この発明に係る生体インプラントは、実質部と、前記実質部の表面に設けられ、ミクロ気孔を有するミクロ多孔層と、前記ミクロ多孔層の表面に設けられ、外部に露出する露出面に開口し、かつ前記露出面から深さ方向に延びる指状のマクロ気孔を有するマクロ多孔層とを有し、前記実質部と前記ミクロ多孔層と前記マクロ多孔層とは一体に形成されてなる。
(第1の実施態様)
以下において、図1を参照しつつ、この発明に係る生体インプラントを具体的に説明する。図1は、この発明に係る生体インプラントの一例である生体インプラントの任意の端面を示す模式図である。図1に示されるように、この実施態様の生体インプラント1は、実質部2と、ミクロ多孔層3及びマクロ多孔層4を含む多孔層5とを有し、実質部2とミクロ多孔層3とマクロ多孔層4とがこの順に一体に形成されている。
実質部2は、生体インプラント1の基体となる部分であって、その全体が中実に形成されている。実質部2は適用される部位に応じて適宜の形状及び寸法等に成形される。なお、実質部はその大部分が中実であれば一部に中空部又は気孔を有していてもよい。
実質部2は、生体骨又は歯に類似又は近似する力学特性を有しているのが好ましい。生体骨又は歯に類似又は近似する力学特性としては、例えば1〜50GPaの弾性率、100MPa以上の曲げ強度等が挙げられ、これらの特性の少なくとも一方を有しているのが好ましい。
実質部2を形成する材料としては、プラスチック、セラミック、金属等を挙げることができる。
プラスチックとしては、生体骨又は歯に類似又は近似する力学特性を有するプラスチックが好ましく、そのようなプラスチックとして、例えば、繊維が混合されていないエンジニアリングプラスチック(繊維無含有プラスチックとも称する。)、繊維が混合された繊維強化プラスチック等が挙げられる。
繊維無含有プラスチックとしては、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニリンオキサイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、フッ素樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルペンテン、ジアリルフタレート樹脂、ポリオキシメチレン、ポリ四フッ化エチレン等の熱可塑性エンジニアリングプラスチック、フェノール、ユリア、メラミン、不飽和ポリエステル、エポキシ、ジアリルフタレート、シリコーン、ポリウレタン等の熱硬化性エンジニアリングプラスチックが挙げられる。
繊維強化プラスチックのマトリックスとなるプラスチックとしては、前記熱可塑性エンジニアリングプラスチック及び前記熱硬化性エンジニアリングプラスチックに加えて、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、EVA樹脂、EEA樹脂、4−メチルペンテン−1樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ACS樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、エチレン塩化ビニル共重合体、プロピレン塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリアビニルアセトアセタール、ポリフッ化エチレンプロピレン、ポリ三フッ化塩化エチレン、メタクリル樹脂、ノリル樹脂、ポリアリルエーテルケトン、ポリケトンスルフィド、ポリスチレン、イソフタル酸系樹脂、ポリウレタン、アルキルベンゼン樹脂、ポリジフェニルエーテル等が挙げられる。
繊維強化プラスチックに含有される繊維としては、例えば、カーボンナノチューブを含む炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維又は有機繊維が挙げられる。前記ガラス繊維としては、例えば、ホウケイ酸ガラス(Eガラス)の繊維状物、高強度ガラス(Sガラス)の繊維状物、高弾性ガラス(YM−31Aガラス)の繊維状物等が挙げられ、前記セラミック繊維としては、例えば、炭化ケイ素の繊維状物、窒化ケイ素の繊維状物、アルミナの繊維状物、チタン酸カリウムの繊維状物、炭化ホウ素の繊維状物、酸化マグネシウムの繊維状物、酸化亜鉛の繊維状物、ホウ酸アルミニウムの繊維状物、ホウ素の繊維状物等が挙げられ、前記金属繊維としては、例えば、タングステンの繊維状物、モリブデンの繊維状物、ステンレスの繊維状物、スチールの繊維状物、タンタルの繊維状物等が挙げられ、前記有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコールの繊維状物、ポリアミドの繊維状物、ポリエチレンテレフタレートの繊維状物、ポリエステルの繊維状物、アラミドの繊維状物等が挙げられる。繊維は1種単独で又は2種以上の混合物を用いることができる。
実質部2を形成する材料としては、これらの中でも、力学特性が生体骨と近く、生体適合性の高いポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に好ましい。
実質部2は、プラスチックに加えて、必要に応じて、帯電防止剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、滑剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、顔料等の着色料等の各種添加剤を含有していてもよい。
セラミックとしては、アルミナ系セラミック、ジルコニア系セラミック、チタニア系セラミック、シリカ系セラミック、リン酸カルシウム系セラミック等を挙げることができる。
金属としては、ステンレス鋼、Ti、Co、Ni、Au、Ag、Cu、及びCr、又はこれらの合金等を挙げることができる。
多孔層5は、実質部2の表面に設けられ、複数の気孔を有する多孔質構造になっている。多孔層5は、実質部2の表面全面に配置されて実質部2を被覆してもよく、実質部2における生体骨との結合が必要な表面のみに、すなわち実質部2の表面の一部に配置されていてもよい。生体インプラント1は、実質部2と多孔層5とが一体に形成され、後述するように実質部の一部を発泡して形成されることができる。したがって、多孔層5は、前述した実質部2と同じ材料により形成されることができる。実質部2の一部を発泡して形成される多孔層5は「表面発泡層」とも称され、実質部2と多孔層5とを合わせて「表面発泡基材」と称されることもある。
多孔層5は、実質部2の表面に設けられたミクロ多孔層3と、ミクロ多孔層3の表面に設けられたマクロ多孔層4とを有する。
マクロ多孔層4は、外部に露出する露出面6に開口し、かつ前記露出面6から深さ方向に延びる指状のマクロ気孔7を複数有する指状構造になっている。マクロ多孔層4は複数のマクロ気孔7が露出面6に沿って互いに隣接して並列されているのがよく、その形状は一部に狭小な部分が存在しない指状又は筒状の形状である。この生体インプラント1は、このようなマクロ多孔層4をその表面に有するので、骨欠損部等の生体内に埋設されたときに生体組織が露出面に開口した開口部71からマクロ気孔7の深部まで速やかに進入し易く、マクロ多孔層4全面において生体組織と迅速かつ強固な結合能力を発揮する。
マクロ多孔層4に含まれるマクロ気孔7は、露出面6から深さ方向の平均長さが少なくとも50μmであるのが好ましく、少なくとも70μmであるのが特に好ましい。前記平均長さが少なくとも50μmであると、生体組織がマクロ気孔7の開口部71から奥深くまで進入することで、生体インプラントと生体骨とが十分な厚みで櫛歯状に噛み合って嵌合し、強固に結合する。前記平均長さは、大きくとも500μmであれば生体インプラントと生体組織とが強固に結合するのに十分である。また、マクロ気孔7の平均長さが大き過ぎると、生体インプラントを形成する材料によっては強度が不足するおそれがある。なお、マクロ多孔層4の厚さを、露出面6からマクロ気孔7の最深部までの距離すなわちマクロ気孔7の長さの最大値とすると、マクロ多孔層4の厚さは少なくとも50μm、特に少なくとも70μmであるのがよい。
マクロ気孔7は、その平均幅dに対する前記平均長さcの比である平均アスペクト比(c/d)が1〜20であるのが好ましく、2〜10であるのが特に好ましい。マクロ気孔7の平均アスペクト比(c/d)が20以下であると、マクロ気孔7の開口部71から生体組織が速やかに進入し易く、生体インプラントと生体骨とが迅速に結合する。また、前記平均アスペクト比が1以上であると、生体組織との接触面積が適度に得られるので、生体インプラントと生体組織とが強固に勘合することで、強固な結合能力を発揮する。
マクロ多孔層4は、そこに存在する比較的大型の気孔の大部分が露出面6に開口する指状のマクロ気孔7であり、比較的大型の気孔のうちの半数以上を占め、90%以上を占める場合もある。マクロ多孔層4は、マクロ気孔7以外の気孔として、露出面6に開口しないでマクロ多孔層4の内部に存在するマクロ内気孔9を有していてもよい。マクロ内気孔9は、単独で独立に存在するマクロ独立気孔91、マクロ気孔に連通するマクロ連通気孔92、及びマクロ独立気孔91同士は連通するがマクロ気孔7には連通しないマクロ連通閉気孔93に分類される。マクロ独立気孔91は10〜200μmの平均気孔径を有している。したがって、マクロ連通気孔92及びマクロ連通閉気孔93の、連通部の径の平均であるマクロ連通孔径は、それぞれ、10〜200μmである。
マクロ多孔層4は、その骨格部分にマクロ気孔7の平均幅よりも小さい気孔径を有するミクロ気孔を有していてもよい。ミクロ気孔8は、その存在位置によって、露出面6に開口するミクロ開気孔81とマクロ多孔層4の内部に存在するミクロ内気孔82とに分類され、またその存在状態によって、単独で独立に存在するミクロ独立気孔83と、ミクロ気孔8同士が連通する又はマクロ気孔7に連通するミクロ気孔8であるミクロ連通気孔84とに分類される。このミクロ気孔8は10μm未満の平均気孔径を有している。したがって、ミクロ開気孔81の、露出面6に開口する開口径の平均である平均開気孔径、ミクロ内気孔82及びミクロ独立気孔83の平均気孔径、並びに、ミクロ連通気孔84の、連通部の径の平均である連通孔径は、それぞれ、10μm未満である。
前記開口部71の平均径である平均開気孔径は、マクロ多孔層4の露出面6を走査型電子顕微鏡で観察した画像を利用して求めることができる。具体的には、マクロ気孔7の平均開気孔径は、マクロ多孔層4の露出面6を走査型電子顕微鏡により、所定の倍率、例えば300倍で観察したSEM画像を得る。このSEM画像の全視野における比較的大型の開口部71、例えば平均径が約10μm以上の開口部71すべての長径と短径とを測定し、これらの算術平均値を開口部71の平均開気孔径とする。
ミクロ開気孔81の平均開気孔径は次のようにして求める。ミクロ開気孔81は、通常、マクロ気孔7とマクロ気孔7との間の骨格部分に存在する。ミクロ開気孔81の平均開気孔径を測定する場合には測定誤差を小さくするために走査型電子顕微鏡の倍率を上げるのが好ましい。例えば、走査型電子顕微鏡により、3000倍で観察したSEM画像を得る。このSEM画像において骨格部分に形成されているミクロ開気孔81すべての長径と短径とを測定する。すなわち先に測定したマクロ気孔7を除くすべての開口部の長径と短径とを測定して、これらの算術平均値をミクロ開気孔81の平均開気孔径とする。
なお、SEM画像で確認されるマクロ気孔7の開口部71又はミクロ開気孔81の開口部が多数、例えば50個以上である場合、SEM画像上を横断するようにランダムに5本の直線を引き、この直線上にあるマクロ気孔7の開口部71又はミクロ開気孔81の開口部を測定対象として前記方法に基づいて開口部71の平均開気孔径を求めることもできる。
マクロ気孔7におけるマクロ内気孔9等の平均気孔径、並びに、ミクロ内気孔82等の平均気孔径は、露出面6に直交する任意の断面を走査型電子顕微鏡で観察して前記平均開気孔径と同様に求めることができる。
マクロ連通気孔92及びマクロ連通閉気孔93の連通孔径並びにミクロ連通気孔84の連通孔径は、上記と同様に所定の倍率で撮影したSEM画像から求めることができ、その他の方法として水銀ポロシメータを使用して求めることもできる。
マクロ気孔7の平均アスペクト比は、マクロ気孔7の平均幅dに対する平均長さcの比を算出することにより求めることができる。マクロ気孔7の平均長さcは、露出面6に直交する任意の断面を走査型顕微鏡で所定の倍率、例えば300倍で観察してSEM画像を得て、このSEM画像の全視野において観察される指状のマクロ気孔7それぞれについて、露出面6に直交する方向の最大長さを測定し、これらの算術平均を算出することにより求めることができる。マクロ気孔7の平均幅dは、前記平均長さと同様にして、所定の倍率で撮影したSEM画像の全視野において観察される指状のマクロ気孔7それぞれについて、マクロ気孔7の長さを測定した方向に直交する方向の最大長さを測定し、これらの算術平均を算出することにより求めることができる。
この生体インプラント1において、マクロ気孔7は、下記インキ進入試験におけるマクロ多孔層4全体に対する面積割合が少なくとも60%であるのが好ましく、少なくとも70%であるのが特に好ましい。この生体インプラント1において、前記面積割合の上限値は100%未満であるが、マクロ多孔層4の強度、製造可能性等を考慮すると、現実的には、90%未満であり、85%未満であるのが好ましい。このような面積割合を有するマクロ気孔7は、骨欠損部等に埋設されたときに生体組織を開口部71からマクロ気孔7の深部まで容易にかつ十分に浸入させることができる。したがって、このようなマクロ気孔7を含むマクロ多孔層4は、骨欠損部等に埋設されたときに生体組織がマクロ気孔7の深部まで十分に進入して、マクロ多孔層4のほぼ全体にわたって生体組織と迅速かつ強固な結合能力を発揮する。このように生体インプラント1のマクロ多孔層4表面全体にわたって骨形成が起こり、周囲の骨と一体化するため、この生体インプラント1は強固な骨結合能を発揮する。
この発明に係る「インキ進入試験」は、この発明に係る生体インプラントが骨欠損部等に埋設されても生体組織が進入することのないマクロ独立気孔91及びマクロ連通閉気孔93等を除外して、マクロ多孔層4の露出面6に開口する開口部71から生体組織が進入しやすいマクロ気孔7及びマクロ連通気孔92をマクロ多孔層4の面積全体に対する割合として求める、生体インプラント1の骨結合能を現実的かつ正確に評価できる方法であって、この発明の発明者らによって案出された評価方法である。なお、マクロ多孔層4に含まれる比較的大型の気孔は、指状のマクロ気孔7がほとんどであり、マクロ連通気孔92の数は少ないので、この面積割合は実質的にマクロ気孔7の面積割合を示している。
具体的には、この発明に係る生体インプラント1を大過剰、例えば、マクロ多孔層4の体積に対して50倍のアルコール系赤インキ中に浸漬させた状態でインキごと出力200W、周波数38kHzの超音波を15分間照射した後にアルコール系赤インキから取り出して室温で12時間乾燥する。次いで、乾燥した生体インプラント1の任意の断面を光学顕微鏡で300倍の倍率で複数個所観察して得られるマクロ多孔層4の観察画像を、定法によって、アルコール系赤インキが進入した部分とそれ以外の部分とに分類する「二値化処理」をする。具体的には、前記断面を観察して得られる全体観察画像から後述するようにして「マクロ多孔層4の観察画像」(カラー画像)を抽出する。抽出された「マクロ多孔層4の観察画像」をグレースケールに変換し、画像処理ソフト(商品名「Scion Image」(Scion社製))で二値化処理する。このようにして二値化処理して得られた処理画像におけるマクロ多孔層4の全面積に対するアルコール系赤インキが進入した部分の合計面積の面積割合[進入部分の合計面積/マクロ多孔層4の全面積](百分率)を算出する。ここで、アルコール系赤インキが進入した部分を「マクロ気孔7(マクロ連通気孔92を含む。)」と想定し、面積割合は例えば画像のピクセル数に基づいて[アルコール系赤インキが進入した部分の合計ピクセル数/マクロ多孔層4の合計ピクセル数](百分率)として算出できる。このようにして算出した面積割合[進入部分の合計面積/マクロ多孔層4の全面積]の算術平均値をマクロ気孔7のマクロ多孔層4全体に対する面積割合とする。
この「インキ進入試験」で用いるアルコール系赤インキは、インキ濃度0.15g/mL、界面張力19.4mN/mであるアルコール溶液であって、例えば商品名「ホワイトボードマーカー専用補充インキ」(PILOT株式会社製)等が挙げられる。
この発明に係る「インキ進入試験」において、「マクロ多孔層4の観察画像」を抽出する方法を、図2及び図3を参照して、説明する。「マクロ多孔層4の観察画像」の一例を図2に模式的に示す。「マクロ多孔層4の観察画像」を抽出するには、前記断面におけるこの発明に係る生体インプラント1の観察画像(倍率を300倍に設定する。)から任意に選択された箇所P1の、マクロ気孔7の最低地点L1を通る直線であって、かつ多孔層5及び実質部2の境界と平行(換言すると、深さ方向Dに垂直)な第1仮想線X1を引く。ここで、マクロ多孔層4の最低地点L1は箇所P1におけるマクロ気孔7の最も深い地点である。次いで、前記観察画像から任意に選択された3箇所P2〜P4(この例において、P2〜P4はP1と一致する。)の、マクロ多孔層4の輪郭線(マクロ多孔層4の露出面6を山にたとえたときの稜線又は尾根に相当する。)近傍の表面画像それぞれにおける最高地点H1〜H3を近似する第2仮想線X2(換言すると、最高地点H1〜H3それぞれとの最短距離の合計が最小となる第2仮想線X2)を引く。このとき、第2仮想線X2を複数引くことができる場合は、例えば50倍の低倍率でマクロ多孔層4の表面を観察したときの表面輪郭線(マクロ気孔の開口部及びミクロ開気孔を除く。)に対して最も平行に近い線を第2仮想線X2とする。このようにして観察画像に引かれた第1仮想直線X1及び第2仮想直線X2で深さ方向Dに挟まれる領域としてマクロ多孔層4を抽出する。
なお、マクロ多孔層4が層状ではない場合、例えば略逆三角形状である場合等にも、基本的には、前記図2の場合と同様にして、マクロ多孔層4Aを抽出する。すなわち、図3に示されるように、まず、この発明に係る生体インプラント1の全体又はマクロ多孔層4Aを観察(倍率を300倍に設定する。)して得た全体観察画像又はマクロ多孔層4Aを含む観察画像に、前記のようにして、マクロ多孔層4の最低地点を通る直線であって、かつミクロ多孔層3A及び実質部2Aの境界と平行な2つの第1仮想線X1’及び第1仮想線X1’’を引き、次いで、マクロ多孔層4Aの最高地点を通る仮想輪郭曲線X3を画像ソフト(例えば商品名「Photoshop」、Adobe社製)で引く。このようにして観察画像に引かれた第1仮想線X1’、第1仮想線X1’’及び仮想輪郭曲線X3で囲繞される領域を「マクロ多孔層4Aの観察画像」として抽出する。なお、この発明に係る生体インプラント1が層状でない略逆三角形のマクロ多孔層4Aを複数備えている場合には、そのうちの少なくとも1つのマクロ多孔層4Aが前記面積割合のマクロ気孔7を有していればよく、好ましくは2つ以上、特に好ましくはすべてのマクロ多孔層4Aが前記面積割合のマクロ気孔7を有している。
この発明に係る生体インプラントのマクロ多孔層4は、露出面6から深さ方向に延びる指状のマクロ気孔7を有していればよく、ミクロ気孔8及びマクロ内気孔9は、存在していても存在していなくてもよく、これらは、球状、扁球状、気孔の内部に隔壁を有する隔壁状構造及び/又はこれらの形状が組み合わされてなる形状を取り得る。
このようなマクロ気孔7を有するマクロ多孔層4は、その表面に垂直な断面が例えば図1、図5、図6及び図7に示されている。具体的には、マクロ多孔層4のこの断面は、露出面6から深さ方向に指状に延びる複数のマクロ気孔7が、露出面6に沿って互いに隣接するように並列した指状構造になっている。比較的大型で略球状のマクロ内気孔91同士が連通して形成されたマクロ連通気孔92は狭小な連通部分が存在するところ、マクロ気孔7はこのような狭小部分がなく、その形状は指状又は筒状等と表現することができる。マクロ気孔7のほとんどは、例えば、マクロ多孔層4の半分以上の深さまで延在している。
ミクロ多孔層3は、実質部2とマクロ多孔層4との間に設けられ、平均気孔径が10μm未満のミクロ気孔10を多数有する網目構造となっている。ミクロ気孔10は、その存在状態によって、単独で独立に存在するミクロ独立気孔101と、ミクロ気孔10同士が連通する又はマクロ気孔4に連通するミクロ気孔10であるミクロ連通気孔102とに分類される。このミクロ気孔10は10μm未満の平均気孔径を有しているので、ミクロ独立気孔101の平均気孔径、及びミクロ連通気孔102の、連通部の径の平均である連通孔径は、それぞれ、10μm未満である。
この生体インプラント1は、実質部2とマクロ多孔層4との間すなわちマクロ気孔7の最深部から実質部2までの間に平均気孔径が10μm未満のミクロ気孔を多数有しており、実質部2とミクロ多孔層3とマクロ多孔層4とがこの順に一体に形成されているので、明確な界面のない傾斜構造となっている。したがって、実質部2とマクロ多孔層4と構造的なギャップが小さいことから応力が集中し難く、マクロ多孔層4に生体組織が進入した後の実質部2とミクロ多孔層3との界面にかかる荷重が分散されるので、実質部2と多孔層5との間に剥離が生じ難い。また、実質部2の表面に多孔層5が設けられているので、この多孔層5が緩衝材となってストレスシールディングを生じ難くする。
ミクロ多孔層3におけるミクロ気孔10の平均気孔径及びミクロ連通気孔102のミクロ連通孔径は、ミクロ多孔層3の任意の断面を走査型電子顕微鏡で観察して、前記マクロ多孔層4におけるミクロ気孔8の平均開気孔径と同様に求めることができる。
ミクロ多孔層3は、その厚さが5〜50μmであるのが好ましく、10〜30μmであるのが特に好ましい。ミクロ多孔層3の厚さが5μm以上であると、マクロ多孔層4に生体組織が進入した後の実質部2とミクロ多孔層3との界面にかかる荷重が分散されるので、実質部2から多孔層5がより剥離し難くなる。また、このミクロ多孔層3が緩衝材となってストレスシールディングが生じ難くなる。ミクロ多孔層3の厚さが50μm以下であると、実質部2とミクロ多孔層3とマクロ多孔層4とが構造的に適度に傾斜構造となり応力が集中し難くなる。
ミクロ多孔層3の厚さは、ミクロ多孔層3の任意の断面を走査型電子顕微鏡で観察して、マクロ気孔7の最低地点L1すなわちマクロ気孔7の最も深い地点から実質部2とミクロ多孔層3との界面までの距離として求める。
ミクロ多孔層3の気孔率は、30〜90%であるのが好ましく、40〜80%であるのが特に好ましい。ミクロ気孔10の気孔率が、30〜90%であると、マクロ多孔層4に生体組織が進入した後の実質部2とミクロ多孔層3との界面にかかる荷重が分散され、多孔層5の実質部2からの剥離が生じ難くなり、またこのミクロ多孔層3が緩衝材となることからストレスシールディングがより生じ難くなる。
前記ミクロ気孔10の気孔率は、ミクロ多孔層3の任意の断面を走査型電子顕微鏡により撮影した撮影画像を画像解析ソフト(商品名「Scion Image」(Scion社製))を使用して、ミクロ気孔10とそれ以外の部分とに二値化処理して、撮影画像のミクロ多孔層3の全面積に対するミクロ気孔の面積の面積割合を算出することにより求めることができる。
マクロ多孔層4の厚さaは、前述したマクロ多孔層4の厚さaとミクロ多孔層3の厚さbの範囲内でミクロ多孔層3の厚さbよりも大きい方が好ましく、厚さaと厚さbとの比(a/b)は2〜20であるのが特に好ましい。前記比(a/b)が1より大きく、特に2〜20であると、実質部2とミクロ多孔層3とマクロ多孔層4とが構造的に適度に傾斜構造となり、実質部とマクロ多孔層との構造的なギャップが小さいことから応力が集中し難く、生体インプラントに剥離が生じ難くなる。
前記特性を有するマクロ気孔7を含む指状構造のマクロ多孔層4及び前記特性を有するミクロ気孔を含む網目構造のミクロ多孔層3を実質部2の表面に有する生体インプラント1は、後述するように、1次工程における「凝固工程」において、プラスチックが凝固する速度を適宜調整することにより、例えば、プラスチックが溶出しない液の温度を常温より高い温度で適宜調整することにより、形成又は調製することができる。
この発明に係る生体インプラントは骨欠損部等に埋設又は補填される生体インプラント、具体的には、骨補填材、人工関節部材、骨接合剤、人工椎体、椎体間スペーサ、椎体ケージ及び人口歯根等として好適に用いられ、特に迅速かつ強固な結合能力を有する共に剥離の生じ難い生体インプラントとして好適に用いられる。
次に、第1の生体インプラントの製造方法の一例を説明する。
この実施態様の生体インプラントの製造方法は、プラスチックで中実に形成された中実基材を、このプラスチックを膨潤させる膨潤溶液に浸漬する膨潤工程、及びこのプラスチックが溶出しない液で凝固及び洗浄する凝固工程を有し、中実基材の表面に気孔を形成する1次工程と、この1次工程で得られた表面気孔基材を発泡剤を含有する溶液に浸漬して発泡剤保持基材を得る発泡剤保持工程、この発泡剤保持基材を、プラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬して表面軟発泡基材を得る表面軟発泡工程、及びこの表面軟発泡基材を膨潤したプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬して表面発泡基材を得る第2凝固工程を有し、表面気孔基材の表面をさらに浸食して所望の気孔を形成する2次工程とを有する。
まず、中実基材を準備する。中実基材は上述したプラスチックを用いて適宜の方法で任意形状又は所望形状に成形することによって作製される。作製された中実基材は所望によりその表面をサンドペーパー等で調整されてもよく、また、純水等で浸漬洗浄又は超音波洗浄されてもよい。
この実施態様の製造方法においては、準備した中実基材の表面に気孔を形成する1次工程を実施して表面気孔基材を得る。まず、中実基材を膨潤溶液に浸漬する膨潤工程を実施する。この膨潤溶液は、特に限定されないが、硫酸、硝酸、又はクロム酸等が挙げられる。この膨潤工程は、中実基材の表面を膨潤できる条件が適宜に設定されればよく、要求される多孔層の厚さ及び気孔径等に応じて適宜に設定される。例えば、膨潤溶液の濃度は気孔率及び多孔層の厚さに影響し、通常、高いのが好ましく、濃硫酸又は濃硝酸を好適に用いることができる。膨潤溶液の使用量は中実基材の浸食させる部分が浸漬される程度であればよく、また膨潤溶液の温度は通常常温程度に設定される。膨潤溶液中での中実基材の浸漬状態は静置してもよく、膨潤溶液を攪拌してもよく、浸漬時間は浸食量に応じて決定される。
次いで、膨潤溶液から取り出した中実基材をプラスチックが溶出しない液で凝固及び洗浄する凝固工程を実施する。凝固工程は中実基体を洗浄した液が中性になるまで中実基材を洗浄すると共に膨潤溶液でゲル状に軟化(場合によっては一部溶融する)したプラスチックを凝固させて表面気孔基材とする。この凝固工程で使用される、プラスチックが溶出しない液は、常温より高い温度、好ましくは50℃以上に維持され、特に前記液が水の場合には好ましくは80℃以上に維持されて、表面が膨潤した中実基材が浸漬状態で静置又は撹拌状態の凝固溶液に所定時間浸漬される。プラスチックが溶出しない液の温度が、常温ではこの発明に係る生体インプラントを形成することができない。プラスチックが溶出しない液を常温より高い温度、特に50℃以上にすることで所望のマクロ多孔層とミクロ多孔層とを有する生体インプラントを形成することができる。プラスチックが溶出しない液の温度を常温より高くすることで、指状のマクロ気孔を有するマクロ多孔層とミクロ多孔層とを有する多孔層が形成される理由は不明であるが、この液の温度を常温より高い温度にすることで、膨潤溶液の拡散速度が速くなり、ゲル状に軟化した中実基材の凝固速度が速くなると考えられ、このことが前記多孔層の形成に関係していると推定される。膨潤溶液の拡散速度を速めるように、膨潤溶液の種類や濃度、温度を適宜設定することにより、ミクロ多孔層の厚さ、指状のマクロ気孔の幅、長さ、面積割合等を調製することができる。特にこの液の温度はマクロ多孔層の前記特性に与える影響が大きいと考えられる。プラスチックが溶出しない液としては、例えば、水、エタノール等が挙げられる。
この表面気孔基材における気孔が形成されている領域の厚さは、生体インプラントの多孔層と同等の厚さであればよく、例えば55〜500μmである。また、表面気孔基材における気孔の気孔径は、2次工程において使用される発泡剤を気孔に進入させることのできる気孔径を有していればよく、発泡剤の種類により適宜設定される。気孔が形成されている領域の厚さ及び気孔の気孔径等は膨潤溶液に浸漬する時間、プラスチックが溶出しない液に浸漬する時間、及び/又は温度等により調整することができる。
この実施態様の製造方法においては、所望により、得られた表面気孔基材を乾燥する工程を実施できる。乾燥は、プラスチックが溶融等しない条件で実施すればよく、例えば、プラスチックのガラス転移温度未満の温度で実施される。
この実施態様の製造方法においては、中実基材の表面に気孔を形成する1次工程で得られた表面気孔基材を、再度浸食して所望の気孔を形成する工程、すなわち2次工程に付す。すなわち、1次工程で得られた表面気孔基材を、発泡剤を含有する溶液に浸漬して発泡剤保持基材を得る発泡剤保持工程を実施する。この工程で用いる発泡剤としては、後述する発泡溶液で発泡する発泡剤であればよく、例えば、炭酸塩、アルミニウム粉末等の無機系発泡剤、アゾ化合物、イソシアネート化合物等の有機系発泡剤を挙げることができる。この発泡剤は、生体インプラントを埋設したときに生体に悪影響を与えない物質であるのが好ましく、例えば、炭酸塩が挙げられ、より具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。この発泡剤を溶解する溶媒は特に限定されず、例えば水等が挙げられる。この発泡剤保持工程では、発泡剤保持基材の表面及び気孔の内壁面に発泡剤を保持できる条件、例えば発泡剤の濃度及び溶液の使用量等が適宜に設定される。発泡剤を含有する溶液の温度は通常常温程度に設定される。発泡剤を含有する溶液中での表面気孔基材の浸漬状態は静置してもよく、発泡溶液を攪拌してもよく、浸漬時間は適宜に決定される。
この実施態様の製造方法においては、次いで、発泡剤保持基材をプラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡させる発泡溶液に浸漬して表面軟発泡基材を得る表面軟発泡工程を実施する。この工程は、通常、発泡剤保持基材を乾燥させることなく実施されるが、発泡剤保持基材を乾燥することもできる。発泡剤保持基材を発泡溶液に浸漬するとプラスチックの膨潤と発泡剤の発泡とがほぼ同時に進行して表面軟発泡基材が得られる。発泡溶液としては、前記特性を有するものであればよく、例えば、濃硫酸、塩酸及び硝酸等の酸性水溶液を挙げることができる。プラスチックがPEEKで、発泡剤が炭酸塩である場合には、発泡溶液は濃度が90%以上の濃硫酸が好ましい。この表面軟発泡工程は、プラスチックを膨潤させ、かつ発泡剤を発泡できる浸漬条件が設定される。発泡溶液の温度は通常常温程度に設定される。発泡溶液中での発泡剤保持基材の浸漬状態は静置してもよく、発泡溶液を攪拌してもよく、浸漬時間は適宜に決定される。
この実施態様の製造方法においては、次いで、表面軟発泡基材を膨潤したプラスチックを凝固させる凝固溶液に浸漬して表面発泡基材を得る第2凝固工程を実施する。この第2凝固工程において発泡溶液から取り出された表面軟発泡基材は、凝固溶液に浸漬された後に凝固溶液を流されてもよく、凝固溶液への浸漬を複数回繰り替えされてもよい。この工程で用いる凝固溶液は、プラスチックが溶出しない液であって、例えば、水、エタノール等の水性溶液、アセトン等の極性溶液等が挙げられ、プラスチックがPEEKである場合には、これらに加えて、濃度が90%未満の硫酸、硝酸、リン酸、塩酸等の無機酸水溶液、水溶性有機溶剤等が挙げられる。水溶性有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、テトラヒドロフラン、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエトレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ジプロピレングリコ−ル、グリセリンエタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル、ペンタノ−ル、ヘキサノ−ル等のアルコ−ル及びこれらの水溶液、ポリエチレングリコ−ル、ポリプロピレングリコ−ル、ポリビニルピロリドン等液状高分子又はそれらの水溶液及びこれらの混合物を挙げることができる。この第2凝固工程は、表面軟発泡基材を凝固できる条件で凝固溶液に浸漬される。例えば、凝固溶液の温度は通常常温程度に設定される。凝固溶液中での表面軟発泡基材の浸漬状態は静置してもよく、凝固溶液を攪拌してもよく、浸漬時間は適宜に決定される。
この実施態様の製造方法においては、所望により、表面発泡基材を洗浄する洗浄工程を実施する。この洗浄工程は、表面発泡基材を洗浄した洗浄液が中性になるまで洗浄する。この洗浄工程において、凝固溶液から取り出した表面発泡基材は洗浄液中に浸漬された後に洗浄液を流して洗浄されてもよく、洗浄液への浸漬を複数回繰り返して、洗浄されてもよい。この洗浄工程で用いる洗浄液はプラスチックが溶出しない液であればよく、例えば、水、純水等が挙げられる。この洗浄工程は例えば常温で実施できる。
この実施態様の製造方法においては、所望により、得られた表面発泡基材を乾燥する乾燥工程を実施できる。乾燥は、プラスチックが溶融等しない条件で実施すればよく、例えば、プラスチックのガラス転移温度未満の温度で実施される。
このようにして表面発泡基材が得られる。この表面発泡基材は、実質部とミクロ多孔層とマクロ多孔層とがこの順に一体に形成され、生体インプラント1の実質部2とミクロ多孔層3とマクロ多孔層4と基本的に同様の構造を有し、マクロ多孔層4には露出面から深さ方向に延びる指状のマクロ気孔が形成されている。
この表面発泡基材すなわち生体インプラントは、得られた状態のまま用いることができ、また、所望形状に成形又は整形して用いることもできる。得られた状態のままで生体インプラントを用いる場合には中実基材の準備時に所望形状に成形されているのが好ましい。中実基材又は生体インプラントを所望形状に成形又は整形する工程は、公知の成形方法等によって、中実基材又は生体インプラントを、生体内の適用部位に適合する形状、粒子状、繊維状、ブロック状、フィルム状等に成形する。生体内の適用部位に適合する形状は、具体的には、骨欠損部又は歯欠損部等の形状と同様の形状、骨欠損部又は歯欠損部等の形状に相当する形状、例えば、相似形等が挙げられる。
この実施態様の製造方法において、生体インプラントのマクロ多孔層の厚さ、マクロ気孔の平均長さ、平均幅、ミクロ多孔層の厚さ、ミクロ気孔の平均気孔径、気孔率等は、1次工程の凝固工程における凝固溶液の温度を常温よりも高い温度に維持した上で、膨潤溶液、プラスチックが溶出しない液、発泡剤を含有する溶液、及び凝固溶液の種類、濃度、浸漬時間、及び温度等を適宜選択することにより調整することができる。
これらの中でも特に、プラスチックが溶出しない液の種類及び/又は温度を変化させることにより、表面が膨潤したプラスチックの凝固速度を制御し、前述のマクロ多孔層の厚さ、マクロ気孔の平均長さ、平均幅、面積割合、ミクロ多孔層の厚さ、ミクロ気孔の平均気孔径、及び気孔率等を調整できる。
(第2の実施態様)
以下において、図4を参照しつつ、この発明に係る生体インプラントの別の一例である生体インプラントを説明する。図4は、この発明に係る生体インプラントの別の一例である生体インプラントの任意の端面の模式図である。図2に示されるように、この実施態様の生体インプラント20は、実質部2と、ミクロ多孔層3及びマクロ多孔層4を含む多孔層5と生体活性物質30とを有し、表面発泡基材の表面に生体活性物質が固定化されている。表面発泡基材は第1の実施態様の生体インプラントと基本的に同様である。
生体活性物質30は、マクロ多孔層4の露出面6及び内壁面の全体又は一部に担持されていればよく、マクロ多孔層4の露出面6及び内壁面、すなわちマクロ気孔7及びマクロ連通気孔92の内壁面並びにミクロ開気孔81及びミクロ連通気孔84の内壁面及び内部に担持されている。この発明に係る生体インプラントの一例である生体インプラント20は指状のマクロ気孔7を含むマクロ多孔層4を有しているから、生体活性物質30は、マクロ多孔層4の露出面6だけでなく、マクロ気孔7、マクロ連通気孔92、ミクロ開気孔81、マクロ気孔7に連通するミクロ連通気孔84の内壁面に、好適には一様に、担持されている。なお、生体活性物質30は、図4に示されるように、マクロ気孔7の開口部71及びマクロ連通気孔92の連通部分を閉塞しないようにマクロ多孔層4の露出面6及び内壁面に担持されている。
生体活性物質30は、生体との親和性が高く、生体骨を含む骨組織又は生体歯を含む歯組織(以下、骨組織という。)等の生体組織と化学的に反応する性質を有する物質であれば特に限定されず、例えば、リン酸カルシウム化合物、生体活性ガラス、炭酸カルシウム等が挙げられる。リン酸カルシウム化合物としては、例えば、リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、ドロマイト、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト及び塩素アパタイト等が挙げられる。生体活性ガラスは、バイオガラス、結晶化ガラス(ガラスセラミックスとも称する。)等を含み、バイオガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−Na2O−P2O5系ガラス、SiO2−CaO−Na2O−P2O5−K2O−MgO系ガラス、及び、SiO2−CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられ、結晶化ガラスとしては、例えば、SiO2−CaO−MgO−P2O5系ガラス(アパタイトウォラストナイト結晶化ガラスとも称する。)、及び、CaO−Al2O3−P2O5系ガラス等が挙げられる。これらのリン酸カルシウム化合物、バイオガラス及び結晶化ガラスは、例えば、「化学便覧 応用化学編 第6版」(日本化学会、平成15年1月30日発行、丸善株式会社)、「バイオセラミックスの開発と臨床」(青木秀希ら編著、1987年4月10日、クインテッセンス出版株式会社)等に詳述されている。
生体活性物質30は、これらの中でも生体活性に優れる点で、リン酸カルシウム化合物及び生体活性ガラスの少なくとも1種であるのが好ましく、さらに、生体骨と組成や構造、性質が似ており体内環境における安定性が優れ、体内で顕著な溶解性を示さない点で、水酸アパタイト又はリン酸三カルシウムが特に好ましい。
生体活性物質30は、マクロ多孔層4の露出面6等に膜状又は層状に担持されていてもよく、露出面6等に分散状態に担持されていてもよい。生体活性物質30が膜状又は層状に担持されている場合には、生体活性物質30の膜厚は、例えば、0.1〜100μmであるのが好ましく、0.5〜50μmであるのが特に好ましい。生体活性物質30が分散状態に担持されている場合に、生体活性物質30の形状はマクロ多孔層4の露出面6及び内壁面に担持可能な粒状、顆粒状、粉末状であればよく、また凝集物であってもよく、例えば、球状、楕円球状、針状、柱状、棒状、板状、多角形状等が挙げられる。このときの生体活性物30の粒子径は、例えば0.001〜10μmであるのが好ましく、0.01〜5μmであるのが特に好ましい。なお、本明細書中に記載している「粒子」及び「粒子径」とは、特に付記がない場合はそれぞれ「一次粒子」及び「一次粒子径」のことであり、マクロ多孔層4に担持されている生体活性物質30が凝集物である場合は、その凝集物を構成している最小単位である一次粒子及びその径のことである。粒子径はインターセプト法により算出することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡にて写真撮影を行い、少なくとも15以上の粒子に交わる直線を引き、この直線と粒子とが交わっている部分の長さの平均値から算出することができる。球状粒子以外の形状である場合にはその面積換算直径を算出する。
このように、生体インプラント20は、その表面に深さ方向に延びる指状のマクロ気孔7の露出面6及び内壁面に生体活性物質30が担持されているから、骨欠損部等に埋設されたときに生体組織がマクロ気孔7の露出面6及び内壁面に担持された生体活性物質30と速やかに結合され、生体活性物質30が担持されたマクロ多孔層4のほぼ全体にわたって生体組織と迅速かつ強固な結合能力を発揮する。
次に、第2の実施態様の生体インプラントの製造方法の一例を説明する。
第2の実施態様の生体インプラントは、マクロ多孔層の露出面及び内壁面に生体活性物質が担持されていること以外は第1の実施態様の生体インプラントと基本的に同じである。したがって、実質部とミクロ多孔層とマクロ多孔層とを有する表面発泡基材は、第1の実施態様の生体インプラントの製造方法と基本的に同様にして製造することができる。以下においては、この表面発泡基材におけるマクロ多孔層の露出面及び内壁面に生体活性物質を担持させる方法について説明する。
まず、第1の実施態様の生体インプラントの製造方法と同様にして製造した表面発泡基材を生体活性物質の懸濁液に浸漬させた状態で超音波を照射する超音波照射工程を実施する。この超音波照射工程を実施すると、マクロ気孔すなわちマクロ多孔層の深部まで進入した懸濁液によってマクロ気孔の露出面だけでなくマクロ気孔の内壁面まで、好ましくは一様に、生体活性物質が進入及び配置された生体活性物質付着基材を得ることができる。超音波は例えば超音波振動機、超音波ホモジナイザー等を用いて前記懸濁液ごと表面発泡基材に照射される。超音波を照射する条件は、気孔の気孔径、気孔率等に応じて適宜に設定され、例えば、周波数20〜38kHzで出力200Wの超音波を8〜15分照射する条件が採用される。この超音波照射工程において表面発泡基材は懸濁液に浸漬されていればよく、懸濁液に静置されてもよく、攪拌された懸濁液中に浸漬されてもよい。なお、この超音波照射工程は超音波を照射した後に懸濁液をしばらく攪拌してもよく、超音波を照射した後に生体活性物質付着基材を同種の溶媒に浸漬してしばらく攪拌してもよい。
この超音波照射工程における懸濁液の液温すなわち浸漬温度及び超音波の照射時間は特に限定されず、表面発泡基材に生体活性物質を配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、浸漬温度は表面発泡基材を形成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃未満、具体的には溶媒の沸点以下の温度、照射時間は1分以上24時間以下とすることができる。懸濁液に浸漬される表面発泡基材の体積は特に限定されないが懸濁液の液量が十分でないと配置される生体活性物質の配置量が少なくなることがあるので、懸濁液100mLに対して0.001〜50cm3とすることができる。
この超音波照射工程で用いられる懸濁液は、前述した生体活性物質の懸濁液であり、この生体活性物質を懸濁させる媒体はプラスチックを溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、水、アセトン、ヘキサン等が挙げられる。生体活性物質は前記範囲の粒子径及び前記形状を有する粒子であるのが好ましい。この懸濁液は、生体活性物質を媒体中に投入して攪拌することによって、所望により例えば周波数20〜38kHzで出力200Wの超音波を照射すること、又は、超音波ホモジナイザーで均質化すること等によって、生体活性物質を媒体中に均一に懸濁させて、調製される。このときの生体活性物質の投入量は生体活性物質を気孔に配置する量に応じて適宜に調整されればよく、例えば、媒体100mLに対して0.01〜100gとすることができる。また、超音波の照射時間は生体活性物質を均一に分散可能な時間に調整され、例えば、5〜180分とすることができる。
この実施態様の製造方法においては、所望により、懸濁液から取り出した後に生体活性物質付着基材を洗浄する洗浄工程を実施することもできる。生体活性物質付着基材を洗浄する洗浄液はプラスチックを溶解させない媒体であれば特に限定されず、例えば、水、懸濁液の媒体と同じ媒体が挙げられ、水又は純水であるのが好ましい。また、この洗浄工程に次いで所望により、生体活性物質付着基材を乾燥する乾燥工程を実施することもできる。乾燥方法は、公知の乾燥方法を特に限定されることなく採用でき、例えば、風乾、送風乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。この乾燥工程において加熱する場合の加熱温度はプラスチックのガラス転移温度未満である。
この実施態様の製造方法においては、次いで、生体活性物質付着基材をプラスチックのガラス転移温度−30℃以上融点未満の加熱温度に加熱して生体活性物質を担持固定する固定化工程を実施する。この固定化工程を実施するとマクロ多孔層の露出面及び内壁面により一層強固に生体活性物質を担持固定することができる。この固定化工程における加熱温度はプラスチックのガラス転移温度(Tg)−30℃以上、すなわちガラス転移温度よりも30℃低い温度(Tg−30)℃以上、そのプラスチックの融点未満である。この温度範囲に生体活性物質付着基材を加熱すると生体活性物質付着基材の露出面近傍及び内壁面近傍の一部が軟化して配置された生体活性物質を強固に担持、密着、固定する。加熱温度の下限は、(Tg−30)℃であり、生体活性物質付着基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で、ガラス転移温度(Tg)以上であるのが好ましく、ガラス転移温度(Tg)+40℃であるのが特に好ましく、加熱温度の上限はプラスチックの融点未満であり、中実基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点でガラス転移温度(Tg)+80℃であるのが好ましい。なお、この発明において、プラスチックのガラス転移温度(Tg)はプラスチックが複数のガラス転移温度を有している場合には最も低いガラス転移温度である。
この固定化工程において、生体活性物質付着基材を加熱する時間すなわち前記加熱温度に保持する時間は、生体活性物質付着基材の露出面近傍及び内壁面近傍を軟化可能な時間であればよく、生体活性物質付着基材と生体活性物質とをさらに強固に密着させることができる点で1時間以上であるのが好ましく、3時間以上であるのが特に好ましい。加熱する時間の上限値は、特に限定されず、大幅に長くしても生体活性物質の密着度の向上は見込めないので経済的又は作業効率等を考慮すると、例えば24時間とすることができる。生体活性物質付着基材の加熱方法は公知の加熱方法を適宜に採用できる。このようにして生体活性物質付着基材の表面に配置された生体活性物質を固定化することができる。
このようにしてマクロ多孔層4の露出面及びマクロ気孔7の内壁面に生体活性物質30が担持された生体インプラント20が得られる。そして、この生体インプラント20は得られた状態のまま用いることができ、また、第1の実施態様の生体インプラント1と同様に所望形状に成形又は整形して用いることもできる。
この発明に係る生体インプラントは、前記した例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。
(実施例1)
ポリエーテルエーテルケトン(ガラス転移温度143℃、融点340℃、弾性率4.2GPa、曲げ強度170MPa)で形成された円盤体(直径10mm、厚さ2mm、Victrex製450G)の表面をサンドペーパー(#1000)で研磨した後に、純水中に浸漬させて超音波照射して洗浄し、中実基材を準備した。
この中実基材を常温下で30mLの濃硫酸(濃度:98%)に5分間浸漬して、中実基材を膨潤する膨潤工程を実施した。次いで、濃硫酸から取り出した中実基材を80℃で1000mLの純水に5分間浸漬し、その後純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄して、表面が膨潤した中実基材を洗浄及び凝固する凝固工程を実施し、80℃で12時間乾燥して、中実基材の表面に気孔を形成する1次工程を実施した。このようにして表面気孔基材を得た。
次いで、表面気孔基材を常温下で100mLの炭酸カリウム水溶液(濃度:3M)に4時間浸漬して、表面気孔基材の表面及び気孔内に炭酸カリウムを保持させる発泡剤保持工程を実施し、発泡剤保持基材を得た。
次いで、この発泡剤保持基材を常温下で濃硫酸(濃度:95%)30mLに1分間浸漬してPEEKを膨潤させると共に炭酸カリウムを発泡させる表面軟発泡工程を実施し、表面軟発泡基材を得た。
得られた表面軟発泡基材を常温下で30mLの希硫酸(濃度:86%)に浸漬して凝固させた後に、希硫酸(濃度:86%)から取り出して常温下で1000mLの純水に10分間浸漬する第2凝固工程を実施し、その後純水のpHが中性になるまで繰り返し洗浄し、80℃で12時間乾燥して表面発泡基材を得た。この表面発泡基材を実施例1の生体インプラントとした。
(実施例2)
前記「凝固工程」における凝固溶液の温度を100℃に変更したこと以外は実施例1と基本的に同様にして実施例2の生体インプラントを製造した。
(実施例3)
前記「凝固工程」における凝固溶液の温度を50℃に変更したこと以外は実施例1と基本的に同様にして実施例3の生体インプラントを製造した。
(実施例4)
実施例1で得られた表面発泡基材に、以下のようにして生体活性物質を担持させて実施例4の生体インプラントを製造した。
まず、Ca/P比が1.67となる配合量のリン酸水素カルシウム二水和物(関東化学株式会社製)と炭酸カルシウム(キシダ化学株式会社製)とを、ポットを用い水中で粉砕混合した後、900℃で仮焼して水酸アパタイト粒子(粒子形状:球状、粒子径0.05〜0.5μm)を得た(メカノケミカル合成法)。得られた水酸アパタイト粒子3.0gをエタノール200mLに投入して、周波数20kHzで出力200Wの超音波ホモジナイザーで10分処理して、水酸アパタイトのエタノール懸濁液を調製した。
実施例1で得られた表面発泡基材をエタノール中で30分脱泡処理を行い、常温下で200mLのエタノール懸濁液に浸漬した状態で、周波数38kHzで出力200Wの超音波を超音波洗浄機で懸濁液ごと表面発泡基材に15分間にわたって照射した。その後、超音波照射を停止して表面発泡基材を浸漬させたまま懸濁液を45分間攪拌する超音波照射工程を実施した。その後、純水で洗浄して生体活性物質付着基材を得た。
次いで、この生体活性物質付着基材を220℃で3時間加熱した後に常温まで降温する固定化工程を実施して実施例4の生体インプラントを製造した。
(実施例5)
前記「凝固工程」における凝固溶液の温度を100℃にしたこと以外は実施例4と基本的に同様にして実施例5の生体インプラントを製造した。
(比較例1)
前記「凝固工程」における凝固溶液の温度を25℃にしたこと以外は実施例1と基本的に同様にして比較例1の生体インプラントを製造した。
(比較例2)
実施例4と同様にして生体活性物質を担持させたこと以外は比較例1と基本的に同様にして比較例2の生体インプラントを製造した。
(多孔層の観察)
製造した各生体インプラントについて、多孔層5の露出面に直交する断面を走査型電子顕微鏡により撮影し、得られた撮影画像により多孔層5に形成された気孔を観察した。
実施例1〜3の生体インプラントの撮影画像を図5〜図7にそれぞれ示す。図5〜図7に示すように、実施例1〜3の生体インプラントには、露出面6から深さ方向に延びる指状のマクロ気孔7が露出面に沿って並列するように多数形成されていた。また、多数のマクロ気孔7が並列されているマクロ多孔層4と中実の実質部2との間には多数のミクロ気孔が存在し、層状のミクロ多孔層3が形成されていた。
実施例4及び5の生体インプラントについても同様にして、その断面を観察したところ、実施例1〜3と同様に実質部2とミクロ多孔層3とマクロ多孔層4とが形成されていた。
実施例4及び5の生体インプラントは、水酸アパタイトが表面発泡基材の表面とマクロ気孔の最深部の内壁面まで付着しているのが確認された。
比較例1の生体インプラントの撮影画像を図8に示す。図8に示すように、比較例1の生体インプラントは、気孔径が10μm以上の大径気孔と気孔径が10μm未満の小径気孔とが多数存在し、これらがランダムに配置されていた。また、気孔同士が連通してなる連通気孔の存在も確認されたが、連通部分は狭小であった。
比較例2の生体インプラントについても同様にして、その断面を観察したところ、比較例1と同様の気孔が形成されていた。水酸アパタイトは、表面発泡基材の表面と表面近傍の気孔の内壁面に付着しているのが確認されたが、実質部との界面近傍の気孔の内壁面にはほとんど付着していなかった。
(マクロ気孔とミクロ気孔の各種寸法の測定)
製造した各生体インプラントについて、マクロ多孔層4の露出面6に直交する断面を走査型電子顕微鏡により撮影し(倍率300倍)、得られた撮影画像の全視野におけるマクロ気孔7すべてについて、露出面6に直交する方向の最大長さを測定し、その算術平均を平均長さcとした。また、マクロ気孔7の前記長さ方向に直交する方向の最大長さを測定し、その算術平均長さを平均幅dとした。前記平均長さcと前記平均幅dとから平均アスペクト比(c/d)を算出した。また、得られた撮影画像におけるマクロ気孔7の前記長さの最大値をマクロ多孔層4の厚さaとした。
マクロ多孔層4と実質部2との間に存在するミクロ気孔10の平均気孔径については、撮影倍率を1000〜3000倍として、撮影画像の全視野におけるミクロ気孔10すべてについて、長径と短径とを測定し、これらの算術平均を平均気孔径とした。
ミクロ多孔層3の厚さについては、マクロ気孔7の最深部から実質部までの距離を厚さbとして測定した。
ミクロ多孔層3の気孔率については、撮影画像を画像解析ソフト(Scion社製 Scion Image)を使用して、ミクロ気孔10とそれ以外の部分とに二値化処理して、撮影画像におけるミクロ多孔層3の全面積に対するミクロ気孔の面積割合を算出することにより求めた。これらの結果を第1表に示す。
(インキ進入試験)
製造した各生体インプラントを前記のようにしてインキ進入試験して、マクロ気孔のマクロ多孔層全体に対する面積割合を算出(それぞれ4検体の算術平均値)した。比較例1及び2の生体インプラントについては、多孔層がマクロ多孔層とミクロ多孔層とに分かれていなかったので、大径気孔の多孔層全体に対する面積割合を算出した。これらの結果を第1表に示す。実施例1〜3及び比較例1の生体インプラントを「インキ進入試験」したときの「マクロ多孔層の観察画像」を抽出した後に二値化して得られた画像を図9(a)〜(d)にそれぞれ示す。
第1表及び図9(a)〜(d)から分かるように、実施例1〜実施例5では、インキ進入試験でいずれも60%以上となり、生体内に埋設された時に生体組織が侵入しやすいマクロ気孔及びマクロ連通気孔の割合が多い事が確認できる。一方比較例1、2は、インキ進入験で50%未満となり、生体内に埋設されたときに生体組織が侵入しやすいマクロ気孔及びマクロ連通気孔の割合が少ないことが確認できる。
(擬似体液を用いた骨結合能の評価)
製造した実施例4及び5、比較例2の生体インプラントを37℃環境下で疑似体液に14日間浸漬した後に取り出して純水で洗浄した後、120℃で3時間乾燥する疑似体液浸漬試験を行った。その後、各生体インプラントについて露出面6に直交する断面で切断し、これをアリザリンレッドS染色液(酢酸に酢酸ナトリウムを加えて作製した緩衝液にアリザリンレッドSを添加して作製した染色液)に浸漬し、擬似体液浸漬試験によって析出した水酸アパタイトを染色し、得られた生体インプラントの断面をマイクロスコープによりにより観察して水酸アパタイト被膜の析出状態を観察した。実施例4及び5、比較例2の生体インプラントをマイクロスコープにより観察して得られた断面画像を図10(a)〜(c)にそれぞれ示す。図10における灰色部分が水酸アパタイトである。図10に示されるように、実施例4及び5の生体インプラント1はマクロ多孔層4の最深部の内壁面まで厚さのある水酸アパタイト被膜が析出していたのに対して、比較例2の生体インプラントは大径気孔同士が連通する連通気孔は確認されているが、その連通部分は狭小であり、多孔層の表面又は表面近傍の大径気孔の内壁面にアパタイト被膜が析出しているのみで、この大径気孔に連通している大径気孔の内壁面すなわち多孔層と実質部との境界近傍の気孔の内壁面には水酸アパタイト被膜がほとんど析出していなかった。この結果から、実施例4及び5の生体インプラント1は、マクロ多孔層4のほぼ全体にわたって生体組織と迅速かつ強固な結合能力を発揮することが容易に推測される。
なお、この擬似体液浸漬試験は、人の血漿とほぼ等しい無機イオン濃度を有し、アパタイトに対して過飽和な溶液である擬似体液に試験体を浸漬し、試験体表面におけるアパタイト形成能を評価する試験であり、詳細は、大槻ら「Mechanizm of apatite formation on CaO−SiO2−P2O5 glasses in a simulated body fluid」、ジャーナル オブ ノン−クリスタリン ソリッド(Journal of Non−Crystalline Solids)、第143巻、84〜92頁、1992年の論文に記載されている。