以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態における冶金用粉末を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施の形態における冶金用粉末は、第1の粉末10と第2の粉末とを備え、第1の粉末10に対する第2の粉末の質量比が、1以上2.25以下である。第1の粉末10は、複数の第1の鉄基粒子11と、複数の第1の鉄基粒子11の表面を被覆する潤滑剤12とを含み、第1の鉄基粒子11の表面を被覆する結着剤を含んでいない。第2の粉末は、複数の第2の鉄基粒子21と、複数の第2の鉄基粒子21の表面を被覆する結着剤22とを含み、第2の鉄基粒子21を被覆する潤滑剤を含んでいない。潤滑剤12は、第1の鉄基粒子11の表面を被覆しており、第1の粉末10と第2の粉末との間にはほとんど存在していない。結着剤22は、第2の鉄基粒子21の表面を被覆しており、第1の粉末10と第2の粉末との間にはほとんど存在していない。
第1および第2の鉄基粒子11、21は、たとえば、鉄(Fe)、鉄(Fe)−シリコン(Si)系合金、鉄(Fe)−アルミニウム(Al)系合金、鉄(Fe)−窒素(N)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)系合金、鉄(Fe)−炭素(C)系合金、鉄(Fe)−ホウ素(B)系合金、鉄(Fe)−コバルト(Co)系合金、鉄(Fe)−リン(P)系合金、鉄(Fe)−ニッケル(Ni)−コバルト(Co)系合金および鉄(Fe)−アルミニウム(Al)−シリコン(Si)系合金などから形成されている。第1および第2の鉄基粒子11、21は、金属単体でも合金でもよい。また第1および第2の鉄基粒子11、21は、同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。
第1の鉄基粒子11の平均粒径は、第2の鉄基粒子21の平均粒径より大きいことが好ましい。この場合、結着剤22を有する第2の粉末20により、第1の粉末10の潤滑剤12が染み出す経路(図10における経路R)を阻害されることをより抑制して、成形性をより向上することができる。
第1および第2の鉄基粒子11、21の平均粒径は、30μm以上500μm以下であることが好ましい。第1および第2の鉄基粒子11、21の平均粒径を30μm以上にすることにより、潤滑剤12の染み出し経路を十分に確保でき、かつ、粉末の流動性が悪くなることを抑制できる。一方、500μm以下にすることにより、粉末充填時の偏析を抑えることができ、また、狭いキャビティに対する充填性も良好である。
なお、第1および第2の鉄基粒子11、21の平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さいほうからの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
また、第1および第2の鉄基粒子11、21の表面の凹部に潤滑剤12および結着剤22が付着しやすいため、第1および第2の鉄基粒子11、21は、凹凸が大きい表面を有していることが好ましい。
図2は、本実施の形態における別の第1の粉末を模式的に示す断面図である。潤滑剤12は、第1の鉄基粒子11の表面を被覆している。すなわち、潤滑剤12は、図1に示すように、第1の鉄基粒子11の表面の凹部にのみ付着していてもよく、図2に示すように、第1の鉄基粒子11の表面の凹部を含む全周を取り囲むように付着していてもよい。
潤滑剤12は、潤滑性能を発現する。潤滑剤12は、常温で液体でも固体であってもよいが、好ましくは経時変化の少ない固体である。特に、潤滑剤12は、60℃以上の融点を有することが好ましく、75℃以上150℃以下の融点を有することがより好ましい。潤滑剤12の融点が60℃以上の場合、冶金用粉末を金型に充填して加圧成形を連続して行なう場合に、第1および第2の鉄基粒子11、21の変形に伴う温度上昇に対して、潤滑剤12を金型壁面に染み出すように金型の温度制御を安定して行なうことができる。このため、冶金用粉末を潤滑剤12の融点以上の適当な温度で安定して加圧成形できる。潤滑剤12の融点が75℃以上の場合、潤滑剤12の融点以上の温度でより安定して加圧成形できる。一方、潤滑剤12の融点が150℃以下の場合、バインダや粉末に絶縁被覆されている場合はその絶縁被膜の劣化を抑制でき、また、金型の加熱温度は200℃以下に抑えることができるので金型やプレス機への負担を軽くすることができる。以上の温度に加熱した金型中で成形を行なうことによって、自己融解により潤滑剤12を液体潤滑剤として作用させることができる。液体潤滑剤として作用させると、加圧成形時に金型の壁面に潤滑剤12をより確実に押し出すことができるので、成形体と金型との間に十分な量の潤滑剤12を確保でき、また、この冶金用粉末を加圧成形してなる成形体内に残存する潤滑剤の量を低減できるので、成形体の強度をより向上することができる。
潤滑剤12は、たとえばエステル系潤滑剤、アミド系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤、脂肪酸系潤滑剤、エステル系潤滑剤、高級アルコール系潤滑剤、金属石鹸、および複合系潤滑剤などの有機化合物を用いることができる。エステル系潤滑剤としてはステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、硬化ヒマシ油、ステアリン酸ステアリル、アミド系潤滑剤としてはステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレフィン酸アミド、炭化水素系潤滑剤としてはパラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸系潤滑剤としてはステアリン酸、ベヘニン酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸、エステル系潤滑剤としてはステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、硬化ヒマシ油、ステアリン酸ステアリル、高級アルコール系としてはステアリルアルコール、金属石鹸としてはステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸鉛などを好ましく用いることができる。特に、融点が60℃である観点から、潤滑剤12は、エステル系潤滑剤およびアミド系潤滑剤の少なくとも一方よりなることが好ましい。
潤滑剤12は、第1の鉄基粒子11と第2の鉄基粒子21との和の質量に対して0.2質量%以上0.4質量%以下含まれることが好ましい。0.2質量%以上とすることによって、潤滑剤12の潤滑効果をより発現できる。0.4質量%以下とすることによって、本実施の形態における冶金用粉末を加圧成形した後に残存する潤滑剤12の量が多くならず、成形体の高強度を実現できる。
図3は、本実施の形態における別の第2の粉末を模式的に示す断面図である。結着剤22は、第2の鉄基粒子21の表面を被覆している。すなわち、結着剤22は、図1に示すように、第2の鉄基粒子21の表面の凹部にのみ付着していてもよく、図3に示すように、第2の鉄基粒子21の表面の凹部を含む全周を取り囲むように付着していてもよい。
結着剤22は、複数の第2の鉄基粒子11を結着させて、強度を向上する。熱処理されても変成しない結着剤22としては、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルケトン、シリコーン樹脂類およびシルセスキオキサン類からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることが好ましい。これらの物質は高強度であるので、成形体の強度をより向上することができる。シリコーン樹脂類としてはジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンを、シルセスキオキサン類としてはオキセタンシルセスキオキサン、ビニルヒドロキシシルセスキオキサンなどを好ましく用いることができる。
熱処理されると変成する結着剤22としては、チタン−酸素系モノマー、チタン−酸素系オリゴマー、シリコン−酸素系モノマーおよびシリコン−酸素系オリゴマーよりなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることが好ましい。これらの物質は高強度であるので、成形体の強度をより向上することができる。チタン−酸素系モノマーとしてはチタンアルコキシド、チタンキレート、チタンアシレートを、チタン−酸素系オリゴマーとしては上記モノマーをオリゴマー処理した重合体を、シリコン−酸素系モノマーとしてはシリコンアルコキシド、シリコンシアネートを、シリコン−酸素系オリゴマーとしては上記モノマーをオリゴマー処理した重合体などを好ましく用いることができる。
第1の粉末10は、第1の鉄基粒子11の表面に潤滑剤12が被覆しているので、金型の形状によらずに潤滑機能を発現できる。このため、第1の粉末10は成形性を向上する役割を担う。
第2の粉末20は、第2の鉄基粒子21の表面に結着剤22が被覆しているので、複数の第2の粉末20を結着させて強度を向上する役割を担う。
第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が、1以上2.25以下であり、1.5以上2.0以下がより好ましい。本発明者は、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比を上記範囲にすることによって、第1の粉末20の良好な成形性と、第2の粉末の高強度とを両立できることを見出した。
すなわち、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が1未満の場合、潤滑剤12に被覆されている第1の鉄基粒子11が潤滑剤に被覆されていない第2の鉄基粒子21よりも多くなるので、結着剤22に被覆された第2の鉄基粒子21同士が接触する確率が低くなる。このため、冶金用粉末を加圧成形すると、結着剤22により複数の第2の鉄基粒子21を結合することができなくなり、成形体の強度を向上することができない。第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が1以上の場合、冶金用粉末を加圧成形すると、結着剤22に被覆された第2の鉄基粒子21同士が接触する確率が高くなり、結着剤22により複数の第2の鉄基粒子21を結合することができるので、成形体の強度を向上することができる。第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が1.5以上の場合、成形体の強度をより向上することができる。
一方、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が2.25を超える場合、必要な潤滑剤の量が第1の鉄基粒子11を被覆できる潤滑剤量の限界を超えるので、潤滑剤12が不足するので潤滑機能を十分に発現できない。このため、この冶金用粉末を加圧成形すると、金型壁面において潤滑剤が供給されない箇所が生じ、金型壁面と成形体との焼き付きが発生し、成形性が悪くなる。第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が2.25以下の場合、潤滑性能を発現できる。また、冶金用粉末において第1の粉末10を分散させることができるので、潤滑剤12を均一に分散させることができる。このため、潤滑剤12の偏析を防止できる。したがって、この冶金用粉末を加圧成形するときに潤滑性を確保できるので、成形性を向上できる。第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が2.0以下の場合、成形性をより向上できる。
なお、本実施の形態における冶金用粉末は、第1の粉末10および第2の粉末20のみよりなっていてもよく、あるいは、銅粉などの粉末等をさらに備えていてもよい。また、本実施の形態における冶金用粉末は、第1および第2の鉄基粒子11、21を含んでいるが、鉄基粒子以外の粒子を含んでいてもよい。
続いて、本実施の形態における冶金用粉末の製造方法について説明する。図4は、本実施の形態における冶金用粉末および成形体の製造方法を示すフローチャートである。
図1〜図4に示すように、まず、複数の第1の鉄基粒子11と、複数の第1の鉄基粒子11の表面を被覆する潤滑剤12とを含む第1の粉末10を準備する(ステップS10)。
具体的には、たとえば上述したような材料の第1の鉄基粒子11を準備する(ステップS11)。第1の鉄基粒子11の製造方法は特に限定されないが、たとえばガスアトマイズ法、水アトマイズ法などにより第1の鉄基粒子11を準備する。凹凸の大きな表面を有する第1の鉄基粒子11を準備できる観点から、たとえば水アトマイズ法などにより第1の鉄基粒子11を製造することが好ましい。
その後、第1の鉄基粒子11を熱処理する。熱処理前の第1の鉄基粒子11の内部には、アトマイズ処理時の熱応力などに起因する歪みや結晶粒界などの多数の欠陥が存在している。そこで、第1の鉄基粒子11に熱処理を施すことによって、これらの欠陥を低減させることができる。なお、この熱処理は省略されてもよい。
その後、複数の第1の鉄基粒子11の表面を潤滑剤12で被覆する(ステップS12)。潤滑剤12はたとえば以下の方法で複数の第1の鉄基粒子11の表面に形成される。混合容器内を加熱できるような攪拌混合機を用いて、複数の第1の鉄基粒子11と潤滑剤12とを混合する。そして、混合しながら混合容器内の温度を上昇し、潤滑剤12を溶融させる。これにより、溶融した潤滑剤12が複数の第1の鉄基粒子11の表面の凹部に入り込み、複数の第1の鉄基粒子11同士の間に液体の潤滑剤12が染み出す。そして一定時間経過後、混合容器内の温度を下げ、潤滑剤12が凝固するまで潤滑剤12と複数の第1の鉄基粒子11とを混合し続ける。これにより、溶融した潤滑剤12が複数の第1の鉄基粒子11の表面から流れ出したり、潤滑剤12で被覆された複数の第1の鉄基粒子11同士がくっついたりせずに、複数の第1の鉄基粒子11の表面の凹部を埋めた状態のまま潤滑剤12が凝固する。その結果、図1または図2に示すように、複数の第1の鉄基粒子11の表面に潤滑剤12を被覆することができる。
なお、上記のように複数の第1の鉄基粒子11と潤滑剤12との混合を開始してから混合容器の温度を上昇する場合の他、潤滑剤12が溶融する温度まで混合容器内の温度を予め上昇しておいてから複数の第1の鉄基粒子11と潤滑剤12とを混合容器内に添加して混合を開始してもよい。
また、潤滑剤12は、特に限定されないが、エステル系潤滑剤およびアミド系潤滑剤の少なくとも一方を含んでいることが好ましい。
また、複数の第1の鉄基粒子11と潤滑剤12とを混合する際には、冶金用粉末(第1の粉末10)に占める潤滑剤12の割合が0.2質量%以上0.4質量%以下となるように混合する割合を調整することが好ましい。
さらに、混合方法に特に制限はなく、たとえばV型混合機等のミキサー、垂直転動型ミキサー、振動ボールミル、遊星ボールミルなどのいずれを使用することも可能である。室温で単純に混合させてもよいし、昇温し潤滑剤を液状化させた状態で被覆し、冷却によって安定化させる処理を行なってもよい。
以上のステップS11、S12により、図1または図2に示す第1の粉末10を準備できる(ステップS10)。
次に、図1〜3に示すように、潤滑剤が被覆されていない複数の第2の鉄基粒子21と、複数の第2の鉄基粒子21の表面を被覆する結着剤22とを含む第2の粉末を準備する(ステップS20)。
具体的には、たとえば上述したような材料の第2の鉄基粒子21を準備する(ステップS21)。第2の鉄基粒子21の製造方法は特に限定されないが、第1の鉄基粒子11を準備するステップS11と同様に、たとえばガスアトマイズ法、水アトマイズ法などにより第2の鉄基粒子21を準備する。また、第2の鉄基粒子21についても、第1の鉄基粒子11と同様に熱処理を施してもよい。
その後、複数の第2の鉄基粒子21の表面を結着剤22で被覆する(ステップS22)。結着剤22はたとえば以下の方法で複数の第2の鉄基粒子21の表面に形成される。たとえば上述したような材料の結着剤22を準備する。攪拌混合機を用いて、この結着剤22と第2の鉄基粒子21とを混合する。その後、混合した結着剤22と第2の鉄基粒子21とを恒温槽に投入して、加熱する。これにより、結着剤22を溶融させて第2の鉄基粒子21の表面に付着させることができる。この状態で乾燥すると、図1または図3に示すように、複数の第2の鉄基粒子21の表面に結着剤22を被覆することができる。
また、被覆する結着剤22は特に限定されないが、ポリイミド類、ポリフェニレンサルファイド類、ポリエーテルケトン類、シリコーン樹脂類およびシルセスキオキサン類からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることが好ましい。あるいは結着剤22は、チタン−酸素系モノマー、チタン−酸素系オリゴマー、シリコン−酸素系モノマーおよびシリコン−酸素系オリゴマーよりなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることが好ましい。
また、第2の鉄基粒子21の平均粒径は、第1の鉄基粒子11の平均粒径と同じまたはそれより小さいことが好ましい。
以上のステップS21、S22により、図1または図3に示す第2の粉末20を準備できる(ステップS20)。
次に、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が1以上2.25以下になるように、第1の粉末10と第2の粉末20とを混合する(ステップS30)。第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比は、1以上2.25以下であり、1.5以上2.0以下が好ましい。
混合する方法は、特に限定されず、たとえばV型混合機などの混合容器内で第1の粉末10と第2の粉末20とを上述した割合で混合する。
以上のステップS10〜S30を実施することによって、図1に示す冶金用粉末を製造できる。この冶金用粉末を用いて圧粉磁心を製造する場合にはさらに以下の工程が行なわれる。
次に、上記冶金用粉末を潤滑剤の融点以上の温度で加圧成形して、成形体を形成する(ステップS40)。具体的には、潤滑剤12の融点よりも高い温度に加熱した金型に得られた冶金用粉末を充填する。その後、300MPa以上1500MPa以下の圧力を加えて加圧成形する。なお、加圧成形する雰囲気は、不活性ガス雰囲気または減圧雰囲気とすることが好ましい。この場合、大気中の酸素によって冶金用粉末が酸化されるのを抑制することができる。
この成形体を形成するステップS40では、潤滑剤12の融点以上、好ましくは潤滑剤12の融点よりも5℃高い温度以上、潤滑剤12の融点よりも20℃高い温度以下の温度で、冶金用粉末を加圧成形する。潤滑剤12の融点以上の場合、加圧成形する際に、潤滑剤12が軟化して、金型壁面まで染み出すので、成形体の成形性を向上できる。潤滑剤12の融点よりも5℃高い温度以上の場合、潤滑剤12が金型壁面までより容易に染み出すので、成形体の成形性をより向上することができる。一方、潤滑剤12の融点よりも20℃高い温度以下の場合には、潤滑剤12の粘性が低くなりすぎず、高い潤滑性能を維持することができる。
次に、加圧成形によって得られた成形体を熱処理する(ステップS50)。具体的には、たとえば400℃以上700℃以下で熱処理する。加圧成形を経た成形体の内部には欠陥が多数発生しているので、熱処理によりこれらの欠陥を取り除くことができる。なお、この熱処理をするステップS50は省略されてもよい。
以上のステップS10〜S50を実施することより、成形体を製造できる。潤滑剤12および結着剤22が熱処理されることなどにより、第1および第2の鉄基粒子11、21間が絶縁されている場合には、圧粉磁心となる。
続いて、本実施の形態における冶金用粉末と、比較例の冶金用粉末とを比較しながら、本実施の形態の作用効果について説明する。
図5は、第1比較例の冶金用粉末を模式的に示す断面図である。図5に示す第1比較例の冶金用粉末は、複数の鉄基粒子111と、複数の鉄基粒子111に混合された潤滑剤112とを備えている。この冶金用粉末は、図5に示すように、潤滑剤112は複数の鉄基粒子111間に存在し、潤滑剤112の多くは鉄基粒子111に接触していない。また鉄基粒子111に潤滑剤112が接触している場合であっても、鉄基粒子111の凹部に付着している潤滑剤112はほとんど存在しない。
第1比較例の冶金用粉末は、鉄基粒子111に潤滑剤112を混合して製造されるが、この方法では、冶金用粉末中に潤滑剤112を均一に分散させることが難しい。このため、この冶金用粉末を金型に充填して加圧成形すると、潤滑剤112が均一に分散せず凝集しやすく、冶金用粉末の鉄基粒子111内に潤滑剤112が凝集して、金型壁面まで潤滑剤が染み出さない。このため、金型壁面と成形体との焼き付きが発生するという問題がある。
図6は、第2比較例の冶金用粉末の1粒子を模式的に示す断面図である。図7は、第2比較例の冶金用粉末を加圧成形する状態を模式的に示す断面図である。第2比較例の冶金用粉末は、図6に示すように、鉄基粒子111と、鉄基粒子111の表面全周を被覆した結着剤122と、結着剤122の表面の一部を被覆した潤滑剤112とを複数備えている。この第2比較例の冶金用粉末を金型に充填して加圧成形すると、図7に示すように、結着剤122同士が接触するので、結着剤122を介して鉄基粒子111が凝集する。このため、第2比較例の冶金用粉末を加圧成形したときの成形体の強度を向上することができる。しかし、結着剤122を介して凝集した鉄基粒子111の内部に潤滑剤112が閉じ込められる。このため、加圧成形するときに潤滑剤112が金型壁面まで染み出すことができない。したがって、成形体と金型との焼き付きが生じやすく、成形性が悪くなる。
また、潤滑剤112が閉じ込められると、加圧成形後に熱処理を行なっても、潤滑剤112を成形体の内部から除去することができない。このため、成形体の密度が低くなる。
さらに、第2比較例の冶金用粉末では結着剤122同士が接触するので、粉末状態での流れ性が悪い。このため、第2比較例の冶金用粉末を金型に充填すると冶金用粉末の流動性が悪くなるという問題がある。
図8は、第3比較例の冶金用粉末の1粒子を模式的に示す断面図である。図9は、第3比較例の冶金用粉末を加圧成形する状態を模式的に示す断面図である。第3比較例の冶金用粉末は、図8に示すように、鉄基粒子111と、鉄基粒子111の表面の一部を被覆した結着剤122と、鉄基粒子111の表面の一部を被覆した潤滑剤112とを複数備えている。この冶金用粉末を金型に充填して加圧成形すると、図9に示すように、鉄基粒子111間には、結着剤122と潤滑剤112とが混在する。このため、第3比較例の冶金用粉末を加圧成形すると、図9に示すように、鉄基粒子111を結着剤122により十分に凝集することができない。したがって、第3比較例の冶金用粉末を加圧成形したときの成形体の強度が低くなる。
図10は、本実施の形態において成形体を形成するステップS40での冶金用粉末の状態を模式的に示す断面図である。図10に示すように、本実施の形態における冶金用粉末を潤滑剤12の融点以上の温度で加圧成形すると、第1の粉末に対する第2の粉末20の質量比が1以上であるので、結着剤22に被覆された第2の鉄基粒子21同士が接触することを促進できる。その結果、結着剤22を介して第2の鉄基粒子21が凝集する。凝集した第2の鉄基粒子21は、高強度発現骨格Fを形成する。このため、本実施の形態の冶金用粉末を加圧成形することにより得られる成形体の強度を向上できる。
また、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が2.25以下であるので、第1の鉄基粒子11の一部が互いに接触することを促進できる。結着剤22を介して凝集した第2の鉄基粒子21間には隙間が生じにくいが、第1の鉄基粒子11同士が接触して連なる経路Rには隙間が生じやすい。これにより、この経路Rに沿って潤滑剤12が金型壁面まで染み出すため、成形体と金型との間に十分な量の潤滑剤12を確保できる。したがって、金型の形状によらず潤滑機能を発現できるので、成形性を向上することができる。
さらに、第1の鉄基粒子11同士が接触して連なる経路Rには隙間が生じやすいので、成形体を熱処理すると、成形体の内部に残存していた潤滑剤12を経路Rに沿って成形体の外部に排出することができる。このため、成形体の密度を向上することができる。
さらには、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が1以上であるので、潤滑剤12に被覆された第1の鉄基粒子11同士が接触することを抑制できる。このため、第1の粉末10による流動性の悪化を抑制できる。また、流動性を向上できるので、冶金用粉末の充填性を向上できる。このため、この冶金用粉末を加圧成形することにより得られる成形体の密度を向上できる。その結果、金型等の加圧成形するための設備の縮小化を図ることができる。
(実施の形態2)
図11は、本実施の形態における冶金用粉末を模式的に示す断面図である。図11に示す本実施の形態における冶金用粉末は、基本的には図1に示す実施の形態1における冶金用粉末と同様の構成を備えているが、第1および第2の鉄基粒子11、21の各々の表面に第1および第2の絶縁被膜13、23の各々が形成され、第1の絶縁被膜13の表面を被覆するように潤滑剤12が形成され、第2の絶縁被膜23の表面を被覆するように結着剤22が形成されている点においてのみ異なる。
具体的には、図11に示すように、冶金用粉末は、第1の粉末10と第2の粉末20とを備え、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が、1以上2.25以下である。第1の粉末10は、複数の第1の鉄基粒子11と、複数の第1の鉄基粒子11の表面を被覆する第1の絶縁被膜13と、第1の絶縁被膜の表面を被覆する潤滑剤12とを含んでいる。複数の第1の絶縁被膜13の表面には結着剤が被覆されていない。第2の粉末20は、複数の第2の鉄基粒子21と、複数の第2の鉄基粒子21の表面を被覆する第2の絶縁被膜23と、第2の絶縁被膜23の表面を被覆する結着剤22とを備えている。複数の第2の絶縁被膜23の表面には潤滑剤が被覆されていない。
第1および第2の鉄基粒子11、21は、実施の形態1と同様であるので、その説明は繰り返さない。なお、本実施の形態では、第1および第2の鉄基粒子11、21の平均粒径を30μm以上とすることにより、加圧成形したときの保磁力を低減することができる。平均粒径を500μm以下とすることにより、渦電流損を低減することができる。
第1および第2の絶縁被膜13、23は、第1および第2の鉄基粒子11、21間の絶縁層として機能する。第1および第2の鉄基粒子11、21の各々を絶縁被膜13、23の各々で覆うことによって、この冶金用粉末を加圧成形して得られる圧粉磁心の電気抵抗率ρを大きくすることができる。これにより、第1および第2の鉄基粒子11、21間に渦電流が流れるのを抑制して、圧粉磁心の渦電流損を低減させることができる。
第1の絶縁被膜13の平均膜厚は、第2の絶縁被膜23の厚みよりも薄いことが好ましく、たとえば100nm以下であることが好ましい。100nm以下の場合、潤滑剤12との親和性を高めて、潤滑剤12が第1の鉄基粒子11の凹部に付着しやすい。第1の絶縁被膜13は、第1の鉄基粒子11の表面を覆っており、第1の鉄基粒子11の凹凸を有する形状を生かすため、略均一の厚みとすることが好ましい。第1の絶縁被膜13の下限値は、たとえば渦電流損を効果的に抑制する観点から、10nm以上である。
第2の絶縁被膜23の平均膜厚は、第1の絶縁被膜13の厚みよりも大きいことが好ましく、たとえば100nmを超えて1000nm以下であることが好ましい。第2の絶縁被膜23の厚みが第1の絶縁被膜13よりも厚い場合、第2の絶縁被膜23は第1の絶縁被膜13の耐熱性よりも向上できる。100nmを超える場合、電気抵抗を維持して、渦電流損を小さくすることができ、かつ、ヒステリシス損を低減するために必要な熱処理をしても低い渦電流損を維持できる。すなわち、十分な耐熱性と絶縁性とを両立できる。一方、1000nm以下の場合、磁束密度の低下を抑制できる。
なお、平均膜厚とは、組成分析(TEM−EDX:transmission electron microscope energy dispersive X-ray spectroscopy)によって得られる膜組成と、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:inductively coupled plasma-mass spectrometry)によって得られる元素量とを鑑みて相当厚さを導出し、さらに、TEM写真により直接、被膜を観察し、先に導出された相当厚さのオーダーが適正な値であることを確認して決定されるものをいう。主要な被膜の構成元素が鉄基粒子に合金化して含まれる場合、または別の被膜の構成元素と同じ場合など被膜の厚みを特定できない場合は、観察する断面範囲が500nm以上のTEM写真を10箇所以上観察して、平均膜厚を決定しても良い。
第1の絶縁被膜13は、たとえば非晶質リン酸塩化合物、非晶質ホウ酸塩化合物、非晶質珪酸塩化合物および非晶質酸化物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなることが好ましい。非晶質酸化物は、たとえばAl、Si、Ti、Mg、CaおよびFeからなる群より選ばれた少なくとも一種の物質の酸化物が挙げられる。このような材料として、たとえば、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、酸化シリコン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。これらの物質は絶縁性に優れているため、第1および第2の鉄基粒子11、21間を流れる渦電流をより効果的に抑制することができる。第1の絶縁被膜13は、1層であることが好ましい。
第2の絶縁被膜23は、たとえば無機化合物および有機樹脂の少なくともいずれかの物質よりなることが好ましい。無機化合物は、たとえば上述したような材料が挙げられる。有機樹脂は、たとえばシリコーン樹脂やポリイミド樹脂などが挙げられる。
図12は、本実施の形態における別の第2の粉末を模式的に示す断面図である。第2の粉末20は、図11に示すように、1層の絶縁被膜23より構成されていてもよく、図12に示すように、2層の絶縁被膜より構成されていてもよい。
図12に示すように第2の絶縁被膜23が2層の絶縁被膜を含んでいる場合には、第2の絶縁被膜23は、非晶質リン酸塩化合物、非晶質ホウ酸塩化合物、非晶質珪酸化合物および非晶質酸化物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる第1の層23aと、第1の層23a上に形成され、シリコーン樹脂および金属酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質よりなる第2の層23bとを有していることが好ましい。これにより、第2の絶縁被膜23は、変形追従性に優れた第1の層23aと、耐熱性に優れた第2の層23bとを含むので、優れた特性を有することができる。
なお、第2の絶縁被膜23は、3層以上の絶縁被膜より構成されていてもよい。また、第2の絶縁被膜23が複数層の絶縁被膜より構成されている場合には、第2の絶縁被膜23の厚さは、それぞれの層の合計の厚みである。
第1の粉末10において潤滑剤12は、複数の第1の絶縁被膜13の表面を取り囲むように形成されている。図13は、本実施の形態における別の第1の粉末を模式的に示す断面図である。潤滑剤12は、図11に示すように、第1の絶縁被膜13の表面の凹部にのみ付着していてもよく、図13に示すように、第1の絶縁被膜13の表面の凹部を含む全周を取り囲むように付着していてもよい。
第2の粉末20において結着剤22は、複数の第2の絶縁被膜23の表面を取り囲むように形成されている。図14は、本実施の形態における別の第2の粉末を模式的に示す断面図である。結着剤22は、図11に示すように、第2の絶縁被膜23の表面の一部のみ付着していてもよく、図14に示すように、第2の絶縁被膜23の表面全周を取り囲むように付着していてもよい。
続いて、本実施の形態における冶金用粉末の製造方法について説明する。図15は、本実施の形態における冶金用粉末および圧粉磁心の製造方法を示すフローチャートである。
図6〜図8に示すように、まず、複数の第1の鉄基粒子11と、複数の第1の鉄基粒子11の表面を被覆する第1の絶縁被膜13と、第1の絶縁被膜13を被覆する潤滑剤12とを含む第1の粉末10を準備する(ステップS10)。準備する第1の粉末10において、第1の絶縁被膜13の表面には結着剤が被覆されていない。
具体的には、実施の形態1と同様に、第1の鉄基粒子11を準備する(ステップS11)。なお、第1の鉄基粒子11に熱処理を施してもよい。その後、第1の鉄基粒子11の表面に第1の絶縁被膜13を被覆する(ステップS13)。第1の絶縁被膜13は、たとえば第1の鉄基粒子11をリン酸塩化成処理することによって形成することができる。また、リン酸塩からなる第1の絶縁被膜13の形成方法としては、リン酸塩化成処理の他に溶剤吹きつけや前駆体を用いたゾルゲル処理を利用することもできる。また、シリコン系有機化合物よりなる第1の絶縁被膜13を形成してもよい。この第1の絶縁被膜13の形成には、有機溶剤を用いた湿式被覆処理や、ミキサーによる直接被覆処理などを利用することができる。これにより、複数の第1の鉄基粒子11の各々の表面に第1の絶縁被膜13を形成した、複数の複合磁性粒子が得られる。
その後、複数の第1の絶縁被膜13の表面を潤滑剤12で被覆する(ステップS12)。このステップS12では、第1の鉄基粒子11の代わりに第1の絶縁被膜13が形成された第1の鉄基粒子11を用いて、実施の形態1と同様に複数の第1の絶縁被膜13の表面を潤滑剤12で被覆する。これにより、図11または図13に示す複数の第1の鉄基粒子11と、複数の第1の鉄基粒子11の表面を被覆する第1の絶縁被膜13と、第1の絶縁被膜13の表面を被覆する潤滑剤12とを含む第1の粉末10を製造できる。
次に、複数の第2の鉄基粒子21と、複数の第2の鉄基粒子21の表面を被覆する第2の絶縁被膜23と、第2の絶縁被膜23の表面を被覆する結着剤22とを含む第2の粉末20を準備する(ステップS20)。準備する第2の粉末20において、第2の絶縁被膜23の表面には潤滑剤が被覆されていない。
具体的には、実施の形態1と同様に、第2の鉄基粒子21を準備する(ステップS21)。なお、第2の鉄基粒子21に熱処理を施してもよい。その後、第2の鉄基粒子21の表面に第2の絶縁被膜23を被覆する(ステップS23)。このステップS23は、上述した第1の絶縁被膜13を被覆するステップS13とほぼ同様である。
図12に示すように第2の鉄基粒子21において2層以上の第2の絶縁被膜23を形成する場合には、第2の鉄基粒子21の表面を取り囲む第1の層23aと、第1の層23aの表面を取り囲む第2の層23bとを形成する。この場合、第1の層23aは非晶質リン酸塩化合物、非晶質ホウ酸塩化合物、非晶質珪酸化合物、非晶質酸化物からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなり、第2の層23bは、シリコーン樹脂および金属酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の物質よりなることが好ましい。
その後、複数の第2の絶縁被膜23の表面を結着剤22で被覆する(ステップS22)。このステップS22では、第2の鉄基粒子21の代わりに第2の絶縁被膜23が形成された第2の鉄基粒子21を用いて、実施の形態1と同様に複数の第2の絶縁被膜23の表面を結着剤22で被覆する。これにより、図11、図12または図14に示す複数の第2の鉄基粒子21と、第2の鉄基粒子21の表面を被覆する第2の絶縁被膜23とを含む第2の粉末を製造できる。
次に、実施の形態1と同様に、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が1以上2.25以下になるように、第1の粉末10と第2の粉末20とを混合する(ステップS30)。
以上のステップS10〜S30を実施することによって、図11に示す冶金用粉末を製造できる。この冶金用粉末を用いて圧粉磁心を製造する場合にはさらに以下の工程が行なわれる。
次に、実施の形態1と同様に、上記冶金用粉末を加圧成形することにより成形体を得る(ステップS40)。加圧成形する圧力は、300MPa以上1500MPa以下であることが好ましい。
次に、加圧成形によって得られた成形体を熱処理する(ステップS50)。具体的には、熱処理するステップS50では、400℃以上700℃以下の温度で熱処理することが好ましい。400℃以上の場合、第1および第2の鉄基粒子11、21の内部の多数の歪み(転位、欠陥)を低減することができる。700℃以下の場合、第1および第2の絶縁被膜13、23が熱分解することを抑制することができる。
また、結着剤22がポリイミド類、ポリフェニレンサルファイド類、ポリエーテルケトン類、シリコーン樹脂類およびシルセスキオキサン類からなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる場合には、熱処理するステップS50を実施すると、残存する結着剤22が変成せず、第1および第2の絶縁被膜13、23を保護する。
また、結着剤22がチタン−酸素系モノマー、チタン−酸素系オリゴマー、シリコン−酸素系モノマーおよびシリコン−酸素系オリゴマーよりなる群より選ばれた少なくとも一種の物質よりなる場合、熱処理するステップS50を実施すると、残存する結着剤22が変成して酸化物として残り、第1および第2の絶縁被膜13、23を保護する。
以上のステップS10〜S50により、図16に示すように、成形体としての圧粉磁心を製造することができる。図16は、本実施の形態における圧粉磁心の拡大断面図である。図16に示すように、本実施の形態における圧粉磁心において、第1および第2の鉄基粒子11、21と、第1および第2の鉄基粒子11、21の表面を被覆する第1および第2の絶縁被膜13、23とを備えた第1および第2の複合磁性粒子の各々は、絶縁物50によって接合されていたり、第1および第2の複合磁性粒子が有する凹凸の噛み合わせなどによって接合されていたりする。絶縁物50は、第1および第2の粉末10、20に含まれていた潤滑剤12、結着剤22などが熱処理の際に変化したもの、または残存したものである。
このように製造された圧粉磁心は、実施の形態1と同様に、強度を向上し、かつ成形性を向上できる。特に、本実施の形態における圧粉磁心の製造方法における加圧成形するステップS40では、潤滑剤12が金型壁面に染み出すので、成形体の内部に残存する潤滑剤12を低減することができる。このため、潤滑剤12により第1および第2の絶縁被膜13、23の結合が阻害されることを抑制できる。また熱処理するステップS50では、圧粉磁心の内部の潤滑剤12の残渣を低減できる。したがって、第1および第2の絶縁被膜13、23を一体化させて、圧粉磁心の強度をさらに向上することができる。
以上説明したように、本実施の形態における冶金用粉末およびその製造方法は、複数の第1の鉄基粒子11と、複数の第1の鉄基粒子11の表面を取り囲む第1の絶縁被膜13と、第1の絶縁被膜13を被覆する潤滑剤12とを含む第1の粉末10と、複数の第2の鉄基粒子21と、複数の第2の鉄基粒子21の表面を被覆する第2の絶縁被膜23と、第2の絶縁被膜23を被覆する結着剤22とを含む第2の粉末20とを備え、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が、1以上2.25以下である。
第1および第2の絶縁被膜13、23により、第1および第2の粉末10、20において互いの鉄基粒子間を電気的に絶縁することができる。このため、この冶金用粉末を加圧成形すると、電気抵抗が大きい圧粉磁心を実現できる。このような圧粉磁心は、高強度であり、かつ成形性を向上できるので、モーターコア、電磁弁、リアクトルもしくは電磁部品一般に好適に利用される。
本実施例では、第1の粉末と第2の粉末との混合比が1以上2.25以下である冶金用粉末を用いて、潤滑剤の融点以上の温度で加圧成形することの効果について調べた。具体的には、第1の粉末と第2の粉末とを準備して、種々の質量比で混合した冶金用粉末を製造し、この冶金用粉末を加圧成形して製造した成形体について、抜き圧および抗折強度についてそれぞれ測定した。
(本発明例1〜14および比較例1〜4の冶金用粉末)
まず、図11に示す実施の形態2に基本的にしたがって、本発明例1〜14および比較例1〜4の冶金用粉末を製造した。
具体的には、第1の鉄基粒子11および第1の絶縁被膜13として、ヘガネスAB社製のSomaloy550を準備した(ステップS11、S13)。このSomaloy550は、第1の鉄基粒子11と、第1の鉄基粒子11の表面を被覆する第1の絶縁被膜13とを含む第1の複合磁性粒子であった。第1の鉄基粒子は純鉄からなり、200μmの平均粒径を有していた。第1の絶縁被膜は、非晶質リン酸鉄であった。
次いで、潤滑剤12として、オレイン酸アミドを準備した。なお、この潤滑剤12は、75℃の融点を有するアミド系ワックスである。混合ミキサー(株式会社カワタ社製の商品名「スーパーミキサー」、容量20L)に第1の複合磁性粒子を15kg投入した。その後、攪拌しながら85℃に加温した後、この粉末状の潤滑剤12を第1の鉄基粒子11の重量に対して、0.40〜0.75wt%投入した。なお、この潤滑剤12は、第1の粉末10と、後述する第2の粉末20との合計重量に対して、0.3wt%となるように投入した。そしてこれらの粉末を5分間攪拌し、その後攪拌しながら冷却し、混合ミキサーが室温に達した後、粉末を回収した。これにより第1の絶縁被膜13の表面を取り囲む潤滑剤12を形成した(ステップS12)。この結果、第1の粉末10を準備した(ステップS10)。
次に、第2の鉄基粒子21を準備するステップS11および第2の鉄基粒子21の表面に第2の絶縁被膜23を形成した(ステップS21、S23)。このステップS21、S23では、以下のようにした。すなわち、まず、ヘガネスAB社製のSomaloy500およびSomaloy550を準備した。このSomaloy500は、第2の鉄基粒子21と、第2の鉄基粒子21の表面を被覆する第2の絶縁被膜23とを含む第2の複合磁性粒子であった。第2の鉄基粒子は純鉄からなり、100μmの平均粒径を有していた。第1の絶縁被膜は、非晶質リン酸鉄であった。本発明例7および14では、Somaloy500を、JIS Z 8801−1に定める呼び寸法が106μmの篩を通過させ、通過した第2の複合磁性粒子を用いた。本発明例7および14の第2の鉄基粒子21の平均粒径は75μmであった。本発明例1〜4、8〜11、比較例1〜4では、Somaloy500をそのまま用いた。本発明例1〜4、8〜11、比較例1〜4の第2の鉄基粒子21の平均粒径は100μmであった。本発明例6および13では、Somaloy550を、JIS Z 8801−1に定める呼び寸法が180μmの篩を通過させ、通過した第2の複合磁性粒子を用いた。本発明例6および13の鉄基粒子21の平均粒径は150μmであった。本発明例5および12では、Somaloy550をそのまま用いた。本発明例5および12の第2の鉄基粒子21の平均粒径は200μmであった。
次いで、結着剤22として、本発明例1〜7、比較例1および2ではシルセスキオキサン(東亜合成株式会社製の商品名「OX−SQ」)を、本発明例8〜14、比較例3および4ではチタンラクテート(マツモトファインケミカル株式会社製の商品名「TC315」)を準備した。混合ミキサー(株式会社カワタ社製の商品名「スーパーミキサー」、容量20L)に第2の複合磁性粒子を15kg投入した。その後、攪拌しながら、液状の結着剤22を投入した。シルセスキオキサンは第2の鉄基粒子21に対して0.15wt%、チタンラクテートは第2の鉄基粒子21に対して0.2wt%投入した。そしてこれらの粉末を15分間攪拌し、粉末を回収した。その後、粉末を250℃加温した恒温槽に投入し、60分間熱処理をして、結着剤22を第2の絶縁被膜23上に定着させた。これにより第2の絶縁被膜23の表面を取り囲む結着剤22を形成した(ステップS22)。この結果、第2の粉末10を準備した(ステップS20)。
次に、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が下記の表1になるように、第1の粉末10と第2の粉末20とを、V型混合機で60分間混合した(ステップS30)。以上のステップS10〜S30により、本発明例1〜14および比較例1〜4の冶金用粉末を製造した。
(本発明例15〜38および比較例5〜10の圧粉磁心)
本発明例15〜38および比較例5〜10の圧粉磁心は、上述した本発明例1〜14および比較例1〜4の冶金用粉末を用いて作製した。
具体的には、油圧式成形プレスを用い、ヒータ加熱にて下記の表2に記載の温度に金型を制御した。この金型に下記の表2に示す冶金用粉末を充填し、成形体の密度が7.5g/cm3になるように面圧を設定し、成形を行なった。このとき、面圧は700MPa〜1200MPaであった。なお、55mmおよび10mmの矩形の形状の金型を用い、10mmと4mmの2種類の厚みを有する成形体を得た(ステップS40)。
次に、成形体をBOX型の熱処理炉に投入した。そして、350℃で120分間保持し、その後420℃まで昇温して、60分間保持した。熱処理の雰囲気は大気であった。これにより、成形体を熱処理した(ステップS50)。
以上のステップS40、S50により、本発明例15〜38および比較例5〜10の圧粉磁心を製造した。
(評価方法)
本発明例15〜38および比較例5〜10の圧粉磁心について、以下の方法で、成形性、強度および電気抵抗値を測定した。これらの結果を下記の表2に示す。
成形性については、加圧成形するステップS40において、10mmの厚さを有する成形体を金型から抜き出す際の荷重を抜き圧(抜き出し圧力)として、島津製作所製の万能試験機を用いて測定した。この際の金型は外径11.3mmの円柱用を用いた。
強度については、10mmの厚さを有する圧粉磁心を用いて、万能材料試験機オートグラフ(島津製作所社製の商品名「オートグラフ])により、三点曲げ抗折強度試験を行った。測定は室温で行ない、スパンは40mmとした。
電気抵抗値については、4mmの厚さを有する圧粉磁心を用いて、室温にて4端子法を用いて電気抵抗値を測定した。
(測定結果)
表1および表2に示すように、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が、1以上2.25以下である本発明例1〜14の冶金用粉末を用いて、潤滑剤12の融点以上の温度で加圧成形した本発明例15〜38の圧粉磁心は、金型と成形体との焼き付きがなく、成形性が良好であった。また、結着剤22として、熱処理により変成しないシルセスキオキサンを用いても、熱処理により変成するチタンラクテートを用いても、成形性および強度の向上の効果を同様に有することがわかった。さらに、本発明例15〜38の圧粉磁心は、圧粉磁心として用いることができる程度に電気抵抗値が高かった。
特に、本発明例3と本発明例10との冶金用粉末を用いて製造した本発明例17、22〜26および比較例7と、本発明例29、34〜38および比較例10とをそれぞれ比較して、潤滑剤12の融点よりも5℃高い温度以上、潤滑剤12の融点よりも20℃高い温度以下の温度範囲で加圧成形した本発明例7、22〜26、および、29、35〜37の圧粉磁心は、抜き圧が18MPa以下と非常に低く、かつ電気抵抗値が1×102(μΩm)以上と圧粉磁心として好適に用いられる値であった。この理由は以下の通りである。潤滑剤12の融点よりも5℃高い温度以上で加圧成形することによって、潤滑剤12が金型壁面まで容易に染み出したため、抜き圧を低減することができた。また潤滑剤12の融点よりも20℃高い温度以下とすることによって、潤滑剤12の粘度が低くなりすぎず、金型壁面と成形体との間の潤滑性能を効果的に発現できたため、抜き圧を低減することができた。さらに、潤滑剤12の粘度が低くなりすぎなかったため、潤滑剤12の一部は成形体の内部に残存して、第1および第2の絶縁被膜13、23を保護できたので、高い電気的抗を維持できた。
さらに、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が2.0である本発明例17、19〜21と、本発明例29、31〜33とをそれぞれ比較して、第1の鉄基粒子11の平均粒径が第2鉄基粒子21の平均粒径より大きかった冶金用粉末を用いて製造された本発明例17、20および21は本発明例18よりも抗折強度が高く、本発明例29、32および33は本発明例31よりも抗折強度が高かった。
一方、第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が1.0未満である比較例1および3の冶金用粉末を用いて製造した比較例5および8の圧粉磁心は、結着剤22を含む第2の粉末20の配合量が少なかったため、抗折強度が62MPa以下と非常に低かった。
また第1の粉末10に対する第2の粉末20の質量比が2.25を超える比較例2および4の冶金用粉末を用いて製造した比較例6および9の圧粉磁心は、潤滑剤12を含む第1の粉末10の配合量が少なかったため、金型壁面と成形体とが焼き付きを起こし、成形性が悪かった。このため、抗折強度および電気抵抗値を測定できなかった。
また、本発明例3および10の冶金用粉末を用いて、潤滑剤12の融点以下の温度で加圧成形した比較例7および10は、潤滑剤12が金型壁面まで染み出すことができなかったので、金型壁面と成形体とが焼き付きを起こした。
以上より、本実施例によれば、第1の粉末と第2の粉末との混合比が1以上2.25以下である冶金用粉末を用いて、潤滑剤の融点以上の温度で加圧成形することにより、強度を向上し、かつ成形性を向上できることが確認できた。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 第1の粉末、11 第1の鉄基粒子、12 潤滑剤、13 第1の絶縁被膜、20 第2の粉末、21 第2の鉄基粒子、22 結着剤、23 第2の絶縁被膜、23a 第1の層、23b 第2の層、50 絶縁物、F 高強度発現骨格、R 経路。