本発明のリチウムイオン二次電池は、負極の電位が0.05Vとなったときに前記一般式(1)で表される組成のリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質とする正極、および加熱により非水電解液を吸収して膨潤する膨潤性微粒子と耐熱性微粒子とを含み、厚みが3μm以上の多孔質層(A)と、耐熱性微粒子を主成分として含み、厚みが3μm以上の耐熱多孔質層(B)と、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)とを有するセパレータを使用する。
前記リチウムニッケル複合酸化物は、通常のNi系酸化物と同様に容量が大きく、電池の高容量化および高出力化に寄与する。また、前記リチウムニッケル複合酸化物は、通常のNi系酸化物よりも熱的安定性が高められている。よって、本発明の電池は、高出力化を図りつつ、正極活物質の熱的安定性が不十分な場合に生じ得る内部短絡時の熱暴走などの発生を抑制し、高い信頼性を確保することができる。
また、例えば、出力密度が1000W/kg以上の高出力電池においては、金属片などの混入異物や、電池が高温に曝されることによるセパレータの熱収縮や破膜などによる内部短絡が発生した際に、出力密度の低い電池よりも、短絡箇所に瞬時に大電流が集中して、熱暴走に至る危険性が高い。
本発明の電池は、電池の出力密度を1000W/kg以上としても、短絡時に短絡箇所に大電流が流れた場合に、セパレータの有する耐熱性微粒子を含有する耐熱多孔質層(B)が溶融または破壊することがないために短絡現象を極めて限局的とすることができ、また、異常発熱時においても、耐熱多孔質層(B)の存在によってセパレータの熱収縮率が大幅に低減されているために正負極間に生じる短絡を抑制できる。更に、本発明の電池に係るセパレータの耐熱性は、加熱により非水電解液を吸収して膨潤する膨潤性微粒子を含む多孔質層(A)の存在によっても向上する。
また、本発明の電池では、セパレータに係る多孔質層(A)に含まれる膨潤性微粒子の存在によって、電池内温度が異常に上昇した際の安全性および信頼性が更に向上する。すなわち、電池温度が上昇すると、多孔質層(A)中の膨潤性微粒子が電池内の非水電解液を吸収して膨潤するため、セパレータの空孔内部に存在する流動可能な非水電解液、およびセパレータと正極との界面に存在する非水電解液が減少することから、正極と非水電解液との間の熱暴走反応を抑制することができる。
更に、多孔質層(A)に含まれる膨潤性微粒子の割合を制御することで、負荷特性低下などの電池特性への影響も抑えることができる。
このように、本発明では、正極活物質として使用する前記リチウムニッケル複合酸化物による前記の作用と、セパレータによる前記の作用とによって、1000W/kg以上といった出力密度を備えつつ、優れた負荷特性および信頼性を有する電池の提供を可能としている。
本発明の電池に係るセパレータにおいて、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)(多孔質の樹脂膜)は、正極と負極の短絡を防止しつつ、イオンを透過するセパレータ本来の機能を有する層であり、多孔質層(A)は、セパレータに耐熱性を付与すると共に、正極と非水電解液との熱暴走反応を抑制する機能を付与する役割を担う層である。また、セパレータに係る耐熱多孔質層(B)は、セパレータに耐熱性を付与する役割を担う層である。
多孔質層(A)は、前記の通り、負荷特性の低下を抑えつつ、電池における正極と非水電解液との熱暴走反応を抑制する作用を有している。また、多孔質層(A)は、耐熱多孔質層(B)と共にセパレータを構成することで、セパレータの強度を高め、その破膜を抑制する作用も有しており、この作用によっても電池の信頼性が向上する。
多孔質層(A)に用いられる膨潤性微粒子は、加熱により非水電解液を吸収して膨潤する性質を有するものである。すなわち、膨潤性微粒子は、通常、電池が使用される温度領域(およそ70℃以下)では非水電解液を吸収しないか、またはその吸収量が限られており、膨潤の度合いが一定以下であるが、電池内が異常に発熱した際に非水電解液を吸収して大きく膨潤し、かつ温度上昇と共に膨潤度が増大する性質を有する樹脂によって形成された微粒子である。
このような特性の膨潤性微粒子を含有する多孔質層(A)を有するセパレータを用いた電池は、通常、電池が使用される温度領域においては、膨潤性微粒子に吸収されない流動可能な非水電解液がセパレータの空孔中に存在するため、セパレータ内部のLi(リチウム)イオンの伝導性が高くなり、良好な負荷特性を発揮し得るものとなる。また、この電池の内部が、膨潤性微粒子の膨潤度が増大する性質が発現する温度以上となった場合には、膨潤性微粒子が電池内の非水電解液を吸収して膨潤し、セパレータの空孔内に存在する流動可能な非水電解液、およびセパレータと正極との界面に存在する非水電解液が減少することにより、正極と非水電解液との間の熱暴走反応が抑制される。
膨潤性微粒子において、温度上昇に伴って膨潤度が増大する性質(以下、「熱膨潤性」という)を示し始める温度は、70℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましい。膨潤性微粒子が熱膨潤性を示し始める温度が低すぎると、通常の使用温度域における電池内でのLiイオンの伝導性が低くなりすぎて、機器の使用に支障をきたす場合が生じることがある。また、膨潤性微粒子が熱膨潤性を示し始める温度が高すぎると、電池内での正極と非水電解液との熱暴走反応の抑制作用が発現する温度が高くなりすぎて、電池の安全性および信頼性の向上効果が小さくなる虞がある。よって、膨潤性微粒子において、熱膨潤性を示し始める温度は、150℃以下であることが好ましく、145℃以下であることがより好ましい。
多孔質層(A)の含有する膨潤性微粒子としては、25℃において測定される非水電解液(電池の有する非水電解液)の吸液量が、膨潤性微粒子1gあたり、1.5ml以下であることが好ましく、1ml以下であることがより好ましい。
膨潤性微粒子が温度上昇により膨潤するメカニズムについては、詳細は明らかではないが、例えば、膨潤性微粒子の一例として挙げられる架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)では、粒子の主体をなすPMMAのガラス転移点(Tg)が100℃付近にあるため、100℃付近になった際に架橋PMMA粒子が柔軟になって、より多くの非水電解液を吸収して膨潤するといったメカニズムが考えられる。よって、膨潤性微粒子のTgは、例えば80〜130℃であることが好ましいと考えられる。そして、膨潤性微粒子は、130℃において測定される非水電解液(電池の有する非水電解液)の吸液量が、膨潤性微粒子1gあたり、2ml以上であることが好ましい。
本明細書でいう「膨潤性微粒子1gあたりの非水電解液の吸液量」は、具体的には、後述する実施例で用いた方法により測定される値である。また、膨潤性微粒子のTgは、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される値である。
膨潤性微粒子を構成する材料は、耐熱性および電気絶縁性を有しており、非水電解液に対して安定であり、更に、電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定な材料が好ましく、そのような材料としては、例えば、樹脂架橋体が挙げられる。より具体的には、スチレン樹脂[ポリスチレン(PS)など]、SBR、アクリル樹脂(PMMAなど)、ポリアルキレンオキシド[ポリエチレンオキシド(PEO)など]、フッ素樹脂(PVDFなど)、およびこれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂の架橋体;尿素樹脂;ポリウレタン;などが例示できる。膨潤性微粒子には、前記例示の樹脂を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、膨潤性微粒子は、必要に応じて、樹脂に添加される公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤などを含有していても構わない。
前記の構成材料の中でも、スチレン樹脂架橋体、アクリル樹脂架橋体およびフッ素樹脂架橋体が好ましく、架橋PMMAが特に好ましい。
膨潤性微粒子は、大きすぎると、多孔質層(A)を薄く形成することが難しくなり、また、Liイオンの運動の障害となって電池の出力密度の向上効果や負荷特性の低下を抑制する効果が小さくなる虞があることから、その平均粒子径が、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。一方、膨潤性微粒子が小さすぎると、その表面積が大きくなるため、多孔質層(A)中での膨潤性微粒子の分散性が低下したり、膨潤性微粒子の付着水が増加して、電池内の水分量の制御が困難となる。電池内の水分量が多くなると、電池特性が低下する虞がある。よって、こうした問題の発生を抑えて、良好な特性の電池を構成し得るようにする観点から、膨潤性微粒子の平均粒子径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
本明細書でいう膨潤性微粒子および後記の耐熱性微粒子の平均粒子径は、レーザー散乱粒度分布計(例えば、HORIBA社製「LA−920」)を用い、微粒子を膨潤させたり溶解させたりしない媒体(例えば水)に分散させて測定した体積基準の積算分率における50%での粒径(D50)である。
多孔質層(A)における膨潤性微粒子の量は、多孔質層(A)の構成成分の全体積中、6体積%以上であり、10体積%以上であることが好ましく、45体積%以上であることがより好ましい。多孔質層(A)中の膨潤性微粒子の含有量を前記のようにすることで、電池発熱時の熱暴走反応を良好に抑制することができる。
ただし、多孔質層(A)が膨潤性微粒子を過度に含有すると、安全性および信頼性の向上は期待できる一方で、電池が使用される温度領域での非水電解液の吸収や、膨潤性微粒子同士の凝集によって多孔質層(A)の表面の平滑性が低下することによって生じる内部抵抗変化から、電池の負荷特性が低下する。また、多孔質層(A)には、膨潤性微粒子同士を結着したり多孔質層(A)と他の層[耐熱多孔質層(B)やポリオレフィン製の樹脂膜(C)]とを結着したりするためにバインダを含有させることが好ましい。このような観点から、多孔質層(A)における膨潤性微粒子の量は、多孔質層(A)の構成成分の全体積中、95体積%以下であり、70体積%以下であることが好ましい。
また、多孔質層(A)は、耐熱性微粒子も含有しており、これにより、多孔質層(A)中での膨潤性微粒子同士の凝集を抑えて、多孔質層(A)の表面を平滑にし、また、ひび割れの発生や多孔質層(A)内での各成分の分散が不均一になることを抑制する。
耐熱性微粒子における「耐熱性」とは、少なくとも150℃において変形などの形状変化が目視で確認されないことを意味している。耐熱性微粒子の有する耐熱性(耐熱温度)は、300℃以上であることがより好ましい。
耐熱性微粒子としては、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後述する非水電解液や、多孔質層(A)形成用組成物(溶媒を含む組成物)に用いる溶媒に安定であり、高温状態で非水電解液に溶解しないものであれば、特に制限はない。
このような耐熱性微粒子の具体例としては、例えば、酸化鉄、SiO2(シリカ)、Al2O3(アルミナ)、TiO2、BaTiO3、ZrO2などの酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイトなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物;などの無機微粒子が挙げられる。また、金属微粒子;SnO2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物微粒子;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質微粒子;などの導電性微粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、前記の電気絶縁性の耐熱性微粒子を構成する材料など)で表面処理することで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。耐熱性微粒子には、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。耐熱性微粒子としては、シリカ、アルミナ、ベーマイトがより好ましく、ベーマイトが特に好ましい。
耐熱性微粒子も、膨潤性微粒子と同様に、大きすぎると、多孔質層(A)を薄く形成することが難しくなり、また、Li(リチウム)イオンの運動の障害となって電池の出力密度の向上効果や負荷特性の低下を抑制する効果が小さくなる虞があることから、その平均粒子径が、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。一方、耐熱性微粒子が小さすぎると、その表面積が大きくなるため、多孔質層(A)中での耐熱性微粒子の分散性が低下したり、耐熱性微粒子の付着水が増加して、電池内の水分量の制御が困難となる。電池内の水分量が多くなると、電池特性が低下する虞がある。よって、こうした問題の発生を抑えて、良好な特性の電池を構成し得るようにする観点から、耐熱性微粒子の平均粒子径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
多孔質層(A)における耐熱性微粒子の量は、耐熱性微粒子の使用による前記の効果を良好に確保する観点から、多孔質層(A)の構成成分の全体積中、4体積%以上であることが好ましく、23体積%以上であることがより好ましい。ただし、多孔質層(A)中の耐熱性微粒子の量が多すぎると、例えば、膨潤性微粒子の量が少なくなって、これによる効果が小さくなる虞がある。よって、多孔質層(A)における耐熱性微粒子の量は、多孔質層(A)の構成成分の全体積中、88体積%以下であることが好ましく、45体積%以下であることがより好ましい。
多孔質層(A)には、膨潤性微粒子や耐熱性微粒子などの微粒子同士を結着したり、多孔質層(A)と他の層[耐熱多孔質層(B)やポリオレフィン製の樹脂膜(C)]とを接着したりする目的で、バインダを含有させることが好ましい。バインダとしては、多孔質層(A)の構成成分同士を良好に接着でき、電気化学的に安定で、更に非水電解液に対して安定であれば特に制限はない。具体的には、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの)、アクリレート共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの樹脂が挙げられ、また、これらの樹脂の一部に、非水電解液への溶解を防止するために架橋構造を導入したものも用いることができる。これらのバインダは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、架橋構造を有するアクリレート共重合体が特に好ましい。
多孔質層(A)におけるバインダの量は、バインダの使用による多孔質層(A)と他の層との接着性向上効果や、膨潤性微粒子や耐熱性微粒子などの微粒子同士の接着性向上効果をより良好に確保する観点から、膨潤性微粒子と耐熱性微粒子との合計100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましい。ただし、多孔質層(A)において、バインダの量が多すぎると、多孔質層(A)の空孔が塞がれて、負荷特性に代表される電池特性の低下を抑制する効果が小さくなる虞がある。よって、多孔質層(A)におけるバインダの量は、膨潤性微粒子と耐熱性微粒子との合計100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
多孔質層(A)の厚み[セパレータが多孔質層(A)を複数有する場合には、その合計厚み。多孔質層(A)の厚みについて、以下同じ。]は、電池発熱時の熱暴走反応を抑制する観点から、3μm以上であり、4.5μm以上であることが好ましい。ただし、多孔質層(A)が厚すぎると、セパレータの全厚みが大きくなってしまい、電池の負荷特性の低下を抑制する効果が小さくなったり、電池容量の向上が困難となったりする虞がある。よって、多孔質層(A)の厚みは、7μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましい。
耐熱多孔質層(B)は耐熱性微粒子を主成分として含むが、この耐熱性微粒子は、耐熱多孔質層(B)の主体となって、基材となるポリオレフィン製の樹脂膜(C)の熱収縮および破膜を防止する役割を担っている。また、電池内が異常に発熱し、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)が溶融した際にも、耐熱性微粒子を主成分として含む耐熱多孔質層(B)によって、正極と負極とが隔てられ、電池の信頼性が確保される。
すなわち、耐熱性微粒子を含有する耐熱多孔質層(B)を、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)の表面に形成してセパレータを構成することで、例えば100〜150℃といった高温下においても、セパレータはその形態を維持することができる。よって、この耐熱多孔質層(B)を備えることで、100〜150℃の温度で局部加熱しても、セパレータの破膜を抑えることができ、更にこの耐熱多孔質層(B)と多孔質層(A)とを備えることで、150〜200℃の温度で局部加熱を行っても、破膜が進行しないセパレータとすることができる。
耐熱性微粒子としては、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、更に後述する非水電解液や、耐熱多孔質層(B)形成用組成物(溶媒を含む組成物)に用いる溶媒に安定であり、高温状態で非水電解液に溶解しないものであれば、特に制限はない。具体的には、多孔質層(A)に使用可能なものとして例示した各種の耐熱性微粒子を使用することができ、それらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。耐熱多孔質層(B)に使用する耐熱性微粒子としては、耐熱温度が300℃以上のものが好ましく、シリカ、アルミナ、ベーマイトがより好ましく、ベーマイトが特に好ましい。
耐熱多孔質層(B)に使用する耐熱性微粒子は、大きすぎると、耐熱多孔質層(A)を薄く形成することが難しくなり、また、Li(リチウム)イオンの運動の障害となって電池の出力密度の向上効果や負荷特性の低下を抑制する効果が小さくなる虞があることから、その平均粒子径が、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。一方、耐熱性微粒子が小さすぎると、その表面積が大きくなるため、耐熱多孔質層(B)中での耐熱性微粒子の分散性が低下したり、耐熱性微粒子の付着水が増加して、電池内の水分量の制御が困難となる。電池内の水分量が多くなると、電池特性が低下する虞がある。よって、こうした問題の発生を抑えて、良好な特性の電池を構成し得るようにする観点から、耐熱性微粒子の平均粒子径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
耐熱多孔質層(B)は耐熱性微粒子を主成分として含むが、ここでいう「主成分として含む」とは、耐熱性微粒子を、耐熱多孔質層(B)の構成成分の全体積中、70体積%以上含むことを意味している。耐熱多孔質層(B)における耐熱性微粒子の量は、耐熱多孔質層(B)の構成成分の全体積中、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。耐熱多孔質層(B)中の耐熱性微粒子を前記のように高含有量とすることで、セパレータ全体の熱収縮を良好に抑制することができる。また、耐熱多孔質層(B)には、耐熱性微粒子同士を結着したり耐熱多孔質層(B)と他の層[多孔質層(A)やポリオレフィン製の樹脂膜(C)]とを結着したりするためにバインダを含有させることが好ましく、このような観点から、耐熱多孔質層(B)における耐熱性微粒子量の好適上限値は、例えば、耐熱多孔質層(B)の構成成分の全体積中、99体積%である。なお、耐熱多孔質層(B)における耐熱性微粒子の量を70体積%未満とすると、例えば、耐熱多孔質層(B)中のバインダ量を多くする必要が生じるが、その場合には耐熱多孔質層(B)の空孔がバインダによって埋められてしまい、例えばセパレータとしての機能を喪失する虞があり、また、開孔剤などを用いて多孔質化した場合には、耐熱性微粒子同士の間隔が大きくなりすぎて、熱収縮を抑制する効果が低下する虞がある。
耐熱多孔質層(B)には、耐熱性微粒子同士を結着したり、耐熱多孔質層(B)と他の層[多孔質層(A)やポリオレフィン製の樹脂膜(C)]とを接着したりする目的で、バインダを含有させることが好ましい。バインダには、耐熱多孔質層(A)に使用し得るものとして先に例示した各種バインダと同じものが使用でき、架橋構造を有するアクリレート共重合体が特に好ましい。
耐熱多孔質層(B)におけるバインダの量は、バインダの使用による耐熱多孔質層(B)と他の層との接着性向上効果や、耐熱性微粒子同士の接着性向上効果をより良好に確保する観点から、耐熱性微粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましい。ただし、耐熱多孔質層(B)において、バインダの量が多すぎると、耐熱多孔質層(B)の空孔が塞がれて、負荷特性に代表される電池特性の低下を抑制する効果が小さくなる虞がある。よって、耐熱多孔質層(B)におけるバインダの量は、耐熱性微粒子100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
また、耐熱多孔質層(B)は、多孔質層(A)に用いられるものとして先に例示した各種の膨潤性微粒子を含有させてもよい。ただし、耐熱多孔質層(B)における膨潤性微粒子の量が多いと、電池の安全性が損なわれることから、耐熱多孔質層(B)における膨潤性微粒子の量は、耐熱多孔質層(B)の構成成分の全体積中、6体積%未満であり、0体積%(すなわち、全く含まない)であることが最も好ましい。
耐熱多孔質層(B)の厚み[セパレータが耐熱多孔質層(B)を複数有する場合には、その合計厚み。耐熱多孔質層(B)の厚みについて、以下同じ。]は、セパレータの熱収縮を制御し、かつ導電性の異物が混入した場合における内部短絡による発火などを防止して、電池の信頼性を高める観点から、3μm以上であり、4.5μm以上であることが好ましい。ただし、耐熱多孔質層(B)が厚すぎると、セパレータの全厚みが大きくなってしまい、電池の負荷特性の低下を抑制する効果が小さくなったり、電池容量の向上が困難となったりする虞がある。よって、耐熱多孔質層(B)の厚みは、7μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましい。
セパレータに係る樹脂膜(C)を構成するポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン(PE);ポリプロピレン(PP);などが挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上のポリオレフィンを用いた樹脂膜(C)としては、例えば、PE層の両面にPP層を形成した3層構造のポリオレフィン製樹脂膜(多孔質膜)が挙げられる。これらのポリオレフィンは、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度が80〜180℃の熱可塑性樹脂であり、セパレータが、このようなポリオレフィンで構成された樹脂膜を有していることで、80〜180℃でポリオレフィンが軟化してセパレータの空孔が閉塞される、いわゆるシャットダウン特性を確保することができる。
ポリオレフィン製の樹脂膜(C)としては、例えば、従来から知られている溶剤抽出法や、乾式または湿式延伸法などにより形成された孔を多数有するイオン透過性の多孔質膜(電池のセパレータとして汎用されている微多孔膜)を用いることができる。
なお、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)においては、主成分となるポリオレフィンが、樹脂膜を構成する成分の全体積のうち、50体積%以上であることが好ましい。また、樹脂膜(C)におけるポリオレフィンの含有量は、シャットダウン特性をより良好に確保する観点から、例えば、下記のようであることがより好ましい。セパレータの全構成成分中におけるポリオレフィンの体積は、10体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましい。更に、ポリオレフィンの体積が、樹脂膜(C)の全構成成分中、70体積%以上であることがより好ましく、80体積%以上であることが更に好ましい(ポリオレフィンが100体積%であってもよい。)。更に、耐熱多孔質層(B)の空孔率が40〜70%であり、かつポリオレフィンの体積が、耐熱多孔質層(B)の空孔体積の50%以上であることが好ましい。
ポリオレフィン製の樹脂膜(C)の厚み[セパレータがポリオレフィン製の樹脂膜(C)を複数有する場合には、その合計厚み。ポリオレフィン製の樹脂膜(C)の厚みについて、以下同じ。]は、電池のシャットダウン特性を良好に確保する観点から、9μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましい。また、セパレータの全厚みを小さくして、電池の容量や出力密度をより向上させる観点から、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)の厚みは、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
セパレータの全厚みは、十分な強度を確保する観点から、18μm以上であることが好ましく、21μm以上であることがより好ましい。ただし、セパレータが厚すぎると、電池の高出力化の効果が小さくなる虞があることから、セパレータの全厚みは、46μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましい。
セパレータの空孔率としては、非水電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。なお、セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、下記(2)式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
P ={1−(m/t)/(Σai・ρi)}×100 (2)
ここで、前記式中、ai:全体の質量を1としたときの成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
更に、前記(2)式において、mを多孔質層(A)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを多孔質層(A)の厚み(cm)とすることで、前記(2)式を用いて多孔質層(A)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる多孔質層(A)の空孔率は、30〜75%であることが好ましい。
また、前記(2)式において、mを耐熱多孔質層(B)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tを耐熱多孔質層(B)の厚み(cm)とすることで、前記(2)式を用いて耐熱多孔質層(B)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められる耐熱多孔質層(B)の空孔率は、30〜75%であることが好ましい。
また、前記(2)式において、mをポリオレフィン製の樹脂膜(C)の単位面積あたりの質量(g/cm2)とし、tをポリオレフィン製の樹脂膜(C)の厚み(cm)とすることで、前記(2)式を用いてポリオレフィン製の樹脂膜(C)の空孔率:P(%)を求めることもできる。この方法により求められるポリオレフィン製の樹脂膜(C)の空孔率は、30〜70%であることが好ましい。
本発明に係るセパレータの熱収縮率は、150℃の温度雰囲気下に静置したときの熱収縮率が、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、0%であることが特に好ましい。セパレータの熱収縮率が大きすぎると、導電性異物が混入することによる内部短絡の発生時における問題の発生を抑制する効果が小さくなる虞がある。セパレータの前記熱収縮率は、セパレータを、これまで説明してきた構成とすることで確保することができる。
本明細書でいう「150℃の温度雰囲気下に静置したときのセパレータの熱収縮率」は、具体的には、後述する実施例で用いた方法により測定する。
また、本発明に係るセパレータは、直径0.3mmの金属棒の端面(先端)を押し当てて200℃で局部加熱を行った際に、セパレータに形成される孔の面積が、3.0mm2以下であることが好ましく、1.0mm2以下であることがより好ましい。前記の局部加熱を行った際に形成される孔の面積が大きいセパレータでは、導電性異物が混入することによる内部短絡の発生時における問題の発生を抑制する効果が小さくなる虞がある。これまで説明してきた構成のセパレータであれば、前記の局部加熱を行った際に形成される孔の面積が前記の値を満たすようになる。
セパレータの前記の局部加熱方法の詳細は、後述する実施例において説明する。
本発明に係るセパレータにおいて、多孔質層(A)を形成するには、例えば、多孔質層(A)を構成する膨潤性微粒子、耐熱性微粒子およびバインダなどを、水や有機溶媒といった媒体に分散させてスラリー状やペースト状の多孔質層(A)形成用組成物(バインダは、媒体に溶解していてもよい)を調製し、これをポリオレフィン製の樹脂膜(C)や耐熱多孔質層(B)の表面に塗布し、乾燥する方法を採用することができる。
また、耐熱多孔質層(B)を形成するには、例えば、耐熱多孔質層(B)を構成する耐熱性微粒子およびバインダなどを、水や有機溶媒といった媒体に分散させてスラリー状やペースト状の耐熱多孔質層(B)形成用組成物(バインダは、媒体に溶解していてもよい)を調製し、これをポリオレフィン製の樹脂膜(C)の表面に塗布し、乾燥する方法を採用することができる。
多孔質層(A)形成用組成物や耐熱多孔質層(B)形成用組成物を塗布するにあたっては、例えば、これらの組成物を公知の塗工装置により塗布する方法が採用できる。多孔質層(A)形成用組成物や耐熱多孔質層(B)形成用組成物を塗布する際に使用できる塗工装置としては、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースロールコーター、ダイコーターなどが挙げられる。
多孔質層(A)形成用組成物や耐熱多孔質層(B)形成用組成物に用いられる媒体は、耐熱性微粒子や膨潤性微粒子などを均一に分散でき、また、バインダを均一に溶解または分散できるものであればよいが、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類など、一般的な有機溶媒が好適に用いられる。なお、これらの媒体に、界面張力を制御する目的で、アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなどを適宜添加してもよい。また、バインダが水溶性である場合、エマルジョンとして使用する場合などでは、前記の通り水を媒体としてもよく、この際にもアルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を適宜加えて界面張力を制御することもできる。
多孔質層(A)形成用組成物および耐熱多孔質層(B)形成用組成物は、その固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
なお、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)には、多孔質層(A)や耐熱多孔質層(B)との接着性を高めるために、表面改質を行うことができる。ポリオレフィン製の樹脂膜(C)は、表面の接着性が一般に高くないため、表面改質が有効であることが多い。
ポリオレフィン製の樹脂膜(C)の表面改質方法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、紫外線照射処理などが挙げられる。なお、環境問題への対応の観点から、例えば多孔質層(A)形成用組成物や耐熱多孔質層(B)形成用組成物の媒体には水を用いることがより望ましく、このことからも、表面改質によって、樹脂膜(C)表面の親水性を高めておくことは非常に好ましい。
本発明に係るセパレータは、耐熱多孔質層(A)、多孔質層(B)およびポリオレフィン製の樹脂膜(C)を有していればよく、これらの層のうちの1種以上が複数層含まれていてもよい。
なお、前記の通り、本発明のセパレータは、少なくともポリオレフィン製の微多孔膜(C)の表面に耐熱多孔質層(B)が形成されているが、多孔質層(A)の形成箇所については特に制限はない。すなわち、本発明のセパレータは、多孔質層(A)、耐熱多孔質層(B)およびポリオレフィン製の微多孔膜(C)の三層から構成される場合、典型的には、ポリオレフィン製の微多孔膜の片面に多孔質層(A)を、他面に耐熱多孔質層(B)を有する構造とすることができ、また、ポリオレフィン製の微多孔膜(C)、耐熱多孔質層(B)、多孔質層(A)の順に積層された構造とすることもできる。なお、耐熱多孔質層(B)の表面に多孔質層(A)が形成される場合、多孔質層(A)と耐熱多孔質層(B)との界面が不明瞭であってもよく、例えば、厚み方向に膨潤性微粒子と耐熱性微粒子との組成が連続的に変化しており、ポリオレフィン製の樹脂膜(C)側では耐熱多孔質層(A)としての構成を取り、その反対側では多孔質層(A)の構成を取る多孔質層であってもよい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、出力密度が、1000W/kg以上であり、1200W/kg以上であることが好ましい。本発明の電池が主要な用途として想定している自動車用途や電動工具の電源用途においては、高い出力密度が要求され、出力密度が1000W/kg未満の場合には出力不足となり、こうした用途に適用し難くなる。
なお、本発明の電池における出力密度は、以下の方法により測定される値である。まず、電池を定格容量まで充電後(すなわち、満充電状態とした後)、所定の電流で11秒間放電する。放電電流は、1A、3A、5Aおよび10Aとする。そして、それぞれの放電時に、放電開始から10秒後の電池電圧を測定する。前記の各放電電流値を横軸に、電池電圧値を縦軸にプロットし、前記4点を結ぶ近似曲線から、所定の下限電圧時の電流値を算出する。そして、この下限電圧時のときの電流値と電圧(下限電圧)の積とから出力を求め、電池質量で規格化した値を出力密度とする。
本発明のリチウムイオン二次電池では、正極活物質を含有する正極合剤層を集電体の片面または両面に有する正極を用いるが、前記正極活物質として、電池に係る負極の電位が0.05Vになったときに、前記一般式(1)で表される組成のリチウムニッケル複合酸化物を使用する。このような正極活物質の使用によって、電池の出力密度を前記のように高い値とすることができる。なお、a値、x値、y値およびz値が、前記一般式(1)における規定値を満たさない場合には、かかるリチウムニッケル複合酸化物を使用した電池において、信頼性の低下や容量低下を招く虞がある。
特定の金属元素について定量測定するには、一般に、誘導結合プラズマ(ICP)分析が有効とされている。本発明に係る前記リチウムニッケル複合酸化物においても、前記一般式(1)の組成を満たすことは、ICP分析によって各金属元素量を測定することで確認する。
正極は、例えば、正極活物質、導電助剤および結着剤などを含有する正極合剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの溶剤に混練するなどして分散(結着剤は溶剤に溶解していてもよい)させて調製した正極合剤含有組成物(スラリーなど)を、アルミニウム箔などからなる集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に必要に応じて圧縮成形を行い、更に必要に応じて所望の大きさに裁断する工程を経て製造することができる。なお、前記正極合剤に含有させるリチウムニッケル複合酸化物には、LiNixMnyMzO2(前記一般式中、Mは、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ge、Sn、MgおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、x+y+z=1、x≧y>0、x≧z>0)で表される組成のものを使用する。このような組成のリチウムニッケル複合酸化物を使用し、好ましくは、後述するように、正極に係る正極合剤層の質量を、正極集電体の片面あたり11.6〜15.8mg/cm2とし、負極に係る負極合剤層の質量を、負極集電体の片面あたり4.0mg/cm2以上(好ましくは6.0mg/cm2以下)とすることで、電池に係る負極の電位が0.05Vになったときに、リチウムニッケル複合酸化物が前記一般式(1)で表される組成となる。
また、正極活物質には、電池に係る負極の電位が0.05Vになったときに、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル複合酸化物とともに、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な他の活物質を併用することもできる。このような他の活物質としては、Li1+xMO2(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mn、Al、Mg、Zr、Ti、Snなど)の一般式で代表される層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMn2O4やその元素の一部を他元素で置換したスピネル構造のリチウムマンガン酸化物、LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Feなど)で表されるオリビン型化合物などが挙げられる。なお、前記層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物の具体例としては、LiCoO2やLiNi1−xCox−yAlyO2(0.1≦x≦0.3、0.01≦y≦0.2)などのほか、少なくともCo、NiおよびMnを含む酸化物(LiMn1/3Ni1/3Co1/3O2、LiMn5/12Ni5/12Co1/6O2、LiNi3/5Mn1/5Co1/5O2など)などを例示することができる。
なお、正極活物質に、電池に係る負極の電位が0.05Vになったときに、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、他の活物質とを併用する場合には、前記リチウムニッケル複合酸化物の使用による効果を良好に確保する観点から、正極活物質全量中の前記リチウムニッケル複合酸化物の量を、50〜80質量%とすることが好ましい。
正極の導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維などの炭素材料などが挙げられる。また、正極の結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。
正極の正極合剤層における組成は、例えば、正極活物質が82〜90質量%であることが好ましく、導電助剤が10.3〜11.4質量%であることが好ましく、結着剤が2.9〜3.2質量%であることが好ましい。また、正極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、18〜40μmであることが好ましい。更に、正極集電体の厚みは、15〜20μmであることが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池では、負極活物質として天然黒鉛、メソフェーズカーボン、非晶質カーボンなどの炭素材料を含有する負極合剤層を集電体の片面または両面に有する負極を使用する。
負極は、例えば、負極活物質および結着剤、更には必要に応じて導電助剤などを含有する負極合剤を、NMPなどの溶剤に混練するなどして分散(結着剤は溶剤に溶解していてもよい)させて調製した負極合剤含有組成物(スラリーなど)を、銅箔などからなる集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後に必要に応じて圧縮成形を行い、更に応じて所望の大きさに裁断する工程を経て製造することができる。
また、負極の結着剤および導電助剤としては、正極に使用し得るものとして先に例示した各種結着剤および各種導電助剤と同じものを使用することができる。
負極の負極合剤層における組成は、例えば、炭素材料が86〜95質量%であることが好ましく、結着剤が5〜6質量%であることが好ましい。また、導電助剤を使用する場合、負極合剤層における導電助剤の量は、4〜5質量%であることが好ましい。更に、負極合剤層の厚みは、集電体の片面あたり、20〜45μmであることが好ましい。また、負極集電体の厚みは、7〜10μmであることが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、前記の正極と前記の負極とを、前記のセパレータを介して重ね合わせた積層電極体や、更にこれを渦巻状に巻回した巻回電極体を、電池容器内に挿入し、乾燥空気中または不活性ガス雰囲気中の作業容器内において、電池容器内に非水電解液を注入した後電池容器を封止する工程を経て製造される。電池容器には、SUS製、アルミニウム製などの電池缶や、アルミニウムラミネートフィルムからなるラミネートフィルム外装体などを使用することができる。
なお、電池を構成するにあたっては、負極活物質が吸蔵可能なLiの量を基準に、実際に吸蔵させる量が100%以下であることが好ましい。この値を上回ると、Liが完全に負極に吸蔵されずに残存し、Liデンドライトの発生などの問題を引き起こす虞がある。前記一般式(1)における0.4≦a≦0.7を満たすには、正極に係る正極合剤層の質量を、正極集電体の片面あたり11.6〜15.8mg/cm2とし、負極に係る負極合剤層の質量を、負極集電体の片面あたり4.0mg/cm2以上(好ましくは6.0mg/cm2以下)とすることで、吸蔵させるLiの全てが負極に吸蔵可能となる。ちなみに、後記の実施例では、負極合剤層の質量を一定(負極集電体の片面あたり5.0mg/cm2)とし、正極合剤層の質量を変えることで、リチウムニッケル複合酸化物におけるLi量を変化させた。
非水電解液には、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイト、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの1種のみからなる有機溶媒、または2種以上の混合溶媒に、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li2C2F4(SO3)2、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiCnF2n+1SO3(n≧2)、LiN(RfOSO2)2〔ここで、Rfはフルオロアルキル基〕などのリチウム塩から選ばれる少なくとも1種を溶解させることによって調製したものが使用される。このリチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、自動車用途や電動工具の電源用途など、特に高出力であることが要求される用途に好適である他、各種電子機器の電源用途など、従来から知られているリチウムイオン二次電池が用いられている各種用途と同じ用途にも適用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
実施例1
<セパレータの作製>
水1000g中に、耐熱性微粒子である多面体形状のベーマイト合成品(アスペクト比1.4、D50=0.63μm)1000gと、バインダであるアクリレート共重合体(モノマー成分としてブチルアクリレートを主成分とする市販のアクリレート共重合体;耐熱性微粒子100質量部に対して6質量部)とを、スリーワンモーターを用いて1時間攪拌して分散させて、均一な耐熱多孔質層(B)形成用組成物を調製した。
前記の耐熱多孔質層(B)形成用組成物を二つに分け、一方には、膨潤性微粒子である架橋PMMA微粒子の水分散体(固形分比率40質量%)を、組成物中のベーマイト合成品と、架橋PMMA微粒子との比率が体積比で90:10になるように加え、均一に分散させて多孔質層(A)形成用組成物を調製した。なお、多孔質層(A)形成用組成物の調製に用いた架橋PMMA微粒子は、D50=0.5μm、Tg=105℃、25℃における非水電解液の吸収量が微粒子1gあたり0.7ml、130℃における非水電解液の吸収量が微粒子1gあたり2.0mlである。
架橋PMMA微粒子の25℃における非水電解液の吸収量は、以下のようにして求めた。前記の架橋PMMA微粒子の水分散体を1日常温乾燥させた後、乾燥体を乳鉢および乳棒を用いて十分に粉砕して乾燥粉末とした。この乾燥粉末0.3gをガラス製容器に入れ、ここに、非水電解液(実施例1の電池の作製に使用したものと同じ非水電解液)5mlを加え、前記乾燥粉末を非水電解液中に25℃で24時間浸漬させた。その後25μm金属メッシュで濾過して粉末と非水電解液とを分離し、得られた非水電解液(前記乾燥粉末に吸収されなかった非水電解液)の量を測定し、前記ガラス製容器に入れた非水電解液の量との差から、架橋PMMA微粒子の25℃における非水電解液の吸収量を求めた。
また、架橋PMMA微粒子の130℃における非水電解液の吸収量は、以下のようにして求めた。25℃での吸収量測定の場合と同様にして得られた架橋PMMA微粒子の乾燥粉末0.3gをガラス製容器に入れ、ここに、非水電解液(実施例1の電池の作製に使用したものと同じ非水電解液)5mlを加え、前記乾燥粉末を非水電解液中に25℃で24時間浸漬させた。その後、ガラス製容器内の非水電解液を130℃に加熱し、130℃に保った状態で25μm金属メッシュで濾過して粉末と非水電解液とを分離し、得られた非水電解液(前記乾燥粉末に吸収されなかった非水電解液)の量を測定し、前記ガラス製容器に入れた非水電解液の量との差から、架橋PMMA微粒子の130℃における非水電解液の吸収量を求めた。
なお、前記の方法による25℃の吸収量測定および130℃の吸収量測定では、濾過に伴う非水電解液のロスや、加熱時の非水電解液溶媒の揮発によるロス(130℃の吸収量測定の場合)が生じ得る。よって、前記の各吸収量は、いずれも、予め非水電解液のみについて前記の各操作を行って測定したロス量を用いて補正した値である。
また、セパレータ用のポリオレフィン製の樹脂膜(C)として、厚みが16μm、空孔率が40%で、PE層の両面にPP層を有する三層構造のPP/PE/PP製微多孔膜を用意し、その両面にコロナ放電処理を施した。そして、PP/PE/PP製微多孔膜の片面に耐熱多孔質層(B)形成用組成物を、ダイコーターを用いて、乾燥後の厚みが5.0μmになるように均一に塗布し、乾燥して耐熱多孔質層(B)を形成した。また、PP/PE/PP製微多孔膜のもう一方の表面に、多孔質層(A)形成用組成物を、ダイコーターを用いて、乾燥後の厚みが5.0μmになるように均一に塗布し、乾燥して多孔質層(A)を形成し、セパレータを得た。
前記のセパレータに係る耐熱多孔質層(B)では、ベーマイトの比重を3g/cm3、バインダの比重を1g/cm3として算出した耐熱性微粒子の体積比率が、85体積%であり、多孔質層(A)では、前記のベーマイトの比重およびバインダの比重を用い、更に架橋PMMAの比重を1g/cm3として算出した膨潤性微粒子の体積比率が9体積%、耐熱性微粒子の体積比率が77体積%であった。
<正極の作製>
正極活物質であるLiNi0.6Mn0.2Co0.2O2:86.2質量%と、導電助剤である黒鉛:9.0質量%およびアセチレンブラック:1.8質量%とを混合し、ここに、正極活物質、導電助剤および結着剤からなる正極合剤中において3質量%となる量のPVDF(結着剤)を含むNMP溶液を加え、よく混練して正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚みが20μmのアルミニウム箔の両面に、乾燥後の正極合剤層の質量が、正極集電体の片面あたり11.6mg/cm2となる量で前記のスラリーを均一に塗布し、その後80℃で乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して正極を得た。なお、正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するようにした。前記正極の正極合剤層の厚みは、集電体(アルミニウム箔)の片面あたり、26μmであった。
前記の正極を、正極合剤層の大きさが800mm×48mmで、かつアルミニウム箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのアルミニウム製リード片を、アルミニウム箔の露出部に溶接した。
<負極の作製>
負極活物質である天然黒鉛:90質量%と、導電助剤であるアセチレンブラック:4.7質量%とを混合し、ここに、負極活物質、導電助剤および結着剤からなる負極合剤中において5.3質量%となる量のPVDF(結着剤)を含むNMP溶液を加え、よく混練して負極合剤含有スラリーを調製した。負極集電体となる厚みが20μmの圧延銅箔の両面に、乾燥後の負極合剤層の質量が、負極集電体の片面あたり5.0mg/cm2となる量で前記のスラリーを均一に塗布し、その後80℃で乾燥し、更にロールプレス機で圧縮成形して負極を得た。なお、負極合剤含有スラリーを圧延銅箔に塗布する際には、圧延銅箔の一部が露出するようにした。前記負極の負極合剤層の厚みは、集電体(圧延銅箔)の片面あたり、21μmであった。
前記の負極を、負極合剤層の大きさが850mm×52mmで、かつ圧延銅箔の露出部を含むように裁断し、更に、電流を取り出すためのニッケル製リード片を、圧延銅箔の露出部に溶接した。
<電池の組み立て>
前記の正極と前記の負極とを、前記のセパレータを、その多孔質層(B)が正極と対向するように介在させつつ重ね合わせ、渦巻状に巻回して巻回電極体とした。この巻回電極体を、アルミニウムラミネートフィルム外装体に挿入し、非水電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとを2:4:4の体積比で混合した溶媒に、LiPF6を1mon/lの濃度で溶解させた溶液)を外装体内に注入した後に、外装体の開口部を熱融着して、長さ65mm、直径18mmの円筒形の巻回電極体を内部に有するラミネート形リチウムイオン二次電池を作製した。得られた電池の定格容量は1080mAhであった。
また、25℃の環境下で、電池を1/3Cの電流値(330mA)で充電して、負極の電位が0.05Vとなったときに、前記の方法により求めた正極活物質の組成は、Li0.3Ni0.6Mn0.2Co0.2O2[前記一般式(1)におけるa=0.7、x=0.6、y=0.2、z=0.2]であった。
実施例2
ベーマイト合成品と架橋PMMA微粒子との比率が、体積比で50:50となるようにした以外は実施例1と同様にして多孔質層(A)形成用組成物を調製し、この多孔質層(A)形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。このセパレータに係る多孔質層(A)では、ベーマイトの比重を3g/cm3、バインダの比重を1g/cm3、架橋PMMAの比重を1g/cm3として算出した膨潤性微粒子の体積比率が46体積%、耐熱性微粒子の体積比率が46体積%であった。
そして、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてラミネート形リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の定格容量および負極の電位が0.05Vとなったときの正極活物質の組成は、実施例1の電池と同じである。
比較例1
実施例1で用いたものと同じ架橋PMMA微粒子の水分散体を1000gに、実施例1で用いたものと同じバインダを、膨潤性微粒子100質量部に対して5質量部の量で加え、スリーワンモーターを用いて1時間攪拌して分散させ、多孔質層(A)形成用組成物を調製した。
前記の多孔質層(A)形成用組成物を用いた以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。このセパレータに係る多孔質層(A)では、バインダの比重を1g/cm3、架橋PMMAの比重を1g/cm3として算出した膨潤性微粒子の体積比率が、95体積%であった。
そして、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてラミネート形リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の定格容量および負極の電位が0.05Vとなったときの正極活物質の組成は、実施例1の電池と同じである。
比較例2
正極合剤層の質量を、正極集電体の片面あたり10.5mg/cm2に変更した以外は、実施例1と同様にしてラミネート形リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の定格容量は1200mAhであった。また、実施例1の電池と同様にして求めた負極の電位が0.05Vとなったときの正極活物質の組成は、Li0.2Ni0.6Mn0.2Co0.2O2[前記一般式(1)におけるa=0.8、x=0.6、y=0.2、z=0.2]であった。
比較例3
正極合剤層の質量を、正極集電体の片面あたり10.5mg/cm2に変更した以外は、実施例2と同様にしてラミネート形リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の定格容量は1200mAhであった。また、実施例1の電池と同様にして求めた負極の電位が0.05Vとなったときの正極活物質の組成は、Li0.2Ni0.6Mn0.2Co0.2O2[前記一般式(1)におけるa=0.8、x=0.6、y=0.2、z=0.2]であった。
比較例4
多孔質層(A)を形成しない以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製した。そして、このセパレータを用い、耐熱多孔質層(B)が正極と対向するようにした以外は、実施例1と同様にしてラミネート形リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の定格容量および負極の電位が0.05Vとなったときの正極活物質の組成は、実施例1の電池と同じである。
比較例5
耐熱多孔質層(B)を形成しない以外は、実施例1と同様にしてセパレータを作製し、このセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてラミネート形リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の定格容量および負極の電位が0.05Vとなったときの正極活物質の組成は、実施例1の電池と同じである。
実施例および比較例の電池、並びに、これらの電池に用いたセパレータについて、以下の各評価を行った。これらの結果を表1に示す。
<セパレータの熱収縮率測定>
セパレータを縦5cm、横10cmの長方形に切り取り、黒インクで縦方向に平行に3cm、横方向に平行に3cmの十字線を描いた。なお、セパレータを長方形に切り取るにあたっては、その縦方向が、セパレータを構成する樹脂膜(C)の機械方向(MD)となるようにし、前記十字線は、その交点が、セパレータ片の中心となるようにした。その後、セパレータ片を恒温槽に吊るし、槽内温度を5℃/分の割合で150℃まで上昇させ、更に150℃で1時間温度を保った。その後、セパレータ片を取り出して冷却した後、十字線のうちのより短い方の長さd(mm)を計測し、下記式によって熱収縮率(%)を算出した。
熱収縮率 = 100×(30−d)/30
<セパレータの局部加熱により形成される孔の面積測定>
セパレータを縦6cm、横5cmの長方形に切り取り、その片面中央部に、先端の直径が0.3mmのペン先状の金属を設置した。更に、セパレータの他面中央部に、パーソナルコンピューターに接続されたデジタル顕微鏡カメラを設置した。前記ペン先状の金属を4℃/secの速度で200℃まで加熱してセパレータを局部加熱し、その際のセパレータの状態変化を前記デジタル顕微鏡カメラおよびパーソナルコンピューターで録画した。そして、録画データについて画像解析を行って、セパレータに形成された孔の面積を測定した。なお、顕微鏡にはサンコー社製「DILITE01−DinoLite USB接続デジタルカメラ」を、熱源にはgoot社製「ハイパワーミニステーション70W静電対策PX−251AS」を使用した。
<出力密度測定>
各電池を定格容量まで充電後、所定の電流で11秒間放電した。放電電流は、1A、3A、5Aおよび10Aとした。そして、それぞれの放電時に、放電開始から10秒後の電池電圧を測定した。前記の各放電電流値を横軸に、電池電圧値を縦軸にプロットし、前記4点を結ぶ近似曲線から、下限電圧2.8Vの時の電流値を算出した。そして、この下限電圧(2.8V)のときの電流値と電圧2.8Vの積とから出力を求め、電池質量(0.041kg)で規格化した値を出力密度とした。
<負荷特性測定>
各電池について、定格容量に対して電流値1/2C(1mA)で4.2Vまで充電した後、所定電流値で3.0Vまで放電して、各電流値での放電容量を測定した。なお、放電電流値は1/2Cと10Cとした。そして、1/2Cでの放電容量に対する10Cでの放電容量の比を百分率で表して、容量維持率を求めた。この容量維持率が大きいほど、電池の負荷特性が良好であるといえる。
<内部短絡試験>
定格容量まで充電した各電池の、中央側面の近傍に熱電対をテープでとめ、更に厚み6mmのグラスウールを巻きつけ、直径30mmの円筒形のラミネートで外装し、電池を断熱状態にした。また、試験時の電池の電圧および表面温度をモニタリングした。そして、20℃で、充電状態の電池の中央から、直径3mmのステンレス製の釘を1mm/secの速度で突き刺した。そして、短絡による電圧降下が観測された時点で釘の降下を停止して保持し、その後の電池表面の最高温度を測定した。また、釘の停止から電池表面の最高温度に達するまでの時間を求め、その到達速度を算出した。
表1に示す通り、適正な組成のリチウムニッケル複合酸化物を含有する正極と、適正な構成のセパレータとを有する実施例1、2のリチウムイオン二次電池は、負荷特性が良好であり、また、内部短絡試験時における表面最高温度が抑えられており、当該温度への到達速度も緩やかであり、安全性および信頼性が優れている。
これに対し、耐熱性微粒子を含有しない多孔質層(A)を有するセパレータを使用した比較例1の電池は、負荷特性が劣っている。また、組成が不適なリチウムニッケル複合酸化物を含有する正極を用いた比較例2、3の電池、および多孔質層(A)を持たないセパレータを使用した比較例4の電池は、内部短絡試験時における表面最高温度が高く、しかも、当該温度への到達速度も大きく、実施例の電池に比べて安全性および信頼性が劣っている。更に、耐熱多孔質層(B)を持たないセパレータを使用した比較例5の電池は、負荷特性が劣っており、また、内部短絡試験時における表面最高温度が高く、実施例の電池に比べて安全性および信頼性が劣っている。