JP5362991B2 - リン酸塩を含む歯科用充填剤および組成物 - Google Patents

リン酸塩を含む歯科用充填剤および組成物 Download PDF

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Description

歯組織の脱石灰化があると、齲歯、象牙質、セメント質および/またはエナメル質の齲蝕、たとえば歯科用修復材を用いた処置を典型的に必要とする状態になるということはよく知られている。そのような状態は、通常は、歯科用修復材を用いて充分に処置することが可能であるが、修復された歯組織は多くの場合、その修復をした箇所の周囲でさらなる齲蝕を受けやすい。
イオン(たとえば、カルシウム、および好ましくはカルシウムとリン)を口腔環境の中に放出させると、歯組織の自然な再石灰化能力が向上することは知られている。再石灰化の向上は、従来からの歯科用修復材法に対する有用な補助手段または代替え手段となり得ると考えられる。しかしながら、カルシウムおよびリンを口腔環境の中に放出する公知の組成物(たとえば、リン酸カルシウム含有組成物)は、たとえば徐放性能なども含めて、望ましい性質に欠けることが多い。
したがって、イオン(たとえば、リンおよび他のイオン)を口腔環境の中に放出することが可能な新規な組成物が求められている。
発明の要旨
一つの態様においては、本発明は、処理された表面を含む歯科用充填剤、ならびにそのような処理された表面を含む歯科用充填剤の製造方法を提供する。その処理された表面には次式:
Figure 0005362991
[式中、x=2〜4であり;それぞれのRは独立してHまたはP(O)(O-2(M+n2/nであり、ただし、少なくとも1個のR基が、P(O)(O-2(M+2n2/nであり、そして少なくとも1個のR基がHであり;そして、Mは原子価nの金属である]で表されるリン酸塩が含まれる。そのような歯科用充填剤を含む歯科用組成物、およびそのような歯科用組成物の使用方法もまた提供される。
また別な態様においては、本発明は、硬化性樹脂および/または水中分散可能なポリマー膜形成材;ならびに次式:
Figure 0005362991
[式中、x=2〜4であり;それぞれのRは独立してHまたはP(O)(O-2(M+n2/nであり、ただし、少なくとも1個のR基が、P(O)(O-2(M+2n2/nであり、そして少なくとも1個のR基がHであり;そして、Mは原子価nの金属である]のリン酸塩を含む、歯科用組成物を提供する。そのような歯科用組成物の使用方法もまた提供される。
本明細書において開示されるような歯科用充填剤および組成物は、好ましくは、歯組織の再石灰化を促進させ、それによって、潜在的な利点を与えることが可能であり、そのようなこととしては、たとえば、エナメル質および/または象牙質の病変部を再石灰化させる能力;知覚過敏(sensitivity)の原因となる、露出された象牙質および/またはセメント質の細管を埋める能力;摩耗および/または腐蝕されたエナメル質表面を修復する能力;界面における微少漏洩領域を再シールする能力;酸の攻撃に対して接触された歯構造および近傍の歯構造の抵抗性を増大させる能力が挙げられる。
定義
本明細書で使用するとき、「接着剤」または「歯科用接着剤」という用語は、「歯科材料」(たとえば、「修復材」、歯科矯正装置(たとえば、ブラケット)、または「歯科矯正用接着剤」)を歯構造に接着させるために、歯構造(たとえば、歯)の上に前処理として使用する組成物を指す。「歯科矯正用接着剤」という用語は、歯科矯正装置を歯構造(たとえば、歯)の表面に接着させるのに使用される、高度に(一般に40重量%以上)充填される組成物を指す(「歯科用接着剤」というよりは、「修復材料」に近い)。一般に、歯構造の表面は、たとえば、エッチング、プライマー処理、および/または接着剤を塗布することによって前処理して、「歯科矯正用接着剤」の歯構造の表面への接着性を向上させる。
本明細書で使用するとき、「非水性」組成物(たとえば、接着剤)という用語は、成分としてその中に水が添加されていない組成物を指す。しかしながら、組成物の他の成分中に偶発的な水分が存在している可能性もあるが、水の総量は、その非水性組成物の安定性(たとえば、貯蔵寿命)に悪影響を与えることはない。非水性組成物は、その非水性組成物の全重量を基準にして、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の水しか含まない。
本明細書で使用するとき、「自己エッチング性(self-etching)」組成物という用語は、歯構造表面をエッチング剤を用いて予め処理しなくても、その歯構造表面に接合する組成物をさす。好ましくは、自己エッチング性組成物は、独立したエッチング剤またはプライマーを使用しない場合には、自己プライマーとして機能することも可能である。
本明細書で使用するとき、「自己接着性」組成物という用語は、プライマーまたは接合剤を用いて歯構造表面を予め処理しなくても、その歯構造表面に接合することが可能な組成物を指す。好ましくは、自己接着性組成物は、独立したエッチング剤を使用しなくても、自己エッチング性組成物でもある。
本明細書で使用するとき、組成物を「固化(hardening)」または「硬化(curing)」させるという用語は、同義的に使用され、重合反応および/または架橋反応、たとえば、固化または硬化をすることが可能な一種または複数の化合物を含む光重合反応および化学重合技術(たとえば、エチレン性不飽和化合物を重合させるのに有効なラジカルを形成させるイオン反応または化学反応)などを指す。
本明細書で使用するとき、「歯構造表面」という用語は、歯構造(たとえば、エナメル質、象牙質、およびセメント質)および骨を指す。
本明細書で使用するとき、「歯科材料」という用語は、歯構造表面に接合させることが可能な材料を指し、それにはたとえば、歯科用修復材、歯科矯正装置、および/または歯科矯正用接着剤などが含まれる。
本明細書で使用するとき、「(メタ)アクリル」というのは、「アクリル」および/または「メタクリル」の略称である。たとえば、「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(すなわち、CH2=CHC(O)O−)および/またはメタクリルオキシ基(すなわち、CH2=C(CH3)C(O)O−)の両方を指す、略称である。
本明細書で使用するとき、「非晶質」物質は、識別できるようなX線粉末回折パターンを生じない物質である。「少なくとも部分的に結晶質の」物質は、識別できるようなX線粉末回折パターンを生じる物質である。
本明細書で使用するとき、周期律表の「族」とは、無機化学IUPAC命名法(1990年、推奨)(IUPAC Nomenclature of Inorganic Chemistry, Recommendations 1990)に定義される、第1〜18族を指し、それらを含む。
本明細書で使用するとき、単数形(「a」および「an」)は、特に断らない限り、「少なくとも一つ」または「一つまたは複数」を意味する。
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明は、リン酸塩を含む歯科用充填剤および/または組成物を提供する。いくつかの実施態様においては、リン酸塩を含む処理された表面を含む歯科用充填剤が提供される。いくつかの実施態様においては、そのような歯科用充填剤を含む歯科用組成物が提供される。いくつかの実施態様においては、リン酸塩ならびに硬化性樹脂および/または水中分散可能なポリマー膜形成材を含む歯科用組成物が提供される。そのような歯科用充填剤および/または組成物の製造方法および使用方法もまた提供される。
リン酸塩
本発明において有用なリン酸塩は、次式:
Figure 0005362991
[式中、x=2〜4であり;それぞれのRは独立してHまたはP(O)(O-2(M+n2/nであり、ただし、少なくとも1個のR基が、P(O)(O-2(M+2n2/nであり、そして少なくとも1個のR基がHであり;そして、Mは原子価nの金属である]で表すことができる。好ましくは、x=3である。いくつかの実施態様においては、Mは、第2族の金属、第3族の金属、遷移金属、ランタニド、またはそれらの組合せである。いくつかの実施態様においては、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Ag、Zr、Sn、またはそれらの組合せである。いくつかの好ましい実施態様においては、MはCaである。
本明細書に記載されるリン酸塩の例としては、たとえば、グリセロリン酸カルシウム、グリセロリン酸亜鉛、グリセロリン酸マグネシウム、グリセロリン酸ストロンチウム、グリセロリン酸スズ、グリセロリン酸ジルコニウム、およびグリセロリン酸銀などが挙げられる。好ましいリン酸塩としては、グリセロリン酸カルシウムが挙げられる。
歯科用充填剤の表面処理
歯科用充填剤は、たとえば米国特許第5,332,429号明細書(ミトラ(Mitra)ら)の中に記載されているのと同様の方法により表面処理されるのが好ましい。簡単に言えば、本明細書に記載の歯科用充填剤は、その充填剤を、本明細書に記載されるようなリン酸塩をその中に溶解、分散または懸濁させた液体と組み合わせることにより、表面処理することができる。必要に応じて、その液体または追加の液体に、追加の表面処理剤(たとえば、フッ化物イオン前駆体、シラン、チタネートなど)が含まれていてもよい。必要に応じて、その液体には水が含まれ、そして、水性液体を使用する場合には、それが酸性であっても塩基性であってもよい。処理した後では、その液体の少なくとも一部を、各種都合のよい技術(たとえば、噴霧乾燥、オーブン乾燥、ギャップ乾燥、凍結乾燥、およびそれらの組合せ)を用いて、その表面処理された歯科用充填剤から除去することができる。ギャップ乾燥の記述に関しては、たとえば米国特許第5,980,697号明細書(コルブ(Kolb)ら)を参照されたい。一つの実施態様においては、処理された充填剤を、典型的には乾燥温度約30℃〜約100℃で、たとえば一夜かけて、オーブン乾燥させることができる。その表面処理された充填剤は、所望により、さらに加熱することも可能である。次いで、その処理され、乾燥された歯科用充填剤を篩にかけるか、または軽く粉砕して凝集体(agglomerate)を破壊することもできる。そのようにして得られた表面処理された歯科用充填剤は、例えば、歯科用ペーストの中に組み込むことができる。
表面処理するのに好適な歯科用充填剤は、歯科的用途に使用される組成物の中に組み込むのに適した、広い範囲の各種の材料の一種または複数から選択することができ、たとえばそのような充填剤は、現在歯科用修復材組成物などに使用されているようなものである。歯科用充填剤には、多孔質粒子および/または粒子の多孔質凝集体が含まれているのが好ましい。好適な歯科用充填剤としては、ナノ粒子および/またはナノ粒子の凝集体が挙げられる。好適なタイプの充填剤としては、金属酸化物、金属フッ化物、金属オキシフッ化物(oxyfluoride)、およびそれらの組合せが挙げられるが、ここでその金属は重金属であっても、非重金属であってもよい。
好ましい実施態様においては、その歯科用充填剤は、第2〜5族元素、第12〜15族元素、ランタニド元素、およびそれらの組合せからなる群より選択される元素の酸化物、フッ化物、またはオキシフッ化物である。より好ましくは、その元素は、以下のものからなる群より選択される:Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Zn、B、Al、Si、Sn、P、およびそれらの組合せ。歯科用充填剤が、ガラス、非晶質物質、または結晶質物質であってもよい。必要に応じて、歯科用充填剤は、フッ化物イオン源を含んでいてもよい。そのような歯科用充填剤には、たとえば、フルオロアルミノシリケートガラスが挙げられる。
充填剤は微細に粉砕されているのが好ましい。充填剤の粒径分布は、単峰形(unimodial)であってもあるいは多峰形(polymodial)(たとえば、二峰形(bimodal))であってもよい。充填剤の最大粒径(粒子の最大寸法、典型的には直径)は、好ましくは20マイクロメートル未満、より好ましくは10マイクロメートル未満、最も好ましくは5マイクロメートル未満である。充填剤の平均粒径は、好ましくは2マイクロメートル未満、より好ましくは0.1マイクロメートル未満、最も好ましくは0.075マイクロメートル未満である。
充填剤は無機物質であってもよい。それは、樹脂系に溶解しない架橋有機物質であってもよく、また必要に応じて、無機充填剤を用いて充填されていてもよい。充填剤は、いかなる場合においても毒性が無く、口の中で使用するのに適したものでなければならない。その充填剤は放射線不透過性であっても、あるいは放射線透過性であってもよい。充填剤は、典型的には、実質的に水に溶解しない。
好適な無機充填剤の例としては、天然に存在する物質または合成の物質であり、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:石英;窒化物(たとえば、窒化ケイ素);たとえば、Zr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、ZnおよびAlから誘導されるガラス;長石;ホウケイ酸ガラス;カオリン;タルク;チタニア;低モース硬度の充填剤でたとえば米国特許第4,695,251号明細書(ランドクレフ(Randklev))に記載されているようなもの;およびサブミクロンサイズのシリカ粒子(たとえば、発熱性シリカ、たとえばオハイオ州アクロン(Akron,OH)のデグッサ・コーポレーション(Degussa Corp.)からの商品名アエロジル(AEROSIL)、たとえば「OX50」、「130」、「150」および「200」シリカ、ならびに、イリノイ州タスコーラ(Tuscola,IL))のキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.)からのキャブ・オ・シル(CAB−O−SIL)M5シリカなど)。好適な有機充填剤粒子の例としては、充填または非充填の微粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシドなどが挙げられる。
酸非反応性の充填剤粒子としては、石英、サブミクロンシリカ、および米国特許第4,503,169号明細書(ランドクレフ(Randklev))に記載されているような型の、非ガラス質のミクロ粒子が適している。これらの酸非反応性の充填剤の混合物もまた考慮に入るし、さらには有機材料および無機材料から製造した組合せ充填剤もまた考えられる。ある種の実施態様においては、シラン処理したジルコニア−シリカ(Zr−Si)充填剤が特に好ましい。
充填剤は酸反応性充填剤であってもよい。好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、ガラス、および金属塩を挙げることができる。典型的な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛が挙げられる。典型的なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラスおよびフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスが特に好ましい。FASガラスは典型的には、溶出可能なカチオンを充分に含んでおり、それにより、そのガラスを硬化性の組成物の成分と混合したときに、硬化された歯科用組成物が形成されるようにする。このガラスはまた、典型的には、溶出可能なフッ化物イオンを充分に含んでおり、それにより、その硬化させた組成物が抗齲蝕性を有するようにする。そのガラスは、フッ化物、アルミナ、およびその他のガラス形成成分を含む溶融物から、FASガラス製造の分野の当業者に知られた技術を用いて、製造することができる。FASガラスは典型的には、充分に細かく粉砕された粒子の形態であり、それにより、他のセメント成分とうまく混合することができ、得られた混合物を口腔内で使用したときに性能を充分に発揮できるようにする。
一般的には、FASガラスの平均粒径(典型的には、直径)は、たとえば沈降分析器を用いて測定して、約12マイクロメートル以下、典型的には10マイクロメートル以下、より典型的には5マイクロメートル以下である。好適なFASガラスは、当業者には知られており、広い範囲の供給業者から入手することができる。ガラスイオノマーセメントとして現在入手可能なものが多く、たとえば、商品名ビトレマー(VITREMER)、ビトレボンド(VITREBOND)、リライ・X・ルーティング・セメント(RELY X LUTING CEMENT)、リライ・X・ルーティング・プラス・セメント(RELY X LUTING PLUS CEMENT)、フォタック−フィル・クイック(PHOTAC−FIL QUICK)、ケタック−モラー(KETAC−MOLAR)、およびケタック−フィル・プラス(KETAC−FIL PLUS)(ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN)の3M・ESPE・デンタル・プロダクツ(3M ESPE Dental Products))、フジ・II・LC(FUJI II LC)およびフジIX(FUJI IX)(日本国東京の、G−C・デンタル・インダストリアル・コーポレーション(G−C Dental Industrial Corp.))、およびケムフィル・スペリオル(CHEMFIL Superior)(ペンシルバニア州ヨーク(York,PA)のデンツプライ・インターナショナル(Dentsply International))などが商品として入手できる。所望により、充填剤の混合物を使用することもできる。
その他の好適な充填剤は、たとえば以下の特許に開示されている:米国特許第6,306,926号明細書(ブレッチャー(Bretscher)ら)、同第6,387,981号明細書(チャン(Zhang)ら)、同第6,572,693号明細書(ウー(Wu)ら)、および同第6,730,156号明細書(ウィンディッシュ(Windisch)ら)、ならびに国際公開第01/30307号パンフレット(チャン(Zhang)ら)および国際公開第03/063804号パンフレット(ウー(Wu)ら)。それらの引用文献に記載されている充填剤成分には、ナノサイズのシリカ粒子、ナノサイズの金属酸化物粒子、およびそれらの組合せが含まれている。ナノ充填剤はまた、米国特許出願第10/847,781号明細書;米国特許出願第10/847,782号明細書;および米国特許出願第10/847,803号明細書にも記載されているが、この3件はすべて2004年5月17日に出願されたものである。
その表面処理された歯科用充填剤には、歯科用充填剤の全乾燥重量を基準にして(すなわち、処理に用いた液状物を除外して)、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.05重量%、最も好ましくは少なくとも0.1重量%のリン酸塩が含まれる。その表面処理された歯科用充填剤には、歯科用充填剤の全乾燥重量を基準にして(すなわち、処理に用いた液状物を除外して)、好ましくは最大で50重量%、より好ましくは最大で30重量%、最も好ましくは最大で20重量%のリン酸塩が含まれる。
表面処理された歯科用充填剤(たとえば、歯科用接着剤組成物)を含む本発明のいくつかの実施態様では、その組成物には、組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも2重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%の表面処理された歯科用充填剤が含まれる。そのような実施態様では、本発明の組成物は、組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で40重量%、より好ましくは最大で20重量%、最も好ましくは最大で15重量%の表面処理された歯科用充填剤を含む。
(たとえば、その組成物が歯科用修復材または歯科矯正用接着剤であるような)その他の実施態様においては、本発明の組成物は、組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは少なくとも45重量%、最も好ましくは少なくとも50重量%の表面処理された歯科用充填剤を含む。そのような実施態様では、本発明の組成物は、組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で90重量%、より好ましくは最大で80重量%、さらにより好ましくは最大で70重量%、最も好ましくは最大で50重量%の表面処理された歯科用充填剤を含む。
場合によっては、その歯科用充填剤の処理された表面には、シラン(たとえば、米国特許第5,332,429号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているようなもの)、抗菌薬(たとえば、クロルヘキシジン;第四級アンモニウム塩;金属含有化合物たとえば、Ag、SnまたはZn含有化合物;およびそれらの組合せ)、および/またはフッ化物イオン源(たとえば、フッ化物塩、フッ化物含有ガラス、フッ化物含有化合物、およびそれらの組合せ)などがさらに含まれていてもよい。
リン酸塩を含む歯科用組成物
いくつかの実施態様においては、本発明は、リン酸塩ならびに硬化性樹脂および/または水中分散可能なポリマー膜形成材を含む歯科用組成物を提供する。そのような歯科用組成物は、直接的(たとえば、リン酸塩を硬化性樹脂または水中分散可能なポリマー膜形成材と組み合わせることによる)または間接的(たとえば、硬化性樹脂または水中分散可能なポリマー膜形成材の中で、リン酸塩をインサイチュで発生させることによる)、のいずれによってでも調製することができる。リン酸塩を発生させるのに好適なインサイチュ方法としては、たとえば、酸の中和および/またはカチオン交換反応が挙げられる。
硬化性樹脂中にリン酸塩を含む歯科用組成物としては、たとえば、歯科用接着剤、歯科用修復材、および歯科矯正用接着剤などが挙げられる。水中分散可能なポリマー膜形成材の中にリン酸塩を含む歯科用組成物としては、たとえば、コーティング、ワニス、シーラント、プライマー、および脱感作薬などが挙げられる。本明細書において先にも記述したいくつかの実施態様においては、リン酸塩は表面処理された充填剤の中に存在する。別な実施態様においては、リン酸塩は表面処理された充填剤の中には存在しない。
歯科用組成物が硬化性樹脂の中にリン酸塩を含み、表面処理された充填剤の中にはリン酸塩が存在しない実施態様においては、その歯科用組成物は、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%、最も好ましくは少なくとも1重量%のリン酸塩を含む。そのような実施態様においては、その歯科用組成物は、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で70重量%、より好ましくは最大で50重量%、最も好ましくは最大で25重量%のリン酸塩を含む。
歯科用組成物が水中分散可能なポリマー膜形成材の中にリン酸塩を含み、表面処理された充填剤の中にはリン酸塩が存在しない実施態様においては、その歯科用組成物は、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%、最も好ましくは少なくとも1重量%のリン酸塩を含む。そのような実施態様においては、その歯科用組成物は、歯科用組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で70重量%、より好ましくは最大で50重量%、最も好ましくは最大で25重量%のリン酸塩を含む。
本発明の歯科用組成物には、以下に記載するような任意の添加剤がさらに含まれていてもよい。
本明細書に記述するように、歯科用組成物は、歯科用プライマー、歯科用接着剤、窩洞裏装材(cavity linear)、窩洞清浄化剤(cavity cleansing agent)、セメント、コーティング、ワニス、歯科矯正用接着剤、修復材(restorative)、シーラント、脱感作薬、およびそれらの組合せとして有用であり得る。
硬化性樹脂を含む歯科用組成物
本発明の歯科用組成物は、硬表面、好ましくは、象牙質、エナメル質、および骨のような硬組織を処理するのに有用である。そのような歯科用組成物は、水性であっても、非水性であってもよい。いくつかの実施態様においては、歯科材料に適用する前に、組成物を固化させることができる(たとえば、従来からの光重合および/または化学重合の技術によって重合させる)。別な実施態様においては、歯科材料に適用した後に、組成物を固化させることができる(たとえば、従来からの光重合および/または化学重合の技術によって重合させる)。
本発明の方法において歯科材料および歯科用接着剤組成物として使用可能な、好適な光重合性組成物としては、(カチオン活性な(cationically active )エポキシ基を含む)エポキシ樹脂、(カチオン活性なビニルエーテル基を含む)ビニルエーテル樹脂、(フリーラジカル活性な(free radically active)不飽和基、たとえば、アクリレートおよびメタクリレートを含む)エチレン性不飽和(ethylenically unsaturated)化合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。単一の化合物の中にカチオン活性な官能基とフリーラジカル活性な官能基との両方を含む重合性物質もまた適している。その例としては、エポキシ官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物
本明細書で使用するとき、「酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物」という用語は、エチレン性不飽和ならびに、酸および/または酸前駆体官能基を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーを意味することが意図される。酸前駆体官能基には、たとえば、酸無水物、酸塩化物、およびピロリン酸塩などが含まれる。
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物としては、たとえばα,β−不飽和酸性化合物、たとえば、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(たとえば、HEMA)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−メタクリレートまたはクエン酸トリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸などを、硬化性樹脂系における成分として使用することができる。不飽和炭素酸のモノマー、オリゴマー、およびポリマー、たとえば(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリレート化酸(たとえば、メタクリレート化トリメリット酸)、およびそれらの無水物もまた、使用することができる。ある種の好適な本発明の組成物としては、少なくとも1個のP−OH部分を有する、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
これらの化合物の内のある種のものは、例えば、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との間の反応生成物として得られる。酸官能基とエチレン性不飽和成分の両方を有するこのタイプの化合物については、さらに、米国特許第4,872,936号明細書(エンゲルブレヘト(Engelbrecht))および米国特許第5,130,347号明細書(ミトラ(Mitra))にも記載がある。エチレン性不飽和と酸部分の両方を含む、広い範囲のそのような化合物を使用することができる。所望により、そのような化合物の混合物を使用することもできる。
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物の例をさらに挙げれば、たとえば、米国仮特許出願第60/437,106号明細書(出願日2002年12月30日)に開示されているような重合性ビスホスホン酸;AA:ITA:IEM(ペンダントメタクリレートを有するアクリル酸:イタコン酸のコポリマーで、たとえば、米国特許第5,130,347号明細書(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載されているようにして、AA:ITAコポリマーを充分な量の2−イソシアナトエチルメタクリレートと反応させて、そのコポリマーの酸基の一部をペンダントメタクリレート基に転化させて製造したもの);および、米国特許第4,259,075号明細書(ヤマウチ(Yamauchi)ら)、米国特許第4,499,251号明細書(オムラ(Omura)ら)、米国特許第4,537,940号明細書(オムラ(Omura)ら)、米国特許第4,539,382号明細書(オムラ(Omura)ら)、米国特許第5,530,038号明細書(ヤマモト(Yamamoto)ら)、米国特許第6,458,868号明細書(オカダ(Okada)ら)、および欧州特許出願公開第712,622号明細書(株式会社トクヤマ(Tokuyama Corp.)および欧州特許出願公開第1,051,961号明細書(株式会社クラレ(Kuraray Co.,Ltd.)に記載されているものがある。
本発明の組成物は、エチレン性不飽和化合物と、たとえば、米国仮特許出願第60/600,658号(出願日:2004年8月11日)に記載されているような酸官能基との組合せをさらに含んでいてもよい。
本発明の組成物は、充填物無添加(unfilled)の組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも3重量%、最も好ましくは少なくとも5重量%の、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物を含む。本発明の組成物は、充填物無添加の組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で80重量%、より好ましくは最大で70重量%、最も好ましくは最大で60重量%の、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物を含む。
酸官能基を有しないエチレン性不飽和化合物
本発明の組成物にはさらに、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物に加えて、一種または複数の重合性成分も含み、それによって固化可能な組成物を形成させることができる。それらの重合性成分は、モノマー、オリゴマー、またはポリマーのいずれであってもよい。
ある種の実施態様においては、上記組成物は光重合性であり、すなわち、その組成物に光重合性成分と光重合開始剤(すなわち、光重合開始剤系)を含み、化学線照射を行うことによって、組成物の重合(または硬化)を開始させる。そのような光重合性組成物は、遊離基によって(free radically)重合することもできる。
ある種の実施態様においては、上記組成物は化学重合性であり、すなわち、その組成物に化学重合性成分と化学重合開始剤(すなわち、重合開始剤系)を含み、化学線照射の照射に依存することなく、その組成物を重合、架橋、硬化させることができる。そのような化学重合性組成物は、「自己硬化性」組成物と呼ばれることがあり、それには、ガラスイオノマーセメント、樹脂変性ガラスイオノマーセメント、レドックス硬化系、およびそれらの組合せが含まれ得る。
本発明の組成物は、充填物無添加の組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、最も好ましくは少なくとも15重量%の、酸官能基を有しないエチレン性不飽和化合物を含む。本発明の組成物は、充填物無添加の組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で95重量%、より好ましくは最大で90重量%、最も好ましくは最大で80重量%の、酸官能基を有しないエチレン性不飽和化合物を含む。
光重合性組成物
好適な光重合性組成物には、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性な不飽和基を含む)を含む光重合性成分(たとえば、化合物)が含まれていてもよい。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、およびそれらの組合せが挙げられる。
光重合性組成物としては、フリーラジカル活性な官能基を有する化合物を挙げることができ、それには、1個または複数のエチレン性不飽和基を有する、モノマー、オリゴマー、およびポリマーが含まれ得る。好適な化合物は、少なくとも一つのエチレン性不飽和結合を含み、付加重合することができる。そのようなフリーラジカル重合性化合物としては以下のようなものが挙げられる:モノ−(メタ)アクリレート、ジ−(メタ)アクリレートまたはポリ−(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレートおよびメタクリレート)たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、およびトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミドおよびメタクリルアミド)たとえば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド、およびジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(好ましくは、分子量200〜500)のビス−(メタ)アクリレート、米国特許第4,652,274号明細書(ベッチャー(Boettcher)ら)に記載されているようなアクリレート化モノマーの共重合性混合物、米国特許第4,642,126号明細書(ゼーダー(Zador)ら)に記載されているようなアクリレート化オリゴマー、および米国特許第4,648,843号明細書(ミトラ(Mitra))に記載されているようなポリ(エチレン性不飽和)カルバモイルイソシアヌレート;ならびにビニル化合物たとえば、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート、およびジビニルフタレート。その他の好適なフリーラジカル重合性化合物としては、たとえば国際公開第00/38619号パンフレット(グッゲンベルガー(Guggenberger)ら)、国際公開第01/92271号パンフレット(バインマン(Weinmann)ら)、国際公開第01/07444号パンフレット(グッゲンベルガー(Guggenberger)ら)、国際公開第00/42092号パンフレット(グッゲンベルガー(Guggenberger)ら)などに開示されている、シロキサン官能性(メタ)アクリレート、ならびに、たとえば米国特許第5,076,844号明細書(フォック(Fock)ら)、米国特許第4,356,296号明細書(グリフィス(Griffith)ら)、欧州特許第0373 384号明細書(ワーゲンクネヒト(Wagenknecht)ら)、欧州特許第0201 031号明細書(ライナース(Reiners)ら)、および欧州特許第0201 778号明細書(ライナース(Reiners)ら)などに開示されている、フルオロポリマー官能性(メタ)アクリレートなどが挙げられる。所望により、フリーラジカル重合が可能な2種以上の化合物を使用することもできる。
重合性成分には、単一の分子の中に、ヒドロキシル基とフリーラジカル的に活性な官能基とを含んでいてもよい。そのような物質の例としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、たとえば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、およびトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、またはペンタ−(メタ)アクリレート;および2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)などが挙げられる。好適なエチレン性不飽和化合物はさらに、広い範囲の商業的入手源、たとえばセントルイス(St.Louis)のシグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)からも入手することができる。所望により、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用することもできる。
ある種の実施態様においては、光重合性成分としては、PEGDMA(ポリエチレングリコールジメタクリレート、分子量約400)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号明細書(ホルメス(Holmes))に記載されているようなビスEMA6、およびNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)などを挙げることができる。所望により、重合性成分を各種組み合わせて使用することができる。
フリーラジカル的に光重合性組成物を重合させるための、好適な光重合開始剤(すなわち、一種または複数の化合物を含む光重合開始剤系)としては、2成分系および3成分系が挙げられる。典型的な3成分系光重合開始剤には、米国特許第5,545,676号明細書(パラゾット(Palazzotto)ら)に記載されているような、ヨードニウム塩、光増感剤、および電子供与性化合物が含まれる。好適なヨードニウム塩は、ジアリールヨードニウム塩、たとえば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、およびトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートである。好適な光増感剤は、400nm〜520nm(好ましくは、450nm〜500nm)の範囲内で光を吸収する、モノケトンおよびジケトンである。より好ましい化合物は、400nm〜520nm(さらにより好ましくは、450〜500nm)の範囲で光を吸収する、アルファジケトンである。好適な化合物は、ショウノウキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン、およびその他の1−アリール−2−アルキル−1,2−エタンジオン、および環状アルファジケトンである。最も好ましいのは、ショウノウキノンである。好適な電子供与性化合物としては、置換アミン、たとえば、ジメチルアミノ安息香酸エチルが挙げられる。カチオン重合性樹脂を光重合させるのに有用なその他の好適な第三級光重合開始剤系が、たとえば、米国特許出願公開第2003/0166737号明細書(デデ(Dede)ら)に記載されている。
フリーラジカル的光重合性組成物を重合させるための、その他好適な光重合開始剤としては、典型的には380nm〜1200nmに官能波長を有するホスフィンオキシドのタイプが挙げられる。380nm〜450nmに官能性波長領域を有する、好適なホスフィンオキシドフリーラジカル重合開始剤は、アシルおよびビスアシルホスフィンオキシドであって、それらは、たとえば米国特許第4,298,738号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、米国特許第4,324,744号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、米国特許第4,385,109号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、米国特許第4,710,523号明細書(レヒトケン(Lechtken)ら)、および米国特許第4,737,593号明細書(エルリッヒ(Ellrich)ら)、米国特許第6,251,963号明細書(コーラー(Kohler)ら);ならびに欧州特許出願公開第0 173 567A2号明細書(イン(Ying))などに記載されている。
380nm〜450nmよりも高い波長範囲の照射を受けて、フリーラジカル重合開始をさせることが可能なホスフィンオキシド光重合開始剤で、市販されているものとしては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)819、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown,NY)のチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI403、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で25:75の混合物(イルガキュア(IRGACURE)1700、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で1:1の混合物(ダロキュア(DAROCUR)4265、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、および、2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィン酸エチル(ルシリン(LUCIRIN)LR8893X、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte,NC)のBASF・コーポレーション(BASF Corp.))などが挙げられる。
典型的には、ホスフィンオキシド重合開始剤は光重合性組成物中に、触媒量として有効な量、たとえば、組成物の全重量を基準にして0.1重量パーセント〜5.0重量パーセントの量で存在させる。
アシルホスフィンオキシドと組み合わせて、第三級アミン還元剤を使用することも可能である。本発明において有用な第三級アミンの例としては、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、およびメタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチルなどが挙げられる。アミン還元剤を存在させる場合には、その量は、光重合性組成物の中に、組成物の全重量を基準にして0.1重量パーセント〜5.0重量パーセントの量である。その他の重合開始剤の有用な使用量は、当業者には周知である。
化学重合性組成物
化学重合性組成物としては、重合性成分(たとえば、エチレン性不飽和重合性成分)および、酸化剤と還元剤とを含むレドックス反応剤を含む、レドックス硬化系を挙げることができる。本発明において有用な、好適な重合性成分、レドックス剤、任意成分の酸官能性成分および任意成分の充填剤は、米国特許出願公開第2003/0166740号明細書(ミトラ(Mitra)ら)および米国特許出願公開第2003/0195273号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されている。
これらの還元剤および酸化剤は、互いに反応するか、そうでなければ相互に作用して、樹脂系(たとえば、エチレン性不飽和成分)の重合を開始させることが可能なフリーラジカルを発生するものでなければならない。このタイプの硬化反応は、暗反応であって、すなわち、光の存在には依存せず、光が無い状態でも進行する。この還元剤および酸化剤は、充分な貯蔵安定性を有していて、望ましくない着色が無く、典型的な歯科条件下で貯蔵・使用が可能であるのが好ましい。それらは、樹脂系との間に充分な混和性を有し(かつ、好ましくは水溶性であって)、重合性組成物の他の成分の中に容易に溶解するような(そして、それから分離しない)ものであるべきである。
有用な還元剤の例を挙げれば、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、および米国特許第5,501,727号明細書(ワン(Wang)ら)に記載がある金属錯体化アスコルビン酸化合物;アミン、特に第三級アミン、たとえば4−tert−ブチルジメチルアニリン;芳香族スルフィン酸塩、たとえばp−トルエンスルフィン酸塩およびベンゼンスルフィン酸塩;チオ尿素、たとえば1−エチル−2−チオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1,1−ジブチルチオ尿素、および1,3−ジブチルチオ尿素;ならびにそれらの混合物などがある。その他の二次的な還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存)、亜ジチオン酸または亜硫酸アニオンの塩、およびそれらの混合物などが挙げられる。還元剤がアミンであるのが好ましい。
好適な酸化剤もまた当業者には馴染みのあるもので、過硫酸およびそれらの塩、たとえば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、およびアルキルアンモニウムの塩などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。さらなる酸化剤を挙げれば、ペルオキシドたとえばベンゾイルペルオキシド、ヒドロペルオキシドたとえばクミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドおよびアミルヒドロペルオキシド、さらには遷移金属の塩、たとえば塩化コバルト(III)および塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)、過ホウ酸およびそれらの塩、過マンガン酸およびそれらの塩、過リン酸およびそれらの塩、ならびにそれらの混合物などがある。
2種以上の酸化剤または2種以上の還元剤を使用するのが望ましい。少量の遷移金属化合物を添加して、レドックス硬化速度を加速させてやることも可能である。いくつかの実施態様においては、米国特許出願公開第2003/0195273(ミトラ(Mitra)ら)に記載があるように、重合性組成物の安定性を向上させる目的で、第二級イオン性塩を含むのが好ましい。
還元剤および酸化剤は、充分なフリーラジカル反応速度を与えるような量で存在させる。このことは、任意成分の充填剤を除いて、重合性組成物の成分を全部組み合わせて、硬化物が得られるかどうかを観察することによって、評価することができる。
還元剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%の量で存在させる。還元剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在させる。
酸化剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.10重量%の量で存在させる。酸化剤は、重合性組成物の成分の全重量(水を含む)を基準にして、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の量で存在させる。
それらの還元剤または酸化剤は、米国特許第5,154,762号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、マイクロカプセル化しておいてもよい。こうすると、一般的には重合性組成物の貯蔵安定性が向上し、必要に応じて、還元剤と酸化剤を一緒に包装することも可能となる。たとえば、カプセル化材料に適切なものを選択することによって、酸化剤と還元剤を、酸官能性成分と任意成分の充填剤と組み合わせることが可能となり、貯蔵するのに安定な状態で保存することができる。同様にして、水溶性のカプセル化材料を適切に選択することによって、還元剤と酸化剤をFASガラスおよび水と組み合わせることが可能となり、貯蔵安定性のある状態で保存することができる。
米国特許第5,154,762号明細書(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、レドックス硬化系を、他の硬化系たとえば光重合性組成物と組み合わせることも可能である。
いくつかの実施態様においては、硬化性樹脂を含む本発明の歯科用組成物を硬化させて、歯冠、充填物、ミルブランク(mill blank)、歯科矯正器具、および義歯からなる群より選択される歯科用物品を製作することができる。
水中分散可能なポリマー膜形成材
いくつかの実施態様においては、本明細書に記載される水中分散可能なポリマー膜形成材には、本明細書において以下に示すような、極性基または極性化が可能な基を含む繰り返し単位が含まれる。ある種の実施態様においては、水中分散可能なポリマー膜形成材にはさらに、本明細書において以下に示すような、フルオリド放出基を含む繰り返し単位、疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位、グラフトポリシロキサン鎖を含む繰り返し単位、疎水性フッ素含有基を含む繰り返し単位、変性基を含む繰り返し単位、またはそれらの組合せを含む。いくつかの実施態様においては、場合によっては、そのポリマーに、反応性基(たとえば、エチレン性不飽和基、エポキシ基、または縮合反応に与ることが可能なシラン残基)が含まれる。水中分散可能なポリマー膜形成材の例は、たとえば下記の特許に開示されている:米国特許第5,468,477号明細書(クマール(Kumar)ら)、米国特許第5,525,648号明細書(アアセン(Aasen)ら)、米国特許第5,607,663号明細書(ロッジ(Rozzi)ら)、米国特許第5,662,887号明細書(ロッジ(Rozzi)ら)、米国特許第5,725,882号明細書(クマール(Kumar)ら)、米国特許第5,866,630号明細書(ミトラ(Mitra)ら)、米国特許第5,876,208号明細書(ミトラ(Mitra)ら)、米国特許第5,888,491号明細書(ミトラ(Mitra)ら)、および米国特許第6,312,668号明細書(ミトラ(Mitra)ら)。
極性基または極性化が可能な基を含む繰り返し単位は、ビニル性モノマーたとえば、アクリレート、メタクリレート、クロトネート、イタコネートなどから誘導される。それらの極性基は、酸、塩基、塩のいずれであってもよい。それらの基はさらに、イオン性であっても、中性であってもよい。
極性基または極性化が可能な基の例としては、中性な基たとえば、ヒドロキシ、チオ、置換および非置換のアミド、環状エーテル(たとえば、オキサン、オキセタン、フラン、およびピラン)、塩基性基(たとえば、ホスフィンおよび第一級、第二級、第三級アミンを含めたアミン)、酸性基(たとえば、C、S、P、Bのオキシ酸、およびチオオキシ酸)、イオン性基(たとえば第四級アンモニウム、カルボキシレート塩、スルホン酸塩など)、ならびに、それらの基の前駆体および保護された形などが挙げられる。さらには、極性基または極性化が可能な基がマクロモノマーであってもよい。そのような基のさらなる具体例を以下に示す。
極性基または極性化が可能な基は、次の一般式によって表される分子を含む単官能または多官能のカルボキシル基から誘導することができる:
CH2=CR2G−(COOH)d
ここで、R2はH、メチル、エチル、シアノ、カルボキシまたはカルボキシメチルであり、dは1〜5であり、そしてGは単結合であるかまたは、原子価がd+1であり、場合によっては置換または非置換のヘテロ原子(たとえばO、S、NおよびP)で置換されるか、それらにより中断されていてもよい、1〜12個の炭素原子を含むヒドロカルビルラジカル結合基である。場合によっては、この単位が塩の形で与えられていてもよい。このタイプの好適なモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、およびN−アクリロイルグリシンである。
極性基または極性化が可能な基は、たとえば、次の一般式によって表される分子を含む単官能または多官能のヒドロキシ基から誘導することができる:
CH2=CR2−CO−L−R3−(OH)d
ここで、R2はH、メチル、エチル、シアノ、カルボキシまたはカルボキシアルキル、LはO,NHであり、dは1〜5であり、R3は、1〜12個の炭素原子を含む、原子価d+1のヒドロカルビルラジカルである。このタイプの好適なモノマーは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシメチル)エタンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、およびヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミドである。
極性基または極性化が可能な基は、それらに代えて、次の一般式の分子を含む単官能または多官能のアミノ基から誘導することができる:
CH2=CR2−CO−L−R3−(NR45d
ここで、R2、L、R3、およびdは上で定義されたものであり、R4およびR5はHもしくは1〜12個の炭素原子のアルキル基であるか、またはそれらが合体して、炭素環または複素環基を形成している。このタイプの好適なモノマーは、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、および4−メチル−1−アクリロイル−ピペラジンである。
極性基または極性化が可能な基はさらに、アルコキシ置換された(メタ)アクリレートもしくは(メタ)アクリルアミド、たとえばメトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートまたはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートから誘導してもよい。
極性基または極性化が可能な基単位は、下記の一般式の置換または非置換のアンモニウムモノマーから誘導してもよい:
Figure 0005362991
ここで、R2、R3、R4、R5、Lおよびdは上で定義されたものであり、R6はHまたは1〜12個の炭素原子のアルキルであり、Q-は有機または無機アニオンである。そのようなモノマーの好適な例としては、2−N,N,N−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、2−N,N,N−トリエチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、3−N,N,N−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレート、N(2−N’,N’,N’−トリメチルアンモニウム)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム)プロピル(メタ)アクリルアミド、またはそれらの組合せであるが、ここでその対イオンとしてはフルオリド、クロリド、ブロミド、アセテート、プロピオネート、ラウレート、パルミテート、ステアレート、またはそれらの組合せが挙げられる。さらに、そのモノマーが、有機または無機対イオンのN,N−ジメチルジアリルアンモニウム塩であってもよい。
アンモニウム基含有ポリマーは、極性基であるかまたは極性化が可能な基として、上述のアミノ基含有モノマーのいずれかを用い、有機または無機酸を用いてそうして得られたポリマーを酸性化して、ペンダントされたアミノ基を実質的にプロトン化するようなpHとすることにより、調製することもできる。全面的に置換されたアンモニウム基含有ポリマーは、アルキル化基を用いて上述のアミノポリマーをアルキル化することにより得ることができるが、その方法はメンシュトキン(Menschutkin)反応として当業者には一般的に知られている。
極性基または極性化が可能な基は、スルホン酸基含有モノマー、たとえばビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸などから誘導することも可能である。別な方法として、極性基であるかまたは極性化が可能な基を、亜リン酸またはホウ酸基含有モノマーから誘導してもよい。それらのモノマーは、モノマーとしてはプロトン化された酸の形で使用し、有機または無機塩基を用いて得られた対応ポリマーを中和して、塩の形のポリマーを得てもよい。
極性基であるかまたは極性化が可能な基の好適な繰り返し単位としては、アクリル酸、イタコン酸、N−イソプロピルアクリルアミド、またはそれらの組合せが挙げられる。
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、フルオリド放出基を含む繰り返し単位をさらに含む。好適なフルオリド放出基は、テトラフルオロボレートアニオンであって、たとえば米国特許第4,871,786号明細書(アアセン(Aasen)ら)に開示されている。フッ化物放出基の好適な繰り返し単位には、トリメチルアンモニウムメチルメタクリレートが含まれる。
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位をさらに含む。疎水性炭化水素基の一例は、160より高い重量平均分子量を有する、エチレン性不飽和予備形成(preformed)炭化水素残基から誘導される。その炭化水素残基が少なくとも160の分子量を有しているのが好ましい。その炭化水素残基は、好ましくは最大で100,000、より好ましくは最大で20,000の分子量を有している。その炭化水素残基は、本質的に芳香族であっても非芳香族であってもよく、場合によっては部分的または全面的に飽和された環を含んでいてもよい。好適な疎水性炭化水素残基は、ドデシルおよびオクタデシルアクリレートおよびメタクリレートである。その他の好適な疎水性炭化水素残基としては、重合性炭化水素、たとえばエチレン、スチレン、アルファ−メチルスチレン、ビニルトルエン、およびメチルメタクリレートから調製した、所望の分子量を有するマクロモノマーが挙げられる。
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、疎水性フッ素含有基を含む繰り返し単位をさらに含む。疎水性フッ素含有基の繰り返し単位の例としては、以下のものが挙げられる:1,1−ジヒドロペルフルオロアルカノールおよび同族体のアクリル酸もしくはメタクリル酸エステル:CF3(CF2xCH2OHおよびCF3(CF2x(CH2yOH(ここで、xは0〜20であり、yは少なくとも1から最高10までである);ω−ヒドロフルオロアルカノール(HCF2(CF2x(CH2yOH)(ここでxは0〜20であり、yは少なくとも1から最高10までである);フルオロアルキルスルホンアミドアルコール;環状フルオロアルキルアルコール;およびCF3(CF2CF2O)q(CF2O)x(CH2yOH(ここで、qは2〜20でxよりも大きく、xは0〜20であり、そしてyは少なくとも1から最高10までである)。
疎水性フッ素含有基の好ましい繰り返し単位としては、2−(メチル(ノナフルオロブチル)スルホニル)アミノ)エチルアクリレート、2−(メチル(ノナフルオロブチル)スルホニル)アミノ)エチルメタクリレート、またはそれらの組合せが挙げられる。
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、グラフトポリシロキサン鎖を含む繰り返し単位をさらに含む。そのグラフトポリシロキサン鎖は、エチレン性不飽和予備形成オルガノシロキサン鎖から誘導される。その単位の分子量は通常、500より大である。グラフトポリシロキサン鎖の好適な繰り返し単位には、シリコーンマクロマーが含まれる。
本発明のグラフトポリシロキサン鎖を得るために使用されるモノマーは、単一の官能基(ビニル、エチレン性不飽和、アクリロイル、またはメタクリロイル基)を有する末端官能性ポリマーであり、時にマクロモノマーまたは「マクロマー」と呼ばれることもある。そのようなモノマーは公知であって、たとえば米国特許第3,786,116号明細書(ミルコビッチ(Milkovich)ら)および米国特許第3,842,059号明細書(ミルコビッチ(Milkovich)ら)に開示されている方法によって、調製することができる。ポリジメチルシロキサンマクロモノマーの調製と、それに続くビニルモノマーとの共重合については、Y.ヤマシタ(Y.Yamashita)らによるいくつかの報文に記載されている[ポリマー・ジャーナル(Polymer J.)、14、913(1982);エイ・シー・エス・ポリマー・プレプリンツ(ACS Polymer Preprints)、25(1)、245(1984);マクロモレキュラー・ヘミー(Makromol.Chem.)、185、9(1984)]。
ある種の実施態様においては、本明細書において開示される水中分散可能なポリマー膜形成材は、変性基を含む繰り返し単位をさらに含む。変性基はたとえば、アクリレートまたはメタクリレートまたはその他のビニル重合性出発モノマーから誘導され、場合によっては、ガラス転移温度、キャリヤ媒体中への溶解性、親水性−疎水性バランスなどのような性質を変性させるための官能基を含む。
変性基の例としては、1〜12個の炭素の直鎖状、分岐状または環状アルコールの、低級または中級のメタクリル酸エステルが挙げられる。変性基のその他の例を挙げれば、スチレン、ビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロイルモノマーなどがある。
好適な膜形成材は、アクリレート系のコポリマーおよびウレタンポリマー、たとえばアバルア(AVALURE)シリーズの化合物(たとえば、AC−315およびUR−450)、ならびにカルボマー系のポリマー、たとえばカルボポール(CARBOPOL)シリーズのポリマー(たとえば、940NF)であるが、それらはすべて、オハイオ州クリーブランド(Cleveland,OH)のノベオン・インコーポレーテッド(Noveon Inc.)から入手可能である。
任意成分の添加剤
場合によっては、本発明の組成物には溶媒を含んでいてもよく、その溶媒としてはたとえば、アルコール(たとえば、プロパノール、エタノール)、ケトン(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(たとえば、酢酸エチル)、その他の非水溶媒(たとえば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリジノン))、および水などが挙げられる。
所望により、本発明の組成物には、指示薬、染料、顔料、禁止剤、加硫促進剤、粘度変性剤、濡れ剤、酒石酸、キレート剤、緩衝液、安定剤、およびその他当業者には自明の同様の成分などの、添加剤を含んでいてもよい。それらに加えて、場合によっては医薬品または治療用薬剤をその歯科用組成物に加えることもできる。そのような例としては、歯科用組成物において頻用されるタイプの、フルオリド源、白化剤、齲蝕予防薬(たとえば、キシリトール)、カルシウム源、リン源、再石灰化薬(たとえば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、口臭防止薬(breath freshener)、麻酔薬、凝結薬、酸中和剤、化学療法薬、免疫応答変性薬、チキソ剤、ポリオール、抗炎症薬、抗菌薬、抗真菌薬、口内乾燥症治療薬、脱感作薬などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。上記の添加剤はどのように組み合わせて使用してもよい。そのような添加剤のどれを選択して、どれだけの量で使用するかは、当業者ならば選択することが可能で、余分な実験をしなくても、目的の結果を達成することができる。
使用方法
本発明の組成物を使用する方法の例は、実施例に示す。本発明のいくつかの実施態様においては、歯構造を処置するために、本発明の歯科用組成物を歯構造に接触させることができる。いくつかの実施態様においては、本発明による歯科用組成物を口腔環境の中に置くことによって、再石灰化、知覚過敏の抑制、および/または歯構造の保護の効果を得ることができる。好ましい実施態様においては、本発明による歯科用組成物を口腔環境の中に置くことによって、口腔環境へイオン(たとえば、カルシウムイオン、リンイオン、および/またはフッ素含有イオン)を送達する。
本発明の目的と利点を以下の実施例によりさらに説明するが、これらの実施例で用いる具体的な物質やその量、さらにはその他の条件および詳細が本発明を限定する、と考えるのは不当である。特に断らない限り、すべての部とパーセントは重量基準であり、水はすべて脱イオン水であり、分子量はすべて重量平均分子量である。
試験方法
圧縮強さ(CS)試験方法
試験サンプルの圧縮強さは、ANSI/ASA規格No.27(1993)に従って測定した。サンプルを4mm(内径)ガラスチューブの中に充填し;シリコーンゴムのプラグを用いてそのチューブに栓をし;次いでそのチューブを軸方向に、約0.28MPaで5分間圧縮した。次いでそのサンプルの両側の面に配したビジルックス(VISILUX)モデル2500ブルー・ライト・ガン(スリー・エム・カンパニー(3M Co.)、ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN))に90秒間露光させて光硬化させ、次いでデンタカラー(Dentacolor)XSユニット(独国、クルツアー・インコーポレーテッド(Kulzer Inc.)の中で、180秒間照射させた。ダイヤモンドソーを用いて硬化させたサンプルを切断して、圧縮強さを測定するための、長さ8mmの円筒状プラグを作成した。そのプラグを、試験の前24時間、37℃の蒸留水中に保存しておいた。測定は、インストロン(Instron)試験機(インストロン(Instron)4505、インストロン・コーポレーション(Instron Corp.)、マサチューセッツ州カントン(Canton,MA))で、10キロニュートン(kN)ロードセルを用い、クロスヘッド速度1mm/分で実施した。硬化させたサンプルの5本の円筒を調製して測定し、その5個の測定の平均値として、結果をMPaの単位で報告した。
直径引張強さ(DTS)試験方法
試験サンプルの直径引張強さは、ANSI/ASA規格No.27(1993)に従って測定した。サンプルはCS試験方法における記載と同様にして調製したが、ただし、DTS測定のためには、硬化させたサンプルを次いで厚み2.2mmの円板に切断した。上述と同様にしてその円板を水中に保存しておき、インストロン(Instron)試験機(インストロン(Instron)4505、インストロン・コーポレーション(Instron Corp.))で、10(kN)ロードセルを用い、クロスヘッド速度1mm/分で測定した。硬化させたサンプルの5枚の円板を調製して測定し、その5個の測定の平均値として、結果をMPaの単位で報告した。
作業時間(WT)試験方法
混合したセメントを固化させるための作業時間は、以下の手順に従って測定した。器具およびペーストは、使用前に定温定湿度(22℃、50%RH)の室内に保存しておき、測定手順も同じ室内で実施した。スパチュラを用いパッドの上で、AおよびBベースを定められた量で25秒間混合し、得られた混合組成物サンプルを、8cm×10cmのプラスチックブロックの半円筒形のトラフ断面(長さ8cm、幅1cm、深さ3mm)に移し替えた。1:00分の時点では、30秒ごとにボールペン(直径1mm)の溝付け具を用いて、トラフを横切る方向で垂直な溝を作り;2:00分の時点では、15秒ごとに溝を作り;そして作業時間の終点に近づいたら、10秒ごとに溝を作った。作業時間の終点は、セメントサンプルの塊状物が溝付け具と共に移動するようになった時点とした。作業時間は、2〜3回の測定の平均値として報告した。
スペクトル的乳白度(Spectral Opacity)(SO)試験方法
ASTM−D2805−95に修正を加えて、厚み約1.0mmの歯科材料のスペクトル的乳白度を測定した。円板状の、厚み1mm×直径20mmのサンプルを、円板の両側から6mmの距離で、スリー・エム・ビジルックス(3M Visilux)−2歯科用硬化光源からの照明に60秒間露光させることにより、硬化させた。それらの円板のY−三刺激値を、3/8インチ開口部を有するウルトラスキャン・XE・カラリメーター(Ultrascan XE Colorimeter)(ハンター・アソシエーツ・ラボズ(Hunter Associates Labs)、バージニア州レストン(Reston,VA))により、白色および黒色の背景で別々に測定した。すべての測定において、D65光源をフィルターなしで使用した。視角10度を用いた。白色および黒色の基材に対するY−三刺激値はそれぞれ、85.28および5.35であった。スペクトル的乳白度は、黒色基材における物質の反射率の、白色基材における同一の物質の反射率に対する比として計算される。反射率は、Y−三刺激値に等しいと定義される。したがって、スペクトル的乳白度=RB/RWであり、ここでRB=黒色基材上での円板の反射率、RW=白色基材上での同一の円板の反射率、である。スペクトル的乳白度は無単位数である。スペクトル的乳白度が低いほど、視覚的乳白度が低く、物質の半透明度性が高いことを示す。
視覚的乳白度(visual opacity)(マクベス値(MacBeth Value))試験方法
円板形状(厚み1mm×直径15mm)のペーストサンプルを、円板の両面から6mmの距離で、ビジルックス(VISILUX)2硬化用光源(スリー・エム・カンパニー(3M Company)、ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN))からの照明に60秒間露光させることにより、硬化させた。硬化させたサンプルについて、円板の厚みを通過する光の透過率を測定することによって、直接光透過率を測定したが、それには、マクベス(MacBeth)(マクベス(MacBeth)、ニューヨーク州ニューバーグ(Newburgh,NY))から入手可能の、可視光フィルター付きのマクベス(MacBeth)透過デンシトメーターモデルTD−903を使用した。マクベス値(MacBeth Value)が低いほど、視覚的乳白度が低く、物質の半透明度性が高いことを示す。報告する値は、3個の測定の平均値である。
バーコル(Barcol)硬度試験方法
硬化させた後の硬度は、バーコル・ハードネス(Barcol Hardness)メーター(モデルGYZJ−935;バーバー・コールマン・インコーポレーテッド(Barber Coleman Inc.)、イリノイ州ラブズ・パーク(Loves Park,IL))を使用して測定したが、そのメーターは、メーターに付属の一連の較正用ディスクを用いて性能が一定に保てるようチェックした。サンプル物質を、深さ2mmのテフロン(登録商標)(Teflon)型の中の直径5mmの球状切欠の中に充填した。型の両面にはマイラー(Mylar)フィルムを使用して、型に完全に充填されるようにし、サンプルは型の表面からあふれさせた。次いでそのサンプルを60秒間光硬化させ、周囲条件に5分間置いてから、測定器の指示に従って硬度試験を行った。
象牙質に対する接着性(AD)およびエナメル質に対する接着性(AE)の試験方法
象牙質に対する接着性およびエナメル質に対する接着性は、米国特許第6,613,812号明細書(ビュイ(Bui)ら)に記載の手順に従って測定したが、ただし、光硬化の露光時間を20秒とし、またスリー・エム・Z100・レストラティブ(3M Z100 Restorative)に代えて、スリー・エム・イー・エス・ピー・イー・フィルテック(3M ESPE Filtek)Z250コンポジットを使用した。
X線回折(XRD)試験方法
試験サンプルを炭化ホウ素乳鉢中でムーリングし、エタノールスラリーとして、ゼロバックグラウンドサンプルホルダー(石英挿入アルミニウムホルダー)に塗布した。反射の幾何学的データは、フィリップス(Philips)垂直回折計、銅Kα線源、散乱放射線比例検出器レジストリーを用いた検査スキャンの形で集積した。存在している結晶相についての微結晶粒径(D)は、ピアソン(Pearson)VIIピーク形状モデルを使用し、最大値の半分のところでの全幅として機器による広がりを補正した後に観察されるピーク幅から計算したが、これはα1/α2分離に相当する。
カルシウムイオンおよびリンイオン放出(CIR)試験方法
円板状の、厚み1mm×直径20mmのサンプルを、円板の両側から6mmの距離で、スリー・エム・XL・3000(3M XL3000)歯科用硬化光源からの照明に60秒間露光させることにより、硬化させた。円板を37℃のHEPES−緩衝溶液中に保存し、その溶液を定期的に交換し、そのイオン含量をパーキン・エルマー・3300DV・オプティマ・ICP(Perkin−Elmer 3300DV Optima ICP)ユニットでの誘導結合プラズマ分光光度法(ICP)によるか、またはカルシウム選択電極により、測定した。その緩衝溶液の組成は、1000gの脱イオン水、3.38gのNaCl、および15.61gのHEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸)であった。イオン放出速度(マイクログラム(イオン)/g(円板)/日)は、溶液の全イオン含量(濃度×溶液容積)を、初期円板重量と、緩衝溶液を最後に交換してからの経過時間(日)とで割り算することにより計算した。
象牙質の再石灰化の試験方法
この方法は、「サーフェス・モジュレーション・オブ・デンタル・ハード・ティッシューズ(Surface Modulation of Dental Hard Tissues)」(D.タントビロン(D.Tantbirojn)、博士論文、ミネソタ大学(University of Minnesota)、1998)の記載に従って実施したが、以下の変更を加えた。エナメル質に代えて象牙質を使用し、その脱灰溶液は、NaFからの0.1ppmのF-、CaCl2からの1.5mMのCa+2、KH2PO4からの0.9mMのPO4 -3、50mMの酢酸を含み、1MのKOHを用いてpHを5.0に調節したが、その鉱物質含量は、マイクロラジオグラフの定量的画像解析により測定した。
象牙質における脱灰抵抗性の試験方法
この方法は、「サーフェス・モジュレーション・オブ・デンタル・ハード・ティッシューズ(Surface Modulation of Dental Hard Tissues)」(D.タントビロン(D.Tantbirojn)、博士論文、ミネソタ大学(University of Minnesota)、1998)の記載に従って実施したが、以下の変更を加えた。エナメル質に代えて象牙質を使用し、その脱灰溶液は、NaFからの0.1ppmのF-、CaCl2からの1.5mMのCa+2、KH2PO4からの0.9mMのPO4 -3、50mMの酢酸を含み、1MのKOHを用いてpHを5.0に調節したが、そのサンプルに近接する酸腐蝕の程度を、マイクロラジオグラフから定量的に分類した。
Figure 0005362991
Figure 0005362991
出発物質の調製
6−メタクリロイルオキシヘキシルホスフェート(MHP)
6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートの合成:1,6−ヘキサンジオール(1000.00g、8.46mol、シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))を、機械的撹拌器とそのフラスコに乾燥空気を吹き込むための細いチューブとを取り付けた1リットルの三口フラスコの中に入れた。固形のジオールを加熱して90℃とすると、その温度ではすべての固形物が溶融した。撹拌を続けながら、p−トルエンスルホン酸結晶(18.95g、0.11mol)に続けて、BHT(2.42g、0.011mol)およびメタクリル酸(728.49.02g、8.46mol)を添加した。撹拌を続けながら90℃で5時間加熱したが、その間、反応時間が30分経過する毎に5〜10分ずつ、水道水のアスピレーターで減圧にした。加熱を止めて、反応混合物を冷却して室温とした。得られた粘稠な液体を、10%の炭酸ナトリウム水溶液を用いて2回(2×240mL)洗浄し、次いで水を用いて(2×240mL)洗浄し、最後に飽和NaCl水溶液100mLを用いて洗浄した。得られた油状物を、無水のNa2SO4を用いて乾燥させてから、真空濾過により単離すると1067g(67.70%)の6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートが黄色油状物として得られた。この目的の反応生成物には、15〜18%の1,6−ビス(メタクリロイルオキシヘキサン)が同伴していた。化学的な同定はNMR分析により行った。
6−メタクリロイルオキシヘキシルホスフェート(MHP)の合成:機械的撹拌器を取り付けた1リットルのフラスコの中で、N2雰囲気下で、P410(178.66g、0.63mol)と塩化メチレン(500mL)を混合することにより、スラリーを形成させた。フラスコを氷浴(0〜5℃)中で15分間冷却させた。撹拌を続けながら、6−ヒドロキシヘキシルメタクリレート(962.82g(3.78molのモノ−メタクリレートと、上述のような副生物としてのそのジメタクリレートを含む)をフラスコの中に、2時間かけて徐々に添加した。添加が完了してから、その混合物を氷浴の中で1時間、次いで室温で2時間撹拌した。BHT(500mg)を加えてから、温度を上げて45分間還流(40〜41℃)させた。加熱を止めて、その混合物を放冷して室温とした。溶媒を真空下で除去すると、1085g(95.5%)の6−メタクリロイルオキシヘキシルホスフェート(MHP)が黄色の油状物として得られた。化学的な同定はNMR分析により行った。
ストロンチウムグリセロホスフェート
脱イオン水中38.1重量%SrCl2(無水)溶液(32.0g)を、脱イオン水中34重量%SGP溶液(73.6g)に添加した。完全に混合してから、その溶液をガラストレイ中90℃で8時間乾燥させると、柔らかいケーキ状の粉末が得られたので、次いでそれを乳鉢と乳棒を用いて摩砕すると、ストロンチウムグリセロホスフェートの粉末が得られた。
亜鉛グリセロホスフェート
脱イオン水中59重量%ZnCl2(無水)溶液(19.5g)を、脱イオン水中34重量%SGP溶液(80.6g)に添加した。完全に混合してから、得られた溶液の41.3gを48.1gのエタノールと混合すると、ミルク状の白色ゾルが生成し、それは4時間の内に分離して二つの液状部分となったので、その低粘度で透明な上澄みを、底部の高粘度、シロップ状のわずかに濁りのある部分から、デカントにより分離した。この底部の部分を90℃で8時間乾燥させると、亜鉛グリセロホスフェートが薄くもろいフレークとして得られた。
銀グリセロホスフェート
脱イオン水中27重量%AgNO3溶液(24.1g)を、脱イオン水中34重量%SGP溶液(56.3g)に添加し、完全に混合させた。4時間撹拌した後で、その上澄みをデカントで除き、粉末状の沈殿物を回収し、それを空気中で3日かけて乾燥させ、次いで乳鉢と乳棒で摩砕すると、銀グリセロホスフェートの粉末が得られた。
ジルコニウムグリセロホスフェート
ジルコニルアセテート(19.7g;マグネシウム・エレクトロン・インコーポレーテッド(Magnesium Elektron Inc.)、ニュージャージー州フレミントン(Flemington,NJ))を、脱イオン水中34重量%SGP溶液(66.3g)に添加し、完全に混合させた。得られた溶液を90℃で4時間乾燥させ、次いで50℃で8時間さらに乾燥させると、薄くもろいフレークが得られたので、次いでそれを乳鉢と乳棒を用いて摩砕すると、ジルコニウムグリセロホスフェートの粉末が得られた。
樹脂A、B、C、およびD
表1に示した成分を組み合わせることによって、樹脂A、B、C、およびDを調製した。
Figure 0005362991
実施例1A〜J
CGP水性組成物
CGP粉末を、2重量%および10重量%の濃度でビトレマー・レジン(Vitremer Resin)に溶解させると、透明で均質な樹脂組成物(それぞれ実施例1Aおよび1B)が生成した。いずれの組成物も、周囲条件下で8ヶ月経過後でも透明、均質で、沈殿物の存在やゲル化は起きなかった。実施例1Bの硬化させた円板を、本明細書に記載の試験方法により、粉末X線回折(XRD)にかけると、結晶相は認められず、d≒5.0Åに非晶質物質特有のブロードなピークが存在した。入手したままのCGPについての粉末XRDパターンでは、CGPが、140Åの見かけ微結晶粒径と少量(約5%)の未同定相を伴う、主たる結晶相として存在していることが判った。
CGP粉末を、4重量%および10重量%の濃度で樹脂Bに溶解させると、透明で均質な樹脂組成物(それぞれ実施例1Cおよび1D)が生成した。実施例1Dの屈折率(アッベ屈折計で測定)は1.4560であったが、それに対して樹脂Bは1.449であった。
CGP粉末を樹脂Bに濃度25重量%で溶解させると、透明で均質な樹脂組成物(実施例1E)が得られた。その組成物は、樹脂Bよりもはるかに高粘度であることが観察された。
CGP粉末を、ビトレマー・レジン(Vitremer Resin)および樹脂Cと、それぞれの濃度55重量%でコンパウンディングして、粘稠なペースト組成物(それぞれ実施例1Fおよび1G)を形成させた。実施例1Fおよび1Gのスペクトル的乳白度の値(本明細書に記載の試験方法により測定)は、それぞれ16.6および76.0であった。
樹脂B中CGP(4重量%)の樹脂(18.3g)を、ビトレマー・レジン(Vitremer Resin)中Na2FPO3(アルファ・アエサル(Alfa Aesar)、マサチューセッツ州ワード・ヒル(Ward Hill,MA))(10重量%)の樹脂(7.2g)とブレンドして、2.9%のCGPと2.8%のNa2FPO3を含む透明で均質な樹脂組成物(実施例1H)を形成させた。その組成物は、周囲条件下で6ヶ月を超えても、透明、均質で流体を保っていることが観察された。
CGP(10重量%)とNaPF6(アルファ・アエサル(Alfa Aesar))(3重量%)を樹脂Bの中でブレンドして、透明で均質な樹脂組成物(実施例1I)を形成させた。
CGP(8重量%)を、脱イオン水中Na2FPO3(12%)の溶液にブレンドして、多少大きな粒(これは沈降した)を含む白色で安定な分散体(実施例1J)を形成させた。
実施例1H〜1Jは、カルシウムおよびフッ化物を高いレベルで共溶解させることで、CGPを含む安定な水性組成物を得ることが可能であることを、示している。
実施例2〜4および比較例1〜2
CGPを含むRMGI組成物
CGPを含む液状樹脂組成物(実施例1A、1C、および1D)をビトレボンド・パウダー(Vitrebond Powder)と、粉体/液体(P/L)比1.2/1でスパチュラ混合すると、均質なRMGIペーストが得られたので、それらをそれぞれ実施例2〜4と名付けた。それらのペーストについて、本明細書に記載の試験方法に従って、圧縮強さ(CS)、直径引張強さ(DTS)、作業時間、スペクトル的乳白度(SO)、および象牙質に対する接着性(AD)およびエナメル質に対する接着性(AE)の評価を行い、それらの結果を、市販のビトレボンド・ライト・キュア・グラス・アイオノマー・ライナー/ベース(VITREBOND Light Cure Glass Ionomer Liner/Base)製品(比較例(CE)1および2)からの結果と比較した。(これらの物質のADおよびAE試験では、次の工程を追加した:歯科用接着剤(スリー・エム・イー・エス・ピー・イー・シングルボンド・プラス(3M ESPE Singlebond Plus)歯科用接着剤)を硬化させた物質の上にブラシ塗布し、次いで10秒間光硬化させてから、コンポジットを適用する工程。)それらのデータを表2に示したが、それから、CGP含有RMGI組成物の物理的性質は一般に、市販されているビトレボンド(VITREBOND)製品と同等であることが判る。
Figure 0005362991
実施例5および6
CGPを含む酸性樹脂組成物
CGPを含む樹脂組成物(実施例5および6)を、表3に示した成分を組み合わせることにより調製した。得られたペーストについて、本明細書に記載の試験方法に従って、圧縮強さ、直径引張強さ、スペクトル的乳白度、ならびに象牙質に対する接着性(AD)およびエナメル質に対する接着性(AE)を評価したが、それらの結果を表3に示す。(それらの物質のADおよびAE試験では、それらの物質の薄膜を30秒間放置してから、30秒の光硬化をさせた。)実施例5および6のいずれもが、優れた強さと歯構造に対する接着性とを示した。
Figure 0005362991
実施例7および比較例3
CGPを含む自己接着性組成物
CGP(5重量%)を、マキシキャップ(MAXICAP)カプセル(スリー・エム・カンパニー(3M Company))中のリライエックス・ユニセム・セメント(RelyX Unicem Cement)の粉末成分に混合し、次いでそれをロトミックス(ROTOMIX)ミキサーの中で10秒間混合すると、ペーストが得られたので、それを実施例7と名付けた。実施例7について、本明細書に記載の試験方法に従って圧縮強さと直径引張強さを測定し、その結果を、市販されているリライエックス・ユニセム・マキシキャップ・セルフアドヘーシブ・ユニバーサル・レジン・セメント(RelyX Unicem MAXICAP Self−Adhesive Universal Resin Cement)製品(比較例(CE)3)の場合と比較した。それらのデータを表4に示したが、これから、CGP含有セメント組成物の物理的性質は、市販されているリライエックス・ユニセム・セメント(RelyX Unicem Cement)と基本的には同等であったことが判る。
Figure 0005362991
実施例8および比較例4
CGPを含む接着剤組成物
実施例1D(樹脂B+10%CGP)を、アドパー・プロンプト・エル−ポップ・セルフ・エッチ・アドヘーシブ(ADPER PROMPT L−POP Self−Etch Adhesive)製品(スリー・エム・カンパニー(3M Company))における液状B成分として使用し、本明細書に記載の試験方法により、エナメル質に対する剪断接着性を評価して、その結果を、市販のアドパー・アドヘーシブ(ADPER Adhesive)製品(比較例(CE)4)の場合と比較した。(それらの物質のAE試験の場合には、液状成分AとBとを充分に混合し、得られた接着剤を歯牙表面上に20秒間ブラシ塗布し、10秒間穏やかに空気乾燥させ、次いで10秒間かけて光硬化させた。)データを表5に示す。
Figure 0005362991
実施例9Aおよび9B
亜鉛グリセロホスフェートを含む硬化性樹脂
亜鉛ナイトレート・六水物(0.27g)を、樹脂B(9.2g)に溶解させると、透明な溶液が得られたので、次いで、SGP(0.26g)を添加して溶解させると、(インサイチュで形成された)亜鉛グリセロホスフェートを含む透明な液状物(実施例9Aと名付ける)が形成された。実施例9A(ビトレボンド(Vitrebond)粉末と、粉体/液体比1:1でスパチュラ混合した後)は、52.7のバーコル(Barcol)硬度を有していた。
亜鉛グリセロホスフェート(出発物質調製法を参照)を、樹脂Bに3重量%のレベルで添加すると、透明な液状物が形成されたので、それを実施例9Bと名付けた。実施例9B(ビトレボンド(Vitrebond)粉末と、粉体/液体比1:1でスパチュラ混合した後)は、52.7のバーコル(Barcol)硬度を有していた。樹脂B(透明液状物;ビトレボンド(Vitrebond)粉末と粉体/液体比1:1でスパチュラ混合した)は、31.7のバーコル(Barcol)硬度を有していた。
実施例10Aおよび10B
ストロンチウムグリセロホスフェートを含む硬化性樹脂
充填剤A(41%)、樹脂D(40%)およびストロンチウムグリセロホスフェート(19%;出発物質調製法を参照)を混合すると、低粘度で流動性のあるペーストが得られたので、それを実施例10Aと名付けた。光硬化させた、実施例10Aの厚さ1mmの円板は、マクベス・デンシトメーター(Macbeth Densitometer)で測定して、0.243の視覚的乳白度を有していた。
ストロンチウムグリセロホスフェート(出発物質調製法を参照)を、樹脂Bに3重量%のレベルで添加すると、透明な液状物が形成されたので、それを実施例10Bと名付けた。実施例10B(ビトレボンド(Vitrebond)粉末と、粉体/液体比1:1でスパチュラ混合した後)は、46.7のバーコル(Barcol)硬度を有していた。
実施例11
銀グリセロホスフェートを含む硬化性樹脂
充填剤A(65%)、樹脂D(32%)および銀グリセロホスフェート(3%;出発物質調製法を参照)を混合すると、低粘度で流動性のあるペーストが得られたので、それを実施例11と名付けた。光硬化させた、実施例11の厚さ1mmの円板は、マクベス・デンシトメーター(Macbeth Densitometer)で測定して、0.546の視覚的乳白度を有していた。
実施例12Aおよび12B
ジルコニウムグリセロホスフェートを含む硬化性樹脂
充填剤A(65%)、樹脂D(32%)およびジルコニウムグリセロホスフェート(3%;出発物質調製法を参照)を混合すると、低粘度で流動性のあるペーストが得られたので、それを実施例12Aと名付けた。光硬化させた、実施例12Aの厚さ1mmの円板は、マクベス・デンシトメーター(Macbeth Densitometer)で測定して、0.380の視覚的乳白度を有していた。
ジルコニウムグリセロホスフェート(出発物質調製法を参照)を、ビトレボンド(Vitrebond)粉末に3重量%のレベルで添加して、歯科用充填剤として有用であろうと考えられる、新しい粉末を形成させた。その新しい粉末(樹脂Bと、粉体/液体比1:1でスパチュラ混合して、ペースト(実施例12Bと名付ける)を形成させた後)は、20のバーコル(Barcol)硬度を有していた。ビトレボンド(Vitrebond)粉末(樹脂Bと、粉体/液体比1:1でスパチュラ混合した後)は、31.7のバーコル(Barcol)硬度を有していた。
実施例13〜16
CGPを含む歯牙コーティング組成物
CGP(8.6重量%)を、13.3%のナトリウムモノフルオロホスフェートの溶液(Na2FPO3;脱イオン水中12%)と、78.1%の、45%PAA/ITAコポリマー、45%エタノールおよび10%ナルコ(Nalco)1042コロイダルシリカの溶液と、ブレンドして、均質なミルクホワイト色のコロイドを得たが、このものを実施例13と名付けた。その物質は、周囲条件下で2週間後でも均質で流動性を維持していたが、ガラススライドに塗布して乾燥させると半透明のコーティングを形成した。
CGP(11重量%)を、89%のエタノール中30%アバルア(AVALURE)AC−315ポリマーの溶液とブレンドすると、曇りのある分散体が形成されたので、それを実施例14と名付けた。1〜2日後には、その分散体から沈降物が生じたが、混合すれば容易に再分散した。その分散体を、ガラススライドに塗布して乾燥させると、硬く、曇りのあるコーティングが生成した。
CGP(9重量%)を、21%のNa2FPO3の溶液(脱イオン水中12%)と、70%のエタノール中45%PAA/ITAコポリマー溶液と共にブレンドすると、濁りのあるゾル(実施例15)が生成したが、それは、数時間後には沈降を示した。
CGP(12重量%)を、15%のNa2FPO3の溶液(脱イオン水中12%)と、73%の、45%PAA/ITAコポリマー、45%エタノール、および10%ナルコ(Nalco)1042コロイダルシリカの溶液とブレンドすると、均質で濁りのある安定なゾルが形成されたので、それを実施例16と名付けた。
カルシウムイオンおよびリンイオン放出性の評価
実施例1F(ビトレマー・レジン(Vitremer Resin)中55%CGP)、実施例1G(樹脂C中55%CGP)、実施例2(RMGI組成物中2%CGP)、および実施例3(RMGI組成物中4%CGP)について、本明細書に記載の試験方法により、経時的なカルシウムおよびリン放出性を評価した。結果は、ICP法(誘導結合プラズマ分光光度法によるカルシウムイオンおよびリンイオン)およびカルシウム選択電極(Ca−E)法(カルシウムイオンのみ)について報告し、表6に示す。これらの結果から、4例の実施例すべてにおいて、60日間を通して持続性のカルシウムイオン放出を示し、実施例の内の3例(1F、1G、および2)では、180日間を通しての持続性放出を示した。
Figure 0005362991
象牙質の再石灰化の評価
実施例4(RMGI組成物中10%CGP)について、本明細書に記載の試験方法により、象牙質再石灰化の評価を行ったところ、3週間後には、露出した病変部の領域において、塗布セメントの近傍に良好な再石灰化が認められた。
象牙質における脱灰抵抗性の評価
実施例4(RMGI組成物中10%CGP)ならびに比較例1および5(それぞれ、ビトレボンド・ライト・キュア・グラス・アイオノマー・ライナー/ベース(VITREBOND Light Cure Glass Ionomer Liner/Base)、およびフィルテック・Z250・ユニバーサル・レストラティブ・システム(FILTEK Z250 Universal Restorative System))について、本明細書に記載の試験方法により、象牙質における脱灰抵抗性の評価を実施した。得られたマイクロラジオグラフおよび関連のデータ(表7)から、ビトレボンド(VITREBOND)製品がフィルテック・Z250(FILTEK Z250)よりも酸アタックに対する抵抗性が向上していること、および、実施例4がこの抵抗性を劇的に向上させていることが判った。
Figure 0005362991
本発明の範囲と趣旨から逸脱することなく、本発明についての各種の修正や変更か可能なことは、当業者には明らかであろう。説明に用いた実施態様および本明細書で言及した実施例によって不当に限定されることは、本発明が意図するものではなく、また、そのような実施例および実施態様はあくまで例を示すために提供されたものであって、本発明の範囲は、本明細書で冒頭に記載の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである、ということは理解されたい。

Claims (2)

  1. 酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物とグリセロリン酸カルシウムを含む歯科用組成物。
  2. 前記組成物が、歯科用プライマー、歯科用接着剤、窩洞裏装材、窩洞清浄化剤、セメント、コーティング、ワニス、歯科矯正用接着剤、修復材、シーラント、脱感作薬、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1記載の歯科用組成物。
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