JP5359409B2 - L−システイン生産菌及びl−システインの製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、L−システイン又はその関連物質の製造法に関し、詳しくはL−システイン又はその関連物質の製造に好適な細菌、及びそれを用いたL−システイン又はその関連物質の製造法に関する。L−システイン及びその関連物質は、医薬品、化粧品及び食品分野で利用されている。
L−システインは、毛髪、角、羽毛等のケラチン含有物質から抽出することにより、あるいはDL−2−アミノチアゾリン−4−カルボン酸を前駆体とする細菌酵素変換により得られている。また、新規な酵素を用いた固定化酵素法によるL−システインの大量生産も計画されている。
さらに、細菌を用いた発酵法によるL−システインの生産も試みられている。例えば、本発明者らは、L−システイン分解系が抑制され、かつ、L−システインによるフィードバック阻害が低減されたセリンアセチルトランスフェラーゼ(serine acetyltransferase(EC 2.3.1.30):以下、「SAT」ともいう)を保持するエシェリヒア属細菌を用いたL−システインの製造法を開示している(特許文献1)。また、L−システイン分解系を抑制することによってL−システイン生産能が高められた細菌としては、シスタチオニン−β−リアーゼ(特許文献1)、トリプトフォアナーゼ(特許文献2)、O−アセチルセリン スルフヒドリラーゼB(特許文献3)の活性を低下又は欠失させたコリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌が知られている。また、L−システインによるフィードバック阻害が低減された特定の変異を有するSATをコードするDNA配列により脱制御されたL−システイン物質代謝を有する細菌を用いた、L−システインの製造法が知られている(特許文献4)。
さらに、YdeDタンパク質をコードするydeD遺伝子(非特許文献1)、及びYfiKタンパク質をコードするyfiK遺伝子(特許文献5)は、L−システイン経路の代謝産物の排出に関与していることが知られている。また、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする遺伝子であるmar−遺伝子座、acr−遺伝子座、cmr-遺伝子座、mex−遺伝子座、bmr-遺伝子座、qacA−遺伝子座(特許文献6)、又はemrAB、emrKY、yojIH、acrEF、bcrもしくはcusA遺伝子(特許文献7)の発現を上昇させることによりL−システイン生産能を高める技術が知られている。
また、L−システイン生産菌として、cysB遺伝子によりコードされるシステインレギュロンの正の転写制御因子の活性が上昇したエシェリヒア・コリ (特許文献8)が知られている。
一方、L−アミノ酸の発酵生産においては、L−アミノ酸の細胞外への排出だけではなく、L−アミノ酸の取り込みも重要である。微生物はそれぞれの生育環境において、多くのアミノ酸を環境から細胞内へ取り込んで利用する能力を備えている。例えばエシェリヒア・コリ(E. coli)は、多くのトランスポーターを持ち、L−アミノ酸の取り込みに関与しているものもかなり多数あると想像されている。「membrane tranporter protein」と機能予測がされているもののうち、14%がアミノ酸のトランスポートに関与しているとの予測もある(非特許文献2)。しかしながら、トランスポーター一般に、基質特異性のさまざまなパラログが多数存在し、また機能的な重複(おなじ基質に対しての複数の取り込み系が存在すること)が多いことから、トランスポーターとしての機能の同定は非常に困難である(非特許文献3)。このように、トランスポーターの機能や生理的役割は非
常に複雑である。したがって、相同性や表現型から単純に推定されるトランスポーターの性質は、実際のトランスポーターとしての生理的機能を反映していない場合がある。例えば、複数の基質に対する輸送の中でどの輸送が生理的に重要な機能であるのかなどは予想できない。また、仮にある物質を輸送することがわかったとしても、その物質を同様にトランスポートする因子が他にも複数存在する可能性がある。したがって、アミノ酸発酵生産に用いる微生物の改変においては、ターゲットとしてトランスポーターを利用するのは、容易ではない。
また、細菌のL−システイン及びその関連化合物のうち、シスチンの取り込み系に関しては、以下に示すいくつかの知見があるが、L−システインやS-スルフォシステインの取り込みに関する有力な知見はほとんどない。
E. coliでは反応速度論的特性(Kinetics)の異なる少なくとも2種のシスチン取り込み系が存在すると予想されている(非特許文献4)。FliYは、シスチンと結合することがin vitroの実験系で示され (非特許文献5)、fliY遺伝子は近傍にあるyecC, yecS, yecOとオペロンを形成し、ABCトランスポーターとして機能していると予想されている(非特許文献6)。しかしながら、これらがE. coliにおいて生理的なシスチン取り込みとして機能しているかどうかは、いまだ実験的に直接示されていない。
同様に、サルモネラ(Salmonella)属細菌においても、Kineticsの異なる3つのシスチン取り込み系が存在すると予想されているが(非特許文献7)、これに関与するタンパク質やこれをコードする遺伝子はいまだ同定されていない。またバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)では3種のシスチン取り込み系(YckKJI, YtmJKLMN, YhcL)が報告されており、この3つを欠損した場合にはシスチンを唯一のイオウ源として生育ができなくなる(非特許文献8)。
E. coliのYdjNは、バチルス・サブチリスのシスチン取込みに関与することがわかっているTcyPと45%の相同性があることが報告されているが(非特許文献8)、実際にシスチン取込活性を有するか否かは確認されていない。
ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobaillus fermentum) BR11ではbspAがシスチン取り込み系をコードしていることが知られている(Turner et al. J. Bacteriol. 181.
2192-2198(1999))。また、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)ではKineticsの異なる2つのシステイン取り込み系が存在すると予想されているが(非特許文献9)、遺伝子やタンパク質は未だ特定されていない。
特開平11−155571号 特開2003−169668 特開2005−245311 特表2000−504926 特開2004−49237 米国特許第5972663号 特開2005−287333 国際公開パンフレット第01/27307号
Dabler et al., Mol. Microbiol.36. 1101-1112 (2000) Paulsen et al., J. Mol. Biol. 277. 573-592 (1998) Hosie et al., Res. Microbiol. 152. 259-270 (2001) Berger et al., J. Biol. Chem. 247. 7684-7694 (1972) Butler et al., Life Sci. 52. 1209-1215 (1993) Hosie et al., Res. Microbiol. 152. 259-270 (2001) Baptist et al., J. Bacteriol. 131. 111-118 (1977) Burguiere et al., J. Bacteriol. 186. 4875-4884 (2004) Ewann et al., Appl. Environ. Microbiol. 72. 3993-4000 (2006)
本発明は、細菌のL−システイン生産能を向上させる新規な技術を開発し、L−システイン生産菌、及び同細菌を用いたL−システイン、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物の製造法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ydjN遺伝子がコードするタンパク質の活性が低下するように細菌を改変することによってL−システイン生産能を向上させることができること、及び、前記タンパク質に加えてfliY遺伝子がコードするタンパク質の活性を低下させるように細菌を改変することによってさらにL−システイン生産能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)L−システイン生産能を有し、かつ、YdjNタンパク質の活性が低下するように改変された腸内細菌科に属する細菌。
(2)前記YdjNタンパク質が配列番号2又は4のアミノ酸配列を有するタンパク質、又はそのバリアントである、前記細菌。
(3)さらにFliYタンパク質の活性か低下するように改変された、前記細菌。
(4)前記FliYタンパク質が配列番号6又は8のアミノ酸配列を有するタンパク質、又はそのバリアントである、前記細菌。
(5)前記YdjNタンパク質又はFliYタンパク質の活性が、これらのタンパク質をコードするydjN遺伝子もしくはfliY遺伝子の発現量を低下させること、又はこれらの遺伝子を破壊することにより低下した、前記細菌。
(6)前記ydjN遺伝子が、下記(a)〜(c)のいずれかのDNAである、前記細菌。
(a)配列番号1又は3の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号1又は3の塩基配列に相補的な配列、又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(c)配列番号1又は3の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA。
(7)前記fliY遺伝子が、下記(d)〜(f)のいずれかのDNAである、前記細菌。
(d)配列番号5又は7の塩基配列を含むDNA。
(e)配列番号5又は7の塩基配列に相補的な配列、又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
(f)配列番号5又は7の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNA。
(8)さらに、下記の性質の少なくともいずれかを有する前記細菌。
i)セリンアセチルトランスフェラーゼ活性が上昇するように改変されている。
ii)yeaS遺伝子の発現が上昇するように改変されている。
iii)3−フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼ活性が上昇するように改変されている。
iv)硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系の活性が増強するように改変されている。
(9)前記細菌がパントエア属に属する細菌である、前記細菌。
(10)前記細菌がパントエア・アナナティスである、前記細菌。
(11)前記細菌がエシェリヒア・コリである前記細菌。
(12)前記細菌を培地中で培養し、該培地からL−システイン、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物を採取することを特徴とする、L−システイン、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物の製造法。
本発明により、腸内細菌科に属する細菌のL−システイン生産能を向上させることができる。また、本発明によれば、L−システイン、L−シスチン、それらの誘導体、もしくは前駆体又はこれらの混合物を効率よく製造することができる。
E. coli MG1655におけるS-スルフォシステインの取り込みを示す図。 E. coli MG1655におけるシスチンの取り込みを示す図。 E. coli MG1655におけるシステインの取り込みを示す図。 P. ananatis ydjNによるS-スルフォシステインの取り込みを示す図。 E. coli fliY欠損によるシスチンの取り込みを示す図。 E. coli fliY強化によるシスチンの取り込みを示す図。 E. coli fliY欠損によるシステインの取り込みを示す図。 プロモーターPnlpの配列を示す図。
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、L−システイン生産能を有し、かつ、YdjNタンパク質活性が低下するように改変された腸内細菌科に属する細菌である。本発明の細菌の好ましい形態は、前記タンパク質に加えてFliYタンパク質の活性が低下されるように改変された細菌である。YdjNタンパク質及びFliYタンパク質は、fliY及びydjN遺伝子によってコードされている。これらのタンパク質及び遺伝子については後述する。
L−システイン生産能とは、本発明の細菌を培地中で培養したときに、培地中または菌体内にL−システインを生成し、培地中または菌体から回収できる程度に蓄積する能力をいう。また、L−システイン生産能を有する細菌とは、野生株または親株よりも多い量のL−システインを生産し培地に蓄積することができる細菌を意味し、好ましくは、0.3g/L以上、より好ましくは0.4g/L以上、特に好ましくは0.5g/L以上の量のL−システインを生産し培地に蓄積することができる微生物を意味する。
微生物が産生したL−システインは、培地中で、ジスルフィド結合によって一部がL−シスチンに変換することがある。また、後述するように、L−システインと培地に含まれるチオ硫酸との反応によってS-スルフォシステインが生成することがある(Szczepkowski T.W., Nature, vol.182 (1958))。さらに、細菌の細胞内で生成したL−システインは、細胞中に存在するケトン又はアルデヒド、例えばピルビン酸と縮合し、ヘミチオケタールを中間体としてチアゾリジン誘導体が生成することがある(特許第2992010参照)。これらのチアゾリジン誘導体及びヘミチオケタールは、平衡混合物として存在することがある。したがって、L−システイン生産能とは、L−システインのみを培地中又は菌体内に蓄積する能力に限られず、L−システインに加えて、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物を培地中に蓄積する能力も含まれる。前記L−システイン又はL−シスチンの誘導体としては、例えばS−スルフォシステン、チアゾリジン誘導体、及びヘミチオケタール等が挙げられる。また、L−システイン又はL−シスチンの前駆体としては、例えばL−システインの前駆体であるO−アセチルセリンが挙げられる。
L−システイン又はL−シスチンの前駆体には、前駆体の誘導体も含まれ、例えばO−アセチルセリンの誘導体であるN−アセチルセリン等が挙げられる。
O−アセチルセリン(OAS)はL−システイン生合成の前駆体物質である。OASは細菌や植物の代謝物質であり、セリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)の酵素反応によりL−セリンのアセチル化によって生じる。OASは細胞内で更にL−システインへと変換される。
L−システイン生産能を有する細菌としては、本来的にL−システイン生産能を有するものであってもよいが、下記のような細菌を、変異法や組換えDNA技術を利用して、L−システイン生産能を有するように改変したものであってもよい。尚、本発明においてL−システインとは、特記しない限り、還元型L−システイン、L−シスチン、もしくは前記のような誘導体、またはこれらの混合物を指す。
本発明に用いる細菌としては、エシェリヒア属、エンテロバクター属、パントエア属、クレブシエラ属、セラチア属、エルビニア属、サルモネラ属、モルガネラ属など、腸内細菌科に属する細菌であって、L−システインを生産する能力を有するものであれば、特に限定されない。具体的にはNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに記載されている分類により腸内細菌科に属するものが利用できる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)。改変に用いる腸内細菌科の親株としては、中でもエシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌、エルビニア属、エンテロバクター属、又はクレブシエラ属を用いることが望ましい。
エシェリヒア属細菌としては、特に限定されないが、具体的にはNeidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に挙げられるものが利用できる。その中では、例えばエシェリヒア・コリが挙げられる。エシェリヒア・コリとしては具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリ W3110 (ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ MG1655 (ATCC 47076)等が挙げられる。
これらを入手するには、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所
12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter
agglomerans)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等、パントエア属細菌としてはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)が挙げられる。尚、近年、エンテロバクター・アグロメランスは、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)又はパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)に再分類されているものがある。本発明においては、腸内細菌科に分類されるものであれば、エンテロバクター属又はパントエア属のいずれに属するものであってもよい。
特に、パントエア属細菌、エルビニア属細菌、エンテロバクター属細菌は、γ-プロテオバクテリアに分類される細菌であり、分類学的に非常に近縁である(J Gen Appl Micro
biol 1997 Dec;43(6) 355-361, International Journal of Systematic Bacteriology, Oct. 1997,p1061-1067)。近年、DNA-DNAハイブリダイゼーション実験等により、エンテロバクター属に属する細菌には、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)又はパントエア・ディスパーサ(Pantoea dispersa)等に再分類されているものがある(International Journal of Systematic Bacteriology, July 1989;39(3).p.337-345)。また、エルビニア属に属する細菌にはパントエア・アナナス(Pantoea ananas)、パントエア・スチューアルティに再分類されているものがある(International Journal of Systematic Bacteriology, Jan 1993;43(1), p.162-173 参照)。
エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter
agglomerans)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等が挙げられる。具体的には、欧州特許出願公開952221号明細書に例示された菌株を使用することが出来る。エンテロバクター属の代表的な株として、エンテロバクター・アグロメランスATCC12287株が挙げられる。
パントエア属細菌の代表的な菌株として、パントエア・アナナティス、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)パントエア・アグロメランス、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。パントエア・アナナティスとして具体的には、パントエア・アナナティスAJ13355株、SC17株、及びSC17(0)株が挙げられる。SC17株は、静岡県磐田市の土壌から、低pHでL−グルタミン酸及び炭素源を含む培地で増殖できる株として分離された株AJ13355(FERM BP-6614)から、粘液質低生産変異株として選択された株である(米国特許第6,596,517号)。SC17(0)株は、パントエア・アナナティスにおいて遺伝子破壊を行うために、λ Red遺伝子産物に耐性な菌株として構築された株である(WO2008/075483)。SC17株は、平成21年2月4日に、産業技術総合研究所特許生物寄託センター(住所 郵便番号305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、受領番号FERM ABP-11091が付与されている。また、SC17(0)株は、2005年9月21にロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオーガニズム(Russian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM), GNII Genetika)(住所:Russia, 117545 Moscow, 1 Dorozhny proezd. 1)に受託番号VKPM B-9246のもとに寄託されている。
パントエア・アナナティスAJ13355株は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所特許生物寄託センター、住所 郵便番号305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、受託番号FERM P-16644として寄託され、平成11年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6614が付与されている。尚、同株は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)と同定され、エンテロバクター・アグロメランスAJ13355として寄託されたが、近年16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)に再分類されている。
エルビニア属細菌としては、エルビニア・アミロボーラ、エルビニア・カロトボーラが挙げられ、クレブシエラ属細菌としては、クレブシエラ・プランティコーラが挙げられる。
〔L−システイン生産能の付与又は増強〕
以下、腸内細菌科に属する細菌にL−システイン生産能を付与する方法、又はこれらの細菌のL−システイン生産能を増強する方法について述べる。
細菌にL−システイン生産能を付与するには、栄養要求性変異株、アナログ耐性株又は代謝制御変異株の取得や、L−システインの生合成系酵素の発現が増強された組換え株の
創製等、従来、コリネ型細菌又はエシェリヒア属細菌等の育種に採用されてきた方法を適用することができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77-100頁参照)。ここで、L−システイン生産菌の育種において、付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、単独でもよく、2種又は3種以上であってもよい。また、発現が増強されるL−システイン生合成系酵素も、単独であっても、2種又は3種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の増強が組み合わされてもよい。
L−システイン生産能を有する栄養要求性変異株、L−システインのアナログ耐性株、又は代謝制御変異株を取得するには、親株又は野生株を通常の変異処理、すなわちX線や紫外線の照射、またはN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の変異剤処理などによって処理し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、又は代謝制御変異を示し、かつL−アミノ酸生産能を有するものを選択することによって得ることができる。
細菌のL−システイン生産能は、L−システイン生合成経路の酵素、又はL−セリン等、同経路の基質となる化合物の生成に関与する酵素、例えば、3-フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼ、又はセリンアセチルトランスフェラーゼ等の活性を増強することにより、向上させることができる。3−フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼは、セリンによるフィードバック阻害を受けるが、このフィードバック阻害が低減又は解除された変異型3−フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼをコードする変異型serA遺伝子を細菌に保持させることによって、同酵素活性を増強することができる。
また、セリンアセチルトランスフェラーゼは、L−システインによるフィードバック阻害を受ける。したがって、このフィードバック阻害が低減又は解除されたセリンアセチルトランスフェラーゼをコードする変異型cysE遺伝子を細菌に保持させることによって、同酵素活性を増強することができる。
また、硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系の活性を増強することによっても、L−システイン生産能を向上させることができる。硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系タンパク質群は、cysPTWAM遺伝子クラスターによってコードされている(特開2005-137369号公報、EP1528108号明細書)。
また、細菌のL−システイン生産能は、yeaS遺伝子(欧州特許出願公開第1016710号明細書)の発現を上昇させることによっても、向上させることができる。yeaS遺伝子の塩基配列及び同遺伝子がコードするアミノ酸配列を、配列番号15及び16に示す。細菌では、ATG以外にもGTGなどの種々のコドンが開始コドンとして使用されていることが知られている(http://depts.washington.edu/agro/genomes/students/stanstart.htm)。配列番号15及び16において、最初のコドンgtgに相当するアミノ酸をValと表記しているが、実際はMetである可能性が高い。
具体的には、L−システイン生産菌としては、フィードバック阻害耐性のセリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)をコードする複数種のcysEアレルで形質転換されたE. coli
JM15(米国特許第6,218,168号)、細胞に毒性の物質を排出するのに適したタンパク質をコードする過剰発現遺伝子を有するE. coli W3110 (米国特許第5,972,663号)、システインデスルフヒドラーゼ活性が低下したE. coli株 (特開平11-155571号公報)、cysB遺伝子によりコードされるシステインレギュロンの正の転写制御因子の活性が上昇したE. coli W3110 (WO01/27307)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
E. coliでは、L−システインを排出する活性を有する公知のタンパク質として、前述のとおりydeDにコードされるタンパク質(特開2002-233384)、yfiKにコードされるタンパク質(特開2004-49237)、emrAB、emrKY、yojIH、acrEF、bcr、cusAの各遺伝子にコードされる各タンパク質(特開平2005-287333)が知られている。これらのL−システイン排出タンパク質の活性を上昇させてもよい。
以下、L−システイン生産能を付与する方法として、L−システイン生合成酵素活性を増強する方法について説明する。
L−システイン生合成酵素としては、例えば、セリンアセチルトランスフェラーゼ(SAT)が挙げられる。腸内細菌科に属する細菌における細胞内のSAT活性の増強は、SATをコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は、SATをコードする遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を改変することによって達成される。例えば、SATをコードする遺伝子断片を、腸内細菌科に属する細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを宿主腸内細菌科に属する細菌に導入して形質転換すればよい。
以下に、SAT遺伝子の発現を強化する方法について説明する。他のL−システイン生合成系酵素遺伝子、前記yeaS遺伝子及びシステイン排出活性を有するタンパク質の遺伝子についても、同様の方法を適用することができる。
SAT遺伝子の発現を増強するための改変は、例えば、遺伝子組み換え技術を利用して、細胞内のSAT遺伝子のコピー数を高めることによって行うことが出来る。例えば、SAT遺伝子を含むDNA断片を、宿主細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型ベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを細菌に導入して形質転換すればよい。
例えば、エシェリヒア・コリのSAT遺伝子は、配列番号9の塩基配列に基づいて作製したプライマーを用いて、エシェリヒア・コリの染色体DNAを鋳型とするPCR法によってSAT遺伝子を取得することができる。他の細菌のSAT遺伝子も、前記配列情報に基づいて作製したプローブを用いたハイブリダイゼーション法によって、細菌の染色体DNA又は染色体DNAライブラリーから取得することができる。
SAT遺伝子のコピー数を高めることは、SAT遺伝子を細菌の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。細菌の染色体DNAにSAT遺伝子を多コピー導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピート等が利用できる。あるいは、特開平2-109985号公報に開示されているように、SAT遺伝子をトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。
さらに、SAT遺伝子の発現の増強は、上記した遺伝子コピー数の増幅以外に、国際公開00/18935号パンフレットに記載されたようにして、染色体DNA上またはプラスミド上のSAT遺伝子のプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することや、SATの発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅するか、SATの発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成される。強力なプロモーターとしては例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター等が知られている。また、SAT遺伝子のプロモーター領域に塩基置換等を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換または改変によりSAT遺伝子の発現が強化される。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、GoldsteinとDoiの論文(Goldstein, M. A. and Doi R. H.1995. Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128)等に記載されている。なお、発現調節配列の改変は、SAT遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。またSAT蛋白質の生成を高めるためには、SAT遺伝子の翻訳開始点付近に変異を導入して翻訳効率を高めても良く、これとSAT遺伝子発現の増強と組み合わせてもよい。
SAT遺伝子の発現が上昇したこと、及びSATタンパク質の量が増加したことの確認は、後述の標的遺伝子の転写量の低下、及び標的タンパク質の量の低下の確認と同様に、mRNAの定量、及び抗体を用いたウェスタンブロットによって行うことができる。
SAT遺伝子は、エシェリヒア属細菌由来の遺伝子および他の生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。エシェリヒア・コリのSATをコードする遺伝子として、cysEが野生株及びL−システイン分泌変異株よりクローニングされ、塩基配列が明らかになっている(Denk, D. and Boeck, A., J. General Microbiol., 133, 515-525 (1987))。その塩基配列及び同塩基配列がコードするアミノ酸配列を、配列番号9及び10に示す。この塩基配列に基づいて作製したプライマーを用いて、エシェリヒア属細菌の染色体DNAを鋳型とするPCRによって、SAT遺伝子を取得することができる(特開平11-155571号参照)。他の生物のSATをコードする遺伝子も、同様にして取得され得る。このようにして得られるSAT遺伝子は、上記cysE遺伝子と同様にして発現増強を行うことができる。
なお、SAT遺伝子の発現に「L−システインによるフィードバック阻害」などの抑制機構が存在する場合には、該抑制機構に非感受性となるように、発現調節配列又は抑制に関与する遺伝子を改変することによっても、SAT遺伝子の発現を増強することができる。
例えば、L−システインによるフィードバック阻害が低減又は解除されたSAT(以下、「変異型SAT」ともいう)を腸内細菌科に属する細菌に保持させることによって、SAT活性を上昇させることができる。変異型SATとしては、野生型SAT(配列番号10)の256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基をリジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基に置換する変異、又は256位のメチオニン残基に相当するアミノ酸残基からC末端側の領域を欠失させる変異を有するSATが挙げられる。前記リジン残基及びロイシン残基以外のアミノ酸残基としては、通常のタンパク質を構成するアミノ酸のうち、メチオニン残基、リジン残基及びロイシン残基を除く17種類のアミノ酸残基が挙げられる。より好ましくはイソロイシン残基またはグルタミン酸残基が挙げられる。野生型SAT遺伝子に所望の変異を導入する方法としては、部位特異的変異が挙げられる。変異型SAT遺伝子としては、エシェリヒア・コリの変異型SATをコードする変異型cysEが知られている(WO 97/15673号国際公開パンフレット、特開平11-155571号参照)。256位のメチオニン残基をグルタミン酸残基に置換した変異型SATをコードする変異型cysEを含むプラスミドpCEM256Eを保持するエシェリヒア・コリJM39-8株(E. coli JM39-8(pCEM256E)、プライベートナンバー:AJ13391)は、平成9年11月20日より工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に、FERM P-16527の受託番号のもとで寄託され、2002年7月8日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-8112が付与されている。
本発明において、「L−システインによるフィードバック阻害に非感受性」とは、上記のようにL−システインによるフィードバック阻害に非感受性になるように改変されるものであってもよいが、元来フィードバック阻害を受けないものであってもよい。シロイヌナズナのSATは、L−システインによるフィードバック阻害を受けないことが知られており、本発明に好適に用いることができる。シロイヌナズナ由来のSAT遺伝子含有プラスミドとして、pEAS-m(FEMS Microbiol. Lett., 179 (1999) 453-459)が知られている。
また、硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系タンパク質群をコードするcysPTWAクラスター遺伝子の発現を増強することによっても、L−システイン生産能を向上させることができる(特開2005-137369号公報、EP1528108号明細書)。
また、硫化物は、cysKおよびcysM遺伝子それぞれによりコードされるO−アセチルセリン(チオール)−リアーゼ−AまたはBにより触媒される反応を介してO−アセチル−L−セリンに取り込まれ、L−システインが産生する。したがって、これらの酵素をコードする遺伝子の発現を増強することによっても、L-システイン生産能を上昇させることができる。
また、L−システイン分解系を抑制することによって、L−システイン生産能を向上させることができる。L−システイン分解系を抑制するとは、細胞内のL−システイン分解活性が、野生株又は親株等の非改変株に対して低下していることを意味する。L−システイン分解系を担うタンパク質としては、シスタチオニン−β−リアーゼ(metC産物、特開平11-155571号、Chandra et. al., Biochemistry, 21 (1982) 3064-3069))、トリプトファナーゼ(tnaA産物、特開2003-169668、(Austin Newton et. al., J. Biol. Chem. 240 (1965) 1211-1218))、O−アセチルセリン スルフヒドリラーゼB(cysM遺伝子産物、特開2005-245311)、及び、malY遺伝子産物(特開2005-245311)が知られている。これらのタンパク質の活性を低下させることにより、L−システイン生産能が向上する。
タンパク質の活性を低下させるような改変は、後述するfliY又はydjN遺伝子について記載した方法と同様にして行うことができる。
エシェリヒア・コリのcysM遺伝子の塩基配列及び同遺伝子がコードするアミノ酸配列を、各々配列番号25及び26に示す。
〔YdjNタンパク質及びFliYタンパク質の活性低下〕
本発明の細菌は、上述したようなL−システイン生産能を有する腸内細菌科に属する細菌であって、YdjNタンパク質、又はYdjNタンパク質及びFliYタンパク質の活性が低下するように改変することによって得ることができる。尚、YdjNタンパク質、又はYdjNタンパク質及びFliYタンパク質の活性が低下するように改変を行った後に、L−システイン生産能を付与してもよい。YdjNタンパク質及びFliYタンパク質は、それぞれyjdN遺伝子及びfliY遺伝子によりコードされるタンパク質である。YdjNタンパク質及びFliYタンパク質の活性を低下させるには、例えば、fliY遺伝子、及びydjN遺伝子を持つ細菌を、これらの遺伝子によりコードされるFliY及びYdjNの活性が低下するように改変することによって得ることができる。尚、L−システイン生産能を高めるために、活性を低下させるのは、FliY又はYdjNのいずれか一方でもよいが、YdjNが好ましく、両方の活性を低下させることがより好ましい。
本発明において、活性の「低下」とは、特記しない限り、改変株における活性が野生株もしくは非改変株に比べて低いこと、及び、活性を完全に消失していることの両方を含む。
本発明者は、パントエア・アナナティスの染色体DNAから、欠損させることによりL−システイン生産能が高まるタンパク質をコードする新規な遺伝子を見出し、それぞれがE. coliのfliY、ydjNと高い相同性を示すことから(各々78%、80%)、それぞれfliY、ydjNと命名した。尚、本明細書において、「相同性」(homology)」は、「同一性」(identity)を指すことがある。
本発明においては、E. coliのfliY, ydjN遺伝子に加えて、パントエア・アナナティスのfliY, ydjN遺伝子、および他の細菌が持つそれらの遺伝子のホモログ遺伝子を、それぞれfliY, ydjN遺伝子と呼ぶことがある。
fliY遺伝子として具体的には、配列番号5、7に示す塩基配列を含む遺伝子を挙げることが出来る。また、ydjN遺伝子として具体的には、配列番号1、3に示す塩基配列を含む遺伝子を挙げることが出来る。
配列番号5には、エシェリヒア・コリMG1655株のfliY遺伝子を示し、配列番号6には、同遺伝子がコードするアミノ酸配列を示す。また、配列番号7には、パントエア・アナナティスSC17株のfliY遺伝子を示し、配列番号8には、同遺伝子がコードするアミノ酸配列を示す。
配列番号1には、エシェリヒア・コリMG1655株のydjN遺伝子の塩基配列を示し、配列番号2には、同遺伝子がコードするアミノ酸配列を示す。また、配列番号3には、パントエア・アナナティスSC17株のydjN遺伝子の塩基配列を、配列番号4には、同遺伝子がコードするアミノ酸配列を示す。
FliYタンパク質及びYdjNタンパク質は、上述したアミノ酸配列を有するタンパク質及びそれらのホモログに限られず、それらのバリアントであってもよい。fliY又はydjN遺伝子は、FliYタンパク質又はYdjNタンパク質のバリアントをコードする遺伝子であってもよい。FliYタンパク質及びYdjNタンパク質のバリアントとは、配列番号2、4、6又は8のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、FliYタンパク質又はYdjNタンパク質の機能を有するタンパク質を意味する。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個を意味する。
ydjN遺伝子欠損株は、後述の実施例で示されるように、S-スルフォシステイン及びL−シスチンの取り込みが低下する。したがって、YdjNタンパク質は、S-スルフォシステイン及びL−シスチンの取り込みに関与する機能を有していると推定される。
一方、FliYは、L−シスチンの取り込みに関与している可能性を指摘する文献があるが(Butler et al., Life Sci. 52. 1209-1215 (1993)、Hosie et al., Res. Microbiol. 152. 259-270 (2001))、実施例に示すように、L−シスチンの取り込みに関与していないか、関与していたとしても、YdjNに比べて活性は低いと推定される。いずれにしても、ydjN遺伝子とfliY遺伝子の両方を欠損させると、各々の遺伝子を単独で欠損させた場合に比べて、L−システイン生産能は顕著に上昇する。したがって、FliYの機能は不明確であるが、欠損させたときにL−システイン生産能が向上するという特性により特徴付けられる。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する細菌の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
さらに、上記のような保存的変異を有する遺伝子は、コードされるアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。このようなFliY, YdjNに対して相同性を有すタンパク質をコードする遺伝子は、上記のエシェリヒア・コリ株の野生型fliY, ydjN遺伝子を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に配列情報を取得することが出来、この公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて取得することができる。
また、fliY, YdjN遺伝子は、コードされるタンパク質の機能が損われない限り、上記塩基配列に相補的な配列、又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。本発明において、ストリンジェントな条件下とは、例えば60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは0.1×SSC、0.1% SDS、に相当する塩濃度で、1回好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。
上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
以下、FliY又はYdjNタンパク質の活性を低下させる方法について説明する。前記L−システイン分解系を担うタンパク質等も、同様の方法により活性を低下させることができる。以下、活性を低下させる対象のタンパク質を「標的タンパク質」、標的タンパク質をコードする遺伝子を「標的遺伝子」と記載する。
標的タンパク質の活性を低下させるような改変は、例えば、標的遺伝子の発現を低下させることによって達成される。具体的には例えば、染色体上の標的遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることによって、前記タンパク質の細胞内の活性を低下させることができる。また、標的タンパク質の活性の低下は、標的遺伝子のプロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによっても、発現を低下させることができる。また、発現調節配列以外の非翻訳領域の改変によっても、遺伝子の発現量を低下させることができる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。また、染色体上の標的遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、また終始コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは一〜二塩基付加・欠失するフレームシフト変異を導入することによっても達成出来る(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997) Proceedings of the National Academy of Sciences,USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 266, 20833-20839(1991))。また、標的タンパク質を負に調節するレギュレーターの活性を強化すること、あるいは正に調節するレギュレーターの活性を抑制することでも標的タンパク質の活性を低下させることができる。標的タンパク質の活性や発現を負に調節する物質の添加や、正に調節する物質を除去することによっても標的タンパク質の活性を低下させることができる。
また、標的タンパク質の活性が低下するような改変であれば、X線もしくは紫外線を照射、またはN-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン等の変異剤による通常の変異処理による改変であってもよい。
発現調節配列の改変は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上である。また、コード領域を欠失させる場合は、標的タンパク質の機能が低下するのであれば、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域のいずれの領域であってもよく、コード領域全体であってよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の上流と下流のリーディングフレームは一致しないことが好ましい。
標的遺伝子のコード領域に他の配列を挿入する場合も、遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が、確実に遺伝子を不活化することができる。挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされる標的タンパク質の機能を低下させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子やL−システイン生産に有用な遺伝子を搭載したトランスポゾン等が挙げられる。
染色体上の標的遺伝子を上記のように改変するには、例えば、遺伝子の部分配列を欠失し、正常に機能する標的タンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAで細菌を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。欠失型遺伝子によってコードされる標的タンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミド、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で複製起点を持たないスイサイドベクターを利用する方法などがある(米国特許第6303383号、または特開平05-007491号)。
標的遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株、あるいは非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001))。
標的タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold
spring Harbor (USA), 2001))。
さらに、標的タンパク質がYdjNタンパク質の場合は、同タンパク質の量が低下したことの確認は、細胞のS-スルフォシステイン又はL−シスチン取り込み活性を測定することによっても行うことができる。
タンパク質が上記化合物の取り込み活性を有するかどうかは、野生株または親株においてそのタンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇した細菌を作製し、これを培地で培養し、培地中に蓄積するL−システイン、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物の量を定量することで確認することができる。または、野生株または親株からそのタンパク質をコードする遺伝子の発現が低下または欠損した細菌を作製し、これをS-スルフォシステイン又はL−シスチンを含む培地で培養したときに、培地中に添加したこれらの化合物の減少量が少なくなることで確認することもできる。具体例を実施例に示した。
fliY又はydjN遺伝子としてエシェリヒア・コリのfliY又はydjN遺伝子を用いる場合、配列番号5又は1の塩基配列に基づいて作製したプライマーを用いて、エシェリヒア・コリの染色体DNAを鋳型とするPCR法によってfliY又はydjN遺伝子を取得することができる。同様に、パントエア・アナナティスのfliY又はydjN遺伝子は、配列番号7又は3の塩基配列に基づいて作製したプライマーを用いて、パントエア・アナナティスの染色体DNAを鋳型とするPCR法によって、取得することができる。他の細菌のfliY又はydjN遺伝子も、前記配列情報に基づいて作製したプローブ又はプライマーを用いたハイブリダイゼーション法又はPCR法によって、細菌の染色体DNA又は染色体DNAライブラリーから取得することができる。
一方、FliY又はYdjNタンパク質にS-スルフォシステイン、L−シスチン、又はL−システイン取り込み活性があるかどうかを確認するために、fliY又はydjN遺伝子の発現量を高める必要がある場合には、それらの遺伝子を細菌に多コピーで導入すればよい。細菌にfliY, ydjN遺伝子を多コピー導入するには、SAT遺伝子について記載したように、マルチコピー型ベクターを用いる方法、又は、相同組換えにより染色体DNA上に多コピー導入する方法等を適用することできる。
<本発明のL−システイン、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物の製造法>
上記のようにして得られる本発明の細菌を培地中で培養し、該培地からL−システイン、L−シスチン、そられの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物を採取することにより、これらの化合物を製造することができる。L−システインの誘導体としては、前記したようなS-スルフォシステイン、チアゾリジン誘導体、同チアゾリジン誘導体に相当するヘミチオケタール等が挙げられる。
使用する培地としては、炭素源、窒素源、イオウ源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地が挙げられる。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュクロース、糖蜜やでんぷんの加水分解物などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
イオウ源としては、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物、次亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の無機硫黄化合物が挙げられる、
有機微量栄養源としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じてリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
培養は好気的条件下で30〜90時間実施するのがよく、培養温度は25℃〜37℃に、培養中pHは5〜8に制御することが好ましい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。培養物からのL−システインの採取は通常のイオン交換樹脂法、沈澱法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
上記のようにして得られるL−システインは、L−システイン誘導体の製造に用いることができる。L−システイン誘導体としては、メチルシステイン、エチルシステイン、カルボシステイン、スルフォシステイン、アセチルシステイン等が含まれる。
また、L−システインのチアゾリジン誘導体が培地に蓄積した場合は、培地からチアゾリジン誘導体を採取し、チアゾリジン誘導体とL−システインとの間の反応平衡をL−システイン側に移動させることによって、L−システインを製造することができる。また、培地にS-スルフォシステインが蓄積した場合、例えばジチオスライトール等の還元剤を用いて還元することによってL−システインに変換することができる。
本発明において採取されるL−システイン又はその誘導体等は、目的とする化合物以外に微生物菌体、培地成分、水分、及び微生物の代謝副産物を含んでいてもよい。採取された目的化合物の純度は、50%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは95%以上である
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
以下の記載において、システイン及びシスチンは、L−体である。
〔実施例1〕システイン又はシスチンの取り込み活性を有するタンパク質の同定
(1)S-スルフォシステインを単一システイン源として利用できない変異株の取得
(1-1)E. coli MG1655株(ATCC No. 47076)からのcysE遺伝子欠損株の取得
cysE遺伝子の欠損は、DatsenkoとWannerらによって開発された「Red-driven integration」と呼ばれる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol. 97, No. 12, p6640-6645)とラムダファージ由来の切り出しシステム(J. Bacteriol. 2000 184. 5200-5203 (2002))によって行った。Red-driven integrationによれば、目的とする遺伝子の一部を合成オリゴヌクレオチドの5'側に、抗生物質耐性遺伝子の一部を3'側に、それぞれデザインした合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて得られたPCR産物を用いて、一段階で遺伝子破壊株を構築することができる。さらにラムダファージ由来の切り出しシステムを組み合わせることにより、遺伝子破壊株に組み込んだ抗生物質耐性遺伝子を除去することができる。このRed-driven integrationとラムダファージ由来の切り出しシステムによってE. coliの遺伝子を欠損させる方法が特開2005-058227AやWO2007/119880A1等に詳細に記述されている。cysE遺伝子の欠損株の取得も、これらの方法と同じ方法で行った。
cysE遺伝子の両端の相同配列に抗生物質耐性遺伝子(カナマイシン耐性遺伝子(Kmr))が挟まったDNA断片を、PCRによって取得した。プライマーとしてDcysE(Ec)-F(ccggcccgcg cagaacgggc cggtcattat ctcatcgtgt ggagtaagca tgaagcctgc ttttttatac taagttggca:配列番号50)、DcysE(Ec)-R(actgtaggcc ggatagatga ttacatcgca tccggcacga tcacaggaca cgctcaagtt agtataaaaa agctgaacga:配列番号51)を使用し、鋳型としてpMW118-(λattL-Kmr-λattR)(WO2006/093322A2)を使用した以外、具体的な実験方法と実験材料については、全て特開2005-058227A1の記載された方法にしたがって行った。取得した欠損株をMG1655ΔcysEと命名した。
(1-2)MG1655ΔcysE株からのトランスポゾン変異株のライブラリー作製
EZ-Tn5<KAN-2>Tnp Transposome kit (EPICENTRE社)を用いて、MG1655ΔcysE株からTn5がランダムに挿入された変異株のライブラリーを作製した。具体的な実験方法については、製品に添付されたインストラクションにしたがって行った。
(1-3)変異株ライブラリーからのS-スルフォシステインを単一システイン源として利用できない変異株のスクリーニング
上記ライブラリーより、S-スルフォシステインを単一システイン源として利用できない変異株のスクリーニングを行った。ここで「システイン源」とは、細胞内に取り込まれてシステインの生成に利用される基質をいう。細胞内でシステインを合成できない場合は、システイン自体もシステイン源に含まれる。20μM システインを含むM9寒天培地(Sambrook and Russell, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Third Edition), Cold Spring Harbor Laboratory Press)と20μM S-スルフォシステイン(cat#C2196, SIGMA)を含むM9寒天培地それぞれに変異株を爪楊枝でスポットし、システイン含有培地で生育できるがS-スルフォシステイン含有培地で生育できない変異株をスクリーニングした。約1000株から、目的の変異株が1株取得された。挿入されたTn5のゲノム領域を特定したところ、ydjN遺伝子内にTn5が挿入していることがわかった。
(1-4)ydjN遺伝子欠損株のS-スルフォシステイン同化能の解析
Tn5の挿入による変異株の表現型がydjN遺伝子の機能欠損のためであるかを明らかとするため、MG1655ΔcysE株からydjN遺伝子の欠損株を先述のRed-driven integrationによって構築した。このときプライマーDydjN(Ec)-F(cactatgact gctacgcagt gatagaaata ataagatcag gagaacgggg tgaagcctgc ttttttatac taagttggca:配列番号52)、DydjN(Ec)-R(aaagtaaggc aacggcccct atacaaaacg gaccgttgcc agcataagaa cgctcaagtt agtataaaaa agctgaacga:配列番号53)を使用した。構築された欠損株をMG1655ΔcysEΔydjN::Km株とした。MG1655からも同様の方法でMG1655ΔydjN::Km株を取得した。
50μM システイン、50μM シスチン、又は50μM S-スルフォシステインを含むM9寒天培地(ただし、ここでは培地成分のMgSO4の代わりに等濃度のMgCl2を使用した)での生育を表1に示す。
Figure 0005359409
ここではM9寒天培地にイオウ源は添加されていない(M9 w/o sulfur)が、微量混在するイオウ化合物により、cysE非破壊株は生育が可能である(MG1655株、MG1655ΔydjN::Km株など)。そのため、システイン源としてのS-スルフォシステインの利用が可能か否かを調べるためには、cysE欠損のバックグラウンドが必要である。すなわち、MG1655ΔcysEではシステイン源がない場合(w/o sulfur)では生育せず、システイン、シスチンやS-スルフォシステインが存在する場合にはこれらをシステイン源として生育が可能である。ydjN欠損株ではシステインやシスチンをシステイン源としての生育が可能であるが、S-スルフォシステインをシステイン源としての生育は不可能であることがわかった(表1;MG1655ΔcysEΔydjN::Km株)。このことから、ydjNはS-スルフォシステインの同化に必須の遺伝子であることがわかった。一方で、ydjNを欠損してもシステインやシスチンの同化は可能であった。
(2)ydjN、fliYの機能解析
(2-1)E.coli MG1655株およびP. ananatis SC17株からのydjN遺伝子のクローニング
E. coli MG1655株及びPantoea ananatis SC17株(米国特許6596517)よりydjN遺伝子をクローニングする際には、pMIV-Pnlp8及びpMIV-Pnlp0をベースとした発現ベクターを利用した。これらの発現ベクターには強力なnlp8プロモーター(もしくはnlp0プロモーター)とrrnBターミネーターが組み込まれており、プロモーターとターミネーターの間に目的の遺伝子を挿入することで発現ユニットとして機能させることができる。「Pnlp0」は野生型nlpD遺伝子のプロモーターを、「Pnlp8」はnlpD遺伝子の変異型プロモーターを示す。これらの発現ベクターの構築の詳細は、実施例3に、pMIV-Pnlp8-YeaS7及びpMIV-Pnlp0-YeaS3の構築として記載されている。pMIV-Pnlp8-yeaS7及びpMIV-Pnlp0-yeaS3は、yeaS遺伝子がSalIとXbaI部位を介してnlp8又はnlp0プロモーターとrrnBターミネーターの間にクローニングされているが、ydjN遺伝子もあらかじめプライマーにSalIとXbaIをデザインしておくことで、yeaSと同様に同ベクターに挿入することができる。つまり、構築される発現プラスミドは、後述のpMIV-Pnlp8-yeaS7及びpMIV-Pnlp0-yeaS3において、yeaS遺伝子がydjN遺伝子に置き換わった構造の発現プラスミドに相当する。
E. coliのydjN遺伝子の増幅は、MG1655株ゲノムDNAをテンプレートとして、ydjN(Ec)-SalIFW2(acgcgtcgac atgaactttc cattaattgc gaacatcgtg gtg:配列番号54)、ydjN(Ec)-xbaIRV2(ctagtctaga ttaatggtgt gccagttcgg cgtcg:配列番号55)をプライマーとして用い、PCRサイクル(94℃ 5分の後、98℃ 5秒、55℃ 5秒、72℃ 90秒を30サイクル、最後に4℃保温)で行った。P. ananatisの場合は、SC17株ゲノムDNAをテンプレートとして、ydjN2(Pa)-SalIFW(acgcgtcgac atggatattc ctcttacgc:配列番号56)、ydjN2(Pa)-xbaIRV(tgctctagat tagctgtgct ctaattcac:配列番号57)をプライマーとして用い、PCRサイクル(94℃ 5分の後、98℃ 5秒、55℃ 5秒、72℃ 2分を30サイクル、最後に4℃保温)で行った。いずれのプライマーも、両端にSalIとXbaIサイトがそれぞれデザインされている。各増幅断片はpMIV-Pnlp0ベクターに組み込まれ、構築されたプラスミドは、それぞれ遺伝子の由来(E. coli(Ec)かP. ananatis(Pa))に応じて次のように命名した;pMIV-Pnlp0-ydjN(Ec)、pMIV-Pnlp0-ydjN(Pa)。また、これらに対応する空のベクター(対照用)としてpMIV-5JS(特開2008-99668)を使用した。
(2-2)ydjNの機能解析
ydjNを欠損した場合にS-スルフォシステインを単一システイン源とした生育ができなかったことから、ydjN遺伝子がS-スルフォシステインのトランスポーター(取り込み因子)をコードしている可能性が考えられた。そこで、MG1655株からのydjN欠損株(先述のMG1655ΔydjN::Km株)とydjN強化株(pMIV-Pnlp0-ydjN(Ec)で形質転換されたMG1655株)において、S-スルフォシステインの取り込み能力に関して何らかの違いが現れるか調べた。また、S-スルフォシステインと類似の関連化合物としてシスチンとシステインについても同様の検討を行った。
S-スルフォシステインの取り込み実験は次の通りである。まず、MG1655ΔydjN::Km株及びその対照株としてMG1655株、並びに、MG1655/pMIV-Pnlp0-ydjN(Ec)株及びその対照株MG1655/pMIV-5JS株を、LB液体培地で一晩培養した(3ml試験管、37℃、振とう培養)。培養液から菌体を回収し、0.4%グルコースを含むM9最少培地で2回洗浄した後、元の培養液の2倍の菌体濃度となるように0.4%グルコースを含むM9最少培地に懸濁した。こうして調製した各菌体を、4mlの0.4%グルコースを含むM9最少培地に40μl接種し、自動OD測定培養装置BIO-PHOTORECORDER TN-1506(ADVANTEC社)を用いて37℃にて振盪培養を行った。
ODが0.3前後になったところで(約5時間の培養)、100mMのS-スルフォシステインを20μl添加(最終濃度0.5mM)し、添加時点を0時間としてその後2時間までタイムコースのサンプリング(培養液0.2mlを取り0.8mlの1規定塩酸と混合)を行った。各タイムポイントのサンプルは、アミノ酸分析(日立製アミノ酸アナライザーL-8900)にかけ、同様に1規定塩酸で調製した0.4mMの標準サンプルとの比較から培地中のS-スルフォシステインの濃度を定量した。なお全ての培養において、プラスミド保持株には25mg/Lクロラムフェニコールを添加した。
図1に、各株の培養液中のS-スルフォシステイン濃度の変化を示した。図中、MG1655/pMIV-Pnlp0-ydjN(Ec)株はMG1655/ydjN(Ec)-plasmidと、MG1655/pMIV-5JS株はMG1655/vectorと、MG1655ΔydjN::Km株はMG1655 delta-ydjNと、各々略記してある。野生株では徐々に培地中のS-スルフォシステイン濃度が減少して行くが、ydjN欠損株ではS-スルフォシステインが全く減少しなくなり、また、ydjN強化株では対照株に対してS-スルフォシステインの減少が加速することがわかった。また、膜タンパク質予想プログラムSOSUI(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui/)での解析結果では、YdjNには10個の膜貫通領域が見出されたことから、膜タンパク質と予想された。以上から、ydjNがS-スルフォシステインのトランスポーター(取り込み因子)をコードしている可能性が強く示唆された。また、ydjN欠損によりS-スルフォシステインの同化ができなくなることから(表1)、ydjNがE. coliにおける唯一のS-スルフォシステイントランスポーターであると考えられる。
また、S-スルフォシステインの代わりに、基質としてシスチン又はシステインを添加し、同様の実験系にてYdjNによるシスチンやシステインの取り込みについても検討を行った。結果を図2、3に示す。図中、菌株名は図1と同様である。
図2に示すように、シスチンを基質にした場合にも、S-スルフォシステインと同様の結果が得られ、YdjNはシスチンの取り込み活性を持っていることが示唆された。ydjN欠損株ではシスチンの取り込みが大幅に低下し、残存するシスチン取り込み活性がごく僅かになることから、E. coli MG1655株における中心的なシスチンのトランスポーターであると考えられる。ただし、ydjN欠損株においてもシスチンをシステイン源として生育が可能であることから(表1)、少なくともydjN以外にも活性を持つシスチンのトランスポーターが存在すると考えられた。一方、図3に示すようにシステインを基質にした場合にはydjNを強化した場合にも取り込みが促進されなかったことから、システインの取り込みには関与していない可能性が考えられた。
また、P. ananatis由来のydjNを発現するプラスミドpMIV-Pnlp0-ydjN(Pa)をE. coliとP. ananatisに導入してydjNを強化した場合のS-スルフォシステインの取込みを検討した。結果を図4に示す。図中、pMIV-Pnlp0-ydjN(Pa)をydjN(Pa)-plasmid、pMIV-5JSをvectorと略記してある。
P. ananatisのYdjNも、E. coli由来のYdjNと同様にS-スルフォシステイン取り込み活性を有することが確認された。また、P. ananatisのYdjNと E. coliのYdjNのアミノ酸配列は、80%の相同性がある。
(2-3)fliYの機能解析
次に、fliYがシスチンやシステインの取り込みに関与しているかどうかを検討するため、まず同遺伝子の欠損株と強化株の構築を行った。
fliY遺伝子の欠失は、上述のRed-driven integrationとラムダファージ由来の切り出しシステムによって行った。プライマーとしてDfliY(Ec)-FW(atgaaattag cacatctggg acgtcaggca ttgatgggtg tgatggccgt tgaagcctgc ttttttatac taagttggca;配列番号58)、及びDfliY(Ec)-RV(ttatttggtc acatcagcac caaaccattt ttcggaaagg gcttgcagag cgctcaagtt agtataaaa agctgaacga;配列番号59)を、鋳型としてpMW118-(λattL-CmR-λattR)(Katashkina ZhI et al. Mol Biol (Mosk). 39(5):823-31. 2005)を使用した。MG1655株からMG1655ΔfliY株を取得し、前記MG1655ΔydjN::Km株からMG1655ΔydjN::KmΔfliY::Cm株を取得した。
一方、fliY遺伝子をプラスミドを用いて強化するため、pMIV-Pnlp0-fliY(Ec)を構築した。構築方法は、先述のydjN遺伝子をpMIV-Pnlp0にクローニングした方法と同じであるが、ここではfliY遺伝子増幅のため、プライマーとしてfliY(Ec)SalI-F(acgcgtcgac atgaaattag cacatctggg acg;配列番号60)、fliY(Ec)XbaI-R(ctagtctaga ttatttggtc acatcagcac c;配列番号61)を用いた。
まず、fliY欠損によるシスチン取り込みに及ぼす効果を調べるため、MG1655株、MG1655ΔydjN::Km株、MG1655ΔfliY株、MG1655ΔydjN::KmΔfliY::Cm株の4株を用いて、シスチンを基質とする取り込み実験を行った。結果を図5に示す。図中、「WT」はMG1655株を、「delta-ydjN」はMG1655ΔydjN::Km株を、「delta fliY」はMG1655ΔfliY株を、「delta-ydjN,fliY」は、MG1655ΔydjN::KmΔfliY::Cmを示す。その結果、fliY遺伝子を単独で欠損した株であるMG1655ΔfliY株ではMG1655株に対してシスチンに取り込み速度は変わらなかった(図5)。また、fliY、ydjN遺伝子の2重欠損株である、MG1655ΔydjNΔfliY株では、ydjN単独欠損株であるMG1655ΔydjN株と比較してシスチンの取り込み速度が低下しているように観察されたが、差が非常に僅かであるためfliY欠損による優位な差であるかは不明である(図5)。
さらにE.coli MG1655株におけるfliYを強化株についても、シスチンの取り込みを調べた。結果を図6に示す。図中、「fliY(Ec)-plasmid」はpMIV-Pnlp0-fliY(Ec)を、「vector」はpMIV-5JSを示す。fliYを強化した場合にもシスチンの取り込みの優位な差は見られなかった(図6)。
fliYがシスチンの取り込みに関与している可能性を示唆する文献があるが(Butler et al., Life Sci. 52. 1209-1215 (1993)など)、直接実験的に証明した知見はなかった。実際に、本実験でもFliYがシスチン取り込みに関与していることを示す結果は得られなかった。そして、本実験の結果からは、仮にfliYがシスチンの取り込みに関与していたとしても、ydjNのような活性の高いトランスポーターではないと予測された。なお、ydjNとfliYの2重欠損においてもシスチンを唯一のシステイン源とする生育が可能であったことから、この2種以外にもシスチンのトランスポーターが存在するものと考えられる。また、fliY欠損株のシステインの取り込み活性も検討したが、やはり非欠損株と比較してydjNにおいて見られたような優位な差は認められず、FliYがシステインの取り込みには関与していないと考えられた(図7)。一方、培地中のシステインは徐々に減少することから(図7)、細胞内にシステインが取り込まれていることが予想され、E. coliにおいては何らかのシステイントランスポーター(取り込み系)が存在するものと想像される。
〔実施例2〕ydjN及び/又はfliYを欠損したE. coliによるシステイン生産
(1)E. coliシステイン生産菌の構築
ydjN及び/又はfliYを欠損したE. coliにシステイン生産能を付与するため、L−システインによるフィードバック阻害が低減された変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードする変異型cysE(US20050112731(A1))を含むプラスミドを構築した。具体的には、まず、特開2005-137369(US20050124049(A1)、EP1528108(A1))に記載のpACYC-DESの構築方法のうち、セリンによるフィードバック阻害を受けないフォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼをコードする変異型serA5遺伝子(米国特許第6,180,373号に記載)を搭載するステップを省略することでpACYC-DE1プラスミドを構築した。pACYC-DESは、上記変異型serA5、フィードバック阻害された変異型SATをコードする遺伝子cysEX遺伝子、および、システイン、アセチルセリン排出因子をコードするydeD遺伝子(US5972663A)が搭載されているのに対し、pACYC-DE1は、上記serA5を含まず、cysEXおよびydeDが搭載されている。各遺伝子の発現にはいずれもompAプロモーターが使用されている。
次に、pACYC-DE1をMnuIで消化し、セルフライゲーションすることで、ydeD遺伝子ORFの内側約330bpを欠損させたプラスミドを構築した。こうして得られた、システイン排出因子として機能するYdeDを発現せず、cysEXのみを搭載するプラスミドをpACYC-E1とし、以下の実験に使用した。このpACYC-E1でE.coli MG1655、MG1655ΔfliY、MG1655ΔfliY::Km、MG1655ΔydjN::Km、MG1655ΔfliYΔydjN::Kmの5株を形質転換し、それぞれの菌株にシステイン生産能を付与した。
(2)E. coliにおけるydjN欠損、fliY欠損がシステイン生産に及ぼす効果の検討
ydjN、fliY遺伝子欠損がシステイン及びシステイン関連化合物の発酵生産に及ぼす効果を調べるため、MG1655とそこから誘導されたydjNとfliYの各欠損株及び2重欠損株にpACYC-E1を導入したシステイン生産菌の発酵生産培養を行い、システイン及びシステイン関連化合物の生産量を比較した。培養には下記組成のE. coliシステイン生産培地を使用した。
成分1:
〔E. coliシステイン生産培地〕(各成分の濃度は最終濃度)
成分1:
(NH4)2SO4 15g/L
KH2PO4 1.5g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
トリプトン 10g/L
イーストエクストラクト 5g/L
NaCl 10g/L
L−ヒスチジン塩酸塩一水和物 135mg/L
L−メチオニン 300mg/L
成分2:
グルコース 40g/L
成分3:
チオ硫酸ナトリウム 7g/L
成分4:
ピリドキシン塩酸塩 2mg/L
成分5:
炭酸カルシウム 20g/L
各成分について、各々100/47.5倍(成分1)、100/47.5倍(成分2)、50倍(成分3)、1000倍(成分4)のストック溶液を作製しておき、使用時に混合し滅菌水で規定の量までメスアップして最終濃度となるように調製した。殺菌は、110℃、30分のオートクレーブ(成分1、2)、180℃、5時間以上の乾熱滅菌(成分5)、フィルター滅菌(成分3、4)により行った。
システイン生産培養は以下の手順で行った。各生産菌をLB寒天培地に塗り広げ、37℃で一晩前培養を行った後、10マイクロリッターサイズの植菌用ループ(NUNC社ブルーループ)でプレート上約7cm分の菌体を2回掻き取り、大試験管(内径23mm、長さ20cm)に2ml張りこんだ上記E. coliシステイン生産培地中に植菌し、培養開始時点での菌体量がほぼ同じになるよう調製した。32℃にて振盪培養を行い、40時間後に培養を終了した。培地中に生産されたシステインの定量はGaitonde, M.K.(Biochem J. 1967 Aug;104(2):627-33.)に記載の方法で行った。なお、ここで定量されるシステインは、システインに加えて、シスチン、又はそれらの誘導体、例えばS−スルフォシステイン、チアゾリジン誘導体、もしくはヘミチオケタール、又はこれらの混合物を含み、以下特に記載しない限り本方法で定量されるシステインについても同様である。こうして定量されるシステイン及び他の化合物を、L−システイン関連化合物と記載することがある。各株とも6連で実験を行い、そのときの各平均値と標準偏差を表2に示した。
Figure 0005359409
表2に示したとおり、fliY欠損、ydjN欠損はいずれもシステイン関連化合物の蓄積を増加させる効果があることがわかった。またfliY、ydjNの2重欠損はそれぞれの単独欠損に比べ格段にシステイン関連化合物を増加させる相乗効果があることがわかった。
〔実施例3〕ydjN及び/又はfliYを欠損したP. ananatisによるシステイン生産
(1) P. ananatisのシステイン生産菌EYPS1976(s)株の作製
P. ananatisのシステイン生産菌は、変異型セリンアセチルトランスフェラーゼをコードするcysE5(米国特許出願公開第20050112731号)、及び変異型3−フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼをコードするserA348(J. Biol. Chem., 1996, 271(38):23235-8)を導入し、種々のアミノ酸の排出因子をコードするyeaS(JP2000189180(A)、及び硫黄源の取り込み因子をコードするcysPTWAクラスターを強化することによって、構築した。以下、構築方法の詳細を記載する。
(1-1)P. ananatis SC17株へのCysE5、YeaSの導入
まず、上記菌株を構築するためのプラスミドを構築した。その方法を以下に示す。
E. coli MG1655(ATCC No. 47076)の染色体DNAをテンプレートとして、P1(agctgagtcg acccccagga aaaattggtt aataac:配列番号30)、及びP2(agctgagcat gcttccaact gcgctaatga cgc:配列番号31)をプライマーとして用いたPCRによってnlpD遺伝子のプロモーター領域(Pnlp0)約300bpを含むDNA断片を取得した。これらのプライマーの5’末端、3’末端には制限酵素SalI及びPaeIのサイトがそれぞれデザインされている。PCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、55℃ 20秒、72℃ 15秒を25サイクル、最後に72℃ 5分。得られた断片をSalI及びPaeIで処理し、pMIV-5JS(特開2008-99668)のSalI−PaeIサイトに挿入しプラスミドpMIV-Pnlp0を取得した。このpMIV-Pnlp0プラスミドに挿入されたPnlp0プロモーターのPaeI-SalI断片の塩基配列は配列番号27に示したとおりである。
次にMG1655の染色体DNAをテンプレートとして、P3(agctgatcta gaaaacagaa tttgcctggc ggc:配列番号32)、及びP4(agctgaggat ccaggaagag tttgtagaaa cgc:配列番号33)をプライマーとして用いたPCRによってrrnB遺伝子のターミネーター領域約300bpを含むDNA断片を取得した。これらプライマーの5’末端には制限酵素XbaI及びBamHIのサイトがそれぞれデザインされている。PCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、59℃ 20秒、72℃ 15秒を25サイクル、最後に72℃ 5分。得られた断片をXbaI及びBamHIで処理し、pMIV-Pnlp0のXbaI−BamHIサイトに挿入しプラスミドpMIV-Pnlp0-terを取得した。
続いてMG1655の染色体DNAをテンプレートとして、P5(agctgagtcg acgtgttcgc tgaatac
ggg gt:配列番号34)、及びP6(agctgatcta gagaaagcat caggattgca gc:配列番号35)をプライマーとして用いたPCRによってyeaS遺伝子を含む約700bpのDNA断片を取得した。これらプライマーの5’末端には制限酵素SalI及びXbaIのサイトがそれぞれデザインされている。PCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、55℃ 20秒、72℃ 15秒を25サイクル、最後に72℃ 5分。得られた断片をSalI及びXbaIで処理し、pMIV-Pnlp0-terのSalI−XbaIサイトに挿入しプラスミドpMIV-Pnlp0-YeaS3を取得した。こうして、pMIV-5JSベクター上にnlpDプロモーター、yeaS遺伝子、及びrrnBターミネーターが、この順に繋がったyeaSの発現ユニットが構築された。
nlpDプロモーターの-10領域を改変することでより強力なプロモーターとするため、以下の手法で-10のランダム化を行った。nlpDプロモーター領域(図8)には、2箇所のプロモーターとして機能すると推定される領域が存在し、それぞれ図中ではpnlp1、pnlp2と示してある。プラスミドpMIV-Pnlp0をテンプレートとして、P1及びP7(atcgtgaaga tcttttccag tgttnannag ggtgccttgc acggtnatna ngtcactgg("n"- はa,t,g,cのいずれでも良いことを意味する):配列番号36)をプライマーとして用いたPCRによってnlpDプロモーターの3’末端側に含まれる-10領域(-10(Pnlp1)と記載)をランダム化したDNA断片を取得した。PCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、60℃ 20秒、72℃ 15秒を25サイクル、最後に72℃ 5分。
一方、同様にプラスミドpMIV-Pnlp0をテンプレートとして、P2及びP8(tggaaaagat cttcannnnn cgctgacctg cg("n"- はa,t,g,cのいずれでも良いことを意味する):配列番号37)をプライマーとして用いたPCRによってnlpDプロモーターの5’末端側に含まれる-10領域(-10(Pnlp2)と記載)をランダム化したDNA断片を取得した。PCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、60℃ 20秒、72℃ 15秒を25サイクル、最後に72℃ 5分。
得られた3’末端側と5’末端側の断片は、プライマーP7とP8にデザインされてあるBglIIサイトによってつなぎ合わせることができ、2箇所の-10領域がランダム化されたnlpDプロモーター全長を構築することができる。この断片をテンプレートとして、P1及びP2をプライマーとして用いたPCRによって改変型nlpDプロモーター全長のDNA断片を取得した。PCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、60℃ 20秒、72℃ 15秒を12サイクル、最後に72℃ 5分。
増幅断片を、プライマーの5’末端にデザインされている制限酵素SalI及びPaeIで処理し、同じくSalI及びPaeIで処理したプラスミドpMIV-Pnlp0-YeaS3に挿入することで、プラスミド上の野生型nlpDプロモーター部位(Pnlp0)を変異型Pnlpと置き換えた。その中から配列番号28に示すプロモーター配列(Pnlp8)を持つものを選び、pMIV-Pnlp8-YeaS7とした(このプラスミドに挿入されたPnlp8プロモーターのPaeI−SalI断片の塩基配列が配列番号28に示されている。)同様にして、変異を含むnlpDプロモーター領域のDNA断片をSalI及びPaeIで処理したプラスミドpMIV-Pnlp0-terに挿入することでプラスミド上のnlpDプロモーター部位(Pnlp0の部分)を変異型Pnlpと置き換えた。その中の一つをpMIV-Pnlp23-terとした。このプラスミドに挿入されたPnlp23プロモーターのPaeI−SalI断片の塩基配列は配列番号29に示したとおりである。
次に、pMW-Pomp-cysE5(WO2005007841)からPaeI、SacIでPomp-cysE5カセット部分を切り出し、pMIV-5JSの同じサイトに挿入、pMIV-Pomp-CysE5を構築した。pMW-Pomp-cysE5は、ompC遺伝子プロモーターに連結された変異型SATをコードする遺伝子cysE5をpMW118に挿入して得られたプラスミドである。pACYC184(GenBank/EMBL accession number X06403、ニッポンジーンから購入可能)からXbaI、Eco88Iでテトラサイクリン耐性遺伝子を切り出し、同遺伝子断片をKlenow fragmentで処理をした後、pMIV-Pomp-CysE5のPvuIサイトに挿入し、pMT-Pomp-CysE5を構築した。続いて、pMIV-Pnlp8-YeaS7をHindIIIで消化し、Klenow fragmentで平滑末端化した後、NcoIで消化して、Pnlp8-YeaS-rrnBターミネーターのカセットとクロラムフェニコール耐性マーカーを含む断片を切り出した。この断片を、同じくpMIV-5JSをバックボーンにもつpMT-Pomp-CysE5のSmaI、NcoI切断断片とをそれぞれ繋ぎ合わせ、pMT-EY2を構築した。pMT-EY2はPnlp8-YeaS-rrnB terminatorカセットと、Pomp-CysE5カセットを一つのプラスミド上に持つプラスミドである。
先述のpMT-EY2は、pMIV-5JS(特開2008-99668)に由来するMuファージのアタッチメントサイトを備えている。このプラスミドをMu transposaseを持つヘルパープラスミドpMH10(Zimenkov D. et al., Biotechnologiya (in Russian), 6, 1-22 (2004))と同一細胞内で共存させることにより、このpMT-EY2プラスミド上でMuファージのアタッチメントサイトに挟まれる形で存在するクロラムフェニコール耐性マーカーを含むPompC-cysE5-Pnlp8-YeaS-rrnB terminatorのカセットを、P. ananatis SC17株(米国特許6596517)の染色体上に挿入することができる。さらに、pMT-EY2プラスミド上に存在するクロラムフェニコール耐性マーカーは、2つのλファージのアタッチメントサイト(λattRとλattL)間に挟まれる構造を持っているため、後述の方法によりクロラムフェニコール耐性マーカーを切り出し除去することができる。
まず、SC17株にエレクトロポレーションによりpMH10が導入された株を、20mg/Lのカナマイシンを含むLB寒天培地にて30℃で一晩培養することにより選択した。得られた形質転換株を30℃で培養し、さらにこの株にエレクトロポレーションによりpMT-EY2を導入した。このpMH10とpMT-EY2の両方で形質転換された株に、42℃、20分間の条件でヒートショックを与えた後、20mg/Lのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地にてクロラムフェニコール耐性株のコロニーを選択した。このとき培養温度は39℃とした。このようにして、約50クローンを取得し、それぞれをLB寒天培地で39℃、48時間培養することで、pMH10及びpMT-EY2のキュアリングを行った。染色体上にカセットが挿入されたことによりクロラムフェニコール耐性を示し、かつ、両プラスミドをキュアリングした結果カナマイシン及びアンピシリン感受性を示す株を取得した。さらに、この株の染色体DNAを鋳型として、P1とP6をプライマーとして用いたPCRにより、得られた株の染色体上に目的のカセットが挿入されていることを確認した。得られた全クローンをそれぞれEY01〜EY50と命名し、EY01〜EY50株のL−システイン生産培養を、下記のようにして行った。その結果、最も多くL−システインを生産したクローンであるEY19株を選抜した。
培養には、L−システイン生産培地(組成:15g/L 硫酸アンモニウム, 1.5g/L リン酸二水素カリウム, 1g/L 硫酸マグネシウム七水和物, 0.1g/L トリプトン, 0.05g/L イーストエクストラクト, 0.1g/L 塩化ナトリウム, 20g/L 炭酸カルシウム, 40g/L グルコース, 20mg/L テトラサイクリン)を使用した。
L−システイン生産培養は以下の手順で行った。SC17/pMT-PompCysE5株とSC17/pMT-EY2株をLB寒天培地に塗り広げ、34℃で一晩前培養を行った後、植菌用ループで8分の1プレート分の菌体を掻き取り、大試験管(内径23mm、長さ20cm)に2ml張りこんだL−システイン生産培地中に植菌し、220-230rpmで32℃にて振とう培養を行い、2日後に培養を終了した。
EY19株に導入されたクロラムフェニコール耐性マーカーを、ラムダファージ由来の切り出しシステムによって除去した。具体的には、ラムダファージのInt-Xis遺伝子を搭載したpMT-Int-Xis2(WO2005/010175)でEY19株を形質転換し、得られた形質転換株からクロラムフェニコール感受性を示すEY19(s)株を取得した。ラムダファージ由来の切り出しシステムによってマーカーを除去した例は、JP2005058227AやWO2007/119880A1等に詳細に記述されている。
(1-2)EY19(s)株からのcysPTWA遺伝子発現強化株の作製
次に、cysPTWA遺伝子の発現を強化させるため、染色体上のcysPTWA遺伝子クラスターの上流に存在するプロモーターを先述の強力なプロモーターPnlp8に置換した。まずpMIV-Pnlp8-YeaS7をテンプレートに、P1及びP2をプライマーに用いたPCRによってnlp8プロモーター約300bpを含むDNA断片を取得した。PCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、59℃ 20秒、72℃ 15秒を20サイクル、最後に72℃ 5分。
増幅されたnlp8プロモーターを含むDNA断片をKlenowフラグメントで処理し、XbaIで切断後にKlenowフラグメントで処理されたプラスミドpMW118-(λattL-KmR-λattR)(WO2006/093322A2)に挿入しプラスミドpMW-Km-Pnlp8を取得した。pMW-Km-Pnlp8をテンプレートに、P9(tccgctcacg atttttttca tcgctggtaa ggtcatttat cccccaggaa aaattggtta:配列番号38)、及びP10(tttcacaccg ctcaaccgca gggcataacc ggcccttgaa gcctgctttt ttatactaag ttg:配列番号39)をプライマーに用いたPCRによって、Km-Pnlp8カセットを含む約1.6kbのDNA断片を増幅した。このときのPCRサイクルは次の通りである。95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、54℃ 20秒、72℃ 90秒を30サイクル、最後に72℃ 5分。両プライマー上にはλ依存インテグレーション(「Red-driven integration」と呼ばれる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol. 97, No. 12, p6640-6645))によって目的の断片を挿入するための染色体上のターゲットとなる配列(この場合はcysPTWAのプロモーター近傍の配列)がデザインされいる。そのため、取得されたDNA断片を目的の菌株にこのλ依存インテグレーションによって挿入した場合には、染色体上のcysPTWA遺伝子の直前にKm-Pnlp8が挿入され、nlp8プロモーターにcysPTWA遺伝子が連結される構造となる。cysPTWA遺伝子クラスターの塩基配列を配列番号19に、cysP、cysT、cysWの各遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を配列番号20〜22に示す。cysA遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードするアミノ酸配列を、それぞれ配列番号23、24に示す。
P. ananatis SC17(0)/ RSF-Red-TER株はλ依存インテグレーションを効率よく行うためのホスト菌株であり、λRed遺伝子産物に耐性なP. ananatis菌株であるSC17(0)株にλのgam、bet及びexoの各遺伝子(以下、「λRed遺伝子」)を発現するヘルパープラスミドRSF-Red-TERが導入された菌株である(WO2008/075483)。このRSF-Red-TERプラスミドの構築方法はWO2008/075483に詳細に記載されている。
上記SC17(0)/ RSF-Red-TER株を、λRed遺伝子発現誘導のためIPTGを添加した条件で培養して、エレクトロポレーション用の細胞を調製した。これらの細胞に、上述の目的のDNA断片をエレクトロポレーションにて導入し、カナマイシン耐性を指標にλ依存インテグレーションによりcysPTWA遺伝子上流にnlp8プロモーターが挿入された組み換え株を取得した。取得された株の染色体DNAをテンプレートに、P11(ctttgtccct ttagtgaagg:配列番号40)、P12(agctgatcta gaagctgact cgagttaatg gcctcccaga cgac:配列番号41)をプライマーに用いたPCRにて、目的のKm-Pnlp8-cysPTWAの構造が形成されていることを確認し、この株をSC17(0)-Pnlp8-PTWA株と命名した。
次に、SC17(0)-Pnlp8-PTWA株の染色体DNA を精製し、この染色体DNA10μgをエレクトロポレーション法によりEY19(s)株に導入し、カナマイシン耐性株を取得した。得られた株の染色体DNAを鋳型として、P11 、P12をプライマーとして用いたPCRによる増幅を行い、EY19(s)株の染色体にKm-Pnlp8-cysPTWAの構造が導入されたことを確認した。こうして取得された株をEYP197株と命名した。さらに上述のpMT-Int-Xis2を用いたカナマイシン耐性マーカーの染色体上からの除去を行い、カナマイシン感受性となった株をEYP197(s)株と命名した。
(1-3)EYP197(s)株からの変異型3-フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼ(serA348)遺伝子搭載株の作製
システイン生産菌に導入する3-フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼとしてパントエア・アナナティス由来の3−フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であって、348位のアスパラギン残基がアラニンに置換した変異型酵素(N348A)をコードするserA348遺伝子(J Biol Chem. 1996 ;271(38):23235-8)を以下の方法で構築した。
パントエア・アナナティス由来の野生型serA遺伝子の配列を配列番号17に、アミノ酸配列を配列番号18に示す。上記変異が導入されたserA遺伝子の3’側DNA断片を得るため、SC17株染色体DNAをテンプレートに、P13(agctgagtcg acatggcaaa ggtatcactg gaa:配列番号42)及びP14(gagaacgccc gggcgggctt cgtgaatatg cagc:配列番号43)をプライマーに用いたPCR(95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、60℃ 20秒、72℃ 60秒を25サイクル、最後に72℃ 5分)を行った。次に同様にして変異が導入された5’側DNA断片を得るため、SC17株染色体DNAをテンプレートに、P15(agctgatcta gacgtgggat cagtaaagca gg:配列番号44)、及び16(aaaaccgccc gggcgttctc ac:配列番号45)をプライマーに用いたPCR(95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、60℃ 20秒、72℃ 20秒を20サイクル、最後に72℃ 5分)を行った。得られた両PCR断片を制限酵素SmaIにより処理した後、DNAライゲースによるライゲーションにより連結し、目的の変異(N348A)を含む変異型serA遺伝子全長のDNA断片を得た。このDNA断片をテンプレートとし、P13とP15をプライマーに用いてPCR増幅(95℃ 3分の後、95℃ 60秒、50℃ 30秒、72℃ 40秒を2サイクル、94℃ 20秒、60℃ 20秒、72℃ 75秒を15サイクル、最後に72℃ 5分)を行った。P13およびP15プライマーにデザインされているSalI、XbaI制限酵素サイトをSalI、XbaIで処理した後、同じくSalI、XbaI で処理したpMIV-Pnlp8-terに挿入し、pMIV-Pnlp8-serA348を作製した。
構築されたpMIV-Pnlp8-serA348にはpMIV-5JS(特開2008-99668)に由来するMuのアタッチメントサイトが搭載されている。このプラスミドを用いれば、先述のとおり、Mu transposaseを持つヘルパープラスミドpMH10を用いることでクロラムフェニコール耐性マーカーを含むPnlp8-serA348-rrnB terminatorのカセットをP.ananatis SC17株の染色体上に挿入することができる。SC17(0)株にpMIV-Pnlp8-serA348プラスミドおよびpMH10を導入し、染色体にPnlp8-serA348-rrnB terminatorのカセットが挿入された株を取得した。プライマーP1、P15を用いたPCRにより、目的のカセットが細胞中に存在することを確認した。得られた50クローンについて、細胞抽出液中の3-フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼ活性を測定し、最も活性の高かった菌株を選抜しSC17int-serA348株と命名した。次に、SC17int-serA348株の染色体DNA 10μgをエレクトロポレーションによりEYP197(s)株に導入し、クロラムフェニコール耐性株を取得し、プライマーP1 、P15を用いたPCRにより、EYP197(s)株の染色体にクロラムフェニコール耐性マーカーと共にPnlp8-serA348の構造が導入されたことを確認した。こうして取得された株をEYPS1976株と命名した。先述のpMT-Int-Xis2を用いたマーカー除去の方法によりクロラムフェニコール耐性マーカーの除去を行い、クロラムフェニコール感受性となった株をEYPS1976(s)株と命名した。
(2)ydjN及び/又はfliYを欠損したシステイン生産菌の構築
EYPS1976(s)株からydjN及び/又はfliYを欠損した菌株の構築を行った。ydjN遺伝子欠損株とfliY領域欠損株の作製は、先述のP. ananatis SC17(0)/ RSF-Red-TER株をホスト菌としたλ依存インテグレーションによって行った。
fliY遺伝子下流にはyecS遺伝子(塩基配列:配列番号11、アミノ酸配列:配列番号12)とyecC遺伝子(塩基配列:配列番号13、アミノ酸配列配列番号14)があり、これらはオペロンを形成しABCトランスポーターとして機能している可能性がある(インターネット上に公開されているデータベース(http://ecocyc.org/)にyecS、yecCがひとつの転写ユニットを形成している可能性があるとの情報が掲載されている)。そこで、fliY欠損に関しては、これら3つの遺伝子全て(fliY周辺領域)を欠損させることとした。
ydjN遺伝子欠損株のDNA断片取得のためにはプライマーDydjN(Pa)-F(acctctgctg ctctcctgac cagggaatgc tgcattacat cggagttgct tgaagcctgc ttttttatac taagttggca:配列番号46)とプライマーDydjN(Pa)-R(agacaaaaac agagagaaag acctggcggt gtacgccagg tctggcgtga cgctcaagtt agtataaaaa agctgaacga:配列番号47)を、fliY領域欠損株のDNA断片取得のためにはプライマーDfliY-FW(atggctttct cacagattcg tcgccaggtg gtgacgggaa tgatggcggt tgaagcctgc ttttttatac taagttggca:配列番号48)とプライマーDyecC-RV(ttacgccgcc aacttctggc ggcaccgggt ttattgatta agaaatttat cgctcaagtt agtataaaaa agctgaacga:配列番号49)を用いた。また、テンプレートとして先述のpMW118-(λattL-Kmr-λattR)(WO2006/093322A2)を使用し、94℃ 5分の後、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 2分30秒を30サイクルのPCR反応を行い、各々組み換えに利用する相同配列でKmrを挟んだDNA断片を取得した。
得られた各DNA断片を、エレクトロポーレーションでP. ananatis SC17(0)/RSF-Red-TER株に導入し、それぞれSC17(0)ΔydjN::Km株(ydjN遺伝子領域にλattL-Kmr-λattRの断片が挿入)と、SC17(0)ΔfliY::Km株(fliY遺伝子領域にλattL-Kmr-λattRの断片が挿入)を構築した。次に、SC17(0)ΔydjN::Km株とSC17(0)ΔfliY::Km株から調製した染色体DNAを用いてEYPS1976(s)株を形質転換し、EYPS1976(s)株からそれぞれの遺伝子欠損株であるEYPSΔydjN::Km株とEYPSΔfliY::Km株を取得した。さらに、EYPSΔfliY::Km株に対しては先述のpMT-Int-Xis2(WO2005/010175)を導入し、ラムダファージ由来の切り出しシステムによってカナマイシン耐性遺伝子の切り出しを行い、カナマイシン感受性を示すEYPSΔfliY株を取得した。次に、EYPSΔfliY株をSC17(0)ΔydjN::Km株から調製した染色体DNAで形質転換し、2重欠損株であるEYPSΔfliYΔydjN::Km株を取得した。こうして、システイン生産菌EYPS1976(s)株をベースとしたydjN遺伝子欠損株、fliY領域欠損株、これらの2重欠損株が構築された。
(3)P. ananatisにおけるydjN欠損、fliY欠損がシステイン生産に及ぼす効果の検討
上記で得られたydjN遺伝子欠損株、fliY領域欠損株、これらの2重欠損株の発酵生産培養を行い、システイン関連化合物の生産量を比較した。培養には下記組成のP. ananatisシステイン生産培地を用いた。
〔P. ananatis システイン生産培地〕(各成分の濃度は最終濃度)
成分1:
(NH4)2SO4 15g/L
KH2PO4 1.5g/L
MgSO4・7H2O 1g/L
チアミン塩酸塩 0.1mg/L
成分2:
FeSO4・7H2O 1.7mg/L
Na2MoO4・2H2O 0.15mg/L
CoCl2・6H2O 0.7mg/L
MnCl・4H2O 1.6mg/L
ZnSO4・7H2O 0.3mg/L
CuSO4・5H2O 0.25mg/L
成分3:
トリプトン 0.6g/L
イーストエクストラクト 0.3g/L
NaCl 0.6g/L
成分4:
炭酸カルシウム 20g/L
成分5:
L−ヒスチジン塩酸塩一水和物 135mg/L
成分6:
チオ硫酸ナトリウム 6g/L
成分7:
ピリドキシン塩酸塩 2mg/L
成分8:
グルコース 40g/L
各成分について、各々10倍(成分1)、1000倍(成分2)、100/6倍(成分3)、100倍(成分5)、350/6倍(成分6)、1000倍(成分7)、10倍(成分8)のストック溶液を作製しておき、使用時に混合し滅菌水で規定の量までメスアップして最終濃度となるように調製した。殺菌は、110℃、30分のオートクレーブ(成分1、2、3、5、8)、180℃、5時間以上の乾熱滅菌(成分4)、及びフィルター滅菌(成分6、7)により行った。
システイン生産培養は以下の手順で行った。各生産菌をLB寒天培地に塗り広げ、34℃で一晩前培養を行った後、10マイクロリッターサイズの植菌用ループ(NUNC社ブルーループ)でプレート上約7cm分の菌体を2回掻き取り、大試験管(内径23mm、長さ20cm)に2ml張りこんだP. ananatisシステイン生産培地中に植菌し、培養開始時点での菌体量がほぼ同じになるよう調製した。
32℃にて振とう培養を行い、43時間後に培養を終了した。このとき培地中のグルコースが完全に消費されたことを確認した。培地中に生産されたシステイン関連化合物の定量は、Gaitonde, M.K.(Biochem J. 1967 Aug;104(2):627-33.)に記載の方法で行った。各株とも6連で実験を行い、このときの各平均値と標準偏差を表3に示した。fliY欠損単独ではシステイン関連化合物の増加は見られず、ydjN欠損単独ではシステイン関連化合物が僅かに増加した。また、fliYとydjNの2重欠損ではそれぞれの単独欠損をはるかに上回るシステイン関連化合物の増加が見られた。P. ananatisではydjN欠損がシステイン関連化合物の生産に効果があり、またfliY欠損を組み合わせることで相乗効果があることがわかった。
Figure 0005359409
〔配列表の説明〕
配列番号1:エシェリヒア・コリのydjN遺伝子の塩基配列
配列番号2:エシェリヒア・コリのYdjNのアミノ酸配列
配列番号3:パントエア・アナナティスのydjN遺伝子の塩基配列
配列番号4:パントエア・アナナティスのYdjNのアミノ酸配列
配列番号5:エシェリヒア・コリのfliY遺伝子の塩基配列
配列番号6:エシェリヒア・コリのFliYのアミノ酸配列
配列番号7:パントエア・アナナティスのfliY遺伝子の塩基配列
配列番号8:パントエア・アナナティスのFliYのアミノ酸配列
配列番号9:エシェリヒア・コリのcysE遺伝子の塩基配列
配列番号10:エシェリヒア・コリのcysE遺伝子がコードするSATのアミノ酸配列
配列番号11:パントエア・アナナティスのyecS遺伝子の塩基配列
配列番号12:パントエア・アナナティスのyecS遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号13:パントエア・アナナティスのyecC遺伝子の塩基配列
配列番号14:パントエア・アナナティスのyecC遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号15:エシェリヒア・コリのyeaS遺伝子の塩基配列
配列番号16:エシェリヒア・コリのyeaS遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号17:パントエア・アナナティスのserA遺伝子の塩基配列
配列番号18:パントエア・アナナティスのserA遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号19:cysPTWA遺伝子クラスターの塩基配列
配列番号20:cysP遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号21:cysT遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号22:cysW遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号23:cysA遺伝子の塩基配列
配列番号24:cysA遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号25:cysM遺伝子の塩基配列
配列番号26:cysM遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号27:Pnlp0の塩基配列
配列番号28:Pnlp8の塩基配列
配列番号29:Pnlp23の塩基配列
配列番号30〜45:プライマーP1〜P16
配列番号46:プライマーDydjN(Pa)-Fの塩基配列
配列番号47:プライマーDydjN(Pa)-Rの塩基配列
配列番号48:プライマーDfliY-FWの塩基配列
配列番号49:プライマーDyecC-RVの塩基配列
配列番号50:プライマーDcysE(Ec)-F
配列番号51:プライマーDcysE(Ec)-R
配列番号52:プライマーDydjN(Ec)-F
配列番号53:プライマーDydjN(Ec)-R
配列番号54:プライマーydjN(Ec)-SalIFW2
配列番号55:プライマーydjN(Ec)-xbaIRV2
配列番号56:プライマーydjN2(Pa)-SalIFW
配列番号57:プライマーydjN2(Pa)-xbaIRV
配列番号58:プライマーDfliY(Ec)-FW
配列番号59:プライマーDfliY(Ec)-RV
配列番号60:プライマーfliY(Ec)SalI-F
配列番号61:プライマーfliY(Ec)XbaI-R

Claims (10)

  1. L−システイン生産能を有し、かつ、YdjNタンパク質の活性が低下するように改変された腸内細菌科に属する細菌を、培地中で培養し、該培地からL−システイン、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物を採取することを特徴とする、L−システイン、L−シスチン、それらの誘導体もしくは前駆体、又はこれらの混合物の製造法であって、
    前記YdjNタンパク質の活性が、YdjNタンパク質をコードするydjN遺伝子の発現量を低下させること、又はydjN遺伝子を破壊することにより低下したものである、製造法
  2. 前記YdjNタンパク質が配列番号2又は4のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は、配列番号2又は4のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、YdjNタンパク質の機能を有するタンパク質である、請求項1に記載の製造法
  3. 前記細菌は、さらにFliYタンパク質の活性が、FliYタンパク質をコードするfliY遺伝子の発現量を低下させること、又はfliY遺伝子を破壊することにより、低下するように改変された細菌である、請求項1又は2に記載の製造法
  4. 前記FliYタンパク質が配列番号6又は8のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は、配列番号6又は8のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、FliYタンパク質の機能を有するタンパク質である、請求項3に記載の製造法
  5. 前記ydjN遺伝子が、下記(a)〜(c)のいずれかのDNAである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造法
    (a)配列番号1又は3の塩基配列を含むDNA。
    (b)配列番号1又は3の塩基配列に相補的な配列と、60℃で、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で洗浄するというストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつ、当該DNAがコードするタンパク質は、YdjNタンパク質の機能を有するものである、DNA
    (c)配列番号1又は3の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNAであって、かつ、当該DNAがコードするタンパク質は、YdjNタンパク質の機能を有するものである、DNA
  6. 前記fliY遺伝子が、下記(d)〜(f)のいずれかのDNAである、請求項3〜5のいずれか一項に記載の製造法
    (d)配列番号5又は7の塩基配列を含むDNA。
    (e)配列番号5又は7の塩基配列に相補的な配列と、60℃で、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で洗浄するというストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつ、当該DNAがコードするタンパク質は、FliYタンパク質の機能を有するものである、DNA
    (f)配列番号5又は7の塩基配列と95%以上の同一性を有するDNAであって、かつ、当該DNAがコードするタンパク質は、FliYタンパク質の機能を有するものである、DNA
  7. 前記細菌は、さらに、下記の性質の少なくともいずれかを有する請求項1〜のいずれか一項に記載の製造法
    i)セリンアセチルトランスフェラーゼ活性が上昇するように改変されている。
    ii)yeaS遺伝子の発現が上昇するように改変されている。
    iii)3−フォスフォグリセレートデヒドロゲナーゼ活性が上昇するように改変されている。
    iv)硫酸塩/チオ硫酸塩輸送系の活性が増強するように改変されている。
  8. 前記細菌がパントエア属に属する細菌である、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造法
  9. 前記細菌がパントエア・アナナティスである、請求項に記載の製造法
  10. 前記細菌がエシェリヒア・コリである請求項1〜のいずれか一項に記載の製造法
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