JP4763514B2 - ポリエステル樹脂水分散体 - Google Patents
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Description
本発明におけるポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とから構成される。多塩基酸としては、脂肪族多塩基酸、芳香族多塩基酸、脂環族多塩基酸を挙げることができる。具体的な化合物では、脂肪族多塩基酸としては、シュウ酸、(無水)コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和の脂肪族ジカルボン酸類が挙げられ、芳香族多塩基酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類が挙げられ、脂環族多塩基酸としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、無水2,5−ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸類が挙げられる。
本発明のポリエステル樹脂水分散体において、塩基性化合物は、ポリエステル樹脂を水性化させる際に、ポリエステル樹脂を中和させるための成分として必要である。本発明においては前記の中和反応、すなわち、塩基性化合物とポリエステル樹脂中の親水基であるカルボキシル基との中和反応が水性化の推進力であり、しかも、中和反応で生成したカルボキシルアニオン間の電気反発力によって、ポリエステル樹脂微粒子間の凝集を防ぐことができる。
<水分散体の製造方法>
本発明のポリエステル樹脂水分散体を製造する方法としては、ポリエステル樹脂を両親媒性有機溶剤の溶液とする工程(工程1)、前記溶液と塩基性化合物および水とを混合して乳化液とする工程(工程2)、前記乳化液から有機溶剤を留去する工程(工程3)の3工程を含む方法が挙げられる。
ポリエステル樹脂を両親媒性有機溶剤に溶解させて溶液を得る。両親媒性有機溶剤は、親水性であり、かつ、それ自身が水と共沸する作用を有するものであり、好ましくは、ケトン、アルコール、グリコール誘導体から選択される150℃以下の沸点を有するものであり、特に沸点110℃以下のものが好ましい。
次に、ポリエステル樹脂の両親媒性有機溶剤溶液と、水および前述の塩基性化合物とを混合することにより転相乳化をおこなう。このとき、混合の順序は特に限定されず、例えば、前記溶液を攪拌しておき、ここに水と塩基性化合物との混合液を少量ずつ添加してもよいし、塩基性化合物を加えた後、水を加えてもよい。
乳化の後、水分散体の保存安定性の観点から、有機溶剤を留去する。有機溶剤は、水とともに共沸させることによって、系外へ留去することができる。留去の程度は所望の性能や安定性の観点から適宜決定すればよいが、ポリエステル樹脂水分散体全体の0.5質量%以下にまで留去することができる。有機溶剤の含有率はガスクロマトグラフィで定量することができる。
本発明の水分散体の溶液粘度は、特に限定されないが、例えば、基材への塗布等を目的とする場合には、1〜1000mPa・sの範囲にあれば良好である。また、水分散体の体積平均粒径も特に限定されないが、400nm以下であれば安定となるため好ましく、300nm以下であることがより好ましい。
本発明の水分散体は、被膜形成能に優れているので、公知の成膜方法、例えばディッピング法、はけ塗り法、スプレーコート法、カーテンフローコート法等により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥又は乾燥と焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な樹脂被膜を各種基材表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーター等を使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である基材の特性等により適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、30〜250℃が好ましく、90〜160℃が特に好ましく、加熱時間としては、1秒〜20分間が好ましく、10秒〜5分が特に好ましい。
(1)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂0.5gを50mlの水/ジオキサン=1/10(体積比)に溶解し、クレゾールレッドを指示薬としてKOHで滴定を行い、中和に消費されたKOHのmg数をポリエステル樹脂1gあたりに換算した値を酸価として求めた。
(2)ポリエステル樹脂の数平均分子量
数平均分子量は、GPC分析(島津製作所製の送液ユニットLC−10ADvp型及び紫外−可視分光光度計SPD−6AV型を使用、溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)により求めた。
(3)ポリエステル樹脂の融点、融解熱量、結晶化温度
ポリエステル樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用いて、−40℃から速度20℃/分で200℃まで昇温測定を行い、200℃で3分間保ったのち、速度20℃/分で−40℃まで降温測定を行った。このとき得られた結晶に由来するピークのうち、昇温測定時のピークトップ温度を融点とし、このときの吸熱量を融解熱量とし、降温測定時のピークトップ温度を結晶化温度とした。
(4)ポリエステル樹脂水分散体の固形分濃度
ポリエステル分散体を1g秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、ポリエステル樹脂固形分濃度を求めた。
(5)ポリエステル樹脂水分散体の粘度
株式会社トキメック社製、DVL−BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、温度30℃における水分散体の回転粘度を測定した。
(6)ポリエステル樹脂水性分散体中の有機溶剤の含有率
島津製作所社製、ガスクロマトグラフGC−8A[FID検出器使用、キャリアーガス:窒素、カラム充填物質(ジーエルサイエンス社製):PEG-HT(5%)-Uniport HP(60/80メッシュ)、カラムサイズ:直径3mm×3m、試料投入温度(インジェクション温度):150℃、カラム温度:60℃、内部標準物質:n-ブタノール]を用い、水性分散体または水性分散体Aを水で希釈したものを直接装置内に投入して、有機溶剤の含有率を求めた。検出限界は0.01質量%であった。
(7)ポリエステル樹脂水分散体のpH
株式会社堀場製作所製、ガラス電極式水素濃度計、pH METER F−21を用いて25℃で測定した。
(8)ポリエステル樹脂粒子の平均粒径
日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340)を用い、体積平均粒子径を求めた。
(9)樹脂被膜の厚さ
厚み計(ユニオンツール社製、MICROFINE Σ)を用いて、基材(実施例ではポリエステル(PET)フィルム(ユニチカ株式会社製、厚さ38μm))の厚みを予め測定しておき、水分散体を用いて基材上に樹脂被膜を形成した後、この樹脂被膜を有する基材の厚みを同様の方法で測定し、その差を樹脂被膜の厚さとした。
(10)耐ブロッキング性の評価
PETフィルム(ユニチカ株式会社製、厚さ38μm)に水分散体を卓上型コーティング装置(安田精機製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、マイヤーバー装着)を用いてコートし、120℃の熱風オーブン中で1分乾燥して厚さ6μmの樹脂被膜を形成した後、23℃の室温に取り出しPETフィルムを重ね合わせてタックが消滅するまでの時間(秒)を測定した。
(11)ラビング試験
(10)と同様にして樹脂被膜を形成した後、この被膜面を溶剤を浸み込ませた綿棒で10回ラビングした。溶剤が乾いたあとの状態を観察し、変化のない場合を○、溶解やクラックの発生が観察された場合を×とした。
(ポリエステル樹脂「P−1」の製造例)
ドデカン二酸253.6g、エチレングリコール95.2g、トリメチロールプロパン0.7g、テトラ−n−ブチルチタネートを0.11gを、攪拌機を備えた耐熱圧ガラス容器中に採り、235℃で3時間加熱してエステル化反応を行った。次いで系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。3時間後に系を窒素ガスで常圧にし、無水トリメリット酸10.4gを添加し、1.5時間撹拌して解重合反応をおこない、ポリエステル樹脂P−1を得た。この樹脂を分析したところ、酸価は25.0、相対粘度は1.55、数平均分子量は9300、融点は81℃、融解熱量は89J/g、降温時の結晶化温度は53℃であった。
表1に示した仕込み組成を用い、ポリエステル樹脂「P−1」と同様の装置、温度条件を用いてポリエステル樹脂「P−2」〜「P−6」を得た。
3リットルの3口丸底フラスコにポリエステル樹脂「P−1」200g、メチルエチルケトン467gを採り、60℃の湯浴に浸漬して攪拌機を用いて透明な液になるまで溶解した。加熱攪拌を持続しながらトリエチルアミン27gを加えた後、蒸留水653gを系の均一化に注意しながら少しずつ加えて転相乳化した。次にこれを85℃の油浴に移し、冷却管を取り付け攪拌しながらメチルエチルケトンを水と共沸させて留出した。留出状況に応じて油浴を昇温し、最終的に120℃とした。留出液の質量を測りながら680.3gに達した時点で加熱を止め、水浴で室温まで冷却した。さらに28%のアンモニア水2.6gを添加して攪拌した後、フラスコ内の液状成分を600メッシュ(あやたたみ織り)のフィルターで濾過を行い、ポリエステル樹脂水性分散体「S−1」を得た。この分散体を分析したところ、固形分濃度は30.0質量%、粘度は7.0mPa・s、メチルエチルケトンの含有率は0.1質量%、pHは9.1、体積平均粒径は228nmであった。
ポリエステル樹脂「P−2」を用い、トリエチルアミンを33gとし、最終段階で加える28%のアンモニア水を0.9gとした以外は実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水分散体「S−2」を得た。
ポリエステル樹脂「P−3」を用い、トリエチルアミンに代えて28%のアンモニア水を19gとし、最終段階で加える28%のアンモニア水を0.9gとした以外は実施例1と同様の操作を行ってポリエステル樹脂水分散体「S−3」を得た。
3リットルの3口丸底フラスコにポリエステル樹脂「P−1」200g、メチルエチルケトン467gを採り、60℃の湯浴に浸漬して攪拌機を用いて透明な液になるまで溶解した。加熱攪拌を持続しながらトリエチルアミン27gを加えた後、蒸留水653gを系の均一化に注意しながら少しずつ加えて転相乳化した。次にこれを85℃の油浴に移し、冷却管を取り付け攪拌しながらメチルエチルケトンを水と共沸させて留出した。留出状況に応じて油浴を昇温し、最終的に120℃とした。留出液の質量を測りながら700.3gに達した時点で加熱を止め、水浴で室温まで冷却した。ここでアンモニアを添加しないでフラスコ内の液状成分を600メッシュ(あやたたみ織り)のフィルターで濾過を行い、ポリエステル樹脂水分散体「S−4」を得た。この分散体を分析したところ固形分濃度は29.6質量%、粘度は8.0mPa・s、メチルエチルケトンの含有率は0.1質量%、pHは6.4、体積平均粒径は290nmであった。その後この水性分散体を室温で放置したところ約24時間後に固化し流動性がなくなった。
3リットルの3口丸底フラスコにポリエステル樹脂「P−4」200g、メチルエチルケトン467gを採り、60℃の湯浴に浸漬して攪拌機を用いて透明な液になるまで溶解した。加熱攪拌を持続しながらトリエチルアミン35gを加えた後、蒸留水653gを系の均一化に注意しながら少しずつ加えて転相乳化した。次にこれを85℃の油浴に移し、冷却管を取り付け攪拌しながらメチルエチルケトンを水と共沸させて留出した。留出状況に応じて油浴を昇温し、最終的に120℃とした。留出液の質量を測りながら680.3gに達した時点で加熱を止め、水浴で室温まで冷却したところ固化した。
ポリエステル樹脂「P−5」を用い、トリエチルアミンに代えて28%のアンモニア水を15gとし、最終段階で加える28%のアンモニア水を0.9gとした以外は実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水分散体「S−5」を得た。
3リットルの3口丸底フラスコにポリエステル樹脂「P−6」200g、メチルエチルケトン467gを採り、60℃の湯浴に浸漬して攪拌機を用いて透明な液になるまで溶解した。加熱攪拌を持続しながらトリエチルアミン35gを加えた後、蒸留水653gを系の均一化に注意しながら少しずつ加えて転相乳化した。次にこれを85℃の油浴に移し、冷却管を取り付け攪拌しながらメチルエチルケトンを水と共沸させて留出した。留出が進むにつれて樹脂が凝集し均一な分散体は得られなかった。
3リットルの3口丸底フラスコにポリエステル樹脂「P−1」200g、メチルエチルケトン467gを採り、60℃の湯浴に浸漬して攪拌機を用いて透明な液になるまで溶解した。加熱攪拌を持続しながらトリエチルアミン27gを加えた後、蒸留水653gを系の均一化に注意しながら少しずつ加えて転相乳化した。これを脱溶剤しないで放置したところ、水分散体は固化し流動性がなくなった。
Claims (7)
- 融点50〜110℃かつ結晶融解熱量60J/g以上かつ降温結晶化温度30℃以上で酸価20〜40mgKOH/gのポリエステル樹脂と塩基性化合物を含有するポリエステル樹脂水分散体であって、前記ポリエステル樹脂を構成する主成分が、「ドデカン二酸およびエチレングリコール」、「セバシン酸および1,4−ブタンジオール」、または「セバシン酸、コハク酸および1,4−ブタンジオール」のいずれかの組み合わせからなり、かつポリエステル樹脂を構成する酸成分として脂肪族多塩基酸を60モル%以上含有することを特徴とする、ポリエステル樹脂水分散体。
- pHが6.6以上である請求項1記載のポリエステル樹脂水分散体。
- ポリエステル樹脂の主成分が、ドデカン二酸とエチレングリコールである請求項1または2に記載のポリエステル樹脂水分散体。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂水分散体を用いたバインダー。
- ポリエステル樹脂を両親媒性有機溶剤の溶液とする工程(工程1)、前記溶液と塩基性化合物および水とを混合して乳化液とする工程(工程2)、前記乳化液から有機溶剤を留去する工程(工程3)、とを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
- 工程1〜工程2を40℃〜(両親媒性有機溶剤の沸点)の温度範囲でおこなうことを特徴とする請求項5記載のポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
- 工程3の後、塩基性化合物を添加して水分散体のpHを6.6以上に調整する工程を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
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