JP5353125B2 - リチウムニッケル複合酸化物の製造方法 - Google Patents

リチウムニッケル複合酸化物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法、特に、リチウム二次電池用正極活物質として好適なリチウムニッケル複合酸化物の製造方法に関する。
近年、携帯電話、ノートパソコン等の小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウム二次電池の需要が急激に伸びている。リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウムコバルト複合酸化物とともにリチウムニッケル複合酸化物が広く用いられている。
リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物と比べると低コストで、高容量の電池が得られるという利点がある。リチウムニッケル複合酸化物は、通常、リチウム化合物とニッケル化合物を混合焼成して製造されているが、製造条件により充放電特性が異なり、十分な充放電特性を得ることが難しいという問題点がある。また、リチウムコバルト複合酸化物に比べて、リチウムニッケル複合酸化物は、その分解温度が低いため、合成時の温度が上げられず、合成時の焼成時間がリチウムコバルト複合酸化物に比べて長くなり、生産性が悪いという問題点もある。
これまで、各種元素を添加したニッケル複合酸化物と水酸化リチウムを混合し焼成することにより、リチウムニッケル複合酸化物を合成するという製造方法に関して、多数の提案がなされている。
例えば、特開平8−222220号公報には、コバルト塩とニッケル塩との混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、コバルトとニッケルの水酸化物を共沈させることによって、コバルトとニッケルの複合水酸化物を得た後、水酸化リチウムなどのリチウム化合物と混合し、酸素中において、550℃、20時間で1段目の焼成をした後、600〜800℃、2時間で2段目の焼成を行う、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。
また、特開2002−170562号公報には、共沈法で作製したニッケル複合酸化物とリチウム化合物とを混合して、大気あるいは酸素雰囲気下で、480〜850℃、10時間程度で焼成するか、480〜630℃、15〜40時間で焼成後、解砕を行い、さらに同雰囲気下で700〜850℃、3〜10時間で焼成を行なう、リチウム二次電池用正極材料の製造方法が記載されている。
さらに、特開平10−214624号公報には、構成元素の塩を水に溶解させて塩濃度を調節した複合金属塩水溶液、金属イオンと錯塩を形成する水溶性の錯化剤、および水酸化リチウム水溶液をそれぞれ反応槽に連続供給して複合金属錯塩を生成させ、この錯塩を水酸化リチウムにより分解してリチウム共沈複合金属塩を析出させ、粒子形状が略球状であるリチウム共沈複合金属塩を合成する第一工程、合成したリチウム共沈複合金属塩を200〜500℃の還元性雰囲気中で分解し、リチウム共沈前駆酸化物を合成する分解還元の第二工程、酸化雰囲気で焼成する酸化焼結の第三工程からなる、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。
これらの公報には、原料組成、焼成温度範囲や焼成時間などが規定されているものの、量産を考慮した製造条件については開示がなされておらず、これらを参照するだけでは、工業的規模で生産された正極活物質において、安定した充放電特性が得られないという問題がある。
一方、特開2000−173599号公報には、ニッケル複合水酸化物と水酸化リチウムの混合物を連続的に流動させながら水酸化リチウムの溶融温度以下で加熱し、脱水処理を行った後、静置状態で焼成することにより、リチウム含有複合酸化物を合成するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。
かかる脱水処理は、ロータリーキルンを用いて、空気雰囲気下、300℃〜400℃で行われる。かかる脱水処理により、合成過程において原料中の結晶水の蒸発に伴い混合物中に空隙が発生し、反応が不均一となることを防止し、嵩密度および混合度合いの向上により、優れた充放電特性を示すリチウム含有複合酸化物を、高い量産性で得ることができると記載されている。しかしながら、実際の工業的規模の量産において、十分な充放電特性を持ったリチウム二次電池用正極活物質を安定して製造できるまでには至っていない。
特開平8−222220号公報 特開2002−170562号公報 特開平10−214624号公報 特開2000−173599号公報
本発明は、従来技術の問題点に鑑み、工業的規模の量産においても、リチウム二次電池用正極活物質として用いたとき、十分な充放電特性が得られるリチウムニッケル複合酸化物を安定して提供することを目的とする。
本発明者は、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法について、鋭意検討した結果、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物との混合物の焼成前に、該混合物を、特定量以下の炭酸ガスを含有する雰囲気中で乾燥させること、および、焼成前の乾燥によりニッケル複合酸化物とリチウム化合物との混合物の水分含有率を特定量以下に制御することにより、十分な充放電特性を有するリチウムニッケル複合酸化物を短時間の焼成で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との混合物を焼成することにより、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法に係る。
特に、本発明では、前記焼成を行う前に、炭酸ガス分圧が10Pa以下の雰囲気中で前記混合物を乾燥させて、真空中200℃で8時間保持した場合に、該混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにすることを特徴とする。
前記乾燥は、40℃〜200℃の温度で行う。
本発明は、特に、その組成が、一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を製造する際に、好適に適用される。
本発明は、前記焼成工程に先立って、前記乾燥工程を設けることに特徴があるが、十分な充放電特性を有するリチウムニッケル複合酸化物を得るためには、前記ニッケル複合酸化物が、ニッケル複合水酸化物を所定条件の下で酸化焙焼して得られたものであることが必要である。特に、前記酸化焙焼工程において、前記M元素およびN元素を含むニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して、該M元素およびN元素が固溶した状態で、前記ニッケル複合酸化物を得るか、あるいは、前記M元素を含むニッケル水酸化物を酸化焙焼して、該M元素が固溶しているニッケル酸化物を得て、さらに該ニッケル酸化物と前記N元素の酸化物とを混合して、前記ニッケル複合酸化物を得ることが好ましい。
かかる酸化焙焼を、空気中、600℃〜900℃の温度で行う。
一方、焼成工程においては、前記焼成を、酸素含有量が60容量%以上である雰囲気中、650℃〜800℃で行う。
本発明により、工業的規模の量産においても、十分な充放電特性を持ったリチウムニッケル複合酸化物を安定して得ることができる。かかるリチウムニッケル複合酸化物により、優れた電池特性を有するリチウム二次電池を高い生産性で製造することが可能になるため、本発明の工業的利用価値は非常に大きい。
本発明に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法は、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物の混合物を焼成するリチウムニッケル複合酸化物の製造方法において、前記焼成を行う前に、炭酸ガス分圧が10Pa以下の雰囲気中で前記混合物を乾燥させて、該乾燥後の混合物を、真空中200℃で8時間保持した場合に、保持前の混合物に対する保持後の混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにすることを特徴とする。以下にその理由を述べる。
リチウムニッケル複合酸化物の工業生産には、一般的にプッシャー炉やローラーハース炉などのように、連続的に焼成可能な炉を使用する。これらの炉は、原料であるニッケル複合酸化物と水酸化リチウムの混合物(以下、単に「混合物」と記載する場合がある。)を、セラミック容器に充填して、その容器を、所定の温度および所定の雰囲気に調節された炉の中で移動させ、最適な熱履歴と雰囲気を与え、合成反応を行わせる構造となっている。
このような合成反応においては、混合物中への酸素の拡散が重要な役割を担っている。すなわち、酸素の拡散が不足すると、化学式(化1)の反応が進行せず、リチウムニッケル複合酸化物の合成不足が発生し、電池材料として使用可能な結晶成長が行われず、電池容量の低下など、電池性能が劣化する。
Figure 0005353125
また、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との反応は、450℃付近から開始する。これに対して、水酸化リチウムの融点は480℃付近にあり、水酸化リチウムが溶融しながら、ニッケル複合酸化物と反応することとなる。
したがって、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物の反応は、混合物の昇温にしたがって進行するが、セラミック容器の底部へ十分な酸素拡散が行われない場合、未反応の溶融した水酸化リチウムがセラミック容器と反応して、実質的にニッケル複合酸化物と化合する水酸化リチウム量が不足し、生成したリチウムニッケル複合酸化物中に電池反応を阻害する結晶が混入し、電池性能の低下を招く。
さらに、水酸化リチウムと反応しない容器を使用した場合でも、焼成温度に到達した時点で、まだ未反応の水酸化リチウムとニッケル複合酸化物が存在し、かつ、酸素が不足している場合、化学式(化2)の副反応が発生して、生成するリチウムニッケル複合酸化物結晶中に、電池反応時にリチウムイオンの移動を妨げる異相が生じ、電池性能の劣化を招く。
Figure 0005353125
特に、工業的規模でリチウムニッケル複合酸化物の製造を行なう場合、生産性の向上が重要な課題であり、前述のような構造の炉において生産性を向上させる手立てとしては、炉の通過時間を早めたり、あるいは、セラミック容器に充填する混合物量を多くするという方法が採られる。このような場合においては、リチウムニッケル複合酸化物の合成時間の不足とともに、セラミック容器の底部への酸素拡散の時間が不足し、前述のような問題が多く発生する。
したがって、工業的規模の量産において、上記の問題を解決するためには、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度までの温度域で、セラミック容器の底部まで酸素拡散を十分に行わせて、セラミック容器内の混合物を均一に反応させることが重要である。
このような製造工程において、混合物中に、水酸化リチウム中の結晶水や吸着水として水分が存在すると、焼成時に水蒸気として放出され、混合物内が正圧状態になり、混合物中の酸素を追い出し、混合物中への酸素拡散を阻害する。このため、水酸化リチウム中の結晶水や吸着水を、乾燥により十分に除去する必要がる。
一方、水酸化リチウムは、炭酸ガスと反応して容易に炭酸リチウムを生成する。混合物中に炭酸リチウムが混入すると、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が阻害される。そのため、前述の乾燥において、雰囲気中の炭酸ガス濃度を制御して、炭酸リチウムの生成を阻止する必要がある。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。本発明では、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との混合物を焼成する前に、乾燥工程を設けて、該乾燥後の混合物を、真空中200℃で8時間保持した場合に、保持前の混合物に対する保持後の混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにしている。また、かかる乾燥工程において、雰囲気中の炭酸ガスの濃度を、炭酸ガス分圧が10Pa以下となるように制御して、炭酸リチウムの生成を抑制している。
工業的規模の量産に際して、かかる混合物を用いることにより、焼成時に、該混合物に十分な酸素拡散が行われ、該混合物全体で均一な反応をなさしめて、充放電特性に優れたリチウムニッケル複合水酸化物からなるリチウム二次電池用正極活物質を製造することが可能となる。
質量減少率が5質量%を超えると、焼成時に、水酸化リチウムからの水蒸気の放出が多くなり、混合物中への酸素拡散が阻害され、正極活物質として用いられたときの電池容量が低下する。また、質量減少率が5質量%を超えるような水分が混合物中に存在する場合、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度までの温度域で、昇温中に、混合物中の水蒸気を外部へ放出させ、その後の酸素拡散を十分に行なわせるために、昇温速度を遅くするか、焼成温度での保持時間を長くする必要がある。もしくは、セラミック容器中に充填する混合物量を少なくし、セラミック容器中の混合物の厚みを薄くさせることにより、セラミック容器の底部への酸素拡散を速くさせる必要がある。いずれの場合も、生産性が低下するため、工業的規模の量産においては採用できるものではない。
また、混合物を乾燥する際に炭酸リチウムが生成されると、焼成時において、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が阻害され、得られたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いたときのリチウム二次電池における電池容量が低下してしまう。
[混合物の乾燥工程]
このように、真空中200℃で8時間保持した場合に、その質量減少率が5質量%以下となる混合物とするために、本発明のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法では、焼成前に混合物の乾燥工程を設けている。
そして、かかる乾燥工程における雰囲気を、炭酸ガス分圧が10Pa以下となるようにしている。これにより、リチウムニッケル複合酸化物の生成を阻害する炭酸リチウムの生成が抑制されることとなる。
かかる雰囲気は、炭酸ガス分圧が10Pa以下であれば特に限定されるものではないが、酸化ニッケルが還元されない非還元性雰囲気が好ましく、炭酸ガス分圧が10Pa以下の空気あるいは窒素雰囲気とするか、もしくは、真空雰囲気とすることがより好ましい。炭酸ガス分圧が10Pa以下の空気あるいは窒素は、空気あるいは窒素を酸化カルシウムなどの炭酸ガス吸着剤に通すことで、容易に得られる。
かかる乾燥工程は、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物とについて、個別に行って、乾燥後に混合することことも可能であるが、乾燥後の水酸化リチウムは不安定で、混合物中のリチウムとニッケルの質量比が変動しやすいため、混合物について乾燥を行うことが好ましい。
混合物の乾燥温度としては、40℃〜200℃の範囲とすることが好ましい。40℃未満では、水酸化リチウムの結晶水の脱水が十分に行われない場合がある。一方、200℃を超えても、水酸化リチウムの結晶水の脱水に効果がないばかりか、乾燥後の冷却に時間がかかり、工業的生産性が悪化してしまう。
乾燥時間は、特に限定されるものではないが、乾燥する混合物の質量、混合物中の水酸化リチウムの状態、乾燥温度を考慮して、真空中200℃で8時間保持した場合における質量減少率が5質量%以下となるように決定する必要がある。乾燥時間が短時間過ぎる場合には、かかる質量減少率が5質量%以下とならない場合がある。
また、乾燥に用いる炉は、雰囲気を制御でき、発生した水蒸気を排出できる各種の炉であれば、特に制限されるものではないが、排気ガスが発生することがない電気炉を用いることが好ましい。
かかる質量減少率の測定により、乾燥後の混合物中の水酸化リチウムにおける結晶水や吸着水の除去状態を評価することができる。質量減少率の測定は、通常の真空乾燥器を用いて容易に行なうことができる。保持前に予め乾燥後の混合物の質量を測定しておき、混合物を真空中200℃で8時間保持した後、再度、質量を測定して、保持前の質量に対する保持後の質量減少率を求めることができる。
なお、実際の操業においては、各操業条件における質量減少率を求めておき、本発明において規定する質量減少率となるように、乾燥工程における各条件を設定すればよい。
本発明においては、正極活物質として充放電特性に優れたリチウムニッケル複合酸化物を得るために、上記の乾燥工程を設けることに特徴を有するが、かかる特性を有するリチウムニッケル複合酸化物を、工業的規模の量産において製造するためには、原料となるニッケル複合酸化物の製造工程、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物の混合工程、該混合物の焼成工程、および、得られるリチウムニッケル複合酸化物の組成について、以下の通り、留意する必要がある。この点、工程ごとに説明する。
[リチウムニッケル複合酸化物の組成]
本発明に係る製造方法により、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の組成は、一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるものであることが好ましい。
リチウムニッケル複合酸化物としては、各種組成の複合酸化物が提案されているが、前記一般式で表されるリチウムニッケル複合酸化物は、電池特性に優れており好ましく、さらに、本発明に係る製造方法を適用することにより、工業的規模での製造においても、十分な充放電特性を有するものとすることができる。
ここで、一般式のM元素は、CoまたはMnであり、yが0.05未満であると、サイクル特性の改善が十分でない場合があり、yが0.35を超えると、電池容量が低下することがある。
また、一般式のN元素は、AlまたはTiであり、Zが0.005未満では、熱安定性の改善効果が十分でない場合があり、Zが0.05を超えると、電池容量が低下することがある。
[ニッケル複合酸化物の製造工程]
本発明において、水酸化リチウムと混合されるニッケル複合酸化物は、特に限定されるものではなく、ニッケルおよび添加元素の化合物を酸化焙焼することで得られる。化合物としては、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩などが用いられるが、処理の容易さから、水酸化物を用いることが好ましく、添加元素が固溶したニッケル複合水酸化物を用いることが好ましい。ニッケル複合水酸化物は、通常の方法で得られるものでよく、組成が均一であり、適度な粒径である粒子が得られる方法としては、共沈法が好ましく用いられる。以下、共沈法によって得られるニッケル複合水酸化物を用いた場合を例として説明する。
ニッケル複合水酸化物は、ニッケル塩と添加元素の塩との混合水溶液を、pH制御のためのアルカリ水溶液とともに、撹拌しながら反応槽に添加することで、ニッケルと添加元素を共沈させて、得られる。このとき、反応槽の温度とpHを調整することで、ニッケル複合水酸化物の粒径を制御することができる。また、粒径制御を容易にするために、錯化剤を混合水溶液およびアルカリ水溶液とともに添加してもよい。
ニッケル塩と添加元素の塩としては、それぞれ、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などが、通常用いられる。アルカリ水溶液としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液を用いることが一般的である。また、錯化剤としては、アンモニアなどが用いられる。
その後、共沈させたニッケル複合水酸化物を、ろ過、洗浄、乾燥した後、酸化焙焼することでニッケル複合酸化物が得られる。
酸化焙焼の条件は、空気中600〜900℃とする。600℃未満では、ニッケル複合酸化物を原料として使用したリチウムニッケル複合酸化物の比表面積が増加し、電池を製造する工程中での劣化が起こりやすくなり、電池の容量が低下する。900℃を超えると、ニッケル複合酸化物の比表面積が低下し、リチウムとの反応性が低下し、生成したリチウムニッケル複合酸化物の容量が低下する。
ニッケル複合酸化物の組成は、最終的に得ようとするリチウムニッケル複合酸化物の組成から決定すればよい。前記一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を得るためには、一般式:Ni(1-y-z)MyNzO(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるニッケル複合酸化物を用いることが好ましい。
ここで、添加元素は、酸化焙焼により、ニッケル酸化物に固溶する。したがって、例えば、M元素およびN元素をニッケルと共沈させ、得られたニッケル複合水酸化物を酸化焙焼することにより、M元素およびN元素のいずれもが固溶しているニッケル複合酸化物が得られる。
ただし、N元素は上記ニッケル複合酸化物に固溶させる必要はなく、例えば、M元素をニッケルと共沈させ、得られたM元素含有のニッケル水酸化物を酸化焙焼することにより、M元素が固溶しているニッケル酸化物を得て、その後、ニッケル酸化物とN元素の酸化物を混合することにより、ニッケル複合酸化物を得てもよい。
すなわち、M元素については、酸化物として混合した場合、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との反応により生成したリチウムニッケル複合酸化物中への拡散が困難であるため、予め、原料であるニッケル複合酸化物中に固溶されていることが好ましい。
一方、組成式のN元素については、酸化物として混合した場合であっても、前述の反応中のリチウムニッケル複合酸化物中への拡散が容易であるため、共沈後の酸化焙焼により、ニッケル酸化物中へ均一に固溶させることが困難な場合には、酸化物として混合する。N元素を酸化物として混合する場合、組成を均一にするため、湿式中和法あるいは乾式法により、ニッケル複合酸化物表面へN元素の酸化物を付着させることが好ましい。なお、本明細書においては、かかるM元素が固溶しているニッケル酸化物とN元素の酸化物の混合物についても、ニッケル複合酸化物として定義されるものとする。
また、ニッケル複合酸化物の粒径は、5〜20μmとすることが好ましい。粒径が5μm未満であると、嵩高く充填性が低下し、20μmを超えると、電池とした時に、電解質との反応性が低下するため、好ましくない。
このようなニッケル複合酸化物を用いることで、得られたリチウムニッケル複合酸化物の電池特性を良好なものとすることができる。
[ニッケル複合酸化物と水酸化リチウムとの混合]
焼成工程の前に、上記のニッケル複合酸化物と、水酸化リチウムとを混合して、混合物を得る。水酸化リチウムとしては、原料の反応性、入手性、安定性を考慮して、水酸化リチウム一水和物を用いることが好ましい。
ニッケル複合酸化物と混合する水酸化リチウムの量は、得られるリチウムニッケル複合酸化物が、一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるものとなるようにすることが好ましい。
ここで、水酸化リチウムの混合量が少なく、xが0.9未満になると、電池性能を発揮するために必要なリチウムニッケル複合酸化物結晶の層状構造が十分発達せず、電池性能が悪化する。また、xが1.1を超えると、余剰のリチウムが、本来入るべきでない結晶中の位置に入ることで、結晶構造を歪め、電池性能を悪化させる。
混合方法としては、通常用いられる方法でよく、ニッケル複合酸化物と水酸化リチウムを固体状のまま各種粉体混合機で混合する方法、あるいは水酸化リチウムを水溶液としてニッケル複合酸化物と混合した後、乾燥する方法などが提案されている。
いずれの方法を用いてもよいが、固体状のまま混合する方法が容易であり、ニッケル複合酸化物と水酸化リチウムとを、シェーカーなどを用いてニッケル複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度で十分に混合してやればよい。
[焼成工程]
前記乾燥工程後の混合物を焼成することで、リチウムニッケル複合酸化物が得られる。焼成時の雰囲気は、酸素を十分に供給するため、酸素濃度を60容量%以上とすることが好ましく、酸素は、窒素あるいは不活性ガスと混合することが好ましい。60容量%未満では、酸素分圧が不足し、前述のような酸素不足の状態となり、リチウムニッケル複合酸化物の生成が不十分となることがある。
また、焼成温度としては、650〜800℃とすることが好ましい。650℃未満では、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶成長が、十分でなく電池性能に悪影響を与えることがある。また、800℃を超えると、得られるリチウムニッケル複合酸化物が分解を開始し、正極活物質として用いたときの電池反応時に、リチウムイオンの移動を妨げる結晶が混入し始め、電池性能の低下を招くことがある。
このとき、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度まで温度域、すなわち、450℃〜650℃の範囲における昇温時間の採り方は、特に限定されるものではなく、本温度域の任意の一定温度で保持してもよく、当該温度域を徐々に一定速度で昇温してもよく、いずれの場合であっても同一の効果が得られる。
焼成時間は、特に限定されるものではなく、焼成する混合物の質量と焼成温度を考慮して、リチウムニッケル複合酸化物の生成が十分に行なわれる時間とすればよい。本発明の条件によって乾燥した混合物を用いることで、焼成時間を短縮することができ、生産性を大幅に向上させることができる。
焼成に用いる炉は、雰囲気が制御できる各種の炉が使用可能であるが、排気ガスが発生することがない電気炉を用いることが好ましく、工業的生産においては、プッシャー炉やローラーハース炉などのように、連続的に焼成可能な炉を使用することが好ましい。
以下に、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例および比較例で得られたリチウムニッケル複合酸化物の初期充放電容量の測定方法は、下記の通りである。
[初期充放電容量]
実施例および比較例で作製されたリチウムニッケル複合酸化物を用いて、以下のように、図1に示す2032型のコイン電池を作製した。
まず、活物質粉末としてリチウムニッケル複合酸化物90質量部と、アセチレンブラック5質量部と、ポリフッカビニリデン(PVDF)5質量部とを混合し、さらに、n−メチルピロリドン(NMP)を添加してペースト化した。次に、これを厚さ20μmのアルミニウム箔上に、乾燥後の活物質質量が0.05g/cm2となるように塗布し、120℃の温度で真空乾燥を行なった。
その後、得られた乾燥物から直径1cmの円板を打ち抜いて、正極(1)とした。なお、負極(2)としては、リチウム金属を用いた。また、電解液としては、濃度1MのLiClO4を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業株式会社製)を用いて、電解液をポリエチレンからなるセパレータ(3)に染み込ませて用いた。なお、2032型のコイン電池作製は、露点が−80℃の温度に管理されたアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行なった。
以上の方法で作製された電池を用いて、充放電サイクル特性と熱的安定性による安全性の評価を行なった。作製された電池は、24時間程度放置し、閉回路電圧(OCV)が安定した後、評価に用いた。
初期充放電容量を調べる場合は、正極に対する電流密度を0.5mAとして、カットオフ電圧4.3V/3.0Vで充放電試験をおこなった。充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
ここで、初期充放電容量が低い場合、合成されたリチウムニッケル複合酸化物は、電池材料としての特性が劣ることを意味する。
[定焼成保持時間での電池容量の確認]
(実施例1)
共沈法により得たニッケル複合水酸化物を、空気中700℃で酸化焙焼して、コバルトとアルミニウムが固溶しているニッケル複合酸化物(Ni0.81Co0.15Al0.042)を得た。得られたニッケル複合酸化物50kgと、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)28.57kgを、攪拌混合機(株式会社徳寿工作所製、ジュリアミキサーJM75型)を使用して十分に混合して、混合物を得た。
得られた混合物5kgを、真空乾燥機(東京理科機械株式会社製、VOS301SD型)を用いて、60℃、24時間で乾燥した。なお、大気雰囲気から減圧したため、真空乾燥機内の炭酸ガス分圧は0.32Paとなった。
乾燥後の混合物100gを、真空乾燥を用いて200℃で8時間保持した後、再度、質量を測定し、保持前に対する保持後の質量減少率を求めたところ、0.1質量%であった。なお、乾燥時の真空度は−99kPa以上であった。
乾燥後の混合物を、内寸が縦275mm×横275mm×高さ95mmであるシリカアルミナ製のセラミック容器に、3kg充填した。その際の混合物の容器内での層厚は45mmであった。
セラミック容器に充填した混合物を、雰囲気が酸素70容量%−窒素に保持された炉(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製、ローラハースキルン)で焼成を行った。焼成時の温度パターンは、常温から750℃までを2時間かけて直線的に昇温後、750℃で8時間保持した。
焼成した後、冷却し、ピンミル(ホソカワミクロン株式会社製、250C型)で塊砕後、目開き50μmで篩い、リチウムニッケル複合酸化物を得た。
得られたリチウムニッケル複合酸化物について、組成分析および初期充放電容量を測定した。結果を表1に示す。
(実施例2)
炭酸ガス分圧が0.1Paの窒素気流中100℃、24時間で乾燥したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、1質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
(実施例3)
炭酸ガス吸収剤である酸化カルシウムを通して、炭酸ガス分圧を10Paとした空気気流中60℃、24時間で乾燥したこと、および、焼成時の保持時間を12時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、4質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
(実施例4)
共沈法により得たニッケル複合水酸化物を、空気中700℃で酸化焙焼して、コバルトを固溶した酸化ニッケル(Ni0.85Co0.152)10kgを得て、酸化チタン(TiO2)116gとビニール袋中で混合した後、かかる混合物と水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)5.74kgとを、攪拌混合機(株式会社徳寿工作所製、ジュリアミキサーJM75型)を使用して混合したこと、および、焼成時の雰囲気を酸素80容量%−窒素としたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、1質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
(実施例5)
炭酸ガス分圧が0.1Paの窒素気流中100℃、24時間で乾燥したこと、および、セラミック容器への充填量を4kgとしたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。その際の混合物の容器内での層厚は58mmであった。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、1質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
(比較例1)
混合物を乾燥しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、12質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
(比較例2)
炭酸ガス吸収剤である酸化カルシウムを通して、炭酸ガス分圧を10Paとした空気中60℃、12時間で乾燥させたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、8質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
(比較例3)
混合物の通常の空気中(炭酸ガス分圧:32Pa)で乾燥させたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、3質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
(比較例4)
空気中400℃で酸化焙焼したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に測定した。結果を表1に示す。
Figure 0005353125
表1より、本発明により製造されたリチウムニッケル複合酸化物は、電池の正極活物質として用いたときに、高い初期放電容量を有することがわかる。一方、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物の混合物を乾燥しなかった比較例1、真空中200℃で8時間保持した時の質量減少率が5質量%以下となるまで混合物を乾燥しなかった比較例2、および、炭酸ガス分圧が高い雰囲気で乾燥した比較例3は、いずれも実施例1と同様の条件で焼成を行なっても、初期放電容量が低いことがわかる。さらに、酸化焙焼温度が低い比較例4においても、初期放電容量が低いことがわかる。
[電池容量に及ぼす保持時間の影響]
(実施例6)
40℃で24時間乾燥乾燥したこと、混合物の充填量を4kgとしたこと、および、常温から750℃までを1時間かけて直線的に昇温したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。また、焼成時の保持時間を12、16、20時間として、同様にリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、1質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について、実施例1と同様に初期充放電容量を測定した。結果を表2に示す。
(実施例7)
乾燥時間を12時間としたこと以外は、実施例6と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、4質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について、実施例1と同様に初期充放電容量を測定した。結果を表2に示す。
(比較例5)
乾燥時間を6時間としたこと以外は、実施例6と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、8質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に初期充放電容量を測定した。結果を表2に示す。
(比較例6)
乾燥を行なわなかったこと以外は、実施例6と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。
実施例1と同様に質量減少率を求めたところ、12質量%であった。また、得られたリチウムニッケル複合酸化物について実施例1と同様に初期充放電容量を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0005353125
表2より、本発明の方法により製造されたリチウムニッケル複合酸化物は、焼成時に短時間の保持時間でも、電池の正極活物質として用いたときに高い初期放電容量を有することがわかる。真空中200℃で8時間保持した時の質量減少率が5質量%以下となるまで混合物を乾燥しなかった比較例5および6は、短時間の保持時間では初期放電容量が低く、実施例6および7と同様の初期放電容量を得るためには、比較例5においては16時間以上、比較例6においては20時間以上のように、保持時間を長くする必要があり、生産性が大幅に低下することがわかる。
2032型のコイン電池を示す断面図である。
符号の説明
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 ガスケット
5 正極缶
6 負極缶
B コイン電池

Claims (2)

  1. 一般式:Li x Ni (1-y-z) y z 2 (式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の製造方法であって、
    ニッケル複合水酸化物を、空気中、600℃〜900℃の温度で酸化焙焼して、ニッケル複合酸化物を得る酸化焙焼工程と、
    前記ニッケル複合酸化物と水酸化リチウムとを混合して混合物を得る混合工程と、
    炭酸ガス分圧が10Pa以下の雰囲気中で前記混合物を40℃〜200℃の温度で乾燥させて、真空中200℃で8時間保持した場合に、該混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにする乾燥工程と、
    前記乾燥後の混合物を、酸素含有量が60容量%以上である雰囲気中、650℃〜800℃で、焼成する焼成工程と
    を備えることを特徴とする、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
  2. 前記酸化焙焼工程において、前記M元素およびN元素を含むニッケル複合水酸化物を酸化焙焼して、該M元素およびN元素が固溶した状態で、前記ニッケル複合酸化物を得るか、あるいは、前記M元素を含むニッケル水酸化物を酸化焙焼して、該M元素が固溶しているニッケル酸化物を得て、さらに該ニッケル酸化物と前記N元素の酸化物とを混合して、前記ニッケル複合酸化物を得る、請求項に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
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