以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動変速機の反駆動源側(以下、反駆動源側を後方、駆動源側を前方とする)の構成を示すもので、本体ケース1aと、その後端の開口部を閉塞するエンドカバー1bとを有する変速機ケース1内の後部には、駆動源側から延びる入力軸2上に、径方向の内側から外側に向けて順に重ねられた第1、第2、第3クラッチ10、20、30と、これらのクラッチ10、20、30の前方に配置されたプラネタリギヤセット40と、軸方向に占める領域を該プラネタリギヤセット40が軸方向に占める領域にオーバーラップさせて、該プラネタリギヤセット40の外周側に配置されたブレーキ50とが備えられている。
図2に拡大して示すように、前記第1、第2、第3クラッチ10、20、30は、いずれも、内側回転部材としてのハブ部材11、21、31と、外側回転部材としてのドラム部材12、22、32と、これらの間に軸方向に並べて配設され、ハブ部材11、21、31とドラム部材12、22、32とに交互にスプライン係合された各複数枚の摩擦板13、23、33と、これらの摩擦板13、23、33の並びの後方側に配置されたピストン14、24、34と、これらのピストン14、24、34の背部に設けられた締結室15、25、35とを有し、該締結室15、25、35に締結圧が供給されたときに、ピストン14、24、34が摩擦板13、23、33を押圧してハブ部材11、21、31とドラム部材12、22、32とを結合することにより、クラッチ10、20、30が締結されるようになっている。
また、前記第1、第2、第3クラッチ10、20、30には、ピストン14、24、34を挟んで締結室15、25、35の反対側に、遠心キャンセル室16、26、36が設けられている。
これらの遠心キャンセル室16、26、36は、クラッチ10、20、30の解放時に締結室15、25、35内の油圧に作用する遠心力によりピストン14、24、34が締結方向に押圧されることによる摩擦板13、23、33の引き摺りを防止するためのもので、導入された作動油に作用する遠心力によりピストン14、24、34を解放方向に押圧する押圧力を発生させ、この押圧力により前記締結方向の押圧力をキャンセルするようになっている。
そして、この実施形態に係る自動変速機においては、前記第1、第2、第3クラッチ10、20、30の締結室15、25、35と、キャンセル室16、26、36とは、各クラッチ共通の油室構成部材60を用いて形成されており、次に、これらの油室15、25、35、16、26、36の構成について説明する。
前記変速機ケース1を構成するエンドカバー1bには回転中心線に沿って前方に延びるボス部1cが設けられ、該ボス部1cの外周にスリーブ部材3が嵌合固定されており、前記油室構成部材60は、軸方向に延びる筒部61が前記スリーブ部材3の外周に回転自在に嵌合されることにより、該スリーブ部材3を介して前記エンドカバー1bのボス部1cに回転自在に支持されている。
また、この油室構成部材60は、前記筒部61の後端部から前記エンドカバー1bの前面に沿って径方向外方に延びる縦壁部62を有し、該縦壁部62の外周端に設けられた前方への延設部62aが前記第3クラッチ30のドラム部材32の後端部にスプライン係合されることにより、該ドラム部材32と一体回転するように構成されている。
さらに、この油室構成部材60は、前記縦壁部62の前面の径方向の中間部及び外周部からそれぞれ前方に延びる筒状の第1シリンダ部63及び第2シリンダ部64を備えており、前記筒部61の外周面と第1シリンダ部63の内周面との間に前記第1クラッチ10のピストン14が嵌合され、第1シリンダ部63の外周面と第2シリンダ部64の内周面との間に前記第2クラッチ20のピストン24が嵌合され、前記第2シリンダ部64の外周面と前記縦壁部62の延設部62aの内周面との間に、前記第3クラッチ30のピストン34が嵌合されている。
そして、前記筒部61の外周面と、前記縦壁部62の前面と、前記第1シリンダ部63の内周面と、前記ピストン14の背面とにより、前記第1クラッチ10の締結室15が油密状に形成され、前記縦壁部62の前面と、前記第1シリンダ部63の外周面と、前記第2シリンダ64の内周面と、前記ピストン24の背面とにより、前記第2クラッチ20の締結室25が油密状に形成され、さらに、前記縦壁部62の前面と、前記延設部62aの内周面と、前記第2シリンダ部64の外周面と、前記ピストン34の背面とにより、前記第3クラッチ30の締結室35が油密状に形成されている。
また、前記油室構成部材60の筒部61の外周面の前部にはシールプレート65が装着され、該シールプレート65の後面と、前記筒部61の外周面と、前記ピストン14の前面及び前部内周面とにより、前記第1クラッチ10のキャンセル室16が油密状に形成され、前記第1シリンダ部63の外周面と、その前端部に設けられた外方へ延びる縦壁部63aの後面と、前記ピストン24の前面及び前部内周面とにより、前記第2クラッチ20のキャンセル室26が油密状に形成され、さらに、前記第2シリンダ部64の外周面と、その前端部に設けられた外方へ延びる縦壁部64aの後面と、前記ピストン34の前面及び前部内周面とにより、前記第3クラッチ30のキャンセル室36が油密状に形成されている。
そして、各キャンセル室16、26、36内において、シールプレート65及び第1、第2シリンダ部63、64の縦壁部63a、64aと、ピストン14、24、34との間に、該ピストン14、24、34をクラッチ解放方向に戻すピストンリターンスプリング17、27、37がそれぞれ装着されている。
また、前記油室構成部材60を用いて、前記第1、第2、第3クラッチ10、20、30の締結室15、25、35にそれぞれ締結用作動油を供給する締結用作動油供給路70a、70b、70cと、キャンセル室16、26、36に遠心キャンセル用作動油を供給するキャンセル用作動油供給路80とが設けられている。
まず、図2、図3に示すように、締結用作動油供給路70a、70b、70cは、前記エンドカバー1bのボス部1c内に設けられた軸方向に延びる第1、第2、第3クラッチ用の第1軸方向油路71a、71b、71c(図2に第1クラッチ用の油路71aのみ図示)と、前記スリーブ部材3の外周面に設けられ、連通路72a、72b、72c(同じく第1クラッチ用の連通路72aのみ図示)を介して前記第1軸方向油路71a、71b、71cにそれぞれ連通された周溝73a、73b、73cと、前記油室構成部材60の筒部61内に軸方向に延びるように設けられ、連通孔74a、74b、74cを介して前記周溝73a、73b、73cにそれぞれ連通された第2軸方向油路75a、75b、75cと、前記油室構成部材60の縦壁部62内に径方向に延びるように設けられ、内端部が前記第2軸方向油路75a、75b、75cにそれぞれ連通された径方向油路76a、76b、76と、この径方向油路76a、76b、76cの径方向内周側の所定位置、中間部の所定位置及び外周側の所定位置にそれぞれ軸方向に開設され、前記第1、第2、第3クラッチ10、20、30の締結室15、25、35にそれぞれ開口する開口部77a、77b、77cとで構成されている。
これにより、図示しないコントロールバルブユニットから、締結用作動油供給路70a、70b、70cを介して、第1、第2、第3クラッチ10、20、30の締結室15、25、35にそれぞれ締結用作動油が供給されるようになっている。
また、図1に示すように、第1、第2、第3クラッチ10、20、30のキャンセル室16、26、36に作動油を供給するキャンセル用作動油供給路80は、図示しない作動油冷却油路から導かれ、前記エンドカバー1bのボス部1c内で軸方向に延びる軸方向油路81と、前記スリーブ部材3の外周面に設けられ、第1連通路82を介して前記軸方向油路81に連通された周溝83と、前記油室構成部材60の筒部61に径方向に延びるように設けられ、その内周端が前記周溝83に連通された径方向油路84とで構成され、この径方向油路84の筒部外周面側の開口部が第1クラッチ10のキャンセル室16内を臨んでいる。
そして、前記第1クラッチ10のピストン14の外周部と第1シリンダ部63との嵌合部に、ピストン14側の連通孔と第1シリンダ部63側の連通孔とでなる第1キャンセル室間連通路85が設けられ、また、第2クラッチ20のピストン24の外周部と第2シリンダ部64との嵌合部に、ピストン24側の連通孔と第2シリンダ部64側の連通孔とでなる第2キャンセル室間連通路86が設けられ、前記キャンセル用作動油供給路80によって第1クラッチ10の遠心キャンセル室16に供給された作動油が、前記第1、第2キャンセル室間連通路85、86を介して、外周側に位置する第2クラッチ20の遠心キャンセル室26と、第3クラッチ30の遠心キャンセル室36とに、順次供給されるようになっている。
一方、前記ブレーキ50は、図1に示すように、本体ケース1aの内周面と、その内側に配設されたハブ部材51と、これらの間に軸方向に並べて配設され、本体ケース1aの内周面とハブ部材51とに交互にスプライン係合された複数枚の摩擦板52と、これらの摩擦板52の並びの前方側に配置されたピストン53と、該ピストン53の背部に設けられた締結室54とを有し、該締結室54に締結圧が供給されたときに、ピストン53が摩擦板52を押圧してハブ部材51を本体ケース1aに結合することにより、該ブレーキ50が締結されてハブ部材51が固定されるようになっている。
ここで、前記締結室54は、本体ケース1aの内周面に固定された断面略コ字状のシリンダ部材55内に前記ピストン53を嵌入させることにより形成されている。そして、本体ケース1aに、前記締結室54に外部から締結用作動油を供給するための油路56と、摩擦板52に潤滑油を供給するための油路57とが設けられている。
次に、図2により、前記各クラッチ10、20、30及びブレーキ50の回転部材と他の動力伝達部材との連結関係を説明する。
まず、軸方向に重ねて配置された3つのクラッチ10、20、30のうち、最内周に配置された第1クラッチ10においては、ハブ部材11の内方へ折曲された前端部に径方向の内方に向かって延びる延長部材11’が結合され、該延長部材11’の内周端部が前記油室形成部材60における筒部61の前方を通って入力軸2にスプライン嵌合され、ハブ部材11が常に入力軸2と一体回転するようになっている。
また、第1クラッチ10のドラム部材12と第2クラッチ20のハブ部材21とは、共用の円筒状部品により一体的に形成されており、該円筒状部品の内周面に第1クラッチ10の摩擦板13が、外周面に第2クラッチ20の摩擦板23がそれぞれ係合されている。
そして、この一体化された第1クラッチ10のドラム部材12と第2クラッチ20のハブ部材21とは、前記油室構成部材60の第1シリンダ部63に結合され、該油室構成部材60、及び、第3クラッチ30のドラム部材32を介して前記プラネタリギヤセット40のサンギヤ41に連結されている。
また、第2クラッチ20のドラム部材22は、摩擦板23が係合されたスプライン部の前端部から前記第1クラッチ10のハブ部材11及びその延長部材11’の前方を通って径方向の内方に延びるフランジ部22aを有し、該フランジ部22bの内周端部にスプライン嵌合された動力伝達部材71を介して、図示しない所定の回転要素に連結されている。
また、第3クラッチ30のハブ部材31も、摩擦板33が係合されたスプライン部の前端部から前記第2クラッチ20のドラム部材22におけるフランジ部22aの前方を通って径方向の内方に延びるフランジ部31aを有し、該フランジ部31aの内周端部にスプライン嵌合された動力伝達部材72を介して、図示しない他の所定の回転要素に連結されている。
さらに、第3クラッチ30のドラム部材32は、摩擦板33が係合されたスプライン部の前端部から前記ハブ部材31のフランジ部31aの前方を通って径方向の内方に延びるフランジ部32aを有し、該フランジ部32aの内周端部が、前述のように、前記プラネタリギヤセット40のサンギヤ41に連結されている。
そして、前記ブレーキ50のハブ部材51は、前記プラネタリギヤセット40のリングギヤ42に連結されていると共に、このハブ部材51には、摩擦板52が係合されたスプライン部の後端部から前記第3クラッチ30のドラム部材32におけるフランジ部32aの前方を通って径方向の内方に延びるフランジ部51aが設けられている。
したがって、前記油室構成部材60の筒部61の前端部と、前記プラネタリギヤセット40との間に、いずれも径方向に延びる第1クラッチ10におけるハブ部材11の延長部材11’、第2クラッチ20におけるドラム部材22のフランジ部22a、第3クラッチ30におけるハブ部材31のフランジ部31a及びドラム部材32のフランジ部32a、並びに、ブレーキ50におけるハブ部材51のフランジ部51aが、後方から順に並ぶことになる。
そして、油室構成部材60における筒部61の前端部と前記第1クラッチ10におけるハブ部材11の延長部材11’との間に第1スラスト軸受aが、該延長部材11’と第2クラッチ20におけるドラム部材22のフランジ部22aとの間に第2スラスト軸受bが、該フランジ部22aと第3クラッチ30におけるハブ部材31のフランジ部31aとの間に第3スラスト軸受cが、該フランジ部31aと第3クラッチ30におけるドラム部材32のフランジ部32aとの間に第4スラスト軸受dが、該フランジ部32aとブレーキ50におけるハブ部材51のフランジ部51aとの間に第5スラスト軸受eが、該フランジ部51aと前記プラネタリギヤセット40におけるピニオンキャリヤ43との間に第6スラスト軸受fがそれぞれ配設され、これらのスラスト軸受a〜fにより、前記各部材11’、22、31、32、51の軸方向位置が規制されている。
なお、エンドカバー1bにおけるボス部1cの内周面にラジアル軸受gが装着され、該軸受gを介して入力軸2の後端部がエンドカバー1bに回転自在に支持されている。また、前記ボス部1cに嵌合されたスリーブ3の前端部外周面と油室構成部材60における筒部61の前端部内周面との間にもラジアル軸受hが装着され、該軸受h及びスリーブ3を介して油室構成部材60がエンドカバー1bに回転自在に支持されている。
以上の構成に加えて、この自動変速機においては、前記入力軸2に、軸心に沿って軸方向に延び、後端部がエンドカバー1bに設けられた油溜り1dに開口する潤滑用作動油(以下、「潤滑油」という)の主油路90が設けられていると共に、該主油路90に、入力軸2の外周面に通じ、潤滑油を径方向の外方に向けて流出させる第1、第2、第3…給油孔91、92、93…(図1に第3給油孔93までを図示)が設けられており、これにより、前記第1、第2、第3クラッチ10、20、30の摩擦板13、23、33や、前記軸受a〜f、g、h等に潤滑油を供給する油路が設けられている。
具体的には、前記主油路90の第1給油孔91から、或いは油溜り1d及びラジアル軸受gを経由して潤滑油が供給され、第1スラスト軸受aを通って第1クラッチ10におけるハブ部材11の内側の空間に通じる油路A、主油路90の主として第2給油孔92から潤滑油が供給され、第2スラスト軸受bを通って第1クラッチ10における摩擦板13の前方の空間、及び、第2クラッチ20の摩擦板23の前方の空間に通じる油路B、主油路90の主として第3給油孔93から潤滑油が供給され、第3スラスト軸受cを通って第クラッチ20のドラム部材22と第3クラッチ30のハブ部材31との間の空間に通じる油路C、同じく主油路90の主として第3給油孔93から潤滑油が供給され、第4スラスト軸受dを通って第3クラッチ30における摩擦板33の前方の空間に通じる油路Dが形成されている。
そして、第1クラッチ10のハブ部材11、第1クラッチ10のドラム部材12(第2クラッチ20のハブ部材21)及び第2クラッチ2のハブ部材21、第2クラッチ20のドラム部材22、並びに、第3クラッチ30のハブ部材31には、それぞれ、各部材の摩擦板13、23、33が係合されたスプライン部を径方向に貫通して、その内周面側と外周面側とを連通させる連通孔94、95、96、97がそれぞれ複数個ずつ設けられている。
次に、この実施形態に係る自動変速機の作用を説明すると、まず、第1クラッチ10の締結室15に締結用作動油供給路70aを介して締結圧(締結用作動油)が供給されれば、該第1クラッチ10が締結されてハブ部材11とドラム部材12とが結合され、また、第2クラッチ20の締結室25に締結用作動油供給路70bを介して締結圧が供給されれば、該第2クラッチ20が締結されてハブ部材21とドラム部材22とが結合され、さらに、第3クラッチ30の締結室35に締結用作動油供給路70cを介して締結圧が供給されれば、該第3クラッチ30が締結されてハブ部材31とドラム部材32とが結合される。
また、各クラッチ10、20、30のキャンセル室16、26、36には、キャンセル用作動油供給油路80及び第1、第2キャンセル室間連通路85、86により、常時遠心キャンセル用作動油が供給されており、この作動油に作用する遠心力に基づいてピストン14、24、34を押圧する押圧力により、解放状態のクラッチの締結室内の作動油によるピストンを締結方向に押圧する押圧力がキャンセルされる。これにより、解放状態にあるクラッチの摩擦板の引き摺りが防止され、この引き摺りによる回転抵抗の増大や摩擦板の摩耗等が抑制される。
さらに、この自動変速機においては、前記第1、第2、第3クラッチ10、20、30の摩擦板13、23、33に、入力軸2に設けられた主油路90から潤滑油が供給される。
具体的には、第1クラッチ10の摩擦板13には、主として前記主油路90から油路A及び該第1クラッチ10のハブ部材11に設けられた連通孔94を通って潤滑油が供給される。
また、第2クラッチ20の摩擦板23には、主として前記第1クラッチ10の摩擦板13に供給された潤滑油が、該第1クラッチ10のドラム部材12(第2クラッチ20のハブ部材21)に設けられた連通孔95を通って供給される。
さらに、第3クラッチ20の摩擦板33には、主として前記第2クラッチ20の摩擦板23に供給された潤滑油が、第2クラッチ20のドラム部材22に設けられた連通孔96及び第3クラッチ30のハブ部材31に設けられた連通孔97を通って供給される。
なお、第1、第2クラッチ10、20の摩擦板13、23には、油路Bにより前方からも潤滑油が供給され、第3クラッチ30の摩擦板33には、油路Cから前記第3クラッチ30のハブ部材31における連通孔97を通って潤滑油が供給されると共に、油路Dにより前方からも潤滑油が供給される。
このようにして、各クラッチ10、20、30の摩擦板13、23、33に潤滑油が供給され、クラッチ10、20、30の締結動作中や解放動作中或いはスリップ制御時に、ハブ部材11、21、31に係合された摩擦板13、23、33とドラム部材12、22、32に係合された摩擦板13、23、33とが摺接することによって発生する摩擦熱が逃がされ、これらの摩擦板13、23、33の摩耗や焼き付き等が防止される。
その場合に、前記潤滑油は、軸方向のほぼ同一位置で径方向に重ねて配設された第1、第2、第3クラッチ10、20、30の摩擦板13、23、33に軸心側から外方に向けて供給されるため、単独のクラッチに供給する場合に比べて供給量を多くする必要があり、そのため、最外周に配置された第3クラッチ30のドラム部材32の内側に多量の潤滑油が飛散状態或いは流動状態で集まることになる。
そして、この潤滑油は、前記ドラム部材32が、円筒状のスプライン部のみの形状である場合には、主として軸方向のピストン34が存在しない前方側へ流動し、プラネタリギヤセット40の外周に配置されているブレーキ50側に流れ込むことになる。
しかし、前記ドラム部材32には、スプライン部の前端部から径方向の内方へ延びるフランジ部32aが設けられ、該フランジ部32aが、第1、第2、第3クラッチ10、20、30の配設部位をプラネタリギヤセット40及びブレーキ50の配設部位に対して遮蔽した状態となっており、したがって、第3クラッチ30のドラム部材32の内側に存在する潤滑油がブレーキ50側に流れ込むことがない。
これにより、前記ブレーキ50が解放状態にあるときに、隣接する摩擦板52間に潤滑油が侵入して、これらの摩擦板52の引き摺りを発生させることが抑制され、この引き摺りによるハブ部材51の回転抵抗の増大や、これに起因するエンジンの燃費性能の悪化等が抑制される。
その場合に、前記ドラム部材32のフランジ部32aは、内周部が前記プラネタリギヤセット40の最も内周側に位置するサンギヤ41に連結されているので、該フランジ部32aは、最外周に配置された第3クラッチ30の外周部からプラネタリギヤセット40の最内周部にかけて、径方向の広い範囲でクラッチ10、20、30の配設部位を遮蔽することになる。したがって、前記ブレーキ50側への潤滑油の流れ込みないし摩擦板52の引き摺りがより効果的に抑制される。
次に、図4に示す、本発明の第2実施形態について説明すると、この実施形態は、前記第1実施形態におけるブレーキ50の構成を変更したもので、その他の構成は第1実施形態と同じであり、したがって、ブレーキ以外の構成については第1実施形態の説明で用いた符号と同じ符号を用いて説明する。
第2実施形態に係るブレーキ150も、軸方向に占める領域をプラネタリギヤセット40が軸方向に占める領域にオーバーラップさせて、該プラネタリギヤセット40の外周側に配置され、本体ケース1aの内周面と、その内側に配設されたハブ部材151と、これらの間に軸方向に並べて配設され、本体ケース1aの内周面とハブ部材151とに交互にスプライン係合された複数枚の摩擦板152と、これらの摩擦板152の並びの一方側に配置されたピストン153と、該ピストン153の背部に設けられた締結室154とを有し、前記本体ケース1aに、締結室154に締結圧を供給するための油路156と、摩擦板152に潤滑油を供給するための油路157とが設けられている。
また、前記第1実施形態と同様、前記ハブ部材151のスプライン部の後端部から径方向の内方に延びるフランジ部151aがスラスト軸受e、fに挟まれることにより、該ハブ部材151の軸方向位置が規制されている。
一方、この第2実施形態では、前記第1実施形態と異なり、前記ピストン153が摩擦板152の並びの後方側に配置されており、これに伴い、ピストン153の背部の締結室154、及び該ピストン153が嵌入されることにより締結室154を形成する断面略コ字状のシリンダ部材155も摩擦板152の並びの後方側に配置され、該シリンダ部材155の縦面部155aが、第3クラッチ30のドラム部材32におけるフランジ部32aの外周部前面に対向するように配置されている。
また、前記シリンダ部材155は、軸方向に占める領域を前記ハブ部材151の径方向内方に延びるフランジ部151aが軸方向に占める領域にオーバーラップさせて配設され、このフランジ部151aが、前記第3クラッチ30のドラム部材32におけるフランジ部32aの径方向の中間部から内周部の前面に対向するように配置されていることにより、前記シリンダ部材155の縦面部155aとハブ部材151のフランジ部151aとが、前記第3クラッチ30のドラム部材32におけるフランジ部32aの前面をほぼ覆う状態となっている。
したがって、径方向に重ねられた第1、第2、第3クラッチ10、20、30の配設部位と、ブレーキ150における摩擦板152の配設部位との間が、第3クラッチ30におけるドラム部材32のフランジ部32aと、前記シリンダ部材155の縦面部155a及びブレーキ150のハブ部材151におけるフランジ部151aとにより、二重に遮蔽されることになる。
これにより、第1、第2、第3クラッチ10、20、30の摩擦板13、23、33に供給され、第3クラッチ30におけるドラム部材32の内側に集まる潤滑油が前記ブレーキ150の摩擦板152側へ流れ込むことが一層確実に抑制され、該摩擦板152の引き摺りないしエンジンの燃費性能の悪化等が、より効果的に抑制される。