JP5344874B2 - ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、体積平均粒径が非常に小さく、保存安定性に優れたポリエステル樹脂水性分散体に関する。また、本発明は、特殊な機械を用いることなく、省エネルギーで容易に、前記ポリエステル樹脂水性分散体を製造する方法に関する。
従来、ポリエステル樹脂は被膜形成用樹脂として用いられている。特に、被膜の加工性、有機溶剤に対する耐性(耐溶剤性)、耐候性に優れ、同時にPET、PBT、塩化ビニル、各種金属等の成形品やフィルムなど、さまざまな基材への密着性にも優れていることから、こうした基材に対する塗料、インキ、接着剤、コーティング剤等に用いる樹脂として、有機溶剤に溶解したものが非常に多く使用されている。
また、近年、環境保護、消防法による危険物規制、職場環境の改善等の理由で、有機溶剤の使用が抑制される傾向にあるため、前記用途に使用できるポリエステル樹脂を、水性媒体に微分散させた、ポリエステル樹脂水性分散体が求められるようになり、その開発が盛んにおこなわれている。
たとえば、ポリエステル樹脂のカルボキシル基を塩基性化合物で中和することにより水性媒体中に分散させたポリエステル樹脂水性分散体が提案されており、かかる水性分散体を用いると加工性、耐水性、耐溶剤性等の性能に優れた被膜を形成できることが開示されている。特に、ポリエステル樹脂の中でも、アルコール成分として1,2−プロパンジオールを使用すると、樹脂被膜の耐候性が向上し、インキやコーティング剤としての工業的な利用価値が高いことが知られている。(特許文献1、2)
特開2002−173582号公報 特開2008−024726号公報
6ヶ月程度の長期間にわたる保存安定性を確保するためには、ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径を、例えば50nm以下とすることが好ましい。しかしながら、前記の特許文献に記載されたポリエステル樹脂水性分散体の製造方法では、前記のようなレベルの体積平均粒径を達成するために、分散工程において、高いせん断力を与える、高速回転速度の攪拌が可能な大掛かりな装置を使用する必要があり、また、このような装置を用いて高速回転速度で攪拌するため、多大なエネルギーを消費する。
このような状況下、本発明の課題は、保存安定性に優れる小粒径のポリエステル樹脂水性分散体を、特殊な機械を用いることなく、省エネルギーで容易に得ることのできる製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の要旨は、酸価が2〜40mgKOH/gであり、かつアルコール成分として1,2−プロパンジオールを70モル%以上含有しているポリエステル樹脂を有機溶剤および塩基性化合物とともに水性媒体に分散させる分散工程を含む自己乳化型の水性分散体の製造方法であって、前記工程において反応槽の攪拌の回転速度を500rpm以下とすること特徴とするポリエステル樹脂水性分散体の製造方法である。
本発明の製造方法によれば、1,2−プロパンジオールをアルコール成分中に70モル%以上含有する体積平均粒径50nm以下のポリエステル樹脂水性分散体を、特殊な機械を用いることなく、省エネルギーで、生産効率よく製造することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
はじめに、本発明におけるポリエステル樹脂の構成成分について説明する。
本発明においては、ポリエステル樹脂として、そのアルコール成分中に1,2−プロパンジオールを70モル%以上含有しているものを使用する。1,2−プロパンジオールは特に、樹脂被膜の耐候性を向上させる。1,2−プロパンジオールの含有量が70モル%未満の場合には、前記被膜特性が低下するほか、本発明の製造方法を適用しても得られるポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径が大きくなる場合がある。しかも、分散工程後の濾過残渣が多くなる傾向がある。
1,2−プロパンジオールの他に用いることのできるポリエステル樹脂のアルコール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール、3官能以上のアルコール等、末端に2個以上のヒドロキシル基を有するポリアルコールが挙げられる。脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオールなどが挙げられ、脂環族グリコールとしては、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられ、エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。また、3官能以上のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。さらに、ポリアルコールとしては、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールA)のエチレンオキシド付加体やビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールS)のエチレンオキシド付加体等も使用することができる。
ポリエステル樹脂を構成する酸成分としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。また、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの3官能以上のカルボン酸を用いることもできる。
酸成分としては、水性分散体から形成される樹脂被膜の、硬度、耐水性、耐溶剤性、加工性などが向上するという理由から、芳香族ジカルボン酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸としては、工業的に多量に生産されており、安価であることから、テレフタル酸やイソフタル酸が好ましい。
ポリエステル樹脂の構成成分には、モノカルボン酸、モノアルコール、ヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール、ε−カプロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキシド付加体などが挙げられる。また、3官能以上のポリオキシカルボン酸が共重合されていてもよく、たとえば、リンゴ酸、グリセリン酸、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
ポリエステル樹脂の成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など、カルボキシル基やヒドロキシル基以外の親水性基を有するポリカルボン酸等も使用することができるが、水性分散体より形成される樹脂被膜の耐水性が悪くなる傾向にあるので、使用にあたっては注意が必要である。
ポリエステル樹脂の酸価は2〜40mgKOH/gであることが必要である。酸価が40mgKOH/gを超える場合は、樹脂被膜の加工性等の特性が不足する傾向にある。酸価が2mgKOH/g未満では、ポリエステル樹脂を後述する水性媒体に分散させることが非常に困難となり実用的でない。ポリエステル樹脂の酸価は、8〜40mgKOH/gであることが好ましく、10〜35mgKOH/gであることがより好ましい。
用いるポリエステル樹脂原料の形状は、特に限定されないが、水性分散化の容易さを考慮すると、粉状や粒状、フレーク状等が好ましい。
また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は特に限定されず、例えば−40〜100℃の範囲のものが使用できるが、上記の水性分散化の容易さの観点から、粉状や粒状、フレーク状等が好ましいことを考慮すると、30〜100℃の範囲がより好ましく、35〜90℃の範囲がさらに好ましい。
次に、本発明に用いるポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
ポリエステル樹脂を製造する方法としては、たとえば、前記したポリカルボン酸の1種類以上とポリアルコールの1種類以上とを、公知の方法により、縮重合させることにより製造することができる。全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下で180〜260℃、2.5〜10時間反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて縮重合触媒の存在下、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で、所望の分子量に達するまで縮重合反応を進めて、ポリエステル樹脂を得る方法などを挙げることができる。
ポリエステルの縮重合触媒は特に限定されず、酢酸亜鉛や三酸化アンチモン等の公知の化合物を用いることができる。
ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の縮重合反応に引き続き、ポリカルボン酸をさらに添加し、不活性雰囲気下、解重合反応をおこなう方法などを挙げることができる。
また、ポリエステル樹脂に所望の酸価を付与する方法として、前記の縮重合反応に引き続き、ポリカルボン酸の無水物をさらに添加し、不活性雰囲気下、ポリエステル樹脂のヒドロキシル基と付加反応する方法を用いることもできるが、付加反応の場合は、製造途中の溶融粘度が非常に高くなり、ポリエステル樹脂を払い出せなくなることがあるので、注意が必要である。
解重合反応および/または付加反応で用いるポリカルボン酸としては、前記した3官能以上のカルボン酸が好ましい。3官能以上のカルボン酸を使用することにより、解重合によるポリエステル樹脂の分子量低下を抑制しながら、所望の酸価を付与することができる。その中でも、芳香族のカルボン酸であるトリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸が好ましい。
つづいて、ポリエステル樹脂水性分散体について説明する。
本発明において、ポリエステル樹脂水性分散体とは、前記したポリエステル樹脂が、水性媒体中に分散されてなる液状物である。ここで、水性媒体とは、水を含む液体からなる媒体であり、有機溶剤や塩基性化合物を含んでいてもよい。
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体に含有される、ポリエステル樹脂の含有率は、5〜50質量%が好ましく、15〜40質量%であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の含有率が50質量%を超えると、分散していたポリエステル樹脂が凝集しやすくなり、安定性が乏しくなる傾向にある。ポリエステル樹脂の含有率が5質量%未満では、実用的でない。
水については特に制限されず、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水などが挙げられるが、蒸留水やイオン交換水を使用することが好ましい。
次に、ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体は、前記ポリエステル樹脂を塩基性化合物とともに水性媒体に分散させる分散工程を経て製造される。例えば、ポリエステル樹脂と塩基性化合物を、水性媒体中に一括で仕込み、混合、攪拌することが挙げられる。塩基性化合物を用いない場合には、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散することが困難となる。また、水性化を容易にするためにさらに有機溶剤を用いることが好ましい。ただし、後述する脱溶剤工程により、有機溶剤および/または塩基性化合物の一部または全部を留去することができる。
本発明の製造方法によれば、ポリエステル樹脂のカルボキシル基が塩基性化合物と中和して生成するカルボキシルアニオンの親水性作用により分散化が進行する、いわゆる「自己乳化」が容易に達成される。したがって、あらかじめポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解し、この溶液を塩基性化合物を含む水性媒体と混合して分散化を達成する、いわゆる転相乳化を採る必要がないため、工業的な製法としてより有利である。
本発明の製造方法は、分散工程における反応槽の攪拌の回転速度を500rpm以下でおこなうことで、ポリエステル樹脂分散体の体積平均粒径を50nm以下とすることができる。回転速度が500rpmを超える場合、分散工程でより多くのエネルギーが浪費されてしまう。エネルギー消費を考慮すれば回転数は低いほど好ましいので、回転速度は400rpm以下が好ましく、300rpm以下がより好ましい。ポリエステル樹脂の組成や、反応槽の容積等にも依存するが、回転数は30rpm程度まで下げることができる。
転相乳化型の水性分散化は、樹脂の有機溶剤溶液を水性媒体に添加して混合する、液/液型の混合であるため、比較的低剪断の攪拌方式が採用されてきた。一方、自己乳化型の水性分散化では、樹脂の固形物を直接水性媒体中に微分散させる固/液型の混合であるため、樹脂固体を粉砕するための高回転・高剪断が必要であると信じられてきた。しかしながら、理由は不明であるが、本発明のように特定のポリエステル樹脂組成においては、水性分散化のためには必ずしも従来のような高回転、高剪断は必要としない。
分散工程における剪断速度は、50〜400sec-1であることが好ましく、さらに好ましくは100〜300sec-1である。剪断速度が50sec-1を下回ると、体積平均粒径が50nm以下の安定性に優れたポリエステル水性分散体を得ることが困難になる。400sec-1を超える剪断速度では、多大なエネルギーが必要となり好ましくない。
ここでいう剪断速度(sec-1)とは、攪拌翼先端の回転速度v(m/sec)、攪拌翼先端と反応槽内壁面との距離h(m)とから、v/hとして算出される値である。
分散工程における反応槽の温度は、特に限定されないが、30〜100℃の範囲が挙げられる。また、ポリエステル樹脂のTgに応じて設定されることが好ましく、Tg〜(Tg+70)℃が好ましい範囲として挙げられる。反応槽の温度が100℃を超えるような高温になると、そのために多大なエネルギーを消費することになるため、100℃以下であることが好ましい。反応槽の温度の下限はTg+10℃以上であることがより好ましく、温度の上限は80〜100℃であることがより好ましい。具体的には、例えば、Tgが40℃である場合は、反応槽の温度は40℃〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。また、例えば、Tgが70℃である場合は、反応槽の温度は、70℃〜100℃が好ましく、80℃〜100℃がより好ましい。
分散工程における反応槽の容積は、特に限定されないが、0.001〜10mが好ましい。
本発明に用いることのできる有機溶剤としては、たとえば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤等、公知のものが挙げられる。ケトン系有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、芳香族炭化水素系有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼンなど、エーテル系有機溶剤としては、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。含ハロゲン系有機溶剤としては、四塩化炭素、トリクロロメタン、ジククロロメタンなど、アルコール系有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノールなど、エステル系有機溶剤としては、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチルなど、グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。また、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコールなどの有機溶剤も使用することができる。なお、使用する有機溶剤は、単独、あるいは、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
有機溶剤としては、20℃における水への溶解性が5g/L以上のものが好ましく、10g/L以上のものがさらに好ましい。また、沸点は150℃以下であることが好ましい。沸点が150℃を超える場合、樹脂被膜から乾燥によって揮散させるために多量のエネルギーを浪費してしまう。特に、前記溶解性が5g/L以上でかつ沸点150℃以下のものが好ましく、このような条件を満たす具体的な有機溶剤としては、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテルが例示される。
本発明に用いる塩基性化合物としては、カルボキシル基を中和することができるものであれば特に限定されず、例えば、金属水酸化物や、アンモニア、有機アミン等が挙げられる。金属水酸化物の具体例としては、LiOH、KOH、NaOH等が挙げられる。有機アミンの具体例としては、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等が挙げられる。
本発明における塩基性化合物は、樹脂被膜から乾燥する際に揮散させやすいという理由から、沸点が150℃以下のものであることが好ましく、その中でも、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミンを使用することがより好ましい。
本発明のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法では、有機溶剤や塩基性化合物の留去(脱溶剤)をおこなってもよい。脱溶剤工程は、分散工程の後に水性媒体を蒸留する方法によりおこなうことができる。蒸留は、常圧、減圧下いずれでおこなってもよく、蒸留をおこなう装置としては、液体を投入できる槽を備え、適度な攪拌ができるものであればよい。
本発明の製造方法においては、異物などを取り除く目的で、分散工程後に濾過工程を設けることが好ましい。このような場合には、たとえば、1000メッシュのステンレス製フィルター(濾過精度15μm、綾織)を設置し、加圧濾過(空気圧0.2MPa)をおこなえばよい。濾過工程は分散工程の直後に設けてもよいし、前述の脱溶剤工程を設ける場合には、脱溶剤工程の後に設けてもよい。
本発明の製造方法においては、分散工程にける水性化効率が非常に高い。そのため、水性化されないポリエステル樹脂の残渣は極めて少量である。具体的には、上記濾過工程を設けたときに、その濾過残渣は、原料として用いたポリエステル樹脂質量の0.1質量%以下となる。
本発明の製造方法より得られるポリエステル樹脂水性分散体は、外観上、水性媒体中に沈殿、相分離といった、固形分濃度が局部的に他の部分と相違する部分が見いだされない均一な状態で得られ、しかもポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径は50nm以下となる。体積平均粒径が50nm以下であると、ポリエステル樹脂水性分散体の保存安定性は顕著に向上し、製品の長期保存が可能となるため、産業上の利用価値が非常に高くなる。なお、「ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径」とは、ポリエステル樹脂水性分散体中に分散している、ポリエステル樹脂の体積平均粒径を指すものとする。
本発明の製造方法により得られたポリエステル樹脂水性分散体は、被膜形成能に非常に優れているので、インキ用バインダーや塗料用バインダー、PETやPVCのフィルムのコーティング用プライマーなどの用途に好適に使用することができる。
被膜の形成方法としては、たとえばディッピング法、はけ塗り法、スプレーコート法、カーテンフローコート法などが挙げられ、これらの方法により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥および焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや、赤外線ヒータなどを使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である、基材の種類などにより適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、通常60〜250℃であり、70〜230℃が好ましく、80〜200℃が最も好ましい。加熱時間としては、通常1秒〜30分間であり、5秒〜20分が好ましく、10秒〜10分が最も好ましい。
ポリエステル樹脂水性分散体を用いて形成される樹脂被膜の厚さは、その目的や用途によって適宜選択されるものであるが、通常0.01〜40μmであり、0.1〜30μmが好ましく、0.5〜20μmが最も好ましい。
ポリエステル樹脂水性分散体には、必要に応じて硬化剤、各種添加剤、界面活性剤、保護コロイド作用を有する化合物、水、有機溶剤、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラックなどの顔料、染料、他の水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性オレフィン樹脂、水性アクリル樹脂などの水性樹脂などを配合して使用することができる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
なお、評価、測定方法は下記の通りである。
(1)ポリエステル樹脂の構成:
H−NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。また、H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
(2)ポリエステル樹脂の酸価:
ポリエステル樹脂0.5gを精秤し、50mlの水/ジオキサン=1/9(体積比)に溶解して、クレゾールレッドを指示薬として0.1モル/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ポリエステル樹脂のg数で割った値を酸価とした。
(3)ポリエステル樹脂水性分散体の固形分濃度:
ポリエステル樹脂水性分散体を約1g秤量(Xgとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物(固形分)の質量を秤量し(Ygとする)、次式により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(質量%)=(Y/X)×100
(4)ポリエステル樹脂水性分散体の体積平均粒径:
ポリエステル樹脂水性分散体を、水で0.1%に希釈し、日機装製 MICROTRAC UPA(モデル9340−UPA)を用いて測定した。
(5)ポリエステル樹脂水性分散体製造後の濾過残渣:
分散工程後の水性分散体を1000メッシュのステンレスフィルター(濾過精度15μm、綾織)で、加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、ステンレスフィルター上に残った残存物を十分に水洗、乾燥し、質量を秤量した(Xg)。原料として用いたポリエステル樹脂の質量をYgとして次式により、濾過残渣を求めた。
ポリエステル樹脂水性分散体製造後の濾過残渣(質量%)=(X/Y)×100
(6)ポリエステル樹脂水性分散体の保存安定性:
50mlのガラス製サンプル瓶に、水性分散体30mlを入れて、25℃で6か月間保存した後の外観変化を目視にて観察し、保存安定性を評価した。
○:外観に変化がなく、沈殿や堆積物が現れていない。
△:底部にやや堆積物が見られる。
×:底部に多量の堆積物(沈殿含む)がある、または、外観に変化が見られる。
実施例、および、比較例で用いたポリエステル樹脂は、以下のようにして得た。
[ポリエステル樹脂の製造例]
[ポリエステル樹脂P−1]
酸成分として、テレフタル酸(TPA)4153g、アルコール成分としてエチレングリコール(EG)398g、1,2−プロピレングリコール(PG)2568gをオートクレーブ中に仕込んで、240℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。仕込み原料比率はTPA/EG/PG=100/25/135(モル比)であった。ついで、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを3.6g添加した後、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに4時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、230℃になったところで無水トリメリット酸146gを添加し、230℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂P−1を得た。
[ポリエステル樹脂P−2]
酸成分として、テレフタル酸(TPA)4153g、アルコール成分としてエチレングリコール(EG)885g、1,2−プロピレングリコール(PG)1959gをオートクレーブ中に仕込んで、240℃で4時間加熱してエステル化反応をおこなった。仕込み原料比率はTPA/EG/PG=100/57/103(モル比)であった。ついで、触媒としてテトラ−n−ブチルチタネートを3.6g添加した後、系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに4時間縮重合反応を続け、系を窒素ガスで常圧にし、系の温度を下げ、230℃になったところで無水トリメリット酸146gを添加し、230℃で2時間攪拌して解重合反応をおこなった。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、室温で放冷後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂P−2を得た。
ポリエステル樹脂P−1、P−2の特性を分析した結果を表1に示す。
[ポリエステル樹脂水性分散体の製造例]
[実施例1]
ジャケット付きの、密閉が可能なガラス容器(内容量2L)と、攪拌機(東京理科器械社製、MAZELA NZ−1200)を用いて、ポリエステル樹脂P−1を300g、イソプロピルアルコールを220g、トリエチルアミンを12.4g、蒸留水を467.6gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼(3枚プロペラ)の回転速度を300rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して加熱した。このとき、回転軸から攪拌翼先端までの距離は3.5cm、攪拌翼先端から反応容器内壁までの距離は1cmであった。計算される剪断速度は110sec-1であった。
つづいて、系内温度を71〜75℃に保ってさらに1時間分散工程をおこなった。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を200rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却した。得られた水性分散体を、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.1質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
[実施例2]
実施例1と略同様の方法で分散工程までをおこなった後、2Lフラスコに得られた水性分散体を仕込み、蒸留水407gを仕込んで、常圧下で蒸留をおこなうことで水性媒体を脱溶剤した。脱溶剤工程は留去量が約407gになったところで終了し、25℃まで冷却した。脱溶剤した水性分散体を、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度30.6質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
[比較例1]
ポリエステル樹脂P−2を300g、イソプロピルアルコールを220g、トリエチルアミンを11.4g、蒸留水を468.6gを仕込み、それ以外は実施例1と同様の操作を行って、固形分濃度29.8質量%のポリエステル樹脂水性分散体を950g得た。
[比較例2]
ジャケット付きガラス容器(内容量2L)と、攪拌機(東京理科器械社製、MAZELA NZ−1200)を用いて、にポリエステル樹脂P−1を400gとメチルエチルケトン600gをガラス容器内に仕込み、ジャケットに60℃の温水を通して加熱しながら、攪拌翼(羽根付き攪拌棒)の回転速度を100rpmに保って攪拌することにより、完全にポリエステル樹脂を溶解させ、固形分濃度40質量%のポリエステル樹脂溶液1000gを得た。つぎに、ジャケットに冷水を通して系内温度を13℃に保ち、攪拌翼の回転速度を100rpmに保ったまま、塩基性化合物としてトリエチルアミン16.6gを添加し、続いて100g/minの速度で13℃の蒸留水を1113.7g添加して分散工程をおこなった。ついで、得られた水性分散体のうち、1600gを2lのフラスコに入れ、常圧下で蒸留をおこなうことで水性媒体を脱溶剤した。脱溶剤工程は留去量が約600gになったところで終了し、室温まで冷却後、ポリエステル樹脂水性分散体を攪拌しながら、蒸留水を33g添加して固形分濃度を30質量%に調整した。その後、1000メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、固形分濃度29.8質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
[比較例3]
トリエチルアミンを添加しないように変更した以外は、実施例1と略同様の方法で、分散工程をおこなったが、ポリエステル樹脂が水性媒体中に分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
[参考例1]
ジャケット付きの、密閉が可能なガラス容器(内容量2L)と、超高速攪拌機(特殊機化工業株式会社製、T.K.ロボミックス)を用いて、ポリエステル樹脂P−1を300g、イソプロピルアルコール220g、トリエチルアミン12.4g、蒸留水467.6gをガラス容器内に仕込み、攪拌翼(ホモディスパー)の回転速度を7000rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して加熱した。このとき、回転軸から攪拌翼先端までの距離は2cm、攪拌翼先端から反応容器内壁までの距離は2.5cmであった。計算される剪断速度は586sec-1であった。
つづいて、系内温度を71〜75℃に保ってさらに1時間分散工程をおこなった。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を4000rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却した。得られた水性分散体を、1000メッシュのステンレス製フィルターでろ過し、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
[参考例2]
ポリエステル樹脂P−2を300g、イソプロピルアルコール220g、トリエチルアミン11.4g、蒸留水を468.6gを仕込み、それ以外は参考例1と同様の操作を行って、固形分濃度30.0質量%のポリエステル樹脂水性分散体を990g得た。
実施例1〜2、比較例1〜3、参考例1〜2で得られたポリエステル樹脂水性分散体の特性および評価結果を、表2に示す。
以上の実施例1〜2は、本発明のポリエステル樹脂水性分散体であるため、ポリエステル樹脂を水性媒体に分散する工程において、特殊な装置を用いることなく、省エネルギーで容易に、高収率でポリエステル樹脂水性分散体を得ることができ、得られた水性分散体は、体積平均粒径が小さく、保存安定性に優れていた。
一方、各比較例については次のような問題があった。
比較例1は、ポリエステル樹脂を構成しているアルコール成分として、1,2−プロパンジオールが70モル%未満であったために、分散工程後の濾過残渣が非常に多く、得られる水性分散体の収量が著しく悪かった。さらに、得られたポリエステル樹脂水性分散体は、体積平均粒径が大きく、保存安定性の悪いものであった。
比較例2は、本発明とは異なる分散方法(転相乳化法)を用いたため、得られた水性分散体の体積平均粒径が大きくなり、保存安定性に劣っていた。
比較例3については、水性分散体を製造する際に、塩基性化合物を用いておらず、水性媒体中にポリエステル樹脂が分散せずに、均一なポリエステル樹脂水性分散体を得ることができなかった。
参考例1、2は、従来の分散化方法によるポリエステル水性分散体の製造例である。攪拌速度が非常に高いため、エネルギー消費が大きいという問題がある。

Claims (5)

  1. 酸価が2〜40mgKOH/gであり、かつアルコール成分として1,2−プロパンジオールを70モル%以上含有しているポリエステル樹脂を有機溶剤および塩基性化合物とともに水性媒体に分散させる分散工程を含む自己乳化型の水性分散体の製造方法であって、前記工程において反応槽の攪拌の回転速度を500rpm以下とすること特徴とするポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
  2. 塩基性化合物が、沸点が150℃以下の有機アミンおよび/またはアンモニアであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
  3. 分散工程後に、有機溶剤および/または塩基性化合物の脱溶剤工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
  4. 分散工程後に、濾過工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
  5. 濾過工程における濾過残渣が、原料ポリエステル樹脂質量の0.1質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載のポリエステル樹脂水性分散体の製造方法。
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