JP5372782B2 - 生体インプラント及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、生体インプラント及びそれらの製造方法に関し、特に、骨又は歯に近い力学的特性を有し、かつ、生体インプラントを体内に埋設した際に、骨組織が侵入し易い表面構造を有する表面発泡体である生体インプラント及びそれらの製造方法に関する。
骨が大きく欠損した場合の治療方法として、患者自身の正常な骨を一部切り取って患部に移植する自家骨移植、又は人工材料から成る人工骨を移植する人工骨移植が行われている。しかし、自家骨移植は、採取できる骨量に制限があり、さらに正常な細胞を傷つけることになるので、患者の身体的負担は大きいうえ、自家骨移植に用いる自家骨移植用骨を患者自身の正常な骨から切り取ることによって新たな欠損部が生じるから、骨が大きく欠損した場合の本質的な治療方法とはいえない。また、人工骨移植では、工業的に生産される人工骨を使用するから自家骨移植の様な問題はないが、人工骨の力学的及び生物学的特性は本来の骨と異なるから、人工骨の前記特性に応じて用途が限定されるという問題を有する。例えば、人工骨の材料としてチタン合金の金属材料を選択すると、金属材料は、通常、高強度である反面、弾性率が高く靭性に欠けるので、大きな荷重が連続的にかかるような部位に埋入すると、周りの骨との力学的特性の差によりストレスシールディングが生じるといった問題や、骨と直接に結合しないといった問題がある。また、人工骨の材料として水酸アパタイト等のバイオセラミックスを選択すると、バイオセラミックスは、通常、生体適合性が良いうえに、生体活性が高くて、骨との結合性に優れている反面、外部衝撃に弱いので、大きな荷重が瞬間的にかかるような部位には用いることができないという問題がある。
人工骨の材料として超高分子量ポリエチレン等のポリマーを選択すると、金属材料及びバイオセラミックスが有する問題を解決することができ、特に、ポリマーの中でもポリエーテルエーテルケトン(PEEK)は、その力学的特性が本来の骨と近く、また生体適合性も優れていることから、高強度が要求される部位での整形外科材料としての応用が期待されている。さらに、ポリマーと生体活性を有するバイオセラミックスとを組み合わせることにより、骨と直接に結合する人工骨の開発も行われている。
一方、生体適合性や生体活性といった化学的特性や、強度や弾性率といった物理的特性以外にも、人工骨にとってその構造が骨との結合能の面で重要な因子であることは良く知られており、生体内に埋入した際に、生体組織が内部に侵入しやすいように、表面又は構造全体を多孔質化した人工骨が多く開発されている。PEEKをはじめとする高分子材料により形成される人工骨も、その強度を活かし、かつ、骨との結合能を持たせるべく、表面に多孔質層又は凹凸表面を付与する試みが幾つかなされている。
特許文献1には、PEEKとカーボン短繊維との複合材料により形成されて成る支承表面層の表面にPEEK粒子をプラズマ・トーチによりスパッタすることで多孔構造を有する裏打ち層を形成して成る人工寛骨臼カップが記載されている。
特許文献2には、少なくとも1つの開口を有している複数のポリマーシートを、孔の位置をずらして重ねて接着することにより形成されて成る海綿状の構造体が記載されている。
特許文献3には、高分子材料に気孔形成材を埋め込んでおき、気孔形成材の溶媒に接触させることにより気孔形成材を溶出させ、所望の孔が形成されて成る多孔性の有機ポリマー層を有する移植可能な整形外科的器具が記載されている。
特許文献4には、熱可塑性ポリマーの表面に凹凸が形成されている整形インプラントにおいて、この凹凸がエッチング、サンドブラスト、研磨などにより形成されることが記載されている。
特許文献5には、予め凹凸形状を付与した金型を使用して、熱可塑性プラスチック材料を加熱成型する方法が記載されている。
特許文献6には、熱可塑性樹脂により形成されて成る外科的移植体の表面上に、所望の形状を有する酸溶解性金属板を圧入し、これを溶解することにより、外科的移植体の表面に凹凸を転写する方法が記載されている。
しかし、上記の従来技術においては、特許文献1のように、高価な装置が必要であったり、特許文献2のように、人工骨の強度を発現する実質部の高分子材料とは別に多孔質構造を形成させるためのシート材料が必要であったり、特許文献3のように、気孔形成材含有高分子を準備したりする必要があった。特許文献4においては、生体組織を侵入させるのに適した凹凸面が十分に形成されていないことが容易に推測でき、また、特許文献5及び6の方法は、複雑な形状をした高分子材料の表面に多孔質構造を形成させるのには適さない。
また、高分子材料を発泡させることにより、多孔質構造を形成させる方法があり、そのような方法として、低沸点の溶媒を発泡剤として高分子化合物中に分散させ、次にこれを加熱することにより発泡剤を揮発又は熱分解させることによりガスを発生させて、高分子化合物内部に多くの気泡を形成させる方法が一般的に知られている。
別の方法として、特許文献7には、窒素及び二酸化炭素といった不活性ガスを高圧にて熱可塑性ポリマー中に溶解させた後、圧力を開放し、熱可塑性ポリマーをガラス転移温度付近まで加熱することにより、熱可塑性ポリマー中の溶存ガスを発泡させて発泡体を得る方法が記載されている。
しかし、いずれの方法も高分子化合物全体を多孔質構造とするための方法であって、構造全体に渡って気孔が分散していることから、気孔径及び気孔率等によっては強度が低下するおそれがある。したがって、上記方法は、高強度が要求される部位で使用される生体インプラントには適さない。
特開2006−158953号公報 特表2006−528515号公報 特開2004−313794号公報 特表2001−504008号公報 特公平2−5425号公報 特公平4−20353号公報 特開平6−322168号公報
本発明の課題は、エンジニアリングプラスチック製の基材の表面に多孔質構造を有する表面発泡体である生体インプラントを提供することであり、特に、骨又は歯に近い力学的特性を有し、かつ、体内に埋設した後に骨組織が侵入し易い表面構造を有する表面発泡体である生体インプラントを提供することである。
本発明の他の課題は、複雑な形状を有する表面発泡体及び生体インプラントを簡易な方法で製造可能な表面発泡体の製造方法及び生体インプラントの製造方法を提供することである。
前記課題を解決するための手段として、
(1)実質部とその表面に形成されて成る小径気孔及び大径気孔を有する表面層とを備えて成る表面発泡体であって、前記表面層は、前記実質部を形成するエンジニアリングプラスチックからなる基材の表面部を多孔質構造にすることにより得られ、前記小径気孔及び大径気孔の一部は前記表面層の表面に開口する開気孔を形成しており、前記開気孔は平均開気孔径が5μm以下の小径開気孔と平均開気孔径が10〜200μmの大径開気孔とを有し、前記表面層の表面に開口する大径開気孔は、その内壁面に小径気孔及び大径気孔と連通する連通孔が形成されていることを特徴とする生体インプラントを挙げることができ、
前記(1)の好ましい態様として、
)前記エンジニアリングプラスチックは、ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする(1)に記載の生体インプラント
)前記エンジニアリングプラスチックは、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、及び有機繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の生体インプラントを挙げることができ、
)前記(1)〜()のいずれか1つに記載の生体インプラントの前記表面層における開気孔の内壁面及び/又は前記表面層の表面に生体活性物質を有していることを特徴とする生体インプラントを挙げることができる。
また、前記他の課題を解決するための手段として、
エンジニアリングプラスチックにより形成されて成る基材の表面に微小気孔を形成することにより微小気孔基材を得る工程1と、
前記工程1で得られた微小気孔基材を、発泡剤を含有する溶液に浸漬することにより発泡剤保持基材を得る工程2と、
前記工程2で得られた発泡剤保持基材を、エンジニアリングプラスチックを膨潤させ、かつ、発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬することにより発泡基材を得る工程3と、
前記工程3で得られた発泡基材を、膨潤したエンジニアリングプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬する工程4と、
を有しており、前記工程3で使用される発泡溶液が酸性溶液であることを特徴とする生体インプラントの製造方法を挙げることができ、
前記()の好ましい態様として、
)前記エンジニアリングプラスチックは、ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする(5)に記載の生体インプラントの製造方法、
)前記エンジニアリングプラスチックは、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、及び有機繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維を含むことを特徴とする(5)又は(6)に記載の生体インプラントの製造方法、
)前記工程3で使用される発泡溶液が、濃硫酸であることを特徴とする()〜()のいずれか1つに記載の生体インプラントの製造方法、
)前記凝固溶液の種類と、前記凝固溶液の濃度と、前記発泡基材の前記凝固溶液への浸漬時間とから選択される少なくとも1つを変化させることにより、生体インプラントの表面層の多孔質構造を制御することを特徴とする()〜()のいずれか1つに記載の生体インプラントの製造方法、
10)前記凝固溶液が、水と、膨潤したエンジニアリングプラスチックを凝固させるのに水よりも長時間を要する低凝固溶液から選択される少なくとも1つであることを特徴とする()〜()のいずれか1つに記載の生体インプラントの製造方法、
11)前記低凝固溶液が、濃度90%未満の硫酸であることを特徴とする()〜(10)のいずれか1つに記載の生体インプラントの製造方法、
12)前記発泡剤が、炭酸塩であることを特徴とする()〜(11)のいずれか1つに記載の生体インプラントの製造方法、
13)前記炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1つの炭酸塩を含むことを特徴とする()〜(12)のいずれか1つに記載の生体インプラントの製造方法を挙げることができ、
14)前記()〜(13)のいずれか1つに記載の方法により形成されて成る生体インプラントを、カルシウムイオンを含む溶液及びリン酸イオンを含む溶液の両方に、いずれか先に浸漬することを特徴とする生体インプラントの製造方法を挙げることができる。
本発明に係る生体インプラントは、実質部とその表面に形成されて成る小径気孔及び大径気孔を有する表面層とを備えて成る表面発泡体であって、前記表面層は、前記実質部を形成するエンジニアリングプラスチックからなる基材の表面部を多孔質構造にすることにより得られ、前記小径気孔及び大径気孔の一部は前記表面層の表面に開口する開気孔を形成しており、前記開気孔は平均開気孔径が5μm以下の小径開気孔と平均開気孔径が10〜200μmの大径開気孔とを有し、前記表面層の表面に開口する大径開気孔は、その内壁面に小径気孔及び大径気孔と連通する連通孔が形成されている。本発明に係る生体インプラントは、表面層の表面に開口している多数の開気孔及びこの開気孔と表面層の内部に形成されている小径気孔及び大径気孔とが連通することにより形成される連通孔を有するので、この生体インプラントを体内に埋設した後に、骨組織を表面層の内部に侵入させることができる。その結果、表面層の内部に存在する空間を充填するように新たな骨が形成されるので、骨と生体インプラントとを結合させることができる。また、本発明に係る生体インプラントは、全体積に気孔を有するのではなく、生体インプラントの表面に多数の気孔を有するので、適用部位に合わせた強度を保持することが容易である。
また、この表面発泡体である生体インプラントを形成する材料は、エンジニアリングプラスチックであり、ポリエーテルエーテルケトンがさらに好ましく、これらのエンジニアリングプラスチックが炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、及び有機繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維を含むのが特に好ましい。このような材料で生体インプラントが形成されると、高強度の生体インプラントを提供することができる。また、この発明によると、力学的特性が骨又は歯に近い生体インプラントを提供することができる。従って、この生体インプラントを、骨との結合が必要で、かつ大きな荷重が連続的に長期間かかるような部位に人工骨として適用する場合には、ストレスシールディング、すなわち骨に加わる応力の遮蔽によって起こる可能性のある骨減少及び骨密度の低下などが生じることのない、高強度生体インプラントを提供することができる。
また、生体インプラントの表面層における開気孔の内壁面及び/又は前記表面層の表面に生体活性物質を有していると、この生体活性物質と生体の骨組織との化学的な反応が始まり、新たな骨の形成が速やかに行われるので、骨と生体インプラントとを早期に結合させることができる。
本発明に係る生体インプラントの製造方法は、エンジニアリングプラスチックにより形成されて成る基材の表面に微小気孔を形成することにより微小気孔基材を得る工程1と、前記工程1で得られた微小気孔基材を、発泡剤を含有する溶液に浸漬することにより発泡剤保持基材を得る工程2と、前記工程2で得られた発泡剤保持基材を、エンジニアリングプラスチックを膨潤させ、かつ、発泡剤を発泡させる酸性溶液に浸漬することにより発泡基材を得る工程3と、工程3で得られた発泡基材を、膨潤したエンジニアリングプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬する工程4とを有し、ほとんどの工程が液相中において処理することのできる方法であるので、特別な装置を使用する必要がなく、また複雑な形状を有する表面発泡体であっても容易に製造することができる。
また、基材を形成する材料は、エンジニアリングプラスチックであり、ポリエーテルエーテルケトンがさらに好ましく、これらのエンジニアリングプラスチックが炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、及び有機繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維を含むのが特に好ましい。このような材料で基材が形成されると、高強度の生体インプラントを容易に製造することができる。
また、凝固溶液の種類と、凝固溶液の濃度と、発泡基材の凝固溶液への浸漬時間とから選択される少なくとも1つを変化させるだけで、生体インプラントの表面層が所望の多孔質構造を有する生体インプラントを、容易に提供することができる。
本発明に係る生体インプラントの製造方法は、表面発泡体をそのまま生体インプラントとして用いる場合には、前記生体インプラントの製造方法であり、前記生体インプラントが生体活性物質を有する場合には、前記表面発泡体を、カルシウムイオンを含む溶液及びリン酸イオンを含む溶液の両方に、いずれか先に浸漬する工程をさらに有する方法である。いずれの方法であっても、液相中において処理することのできる方法であるので、特別な装置を使用する必要がなく、また複雑な形状を有する生体インプラントであっても容易に製造することができる。
まず、図1を参照しつつ本発明に係る一実施例である表面発泡体の構成について説明する。図1に示すように、本発明に係る表面発泡体1は、実質部2とその表面に形成されて成る小径気孔3及び大径気孔4を多数有する表面層5とを備えて成る表面発泡体1である。前記表面発泡体1はプラスチックにより形成されて成り、前記小径気孔3及び大径気孔4の一部は前記表面層5の表面に開口する開気孔6を形成している。前記開気孔6は平均開気孔径Aが5μm以下の小径開気孔13と平均開気孔径Bが10〜200μmの大径開気孔14とを有し、前記表面層5の表面に開口する大径開気孔14は、その内壁面に小径気孔3及び大径気孔4と連通する連通孔7が形成されている。
表面層5は、大きさの異なる小径気孔3及び大径気孔4を複数有しており、これらの気孔は、独立して形成されている独立気孔8及び2つ以上の独立気孔が連通して形成されている連通気孔9を形成している。一部の小径気孔3及び大径気孔4は表面層5の表面に開口する開気孔6を形成しており、この開気孔6は平均開気孔径Aが5μm以下、好ましくは3μm以下の小径開気孔13と平均開気孔径Bが10〜200μm、好ましくは30〜150μmの大径開気孔14とを有している。この大径開気孔14の内壁面には、小径気孔3及び大径気孔4と連通して形成される連通孔7が形成されている。この連通孔7は、一つの開気孔6に対して複数の連通孔7が形成されているのが好ましく、小径気孔3と連通して形成される小径連通孔径Cが5μm以下、好ましくは3μm以下の小径連通孔15と大径気孔4と連通して形成される大径連通孔径Dが10〜200μm、好ましくは30〜150μmの大径連通孔16とにより形成されている。小径気孔3及び大径気孔4は、球状及び/又は扁球状及び/又は長球状及び/又はこれらの形状が組み合わされてなる形状を有する。このような気孔を有する表面層とすることにより、例えば、本発明に係る表面発泡体1を生体インプラントとして使用する場合には、この表面発泡体1を体内に埋設すると、表面層5の表面に開口している多数の開気孔6及びこの開気孔6と表面層の内部に形成されている小径気孔3及び大径気孔4とが連通することにより形成される連通孔7とを介して、骨芽細胞及び破骨細胞といった骨組織を表面層5の内部に侵入させることができる。その結果、表面層5の内部に存在する空間を充填するように新たな骨が形成されるので、骨と結合させることのできる生体インプラントを提供することができる。さらに、大径気孔4により形成されている大径開気孔14の内壁面に連通孔7、特に大径連通孔16が多数形成されている程、骨組織を表面層5の表面から深部まで到達させることができ、表面層5の深部において新たな骨を形成させることができるので、骨と生体インプラントとを強固に結合させることができる。
表面層5の表面に開口する小径開気孔13の平均開気孔径と大径開気孔14の平均開気孔径は、表面層5の表面を走査型電子顕微鏡で観察し、表面層5の表面を示す画像を利用して求めることができる。
まず、表面層5の表面を走査型電子顕微鏡により、所定の倍率、例えば300倍に設定したSEM画像を得る。次いで、前記SEM画像の全視野における比較的大型の最表面部の開気孔、例えば平均径が約10μm以上の開気孔の長径と短径とを測定する。次いで、これらの測定値の算術平均を算出することにより、大径開気孔14の平均開気孔径を求めることができる。
小径開気孔13は、通常、大径開気孔14と大径開気孔14との間の骨格部分に存在する。小径開気孔13の平均開気孔径を測定する場合には、測定誤差を小さくするために、さらに走査型電子顕微鏡の倍率を上げるのが好ましい。例えば、走査型電子顕微鏡を3000倍に設定したSEM画像を得る。次いで、骨格部分に形成されている開気孔の長径と短径とを測定する。すなわち、先に測定した大径開気孔14を除くすべての開気孔の長径と短径とを測定する。次いで、これらの測定値の算術平均を算出することにより、小径開気孔13の平均開気孔径を求めることができる。
SEM画像上の大径開気孔14又は小径開気孔13の数が多い場合、例えば50個以上の場合、SEM画像上を横断するようにランダムに5本の直線を引き、この直線上にある大径開気孔14又は小径開気孔13を上述の基準で選択し、長径と短径とを測定する。次いで、これらの測定値の算術平均を算出することにより、大径開気孔14と小径開気孔13との平均開気孔径を求めることができる。
表面層5の表面に開口する開気孔6に小径気孔3及び大径気孔4が連通して形成されている連通孔7の孔径は、上記と同様に、所定の倍率で撮影したSEM画像から求めることができ、その他の方法として、水銀ポロシメータを使用して求めることもできる。
表面層5の最表面を投影した場合の大径開気孔14の面積割合は、特に限定されないが、本発明に係る表面発泡体が生体インプラントとして使用される場合には、10〜95%であるのが好ましく、20〜85%であるのが特に好ましい。大径開気孔14の面積割合が、前記範囲内にあると、骨組織を表面層5の内部に浸入させることができるので、表面層5の内部に新たな骨が形成され、その結果、骨と結合させることのできる生体インプラントを提供することができる。
表面層5の最表面を投影した場合の大径開気孔14の面積割合は、表面層5の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析ソフト(例えば、Scion社製 Scion Image)を使用して、大径気孔4により形成される大径開気孔14とそれ以外の部分とに2値化し、次いで、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出することにより、求めることができる。
表面層5における小径気孔3及び大径気孔4の気孔率は、特に限定されないが、小径気孔3と大径気孔4とを合算した気孔率が99%以下になる範囲で、小径気孔3の気孔率は5〜50%であるのが好ましく、10〜40%であるのが特に好ましく、大径気孔4の気孔率は20〜90%であるのが好ましく、30〜80%であるのが特に好ましい。小径気孔3の気孔率が、前記範囲内にあると、骨形成に関与するタンパク質や細胞等が付着する足場を多く確保できるため、新たな骨が表面層の内部に形成されやすく、表面発泡体1と骨とを強固に結合することができる。大径気孔4の気孔率が、前記範囲にあると、骨組織が表面層5の内部に侵入した後保持されやすくなると共に、新たな骨が形成される空間が十分に確保され、この空間を埋めるように新たな骨が形成されるので、より一層強固に骨と生体インプラントとを結合させることができる。
前記表面層5の小径気孔3の気孔率及び大径気孔4の気孔率は、表面層5の表面に直交する断面を走査型電子顕微鏡により撮影した画像を画像解析ソフト(例えば、Scion社製 Scion Image)を使用して、大径気孔4及び小径気孔3の面積をそれぞれ算出することにより求めることができる。なお、上述した平均開気孔を算出する場合と同様にして、走査型電子顕微鏡画像は、大径気孔4及び小径気孔3の面積を測定するのに適度な倍率で表示する。画像全体の面積に対する大径気孔の面積割合(a)から大径気孔の気孔率(a×100(%))が算出される。画像全体から大径気孔を除いた面積に対する小径気孔の面積割合(b)から小径気孔の気孔率((1-a)×b×100(%))が算出される。
表面層5の厚さは、本発明に係る表面発泡体1を適用する場所により適宜選択することができ、例えば、本発明に係る表面発泡体1を生体インプラントとして使用する場合には、10〜1000μmであるのが好ましく、20〜200μmであるのが特に好ましい。上記範囲内であれば、生体インプラントを体内に埋設した後に、表面層5の表面に開口している多数の開気孔6及びこの開気孔6と表面層5の内部に形成されている小径気孔3及び大径気孔4とが連通することにより形成される連通孔7を通じて、骨組織を表面層5の内部に侵入させることができる。その結果、表面層5の内部に新たな骨が形成されるので、生体骨と結合させることのできる生体インプラントを提供することができる。
本発明に係る表面発泡体1を形成する物質は、一般に使用されているプラスチックにより形成されて成る。本発明に係る表面発泡体1が生体インプラントとして使用される場合には、表面発泡体1を形成する物質は、力学的特性が骨又は歯に近いプラスチック、すなわち、弾性率が1〜50GPa、曲げ強度は100MPa以上であることが好ましい。
力学的特性が骨又は歯に近いプラスチックとしては、エンジニアリングプラスチック又は繊維強化プラスチック等が挙げられる。エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニリンオキサイド、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、フッ素樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリオキシメチレン、ポリ四フッ化エチレン等が挙げられる。
繊維強化プラスチックのマトリックスとなるプラスチックとしては、前記エンジニアリングプラスチックに加えて、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、EVA樹脂、EEA樹脂、4−メチルペンテン−1樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ACS樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、エチレン塩化ビニル共重合体、プロピレン塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセトアセタール、ポリフッ化エチレンプロピレン、ポリ三フッ化塩化エチレン、メタクリル樹脂、リノル樹脂、ポリアリルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリケトンスルフィド、ポリスチレン、ポリアミノビスマレイミド、ユリア樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、イソフタル酸系樹脂、アニリン樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン、アルキルベンゼン樹脂、グアナミン樹脂、ポリジフェニルエーテル樹脂等が挙げられる。
本発明に係る表面発泡体1を生体インプラントとして使用する場合には、表面発泡体1を形成する物質としては、これらの中でもポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。PEEKは、生体適合性を有し、力学的特性が骨と近いので、PEEKを表面発泡体1を形成する物質として採用すると、大きな荷重が連続的に長期間かかるような部位にこの表面発泡体を埋設した場合に、ストレスシールディング、すなわち骨に加わる応力の遮蔽によって起こる可能性のある骨減少及び骨密度の低下などが生じることのない高強度生体インプラントを提供することができる。
前記繊維強化プラスチックにおける繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は有機繊維が挙げられる。
炭素繊維については、ここではカーボンナノチューブも含まれる。
ガラス繊維としては、ホウケイ酸ガラス(Eガラス)、高強度ガラス(Sガラス)、高弾性ガラス(YM−31Aガラス)等の繊維、
セラミック繊維としては、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、チタン酸カリウム、炭化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ホウ酸アルミニウム、ホウ素等の繊維、
金属繊維としては、タングステン、モリブデン、ステンレス、スチール、タンタル等の繊維、
有機繊維としては、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、アラミド等の繊維、又はこれらの混合物を用いることができる。
また表面発泡体1を形成する物質中に、必要に応じて帯電防止剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物などの光安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、顔料などの着色料、等の各種添加剤が含有されていても良い。
本発明に係る表面発泡体1を生体インプラントとして使用する場合には、表面層5における開気孔6の内壁面及び/又は表面層5の表面に生体活性物質を有しているのが好ましい。生体活性物質が表面層5における内壁面及び/又は表面層5の表面に担持されていると、生体インプラントを生体内に埋設した後に、この生体活性物質と生体の骨組織との化学的な反応が始まり、新たな骨の形成が速やかに行われるので、骨と生体インプラントとを早期に結合させることができる。
図2(a)、(b)に、生体活性物質を有する生体インプラントの模式図を示す。図2(a)に示すように、生体活性物質210aは、表面層205aにおける開気孔206aの内壁面211aと表面層205aの表面との全面に形成されていても良い。図2(b)に示すように、生体活性物質210bは、開気孔206bの内壁面211bの一部及び/又は表面層205bの表面の一部に形成されていても良い。開気孔206a、206bの内壁面211a、211bに生体活性物質210a、210bが形成されている場合には、生体活性物質210a、210bが開気孔206a、206bをすべて埋めてしまうように形成されているのではなく、図2(a)、(b)に示すように、表面層205a、205bの表面に開口する開気孔206a、206bの内壁面211a、211bの一部又は全面に生体活性物質210a、210bが形成されているのが好ましい。例えば、図2(a)に示すように、小径開気孔213aが生体活性物質210aによってすべて埋められていても良いが、大径開気孔214aは、大径開気孔214aの容積を保持した状態で内壁面211aに生体活性物質210aが形成されているのが好ましい。さらに大径気孔204aと連通して形成される大径連通孔216aも生体活性物質210aにより閉塞されることなく、骨組織を侵入させることができる程度の大径連通孔径Dを有する大径連通孔216aが形成されているのが好ましい。表面層205aに開気孔206aが形成され、さらに開気孔206aに連通する大径連通孔216aが形成されていると、生体インプラント212aを生体内に埋設した後に、開気孔206aから表面層205aの内部に骨組織を侵入させることができる。その結果、開気孔206aの内壁面211aに存在する生体活性物質210aと生体の骨組織との化学的な反応が始まり、新たな骨を形成させることができる。この新たな骨は、大径開気孔214a及びこの大径開気孔214aに連通している小径気孔203a及び大径気孔204aにより形成される空間を充填するように骨形成が進むので、生体活性物質210a及び新たな骨が、表面層205aの内部に複雑に樹枝状に広がって形成されることになる。したがって、表面層205aの表面に開口する開気孔206a及び開気孔206aに連通する連通孔207a、特に大径連通孔216aを有し、かつ、開気孔206aの内壁面211aに生体活性物質210aが存在すると、生体インプラント212aと骨とを早期に、かつ、強固に結合させることができる。
表面層205a、205bを投影した場合の生体活性物質210a、210bの面積割合は、少なくとも5%以上であるのが好ましく、20%以上であるのが特に好ましい。上記生体活性物質210a、210bは、表面層205a、205bの表面に存在する生体活性物質210a、210bだけでなく、開気孔206a、206bの内壁面211a、211bに存在し、かつ表面層205a、205bの外側から視覚できる生体活性物質210a、210bも含む。生体活性物質210a、210bが、表面層205a、205bにおける開気孔206a、206bの内壁面211a、211b及び/又は表面層205a、205bの表面に、前記範囲内で存在すると、生体インプラント212a、212bを生体内に埋設した後に、この生体活性物質210a、210bと生体の骨組織との化学的な反応が始まり、新たな骨の形成が速やかに行われるので、骨と生体インプラント212a、212bとを早期に結合させることができる。
表面層205a、205bを投影した場合の生体活性物質210a、210bの面積割合は、表面層205a、205bの表面を走査型電子顕微鏡により撮影した画像を画像解析ソフト(例えば、Scion社製 Scion Image)を使用して、生体活性物質210a、210bとそれ以外の部分とに2値化し、次いで画像全体の面積に対する生体活性物質の面積割合を算出することにより、求めることができる。
生体活性物質210a、210bは、表面層205a、205bの体積に対して0.5〜30%含有するのが好ましい。生体活性物質210a、210bは、表面層205a、205bにおける開気孔206a、206bの内壁面211a、211b及び/又は表面層205a、205bの表面及び/又は表面層205a、205bの内部に独立した状態及び/又はこれらの生体活性物質210a、210bが結合して樹枝状に表面層205a、205b内部に張り巡らされた状態で存在する。上記範囲内の生体活性物質210a、210bが表面層205a、205bに存在すると、生体インプラント212a、212bを生体内に埋設した後に、これらの生体活性物質210a、210bと生体の骨組織との化学的な反応が始まり、新たな骨の形成が速やかに行われるので、骨と生体インプラント212a、212bとを早期に結合させることができる。
表面層205a、205bに含まれる生体活性物質210a、210bの体積割合は、上述した生体活性物質210a、210bの面積割合を測定する方法と同様にして求めることができる。つまり、表面層205a、205bの表面に直交する断面における生体活性物質210a、210bの面積割合を算出することができれば、この算出値から生体活性物質210a、210bの体積割合を推定することができる。
生体活性物質210a、210bは、生体との親和性が高く、歯を含む骨組織と化学的に反応する性質を有する物質であれば特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム系材料、バイオガラス、結晶化ガラス(ガラスセラミックスとも称する。)、炭酸カルシウム等が挙げられる。リン酸カルシウム系材料としては、例えば、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、ドロマイト、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト及び塩素アパタイト等が挙げられる。バイオガラスとしては、例えば、SiO−CaO−NaO−P系ガラス、SiO−CaO−NaO−P−KO−MgO系ガラス、及び、SiO−CaO−Al−P系ガラス等が挙げられる。結晶化ガラスとしては、例えば、SiO−CaO−MgO−P系ガラス(アパタイトウォラストナイト結晶化ガラスとも称する。)、及び、CaO−Al−P系ガラス等が挙げられる。これらのリン酸カルシウム系材料、バイオガラス及び結晶化ガラスは、例えば、「化学便覧 応用化学編 第6版」(日本化学会、平成15年1月30日発行、丸善株式会社)、「バイオセラミックスの開発と臨床」(青木秀希ら編著、1987年4月10日発行、クインテッセンス出版株式会社)等に詳述されている。
生体活性物質210a、210bとしては、これらの中でも生体活性に優れる点でリン酸カルシウム系材料が好ましく、さらに、実際の骨と組成や構造、性質が似ているので体内環境における安定性が優れており、体内で顕著な溶解性を示さないことから水酸アパタイトが特に好ましい。
また、生体活性物質210a、210bは、低結晶性であることが好ましい。ここでいう低結晶性とは、結晶の発達程度が低い状態を意味し、水酸アパタイトを例にすると、粉末X線回折測定において2θ=25.878°、面間隔(d値)=3.44Åの回折線における半価幅が0.2°以上のものを示す。骨の水酸アパタイトは低結晶性(上記条件下における半価幅:0.4°程度)であることから、同様の結晶性(同条件下における半価幅:0.2〜1.0°)にすることにより生体インプラントと骨とが速やかに結合できる。
生体活性物質210a、210bの結晶性は、例えば、生体活性物質をカルシウム又はリンを含有する溶液に浸漬する方法により形成させる場合は、この溶液の組成成分の種類や組成比率及び/又は浸漬温度により調整することができる。
次に、本発明に係る「表面発泡体の製造方法」の一実施例を説明する。
工程1として、所望の形状に成型させて成るプラスチック製の基材の表面に多数の微小気孔を有する微小気孔基材を作製する。プラスチック製の基材の表面に微小気孔を形成させる方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、プラスチック製の基材を、濃硫酸、濃硝酸、又はクロム酸等の腐食性溶液に所定時間浸漬し、次いで、この基材をプラスチックが溶出しない洗浄用溶液、例えば純水に浸漬させる方法を挙げることができる。プラスチックとして、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を採用した場合には、濃硫酸にPEEKを所定時間浸漬させ、次いで、純水に浸漬させることにより微小気孔を形成させることができる。
プラスチック製の基材の表面に形成される微小気孔の気孔径は、工程2において使用される発泡剤をプラスチック製の基材内に浸入させることのできる気孔径を有していれば良く、発泡剤の種類により適宜選択することができる。発泡剤として、例えば炭酸ナトリウムを採用した場合には、微小気孔の気孔径は、0.1〜200μmであるのが好ましい。プラスチック製の基材の表面に形成されている微小気孔の気孔率は、工程2において使用される発泡剤を十分に保持することができれば良く、例えば、発泡剤として炭酸ナトリウムを採用した場合には、プラスチック製の基材の微小気孔が形成されている層の気孔率は、10〜90%であるのが好ましい。前記気孔率の範囲の内、気孔率が低い範囲にある場合には、例えばプラスチック製の基材の表面から内部方向に気孔が連通して形成されているか又はプラスチック製の基材の表面から内部方向に垂直に柱状の孔が形成されているなど、発泡剤がプラスチック製の基材の表面から所望の深さに保持されるように孔が形成されているのが好ましい。多数の微小気孔が形成されている層の厚さは、最終生成物である表面発泡体における表面層と同等の厚さがあれば良く、10〜1000μmであるのが好ましい。この多数の微小気孔を有する層の厚さ、気孔径及び気孔率は、PEEKの腐食性溶液として例えば濃硫酸を採用する場合には、PEEKを濃硫酸に浸漬する時間及び/又は温度などにより層の厚さを調整することができる。また、濃硫酸に浸漬した後に続いて浸漬する洗浄用溶液の種類及び/又は温度などによって気孔径や気孔率を調整することができる。
次いで、工程2として、工程1で得られた微小気孔基材を、発泡剤を含有する溶液に所定時間浸漬させて、多数の微小気孔を有する微小気孔基材の表面に発泡剤が保持されて成る発泡剤保持基材を作製する。発泡剤としては、プラスチック製の基材の表面に所望の多孔質構造を形成させることのできる物質であれば良く、そのような発泡剤として、炭酸塩、アルミニウム粉末などの無機系発泡剤や、アゾ化合物、イソシアネート化合物などの有機系発泡剤を挙げることができる。最終生成物である表面発泡体を生体インプラントとして使用する場合には、発泡剤は生体に悪影響を与えない物質であるのが好ましく、そのような発泡剤としては炭酸塩が好ましく、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを挙げることができる。
次いで、工程3として、工程2で得られた発泡剤保持基材を、プラスチックを膨潤させ、かつ、発泡剤を発泡させる発泡溶液に所定時間浸漬させて、プラスチックの膨潤と発泡剤の発泡とを同時に進行させることにより形成されて成る発泡基材を作製する。前記発泡溶液としては、例えば、濃硫酸、塩酸及び硝酸などの酸性溶液を挙げることができる。発泡剤保持基材を形成する材料がPEEKであり、発泡剤が炭酸塩である場合には、前記発泡溶液としては、濃度が90%以上の濃硫酸が好ましい。
次いで、工程4として、工程3で得られた発泡基材を、膨潤したプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬することにより表面発泡体を作製する。前記凝固溶液、すなわちプラスチックが溶出しない溶液としては、例えば、水、アセトン、エタノールなどの水性溶液を挙げることができる。発泡基材を形成する材料がPEEKである場合には、上記に挙げた他に、濃度が90%未満の硫酸、硝酸、リン酸、塩酸等の無機酸水溶液、水溶性有機溶剤がある。水溶性有機溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、テトラヒドロフラン、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエトレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、グリセリンエタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル、ペンタノ−ル、ヘキサノ−ル等のアルコ−ル及びこれらの水溶液、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリビニルピロリドン等液状高分子またはそれらの水溶液及びこれらの混合物を挙げることができる。
工程3で得られた発泡基材は、凝固溶液として使用できる複数種類の溶液から選択される少なくとも1つの溶液に浸漬すれば良く、複数種類の溶液に順次浸漬しても良い。また、少なくとも2つの種類の溶液を混合して使用しても良い。
工程4の後には、表面発泡体に残存している発泡剤及び凝固溶液等を純水で洗浄するのが好ましい。
プラスチック製の基材の表面に形成される多孔質構造、すなわち表面発泡体の表面層の多孔質構造を規定する大径開気孔径、小径開気孔径、連通孔径、気孔率などは、発泡剤の種類及び濃度、発泡溶液の種類及び濃度、発泡溶液への浸漬時間、凝固溶液の種類及び濃度、凝固溶液への浸漬時間、各工程における温度などを適宜選択することにより調整することができる。
これらの中でも特に、凝固溶液の種類と、凝固溶液の濃度と、凝固溶液への浸漬時間とから選択される少なくとも1つを変化させることにより、表面発泡体の表面層が所望の多孔質構造を有する表面発泡体を、容易に得ることができる。これらのパラメータを変化させることにより、発泡基材の表面における膨潤したプラスチックの凝固速度を制御することができる。凝固溶液の種類及び濃度としては、水と、膨潤したプラスチックを凝固させるのに水よりも長時間を要する低凝固溶液の少なくとも1つを適宜選択するのが好ましい。発泡基材を形成する材料がPEEKである場合には、低凝固溶液として、濃度が90%未満の硫酸を挙げることができる。
例えば、PEEKにより形成される発泡基材を、低凝固溶液として濃度が86%の硫酸に浸漬すると、水に浸漬する場合に比べて緩やかにPEEKが凝固する。すなわち、凝固速度が遅くなる。そのため、発泡基材を低凝固溶液に浸漬する時間の経過に従って、発泡基材の表面の多孔質構造は変化する。
以下に、発泡基材の低凝固溶液への浸漬時間の違いによる、発泡基材の表面の構造の変化を、上述の表面発泡体1において定義した、大径気孔4と大径気孔4が連通して形成される大径連通孔16と小径気孔3とに分けて説明する。
大径気孔4が表面に開口する大径開気孔14と大径連通孔16との孔径は、浸漬時間の経過に従って次第に大きくなる。所定時間以上経過すると、これらの孔径は逆に小さくなる。また、大径開気孔14と大径連通孔16との数は、浸漬時間の経過に従って次第に少なくなる。浸漬時間の経過に従って、孔径が大きくなるのは、発泡剤により形成された複数の孔が、膨潤したPEEKが緩やかに凝固する間に連結して大きくなるものと理解される。一方、所定時間以上経過すると孔径が小さくなってしまうのは、膨潤したPEEKが緩やかに凝固する間に、発泡剤の効力が弱まってしまい、連結して大きくなった孔も含めて、全ての孔が小径化してしまうと考えられる。また、浸漬時間の経過に従って、大径開気孔14と大径連通孔16の数が少なくなるのは、膨潤したPEEKが緩やかに凝固する間に、複数の大径開気孔14及び大径連通孔16が連結して統合されてしまうためであると理解される。
小径気孔3が表面に開口する小径開気孔13の孔径及び気孔率は、浸漬時間の経過に従って次第に小さくなる。大径気孔が発泡剤の作用により形成されるのに対し、小径気孔3は膨潤したPEEKの相分離現象に基づき形成されていると考えられる。膨潤したPEEKは、緩やかに凝固が進行する低凝固溶液との間では相分離が生じにくく、低凝固溶液の浸漬時間が長いほど、膨潤したPEEKと低凝固溶液とが均質化しながら凝固が進行するため、小径開気孔13の数や孔径が小さくなると共に、気孔率も低下すると考えられる。
以上に説明したように、発泡基材の低凝固溶液への浸漬時間の違いにより、表面発泡体1の表面層5の多孔質構造が異なる表面発泡体1を得ることができる。特に、大径開気孔14及び大径連通孔16の孔径が最大となる時間に、水などに浸漬することにより速やかに凝固を完了させれば、表面層5の内部まで連通性が良好な表面発泡体1を提供することができる。
上記においては、低凝固溶液として濃度が86%の硫酸を例として説明したが、さらに低濃度の硫酸を低凝固溶液として使用した場合には、発泡基材の表面の構造の時間経過による変化の有様は、相違する。例えば、さらに低濃度の硫酸を使用すると、濃度が86%の硫酸を使用する場合よりも短時間で膨潤したPEEKが凝固するので、発泡剤の効力が弱まる前に、大径気孔4が凝固することがある。その場合には、発泡基材を低凝固溶液に長時間浸漬しておいても、大径開気孔14及び大径連通孔16の孔径が小さくなったり、数が少なくなったりすることがない。
低凝固溶液の種類及び濃度により、上述したように、浸漬時間の経過に伴う、発泡基材の表面の構造の変化の仕方は相違する。従って、所望の低凝固溶液を選択し、所定時間発泡基材を浸漬して、発泡基材の表面の構造が所望の多孔質構造を有する時間になったら、水に浸漬すれば、速やかに膨潤したプラスチックを凝固させることができるので、表面層5が所望の多孔質構造を有する表面発泡体を得ることができる。なお、膨潤したプラスチックを凝固させるために、発泡基材を水に浸漬させることの他に、膨潤したプラスチックが凝固するのに十分な時間だけ低凝固溶液に浸漬させておいても良い。
次に、前記方法により製造された表面発泡体を生体インプラントとして使用する場合であって、表面層の表面及び/又は内部に生体活性物質を有している生体インプラントの製造方法の一実施例を説明する。
生体活性物質は、表面層における開気孔の内壁面及び/又は前記表面層の表面に固定されて形成される限り、任意の方法により形成させることができ、例えば、工程1〜工程4により形成されて成る表面発泡体1を、少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液及び少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液の両方にいずれか先に浸漬する液相法を採用することができる。
以下においては、前記液相法により生体インプラントを製造する方法の一実施例を説明する。
まず、工程1〜工程4により形成されて成る表面発泡体を、少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液に所定時間浸漬する。このカルシウムイオンを含む溶液は、少なくともカルシウムイオンを含んでいれば良く、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオンなどを含んでいても良いが、リン酸イオンは実質的に含まないほうが好ましい。カルシウムイオンを含む溶液としては、通常、水溶性が高く、人体に悪影響を与えない化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酪酸カルシウム、乳酸カルシウム、およびこれらの混合溶液等が挙げられ、塩化カルシウムの水溶液が好ましい。
カルシウムイオンを含む溶液に所定時間浸漬した後に、表面発泡体を、少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液に浸漬する。このリン酸イオンを含む溶液は、少なくともリン酸イオンを含んでいればよく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸イオン、ケイ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩素イオン、水素イオンなどを含んでいても良いが、カルシウムイオンは実質的に含まないほうが好ましい。リン酸イオンを含む溶液としては、通常、水溶性が高く、人体に悪影響を与えない化合物の水溶液を挙げることができ、例えば、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、およびこれらの混合溶液等が挙げられ、リン酸水素二カリウムの水溶液が好ましい。
表面発泡体を、上記2種類の水溶液に浸漬する順序は、特に限定されないが、例えば生体活性物質として水酸アパタイトを表面層の内部、すなわち多孔質構造内に生成させる場合は、水酸アパタイトの溶解度がより低いアルカリ域で生成反応が進むことが生成量の面から好ましく、そのため、後半に浸漬する溶液のpHがpH8〜10のアルカリ域であることが好ましい。
少なくとも10mMのカルシウムイオンを含む溶液及び少なくとも10mMのリン酸イオンを含む溶液に、表面発泡体を浸漬する時間は、それぞれ1分〜5時間が好ましく、3分〜3時間が特に好ましい。1分〜5時間の範囲内であれば、十分にカルシウムイオン及びリン酸イオンが表面発泡体の内部まで染み込み、表面発泡体の表面層における開気孔及び連通気孔の内壁面に生体活性物質が生成されて固定されるからである。また、生体活性物質の生成量を増やしたい場合、各溶液に浸漬する操作を複数回繰り返しても良い。
最終工程として、適宜、前記工程で得られた生体活性物質が形成されて成る表面発泡体を、純水に浸漬して洗浄した後に、乾燥させると、表面発泡体の表面層における少なくとも開気孔の内壁面及び/又は前記表面層の表面に生体活性物質を有している生体インプラントを得ることができる。
生体活性物質の形成は、上記の方法に限られず、例えば表面発泡体を、あらかじめ多量の生体活性物質を含む溶液に浸漬し、これを乾燥させることにより、表面発泡体における多孔質構造を有する表面層内部に生体活性物質を固定した後、純水に浸漬して洗浄した後に、再度乾燥させることにより、行うこともできる。
本発明に係る製造方法は、本発明に係る表面発泡体1以外の表面発泡体をも製造することができ、また、この表面発泡体は、各種用途を有し、例えば、生体インプラントとして使用することができる。前記表面発泡体が生体インプラントとして使用される場合には、生体内の使用部位に合わせて様々な形状、例えば、粒子状、繊維状、ブロック状、フィルム状等で用いられる。好ましくは、この生体インプラントが補填される骨欠損部又は歯欠損部等の形状と同様の形状、又は骨欠損部又は歯欠損部等の形状に相当する形状、例えば、相似形等に、成形、整形及び/又は調製されて用いられる。
前記表面発泡体は、PEEKなどのプラスチックを所望の形状に成形、整形及び/又は調製した後に、プラスチック製の基材の表面部に多孔質構造を有する表面層を形成させることもできるし、プラスチック製の基材の表面に多孔質構造を有する表面層を形成させた後に、表面発泡体を所望の形状に成形、整形及び/又は調製することもできる。前記液相法により表面発泡体を形成すると、PEEKなどのプラスチックを、複雑な形状に成形、整形及び/又は調製した後に、プラスチック製の基材の表面部に多孔質構造を有する表面層を形成させることを、容易にすることができる。
前記表面層は、プラスチック製の基材の全表面部に形成させても良いし、また前記表面発泡体を生体インプラントとして使用する場合には、骨又は歯との結合が必要な面のみに形成させても良い。また、表面層における少なくとも開気孔の内壁面及び/又は前記表面層の表面に生体活性物質を有している生体インプラントとして用いることもできる。
前記表面発泡体及び生体活性物質を有する生体インプラントは、骨補填材、人工関節、骨接合材、人工椎体、椎体間スペーサ、椎体ケージ及び人工歯根などに適用することができる。
次に、この発明を実施例を挙げて説明するが、この発明は、以下の実施例に限定されない。
<表面発泡体の作製及び評価>
(実施例1)
表面発泡体を形成する物質としてPEEKを使用した場合の実施例である。
下記の手順により表面発泡体を作製した。
PEEKで形成される円盤体(直径10mm、厚さ2mm、Victrex社製450G)の表面をサンドペーパー(#1000)で研磨し、濃硫酸(濃度:97%)に5分間浸漬した。濃硫酸から引き上げた円盤体を純水に5分間浸漬し、その後純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄し、表面に微小気孔を有する微小気孔基材を得た。この微小気孔基材の表面を走査型電子顕微鏡にて観察したところ、多数の気孔を有し、これらの気孔の気孔径は1〜2μmであり、内部は網目構造となっていた。
次いで、この微小気孔基材を炭酸水素ナトリウム水溶液(濃度:500mM)に60分間浸漬することにより、微小気孔基材の表面に炭酸水素ナトリウムを保持させて発泡剤保持基材を得た。
次いで、この発泡剤保持基材を発泡溶液である濃硫酸(濃度:97%)に1分間浸漬することにより、発泡剤保持基材におけるPEEKの表面を膨潤させるのと同時に発泡剤保持基材における炭酸水素ナトリウムを発泡させて発泡基材を得た。
次いで、この発泡基材を濃硫酸から引き上げて純水に10分間浸漬することによりPEEKの表面を凝固させ、純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄した後に、120℃で3時間乾燥させて表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図3に示す(拡大率300倍)。表面発泡体の表面には開気孔径が1〜5μmの小径気孔により形成された小径開気孔と開気孔径が50〜100μmの大径気孔により形成された大径開気孔とが多数確認された。また、大径気孔により形成された大径開気孔の内壁面には小径気孔及び大径気孔と連通することにより形成される小径連通孔と大径連通孔とが多数確認された。
拡大率3000倍及び300倍で撮影した各写真を利用して、上述したように大径開気孔及び小径開気孔の各長径及び短径を測定し、これらの測定値の算術平均を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は2μm、大径開気孔の平均開気孔径は73μmであった。
表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析ソフト(Scion社製 Scion Image)を使用して、大径開気孔とそれ以外の部分とに2値化することにより、写真全体の面積に対する開気孔径50〜100μmの大径開気孔の面積割合を算出したところ、78%であった。
作製した表面発泡体の表面に直交する断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図4に示す(拡大率500倍)。表面発泡体の表面には厚さ約70μmの多数の気孔を有する層が確認された。
作製した表面発泡体における多数の気孔が形成されて成る表面層について、試験体の表面に直交する断面を走査型電子顕微鏡により拡大率300倍と拡大率3000倍とで撮影した写真を、画像解析ソフト(Scion社製 Scion Image)を使用して、小径気孔と大径気孔との面積をそれぞれ算出した。上述したように、写真全体の面積に対する小径気孔及び大径気孔の面積割合から、小径気孔の気孔率及び大径気孔の気孔率を算出したところ、それぞれ、18%と64%とであった。
作製した表面発泡体における多数の気孔が形成されて成る表面層について、水銀ポロシメータにより連通孔の孔径を測定したところ、孔径1〜100μmの間において未処理のPEEKよりも水銀の圧入が多く認められた。従って、この範囲の間に広い孔径分布で連通孔が形成されていることが分かった。これは走査型電子顕微鏡での表面層の観察結果と一致した。
(実施例2)
炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに炭酸ナトリウム水溶液(濃度:500mM)を使用した以外は、実施例1と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図5に示す(拡大率300倍)。表面発泡体の表面には実施例1と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、2〜4μmであった。大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、30〜80μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は3.1μm、大径開気孔の平均開気孔径は45μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、39%であった。
(実施例3)
炭酸水素ナトリウム水溶液の代わりに炭酸カリウム水溶液(濃度:500mM)を使用した以外は、実施例1と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図6に示す(拡大率300倍)。表面発泡体の表面には実施例1と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、1〜2μmであった。大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、20〜30μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は1.6μm、大径開気孔の平均開気孔径は23μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、15%であった。
(実施例4)
炭酸カリウム水溶液の濃度を3Mにした以外は、実施例3と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図7に示す(拡大率300倍)。表面発泡体の表面には実施例3と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、1〜4μmであった。大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、100〜200μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は2.4μm、大径開気孔の平均開気孔径は106μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、64%であった。
(実施例5)
発泡基材を濃硫酸から引き上げて純水に10分間浸漬する前に、濃度が63%の硫酸に1分間浸漬した以外は、実施例4と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図8(a)、(b)に示す(図8(a):拡大率100倍、図8(b):拡大率3000倍)。図8(a)に示されるように、表面発泡体の表面には実施例4と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。連通孔の数は実施例4と同程度であった。大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、10〜100μmであった。
図8(b)に示されるように、小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、0.2〜4μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は1.4μm、大径開気孔の平均開気孔径は39μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、61%であった。
(実施例6)
濃度が63%の硫酸への浸漬時間を5分間とした以外は、実施例5と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図9(a)、(b)に示す(図9(a):拡大率100倍、図9(b):拡大率3000倍)。図9(a)に示されるように、表面発泡体の表面には実施例5と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。連通孔の数は実施例5よりも若干減っていた。また、大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、実施例5における開気孔径よりも大きく、30〜300μmであった。
図9(b)に示されるように、小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、0.5〜5μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は1.4μm、大径開気孔の平均開気孔径は118μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、67%であった。
(実施例7)
濃度が63%の硫酸への浸漬時間を15分間とした以外は、実施例5と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図10(a)、(b)に示す(図10(a):拡大率100倍、図10(b):拡大率3000倍)。図10(a)に示されるように、表面発泡体の表面には実施例5と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。連通孔の数は実施例6と同程度であった。また、大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、実施例6における開気孔径と同程度であり、30〜300μmであった。大径開気孔及び連通孔が実施例6の場合とほぼ同程度であったのは、発泡基材を濃度が63%の硫酸に10分間浸漬した段階で、発泡基材の凝固がほぼ完了したためであると考えられる。
図10(b)に示されるように、小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、0.5〜5μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は1.8μm、大径開気孔の平均開気孔径は122μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、68%であった。
(実施例8)
濃度が63%の硫酸の代わりに、濃度が86%の硫酸を使用したこと以外は、実施例5と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図11(a)、(b)に示す(図11(a):拡大率100倍、図11(b):拡大率3000倍)。図11(a)に示されるように、表面発泡体の表面には実施例5と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。大径気孔が連通して形成される大径連通孔の孔径は、実施例5の場合よりも大きい大径連通孔が認められ、10〜20μmであった。また、大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、実施例5における開気孔径よりも大きく、50〜180μmであった。
図11(b)に示されるように、小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、0.3〜4μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は0.8μm、大径開気孔の平均開気孔径は97μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、67%であった。
(実施例9)
濃度が63%の硫酸の代わりに、濃度が86%の硫酸を使用したこと以外は、実施例6と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図12(a)、(b)に示す(図12(a):拡大率100倍、図12(b):拡大率3000倍)。図12(a)に示されるように、表面発泡体の表面には実施例5と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。大径気孔が連通して形成される大径連通孔の孔径は、実施例8の大径連通孔よりも明らかに大きく、20〜40μmであった。大径連通孔の数は、実施例8の場合に比べて減少していた。また、大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、実施例8における大径開気孔径と同程度であり、60〜170μmであった。
図12(b)に示されるように、小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、0.5〜1μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は0.6μm、大径開気孔の平均開気孔径は92μmであった。
作製した表面発泡体の縦断面をマイクロスコープで観察した結果を図13に示す(拡大率500倍)。試験体の表面から厚さ約120μmの表面層全体において、孔径が30〜50μmの大径気孔が認められた。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、65%であった。
(実施例10)
濃度が63%の硫酸の代わりに、濃度が86%の硫酸を使用したこと以外は、実施例7と同様にして表面発泡体を得た。
作製した表面発泡体の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図14(a)、(b)に示す(図14(a):拡大率100倍、図14(b):拡大率3000倍)。図14(a)に示されるように、表面発泡体の表面には実施例5と同様に、開気孔及び開気孔の内壁面に形成されている連通孔が多数確認された。大径気孔が連通して形成される大径連通孔の孔径は、実施例9の場合の孔径と同程度であり、20〜40μmであった。また、大径気孔により形成された大径開気孔の開気孔径は、実施例9における大径開気孔径より小さく、30〜80μmであった。
図14(b)に示されるように、小径気孔により形成された小径開気孔の開気孔径は、0.2〜1μmであった。
実施例1と同様にして、大径開気孔及び小径開気孔の各平均開気孔径を算出したところ、小径開気孔の平均開気孔径は0.6μm、大径開気孔の平均開気孔径は42μmであった。
実施例1と同様にして、写真全体の面積に対する大径開気孔の面積割合を算出したところ、54%であった。
<生体活性物質を有して成る生体インプラントの作製及び評価>
(実施例11)
実施例1において作製した表面発泡体を、カルシウムイオン濃度2Mの塩化カルシウム水溶液に60分間浸漬して、続けて、リン酸イオン濃度2Mのリン酸水素ニカリウム水溶液に60分間浸漬して、溶液浸漬基材を得た。
次いで、この溶液浸漬基材を純水中に3時間浸漬し、続けて、純水中に超音波照射しながら10分間浸漬して洗浄した後に、120℃で3時間乾燥して、生体活性物質を有する生体インプラントを得た。
生体活性物質を有する生体インプラントの表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を図15に示す(拡大率3000倍)。生体インプラントの表面及びこの表面に形成された開気孔の内壁面に、塩化カルシウム水溶液及びリン酸水素ニカリウム水溶液に浸漬したことにより析出した粒子が付着していた。この粒子をX線回折装置により分析した結果、水酸アパタイトに帰属するピークが確認された。また、これらのピークはブロードであり、低結晶質の水酸アパタイトが生成していることが確認された。
生体インプラントの表面及びこの表面に形成された開気孔の内壁面に形成されていた水酸アパタイトの面積割合を、走査型電子顕微鏡により撮影した写真を画像解析ソフト(Scion Image)を使用して、水酸アパタイトの粒子とそれ以外の部分とに2値化することにより、写真全体の面積に対する水酸アパタイトの粒子の面積割合を算出したところ、23%であった。
図1は、本発明に係る表面発泡体の模式図である。 図2(a)、図2(b)は、生体活性物質を有して成る生体インプラントの模式図である。 図3は、実施例1における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図4は、実施例1における表面発泡体の断面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図5は、実施例2における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図6は、実施例3における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図7は、実施例4における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図8(a)、図8(b)は、実施例5における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図9(a)、図9(b)は、実施例6における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図10(a)、図10(b)は、実施例7における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図11(a)、図11(b)は、実施例8における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図12(a)、図12(b)は、実施例9における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図13は、実施例9における表面発泡体の断面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図14(a)、図14(b)は、実施例10における表面発泡体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。 図15は、実施例11における生体活性物質を有して成る生体インプラントの表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
符号の説明
1 表面発泡体
2、202a、202b 実質部
3、203a、203b 小径気孔
4、204a、204b 大径気孔
5、205a、205b 表面層
6、206a、206b 開気孔
7、207a、207b 連通孔
8 独立気孔
9 連通気孔
13、213a、213b 小径開気孔
14、214a、214b 大径開気孔
15 小径連通孔
16、216a、216b 大径連通孔
210a、210b 生体活性物質
211a、211b 内壁面
212a、212b 生体インプラント
A 小径気孔の平均開気孔径
B 大径気孔の平均開気孔径
C 小径連通孔径
D 大径連通孔径

Claims (14)

  1. 実質部とその表面に形成されて成る小径気孔及び大径気孔を有する表面層とを備えて成る表面発泡体であって、前記表面層は、前記実質部を形成するエンジニアリングプラスチックからなる基材の表面部を多孔質構造にすることにより得られ、前記小径気孔及び大径気孔の一部は前記表面層の表面に開口する開気孔を形成しており、前記開気孔は平均開気孔径が5μm以下の小径開気孔と平均開気孔径が10〜200μmの大径開気孔とを有し、前記表面層の表面に開口する大径開気孔は、その内壁面に小径気孔及び大径気孔と連通する連通孔が形成されていることを特徴とする生体インプラント
  2. 前記エンジニアリングプラスチックは、ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする請求項に記載の生体インプラント
  3. 前記エンジニアリングプラスチックは、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、及び有機繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の生体インプラント
  4. 請求項1〜のいずれか一項に記載の生体インプラントの前記表面層における開気孔の内壁面及び/又は前記表面層の表面に生体活性物質を有していることを特徴とする生体インプラント。
  5. エンジニアリングプラスチックにより形成されて成る基材の表面に微小気孔を形成することにより微小気孔基材を得る工程1と、
    前記工程1で得られた微小気孔基材を、発泡剤を含有する溶液に浸漬することにより発泡剤保持基材を得る工程2と、
    前記工程2で得られた発泡剤保持基材を、エンジニアリングプラスチックを膨潤させ、かつ、発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬することにより発泡基材を得る工程3と、
    前記工程3で得られた発泡基材を、膨潤したエンジニアリングプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬する工程4と、
    を有しており、前記工程3で使用される発泡溶液が酸性溶液であることを特徴とする生体インプラントの製造方法。
  6. 前記エンジニアリングプラスチックは、ポリエーテルエーテルケトンであることを特徴とする請求項に記載の生体インプラントの製造方法。
  7. 前記エンジニアリングプラスチックは、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、及び有機繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維を含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の生体インプラントの製造方法。
  8. 前記工程3で使用される発泡溶液が、濃硫酸であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の生体インプラントの製造方法。
  9. 前記凝固溶液の種類と、前記凝固溶液の濃度と、前記発泡基材の前記凝固溶液への浸漬時間とから選択される少なくとも1つを変化させることにより、生体インプラントの表面層の多孔質構造を制御することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に記載の生体インプラントの製造方法。
  10. 前記凝固溶液が、水と、膨潤したエンジニアリングプラスチックを凝固させるのに水よりも長時間を要する低凝固溶液とから選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項5〜9のいずれか一項に記載の生体インプラントの製造方法。
  11. 前記低凝固溶液が、濃度90%未満の硫酸であることを特徴とする請求項5〜10のいずれか一項に記載の生体インプラントの製造方法。
  12. 前記発泡剤が、炭酸塩であることを特徴とする請求項5〜11のいずれか一項に記載の生体インプラントの製造方法。
  13. 前記炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1つの炭酸塩を含むことを特徴とする請求項5〜12のいずれか一項に記載の生体インプラントの製造方法。
  14. 請求項5〜13のいずれか一項に記載の方法により形成されて成る生体インプラントを、カルシウムイオンを含む溶液及びリン酸イオンを含む溶液の両方に、いずれか先に浸漬することを特徴とする生体インプラントの製造方法。
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