材は、いずれもO/Al比及びC(at.%)が前記所望の範囲から外れているため、犠牲防食層の膨れ、気孔増加率、及び密着性に劣る結果となった。
2 伝熱管(熱交換部材)
2a 基材
2b 犠牲陽極層
3 下部ヘッダー管(熱交換部材)
4 上部ヘッダー管(熱交換部材)
5 熱交換パネル
6 トラフ
7 下部マニホールド
8 上部マニホールド
Claims (4)
- 熱源である海水との熱交換によって液化天然ガスを気化させるオープンラック式気化器の熱交換パネルを構成する熱交換部材であって、
アルミニウム合金製の基材と、この基材の外表面に形成したアルミニウム合金からなる犠牲陽極層とを備え、
前記犠牲陽極層は、その最表面から深さ30nmまでの領域における酸素とアルミニウムとの原子比(O/Al)の平均が、1.0以上2.0以下であり、かつ、その最表面から深さ30nmまでの領域におけるCの濃度の平均が、20原子%以下であることを特徴とする熱交換部材。 - 前記酸素とアルミニウムとの原子比(O/Al)の平均が、1.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換部材。
- 前記犠牲陽極層の気孔率が、5〜20面積%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換部材。
- 前記犠牲陽極層が、Zn,Mg,Si,Mnのうちの一種以上を含有するアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の熱交換部材。
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