次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は乗用型田植機(以下、単に「田植機」と略す)に適用している。以下の説明では方向を特定するために「前後」「左右」の文言を使用するが、これらの文言は、請求項でも特定しているように、前進方向を向いて着座したオペレータの向きを基準にしている。
(1).第1実施形態に係る田植機の概要
まず、概ね図1〜図8を中心にして第1実施形態に係る田植機(4条植田植機)の概要を説明する。図1及び図2から容易に理解できるように、田植機は主要部分として走行車体1と苗植装置2とを有しており、走行車体1は左右の前輪3と後輪4とで支持されている。苗植装置2は、ロータリー式の4個の植付け装置5、4本のベルトを有する苗載台6、水平姿勢保持用のフロート7、枕地を均すための整地ロータ8などを有している。
走行車体1は操縦エリア9を有しており、この操縦エリア9に、運転者が腰掛ける背もたれ付き座席10や、座席10の前方に配置された操縦ハンドル11が配置されている。座席10と操縦ハンドル11は走行車体1の左右中間位置に配置されている。操縦ハンドル11は、前後2つ割り式のボンネット12,13で覆われた操縦機構部14に設けている。また、座席10の前方で左右両側には予備苗台15を設けており、座席10の後ろには施肥装置16を設けている。
例えば図5や図6から理解できるように、走行車体1は、前後方向に延びる左右の角形鋼管製サイドフレーム18と、左右のサイドフレーム18をその前端寄り部位において連結したフロントフレーム19と、左右サイドフレーム18の後端に連結された左右長手のリアフレーム20とを有している。これらサイドフレーム18とフロントフレーム19とリアフレーム20とを主要部材として、走行車体1の骨組みの一環を成す車体フレーム(シャーシ)が構成されている。
例えば図5に示すように、左右のサイドフレーム18には左右横長で外向きに突出した外向き枝フレーム21が溶接によって固着されており、外向き枝フレーム21に予備苗台15が取り付けられている。また、サイドフレーム18の左右外側には前後方向に延びる補助フレーム22が平面視で平行に配置されている。補助フレーム22は外向き枝フレーム21に溶接されている。
サイドフレーム18は、ほぼ前後中間部を境にして略前半部は略水平姿勢になって後半部は後傾姿勢となるように屈曲しており、概ね屈曲部の上方部に座席10を配置している。また、例えば図4及び図5から理解できるように、側面視でサイドフレーム18における傾斜部の下方に位置した部位にはエンジン23が配置されており、エンジン23の手前でかつサイドフレーム18より低い位置には、走行変速装置24を構成するミッションケース25が配置されている。
エンジン23は、クランク軸が左右方向に延びる姿勢でかつシリンダボアは後傾した姿勢で配置されており、動力はプーリ及びベルト27で走行変速装置24に伝達される。ミッションケース25の前部の左右側面にはフロントアクスル装置28が取り付けられており、フロントアクスル装置28で前輪3が回転自在に支持されている。
図7から理解できるように、エンジン23及び座席10は概ね走行車体1の左右中間部に配置されている。図1に示すように、座席10とエンジン23との間には燃料タンク29が配置されている。座席10の左右両側及び後ろ側は人が乗り降りできる肩部になっており、この肩部の後部箇所に施肥装置16が配置されている。エンジン23の後ろにはリアアクスルケース30が配置されており、リアアクスルケース30から左右に突出した後ろ車軸に後輪4を固定している。なお、泥土が深い圃場の場合は後輪4に補助輪を取り付けることがある。
図6のとおり、リアアクスルケース30とリアフレーム20とは、左右2本のリア支柱32で連結されている。例えば図1から理解できるように、リア支柱32にはトップリンク33がその前端を中心にして上下回動するように連結されている一方、左右のリア支柱32には前後に延びる平行な部材を主材とするロアリンク34がその前端を中心にして回動するように連結されており、これらトップリンク33とロアリンク34の後端にはヒッチ(図示せず)が相対回動可能に連結されており、ヒッチに植付け装置2が取り付けられている。例えば図1から理解できるように、ロアリンク34とリアフレーム20とに油圧シリンダ36が相対回動自在に連結されており、油圧シリンダ36を伸縮させると苗植装置2が昇降する。
図3,4のとおり、走行車体1のうち人が載る部分は車体カバー37で覆われている。従って、車体カバー37は段付き形状になっており、かつ、操縦エリア9の床(フロアー)は車体カバー37で構成されている。なお、車体カバー37は上下2分割方式になっているが、一体構造とすることも可能である。車体カバー37のうち下段の部分は、サイドフレーム18や補助フレーム22等で支持されている。
(2).動力系統・操縦系統の概略
例えば図8から理解できるように、ミッションケース25は、大雑把には左右2つのメインメンバーを重ねてボルト群で締結した中空構造になっている。ミッションケース25のうち前部の側面部には左右の凸部25a,25bを設けており、この凸部25a,25bにフロントアクスル装置28が取り付けられている。左凸部25aの突出寸法が右凸部25bの突出寸法よりも大きくなっているが、これは、左凸部25aの内部に差動機構を配置しているためである。フロントアクスル装置28の上端はブラケットを介してサイドフレーム18に取り付けられている。
例えば図1から容易に理解できるように、ミッションケース25とリアアクスルケース30とは中空角形のジョイント部材40で連結されている。エンジン23の前部はフロントブラケット材を介してジョイント部材40で支持されており、エンジン23の後部はリアブラケット材を介してリアアクスルケース30で支持されている。
ミッションケース25の後部の左側面には、無段変速機の一例としての静油圧式無断変速機(以下「HST」という)41がその入力軸42を左右横長の姿勢にした状態で取り付けられており、エンジン23からの動力は先ずHST41の入力軸42にベルト27で伝達される。そして、走行変速装置24からの動力によって前輪3と後輪4とが同期して駆動され、また、植付け装置2と施肥装置16車輪3,4の回転に連動して駆動される。
例えば図10から理解できるように、ミッションケース25の後面から走行ドライブ軸43が後ろ向きに延びており、後輪4の駆動動力は後輪ドライブ軸43を介してリアアクスルケース30の内部に伝達されている。なお、図1に表示する整地ロータ8は、リアアクスルケース30の後面部に設けた整地出力軸で駆動される。
例えば図6に示すように、操縦機構部14の左右中間部にはパワーステアリングユニット44を配置しており、パワーステアリングユニット44の上面には、側面視で緩い角度で後傾した中空のハンドルポスト45が固定されている。ハンドルポスト45の内部にはハンドル軸46が回転自在に配置されており、ハンドル軸46の上端に操縦ハンドル11が固定されている。
図4(B)に示すように、パワーステアリングユニット44は、上部を構成する既述のステアリング油圧モータ47と、ステアリング油圧モータ47の下端に固着されたステアリングギアボックス48とを有しており、ステアリング油圧モータ47の上端にハンドルポスト45が取り付けられている。ハンドル軸46はステアリング油圧モータ47の回転軸に連結されている。ステアリングギアボックス48はステアリング油圧モータ47から後ろに延びる状態に配置されており、ステアリングギアボックス48はフロントブラケット49を介してフロントフレーム19に固定されていると共に、ミッションケース25の前端部にもボルトで固定されている。従って、本実施形態では、パワーステアリングユニット44のステアリングギアボックス48も走行車体1の構造材を兼用している。
ステアリングギアボックス48の下端から回動自在な操舵アーム50が露出しており、操舵アーム50には図5に示す左右2本の操舵ロッド51が連結されている。一方、図5から理解できるように、フロントアクスル装置28は水平旋回自在な前輪ギアケース52を有しており、前輪ギアケース52の前車軸に前輪3が固定されている。また、前輪ギアケース52に設けたアーム部に操舵ロッド51が連結されている。従って、操縦ハンドル11を回転操作すると、パワーステアリングユニット44を介して左右の前輪3が同期して同じ方向に水平旋回し、これによって走行車体1の進行方向が変えられる。
例えば図5に示すように、ハンドルポスト45の上部には板状のフロントプレート53が固定されており、このフロントプレート53に装着したフロントパネル(図示せず)にスイッチ類やボタン、キー等を設けている(メータ類や液晶ディスプレイ等を設けることも可能である。)。また、ハンドルポスト45の左側面部には、走行モードを切り換えるための手動式変速操作レバー54が前後方向に回動するように配置されている。フロントプレート53には、変速操作レバー54の位置(回動姿勢)を保持するガイド穴55が空いている。
(3).走行変速装置の構造
次に、走行変速装置24の変速態様を主として図9(動力系統図)に基づいて説明する。HST41の入力軸42はエンジン23の運転中は常時回転しており、ミッションケース25の右側面には入力軸42で駆動される汎用油圧ポンプ58を取り付けている。前記した昇降用の油圧シリンダ36やパワーステアリングユニット44は汎用油圧ポンプ58で発生した圧油で駆動される。
HST41は走行油圧ポンプ59と走行油圧モータ60とを有しており、走行油圧ポンプ59は入力軸42で駆動され、走行油圧モータ60は走行油圧ポンプ59から送られた圧油で駆動され、かつ、走行油圧ポンプ59の圧油吐出量は可動斜板(流量制御板)の回動量によって調節され、その結果、走行油圧モータ60の出力を無段階に変化させることができる。例えば図8に示すように、HST41は可動斜板を回動させるための出力制御軸61が上向きに突出している。詳細は後述するが、出力制御軸61は変速ペダル62の動きに基づいて回転する。
本実施形態では、HST41と遊星歯車機構63とを組み合わせており、入力軸42に固定した第1ギア64の回転が遊星歯車機構63に伝達される割合を走行油圧ポンプ59で調整することにより、遊星歯車機構63の出力軸である第1回転軸66の回転をゼロから最大値まで無段階に変更できる。
第1回転軸66には中空の第2回転軸67が摺動自在で相対回転自在に被嵌しており、第1回転軸66の回転は主クラッチ(走行クラッチ)68を介して第2回転軸67に伝達される。第1回転軸66及び第2回転軸67の手前部位には第3回転軸69が平行に配置されている。第2回転軸67には駆動ギア70の群が固定されている一方、第3回転軸69には従動ギア71の群がスライド可能に取り付けられており、従動ギア71の群と固定ギア70の群との噛み合いが変わることで変速される。
後進は、第2回転軸67に固定されたギア(図示せず)にて、入力軸42上で回転するギアを駆動するバックアイドラ方式で行われる。符号73は、従動ギアギア71がスライドした状態を示している。第3回転軸69には、スライド式摩擦板を有する多板式のブレーキ(駐車ブレーキ)74を設けている。
第3回転軸69の動力はギア75,76を介して差動軸77に伝達される。差動軸77は中空構造であると共にデフケース78を有しており、デフケース78は差動軸77と一体に回転する。更に、差動軸77は右前輪駆動軸79に外側から嵌まっている。右前輪駆動軸79と同心で左前輪駆動軸80が配置されており、左前輪駆動軸80には、デフケース78に内蔵したデフギアを介して差動軸77の回転が伝達される。右前輪駆動軸79にはデフロック装置82を設けている。デフロック装置82を作動させると、左右前輪の差動状態が解除されて左右の前輪駆動軸79,80は完全に同期して回転する。
第3回転軸69の左端部にはベベルギア83が取り付けられており、ベベルギア83の対によって第3回転軸69の動力が後輪出力軸84に伝達される。後輪出力軸84には自在継手を介して後輪ドライブ軸43が接続されている。
ミッションケース25のうち入力軸42より後ろの部位には左右長手の第4回転軸85が軸支されており、第2回転軸67の回転が駆動ギア86とアイドルギア87と従動ギア88とで第4回転軸85に伝えられる。アイドルギア87は入力軸42に相対回転自在に被嵌している(従って、入力軸42をアイドルギア87の支軸に兼用している。)。
ミッションケース25の右側面のうち後部には、第4回転軸85の右端部が入り込む作業動力出力部89を突設している。作業動力出力部89には前後方向に延びる前後長手の作業動力出力軸90が軸支されており、第4回転軸85の回転はベベルギア91の対を介して作業動力出力軸90に伝えられる。作業動力出力軸90には自在継手を介して中間軸92が接続されている。
図6に示すように、リアアクスルケース30の右端部近傍には株間調節装置を構成する株間ケース93が配置されている。図9で表示した中間軸92は株間ケース93の内部に入力される。株間ケース93の後面からは植付け駆動軸(PTO軸)94が突出しており、株間ケース93の上面からは施肥駆動軸95が突出している。
図9では左右前輪駆動軸79,80を第3回転軸69の手前に表示しているが、例えば図11から理解できるように、左右の前輪駆動軸79,80は第3回転軸69の少し手前がかつ下方に配置されている。このように回転軸を立体的に配置することで走行変速装置24をコンパクト化できる。
(4).変速制御系統
例えば図7に示すように、操縦エリア9の床のうちハンドルポスト45の右側の箇所には、ブレーキペダル100と変速ペダル62とが左右に並んで配置されている。正確には、両者は、ブレーキペダル100が左で変速ペダル62が右に位置するようち配置されている。
図12,13に示すように、変速ペダル62は、その後端部を中心にして前倒れ回動するようにペダルヒンジ101を介して右サイドフレーム18の外向き枝フレーム21に取り付けられている。例えば図12に示すように、右サイドフレーム18のうち変速ペダル62の回動中心よりも前方の箇所には左右長手の第1軸受け筒体102が貫通しており、この第1軸受け筒体102に第1制御回転軸103を回転自在に挿通している。第1制御回転軸103の左右端部は第1軸受け筒体102の外側に露出している。
更に、第1制御回転軸103の右端部には、斜め上向きと斜め下向きとの2つの後ろ向きアーム部を有するベルクランクレバー104が固定されており、ベルクランクレバー104における斜め下向きのアーム部を引っ張り式の第1ばね105で後ろに引いている一方、ベルクランクレバー104における斜め上向きのアーム部はスイング部材106を介して変速ペダル62に連結されている。従って、変速ペダル62は運転者の踏み込みによって前端が下に向かうように回動し、運転者が足を離すと変速ペダル62は第1ばね105の弾性力によって前端が上昇するように戻り回動する。
例えば図15によく表されているが、第1制御回転軸103の左端部には略前向きに延びる駆動アーム107が固定されている。他方、第1軸受け筒体102の左側でかつハンドル軸46の前方の部位には左右長手の第2軸受け筒体108が配置されており、この第2軸受け筒体108に第2制御回転軸109が回転自在に嵌め込まれている。
図14のとおり、第2軸受け筒体108には前向きブラケット110が溶接されており、前向きブラケット110はフロントフレーム14に固定されたフロントブラケット49にボルトで締結されている。第2制御回転軸109は第2軸受け筒体108の右側に露出しており、この右露出部に、センサブラケット111を介してセンサケース112が固定されている。また、センサケース112の右端部には従動アーム113が回転自在に取り付けられている。図15のとおり、従動アーム113には長穴114が形成されており、この長穴114に、駆動アーム107に横向き突設したピン115がスライド自在に嵌まっている。従って、変速ペダル62の回動によって第1制御回転軸103が回転すると、駆動アーム107に連動して従動アーム113が回動する。
図17(C)に概略を示すように、センサケース112の内部には、センサ装置の一例として、増速検知用リミットスイッチ116aと減速検知用リミットスイッチ116bとの2つのリミットスイッチ(センサ装置)が、その接触子を従動アーム113の付け根(ドグ部)に対向させた状態で配置されている。2つのリミットスイッチ116a,116bは、第2制御回転軸109の軸心回りに若干の角度だけ相対回動し得る状態でセンサケース112に取り付けられている。また、2つのリミットスイッチ116a,116bは、従動アーム113に接触しない中立位置に保持され勝手となるように2つの押しばね117で付勢されている。
例えば図17や図19に示すように、フロントブラケット49に固定された前向きブラケット110の左側端には支持片118を設けており、この支持片118に、平面視で前後長手の支持板119がロッド120を介して固定されている。支持板119には、外周に多数の歯を形成した扇形ギア121が回転自在(回動自在)に取り付けられていると共に、電動モータ122が固定されている。扇形ギア121は第2制御回転軸109の左端部に固定されている。ギア歯は後ろ向きに露出させている。他方、電動モータ122には、扇形ギア121の歯に噛合するギアを設けている。なお、扇形ギア121に代えて円形のギアを使用することも可能である。
例えば図15に示すように、扇形ギア121の付け根部のうち回動中心からある程度離れた部位には継手を介してHST制御ロッド125が連結されており、HST制御ロッド125はHST41の方向に向けて後ろ向きに延びている。
他方、例えば図8,12,14に示すように、HST41の出力制御軸61には、片持ち梁状の姿勢でミッションケース25の上方に向けて延びる出力制御アーム126が締め付け固定されており、出力制御アーム126の先端にHST制御ロッド125がピンで相対回動可能に連結されている。従って、電動モータ122を正逆回転させると扇形ギア121が回動し、するとHST制御ロッド125が略前後方向に押し引きされ(正確には前進は後述する第3ばね137で行われる)、これに伴って出力制御アーム126が回動してHST41の出力が変化する。HST制御ロッド125はナットを有する複合式になっており、長さを微調整できる。
例えば図14で出力制御アーム126を明示している。出力制御アーム126は平面視で時計回り方向に回転するとHST41の出力が高くなる。そして、出力制御アーム126のうち先端と基端との間の部位にガイドピン127を上向き突設し、このガイドピン127にスロットルブラケット128を嵌め入れ、スロットルブラケット128の後端を出力制御アーム126の後端面に係止している。
スロットルブラケット128において、ガイドピン127が嵌まっている穴は長穴128aになっている。また、スロットルブラケット128の前端には第2ばね129を介してスロットルワイヤー130の一端が取り付けられており、スロットルワイヤー130は中間ブラケット131に一端を固定したチューブ(索道管)130aに挿入されている。スロットルワイヤー130の他端はエンジン23のスロットルレバー(図示せず)に取り付けられている。従って、出力制御アーム126が時計回りに回動すると、スロットルワイヤー130が引っ張られてエンジン23の出力は高くなる。
図16に示すように、中間ブラケット131は概ね平面視コの字形を成しており、その後端部はミッションケース25にボルトで固定され、その前端部はパワーステアリングユニット44の下端部(ギアケース)に補助支柱132を介して固定されている。
図14(B)に示すように、出力制御アーム126の先端部(自由端部)には支持ピン133が上向きに突出しており、他方、HST制御ロッド125の先端には支持ピン133に嵌まる平面視U形のホルダー134が固定されており、ホルダー134は支持ピン133に抜け不能に保持されている。
ホルダー134の空所は長穴136になっており、このため支持ピン133とホルダー134とは相対動可能であり、かつ、HST制御ロッド125の後端が出力制御アーム126に当たっている。また、第3ばね137により、HST制御ロッド125はその後端が出力制御アーム126に当たる状態に付勢されている。従って、出力制御アーム126はHST制御ロッド125で押し回動させられると共に、出力制御アーム126が出力ゼロ姿勢に回動し切った状態で、HST制御ロッド125だけを第3ばね137に抗してある程度の寸法だけ前進し得る。
また、既述のとおり、出力制御アーム126が増速方向に回動するとエンジン23の出力は高くなり、減速方向に回動するとエンジン23は低くなる。エンジン23の最高出力には限度がある。そこで、エンジン23のスロットルレバーが回動し切っても出力制御アーム126の回動が阻害されないように、第2ばね129を設けている。また、スロットルブラケット128は長穴128aを介してガイドピン127に嵌まっているため、エンジン23の出力を絞り切った状態で出力制御アーム126は更に戻り回動し得る。
図17(C)から理解できるように、変速ペダル62を踏み込むと従動アーム113が増速方向(F2方向)に回動し、すると、従動アーム113の基端部(ドグ部)で増速用リミットスイッチ116aをONとなし、すると電動モータ122が正転して第2制御回転軸109及び扇形ギア121が正転し、これによってHST41は増速される。従動アーム113の回動初期においては両リミットスイッチ116a,116bは回動せず、従動アーム113が第2ばね117に抗して回動して増速用リミットスイッチ116aに当たると、両リミットスイッチ116a,116bはセンサケース112及び第2制御回転軸109と一緒に回動する。
オペレータが変速ペダル62を踏み続けている間は増速用リミットスイッチ116aはONに維持されているため、HST41は増速し続ける(すなわち走行車体1は加速し続ける。)。オペレータが変速ペダル62の踏み込みを止めると、両リミットスイッチ116a,116bは中立位置に戻るようにセンサケース112に対して僅かの角度だけ回動し、これにより、従動アーム113が増速用リミットスイッチ116aから外れて、増速用リミットスイッチ116aはOFFになる。
オペレータが変速ペダル62の踏み込みを停止してその状態を保持していると、電動モータ122は回転しないためHST41は設定された状態に保持され、従って、走行車体1は一定速度で走行する。オペレータが変速ペダル62の踏み込みを解除すると、従動アーム113が減速方向(図17(C)のF1方向)に回動して減速用リミットスイッチ116bがONになり、すると電動モータ122が逆転してHST41は減速される。変速ペダル62を戻し回動する途中で止めると電動モータ122の逆転も停止し、車速は一定に保持される。
変速ペダル62を戻し切ると、従動アーム113は原位置(原姿勢)に戻り、電動モータ122によって第2制御回転軸109と扇形ギア121とが逆転し切る。その状態で両リミットスイッチ116a,116bは従動アーム113に当接していない中立状態になっている。そして、図14に基づいて説明したとおり、遊星歯車機構63が出力ゼロ姿勢に前進し切ってから更にHST制御ロッド120は前進するため、HST41が減速し切ってから更に第2制御回転軸109は若干の角度だけ逆転する。
このように、変速ペダル62の動きは電動モータ122を介して出力制御軸61に伝えられる。そして、HST41の出力制御には抵抗が伴い、このHST41の出力制御を運転者の踏み込み力で直接に行うと、運転者の足に大きな踏み込み抵抗が作用して運転者の負担が増えたり、HST41の反力がオペレータの足に作用して違和感を覚えたりする場合があるが、本実施形態のようにHST41の制御を電動モータ122で行うと、運転者の負担を軽減することができる。
(5).走行モード切り換え機構
既述のとおり、走行モードの切り換えは変速操作レバー54を前後回動させることによって行われる。本実施形態では、高速走行(路上走行)モード、植付け走行(低速走行)モード、停止した中立位置(ニュートラル)、後進モードの4の状態に切り換えられる。
他方、図11や図12に示すように、ギア群のスライド操作はミッションケース25に取り付けた左右横長の変速操作軸139をその軸方向にスライドさせることで行われる。変速操作軸139は、ミッションケース25の内部に入っている内蔵部とミッションケース25の外にはみ出ている露出部とを有しており、内蔵部にギア群のシフターを係合させている。
他方、例えば図13に示すように、変速操作レバー54にはブラケット140及びクランクレバー141を介して上下長手の縦長ロッド142が連結されており、縦長ロッド142の下端近傍と変速操作軸139の先端近傍との部位に、前後長手で中空の中間軸144を回転自在に配置し、中間軸144の前端には縦長ロッド142に連結された横長アーム部144aを設け、中間軸144の後端には変速操作軸139に係合した下向きアーム部144bを設けている。図16に示すように、中間軸144は既述の中間ブラケット131に回転自在に取り付けられている。
変速操作レバー54を前後回動すると縦長ロッド142の上下動と中間軸144の回転とを介して変速操作軸139がスライドし、すると図9に示した従動ギア(可動ギア)71,73の群がシフトして噛み合い関係が変化する。
さて、変速操作レバー54を操作してギアの噛み合いを変える場合、噛み合っているギアを離脱させるにしても離間しているギアを噛み合わせるにしても、ギアに駆動力が作用していない状態でないとスムースに切り換えできない。
他方、変速ペダル62を戻し切ると遊星歯車機構63の出力はミニマムになって走行車体1は停止するが、停止状態でも第1回転軸66には僅かながらトルクが作用しており、このため、停止状態であってもギア群にはこれを回転させようとする力が作用している。従って、単に走行車体1が停止しているだけの状態ではギアの噛み合いの変更は難しく、変速操作レバー54を動かそうとしても途中でつかえてしまう。
そこで、従来から、HST41を有する走行変速装置24であっても主クラッチ68を設けており、変速操作レバー54の操作(すなわち走行モードの切り換え)は主クラッチ68を切った状態で行っている。そして、従来、ブレーキペダル100を踏むと主クラッチ68が切れる方式を採用している。しかし、この方式は手動操作で主クラッチ68を入り切りする方式に比べると操作性に優れているものの、足を変速ペダル62からブレーキペダル100に踏み替えなければならない煩わしさがあり、操作性の面からまだ改善の余地があった。本実施形態ではこの点にも対処しているのであり、これを次に説明する。
(6).主クラッチと変速ペダルとブレーキペダルとの関係
ブレーキペダル100は変速ペダル62の左側に配置されており、例えば図18に示すように、ブレーキペダル100は、左右横長の中間ステー146のやや前方に配置した左右長手の支持筒147に取り付けられている。支持筒147は左右のブラケット148で回転自在に支持されており、これら左右のブラケット148は、片方は中間ステー146に固定されて他方はミッションケース25にステーを介して固定されている。支持筒147にはトーションねじり方式の第4ばね149が嵌まっており、ブレーキペダル100は第4ばね149で戻し方向に付勢されている。
例えば図18に示す符号100′はブレーキをかけた状態に保持するサイドレバーである。例えば図12に示すように、ブレーキペダル100はブレーキ支軸150を挟んで後ろにも延びている一方、例えば図18に示すように、ミッションケース25の前面からブレーキ操作軸151が僅かに突出しており、ブレーキ操作軸151に固定したアーム体152の先端とブレーキペダル100の後端とがコイル式の第5ばね153等を介して連結されている。
ブレーキ操作軸151の後端はブレーキ74の箇所まで延びており、後端部には、ブレーキ74を構成する摩擦板の群が密着するように押圧する接触部が設けられている。ブレーキ操作軸151を軸心回りに回転させるとブレーキが掛かる。いうまでないが、ブレーキの効き方はブレーキペダル100の踏み加減(ブレーキ操作軸151の回し加減)で調節できる。
例えば図14,図15に示すように、ブレーキペダル100が取り付いた支持筒147の他端(左端)には上向きアーム154が固定されており、この上向きアーム154にクラッチロッド155の前端がピン156で連結されている。この場合、上向きアーム154にピン156が嵌まるピン挿通穴を空けるにおいて、図15(B)に明示すように、ピン挿通穴を前後長手の長穴157にしている。このため、クラッチロッド155を前進させ切った状態でブレーキペダル100を更に踏み込むことができる。クラッチロッド155はねじ軸とロングナットとを有する複合式であり、長さを微調整できる。
例えば図10,図12,図18(A)に示すように、ミッションケース25の上面部のうち前部でかつ右寄り部位にはクラッチ操作軸158が僅かに突出しており、このクラッチ操作軸158の突出端部にその左側に延びるクラッチアーム159を固定し、クラッチアーム159の先端部とクラッチロッド155の後端部とをピンで相対回動可能に連結している。
図12及び図9に示すように、第3回転軸67には、クラッチばねで入り方向に付勢された可動クラッチ体(ボールクラッチ)161がスライド自在に配置されていると共に、ミッションケース25の内部には可動クラッチ161をクラッチばねに抗して切り方向にスライドさせるシフター162がクラッチ操作軸158の軸心回りに水平回動するように配置されている。シフター162はクラッチ操作軸158に固定されている。
従って、ブレーキペダル100を踏むとクラッチロッド155が前向きに移動すると共に、クラッチアーム159が平面視で時計回り方向に回動し、すると、シフター162も一緒に回動して可動クラッチ161が押し移動させられ、これによって主クラッチ68が切りになる。
更に、例えば図12に示すように、変速ペダル62に連動して回転する第2回制御回転軸109の右端部には下向きアーム164を固定し、この下向きアーム164の先端(下端)とクラッチアーム159とを連動軸165で連結している。クラッチアーム159はクラッチロッド155の取り付け部よりも回動中心に近い部位において連動軸165に連結されている。
クラッチアーム159は背板159aを有する側断面略L形になっており、連動軸165を背板159aに開けた穴に貫通し、連動軸165には背板159aの後面に当たるナット166を取り付けている(ダブルナットと座金とを併用してもよい。)。従って、変速ペダル62の踏み込みによる第2制御回転軸109の回転に際しては連動軸165でクラッチアーム159を押すことはない。すなわち、連動軸165を設けたことによってHST41の制御に支障をきたすことはない。
オペレータが変速ペダル62から足を完全に離すと、変速ペダル62及び第2制御回転軸109は第1ばね105によって初期姿勢に戻る。すると、第2制御回転軸109が電動モータ122によって戻り回転し切る僅かに手前の状態の段階で連動軸165が前向き移動し、これにより、クラッチアーム159がクラッチ切り方向に回動して主クラッチ68が切れると共に、クラッチアーム159の押圧作用で支持筒147が回転することによってブレーキペダル100も人が踏み込んだのと同様の状態に回動し、このため走行車体1にブレーキが掛かる。なお、連動軸165の前進動によるブレーキペダル100の回動量は多くはなく、このためブレーキは軽く掛かった状態になっている。
このように、変速ペダル62を戻し切るとブレーキペダル100が軽く掛かると共に主クラッチ68が切れるため、オペレータは一々足(右足)を変速ペダル62の箇所から踏み替えてブレーキペダル100を踏まなくても、足は変速ペダル62の箇所においたままで変速操作レバー54を軽快に操作して走行モードを切り換えることができる。このため操作性に優れている。
変速ペダル62を戻し回動し切った状態で、主クラッチ68は切りの状態に維持されている必要がある。この点、HST制御ロッド125を戻すための第3ばね137にその機能を保持させている。変速ペダル62を戻す第1ばね105にその機能を維持させたりしてもよいし、他にばねを設けてもよい。電動モータ122を停止すると扇形ギア121は回動不能に保持されるので、第2制御回転軸109も回転不能に保持され、電動モータ122を保持手段として機能させることも可能である。
変速ペダル62を戻し切った状態ではブレーキペダル100は軽く回動した状態になっており、従って、ブレーキペダル100は更に深く踏み込みできねばならない。この点、支持筒147に突設した上向きアーム154とクラッチロッド155とは長穴157を介して連結されているため、クラッチロッド155は動かずにブレーキ操作軸151の上向きアーム154だけが回動することが許容されている。従って、長穴157は、主クラッチを切った状態のままでブレーキペダル100を更に踏み込むことを許容する逃がし手段の一例になっている。
(7).第1実施形態のまとめ
以上の構成において、HST41を制御するため電動モータ122はミッションケース25の近くに配置しているため、HST41を操作するためのHST制御ロッド125を短かくできるというように、HST41を制御するための部材をコンパクト化できる。また、電動モータ122はハンドル軸46を挟んで変速ペダル62と反対側に配置されているため、特定の狭い箇所に部材が詰まった状態で配置されることを防止して、電動モータ122等の部材を設計的に苦労することなくスッキリとバランス良く合理的に配置できるのである。
特に、本実施形態のようにミッションケース25の左側面分にHST41を配置すると、電動モータ122をHST41により一層近づけることができるため、HST制御ロッド125は単純で短いものを使用できて特に好適である。本実施形態のように、第2制御回転軸109にセンサケース112や扇形ギア121や下向きアーム164を設けると共に、第2軸受け筒体108を前向きブラケット110に固定すると、センサケース112や電動モータ122、扇形ギア121等の制御部材が一つにユニット化されるため、部品管理や組み立て性に優れている。
本実施形態では、電動モータ122や扇形ギア121はボンネット12,13で覆われている(図1参照)。このため、オペレータが足を挟むようなことは全くなくて安全であり、また、電動モータ122やその周辺部はボンネット13を外すと露出するため、保守や修理も容易に行える。
本実施形態では、変速ペダル62を戻し切ると主クラッチ68が切れるが、図14(B)を参照して説明したように、遊星歯車機構63が出力ゼロ状態に戻り回動してから更にHST制御ロッド125が前進し、このHST制御ロッド125のみが前進する過程で連動軸165が前進動して主クラッチ68が切れると共にブレーキ74が軽く効く。従って、走行車体1が完全に停止する前に主クラッチ68が切れるような不具合はない。
HST制御ロッド125のホルダー134は平面視U形であることで支持ピン133に対して相対動し、その結果、出力制御アーム126が戻り回動し切ってから更にHST制御ロッド125の前進が許容されているが、このように、ホルダー134を平面視U形にするといった逃がし手段を講じることにより、変速ペダル62の戻し動によって主クラッチ68を切ることが可能ならしめられている。
(8).第2実施形態
次に、図20,21に示す第2実施形態を説明する。この第2実施形態は第1実施形態の変形例であり、HST41の制御系統を中心にした部分が相違する。第1実施形態と共通した部分の説明は省略し、相違点のみを取り上げて説明する。まず、変速ペダル62の戻りによってクラッチを切るための連動軸165の取り付け箇所が相違している。すなわち、本実施形態では、連動軸165の前端はセンサブラケット111に設けた下向き張り出し部111a(図21参照)に連結している。このようにセンサブラケット111に連結することにより、部材を省略できて構造を簡単化できる。
次に、センサケース112の周辺部が相違する。まず、第1実施形態の駆動アーム107に相当する部材として、本実施形態では周面カム107′を使用している点が相違する。また、図20に示すとおり、センサブラケット111のうちセンサ112を挟んで従動アーム113と反対側の部位には後ろ向きの補助アーム111bを一体に設けて、補助アーム111bに固定したピン115を従動アーム113の長穴114に通し、ピン115を周面カム107′の外周面に当てている。ピン115がカム107′に当たった状態を保持するため、補助アーム111bはばね111cで下向き(変速ペダル62を原姿勢に戻す方向)に引っ張られている。
図21(B)に示すとおり、周面カム107′は回動軸心から近い順に第1〜第3の3つのガイド面107a,107b,107cを有している。隣り合ったガイド面は側面視において鈍角で交叉した状態で連続していく。従って、各ガイド面107a,107b,107cは先端に行くほど回動軸心から遠くなるように傾斜しており、かつ、傾斜角度は第1ガイド面107a<107b<107cの関係になっている。
この実施形態では、まず、各ガイド面107a,107b,107cが傾斜していることにより、第1制御回転軸103の回転が増幅した状態で従動アーム113に伝えられるため、図17(C)に示すセンサ116a,116bの応答性が優れており、その結果、変速レバー62の踏み込み・戻しによって電動モータ122の回転を制御するタイミングの調整(微調整)も容易であり、その結果、変速レバー62の動きによるHSTの応答性が格段に向上する。
また、加速領域(或いは減速領域)が例えば低速・中速・高速の3つのエリアに分けられて、変速レバー62の単位時間当たりの踏み込み量(或いは戻し量)とHSTの単位時間当たりの加速量との関係を3つのエリアで変えることができるため、加速性を向上できる等の効果があり、これによって走行フィーリングをアップできる。周面カム107′の外周面は曲面で滑らかに連続していてもよい。
次の相違点として、電動モータ122や扇形ギア121を取り付けるための支持板119が中間ステー146にも固定されている点が挙げられる。支持板119はブラケット146bを介して中間ステー146に固定されている。このように支持板119を前後両側から支持することにより、支持板119の撓みを防止して扇形ギア121や電動モータ122を正確に位置決めでき、ひいてはHST41の制御も円滑に行える。
次に、スロットルワイヤー130の連結機構が相違している。すなわち、本実施形態では、図20のとおり、出力制御アーム126に後ろ向き突出部126aを設けて、この後ろ向き突出部126aに第2ばね129を介してスロットルワイヤー130を連結している。索導管130aの一端は図示しない支持部材に固定されている。支持部材はミッションケース25に固定されている(左右サイドフレーム12に連結したステー材に固定してもよい。)。本実施形態ではエンジン23は走行車体1の後部に配置しているで、この実施形態を採用すると、スロットルワイヤー130の長さを短くできると共に、他の部材の邪魔にはならず、メンテナンス性や組み立て性も良くなる利点がある。
扇形ギア121が取り付く支持板119の左側には、車体の左右傾きを検知する角速度センサSを配置している。角速度センサSはフロントフレーム13にブラケットS′を介して取り付けられている。この角速度センサSは、苗植装置2を水平姿勢に保持することに使用するものである。
(9).第3実施形態の概略
次に、図22以下の図面に表されている第3実施形態を説明する。第1実施形態と同じ機能の部材は同じ符号で表示しており、特に必要がない限り説明は省略している。例えば図23に示すように、この第3実施形態ではエンジン23を走行車体1の前部に搭載している。走行車体1は左右のサイドフレーム18を有するが、本実施形態では、左右サイドフレーム18は前後に分離しており、前後に分離したサイドフレーム18は左右横長のセンターフレーム168に溶接されている。
また、図22(B)に明示するように、左右サイドフレーム18の前端はフロントフレーム19で連結され、かつ、サイドフレーム18の前寄り部位には正面視U形(或いはコの字形)の前後2本のサポートフレーム169が固定されており、これら2本のサポートフレーム169でエンジン23を支持している。エンジン23はクランク軸が左右方向に向く姿勢になっており、出力プーリはエンジン23の左側に配置している。
ミッションケース25はエンジン23の後ろに配置されており、左右の外向き突出部25a,25bにフロントアクスルケース28を固定し、フロントアクスルケース28の上端部がサイドフレーム18に固定されている。また、ミッションケース25とリアアクスルケース30とはジョイント部材40で連結されており、従って、第1実施形態と同様にミッションケース25は走行車体1の構造材を兼用している。
例えば図27に明示するように、本実施形態ではパワーステアリングユニット44はミッションケース25の前部に一体化している。すなわち、パワーステアリングユニット44のギアケースをミッションケース25に一体に形成し、このギアケースにステアリングユニットを取り付けている。図面では明瞭に表されていないが、ハンドル軸46及びハンドルポスト45は、パワーステアリングユニット44に取り付けられた主部とその上端に接続した上部とで構成されており、主部の後傾角度よりも上部の後傾角度を大きくしている。ハンドル軸46の主部と上部とは自在継手で連結されている。
走行変速装置24の機能は第1実施形態と同じであり、ミッションケース25の左側部にHST41を配置し、ミッションケース25の左右突出部25a,25bにそれぞれフロントアクスル装置28を取り付け、後面部に後輪ドライブ軸43を設け、右側の外向き突出部25bに作業動力出力部89を連続させている。また、ミッションケース25のうちHST41を挟んで反対の右側面には、入力軸42で駆動される汎用油圧ポンプ58を取り付けている。本実施形態では、ミッションケース25は特有の構成として前後長手の仕切り板171(図32(B)参照)を有しており、この仕切り板171に軸受け機能を持たせて強度アップを図っている。
図25に示すように、本実施形態では、第1回転軸66と第2回転軸69との間に中間回転軸69′を介在しており、この中間回転軸69′に設けたギア70′に対しても従動ギア70′が噛み合うようになっている。
例えば図26及び図27に示すように、ミッションケース25の右寄り部位でかつ前寄り部位にはブレーキ操作軸151が第1実施形態と同様に略鉛直姿勢で配置されており、ミッションケース25の前部でかつおおよそ左右中間部にはクラッチ操作軸158が鉛直姿勢で配置されており、更に、ミッションケース25のおおむね前後中間部には変速操作軸139(図28参照)が略水平姿勢で配置されている。
各操作軸151,158,139の本質的な機能は第1実施形態と同じであるが、変速操作軸139は5つのポジションを選択できるようになっている。すなわち、路上走行(高速走行)、ニュートラル、植付け走行(低速走行)、苗継ぎ、後進の5つのポジションを選択できる。そこで、図26(C)に明示するように、変速操作レバー54も5つの位置に保持できるように、変速操作レバー54が嵌まるガイド穴55には枝溝55aが形成されている。ガイド穴55は専用の補助プレート53aに空けられている。
図26や図28に示すよう、変速操作レバー54の動きは、当該変速操作レバー54に連結された縦長ロッド142、縦長ロッド142の下端に一端が連結されたベルクランクレバー172、ベルクランクレバー172の他端に前端が連結された前後長手の水平状ロッド173、水平状ロッド173の後端に連結されたアーム174、アーム174に固定された縦長軸175、縦長軸175の下端に固定されたシフター176を介して変速操作軸139に伝達される。
ベルクランクレバー172は左ブラケット177に回動自在に取り付けられており、図30に示すように左ブラケット177は左右長手のステー178に固定されている。また、図27に示すように、縦長軸175はミッションケース25に回転自在に装着されている。
例えば図26に示すように、変速ペダル62とブレーキペダル100とはハンドルポスト45の右側に配置されており、また、ハンドルポスト45の左側には電動モータ122を配置している。図31のとおり、本実施形態では電動モータ122は保護ケース179で覆われている。
(10). 制御機構
本実施形態では、図29(A)に示すように、サイドフレーム18のうち変速ペダル62の右側の箇所にはポテンショメータ181がサイドブラケット182を介して取り付けられており、変速ペダル62の動きはポテンショメータ181で検知される。より正確に述べると、ポテンショメータ181で回動式の検知レバー183を有しており、検知レバー183に取り付けた線材製のプッシャー184を変速ペダル62の裏面に当接させることにより、変速ペダル62の回動角度を検知できるようになっている。
図29(B)及び図30に示すように、ブレーキペダル100はステー178に固定した右ブラケット185に連結されている。この場合、ブレーキペダル100の下端部を右ブラケット185に枢支ピン186で連結し、枢支ピン186よりもやや上方の部位にブレーキロッド187をピン187aで連結している。従って、ブレーキペダル100を踏むとブレーキロッド187は前進動する。ブレーキペダル100は第4ばね149で戻り姿勢に付勢されている。
図34(A)に示すように、電動モータ122を覆う保護ケース179はパワーステアリングユニット44の上端面に固定されたブラケット板188にスペーサ板189を介して固定されている。保護ケース179には第1実施形態と同様の扇形ギア121が内蔵されており、扇形ギア121は電動モータ122で駆動される。扇形ギア121の回転軸191を外向きに突設してこれに補助アーム190を固定し、補助アーム190にHST制御ロッド125を連結している。
本実施形態はHST41の前方にエンジン23が配置されているため、図25の動力系統図から理解できるように、HST41は走行油圧ポンプ59が前に位置し走行油圧モータ60が後ろに位置する姿勢で配置されている。例えば図31に示すように、HST41の出力制御軸61は第1実施形態と同様に上向きに突出しており、出力制御軸61に出力制御アーム126が固定されている。
例えば図27や図28に示すように、クラッチ操作軸158はその軸心回りに回転するようにミッションケース25に保持されており、図32(B)に明示するように、クラッチ操作軸158の下端に取り付けたシフター158aが回動することで可動クラッチ体161がスライドする。クラッチ操作軸158が平面視で時計回り方向に回転すると、主クラッチ68が切れる。
図33に示すように、クラッチ操作軸158と出力制御アーム126との間には第1連動レバー192が配置されている。この第1連動レバー192は左方向と後ろ方向とに延びる略L形の形態であり、左端部寄りの部分が第1軸193でミッションケース25に水平回動可能に連結されている。第1連動レバー192の右前端部に軸を介してHST制御ロッド125が連結されている。また、第1連動レバー192における左端部の上面には第1ローラ194を設けている。
他方、出力制御アーム126には、平面視で第1ローラ194に重なる第2連動レバー195が第2軸196で水平回動自在に連結されている。第2連動レバー195の後端部には下向きピン197を突設し、出力制御アーム126には下向きピン197が嵌まる穴198を設けており、更に、第2連動レバー195の前端部には、第1ローラ194が当たる壁板199を設けている。
従って、HST制御ロッド125が後退動すると第1連動レバー193が時計回りに回動し、すると、出力制御アーム126は第2連動レバー195を介して反時計回りに(すわち増速方向に)回動する。出力制御アーム126は第6ばね200で後ろ方向(減速方向)に引かれており、第6ばね200はミッションケース25に連結されている(図26(A)参照)。第1連動レバー192の第1ローラ194は第2連動レバー195の壁板199に後ろから当たっているため、出力制御アーム126が出力ゼロの方向に戻り回動し切ってから更に第1連動レバー192を戻し回動させ得る(HST制御ロッド125を後退させ得る。)。
クラッチ操作軸158には、右後ろに延びるクラッチアーム201が固定されている。クラッチアーム201の基端部は手前に突出しており、この突出端部の上面に第2ローラ202を水平回転自在に取り付けている。第1連動レバー192の後端部にカム体203を水平回動自在に連結し、カム体203の前端部を第2ローラ202に当てている。
図33(A)は増速し切った状態を示しており、この状態からHST制御ロッド125が前進動すると第1連動レバー192は反時計回りに逃げ回動する。出力制御アーム126が戻り回動し切るまではカム体203は逃げ回動することでクラッチアーム201に対してトルクを作用させることはないが、出力制御アーム126が戻り回動し切ってから更にHST制御ロッド125が前進すると、その過程で第2ローラ202に対して押圧力が作用し、これによってクラッチアーム201及びクラッチ操作軸158が時計回り方向に回動(回転)し、すると主クラッチ68が切れる。
カム体203のうち第2ローラ202を押圧する作用部を符号204で示している。また、カム体203には、第2ローラ202を保持する段部(凹部)205が作用部204に連続して形成されている。主クラッチ68には可動クラッチ体161を押すばねが内蔵されており、このばねによってクラッチアーム201は反時計回り方向に回動するように作用している。
例えば図28,31,32に示すように、ブレーキ操作軸151には、当該ブレーキ操作軸151の略右側に張り出す第1ブレーキアーム206が固定されていると共に、当該ブレーキ操作軸151の左右両側に延びる第2ブレーキアーム207が相対回動可能に嵌まっている。第2ブレーキアーム207の右端部は第1ブレーキアーム206の手前に位置しており、かつ、これら第1ブレーキアーム206と第2ブレーキアーム207とは、ブレーキロッド187が貫通する背板208,209を有している。
ブレーキロッド187には、第2ブレーキアーム207の背板209に前から当たり得るフロントストッパー(ナット)210と、第1ブレーキアーム206の背板208に後ろから当たるストッパーばね211とを設けている。また、ブレーキロッド187には、第2ブレーキアーム207の背板209に後ろから当たり得る中間ストッパー(ダブルナット)212を設けている。中間ストッパー212とフロントストッパー210との間には間隔で空いている。
第2ブレーキアーム207のうち回動中心よりも左側の部分は下向きに開口した溝形(チャンネル状)の形態になっており、その溝内に、クラッチアーム201の右端部に設けた第3ローラ213を嵌め入れている。従って、クラッチアーム201と第2ブレーキアーム207とは連動して回動する。
図35(A)に示すように、電動モータ122を覆う保護ケース179の左外面には、略前後方向に延びるスロットルアーム215がアーム軸216で回動自在に連結されており、アーム軸216の先端にはばね217を介してスロットルワイヤー130の一端が連結されており、スロットルワイヤー130は、一端が保護ケース179に固定した索導管130aに挿入されている。スロットルワイヤー130の他端はエンジン23のスロットルレバーに取り付けられている。
他方、扇形ギア121には回動中心方向に延びるカム穴218が形成されており、アーム軸216の内端部に固定したインナーリンク219の先端にローラ220を設け、このローラ220をカム穴218に嵌め入れている。
カム穴218は扇形ギア121の回動中心に対して非同心に形成されており、かつ、扇形ギア121が増速方向に回動するほど軸心からの距離が遠くなるプロフィールと成している。扇形ギア121が増速方向に回動するとカム穴218の作用によってスロットルアーム215が回動し、これによってエンジン23の出力は高くなる。すなわち、エンジンの出力が走行速度に応じて高くなる。カム穴218の形状を工夫することにより、走行速度とエンジン出力との関係を様々に変えることができる。このようなカム機構を利用したエンジン出力制御態様は第1実施形態にも適用できる。
(11).第3実施形態のまとめ
この第3実施形態では、変速ペダル62の回動角度はポテンショメータ181(図29(A)参照)で検知され、ポテンショメータ181の信号に基づいて電動モータ122が駆動されてHST制御ロッド125が前後動し、これによってHST41が制御される。
ポテンショメータ181は変速ペダル62の回動を抵抗値や電流値、或いはパルス数のような数値として検知するもので、変速ペダル62を踏み込んだり戻し回動したりすると数値は大きく変化したり小さく変化したりする。そこで、ポテンショメータ181の数値が大きく変化し続けているときには電動モータ122を正転させ続け、数値が小さく変化し続けているときには電動モータ122を逆転させ続け、変速ペダル62の回動が停止して数値変化がなくなったら電動モータ122の回転を停止する、という制御を行うことにより、田植機の速度を制御できる。このため、乗用車と同様の走行フィーリングを得ることができる。
そして、走行している状態でオペレータが変速ペダル62から足を離すと変速ペダル62はばねで戻り、これに伴ってHST41が減速制御されてやがて走行車体1は停止するが、図33に基づいて既に説明したように、変速ペダル62が戻り切る少し手前の段階で、出力制御アーム126は戻り回動し切る。
かつ、出力制御アーム126が戻り回動し切ってもHST制御ロッド125は若干の寸法だけ前進動し、すると、カム体203の押圧作用でクラッチアーム201が時計回り方向に回動し、これによって主クラッチ68が切りになり、走行車体1は停止状態に保持される。すなわち、走行車体1が走行停止するのとほぼ同時に主クラッチ68が切れてブレーキが軽く効くのであり、これにより、オペレータは一々右足を踏み替えることなく、変速操作レバー54を操作することができる。
変速ペダル62が戻り切ると電動モータ122の回転は停止する。この状態でも主クラッチ68が切れてブレーキが効いた状態を保持しておかねばならないが、この機能は、既述のとおりカム体203の段部205に第2ローラ202を嵌まり保持させることで行われる。もとより、変速ペダル62の戻しばねの弾性復元力を利用することも可能である。或いは、扇形ギア121を電動モータ122で駆動するにおいて、電動モータ122にウォームギアを設けてこれを扇形ギア121に噛み合わせることも可能であり、この場合は、扇形ギア121の戻り回動がモータに作用することはないので、電動モータ122をOFFにした状態でHST制御ロッド125を後退位置にしっかりと保持できる。
第2ブレーキアーム207が反時計回り方向に回動し切った状態で、ブレーキロッド187は更に前進させることができる。すなわち、ブレーキペダル100を更に踏み込むと、ブレーキロッド187が前進してストッパーばね211で第1ブレーキアーム206が押され、これによってブレーキを強く掛けることができる。また、走行中にブレーキペダル100を強く踏むと、第1ブレーキアーム206がストッパーばね211の押し作用によって回動してブレーキが掛かると共に、ブレーキペダルの踏み込み終期においてブレーキロッド187の中間ストッパー212が第2ブレーキアーム207の背板に当たり、これによって主クラッチ68が切りになる。
例えば図31から把握できるように、本実施形態では、出力制御軸アーム126と連動レバー195,192,203とクラッチアーム201とブレーキアーム207,206とがミッションケース25の上方の箇所においておおよそ横方向に並んだ状態で配置されており、このため、制御機構をコンパクト化できる利点がある。エンジン23を走行車体1の前部に搭載するとボンネット12,13で覆われた空間には多くの部材が詰まった状態になるが、本実施形態では、出力制御軸アーム126や各レバー195,192,203、ブレーキアーム207,206はミッションケース25と車体カバー37との間の空間に配置されるため、他の部材との干渉の問題はなく、このため設計の手間を軽減できるという利点がある。
また、本実施形態のように電動モータ122や扇形ギア121を保護ケース179で覆うと、高い安全性・防水性を確保できる利点がある。更に、本実施形態のように変速ペダル62の動きをポテンショメータ181で検知すると、例えば変速ペダル62の踏み込み量に応じてエンジン23の出力を様々に制御することを簡単に実現できるというように、変速ペダル62の動きを契機として各種の制御を行うことが容易になる利点である。
(12).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、無段変速機としてはベルト式のもの(CVT)も採用できる。エンジンとクランク軸が前後方向に延びる姿勢で走行車体1に搭載することも可能である。また、本願発明の適用対象は田植機には限らないのであり、代掻き機や野菜移植機等の他の農作業機にも適用できる。