以下、本発明に係る動力伝達装置の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図1ないし図7は本発明の第1の実施の形態を示し、図中、1は動力伝達装置を示している。ここで、動力伝達装置1は、例えばホイールローダ、ホイール式ショベル等のホイール式建設機械の走行装置に用いられるもので、油圧モータの回転を車輪(ホイール)を駆動するための出力軸に伝達するものである。そして、動力伝達装置1は、後述のケーシング2、入力軸8、駆動歯車11、出力軸12、出力歯車15、中間軸16、中間歯車20、従動歯車21、スラストニードル軸受25、抜止め部材27等を備えて構成されている。
2は動力伝達装置1の外殻をなすケーシングで、該ケーシング2は、前,後方向の前側に位置するフロントケーシング3と、後側に位置するリヤケーシング4とにより大略構成され、全体として中空な箱状をなしている。
ここで、フロントケーシング3の上端側には、後述する入力軸8の前部側を支持する軸支持部3Aが設けられ、フロントケーシング3の上,下方向の中間部には、後述する中間軸16の前部側を支持する軸支持部3Bが設けられ、フロントケーシング3の下端側には、後述する出力軸12の前部側を支持する円筒部3Cが設けられている。
一方、リヤケーシング4の上端側には、入力軸8の後端部を支持する軸支持部4Aが設けられ、該軸支持部4Aはリヤカバー5によって施蓋されている。また、リヤケーシング4の上,下方向の中間部には、中間軸16の後端部を支持する軸支持部4Bが設けられ、リヤケーシング3の下端側には、出力軸12の後部側を支持する円筒部4Cが設けられている。
また、フロントケーシング3の軸支持部3Bは、鍔付き円筒状のフロントカバー6によって施蓋され、該フロントカバー6の円筒部6Aには、中間軸16の前端側が摺動可能に挿通されている。そして、フロントカバー6の前端部には潤滑油導入口6Bが設けられ、該潤滑油導入口6Bに接続されたアダプタ7を通じて、後述する潤滑油通路16C内に潤滑油が供給される構成となっている。また、フロントカバー6の円筒部6Aにはクラッチ圧導入路(図示せず)が設けられ、該クラッチ圧導入路を通じて、後述する環状溝16Dにクラッチ圧油が導入される構成となっている。
8はケーシング2の上端側に回転可能に設けられた入力軸で、該入力軸8は、前部側がころ軸受9を介してフロントケーシング3の軸支持部3Aに支持され、後端部がころ軸受10を介してリヤケーシング4の軸支持部4Aに支持されている。そして、入力軸8の前端部には軸スプライン部8Aが形成され、この軸スプライン部8Aはフロントケーシング3から前方に突出し、走行用の油圧モータ(図示せず)にスプライン結合される構成となっている。
11は入力軸8の軸方向中間部に固定して設けられた駆動歯車で、該駆動歯車11は、入力軸8に一体形成され、該入力軸8と一体に回転するものである。そして、駆動歯車11は、後述の従動歯車21に常時噛合する構成となっている。
12は中間軸16の下側に位置してケーシング2の下端側に回転可能に設けられた出力軸を示し、該出力軸12は、前部側がころ軸受13を介してフロントケーシング3の円筒部3Cに支持され、後部側がころ軸受14を介してリヤケーシング4の軸支持部4Cに支持されている。そして、出力軸12の前,後方向の両端部には、それぞれ接続フランジ12Aが取付けられ、前端側の接続フランジ12Aはフロントケーシング3から前方に突出し、後端側の接続フランジ12Aはリヤケーシング4から後方に突出している。
15は出力軸12の軸方向中間部に固定して設けられた出力歯車で、該出力歯車15は、出力軸12に一体形成され、該出力軸12と一体に回転するものである。そして、出力歯車15は、後述する中間歯車20に常時噛合する構成となっている。
16はケーシング2の上,下方向の中間部に回転可能に設けられた回転軸としての中間軸を示し、該中間軸16は、入力軸8と出力軸12との間に並列に配置されている。ここで、中間軸16は、前部側がころ軸受17を介してフロントケーシング3の軸支持部3Bに支持され、後端部がころ軸受18を介してリヤケーシング4の軸支持部4Bに支持されている。また、中間軸16の中間部には大径部16Aが設けられ、該大径部16Aの外周側には後述のドラム23が固定されている。
一方、中間軸16の内部には、軸方向に延びるクラッチ圧通路16Bと潤滑油通路16Cとが設けられている。ここで、クラッチ圧通路16Bの一端側(前端側)はプラグ19によって閉塞され、クラッチ圧通路16Bの他端側は後述のクラッチ装置24に向けて径方向に延びている。また、中間軸16の前端部外周側には環状溝16Dが全周に亘って凹設され、フロントカバー6の円筒部6Aに設けたクラッチ圧導入路(図示せず)と中間軸16のクラッチ圧通路16Bとが、環状溝16Dを介して連通する構成となっている。さらに、中間軸16の内部には、潤滑油通路16Cから後述のクラッチ装置24、スラストニードル軸受25等に向けて径方向に延びる複数本の潤滑油導出路16Eが設けられている。
20は中間軸16の後部側に固定して設けられた中間歯車で、該中間歯車20は、中間軸16に一体形成され、該中間軸16と一体に回転するものである。そして、中間歯車20は、出力軸12に固定された出力歯車15に常時噛合する構成となっている。
21は中間軸16の前部側に設けられた従動歯車を示し、該従動歯車21は、中間軸16とは別個に回転可能となり、入力軸8の駆動歯車11に常時噛合している。ここで、従動歯車21は、ニードル軸受22を介して中間軸16の外周側に配置され、該中間軸16の軸方向に延びる円筒部21Aと、該円筒部21Aの前端側に固定して設けられ駆動歯車11に常時噛合する歯車部21Bとにより構成されている。
この場合、駆動歯車11と従動歯車21の歯車部21Bとは、互いに噛合した状態で入力軸8と一緒に高速で回転するため、噛合時の騒音を低減すべく、はすば歯車(ヘリカル歯車)によって構成されている。また、従動歯車21の軸方向の端面21Cと中間軸16を支持するころ軸受17との間には、後述するスラストニードル軸受25と抜止め部材27とが設けられる構成となっている。
23は中間軸16の大径部16Aに焼きばめ等の手段を用いて固定された円筒状のドラムで、該ドラム23は、中間軸16と一体に回転するもので、大径部16Aから従動歯車21に向けて軸方向に延びている。そして、ドラム23は従動歯車21の円筒部21Aを外周側から取囲み、従動歯車21の円筒部21Aとドラム23との間には、後述のクラッチ装置24が設けられている。
24は従動歯車21の円筒部21Aとドラム23との間に設けられたクラッチ装置で、該クラッチ装置24は、例えば湿式多板型クラッチからなっている。そして、クラッチ装置24は、中間軸16のクラッチ圧通路16B等を通じてクラッチ圧油が供給されることにより、従動歯車21の円筒部21Aとドラム23との間を接続し、クラッチ圧油の供給が停止されたときには、従動歯車21の円筒部21Aとドラム23との接続状態を解除する。
従って、クラッチ装置24によって従動歯車21の円筒部21Aとドラム23との間が接続されたときには、入力軸8の回転が、駆動歯車11、従動歯車21、ドラム23へと伝わる。これにより、中間歯車20は従動歯車21と一緒に回転し、この中間歯車20の回転が、出力歯車15を介して出力軸12に伝達される構成となっている。
一方、従動歯車21の円筒部21Aとドラム23との接続状態が解除されたときには、入力軸8の回転が駆動歯車11を介して従動歯車21に伝わり、従動歯車21は、ニードル軸受22により中間軸16とは別個に回転する構成となっている。
次に、25は中間軸16の外周側に設けられたスラスト軸受としてのスラストニードル軸受を示し、該スラストニードル軸受25は、従動歯車21と後述する抜止め部材27との間に配置され、従動歯車21からのスラスト荷重を受けるものである。ここで、図2および図3に示すように、スラストニードル軸受25は、軸方向で対面する2枚の環状の軌道輪25Aと、これら各軌道輪25A間に設けられた多数の針状ころ(ニードル)25Bとにより大略構成されている。そして、スラストニードル軸受25の軸方向の一側端面25Cは、従動歯車21の軸方向の端面に当接し、軸方向の他側端面25Dは、後述する各分割リング28の軸受当接部28Bに当接し、スラストニードル軸受25は、中間軸16に対する従動歯車21の円滑な回転を保ちつつ従動歯車21からのスラスト荷重を受ける構成となっている。
26は中間軸16のうちスラストニードル軸受25を挟んで従動歯車21とは反対側に全周溝として設けられた係合溝で、該係合溝26は、中間軸16の外周面を全周に亘って断面コ字状に切欠くことにより、中間軸16と同心円となる環状に形成されている。そして、係合溝26内には、後述する抜止め部材27の各分割リング28が係合する構成となっている。
次に、27は本実施の形態に用いる抜止め部材を示している。この抜止め部材27は、ころ軸受17とスラストニードル軸受25との間に位置して中間軸16に設けられ、スラストニードル軸受25を軸方向に抜止めするものである。ここで、抜止め部材27は、図2ないし図4に示すように、後述する2個の分割リング28と、結束リング29とにより構成されている。
28は抜止め部材27を構成する2個の分割リングで、該各分割リング28は、中間軸16と同心円の半円弧状をなす板状体として形成されている。そして、各分割リング28は、中間軸16に設けた係合溝26に径方向から係合することにより中間軸16の外周側に環状に張出し、スラストニードル軸受25の他側端面25Dに当接してこれを軸方向に抜止めするものである。
ここで、分割リング28は、中間軸16の係合溝26に径方向から係合する溝係合部28Aと、該溝係合部28Aよりも薄肉となって溝係合部28Aのうちスラストニードル軸受25側の部位から径方向外側へと延び、スラストニードル軸受25の他側端面25Dに当接する軸受当接部28Bと、溝係合部28Aのうちスラストニードル軸受25とは反対側の部位から軸方向に突出した部位に設けられたリング嵌合突部28Cとにより、略L字型の断面形状に形成されている。
そして、2個の分割リング28は、それぞれ溝係合部28Aを係合溝26に係合させることにより1枚の環状(円板状)に組合わされ、この状態で、環状に連続したリング嵌合突部28Cに、その軸方向の端面28D側から後述の結束リング29を嵌合させることにより、1枚の環状(円板状)に結束される構成となっている。
この場合、図4および図5に示すように、溝係合部28Aの軸方向寸法(肉厚)A1は、中間軸16に設けた係合溝26の溝幅よりも僅かに小さく設定されている。また、軸受当接部28Bの軸方向寸法A2は、例えば溝係合部28Aの軸方向寸法A1に対して約1/2の寸法に設定され、リング嵌合突部28Cの軸方向寸法A3も、溝係合部28Aの軸方向寸法A1に対して約1/2の寸法に設定されている。
一方、2個の分割リング28を組合わせたときの軸受当接部28Bの外径寸法Bは、例えばスラストニードル軸受25を構成する軌道輪25Aの外径寸法と等しく設定されており、分割リング28の溝係合部28Aが係合溝26に係合した状態で、軸受当接部28Bが、スラストニードル軸受25の軌道輪25Aの内周縁から外周縁までの広い範囲に当接する構成となっている(図6参照)。なお、軸受当接部28Bの外径寸法Bは、必ずしもスラストニードル軸受25(軌道輪25A)の外径寸法と等しく設定する必要はなく、スラストニードル軸受25に対して僅かに大径でも良く、僅かに小径でも良い。
次に、29は2個の分割リング28と共に抜止め部材27を構成する結束リングを示し、該結束リング29は、係合溝26に係合することにより環状に組合わされた2個の分割リング28を結束して一体化するものである。ここで、結束リング29は、1枚の環状の板体として形成され、結束リング29の内周面29Aを、環状に組合わされた2個の分割リング28のリング嵌合突部28Cに軸方向から嵌合させることにより、2個の分割リング28を1枚の円板状に結束する構成となっている。また、図3に示すように、結束リング29のうち分割リング28と対面する端面29Bには径方向に延びる切欠き溝29Cが形成され、該切欠き溝29Cにドライバ等の工具(図示せず)を差込むことにより、各分割リング28と結束リング29との嵌合状態を解除することができる構成となっている。
この場合、結束リング29の軸方向寸法(肉厚)Cは、分割リング28を構成するリング嵌合突部28Cの軸方向寸法A3と略等しく設定され、結束リング29の外径寸法Dは、2個の分割リング28を組合わせたときの軸受当接部28Bの外径寸法Bと略等しく設定されている。これにより、図2および図6に示すように、2個の分割リング28のリング嵌合突部28Cに結束リング29を嵌合したときに、分割リング28のうち軸受当接部28Bとリング嵌合突部28Cとが交わる角隅部に結束リング29を収容することができる構成となっている。
ここで、2個の分割リング28は、それぞれ係合溝26に係合することにより1枚の環状(円板状)に組合わされ、各分割リング28のリング嵌合突部28Cも環状に連続する。この場合、環状に連続したリング嵌合突部28Cの外周面には、結束リング29を嵌合させて保持するために外径寸法が異なる第1,第2の軸用はめあい部28E,28Fが形成されている。
まず、第1の軸用はめあい部28Eは、図4および図5に示すように、リング嵌合突部28Cの突出端側、即ち、リング嵌合突部28Cの軸方向の端面28D側に設けられ、リング嵌合突部28Cの端縁部から外周側に向けて山形に隆起した環状の突起部となっている。そして、第1の軸用はめあい部28Eの外径寸法はE1に設定されている。また、第2の軸用はめあい部28Fは、第1の軸用はめあい部28Eからスラストニードル軸受25に向けて軸方向に延びる一様な平滑面となっている。そして、第2の軸用はめあい部28Fの外径寸法E2は、第1の軸用はめあい部28Eの外径寸法E1よりも小さく設定されている(E2<E1)。
一方、結束リング29の内周面29Aにも、内径寸法が異なる第1,第2の穴用はめあい部29D,29Eが形成されている。
まず、第1の穴用はめあい部29Dは、図4および図5に示すように、結束リング29のうち分割リング28と対面する端面29Bの近傍となる位置に配置され、内周面29Aの端縁部から内周側に向けて山形に隆起した環状の突起部となっている。この場合、第1の穴用はめあい部29Dは、分割リング28のリング嵌合突部28Cに設けた第1の軸用はめあい部28Eに対しては締りばめされ、第2の軸用はめあい部28Fに対しては隙間ばめ、または中間ばめされる構成となっている。
即ち、第1の穴用はめあい部29Dの内径寸法F1は、分割リング28の第1の軸用はめあい部28Eの外径寸法E1よりも小さく設定されている(F1<E1)。
また、分割リング28の第2の軸用はめあい部28Fに対して隙間ばめする場合には、第1の穴用はめあい部29Dは、次の条件により設定されている。即ち、第1の穴用はめあい部29Dの内径寸法F1は、分割リング28の第2の軸用はめあい部28Fの外径寸法E2よりも大きく設定されている(F1>E2)。
一方、分割リング28の第2の軸用はめあい部28Fに対して中間ばめする場合には、第1の穴用はめあい部29Dは、次の条件により設定されている。即ち、第1の穴用はめあい部29Dの内径寸法F1の最小許容寸法F1minは、分割リング28の第2の軸用はめあい部28Fの外径寸法E2の最大許容寸法E2maxよりも小さく設定され(F1min<E2max)、かつ、第1の穴用はめあい部29Dの内径寸法F1の最大許容寸法F1maxは、分割リング28の第2の軸用はめあい部28Fの外径寸法E2の最小許容寸法E2minよりも大きく設定されている(F1max>E2min)。
次に、第2の穴用はめあい部29Eは、第1の穴用はめあい部29Dから結束リング29の端面へと軸方向に延びる一様な平滑面となっている。そして、分割リング28の第1の軸用はめあい部28Eに対して隙間ばめする場合には、第2の穴用はめあい部29Eは、次の条件により設定されている。即ち、第2の穴用はめあい部29Eの外径寸法F2は、第1の軸用はめあい部28Eの外径寸法E1よりも大きく設定されている(F2>E1)。
一方、分割リング28の第1の軸用はめあい部28Eに対して中間ばめする場合には、第2の穴用はめあい部29Eは、次の条件により設定されている。即ち、第2の穴用はめあい部29Eの内径寸法F2の最小許容寸法F2minは、分割リング28の第1の軸用はめあい部28Eの外径寸法E1の最大許容寸法E1maxよりも小さく設定され(F2min<E1max)、かつ、第2の穴用はめあい部29Eの内径寸法F2の最大許容寸法F2maxは、分割リング28の第1の軸用はめあい部28Eの外径寸法E1の最小許容寸法E1minよりも大きく設定されている(F2max>E1min)。
このように、結束リング29に設けた第1の穴用はめあい部29Dは、各分割リング28に設けた第1の軸用はめあい部28Eに対して締りばめされると共に第2の軸用はめあい部28Fに対して隙間ばめまたは中間ばめされ、結束リング29に設けた第2の穴用はめあい部29Eは、各分割リング28に設けた第1の軸用はめあい部28Eに対して隙間ばめまたは中間ばめされる。
これにより、環状に組合わせた各分割リング28のリング嵌合突部28Cに結束リング29を軸方向から嵌合させるときに、結束リング29の第1の穴用はめあい部29Dは、各分割リング28の第1の軸用はめあい部28Eを乗越えた後、第2の軸用はめあい部28Fに嵌合して安定する(図6参照)。これにより、結束リング29は、不用意に分割リング28から離脱することなく、2個の分割リング28を長期に亘って確実に結束しておくことができる構成となっている。
この場合、各分割リング28は、溝係合部28Aの内周面を係合溝26の溝底面26Aに当接させた状態で該係合溝26に係合する構成となっているため、図7に示すように、分割リング28の溝係合部28Aの内周面から第2の軸用はめあい部28Fの外周面までの径方向寸法をG1とし、係合溝26の溝底面26Aの外径寸法をG2とすると、各分割リング28のリング嵌合突部28Cに設けた第2の軸用はめあい部28Fの外径寸法E2は、下記数1によって設定されている。
本実施の形態による動力伝達装置1は上述の如き構成を有するもので、以下、動力伝達装置1を搭載したホイールローダ(図示せず)の走行時における動力伝達装置1の作動について説明する。
まず、走行用の油圧モータ(図示せず)によって入力軸8が回転すると、この入力軸8の回転が駆動歯車11を介して従動歯車21に伝達される。このとき、中間軸16のクラッチ圧通路16Bにクラッチ圧油が導入されると、このクラッチ圧油がクラッチ圧通路16Bからクラッチ装置24に供給され、クラッチ装置24は、従動歯車21の円筒部21Aと中間軸16に固定されたドラム23との間を接続する。
これにより、中間軸16が従動歯車21と一体に回転し、この中間軸16の回転が、中間歯車20から出力歯車15に伝達される。この結果、出力軸12が回転し、ホイールローダを走行させることができる。
一方、クラッチ装置24に対するクラッチ圧油の供給が停止されたときには、従動歯車21の円筒部21Aとドラム23との接続状態が解除され、従動歯車21は、中間軸16とは別個に回転する。
ここで、上述の如き動力伝達装置1の作動時には、入力軸8に設けられたはすば歯車からなる駆動歯車11と、ニードル軸受22を介して中間軸16に取付けられたはすば歯車からなる従動歯車21とが噛合することにより、スラストニードル軸受25に対して従動歯車21からスラスト荷重が作用するため、スラストニードル軸受25を、抜止め部材27によって確実に軸方向に抜止めする必要がある。
これに対し、本実施の形態では、抜止め部材27を、中間軸16と同心円の半円弧状に形成された2個の分割リング28と、これら各分割リング28を環状に組合せた状態で一体に結束する結束リング29とにより構成している。これにより、各分割リング28は、中間軸16の係合溝26に径方向から容易に係合させることができるので、例えば各分割リング28を軸用止め輪のように弾性変形させて係合溝26に係合させる必要がない。
このため、2個の分割リング28を組合わせたときの軸受当接部28Bの外径寸法B(図4参照)を、スラストニードル軸受25を構成する軌道輪25Aの外径寸法と等しく設定することができ、各分割リング28の軸受当接部28Bを、スラストニードル軸受25の軌道輪25Aの内周縁から外周縁までの広い範囲に当接させることができる。
従って、従動歯車21からスラストニードル軸受25に作用するスラスト荷重を、環状に一体化された各分割リング28の軸受当接部28Bの内周側から外周側の広い範囲に亘って確実に支えることができる。この結果、分割リング28と結束リング29とからなる抜止め部材27によって、中間軸16に対しスラストニードル軸受25を確実に抜止めすることができる。しかも、各分割リング28の軸受当接部28Bによって、スラストニードル軸受25を内周縁から外周縁までの広い範囲に亘って支えることにより、スラストニードル軸受25の内周側の剛性と外周側の剛性とを均一化することができる。この結果、スラストニードル軸受25の耐久性を高めることができ、動力伝達装置1全体の信頼性を高めることができる。
また、2個の分割リング28の軸受当接部28Bの外径寸法Bを、スラストニードル軸受25(軌道輪25A)の外径寸法と等しく設定することにより、抜止め部材27とスラストニードル軸受25との間に、スラストニードル軸受25に対応する外径寸法をもった環状のスペーサを設ける必要がない。これにより、このスペーサの軸方向寸法(肉厚)分だけ中間軸16やケーシング2の軸方向寸法を短縮することができ、動力伝達装置1全体の小型化、軽量化を図ることができる。
さらに、本実施の形態では、各分割リング28のリング嵌合突部28Cには、第1,第2の軸用はめあい部28E,28Fを設け、結束リング29の内周面29Aには、第1の軸用はめあい部28Eに対して締りばめされると共に第2の軸用はめあい部28Fに対して隙間ばめまたは中間ばめされる第1の穴用はめあい部29Dと、第1の軸用はめあい部28Eに対して隙間ばめまたは中間ばめされる第2の穴用はめあい部29Eを設ける構成としている。
これにより、環状に組合わせた各分割リング28のリング嵌合突部28Cに結束リング29を軸方向から嵌合させるときに、結束リング29の第1の穴用はめあい部29Dは、各分割リング28の第1の軸用はめあい部28Eを乗越えた後、第2の軸用はめあい部28Fに嵌合して安定する。このため、従動歯車21からのスラスト荷重がスラストニードル軸受25を介して抜止め部材27に作用したとしても、結束リング29に設けた第1の穴用はめあい部29Dが、各分割リング28に設けた第1の軸用はめあい部28Eによって係止される。この結果、動力伝達装置1の作動時に、結束リング29が不用意に各分割リング28から離脱するのを確実に抑えることができ、抜止め部材27の信頼性を高めることができる。
次に、図8ないし図11は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、略T字型の断面形状を有する分割リングを用いたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
図において、31は回転軸としての中間軸を示し、該中間軸31は、上述した第1の実施の形態による中間軸16に代えて本実施の形態に用いたもので、中間軸31の外周側には、ニードル軸受22を介して従動歯車21が相対回転可能に設けられている。
ここで、中間軸31の前端側は、従動歯車21が配置された部位よりも小径な小径部31Aとなっており、この小径部31Aが、ころ軸受13を介してフロントケーシング3の軸支持部3Bに支持されている。また、中間軸31の内部には、クラッチ圧通路31B、潤滑油通路31C、潤滑油導出路31D等が設けられ、小径部31Aの外周側にはクラッチ圧通路31Bに連通する環状溝31Eが全周に亘って凹設されている。
32は中間軸31のうちスラストニードル軸受25を挟んで従動歯車21とは反対側に全周溝として設けられた係合溝で、該係合溝32は、中間軸31と同心円となる環状に形成され、後述する抜止め部材33の各分割リング34が係合する構成となっている。このため、中間軸31のうち小径部31Aと係合溝32との間には、各分割リング34を取付けるための強度を確保する環状の鍔部31Fが形成されている。
次に、33は本実施の形態に用いる抜止め部材を示し、この抜止め部材33は、ころ軸受13とスラストニードル軸受25との間に位置して中間軸31に設けられ、スラストニードル軸受25を軸方向に抜止めするものである。ここで、抜止め部材33は、後述する2個の分割リング34と、結束リング35とにより構成されている。
34は抜止め部材33を構成する2個の分割リングで、該各分割リング34は、中間軸31と同心円の半円弧状をなす板状体として形成されている。そして、各分割リング34は、中間軸31に設けた係合溝32に径方向から係合することにより、スラストニードル軸受25の他側端面25Dに当接してこれを軸方向に抜止めするものである。
ここで、分割リング34は、中間軸31の係合溝32に径方向から係合する溝係合部34Aと、該溝係合部34Aとほぼ等しい肉厚となって溝係合部34Aから径方向外側へと延び、スラストニードル軸受25の他側端面25Dに当接する軸受当接部34Bと、該軸受当接部34Bからスラストニードル軸受25とは反対側に軸方向に突出したリング嵌合突部34Cとにより、略T字型の断面形状に形成されている。
そして、2個の分割リング34は、リング嵌合突部34Cの内周面を中間軸31の鍔部31Fの外周面に当接させた状態で、溝係合部34Aを係合溝32に係合させることにより、1枚の環状(円板状)に組合わされ、この状態で、環状に連続したリング嵌合突部34Cに、その軸方向の端面34D側から後述の結束リング35を嵌合させることにより、1枚の環状(円板状)に結束される構成となっている。
この場合、図10および図11に示すように、溝係合部34Aと軸受当接部34Bの軸方向寸法(肉厚)H1は、中間軸31に設けた係合溝32の溝幅よりも僅かに小さく設定されている。また、リング嵌合突部34Cの軸方向寸法H2は、中間軸31に設けられた鍔部31Fの軸方向寸法とほぼ等しく設定されている(図11参照)。また、2個の分割リング34を組合わせたときの軸受当接部34Bの外径寸法Iは、例えばスラストニードル軸受25を構成する軌道輪25Aの外径寸法と等しく設定されている。
35は2個の分割リング34と共に抜止め部材33を構成する結束リングを示し、該結束リング35は、1枚の環状の板体として形成され、結束リング35の内周面35Aを、環状に組合わされた2個の分割リング34のリング嵌合突部34Cに軸方向から嵌合させることにより、2個の分割リング34を1枚の円板状に結束するものである。また、結束リング35のうち分割リング34と対面する端面35Bには径方向に延びる切欠き溝35Cが形成されている。
この場合、結束リング35の軸方向寸法(肉厚)Jは、分割リング34のリング嵌合突部34Cの軸方向寸法H2と略等しく設定され、結束リング35の外径寸法Kは、2個の分割リング34を組合わせたときの軸受当接部34Bの外径寸法Iと略等しく設定されている。
ここで、各分割リング34を構成するリング嵌合突部34Cの外周面には、結束リング35を嵌合させて保持するために外径寸法が異なる第1,第2の軸用はめあい部34E,34Fが形成されている。
まず、第1の軸用はめあい部34Eは、リング嵌合突部34Cの軸方向の端面34D側に設けられ、リング嵌合突部34Cの端縁部から外周側に向けて山形に隆起した環状の突起部となっている。そして、第1の軸用はめあい部34Eの外径寸法はL1に設定されている。また、第2の軸用はめあい部34Fは、第1の軸用はめあい部34Eからスラストニードル軸受25に向けて軸方向に延びる一様な平滑面となっている。そして、第2の軸用はめあい部34Fの外径寸法L2は、第1の軸用はめあい部34Eの外径寸法L1よりも小さく設定されている(L2<L1)。
一方、結束リング35の内周面35Aにも、内径寸法が異なる第1,第2の穴用はめあい部35D,35Eが形成されている。
まず、第1の穴用はめあい部35Dは、結束リング35のうち分割リング34と対面する端面35Bの近傍に配置され、内周面35Aの端縁部から内周側に向けて山形に隆起した環状の突起部となっている。この場合、第1の穴用はめあい部35Dは、分割リング34のリング嵌合突部34Cに設けた第1の軸用はめあい部34Eに対しては締りばめされ、第2の軸用はめあい部34Fに対しては隙間ばめ、または中間ばめされる。
即ち、第1の穴用はめあい部35Dの内径寸法M1は、分割リング34の第1の軸用はめあい部34Eの外径寸法L1よりも小さく設定されている(M1<L1)。
また、分割リング34の第2の軸用はめあい部34Fに対して隙間ばめする場合には、第1の穴用はめあい部35Dは、次の条件により設定されている。即ち、第1の穴用はめあい部35Dの内径寸法M1は、分割リング34の第2の軸用はめあい部34Fの外径寸法L2よりも大きく設定されている(M1>L2)。
一方、分割リング34の第2の軸用はめあい部34Fに対して中間ばめする場合には、第1の穴用はめあい部35Dは、次の条件により設定されている。即ち、第1の穴用はめあい部35Dの内径寸法M1の最小許容寸法M1minは、分割リング34の第2の軸用はめあい部34Fの外径寸法L2の最大許容寸法L2maxよりも小さく設定され(M1min<L2max)、かつ、第1の穴用はめあい部35Dの内径寸法M1の最大許容寸法M1maxは、分割リング34の第2の軸用はめあい部34Fの外径寸法L2の最小許容寸法L2minよりも大きく設定されている(M1max>L2min)。
次に、第2の穴用はめあい部35Eは、第1の穴用はめあい部35Dから結束リング35の端面へと軸方向に延びる一様な平滑面となっている。そして、分割リング34の第1の軸用はめあい部34Eに対して隙間ばめする場合には、第2の穴用はめあい部35Eは、次の条件により設定されている。即ち、第2の穴用はめあい部35Eの内径寸法M2は、第1の軸用はめあい部34Eの外径寸法L1よりも大きく設定されている(M2>L1)。
また、分割リング34の第1の軸用はめあい部34Eに対して中間ばめする場合には、第2の穴用はめあい部35Eは、次の条件により設定されている。即ち、第2の穴用はめあい部35Eの内径寸法M2の最小許容寸法M2minは、分割リング34の第1の軸用はめあい部34Eの外径寸法L1の最大許容寸法L1maxよりも小さく設定され(M2min<L1max)、かつ、第2の穴用はめあい部35Eの内径寸法M2の最大許容寸法M2maxは、分割リング34の第1の軸用はめあい部34Eの外径寸法L1の最小許容寸法L1minよりも大きく設定されている(M2max>L1min)。
このように、結束リング35に設けた第1の穴用はめあい部35Dは、各分割リング34に設けた第1の軸用はめあい部34Eに対して締りばめされると共に第2の軸用はめあい部34Fに対して隙間ばめまたは中間ばめされ、結束リング35に設けた第2の穴用はめあい部35Eは、各分割リング34に設けた第1の軸用はめあい部34Eに対して隙間ばめまたは中間ばめされる。
これにより、環状に組合わせた各分割リング34のリング嵌合突部34Cに結束リング35を軸方向から嵌合させるときに、結束リング35の第1の穴用はめあい部35Dは、各分割リング34の第1の軸用はめあい部34Eを乗越えた後、第2の軸用はめあい部34Fに嵌合して安定する。これにより、結束リング35は、不用意に分割リング34から離脱することなく、2個の分割リング34を長期に亘って確実に結束しておくことができる構成となっている。
この場合、各分割リング34は、リング嵌合突部34Cの内周面を中間軸31の鍔部31Fの外周面に当接させた状態で、溝係合部34Aが係合溝32に係合する構成となっているため、図11に示すように、分割リング34のリング嵌合突部34Cの内周面から第2の軸用はめあい部34Fの外周面までの径方向寸法をN1とし、中間軸31の鍔部31Fの外径寸法をN2とすると、各分割リング34のリング嵌合突部34Cに設けた第2の軸用はめあい部34Fの外径寸法L2は、下記数2によって設定されている。
本実施の形態による動力伝達装置は、上述の如き抜止め部材33を有するもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
然るに、本実施の形態によれば、抜止め部材33を構成する2個の分割リング34を、中間軸31の係合溝32に係合する溝係合部34Aと、該溝係合部34Aから径方向外側へと延びる軸受当接部34Bと、該軸受当接部34Bから軸方向に突出したリング嵌合突部34Cとにより略T字型の断面形状に形成し、リング嵌合突部34Cの軸方向寸法H2を、中間軸31に設けられた鍔部31Fの軸方向寸法とほぼ等しく設定している。
これにより、軸方向の端部に小径部31Aが設けられた中間軸31のように、小径部31Aと係合溝32との間に、各分割リング34を取付けるための強度を確保する鍔部31Fを設けた場合でも、この鍔部31Fの外周面に各分割リング34のリング嵌合突部34Cの内周面を当接させた状態で、分割リング34の溝係合部34Aを係合溝32に係合させることができる。
このため、各分割リング34の軸方向寸法内に鍔部31Fの軸方向寸法を収めることができ、この分、中間軸31やケーシング2の軸方向寸法を短縮することができるので、動力伝達装置全体の小型化、軽量化を図ることができる。
なお、上述した実施の形態では、従動歯車21からのスラスト荷重を受けるスラスト軸受として、スラストニードル軸受25を用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばスラストころ軸受、スラスト玉軸受等を用いても良い。
また、上述した実施の形態では、例えばエンジンによって駆動される油圧ポンプからの圧油によって油圧モータを回転させ、この油圧モータの回転を出力軸12に伝達する動力伝達装置1を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばエンジンの回転をトルクコンバータによって変換し、このトルクコンバータの回転を出力軸に伝達する動力伝達装置にも適用することができる。
さらに、上述した実施の形態では、ホイール式建設機械の走行装置に用いられる動力伝達装置1を例に挙げたが、本発明はこれに限らず、ケーシング内に、歯車が取付けられた回転軸と、該回転軸を支持する軸受と、該軸受を抜止めする抜止め部材とが設けられた動力伝達装置に広く適用することができる。