JP5382994B2 - エポキシ樹脂組成物およびこれを用いた繊維強化複合材料とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、繊維強化複合材料用などのマトリクス樹脂として好適に使用されるエポキシ樹脂組成物およびこれを用いた繊維強化複合材料とその製造方法に関する。
繊維強化複合材料(以下、FRPという場合もある。)を生産する方法として、オートクレーブ成型、真空バック成型、フィラメントワインディング成型、プルトリュージョン成型、レジントランスファーモールディング(RTM)などの成型方法が知られており、目的とする成型物の形状や大きさ、生産数などにより適宜選択されている。この中でもRTMは、強化繊維材としてのプリフォームを型内に装填した後、例えばエポキシ樹脂などの液状の樹脂を注入、硬化し、FRPを得るものであり、複雑な形状の成型物を容易に、かつ低コストで成型できる利点を持ち、特に航空構造部材の成型方法として最近注目されている。
しかし、RTMではプリフォームに樹脂を含浸させる必要があるため、用いられる樹脂の粘度特性により生産性や成型物の品質が大きく影響されやすい。そのためRTMに用いられる樹脂には、プリフォームに含浸する間、低い粘度を長時間維持することが求められる。
また、RTMに用いられる樹脂の保存形態としては、主剤と硬化剤を別々に保管し、成型の直前に所定の配合量で混合し、その後成型を行う2液型のものが主流である。しかし、2液型の場合では成型の直前で配合を行う必要があるため、配合に手間が掛かるだけでなく、配合時の計量ミスにより硬化物(成型物)の物性不良を引き起こす可能性がある。このため、樹脂には予め主剤と硬化剤を所定の配合量で混練した形態、いわゆる1液型での製品提供が求められている。この1液型の樹脂は主剤と硬化剤を予め混練しているため、室温で保管している間に反応が進行しやすいので、貯蔵安定性を保つ必要がある。1液型の樹脂に貯蔵安定性を持たせる方法として、室温で固形の硬化剤を粉体にして配合する方法が一般的である。しかし、目の細かいプリフォームに樹脂を含浸する際には固形成分(硬化剤)のみが濾し取られるため、局所的な硬化剤の配合比が変り硬化物(成型物)の物性低下や外観不良を引き起こすという問題があった。
ところで、航空機構造部材には高い耐熱性と靭性を両立することが求められる。これらの物性を発現するためには、FRPに用いられるエポキシ樹脂に高い耐熱性と靭性を持たせればよい。しかし、一般的に耐熱性と靭性を合わせもつエポキシ樹脂は粘度が高いので、RTMに適用するためには、エポキシ樹脂を高い温度に保持して粘度を低下させた後にプリフォームに含浸させる必要がある。
ところが、エポキシ樹脂は高い温度で保持される間に反応が始まってしまうため、エポキシ樹脂の注入中に樹脂粘度が上昇するといった問題があった。このように、成型途中における樹脂粘度上昇が大きいと、プリフォームへの含浸に非常に時間が掛かってしまうだけでなく、成型物の品質を良好にするために必要な成型時の諸条件、例えば樹脂の注入圧や真空圧、樹脂注入口の位置などの設定が非常に難しくなるといった問題があった。
そこで、これらの問題を解決するために、特許文献1では特殊骨格を持つエポキシ樹脂を配合したエポキシ樹脂組成物が開示されている。該エポキシ樹脂組成物を用いることにより、1Pa・s以下の粘度を2時間維持でき、ボイドの少ない成型物を得ることができる。
特開平9−137044号公報
しかしながら、特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物では、目の細かいプリフォームを用いた場合に硬化剤が濾別されるといった不具合が発生する問題がある。
また、近年では生産効率を向上させるために、樹脂には更に低い粘度を長時間保持できることが求められている。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、1液型の保存形態でありながら貯蔵安定性を低下させることなく、低い粘度を長時間保持可能であり、かつ耐熱性と靭性が高く、さらにはRTMによる成型時に硬化剤の濾別を低減するエポキシ樹脂組成物およびこれを用いた繊維強化複合材料とその製造方法を目的とする。
本発明者等は、鋭意検討した結果、エポキシ樹脂に含まれる加水分解性塩素の濃度を低下させることにより、加熱時の粘度安定性を良好にし、低い粘度を長時間保持可能とすることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のエポキシ樹脂組成物は、加水分解性塩素の濃度が1000ppm以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、平均粒径が0.5μm以下であり、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、2〜15質量部の架橋ゴム微粒子(B)と、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1molに対して、アミノ基由来の活性水素量が0.4mol〜1.5molとなる量のジアミノジフェニルスルフォン(C)とを含有することを特徴とする。
ここで、前記ジアミノジフェニルスルフォン(C)を、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)に溶解してなることが好ましい。
また、本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、前記エポキシ樹脂組成物を加熱し、該エポキシ樹脂組成物に含まれるジアミノジフェニルスルフォン(C)を溶解して樹脂液を得、型内に保持した強化繊維材に前記樹脂液を含浸した後に加熱して前記樹脂液を硬化することを特徴とする。
さらに、本発明の繊維強化複合材料は、前記エポキシ樹脂組成物と、強化繊維材とを含有することを特徴とする。
本発明のエポキシ樹脂組成物によれば、1液型の保存形態でありながら貯蔵安定性を低下させることなく、低い粘度を長時間保持することが可能となる。
また、本発明の繊維強化複合材料によれば、耐熱性と靭性が高まる。
また、本発明の繊維強化複合材料の製造方法によれば、RTMによる成型時に硬化剤の濾別を低減できる。
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、架橋ゴム微粒子(B)と、ジアミノジフェニルスルフォン(C)とを含有する。
[エポキシ樹脂組成物]
<ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)>
本発明に用いられるビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、加水分解性塩素の濃度が1000ppm以下であり、700ppm以下が好ましい。さらに好ましい範囲は300〜650ppmである。加水分解性塩素の濃度が1000ppm以下であることにより、特に加熱時の粘度安定性が優れ、低い粘度を長時間保持可能となる。なお、加水分解性塩素の濃度は、ASTM D−1726に準拠した測定により求められる。
また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)の平均エポキシ当量は、170〜200g/eqが好ましく、更には170〜185g/eqであれば、加熱時の粘度をより低く抑えることができるため好ましい。なお、平均エポキシ当量は、JIS K−7236に準拠した測定により求められる。
このようなビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることで、加熱時の粘度上昇を抑えることができ、特に硬化剤である後述のジアミノジフェニルスルフォン(C)が溶解する温度領域においても粘度の安定性に優れる。このため、後述するようにRTMによる成型においてジアミノジフェニルスルフォン(C)を加熱溶解した後にプリフォームへの樹脂含浸を行うことができ、ジアミノジフェニルスルフォン(C)の濾別を低減しつつRTMによる成型が可能となる。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、各エポキシ樹脂メーカから様々な商品が市販されており、例えば、一般的な低エポキシ当量のビスフェノールA型エポキシ樹脂として、JER828(ジャパンエポキシレジン株式会社製)、エピクロン850(大日本インキ化学工業株式会社製)、EXA−850CRP(大日本インキ化学工業株式会社製)などがあり、特に加水分解性塩素濃度の少ないビスフェノールA型エポキシ樹脂として、RE−310S(日本化薬株式会社製)、エピクロン850S(大日本インキ化学工業株式会社製)、エピクロン840S(大日本インキ化学工業株式会社製)、DER331(ダウ・ケミカル日本株式会社製)があり、エポキシ当量と加水分解性塩素濃度とが共に低いビスフェノールA型エポキシ樹脂として、YL980(ジャパンエポキシレジン株式会社製)、EXA−850CRP(大日本インキ化学工業株式会社製)、DER332(ダウ・ケミカル日本株式会社製)を例示することができる。
これらの中で、特にYL980、EXA−850CRP、DER332が好ましく用いられるが、本発明においては、これらのビスフェノールA型エポキシ樹脂に限定されない。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)の含有量は、エポキシ樹脂組成物100質量%中、50〜90質量%が好ましく、60〜80質量%が好ましい。含有量が上記下限値未満であると、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の耐熱性、靭性等の物性低下を引き起こす他、相対的にエポキシ樹脂組成物中の固形成分が増えることにより、プリフォームへの樹脂含浸時に固形成分の濾別を引き起こしやすくなる。一方、含有量が上記上限値を超えると、硬化物の耐熱性、靭性等の物性低下を引き起こす。
<架橋ゴム微粒子(B)>
本発明で用いられる架橋ゴム微粒子(B)は、平均粒径が0.5μm以下である。ゴムの種類は制限されず、例えばブタジエンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、NBR,SBR,IR,EPRなどのゴムが用いられる。中でも架橋アクリルゴム微粒子は、耐衝撃性の改良効果が大きく、少ない配合量で効果を得やすいため好適である。
架橋ゴム微粒子(B)の平均粒径は、0.05〜0.5μmであることがプリフォームに対して含浸良好となり好ましく、より好ましくは0.05〜0.3μmである。平均粒子径が0.5μmを超えると含浸不良が起こり易くなり好ましくない。一方、0.05μm未満であるとエポキシ樹脂組成物の粘度の上昇が顕著になったり、架橋ゴム微粒子(B)の分散性が悪化する場合があるので好ましくない。
架橋ゴム微粒子(B)の配合量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100質量部に対して2〜15質量部であり、7〜10質量部が好ましい。配合量が2質量部以上であれば、十分な耐衝撃性が得られる。一方、配合量が15質量部以下であれば、エポキシ樹脂組成物の粘度が適度な値となり、加えてエポキシ樹脂組成物を硬化させた際、十分な弾性率を得ることができ、FRPの物性が良好となるので好ましい。
<ジアミノジフェニルスルホン(C)>
本発明で用いられるジアミノジフェニルスルホン(C)は、硬化剤として使用される。
ジフェニルジアミノスルフォン(C)の配合量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1molに対して、ジフェニルジアミノスルフォン(C)のアミノ基由来の活性水素量が0.4mol〜1.5molであり、0.8mol〜1.3molが好ましい。活性水素量が0.4mol未満であると、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の耐熱性や靭性が著しく低下するため好ましくない。一方、活性水素量が1.5molを超えても硬化物の耐熱性や靭性が著しく低下するため好ましくない。
ジフェニルジアミノスルフォン(C)の粒子径は、10μmのメッシュを通過する粒子径であれば、後述するようにジフェニルジアミノスルフォン(C)を溶解する際の作業時間が短縮できるので好ましい。また、このようなジフェニルジアミノスルフォン(C)であれば、プリフォームとして3次元織物など折り目に隙間の多いものを用いた場合、ジフェニルジアミノスルフォン(C)を溶解しなくとも濾別を低減しつつエポキシ樹脂組成物をプリフォームに含浸できるため好ましい。
<その他>
本発明においては、必要に応じて脱泡剤や湿潤剤などの添加剤を加えてもよい。これらの添加剤を加えることにより、エポキシ樹脂組成物中の空気が抜けやすくなり、プリフォームとの濡れ性が改善されやすくなる。さらには、エポキシ樹脂組成物の粘度を低下させることができるため、ボイドの少ない高品質な繊維強化複合材料を得ることができる。
添加剤の配合量は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100重量部に対して5重量部以下が好ましい。
<エポキシ樹脂組成物の調製方法>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上述した各成分((A)〜(C))と、必要に応じて添加剤とを計量し、混合することによって得られる。また、エポキシ樹脂組成物を加熱してジアミノジフェニルスルホン(C)をビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)に溶解させるのが好ましい。その際、予めジアミノジフェニルスルホン(C)を3本ロール混錬機、プラネタリーミキサーなどにより、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)および架橋ゴム微粒子(B)中に分散させておくと、ジアミノジフェニルスルホン(C)の溶解時間が短縮できるので好ましい。
なお、架橋ゴム微粒子(B)は、エポキシ樹脂組成物の調製時に他の成分や添加剤と共に混合してもよいが、架橋ゴム微粒子(B)が予めビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)に分散されたマスターバッチ型の架橋ゴム微粒子分散エポキシ樹脂を用いると、各成分の混合時間を大幅に短縮することができ、好ましい。このようなマスターバッチ型の架橋ゴム微粒子分散エポキシ樹脂としては、BPF307、BPA328(株式会社日本触媒製)などの市販品が挙げられる。
<エポキシ樹脂組成物の物性>
(粘度)
このようにして得られる本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン(C))が溶解可能な温度またはそれよりも高い温度にて、200cP以下の粘度を2時間以上保持することが可能となる。これにより、後述するようにエポキシ樹脂組成物を加熱して硬化剤を溶解した後に、容易にプリフォームへの含浸を行うことができ、硬化剤の濾別を低減しつつRTMを行うことができる。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、200cP以下の粘度にて2時間保持可能な温度での最高粘度と最低粘度の比(増粘率:最高粘度/最低粘度)が3.0倍以下であることが望ましく、2.5倍以下であることがより望ましい。粘度上昇が3.0倍以下であれば、RTMによる成型時間を短く出来るだけでなく、成型上の諸条件の設定が容易となるため好ましい。
(耐熱性)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化して得られる硬化物のG’Tgを180℃以上とすることが可能である。G’Tgが180℃以上であれば、エポキシ樹脂組成物は高い耐熱性を示し、例えば航空機構造材料用として幅広い部材に適用可能となる。
ここで、G’Tgとは、DMA測定により得られるガラス転移温度のひとつで、貯蔵弾性率G’を温度に対してプロットし、logG’のガラス転移温度よりも低い温度領域での近似直線と、G’の転移温度領域での近似直線との交点から求められるガラス転移温度のことである。
(靭性)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化して得られる硬化物の破壊靭性値(GIc)を400J/m以上とすることが可能である。GIcが400J/m以上であれば、後述するRTMにより得られるFRPの破壊靱性が高くなるため、航空機構造部材としてより薄い厚みでの構造設計を行うことが可能であり、軽量化が図れるため好ましい。
なお、GIcは、ASTM D505に準拠したSENB(single edge noched bend)試験法により求められる。
<エポキシ樹脂組成物の用途>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤が溶解可能な温度またはそれよりも高い温度にて200cP以下の粘度を2時間保持可能であるため、RTMに用いた際の生産性が高い。また、このエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物は耐熱性及び靭性に優れるため、FRPへの使用に最適である。なお、エポキシ樹脂組成物の用途にはこれに限らず、例えば電子材料用封止材、塗料、接着剤など広範囲の用途に使用できる。
[繊維強化複合材料]
本発明の繊維強化複合材料は上述したエポキシ樹脂組成物と強化繊維材(プリフォーム)を含有する。
<強化繊維材>
本発明に用いられる強化繊維材には特に制限はなく、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維、ボロン繊維、スチール繊維などが挙げられる。これら強化繊維材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、好ましくは炭素繊維を使用する。
強化繊維材の形態としては、トウの形態、製織した織物の形態、チョップドファイバーの形態、マット形態などが挙げられる。中でも織物の形態が取り扱い性の点から好ましい。
強化繊維材として炭素繊維を用いた場合、エポキシ樹脂組成物の含有量は、繊維強化複合材料100質量%中、20〜60質量%が好ましい。含有量が上記下限値未満であると、繊維強化複合材料の成型後のボイドが発生しやすくなる。一方、含有量が上記上限値を超えると、繊維強化複合材料の引張り、圧縮などの強度が低下する傾向にある。
<繊維強化複合材料の製造方法>
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、まず、エポキシ樹脂組成物を加熱し、ジアミノジフェニルスルホン(C)がビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)に溶解した樹脂液を調製する。エポキシ樹脂組成物の加熱温度は70〜120℃が好ましい。
次いで、予め型内に保持した(積層した)強化繊維材に、先に得られた樹脂液を含浸させた後、加熱して樹脂液を硬化させる。硬化温度は140〜200℃が好ましい。また、硬化時間には制限はないが、好ましくは1〜5時間である。このような範囲であると、短時間、低コストで十分に硬化させることができる。
繊維強化複合材料の成型方法としては、例えば上述したように樹脂液を強化繊維材に含浸させたものを、オートクレーブ成型、真空バッグ成型、プレス成型などにより硬化し、成型する方法が挙げられる。中でも、オートクレーブ成型が好ましい。
このようにして得られる繊維強化複合材料は、150℃におけるG’の保持率が70%以上であれば、高温環境下での圧縮強度などの物性を発現しやすいため好ましい。
また、用途にも特に制限はなく、テニスラケット、ゴルフシャフトなどの汎用品に使用できるが、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料は耐熱性、耐衝撃性が良好であり、生産時の生産効率にも優れるため、特に航空機用部品への使用に最適である。
以上説明したように、エポキシ樹脂として、樹脂中に含まれる加水分解性塩素が低濃度のビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)を用いることにより、低い粘度を長時間保持できる。また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)は、硬化剤であるジアミノジフェニルスルホン(C)が溶解する温度領域においても安定性に優れるため、ジアミノジフェニルスルホン(C)を溶解させて用いることができ、1液型の保存形態であってもエポキシ樹脂組成物を強化繊維材に含浸させ、RTMにより成型する際に生じるジアミノジフェニルスルホン(C)の濾別を低減できる。
さらに、架橋ゴム微粒子(B)を特定量用いることにより、靭性が高いエポキシ樹脂組成物を提供できる。
また、このようなエポキシ樹脂組成物を用いることにより、航空機用部品などの航空用途にも十分使用できる繊維強化複合材料を低コストで効率的に提供できる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ここで、実施例に用いた各成分を以下に示す。
・A−1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂「ER332」(ダウ・ケミカル日本株式会社製、加水分解性塩素濃度:300ppm、エポキシ当量:174g/eq)。
・A−2:ビスフェノールA型エポキシ樹脂「JER828」(JER株式会社製、加水分解性塩素濃度:1200ppm、エポキシ当量:189g/eq)。
・AB−1:マスターバッチ型の架橋ゴム微粒子分散エポキシ樹脂「エポセットBPA328」(株式会社日本触媒製、加水分解性塩素濃度:1200ppm、エポキシ当量:189g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部に対して、粒子径0.3μmのアクリルゴム微粒子20質量部を分散配合させた樹脂。)。
・C−1:ジアミノジフェニルスルフォン「セイカキュアS微粉砕グレード」(和歌山精化工業株式会社製)。
・O−1:脱泡剤「BYK−A530」(ビックケミー・ジャパン株式会社製)。
<各種評価および測定方法>
(硬化剤溶解可能温度の判定)
エポキシ樹脂組成物約1gを2枚のガラスプレートに挟み、100℃に予熱したホットプレートの上に乗せ、加熱した。30分経過後に光学顕微鏡にてガラスプレートに挟まれたエポキシ樹脂組成物を観察し、硬化剤の粒がほぼ溶解しているか観察を行った。加熱温度は100℃程度から測定を初め、硬化剤の溶解が見られるまで10℃ずつ温度を上昇させて同様の観察を行い、硬化剤がほぼ溶解して見られた温度を、硬化剤溶解可能温度とした。
なお、ゴム微粒子など、硬化剤以外の成分により樹脂組成物が白濁して硬化剤の溶解挙動が確認できない場合には、ゴムを抜いた以外は同じ樹脂組成物を調製し、測定した溶解可能温度を、ゴム成分を含んだ場合の樹脂組成物の溶解可能温度と見なした。
(粘度の測定)
レオメーターDSR200(レオメトリクス社製)を用い、エポキシ樹脂組成物の粘度を以下のようにして測定した。
直径40mmのパラレルプレートを用い、パラレルプレート間にエポキシ樹脂組成物を厚みが0.5mmになるように挟持し、角速度10ラジアン/秒の条件で上記の硬化剤溶解可能温度にて2時間の粘度測定を行った。2時間の粘度測定において、200cP以下で粘度保持できない場合は測定温度を10℃ずつ上げて粘度測定を行った。
200cP以下の粘度で2時間保持可能であるものを○、保持不可能であるものを×で評価した。
また、200cP以下の粘度で2時間保持可能な温度を判定温度とし、そこで示す最低粘度と最高粘度の比(最高粘度/最低粘度)を、200cP以下の粘度で2時間保した後の増粘率とした。
200cP以下の粘度で2時間の保持が不可能であったエポキシ樹脂組成物については、硬化剤の溶解可能温度以上の温度条件において、最高粘度が最も低かった時の温度を判定温度とし、該判定温度で示す最低粘度と最高粘度の比を増年率とした。
(耐熱性の測定)
まず、厚さ2mmのポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス(2mm厚)の間にエポキシ樹脂組成物を注入し、180℃、3時間の硬化条件で加熱硬化し、加熱硬化樹脂板を得た。
得られた加熱硬化樹脂板から試験片(長さ60mm×幅12mm×厚み2mm)を切り出し、レオメーターRDA700(レオメトリクス社製)を用い、測定周波数1.56Hz、昇温速度5℃/ステップ、保持時間1分の条件で、貯蔵弾性率G’を測定した。G’を温度に対して対数プロットし、logG’の平坦領域の近似直線と、G’が転移する領域の近似直線との交点から求まるガラス転移温度をG’Tgとして記録した。
(破壊靱性GIcの測定)
試験片の作製、及び試験はASTM D5045に準拠したSENB(single edge noched bend)試験法に基き実施した。
耐熱性の測定と同様の方法にて製造された加熱硬化樹脂板を、長さ27mm×幅3mm×厚み6mmの試験片に加工した。次いで、湿式ダイヤモンドカッターにてノッチを入れ、MEKにて脱脂した剃刀をノッチの先端に押しつけながらスライドさせて、プリクラックを作成した。加工した試験片は万能試験機(インストロン社製)にて破壊靱性試験を行った。
[実施例1]
<エポキシ樹脂組成物の調製>
表1に示した配合量(質量部)の各成分を計量し、ハイブリッドミキサーHM−500(株式会社キーエンス製)を使用して均一に混合し、3本ロール混錬機により、硬化剤を分散させエポキシ樹脂組成物を得た。
エポキシ樹脂組成物の調製に用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂の加水分解性塩素濃度をASTM D−1726に準拠した測定により、また、平均エポキシ当量をJIS K−7236に準拠した測定により各々求めた。結果を表1に示す。
<評価>
得られたエポキシ樹脂組成物の各評価および測定を行った。結果を表1に示す。
[実施例2〜4、比較例1〜3]
表1に示すように、成分と配合量を変化させた以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、各評価および測定を行った。結果を表1に示す。
Figure 0005382994
表1から明らかなように、実施例のエポキシ樹脂組成物は、耐熱性と靭性が高く、200cP以下の粘度にて2時間保持可能であり、増粘率が低かった。
一方、比較例1のエポキシ樹脂組成物は、架橋ゴム微粒子を含まないため、靭性が実施例に比べて低かった。
比較例2のエポキシ樹脂組成物は、架橋ゴム微粒子を含まず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の加水分解性塩素濃度が1200ppmであるため、靭性が実施例に比べて低く、増粘率も高かった。
比較例3のエポキシ樹脂組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の加水分解性塩素濃度が1200ppmであるため、増粘率が実施例に比べて高かった。
このように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、優れた耐熱性と靭性を示すこと、200cP以下の粘度を2時間保持可能であること、粘度上昇(増粘率)を抑制することを、同時に満たすものであった。
[実施例5]
<樹脂液の調製>
実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物をセパラブルフラスコに投入し、攪拌棒をスリーワンモーターにて回転させることにより、樹脂組成物を攪拌しながら、該樹脂組成物の温度を120℃に設定してオイルバス中で1時間攪拌し、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン)の溶解を行い、樹脂液を調製した。
<繊維強化複合材料の製造>
得られた樹脂液を用いて、繊維強化複合材料の成型を行った。成型には擬似的なレジンインフュージョン成型を用い、図1に示す成型バックにて以下のようにして製造した。
強化繊維材(プリフォーム)として、炭素繊維織物(TR3110、三菱レイヨン株式会社製)1を用いた。型2内に炭素繊維織物1を10枚積層し、レジンコンテントが35wt%になるよう樹脂液3を計量し、炭素繊維織物1と共に成型バック内に配置した。次いで、755mmHg以上の真空度で引き口4より真空引きを行いながら、図2に示す硬化プロファイルに従って、オートクレーブを用いた擬似インフュージョン成型を実施し、炭素繊維織物を用いた繊維強化複合材料(CFRP)を製造した。なお、図2に示す硬化プロファイルにおいて、昇温途中で90℃の温度を保持することにより、まず、炭素繊維織物1に樹脂液3を含浸させ、次いで、180℃にて2時間保持することにより、樹脂液3を硬化させた。
成型バックは、図1に示すようにシールテープ5、耐熱テープ6、ゴムダム7、SUSプレート8、不織布9、バギングフィルム10が備わっており、耐熱テープ6には2cm間隔の穴11が押しピンにより開けられている。
<評価>
得られたCFRPの外観を目視した。
また、耐熱性の評価を実施例1と同様にして行った。さらにCFRPの評価においては150℃におけるG’の測定値を30℃におけるG’の測定値で割った値を150℃におけるG’保持率として求めた。
これらの結果を表2に示す。
[参考例1]
実施例1で用いたエポキシ樹脂組成物を用い、硬化剤を溶解させない以外は実施例5と同様にCFRPを成型し、評価および測定を行った。結果を表2に示す。
Figure 0005382994
表2より明らかなに、実施例5で得られたCFRPは、良好な外観を示した。また、ガラス転移温度は194℃であり、150℃におけるG’の保持率は77%と良好な数値であった。
一方、参考例1で得られたCFRPは、エポキシ樹脂組成物中の硬化剤(ジアミノジフェニルスルフォン)がプリフォーム表面で濾別されたために、樹脂供給面から見てプリフォームの裏側まで樹脂が行き渡らない、いわゆる「樹脂枯れ」の外観を示した。また、ガラス転移温度は190℃であり十分な耐熱性を示したが、150℃におけるG’の保持率は30%であった。
本発明のエポキシ樹脂組成物は硬化後の耐熱性、靭性が高い。また、硬化剤が溶解可能な温度においても低い粘度を長時間保持することが出来るために、RTMによる成型時に硬化剤の濾別を低減できる。このため、RTM用のマトリックス樹脂としての優れた性能を発現することが出来る。さらに、貯蔵安定性が求められる1液型での保存形態が可能である。
こうして得られた繊維強化複合材料は、航空機用部品などの航空用途を始めとした幅広い各種産業用途で好適に利用できる。
本発明の実施例で用いたCFRPの成型バックの一例を示す構成図である。 本発明の実施例で用いたCFRP成型時の硬化プロファイルの図である。
符号の説明
1:プリフォーム、2:型、3:樹脂液。

Claims (4)

  1. 加水分解性塩素の濃度が1000ppm以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)と、平均粒径が0.5μm以下であり、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、2〜15質量部の架橋ゴム微粒子(B)と、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1molに対して、アミノ基由来の活性水素量が0.4mol〜1.5molとなる量のジアミノジフェニルスルフォン(C)とを含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
  2. 前記ジアミノジフェニルスルフォン(C)を、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(A)に溶解してなることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
  3. 請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物を加熱し、該エポキシ樹脂組成物に含まれるジアミノジフェニルスルフォン(C)を溶解して樹脂液を得、型内に保持した強化繊維材に前記樹脂液を含浸した後に加熱して前記樹脂液を硬化することを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物と、強化繊維材とを含有することを特徴とする繊維強化複合材料。
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