JP5374275B2 - 補強パネル、柱の補強構造および補強方法 - Google Patents
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特許文献1に記載された補強構造は、補強パネルを各々断面L字形の4つのピースに分割し、各ピース同士を継手鋼板を介して溶接接合することで、柱の四周を補強パネルで囲むように構成されている。
このような壁付き柱に対して特許文献1に記載された従来の補強パネルを用いる場合には、壁と干渉するために柱全体を補強パネルで囲むことが困難であり、柱全体を補強パネルで囲むためには、壁の一部または全部を柱から切除する必要が生じ、大掛かりな施工となって工期の長期化やコストの増大などを招くことになってしまう。
また、壁に対しては、接合手段のボルトまたはアンカーを挿通するための孔を設けるだけでよいので、壁を切断して除去する必要がないため、大掛かりな施工が不要になって短工期化ならびに低コスト化を図ることができる。また、壁を除去しないことから、当初からの壁付き柱としての剛性および耐力を維持したままで、補強パネルによる補強効果を付加することができる。さらに、ボルトまたはアンカーやナットと壁側補強面との間に補強プレートを介挿することで、この補強プレートを介してボルトおよびナットの締め付け力が壁側補強面に伝達されるので、壁に設ける貫通孔の位置が多少ずれた場合でも、締め付け力を適切に伝達することができ、柱と補強パネルとの一体性を確保することができる。
補強パネルを柱側補強部材と壁側補強部材とに分けて別体としたことで、それぞれに要求される耐力や剛性に応じて板厚や断面形状などを適宜に設定することができ、各部材における無駄を省いて低コスト化を促進させることができる。さらには、柱側補強部材および壁側補強部材を互いに連結することにより、補強パネルの強度が確保できる。ここで、柱側補強部材と壁側補強部材とを連結する方法としては、溶接やボルト締めなど、適宜な接合方法が利用可能である。
なお、本発明の補強パネルにおいて、前記補強プレートが、厚さが32mm以上の鋼板で形成されていることが望ましい。
このような構成によれば、第1面、第2面を有した断面略L字形の壁側補強部材を用いるか、または第1面、第2面、第3面を有した断面略Z字形の壁側補強部材を用いることで、柱本体に対する壁の取り付き位置に応じて適宜な壁側補強部材を選択することで、壁付き柱の形状に柔軟に対応した補強を実施することができる。また、断面略L字形の壁側補強部材における第2面、または断面略Z字形の壁側補強部材における第3面を、柱側補強部材に連結すればよい。従って、柱本体と壁との収まりに応じて壁側補強部材を適宜に変更するとともに、共通の柱側補強部材と連結するだけで、任意の壁付き柱に対応可能となり、補強パネルの汎用性を向上させることができる。
このような構成によれば、補強プレートと柱側補強面との間隔寸法を補強プレートの板厚寸法以下に設定し、補強プレートが柱側補強面から離れて設けられることを防止することで、壁側補強面の変形を抑制することができ、柱と補強パネルとの一体性を高めて補強パネルによる柱の拘束効果を向上させることができる。
このような構成によれば、壁にボルト挿通孔を設ける際に、壁内部の鉄筋等によってボルト挿通孔の位置が若干ずれた場合であっても、壁側補強面の第1挿通孔がボルトまたはアンカーの軸径よりも所定寸法だけ大きな孔径を有して形成されていることから、位置ずれしたボルトまたはアンカーのずれを吸収して第1挿通孔に挿通することができる。さらに、補強プレートの第2挿通孔を所定距離だけ偏心した位置に設けたことで、位置ずれしたボルトまたはアンカーに応じて補強プレートをその平面内で回転させることで、補強プレートと壁側補強面との位置ずれを最小限に抑えつつ、かつ補強プレートと壁側補強面との接触面積を確保することができる。従って、補強プレートを介して壁側補強面に接合したボルトまたはアンカーとナットの締め付け力を適切に伝達して柱と補強パネルとの一体性を確保することができる。
さらに、本発明の補強パネルでは、前記壁側補強部材は、当該壁側補強部材を補強する補強リブを有して形成されていることが好ましい。
このような構成によれば、補強プレートを厚く形成したり、壁側補強部材に補強リブを設けたりすることで、補強プレートあるいは壁側補強部材の剛性および強度を高めることができ、この補強プレートを介したボルトおよびナットの締め付け力をより確実に壁側補強面および壁に伝達することができるようになり、柱と補強パネルとの一体性および補強パネルによる拘束力を高め、その補強効果をより一層向上させることができる。
また、本発明の柱の補強方法は、柱本体と当該柱本体から側方に延びる壁とを有した壁付き柱を補強するための柱の補強方法であって、前記いずれかの補強パネルの柱側補強面で前記柱本体を囲むとともに、前記補強パネルの壁側補強面を接合手段によって前記壁に接合してから、前記柱側補強面と柱本体との間に充填材を充填することを特徴とする
このような構成によれば、前述した補強パネルと同様に、柱本体に対する拘束力を高めて補強効果を向上させることができるとともに、大掛かりな施工が不要になって短工期化ならびに低コスト化を図ることができる。
なお、第2実施形態以降において、次の第1実施形態で説明する構成部材と同じ構成部材、および同様な機能を有する構成部材には、第1実施形態の構成部材と同じ符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。
図1および図2において、本発明の補強対象である柱Cは、矩形断面を有した柱本体C1と、この柱本体C1から側方に延びる壁Wとを有した壁付き柱であって、例えば、建物の構造体や橋脚などとして過去に構築された既設の柱Cである。このような既設の柱Cに対して本実施形態の補強構造は、柱本体C1の周囲を囲んで柱側補強部材(柱側補強面)としての複数の補強パネル1を設け、柱本体C1近傍における壁Wの両面を挟んで壁側補強部材(壁側補強面)としての壁接続パネル2を設けるとともに、柱本体C1と補強パネル1との隙間に充填材としての無収縮モルタル3を充填することによって構成されている。複数の補強パネル1は、それぞれ柱本体C1の各側面および四隅に対応して各角部を覆うように断面略L字形に形成されるとともに、壁Wの取り付いていない柱本体C1の三側面において、補強パネル1同士が互いに溶接などにより連結され、壁Wの取り付いた柱本体C1側面において、補強パネル1と壁接続パネル2とが溶接などにより連結されている。また、壁接続パネル2は、接合手段5(ボルト51、ナット52および座金53)を介して壁Wに接合されている。
次に、本発明の第2実施形態に係る柱の補強構造を図4〜図6に基づいて説明する。
本実施形態の補強構造では、前記第1実施形態と比較して柱Cにおける壁Wの取り付き位置と、壁接続パネルの構造およびそれに連結される補強パネルの形状とが相違するものの、他の構成は第1実施形態と略同様である。以下、相違点について詳しく説明する。
本実施形態の補強対象である柱Cにおいて、壁Wは、柱本体C1の1つの角に接近した位置に偏心して設けられている。そして、壁Wが接近した位置に設置される補強パネル1Aは、前記補強パネル1のように断面略L字形ではなく、直線状に形成されている。そして、柱本体C1の角に接近した側の壁W面に固定される壁接続パネル2Aは、前記壁接続パネル2のように断面略L字形ではなく、断面略Z字形に形成されている。なお、壁接続パネル2Aと反対側の壁W面には、第1実施形態と同様に断面略L字形の壁接続パネル2が固定されている。
すなわち、柱本体C1の角に接近した位置に偏心して壁Wが取り付く場合であっても、断面略Z字形の壁接続パネル2Aを用いて補強パネル1Aを連結することで、柱Cの略全周を囲んで補強パネル1,1Aを連続的に設置することができる。従って、柱Cの形状に応じて適宜な壁接続パネル2,2Aを選択することで、壁付き柱の形状に柔軟に対応した補強を実施することができる。
次に、参考例として、本発明に含まれない第3実施形態に係る柱の補強構造を図7に基づいて説明する。
本実施形態の補強構造では、前記第1、2実施形態と比較して補強パネルに柱側補強面と壁側補強面とが一体形成される点が相違している。以下、相違点について詳しく説明する。
本実施形態の補強パネルのうち、壁Wが取り付く柱本体C1の側面および角に対応して設けられる補強パネル1Bは、柱本体C1の2側面に沿った断面略L字形の柱側補強面12と、この柱側補強面12に連続して折り曲げられて壁Wの側面に沿った壁側補強面13とを有して形成されている。壁側補強面13には、ボルト51を挿通させる第1挿通孔14が形成され、壁側補強面13の先端には、座金53を保持する折返し部15が形成されている。第1挿通孔14は、前記第1挿通孔24と同様に、ボルト51の軸径よりも所定寸法だけ大きな、例えば、ボルト51の軸径に対して2倍程度の内径を有して形成されている。
すなわち、柱側補強面12と壁側補強面13とが一体に形成された補強パネル1Bを用いて、その壁側補強面13を接合手段5によって壁Wに接合することで、前記第1、2実施形態のような壁接続パネル2,2Aが不要にでき、部材点数を削減することができ、施工時の取付作業手間も軽減させることができる。
図8は、本発明の実施例としての壁接続パネル2および座金53を示す断面図および側面図である。この壁接続パネル2は、板厚寸法が9mmの熱間圧延鋼板(SS490)をプレス加工により成形したもので、壁に接合される第1面21の幅寸法が150mmとされ、柱の側面に沿う第2面22の幅寸法が224mmとされている。また、第1面21には、直径57mmの第1挿通孔24が、第2面22の表面から76mmの位置を中心として形成され、第2面22の表面から第1挿通孔24の縁までの距離が47.5mmとされている。一方、座金53は、板厚寸法が32mmの熱間圧延鋼板(SS490)から矩形板状に形成され、その上下の長さ寸法が130mmとされ、左右の幅寸法が110mmとされている。座金53に形成される第2挿通孔54は、その直径が29mmであって、57mm座金53の上下方向の中心(左右の縁から65mm)で、かつ左右方向の中心(上下の縁から55mm)から一辺側に7.5mmだけ偏心した位置に形成されている。このような第1挿通孔24および第2挿通孔54には、前記ボルト51としてM27(軸径27mm)のボルトが挿通されるようになっている。
ここで、解析モデルおよび解析条件としては、図8に示すように、壁接続パネル2の第2面22から最も離れた位置に座金53を設置した状態において、壁接続パネル2の第1面21側を引っ張り、その引っ張り荷重を漸増させていくFEM解析を実施し、第2面22の基端部と壁との離隔距離を変位として横軸に、引っ張り荷重を縦軸にして各モデルの荷重−変形関係を図9に示す。
実施例としては、前記図8に示す壁接続パネル2(板厚寸法:9mm)および座金53(板厚寸法:32mm)を用い、第2面22と座金53の端縁との間隔寸法xを28.5mmに設定した。図9では、実施例の解析結果を三角印で示す。
比較例1は、大きい座金の板厚寸法が9mmで小さい座金の板厚寸法が24mmであり、比較例2は、大きい座金の板厚寸法が16mmで小さい座金の板厚寸法が16mmであり、比較例3は、大きい座金の板厚寸法が19mmで小さい座金の板厚寸法が19mmであり、比較例4は、大きい座金の板厚寸法が9mmで小さい座金の板厚寸法が9mmであり、比較例5は、大きい座金の板厚寸法が9mmで小さい座金の板厚寸法が16mmである。
以上から、座金の厚さ寸法に関し、実施例のように板厚寸法を32mmとした場合や、比較例1〜3のように大小2枚の座金を合わせた板厚寸法として、それぞれ33mm、32mm、38mmとした場合において、これらの板厚寸法以下の28.5mmに間隔寸法xを設定しておくことで、剛性および耐力が確保できることが解った。一方、比較例4、5のように大小2枚の座金を合わせた板厚寸法として、それぞれ18mm、25mmとした場合において、これらの板厚寸法を間隔寸法xが超えると、剛性および耐力の確保が困難であることが解った。
従って、座金の板厚寸法を大きくするのみならず、座金53の端縁と壁接続パネル2の第2面22との間隔寸法xを小さくする、つまり座金53をできるだけ(座金53の板厚寸法以下に)第2面22側(柱本体C1側)に近づけることで、壁接続パネル2の変形を抑制することができ、補強パネル1による拘束効果を向上させる点で有効であるという知見を得た。
例えば、前記実施形態では、断面矩形状の柱本体C1に壁Wが取り付いた壁付きの柱Cを例示したが、本発明の補強対象である壁付き柱は、柱本体が矩形断面のものに限らず、円形断面の柱でもよく、また他の多角形状の断面を有した柱であってもよい。さらに、柱本体に対して複数の壁が取り付いてもよいし、壁は、柱の全長に渡って取り付く壁に限らず、垂れ壁や腰壁などの柱の全長に対して部分的に取り付く壁であってもよい。さらに、壁が柱の側面に対して傾斜して取り付いてもよく、この場合には、壁の傾斜角度に応じて壁接続パネル2,2Aや壁側補強面13の形状を変形させればよい。また、壁は、柱の片側のみに取り付くものに限らず、柱の両側や隣り合う側面など複数の側面に壁が取り付いて構成されていてもよい。このように複数の壁が柱に取り付く場合において、各壁の取り付く位置は、各壁ごとに任意に設定可能であり、前記第1および第2実施形態のいずれの形態であってもよい。
具体的には、壁接続パネル2Bは、厚さが9mm程度でSS400などの熱間圧延鋼板を用いてプレス加工により成形されるとともに、第1面21と第2面22とに渡って2枚の補強リブ28が溶接固定されている。このような補強リブ28を設けることで、壁接続パネル2Bによる接合手段の締め付け力を確実に伝達することができ、座金の厚さ寸法を例えば、前記実施形態の32mm程度から9mm程度まで薄くすることができるようになっている。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
Claims (9)
- 柱本体と当該柱本体から側方に延びる壁とを有した壁付き柱を補強するために、前記柱本体を囲んで前記柱本体に対する拘束力を確保する補強パネルであって、
前記柱本体の側面に沿う柱側補強面と、前記壁の側面に沿う壁側補強面と、当該壁側補強面と前記壁とを接合する接合手段とを備え、
前記接合手段は、前記壁を貫通するボルトまたはアンカーと、このボルトまたはアンカーに螺合するナットと、これらのボルトまたはアンカーあるいはナットと前記壁側補強面との間に介挿される補強プレートとを有して構成され、
前記柱側補強面と壁側補強面とは、互いに別体で構成された柱側補強部材と壁側補強部材とで構成され、前記柱側補強部材および壁側補強部材が互いに連結されていることを特徴とする補強パネル。 - 請求項1に記載の補強パネルにおいて、
前記補強プレートが、厚さが32mm以上の鋼板で形成されていることを特徴とする補強パネル。 - 請求項1または請求項2に記載の補強パネルにおいて、
前記壁側補強部材は、
前記壁の側面に沿うとともに前記接合手段を介して当該壁に接合される第1面と、この第1面から折れ曲がって前記柱本体の側面に沿う第2面とを有して形成されるか、または
前記壁の側面に沿うとともに前記接合手段を介して当該壁に接合される第1面と、この第1面から折れ曲がって前記柱本体の側面に沿う第2面と、この第2面から折れ曲がって前記柱本体の他の側面に沿う第3面とを有して形成されていることを特徴とする補強パネル。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の補強パネルにおいて、
前記補強プレートと前記柱側補強面との間隔寸法は、当該補強プレートの板厚寸法以下に設定されていることを特徴とする補強パネル。 - 請求項1から請求項4のいずれかに記載の補強パネルにおいて、
前記壁側補強面には、前記ボルトまたはアンカーを挿通させる第1挿通孔が当該ボルトまたはアンカーの軸径よりも所定寸法だけ大きな孔径を有して、当該ボルトまたはアンカーのずれを吸収可能に形成され、
前記補強プレートには、前記ボルトまたはアンカーを挿通させる第2挿通孔が当該補強プレートの平面中心に対して所定距離だけ偏心した位置に設けられていることを特徴とする補強パネル。 - 請求項1から請求項5のいずれかに記載の補強パネルにおいて、
前記補強プレートは、前記壁側補強面よりも大きな厚さ寸法を有して形成されていることを特徴とする補強パネル。 - 請求項1から請求項6のいずれかに記載の補強パネルにおいて、
前記壁側補強部材は、当該壁側補強部材を補強する補強リブを有して形成されていることを特徴とする補強パネル。 - 柱本体と当該柱本体から側方に延びる壁とを有した壁付き柱を補強するための柱の補強構造であって、
請求項1から請求項7のいずれかに記載の補強パネルの柱側補強面で前記柱本体が囲まれ、前記補強パネルの壁側補強面が接合手段によって前記壁に接合されるとともに、前記柱側補強面と柱本体との間に充填材が充填されていることを特徴とする柱の補強構造。 - 柱本体と当該柱本体から側方に延びる壁とを有した壁付き柱を補強するための柱の補強方法であって、
請求項1から請求項7のいずれかに記載の補強パネルの柱側補強面で前記柱本体を囲むとともに、前記補強パネルの壁側補強面を接合手段によって前記壁に接合してから、前記柱側補強面と柱本体との間に充填材を充填することを特徴とする柱の補強方法。
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