JP5374541B2 - エレベーター用非常停止装置の制動子、エレベーター用非常停止装置及びエレベーター - Google Patents
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Description
このような高温の環境下でも安定した制動力を得るために、材料の選択アプローチとして制動子のガイドレールとの摺接部の摩擦材の材料として耐熱材料であるセラミックスを摩擦材に適用したものが提案されている。
制動する場合は一対の制動子でガイドレールを両側から挟み込んで制動力を発生させるが、落下していく乗りかごを徐々に減速させていく過程で、複数個並べられた摩擦材のうち先頭の摩擦材は常に温度の低いガイドレールの新しい面と摩擦するためにレール材料の硬度が高く、このため後続の摩擦材に比べて大きな摩擦力が発生する傾向にある。
一方、後続の摩擦材は先頭の摩擦材で摩擦されてガイドレール温度が高くなりガイドレール表面が軟化することによって先頭の摩擦材に比べて摩擦係数が低くなり、摩擦熱も先頭側の摩擦材に比べて低くなる傾向にある。
この結果、摩擦材とガイドレールが片当たりして安定して制動子をガイドレールに押し付けることが困難になるといった課題が生じ、安定した制動力が得られなくなるといった不具合を発生する。
実際には、上述した考え方に基づいてエレベーターの非常停止装置の製品仕様に合わせて摩擦材の構造や材料及び支持体の構造や材料を選択できるものである。
乗りかご11が上下動する昇降路の両側には、乗りかご11の昇降をガイドし、かつ制動子と協働して乗りかご11の意図しない下降を防ぐためのガイドレール13が設置されている。このガイドレール13は乗りかご11の両側に対抗するように一対配置されている。
制動子15はU字状の弾性体16に固定されたガイド部材17に対向配置されており、ガイド部材17と制動子15の相補的な動きによって制動子15がガイドレール13に強く押圧されてブレーキ作用が発生する構成となっている。そして、非常停止装置14は筐体等の構造物の詳細を簡略して図示しているが、実際にはU字状の弾性体16は筐体で覆われている。
また、制動子15の支持体21の背面部23は上方が狭くなるくさび状の平滑な傾斜面になっている。
制動子15、案内板24、ガイド部材17及び弾性体16は筐体28内に収容されており、また、制動子15の上端には非常停止装置14を駆動させるための駆動手段が有する引き上げ棒が接続されている。尚、図示しない調速機ロープの下降速度が設定速度を超えたことを調速機で検出すると、この検出信号によって駆動手段が作動して引き上げ棒等の引き上げ手段で制動子15を引き上げてブレーキ作用を行わせるものである。
これによって、制動子15とガイドレール13との間で摩擦によるブレーキ作用が働き、乗りかご11が徐々に減速して停止するものである。
所定の減速度でかごを停止させるための必要な制動力Fは一本の制動子について、
F=4μN=m×(a+g)
で表される。
また、下降速度が速くなると制動子15とガイドレール13間の摩擦係数が小さくなるので、下降速度が高速域ほど軽い落下荷重でも制動力が多く必要となるので多段化することが必要になる。
例えば、落下荷重25,000kgの仕様で5.88m/s2の減速度で停止するのに必要な制動力は392kNになる。μ=0.2,最大押付力Fmaxが400kNとすると1段組みでは72kNの制動力不足となり、2段組み化が必要となる。
尚、市場での台数が最も多い低層ビル向けの30〜240m/minの速度域では、1段組みで十分である。
この場合、上下の非常停止装置はそれぞれの筐体28を締結ネジ41で締結して一体化構成としている。また、上下の制動子15の上端には2段組み非常停止装置を駆動させるための駆動手段によって引き上げ棒が引きあげられ、ほぼ同時に上下の制動子15が引上げられてガイドレール7を挟み組むようになっている。よって、約8倍の制動力を得ることができ、高速或いは大容量エレベーターに対応できるようになるものである。
ここで、2段組みの非常停止装置の場合は先頭側の非常停止装置の先頭側の摩擦材については後述する本発明の考え方を適用すれば十分な場合が多い。
他方の長辺は下端面部54の短辺が上端面部53の短辺より長く延長されており、矢視方向から見て台形となるように寸法が決められ、正面部22と対向する傾斜した背面部23が形成されている。このため支持体21は矢視方向で見て台形状の面を有する四角柱となっている。
そして、第1摩擦材51、第2摩擦材52は支持体21の正面部22の表面から外側に向けて突出した状態で固定されており、ガイドレール13とは第1摩擦材51、第2摩擦材52が両側から摺動するようになっている。
第1摩擦材51は下降方向に対して支持体21の先頭側に固定され、第2摩擦材52は第1摩擦材51の後続側に固定されている。第1摩擦材51は第2摩擦材52に比べ高熱伝導率になるように構成されている。
ここで、セラミックス繊維の熱伝導を高くするには、例えば繊維を結晶化した焼結構造にすることで達成できるが、このほかにも周知の方法で熱伝導率を高めたセラミックス繊維を用いても良いことはいうまでもない。
そして、本実施例で使用する摩擦材は基本的には主としてSiCの焼結構造からなる無機繊維であって少なくとも1種の金属原子を含有する無機繊維である。また繊維間には炭素を主成分とする境界層が形成されている。
このようなセラミックス繊維からなる摩擦材の熱伝導率を所望の値に調整して高熱伝導率の第1摩擦材51と低熱伝導率の摩擦材52を得ることができる。この場合の熱伝導率はもちろん実際に使用されるエレベーターの仕様に基づいて適切に調整/選択されることはいうまでもない
尚、熱伝導率を調整する摩擦材としてはセラミックス繊維を開示したが、上記に限らずそのほかの適切な材料を用いて本発明の摩擦材として用いることはなんらさしつかえないものである。
各摩擦材51,52の基本構成について図6を用いて説明する。図6は各摩擦材51,52の材料であるセラミックスシートブロック61の外観を示しており、セラミックスシートブロック61を構成する一枚の単位セラミックスシートはセラミックス繊維を絡み合わせたり、撚って糸として布状に織り込んで構成されている。
図6(a)はセラミックスシートブロック61の上面図であり、上述したようにセラミックス繊維を撚った縦糸62と横糸63を交互に織った平織りのシート状の織物にし、これを上述したように複数枚重ね合わせてブロック状のセラミックスシートブロック61としている。したがって、セラミックス繊維が占める割合が高くても互いに織り込むことによって機械的強度を確保できる。
図6(b)はセラミックスシートブロック61を裁断した時の側断面図であり、断面は縦糸62の断面を横糸63縫うように並んで配列されている。これは、いわゆる平織りと称されるもので縦糸と横糸とを交互に浮き沈みさせた織物である。
尚、繊維の織り方によっては、図示した構造とは異なり、綾織り(縦糸が横糸の上を2又は3本、横糸の下を1本交差させた織物),しゅす(朱子)織り(縦糸と横糸とを交互に浮き沈みさせ、どちらかの糸の浮きを少なくした織物)と呼ばれる織り方を採用しても良いし、繊維を織らずに絡み合わせたシート状の不織布でも良いものである。
図6(c)はセラミックシートブロック61を裁断して摩擦材51,52を切り出した状態のものを示している。この図からわかるようにガイドレール13と摺接する上面が裁断断面64とされている。
また、ファインセラミックスを母材としたものに比べて、バインダと称する硬度の低いつなぎ材が含まれることで全体的な見かけ上の硬度も低くなっている。例えば、窒化ケイ素の硬度が約1400HVであるのに対し、単位セラミックスシートの硬度は換算値で約1000HV(100HS)である。
各摩擦材51,52にセラミックスシートブロック61を用いることで、エレベーターの高速化や積載量が大型化しても摺動時の摺動熱による摩擦材3の軟化や焼き付きを防ぎ所定の制動力を確保できる。
図9は、制動試験を行ったときの支持体の時間に対する温度変化を示した図である。セラミックス繊維からなる摩擦材を縦方向に複数個支持体に埋め込んだ制動子を用いた場合の結果である。この場合、摩擦材の熱伝導率は全て同じもので試験を行い、温度計測位置は埋め込んだ摩擦材底面近傍の支持体とし、熱電対を支持体に埋め込んで計測した。
曲線91は支持体21の先頭側に埋め込んだ摩擦材底面近傍の支持体温度変化を示し、曲線92は支持体の後続側の温度変化を示している。
この図から後続側の第2摩擦材52の近傍付近の支持体温度よりも先頭側の第1摩擦材51の近傍付近の支持体温度のほうが高いことが分かる。
先頭側の第1摩擦材51による摩擦熱が多く発生するのは、前述したようにレールの新しい面(温度が低い側)と摩擦するために摩擦係数が大きくなることに起因すると考えられる。
図10は、摩擦材の表面温度の解析結果を時刻歴で示した図である。解析条件は、制動開始速度1100m/min、制動質量15,000kgを約5.88m/s2の平均減速度で制動させる場合とした。
ここで、総発生熱量は制動エネルギーが全て熱エネルギーに変換されたと仮定した場合は約6.7MJとなり、この熱量の一部が各摩擦材51,52、ガイドレール13に流れることになる。
曲線101は先頭の第1摩擦材51の表面温度変化を示し、曲線102はその後側(先頭から2番目であり以下では後続と称する)の第2摩擦材52の表面温度変化を示している。
この図から後続側の第2摩擦材52の温度よりも先頭側の第1摩擦材51の温度のほうが高いことが分かる。ここで、図中の破線103は各摩擦材51、52の耐熱温度限界を示しており約1400℃前後である。
したがって、耐熱温度を超える先頭の第1摩擦材51では摩擦材の材料が軟化して摩擦力が低下したり、或いは極度に摩耗してしまうことになり、所定の減速度を確保するのは困難になる恐れがある。
図11(a)図には摩擦材表面の最高温度を示しており、摩擦材の熱伝導率を3W/mkに対して80W/mkと高くした場合は摩擦材表面の最高温度が1700℃から800℃まで低下していることが分かる。また、図11(b)図には支持体21の最高温度を示しており、解析位置は図10と同様に熱伝対を摩擦材底面近傍に埋め込んで測定したもので、摩擦材の熱伝導率を3W/mkに対して80W/mkと高くした場合は支持体21の温度は170℃から450℃に上昇している。
このため、一般的な支持体21を使用する前提にたつと、支持体21は鋳鉄等の金属系のものが使用されるので、摩擦材51、52であるセラミックスよりも線膨脹係数が大きく熱変形が大きくなる。よって、安易に全ての各摩擦材51,52の熱伝導率を高めると支持体21が熱変形して各摩擦材51、52とガイドレール13とが片当たりして摩擦力が低下したりして所定の減速度を確保するのが困難となる恐れがあるといった副作用を生じる。
図12(a)図は先頭側の第1摩擦材51と後続側の第2摩擦材52が同じ熱伝導率でしかも低熱伝導の摩擦材を使用した場合の熱の流れを示している。通常では各摩擦材51、52からの熱は支持体21に流れる際に矢印121で示すように拡散していく。
しかしながら、各摩擦材51,52の熱伝導率が低いため支持体21に流れる熱がさほど多くなく各摩擦材51,52の温度上昇を抑えることが難しい。このため、特に先頭側の第1摩擦材51の温度が高くなり先に述べた材料強度の低下を招くようになる。
しかしながら、各摩擦材51、52が上下に隣接して配されているため各摩擦材51,52からの熱の流れが隣接部分で交錯して旨く拡散出来ず支持体21に熱が溜まりやすい傾向にある。よって各摩擦材51,52の熱伝導率を高くすれば熱が多く移動して、摩擦材51,52の温度上昇は抑えられるが、逆に支持体21に流れる熱量が多くなり、また熱の流れの交錯から支持体21の温度上昇が高まり高温になる恐れが高い。
図13に示す配置例の場合は、最後尾の熱伝導率の低い第2摩擦材52と間に配置した次段の第1摩擦材51bの間隔L2に比べて先頭側の第1摩擦材51aと次段の第1摩擦材51bの間隔L1を長く取るのが好ましい。
また、第1摩擦材51aと第1摩擦材51bは高熱伝導率を有するので支持材21に多くの熱が流入する。しかしながら、支持材21に流れた直後の熱が上下方向に拡散する際に、第1摩擦材51aと第1摩擦材51b同士で挟まれた部分では間隔が狭いと上下から流れてくる熱が溜まってしまい温度上昇しやすくなるが、本実施例のように第1摩擦材51aと第1摩擦材51bの間隔が広く取られていると熱拡散しやすくなり、支持体21全体としてみると支持体21の温度上昇を抑えることができる。
この構造を採用することによってガイドレール13との間で発生した摩擦材51の熱は支持体21との中間層にある摩擦材52に流れて蓄熱されるので摩擦材51の摺動面温度の上昇は抑えられ、かつ摩擦材52は低熱伝導率のため支持体21に流れる熱は少なくなり支持体21の温度上昇も抑えることができる。
本実施例では摩擦材として単位セラミックスシートを重ねたセラミックスシートブロックを用いているが、本実施例の材料に限らずにファインセラミックス材を組み合わせて使用しても問題ない。ファインセラミックスの場合は脆いため応力集中しにくい円柱形状にして使用するのが望ましい。
尚、実際には、上述した考え方に基づいてエレベーターの非常停止装置の製品仕様に合わせて摩擦材の構造や材料及び支持体の構造や材料を選択できるものである。
Claims (6)
- 支持体と、前記支持体の制動面側で前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とを配置したエレベーター用非常停止装置の制動子であって、
前記第1の摩擦材は下降方向から見て少なくとも先頭段とこれに続く次段の2段に設けられ、この先頭段と次段の第1の摩擦材同士の配置間隔が前記次段の第1の摩擦材と後続側の前記第2の摩擦材の配置間隔より長く設定されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。 - 支持体と、前記支持体の制動面側で前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とを配置したエレベーター用非常停止装置の制動子であって、
前記第1摩擦材はガイドレールと接触する側と前記支持体に接触側の間で少なくとも2層に形成され、前記ガイドレールに接触する側の摩擦材は前記支持体に接触する側の摩擦材より熱伝導率が高いことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。 - 請求項1或いは請求項2に記載に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、
前記第1の摩擦材の厚さは前記第2摩擦材の厚さよりも厚いことを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。 - 請求項1或いは請求項2に記載のエレベーター用非常停止装置の制動子において、
前記支持体の下降方向に向かう先端部面に凹凸部を有する冷却面が形成されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置の制動子。 - 水平方向に拡開可能なU字形に形成された弾性体と、前記弾性体の両端部内面に互いに対向して取付けられ、対向面の下部が外側に向けて傾斜した一対のガイド部材と、前記ガイド部材間に前記ガイド部材の傾斜面に沿って上下動自在に、かつ前記ガイド部材の間にあるガイドレールを中心にして互いに対向して配置された垂直方向に延びる制動面を有する一対の制動子と、前記制動子にそれぞれ取付けられ非常時に前記制動子を前記ガイド部材に沿って上方に引き上げるための引上げ手段を備えたエレベーター用非常停止装置であって、
前記制動子が、支持体と、前記支持体の制動面側に配置され、前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とから構成され、前記第1の摩擦材は下降方向から見て少なくとも先頭段とこれに続く次段の2段に設けられ、この先頭段と次段の第1の摩擦材同士の配置間隔が前記次段の第1の摩擦材と後続側の前記第2の摩擦材の配置間隔より長く設定されていることを特徴とするエレベーター用非常停止装置。 - 水平方向に拡開可能なU字形に形成された弾性体と、前記弾性体の両端部内面に互いに対向して取付けられ、対向面の下部が外側に向けて傾斜した一対のガイド部材と、前記ガイド部材間に前記ガイド部材の傾斜面に沿って上下動自在に、かつ前記ガイド部材の間にあるガイドレールを中心にして互いに対向して配置された垂直方向に延びる制動面を有する一対の制動子と、前記制動子にそれぞれ取付けられ非常時に前記制動子を前記ガイド部材に沿って上方に引き上げるための引上げ手段を備えたエレベーター用非常停止装置を一つの乗りかごに少なくとも2台設け、下降方向から見て先頭側のエレベーター非常停止装置の前記制動子が、支持体と、前記支持体の制動面側に配置され、前記支持体の下降方向からみて少なくとも、先頭側に所定の熱伝導率を有する摩擦材料からなる第1の摩擦材と、これに続く後続側に前記第1の摩擦材よりも熱伝導率が低い摩擦材料からなる第2の摩擦材とから構成されていることを特徴とするエレベーター。
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