JP5340131B2 - 円形加速器、および円形加速器の運転方法 - Google Patents
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粒子ビームの粒子線強度時間波形の安定度が従来よりも強く要求される。また、癌に照射する際に、1スポットずつ照射するスポットスキャニング照射方式や、癌を一筆書きでなぞっていくラスタースキャン方式においても一筆書きできない場合など、スキャニング照射では、加速器から出射される荷電粒子ビームを一時停止・再開する必要がある。さらに、過照射をさけるためビームを切ったときの切れは高速である必要がある。また、加速器で加速された粒子を序々に出射して癌治療に用いるが、一回に加速できる粒子の数は限られている。そこで、加速した粒子をすべて癌治療に使えることが求められている。
さらには、スキャニング照射を実現するための加速器制御として、できるだけ追加の機器を設けずに、加速に必要な機器のみでon/offが実現できる出射方式が望ましい。
(1)出射される粒子線強度が安定であること。
(2)出射される荷電粒子ビーム(粒子線)がon/offできること。
(3)加速した粒子がすべて出射できること。
(4)出射される際に、中心運動量が変化しないこと。
(5)加速に必要な機器から追加機器なく、(1)〜(4)を実現できること。
以上を満足するような円形加速器が必要とされている。
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、中心運動量の変化が少なく、また加速した粒子のほとんどを出射させることができる円形加速器を提供することを目的とする。
の周波数を制御する周波数制御部と偏向電磁石の磁場強度を制御する磁場制御部とを有し、荷電粒子ビームの中心運動量を変化させずに荷電粒子ビームの中心軌道を変位させるように高周波加速空洞内の高周波の周波数と偏向電磁石の磁場強度とを制御することにより、荷電粒子を上記ベータトロン振動の上記共鳴領域に移動させる制御を行う制御装置を備えたものである。
まず本発明の基本的な理論を述べる。本発明者らは、まず、加速器内部のビームの中心軌道を変化させてビームを出射させ、その際ビームの中心運動量は変化させないことを検討した。中心軌道を変化させる手段として、加速器に必要な機器を積極的に利用することを考えると、高周波加速空洞内の高周波の周波数fと、偏向電磁石の磁場強度Bを制御することが望ましい。そこで、高周波の周波数のずれΔf/f、磁場強度のずれΔB/Bを利用することを検討した。ここで、周波数fおよび磁場強度Bは必要なビーム強度から算出される値であり、ΔfおよびΔBはビームを出射させるために中心軌道を変化させるために決定するずれ量である。ここでは、微小な変化を想定し、比較的単純な線形モデルを用いて検討を行うため、Δf/f、ΔB/Bと表現したが、一般にはfとBで制御を行う
ことも可能である。
数1式と数2式は、加速器力学で本マルチビーム出射方式の原点となる基本の式である。数1式は、シンクロトロンの加速空洞内の高周波の周波数fの変化Δfと、荷電粒子ビームの中心運動量pの変化Δp、磁場強度Bの変化ΔBの関係について述べた式である。
xcは、中心軌道。
γは、出射の際のエネルギーを静止エネルギーで割り算したもの。
αは、モーメンタムコンパクションファクタ(momentum compaction factor)で、運動量に対する軌道周長の変化の割合である。
ηは、ディスパーション(dispersion)であり、運動量に対する軌道中心のずれの割合である。
を埋める粒子団の密度分布を模式的に示している。また、図2(b)は中心軌道21のx座標xc=x0≠0、すなわちビーム軌道が円形加速器の設計軌道からずれた場合のセパラトリクス20を埋める粒子団の密度分布を模式的に示している。
ここで、Sは、位相空間(x−x’空間)の面積である。
ただし、ここで考えないといけないことがある。粒子団が一度、xc=x0という状態を経験すると、xc<x0となっても、粒子数は増えず、単調減少していくということである。したがって、中心位置がxcにおける粒子の数N(xc)は、単射な関数ではなく、履歴を引きずった関数となる。
となる。加速器内部の粒子分布の粗密に依存して決まる
を用いて、N(xc)=Nt(t)を解けば、加速器内部の荷電粒子ビームの中心軌道xcの時間変化xc(t)を求めることができる。その具体例を図4(a)、(b)に示す。図4は、上から必要とされる粒子線強度、すなわち円形加速器から出射されるべき粒子線強度の時間変化、その粒子線強度の時間変化を与えるために必要な加速器内部の粒子数の時間変化、その粒子数の時間変化を与えるための中心軌道xcの時間変化、を示している。図4(a)と(b)とで示すように、加速器内部の荷電粒子ビームの中心軌道xcの変化の態様を変えることで、出射される粒子線強度の時間波形を変化させることができる。また、加速器内部の粒子数は出射された粒子線強度が0となった時間に0となっており、加速器内の粒子を全て出射させることができることもわかる。
洞内の高周波の周波数をフィードフォーワード(制御装置からの指令)で変化させ、磁場強度は変化させない場合、すなわち、数6式を満足しないで周波数のみを変化させた場合のシミュレーション結果を図6に示す。図6は上から、出射される粒子線ビームの粒子線強度、フィードフォーワードで変化させる周波数変化率Δf/f、この変化により生じる中心軌道xcの変化、一番下が中心運動量の変化率Δp/pである。図6の例では、0.6秒間で、周波数を約0.35%、一様な時間変化で下げた場合を示している。その間、磁場強度は一定としている。この周波数変化により中心軌道xcは約10mm変化している。ここで、中心軌道xcが10mm変化すれば全ての粒子を出射できるように、円形加速器本体2の出射系(出射用六極電磁石102、四極電磁石103、出射用静電電極104など)を設計しておけば、約0.6秒で加速器内の粒子を全て出射できる。このとき、中心運動量pは最大で約0.05%変化している。また、粒子線強度は平坦ではなく、20%程度のリップルが乗っていることがわかる。
(3)加速した粒子がすべて出射できること。
(4)出射される際に、中心運動量が変化しないこと。
(5)加速に必要な機器から追加機器がない。
という効果がある。粒子線治療装置において、中心運動量が変化してしまうと、癌の深さ方向の分布が変化してしまうため、望ましくないので、周波数とともに、偏向電磁石の磁場強度を数6式を満足するように制御することは粒子線治療装置への利用において特に有用である。
実施の形態1では、中心運動量を変化させないで出射させることができるが、一般に偏向電磁石は応答速度が100msec程度と大きく、偏向電磁石の制御では、出射ビームのon/offを1msec程度で行うといった高速な応答は困難である。ところが、高周波の周波数は高速に応答する。応答速度は100nsec程度である。高周波の周波数の応答速度が速いことを利用すれば出射ビームの高速なon/offが可能である。
として出力する。図8では、最上段に示すような粒子線強度が必要な場合に、すなわち、円形加速器本体2からビーム照射系3へ図8のようなon/offのビームを出射させる必要がある場合に、周波数、磁場強度としてどのような時間変化が必要かを示している。最上段に示すような粒子線強度が必要な場合に、偏向電磁石の励磁電流に対して図8の最上段に示すのと同じような急峻な変化の信号を入れたとしても、偏向電磁石の磁場強度は、応答時間が遅いため、入力された急峻な変化の信号と同様な急峻な磁場強度変化は作れない。したがって、磁場強度変化でon/offの出射ビームを得ようとした場合、粒子線強度のon/offの立ち上がり時間が大きくなってしまうという課題がある。
κが正の場合には減らす。κの符号は加速器の設計によって変化する)。また、出射ビームをoffからonに変化させるときには、周波数を過度に減らす変化を加える。このような
周波数の変化を重畳すると、この重畳した分の中心運動量の変化は、発生してしまうが、この変化は非常に小さい。すなわち、出射ビームの中心運動量を大きく変化させずに高速にon/offの制御が可能である。このことは、on/offだけでなく、図9に示すような、出射中に強度が変化する粒子線強度の時間変化に対応した出射も可能であるということになる。治療計画によっては粒子線強度を徐々に強くしていく、あるいは徐々に弱くしてゆくことが求められるが、このような要求にも対応可能である。この具体的な一例を実施の形態3で説明する。
実施の形態1および実施の形態2は、フィードフォーワード制御のため、加速器内部の粒子の粗密の分布をあらかじめ知っておく必要があった。加速器内部の粒子の粗密の分布は、加速方式や加速器に対する入射方式に依存してしまうため、加速毎に粗密分布を調べるのは困難であった。そこで、実施の形態3ではフィードバック制御を用いる。磁場は応答時間が遅いので、フィードバック制御をするのは適していないため、高周波加速空洞内の高周波の周波数のみフィードバック制御する構成とした。ただし、磁場強度の高速な変化を実現できる構成であれば、磁場に対してフィードバック制御を行っても良い。
加速空洞の周波数は、応答性が速いため、フィードバック制御に活用できる。ビームのon/offにかかわらず、磁場に対しては、フィードフォーワード制御として単調に変化する磁場強度を与えれば十分である。
xmax=−ηΔB/B
を満たすように、t= tendにおけるΔB/Bの値を決定し、その間は線形的もしくは、2次関数的に変化させる。線形もしくは、2次関数的な変化であれば、応答性の悪い偏向電磁
石でも時間的変動は可能である。仮にη=8mとし、xmax=0.02mとすると、t= tendにおいて、
ΔB/B=0.0025=0.25%
であるから、現実的に可能な範囲である。磁場強度変化を与えることで、中心運動量の変化Δp/pを抑えることが可能である。
に活用可能である。
上記をまとめると、高周波加速空洞内の高周波の周波数変化Δf/fを高速フィードバック制御することで中心軌道を制御し、ビーム照射系より求められる所望の粒子線強度時間波形にする。中心運動量変化Δp/pは、磁場のフィードフォーワード制御によって、ある範囲内(例えば、0.02%以内)に抑える。
図12は、本発明の実施の形態4による円形加速器の制御装置1の概要を示すブロック図である。本実施の形態4は、実施の形態3による制御方法をさらに高精度にしたもので、粒子線強度の時間波形をより指令値に近づけ、リップルを減少させる制御を行うものである。図12において、周波数制御部11内にある、14は積分器、15はこの積分器のゲインを変化させる可変ゲイン、16はコントローラ、17はこのコントローラのゲインを変化させる可変ゲインである。コントローラ16にはローパスフィルタの機能が含まれている。
制御することが目的であり、粒子線強度は加速器内部粒子の微分である。したがって、高周波加速空洞内の高周波の周波数を高速に動かしてしまうと、中心軌道が高速に移動してしまうため、内部粒子数の微分である粒子線強度は大きく変動する。このような変動を抑制するため、かなりカットオフ周波数の低いローパスフィルタが必要となる。本実施の形態4では、カットオフ周波数が例えば0.35Hzと非常に低い2次のローパスフィルタを粒子線強度平坦化のためのコントローラ16として採用した。さらに、粒子線強度のリップル低減用として積分器14を用いた。そして、ビーム出射開始時のフィードバックゲインを低めにし、ビーム出射停止時のフィードバックゲインを大きくするというように可変にすることで、ビーム出射開始時のオーバーシュート(過出射)をなくし、ビーム出射停止時の過出射を低減する。また図12では、周波数変化率Δf/fの指令値と磁場強度変化率ΔB/Bの指令値により中心軌道xcや中心運動量の変化率Δp/pを演算してモニタするようにしている。
なお、高周波源6への指令値は周波数変化率Δf/fではなく、変化量Δfであっても、その時点での周波数そのものであっても良く、同様に励磁電源10への指令値は変化量ΔBでも、その時点での磁場強度Bであっても、またそれに対応した励磁電流値であっても良い。要するに、高周波源6および励磁電源10が必要とする信号に応じた指令値を出力する構成にすれば良い。
ム出射開始時のフィードバックゲインに対し、ビーム出射停止時のフィードバックゲインを10倍に設定している。ビーム出射開始時は、20msec程度時間をかけて立ち上がっていくが、ビーム出射停止時には、500μsec程度で遮断できている。ビーム出射一時停止後、ビーム出射を再開する場合、4msec程度遅れているが、これはビームの出射を一時停止したあと中心軌道が若干内側に戻るためである。ビーム出射停止時のビーム出射を無くすという意味ではこれは安全サイドに働く。
また、粒子線ビームは、中心運動量によって照射対象内で停まる深さが異なるため、ビームモニタとしてこの深さをモニタし、その量をフィードバック信号とすることで、中心運動量の変化を抑える制御が可能となる。
3:ビーム照射系 4:ビーム強度モニタ
6:高周波源 10:励磁電源
11:周波数制御部 12:磁場制御部
13:コントローラ 14:積分回路
16:ローパスフィルタ 101:偏向電磁石
106:高周波加速空洞 102:出射用六極電磁石(領域分割装置)
Claims (12)
- 荷電粒子を周回軌道に沿って周回させて荷電粒子ビームを形成する偏向電磁石と、上記荷電粒子を加速するための高周波加速空洞と、上記荷電粒子のベータトロン振動を安定領域と共鳴領域に分割するための領域分割装置と、上記荷電粒子を上記周回軌道から取り出すための出射装置とを備えた円形加速器の運転方法において、上記荷電粒子ビームの中心運動量を変化させずに上記荷電粒子ビームの中心軌道を変位させるように上記高周波加速空洞内の高周波の周波数と上記偏向電磁石の磁場強度とを変化させて、上記荷電粒子を上記ベータトロン振動の上記共鳴領域に移動させるよう制御して上記円形加速器内の荷電粒子を上記円形加速器外に荷電粒子ビームとして出射させることを特徴とする円形加速器の運転方法。
- 磁場強度の変化率をΔB/Bとし、高周波加速空洞内の高周波の周波数の変化率をΔf/fとし、円形加速器のモーメンタムコンパクションファクタをαとした場合、
Δf/f=αΔB/B
の関係を満たすように、上記高周波加速空洞内の高周波の周波数と上記偏向電磁石の磁場強度とを制御することにより円形加速器内の荷電粒子ビームの中心軌道を変位させることを特徴とする請求項1に記載の円形加速器の運転方法。 - 円形加速器から出射される荷電粒子ビームの粒子強度に時間変化を与えるときに、高周波加速空洞内の高周波の周波数の変化Δfに、Δfよりも高速な変化Δfhを加えることを特徴とする請求項2に記載の円形加速器の運転方法。
- 偏向電磁石の磁場強度に対して、荷電粒子ビームの中心運動量を変化させずに上記荷電粒子ビームの中心軌道を変位させるようにフィードフォーワード制御を行い、高周波加速空洞内の高周波の周波数に対して、円形加速器外に出射された荷電粒子ビームをモニタするビームモニタからの信号によりフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の円形加速器の運転方法。
- ビームモニタからの信号は荷電粒子ビームのビーム強度の信号であることを特徴とする請求項4に記載の円形加速器の運転方法。
- 円形加速器から出射される荷電粒子ビームに必要な荷電粒子ビームの時間波形から偏向電磁石の磁場強度の指令値を生成してフィードフォーワード制御することを特徴とする請求項4に記載の円形加速器の運転方法。
- 荷電粒子を周回軌道に沿って周回させて荷電粒子ビームを形成する偏向電磁石と、上記荷電粒子を加速するための高周波加速空洞と、上記荷電粒子のベータトロン振動を安定領域と共鳴領域に分割するための領域分割装置と、上記荷電粒子を上記周回軌道から取り出すための出射装置とを備えた円形加速器において、上記高周波加速空洞内の高周波の周波数を制御する周波数制御部と上記偏向電磁石の磁場強度を制御する磁場制御部とを有し、上記荷電粒子ビームの中心運動量を変化させずに上記荷電粒子ビームの中心軌道を変位させるように上記高周波加速空洞内の高周波の周波数と上記偏向電磁石の磁場強度とを制御することにより、上記荷電粒子を上記ベータトロン振動の上記共鳴領域に移動させる制御を行う制御装置を備えたことを特徴とする円形加速器。
- 磁場強度の変化率をΔB/Bとし、高周波加速空洞内の高周波の周波数の変化率をΔf/fとし、円形加速器のモーメンタムコンパクションファクタをαとした場合、周波数制御部と磁場制御部は、
Δf/f=αΔB/B
の関係を満たすように、上記高周波加速空洞内の高周波の周波数と上記偏向電磁石の磁場強度とを制御するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の円形加速器。 - 周波数制御部は、円形加速器から出射される荷電粒子ビームの粒子強度に時間変化を与えるときに、高周波加速空洞内の高周波の周波数の変化Δfに、Δfよりも高速な変化Δfhを加えるように構成されていることを特徴とする請求項8に記載の円形加速器。
- 出射装置から出射された荷電粒子ビームをモニタするビームモニタを備え、磁場制御部は偏向電磁石の磁場強度に対して、上記荷電粒子ビームの中心運動量を変化させずに上記荷電粒子ビームの中心軌道を変位させるようにフィードフォーワード制御を行い、周波数制御部は高周波加速空洞内の高周波の周波数に対して上記ビームモニタからの信号によりフィードバック制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の円形加速器。
- ビームモニタは荷電粒子ビームの強度をモニタするビーム強度モニタであることを特徴とする請求項10に記載の円形加速器。
- 磁場制御部は、円形加速器から出射された荷電粒子ビームを対象物に照射するビーム照射系から、あらかじめ照射に必要な荷電粒子ビームの時間波形を受け取り、この荷電粒子ビームの時間波形から偏向電磁石の磁場強度の指令値を生成してフィードフォーワード制御することを特徴とする請求項7に記載の円形加速器。
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