<1共線4要素>
以下、図面を参照しながら、本発明に係る1共線4要素の仕組みを有する動力装置の実施形態について説明する。なお、図面中の断面を示す部分については、ハッチングを適宜、省略するものとする。
(第1実施形態)
図1および図2は、第1実施形態による動力装置1を概略的に示している。この動力装置1は、車両(図示せず)の左右の駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、図1に示すように、動力源である内燃機関3(熱機関)、第1回転機21および第2回転機31と、駆動輪DW,DWに駆動軸10,10を介して連結された差動ギヤ機構9と、第1パワードライブユニット(以下「第1PDU」という)41および第2パワードライブユニット(以下「第2PDU」という)42と、双方向型昇降圧コンバータ(以下「VCU」という)44とを備えている。また、動力装置1は、図2に示すように、内燃機関3や第1および第2の回転機21,31の動作を制御するためのECU2を備えている。第1および第2の回転機21,31は、後述するように無段変速装置としても機能する。
内燃機関(以下「エンジン」という)3は、例えばガソリンエンジンであり、このエンジン3のクランク軸3aには、軸受け4aにより回転自在に支持された第1回転軸4が、フライホイール5を介して直結されている。また、第1回転軸4に対して、連結軸6および第2回転軸7が同心状に、アイドラ軸8が平行に、それぞれ配置されている。これらの連結軸6、第2回転軸7およびアイドラ軸8は、軸受け6a、7aおよび8a,8aにそれぞれ回転自在に支持されている。
連結軸6は、中空に形成されており、その内側に上記の第1回転軸4が回転自在に嵌合している。アイドラ軸8には、第1ギヤ8bおよび第2ギヤ8cが一体に設けられており、前者8bは第2回転軸7と一体のギヤ7bに、後者8cは差動ギヤ機構9のギヤ9aに、それぞれ噛み合っている。以上の構成により、第2回転軸7は、アイドラ軸8や差動ギヤ機構9を介して、駆動輪DW,DWに連結されている。以下、第1回転軸4、連結軸6および第2回転軸7の周方向、軸線方向および径方向をそれぞれ、単に「周方向」、「軸線方向」および「径方向」という。
<第1回転機21> 図1および図3に示すように、第1回転機21は、ステータ23と、ステータ23に対向するように設けられたA1ロータ24と、両者23,24の間に設けられたA2ロータ25を有している。これらのステータ23、A2ロータ25およびA1ロータ24は、径方向に外側からこの順で並んでおり、同心状に配置されている。図3では、第1回転軸4などの一部の要素を、図示の便宜上、スケルトン図的に描いている。
上記のステータ23は、第1回転磁界を発生させるものであり、図3および図4に示すように、鉄芯23aと、この鉄芯23aに設けられたU相、V相およびW相のコイル23c,23d,23eを有している。なお、図3では、便宜上、U相コイル23cのみを示している。鉄芯23aは、複数の鋼板を積層した円筒状のものであり、軸線方向に延びており、移動不能のケースCAに固定されている。また、鉄芯23aの内周面には、12個のスロット23bが形成されており、これらのスロット23bは、軸線方向に延びるとともに、周方向に等間隔で並んでいる。上記のU相〜W相のコイル23c〜23eは、スロット23bに分布巻き(波巻き)で巻回されるとともに、前述した第1PDU41およびVCU44を介して、バッテリ43に接続されている。第1PDU41は、インバータなどからなる電気回路で構成されており、第2PDU42およびECU2に接続されている(図1参照)。
以上の構成のステータ23では、バッテリ43から電力が供給され、U相〜W相のコイル23c〜23eに電流が流れたときに、または、後述するように発電が行われたときに、鉄芯23aのA1ロータ24側の端部に、4個の磁極が周方向に等間隔で発生する(図7(a)〜(c)参照)とともに、これらの磁極による第1回転磁界が周方向に移動する。以下、鉄芯23aに発生する磁極を「第1ステータ磁極」という。また、周方向に隣り合う各2つの第1ステータ磁極の極性は、互いに異なっている。なお、図7(a)〜(c)や後述する他の図面では、第1ステータ磁極を、鉄芯23aやU相〜W相のコイル23c〜23eの上に、(N)および(S)で表記している。
図4に示すように、A1ロータ24は、8個の永久磁石24aから成る第1磁極列を有している。これらの永久磁石24aは、周方向に等間隔で並んでおり、この第1磁極列は、ステータ23の鉄芯23aに対向している。各永久磁石24aは、軸線方向に延びており、その軸線方向の長さが、ステータ23の鉄芯23aのそれと同じに設定されている。
また、永久磁石24aは、リング状の固定部24bの外周面に取り付けられている。この固定部24bは、軟磁性体、例えば鉄または複数の鋼板を積層したもので構成されており、その内周面が、ドーナツ板状のフランジの外周面に取り付けられている。このフランジは、前述した連結軸6に一体に設けられている。以上により、永久磁石24aを含むA1ロータ24は、連結軸6と一体に回転自在になっている。さらに、上記のように軟磁性体で構成された固定部24bの外周面に永久磁石24aが取り付けられているので、各永久磁石24aには、ステータ23側の端部に、(N)または(S)の1つの磁極が現れる。なお、図4や後述する他の図面では、永久磁石24aの磁極を(N)および(S)で表記している。また、周方向に隣り合う各2つの永久磁石24aの極性は、互いに異なっている。
A2ロータ25は、6個のコア25aから成る第1軟磁性体列を有している。これらのコア25aは、周方向に等間隔で並んでおり、この第1軟磁性体列は、ステータ23の鉄芯23aとA1ロータ24の第1磁極列との間に、それぞれ所定の間隔を隔てて配置されている。各コア25aは、軟磁性体、例えば複数の鋼板を積層したものであり、軸線方向に延びている。また、コア25aの軸線方向の長さは、永久磁石24aと同様、ステータ23の鉄芯23aのそれと同じに設定されている。さらに、コア25aは、円板状のフランジ25bの外端部に、軸線方向に若干延びる筒状の連結部25cを介して取り付けられている。このフランジ25bは、前述した第1回転軸4に一体に設けられている。これにより、コア25aを含むA2ロータ25は、第1回転軸4と一体に回転自在になっている。なお、図4や図7(a)〜(c)では、便宜上、連結部25cおよびフランジ25bを省略している。
以下、第1回転機21の原理について説明する。なお、当該説明では、ステータ23を「第1ステータ」、A1ロータ24を「第1ロータ」、A2ロータ25を「第2ロータ」と表す。また、第1ステータに供給された電力および第1回転磁界の電気角速度ωmfと等価のトルクを「第1駆動用等価トルクTe1」という。まず、この第1駆動用等価トルクTe1と、第1および第2のロータに伝達されるトルク(以下、それぞれ「第1ロータ伝達トルクT1」「第2ロータ伝達トルクT2」という)の関係と、第1回転磁界、第1および第2のロータの電気角速度の間の関係について説明する。
第1回転機21を次の条件(A)および(B)の下に構成した場合には、第1回転機21に相当する等価回路は図5のように示される。
(A)第1ステータがU相、V相およびW相の3相コイルを有する
(B)第1ステータ磁極が2個、第1磁極が4個、すなわち、第1ステータ磁極のN極およびS極を1組とする極対数が値1、第1磁極のN極およびS極を1組とする極対数が値2であり、第1軟磁性体が第1コア、第2コアおよび第3コアから成る3つの軟磁性体で構成されている
なお、このように、本明細書で用いる「極対」は、N極およびS極の1組をいう。
この場合、第1軟磁性体のうちの第1コアを通過する第1磁極の磁束Ψk1は、次式(1)で表される。
ここで、ψfは第1磁極の磁束の最大値、θ1およびθ2は、U相コイルに対する第1磁極の回転角度位置および第1コアの回転角度位置である。また、この場合、第1ステータ磁極の極対数に対する第1磁極の極対数の比が値2.0であるため、第1磁極の磁束が第1回転磁界に対して2倍の周期で回転(変化)するので、上記の式(1)では、そのことを表すために、(θ2−θ1)に値2.0が乗算されている。
したがって、第1コアを介してU相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψu1は、式(1)にcosθ2を乗算することで得られた次式(2)で表される。
同様に、第1軟磁性体のうちの第2コアを通過する第1磁極の磁束Ψk2は、次式(3)で表される。
第1ステータに対する第2コアの回転角度位置が、第1コアに対して2π/3だけ進んでいるため、上記の式(3)では、そのことを表すために、θ2に2π/3が加算されている。
したがって、第2コアを介してU相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψu2は、式(3)にcos(θ2+2π/3)を乗算することで得られた次式(4)で表される。
同様に、第1軟磁性体のうちの第3コアを介してU相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψu3は、次式(5)で表される。
図5に示すような第1回転機では、第1軟磁性体を介してU相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψuは、上記の式(2)、(4)および(5)で表される磁束Ψu1〜Ψu3を足し合わせたものになるので、次式(6)で表される。
また、この式(6)を一般化すると、第1軟磁性体を介してU相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψuは、次式(7)で表される。
ここで、a、bおよびcはそれぞれ、第1磁極の極対数、第1軟磁性体の数および第1ステータ磁極の極対数である。また、この式(7)を、三角関数の和と積の公式に基づいて変形すると、次式(8)が得られる。
この式(8)において、b=a+cとするとともに、cos(θ+2π)=cosθに基づいて整理すると、次式(9)が得られる。
この式(9)を三角関数の加法定理に基づいて整理すると、次式(10)が得られる。
この式(10)の右辺の第2項は、a−c≠0を条件として、級数の総和やオイラーの公式に基づいて整理すると、次式(11)から明らかなように値0になる。
また、上記の式(10)の右辺の第3項も、a−c≠0を条件として、級数の総和やオイラーの公式に基づいて整理すると、次式(12)から明らかなように値0になる。
以上により、a−c≠0のときには、第1軟磁性体を介してU相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψuは、次式(13)で表される。
また、この式(13)において、a/c=αとすると、次式(14)が得られる。
さらに、この式(14)において、c・θ2=θe2とするとともに、c・θ1=θe1とすると、次式(15)が得られる。
ここで、θe2は、U相コイルに対する第1コアの回転角度位置θ2に第1ステータ磁極の極対数cを乗算していることから明らかなように、U相コイルに対する第1コアの電気角度位置を表す。また、θe1は、U相コイルに対する第1磁極の回転角度位置θ1に第1ステータ磁極の極対数cを乗算していることから明らかなように、U相コイルに対する第1磁極の電気角度位置を表す。
同様に、第1軟磁性体を介してV相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψvは、V相コイルの電気角度位置がU相コイルに対して電気角2π/3だけ進んでいることから、次式(16)で表される。また、第1軟磁性体を介してW相コイルを通過する第1磁極の磁束Ψwは、W相コイルの電気角度位置がU相コイルに対して電気角2π/3だけ遅れていることから、次式(17)で表される。
また、上記の式(15)〜(17)でそれぞれ表される磁束Ψu〜Ψwを時間微分すると、次式(18)〜(20)がそれぞれ得られる。
ここで、ωe1は、θe1の時間微分値、すなわち、第1ステータに対する第1ロータの角速度を電気角速度に換算した値(以下「第1ロータ電気角速度」という)であり、ωe2は、θe2の時間微分値、すなわち、第1ステータに対する第2ロータの角速度を電気角速度に換算した値(以下「第2ロータ電気角速度」という)である。
さらに、第1軟磁性体を介さずにU相〜W相のコイルを直接、通過する第1磁極の磁束は、極めて小さく、その影響は無視できる。このため、第1軟磁性体を介してU相〜W相のコイルをそれぞれ通過する第1磁極の磁束Ψu〜Ψwの時間微分値dΨu/dt〜dΨw/dt(式(18)〜(20))は、第1ステータ列に対して第1磁極や第1軟磁性体が回転するのに伴ってU相〜W相のコイルに発生する逆起電圧(誘導起電圧)をそれぞれ表す。
このことから、U相、V相およびW相のコイルをそれぞれ流れる電流Iu、IvおよびIwは、次式(21)、(22)および(23)で表される。
ここで、Iは、U相〜W相のコイルを流れる電流の振幅(最大値)である。
また、これらの式(21)〜(23)より、U相コイルに対する第1回転磁界のベクトルの電気角度位置θmfは、次式(24)で表されるとともに、U相コイルに対する第1回転磁界の電気角速度(以下「磁界電気角速度」という)ωmfは、次式(25)で表される。
さらに、U相〜W相のコイルに電流Iu〜Iwがそれぞれ流れることで第1および第2のロータに出力される機械的出力(動力)Wは、リラクタンス分を除くと、次式(26)で表される。
この式(26)に上記の式(18)〜(23)を代入し、整理すると、次式(27)が得られる。
さらに、この機械的出力Wと、前述した第1および第2のロータ伝達トルクT1,T2と、第1および第2のロータ電気角速度ωe1,ωe2との関係は、次式(28)で表される。
これらの式(27)および(28)から明らかなように、第1および第2のロータ伝達トルクT1,T2は、次式(29)および(30)でそれぞれ表される。
また、第1ステータ列に供給された電力と機械的出力Wが互いに等しい(ただし、損失は無視)ことと、前記式(25)および(27)から、前述した第1駆動用等価トルクTe1は、次式(31)で表される。
さらに、これらの式(29)〜(31)より、次式(32)が得られる。
この式(32)で表されるトルクの関係、および式(25)で表される電気角速度の関係は、遊星歯車装置のサンギヤとリングギヤとキャリアにおけるトルクおよび回転速度の関係とまったく同じである。
さらに、前述したように、b=a+cおよびa−c≠0を条件として、式(25)の電気角速度の関係および式(32)のトルクの関係が成立する。この条件b=a+cは、第1磁極の数をp、第1ステータ磁極の数をqとすると、b=(p+q)/2、すなわち、b/q=(1+p/q)/2で表される。ここで、p/q=mとすると、b/q=(1+m)/2が得られることから明らかなように、上記のb=a+cという条件が成立していることは、第1ステータ磁極の数と第1磁極の数と第1軟磁性体の数との比が、1:m:(1+m)/2であることを表す。また、上記のa−c≠0という条件が成立していることは、m≠1.0であることを表す。本実施形態の第1回転機21では、第1ステータ磁極の数と第1磁極の数と第1軟磁性体の数との比が、1:m:(1+m)/2(m≠1.0)に設定されているので、式(25)に示す電気角速度の関係と式(32)に示すトルクの関係が成立し、第1回転機21が適正に作動することが分かる。
また、式(25)および(32)から明らかなように、α=a/c、すなわち、第1ステータ磁極の極対数に対する第1磁極の極対数の比(以下「第1極対数比」という)を設定することによって、磁界電気角速度ωmf、第1および第2のロータ電気角速度ωe1,ωe2の間の関係と、第1駆動用等価トルクTe1、第1および第2のロータ伝達トルクT1,T2の間の関係を自由に設定でき、したがって、第1回転機の設計の自由度を高めることができる。この効果は、複数の第1ステータのコイルの相数が前述した値3以外の場合にも同様に得られる。
以上のように、第1回転機21では、第1ステータへの電力供給により第1回転磁界を発生させると、前述した第1磁極と第1軟磁性体と第1ステータ磁極を結ぶような磁力線が発生し、この磁力線による磁力の作用によって、第1ステータに供給された電力は動力に変換され、その動力が、第1ロータや第2ロータから出力されるとともに、上述したような電気角速度やトルクの関係が成立する。このため、第1ステータに電力を供給していない状態で、第1および第2のロータの少なくとも一方に動力を入力することにより、この少なくとも一方のロータを第1ステータに対して回転させると、第1ステータにおいて、発電が行われるとともに、第1回転磁界が発生し、この場合にも、第1磁極と第1軟磁性体と第1ステータ磁極を結ぶような磁力線が発生するとともに、この磁力線による磁力の作用によって、上述した式(25)に示す電気角速度の関係と式(32)に示すトルクの関係が成立する。
すなわち、発電した電力および磁界電気角速度ωmfと等価のトルクを「第1発電用等価トルク」とすると、この第1発電用等価トルクと、第1および第2のロータ伝達トルクT1,T2の間にも、式(32)に示すような関係が成立する。以上から明らかなように、本実施形態の第1回転機21は、遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機を組み合わせた装置と同じ機能を有する。
次に、以上の構成の第1回転機21の動作について説明する。前述したように、第1回転機21では、第1ステータ磁極が4個、永久磁石24aの磁極(以下「第1磁極」という)が8個、コア25aが6個である。すなわち、第1ステータ磁極の数と第1磁極の数とコア25aの数との比は、1:2.0:(1+2.0)/2に設定されており、第1ステータ磁極の極対数に対する第1磁極の極対数の比(以下「第1極対数比α」という)は、値2.0に設定されている。このことと、前述した式(18)〜(20)から明らかなように、ステータ23に対してA1ロータ24やA2ロータ25が回転するのに伴ってU相〜W相のコイル23c〜23eにそれぞれ発生する逆起電圧(以下、それぞれ「U相逆起電圧Vcu」「V相逆起電圧Vcv」「W相逆起電圧Vcw」という)は、次式(33)、(34)および(35)で表される。
ここで、ψFは、第1磁極の磁束の最大値である。また、θER1は、A1ロータ電気角であり、特定のU相コイル23c(以下「第1基準コイル」という)に対するA1ロータ24の特定の永久磁石24aの回転角度位置を、電気角度位置に換算した値である。すなわち、A1ロータ電気角θER1は、この特定の永久磁石24aの回転角度位置(以下「A1ロータ回転角θA1」という)に、第1ステータ磁極の極対数、すなわち値2を乗算した値である。さらに、θER2は、A2ロータ電気角であり、上記の第1基準コイルに対するA2ロータ25の特定のコア25aの回転角度位置を、電気角度位置に換算した値である。すなわち、A2ロータ電気角θER2は、この特定のコア25aの回転角度位置(以下「A2ロータ回転角θA2」という)に、第1ステータ磁極の極対数(値2)を乗算した値である。
また、上記の式(33)〜(35)におけるωER1は、θER1の時間微分値、すなわち、ステータ23に対するA1ロータ24の角速度を電気角速度に換算した値(以下「A1ロータ電気角速度」という)である。さらに、ωER2は、θER2の時間微分値、すなわち、ステータ23に対するA2ロータ25の角速度を電気角速度に換算した値(以下「A2ロータ電気角速度」という)である。
また、前述した第1極対数比α(=2.0)と前記式(21)〜(23)から明らかなように、U相、V相およびW相のコイル23c,23d,23eをそれぞれ流れる電流(以下、それぞれ「U相電流Iu」「V相電流Iv」「W相電流Iw」という)は、次式(36)、(37)および(38)で表される。
ここで、Iは、U相〜W相のコイル23c〜23eを流れる電流の振幅(最大値)である。さらに、第1極対数比α(=2.0)と前記式(24)および(25)から明らかなように、第1基準コイルに対するステータ23の第1回転磁界のベクトルの電気角度位置(以下「第1磁界電気角度位置θMFR」という)は、次式(39)で表され、ステータ23に対する第1回転磁界の電気角速度(以下「第1磁界電気角速度ωMFR」という)は、次式(40)で表される。
このため、第1磁界電気角速度ωMFRとA1ロータ電気角速度ωER1とA2ロータ電気角速度ωER2の関係をいわゆる共線図で表すと、例えば図6のように示される。
また、ステータ23に供給された電力および第1磁界電気角速度ωMFRと等価のトルクを第1駆動用等価トルクTSE1とすると、この第1駆動用等価トルクTSE1と、A1ロータ24に伝達されたトルク(以下「A1ロータ伝達トルク」という)TRA1と、A2ロータ25に伝達されたトルク(以下「A2ロータ伝達トルク」という)TRA2との関係は、第1極対数比α(=2.0)と前記式(32)から明らかなように、次式(41)で表される。
上記の式(40)および(41)でそれぞれ表される電気角速度およびトルクの関係は、サンギヤおよびリングギヤのギヤ比が1:2である遊星歯車装置のサンギヤ、リングギヤおよびキャリアにおける回転速度およびトルクの関係とまったく同じである。
次に、ステータ23に供給された電力が、具体的にどのようにして動力に変換され、A1ロータ24やA2ロータ25から出力されるかについて説明する。まず、図7(a)〜(c)〜図9(a)、(b)を参照しながら、A1ロータ24を回転不能に保持した状態でステータ23に電力を供給した場合について説明する。なお、図7(a)〜(c)〜図9(a)、(b)では、便宜上、複数の構成要素の符号を省略している。このことは、後述する他の図面においても同様である。また、理解の容易化のために、図7(a)〜(c)〜図9(a)、(b)に示される同じ1つの第1ステータ磁極およびコア25aに、ハッチングを付している。
まず、図7(a)に示すように、ある1つのコア25aの中心と、ある1つの永久磁石24aの中心が、周方向に互いに一致するとともに、そのコア25aから3つ目のコア25aの中心と、その永久磁石24aから4つ目の永久磁石24aの中心が、周方向に互いに一致した状態から、第1回転磁界を、同図の左方に回転するように発生させる。その発生の開始時においては、互いに同じ極性を有する1つおきの第1ステータ磁極の位置を、中心がコア25aと一致している各永久磁石24aの中心と周方向に一致させるとともに、この第1ステータ磁極の極性をこの永久磁石24aの第1磁極の極性と異ならせる。
前述したようにステータ23による第1回転磁界がA1ロータ24との間に発生することと、コア25aを有するA2ロータ25がステータ23とA1ロータ24の間に配置されていることから、第1ステータ磁極および第1磁極により、各コア25aは磁化される。このことと、隣り合う各コア25aの間に間隔が空いていることから、第1ステータ磁極とコア25aと第1磁極を結ぶような磁力線MLが発生する。なお、図7(a)〜(c)〜図9(a)、(b)では、便宜上、鉄芯23aや固定部24bにおける磁力線MLを省略している。このことは、後述する他の図面においても同様である。
図7(a)に示す状態では、磁力線MLは、周方向の位置が互いに一致している第1ステータ磁極、コア25aおよび第1磁極を結び、かつ、これらの第1ステータ磁極、コア25aおよび第1磁極のそれぞれの周方向の各両側に隣り合う第1ステータ磁極、コア25aおよび第1磁極を結ぶように発生する。また、この状態では、磁力線MLが直線状であることにより、コア25aには、周方向に回転させるような磁力は作用しない。
そして、第1回転磁界の回転に伴って第1ステータ磁極が図7(a)に示す位置から図7(b)に示す位置に変化すると、磁力線MLが曲がった状態になり、それに伴い、磁力線MLが直線状になるように、コア25aに磁力が作用する。この場合、磁力線MLで互いに結ばれた第1ステータ磁極および第1磁極を結ぶ直線に対して、磁力線MLが、このコア25aにおいて第1回転磁界の回転方向(以下「磁界回転方向」という)と逆方向に凸に曲がった状態になるため、上記の磁力は、コア25aを磁界回転方向に駆動するように作用する。このような磁力線MLによる磁力の作用により、コア25aは、磁界回転方向に駆動され、図7(c)に示す位置に回転し、コア25aが設けられたA2ロータ25も、磁界回転方向に回転する。なお、図7(b)および(c)における破線は、磁力線MLの磁束量が極めて小さく、第1ステータ磁極とコア25aと第1磁極の間の磁気的なつながりが弱いことを表している。このことは、後述する他の図面においても同様である。
また、第1回転磁界がさらに回転するのに伴い、上述した一連の動作、すなわち、「磁力線MLがコア25aにおいて磁界回転方向と逆方向に凸に曲がる→磁力線MLが直線状になるようにコア25aに磁力が作用する→コア25aおよびA2ロータ25が、磁界回転方向に回転する」という動作が、図8(a)〜(d)、図9(a)および(b)に示すように、繰り返し行われる。以上のように、A1ロータ24を回転不能に保持した状態で、ステータ23に電力を供給した場合には、上述したような磁力線MLによる磁力の作用によって、ステータ23に供給された電力は動力に変換され、その動力がA2ロータ25から出力される。
また、図10は、図7(a)の状態から第1ステータ磁極が電気角2πだけ回転した状態を示しており、図10と図7(a)の比較から明らかなように、コア25aは、第1ステータ磁極に対して1/3の回転角度だけ、同方向に回転していることが分かる。この結果は、前記式(40)において、ωER1=0とすることによって、ωER2=ωMFR/3が得られることと合致する。
次に、図11(a)〜(c)〜図13(a)、(b)を参照しながら、A2ロータ25を回転不能に保持した状態で、ステータ23に電力を供給した場合の動作について説明する。なお、図11(a)〜(c)〜図13(a)、(b)では、理解の容易化のために、同じ1つの第1ステータ磁極および永久磁石24aに、ハッチングを付している。まず、図11(a)に示すように、前述した図7(a)の場合と同様、ある1つのコア25aの中心と、ある1つの永久磁石24aの中心が、周方向に互いに一致するとともに、そのコア25aから3つ目のコア25aの中心と、その永久磁石24aから4つ目の永久磁石24aの中心が、周方向に互いに一致した状態から、第1回転磁界を、同図の左方に回転するように発生させる。その発生の開始時においては、互いに同じ極性を有する1つおきの第1ステータ磁極の位置を、中心がコア25aと一致している各永久磁石24aの中心と周方向に一致させるとともに、この第1ステータ磁極の極性をこの永久磁石24aの第1磁極の極性と異ならせる。
図11(a)に示す状態では、図7(a)の場合と同様、磁力線MLは、周方向の位置が互いに一致している第1ステータ磁極、コア25aおよび第1磁極を結び、かつ、これらの第1ステータ磁極、コア25aおよび第1磁極のそれぞれの周方向の各両側に隣り合う第1ステータ磁極、コア25aおよび第1磁極を結ぶように発生する。また、この状態では、磁力線MLが直線状であることにより、永久磁石24aには、周方向に回転させるような磁力は作用しない。
そして、第1回転磁界の回転に伴って第1ステータ磁極が図11(a)に示す位置から図11(b)に示す位置に回転すると、磁力線MLが曲がった状態になり、それに伴い、磁力線MLが直線状になるように、永久磁石24aに磁力が作用する。この場合、この永久磁石24aが、磁力線MLで互いに結ばれた第1ステータ磁極およびコア25aの延長線上よりも磁界回転方向に進んだ位置にあるため、上記の磁力は、この延長線上に永久磁石24aを位置させるように、すなわち、永久磁石24aを磁界回転方向と逆方向に駆動するように作用する。このような磁力線MLによる磁力の作用により、永久磁石24aは、磁界回転方向と逆方向に駆動され、図11(c)に示す位置に回転し、永久磁石24aが設けられたA1ロータ24も、磁界回転方向と逆方向に回転する。
また、第1回転磁界がさらに回転するのに伴い、上述した一連の動作、すなわち、「磁力線MLが曲がり、磁力線MLで互いに結ばれた第1ステータ磁極およびコア25aの延長線上よりも、永久磁石24aが磁界回転方向に進んだ位置に位置する→磁力線MLが直線状になるように永久磁石24aに磁力が作用する→永久磁石24aおよびA1ロータ24が、磁界回転方向と逆方向に回転する」という動作が、図12(a)〜(d)、図13(a)および(b)に示すように、繰り返し行われる。以上のように、A2ロータ25を回転不能に保持した状態で、ステータ23に電力を供給した場合には、上述したような磁力線MLによる磁力の作用によって、ステータ23に供給された電力は動力に変換され、その動力がA1ロータ24から出力される。
また、図13(b)は、図11(a)の状態から第1ステータ磁極が電気角2πだけ回転した状態を示しており、図13(b)と図11(a)の比較から明らかなように、永久磁石24aは、第1ステータ磁極に対して1/2の回転角度だけ、逆方向に回転していることが分かる。この結果は、前記式(40)において、ωER2=0とすることによって、−ωER1=ωMFR/2が得られることと合致する。
また、図14および図15は、第1ステータ磁極、コア25aおよび永久磁石24aの数を、値16、値18および値20にそれぞれ設定し、A1ロータ24を回転不能に保持するとともに、ステータ23への電力の供給によりA2ロータ25から動力を出力した場合におけるシミュレーション結果を示している。図14は、A2ロータ電気角θER2が値0〜2πまで変化する間におけるU相〜W相の逆起電圧Vcu〜Vcwの推移の一例を示している。
この場合、A1ロータ24が回転不能に保持されていることと、第1ステータ磁極および第1磁極の極対数がそれぞれ値8および値10であることと、前記式(25)から、第1磁界電気角速度ωMFR、A1およびA2のロータ電気角速度ωER1,ωER2の間の関係は、ωMFR=2.25・ωER2で表される。図14に示すように、A2ロータ電気角θER2が値0〜2πまで変化する間に、U相〜W相の逆起電圧Vcu〜Vcwは、ほぼ2.25周期分、発生している。また、図14は、A2ロータ25から見たU相〜W相の逆起電圧Vcu〜Vcwの変化状態を示しており、同図に示すように、これらの逆起電圧は、A2ロータ電気角θER2を横軸として、W相逆起電圧Vcw、V相逆起電圧VcvおよびU相逆起電圧Vcuの順に並んでおり、このことは、A2ロータ25が磁界回転方向に回転していることを表す。以上のような図14に示すシミュレーション結果は、上述した式(25)に基づくωMFR=2.25・ωER2の関係と合致する。
さらに、図15は、第1駆動用等価トルクTSE1、A1およびA2のロータ伝達トルクTRA1,TRA2の推移の一例を示している。この場合、第1ステータ磁極および第1磁極の極対数がそれぞれ値8および値10であることと、前記式(32)から、第1駆動用等価トルクTSE1、A1およびA2のロータ伝達トルクTRA1,TRA2の間の関係は、TSE1=TRA1/1.25=−TRA2/2.25で表される。図15に示すように、第1駆動用等価トルクTSE1は、ほぼ−TREFに、A1ロータ伝達トルクTRA1は、ほぼ1.25・(−TREF)に、A2ロータ伝達トルクTRA2は、ほぼ2.25・TREFになっている。このTREFは所定のトルク値(例えば200Nm)である。このような図15に示すシミュレーション結果は、上述した式(32)に基づくTSE1=TRA1/1.25=−TRA2/2.25の関係と合致する。
また、図16および図17は、第1ステータ磁極、コア25aおよび永久磁石24aの数を図14および図15の場合と同様に設定し、A1ロータ24に代えてA2ロータ25を回転不能に保持するとともに、ステータ23への電力の供給によりA1ロータ24から動力を出力した場合におけるシミュレーション結果を示している。図16は、A1ロータ電気角θER1が値0〜2πまで変化する間におけるU相〜W相の逆起電圧Vcu〜Vcwの推移の一例を示している。
この場合、A2ロータ25が回転不能に保持されていることと、第1ステータ磁極および第1磁極の極対数がそれぞれ値8および値10であることと、前記式(25)から、磁界電気角速度ωMFR、A1およびA2のロータ電気角速度ωER1,ωER2の間の関係は、ωMFR=−1.25・ωER1で表される。図16に示すように、A1ロータ電気角θER1が値0〜2πまで変化する間に、U相〜W相の逆起電圧Vcu〜Vcwは、ほぼ1.25周期分、発生している。また、図16は、A1ロータ24から見たU相〜W相の逆起電圧Vcu〜Vcwの変化状態を示しており、同図に示すように、これらの逆起電圧は、A1ロータ電気角θER1を横軸として、U相逆起電圧Vcu、V相逆起電圧VcvおよびW相逆起電圧Vcwの順に並んでおり、このことは、A1ロータ24が磁界回転方向と逆方向に回転していることを表す。以上のような図16に示すシミュレーション結果は、上述した式(25)に基づくωMFR=−1.25・ωER1の関係と合致する。
さらに、図17は、第1駆動用等価トルクTSE1、A1およびA2のロータ伝達トルクTRA1,TRA2の推移の一例を示している。この場合にも、図15の場合と同様、式(32)から、第1駆動用等価トルクTSE1、A1およびA2のロータ伝達トルクTRA1,TRA2の間の関係は、TSE1=TRA1/1.25=−TRA2/2.25で表される。図17に示すように、第1駆動用等価トルクTSE1は、ほぼTREFに、A1ロータ伝達トルクTRA1は、ほぼ1.25・TREFに、A2ロータ伝達トルクTRA2は、ほぼ−2.25・TREFになっている。このような図17に示すシミュレーション結果は、上述した式(32)に基づくTSE1=TRA1/1.25=−TRA2/2.25の関係と合致する。
以上のように、第1回転機21では、ステータ23への電力供給により第1回転磁界を発生させると、前述した第1磁極とコア25aと第1ステータ磁極を結ぶような磁力線MLが発生し、この磁力線MLによる磁力の作用によって、ステータ23に供給された電力は動力に変換され、その動力が、A1ロータ24やA2ロータ25から出力される。この場合、磁界電気角速度ωMFR、A1およびA2のロータ電気角速度ωER1,ωER2の間に、前記式(40)に示す関係が成立するとともに、第1駆動用等価トルクTSE1、A1およびA2のロータ伝達トルクTRA1,TRA2の間に、前記式(41)に示す関係が成立する。
このため、ステータ23に電力を供給していない状態で、A1およびA2のロータ34,35の少なくとも一方に動力を入力することにより、この少なくとも一方をステータ23に対して回転させると、ステータ23において、発電が行われるとともに、第1回転磁界が発生し、この場合にも、第1磁極とコア25aと第1ステータ磁極を結ぶような磁力線MLが発生するとともに、この磁力線MLによる磁力の作用によって、式(40)に示す電気角速度の関係と式(41)に示すようなトルクの関係が成立する。
すなわち、発電した電力および第1磁界電気角速度ωMFRと等価のトルクを第1発電用等価トルクTGE1とすると、この第1発電用等価トルクTGE1、A1およびA2のロータ伝達トルクTRA1,TRA2の間に、次式(42)に示す関係が成立する。
TGE1=TRA1/α=−TRA2/(α+1)
=TRA1/2=−TRA2/3 ……(42)
また、ステータ23への電力供給中および発電中、第1回転磁界の回転速度(以下「第1磁界回転速度VMF1」という)と、A1およびA2のロータ24,25の回転速度(以下、それぞれ「A1ロータ回転速度VRA1」「A2ロータ回転速度VRA2」という)の間に、次式(43)が成立する。
VMF1=(α+1)VRA2−α・VRA1
=3・VRA2−2・VRA1 ……(43)
以上から明らかなように、第1回転機21は、遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機とを組み合わせた装置と同じ機能を有する。
<第2回転機31>
第2回転機31は、第1回転機21と同様に構成されており、以下、その構成と動作について簡単に説明する。図1および図18に示すように、第2回転機31は、ステータ33と、ステータ33に対向するように設けられたB1ロータ34と、両者33,34の間に設けられたB2ロータ35を有している。これらのステータ33、B2ロータ35およびB1ロータ34は、径方向に、外側からこの順で並んでおり、同心状に配置されている。図18では、図3と同様、第1回転軸4などの一部の要素を、図示の便宜上、スケルトン図的に描いている。
上記のステータ33は、第2回転磁界を発生させるものであり、図18に示すように、鉄芯33aと、この鉄芯33aに設けられたU相、V相およびW相のコイル33bを有している。鉄芯33aは、複数の鋼板を積層した円筒状のものであり、軸線方向に延びており、ケースCAに固定されている。また、鉄芯33aの内周面には、12個のスロット(図示せず)が形成されており、これらのスロットは、周方向に等間隔で並んでいる。上記のU相〜W相のコイル33bは、スロットに分布巻き(波巻き)で巻回されるとともに、前述した第2PDU42およびVCU44を介して、バッテリ43に接続されている。第2PDU42は、第1PDU41と同様、インバータなどからなる電気回路で構成されており、第1PDU41およびECU2に接続されている(図1参照)。
以上の構成のステータ33では、バッテリ43から電力が供給され、U相〜W相のコイル33bに電流が流れたときに、または、後述するように発電が行われたときに、鉄芯33aのB1ロータ34側の端部に、4個の磁極が周方向に等間隔で発生するとともに、これらの磁極による第2回転磁界が周方向に移動する。以下、鉄芯33aに発生する磁極を「第2ステータ磁極」という。また、周方向に隣り合う各2つの第2ステータ磁極の極性は、互いに異なっている。
B1ロータ34は、8個の永久磁石34a(2つのみ図示)から成る第2磁極列を有している。これらの永久磁石34aは、周方向に等間隔で並んでおり、この第2磁極列は、ステータ33の鉄芯33aに対向している。各永久磁石34aは、軸線方向に延びており、その軸線方向の長さが、ステータ33の鉄芯33aのそれと同じに設定されている。
また、永久磁石34aは、リング状の固定部34bの外周面に取り付けられている。この固定部34bは、軟磁性体、例えば鉄または複数の鋼板を積層したもので構成されており、その内周面が、円板状のフランジ34cの外周面に取り付けられている。このフランジ34cは、前述した第1回転軸4に一体に設けられている。以上により、永久磁石34aを含むB1ロータ34は、第1回転軸4と一体に回転自在になっている。さらに、上記のように軟磁性体で構成された固定部34bの外周面に永久磁石34aが取り付けられているので、各永久磁石34aには、ステータ33側の端部に、(N)または(S)の1つの磁極が現れる。また、周方向に隣り合う各2つの永久磁石34aの極性は、互いに異なっている。
B2ロータ35は、6個のコア35a(2つのみ図示)から成る第2軟磁性体列を有している。これらのコア35aは、周方向に等間隔で並んでおり、この第2軟磁性体列は、ステータ33の鉄芯33aとB1ロータ34の磁極列との間に、それぞれ所定の間隔を隔てて配置されている。各コア35aは、軟磁性体、例えば複数の鋼板を積層したものであり、軸線方向に延びている。また、コア35aの軸線方向の長さは、永久磁石34aと同様、ステータ33の鉄芯33aのそれと同じに設定されている。さらに、コア35aは、円板状のフランジ35bおよび35cの外端部に、軸線方向に若干延びる筒状の連結部35dおよび35eをそれぞれ介して取り付けられている。これらのフランジ35bおよび35cは、前述した連結軸6および第2回転軸7に一体に設けられている。これにより、コア35aを含むB2ロータ35は、連結軸6および第2回転軸7と一体に回転自在になっている。
このように、第2回転機31は、第1回転機21と同様に構成されているので、遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機を組み合わせた装置と同じ機能を有する。すなわち、ステータ33への電力供給中および発電中、第2回転磁界の電気角速度、B1ロータ34およびB2ロータ35の電気角速度の間に、式(25)に示すような関係が成立する。また、ステータ33に供給された電力および第2回転磁界の電気角速度と等価のトルクを「第2駆動用等価トルク」とすると、この第2駆動用等価トルクと、B1ロータ34およびB2ロータ35に伝達されるトルクの間に、式(32)に示すようなトルクの関係が成立する。さらに、ステータ33で発電した電力および第2回転磁界の電気角速度と等価のトルクを「第2発電用等価トルク」とすると、この第2発電用等価トルクと、B1ロータ34およびB2ロータ35に伝達されるトルクの間に、式(32)に示すようなトルクの関係が成立する。
次に、以上の構成の第2回転機31の動作について説明する。前述したように、第2回転機31では、第2ステータ磁極が4個、永久磁石34aの磁極(以下「第2磁極」という)が8個、コア35aが6個である。すなわち、第2ステータ磁極の数と第2磁極の数とコア35aの数との比は、第1回転機21の第1ステータ磁極の数と第1磁極の数とコア25aの数との比と同様、1:2.0:(1+2.0)/2に設定されている。また、第2ステータ磁極の極対数に対する第2磁極の極対数の比(以下「第2極対数比β」という)は、第1極対数比αと同様、値2.0に設定されている。以上のように、第2回転機31は、第1回転機21と同様に構成されているので、第1回転機21と同じ機能を有している。
すなわち、ステータ33に供給された電力を動力に変換し、B1ロータ34やB2ロータ35から出力するとともに、B1ロータ34やB2ロータ35に入力された動力を電力に変換し、ステータ33から出力する。また、そのような電力および動力の入出力中、第2回転磁界、B1およびB2ロータ34,35が、式(40)に示すような回転速度に関する共線関係を保ちながら回転する。すなわち、この場合、第2回転磁界の回転速度(以下「第2磁界回転速度VMF2」という)と、B1およびB2のロータ34,35の回転速度(以下、それぞれ「B1ロータ回転速度VRB1」「B2ロータ回転速度VRB2」という)の間には、次式(44)が成立する。
VMF2=(β+1)VRB2−β・VRB1
=3・VRB2−2・VRB1 ……(44)
また、ステータ33に供給された電力および第2回転磁界と等価のトルクを「第2駆動用等価トルクTSE2」とすると、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1およびB2のロータ34,35に伝達されたトルク(以下、それぞれ「B1ロータ伝達トルクTRB1」、「B2ロータ伝達トルクTRB2」という)との間には、次式(45)が成立する。
TSE2=TRB1/β=−TRB2/(β+1)
=TRB1/2=−TRB2/3 ……(45)
さらに、ステータ33で発電した電力および第2回転磁界と等価のトルクを「第2発電用等価トルクTGE2」とすると、第2発電用等価トルクTGE2と、B1およびB2のロータ伝達トルクTRB1,TRB2との間には、次式(46)が成立する。
TGE2=TRB1/β=−TRB2/(1+β)
=TRB1/2=−TRB2/3 ……(46)
以上のように、第2回転機31は、第1回転機21と同様、遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機とを組み合わせた装置と同じ機能を有する。
<ECU2>
ECU2は、バッテリ43の出力電圧又はバッテリ43への充電電圧を昇圧又は降圧するVCU44を制御する。ECU2によるVCU44の制御によって、VCU44の変圧比等が変更される。また、ECU2は、第1PDU41を制御することによって、第1回転機21のステータ23に供給される電力と、電力の供給に伴ってステータ23で発生する第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を制御する。さらに、ECU2は、第1PDU41を制御することによって、ステータ23で発電する電力と、発電に伴ってステータ23で発生する第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を制御する。
また、ECU2は、第2PDU42を制御することによって、第2回転機31のステータ33に供給される電力と、電力の供給に伴ってステータ33で発生する第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2を制御する。さらに、ECU2は、第2PDU42を制御することによって、ステータ33で発電する電力と、発電に伴ってステータ33で発生する第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2を制御する。
以上のように、動力装置1では、エンジン3のクランク軸3a、第1回転機21のA2ロータ25、および第2回転機31のB1ロータ34は、第1回転軸4を介して互いに機械的に連結されている。また、第1回転機21のA1ロータ24および第2回転機31のB2ロータ35は、連結軸6を介して互いに機械的に連結されており、B2ロータ35および駆動輪DW,DWは、第2回転軸7などを介して互いに機械的に連結されている。すなわち、A1ロータ24およびB2ロータ35は、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。さらに、第1回転機21のステータ23および第2回転機31のステータ33が、第1および第2のPDU41,42を介して互いに電気的に接続されている。また、バッテリ43が、VCU44並びに第1および第2のPDU41,42をそれぞれ介して、ステータ23および33に電気的に接続されている。
図19は、動力装置1の概略構成および動力の伝達状況の一例を示す概念図である。なお、図19では、第1回転機21が「第1回転機」、ステータ23が「第1ステータ」、A1ロータ24が「第1ロータ」、A2ロータ25が「第2ロータ」、第2回転機31が「第2回転機」、ステータ33が「第1ステータ」、B1ロータ34が「第3ロータ」、B2ロータ35が「第4ロータ」、エンジン3が「熱機関」、駆動輪DW,DWが「被駆動部」、第1PDU41が「第1制御器」、第2PDU42が「第2制御器」とそれぞれ表されている。図19に示すように、第1回転機の第2ロータおよび第2回転機の第3ロータが、熱機関の出力部に機械的に連結され、第1回転機の第1ロータおよび第2回転機の第4ロータが、被駆動部に機械的に連結されている。また、第1回転機の第1ステータに、第1ステータの発電・供給電力を制御する第1制御器が電気的に接続されるとともに、第2回転機の第2ステータに、第2ステータの発電・供給電力を制御する第2制御器が電気的に接続されており、これらの第1および第2の制御器を介して、第1および第2のステータが互いに電気的に接続されている。なお、図19では、要素間の連結については、機械的な連結を実線で、電気的な接続を一点鎖線で、磁気的な連結を破線で、それぞれ示している。また、動力および電力の流れを矢印付きの太い線で示している。
以上の構成により、動力装置1では、熱機関の動力が、例えば次のようにして被駆動部に伝達される。すなわち、熱機関の動力を被駆動部に伝達する場合、第1および第2の制御器による制御によって、熱機関の動力の一部を用いて第1回転機の第1ステータで発電を行うとともに、発電した電力を第2回転機の第2ステータに供給する。この第1回転機での発電時、図19に示すように、熱機関の動力の一部が、熱機関の出力部に連結された第2ロータに伝達され、さらに、前述した磁力線による磁力によって第1ステータに電力として伝達されるのに伴い、磁力線による磁力によって第1ロータにも熱機関の動力の一部が伝達される。すなわち、第2ロータに伝達された熱機関の動力が、第1ステータおよび第1ロータに分配される。さらに、第1ロータに分配された動力は被駆動部に伝達される一方、第1ステータに分配された電力は第2ステータに供給される。
また、上記のように第1ステータで発電した電力が第2ステータに供給されると、この電力は、動力に変換され、磁力線による磁力によって、第4ロータに伝達される。それに伴い、熱機関の動力の残りが、第3ロータに伝達され、さらに、磁力線による磁力によって、第4ロータに伝達される。さらに、第4ロータに伝達された動力は、被駆動部に伝達される。以上の結果、被駆動部に、熱機関の動力と等しい大きさの動力が伝達される。
以上のように、本実施形態の動力装置1では、第1および第2の回転機が遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機を組み合わせた装置と同じ機能を有するので、前述した従来の動力装置と異なり、動力を分配・合成して伝達するための遊星歯車装置は不要であり、したがって、その分、動力装置を小型化することができる。また、前述した従来の場合と異なり、熱機関の動力が上述したように再循環せずに被駆動部に伝達されるので、第1および第2の回転機を通過する動力を低減できる。したがって、第1および第2の回転機の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置のさらなる小型化とコストの削減を達成することができる。さらに、上記のように低減された動力に見合ったトルク容量を有する第1および第2の回転機を用いることによって、動力の損失を抑制し、動力装置の駆動効率を高めることができる。
また、熱機関の動力は、第2ロータ、磁力線による磁力および第1ロータから成る第1伝達経路と、第2ロータ、磁力線による磁力、第1ステータ、第1制御器、第2制御器、第2ステータ、磁力線による磁力、および第4ロータから成る第2伝達経路と、第3ロータ、磁力線による磁力および第4ロータから成る第3伝達経路の計3つの伝達経路を介して、分割された状態で被駆動部に伝達される。これにより、第2伝達経路を介して第1および第2の制御器を通過する電力(エネルギ)を低減できるので、第1および第2の制御器の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置のさらなる小型化およびコストの削減を達成することができる。また、第3伝達経路では、熱機関の動力を一旦、電力に変換した後、再び動力に戻し、いわゆる電気パスによって被駆動部に伝達するのに対し、第1および第2の伝達経路では、動力を電力に変換せずに、磁力線による磁力により非接触で、いわゆる磁気パスによって動力を被駆動部に伝達するので、第3伝達経路よりも伝達効率が高い。
さらに、以上のような被駆動部への動力の伝達の際、第1および第2の制御器により、第1および第2の回転磁界の回転速度をそれぞれ制御することによって、熱機関の動力を被駆動部に無段階に変速して伝達することができる。以下、この点について説明する。第1回転機では、前述した機能から明らかなように、第1ステータ、第1および第2のロータの間でのエネルギの分配・合成中、第1回転磁界、第1および第2のロータは、式(25)に示すような回転速度に関する共線関係を保ちながら回転する。また、第2回転機では、前述した機能から明らかなように、第2ステータ、第3および第4のロータの間でのエネルギの分配・合成中、第2回転磁界、第3および第4のロータは、式(25)に示すような回転速度に関する共線関係を保ちながら回転する。
さらに、前述した連結関係において、第2および第3のロータがいずれも、熱機関の出力部にギヤなどの変速機構を介さずに直結されている場合には、第2および第3のロータの回転速度はいずれも、熱機関の出力部の回転速度(以下「熱機関の回転数」という)と等しい。また、第1および第4のロータがいずれも、被駆動部に直結されている場合には、第1および第4のロータの回転速度はいずれも、被駆動部の速度と等しい。
ここで、第1〜第4のロータの回転速度をそれぞれ、「第1〜第4のロータ回転速度VR1,VR2,VR3,VR4」とし、第1および第2の回転磁界の回転速度をそれぞれ、「第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2」とする。上述した各種の回転要素の回転速度の関係から、これらの回転速度VR1〜VR4、VMF1、およびVMF2の関係は、例えば図20の太い実線のように示される。
なお、図20では、実際には、値0を示す横線に交わる縦線は、各種の回転要素の回転速度を表すためのものであり、この縦線上に表される白丸と横線との隔たりが、各種の回転要素の回転速度に相当するが、便宜上、この縦線の一端に、各種の回転要素の回転速度を表す符号を表示している。また、正転方向および逆転方向を、「+」および「−」でそれぞれ表示している。さらに、図20において、βは、第2回転機の第2ステータ磁極の極対数に対する第2磁極の極対数の比(以下「第2極対数比」という)である。以上のことは、後述する他の速度共線図についても同様に当てはまる。
このため、図20に二点鎖線で示すように、例えば、第2および第3のロータ回転速度VR2,VR3に対して、第1磁界回転速度VMF1を上昇させるとともに、第2磁界回転速度VMF2を低下させることによって、熱機関の動力を無段階に減速して被駆動部に伝達することができる。逆に、同図に一点鎖線で示すように、第2および第3のロータ回転速度VR2,VR3に対して、第1磁界回転速度VMF1を低下させるとともに、第2磁界回転速度VMF2を上昇させることによって、熱機関の動力を無段階に増速して被駆動部に伝達することができる。
また、第1回転機の第1極対数比αが比較的大きい場合において、熱機関の回転数が被駆動部の速度よりも高いとき(図20の二点鎖線参照)には、第1磁界回転速度VMF1は、熱機関の回転数よりも高くなり、過大になる場合がある。したがって、第1極対数比αをより小さな値に設定することによって、図20に破線で示す速度共線図と二点鎖線で示す速度共線図との比較から明らかなように、第1磁界回転速度VMF1を小さくすることができ、それにより、第1磁界回転速度VMF1の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。さらに、第2回転機の第2極対数比βが比較的大きい場合において、被駆動部の速度が熱機関の回転数よりも高いとき(図20の一点鎖線参照)には、第2磁界回転速度VMF2は、被駆動部の速度よりも高くなり、過大になる場合がある。したがって、第2極対数比βをより小さな値に設定することによって、図20に破線で示す速度共線図と一点鎖線で示す速度共線図との比較から明らかなように、第2磁界回転速度VMF2を小さくすることができ、それにより、第2磁界回転速度VMF2の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
また、動力装置では、例えば、第2回転機の第2ステータに電力を供給するとともに、第1回転機の第1ステータで発電することによって、前述した第2回転機の第2駆動用等価トルクを、第1回転機の第1発電用等価トルクを反力とし、熱機関の出力部を停止した状態で被駆動部に伝達でき、それにより、被駆動部を駆動することができる。さらに、そのような被駆動部の駆動中、熱機関が内燃機関である場合に、内燃機関を始動することが可能である。図21は、この場合における各種の回転要素のトルクの関係を、回転速度の関係とともに示している。同図において、TDHEは、熱機関の出力部に伝達されるトルク(以下「熱機関伝達トルク」という)であり、TOUTは、被駆動部に伝達されるトルク(以下「被駆動部伝達トルク」という)である。また、Tg1は第1発電用等価トルクであり、Te2は第2駆動用等価トルクである。
上記のように熱機関を始動する場合には、図21から明らかなように、第2駆動用等価トルクTe2が、第1発電用等価トルクTg1を反力として、被駆動部および熱機関の出力部の双方に伝達されるため、第1回転機に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第1回転機に要求されるトルクすなわち第1発電用等価トルクTg1は、次式(47)で表される。
Tg1=−{β・TOUT+(β+1)TDHE}/(α+1+β) ……(47)
この式(47)から明らかなように、第1極対数比αが大きいほど、同じ大きさの被駆動部伝達トルクTOUTおよび熱機関伝達トルクTDHEに対して、第1発電用等価トルクTg1は小さくなる。したがって、第1極対数比αをより大きな値に設定することによって、第1回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
さらに、動力装置では、例えば、次のようにして熱機関、第1および第2の回転機を制御することによって、低速状態の被駆動部の速度を急速に上昇させることができる。図22は、このように被駆動部の速度を急速に上昇させる場合の開始時における各種の回転要素の回転速度の関係を、各種の回転要素のトルクの関係とともに示している。同図において、THEは熱機関のトルクであり、Tg2は前述した第2発電用等価トルクである。この場合、熱機関の回転数を、その最大トルクが得られるような所定の回転数に高める。図22に示すように、被駆動部の速度がすぐには上昇しないため、熱機関の回転数が被駆動部の速度よりも高くなるとともに、両者の差が大きくなることから、両者の関係によって定まる第2回転磁界の回転方向は、逆転方向になる。そのような第2回転磁界を発生させる第2ステータから正のトルクを被駆動部に作用させるために、第2ステータにおいて発電を行う。さらに、第2ステータで発電した電力を第1ステータに供給するとともに、第1回転磁界を正転させる。
以上により、熱機関のトルクTHE、第1駆動用等価トルクTe1および第2発電用等価トルクTg2はいずれも、正のトルクとして被駆動部に伝達され、その結果、被駆動部の速度が急速に上昇する。また、上記のように低速状態の被駆動部の速度を急速に上昇させる場合には、図22から明らかなように、熱機関のトルクTHEおよび第1駆動用等価トルクTe1が第2発電用等価トルクTg2を反力として被駆動部に伝達されるため、第2回転機に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第2回転機に要求されるトルクすなわち第2発電用等価トルクTg2は、次式(48)で表される。
Tg2=−{α・THE+(1+α)TOUT}/(β+α+1) ……(48)
この式(48)から明らかなように、第2極対数比βが大きいほど、同じ大きさの被駆動部伝達トルクTOUTおよび熱機関のトルクTHEに対して、第2発電用等価トルクTg2が小さくなる。したがって、第2極対数比βをより大きな値に設定することによって、第2回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
図2に示すように、ECU2には、クランク角センサ51から、クランク軸3aのクランク角度位置を表す検出信号が出力される。ECU2は、このクランク角度位置に基づいてエンジン回転数NEを算出する。さらに、ECU2には、第1回転角センサ52および第2回転角センサ53が接続されており、これらの第1および第2の回転角センサ52,53は、前述したA1およびA2のロータ回転角θA1,θA2をそれぞれ検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。ECU2は、検出されたA1およびA2のロータ回転角θA1,θA2に基づいて、A1およびA2のロータ回転速度VRA1,VRA2をそれぞれ算出する。
また、ECU2には、第3回転角センサ54および第4回転角センサ55が接続されている。第3回転角センサ54は、第2回転機31の特定のU相コイル33b(以下「第2基準コイル」という)に対するB1ロータ34の特定の永久磁石34aの回転角度位置(以下「B1ロータ回転角θB1」という)を検出し、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、検出されたB1ロータ回転角θB1に基づいて、B1ロータ回転速度VRB1を算出する。上記の第4回転角センサ55は、第2基準コイルに対するB2ロータ35の特定のコア35aの回転角度位置(以下「B2ロータ回転角θB2」という)を検出し、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、検出されたB2ロータ回転角θB2に基づいて、B2ロータ回転速度VRB2を算出する。
さらに、ECU2には、電流電圧センサ56から、バッテリ43に入出力される電流・電圧値を表す検出信号が出力される。ECU2は、この検出信号に基づいて、バッテリ43の充電状態を算出する。また、ECU2には、アクセル開度センサ57から車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量であるアクセル開度APを表す検出信号が、車速センサ58から車速VPを表す検出信号が、出力される。なお、この車速VPは、駆動輪DW,DWの回転速度である。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されており、上述した各種のセンサ51〜58からの検出信号に応じて、エンジン3、第1および第2の回転機21,31の動作を制御する。なお、ECU2は、当該制御を行う際に必要となる各種マップ等を記憶するメモリ45からデータを読み込む。また、ECU2は、バッテリ43の外装体又はその周辺に取り付けられたバッテリ温度センサ62が検出した信号から、バッテリ43の温度を導出する。
<駆動力制御>
以下、上記説明した1共線4要素の仕組みを有する動力装置1においてECU2が行う駆動力制御について、図23及び図24を参照して説明する。図23は、第1実施形態の動力装置1における駆動力制御を示すブロック線図である。また、図24は、1共線4要素の仕組みを有する動力装置1における速度共線図である。
図23に示すように、ECU2は、上記説明したアクセル開度APを表す検出信号と、車速VPを表す検出信号とを取得する。次に、ECU2は、メモリ45に格納されている駆動力マップを用いて、アクセル開度APと車速VPに応じた駆動力(以下「要求駆動力」という。)を導出する。次に、ECU2は、要求駆動力と車速VPに応じた出力(以下「要求出力」という。)を算出する。なお、当該要求出力は、車両がドライバのアクセルペダル操作に応じた走行を行うために要する出力である。
次に、ECU2は、上記説明したバッテリ43に入出力される電流・電圧値を表す検出信号から、バッテリ43の残容量(SOC:State of Charge)の情報を取得する。次に、ECU2は、バッテリ43のSOCに応じた、要求出力に占めるエンジン3の出力する割合を決定する。次に、ECU2は、メモリ45に格納されているENG動作マップを用いて、エンジン3の出力に応じた最適な動作点を導出する。なお、ENG動作マップは、エンジン3の軸回転数とトルクと出力の関係に応じた各動作点の燃料消費率を示すBSFC(Brake Specific Fuel Consumption)に基づくマップである。次に、ECU2は、最適動作点でのエンジン3の軸回転数(以下「要求ENG軸回転数」という。)を導出する。さらに、ECU2は、最適動作点でのエンジン3のトルク(以下「ENG要求トルク」という。)を導出する。
次に、ECU2は、ENG要求トルクを出力するようエンジン3を制御する。次に、ECU2は、エンジン3の軸回転数を検出する。このとき検出されたエンジン3の軸回転数を「実ENG軸回転数」という。次に、ECU2は、要求ENG軸回転数と実ENG軸回転数の差分Δrpmを算出する。ECU2は、差分Δrpmが0に近づくよう、第1回転機21の出力トルクを制御する。当該制御は、第1回転機21のステータ23で回生発電することで行われ、その結果、第1回転機21(MG1)のA2ロータ25には、図24の共線図に示したトルクT12が加わる。
第1回転機21のA2ロータ25にトルクT12が加わることによって、第1回転機21(MG1)のA1ロータ24にトルクT11が生じる。トルクT11は、以下の式(49)によって算出される。
T11=α/(1+α)×T12 …(49)
また、第1回転機21のステータ23での回生発電によって生じた電気エネルギ(回生エネルギ)は第1PDU41に送られる。図24の共線図では、第1回転機21のステータ23で発生した回生エネルギを点線Aで示す。
次に、ECU2は、前に導出した要求駆動力から、上記算出されたトルクT11を差し引いたトルクが第2回転機31のB2ロータ35に加わるよう、第2PDU42を制御する。その結果、第2回転機31(MG2)のB2ロータ35にトルクT22が加わる。なお、図24の共線図は、第2回転機31のステータ33に電気エネルギを供給する場合を示し、そのときの電気エネルギを点線Bで示した。このとき、第2回転機31に電気エネルギを供給する際には、第1回転機21の回生発電で得られた回生エネルギを用いても良い。
このように、第1回転機21のA1ロータ24にはトルクT11が加わり、第2回転機31のB2ロータ35にはトルクT22が加わる。第1回転機21のA1ロータ24は連結軸6と連結しており、第2回転機31のB2ロータ35は第2回転軸7と連結しているため、駆動輪DW,DWにはトルクT11とトルクT22の総和が加わる。
但し、第2回転機31のB2ロータ35にトルクT22が加わることによって、第2回転機31(MG2)のB1ロータ34にはトルクT21が生じる。トルクT21は、以下の式(50)によって表される。
T21=β/(1+β)×T22 …(50)
第2回転機31のB1ロータ34はエンジン3の軸に連結されているため、エンジン3の実ENG軸回転数はトルクT21によって影響を受ける。しかし、実ENG軸回転数が変化しても、ECU2は、差分Δrpmが0に近づくよう、第1回転機21の出力トルクを制御する。当該制御によってトルクT12が変化し、第1回転機21のA1ロータ24に生じるトルクT11も変化するため、ECU2は、第2回転機31のB2ロータ35に加えるトルクT22を変更する。このとき、変更されたトルクT22によって生じるトルクT21も変化する。このように、第2回転機31のB1ロータ34及びB2ロータ35、並びに、第1回転機21のA1ロータ24及びA2ロータ25のそれぞれにかかるトルクが循環して(T12→T11→T22→T21)、各トルクが収束していく。
以上説明したように、ECU2は、エンジン3が最適な動作点で作動するよう、第1回転機21のA2ロータ25に発生するトルクを制御し、かつ、駆動輪DW,DWに要求駆動力が伝達されるよう、第2回転機31のB2ロータ35に発生するトルクを制御している。
上記説明では、要求駆動力を導出する際および要求出力を導出する際に車速VPを用いているが、車速VPの代わりに、車軸の回転数の情報を用いても良い。
<各動作モードにおける動力装置1の動作>
次に、ECU2による制御によって行われる動力装置1の動作について説明する。この動力装置1の動作モードには、EVクリープ、EV発進、EV走行中ENG始動、ENG走行、減速回生、停車中ENG始動、ENGクリープ、ENG発進、EV後退発進およびENG後退発進が含まれる。以下、これらの動作モードについて、図25などのトルクの伝達状況を示す図や、図26(a)、(b)などの各種の回転要素の回転速度の関係を示す速度共線図を参照しながら、EVクリープから順に説明する。この動作モードの説明の前に、これらの速度共線図について説明する。
前述した連結関係から明らかなように、エンジン回転数NE、A2ロータ回転速度VRA2およびB1ロータ回転速度VRB1は、互いに等しい。また、A1ロータ回転速度VRA1およびB2ロータ回転速度VRB2は、互いに等しく、差動ギヤ機構9などによる変速がないものとすれば、車速VPは、A1ロータ回転速度VRA1およびB2ロータ回転速度VRB2と等しい。以上のことと、前記式(43)および(54)から、エンジン回転数NE、車速VP、第1磁界回転速度VMF1、A1ロータ回転速度VRA1、A2ロータ回転速度VRA2、第2磁界回転速度VMF2、B1ロータ回転速度VRB1、およびB2ロータ回転速度VRB2の間の関係は、図26(a)、(b)などの速度共線図によって示される。なお、これらの速度共線図において、第1および第2の極対数比α,βはいずれも、前述したように値2.0である。また、以下の動作モードの説明では、動力装置1のすべての回転要素について、エンジン3のクランク軸3aの正転方向と同方向に回転することを「正転」といい、逆転方向と同方向に回転することを「逆転」という。
・EVクリープ
このEVクリープは、エンジン3を停止した状態で、第1および第2の回転機21,31を用いて、車両のクリープ運転を行う動作モードである。具体的には、第2回転機31のステータ33に、バッテリ43から電力を供給するとともに、それに伴ってステータ33で発生する第2回転磁界を正転させる。また、第1回転機21のA1ロータ24に後述するように伝達される動力を用いて、第1回転機21のステータ23で発電を行うとともに、発電した電力を、ステータ33にさらに供給する。
図25は、上記のEVクリープ中におけるトルクの伝達状況を示している。また、図26(a)は、このEVクリープ中における第1および第2の回転機21,31の各速度共線図の一例を、図26(b)は、図26(a)に示した2つの速度共線図を合成した速度共線図を、それぞれ示している。また、図25および後述するトルクの伝達状況を示す他の図では、矢印付きの太い破線又は実線はトルクの流れを示している。さらに、塗りつぶされた矢印は正転方向に、中抜きの矢印は逆転方向に、それぞれ作用するトルクを示している。また、ステータ23,33では、実際には、トルクは電気エネルギの形態で伝達されるが、図25および後述するトルクの伝達状況を示す他の図では、便宜上、ステータ23,33におけるエネルギの入出力を、トルクの流れの中に、ハッチングを付して示すものとする。さらに、図26(a)、(b)および後述する他の速度共線図では、正転方向を「+」で、逆転方向を「−」でそれぞれ表すものとする。
図25に示すように、EVクリープ中、第2回転機31のステータ33に電力が供給されるのに伴い、ステータ33からの第2駆動用等価トルクTSE2は、B2ロータ35を正転させるように作用するとともに、矢印Aで示すように、B1ロータ34を逆転させるように作用する。また、B2ロータ35に伝達されたトルクの一部は、第2回転軸7や差動ギヤ機構9などを介して駆動輪DW,DWに伝達され、それにより、駆動輪DW,DWが正転する。
さらに、EVクリープ中、B2ロータ35に伝達されたトルクの残りは、連結軸6を介してA1ロータ24に伝達された後、第1回転機21のステータ23での発電に伴って、ステータ23に電気エネルギとして伝達される。また、図26(a)、(b)に示すように、ステータ23での発電に伴って発生する第1回転磁界が逆転する。このため、図25に矢印Bで示すように、このステータ23での発電に伴って発生した第1発電用等価トルクTGE1は、A2ロータ25を正転させるように作用する。また、この第1発電用等価トルクTGE1に釣り合うように、A1ロータ24に伝達されたトルクが、A2ロータ25にさらに伝達され(矢印Cで図示)、A2ロータ25を正転させるように作用する。
この場合、上述した矢印Aで示すB1ロータ34を逆転させるトルクと、矢印Bおよび矢印Cで示すA2ロータ25を正転させるトルクとが釣り合うように、ステータ33に供給される電力とステータ23で発電する電力を制御することによって、互いに連結されたA2ロータ25、B1ロータ34およびクランク軸3aが、静止状態に保持される。その結果、図26(a)、(b)に示すように、EVクリープ中、A2およびB1のロータ回転速度VRA2,VRB1は、値0になり、エンジン回転数NEも値0になる。
また、EVクリープ中、第2回転機31のステータ33に供給される電力と、第1回転機21のステータ23で発電する電力と、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2はそれぞれ、前記式(43)および(44)に示す回転速度の関係が維持されるように、かつA1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2が非常に小さくなるように制御される(図26(a)、(b)参照)。以上により、車速VPが非常に小さなクリープ運転が行われる。以上のように、エンジン3を停止した状態で、第1および第2の回転機21,31の駆動力によってクリープ運転を行うことができる。
・EV発進
このEV発進は、上述したEVクリープ中から、エンジン3を停止した状態で、第1および第2の回転機21,31を用いて、車両を発進させ、走行させる動作モードである。EV発進時、第2回転機31のステータ33に供給される電力および第1回転機21のステータ23で発電する電力をいずれも増大させる。さらに、式(43)および(44)に示す回転速度の関係を維持し、かつA2およびB1のロータ回転速度VRA2,VRB1すなわちエンジン回転数NEを値0に保持しながら、EVクリープ中に逆転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1と、正転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2をそれぞれ、それまでと同じ回転方向に上昇させる。以上により、図28(a)、(b)に太い実線で示すように、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2、すなわち車速VPが、同図に破線で示すEVクリープ状態から上昇し、車両が発進する。なお、EV発進中におけるトルクの伝達状況は、図27に示すように、図25に示したEVクリープ中におけるトルクの伝達状況と同じである。
・EV走行中ENG始動
このEV走行中ENG始動は、上述したEV発進による車両の走行中に、エンジン3を始動する動作モードである。EV走行中ENG始動時、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2、すなわち車速VPをそのときの値に保持しながら、EV発進時に上述したように逆転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を、値0になるように制御するとともに、正転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2を、低下させるように制御する。そして、第1磁界回転速度VMF1が値0になった後には、第2回転機31のステータ33に加え、第1回転機21のステータ23にも、バッテリ43から電力を供給し、ステータ23で発生する第1回転磁界を正転させるとともに、第1磁界回転速度VMF1を上昇させる。
図29は、EV走行中ENG始動時、上記のように両ステータ23,33に電力を供給した状態でのトルクの伝達状況を示している。前述した第2回転機31の機能から、図29に示すように、上記のように電力がステータ33に供給されることによって、第2駆動用等価トルクTSE2がB2ロータ35に伝達されるのに伴い、B1ロータ34に後述するように伝達されたトルクが、B2ロータ35に伝達される。すなわち、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に伝達されたB1ロータ伝達トルクTRB1が合成され、B2ロータ35に伝達される。また、B2ロータ35に伝達されたトルクの一部は、連結軸6を介してA1ロータ24に伝達され、残りは、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達される。
さらに、EV走行中ENG始動時、前述した第1回転機21の機能から、図29に示すように、バッテリ43から電力がステータ23に供給されることによって、第1駆動用等価トルクTSE1がA2ロータ25に伝達されるのに伴い、A1ロータ24に上記のように伝達されたトルクが、A2ロータ25に伝達される。すなわち、第1駆動用等価トルクTSE1と、A1ロータ24に伝達されたA1ロータ伝達トルクTRA1が合成され、A2ロータ25に伝達される。また、A2ロータ25に伝達されたトルクの一部は、第1回転軸4を介してB1ロータ34に伝達され、残りは、第1回転軸4およびフライホイール5を介してクランク軸3aに伝達され、それにより、クランク軸3aが正転する。さらに、この場合、両ステータ23,33に供給される電力は、駆動輪DW,DWおよびエンジン3に動力が十分に伝達されるように制御される。
以上により、図30に太い実線で示すように、EV走行中ENG始動時、車速VPがそのときの値に保持されるとともに、A2およびB1のロータ回転速度VRA2,VRB1が破線で示す値0の状態から上昇し、A2およびB1のロータ25,34に連結されたクランク軸3aの回転速度、すなわちエンジン回転数NEも上昇する。その状態で、検出されたクランク角度位置に応じ、エンジン3の燃料噴射弁や点火プラグ(いずれも図示せず)の点火動作を制御することによって、エンジン3が始動される。また、この場合、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2を制御することによって、エンジン回転数NEが、エンジン3の始動に適した比較的小さな値に制御される。
図31は、図30に示した2つの速度共線図を合成した速度共線図を示している。同図において、TDENGは、エンジン3のクランク軸3aに伝達されるトルク(以下「エンジン伝達トルク」という)であり、TDDWは、駆動輪DW,DWに伝達されるトルク(以下「駆動輪伝達トルク」という)である。この場合、図31から明らかなように、第2駆動用等価トルクTSE2が、第1発電用等価トルクTGE1を反力として、駆動輪DW,DWおよびクランク軸3aの双方に伝達されるため、第1回転機21に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第1回転機21に要求されるトルクすなわち第1発電用等価トルクTGE1は、次式(51)で表される。
TGE1=−{β・TDDW+(β+1)TDENG}/(α+1+β)……(51)
この式(51)から明らかなように、第1極対数比αが大きいほど、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジン伝達トルクTDENGに対して、第1発電用等価トルクTGE1は小さくなる。本実施形態では、第1極対数比αが値2.0に設定されいるので、値1.0未満に設定した場合よりも第1発電用等価トルクTGE1を小さくすることができる。
・ENG走行
このENG走行は、エンジン3の動力を用いて、車両を走行させる運転モードである。ENG走行中、エンジン3における燃焼によってクランク軸3aに出力される動力(以下「エンジン動力」という)を、基本的には、要求トルクを発生できる範囲で、最良の燃費(以下「最良燃費」という)が得られるように制御する。この要求トルクは、車両に要求されるトルクであり、例えば、検出された車速VPおよびアクセル開度APに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって算出される。また、ENG走行中、A2ロータ25に伝達されるエンジン動力を用いて、第1回転機21のステータ23で発電を行うとともに、発電した電力を、バッテリ43に充電せずに、第2回転機31のステータ33に供給する。以下、この運転モードを「バッテリ入出力ゼロモード」という。図32は、このバッテリ入出力ゼロモードにおけるトルクの伝達状況を示している。
前述した第1回転機21の機能から、図32に示すように、バッテリ入出力ゼロモード中、エンジン3における燃焼によってクランク軸3aに出力されるトルク(以下「エンジントルク」という)の一部が、A2ロータ25を介して、ステータ23に第1発電用等価トルクTGE1として伝達されるのに伴い、A1ロータ24にも、A2ロータ25を介して、エンジントルクの一部が伝達される。すなわち、A2ロータ25に、エンジントルクの一部が伝達されるとともに、このA2ロータ25に伝達されたエンジントルクが、ステータ23およびA1ロータ24に分配される。また、エンジントルクの残りは、第1回転軸4を介してB1ロータ34に伝達される。
また、前述したEV走行中ENG始動時と同様、第2駆動用等価トルクTSE2とB1ロータ伝達トルクTRB1は、合成され、B2ロータ35にB2ロータ伝達トルクTRB2として伝達される。このため、バッテリ入出力ゼロモード中、上記のように第1回転機21のステータ23で発電した電力が、第2回転機31のステータ33に供給されることによって、第2駆動用等価トルクTSE2がB2ロータ35に伝達されるのに伴い、B1ロータ34に上記のように伝達されたエンジントルクが、B2ロータ35に伝達される。また、B2ロータ35には、A1ロータ24に上記のように分配されたエンジントルクが、連結軸6を介してさらに伝達される。
以上のように、B2ロータ35には、A1ロータ24に分配されたエンジントルクと、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクとを合成した合成トルクが伝達される。また、この合成トルクは、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、バッテリ入出力ゼロモード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、駆動輪DW,DWには、エンジン動力と等しい大きさの動力が伝達される。
さらに、バッテリ入出力ゼロモード中には、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2を制御することによって、エンジン動力が、無段階に変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。すなわち、第1および第2の回転機21,31は、無段変速装置として機能する。
具体的には、図33(a)、(b)に二点鎖線で示すように、式(43)および(44)に示す速度関係を維持しながら、A2およびB1のロータ回転速度VRA2,VRB1すなわちエンジン回転数NEに対して、第1磁界回転速度VMF1を上昇させるとともに、第2磁界回転速度VMF2を低下させることによって、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2すなわち車速VPを、無段階に減速することができる。逆に、図33(a)、(b)に一点鎖線で示すように、A2およびB1のロータ回転速度VRA2,VRB1に対して、第1磁界回転速度VMF1を低下させるとともに、第2磁界回転速度VMF2を上昇させることによって、車速VPを無段階に増速することができる。
また、この場合、エンジン回転数NEが目標回転数になるように、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2を制御する。この目標回転数は、例えば、車速VPおよび算出された要求トルクに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって算出される。このマップでは、目標回転数は、そのときの車速VPおよび要求トルクに対して、エンジン3の最良燃費が得られるような値に設定されている。
以上のように、バッテリ入出力ゼロモード中、第1および第2の回転機21,31において、エンジン動力は、一旦、分割され、次の第1〜第3の伝達経路を介してB2ロータ35に伝達されるとともに、合成された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
第1伝達経路:A2ロータ25→磁力線MLによる磁力→A1ロータ24→連結軸6→B2ロータ35
第2伝達経路:B1ロータ34→磁力線MLによる磁力→B2ロータ35
第3伝達経路:A2ロータ25→磁力線MLによる磁力→ステータ23→第1PDU41→第2PDU42→ステータ33→磁力線MLによる磁力→B2ロータ35
これらの第1および第2の伝達経路では、エンジン動力が、電力に変換されることなく、磁力線MLによる磁力によって、いわゆる磁気パスによって駆動輪DW,DWに伝達される。また、上記の第3伝達経路では、エンジン動力が、電力に一旦、変換され、動力に再度、戻され、いわゆる電気パスによって駆動輪DW,DWに伝達される。
また、バッテリ入出力ゼロモード中、ステータ23で発電する電力と、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2は、式(43)および(44)に示す速度関係が維持されるように制御される。
一方、ENG走行中、算出された要求トルクおよび充電状態に基づく次の条件(a)および(b)がいずれも成立しているときには、エンジン3を第2回転機31でアシストする。以下、この運転モードを「アシストモード」という。
(a)要求トルク>第1所定値
(b)充電状態>下限値
ここで、第1所定値は、例えば、車速VPに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって算出される。このマップでは、第1所定値は、そのときの車速VPに対して、エンジン3の最良燃費が得られるようなトルク値に設定されている。上記の下限値は、バッテリ43が過放電にならないような値に設定されている。このように、アシストモードによる運転は、そのときの車速VPおよび要求トルクで表される車両を駆動するのに必要な動力(以下「車両要求動力」という)が、最良燃費が得られるエンジン動力よりも大きいときに、かつバッテリ43に電力が十分に残っているときに行われる。
具体的には、上述したバッテリ入出力ゼロモードと同様、A2ロータ25に伝達されるエンジン動力を用いて、ステータ23で発電を行う。また、この場合、バッテリ入出力ゼロモードと異なり、図34に示すように、この発電した電力に加え、バッテリ43に充電されている電力を、ステータ33に供給する。このため、B2ロータ35には、ステータ23およびバッテリ43から供給された電力に基づく第2駆動用等価トルクTSE2が伝達される。さらに、バッテリ入出力ゼロモードと同様、この第2駆動用等価トルクTSE2と、発電に伴ってA1ロータ24に分配されたエンジントルクと、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクとを合成したトルクが、B2ロータ35を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、アシストモード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、駆動輪DW,DWに伝達される動力は、エンジン動力とバッテリ43から供給された電力(エネルギ)との和に等しくなる。
また、アシストモード中には、ステータ23で発電する電力と、バッテリ43からステータ33に供給される電力と、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2は、式(43)および(44)に示す速度関係が維持されるように制御される。その結果、車両要求動力に対するエンジン動力の不足分が、バッテリ43からステータ33に電力を供給することによって補われる。なお、上述した例は、車両要求動力に対するエンジン動力の不足分が比較的小さい場合の例であるが、比較的大きい場合には、第2回転機31のステータ33に加え、第1回転機21のステータ23にも、バッテリ43から電力が供給される。
一方、ENG走行中、次の条件(c)および(d)がいずれも成立しているときには、上述したようにエンジン動力を用いて第1回転機21のステータ23で発電した電力の一部を、バッテリ43に充電し、残りを第2回転機31のステータ33に供給する。以下、この運転モードを「駆動時充電モード」という。
(c)要求トルク<第2所定値
(d)充電状態<上限値
ここで、第2所定値は、例えば、車速VPに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって算出される。このマップでは、第2所定値は、そのときの車速VPに対して、最良燃費が得られるようなトルク値よりも小さな値に設定されている。上限値は、バッテリ43が過充電にならないような値に設定されている。このように、駆動時充電モードによる運転は、車両要求動力が、最良燃費が得られるエンジン動力よりも小さいときに、かつ充電状態が比較的小さいときに行われる。
図35に示すように、この駆動時充電モード中、前述したバッテリ入出力ゼロモードと異なり、第2回転機31のステータ33には、第1回転機21のステータ23で発電した電力からバッテリ43に充電される電力を差し引いた大きさの電力が供給され、この電力に基づく第2駆動用等価トルクTSE2が、B2ロータ35に伝達される。また、バッテリ入出力ゼロモードと同様、この第2駆動用等価トルクTSE2と、発電に伴ってA1ロータ24に分配されたエンジントルクと、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクとを合成したトルクが、B2ロータ35を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、駆動時充電モード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、駆動輪DW,DWに伝達される動力は、エンジン動力からバッテリ43に充電された電力(エネルギ)を差し引いた大きさになる。
また、駆動時充電モード中には、ステータ23で発電する電力と、バッテリ43に充電される電力と、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2は、式(43)および(44)に示す速度関係が維持されるように制御される。その結果、車両要求動力に対するエンジン動力の余剰分が、第1回転機21のステータ23において電力に変換され、バッテリ43に充電される。
また、ENG走行中、第1回転機21のステータ23で発電を行わずに、バッテリ43から第2回転機31のステータ33に電力を供給するとともに、この電力を、第2駆動用等価トルクTSE2がエンジントルクの1/2になるように制御した場合には、前記式(45)から明らかなように、エンジントルクのすべてと第2駆動用等価トルクTSE2が、B2ロータ35において合成された後、駆動輪DW,DWに伝達される。すなわち、この場合には、エンジン動力のすべてを、前述した電気パスによって伝達せずに、磁気パスのみによって駆動輪DW,DWに伝達することができる。また、この場合、駆動輪DW,DWには、エンジントルクの3/2倍の大きさのトルクが伝達される。
さらに、第1回転機21のステータ23で発電する電力を、第1発電用等価トルクTGE1がエンジントルクの1/3になるように制御した場合には、エンジン3から駆動輪DW,DWへの動力の伝達を、磁気パスのみによって行うことができる。この場合、駆動輪DW,DWには、エンジントルクの2/3倍の大きさのトルクが伝達される。
また、ENG走行中、低速状態の車速VPを急速に上昇させる場合(以下、このような運転を「ENG走行中の急加速運転」という)、エンジン3、第1および第2の回転機21,31は次のようにして制御される。図36(a)は、このENG走行中の急加速運転の開始時における第1および第2の回転機21,31の各速度共線図の一例を、図36(b)は、図36(a)に示した2つの速度共線図を合成した速度共線図を、それぞれ示している。同図において、TENGはエンジン3トルクである。この場合、エンジン回転数NEを、その最大トルクが得られるような所定の回転数に高める。図36(a)、(b)に示すように、車速VPがすぐには上昇しないため、エンジン回転数NEが車速VPよりも高くなるとともに、両者の差が大きくなることから、両者の関係によって定まる第2回転磁界の回転方向は、逆転方向になる。このため、そのような第2回転磁界を発生させる第2回転機31のステータ33から正のトルクを駆動輪DW,DWに作用させるために、ステータ33において発電を行う。さらに、ステータ33で発電した電力を第1回転機21のステータ23に供給するとともに、第1回転磁界を正転させる。
以上により、エンジントルクTENG、第1駆動用等価トルクTSE1および第2発電用等価トルクTGE2はいずれも、正のトルクとして駆動輪DW,DWに伝達され、その結果、車速VPが急速に上昇する。また、ENG走行中の急加速運転の開始時には、図36(a)、(b)から明らかなように、エンジントルクTENGおよび第1駆動用等価トルクTSE1が第2発電用等価トルクTGE2を反力として駆動輪DW,DWに伝達されるため、第2回転機31に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第2回転機31に要求されるトルクすなわち第2発電用等価トルクTGE2は、次式(52)で表される。
TGE2=−{α・TENG+(1+α)TDDW}/(β+1+α) ……(52)
この式(52)から明らかなように、第2極対数比βが大きいほど、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジントルクTENGに対して、第2発電用等価トルクTGE2が小さくなる。本実施形態では、第2極対数比βが値2.0に設定されているので、値1.0未満に設定した場合よりも第2駆動用等価トルクTSE2を小さくすることができる。
・減速回生
この減速回生は、車両の減速走行中、すなわち車両が惰性で走行しているときに、駆動輪DW,DWの慣性エネルギを用いて、第1回転機21や第2回転機31において発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ43に充電する動作モードである。減速回生中、駆動輪DW,DWのトルク(慣性によるトルク)に対する、エンジン3に伝達される駆動輪DW,DWのトルクの割合が小さいときには、駆動輪DW,DWの動力の一部を用いて両ステータ23,33で発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ43に充電する。具体的には、この発電は、第1回転機21のステータ23では、A2ロータ25に後述するように伝達される動力を用いて行われ、第2回転機31のステータ33では、B2ロータ35に後述するように伝達される動力を用いて行われる。
図37は、上記の減速回生中におけるトルクの伝達状況を示している。また、図38(a)は、この減速回生中における第1および第2の回転機21,31の各速度共線図の一例を、図38(b)は、図38(a)に示した2つの速度共線図を合成した速度共線図を、それぞれ示している。同図に示すように、ステータ33での発電に伴い、B2ロータ35には、駆動輪DW,DWのトルクの全部と、A1ロータ24に後述するように分配されたトルクとを合成した合成トルクが伝達される。また、前述した第2回転機31の機能から、B2ロータ35に伝達された上記の合成トルクは、ステータ33およびB1ロータ34に分配される。
さらに、B1ロータ34に分配されたトルクの一部は、エンジン3に伝達され、残りは、前述したバッテリ入出力ゼロモードの場合と同様、ステータ23での発電に伴い、A2ロータ25に伝達された後、ステータ23およびA1ロータ24に分配される。また、A1ロータ24に分配されたトルクは、B2ロータ35に伝達される。以上の結果、減速回生中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、エンジン3に伝達される動力と、バッテリ43に充電される電力(エネルギ)との和は、駆動輪DW,DWの動力と等しくなる。
・停車中ENG始動
この停車中ENG始動は、車両の停止中に、エンジン3を始動する動作モードである。停車中ENG始動時、第1回転機21のステータ23に、バッテリ43から電力を供給し、それに伴ってステータ23で発生する第1回転磁界を正転させるとともに、B1ロータ34に後述するように伝達される動力を用いて、ステータ33で発電を行い、発電した電力をステータ23にさらに供給する。
図39は、上記の停車中ENG始動時におけるトルクの伝達状況を示している。また、図40(a)は、この停車中ENG始動時における第1および第2の回転機21,31の各速度共線図の一例を、図40(b)は、図40(a)に示した2つの速度共線図を合成した速度共線図を、それぞれ示している。図39に示すように、停車中ENG始動時、ステータ23に電力が供給されるのに伴い、ステータ23からの第1駆動用等価トルクTSE1は、A2ロータ25を正転させるように作用するとともに、矢印Dで示すように、A1ロータ24を逆転させるように作用する。また、A2ロータ25に伝達されたトルクの一部は、クランク軸3aに伝達され、それにより、クランク軸3aが正転する。
さらに、停車中ENG始動時、A2ロータ25に伝達されたトルクの残りは、B1ロータ34に伝達された後、第2回転機31のステータ33での発電に伴って、ステータ33に電気エネルギとして伝達される。また、図40(a)、(b)に太い実線で示すように、ステータ33での発電に伴って発生する第2回転磁界が逆転する。このため、図39に矢印Eで示すように、このステータ33での発電に伴って発生した第2発電用等価トルクTGE2は、B2ロータ35を正転させるように作用する。また、この第2発電用等価トルクTGE2に釣り合うように、B1ロータ34に伝達されたトルクが、B2ロータ35にさらに伝達され(矢印Fで図示)、B2ロータ35を正転させるように作用する。
この場合、上述した矢印Dで示すA1ロータ24を逆転させるトルクと、矢印EおよびFで示すB2ロータ35を正転させるトルクとが釣り合うように、第1回転機21のステータ23に供給される電力と第2回転機31のステータ33で発電する電力を制御することによって、互いに連結されたA1ロータ24、B2ロータ35および駆動輪DW,DWが、静止状態に保持される。その結果、図40(a)、(b)に示すように、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2は、値0になり、車速VPも値0になる。
また、この場合、ステータ23に供給される電力とステータ33で発電する電力と第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2は、前記式(43)および(44)に示す速度関係が維持されるように、かつA2およびB1のロータ回転速度VRA2,VRB1が比較的小さな値になるように制御される(図40(a)、(b)参照)。以上により、停車中ENG始動時、車速VPを値0に保持しながら、エンジン回転数NEが、エンジン3の始動に適した比較的小さな値に制御される。また、その状態で、クランク角度位置に応じ、エンジン3の燃料噴射弁や点火プラグの点火動作を制御することによって、エンジン3が始動される。
・ENGクリープ
このENGクリープは、エンジン動力を用いて、車両のクリープ運転を行う動作モードである。ENGクリープ中、A2ロータ25に伝達されるエンジン動力を用いて、ステータ23で発電を行うとともに、B1ロータ34に伝達されるエンジン動力を用いて、ステータ33で発電を行う。また、このように両ステータ23,33で発電した電力を、バッテリ43に充電する。
図41は、上記のENGクリープ中におけるトルクの伝達状況を示している。また、図42(a)は、このENGクリープ中における第1および第2の回転機21,31の各速度共線図の一例を、図42(b)は、図42(a)に示した2つの速度共線図を合成した速度共線図を、それぞれ示している。図41に示すように、このENGクリープ中には、前述したバッテリ入出力ゼロモードの場合と同様、上記のステータ23での発電に伴って、A2ロータ25にエンジントルクTENGの一部が伝達されるとともに、A2ロータ25に伝達されたエンジントルクTENGが、ステータ23およびA1ロータ24に分配される。また、図42(a)、(b)に示すように、ステータ33での発電に伴って発生する第2回転磁界が逆転する。このため、図41に示すように、車速VPがほぼ値0であるのに対し、クランク軸3aが正転しているため、この発電に伴って発生した第2発電用等価トルクTGE2は、上述した停車中ENG始動の場合と同様、B2ロータ35を正転させるように作用する。また、この第2発電用等価トルクTGE2に釣り合うように、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGが、B2ロータ35にさらに伝達され、B2ロータ35を正転させるように作用する。さらに、B2ロータ35には、上記のようにA1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGが伝達される。
以上のように、ENGクリープ中、B2ロータ35には、A1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGと、第2発電用等価トルクTGE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGとを合成した合成トルクが伝達される。また、この合成トルクは、駆動輪DW,DWに伝達され、駆動輪DW,DWを正転させる。さらに、ステータ23,33において発電する電力、ならびに第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2は、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2すなわち車速VPが非常に小さくなるように制御され(図42(a)、(b)参照)、それにより、クリープ運転が行われる。
また、このENGクリープ中には、上述したように、ステータ23での発電に伴ってA1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGと、ステータ33での発電に伴ってB1ロータ34を介してB2ロータ35に伝達されたエンジントルクTENGが、駆動輪DW,DWに伝達される。すなわち、エンジントルクTENGの一部を駆動輪DW,DWに伝達できるので、駆動輪DW,DWから大きな反力がエンジン3に作用するのを防止でき、したがって、エンジンストールを生じることなく、クリープ運転を行うことができる。なお、以上のENGクリープによる運転は、主として、充電状態が小さいときや車両の登坂時などに行われる。
・ENG発進
このENG発進は、エンジン動力を用いて車両を発進させる動作モードである。図43は、このENG発進時におけるトルクの伝達状況を示している。ENG発進時、ENGクリープ中に逆転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2を、値0になるように制御し、正転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を上昇させるとともに、エンジン動力を増大させる。そして、第2磁界回転速度VMF2が値0になった後には、前述したバッテリ入出力ゼロモードによる運転を行う。以上により、図44(a)、(b)に太い実線で示すように、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2すなわち車速VPが、同図に破線で示すENGクリープ状態から上昇し、車両が発進する。
・EV後退発進
このEV後退発進は、エンジン3を停止した状態で、第1および第2の回転機21,31を用いて、車両を後退発進させ、走行させる動作モードである。図45は、EV後退発進中におけるトルクの伝達状況を示している。また、図46(a)は、このEV後退発進中における第1および第2の回転機21,31の各速度共線図の一例を、図46(b)は、図46(a)に示した2つの速度共線図を合成した速度共線図を、それぞれ示している。
EV後退発進時、第2回転機31のステータ33および第1回転機21のステータ23の双方に、バッテリ43から電力を供給する。その結果、ステータ23で発生する第1回転磁界を正転させ、ステータ33で発生する第2回転磁界を正転させる。図46(a)、(b)に示すように、EV後退発進中、第1回転機21のステータ23に電力が供給されるのに伴い、ステータ23からの第1駆動用等価トルクは、A2ロータ25を正転させるように作用するとともに、A1ロータ24を逆転させるように作用する。また、第2回転機31のステータ33に電力が供給されるのに伴い、ステータ33からの第2駆動用等価トルクTSE2は、B2ロータ35を逆転させるように作用するとともに、B1ロータ24を正転させるように作用する。以上により、図46(a)、(b)に太い実線で示すように、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2、すなわち車速VPが、同図に破線で示す停止状態から負の方向に上昇し、車両が後退発進する。
・ENG後退発進
このENG後退発進は、エンジン動力を用いて車両を後退発進させる動作モードである。図47は、このENG後退発進中におけるトルクの伝達状況を示している。ENG後退発進時、ENGクリープ中に逆転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2がさらに負の方向に上昇するよう制御し、かつ、正転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を上昇させるとともに、エンジン動力を増大させる。以上により、図48(a)、(b)に太い実線で示すように、車速VPが同図に破線で示すENGクリープ状態から負の方向に上昇し、車両が後退発進する。
以上のように、本実施形態によれば、第1および第2の回転機21,31が遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機を組み合わせた装置と同じ機能を有するので、前述した従来の動力装置と異なり、動力を分配・合成して伝達するための遊星歯車装置は不要であり、したがって、その分、動力装置1を小型化することができる。また、前述した従来の場合と異なり、図32を用いて説明したように、エンジン動力が再循環せずに駆動輪DW,DWに伝達されるので、第1および第2の回転機21,31を通過する動力を低減できる。したがって、第1および第2の回転機21,31の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置1のさらなる小型化とコストの削減を達成することができる。さらに、上記のように低減された動力に見合ったトルク容量を有する第1および第2の回転機21,31を用いることによって、動力の損失を抑制し、動力装置1の駆動効率を高めることができる。
また、エンジン動力は、前述した第1伝達経路(A2ロータ25、磁力線MLによる磁力、A1ロータ24、連結軸6、B2ロータ35)と、第2伝達経路(B1ロータ34、磁力線MLによる磁力、B2ロータ35)と、第3伝達経路(A2ロータ25、磁力線MLによる磁力、ステータ23、第1PDU41、第2PDU42、ステータ33、磁力線MLによる磁力、B2ロータ35)の計3つの経路を介して、分割された状態で駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、第3伝達経路を介して第1および第2のPDU41,42を通過する電力(エネルギ)を低減できるので、第1および第2のPDU41,42の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置1のさらなる小型化およびコストの削減を達成することができる。さらに、第3伝達経路では、エンジン動力を電気パスによって駆動輪DW,DWに伝達するのに対し、第1および第2の伝達経路では、磁気パスによって動力を駆動輪DW,DWに伝達するので、第3伝達経路よりも伝達効率が高い。
また、図33(a)、(b)を用いて説明したように、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2を制御することによって、エンジン動力が無段階に変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、この場合、エンジン回転数NEが、最良燃費が得られるように設定された目標回転数になるように、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2を制御するので、最良燃費が得られるようにエンジン動力を制御しながら、駆動輪DW,DWを駆動することができる。したがって、動力装置1の駆動効率をより一層、高めることができる。
また、第1回転機21の第1極対数比αが値2.0に設定されているので、第1回転機21に要求されるトルクが特に大きくなるEV走行中ENG始動時、前記式(51)を用いて説明したように、第1極対数比αを値1.0未満に設定した場合よりも第1発電用等価トルクTGE1を小さくすることができ、したがって、第1回転機21のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。さらに、第2回転機31の第2極対数比βが値2.0に設定されているので、第2回転機31に要求されるトルクが特に大きくなるENG走行中の急加速運転の開始時、前記式(52)を用いて説明したように、第2極対数比βを値1.0未満に設定した場合よりも第2駆動用等価トルクTSE2を小さくすることができ、したがって、第2回転機31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、駆動時充電モードによる運転が、最良燃費が得られるエンジン動力に対して車両要求動力が小さいときに行われ、この駆動時充電モード中、エンジン動力を最良燃費が得られるように制御するとともに、車両要求動力に対するエンジン動力の余剰分が電力として、バッテリ43に充電される。また、アシストモードによる運転が、最良燃費が得られるエンジン動力に対して車両要求動力が大きいときに行われ、このアシストモード中、エンジン動力を最良燃費が得られるように制御するとともに、車両要求動力に対するエンジン動力の不足分が、バッテリ43からの電力の供給によって補われる。したがって、駆動輪DW,DWの負荷の大きさにかかわらず、動力装置1の駆動効率をさらに高めることができる。
<バッテリSOCに応じた制御>
上記説明したように、本実施形態の動力装置1の動作モードに応じて、バッテリ43から第1回転機21および/または第2回転機31に電力が供給され、また、第1回転機21および/または第2回転機31で発電された電力がバッテリ43に充電される。また、上記説明したように、ECU2は、電流電圧センサ56からの検出信号に基づいてバッテリ43の充電状態を算出する。
バッテリ43は、ニッケル水素電池またはリチウムイオン電池等の2次電池によって構成されている。2次電池の性能を十分に活用するためには、その残容量(SOC:State of Charge)を常に監視し、過充電および過放電を防止する必要がある。したがって、本実施形態のECU2は、バッテリ43のSOC(以下「バッテリSOC」という)に応じた制御を行う。図49は、充放電が繰り返されるバッテリSOCの範囲を示す図である。図49に示すように、ECU2は、バッテリSOCが下限SOCから上限SOCまでの範囲内に収まるよう、エンジン3、第1および第2の回転機21,31の動作を制御する。
<ENG発進時の過充電防止制御>
動作装置1の動作モードが「ENG発進」のとき、図43に示したように、第1回転機21のステータ23では回生発電が行われる。また、図44(a)、(b)に破線で示したように、動作装置1がENG発進の動作を行った直後、第2回転機31のステータ33における第2回転磁界の回転方向は逆転方向であり、ステータ33からは正のトルクがB2ロータ35に作用されるため、ステータ33でも回生発電が行われる。このとき、バッテリ43は、第1回転機21および第2回転機31の双方からの回生エネルギによって充電される。
また、動作装置1がENG発進の動作を継続し、図44(a)、(b)に太い実線で示したように、第2回転機31のステータ33における第2回転磁界の回転方向が正転方向になると、ステータ33は力行運転状態となるため、電気エネルギを消費する。このとき、第2回転機31に供給される電気エネルギは、第1回転機21の回生発電で得られた回生エネルギが用いられる。なお、第1回転機21で得られる回生エネルギが第2回転機31で消費される電気エネルギよりも大きいとき、バッテリ43は、余った回生エネルギによって充電される。
このように、動作装置1の動作モードが「ENG発進」のとき、バッテリ43は回生エネルギによって充電される。しかし、バッテリSOCが上限SOCに近い状態でバッテリ43が充電されると、バッテリSOCが上限SOCを超えてしまうおそれがある。したがって、ECU2は、バッテリSOCが図49に示した上限SOCよりも低い第1しきい値以上のとき、以下説明する制御を行う。
動作装置1の動作モードが「ENG発進」であって、バッテリSOCが第1しきい値以上のとき、ECU2は、図23を参照して説明したエンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルク(トルクT12)を変えずに作動するようエンジン3を制御する。図50(a)、(b)は、動作装置1の動作モードが「ENG発進」時の、(a)バッテリSOCが第1しきい値未満のときの速度共線図と、(b)バッテリSOCが第1しきい値以上のときの速度共線図とを示す。図50(b)に示すように、エンジン3の軸回転数が低く制限されると、第1回転機21のステータ23における第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1は、図50(a)に示した第1磁界回転速度VMF1よりも低くなるよう制御される。その結果、図50(b)に示した場合の第1回転機21で発生する回生エネルギは、図50(a)に示した場合の回生エネルギよりも低くなる。なお、第2回転機31のステータ33における第2回転磁界の回転方向が逆転方向のとき、図50(b)に示した場合の第2回転機31で発生する回生エネルギは、図50(a)に示した場合の回生エネルギよりも低くなる。さらに、第2回転機31のステータ33における第2回転磁界の回転方向が正転方向のとき、図50(b)に示した場合の第2回転機31で消費されるエネルギは、図50(a)に示した場合の消費エネルギよりも高くなる。
このように、動作装置1の動作モードが「ENG発進」のとき、要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルクを変えずに作動するようECU2がエンジン3を制御することによって、バッテリ43への充電量が低下する。したがって、バッテリSOCが上限SOCに近い第1しきい値以上のとき、ECU2が当該制御を行うことによって、バッテリ43の過充電を防止できる。但し、当該制御の結果、エンジン3の出力は低下する。しかし、図50(b)に示したように第2回転機31からのトルクが加わるため、駆動輪DW,DWに伝達される出力トルクは変わらない。
なお、上記説明した制御時にECU2がエンジン3に要求するトルクは、図23を参照して説明したENG要求トルク未満であっても良い。最適動作点で作動するようエンジン3を制御する場合、ECU2は、上記制御時の軸回転数に応じたトルクを出力するようエンジン3を制御する。エンジン3の軸回転数が低い状態での最適動作点におけるトルクは軸回転数に略比例するため、このときのトルクはENG要求トルクよりも小さい。このような制御を行うとエンジン3の出力はさらに低下するが、エンジン3を最適動作点で作動できる。
また、上記制御では、エンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で作動するようエンジン3を制御している。しかし、エンジン3に要求されたトルクに対する第1回転機21のステータ23に発生する単位時間当たりの回生エネルギが規定値を超える場合には、図23を参照して説明したENG要求トルクよりも低いトルクを出力するようエンジン3を制御しても良い。なお、このとき、エンジン3の軸回転数は、図23を参照して説明した要求ENG軸回転数と同一であっても、それ以下であっても良い。
<EV走行時の過放電防止制御>
動作装置1の動作モードが「EV走行」のとき、図27に示したように、第2回転機31のステータ33は力行運転状態であり、第1回転機21のステータ23では回生発電が行われる。第1回転機21の回生発電で得られた回生エネルギはステータ33に送られるが、足りない電力はバッテリ43から供給される。
このように、動作装置1の動作モードが「EV走行」のとき、バッテリ43は放電する。しかし、バッテリSOCが下限SOCに近い状態でバッテリ43が放電されると、バッテリSOCが下限SOCを下回るおそれがある。したがって、ECU2は、バッテリSOCが図49に示した下限SOCよりも高い第2しきい値以下のとき、以下説明する制御を行う。
動作装置1の動作モードが「EV走行」であって、バッテリSOCが第2しきい以下のとき、ECU2は、最適動作点でエンジン3を作動するよう制御する。図51(a)、(b)は、動作装置1の動作モードが「EV走行」時の、(a)バッテリSOCが第2しきい値より高いときの速度共線図と、(b)バッテリSOCが第2しきい値以下のときの速度共線図とを示す。図51(b)に示すように、エンジン3を駆動すると、第2回転機31のステータ33における第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2は、図51(a)に示した第2磁界回転速度VMF2よりも低くなるよう制御される。その結果、第2回転機31で消費されるエネルギは低下する。なお、当該制御時のエンジン3の軸回転数は、第1回転機21のステータ23における第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1が0に制御されるまでの回転数を上限とする。
このように、動作装置1の動作モードが「EV走行」のとき、エンジン3を作動するよう制御することによって、バッテリ43の放電量が低下する。したがって、バッテリSOCが下限SOCに近い第2しきい値以下のとき、ECU2が当該制御を行うことによって、バッテリ43の過放電を防止できる。
なお、第2しきい値は可変である。第1回転機21がエンジン3を始動する際に必要とされるエネルギは車速VPによって異なり、車速VPが高いときほど必要とされるエネルギは大きい。したがって、ECU2は、車速VPに応じた第2しきい値を設定する。すなわち、ECU2は、車速VPが高いときほど第2しきい値を高く設定する。
<ENG後退発進時の過放電防止制御>
動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」のとき、図47に示したように、第2回転機31のステータ33は力行運転状態であり、第1回転機21のステータ23では回生発電が行われる。第1回転機21の回生発電で得られた回生エネルギはステータ33に送られるが、足りない電力はバッテリ43から供給される。
このように、動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」のとき、バッテリ43は放電する。しかし、バッテリSOCが下限SOCに近い状態でバッテリ43が放電されると、バッテリSOCが下限SOCを下回るおそれがある。したがって、ECU2は、バッテリSOCが図49に示した下限SOCよりも高い第2しきい値以下のとき、以下説明する制御を行う。
動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」であって、バッテリSOCが第2しきい以下のとき、ECU2は、図23を参照して説明したエンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルク(トルクT12)を変えずに作動するようエンジン3を制御する。図52(a)、(b)は、動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」時の、(a)バッテリSOCが第2しきい値より高いときの速度共線図と、(b)バッテリSOCが第2しきい値以下のときの速度共線図とを示す。図52(b)に示すように、エンジン3の軸回転数が低く制限されると、第2回転機31のステータ33における第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2の絶対値は、図52(a)に示した第2磁界回転速度VMF2の絶対値よりも低くなるよう制御される。その結果、第2回転機31で消費されるエネルギは低下する。
このように、動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」のとき、要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルクを変えずに作動するようECU2がエンジン3を制御することによって、バッテリ43の放電量が低下する。したがって、バッテリSOCが下限SOCに近い第2しきい値以下のとき、ECU2が当該制御を行うことによって、バッテリ43の過放電を防止できる。但し、当該制御の結果、エンジン3の出力は低下する。しかし、エンジン3の出力トルクは変わらないため、駆動輪DW,DWに伝達される出力トルクは変わらない。
なお、上記説明した制御時にECU2がエンジン3に要求するトルクは、図23を参照して説明したENG要求トルク未満であっても良い。最適動作点で作動するようエンジン3を制御する場合、ECU2は、上記制御時の軸回転数に応じたトルクを出力するようエンジン3を制御する。エンジン3の軸回転数が低い状態での最適動作点におけるトルクは軸回転数に略比例するため、このときのトルクはENG要求トルクよりも小さい。このような制御を行うとエンジン3の出力はさらに低下するが、エンジン3を最適動作点で作動できる。
また、上記制御では、エンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で作動するようエンジン3を制御している。しかし、エンジン3に要求されたトルクに対する第2回転機31のステータ33で消費される単位時間当たりのエネルギが規定値を超える場合には、図23を参照して説明したENG要求トルクよりも低いトルクを出力するようエンジン3を制御しても良い。なお、このとき、エンジン3の軸回転数は、図23を参照して説明した要求ENG軸回転数と同一であっても、それ以下であっても良い。
(第2〜第5の実施形態)
次に、図53〜図56を参照しながら、第2〜第5の実施形態による動力装置1A,1B,1C,1Dについて説明する。これらの動力装置1A〜1Dはそれぞれ、第1実施形態と比較して、変速装置61,71,81,91をさらに備える点が主に異なっており、第2〜第5の実施形態のいずれにおいても、エンジン3と第1および第2の回転機21,31と駆動輪DW,DWの間の連結関係は、第1実施形態と同様である。すなわち、A2およびB1のロータ25,34がエンジン3のクランク軸3aに機械的に連結されるとともに、A1およびB2のロータ24,35が駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、図53〜図56において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。このことは、後述する他の実施形態を説明するための図においても同様に当てはまる。以下、第2実施形態の動力装置1Aから順に、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
(第2実施形態)
図53に示すように、この動力装置1Aでは、変速装置61は、前述した互いに噛み合うギヤ7bおよび第1ギヤ8bに代えて設けられている。この変速装置61は、ベルト式の無段変速装置であり、前述した第2回転軸7に連結された入力軸と、アイドラ軸8に連結された出力軸と、入力軸および出力軸にそれぞれ設けられたプーリと、これらのプーリに巻きかけられた金属ベルト(いずれも図示せず)を有している。変速装置61は、これらのプーリの有効径を変更することによって、この入力軸に入力された動力を、変速した状態で出力軸に出力する。また、変速装置61の変速比(入力軸の回転数/出力軸の回転数)はECU2によって制御される。
上記のように、変速装置61は、A1およびB2のロータ24,35と駆動輪DW,DWとの間に設けられており、A1およびB2のロータ24,35に伝達された動力は、変速装置61によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Aでは、前述したEV発進時やENG発進時など、A1およびB2のロータ24,35から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置61の変速比は値1.0よりも大きな減速側の所定値に制御される。これにより、A1およびB2のロータ24,35に伝達されたトルクは、変速装置61において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、A1およびB2のロータ24,35に伝達されるトルクが小さくなるように、第1回転機21で発電される電力および第2回転機31に供給される電力(発電される電力)が制御される。したがって、本実施形態によれば、第1および第2の回転機21,31に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、第1および第2の回転機21,31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、車速VPが極めて高い高車速運転中など、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2が過大になるようなときには、変速装置61の変速比は値1.0よりも小さな増速側の所定値に制御される。これにより、車速VPに対して、A1およびB2のロータ回転速度VRA1,VRB2を低下させることができるので、両ロータ回転速度VRA1,VRB2の過大化による第1および第2の回転機21,31の故障を防止することができる。前述したようにA1ロータ24は磁石で構成されており、磁石は軟磁性体よりも強度が低く、上記のような不具合が発生しやすいため、特に有効である。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置61の変速比は、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2がそれぞれ所定の第1および第2の目標値になるように制御される。これらの第1および第2の目標値は、第1および第2の回転機21,31のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、第1および第2の回転機21,31を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、第1および第2の目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、第1および第2の回転機21,31の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置61の制御と並行して、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2が、第1および第2の目標値にそれぞれ制御される。以上により、本実施形態によれば、車両の走行中、第1および第2の回転機21,31の高い効率を得ることができる。
また、図33(a)、(b)を用いて説明したように、第1および第2の回転機21,31によって、エンジン動力を無段階に変速して、駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置61の変速動作の頻度を低くすることができる。したがって、この変速動作による熱損失を抑制することができ、それにより、動力装置1Aの高い駆動効率を確保することができる。その他、本実施形態によれば、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本実施形態では、変速装置61は、ベルト式の無段変速装置であるが、トロイダル式の無段変速装置やギヤ式の有段変速装置でもよい。
(第3実施形態)
図54に示す第3実施形態の動力装置1Bでは、変速装置71は、ギヤ式の有段変速装置であり、入力軸72および出力軸(図示せず)と、ギヤ比が互いに異なる複数のギヤ列と、これらの複数のギヤ列と入力軸72および出力軸との間をギヤ列ごとに接続・遮断するクラッチ(いずれも図示せず)を有している。変速装置71は、この入力軸72に入力された動力を、これらの複数のギヤ列の1つによって変速した状態で、出力軸に出力する。また、変速装置71では、これらの複数のギヤ列によって、前進用の第1速(変速比=入力軸72の回転数/出力軸の回転数>1.0)、第2速(変速比=1.0)および第3速(変速比<1.0)と、後進用の1つの変速段から成る計4つの変速段が設定され、その変更はECU2によって制御される。
また、動力装置1Bでは、第1実施形態と異なり、第2回転軸7にギヤ7bが設けられておらず、A1およびB2のロータ24,35は、次のようにして駆動輪DW,DWに連結されている。すなわち、A1ロータ24は、変速装置71の入力軸72に直結されており、変速装置71の出力軸は、前述した連結軸6に直結されている。連結軸6には、ギヤ6bが一体に設けられており、このギヤ6bは、前述した第1ギヤ8bに噛み合っている。
以上のように、A1ロータ24は、変速装置71、ギヤ6b、第1ギヤ8b、アイドラ軸8、第2ギヤ8c、ギヤ9a、および差動ギヤ機構9などを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、A1ロータ24に伝達された動力は、変速装置71によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、B2ロータ35は、連結軸6、ギヤ6b、および第1ギヤ8bなどを介して、変速装置71を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
以上の構成の動力装置1Bでは、ENG発進時など、A1ロータ24から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置71の変速段は、第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、A1ロータ24に伝達されたトルクは、変速装置71において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、A1ロータ24に伝達されるトルクが小さくなるように、第1回転機21で発電される電力が制御される。これにより、本実施形態によれば、第1回転機21に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、第1回転機21のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、車速VPが極めて高い高車速運転中など、A1ロータ回転速度VRA1が過大になるようなときには、変速装置71の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、A1ロータ回転速度VRA1を低下させることができるので、A1ロータ回転速度VRA1の過大化による第1回転機21の故障を防止することができる。A1ロータ24は磁石で構成されており、磁石は軟磁性体よりも強度が低く、上記のような不具合が発生しやすいため、特に有効である。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置71の変速段は、第1磁界回転速度VMF1が所定の目標値になるように制御される。この目標値は、第1および第2の回転機21,31のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、第1および第2の回転機21,31を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、第1回転機21の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置71の制御と並行して、第1磁界回転速度VMF1が上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、第1回転機21の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置71の変速動作中、すなわち、変速装置71の入力軸72および出力軸が変速前のギヤ列と遮断された後、変速先のギヤ列に接続されるまでの間は、第1および第2の回転機21,31が次のようにして制御される。すなわち、変速装置71の変速動作中、変速装置71におけるギヤ列と、入力軸72および出力軸との間の遮断により、A1ロータ24と駆動輪DW,DWの間が遮断されることによって、A1ロータ24に駆動輪DW,DWの負荷が作用しなくなるため、第1回転機21では発電が行われず、第2回転機31のステータ33に、バッテリ43から電力が供給される。
これにより、本実施形態によれば、変速装置71の変速動作中、ステータ33からの第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGの一部が合成され、B2ロータ35を介して駆動輪DW,DWに伝達されるので、エンジントルクTENGが変速装置71を介して駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
(第4実施形態)
図55に示す第4実施形態の動力装置1Cでは、第1実施形態と異なり、第2回転軸7にギヤ7bが設けられておらず、前述した第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っている。これにより、A1ロータ24は、連結軸6、ギヤ6b、第1ギヤ8b、アイドラ軸8、第2ギヤ8c、ギヤ9a、および、差動ギヤ機構9などを介して、変速装置81を介さずに、駆動輪DW,DWに連結されている。
また、変速装置81は、第3実施形態の変速装置71と同様に構成された、第1速〜第3速の変速段を有するギヤ式の有段変速装置であり、B2ロータ35に直結された入力軸82と、連結軸6に直結された出力軸(図示せず)を有しており、入力軸82に入力された動力を変速し、出力軸に出力する。さらに、変速装置81の変速段の変更は、ECU2によって制御される。
上記の構成により、B2ロータ35は、変速装置81、ギヤ6b、および第2ギヤ8cなどを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、B2ロータ35に伝達された動力は、変速装置81によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Cでは、EV発進時やENG発進時など、B2ロータ35から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置81の変速段は、第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、B2ロータ35に伝達されたトルクは、変速装置81において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、B2ロータ35に伝達されるトルクが小さくなるように、第2回転機31に供給される電力が制御される。これにより、本実施形態によれば、第2回転機31に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、第2回転機31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。前述したように、ENG発進時には、ステータ33からのトルクと、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGの一部が合成され、B2ロータ35を介して駆動輪DW,DWに伝達されることから、B2ロータ35にはA1ロータ24よりも大きなトルクが作用するので、特に有効である。
また、車速VPが極めて高い高車速運転中など、B2ロータ回転速度VRB2が過大になるようなときには、変速装置81の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、B2ロータ回転速度VRB2を低下させることができるので、B2ロータ回転速度VRB2の過大化による第2回転機31の故障を防止することができる。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置81の変速段は、第2磁界回転速度VMF2が所定の目標値になるように制御される。この目標値は、第1および第2の回転機21,31のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、第1および第2の回転機21,31を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、第2回転機31の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置81の制御と並行して、第2磁界回転速度VMF2が上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、第2回転機31の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置81の変速動作中(入力軸82および出力軸が、変速前のギヤ列と遮断された後、変速先のギヤ列に接続されるまでの間)、すなわち、変速装置81によりB2ロータ35と駆動輪DW,DWの間が遮断されているときに、図32を用いて説明したトルクの伝達状況などから明らかなように、エンジントルクTENGの一部がA1ロータ24を介して駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、本実施形態によれば、変速装置81の変速動作中、エンジントルクTENGが変速装置81を介して駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
(第5実施形態)
図56に示す第5実施形態による動力装置1Dでは、変速装置91は、遊星歯車装置などで構成されたギヤ式の有段変速装置であり、入力軸92および出力軸(図示せず)を有しており、変速段として、第1速(変速比=入力軸92の回転数/出力軸の回転数=1.0)と第2速(変速比<1.0)から成る計2つの変速段が設定されている。これらの変速段の変更はECU2によって行われる。
また、変速装置91の入力軸92はフライホイール5に直結されるとともに、その出力軸(図示せず)が前述した第1回転軸4に直結されている。このように、変速装置91は、クランク軸3aと、A2およびB1のロータ25,34との間に設けられており、エンジン動力を変速して、A2ロータ25およびB1ロータ34に伝達する。さらに、前述した差動ギヤ機構9のギヤ9aの歯数は、アイドラ軸8の第2ギヤ8cの歯数よりも大きくなっており、それにより、アイドラ軸8に伝達された動力は減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Dでは、ENG発進時など、A1およびB2のロータ24,35から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置91の変速段は第2速(変速比<1.0)に制御される。これにより、A2およびB1のロータ25,34に入力されるエンジントルクTENGは小さくなる。それに応じて、A1およびB2のロータ24,35に伝達されるエンジントルクTENGが小さくなるように、第1回転機21で発電される電力および第2回転機31に供給される電力(発電される電力)が制御される。また、A1およびB2のロータ24,35に伝達されたエンジントルクTENGは、第2ギヤ8cおよびギヤ9aによる減速によって増大された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。以上により、本実施形態によれば、第1および第2の回転機21,31に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、第1および第2の回転機21,31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、エンジン回転数NEが極めて高いときには、変速装置91の変速段は第1速(変速比=1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、変速段が第2速の場合と比較して、A2およびB1のロータ回転速度VRA2,VRB1を低下させることができるので、両ロータ回転速度VRA2,VRB1の過大化による第1および第2の回転機21,31の故障を防止することができる。B1ロータ34は磁石で構成されていることから、上記のような不具合が発生しやすいので、特に有効である。
さらに、ENG走行中、変速装置91の変速段は、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2がそれぞれ第1および第2の回転機21,31の高い効率を得られるような値になるように変更される。また、このような変速装置91の変速段の変更と並行して、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2が、そのときのエンジン回転数NE、車速VP、変速装置91の変速段、前記式(43)および(44)によって定まる値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、第1および第2の回転機21,31の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置91の変速動作中、すなわち、変速装置91によってエンジン3とA2およびB1のロータ25,34との間が遮断されているときには、変速ショックを抑えるために、次のようにして第1および第2の回転機21,31を制御する。以下、このような第1および第2の回転機21,31の制御を「変速ショック制御」という。
すなわち、ステータ23,33に電力を供給するとともに、それに伴ってステータ23,33でそれぞれ発生する第1および第2の回転磁界をいずれも正転させる。これにより、ステータ23からの第1駆動用等価トルクTSE1と、A1ロータ24に後述するように伝達されるトルクが合成され、この合成トルクはA2ロータ25に伝達される。A2ロータ25に伝達されたトルクは、上述した変速装置91による遮断によって、クランク軸3aには伝達されず、B1ロータ34に伝達され、さらに、ステータ33からの第2駆動用等価トルクTSE2と合成された後、B2ロータ35に伝達される。B2ロータ35に伝達されたトルクの一部は、A1ロータ24に伝達され、残りは駆動輪DW,DWに伝達される。
したがって、本実施形態によれば、変速動作中、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、商品性を高めることができる。なお、この変速ショック制御は、変速装置91の変速動作中に限って行われる。その他、本実施形態によれば、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第3〜第5の実施形態では、変速装置71,81,91は、ギヤ式の有段変速装置であるが、ベルト式やトロイダル式の無段変速装置でもよい。
(第6実施形態)
次に、図57を参照しながら、第6実施形態による動力装置1Eについて説明する。同図に示すように、この動力装置1Eは、第1実施形態の動力装置1にブレーキ機構BLを加えたものである。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
このブレーキ機構BLは、前述した第1回転軸4およびケースCAに接続されたワンウェイクラッチOCを有している。このワンウェイクラッチOCは、第1回転軸4が連結されたクランク軸3aに逆転させるような動力が作用したときには、第1回転軸4と回転不能に構成されたケースCAとの間を接続するとともに、正転させるような動力が作用したときには、第1回転軸4とケースCAの間を遮断するように構成されている。
すなわち、ワンウェイクラッチOCおよびケースCAで構成されたブレーキ機構BLによって、第1回転軸4の回転は、クランク軸3a、A2ロータ25、およびB1ロータ34とともに正転する場合にのみ、許容され、第1回転軸4がクランク軸3aなどとともに逆転する場合に阻止される。
以上の構成の動力装置1Eでは、前述したEVクリープおよびEV発進による運転が次のようにして行われる。すなわち、ステータ23,33に電力を供給し、それに伴ってステータ23で発生する第1回転磁界を逆転させるとともに、ステータ33で発生する第2回転磁界を正転させる。また、第1および第2の磁界回転速度VMF1,VMF2を、(β+1)・|VMF1|=α・|VMF2|が成立するように制御する。さらに、第1および第2の回転機21,31に供給される電力は、駆動輪DW,DWにトルクが十分に伝達されるように制御される。
上記のように逆転するステータ23の第1回転磁界に対して、上述したようにブレーキ機構BLによりA2ロータ25の逆転が阻止されているので、前述した第1回転機21の機能から明らかなように、ステータ23に供給された電力がすべて、A1ロータ24に動力として伝達され、それにより、A1ロータ24は正転する。また、上記のように正転するステータ33の第2回転磁界に対して、ブレーキ機構BLによりB1ロータ34の逆転が阻止されているので、前述した第2回転機31の機能から明らかなように、ステータ33に供給された電力がすべて、B2ロータ35に動力として伝達され、それにより、B2ロータ35は正転する。さらに、A1およびB2のロータ24,35に伝達された動力は、駆動輪DW,DWに伝達され、その結果、駆動輪DW,DWは正転する。
さらに、この場合、ブレーキ機構BLにより逆転するのが阻止されているA2およびB1のロータ25,34に対して、第1および第2の駆動用等価トルクTSE1,TSE2はそれぞれ逆転させるように作用し、それにより、クランク軸3a、A2およびB1のロータ25,34は、逆転しないだけでなく、静止状態に保持される。
以上のように、本実施形態によれば、エンジン動力を用いることなく、第1および第2の回転機21,31によって駆動輪DW,DWを駆動することができる。また、この駆動中、クランク軸3aは逆転しないだけでなく、静止状態に保持されるので、エンジン3を引きずることがない。
なお、これまでに述べた第1〜第6の実施形態では、第1および第2の極対数比α、βをいずれも値2.0に設定しているが、第1および第2の極対数比α、βを値1.0よりも小さく設定した場合には、次の効果が得られる。前述した図33(a)、(b)に示す各種の回転要素の回転速度の関係から明らかなように、第1極対数比αを比較的大きな値に設定した場合において、エンジン回転数NEが車速VPよりも高いとき(図33(a)、(b)の二点鎖線参照)には、第1磁界回転速度VMF1は、エンジン回転数NEよりも高くなり、過大になる場合がある。これに対し、第1極対数比αを値1.0よりも小さく設定することによって、図33(a)、(b)に破線で示す速度共線図と二点鎖線で示す速度共線図との比較から明らかなように、第1磁界回転速度VMF1を小さくすることができ、したがって、第1磁界回転速度VMF1の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
また、第2極対数比βを比較的大きな値に設定した場合において、車速VPがエンジン回転数NEよりも高いとき(図33(a)、(b)の一点鎖線参照)には、第2磁界回転速度VMF2は、車速VPよりも高くなり、過大になる場合がある。これに対し、第2極対数比βを値1.0よりも小さく設定することによって、図33(a)、(b)に破線で示す速度共線図と一点鎖線で示す速度共線図との比較から明らかなように、第2磁界回転速度VMF2を小さくすることができ、したがって、第2磁界回転速度VMF2の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
さらに、第1〜第6の実施形態では、A2ロータ25およびB1ロータ34を互いに連結し、A1ロータ24およびB2ロータ35を互いに連結しているが、A2ロータ25およびB1ロータ34は、クランク軸3aに連結されていれば、互いに連結されていなくてもよく、また、A1ロータ24およびB2ロータ35は、駆動輪DW,DWに連結されていれば、互いに連結されていなくてもよい。この場合、第2実施形態の変速装置61を2つの変速装置で構成するとともに、これらの2つの変速装置の一方をA1ロータ24と駆動輪DW,DWの間に、他方をB2ロータ35と駆動輪DW,DWの間に、それぞれ設けてもよい。同様に、第5実施形態の変速装置91を2つの変速装置で構成するとともに、これらの2つの変速装置の一方をA2ロータ25とクランク軸3aの間に、他方をB1ロータ34とクランク軸3aの間に、それぞれ設けてもよい。
また、第1〜第5の実施形態において、クランク軸3aの逆転を阻止するためのブレーキ機構BLを設けてもよいことはもちろんである。また、このブレーキ機構BLを、ワンウェイクラッチOCおよびケースCAで構成しているが、クランク軸3aの逆転を阻止できるのであれば、他の機構、例えばバンドブレーキなどで構成してもよい。
(第7実施形態)
次に、図58を参照しながら、第7実施形態による動力装置1Fについて説明する。この動力装置1Fは、第1実施形態の動力装置1と比較して、第2回転機31を、一般的なシングルピニオンタイプの第1遊星歯車装置PS1と一般的な1ロータタイプの回転機101に置き換えた点のみが異なっている。なお、同図において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。このことは、後述する他の実施形態についても同様である。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図58に示すように、第1遊星歯車装置PS1は、第1サンギヤS1と、この第1サンギヤS1の外周に設けられた第1リングギヤR1と、両ギヤS1,R1に噛み合う複数(例えば3つ)の第1プラネタリギヤP1(2つのみ図示)と、第1プラネタリギヤP1を回転自在に支持する第1キャリアC1とを有している。第1サンギヤS1の歯数と第1リングギヤR1の歯数との比(第1サンギヤS1の歯数/第1リングギヤR1の歯数、以下「第1遊星ギヤ比r1」という)は、値1.0よりも若干、小さな所定値に設定されており、一般的な遊星歯車装置が取りうる値のなかで比較的大きな値に設定されている。
上記の第1サンギヤS1は、第1回転軸4を介してA2ロータ25に機械的に直結されるとともに、第1回転軸4およびフライホイール5を介して、クランク軸3aに機械的に直結されている。また、第1キャリアC1は、連結軸6を介してA1ロータ24に機械的に直結されるとともに、第2回転軸7や、ギヤ7b、第1ギヤ8b、アイドラ軸8、第2ギヤ8c、ギヤ9a、差動ギヤ機構9などを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。すなわち、A1ロータ24および第1キャリアC1は、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
また、第1遊星歯車装置PS1は、その構成により、一般的な遊星歯車装置と同じ周知の機能を有している。すなわち、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1および第1キャリアC1の回転方向が互いに同じであるときに、第1キャリアC1に入力された動力を第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に分配する機能と、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に入力された動力を合成し、第1キャリアC1に出力する機能とを有している。また、このような動力の分配・合成中、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1および第1キャリアC1は、回転速度に関する共線関係を保ちながら回転する。この場合、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1および第1キャリアC1の間の回転速度の関係は、次式(53)で表される。
VRI1=(r1+1)VCA1−r1・VSU1 ……(53)
ここで、VRI1は、第1リングギヤR1の回転速度(以下「第1リングギヤ回転速度」という)であり、VCA1は、第1キャリアC1の回転速度(以下「第1キャリア回転速度」という)であり、VSU1は、第1サンギヤS1の回転速度(以下「第1サンギヤ回転速度」という)である。
回転機101は、3相ブラシレスDCモータであり、複数のコイルなどで構成されたステータ102と、磁石などで構成されたロータ103を有している。また、回転機101は、ステータ102に供給された電力を動力に変換し、ロータ103に出力する機能と、ロータ103に入力された動力を電力に変換し、ステータ102に出力する機能を有している。ロータ103は、第1リングギヤR1に一体に設けられており、第1リングギヤR1とともに回転自在になっている。ステータ102は、第2PDU42を介して、バッテリ43に電気的に接続されている。すなわち、第1回転機21のステータ23と回転機101のステータ102は、第1および第2のPDU41,42を介して互いに電気的に接続されている。
図59は、動力装置1Fの概略構成および動力の伝達状況の一例を示す概念図である。なお、図59では、第1回転機21が「第1回転機」、ステータ23が「第1ステータ」、A1ロータ24が「第1ロータ」、A2ロータ25が「第2ロータ」、第1遊星歯車装置PS1が「差動装置」、第1サンギヤS1が「第1要素」、第1キャリアC1が「第2要素」、第1リングギヤR1が「第3要素」、回転機101が「第2回転機」、エンジン3が「熱機関」、駆動輪DW,DWが「被駆動部」、第1PDU41が「第1制御器」、第2PDU42が「第2制御器」とそれぞれ表されている。差動装置は、遊星歯車装置と同じ機能を有している。さらに、第1ロータおよび差動装置の第2要素が被駆動部に、第2ロータおよび差動装置の第1要素が熱機関の第1出力部にそれぞれ機械的に連結されている。また、差動装置の第3要素が第2回転機の第2出力部に機械的に連結されるとともに、ステータおよび第2回転機が、第1および第2の制御器を介して互いに電気的に接続されている。
以上の構成により、動力装置では、熱機関の動力が、例えば次のようにして被駆動部に伝達される。以下、第2ロータおよび第1要素が熱機関の第1出力部に連結されるとともに、第1ロータおよび第2要素が被駆動部に連結されている動力装置を「第1動力装置」といい、第1ロータおよび第2要素が熱機関の第1出力部に連結されるとともに、第2ロータおよび第1要素が被駆動部に連結されている動力装置を「第2動力装置」という。また、これらの第1および第2の動力装置における熱機関から被駆動部への動力の伝達について、第1動力装置から順に説明する。なお、図59では、図19と同様、要素間の連結については、機械的な連結を実線で、電気的な接続を一点鎖線で、磁気的な連結を破線で、それぞれ示している。また、動力および電力の流れを矢印付きの太い線で示している。
熱機関の動力を被駆動部に伝達する場合、第1および第2の制御器による制御によって、熱機関の動力の一部を用いて第1回転機で発電を行うとともに、発電した電力を第2回転機に供給する。この第1回転機での発電時、図59に示すように、熱機関の動力の一部が、熱機関の第1出力部に連結された第2ロータに伝達され、さらに、前述した磁力線による磁力によって、第1ロータおよびステータに分配される。この場合、ステータには、第2ロータに伝達された動力の一部が電力に変換され、分配される。また、第1ロータに上記のように分配された動力は被駆動部に伝達される一方、ステータに分配された電力は第2回転機に供給される。さらに、上記のように第1回転機で発電した電力が第2回転機に供給されると、この電力は動力に変換された後、第3要素に伝達される。また、熱機関の動力の残りは、第1要素に伝達され、第3要素に上記のように伝達された動力と合成された後、第2要素を介して被駆動部に伝達される。以上の結果、被駆動部に、熱機関の動力と等しい大きさの動力が伝達される。
以上のように、本実施形態の第1動力装置1Fでは、第1実施形態の動力装置1と同様、第1回転機が遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機を組み合わせた装置と同じ機能を有するので、動力を分配・合成して伝達するために2つの遊星歯車装置を必要としていた前述した従来の動力装置と異なり、同じ目的のための差動装置が1つのみで足りる。したがって、その分、第1動力装置を小型化することができる。このことは、上述した第2動力装置についても同様である。また、第1動力装置では、前述した従来の場合と異なり、熱機関の動力が上述したように再循環せずに被駆動部に伝達されるので、第1回転機、差動装置および第2回転機を通過する動力を低減できる。したがって、第1回転機、差動装置および第2回転機の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、第1動力装置のさらなる小型化とコストの削減を達成することができる。さらに、上記のように低減された動力に見合ったトルク容量を有する第1回転機、差動装置および第2回転機を用いることによって、動力の損失を抑制し、第1動力装置の駆動効率を高めることができる。
また、熱機関の動力は、第2ロータ、磁力線による磁力および第1ロータから成る第1伝達経路と、第2ロータ、磁力線による磁力、ステータ、第1制御器、第2制御器、第2回転機、第3要素、および第2要素から成る第2伝達経路と、第1および第2の要素から成る第3伝達経路の計3つの伝達経路を介して、分割された状態で被駆動部に伝達される。これにより、第2伝達経路を介して第1および第2の制御器を通過する電力(エネルギ)を低減できるので、第1および第2の制御器の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、第1動力装置のさらなる小型化およびコストの削減を達成することができる。
さらに、以上のような被駆動部への動力の伝達の際、第1および第2の制御器により、ステータの回転磁界の回転速度と第2回転機の第2出力部の回転速度をそれぞれ制御することによって、熱機関の動力を無段階に変速して被駆動部に伝達することができる。以下、この点について説明する。第1回転機では、前述した機能から明らかなように、ステータ、第1および第2のロータの間でのエネルギの分配・合成中、回転磁界、第1および第2のロータは、式(25)に示すような回転速度に関する共線関係を保ちながら回転する。また、差動装置では、第1〜第3の要素の間でのエネルギの分配・合成中、第1〜第3の要素は、回転速度に関する共線関係を保ちながら回転する。さらに、前述した連結関係において、第2ロータおよび第1要素が熱機関の第1出力部に直結されている場合には、第2ロータおよび第1要素の回転速度はいずれも、熱機関の第1出力部の回転速度と等しい。また、第1ロータおよび第2要素が被駆動部に直結されている場合には、第1ロータおよび第2要素の回転速度はいずれも、被駆動部の速度と等しい。さらに、第2回転機の第2出力部および第3要素が互いに直結されている場合には、第2回転機および第3要素の回転速度は互いに等しい。
ここで、熱機関の第1出力部の回転速度を「熱機関の回転数」とし、第2回転機の第2出力部の回転速度を「第2回転機の回転速度」とする。また、回転磁界の回転速度を「磁界回転速度VF」とし、第1および第2のロータの回転速度をそれぞれ「第1および第2のロータ回転速度VR1,VR2」とし、第1〜第3の要素の回転速度をそれぞれ「第1〜第3の要素回転速度V1〜V3」とする。上述した各種の回転要素の回転速度の関係から、熱機関の回転数と、被駆動部の速度と、磁界回転速度VFと、第1および第2のロータ回転速度VR1,VR2と、第1〜第3の要素回転速度V1〜V3と、第2回転機の回転速度の関係は、例えば図60の太い実線のように示される。
このため、図60に二点鎖線で示すように、例えば、第2ロータ回転速度VR2および第1要素回転速度V1に対して、磁界回転速度VFを上昇させるとともに、第2回転機の回転速度を低下させることによって、熱機関の動力を無段階に減速して被駆動部に伝達することができる。逆に、図60に一点鎖線で示すように、第2ロータ回転速度VR2および第1要素回転速度V1に対して、磁界回転速度VFを低下させるとともに、第2回転機の回転速度を上昇させることによって、熱機関の動力を無段階に増速して被駆動部に伝達することができる。
また、第1回転機の極対数比αが比較的大きい場合において、熱機関の回転数が被駆動部の速度よりも高いとき(図60の二点鎖線参照)には、磁界回転速度VFは、熱機関の回転数よりも高くなり、過大になる場合がある。したがって、第1回転機の極対数比αをより小さな値に設定することによって、図60に破線で示す速度共線図と二点鎖線で示す速度共線図との比較から明らかなように、磁界回転速度VFを小さくすることができ、それにより、磁界回転速度VFの過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
さらに、差動装置における第1〜第3の要素の回転速度に関する共線関係を、第1要素と第2要素の回転速度の差と第2要素と第3要素の回転速度の差が値1.0:値X(X>0)になるように設定するとともに、値Xを比較的大きめに設定した場合において、被駆動部の速度が熱機関の回転数よりも高いとき(図60の一点鎖線参照)には、第2回転機の回転速度は、被駆動部の速度よりも高くなり、過大になる場合がある。したがって、上記の値Xをより小さな値に設定することによって、図60に破線で示す速度共線図と一点鎖線で示す速度共線図との比較から明らかなように、第2回転機の回転速度を小さくすることができ、それにより、第2回転機の回転速度の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
また、第1動力装置では、第2回転機に電力を供給するとともに、第1ステータで発電することによって、第2回転機の第2出力部に出力されるトルク(以下「第2回転機トルク」という)を、前述した第1回転機の発電用等価トルクを反力とし、熱機関の第1出力部を停止した状態で被駆動部に伝達でき、それにより、被駆動部を駆動することができる。さらに、そのような被駆動部の駆動中、熱機関が内燃機関である場合に、内燃機関を始動することが可能である。図61は、この場合における各種の回転要素のトルクの関係を、回転速度の関係とともに示している。同図において、TOUTは、請求項1と同様、被駆動部伝達トルクであり、TDHE、TgおよびTM2はそれぞれ、熱機関の第1出力部に伝達されるトルク(以下「熱機関伝達トルク」という)、発電用等価トルクおよび第2回転機トルクである。
上記のように熱機関を始動する場合には、図61から明らかなように、第2回転機トルクTM2が、第1回転機の発電用等価トルクTgを反力として、被駆動部および熱機関の第1出力部の双方に伝達されるため、第1回転機に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第1回転機に要求されるトルクすなわち発電用等価トルクTgは、次式(54)で表される。
Tg=−{X・TOUT+(X+1)TDHE}/(α+1+X) ……(54)
この式(54)から明らかなように、第1回転機の極対数比αが大きいほど、同じ大きさの被駆動部伝達トルクTOUTおよび熱機関伝達トルクTDHEに対して、発電用等価トルクTgが小さくなる。したがって、極対数比αをより大きな値に設定することによって、第1回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
さらに、第1動力装置では、次のようにして熱機関、第1および第2の回転機を制御することによって、低速状態の被駆動部の速度を急速に上昇させることができる。図62は、このように被駆動部の速度を急速に上昇させる場合の開始時における各種の回転要素の回転速度の関係を、各種の回転要素のトルクの関係とともに示している。同図において、THEは、請求項1と同様、熱機関のトルクであり、Teは、前述した第1回転機の駆動用等価トルクである。この場合、熱機関の回転数を、その最大トルクが得られるような所定の回転数に高める。図62に示すように、被駆動部の速度がすぐには上昇しないため、熱機関の回転数が被駆動部の速度よりも高くなるとともに、両者の差が大きくなることから、第2回転機の第2出力部は逆転する。また、そのように逆転する第2回転機の第2出力部から正のトルクを被駆動部に作用させるために、第2回転機において発電を行う。さらに、第2回転機で発電した電力を第1回転機のステータに供給するとともに、このステータで発生する回転磁界を正転させる。
以上により、熱機関のトルクTHE、駆動用等価トルクTeおよび第2回転機トルクTM2はいずれも、正のトルクとして、被駆動部に伝達され、その結果、被駆動部の速度が急速に上昇する。また、上記のように低速状態の被駆動部の速度を急速に上昇させる場合には、図62から明らかなように、熱機関のトルクTHEおよび駆動用等価トルクTeが第2回転機トルクTM2を反力として被駆動部に伝達されるため、第2回転機に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第2回転機に要求されるトルクすなわち第2回転機トルクTM2は、次式(55)で表される。
TM2=−{α・THE+(1+α)TOUT}/(X+1+α) ……(55)
この式(55)から明らかなように、値Xが大きいほど、同じ大きさの被駆動部伝達トルクTOUTおよび熱機関のトルクTHEに対して、第2回転機トルクTM2が小さくなる。したがって、値Xをより大きな値に設定することによって、第2回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、図63は、前述した第2動力装置における熱機関から被駆動部への動力の伝達状況の一例を概略的に示している。なお、同図における各種の回転要素の連結関係などの表記の方法は、図59と同じである。この第2動力装置では、熱機関の動力は、例えば次のようにして被駆動部に伝達される。すなわち、第1および第2の制御器による制御によって、熱機関の動力の一部を用いて第2回転機で発電を行うとともに、発電した電力を第1回転機のステータに供給する。この第2回転機での発電時、図63に示すように、熱機関の動力の一部が、熱機関の第1出力部に連結された第2要素に伝達され、第1および第3の要素に分配される。第1要素に分配された動力は被駆動部に伝達される一方、第3要素に分配された動力は、第2回転機に伝達されるとともに、電力に変換された後、ステータに供給される。
さらに、上記のように第2回転機で発電した電力がステータに供給されると、この電力は、動力に変換され、磁力線による磁力によって、第2ロータに伝達される。それに伴い、熱機関の動力の残りが、第1ロータに伝達され、さらに、磁力線による磁力によって、第2ロータに伝達される。また、第2ロータに伝達された動力は、被駆動部に伝達される。以上の結果、被駆動部に、熱機関の動力と等しい大きさの動力が伝達される。
以上のように、第2動力装置においても、前述した第1動力装置と同様、熱機関の動力が再循環せずに被駆動部に伝達されるので、第1回転機、差動装置および第2回転機を通過する動力を低減できる。したがって、第1動力装置と同様、第1回転機、差動装置および第2回転機の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、第2動力装置のさらなる小型化とコストの削減を達成することができるとともに、第2動力装置の駆動効率を高めることができる。また、第1動力装置と第2動力装置の間では、第1回転機および差動装置における動力の分配・合成が逆の関係になっているだけで、第2動力装置においても、図63に示すように、熱機関の動力は、前述した第1〜第3の伝達経路の計3つの伝達経路を介して、分割された状態で被駆動部に伝達される。したがって、第1動力装置と同様、第1および第2の制御器の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、第2動力装置のさらなる小型化およびコストの削減を達成することができる。
さらに、第2動力装置においても、第1動力装置と同様、上述したような被駆動部への動力の伝達の際、第1および第2の制御器で磁界回転速度VFおよび第2回転機の回転速度をそれぞれ制御することによって、熱機関の動力を無段階に変速して被駆動部に伝達することができる。具体的には、第2動力装置では、熱機関の回転数と、被駆動部の速度と、磁界回転速度VFと、第1および第2のロータ回転速度VR1,VR2と、第1〜第3の要素回転速度V1〜V3と、第2回転機の回転速度の関係は、例えば図64の太い実線のように示される。同図に二点鎖線で示すように、例えば、第2要素回転速度V2および第1ロータ回転速度VR1に対して、第2回転機の回転速度を上昇させるとともに、磁界回転速度VFを低下させることによって、熱機関の動力を無段階に減速して被駆動部に伝達することができる。逆に、図64に一点鎖線で示すように、第2要素回転速度V2および第1ロータ回転速度VR1に対して、第2回転機の回転速度を低下させるとともに、磁界回転速度VFを上昇させることによって、熱機関の動力を無段階に増速して被駆動部に伝達することができる。
また、第1回転機の極対数比αが比較的大きい場合において、被駆動部の速度が熱機関の回転数よりも高いとき(図64の一点鎖線参照)には、磁界回転速度VFは、被駆動部の速度よりも高くなり、過大になる場合がある。したがって、極対数比αをより小さな値に設定することによって、図64に破線で示す速度共線図と一点差線で示す速度共線図との比較から明らかなように、磁界回転速度VFを小さくすることができ、それにより、磁界回転速度VFの過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
さらに、前述した差動装置における回転速度に関する共線関係を定める値Xが比較的大きい場合において、熱機関の回転数が被駆動部の速度よりも高いとき(図64の二点鎖線参照)には、第2回転機の回転速度は、熱機関の回転数よりも高くなり、過大になる場合がある。したがって、この値Xをより小さな値に設定することによって、図64に破線で示す速度共線図と二点差線で示す速度共線図との比較から明らかなように、第2回転機の回転速度を小さくすることができ、それにより、第2回転機の回転速度の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
また、第2動力装置では、第1回転機のステータに電力を供給するとともに、第2回転機で発電を行うことによって、第1回転機の駆動用等価トルクTeを、第2回転機トルクTM2を反力とし、熱機関の第1出力部を停止した状態で被駆動部に伝達でき、それにより、被駆動部を駆動することができる。さらに、そのような被駆動部の駆動中、熱機関が内燃機関である場合に、第1動力装置と同様、内燃機関を始動することが可能である。図65は、この場合における各種の回転要素のトルクの関係を、回転速度の関係とともに示している。
上記のように熱機関を始動する場合には、図65から明らかなように、駆動用等価トルクTeが、第2回転機トルクTM2を反力として、被駆動部および熱機関の出力部の双方に伝達されるため、第2回転機に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第2回転機に要求されるトルクすなわち第2回転機トルクTM2は、次式(56)で表される。
TM2=−{α・TOUT+(1+α)TDHE}/(X+α+1) ……(56)
この式(56)から明らかなように、値Xが大きいほど、同じ大きさの被駆動部伝達トルクTOUTおよび熱機関伝達トルクTDHEに対して、第2回転機トルクTM2が小さくなる。したがって、値Xをより大きな値に設定することによって、第2回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
さらに、第2動力装置では、次のようにして熱機関、第1および第2の回転機を制御することによって、第1動力装置と同様、低速状態の被駆動部の速度を急速に上昇させることができる。図66は、このように被駆動部の速度を急速に上昇させる場合の開始時における各種の回転要素の回転速度の関係を、各種の回転要素のトルクの関係とともに示している。この場合、熱機関の回転数を、その最大トルクが得られるような所定の回転速度に高める。図66に示すように、被駆動部の速度がすぐには上昇しないため、熱機関の回転数が被駆動部の速度よりも高くなるとともに、両者の差が大きくなることから、この両者の関係によって定まる回転磁界の回転方向は逆転方向になる。このため、そのような回転磁界を発生させる第1回転機のステータから正のトルクを被駆動部に作用させるために、ステータにおいて発電を行う。さらに、ステータで発電した電力を第2回転機に供給するとともに、その第2出力部を正転させる。
以上により、熱機関のトルクTHE、第2回転機トルクTM2および発電用等価トルクTgはいずれも、正のトルクとして、被駆動部に伝達され、その結果、被駆動部の速度が急速に上昇する。また、上記のように低速状態の被駆動部の速度を急速に上昇させる場合には、図66から明らかなように、熱機関のトルクTHEおよび第2回転機トルクTM2が、第1回転機の発電用等価トルクTgを反力として被駆動部に伝達されるため、第1回転機に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第1回転機に要求されるトルクすなわち発電用等価トルクTgは、次式(57)で表される。
Tg=−{X・THE+(1+X)TOUT}/(α+1+X) ……(57)
この式(57)から明らかなように、極対数比αが大きいほど、同じ大きさの被駆動部伝達トルクTOUTおよび熱機関のトルクTHEに対して、発電用等価トルクTgが小さくなる。したがって、極対数比αをより大きな値に設定することによって、第1回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、図67に示すように、ECU2には、回転角センサ59が接続されており、この回転角センサ59は、回転機101のロータ103の回転角度位置を検出し、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この検出信号に基づいて、ロータ103の回転速度(以下「ロータ回転速度」という)を算出する。また、ECU2は、検出されたロータ103の回転角度位置に基づき、第2PDU42を制御することによって、回転機101のステータ102に供給される電力や、ステータ102で発電する電力、ロータ回転速度を制御する。なお、ECU2は、当該制御を行う際に必要となる各種マップ等を記憶するメモリ45からデータを読み込む。また、ECU2は、バッテリ43の外装体又はその周辺に取り付けられたバッテリ温度センサ62が検出した信号から、バッテリ43の温度を導出する。
以下、上記説明した1共線4要素の仕組みを有する動力装置1FにおいてECU2が行う駆動力制御について、図68及び図69を参照して説明する。図68は、第7実施形態の動力装置1Fにおける駆動力制御を示すブロック線図である。また、図69は、1共線4要素の仕組みを有する動力装置1Fにおける速度共線図である。
図68に示すように、ECU2は、上記説明したアクセル開度APを表す検出信号と、車速VPを表す検出信号とを取得する。次に、ECU2は、メモリ45に格納されている駆動力マップを用いて、アクセル開度APと車速VPに応じた駆動力(以下「要求駆動力」という。)を導出する。次に、ECU2は、要求駆動力と車速VPに応じた出力(以下「要求出力」という。)を算出する。なお、当該要求出力は、車両がドライバのアクセルペダル操作に応じた走行を行うために要する出力である。
次に、ECU2は、上記説明したバッテリ43に入出力される電流・電圧値を表す検出信号から、バッテリ43の残容量(SOC:State of Charge)の情報を取得する。次に、ECU2は、バッテリ43のSOCに応じた、要求出力に占めるエンジン3の出力する割合を決定する。次に、ECU2は、メモリ45に格納されているENG動作マップを用いて、エンジン3の出力に応じた最適な動作点を導出する。なお、ENG動作マップは、エンジン3の軸回転数とトルクと出力の関係に応じた各動作点の燃料消費率を示すBSFC(Brake Specific Fuel Consumption)に基づくマップである。次に、ECU2は、最適動作点でのエンジン3の軸回転数(以下「要求ENG軸回転数」という。)を導出する。さらに、ECU2は、最適動作点でのエンジン3のトルク(以下「ENG要求トルク」という。)を導出する。
次に、ECU2は、ENG要求トルクを出力するようエンジン3を制御する。次に、ECU2は、エンジン3の軸回転数を検出する。このとき検出されたエンジン3の軸回転数を「実ENG軸回転数」という。次に、ECU2は、要求ENG軸回転数と実ENG軸回転数の差分Δrpmを算出する。ECU2は、差分Δrpmが0に近づくよう、第1回転機21の出力トルクを制御する。当該制御は、第1回転機21のステータ23で回生発電することで行われ、その結果、第1回転機21(MG1)のA2ロータ25には、図69の共線図に示したトルクT12が加わる。
第1回転機21のA2ロータ25にトルクT12が加わることによって、第1回転機21(MG1)のA1ロータ24にトルクT11が生じる。トルクT11は、以下の式(58)によって算出される。
T11=α/(1+α)×T12 …(58)
また、第1回転機21のステータ23での回生発電によって生じた電気エネルギ(回生エネルギ)は第1PDU41に送られる。図69の共線図では、第1回転機21のステータ23で発生した回生エネルギを点線Aで示す。
次に、ECU2は、前に導出した要求駆動力から、上記算出されたトルクT11を差し引いたトルクT22が第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1に加わるよう、第2PDU42を制御する。その結果、回転機101(MG2)のロータ103にトルクが加わり、第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1に伝達される。なお、図69の共線図は、回転機101のステータ102に電気エネルギを供給する場合を示し、そのときの電気エネルギを点線Bで示した。このとき、回転機101に電気エネルギを供給する際には、第1回転機21の回生発電で得られた回生エネルギを用いても良い。
このように、第1回転機21のA1ロータ24にはトルクT11が加わり、第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1にはトルクT22が加わる。第1回転機21のA1ロータ24は連結軸6を介して第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1と連結しており、第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1は第2回転軸7と連結しているため、駆動輪DW,DWにはトルクT11とトルクT22の総和が加わる。
但し、第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1にトルクT22が加わることによって、第1遊星歯車装置PS1の第1サンギヤS1にはトルクT21が生じる。トルクT21は、以下の式(59)によって表される。
T21=β/(1+β)×T22 …(59)
第1遊星歯車装置PS1の第1サンギヤS1はエンジン3の軸に連結されているため、エンジン3の実ENG軸回転数はトルクT21によって影響を受ける。しかし、実ENG軸回転数が変化しても、ECU2は、差分Δrpmが0に近づくよう、第1回転機21の出力トルクを制御する。当該制御によってトルクT12が変化し、第1回転機21のA1ロータ24に生じるトルクT11も変化するため、ECU2は、回転機101のロータ103に加えるトルクを変更する。このとき、変更されたトルクによって生じるトルクT21も変化する。このように、第1回転機21のA1ロータ24及びA2ロータ25、並びに、第1遊星歯車装置PS1の第1サンギヤS1および第1キャリアC1のそれぞれにかかるトルクが循環して(T12→T11→T22→T21)、各トルクが収束していく。
以上説明したように、ECU2は、エンジン3が最適な動作点で作動するよう、第1回転機21のA2ロータ25に発生するトルクを制御し、かつ、駆動輪DW,DWに要求駆動力が伝達されるよう、回転機101のロータ103に発生するトルクを制御している。
上記説明では、要求駆動力を導出する際および要求出力を導出する際に車速VPを用いているが、車速VPの代わりに、車軸の回転数の情報を用いても良い。
以上のように、本実施形態による動力装置1Fは、第1実施形態の動力装置1と比較して、第2回転機31を第1遊星歯車装置PS1および回転機101に置き換えただけであり、この動力装置1とまったく同じ機能を有している。また、動力装置1Fでは、第1実施形態で述べたEVクリープなどの各種の動作モードによる運転が、同様にして行われる。この場合、これらの動作モードによる運転は、第2回転機31に関する各種のパラメータ(第2磁界回転速度VMF2など)を、対応する回転機101の各種のパラメータに置き換えて行われる。以下、これらの動作モードについて、第1実施形態と異なる点を中心として簡単に説明する。
・EVクリープ
EVクリープ中には、回転機101のステータ102に、バッテリ43から電力を供給するとともに、ロータ103を正転させる。また、第1回転機21のA1ロータ24に後述するように伝達される動力を用いて、ステータ23で発電を行うとともに、発電した電力を、ステータ102にさらに供給する。これに伴い、回転機101のロータ103に出力されたトルク(以下「回転機トルク」という)は、第1キャリアC1を正転させるように作用するとともに、第1サンギヤS1を逆転させるように作用する。また、第1キャリアC1に伝達されたトルクの一部は、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達され、それにより、駆動輪DW,DWが正転する。
さらに、EVクリープ中、第1キャリアC1に伝達されたトルクの残りは、連結軸6を介してA1ロータ24に伝達された後、第1回転機21のステータ23での発電に伴って、ステータ23に電気エネルギとして伝達される。また、第1実施形態で述べたように、この発電に伴って発生する第1回転磁界が逆転するため、第1発電用等価トルクTGE1が、A2ロータ25を正転させるように作用する。また、この第1発電用等価トルクTGE1に釣り合うように、A1ロータ24に伝達されたトルクが、A2ロータ25にさらに伝達され、A2ロータ25を正転させるように作用する。
この場合、上述した第1サンギヤS1を逆転させるトルクと、A2ロータ25を正転させるトルクとが釣り合うように、ステータ102に供給される電力とステータ23で発電する電力を制御することによって、互いに連結されたA2ロータ25、第1サンギヤS1およびクランク軸3aが、静止状態に保持される。その結果、EVクリープ中、A2ロータ回転速度VRA2および第1サンギヤ回転速度VSU1は、値0になり、エンジン回転数NEも値0になる。
また、EVクリープ中、ステータ102に供給される電力と、ステータ23で発電する電力と、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度はそれぞれ、前記式(43)および(53)に示すような速度関係が維持されるように、かつ第1キャリア回転速度VCA1およびA1ロータ回転速度VRA1が非常に小さくなるように制御される。以上により、車速VPが非常に小さなクリープ運転が行われる。以上のように、エンジン3を停止した状態で、第1回転機21および回転機101によってクリープ運転を行うことができる。
・EV発進
EV発進時には、回転機101のステータ102に供給される電力および第1回転機21のステータ23で発電する電力をいずれも増大させる。さらに、式(43)および(53)に示すような回転速度の関係を維持し、エンジン回転数NEを値0に保持しながら、EVクリープ中に逆転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1と、正転していたロータ103のロータ回転速度をそれぞれ、それまでと同じ回転方向に上昇させる。以上により、車速VPが上昇し、車両が発進する。
・EV走行中ENG始動
EV走行中ENG始動時には、車速VPをそのときの値に保持しながら、EV発進時に上述したように逆転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を、値0になるように制御するとともに、正転していたロータ103のロータ回転速度を、低下させるように制御する。そして、第1磁界回転速度VMF1が値0になった後には、回転機101のステータ102に加え、第1回転機21のステータ23にも、バッテリ43から電力を供給し、ステータ23で発生する第1回転磁界を正転させるとともに、第1磁界回転速度VMF1を上昇させる。
上記のように電力がステータ102に供給されることによって、回転機101の回転機トルクが第1リングギヤR1を介して、第1キャリアC1に伝達されるのに伴い、第1サンギヤS1に後述するように伝達されたトルクが、第1キャリアC1に伝達される。すなわち、回転機トルクと、第1サンギヤS1に伝達されたトルクが合成され、第1キャリアC1に伝達される。また、第1キャリアC1に伝達されたトルクの一部は、連結軸6を介してA1ロータ24に伝達され、残りは、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達される。
さらに、EV走行中ENG始動時、第1実施形態で述べたように、バッテリ43からステータ23に電力が供給されることによって、第1駆動用等価トルクTSE1がA2ロータ25に伝達されるのに伴い、A1ロータ24に上記のように伝達されたトルクが、A2ロータ25に伝達される。また、A2ロータ25に伝達されたトルクの一部は、第1回転軸4を介して第1サンギヤS1に伝達され、残りは、第1回転軸4などを介してクランク軸3aに伝達され、それにより、クランク軸3aが正転する。さらに、この場合、両ステータ102、23に供給される電力は、駆動輪DW,DWおよびエンジン3に動力が十分に伝達されるように制御される。
以上により、EV走行中ENG始動時、車速VPがそのときの値に保持されるとともに、エンジン回転数NEが上昇する。その状態で、第1実施形態と同様、クランク角度位置に応じ、エンジン3の燃料噴射弁や点火プラグの点火動作を制御することによって、エンジン3が始動される。また、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度を制御することによって、エンジン回転数NEが、エンジン3の始動に適した比較的小さな値に制御される。
図70は、EV走行中ENG始動の開始時における各種の回転要素の回転速度およびトルクの関係の一例を示している。同図において、VROおよびTMOTはそれぞれ、回転機101のロータ回転速度および回転機トルクである。この場合、図70から明らかなように、回転機トルクTMOTが、第1発電用等価トルクTGE1を反力として、駆動輪DW,DWおよびクランク軸3aの双方に伝達されるため、第1実施形態と同様、第1回転機21に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第1実施形態と同様、第1回転機21に要求されるトルクすなわち第1発電用等価トルクTGE1は、次式(60)で表される。
TGE1=−{r1・TDDW+(1+r1)TDENG}/(α+1+r1)……(60)
この式(60)から明らかなように、第1極対数比αが大きいほど、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジン伝達トルクTDENGに対して、第1発電用等価トルクTGE1は小さくなる。本実施形態では、第1実施形態と同様、第1極対数比αが値2.0に設定されているので、値1.0未満に設定した場合よりも第1発電用等価トルクTGE1を小さくすることができる。
・ENG走行
ENG走行中には、第1実施形態で述べた実行条件に応じて、バッテリ入出力ゼロモードや、アシストモード、駆動時充電モードによる運転が行われる。このバッテリ入出力ゼロモード中、A2ロータ25に伝達されるエンジン動力を用いて、第1回転機21のステータ23で発電を行うとともに、発電した電力を、バッテリ43に充電せずに、回転機101のステータ102に供給する。この場合、第1実施形態と同様、エンジントルクTENGの一部が、A2ロータ25を介して、ステータ23およびA1ロータ24に分配される。また、エンジントルクTENGの残りは、第1回転軸4を介して第1サンギヤS1に伝達される。さらに、上述したEV走行中ENG始動時と同様、回転機トルクTMOTと、第1サンギヤS1に上記のように伝達されたトルクは、合成され、第1キャリアC1に伝達される。また、第1キャリアC1には、A1ロータ24に上記のように分配されたエンジントルクTENGが、連結軸6を介してさらに伝達される。
以上のように、第1キャリアC1には、A1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGと、回転機トルクTMOTと、第1サンギヤS1に伝達されたエンジントルクTENGとを合成した合成トルクが伝達される。また、この合成トルクは、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、バッテリ入出力ゼロモード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、駆動輪DW,DWには、エンジン動力と等しい大きさの動力が伝達される。
さらに、バッテリ入出力ゼロモード中には、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROを制御することによって、エンジン動力が、無段階に変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。すなわち、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101は、無段変速装置として機能する。
具体的には、図71に二点鎖線で示すように、前記式(43)および(53)に示す速度関係を維持しながら、A2ロータ回転速度VRA2および第1サンギヤ回転速度VSU1、すなわちエンジン回転数NEに対して、第1磁界回転速度VMF1を上昇させるとともに、ロータ回転速度VROを低下させることによって、A1ロータ回転速度VRA1および第1キャリア回転速度VCA1、すなわち車速VPを無段階に減速することができる。逆に、図71に一点鎖線で示すように、エンジン回転数NEに対して、第1磁界回転速度VMF1を低下させるとともに、ロータ回転速度VROを上昇させることによって、車速VPを無段階に増速することができる。さらに、この場合、エンジン回転数NEが目標回転数になるように、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROを制御する。
以上のように、バッテリ入出力ゼロモード中、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101において、エンジン動力は、一旦、分割され、次の第1〜第3の伝達経路を介して第1キャリアC1に伝達されるとともに、合成された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
第1伝達経路:A2ロータ25→磁力線MLによる磁力→A1ロータ24→連結軸6→第1キャリアC1
第2伝達経路:第1サンギヤS1→第1プラネタリギヤP1→第1キャリアC1
第3伝達経路:A2ロータ25→磁力線MLによる磁力→ステータ23→第1PDU41→第2PDU42→回転機101→第1リングギヤR1→第1プラネタリギヤP1→第1キャリアC1
これらの第1および第2の伝達経路では、エンジン動力が、電力に変換されることなく、磁気パスや、歯車の噛み合いによる、いわゆる機械パスによって、駆動輪DW,DWに伝達される。
また、バッテリ入出力ゼロモード中、ステータ23で発電する電力と、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROは、前記式(43)および(53)に示す速度関係が維持されるように制御される。
また、アシストモード中には、A2ロータ25に伝達されるエンジン動力を用いて、ステータ23で発電を行うとともに、この発電した電力に加え、バッテリ43に充電されている電力を、回転機101のステータ102に供給する。このため、第1キャリアC1には、ステータ23およびバッテリ43からステータ102に供給された電力に基づく回転機トルクTMOTが伝達される。さらに、上述したバッテリ入出力ゼロモードと同様、この回転機トルクTMOTと、ステータ23での発電に伴ってA1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGと、第1サンギヤS1に伝達されたエンジントルクTENGとを合成したトルクが、第1キャリアC1を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、アシストモード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、駆動輪DW,DWに伝達される動力は、エンジン動力とバッテリ43から供給された電力(エネルギ)との和に等しくなる。
さらに、アシストモード中には、ステータ23で発電する電力と、バッテリ43からステータ102に供給される電力と、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROは、式(43)および(53)に示す速度関係が維持されるように制御される。その結果、第1実施形態と同様、車両要求動力に対するエンジン動力の不足分が、バッテリ43からステータ102に電力を供給することによって補われる。なお、車両要求動力に対するエンジン動力の不足分が比較的大きい場合には、回転機101のステータ102に加え、第1回転機21のステータ23にも、バッテリ43から電力が供給される。
また、駆動時充電モード中、回転機101のステータ102には、第1回転機21のステータ23で発電した電力からバッテリ43に充電される電力を差し引いた大きさの電力が供給され、この電力に基づく回転機トルクTMOTが、第1キャリアC1に伝達される。さらに、バッテリ入出力ゼロモードと同様、この回転機トルクTMOTと、ステータ23での発電に伴ってA1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGと、第1サンギヤS1に伝達されたエンジントルクTENGとを合成したトルクが、第1キャリアC1を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、駆動時充電モード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、駆動輪DW,DWに伝達される動力は、エンジン動力からバッテリ43に充電された電力(エネルギ)を差し引いた大きさになる。
さらに、駆動時充電モード中には、ステータ23で発電する電力と、バッテリ43に充電される電力と、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROは、式(43)および(53)に示す速度関係が維持されるように制御される。その結果、第1実施形態と同様、車両要求動力に対するエンジン動力の余剰分が、第1回転機21のステータ23において電力に変換され、バッテリ43に充電される。
また、ENG走行中、第1回転機21のステータ23で発電を行わずに、バッテリ43から回転機101のステータ102に電力を供給するとともに、この電力を、回転機トルクTMOTがエンジントルクTENGの1/r1倍の大きさになるように制御した場合には、エンジントルクTENGのすべてと回転機トルクTMOTが、第1キャリアC1において合成された後、駆動輪DW,DWに伝達される。すなわち、この場合には、エンジン動力を、前述した電気パスによって伝達せずに、機械パスのみによって駆動輪DW,DWに伝達することができる。また、この場合、駆動輪DW,DWには、エンジントルクTENGの(r1+1)/r1倍の大きさのトルクが伝達される。
さらに、第1実施形態で述べたENG走行中の急加速運転時、エンジン3、第1回転機21および回転機101は次のようにして制御される。図72は、ENG走行中の急加速運転の開始時における各種の回転要素の回転速度およびトルクの関係の一例を示している。この場合、エンジン回転数NEを、第1実施形態と同様、その最大トルクが得られるような所定の回転数に高める。また、図72に示すように、車速VPがすぐには上昇しないため、エンジン回転数NEが車速VPよりも高くなるとともに、両者の差が大きくなることから、回転機101のロータ103は逆転する。そのように逆転するロータ103から正のトルクを駆動輪DW,DWに作用させるために、ステータ102において発電を行う。さらに、ステータ102で発電した電力を第1回転機21のステータ23に供給し、第1回転磁界を正転させる。
以上により、エンジントルクTENG、第1駆動用等価トルクTSE1および回転機トルクTMOTはいずれも、正のトルクとして駆動輪DW,DWに伝達され、その結果、車速VPが急速に上昇する。また、ENG走行中の急加速運転の開始時には、図72から明らかなように、エンジントルクTENGおよび第1駆動用等価トルクTSE1が回転機トルクTMOTを反力として駆動輪DW,DWに伝達されるため、回転機101に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、回転機101に要求されるトルクすなわち回転機トルクTMOTは、次式(61)で表される。
TMOT=−{α・TENG+(1+α)TDDW}/(r1+1+α)……(61)
この式(61)から明らかなように、第1遊星ギヤ比r1が大きいほど、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジントルクTENGに対して、回転機トルクTMOTが小さくなる。本実施形態では、第1遊星ギヤ比r1が一般的な遊星歯車装置が取りうる値のなかで比較的大きな値に設定されているので、小さな値に設定した場合よりも、回転機トルクTMOTを小さくすることができる。
・減速回生
減速回生中、駆動輪DW,DWのトルク(慣性によるトルク)に対する、エンジン3に伝達される駆動輪DW,DWのトルクの割合が小さいときには、駆動輪DW,DWの動力の一部を用いて両ステータ23,102で発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ43に充電する。ステータ102での発電に伴い、第1キャリアC1には、駆動輪DW,DWのトルクの全部と、A1ロータ24に後述するように分配されたトルクとを合成した合成トルクが伝達される。また、第1キャリアC1に伝達された上記の合成トルクは、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に分配され、第1リングギヤR1に分配されたトルクは、ロータ103に伝達される。
さらに、第サンギヤS1に分配されたトルクの一部は、エンジン3に伝達され、残りは、前述したバッテリ入出力ゼロモードの場合と同様、ステータ23での発電に伴い、A2ロータ25に伝達された後、ステータ23およびA1ロータ24に分配される。また、A1ロータ24に分配されたトルクは、第1キャリアC1に伝達される。以上の結果、減速回生中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、エンジン3に伝達される動力と、バッテリ43に充電される電力(エネルギ)との和は、駆動輪DW,DWの動力と等しくなる。
・停車中ENG始動
停車中ENG始動時、第1回転機21のステータ23に、バッテリ43から電力を供給し、それに伴ってステータ23で発生する第1回転磁界を正転させるとともに、回転機101のステータ102で発電を行い、発電した電力をステータ23にさらに供給する。第1実施形態で述べたように、ステータ23に電力が供給されるのに伴い、ステータ23からの第1駆動用等価トルクTSE1は、A2ロータ25を正転させるように作用するとともに、A1ロータ24を逆転させるように作用する。また、A2ロータ25に伝達されたトルクの一部は、クランク軸3aに伝達され、それにより、クランク軸3aが正転する。
また、停車中ENG始動時、A2ロータ25に伝達されたトルクの残りは、第1サンギヤS1に伝達された後、回転機101のステータ102での発電に伴って、第1プラネタリギヤP1、第1リングギヤR1およびロータ103を介して、ステータ102に電気エネルギとして伝達される。また、車速VPが値0であるのに対し、クランク軸3aが上記のように正転するため、ロータ103が逆転する。このため、このステータ102での発電に伴って発生した回転機トルクTMOTは、第1リングギヤR1を介して第1キャリアC1に伝達され、第1キャリアC1を正転させるように作用する。また、この回転機トルクTMOTに釣り合うように、第1サンギヤS1に伝達されたトルクが、第1キャリアC1にさらに伝達され、第1キャリアC1を正転させるように作用する。
この場合、上述したA1ロータ24を逆転させるトルクと、第1キャリアC1を正転させるトルクとが釣り合うように、第1回転機21のステータ23に供給される電力と回転機101のステータ102で発電する電力を制御することによって、互いに連結されたA1ロータ24、第1キャリアC1および駆動輪DW,DWが、静止状態に保持される。その結果、A1ロータ回転速度VRA1および第1キャリア回転速度VCA1は、値0になり、車速VPも値0になる。
また、この場合、ステータ23に供給される電力とステータ102で発電する電力と第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROは、式(43)および(53)に示す速度関係が維持されるように、かつA2ロータ回転速度VRA2および第1サンギヤ回転速度VSU1が比較的小さな値になるように制御される。以上により、停車中ENG始動時、第1実施形態と同様、車速VPを値0に保持しながら、エンジン回転数NEが、エンジン3の始動に適した比較的小さな値に制御される。また、その状態で、クランク角度位置に応じ、エンジン3の燃料噴射弁や点火プラグの点火動作を制御することによって、エンジン3が始動される。
・ENGクリープ
ENGクリープ中には、ステータ23および102で発電を行う。また、このように両ステータ23,102で発電した電力を、バッテリ43に充電する。前述したバッテリ入出力ゼロモードの場合と同様、上記のステータ23での発電に伴って、A2ロータ25にエンジントルクTENGの一部が伝達されるとともに、A2ロータ25に伝達されたエンジントルクTENGが、ステータ23およびA1ロータ24に分配される。また、車速VPがほぼ値0であるのに対し、クランク軸3aが正転しているため、回転機101のロータ103が逆転する。このため、上記のステータ102での発電に伴って発生した回転機トルクTMOTは、上述した停車中ENG始動の場合と同様、第1キャリアC1を正転させるように作用する。また、回転機トルクTMOTに釣り合うように、第1サンギヤS1に伝達されたエンジントルクTENGが、第1キャリアC1にさらに伝達され、第1キャリアC1を正転させるように作用する。さらに、第1キャリアC1には、A1ロータ24に上記のように分配されたエンジントルクTENGが伝達される。
以上のように、ENGクリープ中、第1キャリアC1には、A1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGと、回転機トルクTMOTと、第1サンギヤS1に伝達されたエンジントルクTENGとを合成した合成トルクが伝達される。この合成トルクは、駆動輪DW,DWに伝達され、駆動輪DW,DWを正転させる。また、ステータ23,102で発電する電力、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROは、A1ロータ回転速度VRA1および第1キャリア回転速度VCA1すなわち車速VPが非常に小さくなるように制御され、それにより、クリープ運転が行われる。
また、ENGクリープ中には、上述したように、ステータ23での発電に伴ってA1ロータ24に分配されたエンジントルクTENGと、ステータ102での発電に伴って第1サンギヤS1を介して第1キャリアC1に伝達されたエンジントルクTENGが、駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、第1実施形態と同様、エンジントルクTENGの一部を駆動輪DW,DWに伝達できるので、エンジンストールを生じることなく、クリープ運転を行うことができる。
・ENG発進
ENG発進時、ENGクリープ中に逆転していたロータ103のロータ回転速度VROを、値0になるように制御し、正転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を上昇させるとともに、エンジン動力を増大させる。そして、ロータ回転速度VROが値0になった後には、前述したバッテリ入出力ゼロモードによる運転を行う。以上により、車速VPが上昇し、車両が発進する。
・EV後退発進
EV後退発進時、回転機101のステータ102および第1回転機21のステータ23の双方に、バッテリ43から電力を供給する。その結果、ステータ23で発生する第1回転磁界を正転させ、ステータ102で発生する第2回転磁界を正転させる。EV後退発進中、第1回転機21のステータ23に電力が供給されるのに伴い、ステータ23からの第1駆動用等価トルクは、A2ロータ25を正転させるように作用するとともに、A1ロータ24を逆転させるように作用する。また、回転機101のステータ102に電力が供給されるのに伴い、ステータ102からの第2駆動用等価トルクTSE2は、第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1を逆転させるように作用するとともに、第1遊星歯車装置PS1の第1サンギヤS1を正転させるように作用する。以上により、車速VPが負の方向に上昇し、車両が後退発進する。
・ENG後退発進
ENG後退発進時、ENGクリープ中に逆転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2がさらに負の方向に上昇するよう制御し、かつ、正転していた第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1を上昇させるとともに、エンジン動力を増大させる。以上により、車速VPが負の方向に上昇し、車両が後退発進する。
以上のように、本実施形態によれば、第1回転機21が遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機を組み合わせた装置と同じ機能を有するので、前述した従来の動力装置と異なり、動力を分配・合成して伝達するための2つの遊星歯車装置を必要とせず、第1遊星歯車装置PS1が1つのみで足りる。したがって、その分、動力装置1Fを小型化することができる。また、動力装置1Fでは、バッテリ入出力ゼロモードの動作説明で述べたように、前述した従来の場合と異なり、エンジン動力が再循環せずに駆動輪DW,DWに伝達されるので、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101を通過する動力を低減できる。したがって、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置1Fのさらなる小型化とコストの削減を達成することができる。さらに、上記のように低減された動力に見合ったトルク容量を有する第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101を用いることによって、動力の損失を抑制し、動力装置1Fの駆動効率を高めることができる。
また、エンジン動力は、第1伝達経路(A2ロータ25、磁力線MLによる磁力、A1ロータ24、連結軸6、第1キャリアC1)と、第2伝達経路(第1サンギヤS1、第1プラネタリギヤP1、第1キャリアC1)と、第3伝達経路(A2ロータ25、磁力線MLによる磁力、ステータ23、第1PDU41、第2PDU42、回転機101、第1リングギヤR1、第1プラネタリギヤP1、第1キャリアC1)の計3つの伝達経路を介して、分割された状態で駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、第3伝達経路を介して第1および第2のPDU41,42を通過する電力(エネルギ)を低減できるので、第1および第2のPDU41,42の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置1Fのさらなる小型化およびコストの削減を達成することができる。
さらに、図71を用いて説明したように、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROを制御することによって、エンジン動力が無段階に変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。また、この場合、エンジン回転数NEが、最良燃費が得られるように設定された目標回転数になるように、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROを制御するので、最良燃費が得られるようにエンジン動力を制御しながら、駆動輪DW,DWを駆動することができる。したがって、動力装置1Fの駆動効率をより一層、高めることができる。
また、第1実施形態と同様、第1回転機21の第1極対数比αが値2.0に設定されている。これにより、第1回転機21に要求されるトルクが特に大きくなるEV走行中ENG始動時、図70および前記式(60)を用いて説明したように、第1極対数比αを値1.0未満に設定した場合よりも第1発電用等価トルクTGE1を小さくすることができ、したがって、第1回転機21のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。さらに、第1遊星歯車装置PS1の第1遊星ギヤ比r1が、一般的な遊星歯車装置が取りうる値のなかで比較的大きな値に設定されている。これにより、回転機101に要求されるトルクが特に大きくなるENG走行中の急加速運転の開始時、図72および前記式(61)を用いて説明したように、第1遊星ギヤ比r1を小さな値に設定した場合よりも、回転機トルクTMOTを小さくすることができ、したがって、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。その他、本実施形態によれば、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本実施形態の動力装置1Fは、第1実施形態の動力装置1が行う「バッテリSOCに応じた制御」と同様の制御を行う。但し、本実施形態では、第1実施形態の第2回転機31が、第1遊星歯車装置PS1と1ロータタイプの回転機101に置き換えられている。このため、第2回転機31を回転機101と読み替え、第2回転機31のステータ33を回転機101のステータ102と読み替え、B2ロータ35を第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1と読み替える。
(第8〜第12の実施形態)
次に、図73〜図77を参照しながら、第8〜第12の実施形態による動力装置1G,1H,1I,1J,1Kについて説明する。これらの動力装置1G〜1Kはそれぞれ、第7実施形態と比較して、変速装置111,121,131,141,151をさらに備える点が主に異なっており、第8〜第12の実施形態のいずれにおいても、エンジン3、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1、回転機101、および駆動輪DW,DWの間の連結関係は、第7実施形態と同様である。すなわち、A2ロータ25および第1サンギヤS1がエンジン3のクランク軸3aに機械的に連結されるとともに、A1ロータ24および第1キャリアC1が駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、回転機101のロータ103が、第1リングギヤR1に機械的に連結されている。さらに、図73〜図77において、第7実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。このことは、後述する他の実施形態を説明するための図においても同様に当てはまる。以下、第8実施形態の動力装置1Gから順に、第7実施形態と異なる点を中心に説明する。
(第8実施形態)
図73に示すように、この動力装置1Gでは、変速装置111は、前述した互いに噛み合うギヤ7bおよび第1ギヤ8bに代えて設けられている。この変速装置111は、ベルト式の無段変速装置であり、前述した第2回転軸7に連結された入力軸と、アイドラ軸8に連結された出力軸と、入力軸および出力軸にそれぞれ設けられたプーリと、これらのプーリに巻きかけられた金属ベルト(いずれも図示せず)を有している。変速装置111は、これらのプーリの有効径を変更することによって、入力軸に入力された動力を変速した状態で出力軸に出力する。また、変速装置111の変速比(入力軸の回転数/出力軸の回転数)はECU2によって制御される。
上記のように、変速装置111は、A1ロータ24および第1キャリアC1と駆動輪DW,DWとの間に設けられており、また、A1ロータ24および第1キャリアC1に伝達された動力は、変速装置111によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Gでは、前述したEV発進時やENG発進時など、A1ロータ24および第1キャリアC1から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置111の変速比は値1.0よりも大きな減速側の所定値に制御される。これにより、A1ロータ24および第1キャリアC1に伝達されたトルクは、変速装置111において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、A1ロータ24および第1キャリアC1に伝達されるトルクが小さくなるように、第1回転機21で発電される電力および回転機101に供給される電力(発電される電力)が制御される。これにより、本実施形態によれば、第1回転機21および回転機101に要求されるトルクの最大値を小さくすることができるので、第1回転機21および回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。それに加え、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1を介して第1キャリアC1に伝達されるトルクの最大値を小さくすることができるので、第1遊星歯車装置PS1のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、EV走行やENG走行を含む車両の走行中において、車速VPが極めて高い場合など、A1ロータ回転速度VRA1が過大になるようなときには、変速装置111の変速比は値1.0よりも小さな増速側の所定値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、A1ロータ回転速度VRA1を低下させることができるので、A1ロータ回転速度VRA1の過大化による第1回転機21の故障を防止することができる。前述したようにA1ロータ24は磁石で構成されており、磁石は軟磁性体よりも強度が低く、上記のような不具合が発生しやすいため、特に有効である。
また、車速VPがエンジン回転数NEよりも高い高車速運転中など、車速VPとエンジン回転数NEの関係によって定まるロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置111の変速比は値1.0よりも小さな増速側の所定値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、第1キャリア回転速度VCA1を低下させることによって、前述した図71から明らかなように、ロータ回転速度VROを低下させることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
さらに、車両の走行中、変速装置111の変速比は、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROがそれぞれ所定の第1および第2の目標値になるように制御される。これらの第1および第2の目標値は、第1回転機21および回転機101のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、第1回転機21および回転機101を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、第1および第2の目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、第1回転機21および回転機101の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置111の制御と並行して、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROが、第1および第2の目標値にそれぞれ制御される。以上により、本実施形態によれば、車両の走行中、第1回転機21および回転機101の高い効率を得ることができる。
また、本実施形態においても、図71を用いて説明したように、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101によって、エンジン動力を無段階に変速して、駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置111の変速動作の頻度を低くすることができる。したがって、この変速動作による熱損失を抑制することができ、それにより、動力装置1Gの高い駆動効率を確保することができる。その他、本実施形態によれば、第7実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本実施形態では、変速装置111は、ベルト式の無段変速装置であるが、トロイダル式または油圧式の無段変速装置や、ギヤ式の有段変速装置でもよいことは、もちろんである。
(第9実施形態)
図74に示す第9実施形態の動力装置1Hでは、変速装置121は、遊星歯車装置などで構成されたギヤ式の有段変速装置であり、入力軸122および出力軸(図示せず)を有しており、変速段として、第1速(変速比=入力軸122の回転数/出力軸の回転数=1.0)と第2速(変速比<1.0)から成る計2つの変速段が設定されている。これらの変速段の変更はECU2によって行われる。また、変速装置121の入力軸122は、フライホイール5を介してクランク軸3aに直結されるとともに、変速装置121の出力軸(図示せず)は、前述した第1回転軸4に直結されている。このように、変速装置121は、クランク軸3aと、A2ロータ25および第1サンギヤS1との間に設けられており、エンジン動力を変速して、A2ロータ25および第1サンギヤS1に伝達する。
さらに、前述した差動ギヤ機構9のギヤ9aの歯数は、アイドラ軸8の第2ギヤ8cの歯数よりも大きくなっており、それにより、アイドラ軸8に伝達された動力は減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Hでは、ENG発進時など、A1ロータ24および第1キャリアC1から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置121の変速段は第2速(変速比<1.0)に制御される。これにより、A2ロータ25および第1サンギヤS1に入力されるエンジントルクTENGは小さくなる。それに応じて、A1ロータ24および第1キャリアC1に伝達されるエンジントルクTENGが小さくなるように、第1回転機21で発電される電力および回転機101に供給される電力(発電される電力)が制御される。また、A1ロータ24および第1キャリアC1に伝達されたエンジントルクTENGは、第2ギヤ8cおよびギヤ9aによる減速によって増大された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。以上により、本実施形態によれば、第1回転機21および回転機101に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、第1回転機21および回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。それに加え、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1を介して第1キャリアC1に伝達されるトルクの最大値を小さくすることができるので、第1遊星歯車装置PS1のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、エンジン回転数NEが極めて高いときには、変速装置121の変速段は第1速(変速比=1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、変速段が第2速の場合よりもA2ロータ回転速度VRA2を小さくすることができるので、A2ロータ回転速度VRA2の過大化による第1回転機21の故障を防止することができる。
さらに、車速VPがエンジン回転数NEよりも高い高車速運転中など、ロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置121の変速段は第2速に制御される。これにより、本実施形態によれば、エンジン回転数NEに対して第2サンギヤ回転速度VSU2を上昇させることにより、図71から明らかなように、ロータ回転速度VROを低下させることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
また、ENG走行中、変速装置121の変速段は、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROがそれぞれ第1回転機21および回転機101の高い効率を得られるような値になるように変更される。さらに、このような変速装置121の変速段の変更と並行して、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROが、そのときのエンジン回転数NE、車速VP、変速装置121の変速段、前記式(43)および(53)によって定まる値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、第1回転機21および回転機101の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置121の変速動作中、すなわち、変速装置121によってエンジン3とA2ロータ25および第1サンギヤS1との間が遮断されているときには、変速ショックを抑えるために、次のようにして第1回転機21および回転機101を制御する。以下、このような第1回転機21および回転機101の制御を「変速ショック制御」という。
すなわち、第1回転機21のステータ23に電力を供給し、それに伴ってステータ23で発生する第1回転磁界を正転させるとともに、回転機101のステータ102に電力を供給し、ロータ103を正転させる。これにより、第1駆動用等価トルクTSE1と、A1ロータ24に後述するように伝達されるトルクが合成され、この合成トルクはA2ロータ25に伝達される。A2ロータ25に伝達されたトルクは、上述した変速装置121による遮断によって、クランク軸3aには伝達されず、第1サンギヤS1に伝達され、さらに、第1リングギヤR1に伝達された回転機トルクTMOTと合成された後、第1キャリアC1に伝達される。第1キャリアC1に伝達されたトルクの一部は、A1ロータ24に伝達され、残りは駆動輪DW,DWに伝達される。
したがって、本実施形態によれば、変速動作中、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、商品性を高めることができる。なお、この変速ショック制御は、変速装置121の変速動作中に限って行われる。その他、本実施形態によれば、第7実施形態による効果を同様に得ることができる。
(第10実施形態)
図75に示す第10実施形態の動力装置1Iでは、変速装置131は、ギヤ式の有段変速装置であり、入力軸132および出力軸(図示せず)と、ギヤ比が互いに異なる複数のギヤ列と、これらの複数のギヤ列と入力軸132および出力軸との間をギヤ列ごとに接続・遮断するクラッチ(いずれも図示せず)を有している。変速装置131は、入力軸132に入力された動力を、これらの複数のギヤ列の1つによって変速した状態で、出力軸に出力する。また、変速装置131では、これらの複数のギヤ列によって、前進用の第1速(変速比=入力軸132の回転数/出力軸の回転数>1.0)、第2速(変速比=1.0)および第3速(変速比<1.0)と、後進用の1つの変速段から成る計4つの変速段が設定され、その変更はECU2によって制御される。
また、動力装置1Iでは、第7実施形態と異なり、第2回転軸7が設けられておらず、A1ロータ24は、変速装置131の入力軸132に直結されており、変速装置131の出力軸は、前述した連結軸6に直結されている。連結軸6には、ギヤ6bが一体に設けられており、このギヤ6bは、前述した第1ギヤ8bに噛み合っている。
以上のように、A1ロータ24は、変速装置131、連結軸6、ギヤ6b、第1ギヤ8b、アイドラ軸8、第2ギヤ8c、ギヤ9a、および差動ギヤ機構9などを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、A1ロータ24に伝達された動力は、変速装置131によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、第1キャリアC1は、連結軸6、ギヤ6bおよび第1ギヤ8bなどを介して、変速装置131を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
また、回転機101のロータ103は、回転軸103aに一体に設けられており、この回転軸103aは、フランジを介して第1リングギヤR1に直結されている。これにより、ロータ103は、第1リングギヤR1に機械的に直結されており、第1リングギヤR1と一体に回転自在になっている。
以上の構成の動力装置1Iでは、ENG発進時など、A1ロータ24から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置131の変速段は、第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、A1ロータ24に伝達されたトルクは、変速装置131において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、A1ロータ24に伝達されるトルクが小さくなるように、第1回転機21で発電される電力が制御される。これにより、本実施形態によれば、第1回転機21に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、第1回転機21のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、車速VPが極めて高い高車速運転中など、A1ロータ回転速度VRA1が過大になるようなときには、変速装置131の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、A1ロータ回転速度VRA1を低下させることができるので、A1ロータ回転速度VRA1の過大化による第1回転機21の故障を防止することができる。A1ロータ24は磁石で構成されており、磁石は軟磁性体よりも強度が低く、上記のような不具合が発生しやすいため、特に有効である。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置131の変速段は、第1磁界回転速度VMF1が所定の目標値になるように制御される。この目標値は、第1回転機21および回転機101のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、第1回転機21および回転機101を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、第1回転機21の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置131の制御と並行して、第1磁界回転速度VMF1が上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、第1回転機21の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置131の変速動作中、すなわち、変速装置131の入力軸132および出力軸が変速前のギヤ列と遮断された後、変速先のギヤ列に接続されるまでの間は、第1回転機21および回転機101が次のようにして制御される。すなわち、変速装置131の変速動作中、変速装置131におけるギヤ列と、入力軸132および出力軸との間の遮断により、A1ロータ24と駆動輪DW,DWの間が遮断されることによって、A1ロータ24に駆動輪DW,DWの負荷が作用しなくなる。このため、第1回転機21では発電が行われず、回転機101のステータ102に、バッテリ43から電力が供給される。
これにより、本実施形態によれば、変速装置131の変速動作中、第1リングギヤR1に伝達された回転機トルクTMOTと、第1サンギヤS1に伝達されたエンジントルクTENGが合成され、第1キャリアC1を介して駆動輪DW,DWに伝達されるので、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。
また、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101によって、エンジン動力を無段階に変速して駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置131の変速動作の頻度を低くすることができ、したがって、動力装置1Iの駆動効率を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第7実施形態による効果を同様に得ることができる。
(第11実施形態) 図76に示す第11実施形態の動力装置1Jでは、第10実施形態と同様、第2回転軸7は設けられておらず、第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っている。これにより、A1ロータ24および第1キャリアC1は、連結軸6や、ギヤ6b、第1ギヤ8b、アイドラ軸8、第2ギヤ8c、ギヤ9a、差動ギヤ機構9などを介して、変速装置141を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
また、変速装置141は、第10実施形態の変速装置131と同様に構成された、第1速〜第3速の変速段を有するギヤ式の有段変速装置であり、回転機101のロータ103に回転軸103aを介して直結された入力軸(図示せず)と、第1リングギヤR1に直結された出力軸142を有しており、入力軸に入力された動力を変速し、出力軸142に出力する。さらに、変速装置141の変速段の変更は、ECU2によって制御される。このように、ロータ103は、変速装置141を介して第1リングギヤR1に機械的に連結されており、また、ロータ103の動力は、変速装置141によって変速され、第1リングギヤR1に伝達される。
以上の構成の動力装置1Jでは、EV発進時やENG発進時など、ロータ103から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置141の変速段は、第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、回転機トルクTMOTは、変速装置141において増大された後、第1リングギヤR1および第1キャリアC1を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、回転機トルクTMOTが小さくなるように、回転機101に供給される電力(発電される電力)が制御される。これにより、本実施形態によれば、回転機101に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、車速VPがエンジン回転数NEよりも高い高車速運転中など、ロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置141の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、そのときの車速VPとエンジン回転数NEの関係によって定まる第1リングギヤ回転速度VRI1に対して、ロータ回転速度VROを低下させることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置141の変速段は、ロータ回転速度VROが所定の目標値になるように制御される。この目標値は、第1回転機21および回転機101のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、第1回転機21および回転機101を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、回転機101の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置141の制御と並行して、ロータ回転速度VROが上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、回転機101の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置141の変速動作中、すなわち、変速装置141によりロータ103と駆動輪DW,DWの間が遮断されているときに、第7実施形態で述べたように、エンジントルクTENGの一部がA1ロータ24を介して駆動輪DW,DWに伝達される。したがって、本実施形態によれば、変速装置141の変速動作中、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができるので、商品性を高めることができる。
また、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101によって、エンジン動力を無段階に変速して駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置141の変速動作の頻度を低くすることができ、したがって、動力装置1Jの駆動効率を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第7実施形態による効果を同様に得ることができる。
(第12実施形態) 図77に示す第12実施形態の動力装置1Kでは、第10および第11の実施形態と同様、第2回転軸7は設けられておらず、第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っている。また、変速装置151は、第10実施形態の変速装置131と同様に構成された、第1速〜第3速の変速段を有するギヤ式の有段変速装置であり、第1キャリアC1に直結された入力軸152と、連結軸6に直結された出力軸(図示せず)を有しており、入力軸152に入力された動力を変速し、出力軸に出力する。さらに、変速装置151の変速段の変更は、ECU2によって制御される。
上記のように、第1キャリアC1は、変速装置151や、連結軸6、ギヤ6b、第1ギヤ8bなどを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されており、また、第1キャリアC1に伝達された動力は、変速装置151によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、A1ロータ24は、連結軸6や、ギヤ6b、第1ギヤ8bなどを介して、変速装置151を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、ロータ103は、第10実施形態と同様、回転軸103aを介して第1リングギヤR1に直結されており、第1リングギヤR1と一体に回転自在になっている。
以上の構成の動力装置1Kでは、EV発進時やENG発進時など、第1キャリアC1から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置151の変速段は、第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、第1キャリアC1に伝達されたトルクは、変速装置151において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、回転機トルクTMOTが小さくなるように、回転機101に供給される電力(発電される電力)が制御される。これにより、本実施形態によれば、回転機101に要求されるトルクの最大値と、第1キャリアC1に伝達されるトルクの最大値を小さくすることができ、回転機101および第1遊星歯車装置PS1のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、車速VPがエンジン回転数NEよりも高い高車速運転中など、ロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置151の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、第1キャリア回転速度VCA1を低下させることによって、図71から明らかなように、ロータ回転速度VROを低下させることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置151の変速段は、ロータ回転速度VROが所定の目標値になるように制御される。この目標値は、第1回転機21および回転機101のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、第1回転機21および回転機101を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、回転機101の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置151の制御と並行して、ロータ回転速度VROが上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、回転機101の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置151の変速動作中、すなわち、変速装置151により第1キャリアC1と駆動輪DW,DWの間が遮断されているときに、第7実施形態で述べたように、エンジントルクTENGの一部がA1ロータ24を介して駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、本実施形態によれば、第11実施形態と同様、変速装置151の変速動作中、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。
さらに、第1回転機21、第1遊星歯車装置PS1および回転機101によって、エンジン動力を無段階に変速して駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置151の変速動作の頻度を低くすることができ、したがって、動力装置1Kの駆動効率を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第7実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第9〜第12の実施形態では、変速装置121〜151は、ギヤ式の有段変速装置であるが、ベルト式やトロイダル式、油圧式の無段変速装置でもよいことはもちろんである。
(第13実施形態)
次に、図78を参照しながら、第13実施形態による動力装置1Lについて説明する。この動力装置1Lは、第7実施形態と比較して、ロータ回転速度VROおよび車速VPの速度差と車速VPおよびエンジン回転数NEの速度差との比を変更する変速装置をさらに備える点が主に異なっている。以下、第7実施形態と異なる点を中心に説明する。
図78に示すように、この動力装置1Lでは、第11実施形態と同様、第2回転軸7は設けられておらず、第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っており、それにより、A1ロータ24および第1キャリアC1は、連結軸6や、ギヤ6b、第1ギヤ8b、差動ギヤ機構9などを介して、上記の変速装置を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、ロータ103は、第10実施形態と同様、回転軸103aと一体に回転自在になっている。
上記の変速装置は、第2遊星歯車装置PS2、第1クラッチCL1および第2クラッチCL2を備えている。第2遊星歯車装置PS2は、第1遊星歯車装置PS1と同様に構成されており、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2、ならびに、両ギヤS2,R2に噛み合う複数(例えば3つ)の第2プラネタリギヤP2(2つのみ図示)を回転自在に支持する第2キャリアC2を有している。第2サンギヤS2は、回転軸を介して第1キャリアC1に機械的に直結されており、それにより、第1キャリアC1と一体に回転自在になっている。また、第2キャリアC2は、中空の軸やフランジを介して、第1リングギヤR1に機械的に直結されており、それにより、第1リングギヤR1と一体に回転自在になっている。以下、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2および第2キャリアC2の回転速度をそれぞれ、「第2サンギヤ回転速度VSU2」「第2リングギヤ回転速度VRI2」および「第2キャリア回転速度VCA2」という。
上記の第1クラッチCL1は、例えば摩擦式多板クラッチで構成されており、第2キャリアC2と回転軸103aの間に設けられている。すなわち、第2キャリアC2は、第1クラッチCL1を介してロータ103に機械的に直結されている。また、第1クラッチCL1は、その締結度合がECU2により制御されることによって、第2キャリアC2と回転軸103aの間、すなわち、第2キャリアC2とロータ103の間を接続・遮断する。
上記の第2クラッチCL2は、第1クラッチCL1と同様、摩擦式多板クラッチで構成されており、第2リングギヤR2と回転軸103aの間に設けられている。すなわち、第2リングギヤR2は、第2クラッチCL2を介してロータ103に機械的に直結されている。また、第2クラッチCL2は、その締結度合がECU2により制御されることによって、第2リングギヤR2と回転軸103aの間、すなわち、第2リングギヤR2とロータ103の間を接続・遮断する。
以上のように、動力装置1Lでは、回転機101のロータ103は、第1クラッチCL1および第2キャリアC2を介して、第1リングギヤR1に機械的に連結されるとともに、第2クラッチCL2、第2リングギヤギヤR2、第2プラネタリギヤP2、および第2キャリアC2を介して、第1リングギヤR1に機械的に連結されている。
図79(a)は、第1サンギヤ回転速度VSU1、第1キャリア回転速度VCA1および第1リングギヤ回転速度VRI1の関係の一例を示す速度共線図を、第2サンギヤ回転速度VSU2、第2キャリア回転速度VCA2および第2リングギヤ回転速度VRI2の関係の一例を示す速度共線図とともに示している。同図において、r2は、第2サンギヤS2の歯数と第2リングギヤR2の歯数との比(第2サンギヤS2の歯数/第2リングギヤR2の歯数、以下「第2遊星ギヤ比」という)である。
前述したように、第1キャリアC1および第2サンギヤS2が互いに直結されているので、第1キャリア回転速度VCA1および第2サンギヤ回転速度VSU2は互いに等しく、第1リングギヤR1および第2キャリアC2が互いに直結されているので、第1リングギヤ回転速度VRI1および第2キャリア回転速度VCA2は互いに等しい。したがって、図79(a)の第1および第2の遊星歯車装置PS1,PS2に関する2つの速度共線図は、図79(b)のような1つの速度共線図で表される。同図に示すように、以上のような第1および第2の遊星歯車装置PS1,PS2の各種の回転要素の連結によって、互いに回転速度が共線の関係にある4つの回転要素が構成される。
また、図80(a)は、上記の4つの回転要素の回転速度の関係の一例を示す速度共線図を、第1磁界回転速度VMF1、A1およびA2のロータ回転速度VRA1,VRA2の関係の一例を示す速度共線図とともに示している。前述したように第1キャリアC1およびA1ロータ24が互いに直結されているので、第2キャリア回転速度VCA2およびA1ロータ回転速度VRA1は、互いに等しい。また、第1サンギヤS1およびA2ロータ25が互いに直結されているので、第1サンギヤ回転速度VSU1およびA2ロータ回転速度VRA2は、互いに等しい。したがって、図80(a)の2つの速度共線図は、図80(b)のような1つの速度共線図で示される。
また、クランク軸3a、A2ロータ25および第1サンギヤS1が互いに直結されているので、エンジン回転数NE、A2ロータ回転速度VRA2および第1サンギヤ回転速度VSU1は、互いに等しい。さらに、駆動輪DW,DW、A1ロータ24、第1キャリアC1および第2サンギヤS2が互いに連結されているので、差動ギヤ機構9による変速などがないものとすれば、車速VP、A1ロータ回転速度VRA1、第1キャリア回転速度VCA1および第2サンギヤ回転速度VSU2は、互いに等しい。
また、ロータ103が、第1および第2のクラッチCL1,CL2をそれぞれ介して、第2キャリアC2および第2リングギヤR2に連結されているので、第1クラッチCL1を接続するとともに、第2クラッチCL2を遮断しているとき(以下、このようなクラッチの接続・遮断状態を「第1変速モード」という)には、ロータ回転速度VROおよび第2キャリア回転速度VCA2は、互いに等しい。さらに、第1クラッチCL1を遮断するとともに、第2クラッチCL2を接続しているとき(以下、このようなクラッチの接続・遮断状態を「第2変速モード」という)には、ロータ回転速度VROおよび第2リングギヤ回転速度VRI2は、互いに等しい。
以上により、第1磁界回転速度VMF1、エンジン回転数NE、車速VP、およびロータ回転速度VROは、第1変速モード中には、例えば図81(a)に示すような共線の関係になり、第2変速モード中には、例えば図81(b)に示すような共線の関係になる。
これらの図81(a)および図81(b)に示すように、速度共線図における車速VPを表す縦線とロータ回転速度VROを表す縦線との間の距離が、上述した第1変速モードの方が第2変速モードよりも小さいため、ロータ回転速度VROおよび車速VPの回転差DN2と車速VPおよびエンジン回転数NEの回転差DN1との比(以下「回転比DN2/DN1」という)は、第1変速モードの方が小さい。
以上の構成の動力装置1Lでは、車速VPがエンジン回転数NEよりも高い高車速運転中や、前述したEV走行中で車速VPが高いときなど、ロータ回転速度VROが過大になるようなときには、第1変速モードが用いられる。これにより、本実施形態によれば、上述した回転比DN2/DN1の関係から明らかなように、第2変速モードを用いた場合よりもロータ回転速度VROを小さくすることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
また、ENG走行中の急加速運転の開始時、すなわち、回転機101に要求されるトルクが大きくなる場合において、第1および第2の変速モードを用いたときには、各種の回転要素の回転速度とトルクの関係は、図82(a)および図82(b)でそれぞれ表され
る。この場合、第1変速モードを用いたときには、回転機101に要求されるトルク、すなわち回転機トルクTMOTは、前記式(61)で表される。一方、第2変速モードを用いたときには、回転機トルクTMOTは、次式(62)で表される。
TMOT=−{α・TENG+(1+α)TDDW}
/(r1・r2+r1+1+α) ……(62)
これらの式(61)と式(62)の比較から明らかなように、回転機トルクTMOTは、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジントルクTENGに対して、第2変速モードの方が小さい。このため、ENG走行中の急加速運転時には、第2変速モードが用いられる。
本実施形態によれば、第2変速モードを上述したようにして用いるとともに、上述した式(62)に基づいて、回転機101で発電される電力を制御するので、回転機101に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、ひいては、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、第1および第2の変速モードのうち、エンジン3の停止中には車速VPに応じて、エンジン3の運転中には車速VPおよびエンジン回転数NEに応じて、回転機101のより高い効率が得られる変速モードが選択される。これにより、本実施形態によれば、ロータ回転速度VROを適度な高さに制御できるので、回転機101の高い効率を得ることができる。
さらに、第1および第2の変速モードの切換は、第2キャリア回転速度VCA2および第2リングギヤ回転速度VRI2が互いに等しいときに行われる。これにより、本実施形態によれば、第1および第2の変速モードの切換を、駆動輪DW,DWやエンジン3の回転を保ちながら、円滑に行うことができ、良好なドライバビリティを確保することができる。
また、ENG走行中で、かつ、第1および第2の変速モードの間での移行時、第1および第2のクラッチCL1,CL2の双方が遮断された場合でも、第7実施形態で述べたように、エンジントルクTENGの一部を、A2およびA1のロータ25,24を介して、駆動輪DW,DWに伝達できる。したがって、トルクの急減などの変速ショックを抑えることができるので、商品性を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第7実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本実施形態では、第2サンギヤS2を第1キャリアC1に連結するとともに、第2リングギヤR2を、第2クラッチCL2を介してロータ103に連結しているが、これらの連結関係を逆に、すなわち、第2リングギヤR2を第1キャリアC1に連結するとともに、第2サンギヤS2を、第2クラッチCL2を介してロータ103に連結してもよい。また、本実施形態では、第1および第2のクラッチCL1,CL2を、摩擦式多板クラッチで構成しているが、例えば電磁クラッチなどで構成してもよい。
図83(a)、(b)は、動力装置1Lにおける各種の回転要素の回転速度の関係の一例を、(a)第1変速モード中について、(b)第2変速モード中について、それぞれ示す速度共線図である。なお、図83(a)、(b)では、回転機21が「第1回転機」、回転機101が「第2回転機」、第2サンギヤS2が「一方のギヤ」または「第1ギヤ」、第2リングギヤR2が「他方のギヤ」または「第2ギヤ」、第2キャリアC2が「キャリア」、第2出力部が「回転軸103a」、第1クラッチが「第1クラッチCL1」、第2クラッチが「第1クラッチCL2」、エンジン3が「熱機関」、駆動輪DW,DWが「被駆動部」とそれぞれ表されている。ここで、第2の遊星歯車装置PS2の一方のギヤの回転速度を「第1ギヤ回転速度VG1」、第2の遊星歯車装置PS2の他方のギヤの回転速度を「第2ギヤ回転速度VG2」、第2の遊星歯車装置PS2のキャリアの回転速度を「キャリア回転速度VC」とする。上述した連結関係において、各種に回転要素が直結されており、かつ、第1クラッチの接続により第2回転機の第2出力部をキャリアに連結するとともに、第2クラッチの遮断により第2出力部と他方のギヤの間を遮断しているとき(以下、このような第1および第2のクラッチの接続・遮断状態を「第1変速モード」という)には、熱機関の回転数や被駆動部の速度などの関係は、例えば図83(a)のように示される。また、第1クラッチの遮断により第2回転機の第2出力部とキャリアの間を遮断するとともに、第2クラッチの接続により第2出力部を他方のギヤに連結しているとき(以下、このような第1および第2のクラッチの接続・遮断状態を「第2変速モード」という)には、熱機関の回転数や被駆動部の速度などの関係は、例えば図83(b)のように示される。
なお、前述したように、本実施形態の第1回転機が第1実施形態の第1回転機21と同じ機能を有しているので、前記式(25)から明らかなように、磁界回転速度VFと第1ロータ回転速度VR1と第2ロータ回転速度VR2の関係は、VF=(α+1)VR2−α・VR1で表される。このため、図83(a)、(b)に示す速度共線図において、磁界回転速度VFを表す縦線から第2ロータ回転速度VR2を表す縦線までの距離と、第2ロータ回転速度VR2を表す縦線から第1ロータ回転速度VR1を表す縦線までの距離との比は、1:(1/α)である。また、図83(a)、(b)において、第1ギヤ回転速度VG1を表す縦線からキャリア回転速度VCを表す縦線までの距離をY、キャリア回転速度VCを表す縦線から第2ギヤ回転速度VG2を表す縦線までの距離をZとする。
これらの図83(a)と図83(b)の比較から明らかなように、速度共線図における被駆動部の速度を表す縦線と第2回転機の回転速度を表す縦線との間の距離が、第1変速モードの方が第2変速モードよりも小さいため、第2回転機の第2出力部および被駆動部の速度差D2と被駆動部および熱機関の速度差D1との比(D2/D1)は、第1変速モードの方が小さい。また、被駆動部の速度が熱機関の回転数よりも高いときには、第2回転機の回転速度が被駆動部の速度よりも高くなり、過大になる場合がある。このため、例えば、このような場合に、第1変速モードを用いることによって、上述した速度差D1とD2との比の関係から明らかなように、第2変速モードを用いた場合よりも第2回転機の回転速度を小さくすることができるので、第2回転機の回転速度の過大化による第2回転機の故障を防止することができる。
さらに、図62を用いて説明したように第2回転機に要求されるトルクが大きくなるような場合において、第1変速モードを用いたときには、駆動用等価トルクTe、熱機関トルクTHE、被駆動部伝達トルクTOUT、および第2回転機トルクTM2の関係は、例えば図84(a)のように示される。また、第2回転機に要求されるトルク、すなわち第2回転機トルクTM2は、例えば次式(63)で表される。
TM2=−{THE+[(1/α)+1]TOUT}/[Y+(1/α)+1]
……(63)
一方、第2変速モードを用いたときには、駆動用等価トルクTe、熱機関トルクTHE、被駆動部伝達トルクTOUT、および第2回転機トルクTM2の関係は、例えば図84(b)のように示される。また、第2回転機のトルクTM2は、例えば次式(64)で表される。
TM2=−{THE+[(1/α)+1]TOUT}/[Z+Y+(1/α)+1]
……(64)
上記の式(63)と式(64)の比較から明らかなように、第2回転機のトルクTM2は、同じ大きさの被駆動部伝達トルクTOUTおよび熱機関のトルクTHEに対して、第2変速モードの方が小さい。このため、例えば、上述したように第2回転機に要求されるトルクが大きくなるような場合に、第2変速モードを用いることによって、第2回転機トルクTM2を小さくすることができ、ひいては、第2回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、例えば、熱機関の回転数および被駆動部の速度に応じ、第1または第2の変速モードを選択することによって、第2回転機の回転速度を適度な大きさに制御でき、それにより、第2回転機の高い効率を得ることができる。さらに、第1および第2の変速モードの切換を、キャリア回転速度VCおよび第2ギヤ回転速度VG2が図85に示すように互いに等しいときに行うことによって、被駆動部や熱機関の回転を保ちながら、円滑に行うことができ、良好なドライバビリティを確保することができる。
また、例えば、第1ロータを、ギヤ式の有段変速装置を介さずに被駆動部に連結することが可能であり、それにより、第1および第2の変速モードの間での移行時、第1および第2のクラッチの双方が遮断状態にあることにより第2回転機と被駆動部の間が遮断されていても、図59から明らかなように、熱機関のトルクTHEの一部を、第2および第1のロータを介して被駆動部に伝達できる。したがって、第1および第2の変速モードの間での移行時、変速ショックを抑えることができるので、商品性を高めることができる。
(第14実施形態)
次に、図86を参照しながら、第14実施形態による動力装置1Mについて説明する。この動力装置1Mは、第7実施形態の動力装置1Fに第6実施形態で述べたブレーキ機構BLを加えたものである。以下、第7実施形態と異なる点を中心に説明する。
動力装置1Mでは、ワンウェイクラッチOCおよびケースCAで構成されたブレーキ機構BLによって、第1回転軸4の回転は、クランク軸3a、A2ロータ25および第1サンギヤS1とともに正転する場合にのみ、許容され、クランク軸3aなどとともに逆転する場合に阻止される。
以上の構成の動力装置1Mでは、前述したEVクリープ運転およびEV発進による運転が次のようにして行われる。すなわち、第1回転機21のステータ23および回転機101のステータ102に電力を供給し、それに伴ってステータ23で発生する第1回転磁界を逆転させるとともに、ロータ103を第1リングギヤR1とともに正転させる。また、第1磁界回転速度VMF1およびロータ回転速度VROを、(1+r1)・|VMF1|=α・|VRO|が成立するように制御する。さらに、ステータ23および102に供給される電力は、駆動輪DW,DWにトルクが十分に伝達されるように制御される。
前述した第6実施形態と同様、ステータ23に供給された電力はすべて、A1ロータ24に動力として伝達され、それにより、A1ロータ24は正転する。また、上記のように正転するロータ103に対して、ブレーキ機構BLにより第1サンギヤS1の逆転が阻止されているので、回転機101からの動力はすべて、第1リングギヤR1および第1プラネタリギヤP1を介して、第1キャリアC1に伝達され、それにより、第1キャリアC1は正転する。さらに、A1ロータ24および第1キャリアC1に伝達された動力は、駆動輪DW,DWに伝達され、その結果、駆動輪DW,DWは正転する。
また、この場合、ブレーキ機構BLにより逆転するのが阻止されているA2ロータ25および第1サンギヤS1にはそれぞれ、上述した第1回転機21および回転機101の制御によって、ステータ23およびロータ103から逆転させるようなトルクが作用する。これにより、クランク軸3a、A2ロータ25および第1サンギヤS1は、逆転しないだけでなく、静止状態に保持される。
以上のように、本実施形態によれば、エンジン動力を用いることなく、第1回転機21および回転機101によって駆動輪DW,DWを駆動することができる。また、この駆動中、クランク軸3aは逆転しないだけでなく、静止状態に保持されるので、エンジン3を引きずることがない。その他、第7実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、これまでに述べた第7〜第14の実施形態では、第1実施形態と同様、第1回転機21の第1極対数比αを値2.0に設定しているが、値1.0よりも小さく設定することによって、前述した図33(a)、(b)および図71から明らかなように、第1磁界回転速度VMF1の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。また、第7〜第14の実施形態では、第1遊星歯車装置PS1の第1遊星ギヤ比r1を比較的大きな値に設定しているが、より小さな値に設定することによって、次の効果が得られる。
図71から明らかなように、第1遊星ギヤ比r1を比較的大きな値に設定した場合において、車速VPがエンジン回転数NEよりも高い(図71の一点鎖線参照)ときには、ロータ回転速度VROが、車速VPよりも高くなり、過大になる場合がある。これに対し、第1遊星ギヤ比r1をより小さな値に設定することによって、図71に破線で示す速度共線図と一点差線で示す速度共線図との比較から明らかなように、ロータ回転速度VROを小さくすることができ、したがって、ロータ回転速度VROの過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
さらに、第7〜第14の実施形態では、A2ロータ25および第1サンギヤS1を互いに直結するとともに、A1ロータ24および第1キャリアC1を互いに直結しているが、A2ロータ25および第1サンギヤS1は、クランク軸3aに連結されていれば、互いに直結されていなくてもよく、また、A1ロータ24および第1キャリアC1は、駆動輪DW,DWに連結されていれば、互いに直結されていなくてもよい。この場合、第8および第9の実施形態の変速装置111,121をそれぞれ、2つの変速装置で構成するとともに、次のようにして設けてもよい。すなわち、変速装置111を構成する2つの変速装置の一方をA1ロータ24と駆動輪DW,DWの間に、他方を第1キャリアC1と駆動輪DW,DWの間に、それぞれ設けてもよい。また、変速装置121を構成する2つの変速装置の一方をA2ロータ25とクランク軸3aの間に、他方を第1サンギヤS1とクランク軸3aの間に、それぞれ設けてもよい。
また、第7〜第14の実施形態では、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1を、エンジン3および回転機101にそれぞれ連結しているが、これらの連結関係を逆に、すなわち、第1リングギヤR1および第1サンギヤS1を、エンジン3および回転機101にそれぞれ連結してもよい。この場合には、回転機101に要求されるトルクが特に大きくなるENG走行中の急加速運転時、回転機トルクTMOTは、次式(65)で表される。
TMOT=−{α・TENG+(1+α)TDDW}/(r1’+1+α)
……(65)
この式(65)において、r1’は、第1リングギヤR1の歯数と第1サンギヤS1の歯数との比(第1リングギヤの歯数/第1サンギヤS1の歯数)であり、値1.0よりも大きい。このことと、第1遊星ギヤ比r1が、前述したように第1サンギヤS1の歯数/第1リングギヤR1の歯数であり、値1.0よりも小さいことと、前記式(61)と式(65)から明らかなように、回転機トルクTMOTをより小さくすることができ、したがって、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
(第15実施形態) 次に、図87を参照しながら、第15実施形態による動力装置1Nについて説明する。この動力装置1Nは、第1実施形態の動力装置1と比較して、第1回転機21に代えて、第7実施形態で述べた第1遊星歯車装置PS1および回転機101が設けられている点のみが異なっている。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図87に示すように、第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1および第2回転機31のB1ロータ34は、第1回転軸4を介して互いに機械的に直結されるとともに、第1回転軸4およびフライホイール5を介して、クランク軸3aに機械的に直結されている。また、第2回転機31のB2ロータ35は、連結軸6を介して第1遊星歯車装置PS1の第1サンギヤS1に機械的に直結されるとともに、第2回転軸7や、ギヤ7b、第1ギヤ8b、アイドラ軸8、第2ギヤ8c、ギヤ9a、差動ギヤ機構9などを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。すなわち、第1サンギヤS1およびB2ロータ35は、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、ステータ102は、第1PDU41を介して、バッテリ43に電気的に接続されている。すなわち、回転機101のステータ102と第2回転機31のステータ33は、第1および第2のPDU41,42を介して、互いに電気的に接続されている。
また、回転機101のロータ103の回転角度位置は、第7実施形態と同様、前述した回転角センサ59によって検出される。また、ECU2は、検出されたロータ103の回転角度位置に基づき、ロータ回転速度VROを算出するとともに、第1PDU41を制御することによって、回転機101のステータ102に供給される電力や、ステータ102で発電する電力、ロータ回転速度VROを制御する。
以上のように、本実施形態による動力装置1Nは、第1実施形態の動力装置1と比較して、第1回転機21を第1遊星歯車装置PS1および回転機101に置き換えただけであり、この動力装置1とまったく同じ機能を有している。また、動力装置1Nでは、第1実施形態で述べたEVクリープなどの各種の動作モードによる運転が、同様にして行われる。この場合、これらの動作モードによる運転は、第1回転機21に関する各種のパラメータ(第1磁界回転速度VMF1など)を、対応する回転機101の各種のパラメータに置き換えて行われる。以下、これらの動作モードについて、第1実施形態と異なる点を中心として簡単に説明する。
・EVクリープ
EVクリープ中には、第1実施形態と同様、第2回転機31のステータ33に、バッテリ43から電力を供給するとともに、第2回転磁界を正転させる。また、回転機101のロータ103に後述するように伝達される動力を用いて、ステータ102で発電を行うとともに、発電した電力をステータ23に供給する。これに伴い、第1実施形態で述べたように、ステータ33からの第2駆動用等価トルクTSE2は、B2ロータ35を正転させるように作用するとともに、B1ロータ34を逆転させるように作用する。また、B2ロータ35に伝達されたトルクの一部は、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達され、それにより、駆動輪DW,DWが正転する。
さらに、EVクリープ中、B2ロータ35に伝達されたトルクの残りは、連結軸6を介して第1サンギヤS1に伝達された後、回転機101のステータ102での発電に伴って、第1プラネタリギヤP1、第1リングギヤR1およびロータ103を介して、ステータ102に電気エネルギとして伝達される。また、この場合、ロータ103が逆転するため、ステータ102での発電に伴って発生した回転機トルクTMOTは、第1リングギヤR1および第1プラネタリギヤP1を介して、第1キャリアC1に伝達され、第1キャリアC1を正転させるように作用する。また、この回転機トルクTMOTに釣り合うように、第1サンギヤS1に伝達されたトルクが、第1プラネタリギヤP1を介して第1キャリアC1にさらに伝達され、第1キャリアC1を正転させるように作用する。
この場合、上述したB1ロータ34を逆転させるトルクと、第1キャリアC1を正転させるトルクとが釣り合うように、ステータ33に供給される電力とステータ102で発電する電力を制御することによって、互いに連結されたB1ロータ34、第1キャリアC1およびクランク軸3aが、静止状態に保持される。その結果、EVクリープ中、B1ロータ回転速度VRB1および第1キャリア回転速度VCA1は、値0になり、エンジン回転数NEも値0になる。
また、EVクリープ中、ステータ33に供給される電力と、ステータ102で発電する電力と、第2磁界回転速度VMF2およびロータ回転速度VROはそれぞれ、前記式(44)および(53)に示すような速度関係が維持されるように、かつB2ロータ回転速度VRB2および第1サンギヤ回転速度VSU1が非常に小さくなるように制御される。以上により、車速VPが非常に小さなクリープ運転が行われる。以上のように、エンジン3を停止した状態で、回転機101および第2回転機31によって、クリープ運転を行うことができる。
・EV発進
EV発進時には、第2回転機31のステータ33に供給される電力および回転機101のステータ102で発電する電力をいずれも増大させる。さらに、式(44)および(53)に示すような回転速度の関係を維持し、エンジン回転数NEを値0に保持しながら、EVクリープ中に逆転していたロータ103のロータ回転速度VROと、正転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2をそれぞれ、それまでと同じ回転方向に上昇させる。以上により、車速VPが上昇し、車両が発進する。
・EV走行中ENG始動
EV走行中ENG始動時には、車速VPをそのときの値に保持しながら、EV発進時に上述したように逆転していたロータ103のロータ回転速度VROを、値0になるように制御するとともに、正転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2を、低下させるように制御する。そして、ロータ回転速度VROが値0になった後には、第2回転機31のステータ33に加え、回転機101のステータ102にも、バッテリ43から電力を供給し、ロータ103を正転させるとともに、ロータ回転速度VROを上昇させる。
上記のように電力がステータ33に供給されるのに伴い、第1実施形態で述べたように、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に後述するように伝達されたトルクが合成され、B2ロータ35に伝達される。また、B2ロータ35に伝達されたトルクの一部は、連結軸6を介して第1サンギヤS1に伝達され、残りは、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達される。
また、EV走行中ENG始動時、バッテリ43からステータ102に電力が供給されることによって、回転機トルクTMOTが、第1リングギヤR1および第1プラネタリギヤP1を介して、第1キャリアC1に伝達されるのに伴い、第1サンギヤS1に上記のように伝達されたトルクが、第1プラネタリギヤP1を介して第1キャリアC1に伝達される。また、第1キャリアC1に伝達されたトルクの一部は、第1回転軸4を介してB1ロータ34に伝達され、残りは、第1回転軸4などを介してクランク軸3aに伝達され、それにより、クランク軸3aが正転する。さらに、この場合、両ステータ33,102に供給される電力は、駆動輪DW,DWおよびエンジン3に動力が十分に伝達されるように制御される。
以上により、EV走行中ENG始動時、車速VPがそのときの値に保持されるとともに、エンジン回転数NEが上昇する。その状態で、第1実施形態と同様、クランク角度位置に応じ、エンジン3の燃料噴射弁や点火プラグの点火動作を制御することによって、エンジン3が始動される。また、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2を制御することによって、エンジン回転数NEが、エンジン3の始動に適した比較的小さな値に制御される。
図88は、EV走行中ENG始動の開始時における各種の回転要素の回転速度およびトルクの関係の一例を示している。前述した各種の回転要素の連結関係から明らかなように、第1キャリア回転速度VCA1、B1ロータ回転速度VRB1およびエンジン回転数NEは互いに等しく、第1サンギヤ回転速度VSU1およびB2ロータ回転速度VRB2は互いに等しく、第1リングギヤ回転速度VRI1およびロータ回転速度VROは互いに等しい。また、差動ギヤ機構9などによる変速がないとすれば、車速VP、第1サンギヤ回転速度VSU1およびB2ロータ回転速度VRB2は互いに等しい。このことと、式(44)および(53)から、これらの回転速度VCA1、VRB1、NE、VSU1、VRB2、VP、VRI1、およびVROと、第2磁界回転速度VMF2の関係は、例えば図88のように示される。
この場合、図88から明らかなように、第2駆動用等価トルクTSE2が、回転機トルクTMOTを反力として、駆動輪DW,DWおよびクランク軸3aの双方に伝達されるため、回転機101に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、回転機101に要求されるトルクすなわち回転機トルクTMOTは、次式(66)で表される。
TMOT=−{β・TDDW+(1+β)TDENG}/(r1+1+β)
……(66)
この式(66)から明らかなように、第1遊星ギヤ比r1が大きいほど、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジン伝達トルクTDENGに対して、回転機トルクTMOTが小さくなる。前述したように第1遊星ギヤ比r1が一般的な遊星歯車装置が取りうる値のなかで比較的大きな値に設定されているので、回転機101の小型化およびコストの削減を図ることができる。
・ENG走行
ENG走行中には、第1実施形態で述べた実行条件に応じて、バッテリ入出力ゼロモードや、アシストモード、駆動時充電モードによる運転が行われる。このバッテリ入出力ゼロモード中、ロータ103に伝達されるエンジン動力を用いて、回転機101のステータ102で発電を行うとともに、発電した電力を、バッテリ43に充電せずに、第2回転機31のステータ33に供給する。この場合、このステータ102での発電によって、エンジントルクTENGの一部が、第1キャリアC1、第1プラネタリギヤP1および第1リングギヤR1を介して、ロータ103に伝達されるのに伴い、第1サンギヤS1にも、第1キャリアC1および第1プラネタリギヤP1を介して、エンジントルクTENGの一部が伝達される。すなわち、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に、エンジントルクTENGの一部が分配される。
また、エンジントルクTENGの残りは、第1回転軸4を介してB1ロータ34に伝達される。さらに、上述したEV走行中ENG始動時と同様、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に上記のように伝達されたトルクは、合成され、B2ロータ35に伝達される。また、B2ロータ35には、第1サンギヤS1に上記のように分配されたエンジントルクTENGが、連結軸6を介してさらに伝達される。
以上のように、B2ロータ35には、第1サンギヤS1に分配されたエンジントルクTENGと、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGとを合成した合成トルクが伝達される。また、この合成トルクは、第2回転軸7などを介して駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、バッテリ入出力ゼロモード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、駆動輪DW,DWには、エンジン動力と等しい大きさの動力が伝達される。
さらに、バッテリ入出力ゼロモード中には、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2を制御することによって、エンジン動力が、無段階に変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。すなわち、第1遊星歯車装置PS1、回転機101および第2回転機31は、無段変速装置として機能する。
具体的には、図89に二点鎖線で示すように、前記式(53)および(44)に示す速度関係を維持しながら、第1キャリア回転速度VCA1およびB1ロータ回転速度VRB1、すなわちエンジン回転数NEに対して、ロータ回転速度VROを上昇させるとともに、第2磁界回転速度VMF2を低下させることによって、第1サンギヤ回転速度VSU1およびB2ロータ回転速度VRB2、すなわち車速VPを無段階に減速することができる。逆に、図89に一点鎖線で示すように、エンジン回転数NEに対して、ロータ回転速度VROを低下させるとともに、第2磁界回転速度VMF2を上昇させることによって、車速VPを無段階に増速することができる。さらに、この場合、エンジン回転数NEが目標回転数になるように、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2を制御する。
以上のように、バッテリ入出力ゼロモード中、第1遊星歯車装置PS1、回転機101および第2回転機31において、エンジン動力は、一旦、分割され、次の第1〜第3の伝達経路を介してB2ロータ35に伝達されるとともに、合成された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
第1伝達経路:第1キャリアC1→第1プラネタリギヤP1→第1サンギヤS1→連結軸6→B2ロータ35
第2伝達経路:B1ロータ34→磁力線による磁力→B2ロータ35
第3伝達経路:第1キャリアC1→第1プラネタリギヤP1→第1リングギヤR1→ロータ103→ステータ102→第1PDU41→第2PDU42→ステータ33→磁力線による磁力→B2ロータ35
これらの第1および第2の伝達経路では、エンジン動力が、電力に変換されることなく、磁気パスや機械パスによって、駆動輪DW,DWに伝達される。また、第3伝達経路では、エンジン動力が、電気パスによって駆動輪DW,DWに伝達される。
また、バッテリ入出力ゼロモード中、ステータ102で発電する電力と、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2は、式(53)および(44)に示す速度関係が維持されるように制御される。
また、アシストモード中には、回転機101のステータ102で発電を行うとともに、この発電した電力に加え、バッテリ43に充電されている電力を、第2回転機31のステータ33に供給する。このため、B2ロータ35には、ステータ102およびバッテリ43からステータ33に供給された電力に基づく第2駆動用等価トルクTSE2が伝達される。さらに、上述したバッテリ入出力ゼロモードと同様、この第2駆動用等価トルクTSE2と、ステータ102での発電に伴って第1サンギヤS1に分配されたエンジントルクTENGと、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGとを合成したトルクが、B2ロータ35を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、アシストモード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、駆動輪DW,DWに伝達される動力は、エンジン動力とバッテリ43から供給された電力(エネルギ)との和に等しくなる。
さらに、アシストモード中には、ステータ102で発電する電力と、バッテリ43からステータ33に供給される電力と、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2は、前記式(53)および(44)に示す速度関係が維持されるように制御される。その結果、第1実施形態と同様、車両要求動力に対するエンジン動力の不足分が、バッテリ43から第2回転機31のステータ33に電力を供給することによって補われる。なお、車両要求動力に対するエンジン動力の不足分が比較的大きい場合には、第2回転機31のステータ33に加え、回転機101のステータ102にも、バッテリ43から電力が供給される。
また、駆動時充電モード中、第2回転機31のステータ33には、回転機101のステータ102で発電した電力からバッテリ43に充電される電力を差し引いた大きさの電力が供給され、この電力に基づく第2駆動用等価トルクTSE2が、B2ロータ35に伝達される。さらに、バッテリ入出力ゼロモードと同様、この第2駆動用等価トルクTSE2と、ステータ102での発電に伴って第1サンギヤS1に分配されたエンジントルクTENGと、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGとを合成したトルクが、B2ロータ35を介して、駆動輪DW,DWに伝達される。以上の結果、駆動時充電モード中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、駆動輪DW,DWに伝達される動力は、エンジン動力からバッテリ43に充電された電力(エネルギ)を差し引いた大きさになる。
さらに、駆動時充電モード中には、ステータ102で発電する電力と、バッテリ43に充電される電力と、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2は、式(53)および(44)に示す速度関係が維持されるように制御される。その結果、第1実施形態と同様、車両要求動力に対するエンジン動力の余剰分が、回転機101のステータ102において電力に変換され、バッテリ43に充電される。
また、ENG走行中、回転機101のステータ102で発電する電力を、回転機トルクTMOTがエンジントルクTENGの1/(1+r1)になるように制御した場合には、エンジン3から駆動輪DW,DWへの動力の伝達を、磁気パスのみによって行うことができる。この場合、駆動輪DW,DWには、エンジントルクTENGのr1/(1+r1)倍の大きさのトルクが伝達される。
さらに、第1実施形態で述べたENG走行中の急加速運転時、エンジン3、回転機101および第2回転機31は次のようにして制御される。図90は、ENG走行中の急加速運転の開始時における各種の回転要素の回転速度およびトルクの関係の一例を示している。この場合、エンジン回転数NEを、第1実施形態と同様、その最大トルクが得られるような所定の回転数に高める。また、図90に示すように、車速VPがすぐには上昇しないため、エンジン回転数NEが車速VPよりも高くなるとともに、両者の差が大きくなることから、両者の関係によって定まる第2回転磁界の回転方向は逆転方向になる。そのような第2回転磁界を発生させるステータ33から正のトルクを駆動輪DW,DWに作用させるために、ステータ33において発電を行う。さらに、ステータ33で発電した電力を回転機101のステータ102に供給し、ロータ103を正転させる。
以上により、エンジントルクTENG、回転機トルクTMOTおよび第2発電用等価トルクTGE2はいずれも、正のトルクとして駆動輪DW,DWに伝達され、その結果、車速VPが急速に上昇する。また、ENG走行中の急加速運転の開始時には、図90から明らかなように、エンジントルクTENGおよび回転機トルクTMOTが第2発電用等価トルクTGE2を反力として駆動輪DW,DWに伝達されるため、第2回転機31に要求されるトルクは、それ以外の場合よりも大きくなる。この場合、第2回転機31に要求されるトルクすなわち第2発電用等価トルクTGE2は、次式(67)で表される。
TGE2=−{r1・TENG+(1+r1)TDDW}/(β+1+r1) ……(67)
この式(67)から明らかなように、第2極対数比βが大きいほど、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジントルクTENGに対して、回転機トルクTMOTが小さくなる。本実施形態では、第2極対数比βが値2.0に設定されているので、第1実施形態と同様、第2回転機31の小型化およびコストの削減を図ることができる。
・減速回生
減速回生中、駆動輪DW,DWのトルク(慣性によるトルク)に対する、エンジン3に伝達される駆動輪DW,DWのトルクの割合が小さいときには、駆動輪DW,DWの動力の一部を用いて両ステータ102,33で発電を行うとともに、発電した電力をバッテリ43に充電する。ステータ33での発電に伴い、B2ロータ35には、駆動輪DW,DWのトルクの全部と、第1サンギヤS1に後述するように分配されたトルクとを合成した合成トルクが伝達される。また、B2ロータ35に伝達された上記の合成トルクは、ステータ33およびB1ロータ34に分配される。
さらに、B1ロータ34に分配されたトルクの一部は、エンジン3に伝達され、残りは、前述したバッテリ入出力ゼロモードの場合と同様、ステータ102での発電に伴い、第1キャリアC1に伝達された後、ステータ102および第1サンギヤS1に分配される。また、第1サンギヤS1に分配されたトルクは、B2ロータ35に伝達される。以上の結果、減速回生中、各ギヤによる伝達ロスなどがないとすれば、第1実施形態と同様、エンジン3に伝達される動力と、バッテリ43に充電される電力(エネルギ)との和は、駆動輪DW,DWの動力と等しくなる。
・停車中ENG始動
停車中ENG始動時、回転機101のステータ102に、バッテリ43から電力を供給し、ロータ103を正転させるとともに、第2回転機31のステータ33で発電を行い、発電した電力をステータ102にさらに供給する。ステータ102への電力の供給に伴って第1リングギヤR1に伝達された回転機トルクTMOTは、第1プラネタリギヤP1を介して、第1キャリアC1および第1サンギヤS1に伝達され、第1キャリアC1を正転させるように作用するとともに、第1サンギヤS1を逆転させるように作用する。また、第1キャリアC1に伝達されたトルクの一部は、クランク軸3aに伝達され、それにより、クランク軸3aが正転する。
また、停車中ENG始動時、第1キャリアC1に伝達されたトルクの残りは、B1ロータ34に伝達された後、第2回転機31のステータ33での発電に伴って、ステータ33に電気エネルギとして伝達される。また、この場合、第1実施形態で述べたように、第2回転磁界が逆転する。このため、このステータ33での発電に伴って発生した第2発電用等価トルクTGE2は、B2ロータ35を正転させるように作用する。また、この第2発電用等価トルクTGE2に釣り合うように、B1ロータ34に伝達されたトルクが、B2ロータ35にさらに伝達され、B2ロータ35を正転させるように作用する。
この場合、上述した第1サンギヤS1を逆転させるトルクと、B2ロータ35を正転させるトルクとが釣り合うように、回転機101のステータ102に供給される電力と第2回転機31のステータ33で発電する電力を制御することによって、互いに連結された第1サンギヤS1、B2ロータ35および駆動輪DW,DWが、静止状態に保持される。その結果、第1サンギヤ回転速度VSU1およびB2ロータ回転速度VRB2は、値0になり、車速VPも値0になる。
また、この場合、ステータ102に供給される電力とステータ33で発電する電力とロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2は、式(53)および(44)に示す速度関係が維持されるように、かつ第1キャリア回転速度VCA1およびB1ロータ回転速度VRB1が比較的小さな値になるように制御される。以上により、停車中ENG始動時、第1実施形態と同様、車速VPを値0に保持しながら、エンジン回転数NEが、エンジン3の始動に適した比較的小さな値に制御される。また、その状態で、クランク角度位置に応じ、エンジン3の燃料噴射弁や点火プラグの点火動作を制御することによって、エンジン3が始動される。
・ENGクリープ
ENGクリープ中には、ステータ102および33で発電を行う。また、このように両ステータ102,33で発電した電力を、バッテリ43に充電する。前述したバッテリ入出力ゼロモードの場合と同様、上記のステータ102での発電に伴って、第1キャリアC1にエンジントルクTENGの一部が伝達されるとともに、第1キャリアC1に伝達されたエンジントルクTENGが、ステータ102および第1サンギヤS1に分配される。また、第1実施形態と同様、上述したステータ33での発電に伴って発生する第2回転磁界が逆転する。このため、上記のステータ33での発電に伴って発生した第2発電用等価トルクTGE2は、B2ロータ35を正転させるように作用する。また、第2発電用等価トルクTGE2に釣り合うように、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGが、B2ロータ35にさらに伝達され、B2ロータ35を正転させるように作用する。さらに、B2ロータ35には、第1サンギヤS1に上記のように分配されたエンジントルクTENGが伝達される。
以上のように、ENGクリープ中、B2ロータ35には、第1サンギヤS1に分配されたエンジントルクTENGと、第2発電用等価トルクTGE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGとを合成した合成トルクが伝達される。この合成トルクは、駆動輪DW,DWに伝達され、駆動輪DW,DWを正転させる。また、ステータ102,33で発電する電力、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2は、第1サンギヤ回転速度VSU1およびB2ロータ回転速度VRB2すなわち車速VPが非常に小さくなるように制御され、それにより、クリープ運転が行われる。
また、ENGクリープ中には、上述したように、ステータ102での発電に伴って第1サンギヤS1に分配されたエンジントルクTENGと、ステータ33での発電に伴ってB1ロータ34を介してB2ロータ35に伝達されたエンジントルクTENGが、駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、第1実施形態と同様、エンジントルクTENGの一部を駆動輪DW,DWに伝達できるので、エンジンストールを生じることなく、クリープ運転を行うことができる。
・ENG発進
ENG発進時、ENGクリープ中に逆転していた第2回転磁界の第2磁界回転速度VMF2を、値0になるように制御し、正転していたロータ103のロータ回転速度VROを上昇させるとともに、エンジン動力を増大させる。そして、第2磁界回転速度VMF2が値0になった後には、前述したバッテリ入出力ゼロモードによる運転を行う。以上により、車速VPが上昇し、車両が発進する。
以上のように、本実施形態によれば、第2回転機31が遊星歯車装置と一般的な1ロータタイプの回転機を組み合わせた装置と同じ機能を有するので、前述した従来の動力装置と異なり、動力を分配・合成して伝達するための2つの遊星歯車装置を必要とせず、第1遊星歯車装置PS1が1つのみで足りる。したがって、その分、動力装置1Nを小型化することができる。また、動力装置1Nでは、バッテリ入出力ゼロモードの動作説明で述べたように、前述した従来の場合と異なり、エンジン動力が再循環せずに駆動輪DW,DWに伝達されるので、第1遊星歯車装置PS1、回転機101および第2回転機31を通過する動力を低減できる。したがって、第1遊星歯車装置PS1、回転機101および第2回転機31の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置1Nのさらなる小型化とコストの削減を達成することができる。さらに、上記のように低減された動力に見合ったトルク容量を有する第1遊星歯車装置PS1、回転機101および第2回転機31を用いることによって、動力の損失を抑制し、動力装置1Nの駆動効率を高めることができる。
また、エンジン動力は、第1伝達経路(第1キャリアC1、第1プラネタリギヤP1、第1サンギヤS1、連結軸6、B2ロータ35)と、第2伝達経路(B1ロータ34、磁力線による磁力、B2ロータ35)と、第3伝達経路(第1キャリアC1、第1プラネタリギヤP1、第1リングギヤR1、ロータ103、ステータ102、第1PDU41、第2PDU42、ステータ33、磁力線による磁力、B2ロータ35)の計3つの伝達経路を介して、分割された状態で駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、第3伝達経路を介して第1および第2のPDU41,42を通過する電力(エネルギ)を低減できるので、第1および第2のPDU41,42の小型化およびコストの削減を図ることができ、それにより、動力装置1Nのさらなる小型化およびコストの削減を達成することができる。
さらに、図89を用いて説明したように、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2を制御することによって、エンジン動力が無段階に変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。また、この場合、エンジン回転数NEが、最良燃費が得られるように設定された目標回転数になるように、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2を制御するので、最良燃費が得られるようにエンジン動力を制御しながら、駆動輪DW,DWを駆動することができる。したがって、動力装置1Nの駆動効率をより一層、高めることができる。
また、第1遊星歯車装置PS1の第1遊星ギヤ比r1が、一般的な遊星歯車装置が取りうる値のなかで比較的大きな値に設定されている。これにより、回転機101に要求されるトルクが特に大きくなるEV走行中ENG始動時、図88および前記式(66)を用いて説明したように、第1遊星ギヤ比r1を小さな値に設定した場合よりも、回転機トルクTMOTを小さくすることができ、したがって、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。さらに、第2回転機31の第2極対数比βが値2.0に設定されている。これにより、第2回転機31に要求されるトルクが特に大きくなるENG走行中の急加速運転時、図90および前記式(67)を用いて説明したように、第2極対数比βを値1.0未満に設定した場合よりも、回転機トルクTMOTを小さくすることができ、したがって、第2回転機31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。その他、本実施形態によれば、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本実施形態の動力装置1Nは、第1実施形態の動力装置1が行う「バッテリSOCに応じた制御」と同様の制御を行う。但し、本実施形態では、第1実施形態の第1回転機21が、第1遊星歯車装置PS1と1ロータタイプの回転機101に置き換えられている。このため、第1回転機21を回転機101と読み替え、第1回転機21のステータ23を回転機101のステータ102と読み替え、A2ロータ25を第1遊星歯車装置PS1の第1キャリアC1と読み替える。
(第16〜第19の実施形態)
次に、図91〜図94を参照しながら、第16〜第19の実施形態による動力装置1O,1P,1Q,1Rについて説明する。これらの動力装置1O〜1Rはそれぞれ、第15実施形態と比較して、変速装置161,171,181,191をさらに備える点が主に異なっており、第16〜第19の実施形態のいずれにおいても、エンジン3、回転機101、第1遊星歯車装置PS1、第2回転機31および駆動輪DW,DWの間の連結関係は、第15実施形態と同様である。すなわち、第1キャリアC1およびB1ロータ34がエンジン3のクランク軸3aに機械的に連結されるとともに、第1サンギヤS1およびB2ロータ35が駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。また、回転機101のロータ103が、第1リングギヤR1に機械的に連結されている。さらに、図91〜図94において、第15実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。このことは、後述する他の実施形態を説明するための図においても同様に当てはまる。以下、第16実施形態の動力装置1Oから順に、第15実施形態と異なる点を中心に説明する。
(第16実施形態)
図91に示すように、この動力装置1Oでは、変速装置161は、前述した互いに噛み合うギヤ7bおよび第1ギヤ8bに代えて設けられている。この変速装置161は、第8実施形態の変速装置111と同様、ベルト式の無段変速装置であり、前述した第2回転軸7に連結された入力軸と、アイドラ軸8に連結された出力軸と、入力軸および出力軸にそれぞれ設けられたプーリと、これらのプーリに巻きかけられた金属ベルト(いずれも図示せず)を有している。変速装置161は、これらのプーリの有効径を変更することによって、入力軸に入力された動力を変速した状態で出力軸に出力する。また、変速装置161の変速比(入力軸の回転数/出力軸の回転数)はECU2によって制御される。
上記のように、変速装置161は、第1サンギヤS1およびB2ロータ35と駆動輪DW,DWとの間に設けられており、また、第1サンギヤS1およびB2ロータ35に伝達された動力は、変速装置161によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Oでは、EV発進時やENG発進時など、第1サンギヤS1およびB2ロータ35から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置161の変速比は値1.0よりも大きな減速側の所定値に制御される。これにより、第1サンギヤS1およびB2ロータ35に伝達されたトルクは、変速装置161において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、第1サンギヤS1およびB2ロータ35に伝達されるトルクが小さくなるように、回転機101で発電される電力および第2回転機31に供給される電力(発電される電力)が制御される。したがって、本実施形態によれば、回転機101および第2回転機31に要求されるトルクの最大値を小さくすることができるので、回転機101および第2回転機31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。また、上述した変速装置161および回転機101の制御によって、第1キャリアC1を介して第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に分配されるトルクを小さくすることができ、第1キャリアC1に伝達されるトルクの最大値を小さくすることができるので、第1遊星歯車装置PS1のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
さらに、車速VPが極めて高い高車速運転中など、B2ロータ回転速度VRB2が過大になるようなときには、変速装置161の変速比は値1.0よりも小さな増速側の所定値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、B2ロータ回転速度VRB2を低下させることができるので、B2ロータ回転速度VRB2の過大化による第2回転機31の故障を防止することができる。
また、エンジン回転数NEが車速VPよりも高い急加速時など、エンジン回転数NEと車速VPの関係によって定まるロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置161の変速比は値1.0よりも大きな減速側の所定値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、第1サンギヤ回転速度VSU1を上昇させることによって、前述した図89から明らかなように、ロータ回転速度VROを低下させることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置161の変速比は、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2がそれぞれ所定の第1および第2の目標値になるように制御される。これらの第1および第2の目標値は、回転機101および第2回転機31のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、回転機101および第2回転機31を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、第1および第2の目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、回転機101および第2回転機31の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置161の制御と並行して、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2が、第1および第2の目標値にそれぞれ制御される。以上により、本実施形態によれば、車両の走行中、回転機101および第2回転機31の高い効率を得ることができる。
また、本実施形態においても、図89を用いて説明したように、回転機101、第1遊星歯車装置PS1および第2回転機31によって、エンジン動力を無段階に変速して、駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置161の変速動作の頻度を低くすることができる。したがって、この変速動作による熱損失を抑制することができ、それにより、動力装置1Oの高い駆動効率を確保することができる。その他、本実施形態によれば、第15実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本実施形態では、変速装置161は、ベルト式の無段変速装置であるが、トロイダル式または油圧式の無段変速装置やギヤ式の有段変速装置でもよいことは、もちろんである。
(第17実施形態)
図92に示す第17実施形態の動力装置1Pでは、変速装置171は、前述した第9実施形態の変速装置121と同様、遊星歯車装置などで構成されたギヤ式の有段変速装置であり、入力軸172および出力軸(図示せず)を有しており、変速段として、第1速(変速比=入力軸172の回転数/出力軸の回転数=1.0)と第2速(変速比<1.0)から成る計2つの変速段が設定されている。これらの変速段の変更はECU2によって行われる。また、変速装置171の入力軸172はフライホイール5を介してクランク軸3aに直結されるとともに、その出力軸(図示せず)が第1回転軸4に直結されている。このように、変速装置171は、クランク軸3aと、第1キャリアC1およびB1ロータ34との間に設けられており、エンジン動力を変速して、第1キャリアC1およびB1ロータ34に伝達する。
さらに、第9実施形態と同様、前述した差動ギヤ機構9のギヤ9aの歯数は、アイドラ軸8の第2ギヤ8cの歯数よりも大きくなっており、それにより、アイドラ軸8に伝達された動力は減速された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Pでは、ENG発進時など、第1サンギヤS1およびB2ロータ35から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置171の変速段は第2速(変速比<1.0)に制御される。これにより、第1キャリアC1およびB1ロータ34に入力されるエンジントルクTENGは小さくなる。それに応じて、第1サンギヤS1およびB2ロータ35に伝達されるエンジントルクTENGが小さくなるように、回転機101で発電される電力および第2回転機31に供給される電力(発電される電力)が制御される。また、第1サンギヤS1およびB2ロータ35に伝達されたエンジントルクTENGは、第2ギヤ8cおよびギヤ9aによる減速によって増大された状態で、駆動輪DW,DWに伝達される。以上により、本実施形態によれば、回転機101および第2回転機31に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、回転機101および第2回転機31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。それに加え、第1キャリアC1を介して第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に分配されるトルクの最大値を小さくすることができるので、第1遊星歯車装置PS1のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、エンジン回転数NEが極めて高いときには、変速装置171の変速段は第1速(変速比=1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、変速段が第2速の場合よりもB1ロータ回転速度VRB1を小さくすることができるので、B1ロータ回転速度VRB1の過大化による第2回転機31の故障を防止することができる。B1ロータ34は磁石で構成されており、上記のような不具合が発生しやすいため、特に有効である。
さらに、エンジン回転数NEが車速VPよりも高い急加速時など、ロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置171の変速段は第1速に制御される。これにより、変速段が第2速の場合よりも第1キャリア回転速度VCA1が小さくなるので、本実施形態によれば、図89から明らかなように、ロータ回転速度VROを低下させることができ、したがって、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
また、ENG走行中、変速装置171の変速段は、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2がそれぞれ回転機101および第2回転機31の高い効率を得られるような値になるように変更される。さらに、このような変速装置171の変速段の変更と並行して、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2が、そのときのエンジン回転数NE、車速VP、変速装置171の変速段、前記式(44)、および式(53)によって定まる値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、回転機101および第2回転機31の高い効率を得ることができる。
さらに、ENG走行中で、かつ、変速装置171の変速動作中、すなわち、変速装置171によってエンジン3と第1キャリアC1およびB1ロータ34との間が遮断されているときには、変速ショックを抑えるために、次のようにして回転機101および第2回転機31を制御する。以下、このような回転機101および第2回転機31の制御を、第9実施形態と同様、「変速ショック制御」という。
すなわち、回転機101のステータ102に電力を供給し、ロータ103を正転させるとともに、第2回転機31のステータ33に電力を供給し、それに伴って発生する第2回転磁界を正転させる。これにより、第1リングギヤR1に伝達された回転機トルクTMOTと、第1サンギヤS1に後述するように伝達されたトルクが合成された後、第1キャリアC1に伝達される。第1キャリアC1に伝達されたトルクは、上述した変速装置171による遮断によって、クランク軸3aには伝達されず、B1ロータ34に伝達され、さらに、第4ステータ232からの第2駆動用等価トルクTSE2と合成された後、B2ロータ35に伝達される。B2ロータ35に伝達されたトルクの一部は、第1サンギヤS1に伝達され、残りは駆動輪DW,DWに伝達される。
したがって、本実施形態によれば、変速動作中、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、商品性を高めることができる。なお、この変速ショック制御は、変速装置171の変速動作中に限って行われる。その他、本実施形態によれば、第15実施形態による効果を同様に得ることができる。
(第18実施形態)
図93に示す第18実施形態の動力装置1Qでは、第15実施形態と異なり、第2回転軸7は設けられておらず、第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っている。これにより、第1サンギヤS1およびB2ロータ35は、連結軸6や、ギヤ6b、第1ギヤ8b、アイドラ軸8、第2ギヤ8c、ギヤ9a、差動ギヤ機構9などを介して、変速装置181を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
また、変速装置181は、第10実施形態の変速装置131と同様に構成された、第1速〜第3速の変速段を有するギヤ式の有段変速装置であり、第1リングギヤR1にフランジを介して直結された入力軸182と、ロータ103にフランジを介して直結された出力軸183を有しており、入力軸182に入力された動力を変速し、出力軸183に出力する。さらに、変速装置181の変速段の変更は、ECU2によって制御される。このように、第1リングギヤR1は、変速装置181を介してロータ103に機械的に連結されており、また、第1リングギヤR1に伝達された動力は、変速装置181によって変速され、ロータ103に伝達される。
以上の構成の動力装置1Qでは、EV発進時や、ENG発進時など、ロータ103に極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置181の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。これにより、第1リングギヤR1に伝達されたトルクは、変速装置181において低減された後、ロータ103に伝達される。それに応じて、ロータ103に伝達されるトルクが小さくなるように、回転機101で発電される電力が制御される。また、前述した停車中ENG始動時、変速装置181の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。この場合、入力軸182および出力軸183が第1リングギヤR1およびロータ103にそれぞれ連結されているので、上述した変速装置181の制御により、停車中ENG始動時、回転機101のトルクが増大され、第1リングギヤR1、第1プラネタリギヤP1および第1キャリアC1を介して、クランク軸3aに伝達される。それに応じて、回転機101の回転機トルクTMOTが小さくなるように、回転機101に供給される電力が制御される。以上により、本実施形態によれば、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、EV発進時などにおいて、変速装置181の変速段を上述したようにして制御しても、第1リングギヤR1からロータ103に伝達される動力の大きさ自体は変わらないことと、回転機101で発電した電力をステータ33を介してB2ロータ35に動力として伝達する際、B2ロータ35を介して駆動輪DW,DWに伝達されるトルクを任意の大きさに制御できることから、駆動輪DW,DWに十分な大きさのトルクを伝達することができる。
さらに、エンジン回転数NEが車速VPよりも高い急加速時など、エンジン回転数NEと車速VPの関係によって定まるロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置181の変速段は、第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、そのときのエンジン回転数NEと車速VPの関係によって定まる第1リングギヤ回転速度VRI1に対して、ロータ回転速度VROを低下させることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
また、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置181の変速段は、ロータ回転速度VROが所定の目標値になるように制御される。この目標値は、回転機101および第2回転機31のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、回転機101および第2回転機31を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、回転機101の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置181の制御と並行して、ロータ回転速度VROが上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、回転機101の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中で、かつ、変速装置181の変速動作中には、変速装置181におけるギヤ列と、入力軸182および出力軸183との間の遮断により、ロータ103と第1リングギヤR1の間が遮断されることによって、ロータ103にエンジントルクTENGが作用しなくなる。このため、回転機101では発電が行われず、第2回転機31のステータ33に、バッテリ43から電力が供給される。
これにより、本実施形態によれば、変速装置181の変速動作中、ステータ33からの第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGが合成され、B2ロータ35を介して駆動輪DW,DWに伝達されるので、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。
また、第15実施形態と同様、回転機101、第1遊星歯車装置PS1および第2回転機31によって、エンジン動力を無段階に変速して駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置181の変速動作の頻度を低くすることができ、したがって、動力装置1Qの駆動効率を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第15実施形態による効果を同様に得ることができる。
(第19実施形態)
図94に示す第19実施形態の動力装置1Rでは、第18実施形態と同様、第2回転軸7は設けられておらず、第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っている。また、変速装置191は、第7実施形態の変速装置131と同様に構成された、第1速〜第3速の変速段を有するギヤ式の有段変速装置であり、第1サンギヤS1に直結された入力軸192と、連結軸6に直結された出力軸(図示せず)を有しており、入力軸192に入力された動力を変速し、出力軸に出力する。さらに、変速装置191の変速段の変更は、ECU2によって制御される。
上記のように、第1サンギヤS1は、変速装置191や、連結軸6、ギヤ6b、第1ギヤ8bなどを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されており、また、第1サンギヤS1に伝達された動力は、変速装置191によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。さらに、B2ロータ35は、連結軸6や、ギヤ6b、第1ギヤ8bなどを介して、変速装置191を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
以上の構成の動力装置1Rでは、ENG発進時など、第1サンギヤS1から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置191の変速段が第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、第1サンギヤS1に伝達されたトルクは、変速装置191において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に分配されるトルクが小さくなるように、回転機101で発電される電力が制御される。これにより、本実施形態によれば、第1キャリアC1を介して第1サンギヤS1および第1リングギヤR1に分配されるトルクを小さくすることができるので、第1遊星歯車装置PS1のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。それに加え、第1リングギヤR1からロータ103に伝達されるトルクを小さくすることができるので、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、エンジン回転数NEが車速VPよりも高い急加速時など、ロータ回転速度VROが過大になるようなときには、変速装置191の変速段は、第1速に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、第1サンギヤ回転速度VSU1を上昇させることによって、図89から明らかなように、ロータ回転速度VROを低下させることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
また、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置191の変速段は、ロータ回転速度VROが所定の目標値になるように制御される。この目標値は、回転機101および第2回転機31のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、回転機101および第2回転機31を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、回転機101の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置191の制御と並行して、ロータ回転速度VROが上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、回転機101の高い効率を得ることができる。
さらに、ENG走行中で、かつ、変速装置191の変速動作中には、変速装置191におけるギヤ列と、入力軸192および出力軸との間の遮断により、第1サンギヤS1と駆動輪DW,DWの間が遮断されることによって、第1サンギヤS1に駆動輪DW,DWの負荷が作用しなくなる。このため、変速装置191の変速動作中には、回転機101では発電が行われず、第2回転機31のステータ33に、バッテリ43から電力が供給される。
これにより、本実施形態によれば、変速装置191の変速動作中、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGが合成され、B2ロータ35を介して駆動輪DW,DWに伝達されるので、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。
また、回転機101、第1遊星歯車装置PS1および第2回転機31によって、エンジン動力を無段階に変速して駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置191の変速動作の頻度を低くすることができ、したがって、動力装置1Rの駆動効率を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第15実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第17〜第19の実施形態では、変速装置171〜191は、ギヤ式の有段変速装置であるが、ベルト式やトロイダル式、油圧式の無段変速装置でもよいことはもちろんである。
(第20実施形態)
次に、図95を参照しながら、第20実施形態による動力装置1Sについて説明する。この動力装置1Sは、第15実施形態と比較して、ロータ回転速度VROおよび車速VPの速度差と車速VPおよびエンジン回転数NEの速度差との比を変更する変速装置をさらに備える点が主に異なっている。以下、第15実施形態と異なる点を中心に説明する。
図95に示すように、この動力装置1Sでは、第18実施形態と同様、第2回転軸7は設けられておらず、第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っており、それにより、第1サンギヤS1およびB2ロータ35は、連結軸6や、ギヤ6b、第1ギヤ8b、差動ギヤ機構9などを介して、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
上記の変速装置は、第13実施形態で述べた変速装置と同様、第2遊星歯車装置PS2、第1および第2のクラッチCL1,CL2を備えている。第2サンギヤS2は、第1回転軸4に一体に設けられており、それにより、第1キャリアC1、クランク軸3aおよびB1ロータ34に機械的に直結されている。また、第2キャリアC2は、フランジや中空の軸を介して、第1リングギヤR1に機械的に直結されており、それにより、第1リングギヤR1と一体に回転自在になっている。
第1クラッチCL1は、第2キャリアC2とロータ103の間に設けられている。すなわち、第2キャリアC2は、第1クラッチCL1を介してロータ103に機械的に直結されている。また、第1クラッチCL1は、その締結度合がECU2により制御されることによって、第2キャリアC2とロータ103の間を接続・遮断する。第2クラッチCL2は、第2リングギヤR2とロータ103の間に設けられている。すなわち、第2リングギヤR2は、第2クラッチCL2を介してロータ103に機械的に直結されている。また、第2クラッチCL2は、その締結度合がECU2により制御されることによって、第2リングギヤR2とロータ103の間を接続・遮断する。
以上のように、回転機101のロータ103は、第1クラッチCL1および第2キャリアC2を介して、第1リングギヤR1に機械的に連結されるとともに、第2クラッチCL2、第2リングギヤR2、第2プラネタリギヤP2、および第2キャリアC2を介して、第1リングギヤR1に機械的に連結されている。
図96(a)は、第1サンギヤ回転速度VSU1、第1キャリア回転速度VCA1および第1リングギヤ回転速度VRI1の関係の一例を示す速度共線図を、第2サンギヤ回転速度VSU2、第2キャリア回転速度VCA2および第2リングギヤ回転速度VRI2の関係の一例を示す速度共線図とともに示している。上述したように第1キャリアC1および第2サンギヤS2が互いに直結されているので、第1キャリア回転速度VCA1および第2サンギヤ回転速度VSU2は互いに等しく、第1リングギヤR1および第2キャリアC2が互いに直結されているので、第1リングギヤ回転速度VRI1および第2キャリア回転速度VCA2は互いに等しい。したがって、図96(a)の第1および第2の遊星歯車装置PS1,PS2に関する2つの速度共線図は、図96(b)のような1つの速度共線図で示される。同図に示すように、以上のような第1および第2の遊星歯車装置PS1,PS2の各種の回転要素の連結によって、互いに回転速度が共線の関係にある4つの回転要素が構成される。
また、図97(a)は、上記の4つの回転要素の回転速度の関係の一例を示す速度共線図を、第2磁界回転速度VMF2、B1およびB2のロータ回転速度VRB1,VRB2の関係の一例を示す速度共線図とともに示している。前述したように第1キャリアC1およびB1ロータ34が互いに直結されているので、第1キャリア回転速度VCA1およびB1ロータ回転速度VRB1は、互いに等しい。また、第1サンギヤS1およびB2ロータ35が互いに直結されているので、第1サンギヤ回転速度VSU1およびB2ロータ回転速度VRB2は、互いに等しい。したがって、図97(a)の2つの速度共線図は、図97(b)のような1つの速度共線図で示される。
また、クランク軸3a、第1キャリアC1、B1ロータ34および第2サンギヤS2が互いに直結されているので、エンジン回転数NE、第1キャリア回転速度VCA1、B1ロータ回転速度VRB1および第2サンギヤ回転速度VSU2は、互いに等しい。さらに、駆動輪DW,DW、第1サンギヤS1およびB2ロータ35が互いに連結されているので、差動ギヤ機構9による変速などがないものとすれば、車速VP、第1サンギヤ回転速度VSU1およびB2ロータ回転速度VRB2は、互いに等しい。
また、ロータ103が、第1および第2のクラッチCL1,CL2をそれぞれ介して、第2キャリアC2および第2リングギヤR2に直結されているので、第1クラッチCL1を接続するとともに、第2クラッチCL2を遮断しているとき(以下、このようなクラッチの接続・遮断状態を「第1変速モード」という)には、ロータ回転速度VROおよび第2キャリア回転速度VCA2は、互いに等しい。さらに、第1クラッチCL1を遮断するとともに、第2クラッチCL2を接続しているとき(以下、このようなクラッチの接続・遮断状態を「第2変速モード」という)には、ロータ回転速度VROおよび第2リングギヤ回転速度VRI2は、互いに等しい。
以上により、ロータ回転速度VRO、エンジン回転数NE、車速VP、および第2磁界回転速度VMF2は、第1変速モード中には、例えば図98(a)に示すような共線の関係になり、第2変速モード中には、例えば図98(b)に示すような共線の関係になる。
これらの図98(a)および図98(b)に示すように、速度共線図における車速VPを表す縦線とロータ回転速度VROを表す縦線との間の距離が、上述した第1変速モードの方が第2変速モードよりも小さいため、ロータ回転速度VROおよび車速VPの回転差DN2とエンジン回転数NEおよび車速VPの回転差DN1との比(以下「回転比DN2/DN1」という)は、第1変速モードの方が小さい。
以上の構成の動力装置1Sでは、エンジン回転数NEが車速VPよりも高い急加速時など、エンジン回転数NEと車速VPの関係によって定まるロータ回転速度VROが過大になるようなときには、第1変速モードが用いられる。これにより、本実施形態によれば、上述した回転比DN2/DN1の関係から明らかなように、第2変速モードを用いた場合よりもロータ回転速度VROを小さくすることができるので、ロータ回転速度VROの過大化による回転機101の故障を防止することができる。
また、EV走行中ENG始動時、すなわち、回転機101に要求されるトルクが大きくなる場合において、第1および第2の変速モードを用いたときには、各種の回転要素の回転速度とトルクの関係は、図99(a)および図99(b)でそれぞれ表される。この場合、第1変速モードを用いたときには、回転機101に要求されるトルク、すなわち回転機トルクTMOTは、前記式(66)で表される。一方、第2変速モードを用いたときには、回転機トルクTMOTは、次式(68)で表される。
TMOT=−{β・TDDW+(1+β)TDENG}
/(r1・r2+r1+1+β) ……(68)
これらの式(66)と式(68)の比較から明らかなように、回転機トルクTMOTは、同じ大きさの駆動輪伝達トルクTDDWおよびエンジン伝達トルクTDENGに対して、第2変速モードの方が小さい。このため、EV走行中ENG始動時には、第2変速モードが用いられる。
本実施形態によれば、第2変速モードを上述したようにして用いるとともに、式(68)に基づいて、回転機101で発電される電力が制御される。したがって、回転機101に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、ひいては、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、第1および第2の変速モードのうち、エンジン3の停止中には車速VPに応じて、エンジン3の運転中には車速VPおよびエンジン回転数NEに応じて、回転機101のより高い効率が得られる変速モードが選択される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、ロータ回転速度VROを適度な高さに制御できるので、回転機101の高い効率を得ることができる。
さらに、第1および第2の変速モードの切換は、第13実施形態と同様、第2キャリア回転速度VCA2および第2リングギヤ回転速度VRI2が互いに等しいときに行われる。これにより、本実施形態によれば、第1および第2の変速モードの切換を、駆動輪DW,DWやエンジン3の回転を保ちながら、円滑に行うことができ、良好なドライバビリティを確保することができる。
また、ENG走行中で、かつ、第1および第2の変速モードの間での移行時、第1および第2のクラッチCL1,CL2の双方が遮断された後、両クラッチCL1,CL2の一方が接続されるまでの間は、ロータ103とクランク軸3aの間が遮断されることによって、ロータ103にエンジントルクTENGが作用しなくなるため、回転機101のステータ102において発電が行われず、第2回転機31の第2ステータ33に、バッテリ43から電力が供給される。
これにより、本実施形態によれば、第1および第2の変速モードの間での移行時、第1および第2のクラッチCL1,CL2の双方が遮断された場合でも、第2駆動用等価トルクTSE2と、B1ロータ34に伝達されたエンジントルクTENGが合成され、B2ロータ35を介して駆動輪DW,DWに伝達されるので、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第15実施形態による効果を同様に得ることができる。
また、本実施形態では、第2サンギヤS2を第1キャリアC1に連結するとともに、第2リングギヤR2を、第2クラッチCL2を介してロータ103に連結しているが、これらの連結関係を逆に、すなわち、第2リングギヤR2を第1キャリアC1に連結するとともに、第2サンギヤS2を、第2クラッチCL2を介してロータ103に連結してもよい。また、本実施形態では、第1および第2のクラッチCL1,CL2を、摩擦式多板クラッチで構成しているが、例えば電磁クラッチなどで構成してもよい。
図100(a)、(b)は、動力装置1Sにおける各種の回転要素の回転速度の関係の一例を、(a)第1変速モード中について、(b)第2変速モード中について、それぞれ示す速度共線図である。なお、図100(a)、(b)では、回転機101が「第1回転機」、回転機31が「第2回転機」、第2サンギヤS2が「一方のギヤ」または「第1ギヤ」、第2リングギヤR2が「他方のギヤ」または「第2ギヤ」、第2キャリアC2が「キャリア」、第2出力部が「第1回転軸4」、第1クラッチが「第1クラッチCL1」、第2クラッチが「第1クラッチCL2」、エンジン3が「熱機関」、駆動輪DW,DWが「被駆動部」とそれぞれ表されている。ここで、第2の遊星歯車装置PS2の一方のギヤの回転速度を第1ギヤ回転速度VG1、第2の遊星歯車装置PS2の他方のギヤの回転速度を第2ギヤ回転速度VG2、第2の遊星歯車装置PS2のキャリアの回転速度をキャリア回転速度VCとする。上述した連結関係において、各種の回転要素が直結されており、かつ、第1クラッチの接続により第2回転機の第2出力部をキャリアに連結するとともに、第2クラッチの遮断により第2出力部と他方のギヤの間を遮断しているときには、熱機関の回転数や被駆動部の速度などの関係は、例えば図100(a)のように示される。以下、このような第1および第2のクラッチの接続・遮断状態を、「第1変速モード」という。また、第1クラッチの遮断により第2回転機の第2出力部とキャリアの間を遮断するとともに、第2クラッチの接続により第2出力部を他方のギヤに連結しているときには、熱機関の回転数や被駆動部の速度などの関係は、例えば図100(b)のように示される。以下、このような第1および第2のクラッチの接続・遮断状態を、「第2変速モード」という。
なお、図100(a)、(b)に示す速度共線図において、磁界回転速度VFを表す縦線から第2ロータ回転速度VR2を表す縦線までの距離と、第2ロータ回転速度VR2を表す縦線から第1ロータ回転速度VR1を表す縦線までの距離との比は、1:(1/α)である。さらに、図100(a)、(b)において、第1ギヤ回転速度VG1を表す縦線からキャリア回転速度VCを表す縦線までの距離をY、キャリア回転速度VCを表す縦線から第2ギヤ回転速度VG2を表す縦線までの距離をZとする。
これらの図100(a)と図100(b)の比較から明らかなように、速度共線図における被駆動部の速度を表す縦線と第2回転機の回転速度を表す縦線との間の距離が、第1変速モードの方が第2変速モードよりも小さいため、第2回転機の第2出力部および被駆動部の速度差D2と熱機関および被駆動部の速度差D1との比(D2/D1)は、第1変速モードの方が小さい。また、熱機関の回転数が被駆動部の速度よりも高いときには、第2回転機の回転速度が、被駆動部の速度よりも高くなり、過大になる場合がある。このため、例えば、このような場合に、第1変速モードを用いることによって、上述した速度差D2とD1との比の関係から明らかなように、第2変速モードを用いた場合よりも第2回転機の回転速度を小さくすることができるので、第2回転機の回転速度の過大化による第2回転機の故障を防止することができる。
さらに、図65を用いて説明したように第2回転機に要求されるトルクが大きくなるような場合において、第1変速モードを用いたときには、駆動用等価トルクTe、熱機関伝達トルクTDHE、被駆動部伝達トルクTOUT、および第2回転機トルクTM2の関係は、例えば図101(a)のように示される。また、第2回転機に要求されるトルク、すなわち第2回転機トルクTM2は、例えば次式(69)で表される。
TM2=−{TOUT+[(1/α)+1]TDHE}/[Y+(1/α)+1]……(69)
一方、第2変速モードを用いたときには、駆動用等価トルクTe、熱機関伝達トルクTDHE、被駆動部伝達トルクTOUT、および第2回転機トルクTM2の関係は、例えば図101(b)のように示される。また、第2回転機トルクTM2は、例えば次式(70)で表される。
TM2=−{TOUT+[(1/α)+1]TDHE}/[Z+Y+(1/α)+1]……(70)
上記の式(69)と(70)の比較から明らかなように、第2回転機トルクTM2は、同じ大きさの熱機関伝達トルクTDHEおよび被駆動部伝達トルクTOUTに対して、第2変速モードの方が小さい。このため、例えば、上述したように第2回転機に要求されるトルクが大きくなるような場合に、第2変速モードを用いることによって、第2回転機トルクTM2を小さくすることができ、ひいては、第2回転機のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、例えば、熱機関の回転数および被駆動部の速度に応じ、第1または第2の変速モードを選択することによって、第2回転機の回転速度を適度な大きさに制御でき、それにより、第2回転機の高い効率を得ることができる。さらに、以上の第1および第2の変速モードの切換を、キャリア回転速度VCおよび第2ギヤ回転速度VG2が互いに等しいときに行うことによって、被駆動部や熱機関の回転を保ちながら、円滑に行うことができ、良好なドライバビリティを確保することができる。
また、図63を用いて説明した被駆動部への熱機関の動力の伝達中、第2要素に伝達された熱機関のトルクTHEは、第2回転機での発電に伴って第3要素に作用する負荷トルクを反力として、第1要素を介して被駆動部に伝達される。このため、第1および第2の変速モードの間での移行時、第1および第2のクラッチの双方が遮断された場合には、第3要素と第2回転機の間が遮断され、それにより、第2回転機からの負荷トルクが第3要素に作用しなくなり、その結果、第2および第1の要素を介して伝達される熱機関のトルクTHEが極めて小さくなってしまう。本発明によれば、例えば、第2ロータを、そのような有段変速装置を介さずに被駆動部に連結することが可能であり、それにより、第1および第2のクラッチの双方が遮断された場合でも、図63から明らかなように、熱機関のトルクTHEの一部を、第1および第2のロータを介して被駆動部に伝達できるので、トルクの急減などの変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。
(第21実施形態) 次に、図102を参照しながら、第21実施形態による動力装置1Tについて説明する。この動力装置1Tは、第15実施形態と比較して、変速装置201をさらに備える点が主に異なっている。以下、第15実施形態と異なる点を中心に説明する。
図102に示すように、この動力装置1Tでは、第18〜第20の実施形態と同様、第2回転軸7は設けられておらず、第1ギヤ8bは、連結軸6に一体に設けられたギヤ6bに噛み合っている。これにより、第1サンギヤS1は、連結軸6や、ギヤ6b、第1ギヤ8b、差動ギヤ機構9などを介して、上記の変速装置201を介さずに、駆動輪DW,DWに機械的に連結されている。
また、変速装置201は、第10実施形態の変速装置131と同様に構成された、第1速〜第3速の変速段を有するギヤ式の有段変速装置であり、B2ロータ35に直結された入力軸202と、連結軸6に直結された出力軸(図示せず)を有しており、入力軸202に入力された動力を変速し、出力軸に出力する。さらに、変速装置201の変速段の変更は、ECU2によって制御される。
上記のように、B2ロータ35は、変速装置201や、連結軸6、ギヤ6b、第1ギヤ8bなどを介して、駆動輪DW,DWに連結されており、また、B2ロータ35に伝達された動力は、変速装置201によって変速され、駆動輪DW,DWに伝達される。
以上の構成の動力装置1Tでは、EV発進時やENG発進時など、B2ロータ35から駆動輪DW,DWに極めて大きなトルクが伝達されるようなときには、変速装置201の変速段は、第1速(変速比>1.0)に制御される。これにより、B2ロータ35に伝達されたB2ロータ伝達トルクTRB2は、変速装置201において増大された後、駆動輪DW,DWに伝達される。それに応じて、B2ロータ伝達トルクTRB2が小さくなるように、第2回転機31のステータ33に供給される電力が制御される。これにより、本実施形態によれば、第2回転機31に要求されるトルクの最大値を小さくすることができ、第2回転機31のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、車速VPが極めて高い高車速運転中など、B2ロータ回転速度VRB2が過大になるようなときには、変速装置201の変速段は、第3速(変速比<1.0)に制御される。これにより、本実施形態によれば、車速VPに対して、B2ロータ回転速度VRB2を低下させることができるので、B2ロータ回転速度VRB2の過大化による第2回転機31の故障を防止することができる。
さらに、EV走行やENG走行を含む車両の走行中、変速装置201の変速段は、第2磁界回転速度VMF2が所定の目標値になるように制御される。この目標値は、回転機101および第2回転機31のみを動力源として用いるときには、車速VPに応じてマップを検索することにより算出され、エンジン3、回転機101および第2回転機31を動力源として用いるときには、エンジン回転数NEおよび車速VPに応じて上記とは別のマップを検索することにより算出される。また、これらのマップでは、目標値は、そのときの車速VP(およびエンジン回転数NE)に対して、第2回転機31の高い効率が得られるような値に設定されている。さらに、このような変速装置201の制御と並行して、第2磁界回転速度VMF2が上記の目標値に制御される。これにより、本実施形態によれば、車両の走行中、第2回転機31の高い効率を得ることができる。
また、ENG走行中において、変速装置201の変速動作中(入力軸202および出力軸が、変速前のギヤ列と遮断された後、変速先のギヤ列に接続されるまでの間)、すなわち、変速装置201によりB2ロータ35と駆動輪DW,DWの間が遮断されているときに、第15実施形態で述べたように、エンジントルクTENGの一部が第1サンギヤS1を介して駆動輪DW,DWに伝達される。これにより、本実施形態によれば、変速装置201の変速動作中、エンジントルクTENGが駆動輪DW,DWに伝達されなくなることによる変速ショックを抑えることができ、したがって、商品性を高めることができる。
さらに、第15実施形態と同様、回転機101、第1遊星歯車装置PS1および第2回転機31によって、エンジン動力を無段階に変速して駆動輪DW,DWに伝達できるので、変速装置201の変速動作の頻度を低くすることができ、したがって、動力装置1Tの駆動効率を高めることができる。その他、本実施形態によれば、第15実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本実施形態では、変速装置201は、ギヤ式の有段変速装置であるが、ベルト式やトロイダル式、油圧式の無段変速装置でもよい。
(第22実施形態)
次に、図103を参照しながら、第22実施形態による動力装置1Uについて説明する。同図に示すように、この動力装置1Uは、第15実施形態の動力装置1Nに、第6実施形態で述べたブレーキ機構BLを加えたものである。以下、第15実施形態と異なる点を中心に説明する。
動力装置1Uでは、このブレーキ機構BLによって、第1回転軸4の回転は、クランク軸3a、第1キャリアC1、およびB1ロータ34とともに正転する場合にのみ、許容され、クランク軸3aなどとともに逆転する場合に阻止される。
また、動力装置1Uでは、前述したEVクリープおよびEV発進による運転が次のようにして行われる。すなわち、回転機101のステータ102に電力を供給し、ロータ103を第1リングギヤR1とともに逆転させるとともに、第2回転機31のステータ33に電力を供給し、それに伴ってステータ33で発生する第2回転磁界を正転させる。また、ロータ回転速度VROおよび第2磁界回転速度VMF2を、(β+1)・|VRO|=r1・|VMF2|が成立するように制御する。さらに、ステータ102,33に供給される電力は、駆動輪DW,DWにトルクが十分に伝達されるように制御される。
上記のようにロータ103とともに逆転する第1リングギヤR1に対して、上述したようにブレーキ機構BLにより第1キャリアC1の逆転が阻止されているので、回転機101の動力はすべて、第1リングギヤR1および第1プラネタリギヤP1を介して、第1サンギヤS1に伝達され、第1サンギヤS1を正転させるように作用する。また、上記のように正転するステータ33の第2回転磁界に対して、ブレーキ機構BLによりB1ロータ34の逆転が阻止されているので、ステータ33に供給された電力がすべて、B2ロータ35に動力として伝達され、B2ロータ35を正転させるように作用する。さらに、第1サンギヤS1およびB2ロータ35に伝達された動力は、駆動輪DW,DWに伝達され、駆動輪DW,DWを正転させる。
また、この場合、ブレーキ機構BLにより逆転するのが阻止されている第1キャリアC1およびB1ロータ34にはそれぞれ、上述した回転機101および第2回転機31の制御によって、ロータ103およびステータ33から逆転させるようにトルクが作用する。これにより、クランク軸3a、第1キャリアC1およびB1ロータ34は、逆転しないだけでなく、静止状態に保持される。
以上のように、本実施形態によれば、エンジン動力を用いることなく、回転機101および第2回転機31によって駆動輪DW,DWを駆動することができる。また、この駆動中、クランク軸3aは逆転しないだけでなく、静止状態に保持されるので、エンジン3を引きずることがない。その他、第15実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、これまでに述べた第15〜第22の実施形態では、第1実施形態と同様、第2回転機31の第2極対数比βを値2.0に設定しているが、値1.0よりも小さく設定することによって、前述した図33(a)、(b)および図89から明らかなように、第2磁界回転速度VMF2の過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。また、第15〜第22の実施形態では、第1遊星歯車装置PS1の第1遊星ギヤ比r1を比較的大きな値に設定しているが、より小さな値に設定することによって、次の効果が得られる。
前述した図89から明らかなように、第1遊星ギヤ比r1を比較的大きな値に設定した場合において、エンジン回転数NEが車速VPよりも高い(図89の二点鎖線参照)ときには、ロータ回転速度VROが、エンジン回転数NEよりも高くなり、過大になる場合が
ある。これに対し、第1遊星ギヤ比r1をより小さな値に設定することによって、図89に破線で示す速度共線図と二点差線で示す速度共線図との比較から明らかなように、ロータ回転速度VROを小さくすることができ、したがって、ロータ回転速度VROの過大化による損失の発生により駆動効率が低下するのを、防止することができる。
さらに、第15〜第22の実施形態では、第1キャリアC1およびB1ロータ34を互いに直結するとともに、第1サンギヤS1およびB2ロータ35を互いに直結しているが、第1キャリアC1およびB1ロータ34は、クランク軸3aに連結されていれば、互いに直結されていなくてもよく、また、第1サンギヤS1およびB2ロータ35は、駆動輪DW,DWに連結されていれば、互いに直結されていなくてもよい。この場合、第16および第17の実施形態の変速装置161,171をそれぞれ、2つの変速装置で構成するとともに、次のようにして設けてもよい。すなわち、変速装置161を構成する2つの変速装置の一方を第1サンギヤS1と駆動輪DW,DWの間に、他方をB2ロータ35と駆動輪DW,DWの間に、それぞれ設けてもよい。また、変速装置171を構成する2つの変速装置の一方を第1キャリアC1とクランク軸3aの間に、他方をB1ロータ34とクランク軸3aの間に、それぞれ設けてもよい。
また、第15〜第22の実施形態では、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1を、駆動輪DW,DWおよび回転機101にそれぞれ連結しているが、これらの連結関係を逆に、すなわち、第1リングギヤR1および第1サンギヤS1を、駆動輪DW,DWおよび回転機101にそれぞれ連結してもよい。この場合には、回転機101に要求されるトルクが特に大きくなるEV走行中ENG始動時、回転機トルクTMOTは、次式(71)で表される。
TMOT=−{β・TDDW+(1+β)TDENG}/(r1’+1+β)……(71)
この式(71)において、r1’は、前述したように第1リングギヤの歯数と第1サンギヤS1の歯数との比(第1リングギヤの歯数/第1サンギヤS1の歯数)であり、値1.0よりも大きい。このことと、第1遊星ギヤ比r1が、前述したように第1サンギヤS1の歯数/第1リングギヤの歯数であり、値1.0よりも小さいことと、前記式(66)と式(71)から明らかなように、回転機トルクTMOTをより小さくすることができ、したがって、回転機101のさらなる小型化およびコストの削減を図ることができる。
また、第7〜第22の実施形態では、差動装置として第1遊星歯車装置PS1を用いているが、以下の機能を有するものであれば、他の適当な装置を用いてもよい。すなわち、3つの要素を有し、3つの要素のうちの1つの要素に入力された動力を他の2つの要素に分配する機能と、これらの他の2つの要素に入力された動力を合成した後、上記の1つの要素に出力する機能を有し、この動力の分配・合成中、3つの要素がリニアな速度関係を保ちながら回転する装置であればよい。例えば、遊星歯車装置のギヤに代えて、表面間の摩擦によって動力を伝達する複数のローラを有し、遊星歯車装置と同等の機能を有するような装置を用いてもよい。さらに、詳細な説明は省略するが、日本国特開2008−39045号公報に開示されるような複数の磁石や軟磁性体の組み合わせで構成された装置を用いてもよい。また、差動装置として、ダブルピニオンタイプの遊星歯車装置を用いてもよい。以上のことは、第2遊星歯車装置PS2についても同様に当てはまる。
さらに、第7〜第22の実施形態では、回転機101はDCモータであるが、供給された電力を動力に変換する機能と、入力された動力を電力に変換する機能を有する装置であれば他の装置、例えば、ACモータでもよい。また、第7〜第13の実施形態および第15〜第21の実施形態において、クランク軸3aの逆転を阻止するためのブレーキ機構BLを設けてもよいことはもちろんである。また、このブレーキ機構BLを、ワンウェイクラッチOCおよびケースCAで構成しているが、クランク軸3aの逆転を阻止できるのであれば、他の機構、例えばバンドブレーキなどで構成してもよい。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、ECU2、第1および第2のPDU41,42は、ステータ23、33、102の発電・供給電力を制御可能なものであればよい。例えば、マイクロコンピュータを搭載した電気回路などで構成してもよい。また、バッテリ43は、例えばキャパシタでもよい。さらに、要否に応じて、バッテリ43を省略してもよい。
また、実施形態では、第1ステータ磁極が4個、第1磁極が8個、コア25aが6個に設定されている。すなわち、実施形態は、第1ステータ磁極の数と第1磁極の数と第1軟磁性体の数との比が、1:2:1.5の例であるが、これらの数の比が1:m:(1+m)/2(m≠1.0)を満たすものであれば、第1ステータ磁極、第1磁極およびコア25aの数として、任意の数を採用可能である。このことは、第2回転機31についても同様に当てはまる。さらに、実施形態では、コア25a、35aを鋼板で構成しているが、他の軟磁性体で構成してもよい。
また、実施形態では、ステータ23およびA1ロータ24を、径方向の外側および内側にそれぞれ配置しているが、これとは逆に、径方向の内側および外側にそれぞれ配置してもよい。さらに、実施形態では、ステータ23、A1およびA2のロータ24、25を径方向に並ぶように配置し、いわゆるラジアルタイプとして第1回転機21を構成しているが、ステータ23、A1およびA2のロータ24、25を軸線方向に並ぶように配置し、いわゆるアキシャルタイプとして第1回転機21を構成してもよい。以上のことは、第2回転機31についても同様に当てはまる。
また、実施形態では、1つの磁極を、単一の永久磁石24aの磁極で構成しているが、複数の永久磁石の磁極で構成してもよい。例えば、2つの永久磁石の磁極がステータ23側で近づき合うように、これらの2つの永久磁石を逆V字状に並べることにより、1つの磁極を構成することによって、前述した磁力線MLの指向性を高めることができる。さらに、実施形態における永久磁石24aに代えて、電磁石や移動磁界を発生可能なステータを用いてもよい。また、実施形態では、U相〜W相のコイル23c〜23eをスロット23bに分布巻きで巻回しているが、これに限らず、集中巻きでもよい。さらに、実施形態では、コイル23c〜23eを、U相〜W相の3相コイルで構成しているが、第1回転磁界を発生できれば、このコイルの相数はこれに限らず、任意である。また、スロット23bの数として、実施形態で示した以外の任意の数を採用してもよいことはもちろんである。さらに、実施形態では、スロット23bや、永久磁石24a、コア25aを等間隔に配置しているが、不等間隔に配置してもよい。以上のことは、第2回転機31についても同様に当てはまる。
また、実施形態では、熱機関としてのエンジン3は、ガソリンエンジンであるが、例えば、ディーゼルエンジンや外燃機関など、その他の機関でもよい。さらに、本実施形態は、動力装置を車両に適用した例であるが、これに限らず、例えば船舶や航空機などに適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
<1共線3要素>
以下、図面を参照しながら、本発明に係る1共線3要素の仕組みを有する動力装置について説明する。なお、以下の説明では、図104〜図106の左側および右側をそれぞれ「左」および「右」という。
(第23実施形態)
図104および図105に示すように、第23実施形態の動力装置1は、ハイブリッド車両(以下「車両」という)2の左右の前輪4,4を駆動するものであり、動力源として、エンジン3、第1回転機10および第2回転機20を備えている。
この車両2では、エンジン3が第1回転機10に連結されているとともに、第1回転機10および第2回転機20が、ギヤ機構6、差動ギヤ機構7および左右の駆動軸8,8を介して、左右の前輪4,4に連結されている。それにより、後述するように、エンジン3の動力や、第1回転機10および第2回転機20の動力が前輪4,4に伝達される。また、車両2は、遊動輪である左右の後輪5,5を備えている。なお、本実施形態では、エンジン3が熱機関に、前輪4が被駆動部にそれぞれ相当する。
エンジン3は、ガソリンを燃料とする多気筒内燃機関であり、後述するENG・ECU29によって、その運転状態が制御される。また、2つの回転機10,20およびギヤ機構6はいずれも、エンジン3のシリンダブロックに固定された駆動系ハウジング(いずれも図示せず)内に収容されている。
ギヤ機構6は、第1回転機10の後述する出力軸13に平行な第1および第2ギヤ軸6a,6bと、出力軸13および2つのギヤ軸6a,6b上に設けられた4つのギヤ6c〜6fなどで構成されている。このギヤ6cは、出力軸13の右端部に同心に固定されており、ギヤ6dと常に噛み合っている。このギヤ6dは、第1ギヤ軸6aに同心かつ回転自在に嵌合しており、上記ギヤ6cに加えて、第2ギヤ軸6bの右端部に同心に固定されたギヤ6eと常に噛み合っている。
また、ギヤ6fは、第2ギヤ軸6bの左端部に同心に固定され、差動ギヤ機構7のギヤ7aと常に噛み合っている。以上の構成により、出力軸13の回転は、ギヤ機構6を介して差動ギヤ機構7に伝達される。
次に、図106および図107を参照しながら、第1回転機10および第2回転機20について説明する。図106は、第1回転機10および第2回転機20の断面構成を模式的に示したものであり、図107は、図106のA−A線の位置で周方向に沿って破断した円環状の断面を直線状に模式的に示した図である。なお、両図においては、理解の容易化のために断面部分のハッチングが省略されており、この点は後述する図111(a)〜(c)などにおいても同様である。
<第1回転機10>
まず、第1回転機10について説明する。図106に示すように、第1回転機10は、前述した駆動系ハウジングに固定されたケース11と、左端部がエンジン3のクランクシャフトに直結された入力軸12と、この入力軸12と同心の出力軸13(回転軸)と、ケース11内に収容され、出力軸13と一体に回転する第1ロータ14と、ケース11内に収容され、入力軸12と一体に回転する第2ロータ15と、ケース11の周壁11cの内周面に固定されたステータ16などを備えている。これらの第1ロータ14、第2ロータ15およびステータ16は、径方向の内側から外側に向かって、互いに同心に配置されている。
ケース11は、左右の側壁11a,11bと、これらの側壁11a,11bの外周端部に固定された円筒状の周壁11cなどで構成されている。左右の側壁11a,11bの中心部には、軸受11d,11eがそれぞれ取り付けられており、入力軸12および出力軸13はそれぞれ、これらの軸受11d,11eによって回転自在に支持されている。さらに、2つの軸12,13は、図示しないスラスト軸受などによって、その軸線方向の移動が規制されている。
第1ロータ14は、出力軸13の左端部に同心に固定された回転盤部14bと、この回転盤部14bの外端部に固定された円筒状のリング部14cなどを備えている。このリング部14cは、軟磁性体で構成され、その外周面には、永久磁石列が周方向に沿ってステータ16の鉄芯16aに対向するように設けられている。この永久磁石列は、図107に示すように、8個の永久磁石14a(磁極)で構成されている。
これらの永久磁石14aは、隣り合う各2つが互いに異なる極性を有し、等間隔で配置されているとともに、各永久磁石14aの軸線方向の長さは、所定長さに設定されている。なお、図107および後述する図111(a)〜(c)などでは、永久磁石14aのN極およびS極がそれぞれ、(N)および(S)と表記されているとともに、理解の容易化のために、主要な構成以外のもの(例えばケース11など)の図示が省略されている。
一方、ステータ16は、回転磁界を発生させるものであり、鉄芯16aと、この鉄芯16aに巻き付けられたU相、V相およびW相のコイル16c,16d,16e(図107参照)を有している。この鉄芯16aは、複数の鋼板を積層した円筒状のものであり、ケース11に固定されているとともに、軸線方向の長さが、永久磁石14aと同じ長さに設定されている。
また、鉄芯16aの内周面には、12個のスロット16bが形成されており、これらのスロット16bは、軸線方向に延びるとともに、第1主軸4の周方向(以下、単に「周方向」という)に等間隔で並んでいる。なお、本実施形態では、鉄芯16aおよびU相〜W相コイル16c〜16eが電機子および電機子列に相当する。
さらに、U相〜W相のコイル16c〜16eは、スロット16bに分布巻き(波巻き)で巻回されているとともに、後述する1ST・PDU31および双方向型昇降圧コンバータ(以下「VCU」という)34を介して、後述するバッテリ33に電気的に接続されている。
以上の構成により、ステータ16では、バッテリ33から電力が供給され、U相〜W相コイル16c〜16eに電流が流れたとき、または後述するように発電が行われたときに、鉄芯16aの第1ロータ14側の端部に、4個の磁極が周方向に等間隔で発生する(図111(a)〜(c)参照)とともに、これらの磁極による回転磁界が周方向に移動する。以下、鉄芯16aに発生する磁極を「ステータ磁極」という。この場合、周方向に隣り合う各2つのステータ磁極の極性は、互いに異なるものとなる。なお、後述する図111(a)〜(c)などでは、ステータ磁極のN極およびS極もそれぞれ、永久磁石14aのN極およびS極と同様に、(N)および(S)と表記する。
一方、第2ロータ15は、入力軸12の右端部に固定された回転盤部15bと、この回転盤部15bの外端部から第2回転機20側に延びる支持部15cと、この支持部15cに固定され、第1ロータ14の永久磁石列とステータ16の鉄芯16aとの間に配置された軟磁性体コア列を有している。この軟磁性体コア列は、軟磁性体(例えば鋼板の積層体)製の、6個の軟磁性体コア15aで構成されている。
これらの軟磁性体コア15aは、周方向に沿って等間隔で配置され、永久磁石14aおよび鉄芯16aに対して所定の間隔を存するように設けられている。また、軟磁性体コア15aの軸線方向の長さは、永久磁石14aおよびステータ16の鉄芯16aと同じ長さに設定されている。
以下、第1回転機10の原理について説明する。なお、当該説明では、ステータ16を「ステータ」、第1ロータ14を「第1ロータ」、第2ロータ15を「第2ロータ」と表す。また、ステータへの電力供給によって発生した回転磁界の電気角速度および供給電力と等価なトルクを駆動用等価トルクTeとした場合、この駆動用等価トルクTeと、第1ロータに伝達されるトルクT1と、第2ロータに伝達されるトルクT2との関係、第1および第2ロータの電気角速度と回転磁界の電気角速度と関係は、以下に述べるようになる。
まず、第1回転機10を下記の条件(f1),(f2)が成立するように構成した場合、そのような第1回転機10に相当する等価回路は図108に示すものとなる。なお、本明細書では、一対のN極およびS極を「極対」といい、極対の数を「極対数」という。
(f1)ステータがU相、V相およびW相の3相コイルを有すること。
(f2)ステータ磁極が2個すなわちステータ磁極の極対数が値1であり、磁極が4個すなわち磁極の極対数が値2であるとともに、軟磁性体が第1〜第3軟磁性体の計3個であること。
このような第1回転機10の場合、第1軟磁性体を通過する磁極の磁束Ψk1は、下式(72)で表される。
この式(72)において、ψfは磁極の磁束の最大値を示しており、θ1およびθ2はそれぞれ、U相コイルに対する磁極の回転角度位置および第1軟磁性体の回転角度位置を示している。また、磁極の極対数とステータ磁極の極対数との比が値2である関係上、磁極の磁束は回転磁界に対して2倍の周期で回転(変化)するので、そのことを表すために、上式(72)では、値2が(θ2−θ1)に乗算されている。
ここで、第1軟磁性体を介してU相コイルを通過する磁極の磁束Ψu1は、式(72)で表される磁束Ψk1にcosθ2を乗算した値に相当するので、下式(73)が得られる。
上記と同様に、第2軟磁性体を通過する磁極の磁束Ψk2は、下式(74)で表される。
この場合、ステータに対する第2軟磁性体の回転角度位置は、第1軟磁性体に対して2π/3だけ進んでいるので、上式(74)では、そのことを表すために、θ2に2π/3が加算されている。
また、第2軟磁性体を介してU相コイルを通過する磁極の磁束Ψu2は、式(74)で表される磁束Ψk2にcos(θ2+2π/3)を乗算した値に相当するので、下式(75)が得られる。
以上と同様の手法により、第3軟磁性体を介してU相コイルを通過する磁極の磁束Ψu3の算出式として、下式(76)が得られる。
図108に示すような第1回転機10の場合、3つの軟磁性体を介してU相コイルを通過する磁極の磁束Ψuは、以上の式(73),(75),(76)で表される磁束Ψu1〜Ψu3の和となるので、下式(77)で表される。
また、この式(77)を一般化すると、軟磁性体を介してU相コイルを通過する磁極の磁束Ψuは、下式(78)で表される。
この式(78)において、a、bおよびcはそれぞれ、磁極の極対数、軟磁性体の数およびステータ磁極の極対数を示している。
さらに、上式(78)を、三角関数の和と積の公式に基づいて変形すると、下式(79)が得られる。
この式(79)において、b=a+cとするとともに、cos(θ+2π)=cosθの関係を用いて整理すると、下式(80)が得られる。
この式(80)を三角関数の加法定理を用いて整理すると、下式(81)が得られる。
この式(81)において、右辺の第2項における積分項を、a−c≠0を条件として級数の総和の公式およびオイラーの公式を用いて整理すると、下式(82)が得られる。すなわち、式(81)の右辺の第2項は値0となる。
また、上式(81)において、右辺の第3項における積分項を、a−c≠0を条件として級数の総和の公式およびオイラーの公式を用いて整理すると、下式(83)が得られる。すなわち、式(81)の右辺の第3項も値0となる。
以上により、a−c≠0の場合、軟磁性体を介してU相コイルを通過する磁極の磁束Ψuは、下式(84)で表される。
ここで、磁極の極対数aとステータ磁極の極対数cとの比を「極対数比α」とした場合、α=a/cとなるので、これを式(84)に代入すると、下式(85)が得られる。
さらに、この式(85)において、c・θ2=θe2とするとともに、c・θ1=θe1とすると、下式(86)が得られる。
ここで、θe2は、U相コイルに対する軟磁性体の回転角度位置θ2にステータ磁極の極対数cを乗算した値であるので、U相コイルに対する軟磁性体の電気角度位置を表す。また、θe1は、U相コイルに対する磁極の回転角度位置θ1にステータ磁極の極対数cを乗算した値であるので、U相コイルに対する磁極の電気角度位置を表す。
また、軟磁性体を介してV相コイルを通過する磁極の磁束Ψvは、V相コイルの電気角度位置がU相コイルに対して電気角2π/3だけ進んでいるので、下式(87)で表される。
さらに、軟磁性体を介してW相コイルを通過する磁極の磁束Ψwは、W相コイルの電気角度位置がU相コイルに対して電気角2π/3だけ遅れているので、下式(88)で表される。
次いで、以上の式(86)〜(88)を時間微分すると、下式(89)〜(91)がそれぞれ得られる。
ここで、ωe1は、θe1の時間微分値、すなわちステータに対する第1ロータの角速度を電気角速度に換算した値(以下「第1ロータ電気角速度」という)を表しており、ωe2は、θe2の時間微分値、すなわちステータに対する第2ロータの角速度を電気角速度に換算した値(以下「第2ロータ電気角速度」という)を表している。
この場合、軟磁性体を介さずにU相〜W相のコイルを直接、通過する磁極の磁束は、極めて小さく、その影響は無視できるので、式(89)〜(91)に示される、軟磁性体を介してU相〜W相のコイルをそれぞれ通過する磁極の磁束Ψu〜Ψwの時間微分値dΨu/dt〜dΨw/dtは、磁極や軟磁性体がステータ列に対して回転するのに伴ってU相〜W相のコイルに発生する逆起電圧(誘導起電圧)をそれぞれ表すものになる。
したがって、U相、V相およびW相のコイルをそれぞれ流れる電流Iu,Iv,Iwは、下式(92),(93),(94)で表される。
ここで、Iは、U相〜W相のコイルを流れる電流の振幅(最大値)を表している。
また、以上の式(92)〜(94)より、U相コイルに対する回転磁界のベクトルの電気角度位置θmfは、下式(95)で表されるとともに、U相コイルに対する回転磁界の電気角速度(以下「磁界電気角速度」という)ωmfは、下式(96)で表される。
さらに、U相〜W相のコイルに電流Iu〜Iwがそれぞれ流れることで第1および第2ロータに出力される機械的出力(動力)Wは、リラクタンス分を除くと、下式(97)で表される。
この式(97)に前述した式(89)〜(94)を代入し、整理すると、下式(98)が得られる。
一方、機械的出力Wと、前述した第1および第2ロータ伝達トルクT1,T2と、第1および第2ロータ電気角速度ωe1,ωe2との関係は、下式(99)で表される。
以上の式(98),(99)を参照すると明らかなように、第1および第2ロータ伝達トルクT1,T2はそれぞれ、下式(100)および(101)で表される。
また、ステータ列に供給された電力と機械的出力Wは、損失を無視すれば互いに等しいことになるので、前述した式(96)と式(98)の関係から、前述した駆動用等価トルクTeは、下式(102)で表される。
さらに、以上の式(100)〜(102)より、下式(103)が得られる。
この場合、上式(103)で表される3つのトルクTe,T1,T2の関係、および前述した式(96)で表される3つの電気角速度ωmf,ωe1,ωe2の関係は、遊星歯車装置のサンギヤとリングギヤとキャリアにおけるトルクおよび回転速度の関係と同一である。さらに、前述したように、b=a+cおよびa−c≠0が成立することを条件として、式(96)の電気角速度の関係および式(103)のトルクの関係が成立する。ここで、磁極の数をp、ステータ磁極の数をqとすると、p=2a,q=2cが成立するので、条件式b=a+cは、b=(p+q)/2、すなわちb/q=(1+p/q)/2と書き換えられる。さらに、極数比mをm=p/qと定義すると、b/q=(1+m)/2が得られる。
以上により、b=a+cという条件式が成立していることは、ステータ磁極の数と磁極の数と軟磁性体の数との比q:p:bが、1:m:(1+m)/2であることに相当する。また、上記のa−c≠0という条件が成立していることは、q≠pすなわち極数比mが値1以外の正数であることを表す。したがって、第1回転機10によれば、ステータ磁極の数と磁極の数と軟磁性体の数との比が、1:m:(1+m)/2(ただしm≠1)に設定されているので、式(96)に示す電気角速度の関係と式(103)に示すトルクの関係が成立し、それにより、第1回転機10を、遊星歯車装置のサンギヤとリングギヤとキャリア(以下「遊星歯車装置の三要素」という)と同様の動作特性で運転できることになる。この場合、極対数比αは、α=a/c=(p/2)/(q/2)=p/qであるので、α=mが成立する。
以上のように、本実施形態の動力装置1によれば、第1回転機10において1つの軟磁性体列のみを設けるだけでよいので、その分、第1回転機10を小型化できるとともに製造コストを低減できる。その結果、動力装置自体を小型化でき、製造コストを低減できる。また、前述した式(96),(103)を参照すると明らかなように、極対数比αすなわち極数比mの設定の仕方によって、3つの電気角速度ωmf,ωe1,ωe2の関係を自由に設定できるとともに、3つのトルクTe,T1,T2の関係も自由に設定できる。この点は、電力供給による回転磁界の発生中のみならず、発電による回転磁界の発生中にも同様に当てはまる。これに加えて、式(103)から明らかなように、極対数比αが大きいほど、第1および第2ロータ伝達トルクT1,T2に対して、駆動用等価トルクTeがより小さくなる。このことは、発電中にも同様に当てはまる。したがって、極対数比αをより大きな値に設定することによって、ステータの小型化を図ることができ、ひいては動力装置1をより小型化することができる。以上の理由により、第1回転機10すなわち動力装置1の設計の自由度を高めることができる。
また、式(96)に基づき、3つの電気角速度ωmf,ωe1,ωe2の関係は、例えば図109のように表すことができる。同図は、いわゆる速度共線図であり、この速度共線図において、縦軸の値0を通る横線と交わる縦線は、各パラメータの回転速度を表すためのものであり、この縦線上に表される白丸と横線との間隔が、各パラメータの回転速度に相当する。
この図109を参照すると明らかなように、極対数比αが小さいほど、速度共線図における磁界電気角速度ωmfを表す縦線と、第2ロータ電気角速度ωe2を表す縦線との間の距離が小さくなるので、第1ロータ電気角速度ωe1と第2ロータ電気角速度ωe2との差Δω1に対する、第2ロータ電気角速度ωe2と磁界電気角速度ωmfとの差Δω2の比(Δω2/Δω1)は、より小さくなる。したがって、極対数比αをより小さな値に設定することによって、第2ロータ電気角速度ωe2が第1ロータ電気角速度ωe1を上回るような場合において、磁界電気角速度ωmfの過大化による損失の発生により駆動効率や発電効率が低下するのを防止できる。なお、以上の作用効果は、第1回転機10において、複数のステータのコイルの相数が前述した値3以外の場合にも同様に得ることができる。
次に、以上のように構成された第1回転機10の動作について説明する。前述したように、本実施形態の第1回転機10の場合、ステータ磁極が4個、永久磁石14aの磁極(以下「磁石磁極」という)が8個、軟磁性体コア15aが6個となっているので、ステータ磁極の数と磁石磁極の数と軟磁性体コア15aの数との比(以下「要素数比」という)は、4:8:6=1:2:1.5=1:2:(1+2)/2に設定されている。この要素数比は前述した極数比m(=極対数比α)を値2に設定したときのものに相当するので、前述した式(89)〜(91)から明らかなように、第1ロータ14および第2ロータ15がステータ16に対して回転した際、それに伴ってU相コイル16cに発生する逆起電圧(以下「U相逆起電圧」という)Vcuと、V相コイル16dに発生する逆起電圧(以下「V相逆起電圧」という)Vcvと、W相コイル16eに発生する逆起電圧(以下「W相逆起電圧」という)Vcwはそれぞれ、下式(104)〜(106)で表される。
ここで、ψFは、磁石磁極の磁束の最大値を表している。また、θER1は、第1ロータ電気角であり、特定のU相コイル16c(以下「基準コイル」という)に対する第1ロータ14の特定の永久磁石14aの回転角度位置を、電気角度位置に換算した値である。すなわち、第1ロータ電気角θER1は、この特定の永久磁石14aの回転角度位置に、ステータ磁極の極対数(値2)を乗算した値である。さらに、θER2は、第2ロータ電気角であり、上記の基準コイルに対する第2ロータ15の特定の軟磁性体コア15aの回転角度位置を、電気角度位置に換算した値である。すなわち、第2ロータ電気角θER2は、この特定の軟磁性体コア15aの回転角度位置に、ステータ磁極の極対数(値2)を乗算した値である。
また、上式(104)〜(106)におけるωER1は、第1ロータ電気角速度であり、θER1の時間微分値、すなわちステータ16に対する第1ロータ14の角速度を電気角速度に換算した値である。さらに、ωER2は、第2ロータ電気角速度であり、θER2の時間微分値、すなわちステータ16に対する第2ロータ15の角速度を電気角速度に換算した値である。
また、第1回転機10の場合、要素数比が前述したように設定されているので、前述した式(92)〜(94)から明らかなように、U相コイル16cを流れる電流(以下「U相電流」という)Iuと、V相コイル16dを流れる電流(以下「V相電流」という)Ivと、W相コイル16eを流れる電流(以下「W相電流」という)Iwはそれぞれ、下式(107)〜(109)で表される。
これらの式(107)〜(109)において、Iは、U相〜W相コイル16c〜16eを流れる電流の振幅(最大値)を表している。
さらに、第1回転機10の場合、要素数比が前述したように設定されているので、前述した式(95)および(96)から明らかなように、基準コイルに対するステータ16の回転磁界のベクトルの電気角度位置(以下「磁界電気角度位置」という)θMFRは、下式(110)で表され、ステータ16に対する回転磁界の電気角速度(以下「磁界電気角速度」という)ωMFRは、下式(111)で表される。
以上により、第1回転機10の場合、磁界電気角速度ωMFRと第1ロータ電気角速度ωER1と第2ロータ電気角速度ωER2との関係は、例えば図110に示すようになる。
また、ステータ16に供給された電力および磁界電気角速度ωMFRと等価のトルクを駆動用等価トルクTSEとした場合、この駆動用等価トルクTSEと、第1ロータ14に伝達されるトルク(以下「第1ロータ伝達トルク」という)TR1と、第2ロータ15に伝達されるトルク(以下「第2ロータ伝達トルク」という)TR2との関係は、前述した要素数比および前述した式(103)から明らかなように、下式(112)で表される。
以上のように、式(111)で表される3つの電気角速度ωMFR,ωER1,ωER2の関係と、式(112)で表される3つのトルクTSE,TR1,TR2の関係は、サンギヤおよびリングギヤのギヤ比が1:2である遊星歯車装置のサンギヤ、リングギヤおよびキャリア(以下「遊星歯車装置の三要素」という)における回転速度およびトルクの関係と同一である。
次に、第1回転機10において、ステータ16に供給された電力が動力に変換され、第1ロータ14および第2ロータ15から出力される場合の動作について説明する。まず、図111(a)〜(c)〜図113(a)、(b)を参照しながら、第1ロータ14を回転不能に保持した状態でステータ16に電力を供給した場合の動作について説明する。なお、図111(a)〜(c)〜図113(a)、(b)では、理解の容易化のために、特定のステータ磁極と特定の軟磁性体コア15aに対してのみ、ハッチングが施されている。
まず、図111(a)に示すように、図中の左端の軟磁性体コア15aの中心と、図中の左端の永久磁石14aの中心が、周方向に互いに一致するとともに、その軟磁性体コア15aから3つ右隣の軟磁性体コア15aの中心と、その永久磁石14aから4つ右隣の永久磁石14aの中心が、周方向に互いに一致した状態から、回転磁界を、図中の左方向に回転するように発生させる。その発生の開始時においては、互いに同じ極性のステータ磁極の位置を、中心が軟磁性体コア15aと一致している各永久磁石14aの中心と周方向に一致させるとともに、このステータ磁極の極性をこの永久磁石14aの磁石磁極の極性と異なるように設定する。
この状態で、ステータ16による回転磁界が第1ロータ14との間に発生すると、軟磁性体コア15aを有する第2ロータ15が、ステータ16と第1ロータ14の間に配置されているので、ステータ磁極および磁石磁極によって、各軟磁性体コア15aが磁化され、それに伴い、軟磁性体コア15aが間隔を存して設けられていることで、ステータ磁極と軟磁性体コア15aと磁石磁極を結ぶような磁力線MLが発生する。
図111(a)に示す状態では、磁力線MLは、周方向の位置が互いに一致しているステータ磁極、軟磁性体コア15aおよび磁石磁極を結ぶとともに、これらのステータ磁極、軟磁性体コア15aおよび磁石磁極のそれぞれの周方向の両隣のステータ磁極、軟磁性体コア15aおよび磁石磁極を結ぶように発生する。また、この状態では、磁力線MLが直線状であることにより、軟磁性体コア15aに対して、これを周方向に回転させるような磁力は作用しない。
そして、回転磁界の回転に伴ってステータ磁極が図111(a)に示す位置から図111(b)に示す位置まで回転すると、磁力線MLが曲がった状態になり、それに伴い、磁力線MLが直線状になるように、磁力が軟磁性体コア15aに作用する。この場合、磁力が作用する軟磁性体コア15aにおいて、磁力線MLは、ステータ磁極および磁石磁極を結ぶ直線に対して、回転磁界の回転方向(以下「磁界回転方向」という)と逆方向に凸に曲がった状態になるので、磁力線MLに起因する磁力は、軟磁性体コア15aを磁界回転方向に駆動するように作用する。それにより、軟磁性体コア15aは、磁界回転方向に駆動され、図111(c)に示す位置に向かって回転し、軟磁性体コア15aが設けられた第2ロータ15も、磁界回転方向に回転する。なお、図111(b)および(c)における破線は、磁力線MLの磁束量が極めて小さく、ステータ磁極と軟磁性体コア15aと磁石磁極の間の磁気的なつながりが弱いことを表している。このことは、後述する他の図面においても同様である。
また、回転磁界がさらに回転するのに伴い、上述した一連の動作、すなわち、「磁力線MLが軟磁性体コア15aにおいて磁界回転方向と逆方向に凸に曲がる→磁力線MLが直線状になるように軟磁性体コア15aに磁力が作用する→軟磁性体コア15aおよび第2ロータ15が、磁界回転方向に回転する」という動作が、図112(a)〜(d)および図113(a),(b)に示すように繰り返される。以上のように、第1ロータ14を回転不能に保持した状態で、ステータ16に電力を供給した場合には、上述したような磁力線MLに起因する磁力の作用によって、ステータ16に供給された電力は動力に変換され、その動力が第2ロータ15から出力される。
また、図114は、図111(a)に示す状態からステータ磁極が電気角2πだけ回転した状態を示しており、両図を比較すると明らかなように、軟磁性体コア15aは、ステータ磁極に対して1/3の回転角度だけ、同方向に回転していることが判る。この結果は、前述した式(111)において、ωER1=0としたときに、ωER2=ωMFR/3が成立することと合致する。
次に、図115(a)〜(c)〜図117(a)、(b)を参照しながら、第2ロータ15を回転不能に保持した状態で、電力をステータ16に供給した場合の動作について説明する。なお、図115(a)〜(c)〜図117(a)、(b)では、理解の容易化のために、特定のステータ磁極および永久磁石14aに対して、ハッチングが施されている。
まず、図115(a)に示すように、前述した図111(a)の場合と同様に、図中の左端の軟磁性体コア15aの中心と図中の左端の永久磁石14aの中心とが、周方向に互いに一致するとともに、その軟磁性体コア15aから3つ右隣の軟磁性体コア15aの中心とその永久磁石14aから4つ右隣の永久磁石14aの中心とが、周方向に互いに一致している状態において、回転磁界を図中の左方向に回転するように発生させる。その発生の開始時においては、互いに同じ極性のステータ磁極の位置を、中心が軟磁性体コア15aと一致している各永久磁石14aの中心と周方向に一致させるとともに、このステータ磁極の極性をこの永久磁石14aの磁石磁極の極性と異なるように設定する。
図115(a)に示す状態では、図111(a)の場合と同様に、磁力線MLは、周方向の位置が互いに一致しているステータ磁極、軟磁性体コア15aおよび磁石磁極を結ぶとともに、これらのステータ磁極、軟磁性体コア15aおよび磁石磁極のそれぞれの周方向の両隣のステータ磁極、軟磁性体コア15aおよび磁石磁極を結ぶように発生する。また、この状態では、磁力線MLが直線状であることにより、軟磁性体コア15aに対して、これを周方向に回転させるような磁力は作用しない。
そして、回転磁界の回転に伴ってステータ磁極が図115(a)に示す位置から図115(b)に示す位置まで回転すると、磁力線MLが曲がった状態になり、それに伴い、磁力線MLが直線状になるように、磁力が永久磁石14aに作用する。この場合、この永久磁石14aが、磁力線MLで互いに結ばれたステータ磁極および軟磁性体コア15aの延長線上よりも磁界回転方向に進んだ位置にあるため、磁力線MLに起因する磁力は、この延長線上に永久磁石14aを位置させるように作用する。すなわち、永久磁石14aを磁界回転方向と逆方向に駆動するように作用する。それにより、永久磁石14aは、磁界回転方向と逆方向に駆動され、図115(c)に示す位置に向かって回転し、永久磁石14aが設けられた第1ロータ14も、磁界回転方向と逆方向に回転する。
また、回転磁界がさらに回転するのに伴い、上述した一連の動作が図116(a)〜(d)および図117(a),(b)に示すように繰り返される。すなわち、「磁力線MLが曲がり、磁力線MLで互いに結ばれたステータ磁極および軟磁性体コア15aの延長線上よりも、永久磁石14aが磁界回転方向に進んだ位置に位置する→磁力線MLが直線状になるように永久磁石14aに磁力が作用する→永久磁石14aおよび第1ロータ14が、磁界回転方向と逆方向に回転する」という動作が、繰り返される。以上のように、第2ロータ15を回転不能に保持した状態で、電力をステータ16に供給した場合、上述したような磁力線MLに起因する磁力の作用によって、ステータ16に供給された電力は動力に変換され、その動力が第1ロータ14から出力される。
また、図117(b)は、図115(a)に示す状態からステータ磁極が電気角2πだけ回転した状態を示しており、両図を比較すると明らかなように、永久磁石14aは、ステータ磁極に対して1/2の回転角度だけ、逆方向に回転していることが判る。この結果は、前述した式(111)において、ωER2=0としたときに、−ωER1=ωMFR/2が成立することと合致する。
以上のように、本実施形態の第1回転機10では、ステータ16への電力供給により回転磁界を発生させると、前述した磁石磁極と軟磁性体コア15aとステータ磁極とを結ぶような磁力線MLが発生し、この磁力線MLによる磁力の作用によって、ステータに供給された電力は動力に変換され、その動力が、第1ロータ14や第2ロータ15から出力される。この場合、磁界電気角速度ωMFR、第1および第2のロータ電気角速度ωER1,ωER2の間に、前述した式(111)に示す関係が成立するとともに、駆動用等価トルクTSE、第1および第2のロータ伝達トルクTR1,TR2の間に、前述した式(112)に示す関係が成立する。これらの3つのトルクTSE,TR1,TR2の関係および電気角速度ωMFR,ωER1,ωER2の関係は、遊星歯車装置の三要素におけるトルクおよび回転速度の関係と同一である。
そのため、ステータ16に電力を供給していない状態で、第1ロータ14および/または第2ロータ15に動力を入力することによって、第1ロータ14および/または第2ロータ15をステータ16に対して回転させると、ステータ16において、発電が行われるとともに、回転磁界が発生する。その際、磁石磁極と軟磁性体とステータ磁極を結ぶような磁力線MLが発生するとともに、この磁力線MLによる磁力の作用によって、式(111)に示す電気角速度の関係と式(112)に示すトルクの関係が成立する。すなわち、発電した電力および磁界電気角速度ωMFRと等価のトルクを発電用等価トルクTGEとすると、この発電用等価トルクTGE、第1および第2のロータ伝達トルクTR1,TR2の間にも、式(112)の「TSE」を「TGE」に置き換えた関係が成立する。
以上のように、本実施形態の第1回転機10の場合、3つのトルクの関係および3つの電気角速度の関係が、遊星歯車装置の三要素におけるトルクおよび回転速度の関係と同一になるので、第1回転機10を遊星歯車装置と同じ動作特性で運転することができる。
<第2回転機20>
次に、第2回転機20について説明する。この第2回転機20は、DCブラシレスモータで構成されており、図106に示すように、前述した駆動系ハウジングに固定されたケース21と、ケース21内に収容され、出力軸13に同心に固定されたロータ22と、ケース21の周壁21cの内周面に固定されたステータ23などを備えている。
ケース21は、左右の側壁21a,21bと、これらの側壁21a,21bの外周端部に固定された円筒状の周壁21cなどで構成されている。左右の側壁21a,21bの内端部には、軸受21d,21eがそれぞれ取り付けられており、出力軸13は、これらの軸受21d,21eによって回転自在に支持されている。
ロータ22は、出力軸13に同心に固定された回転盤部22aと、この回転盤部22aの外端部に固定された円筒状のリング部22bなどを備えている。このリング部22bは、軟磁性体で構成され、その外周面には、永久磁石列が周方向に沿って設けられている。この永久磁石列は、所定個数の永久磁石22cで構成されており、これらの永久磁石22cは、互いに同じ所定角度の間隔でかつ隣り合う各2つが互いに異なる極性で配置されている。
ステータ23は、ケース21の周壁21cの内周面に周方向に沿って設けられた複数のステータ23aを有している。これらのステータ23aは、回転磁界を発生するものであり、互いに同じ所定角度の間隔で配置され、後述する2ND・PDU32およびVCU34を介して、バッテリ33に電気的に接続されている。
<ECU>
一方、動力装置1は、図105に示すように、エンジン3を主に制御するためのENG・ECU29と、第1回転機10および第2回転機20を主に制御するためのMOT・ECU30などを備えている。これらのECU29,30はいずれも、RAM、ROM、CPUおよびI/Oインターフェースなどからなるマイクロコンピュータ(いずれも図示せず)で構成されている。
ENG・ECU29には、クランク角センサ、駆動軸回転数センサ、アクセル開度センサおよび車速センサなどの各種のセンサ(いずれも図示せず)が接続されている。ENG・ECU29は、これらの各種のセンサの検出信号に基づき、エンジン回転数NE、駆動軸8の回転数(以下「駆動軸回転数」という)ND、アクセル開度AP(図示しないアクセルペダルの操作量)および車速VPなどを算出するとともに、これらのパラメータに応じて、燃料噴射弁や点火プラグなどを駆動することにより、エンジン3の運転を制御する。さらに、ENG・ECU29は、MOT・ECU30に電気的に接続されており、MOT・ECU30との間で、エンジン回転数NEおよび駆動軸回転数NDなどの各種データを送受信する。
一方、MOT・ECU30には、1ST・PDU31、2ND・PDU32、第1回転角センサ35および第2回転角センサ36が接続されている。1ST・PDU31は、インバータなどを含む電気回路で構成され、第1回転機10およびバッテリ33に接続されている。また、2ND・PDU32は、1ST・PDU31と同様にインバータなどを含む電気回路で構成され、第2回転機20およびバッテリ33に接続されている。なお、1ST・PDU31および2ND・PDU32とも、VCU34を介してバッテリ33に接続されている。
さらに、第1回転角センサ35は、ステータ16に対する第1ロータ14の回転角度を検出して、それを表す検出信号をMOT・ECU30に出力する。また、第2回転角センサ36は、ステータ16に対する第2ロータ15の回転角度を検出して、それを表す検出信号をMOT・ECU30に出力する。MOT・ECU30は、これらのセンサの検出信号や前述したENG・ECU29からの各種データなどに応じて、以下に述べるように、2つの回転機10,20の運転状態を制御する。なお、ENG・ECU29およびMOT・ECU30は、当該制御を行う際に必要となる各種マップ等を記憶するメモリからデータを読み込む。また、ENG・ECU29またはMOT・ECU30は、バッテリ33の外装体又はその周辺に取り付けられたバッテリ温度センサが検出した信号から、バッテリ33の温度を導出する。
<駆動力制御>
以下、上記説明した1共線3要素の仕組みを有する動力装置1においてENG・ECU29およびMOT・ECU30が行う駆動力制御について、図118及び図119を参照して説明する。図118は、第23実施形態の動力装置1における駆動力制御を示すブロック線図である。また、図119は、1共線3要素の仕組みを有する動力装置1における速度共線図である。
図118に示すように、ENG・ECU29は、上記説明したアクセル開度APを表す検出信号と、車速VPを表す検出信号とを取得する。次に、ENG・ECU29は、メモリ45に格納されている駆動力マップを用いて、アクセル開度APと車速VPに応じた駆動力(以下「要求駆動力」という。)を導出する。次に、ENG・ECU29は、要求駆動力と車速VPに応じた出力(以下「要求出力」という。)を算出する。なお、当該要求出力は、車両がドライバのアクセルペダル操作に応じた走行を行うために要する出力である。
次に、ENG・ECU29は、バッテリ33に入出力される電流・電圧値を表す検出信号から、バッテリ33の残容量(SOC:State of Charge)の情報を取得する。次に、ENG・ECU29は、バッテリ33のSOCに応じた、要求出力に占めるエンジン3の出力する割合を決定する。次に、ENG・ECU29は、メモリ45に格納されているENG動作マップを用いて、エンジン3の出力に応じた最適な動作点を導出する。なお、ENG動作マップは、エンジン3の軸回転数とトルクと出力の関係に応じた各動作点の燃料消費率を示すBSFC(Brake Specific Fuel Consumption)に基づくマップである。次に、ENG・ECU29は、最適動作点でのエンジン3の軸回転数(以下「要求ENG軸回転数」という。)を導出する。さらに、ENG・ECU29は、最適動作点でのエンジン3のトルク(以下「ENG要求トルク」という。)を導出する。
次に、ENG・ECU29は、ENG要求トルクを出力するようエンジン3を制御する。次に、ENG・ECU29は、エンジン3の軸回転数を検出する。このとき検出されたエンジン3の軸回転数を「実ENG軸回転数」という。次に、ENG・ECU29は、要求ENG軸回転数と実ENG軸回転数の差分Δrpmを算出する。MOT・ECU30は、差分Δrpmが0に近づくよう、第1回転機10の出力トルクを制御する。当該制御は、第1回転機10のステータ16で回生発電することで行われ、その結果、第1回転機10(MG1)の第2ロータ15には、図119の共線図に示したトルクT12が加わる。
第1回転機10の第2ロータ15にトルクT12が加わることによって、第1回転機10(MG1)の第1ロータ14にトルクT11が生じる。トルクT11は、以下の式(113)によって算出される。
T11=α/(1+α)×T12 …(113)
また、第1回転機10のステータ16での回生発電によって生じた電気エネルギ(回生エネルギ)は1ST・PDU31に送られる。図119の共線図では、第1回転機10のステータ16で発生した回生エネルギを点線Aで示す。
次に、MOT・ECU30は、前に導出した要求駆動力から、上記算出されたトルクT11を差し引いたトルクが第2回転機20のロータ22に加わるよう、2ND・PDU32を制御する。その結果、第2回転機20(MG2)のロータ22にトルクT22が加わる。このとき、第2回転機20に電気エネルギを供給する際には、第1回転機10の回生発電で得られた回生エネルギを用いても良い。
このように、第1回転機21の第1ロータ14にはトルクT11が加わり、第2回転機20のロータ22にはトルクT22が加わる。第1回転機10の第1ロータ14および第2回転機20のロータ22は出力軸13と連結しているため、車両の前輪4,4にはトルクT11とトルクT22の総和が加わる。
以上説明したように、ENG・ECU29およびMOT・ECU30は、エンジン3が最適な動作点で作動するよう、第1回転機10の第2ロータ15に発生するトルクを制御し、かつ、車両の前輪4,4に要求駆動力が伝達されるよう、第2回転機20のロータ22に発生するトルクを制御している。
上記説明では、要求駆動力を導出する際および要求出力を導出する際に車速VPを用いているが、車速VPの代わりに、車軸の回転数の情報を用いても良い。
次に、車両運転中の、MOT・ECU30による第1回転機10および第2回転機20の制御手法について説明する。
・エンジン停止中で停車中
まず、停車中のエンジン始動制御について説明する。この制御では、MOT・ECU30は、エンジン停止中で停車中の場合において、所定のエンジン始動条件が成立したとき(例えば、図示しないイグニッション・スイッチがOFF状態からON状態に切り換わったとき)に、バッテリ33の電力を、VCU34および1ST・PDU31を介して第1回転機10に供給し、回転磁界をステータ16に発生させる。この場合、第1回転機10では、第1ロータ14が前輪4に機械的に連結され、第2ロータ15がエンジン3のクランクシャフトに機械的に連結されているので、停車中でエンジン停止状態の場合、第1ロータ14の方が第2ロータ15よりも回転抵抗が極めて大きい状態となり、それに起因して、第1ロータ14が停止したままで、第2ロータ15が回転磁界の回転方向に駆動されることになる。その結果、回転磁界の回転に伴って、第2ロータ15が駆動され、それにより、エンジン3を始動することができる。
・エンジン運転中で停車中
また、エンジン運転中で停車中の場合において、所定の発進条件が成立したとき(例えば、図示しないブレーキペダルが操作されておらず、アクセル開度APが所定値以上のとき)には、発進制御が実行される。まず、停車中は、出力軸13すなわち第1ロータ14が回転停止状態となっているので、エンジン3が発生する動力はすべて、磁力線を介して、第1回転機10のステータ16に伝達され、これに回転磁界を発生させることで、誘導起電力(すなわち逆起電圧)が発生する。MOT・ECU30は、ステータ16への供給電流を制御することにより、ステータ16で発生した誘導起電力を回生し、その回生電力をすべて、1ST・PDU31および2ND・PDU32を介して第2回転機20に供給する。その結果、第2回転機20のロータ22によって、出力軸13が駆動され、前輪4,4が駆動されることで、車両2が発進する。車両2の発進後、MOT・ECU30は、車速の上昇に伴い、第1回転機10における回生電力が漸減するように制御すると同時に、その回生電力を第2回転機20に供給するように制御する。
・エンジン運転中で走行中
さらに、エンジン運転中で走行中のときには、変速制御が実行される。この変速制御では、エンジン3の運転状態(例えば、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APなど)および/または車両2の走行状態(例えば車速VPなど)に応じて、エンジン3の動力のうちの、第1ロータ14を介して前輪4に伝達される動力と、第1回転機10で電力として回生される動力との割合を変更するように、第1回転機10が制御されるとともに、この回生電力を第2回転機20に供給することにより、第2回転機20が制御される。この場合、前述したように、第1回転機10は、遊星歯車装置と同様の動作特性で運転可能なものであるので、上記のように第1回転機10を制御するとともに、第1回転機10での回生電力を第2回転機20に供給することによって、第2回転機20を制御すると、電気的な損失を無視すれば、第1回転機10および第2回転機20を介して、エンジン3の動力をすべて前輪4に伝達しながら、第2ロータ15の回転数と出力軸13の回転数との比、言い換えればエンジン回転数NEと駆動軸回転数NDとの比を任意に変更することができる。すなわち、2つの回転機10,20を制御することで、自動変速装置としての機能を実現することができる。
また、この変速制御中、所定の動力伝達条件が成立したとき(例えば、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APが所定領域にあるとき)には、第1回転機10での電力回生を中止し、ロック電流をステータ16に供給するかまたは第1回転機10における相間短絡制御を実行することなどにより、ステータ16の回転磁界の回転速度を値0に制御する。このように制御した場合には、磁気伝達可能な範囲内であれば、エンジン3の動力をすべて磁気を介して前輪4に伝達できるので、第1回転機10における回生電力を、2ND・PDU32を介して第2回転機20に供給するように制御する場合と比べて、動力伝達効率を向上させることができる。
一方、エンジン運転中で走行中(減速フューエルカット運転中も含む)の場合において、バッテリ33の充電残量SOCが所定値SOC_REF(例えば50%)以下のときには、第1回転機10および/または第2回転機20における回生電力を制御し、バッテリ33への充電制御を実行する。それにより、バッテリ33において十分な充電残量SOCを確保することができる。
・エンジン運転中でアシスト条件成立
また、エンジン運転中で所定のアシスト条件が成立したとき(例えば、坂道発進のとき、登坂走行中であるとき、または加速走行中であるとき)には、アシスト制御が実行される。具体的には、バッテリ33内の電力を第1回転機10および/または第2回転機20に供給することによって、第1回転機10および/または第2回転機20の動力と、エンジン3の動力とが前輪4に伝達されるように、第1回転機10および/または第2回転機20が制御される。それにより、エンジン3に加えて、第1回転機10および/または第2回転機20を動力源として、アシスト走行またはアシスト発進することができる。
・エンジン停止中で回転機発進条件成立
さらに、エンジン3が停止中でかつ車両2が停止中の場合において、所定の回転機発進条件が成立したとき(例えば、バッテリ33の充電残量SOCが所定値SOC_REFを上回っており、ブレーキペダルが操作されていない状態で、アクセル開度APが所定値以上のとき)には、回転機発進制御が実行される。具体的には、エンジン3を停止したままで、バッテリ33の電力が第1回転機10および第2回転機20に同時に供給され、2つの回転機10,20が同時に駆動される。その際、第2回転機20が回転し始めるのと同時に、出力軸13が回転し始めるが、第1回転機10において、停止しているエンジン3に連結された第2ロータ15側の回転抵抗が第1ロータ14側よりもかなり大きくなる。その結果、ステータ16に回転磁界を発生させることにより、第1ロータ14を駆動することができ、第1回転機10および第2回転機20の動力によって、車両2を発進させることができる。なお、エンジン3の回転抵抗が不足する場合には、エンジン3をロックするか、回転抵抗を増大させる装置を設けてもよい。
以上のように、本実施形態の動力装置1によれば、エンジン3、第1回転機10および第2回転機20を動力源として、車両2を駆動することができる。また、第1回転機10を1つの軟磁性体列のみを備えるように構成すればよいので、その分、第1回転機10を小型化できるとともに製造コストを低減できる。その結果、動力装置1自体を小型化でき、製造コストを低減できるとともに、設計の自由度を高めることができる。また、前述した式(111),(112)を参照すると明らかなように、第1回転機10における極対数比αすなわち極数比mの設定の仕方によって、3つの電気角速度ωMFR,ωER1,ωER2の関係を自由に設定できるとともに、3つのトルクTSE,TR1,TR2の関係も自由に設定できる。その結果、設計の自由度をさらに高めることができる。
次に、第23実施形態の動力装置1において、第1回転機10の極対数比α(=極数比m)を変更したときのトルク変化などについて説明する。具体的には、エンジン運転中での車両走行中、エンジン3の動力の一部を第1回転機10によって電力回生し、この回生電力を第2回転機20に供給することで、第2回転機20を力行制御している場合を例にとって説明する。
まず、動力装置1において、第1回転機10の極対数比αが値1以外の任意の値に設定され、駆動輪が出力軸13に直結されていると仮定する。この場合、入力軸12すなわち第2ロータ15の電気角速度をωENGとし、ステータ16の回転磁界の電気角速度をωMG1とし、出力軸13すなわち第1ロータ14の電気角速度ωOUTとすると、これらの電気角速度の関係は、例えば図120に示すようになるとともに、下式(114)が成立する。
さらに、エンジン3から入力軸12に入力されるトルクをエンジントルクTENGとし、ステータ16の回生電力および回転磁界の電気角速度ωMG1に等価なトルクを第1回転機トルクTMG1とし、第2回転機20への供給電力および電気角速度ωMG2に等価なトルクを第2回転機トルクTMG2とし、駆動輪への伝達トルクに起因して駆動輪が路面から受ける反力としてのトルクを駆動トルクTOUTとすると、下式(115),(116)が成立するとともに、これらのトルクの関係は図120に示すようになる。なお、下式(115),(116)においては、図120の上向きのトルクを正値で表している。
ここで、第1所定値α1および第2所定値α2を、α1<α2が成立するような極対数比αの所定値とした場合、α=α1のときの第1および第2回転機トルクTMG1(α1),TMG2(α1)はそれぞれ、下式(117),(118)で表される。
また、α=α2のときの第1および第2回転機トルクTMG1(α2),TMG2(α2)はそれぞれ、下式(119),(120)で表される。
以上の式(117),(119)より、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更した場合の、第1回転機トルクTMG1の変化量ΔTMG1は、下式(121)で表される。
また、式(118),(120)より、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更した場合の、第2回転機トルクTMG2の変化量ΔTMG2は、下式(122)で表される。
ここで、TENG>0,TMG1<0,TMG2>0,α1<α2であるので、以上の式(121),(122)を参照すると明らかなように、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更することで、第1および第2回転機トルクTMG1,TMG2の絶対値が減少することになる。すなわち、極対数比αをより大きな値に設定することで、第1回転機10および第2回転機20を小型化できることが判る。
また、2つの回転機10,20とバッテリ33との間で電力が入出力されていないとすれば、第1回転機10の回生電力はそのまま第2回転機20に供給されるので、下式(123)が成立する。
ここで、第1回転機10から第2回転機20に供給される電力を伝達電力WMGとし、エンジン出力WENGに対する伝達電力WMGの比を出力比RWとすると、この出力比RWは、下式(124)により算出される。
前述した式(114),(115)の関係を上式(124)に適用すると、下式(125)が得られる。
ここで、減速比Rを下式(126)に示すように定義し、これを上式(125)に適用すると、下式(127)が得られる。
上式(127)より、極対数比αを第1所定値α1および第2所定値α2に設定したときの出力比RW(α1),RW(α2)はそれぞれ、下式(128),(129)で算出される。
以上の式(128),(129)より、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更した場合の、出力比の変化量ΔRWは、下式(130)で表される。
ここで、α1<α2であるので、上式(130)を参照すると明らかなように、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更することで、出力比RWを低減でき、伝達電力WMGを低減できることが判る。また、前述した式(127)において、極対数比αを値1、値1.5、値2に設定したときの出力比RWと減速比Rの関係は、図121に示すようになる。この図121を参照すると明らかなように、極対数比αをより大きな値に設定することで、減速比Rのほぼ全域において、伝達電力WMGを低減できることが判る。一般に、効率の観点からは、動力を機械伝達または磁気伝達したときの方が、電力を回転機によって動力に変換したときと比べて優れているので、上記のように、伝達電力WMGを低減することによって、伝達効率を向上できることになる。すなわち、本実施形態の動力装置の場合、極対数比α(=極数比m)をより大きく設定することによって、伝達効率を向上させることができる。
なお、第23実施形態は、動力装置1を被駆動部としての前輪4を備える車両2に適用した例であるが、これに限らず、例えば、船舶および航空機などの様々な産業機器に適用可能である。ここで、動力装置1を船舶に適用した場合には、スクリューなどの推進力を生じる部分が被駆動部に相当し、動力装置を航空機に適用した場合には、プロペラやロータなどの推進力を生じる部分が被駆動部に相当する。
また、第23実施形態は、熱機関として、ガソリンを燃料とする内燃機関であるエンジン3を用いた例であるが、これに限らず、熱エネルギを継続的に機械的エネルギに変える装置であればよい。例えば、熱機関として、軽油または天然ガスを燃料とする内燃機関やスターリングエンジンなどの外燃機関を用いてもよい。
さらに、第23実施形態は、第1回転機10において、ステータ磁極の数を「4」に、磁極の数を「8」に、軟磁性体としての軟磁性体コア15aの数を「6」にそれぞれ設定した例であるが、本発明の第1回転機におけるステータ磁極の数、磁極の数および軟磁性体の数はこれらの値に限らず、ステータ磁極の数と磁極の数と軟磁性体の数が、極数比mを値1以外の正数とした場合において、ステータ磁極の数と磁極の数と軟磁性体の数との比すなわち要素数比が1:m:(1+m)/2となるように、設定されていればよい。また、第23実施形態の第1回転機10は、要素数比においてm=2に設定した例であるが、極数比mはこれに限らず、値1以外の正数であればよい。
また、第23実施形態は、第1ロータ14の磁極として永久磁石14aの磁極を用いた例であるが、第1ロータ14にステータ列を設け、このステータ列に発生する磁極を永久磁石の磁極に代えて用いてもよい。
一方、第23実施形態は、第1回転機10および第2回転機20の運転を制御する制御手段として、MOT・ECU30、1ST・PDU31および2ND・PDU32を用いた例であるが、第1回転機10および第2回転機20を制御する制御手段はこれに限らず、これらの回転機10,20の運転を制御できるものであればよい。例えば、2つの回転機10,20を制御する制御手段として、マイクロコンピュータを搭載した電気回路などを用いてもよい。
また、第23実施形態は、第1回転機10および第2回転機20を出力軸13上に軸線方向に並べて配置した例であるが、第1回転機10および第2回転機20の配置はこれに限らない。例えば、図122に示すように、第2回転機20の外側に第1回転機10が位置するように、両者を径方向に並べて配置してもよい。このようにすれば、2つの回転機10,20の軸線方向のサイズを小型化することができ、動力装置1の設計の自由度を高めることができる。
さらに、図123に示すように、第1回転機10の第1ロータ14と第2回転機20のロータ22を別個の軸上に配置してもよい。なお、同図においては、理解の容易化のために断面部分のハッチングが省略されている。同図に示すように、この第2回転機20では、ロータ22が前述した出力軸13上ではなく、第1ギヤ軸6a上に設けられている。このようにすれば、2つの回転機10,20の配置において、動力装置1の設計の自由度を高めることができる。
一方、第23実施形態の動力装置1において、図124に示すように、ギヤ機構6に代えて、変速装置(図では「T/M」と表す)50を設けてもよい。この変速装置50は、出力軸13と前輪4との間の減速比を段階的または無段階に変更するものであり、MOT・ECU30によって変速動作が制御される。なお、変速装置50としては、具体的には、トルクコンバータ付きの有段自動変速装置、ベルト式無段変速装置、トロイダル式無段変速装置および自動MT(アクチュエータによって、クラッチの接続・遮断動作および変速動作を実行する有段自動変速装置)などのいずれかが適宜、用いられる。
このように構成した場合、例えば、変速装置50における低回転・高負荷域用の減速比を大きく設定することによって、第1回転機10および第2回転機20を介して変速装置50に伝達すべきトルクを小さく設定することができ、それにより、第1回転機10および第2回転機20を小型化することができる。一方、変速装置50における高車速・高負荷域用の減速比を小さく設定することによって、第1回転機10および第2回転機20の回転数を低下させることができる。それにより、第1回転機10の場合、その界磁回転数を低減できることで、エネルギ損失を低減でき、伝達効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。また、第2回転機20の場合、その運転効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。
また、第23実施形態の動力装置1において、図125に示すように、変速装置51を、エンジン3と第2ロータ15の間に延びる入力軸12の途中に設けてもよい。この変速装置51は、エンジン3と第2ロータ15との間の増速比を段階的または無段階に変更するものであり、MOT・ECU30によって変速動作が制御される。なお、変速装置51としては、上記変速装置50と同様に、トルクコンバータ付きの有段自動変速装置、ベルト式無段変速装置、トロイダル式無段変速装置および自動MTなどのいずれかが適宜、用いられる。
このように構成した場合、例えば、変速装置51における低回転・高負荷域用の増速比および終減速装置(すなわち差動ギヤ機構7)の終減速比をいずれも大きく設定することによって、第1回転機10および第2回転機20を介して終減速装置側に伝達すべきトルクを小さく設定することができ、それにより、第1回転機10および第2回転機20を小型化することができる。一方、変速装置51における高車速・高負荷域用の増速比を小さく(または1:1に)設定することによって、第1回転機10および第2回転機20の回転数を低下させることができる。それにより、前述したように、第1回転機10の場合、その界磁回転数を低減できることで、エネルギ損失を低減でき、伝達効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。また、第2回転機20の場合、その運転効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。
さらに、第23実施形態の動力装置1において、図126に示すように、ギヤ機構6の位置を、出力軸13の第1ロータ14とロータ22との間に変更するとともに、出力軸13のギヤ機構6とロータ22の間に、変速装置52を設けてもよい。この変速装置52は、ロータ22とギヤ6cとの間の減速比を段階的または無段階に変更するものであり、MOT・ECU30によって変速動作が制御される。なお、変速装置52としては、前述した変速装置50と同様に、トルクコンバータ付きの有段自動変速装置、ベルト式無段変速装置、トロイダル式無段変速装置および自動MTなどのいずれかが適宜、用いられる。
このように構成した場合、例えば、変速装置52における低回転・高負荷域用の減速比を大きく設定することによって、第2回転機20から前輪4に伝達すべきトルクを小さく設定することができ、それにより、第2回転機20を小型化することができる。一方、変速装置52における高車速・高負荷域用の減速比を小さく設定することによって、第2回転機20の回転数を低下させることができ、それにより、前述したように、運転効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。
<バッテリSOCに応じた制御>
上記説明したように、本実施形態の動力装置1の動作モードに応じて、バッテリ33から第1回転機10および/または第2回転機20に電力が供給され、また、第1回転機10および/または第2回転機20で発電された電力がバッテリ33に充電される。また、上記説明したように、ENG・ECU29およびMOT・ECU30は、図示しない電流電圧センサからの検出信号に基づいてバッテリ33の充電状態を算出する。
バッテリ33は、ニッケル水素電池またはリチウムイオン電池等の2次電池によって構成されている。2次電池の性能を十分に活用するためには、その残容量(SOC:State of Charge)を常に監視し、過充電および過放電を防止する必要がある。したがって、本実施形態のENG・ECU29およびMOT・ECU30は、バッテリ33のSOC(以下「バッテリSOC」という)に応じた制御を行う。図127は、充放電が繰り返されるバッテリSOCの範囲を示す図である。図127に示すように、ENG・ECU29およびMOT・ECU30は、バッテリSOCが下限SOCから上限SOCまでの範囲内に収まるよう、エンジン3、第1および第2の回転機10,20の動作を制御する。
<ENG発進時の過充電防止制御>
動作装置1の動作モードが「エンジン運転中」のとき、第1回転機10のステータ16では回生発電が行われる。このとき発生した回生エネルギはバッテリ33に送られ充電される。しかし、バッテリSOCが上限SOCに近い状態でバッテリ33が充電されると、バッテリSOCが上限SOCを超えてしまうおそれがある。したがって、ENG・ECU29およびMOT・ECU30は、バッテリSOCが図127に示した上限SOCよりも低い第1しきい値以上のとき、以下説明する制御を行う。
動作装置1の動作モードが「エンジン運転中」であって、バッテリSOCが第1しきい値以上のとき、ENG・ECU29は、図118を参照して説明したエンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルク(トルクT12)を変えずに作動するようエンジン3を制御する。図128(a)、(b)は、動作装置1の動作モードが「エンジン運転中」時の、(a)バッテリSOCが第1しきい値未満のときの速度共線図と、(b)バッテリSOCが第1しきい値以上のときの速度共線図とを示す。図128(b)に示すように、エンジン3の軸回転数が低く制限されると、第1回転機10のステータ16における第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1は、図128(a)に示した第1磁界回転速度VMF1よりも低くなるよう制御される。その結果、図128(b)に示した場合の第1回転機10で発生する回生エネルギは、図128(a)に示した場合の回生エネルギよりも低くなる。
このように、動作装置1の動作モードが「エンジン動作中」のとき、要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルクを変えずに作動するようENG・ECU29がエンジン3を制御することによって、バッテリ33への充電量が低下する。したがって、バッテリSOCが上限SOCに近い第1しきい値以上のとき、ENG・ECU29が当該制御を行うことによって、バッテリ33の過充電を防止できる。但し、当該制御の結果、エンジン3の出力は低下する。しかし、第2回転機20からのトルクが加わるため、駆動輪4,4に伝達される出力トルクは変わらない。
なお、上記説明した制御時にENG・ECU29がエンジン3に要求するトルクは、図118を参照して説明したENG要求トルク未満であっても良い。最適動作点で作動するようエンジン3を制御する場合、ENG・ECU29は、上記制御時の軸回転数に応じたトルクを出力するようエンジン3を制御する。エンジン3の軸回転数が低い状態での最適動作点におけるトルクは軸回転数に略比例するため、このときのトルクはENG要求トルクよりも小さい。このような制御を行うとエンジン3の出力はさらに低下するが、エンジン3を最適動作点で作動できる。
また、上記制御では、エンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で作動するようエンジン3を制御している。しかし、エンジン3に要求されたトルクに対する第1回転機10のステータ16に発生する単位時間当たりの回生エネルギが規定値を超える場合には、図118を参照して説明したENG要求トルクよりも低いトルクを出力するようエンジン3を制御しても良い。なお、このとき、エンジン3の軸回転数は、図118を参照して説明した要求ENG軸回転数と同一であっても、それ以下であっても良い。
<EV走行時の過放電防止制御>
動作装置1の動作モードが「EV走行」のとき、第2回転機20のステータ23は力行運転状態である。したがって、動作装置1の動作モードが「EV走行」のとき、バッテリ33は放電する。しかし、バッテリSOCが下限SOCに近い状態でバッテリ33が放電されると、バッテリSOCが下限SOCを下回るおそれがある。したがって、ENG・ECU29は、バッテリSOCが図127に示した下限SOCよりも高い第2しきい値以下のとき、以下説明する制御を行う。
動作装置1の動作モードが「EV走行」であって、バッテリSOCが第2しきい以下のとき、ENG・ECU29は、最適動作点でエンジン3を作動するよう制御する。図129(a)、(b)は、動作装置1の動作モードが「EV走行」時の、(a)バッテリSOCが第2しきい値より高いときの速度共線図と、(b)バッテリSOCが第2しきい値以下のときの速度共線図とを示す。図129(b)に示すように、エンジン3を駆動すると、第1回転機10で回生エネルギが発生する。
このように、動作装置1の動作モードが「EV走行」のとき、エンジン3を作動するよう制御することによって、バッテリ33の放電量が低下する。したがって、バッテリSOCが下限SOCに近い第2しきい値以下のとき、ENG・ECU29が当該制御を行うことによって、バッテリ33の過放電を防止できる。
なお、第2しきい値は可変である。第1回転機10がエンジン3を始動する際に必要とされるエネルギは車速VPによって異なり、車速VPが高いときほど必要とされるエネルギは大きい。したがって、ENG・ECU29は、車速VPに応じた第2しきい値を設定する。すなわち、ENG・ECU29は、車速VPが高いときほど第2しきい値を高く設定する。
<ENG後退発進時の過充電防止制御>
動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」のとき、第1回転機10のステータ16では回生発電が行われる。このとき発生した回生エネルギはバッテリ33に送られ充電される。しかし、バッテリSOCが上限SOCに近い状態でバッテリ33が充電されると、バッテリSOCが上限SOCを越えてしまうおそれがある。したがって、ENG・ECU29およびMOT・ECU30は、バッテリSOCが図127に示した上限SOCよりも低い第1しきい値以下のとき、以下説明する制御を行う。
動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」であって、バッテリSOCが第1しきい以上のとき、ENG・ECU29は、図118を参照して説明したエンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルク(トルクT12)を変えずに作動するようエンジン3を制御する。図130(a)、(b)は、動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」時の、(a)バッテリSOCが第1しきい値未満のときの速度共線図と、(b)バッテリSOCが第1しきい値以上のときの速度共線図とを示す。図130(b)に示すように、エンジン3の軸回転数が低く制限されると、第1回転機10のステータ16における第1回転磁界の第1磁界回転速度VMF1は、図130(a)に示した第1磁界回転速度VMF1よりも低くなるよう制御される。その結果、第1回転機10では発生する回生エネルギは低下する。
このように、動作装置1の動作モードが「ENG後退発進」のとき、要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で、かつ、出力トルクを変えずに作動するようECU2がエンジン3を制御することによって、バッテリ33への充電量が低下する。したがって、バッテリSOCが上限SOCに近い第1しきい値以上のとき、ENG・ECU29が当該制御を行うことによって、バッテリ33の過充電を防止できる。但し、当該制御の結果、エンジン3の出力は低下する。しかし、エンジン3の出力トルクは変わらないため、駆動輪4,4に伝達される出力トルクは変わらない。
なお、上記説明した制御時にENG・ECU29がエンジン3に要求するトルクは、図118を参照して説明したENG要求トルク未満であっても良い。最適動作点で作動するようエンジン3を制御する場合、ENG・ECU29は、上記制御時の軸回転数に応じたトルクを出力するようエンジン3を制御する。エンジン3の軸回転数が低い状態での最適動作点におけるトルクは軸回転数に略比例するため、このときのトルクはENG要求トルクよりも小さい。このような制御を行うとエンジン3の出力はさらに低下するが、エンジン3を最適動作点で作動できる。
また、上記制御では、エンジン3の要求ENG軸回転数よりも低い軸回転数で作動するようエンジン3を制御している。しかし、エンジン3に要求されたトルクに対する第1回転機10のステータ16で発生する単位時間当たりのエネルギが規定値を超える場合には、図118を参照して説明したENG要求トルクよりも低いトルクを出力するようエンジン3を制御しても良い。なお、このとき、エンジン3の軸回転数は、図118を参照して説明した要求ENG軸回転数と同一であっても、それ以下であっても良い。
(第24実施形態)
次に、図131を参照しながら、第24実施形態に係る動力装置1Aについて説明する。同図に示すように、この動力装置1Aは、第23実施形態の動力装置1と比べると、第2回転機20を後輪駆動用の動力源として用いた点が異なっており、それ以外は第23実施形態の動力装置1とほぼ同様に構成されているので、以下、第23実施形態の動力装置1と異なる点を中心に説明するとともに、同じ構成に関しては同一の符号を付し、その説明を省略する。
この動力装置1Aでは、第1ギヤ軸6a上のギヤ6dが差動ギヤ機構7のギヤ7aと常に噛み合っており、それにより、出力軸13の回転は、ギヤ6c,6dおよび差動ギヤ機構7を介して、前輪4,4に伝達される。
また、第2回転機20は、差動ギヤ機構25および左右の駆動軸26,26などを介して、左右の後輪5,5に連結されており、これにより、後述するように、第2回転機20の動力が後輪5,5(第2被駆動部)に伝達される。
第2回転機20のロータ22は、ギヤ軸24の左端部に同心に固定されており、このギヤ軸24の右端部には、ギヤ24aがギヤ軸24に同心に固定されている。このギヤ24aは、差動ギヤ機構25のギヤ25aと常に噛み合っている。以上の構成により、第2回転機20の動力は、ギヤ24aおよび差動ギヤ機構25を介して、後輪5,5に伝達される。
以上のように構成された本実施形態の動力装置1Aによれば、第23実施形態の動力装置1と同様の作用効果を得ることができる。これに加えて、車両2の発進時、第1回転機10で回生された電力を第2回転機20に供給することにより、全輪駆動状態で発進することができ、その結果、雪道などの低μ路での発進性を向上させることができる。また、走行中も、全輪駆動状態で走行可能となるので、低μ路での走行安定性を向上させることができる。
また、第24実施形態の動力装置1Aにおいて、図132に示すように、変速装置53を、エンジン3と第2ロータ15の間に延びる入力軸12の途中に設けるとともに、変速装置54を、ギヤ軸24のギヤ24aとロータ22との間に設けてもよい。この変速装置53は、エンジン3と第2ロータ15との間の増速比を段階的または無段階に変更するものであり、MOT・ECU30によって変速動作が制御される。さらに、変速装置54は、第2回転機20と後輪5との間の減速比を段階的または無段階に変更するものであり、MOT・ECU30によって変速動作が制御される。なお、変速装置53,54としては、前述した変速装置50と同様に、トルクコンバータ付きの有段自動変速装置、ベルト式無段変速装置、トロイダル式無段変速装置および自動MTなどのいずれかが適宜、用いられる。
このように構成した場合、例えば、変速装置53における低回転・高負荷域用の増速比および終減速装置(すなわち差動ギヤ機構7)の終減速比をいずれも大きく設定することにより、第1回転機10を介して終減速装置側に伝達すべきトルクを小さく設定することができ、それにより、第1回転機10を小型化することができる。一方、変速装置53における高車速・高負荷域用の増速比を小さく(または1:1に)設定することにより、第1回転機10の回転数を低下させることができる。それにより、前述したように、第1回転機10において、その界磁回転数を低減できることで、エネルギ損失を低減でき、伝達効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。
さらに、例えば、変速装置54における低回転・高負荷域用の減速比を大きく設定することにより、第2回転機20の発生トルクを小さく設定することができ、それにより、第2回転機20を小型化することができる。一方、変速装置54における高車速・高負荷域用の減速比を小さく設定することにより、第2回転機20の回転数を低下させることができる。それにより、第2回転機20において、その運転効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。
なお、図132に示す例では、2つの変速装置53,54を動力装置1Aに設けたが、これらの変速装置53,54の一方を省略してもよい。
(第25実施形態)
次に、図133を参照しながら、第25実施形態に係る動力装置1Bについて説明する。同図に示すように、この動力装置1Bは、第23実施形態の動力装置1と比べると、第2回転機20および2ND・PDU32などを省略するとともに、電磁ブレーキ55を付加した点が異なっており、それ以外は第23実施形態の動力装置1とほぼ同様に構成されているので、以下、第23実施形態の動力装置1と異なる点を中心に説明するとともに、同じ構成に関しては同一の符号を付し、その説明を省略する。
この動力装置1Bでは、前述した第24実施形態の動力装置1Aと同様に、第1ギヤ軸6a上のギヤ6dが差動ギヤ機構7のギヤ7aと常に噛み合っており、それにより、出力軸13の回転は、ギヤ6c,6dおよび差動ギヤ機構7を介して、前輪4,4に伝達される。
また、電磁ブレーキ55(制止装置)は、入力軸12の第1回転機10とエンジン3の間に設けられており、MOT・ECU30に電気的に接続されている。この電磁ブレーキ55は、MOT・ECU30によってON/OFF状態が切り換えられるとともに、OFF状態のときには、入力軸12の回転を許容し、ON状態のときには、入力軸12の回転を制止する。
次に、車両運転中の、MOT・ECU30による第1回転機10および電磁ブレーキ55の制御について説明する。なお、電磁ブレーキ55は、後述する回転機発進制御のときにのみON状態に制御されるとともに、この回転機発進制御以外の各種の制御においては、OFF状態に保持される。
まず、エンジン始動制御について説明する。このエンジン始動制御は、エンジン停止中で停車中の場合において、前述した所定のエンジン始動条件が成立したときに、第1回転機10の動力によってエンジン3を始動するものである。具体的には、所定の始動条件が成立すると、バッテリ33の電力が、VCU34および1ST・PDU31を介して第1回転機10に供給される。それにより、前述したように、第1ロータ14が停止したままで、第2ロータ15が駆動され、その結果、エンジン3が始動される。
また、エンジン運転中で停車中の場合において、前述した所定の発進条件が成立したときには、発進制御が実行される。この発進制御では、所定の発進条件が成立すると、まず、第1回転機10において、エンジン3の動力を電力として回生する(すなわち発電する)。そして、電力回生の開始後、その回生電力が減少するように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジンストールを回避しながら、エンジン3の動力によって、車両2を発進させることができる。
さらに、エンジン運転中で走行中には、エンジン動力の分配制御が実行される。この分配制御では、エンジン3の運転状態(エンジン回転数NEおよびアクセル開度APなど)および/または車両2の走行状態(車速VPなど)に応じて、エンジン3の動力のうちの、第1ロータ14を介して前輪4に伝達される動力と、第1回転機10で電力として回生される動力との割合を変更するように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジン3の運転状態および/または車両2の走行状態に応じて、回生電力を適切に制御しながら、車両2を走行させることができる。
また、この分配制御中、前述した所定の動力伝達条件が成立したときには、ステータ16の回転磁界の回転速度が値0となるように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジン3の動力を、磁気伝達可能な範囲内であれば、第2ロータ15および第1ロータ14を介して前輪4にすべて磁気伝達することができる。
一方、エンジン運転中で走行中(減速フューエルカット運転中も含む)、エンジン3の動力が電力回生されている場合において、バッテリ33の充電残量SOCが前述した所定値SOC_REF以下のときには、回生電力がバッテリ33に供給され、バッテリ33の充電制御が実行される。なお、前述した発進制御中に電力回生が実行されたときにも、バッテリ33の充電残量SOCが所定値SOC_REF以下であれば、バッテリ33の充電制御が実行される。それにより、バッテリ33において十分な充電残量SOCを確保することができる。
また、エンジン運転中で走行中の場合において、前述した所定のアシスト条件が成立したときには、アシスト制御が実行される。具体的には、バッテリ33内の電力が第1回転機10に供給され、エンジン3および第1回転機10の動力によって前輪4を駆動するように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジン3に加えて、第1回転機10を動力源として、アシスト走行することができる。
さらに、エンジン停止中でかつ停車中の場合において、前述した所定の回転機発進条件が成立したときには、電磁ブレーキ55がONされ、第2ロータ15の回転が制止されるとともに、バッテリ33の電力を第1回転機10に供給することにより、第1回転機10が力行制御される。それにより、エンジン3を停止したままで、第1回転機10によって前輪4を駆動し、車両2を発進させることができる。その結果、燃費を向上させることができる。
(第26実施形態)
次に、図134を参照しながら、第26実施形態に係る動力装置1Cについて説明する。同図に示すように、この動力装置1Cは、第23実施形態の動力装置1と比べると、第1回転機10および第2回転機20の配置が異なっており、それ以外は第23実施形態の動力装置1とほぼ同様に構成されているので、以下、第23実施形態の動力装置1と異なる点を中心に説明するとともに、同じ構成に関しては同一の符号を付し、その説明を省略する。
この動力装置1Cでは、第2回転機20がエンジン3と第1回転機10の間に配置され、そのロータ22は、入力軸12(回転軸)の所定部位に同心に固定されている。さらに、第1回転機10では、第1ロータ14がロータ22よりも下流側の入力軸12の右端部に同心に固定され、第2ロータ15が出力軸13の左端部に同心に固定されている。それにより、第1回転機10の運転時、第2ロータ15が回転しているときには、その動力が前輪4,4に伝達される。
次に、車両運転中の、MOT・ECU30による第1回転機10および第2回転機20の双方を制御する場合の制御手法について説明する。
・エンジン停止中で停車中
まず、停車中のエンジン始動制御について説明する。この制御では、エンジン停止中で停車中の場合において、前述した所定の始動条件が成立したときには、前述したバッテリ33の電力が第1回転機10および/または第2回転機20に供給され、第1回転機10および/または第2回転機20の動力が入力軸12を介してエンジン3に伝達されるように、第1回転機10および/または第2回転機20が力行制御される。それにより、第1回転機10および/または第2回転機20の動力によって、エンジン3を始動することができる。
・エンジン運転中で停車中
また、エンジン運転中で停車中の場合において、前述した所定の発進条件が成立したときには、発進制御が実行される。具体的には、停車中、エンジン3の動力は、入力軸12に伝達され、第1回転機10の第1ロータ14が駆動される。その状態で、第1回転機10を制御することにより、第1回転機10で電力回生を実行するとともに、その回生電力を第2回転機20に供給すると、第2回転機20のロータ22によって、第1ロータ14が駆動され、エネルギ循環が発生する。この状態で、第1回転機10での回生電力を減少側に制御すると、第1回転機10の第2ロータ15が回転し、出力軸13が駆動され、前輪4,4が駆動されることで、車両2が発進する。車両2の発進以降、第1回転機10での回生電力をさらに減少側に制御するとともに、第1回転機10のステータ16の磁界回転方向が逆転から正転に移行した後は、第2回転機20を回生制御しかつ第1回転機10を力行制御することにより、車速が上昇する。
・エンジン運転中で走行中
さらに、エンジン運転中で走行中のときには、変速制御が実行される。この変速制御では、エンジン3の運転状態(エンジン回転数NEおよびアクセル開度APなど)および/または車両2の走行状態(車速VPなど)に応じて、エンジン3の動力のうちの、入力軸12を介して第1ロータ14に伝達される動力と、第2回転機20で電力として回生される動力との割合を変更するように、第2回転機20が制御されるとともに、この回生電力を第1回転機10に供給することにより、第1回転機10が制御される。この場合、前述したように、第1回転機10が、遊星歯車装置と同様の動作特性を示すように運転可能であるので、上記のように第2回転機20を制御するとともに、第2回転機20での回生電力を第1回転機10に供給することによって、第1回転機10を制御すると、電気的な損失を無視すれば、第1回転機10および第2回転機20を介して、エンジン3の動力をすべて前輪4に伝達しながら、入力軸12の回転数と出力軸13の回転数との比、言い換えればエンジン回転数NEと駆動軸回転数NDとの比を任意に変更することができる。すなわち、2つの回転機10,20を制御することで、自動変速装置としての機能を実現することができる。
また、この変速制御中、前述した所定の動力伝達条件が成立したときには、第1回転機10での電力回生を中止し、ロック電流をステータ16に供給するかまたは第1回転機10における相間短絡制御を実行することなどにより、ステータ16の回転磁界の回転速度を値0に制御する。このように制御した場合、磁気伝達可能な範囲内であれば、エンジン3の動力をすべて磁気を介して前輪4に伝達できるので、第1回転機10における回生電力を、2ND・PDU32を介して第2回転機20に供給するように制御する場合と比べて、動力伝達効率を向上させることができる。
一方、エンジン運転中で走行中(減速フューエルカット運転中も含む)の場合において、バッテリ33の充電残量SOCが前述した所定値SOC_REF以下のときには、第1回転機10および/または第2回転機20における回生電力を制御し、バッテリ33への充電制御を実行する。それにより、バッテリ33において十分な充電残量SOCを確保することができる。なお、前述した発進制御や変速制御の実行中において、バッテリ33の充電残量SOCが所定値SOC_REF以下のときに、バッテリ33への充電制御を実行してもよい。
・エンジン運転中でアシスト条件成立
また、エンジン運転中で前述した所定のアシスト条件が成立したときには、アシスト制御が実行される。具体的には、バッテリ33内の電力を第1回転機10および/または第2回転機20に供給することによって、第1回転機10および/または第2回転機20の動力と、エンジン3の動力とが前輪4に伝達されるように、第1回転機10および/または第2回転機20が制御される。それにより、エンジン3に加えて、第1回転機10および/または第2回転機20を動力源として、アシスト走行またはアシスト発進することができる。
・エンジン停止中で回転機発進条件成立
さらに、エンジン停止中でかつ停車中の場合において、前述した所定の回転機発進条件が成立したときには、回転機発進制御が実行される。具体的には、エンジン3を停止したままで、バッテリ33の電力をVCU34および2ND・PDU32を介して第2回転機20に供給し、第2回転機20(制止装置)を、ロータ22が回転停止状態に保持されるように制御することで、第1ロータ14の回転を制止するとともに、バッテリ33の電力をVCU34および1ST・PDU31を介して第1回転機10に供給し、第1回転機10の力行制御を実行する。その結果、第1回転機10の電力が磁気を介して出力軸13側に動力として伝達され、それにより、車両2を発進させることができる。
次に、車両2の運転中において、MOT・ECU30による第2回転機20の制御を停止し、MOT・ECU30によって第1回転機10のみを制御する場合の制御手法について説明する。
・エンジン運転中で停車中
まず、エンジン運転中で停車中の場合において、前述した所定の発進条件が成立したときには、発進制御が実行される。この発進制御では、上記所定の発進条件が成立すると、まず、第1回転機10において、エンジン3の動力を電力として回生し、電力回生の開始後、その回生電力が減少するように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジンストールを回避しながら、エンジン3の動力によって、車両2を発進させることができる。
・エンジン運転中で走行中
さらに、エンジン運転中で走行中には、エンジン動力の分配制御が実行される。この分配制御では、エンジン3の運転状態(エンジン回転数NEおよびアクセル開度APなど)および/または車両2の走行状態(車速VPなど)に応じて、エンジン3の動力のうちの、第2ロータ15を介して前輪4に伝達される動力と、第1回転機10で電力として回生される動力との割合を変更するように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジン3の運転状態および/または車両2の走行状態に応じて、回生電力を適切に制御しながら、車両2を走行させることができる。
また、この分配制御中、前述した所定の動力伝達条件が成立したときには、ステータ16の回転磁界の回転速度が値0となるように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジン3の動力を、磁気伝達可能な範囲内であれば、第1ロータ14および第2ロータ15を介して前輪4にすべて磁気伝達することができる。
一方、エンジン運転中で走行中(減速フューエルカット運転中も含む)、エンジン3の動力が電力回生されている場合において、バッテリ33の充電残量SOCが所定値SOC_REF以下のときには、回生電力がバッテリ33に供給され、バッテリ33の充電制御が実行される。なお、前述した発進制御中に電力回生が実行されたときにも、バッテリ33の充電残量SOCが所定値SOC_REF以下であれば、バッテリ33の充電制御が実行される。それにより、バッテリ33において十分な充電残量SOCを確保することができる。
・エンジン運転中・走行中でアシスト条件成立
また、エンジン運転中で走行中の場合において、前述した所定のアシスト条件が成立したときには、アシスト制御が実行される。具体的には、バッテリ33内の電力が第1回転機10に供給され、エンジン3および第1回転機10の動力によって前輪4を駆動するように、第1回転機10が制御される。それにより、エンジン3に加えて、第1回転機10を動力源として、アシスト走行することができる。以上のように、第1回転機10のみを制御することによって、車両2を運転することができる。
以上のように、本実施形態の動力装置1Cによれば、エンジン3、第1回転機10および第2回転機20を動力源として、車両2を駆動することができる。また、第1回転機10を1つの軟磁性体列のみを備えるように構成すればよいので、その分、第1回転機10を小型化できるとともに製造コストを低減できる。その結果、動力装置1C自体を小型化でき、製造コストを低減できるとともに、設計の自由度を高めることができる。さらに、前述したように、第1回転機10の極対数比αすなわち極数比mの設定の仕方によって、第1回転機10における3つの電気角速度および3つのトルクの関係も自由に設定でき、それにより、設計の自由度をさらに高めることができる。
次に、第26実施形態の動力装置1Cにおいて、第1回転機10の極対数比α(=極数比m)を変更したときのトルク変化などについて説明する。具体的には、エンジン運転中での車両走行中、エンジン3の動力の一部を第2回転機20によって電力回生し、この回生電力を第1回転機10に供給することで、第1回転機10を力行制御している場合を例にとって説明する。
まず、動力装置1Cにおいて、第1回転機10の極対数比αが値1以外の任意の値に設定され、駆動輪が出力軸13に直結されていると仮定する。この場合、入力軸12すなわち第1ロータ14の電気角速度をωENGとし、ステータ16の回転磁界の電気角速度をωMG1とし、出力軸13すなわち第2ロータ15の電気角速度をωOUTとすると、これらの電気角速度の関係は、例えば図135に示すようになるとともに、下式(131)が成立する。
さらに、エンジン3から入力軸12に入力されるトルクをエンジントルクTENGとし、第1回転機10への供給電力および電気角速度ωMG1に等価なトルクを第1回転機トルクTMG1とし、第2回転機20の回生電力および電気角速度ωMG2に等価なトルクを第2回転機トルクTMG2とし、駆動輪への伝達トルクに起因して駆動輪が路面から受ける反力としてのトルクを駆動トルクTOUTとすると、下式(132),(133)が成立するとともに、これらのトルクの関係は図135に示すようになる。なお、下式(132),(133)においては、図135の上向きのトルクを正値で表している。
ここで、極対数比αを前述した第1所定値α1に設定したときの第1および第2回転機トルクTMG1(α1),TMG2(α1)はそれぞれ、下式(134),(135)で表される。
さらに、極対数比αを前述した第2所定値α2に設定したときの第1および第2回転機トルクTMG1(α2),TMG2(α2)はそれぞれ、下式(136),(137)で表される。
以上の式(134),(136)より、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更した場合の、第1回転機トルクTMG1の変化量ΔTMG1は、下式(138)で表される。
また、式(135),(137)より、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更した場合の、第2回転機トルクTMG2の変化量ΔTMG2は、下式(139)で表される。
ここで、TOUT<0,TMG1>0,TMG2<0,α1<α2であるので、以上の式(138),(139)を参照すると明らかなように、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更することで、第1および第2回転機トルクTMG1,TMG2の絶対値が減少することになる。すなわち、極対数比αをより大きな値に設定することで、第1回転機10および第2回転機20を小型化できることが判る。
また、2つの回転機10,20とバッテリ33との間で電力が入出力されていないとすれば、第2回転機20の回生電力はそのまま第1回転機10に供給されるので、下式(140)が成立する。
さらに、機械的損失および電気的損失を無視すれば、下式(141)が成立する。
ここで、第2回転機20から第1回転機10に供給される電力を伝達電力WMG’とし、エンジン出力WENGに対する伝達電力WMG’の比を出力比RW’とすると、この出力比RW’は、下式(142)により算出される。
前述した式(131),(132)の関係を上式(142)に適用すると、下式(143)が得られる。
ここで、減速比Rを下式(144)に示すように定義し、これを上式(143)に適用すると、下式(145)が得られる。
上式(145)より、極対数比αを第1所定値α1および第2所定値α2に設定したときの出力比RW(α1)’,RW(α2)’はそれぞれ、下式(146),(147)で算出される。
以上の式(146),(147)より、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更した場合の、出力比の変化量ΔRW’は、下式(148)で表される。
ここで、α1<α2であるので、上式(148)を参照すると明らかなように、極対数比αを第1所定値α1から第2所定値α2に変更することで、出力比RW’を低減でき、伝達電力WMG’を低減できることが判る。また、前述した式(145)において、極対数比αを値1、値1.5、値2に設定したときの出力比RW’と減速比Rの関係は、図136に示すようになる。この図136を参照すると明らかなように、極対数比αをより大きな値に設定することで、減速比Rのほぼ全域において、伝達電力WMG’を低減できることが判る。一般に、効率の観点からは、動力を機械伝達または磁気伝達したときの方が、電力を回転機によって動力に変換したときと比べて優れているので、上記のように、伝達電力WMG’を低減することによって、伝達効率を向上できることになる。すなわち、動力装置1Cの場合、極対数比α(=極数比m)をより大きく設定することによって、伝達効率を向上させることができる。
なお、第26実施形態は、エンジン3を停止した状態で車両2を発進する際、第2回転機20を制止状態に制御し、第1回転機10を力行制御した例であるが、これに代えて、図137に示すように、動力装置1Cにおいて、エンジン3と第2回転機20との間にクラッチ56を設けてもよい。このように構成した場合、エンジン3を停止した状態で車両2を発進する際、MOT・ECU30によって、クラッチ56を遮断状態に保持するとともに、その状態で、2つの回転機10,20の少なくとも一方が力行制御される。それにより、2つの回転機10,20の少なくとも一方の動力によって、エンジン3を停止したままで、車両2を発進させることができる。この場合、クラッチ56としては、電磁クラッチや、油圧アクチュエータによって駆動される油圧式クラッチなどの動力を伝達・遮断する機構であって、MOT・ECU30によって制御可能なものであればよい。
一方、第26実施形態の動力装置1Cにおいて、図138に示すように、ギヤ機構6に代えて、変速装置57を設けてもよい。この変速装置57は、出力軸13と前輪4との間の減速比を段階的または無段階に変更するものであり、MOT・ECU30によって変速動作が制御される。なお、変速装置57としては、前述した変速装置50と同様に、トルクコンバータ付きの有段自動変速装置、ベルト式無段変速装置、トロイダル式無段変速装置および自動MTなどのいずれかが適宜、用いられる。
このように構成した場合、例えば、変速装置57における低回転・高負荷域用の減速比を大きく設定することによって、第1回転機10および第2回転機20を介して変速装置57に伝達すべきトルクを小さく設定することができ、それにより、第1回転機10および第2回転機20を小型化することができる。一方、変速装置57における高車速・高負荷域用の減速比を小さく設定することによって、第1回転機10および第2回転機20の回転数を低下させることができる。それにより、第1回転機10の場合、その界磁回転数を低減できることで、エネルギ損失を低減でき、伝達効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。また、第2回転機20の場合、その運転効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。
また、第26実施形態の動力装置1Cにおいて、図139に示すように、変速装置58を、エンジン3とロータ22の間に延びる入力軸12の途中に設けてもよい。この変速装置58は、エンジン3とロータ22との間の増速比を段階的または無段階に変更するものであり、MOT・ECU30によって変速動作が制御される。なお、変速装置58としては、前述した変速装置50と同様に、トルクコンバータ付きの有段自動変速装置、ベルト式無段変速装置、トロイダル式無段変速装置および自動MTなどのいずれかが適宜、用いられる。
このように構成した場合、例えば、変速装置58における低回転・高負荷域用の増速比および終減速装置(すなわち差動ギヤ機構7)の終減速比をいずれも大きく設定することによって、第1回転機10および第2回転機20を介して終減速装置側に伝達すべきトルクを小さく設定することができ、それにより、第1回転機10および第2回転機20を小型化することができる。一方、変速装置58における高車速・高負荷域用の増速比を小さく(または1:1に)設定することによって、第1回転機10および第2回転機20の回転数を低下させることができる。それにより、前述したように、第1回転機10の場合、その界磁回転数を低減できることで、エネルギ損失を低減でき、伝達効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。また、第2回転機20の場合、その運転効率を向上させることができるとともに、寿命を延ばすことができる。
(第27実施形態)
次に、図140を参照しながら、第27実施形態に係る動力装置1Dについて説明する。この動力装置1Dは、上記第26実施形態の動力装置1Cにおける第2回転機20の位置を、前述した第24実施形態の動力装置1Aと同様に、エンジン3と第1回転機10の間の位置から後輪5側に変更するとともに、この第2回転機20によって後輪5を駆動するように構成したものである。この動力装置1Dによれば、前述した第24実施形態の動力装置1Aと同様に、車両2の発進時、全輪駆動状態で発進することができ、それにより、雪道などの低μ路での発進性を向上させることができる。また、走行中も、全輪駆動状態で走行可能となるので、低μ路での走行安定性を向上させることができる。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2009年10月13日出願の日本特許出願(特願2009−236716)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。